(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】変性ビニルアルコール系樹脂
(51)【国際特許分類】
C08F 8/14 20060101AFI20220208BHJP
B29B 7/14 20060101ALI20220208BHJP
B29B 7/42 20060101ALI20220208BHJP
B29C 48/445 20190101ALI20220208BHJP
【FI】
C08F8/14
B29B7/14
B29B7/42
B29C48/445
(21)【出願番号】P 2018051733
(22)【出願日】2018-03-19
【審査請求日】2020-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢野 友健
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/089997(WO,A1)
【文献】特開2016-155975(JP,A)
【文献】特開2015-017213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B7/00-11/14,
B29B13/00-15/06,
B29C31/00-31/10,
B29C37/00-37/04,
B29C71/00-71/02,
B29C48/00-48/96,
C08C19/00-19/44,
C08F6/00-246/00,301/00
CAPlus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で表される構造単位を主鎖に有する変性ビニルアルコール系樹脂であって、
厚さ200μmの成形体におけるイエローインデックス(YI)値が1.40以下であることを特徴とする変性ビニルアルコール系樹脂。
【化1】
(化学式(1)中、Xは
酸素原子を有する有機鎖を表し、nは正の整数を表す。)
【請求項2】
前記変性ビニルアルコール系樹脂における前記化学式(1)中のnの平均値が1~10の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の変性ビニルアルコール系樹脂。
【請求項3】
エチレン-ビニルアルコール系共重合体の変性物であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の変性ビニルアルコール系樹脂。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の変性ビニルアルコール系樹脂の製造方法であって、
ビニルアルコール系樹脂と
酸素原子を有する官能基を有する化合物
とを、帰還型スクリューを備えたせん断成形加工機により溶融混練する工程を含むことを特徴とする変性ビニルアルコール系樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性ビニルアルコール系樹脂及び変性ビニルアルコール系樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
包装材料にガスバリア性を付与するガスバリア材としては、例えば、ポリビニルアルコール系重合体(以下、「PVA樹脂」と称することがある。)、エチレン-ビニルアルコール系共重合体(以下、「EVOH樹脂」と称することがある。)、アルミニウム箔、無機酸化物の蒸着層等の優れた酸素ガス遮断性を有する材料が知られている。中でもPVA樹脂やEVOH樹脂等のビニルアルコール系樹脂は透明性を有するため、食品包装材料,医薬品包装材料,工業薬品包装材料,農薬包装材料等の各種包装材料として広く用いられている。
【0003】
しかしながら、ビニルアルコール系樹脂は硬くて脆い樹脂であり、柔軟性に欠けるという欠点を有している。そのため、包装材料、成形材料に使用したときに、繰り返し折り曲げて使用すると屈曲疲労等によりクラックやピンホールを生じ、その優れた性能を保持することができなくなる等の問題があった。
【0004】
かかる問題点を解決する柔軟性を付与したEVOH樹脂として、例えば特許文献1には、EVOH樹脂の存在下におけるラクトン類の開環重合反応による、EVOH樹脂の水酸基にエステル結合によって脂肪族ポリエステルがグラフトされた変性EVOH樹脂が提案されている。
【0005】
このような変性EVOH樹脂は、通常、酢酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステルとエチレンとの共重合によって得られるエチレン-ビニルエステル系共重合体を、アルコール溶媒中で、触媒の存在下、ケン化してエチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物(エチレン-ビニルアルコール系共重合体)を製造し、このケン化物と変性モノマーとを、触媒の存在下、撹拌下で加熱反応させることにより製造される。例えば特許文献2には、EVOH樹脂とラクトン類を触媒の存在下、撹拌下に加熱しながら反応させて脂肪族ポリエステルがグラフトされた変性EVOH樹脂を製造するに際し、撹拌翼としてヘリカルリボン翼を用いる方法が提案されている。
【0006】
また、例えば非特許文献1には、PVA樹脂にラクトン類であるカプロラクトンがグラフトされた変性PVA樹脂が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-208638号公報
【文献】特開2015-17213号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Journal of Applied Polymer Science, Vol. 105, 2525-2531 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のようにビニルアルコール系樹脂に脂肪族ポリエステルをグラフトさせた変性ビニルアルコール系樹脂が知られているが、従来の変性ビニルアルコール系樹脂は、熱成形すると劣化して黄色に着色し、色調が損なわれる場合があった。
そこで、本発明は、熱成形後の劣化及び着色を抑制することのできる変性ビニルアルコール系樹脂を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、下記化学式(1)で表される構造単位を主鎖に有する変性ビニルアルコール系樹脂であって、その成形体のイエローインデックス(YI)値が1.40以下である変性ビニルアルコール系樹脂により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
【0012】
(化学式(1)中、Xはヘテロ原子を有する有機鎖を表し、nは正の整数を表す。)
【0013】
すなわち、本発明は以下の<1>~<5>を特徴とする。
<1>下記化学式(1)で表される構造単位を主鎖に有する変性ビニルアルコール系樹脂であって、厚さ200μmの成形体におけるイエローインデックス(YI)値が1.40以下であることを特徴とする変性ビニルアルコール系樹脂。
【0014】
【0015】
(化学式(1)中、Xはヘテロ原子を有する有機鎖を表し、nは正の整数を表す。)
<2>前記変性ビニルアルコール系樹脂における前記化学式(1)中のnの平均値が1~10の範囲であることを特徴とする前記<1>に記載の変性ビニルアルコール系樹脂。
<3>前記化学式(1)において、Xにおけるヘテロ原子が、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子であることを特徴とする前記<1>又は<2>に記載の変性ビニルアルコール系樹脂。
<4>エチレン-ビニルアルコール系共重合体の変性物であることを特徴とする前記<1>~<3>のいずれか1つに記載の変性ビニルアルコール系樹脂。
<5>前記<1>~<4>のいずれか1つに記載の変性ビニルアルコール系樹脂の製造方法であって、ビニルアルコール系樹脂とヘテロ官能基を有する化合物を、帰還型スクリューを備えたせん断成形加工機により溶融混練する工程を含むことを特徴とする変性ビニルアルコール系樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の変性ビニルアルコール系樹脂は、厚さ200μmの成形体としたときのYI値が1.40以下であり、黄色みが抑制され色調に優れている。よって、本発明の変性ビニルアルコール系樹脂を用いて成形される成形品の外観を高品位に保つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態についてさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施態様に限定されるものではない。
【0018】
[変性ビニルアルコール系樹脂]
本実施形態の変性ビニルアルコール系樹脂は、下記化学式(1)で表される構造単位を主鎖に有する変性ビニルアルコール系樹脂であり、当該変性ビニルアルコール系樹脂から成形された厚さ200μmの成形体におけるイエローインデックス(YI)値が1.40以下であることを特徴とする。以下、化学式(1)で表される構造単位を主鎖に有する変性ビニルアルコール系樹脂を「本実施形態の変性ビニルアルコール系樹脂」とも言う。
【0019】
【0020】
(化学式(1)中、Xは、ヘテロ原子を有する有機鎖を表し、nは正の整数を表す。)
【0021】
化学式(1)において、Xはヘテロ原子を有する有機鎖を表す。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子等が挙げられる。これらのうち工業的観点からは、ヘテロ原子は酸素原子、窒素原子又は硫黄原子が好ましく、特には酸素原子が好ましい。
【0022】
Xは製造上の観点から、カルボニル基を起点として置換基を有していてもよい炭化水素鎖を有し、繰り返し末端に置換基を有していてもよいヘテロ原子を有する有機鎖であることが好ましい。また、Xはカルボニル基を起点として、少なくとも繰り返し末端にヘテロ原子を有していれば、他にヘテロ原子を有していてもよい。
【0023】
上記置換基を有していてもよい炭化水素鎖をRx、繰り返し末端に有する置換基を有していてもよいヘテロ原子をZとした場合、化学式(1)は下記化学式(2)で表される。
【0024】
【0025】
(化学式(2)中、Rxは置換基を有していてもよい炭化水素鎖を表し、Zは置換基を有していてもよいヘテロ原子を表し、nは正の整数を表す。)
【0026】
化学式(2)において、Zが酸素原子の場合、繰り返し単位としては-CO-Rx-O-が挙げられ、Zが窒素原子の場合、繰り返し単位としては-CO-Rx-NH-、-CO-Rx-NR3-が挙げられ、Zが硫黄原子の場合、繰り返し単位としては-CO-Rx-S-が挙げられる。なお、炭化水素及びヘテロ原子が有していてもよい置換基としては、例えば、メチル基やエチル基等のアルキル基や芳香環等のアリール基、アセチル基等のアシル基等が挙げられる。すなわち、前記-Rx-NR3-におけるR3はメチル基やエチル基等のアルキル基や芳香環等のアリール基、アセチル基等のアシル基を表す。
これらの中でも、ガスバリア性を向上させるという観点から、繰り返し単位としては、-CO-Rx-O-、-CO-Rx-NH-又は-CO-Rx-S-が好ましく、特にはZが酸素原子であることが好ましく、具体的には、繰り返し単位が-CO-Rx-O-の場合、化学式(1)は下記化学式(3)で表される。
【0027】
【0028】
(化学式(3)中、Rxは置換基を有していてもよい炭化水素鎖を表し、nは正の整数を表す。)
【0029】
化学式(2)及び(3)における炭化水素鎖Rxは、炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖であることが好ましい。炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖の炭化水素鎖としては、例えば、メチレン基(-CH2-)、メチン基(-CHR-)、水素原子を持たない4級炭素(-CR1R2-)、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、フェニレン基等が挙げられる。前記メチン基、4級炭素におけるR、R1、R2はメチル基やエチル基等のアルキル基や芳香環等のアリール基を表す。中でも、炭化水素鎖として、炭素数2~8の直鎖又は分岐鎖のアルキル鎖であることがより好ましく、炭素数3~7の直鎖又は分岐鎖のアルキル鎖が更に好ましい。これらの中でも、樹脂の保存安定性や加工安定性を向上させるという観点から、直鎖炭化水素鎖であることが好ましく、炭素数2~8の直鎖アルキル鎖が更に好ましく、炭素数3~7の直鎖アルキル鎖が特に好ましい。
【0030】
化学式(1)~(3)において、nは正の整数を表す。nは1~20の整数であることが好ましく、1~10の整数であることがより好ましい。nが大きくなりすぎるとバリア性が低下する傾向があるため、20以下の整数であることが好ましい。
【0031】
なお、化学式(1)において、nが2以上の場合、複数のXは同一であっても異なっていてもよいが、バリア性の観点から同一であることが好ましい。化学式(2)において、nが2以上の場合、複数のRx及びZはそれぞれ同一であっても異なっていてもよいが、バリア性の観点から同一であることが好ましい。化学式(3)において、nが2以上の場合、複数のRxは同一であっても異なっていてもよいが、バリア性の観点から同一であることが好ましい。
【0032】
本実施形態において、変性ビニルアルコール系樹脂中における、前記化学式(1)~(3)中のnの平均値(すなわち、グラフト鎖の平均鎖長と称することがある。)は、それぞれ1~10の範囲であることが好ましく、1~5の範囲がより好ましく、1~2の範囲が更に好ましく、1~1.5の範囲が特に好ましい。nの平均値が大きくなりすぎると、グラフト鎖の鎖長のバラつきが大きくなるためガスバリア性が低下する傾向になるため、10以下であることが好ましい。
【0033】
化学式(1)~(3)で表される構造単位は、例えば、核磁気共鳴分光法(NMR)や赤外分光光度法、質量分析法等の一般的な有機化学的手法により特定することができる。
本実施形態の変性ビニルアルコール系樹脂における化学式(1)~(3)中のグラフト鎖の平均鎖長は、1H-NMR測定結果から算出することができる。
【0034】
[変性ビニルアルコール系樹脂の製造]
化学式(1)で表される構造単位を主鎖に有する変性ビニルアルコール系樹脂(本実施形態の変性ビニルアルコール系樹脂)は、ビニルアルコール系樹脂とヘテロ官能基を有する化合物を、帰還型スクリューを備えたせん断成形加工機を用いてグラフト反応させることにより得ることができる。
変性ビニルアルコール系樹脂の主鎖が有する化学式(1)からなる繰り返し単位、すなわちグラフト反応による側鎖グラフト構造の形成は、原料として用いたビニルアルコール系樹脂の水酸基を開始末端とするものである。
【0035】
(ビニルアルコール系樹脂)
上記原料として用いるビニルアルコール系樹脂としては、主鎖に水酸基を豊富に含む重合体を意味し、例えばポリビニルアルコール系樹脂(PVA樹脂)、エチレン-ビニルアルコール系共重合体(EVOH樹脂)を挙げることができる。
【0036】
<PVA樹脂>
PVA樹脂は、通常、酢酸ビニルを単独重合し、更にそれをケン化させることにより得られる樹脂である。重合法は、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合等を用いることができるが、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。本発明においては、ケン化度が比較的低い、または一級水酸基が側鎖に導入されたPVA系樹脂などの、溶融成形に適したPVA系樹脂を用いることが好ましい。
【0037】
PVA樹脂の重合度は、200~1000であることが好ましく、250~800がより好ましく、300~600が更に好ましい。かかる重合度が低すぎると、材料として脆くなる傾向があり、重合度が高すぎると樹脂の溶融粘度が高くなって混練時の加工性が低下する傾向がある。
【0038】
PVA樹脂のケン化度は、70~100モル%であることが好ましく、80~100モル%がより好ましく、85~100モル%が更に好ましい。かかるケン化度がこの範囲にあることで、溶融混練を行う際の効率が向上する傾向にある。一方で低すぎると耐熱性が低下する傾向がある。
【0039】
PVA樹脂のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2,160g)は、通常0.5~50g/10分であり、好ましくは1.5~25g/10分、特に好ましくは2~20g/10分である。MFRが大きすぎる場合には、バリア性が低下する傾向があり、小さすぎる場合には加工性が低下する傾向がある。
【0040】
PVA樹脂の20℃における4重量%水溶液の粘度は、2.5~70mPa・sが好ましく、3~12mPa・sがより好ましく、3.5~6mPa・sが更に好ましい。該粘度が低すぎるとフィルム強度等の機械的物性が劣る傾向があり、高すぎるとフィルムへの製膜性が低下する傾向がある。
なお、上記粘度はJIS K6726に準じて測定されるものである。
【0041】
PVA樹脂は、それぞれ単独で用いることもできるし、2種以上を混合して用いることもできる。
【0042】
<EVOH樹脂>
EVOH樹脂は、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーを共重合させた後にケン化させることにより得られる樹脂であり、非水溶性の熱可塑性樹脂である。上記ビニルエステル系モノマーは、経済的な面から、一般的には酢酸ビニルが用いられる。重合法も公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合等を用いることができるが、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。得られたエチレン-ビニルエステル共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。
すなわち、EVOH樹脂は、エチレン構造単位とビニルアルコール構造単位を主とし、ケン化されずに残存した若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。
【0043】
本実施形態で用いるEVOH樹脂におけるエチレン構造単位の含有量は、通常20~60モル%、好ましくは25~50モル%、特に好ましくは29~45モル%である。かかる含有量が低すぎる場合は、柔軟性が低下する傾向があり、逆に高すぎる場合は、ガスバリア性が低下する傾向がある。
かかるエチレン構造単位の含有量は、例えば、ISO14663-1(1999)に準じて計測することができる。
【0044】
EVOH樹脂におけるビニルエステル成分のケン化度は、通常80~100モル%、好ましくは90~99.99モル%、特に好ましくは99~99.99モル%である。かかるケン化度が低すぎる場合には柔軟性が低下する傾向がある。
かかるビニルエステル成分のケン化度は、例えば、JIS K6726(1994)(ただし、EVOH樹脂は水/メタノール溶媒(水:メタノール=9:1(質量比))に均一に溶解した溶液である。)に準じて計測することができる。
【0045】
EVOH樹脂のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2,160g)は、通常1~50g/10分であり、好ましくは1.5~25g/10分、特に好ましくは2~20g/10分である。MFRが大きすぎる場合には、バリア性が低下する傾向があり、小さすぎる場合には柔軟性が低下する傾向がある。
【0046】
EVOH樹脂は、それぞれ単独で用いることもできるし、エチレン含有率、ケン化度、MFRが異なる2種以上のEVOH樹脂を混合して用いてもよい。
【0047】
<共重合成分>
また、本実施形態の変性ビニルアルコール系樹脂の製造に用いられる原料のビニルアルコール系樹脂には、その性能を阻害しない範囲において、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、共重合されていてもよい。前記コモノマーは、プロピレン、イソブテン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のα-オレフィン、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、3-ブテン-1、2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物等のヒドロキシ基含有α-オレフィン誘導体、1,3-ヒドロキシ-2-メチレンプロパン、1,5-ヒドロキシ-3-メチレンペンタン等ヒドロキシメチルビニリデン類;これらのエステル化物である1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパン等のビニリデンジアセテート類;不飽和カルボン酸又はその塩・部分アルキルエステル・完全アルキルエステル・ニトリル・アミド・無水物、不飽和スルホン酸又はその塩、ビニルシラン化合物、塩化ビニル、スチレン等のコモノマーである。
【0048】
さらに、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたビニルアルコール系樹脂を用いることもできる。
【0049】
以上のような変性物の中でも、共重合によって一級水酸基が側鎖に導入されたビニルアルコール系樹脂は、延伸処理や真空・圧空成形等の二次成形性が良好になる点で好ましく、中でも1,2-ジオール構造を側鎖に有するビニルアルコール系樹脂が好ましい。
【0050】
(ヘテロ官能基を有する化合物)
ヘテロ官能基とは、ヘテロ原子を有する官能基であり、ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子等が挙げられ、ヘテロ原子を有する官能基としては、具体的に、エステル基、カルボン酸基、アシル基、チオエステル基、アミド基、カーボネート基、カルバメート基、チオカルバメート基、カルバミド基、N-アシル基、N,N’-ジアシル基等を挙げることができる。
【0051】
ヘテロ官能基を有する化合物としては、ヘテロ官能基を有する環状化合物、カルボン酸化合物、カーボネート化合物、カルバメート化合物、チオカルバメート化合物、ジアシル化合物、トリアシル化合物、及びそれらの類縁体等が挙げられる。
【0052】
<ヘテロ官能基を有する環状化合物>
ヘテロ官能基を有する環状化合物としては、炭素数2以上のヘテロ環状化合物が好ましい。ヘテロ官能基を有する環状化合物としては、例えば、ラクトン類等の環状エステル、ラクタム類等の環状アミド、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、チエタン-2-オン、3,3-ジメチルチエタン-2-オン、4-メチルチエタン-2-オン、3-メチルチエタン-2-オン、3-エチルチエタン-2-オン、3-メチル-3-エチルチエタン-2-オン等の環状チオエステル、エチレンカルバメート等の環状カルバメート、フェニルフタルイミドやシクロヘキサンジカルボキシイミド、等のイミド化合物、N,N’-ジメチルプロピレン尿素や1,3-ジメチル-2-イミダゾリジソン等の環状ウレア誘導体、N-アシル置換カプロラクタム等の環式N,N’-ジアシル化合物、等が挙げられ、これらの中でも環状エステルが好ましく、ラクトン類がより好ましい。
【0053】
ラクトン類としては、開環重合により脂肪族ポリエステルを形成する炭素原子の数が3~15であるラクトン類を挙げることができる。このようなラクトン類は、置換基を有さない場合には下記一般式で表され、式中、nは2~14の整数であり、好ましくはnが4~5である。また、下記式中のアルキレン鎖-(CH2)n-のいずれかの炭素原子が、少なくとも1個の、炭素数が1~8程度の低級アルキル基、炭素数が1~8程度の低級アルコキシ基、シクロアルキル基、フェニル基、アラルキル基等の置換基を有するものであってもよい。
【0054】
【0055】
ラクトン類としては、具体的には、例えば、β-プロピオラクトン類、γ―ブチロラクトン類、ε-カプロラクトン類、δ-バレロラクトン類等を挙げることができる。
【0056】
β-プロピオラクトン類としては、例えば、β-プロピオラクトン、ジメチルプロピオンラクトン等が挙げられる。
【0057】
γ-ブチロラクトン類としては、例えば、ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、γ-カプリロラクトン、γ-ラウロラクトン、γ-パルミトラクトン、γ-ステアロラクトン、クロトノラクトン、α-アンゲリカラクトン、β-アンゲリカラクトン等が挙げられる。
【0058】
ε-カプロラクトン類としては、例えば、ε-カプロラクトン、モノメチル-ε-カプロラクトン、モノエチル-ε-カプロラクトン、モノデシル-ε-カプロラクトン、モノプロピル-ε-カプロラクトン等のモノアルキル-ε-カプロラクトン;2個のアルキル基がε位置以外の炭素原子にそれぞれ置換しているジアルキル-ε-カプロラクトン;3個のアルキル基がε位置以外の炭素原子にそれぞれ置換しているトリアルキル-ε-カプロラクトン;エトキシ-ε-カプロラクトン等のアルコキシ-ε-カプロラクトン;シクロヘキシル-ε-カプロラクトン等のシクロアルキル-ラクトン;ベンジル-ε-カプロラクトン等のアラルキル-ε-カプロラクトン;フェニル-ε-カプロラクトン等のアリール-ε-カプロラクトン等が挙げられる。
【0059】
δ-バレロラクトン類としては、例えば、5-バレロラクトン、3-メチル-5-バレロラクトン、3,3-ジメチル-5-バレロラクトン、2-メチル-5-バレロラクトン、3-エチル-5-バレロラクトン等が挙げられる。
【0060】
これらのラクトン類は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0061】
これらの中でも、本実施形態で使用するラクトン類としては、反応性の点から、ε-カプロラクトン類又はδ-バレロラクトン類が好ましく、さらに安価かつ容易に入手できる点から、ε-カプロラクトン類がより好ましい。
【0062】
<カルボン酸化合物>
【0063】
カルボン酸化合物としては、直鎖カルボン酸エステル、直鎖カルボン酸チオエステル、直鎖カルボン酸アミド、カルボン酸のアシルハライド、あるいは酸無水物等が挙げられる。これらの中でも、直鎖カルボン酸エステルが好ましい。
【0064】
<カーボネート化合物>
カーボネート化合物としては、各種のジアルキルカーボネートやジアリールカーボネート、アリールアルキルカーボネート等が挙げられる。
【0065】
<カルバメート化合物>
カルバメート化合物としては、メチルカルバメートやエチルカルバメート等が挙げられる。
【0066】
<チオカルバメート化合物>
チオカルバメート化合物としては、ジメチルアミノ-S-アリールチオカルバメート等の誘導体等が挙げられる。
【0067】
<ジアシル化合物>
ジアシル化合物としては、ジアセトアミドやジアセチル(シクロペンチル)アザン等が挙げられる。
【0068】
<トリアシル化合物>
トリアシル化合物としては、トリアセトアミドやトリベンズアミド等が挙げられる。
【0069】
その他、ヘテロ官能基を有する化合物として、化学式(1)~(3)中のnで表記された繰り返し構成単位のオリゴマー、あるいは重合体を使用することもできる。例えばポリ-ε-カプロラクトンやポリ乳酸等のポリエステル類、ポリ-ε-カプロラクタム等のポリアミド類、あるいはポリチオエステル類等を使用できる。
【0070】
上記したように、化学式(1)で表される構造単位を有する変性ビニルアルコール系樹脂の製造方法は、ビニルアルコール系樹脂とヘテロ官能基を有する化合物を、帰還型スクリューを備えたせん断成形加工機により溶融混練する工程を含む。
【0071】
一般的にビニルアルコール系樹脂とヘテロ官能基を有する化合物とは反応し難いため、長時間のグラフト反応時間(例えば2時間以上)を必要とする。本発明者の検討によれば、これが黄変の原因の一つであることを突き止めた。本発明では帰還型スクリューを備えたせん断成形加工機を用いるために、高せん断力下でグラフト反応を実施することができ、これによりグラフト反応時間が極めて短くなり、YI値が1.40以下という着色の度合いが抑制され外観性に優れる変性ビニルアルコール系樹脂を提供することができる。
【0072】
ヘテロ官能基を有する化合物としてヘテロ官能基を有する環状化合物が用いられる場合は、ビニルアルコール系樹脂の存在下でヘテロ官能基を有する環状化合物の開環重合反応及びグラフト反応を行うことにより、一方でヘテロ官能基を有する化合物としてカルボン酸化合物が用いられる場合は、ビニルアルコール系樹脂の存在下でカルボン酸化合物の求核置換反応又は脱水縮合反応及びグラフト反応を行うことにより、化学式(1)で表される構造単位を主鎖に有する変性ビニルアルコール系樹脂を製造することができる。
【0073】
帰還型スクリューを備えたせん断成形加工機は、螺旋状のスクリュー羽根を有する外周面と先端面から基部側に延びて外周面に開口する帰還穴が形成された内部帰還型スクリューと有底の加熱筒を備え、内部帰還型スクリューの外周面と加熱筒内周面との間のクリアランス内に溶融状態の重合材料を供給して、内部帰還型スクリューを高速回転させて混練することで樹脂組成物を得るものである。混練に際して、溶融した重合材料はクリアランス内を前進して内部帰還型スクリュー先端面と加熱筒の底面との間の先端クリアランスからこのスクリューの内空部を通って後方に帰還してクリアランスに戻されて循環移動させられることでせん断され、樹脂組成物が押出し成形されて吐出される。
【0074】
本実施形態においては、重合材料には、上記したビニルアルコール系樹脂とモノマーとしてヘテロ官能基を有する化合物を用い、及び重合触媒を含有する。
【0075】
上記せん断成形加工機への各材料の供給は、各々の材料を順次供給してもよいし、予め混合したものを供給してもよい。中でも、生産性の観点から、各々の材料を順次供給し、可塑化部で混合する方法が好ましい。
【0076】
モノマーたるヘテロ官能基を有する化合物の使用量は、所望のグラフト構造単位の含有量が得られるように適宜選択すればよいが、ビニルアルコール系樹脂100質量部に対して、1~200質量部であることが好ましく、より好ましくは10~150質量部、更に好ましくは20~100質量部である。ヘテロ官能基を有する化合物の使用量が少なすぎると、柔軟性が低下する傾向があり、一方で、使用量が多すぎると、ガスバリア性が低下する傾向がある。
【0077】
重合触媒としては、例えば金属触媒が挙げられ、ヘテロ官能基を有する環状化合物の開環重合触媒、カルボン酸化合物の求核置換反応触媒又は脱水縮合反応触媒として従来公知のものを用いることができる。
例えば、チタン系化合物、錫系化合物、アルミニウム系化合物、鉄系化合物、ジルコニウム系化合物、亜鉛系化合物、鉛系化合物等を挙げることができる。具体的には、テトラ-n-ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン等のチタニウムアルコキシド、ジブチルジブトキシスズ等のスズアルコキシド、2-エチルヘキサン酸スズ(II)、ジブチルスズジアセテート等のスズエステル化合物等が挙げられるが、これらの中でも本発明の効果がより効果的に得られる点でチタン系化合物が好ましく、さらに安価かつ容易に入手できる点からはテトラ-n-ブトキシチタンが好ましい。
【0078】
重合触媒の使用量は、モノマーたるヘテロ官能基を有する化合物100質量部に対して、0.01~3.0質量部であることが好ましく、より好ましくは0.03~1.5質量部、更に好ましくは0.05~1.0質量部である。
【0079】
溶融混練の条件としては、加熱温度を180~240℃とすることが好ましく、190~235℃がより好ましく、200~230℃が更に好ましい。加熱温度が低すぎるとグラフト反応の効率が低下する場合があり、加熱温度が高すぎると樹脂の着色や粘度増加によって加工性が低下する場合があるため、上記温度範囲で加熱することが好ましい。帰還型スクリューを備えたせん断成形加工機の高せん断部における樹脂温度を180~240℃とすることが好ましく、さらに好ましくは190~235℃である。
【0080】
混練する際の内部帰還型スクリューの回転数は、250~2000rpmであることが好ましく、300~1500rpmがより好ましく、450~1200rpmが更に好ましい。内部帰還型スクリューの回転数が少なすぎると、混練が十分に行われず側鎖へのグラフト率が低下する場合があり、回転数が高すぎるとせん断発熱が高くなりすぎて樹脂が劣化し、黄色に変色する場合がある。
【0081】
混練する際の時間は、5~200秒であることが好ましく、10~100秒がより好ましく、10~80秒が更に好ましい。混練時間が短すぎると、混練が十分に行われずグラフト率が低下する場合があり、混練時間が長すぎるとせん断発熱が高くなりすぎて樹脂が劣化する場合がある。
【0082】
帰還型スクリューを備えたせん断成形加工機は、市販されているものを使用することができ、例えば、株式会社ニイガタマシンテクノ製「NHSS2-28」等が挙げられる。
【0083】
グラフト反応後、樹脂の臭気防止の為に、未反応モノマーを除去することが好ましい。未反応モノマーを除去する方法としては、未反応モノマーが溶解する溶液に浸す方法や減圧除去する方法が挙げられるが、生産効率の観点から、減圧除去する方法が好ましい。
例えば、減圧除去の条件としては、反応温度と同じ設定温度で、100~101200Paの圧力下で、1秒~10時間行うことが好ましい。
【0084】
かくして本実施形態の変性ビニルアルコール系樹脂が得られるが、得られた変性ビニルアルコール系樹脂における主鎖を形成するビニルアルコール系樹脂構造単位の含有量としては、通常40~99質量%であり、好ましくは45~95質量%であり、特に好ましくは50~90質量%であり、この主鎖にグラフトした化学式(1)~(3)のいずれかで表される構造単位の含有量としては、通常1~60質量%であり、好ましくは5~55質量%であり、特に好ましくは10~50質量%である。ビニルアルコール系樹脂構造単位の含有量が高すぎると、柔軟性低下の傾向があり、一方で、ビニルアルコール系樹脂構造単位の含有量が低すぎるとガスバリア性低下の傾向がある。
なお、上記の本実施形態の変性ビニルアルコール系樹脂中のビニルアルコール系樹脂構造単位の含有量、及びグラフトした化学式(1)~(3)のいずれかで表される構造単位の含有量は、1H-NMR測定結果から算出することができる。
【0085】
本実施形態の変性ビニルアルコール系樹脂中の変性率としては、通常は0.1~30モル%であり、さらに好ましくは1~20モル%、特に好ましくは5~15モル%である。かかる変性率は、ビニルアルコール系樹脂構造単位のうち、化学式(1)~(3)のいずれかで表される構造単位の構造がグラフトされた割合を意味する。変性ビニルアルコール系樹脂中の変性率が低すぎると、柔軟性が低下する傾向があり、一方で、変性ビニルアルコール系樹脂中の変性率が高すぎると、ガスバリア性が低下する傾向がある。
なお、上記の変性ビニルアルコール系樹脂中の変性率は、1H-NMR測定結果から算出することができる。
【0086】
本実施形態の変性ビニルアルコール系樹脂における化学式(1)~(3)中のnの平均値(すなわちグラフト鎖の平均鎖長)としては、それぞれ1~10であることが好ましく、より好ましくは1~5であり、更に好ましくは1~2であり、特に好ましくは1~1.5である。かかる値が大きすぎると、ガスバリア性が低下する傾向になる。
なお、上記本実施形態の変性ビニルアルコール系樹脂における化学式(1)~(3)中の平均鎖長は、1H-NMR測定結果から算出することができる。
【0087】
本実施形態の変性ビニルアルコール系樹脂の数平均分子量(ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定した標準ポリスチレン換算)としては、通常10,000~300,000であり、好ましくは12,500~200,000であり、特に好ましくは15,000~100,000である。変性ビニルアルコール系樹脂の数平均分子量が高すぎると、バリア性低下の傾向があり、一方で、変性ビニルアルコール系樹脂の数平均分子量が低すぎると柔軟性低下の傾向がある。
なお、上記の変性ビニルアルコール系樹脂中の数平均分子量は、GPC測定結果から算出することができる。
【0088】
本実施形態の変性ビニルアルコール系樹脂の融点としては、50~190℃であることが好ましく、より好ましくは60~160℃であり、特に好ましくは70~120℃である。変性ビニルアルコール系樹脂の融点が高すぎると、柔軟性低下の傾向があり、一方で、変性ビニルアルコール系樹脂の融点が低すぎるとバリア性低下の傾向がある。
一般に、側鎖に化学式(1)で表される構造単位の構造がグラフトされることにより、骨格のビニルアルコール系樹脂における水酸基同士の水素結合等の分子間力が弱くなるため、変性ビニルアルコール系樹脂中の変性率が高くなると、変性ビニルアルコール系樹脂の融点が低くなる傾向がある。
なお、上記の変性ビニルアルコール系樹脂の融点は、示差走査熱量計を用いて測定することができる。
【0089】
本実施形態の変性ビニルアルコール系樹脂は、厚さ200μmの成形体としたときの該成形体の黄色度を表すイエローインデックス(YI)値が1.40以下である。YI値が1.40以下であると、より無色に近い色相の良好なペレットや成形品を製造することができる。YI値は、1.38以下であることが好ましく、1.20以下がより好ましく、また、下限は低ければ低いほど好ましく、最も好ましくは0である。
なお、YI値は、分光色差計により測定した黄色指数であり、本実施形態の変性ビニルアルコール系樹脂を140℃、30秒間の条件の熱プレスによって、厚さ200μmのフィルムに成形し、得られたフィルムを分光色差計装置(例えば、日本電色工業株式会社製「SE6000」(商品名))を用いて透過法で色差を測定することにより求めることができる。なお、色差データにはΔYI(D1925)の値を採用することとする。
【0090】
本実施形態の変性ビニルアルコール系樹脂は、重合触媒由来の金属の含有量が通常25μg/g以上であり、25~200μg/gがより好ましい。重合触媒由来の金属の含有量が多すぎると、樹脂組成物のゲル化や粘度の増加、更には異常な着色を引き起こす場合があり、金属の含有量が少なすぎるとビニルアルコール系樹脂とモノマーとの反応速度が遅くなる傾向がある。
【0091】
なお、本実施形態の変性ビニルアルコール系樹脂1gあたりに残存する金属触媒量は、樹脂の微量元素分析(例えば高周波結合誘導プラズマ(ICP)による発光分光分析法やX線による分光分析法)、あるいは樹脂抽出液のイオンクロマト法により特定することが可能である。分析の精度や分析検液の調整法の簡便さ等から、好ましくはICP-OES法等の微量元素分析法が用いられる。
【0092】
なお、使用する原料のビニルアルコール系樹脂がEVOH樹脂の場合、主鎖化学式(1)~(3)で表される構造単位を有する変性EVOH樹脂におけるエチレンに由来する構造単位の含有量(以下、「エチレン含有量」とも言う。)は、通常20~60モル%であり、好ましくは25~50モル%であり、より好ましくは29~45モル%である。かかるエチレン含有量が低すぎる場合は、樹脂成形物の柔軟性が低下する傾向があり、逆に高すぎる場合は、ガスバリア性が低下する傾向がある。なお、側鎖に化学式(1)~(3)で表される構造を有する変性EVOH樹脂におけるエチレン含有量は、グラフト反応前のEVOH樹脂におけるエチレン含有量に依存する。
エチレン含有量は、例えば、ISO 14663-1(1999)に準じて計測することができる。
【0093】
本実施形態で用いられる変性ビニルアルコール系樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲において(例えば樹脂組成物の5質量%以下)、一般にビニルアルコール系樹脂に配合する配合剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、光安定剤、界面活性剤、抗菌剤、乾燥剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、架橋剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤、防曇剤、生分解用添加剤、シランカップリング剤、酸素吸収剤等が含有されていてもよい。
【0094】
上記熱安定剤としては、溶融成形時の熱安定性等の各種物性を向上させる目的で、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の有機酸類又はこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)、亜鉛塩等の塩;又は、硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸類、又はこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)、亜鉛塩等の塩等の添加剤が挙げられる。
また、これらの添加剤は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
これらのうち、特に、酢酸、ホウ酸及びその塩を含むホウ素化合物、酢酸塩、リン酸塩を含有することが好ましい。
【0095】
酢酸を含有する場合、その含有量は、変性ビニルアルコール系樹脂100質量部に対して通常0.001~1質量部、好ましくは0.005~0.2質量部、特に好ましくは0.01~0.1質量部である。酢酸の含有量が少なすぎると、酢酸の含有効果が十分に得られない傾向があり、逆に多すぎると均一なフィルムを得ることが難しくなる傾向がある。
【0096】
また、ホウ素化合物を含有する場合、その含有量は、変性ビニルアルコール系樹脂100質量部に対してホウ素換算(灰化後、ICP発光分析法にて分析)で通常0.001~1質量部であり、好ましくは0.002~0.2質量部であり、特に好ましくは0.005~0.1質量部である。ホウ素化合物の含有量が少なすぎると、ホウ素化合物の含有効果が十分に得られないことがあり、逆に多すぎると均一なフィルムを得るのが困難となる傾向がある。
【0097】
また、酢酸塩、リン酸塩(リン酸水素塩を含む)の含有量としては、変性ビニルアルコール系樹脂100質量部に対して金属換算(灰化後、ICP発光分析法にて分析)で通常0.0005~0.1質量部、好ましくは0.001~0.05質量部、特に好ましくは0.002~0.03質量部である。かかる含有量が少なすぎるとその含有効果が十分に得られないことがあり、逆に多すぎると均一なフィルムを得るのが困難となる傾向がある。尚、変性ビニルアルコール系樹脂に2種以上の塩を含有する場合は、その総量が上記の含有量の範囲にあることが好ましい。
【0098】
塩として、アルカリ金属塩を用いる場合、アルカリ金属塩の含有量は、変性ビニルアルコール系樹脂に対して、通常、重量基準にて、10~2000ppmであり、好ましくは25~1000ppmであり、特に好ましくは50~500ppmである。アルカリ金属塩の配合量が多すぎると、着色不良の傾向があり、逆にアルカリ金属塩の配合量が少なすぎると、層間接着性が低下する傾向がある。
【0099】
変性ビニルアルコール系樹脂に酢酸、ホウ素化合物、酢酸塩、リン酸塩を含有する方法については、特に限定されず、例えば、下記i)~iv)の方法で得られたビニルアルコール系樹脂とラクトン類をグラフト反応する方法や、変性ビニルアルコール系樹脂を下記v)~vi)の方法で処理する方法が挙げられる。
【0100】
例えば、ビニルアルコール系樹脂に酢酸、ホウ素化合物、酢酸塩、リン酸塩等の添加物を含有させる方法としては、i)含水率20~80質量%のビニルアルコール系樹脂の多孔性析出物を、添加物の水溶液と接触させて、前記多孔性ビニルアルコール系樹脂に添加物を含有させてから乾燥する方法;ii)ビニルアルコール系樹脂の均一溶液(水/アルコール溶液等)に添加物を含有させた後、凝固液中にストランド状に押し出し、次いで得られたストランドを切断してペレットとして、さらに乾燥処理をする方法;iii)ビニルアルコール系樹脂と添加物を一括して混合してから押出機等で溶融混練する方法;iv)ビニルアルコール系樹脂の製造時において、ケン化工程で使用したアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)を酢酸等の有機酸類で中和して、残存する酢酸等の有機酸類や副生成する塩の量を水洗処理により調製したりする方法等を挙げることができる。
本発明の効果をより顕著に得るためには、添加物の分散性に優れるi)、ii)の方法、有機酸及びその塩を含有させる場合はiv)の方法が好ましい。
【0101】
また、例えば、変性ビニルアルコール系樹脂に酢酸、ホウ素化合物、酢酸塩、リン酸塩等の添加物を添加する別の方法としては、v)変性ビニルアルコール系樹脂を、添加物の水溶液と接触させて、前記変性ビニルアルコール系樹脂に添加物を含有させてから乾燥する方法;vi)変性ビニルアルコール系樹脂と添加物を一括して混合してから押出機等で溶融混練する方法等を挙げることができる。
【0102】
また、異なる2種以上の変性ビニルアルコール系樹脂をブレンドすることや、変性ビニルアルコール樹脂と通常のビニルアルコール系樹脂をブレンドすることも可能である。
【0103】
本実施形態の変性ビニルアルコール系樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲において、ポリアミド系樹脂やポリエステル系樹脂、熱可塑性エラストマー等の異なる種類の熱可塑性樹脂を配合し、樹脂組成物としてもよい。樹脂組成物中の変性ビニルアルコール系樹脂の含有量は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。樹脂組成物中に変性ビニルアルコール系樹脂が前記範囲で配合されると柔軟かつガスバリア性があり、溶融押出成形する場合でも、押出成形が容易である。
【0104】
<変性ビニルアルコール系樹脂の用途>
かくして得られた本実施形態の変性ビニルアルコール系樹脂は、溶融成形により例えばフィルム、シート、カップやボトル等に成形することができる。かかる溶融成形方法としては、押出成形法(T-ダイ押出、インフレーション押出、ブロー成形、溶融紡糸、異型押出等)、射出成形法が主として採用される。溶融成形温度は、通常150~300℃の範囲から選ぶことが多い。
【0105】
成形物は、外観性が良好であることから、光学材料、食品包装材、紙等の表面コーティング剤、繊維のサイジング剤、各種顔料のバインダー等に好適に利用される。また、さらに強度を上げたり他の機能を付与したりするために他の基材と積層して積層体とすることもできる。
かかる他の基材としては熱可塑性樹脂が有用である。熱可塑性樹脂としては例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリエチレン類、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン(ブロック及びランダム)共重合体、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のポリオレフィン類、これらポリオレフィン類を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性したグラフト化ポリオレフィン類、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン、ビニルエステル系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族又は脂肪族ポリケトン、更にこれらを還元して得られるポリアルコール類等が挙げられるが、積層体の物性(特に強度)等の実用性の点から、ポリオレフィン系樹脂やポリアミド系樹脂が好ましく、特にはポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく用いられる。
【0106】
これら基材樹脂には、本発明の趣旨を阻害しない範囲において、従来知られているような酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核材、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、ワックス等を含んでいてもよい。
【0107】
本実施形態の変性ビニルアルコール系樹脂を他の基材と積層するときの積層方法は公知の方法にて行うことができる。例えば、本実施形態の変性ビニルアルコール系樹脂から形成されたフィルム、シート等に他の基材を溶融押出ラミネートする方法、逆に他の基材に該樹脂を溶融押出ラミネートする方法、該樹脂と他の基材とを共押出する方法、該樹脂(層)と他の基材(層)とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法、他の基材上に該樹脂の溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等が挙げられる。
これらの中でも、コストや環境の観点から考慮して共押出しする方法が好ましい。
【0108】
積層体の層構成は、本実施形態の変性ビニルアルコール系樹脂含有層をa(a1、a2、・・・)、熱可塑性樹脂含有層をb(b1、b2、・・・)とするとき、a/bの二層構造のみならず、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、b2/b1/a/b1/b2、b2/b1/a/b1/a/b1/b2等任意の組み合わせが可能である。また、該積層体を製造する過程で発生する端部や不良品当等を再溶融成形して得られる、該変性ビニルアルコール系樹脂と熱可塑性樹脂の混合物を含むリサイクル層をRとするとき、b/R/a、b/R/a/b、b/R/a/R/b、b/a/R/a/b、b/R/a/R/a/R/b等とすることも可能である。
【0109】
なお、上記の層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂層を設けることができ、かかる接着性樹脂としては、公知ものを使用すればよい。かかる接着性樹脂は熱可塑性樹脂含有層bの樹脂の種類によって異なるため、適宜選択すればよいが、代表的には不飽和カルボン酸又はその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性オレフィン系重合体を挙げることができる。例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレン(ブロック及びランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体等であり、これらから選ばれた1種又は2種以上の混合物が好ましい。またこれらの接着性樹脂には、EVOH組成物や他のEVOH、ポリイソブチレン、エチレン-プロピレンゴム等のゴム・エラストマー成分、さらにはb層の樹脂等をブレンドすることも可能である。特に、接着性樹脂の母体のポリオレフィン系樹脂と異なるポリオレフィン系樹脂をブレンドすることにより、接着性が向上することがあり有用である。
【0110】
上記の如き積層体は、次いで必要に応じて(加熱)延伸処理が施されるわけであるが、かかる(加熱)延伸処理とは熱的に均一に加熱されたフィルム、シート状の積層体をチャック、プラグ、真空力、圧空力、ブロー等により、チューブ、フィルム状に均一に成形する操作を意味する。前記延伸は、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、二軸延伸の場合は同時延伸であっても逐次延伸であってもよい。
【0111】
延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空圧空成形等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。二軸延伸の場合は同時二軸延伸方式、逐次二軸延伸方式のいずれの方式も採用できる。延伸温度は通常40~170℃、好ましくは60~160℃程度の範囲から選ばれる。延伸温度が低すぎた場合は延伸性が不良となり、高すぎた場合は安定した延伸状態を維持することが困難となる。
【0112】
なお、延伸後に寸法安定性を付与することを目的として、次いで熱固定を行ってもよい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、例えば上記延伸フィルムを、緊張状態を保ちながら通常80~180℃、好ましくは100~165℃で通常2~600秒間程度熱処理を行う。
また、本実施形態の変性ビニルアルコール系樹脂から得られた多層延伸フィルムをシュリンク用フィルムとして用いる場合には、熱収縮性を付与するために、上記の熱固定を行わず、例えば延伸後のフィルムに冷風を当てて冷却固定する等の処理を行う。
【0113】
積層体の熱可塑性樹脂層及び接着性樹脂層の厚みは、層構成、熱可塑性樹脂の種類、接着性樹脂の種類、用途や包装形態、要求される物性等により一概に言えないが、熱可塑性樹脂層は通常10~1000μm、好ましくは50~500μm、接着性樹脂層は5~500μm、好ましくは10~250μm程度の範囲から選択される。
【0114】
また、本実施形態の変性ビニルアルコール系樹脂含有層の厚みは要求されるガスバリア性等によって異なるが、通常は5~500μmであり、好ましくは10~250μm、特に好ましくは20~100μmであり、かかる厚みが薄すぎると十分なガスバリア性が得られない傾向があり、逆に厚すぎるとフィルムの柔軟性が低下する傾向にある。
【0115】
得られた積層体に、さらに他の基材を押出コートしたり、他の基材のフィルム、シート等を接着剤を用いてラミネートすることも可能であり、その場合、かかる基材としては前記の熱可塑性樹脂以外にも任意の基材(紙、金属箔、一軸又は二軸延伸プラスチックフィルム又はシート及びその無機化合物蒸着物、織布、不織布、金属綿状、木質等)が使用可能である。
【0116】
上記の如く得られたフィルム、シート、延伸フィルムからなる袋及びカップ、トレイ、チューブ、ボトル等からなる容器や蓋材は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器として有用である。
【実施例】
【0117】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。なお、例中「部」、「%」とあるのは、特記しない限り質量基準を意味する。
【0118】
(実施例1)
EVOH樹脂として、エチレン-ビニルアルコール共重合体[エチレン含有量44モル%、ケン化度99.7モル%、MFR12g/10分(210℃、荷重2160g)、融点164℃]ペレットを用いた。
上記EVOH樹脂100部と、ε-カプロラクトンモノマー(株式会社ダイセル製「PLACCEL M」)29.7部と、金属触媒として該ε-カプロラクトンモノマーに対して1.0%の量に相当するテトラノルマルブチルチタネート(マツモトファインケミカル株式会社製「オルガチックスTA-21」)とを、内部帰還型スクリューを備えたせん断成形加工機(株式会社ニイガタマシンテクノ製「NHSS2-28」、スクリュー径:28mm、スクリュー帰還部の内径:2.5mm、ギャップ:2mmに設定)に投入し、下記条件で溶融混練を行った。
可塑化部での加熱温度:200℃
高せん断部での加熱温度:200℃
スクリュー回転数:1000rpm
高せん断部での混練時間:30秒
高せん断部での樹脂温度:231℃
【0119】
すなわち、投入した各材料を、まず可塑化部で200℃まで加熱しながら混合を行い、さらに高せん断部で200℃にて加熱溶融させ、スクリュー回転数を1000rpmとして30秒間混練し、その後、T-ダイから押し出して、変性EVOH樹脂を得た。混練中の樹脂温度は231℃であった。
1H-NMRを用いた構造解析の結果、反応系に実際に仕込まれたε-カプロラクトンモノマーは、EVOH樹脂100部あたり29.7部であり、そのうちの93.8%が変性EVOH樹脂にグラフトされていることが分かった。
【0120】
続いて、得られた変性EVOH樹脂を140℃の熱プレスで30秒間成形することで、厚さ200μmのフィルムを得た。得られたフィルムを分光色差計(日本電色工業株式会社製「SE6000」(商品名))を用いて透過法で色差を測定することにより求めた。なお、色差データにはΔYI(D1925)の値を採用した。フィルムのYI値は、0.96であった。
【0121】
(実施例2)
実施例1において、スクリュー回転数を500rpm、高せん断部での混練時間を120秒に変更したこと以外は、実施例1と同様の手法で変性EVOH樹脂を得た。高せん断部での樹脂温度は216℃であった。
1H-NMRを用いた構造解析の結果、反応系に実際に仕込まれたε-カプロラクトンモノマーは、EVOH樹脂100部あたり19.4部であり、そのうちの96.6%が変性EVOH樹脂にグラフトされていることが分かった。
【0122】
続いて、実施例1の方法に従い得られた変性EVOH樹脂のYI値を測定したところ、1.37であった。
【0123】
(実施例3)
実施例1において、スクリュー回転数を500rpm、高せん断部での混練時間を60秒に変更したこと以外は、実施例1と同様の手法で変性EVOH樹脂を得た。高せん断部での樹脂温度は215℃であった。
1H-NMRを用いた構造解析の結果、反応系に実際に仕込まれたε-カプロラクトンモノマーは、EVOH樹脂100部あたり17.6部であり、そのうちの95.0%が変性EVOH樹脂にグラフトされていることが分かった。
【0124】
続いて、実施例1の方法に従い得られた変性EVOH樹脂のYI値を測定したところ、0.88であった。
【0125】
(比較例1)
実施例1で用いたEVOH樹脂100部、ε-カプロラクトンモノマー(株式会社ダイセル製「PLACCEL M」)30部、テトラノルマルブチルチタネート(マツモトファインケミカル株式会社製「オルガチックスTA-21」)0.03部を、ステンレススチール(SUS)管に仕込み、窒素気流下にて加熱撹拌を行った。内温30℃から190℃まで3時間30分かけて昇温し、190℃到達から1時間後の樹脂を回収することで変性EVOH樹脂を得た。回収した時の樹脂温度は200℃であった。
1H-NMRを用いた構造解析の結果、反応系に実際に仕込まれたε-カプロラクトンモノマーは、EVOH樹脂100部あたり30.4部であり、そのうちの87.2%が変性EVOH樹脂にグラフトされていることが分かった。
【0126】
続いて、実施例1の方法に従い得られた変性EVOH樹脂のYI値を測定したところ、1.56であった。
【0127】
(比較例2)
実施例1で用いたEVOH樹脂100部、ε-カプロラクトンモノマー(株式会社ダイセル製「PLACCEL M」)30部、テトラノルマルブチルチタネート(マツモトファインケミカル株式会社製「オルガチックスTA-21」)0.03部を、SUS管に仕込み、窒素気流下にて加熱撹拌を行った。内温30℃から190℃まで3時間30分かけて昇温し、190℃到達から2時間後の樹脂を回収することで変性EVOH樹脂を得た。回収した時の樹脂温度は200℃であった。
1H-NMRを用いた構造解析の結果、反応系に実際に仕込まれたε-カプロラクトンモノマーは、EVOH樹脂100部あたり30.6部であり、そのうちの97.6%が変性EVOH樹脂にグラフトされていることが分かった。
【0128】
続いて、実施例1の方法に従い得られた変性EVOH樹脂のYI値を測定したところ、1.43であった。
【0129】
実施例及び比較例の結果を下記表1にまとめて示す。
【0130】
【0131】
表1の結果から、実施例1~3は、YI値が1.40以下であり、着色の度合いが抑制され外観性に優れることが分かった。これに対し、比較例1~2は着色の度合いが高く、外観性が悪化した。