(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】R-T-B系焼結磁石及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20220208BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20220208BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20220208BHJP
C22C 28/00 20060101ALI20220208BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220208BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
H01F41/02 G
B22F3/00 F
B22F3/24 K
C22C28/00 A
C22C38/00 303D
H01F1/057 170
(21)【出願番号】P 2018054053
(22)【出願日】2018-03-22
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【氏名又は名称】梶谷 美道
(72)【発明者】
【氏名】重本 恭孝
(72)【発明者】
【氏名】西内 武司
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/018291(WO,A1)
【文献】特開2018-28123(JP,A)
【文献】国際公開第2011/070827(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/093173(WO,A1)
【文献】特開2017-162900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057、41/02
B22F 1/00、3/00、3/24
C22C 28/00、33/02、38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R1-T1-B系焼結体を準備する工程と、
R2-Ga-Ni系合金を準備する工程と、
前記R1-T1-B系焼結体の表面の少なくとも一部に、前記R2-Ga-Ni系合金の少なくとも一部を接触させ、真空又は不活性ガス雰囲気中、450℃以上1100℃以下の温度で熱処理を実施する工程を含み、
前記R1-T1-B系焼結体において、
R1は希土類元素のうち少なくとも一種であり、Nd及びPrの少なくとも一方を必ず含み、R1の含有量は、R1-T1-B系焼結体全体の27mass%以上35mass%以下であり、
T1はFe又はCo、Al、Mn、Siの少なくとも1つとFeであり、T1全体に対するFeの含有量が80mass%以上であり、
Bに対するT1のmol比([T1]/[B])が14.0超15.0以下であり、
前記R2-Ga-Ni系合金において、
R2は希土類元素のうち少なくとも一種であり、Prを必ず含み、R2の含有量は、R2-Ga-Ni系合金全体の64.2mass%以上95.3mass%以下であり、かつ、希土類元素全体に対するPrの比率が、R1-T1―B系焼結体の希土類元素全体に対するPrの比率よりも高く、
Gaの含有量は、R2-Ga-Ni系合金全体の1.8mass%以上31.2mass%以下であり、
Niの含有量は、R2-Ga-Ni系合金全体の1.5mass%以上27.3mass%以下である、R-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記R2-Ga-Ni系合金中のPrがR2全体の50mass%以上である、請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記R2-Ga-Ni系合金中のR2はPrである(不純物は含む)、請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記R1-T1-B系焼結体中のR1に対するPrの質量比[Pr]/[R1]をα、R2-Ga-Ni系合金中のR2に対するPrの質量比[Pr]/[R2]をβとしたとき、β/α≧1.2である、請求項1から3のいずれかに記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
前記R2-Ga-Ni系合金におけるR2-Ga-Niの合計の含有量が80mass%以上である、請求項1から4のいずれかに記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
前記R1-T1-B系焼結体を準備する工程は、原料合金を粒径D
50が3μm以上10μm以下に粉砕した後、磁界中で配向させて焼結を行うことを含む、請求項1から5のいずれかに記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項7】
R3:27mass%以上38mass%以下(R3は、希土類元素のうちの少なくとも一種であり、Nd及びPrを必ず含み、R3全体の50mass%以上がNdである)、
X:0.85mass%以上0.93mass%以下(Xは、BおよびCの少なくとも一方であり、必ずBを含む)、
Ga:0.4mass%以上2.0mass%以下、
Ni:0.2mass%以上2.0mass%以下、
T2:61.0mass%以上(T2は、遷移金属元素の少なくとも一種であり、T2全体の90mass%以上がFeである)、
を含有し、
Xに対するT2のmol比([T2]/[X])は13.0以上であり、
Prの濃度は磁石中央部よりも磁石表面部の方が高く、
Gaの濃度は磁石中央部よりも磁石表面部の方が高く、
Niの濃度は磁石中央部よりも磁石表面部の方が高く、
R4-T3-A化合物(R4は、希土類元素のうち少なくとも一種であり、R4全体の50mass%以上がPrである。T3は、Fe、Co、Ni、Mn、Ti、Crのうち少なくとも一種であり、T3全体の50mass%以上がFeである。AはZn、Cu、Ga、Al、Ge、Siのうち少なくとも一種であり、Gaを必ず含む)を含有する、R-T-B系焼結磁石。
【請求項8】
Prの濃度は、磁石中央部よりも磁石表面部の方が2.0mass%以上高い、請求項7に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項9】
Gaの濃度は、磁石中央部よりも磁石表面部の方が0.1mass%以上高い、請求項7又は8に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項10】
Niの濃度は、磁石中央部よりも磁石表面部の方が0.1mass%以上高い、請求項7から9のいずれかに記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項11】
前記R4-T3-A化合物は、La
6Co
11Ga
3型結晶構造を有している、請求項7から10のいずれかに記載のR-T-B系焼結磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R-T-B系焼結磁石及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素のうち少なくとも一種である。Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種でありFeを必ず含む。Bは硼素である)は永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)、電気自動車用(EV、HV、PHVなど)モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品などに使用されている。本明細書において希土類元素とは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、およびランタノイドからなる群から選択された少なくとも1つの元素をいう。ここで、ランタノイドとは、ランタンからルテチウムまでの15の元素の総称である。
【0003】
R-T-B系焼結磁石は主としてR2T14B化合物からなる主相とこの主相の粒界部分に位置する粒界相(以下、単に「粒界」という場合がある)とから構成されている。R2T14B化合物は高い磁化を持つ強磁性相でありR-T-B系焼結磁石の特性の根幹をなしている。
【0004】
R-T-B系焼結磁石は、高温で保磁力HcJ(以下、単に「保磁力」又は「HcJ」という場合がある)が低下するため不可逆熱減磁が起こるという問題がある。そのため、特に電気自動車用モータに使用されるR-T-B系焼結磁石では、高温下でも高いHcJを有する、すなわち室温においてより高いHcJを有することが要求されている。
【0005】
R-T-B系焼結磁石において、R2T14B化合物中のRに含まれる軽希土類元素(主としてNd及び/又はPr)の一部を重希土類元素(主としてDy及び/又はTb)で置換すると、HcJが向上することが知られている。重希土類元素の置換量の増加に伴いHcJは向上する。
【0006】
しかし、R2T14B化合物中の軽希土類元素を重希土類元素で置換するとR-T-B系焼結磁石のHcJが向上する一方、残留磁束密度Br(以下、単に「Br」という場合がある)が低下する。また、重希土類元素、特にDyなどは資源存在量が少ないうえ産出地が限定されているなどの理由から供給が安定しておらず、価格が大きく変動するなどの問題を有している。そのため、近年、ユーザーから重希土類元素をできるだけ使用することなくHcJを向上させることが求められている。
【0007】
特許文献1には、Dyの含有量を低減しつつ保磁力を高めたR-T-B系希土類焼結磁石が開示されている。この焼結磁石の組成は、一般に用いられてきたR-T-B系合金に比べてB量が相対的に少ない特定の範囲に限定され、かつ、Al、Ga、Cuのうちから選ばれる1種以上の金属元素Mを含有している。その結果、粒界にR2T17相が生成され、このR2T17相から粒界に形成される遷移金属リッチ相(R6T13M)の体積比率が増加することにより、HcJが向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載されている方法は、重希土類元素の含有量を抑制しつつR-T-B系焼結磁石を高保磁力化できる点で注目に値する。しかし、Brが大幅に低下するという問題があった。また、近年、電気自動車用モータ等の用途において更に高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石が求められている。
【0010】
本開示の実施形態は、重希土類元素の含有量を低減しつつ、高いBr及び高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法は、限定的ではない例示的な実施形態において、R1-T1-B系焼結体を準備する工程と、R2-Ga-Ni系合金を準備する工程と、前記R1-T1-B系焼結体の表面の少なくとも一部に、前記R2-Ga-Ni系合金の少なくとも一部を接触させ、真空又は不活性ガス雰囲気中、450℃以上1100℃以下の温度で熱処理を実施する工程を含み、前記R1-T1-B系焼結体において、R1は希土類元素のうち少なくとも一種であり、Nd及びPrの少なくとも一方を必ず含み、R1の含有量は、R1-T1-B系焼結体全体の27mass%以上35mass%以下であり、T1はFe又はCo、Al、Mn、Siの少なくとも1つとFeであり、T1全体に対するFeの含有量が80mass%以上であり、Bに対するT1のmol比([T1]/[B])が14.0超15.0以下であり、前記R2-Ga-Ni系合金において、R2は希土類元素のうち少なくとも一種であり、Prを必ず含み、R2の含有量は、R2-Ga-Ni系合金全体の64.2mass%以上95.3mass%以下であり、かつ、希土類元素全体に対するPrの比率が、R1-T1―B系焼結体の希土類元素全体に対するPrの比率よりも高く、Gaの含有量は、R2-Ga-Ni系合金全体の1.8mass%以上31.2mass%以下であり、Niの含有量は、R2-Ga-Ni系合金全体の1.5mass%以上27.3mass%以下である。
【0012】
ある実施形態において、前記R2-Ga-Ni系合金中のPrがR2全体の50mass%以上である。
【0013】
ある実施形態において、前記R2-Ga-Ni系合金中のR2はPrである(不純物は含む)。
【0014】
ある実施形態において、前記R1-T1-B系焼結体中のR1に対するPrの質量比[Pr]/[R1]をα、R2-Ga-Ni系合金中のR2に対するPrの質量比[Pr]/[R2]をβとしたとき、β/α≧1.2である。
【0015】
ある実施形態において、 前記R2-Ga-Ni系合金におけるR2-Ga-Niの合計の含有量が80mass%以上である。
【0016】
ある実施形態において、前記R1-T1-B系焼結体を準備する工程は、原料合金を粒径D50が3μm以上10μm以下に粉砕した後、磁界中で配向させて焼結を行うことを含む。
【0017】
本開示のR-T-B系焼結磁石は、限定的ではない例示的な実施形態において、R3:27mass%以上38mass%以下(R3は、希土類元素のうちの少なくとも一種であり、Nd及びPrを必ず含み、R3全体の50mass%以上がNdである)、X:0.85mass%以上0.93mass%以下(Xは、BおよびCの少なくとも一方であり、必ずBを含む)、Ga:0.4mass%以上2.0mass%以下、Ni:0.2mass%以上2.0mass%以下、T2:61.0mass%以上(T2は、遷移金属元素の少なくとも一種であり、T2全体の90mass%以上がFeである)、を含有し、Xに対するT2のmol比([T2]/[X])は13.0以上であり、Prの濃度は磁石中央部よりも磁石表面部の方が高く、Gaの濃度は磁石中央部よりも磁石表面部の方が高く、Niの濃度は磁石中央部よりも磁石表面部の方が高く、R4-T3-A化合物(R4は、希土類元素のうち少なくとも一種であり、R4全体の50mass%以上がPrである。T3は、Fe、Co、Ni、Mn、Ti、Crのうち少なくとも一種であり、T3全体の50mass%以上がFeである。AはZn、Cu、Ga、Al、Ge、Siのうち少なくとも一種であり、Gaを必ず含む)を含有する。
【0018】
ある実施形態において、Prの濃度は、磁石中央部よりも磁石表面部の方が2.0mass%以上高い。
【0019】
ある実施形態において、Gaの濃度は、磁石中央部よりも磁石表面部の方が0.1mass%以上高い。
【0020】
ある実施形態において、Niの濃度は、磁石中央部よりも磁石表面部の方が0.1mass%以上高い。
【0021】
ある実施形態において、前記R4-T3-A化合物は、La6Co11Ga3型結晶構造を有している。
【発明の効果】
【0022】
本開示の実施形態によると、重希土類元素の含有量を低減しつつ、高いBr及び高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本開示によるR-T-B系焼結磁石の製造方法における工程の例を示すフローチャートである。
【
図2A】R-T-B系焼結磁石の主相と粒界相を示す模式図である。
【
図2B】
図2Aの破線矩形領域内を更に拡大した模式図である。
【
図3】磁石が瓦形状の場合における磁石表面部と磁石中央部を示す説明図である。
【
図4】熱処理工程におけるR1-T1-B系焼結体とR2-Ga-Ni系合金との配置形態を模式的に示す説明図である。
【
図5A】No.2-5の磁石表面部の断面を走査電子顕微鏡で観察した写真である。
【
図5B】No.2-5の磁石表面部の断面をさらに拡大して観察した写真である。
【
図5C】No.2-5の磁石中央部の断面を走査電子顕微鏡で観察した写真である。
【
図5D】No.2-5の磁石中央部の断面をさらに拡大して観察した写真である。
【
図6A】No.1-1の磁石表面部の断面を走査電子顕微鏡で観察した写真である。
【
図6B】No.1-1の磁石表面部の断面をさらに拡大して観察した写真である。
【
図6C】No.1-1の磁石中央部の断面を走査電子顕微鏡で観察した写真である。
【
図6D】No.1-1の磁石中央部の断面をさらに拡大して観察した写真である。
【
図7A】No.1-3の磁石表面部の断面を走査電子顕微鏡で観察した写真である。
【
図7B】No.1-3の磁石表面部の断面をさらに拡大して観察した写真である。
【
図7C】No.1-3の磁石中央部の断面を走査電子顕微鏡で観察した写真である。
【
図7D】No.1-3の磁石中央部の断面をさらに拡散して観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本開示において、希土類元素を総称して「R」と表記する場合がある。希土類元素Rのうちの特定の元素または元素群を指すとき、例えば「R1」、「R2」、「R3」及び「R4」の符号を用いて他の希土類元素から区別する。また、本開示において、Feを含む遷移金属元素の全体を「T」と表記する。遷移金属元素Tのうちの特定の元素または元素群及び主相のFeサイトと容易に置換される遷移金属元素以外の特定の元素または元素群の両方を含むとき、「T1」、「T2」及び「T3」の符号を用いて他の遷移金属元素から区別する。
【0025】
本開示によるR-T-B系焼結磁石の製造方法は、
図1に示すように、R1-T1-B系焼結体を準備する工程S10と、R2-Ga-Ni系合金を準備する工程S20とを含む。R1-T1-B系焼結体を準備する工程S10と、R2-Ga-Ni系合金を準備する工程S20との順序は任意であり、それぞれ、異なる場所で製造されたR1-T1-B系焼結体及びR2-Ga-Ni系合金を用いてもよい。
【0026】
本開示において、熱処理前及び熱処理中のR-T-B系焼結磁石をR1-T1-B系焼結体と称し、熱処理後のR1-T1-B系焼結体を単にR-T-B系焼結磁石と称する。
【0027】
R1-T1-B系焼結体においては、下記(1)~(3)が成立している。
(1)R1は希土類元素のうち少なくとも一種でありNd及びPrの少なくとも一方を必ず含み、R1の含有量は、R1-T1-B系焼結体全体の27mass%以上35mass%以下である。
(2)T1はFe又はCo、Al、Mn、Siの少なくとも1つとFeであり、T1全体に対するFeの含有量が80mass%以上である。
(3)Bに対するT1のmol比([T1]/[B])が14.0超15.0以下である。
【0028】
本開示におけるBに対するT1のmol比([T1]/[B])とは、T1を構成する各元素(Fe又はCo、Al、Mn、Siの少なくとも1つとFe)の分析値(mass%)をそれぞれの元素の原子量で除したものを求め、それらの値を合計したもの(a)と、Bの分析値(mass%)をBの原子量で除したもの(b)との比(a/b)である。
【0029】
Bに対するT1のmol比([T1]/[B])が14.0を超えるということは、Bの含有比率がR2T14B化合物の化学量論組成比よりも低いことを意味している。言い換えると、R1-T1-B系焼結体において、主相(R2T14B化合物)の形成に使われるT1の量に対して相対的にB量が少ない。
【0030】
R2-Ga-Ni系合金においては、以下の(4)~(6)が成立している。
(4)R2は希土類元素のうち少なくとも一種であり、Prを必ず含み、R2の含有量は、R2-Ga-Ni系合金全体の64.2mass%以上95.3mass%以下であり、かつ、希土類元素全体に対するPrの比率が、R1-T1―B系焼結体の希土類元素全体に対するPrの比率よりも高い。
(5)Gaの含有量は、R2-Ga-Ni系合金全体の1.8mass%以上31.2mass%以下である。
(6)Niの含有量は、R2-Ga-Ni系合金全体の1.5mass%以上27.3mass%以下である。
【0031】
本開示によるR-T-B系焼結磁石の製造方法では、主相(R
2T
14B化合物)形成に使われるTの量に対して化学量論比で相対的にB量が少ないR1-T1-B系焼結体の表面の少なくとも一部にR2-Ga-Ni系合金を接触させ、
図1に示すように、真空又は不活性ガス雰囲気中、450℃以上1100℃以下の温度で熱処理を実施する工程S30を行う。これにより、高いB
r及び高いH
cJを有するR-T-B系焼結磁石を得ることが出来る。
【0032】
まず、R-T-B系焼結磁石の基本構造を説明する。
【0033】
R-T-B系焼結磁石は、原料合金の粉末粒子が焼結によって結合した構造を有しており、主としてR2T14B化合物からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されている。
【0034】
図2Aは、R-T-B系焼結磁石の主相と粒界相を示す模式図であり、
図2Bは
図2Aの破線矩形領域内を更に拡大した模式図である。
図2Aには、一例として長さ5μmの矢印が大きさを示す基準の長さとして参考のために記載されている。
図2A及び
図2Bに示されるように、R-T-B系焼結磁石は、主としてR
2T
14B化合物からなる主相12と、主相12の粒界部分に位置する粒界相14とから構成されている。また、粒界相14は、
図2Bに示されるように、2つのR
2T
14B化合物粒子(グレイン)が隣接する二粒子粒界相14aと、3つ以上のR
2T
14B化合物粒子が隣接する粒界三重点14bとを含む。
【0035】
主相12であるR2T14B化合物は高い飽和磁化と異方性磁界を持つ強磁性相である。したがって、R-T-B系焼結磁石では、主相12であるR2T14B化合物の存在比率を高めることによってBrを向上させることができる。R2T14B化合物の存在比率を高めるためには、原料合金中のR量、T量、B量を、R2T14B化合物の化学量論比(R量:T量:B量=2:14:1)に近づければよい。R2T14B化合物を形成するためのB量又はR量が化学量論比を下回ると、一般的には、粒界相14にFe相又はR2T17相等の強磁性体が生成し、HcJが急激に低下する。しかし、特許文献1に記載されている方法のように、B量をR2T14B化合物の化学量論比よりも少なくし、且つ、Al、Ga、Cuのうちから選ばれる1種以上の金属元素Mを含有させると、R2T17相から粒界に遷移属リッチ相(例えばR-T-Ga相)が生成されて高いHcJを得ることができる。しかし、特許文献1に記載されている方法では、Brが大幅に低下してしまう。
【0036】
本発明者らは検討の結果、低B組成である特定の組成を有するR1-T1-B系焼結体の表面の少なくとも一部に、R2-Ga-Ni系合金を接触させて特定の熱処理を実施すると、最終的に得られる焼結磁石は、高いBrと高いHcJを実現できることがわかった。このとき、R2-Ga-Ni系合金におけるR2の含有量は、希土類元素全体に対するPrの比率が、R1-T1-B系焼結磁石体の希土類元素全体に対するPrの比率よりも高い。このような比率でR2中にPrが存在すると粒界拡散が促進され、磁石内部にGaおよびNiを拡散させることが可能になることを見出した。そして、上記特定組成の焼結体にGaとNiを同時に拡散させることにより、Gaを含む厚い二粒子粒界を焼結体の内部まで容易に形成することができることがわかった。
【0037】
本開示によるR-T-B系焼結磁石の製造方法は、本開示の特定組成のR2-Ga-Ni系合金によりPr、Ga及びNiを磁石表面から内部に導入することで、高いBrと高いHcJを実現することができる。
【0038】
(R1-T1-B系焼結体を準備する工程)
まず、R1-T1-B系焼結体(以下、単に「焼結体」という場合がある)を準備する工程における焼結体の組成を説明する。
【0039】
R1は希土類元素のうち少なくとも一種であり、Nd及びPrの少なくとも一方を必ず含む。R1-T1-B系焼結体のHcJを向上させるために、一般的に用いられるDy、Tb、Gd、Hoなどの重希土類元素を少量含有してもよい。ただし、本開示による製造方法によれば、重希土類元素を多量に用いずとも十分に高いHcJを得ることができる。そのため、前記重希土類元素の含有量は、R1-T1-B系焼結体の1mass%以下であることが好ましく、0.5mass%以下であることがより好ましく、含有しない(実質的に0mass%)ことがさらに好ましい。
【0040】
R1の含有量は、R1-T1-B系焼結体全体の27mass%以上35mass%以下である。R1の含有量が27mass%未満では焼結過程で液相が十分に生成せず、R1-T1-B系焼結体を十分に緻密化することが困難になる。一方、R1の含有量が35mass%を超えても本開示の効果を得ることはできるが、R1-T1-B系焼結体の製造工程中における合金粉末が非常に活性になる。その結果、合金粉末の著しい酸化や発火などを生じることがあるため、35mass%以下が好ましい。R1の含有量は、27.5mass%以上33mass%以下であることがより好ましく、28mass%以上32mass%以下であることがさらに好ましい。
【0041】
T1はFe又はCo、Al、Mn、Siの少なくとも1つとFeであり、T1全体に対するFeの含有量が80mass%以上である。すなわち、T1はFeのみであってもよいし、Co、Al、Mn、Siの少なくとも1つとFeからなってもよい。但し、T1全体に対するFeの含有量は80mass%以上である。Feの含有量が80mass%未満であると、Br及びHcJが低下する可能性がある。ここで、「T1全体に対するFeの含有量は80mass%以上」とは、例えばR1-T1-B系焼結体中におけるT1の含有量が70mass%である場合、R1-T1-B系焼結体の56mass%以上がFeであることを言う。好ましくはT1全体に対するFeの含有量は90mass%以上である。より高いBrと高いHcJを得ることができるからである。Co、Al、Mn、Siを含有する場合の好ましい含有量は、R1-T1-B系焼結磁石全体のCoは5.0mass%以下、Alは1.5mass%以下、Mn及びSiはそれぞれ0.2mass%以下である。
【0042】
Bに対するT1のmol比([T1]/[B])は14.0超15.0以下である。
【0043】
Bに対するT1のmol比([T1]/[B])が14.0以下であると高いHcJを得ることができない。一方、Bに対するT1のmol比([T1]/[B])が15.0を超えるとBrが低下する可能性がある。Bに対するT1のmol比([T1]/[B])は14.3以上15.0以下であることが好ましい。さらに高いBrと高いHcJを得ることができる。また、Bの含有量はR1-T1-B系焼結体全体の0.9mass%以上1.0mass%未満が好ましい。
【0044】
R1-T1-B系焼結体は、上記元素の他にGa、Cu、Ag、Zn、In、Sn、Zr、Nb、Ti、Ni、Hf、Ta、W、Ge、Mo、V、Y、La、Ce、Sm、Ca、Mg、Cr、H、F、P、S、Cl、O、N、C等を含有してもよい。含有量は、Ga、Cu、Ag、Zn、In、Sn、Zr、Nb、及びTiはそれぞれ0.5mass%以下、Ni、Hf、Ta、W、Ge、Mo、V、Y、La、Ce、Sm、Ca、Mg、Crはそれぞれ0.2mass%以下、H、F、P、S、Clは500ppm以下、Oは6000ppm以下、Nは1000ppm以下、Cは1500ppm以下が好ましい。これらの元素の合計の含有量は、R1-T1-B系焼結体全体の5mass%以下が好ましい。これらの元素の合計の含有量がR1-T1-B系焼結体全体の5mass%を超えると高いBrと高いHcJを得ることができない可能性がある。
【0045】
次にR1-T1-B系焼結体を準備する工程について説明する。R1-T1-B系焼結体を準備する工程は、R-T-B系焼結磁石に代表される一般的な製造方法を用いて準備することができる。R1-T1-B系焼結体は、原料合金を粒径D50(気流分散式レーザー回折法による測定で得られる体積中心値=D50)が3μm以上10μm以下に粉砕した後、磁界中で配向させて焼結を行うことが好ましい。一例を挙げると、ストリップキャスト法などで作製された原料合金を、ジェットミル装置などを用いて粒径D50が3μm以上10μm以下に粉砕した後、磁界中で成形し、900℃以上1100℃以下の温度で焼結することにより準備することができる。原料合金の粒径D50が3μm未満では粉砕粉を作製するのが非常に困難であり、生産効率が大幅に低下するため好ましくない。一方、粒径D50が10μmを超えると最終的に得られるR1-T1-B系焼結体の結晶粒径が大きくなり過ぎ、高いHcJを得ることが困難となるため好ましくない。粒径D50は好ましくは、3μm以上5μm以下である。
【0046】
R1-T1-B系焼結体は、前記の各条件を満たしていれば、一種類の原料合金(単一原料合金)から作製してもよいし、二種類以上の原料合金を用いてそれらを混合する方法(ブレンド法)によって作製してもよい。また、得られたR1-T1-B系焼結体は、必要に応じて切断や切削など公知の機械加工を行った後、後述する熱処理を実施してもよい。
【0047】
(R2-Ga-Ni系合金を準備する工程)
まず、R2-Ga-Ni系合金を準備する工程におけるR2-Ga-Ni系合金の組成を説明する。以下に説明する特定の範囲でR2、Ga及びNiを含有することにより、後述する熱処理を実施する工程においてR2-Ga-Ni系合金中のR2、Ga及びNiをR1-T1-B系焼結体内部に導入することができる。
【0048】
R2は希土類元素のうち少なくとも一種であり、Prを必ず含み、R2の含有量はR2-Ga-Ni系合金全体の64.2mass%以上95.3mass%以下である。R2の含有量が64.2mass%未満では後述する熱処理で拡散が十分に進行しない可能性がある。一方、R2の含有量が95.3mass%を超えても本開示の効果を得ることはできるが、R2-Ga-Ni系合金の製造工程中における合金粉末が非常に活性になる。その結果、合金粉末の著しい酸化や発火などを生じることがあるため、R2の含有量はR2-Ga-Ni系合金全体の90mass%以下が好ましい。R2の含有量は85mass%以上94mass%以下であることがより好ましい。より高いHcJを得ることができるからである。
【0049】
さらに、R2は、希土類元素全体に対するPrの比率が、R1-T1―B系焼結体の希土類元素全体に対するPrの比率よりも高い。これにより粒界拡散が促進され、磁石内部にGa及びNiを拡散させることができる。Prの比率がR1-T1―B系焼結体の希土類元素全体に対するPrの比率よりも低いと、粒界拡散が促進されずGa及びNiの拡散は焼結体の表面近傍にとどまる可能性がある。そのため、GaおよびNiの磁石表面から内部への導入量が不十分となり、高いBrと高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石を得ることができない可能性がある。好ましくは、前記R1-T1-B系焼結体中のR1に対するPrの質量比[Pr]/[R1]をα、R2-Ga-Ni系合金中のR2に対するPrの質量比[Pr]/[R2]をβとしたとき、β/α≧1.2である。
【0050】
R2の50mass%以上がPrであることが好ましい。より高いHcJを得ることができるからである。ここで「R2の50mass%以上がPrである」とは、例えばR2-Ga-Ni合金中におけるR2の含有量が50mass%である場合、R2-Ga-Ni合金の25mass%以上がPrであることを言う。さらに好ましくは、R2はの70mass%以上がPrであり、最も好ましくはR2がPrのみ(不純物は含む)である。これにより、さらに高いHcJを得ることができる。
【0051】
R2として、Dy、Tb、Gd、Hoなどの重希土類元素を少量含有してもよい。ただし、本開示の製造方法によれば、重希土類元素を多量に用いずとも十分に高いHcJを得ることができる。そのため、前記重希土類元素の含有量はR2-Ga-Ni系合金全体の10mass%以下(R2-Ga-Ni系合金中の重希土類元素が10mass%以下)であることが好ましく、5mass%以下であることがより好ましく、含有しない(実質的に0mass%)ことがさらに好ましい。また、R2-Ga-Ni系合金のR2が重希土類元素を含有する場合も、R2の50%以上がPrであることが好ましく、重希土類元素を除いたR2がPrのみ(不可避的不純物は含む)であることがより好ましい。
【0052】
Gaの重量は、R2-Ga-Ni系合金全体の1.8mass%以上31.2mass%以下である。Gaの重量が1.8mass%未満では、後述する熱処理を実施する工程においてR2-Ga-Ni系合金中のGaがR1-T1-B系焼結体の内部に導入され難くなり高いHcJを得ることが出来ない。一方、Gaの重量が31.2mass%以上であると、Brが大幅に低下する可能性がある。Gaの重量は1.8mass%以上10mass%以下であることがより好ましく、2.0mass%以上6mass%以下であることがさらに好ましい。より高いBrと高いHcJを得ることができるからである。
【0053】
Niの重量は、R2-Ga-Ni系合金全体の1.5mass%以上27.3mass%以下である。Niの重量が1.5mass%未満では、後述する熱処理を実施する工程においてR2-Ga-Ni系合金中のNiがR1-T1-B系焼結体の内部に導入され難くなり、結果としてGaがR1-T1-B系焼結体の内部に導入され難くなり、高いHcJを得ることが出来ない。一方、Niの重量が27.3mass%以上であると、Brが大幅に低下する可能性がある。Niの重量は1.8mass%以上10mass%以下であることがより好ましく、1.8mass%以上6mass%以下であることがさらに好ましい。より高いBrと高いHcJを得ることができるからである。
【0054】
R2-Ga-Ni系合金は、上記元素の他にCo、Al、Ag、Cu、Zn、In、Sn、Zr、Nb、Ti、Hf、Ta、W、Ge、Mo、V、Y、La、Ce、Sm、Ca、Mg、Mn、Cr、H、F、P、S、Cl、O、N、C等を含有してもよい。Coは、耐食性の向上のために0.5mass%以上10mass%以下含有することが好ましい。含有量は、Alは1.0mass%以下、Ag、Zn、In、Sn、Zr、Nb、及びTiはそれぞれ0.5mass%以下、Hf、Ta、W、Ge、Mo、V、Y、La、Ce、Sm、Ca、Mg、Mn、Si、Crはそれぞれ0.2mass%以下、H、F、P、S、Clは500ppm以下、Oは6000ppm以下、Nは1000ppm以下、Cは1500ppm以下が好ましい。但し、これらの元素の合計の含有量が20mass%を超えると、R2-Ga-Ni系合金におけるR2、Ni、Ga、Feの含有量が少なくなり、高いBrと高いHcJを得ることが出来ない可能性がある。そのため、R2-Ga-Ni系合金におけるR2-Ga-Niの合計の含有量は80mass%以上が好ましく、90mass%以上がさらに好ましい。
【0055】
次にR2-Ga-Ni系合金を準備する工程について説明する。R2-Ga-Ni系合金は、Nd-Fe-B系焼結磁石に代表される一般的な製造方法において採用されている原料合金の作製方法、例えば、金型鋳造法やストリップキャスト法や単ロール超急冷法(メルトスピニング法)やアトマイズ法などを用いて準備することができる。また、R2-Ga-Ni系合金は、前記によって得られた合金をピンミルなどの公知の粉砕手段によって粉砕されたものであってもよい。また、前記によって得られた合金の粉砕性を向上させるために、水素雰囲気中で700℃以下の熱処理を行って水素を含有させてから粉砕を行っても良い。
【0056】
(熱処理を実施する工程)
前記によって準備したR1-T1-B系焼結体の表面の少なくとも一部に、前記R2-Ga-Ni系合金の少なくとも一部を接触させ、真空又は不活性ガス雰囲気中、450℃以上1100℃以下の温度で熱処理をする。これにより、R2-Ga-Ni系合金からR2、Ga及びNiを含む液相が生成し、その液相がR1-T1-B系焼結体の粒界を経由して焼結体表面から内部に拡散導入され、粒界にR-T-Ga相が生成される。熱処理温度が450℃未満であると、R2、Ga及びNiを含む液相量が少なすぎて、高いBrと高いHcJを得ることが出来ない可能性がある。一方、1100℃を超えると主相の異常粒成長が起こりHcJが低下する可能性がある。熱処理温度は、450℃以上900℃以下が好ましい。より高いBrと高いHcJを得ることができるからである。なお、熱処理時間はR1-T1-B系焼結体やR2-Ga-Ni系合金の組成や寸法、熱処理温度などによって適正値を設定するが、5分以上20時間以下が好ましく、10分以上15時間以下がより好ましく、30分以上10時間以下がさらに好ましい。また、熱処理は1回だけ行ってもよく、複数回行ってもよい。例えば、比較的低い温度(400℃以上600℃以下)のみでの熱処理(一段熱処理)をしてもよく、あるいは比較的高い温度(700℃以上焼結温度以下(例えば1050℃以下))で熱処理を行った後比較的低い温度(400℃以上600℃以下)で熱処理(二段熱処理)をしてもよい。また、R2-Ga-Ni系合金は、R1-T1-B系焼結体の重量に対し2mass%以上30mass%以下準備した方が好ましい。R2-Ga-Ni系合金がR1-T1-B系焼結体の重量に対し2mass%未満であるとHcJが低下する可能性がある。一方、30mass%を超えるとBrが低下する可能性がある。
【0057】
前記熱処理は、R1-T1-B系焼結体表面に、任意形状のR2-Ga-Ni系合金を配置し、公知の熱処理装置を用いて行うことができる。例えば、R1-T1-B系焼結体表面をR2-Ga-Ni系合金の粉末層で覆い、熱処理を行うことができる。例えば、R2-Ga-Ni系合金を分散媒中に分散させたスラリーをR1-T1-B系焼結体表面に塗布した後、分散媒を蒸発させてR2-Ga-Ni系合金とR1-T1-B系焼結体とを接触させてもよい。また、後述する実験例に示すように、R2-Ga-Ni系合金は、少なくともR1-T1-B系焼結体の配向方向に対して垂直な表面に接触させるように配置することが好ましい。なお、分散媒として、アルコール(エタノール等)、NMP(N-メチルピロリドン)、アルデヒド及びケトンを例示できる。また、熱処理が実施されたR1-T1-B系焼結体に対して切断や切削など公知の機械加工を行ってもよい。
【0058】
[R-T-B系焼結磁石]
本実施形態により作製されたR-T-B系焼結磁石(R3-T2-X系磁石)は、以下の特徴を有する。
R3:27mass%以上38mass%以下(R3は、希土類元素のうちの少なくとも一種であり、R3全体の50mass%以上がNdである)、
X:0.85mass%以上0.93mass%以下(Xは、BおよびCの少なくとも一方であり、必ずBを含む)、
Ga:0.4mass%以上2.0mass%以下、
Ni:0.2mass%以上2.0mass%以下、
T2:61.0mass%以上(T2は、少なくともNiとFeを含む遷移金属元素であり、T2全体の90mass%以上がFeである)、
を含有し、
Xに対するT2のmol比([T2]/[X])は14.0以上であり、
Prを含有し、Prの濃度は磁石中央部よりも磁石表面部の方が高く、
Gaの濃度は磁石中央部よりも磁石表面部の方が高く、
Niの濃度は磁石中央部よりも磁石表面部の方が高く、
R4-T3-A化合物(R4は、希土類元素のうち少なくとも一種であり、R4全体の50mass%以上がPrである。T3は、Fe、Co、Ni、Mn、Ti、Crのうち少なくとも一種であり、T3全体の50mass%以上がFeである。AはZn、Cu、Ga、Al、Ge、Siのうち少なくとも一種であり、Gaを必ず含む)を含有する。
【0059】
本実施形態におけるR-T-B系焼結磁石は、R4-T3-A化合物(R4は、希土類元素のうち少なくとも一種であり、R4全体の50mass%以上がPrである。T3は、Fe、Co、Ni、Mn、Ti、Crのうち少なくとも一種であり、T3全体の50mass%以上がFeである。AはZn、Cu、Ga、Al、Ge、Siのうち少なくとも一種であり、Gaを必ず含む)を含有する。R4-T3-A化合物は、典型的には、La6Co11Ga3型結晶構造を有しており、代表的にはR6Fe13Ga化合物である。R4-T3-A化合物における組成は、R4は5mol%以上50mol%以下(好ましくは20mol%以上40mol%以下)であり、T3は30mol%以上94mol%以下(好ましくは50mol%以上70mol%以下)であり、Aは1mol%以上20mol%以下(好ましくは2mol%以上20mol%以下)である。
【0060】
R4-T3-A化合物のR4全体の50mass%以上をPrとするには、希土類元素全体に対するPrの比率がR1-T1-B系焼結磁石体の希土類元素全体に対するPrの比率よりも高いR2-Ga-Ni系合金を用いてR1-T1-B系焼結磁石体へ拡散処理することにより実現することができる。
【0061】
ある実施形態において、R4-T3-A化合物は、少なくとも磁石中央部の粒界に存在し、磁石中央部の前記粒界の厚さは、100nm以上である。粒界の厚さは、断面の顕微鏡写真から計測によって求められ得る。後述する実施例によれば、100nm以上の厚さを有する粒界が磁石の全体にわたって存在している。
【0062】
本実施形態におけるR-T-B系焼結磁石は、R5-T4化合物(R5は、希土類元素のうち少なくとも一種であり、R5全体の50mass%以上がPrである。T4は、Fe、Co、Ni、Mn、Ti、Crのうち少なくとも一種であり、Niを必ず含む)を含有する場合がある。Gaが含まれる場合がありR4またはT4の一部はGaで置換し得る。
【0063】
Pr、Ga及びNiの濃度が磁石中央部よりも磁石表面部の方が高いということは、Pr、Ga及びNiが磁石表面から内部に拡散されていることを示している。
【0064】
「Pr、Ga及びNiの濃度が磁石中央部よりも磁石表面部の方が高い」は以下のようにして確認する。
【0065】
磁石表面のうちで配向方向(磁化方向)に直交する面から配向方向に沿って厚さが200μmまでの領域(以下、単に「磁石表面部」と称する場合がある)における100μm×100μmの範囲のPr濃度が、磁石中央部(同様に磁石中央部における100μm×100μmの範囲)におけるPr濃度よりも高いかどうかにより確認する。Ga及びNiも同様の方法により確認する。「Pr濃度」「Ga濃度」および「Ni濃度」は、例えば、磁石中心部を通り、かつ、配向方向に平行である断面において、磁石中央部及び磁石表面部を走査電子顕微鏡で観察し、更に観察した磁石中央部及び磁石表面部の領域の中心点から±50μm、すなわち100μm×100μmの範囲を走査しながらエネルギー分散X線分光分析(EDS)をそれぞれ実施することによって測定された、範囲全体の平均値を求めればよい。
【0066】
また、磁石が
図3に示すように瓦形状を有し、配向方向が磁石の厚さ方向(矢印101の方向)の場合、磁石表面のうちで配向方向に直交する面は、第1の曲面(上面)104及び第2の曲面(裏面)105の少なくとも一方である。よって、第1の曲面104及び第2の曲面105から配向方向に沿って測定した厚さ200μmの領域が磁石表面部となる。
【0067】
なお、磁石が瓦形状であり、配向方向が磁石が延びる方向(矢印102の方向)の場合は、第1の端面106及び第2の端面107が磁石表面のうちで配向方向に直交する面となる。
【0068】
なお、磁石が円筒形状の場合、
図3における矢印102の方向を中心軸の方向にあわせ、矢印101の方向を半径方向とすれば、瓦形状の磁石について説明したことが適用される。
【0069】
更に、本開示では、磁石が瓦形状であり、配向方向が磁石の幅方向(矢印103の方向)の場合、磁石表面のうちで配向方向に直交する面は、配向方向と略直交する
図3中の第1の側面108及び第2の側面109とする。よって、この場合は、第1の側面108及び第2の側面109から配向方向に沿って測定した厚さ200μmの領域が磁石表面部となる。
【0070】
磁石中央部とは、磁石の中央に位置する部分であり、磁石が多面体形状や円柱形状の場合は典型的には重心部である。磁石が
図3に示すように瓦形状の場合は、磁石中央部は、磁石の厚さ方向(矢印101の方向)、長さ方向(矢印102の方向)、及び幅方向(矢印103の方向)の全ての中心に位置する部分100とする。磁石が円筒形状の場合は、磁石中心部は、磁石の厚さ方向及び長さ方向両方の中心に位置する部分とする。なお、上記の「磁石表面部」は、製造工程の途中において、R2-Ga-Ni系合金と接触し、R2-Ga-Ni系合金からPr、Ga及びNiの供給を受けた部位である。このような拡散に起因してPr、Ga及びNiの濃度勾配が磁石内部に発生し、この濃度勾配は最終的に得られる磁石内部においても残る。Pr、Ga及びNiの濃度が磁石中心部に比べ高い「磁石表面部」は、磁石の表面全体に位置している必要は無い。
【0071】
Prの濃度は、磁石中央部よりも磁石表面部の方が2.0mass%以上高いことが好ましく、Ga及びNiの濃度は、磁石中央部よりも磁石表面部の方が0.1mass%以上高いことが好ましい。ここで本開示における「Prの濃度は、磁石中央部よりも磁石表面部の方が2.0mass%以上高い」とは、磁石表面のうちで配向方向(磁化方向)に直交する面から配向方向に沿って測定した厚さが200μmの領域(「磁石表面部」)におけるPr濃度が、磁石中央部におけるPr濃度よりも、パーセントポイント(mass%)で2.0以上高いことをいう。例えば、磁石中央部のPr濃度が5.0mass%であった場合、磁石表面部のPr濃度が7.0mass%以上であることを意味する。Ga及びNiの濃度についても同様である。Pr、Ga及びNiの濃度は、例えば、磁石中心部を通り、かつ、配向方向に平行である断面において、磁石中央部及び磁石表面部を走査電子顕微鏡で観察し、更に観察した磁石中央部及び磁石表面部をEDSによって測定することで行われ得る。上記の構成を有することにより、本開示によるR-T-B系焼結磁石は、磁石表面近傍のみならず、磁石内部の保磁力が向上する。これは、二粒子粒界が厚いためである。また、磁石寸法調整のための表面研削によっても保磁力向上効果が大きく損なわれることがない。そして、重希土類元素を用いずとも、高いBrと高いHcJを実現できる。
【実施例】
【0072】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0073】
実験例1
[R1-T1-B系焼結体の準備]
Ndメタル、Prメタル、フェロボロン合金、電解鉄を用いて(メタルはいずれも純度99%以上)、焼結体がおよそ表1に示す符号1-Aから1-Cの組成となるように配合し、それらの原料を溶解してストリップキャスト法により鋳造し、厚さ0.2~0.4mmのフレーク状の原料合金を得た。得られたフレーク状の原料合金を水素粉砕した後、550℃まで真空中で加熱後冷却する脱水素処理を施し粗粉砕粉を得た。次に、得られた粗粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を粗粉砕粉100mass%に対して0.04mass%添加、混合した後、気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて、窒素気流中で乾式粉砕し、粉砕粒径D50が4μmの微粉砕粉(合金粉末)を得た。なお、粉砕粒径D50は、気流分散法によるレーザー回折法で得られた体積中心値(体積基準メジアン径)である。
【0074】
前記微粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を微粉砕粉100mass%に対して0.05mass%添加、混合した後磁界中で成形し成形体を得た。なお、成形装置には、磁界印加方向と加圧方向とが直交するいわゆる直角磁界成形装置(横磁界成形装置)を用いた。
【0075】
得られた成形体を、真空中、1000℃以上1040℃以下(サンプル毎に焼結による緻密化が十分起こる温度を選定)で4時間焼結した後急冷し、R1-T1-B系焼結体を得た。得られた焼結体の密度は7.5Mg/m3以上であった。得られた焼結体の組成を表1に示す。なお、表1における各成分は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を使用して測定した。なお、焼結体の酸素量をガス融解-赤外線吸収法で測定した結果、すべて0.4mass%前後であることを確認した。表1における「[T1]/[B]」は、T1を構成する各元素(不可避の不純物を含む、本実験例ではFe、Al、Si、Mn)に対し、分析値(mass%)をその元素の原子量で除したものを求め、それらの値を合計したもの(a)と、Bの分析値(mass%)をBの分析値(mass%)をBの原子量で除したもの(b)との比(a/b)である。以下の全ての表も同様である。なお、表1の各組成を合計しても100mass%にはならない。これは、前記の通り、各成分によって分析方法が異なるため、さらには、表1に挙げた成分以外の成分(例えばC(カーボン)やN(窒素)など)が存在するためである。その他表についても同様である。
【0076】
【0077】
[R2-Ga-Ni系合金の準備]
Prメタル、Gaメタル、Niメタルを用いて(メタルはいずれも純度99%以上)、合金がおよそ表2に示す符号1-aの組成になるように配合し、それらの原料を溶解して、単ロール超急冷法(メルトスピニング法)により、リボンまたはフレーク状の合金を得た。得られた合金を乳鉢を用いてアルゴン雰囲気中で粉砕した後、目開き425μmの篩を通過させ、R2-Ga-Ni系合金を準備した。得られたR2-Ni-Ga系合金の組成を表2に示す。なお、表2における各成分は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を使用して測定した。
【0078】
【0079】
[熱処理]
表1の符号1-Aから1-CのR1-T1-B系焼結体を切断、切削加工し、11.0mm×5.0mm×4.4mm(配向方向)の直方体とした。次に、
図4に示すように、ニオブ箔により作製した処理容器3中に、主にR1-T1-B系焼結体1の配向方向(図中の矢印方向)と垂直な面がR2-Ga-Ni系合金2と接触するように、表2に示す符号1-aのR2-Ga-Ni系合金を、符号1-Aから1-IのR1-T1-B系焼結体の上下にそれぞれ配置した。
【0080】
その後、管状流気炉を用いて、200Paに制御した減圧アルゴン中で、850℃で8時間の熱処理を行い、さらに530℃まで降温して2時間の熱処理を行った後室温めで冷却した。熱処理後の各サンプルの表面近傍に存在するR2-Ga-Ni系合金の濃化部を除去するため、表面研削盤を用いて各サンプルを全面を0.2mmずつ切削加工し、10.6mm×4.6mm×4.0mmの立方体状のR-T-B系焼結磁石(R3-T2-X系焼結磁石)を得た。R-T-B系焼結磁石の組成を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を使用して測定した。但し、C(炭素量)については、燃焼-赤外線吸収法によるガス分析装置を使用して測定した。結果を表3に示す。表3における「[T2]/[X]」は、T2を構成する各元素(不可避の不純物を含む、本実験例ではFe、Al、Mn、Si)に対し、分析値(mass%)をその元素の原子量で除したものを求め、それらの値を合計したもの(a´)と、X(B及びC)の分析値(mass%)をそれぞれの元素の原子量で除したものを求め、それらの値を合計したもの(b´)との比(a´/b´)である。
【0081】
[サンプル評価]
得られたサンプルを、BHトレーサーにより保磁力(HcJ)を測定した。測定結果を表3に示す。表3の通り、R1-T1-B系焼結体におけるBに対するT1のmol比([T1]/[B])を14.0以上及びR-T-B系焼結磁石におけるXに対するT2のmol比([T2]/[X])を13.0以上としたときに高いHcJが得られた。
【0082】
【0083】
表3に示すサンプルのうち、No.1-1(本発明例)とNo.1-3(比較例)の断面を走査電子顕微鏡(SEM:日本電子製JCM-7001F)で観察した。その結果、No.1-1(本発明例)では、磁石表面近傍から磁石の中央部まで100nm以上の厚い二粒子粒界が形成されていた。これに対し、No.1-3(比較例)では、厚い二粒子粒界の形成は磁石表面近傍のみにとどまっていた。さらに、本発明例であるNo.1-1の断面に対しSEM(日本電子製JSM-7001F)付属装置(日本電子製JED-2300 SD10)によるエネルギー分散X線分光分析(EDS)を実施した結果、磁石中央部の粒界からもGa、Niが検出されるとともに、その一部は含有量から、R6T13Ga相と解釈された。
【0084】
実験例2
焼結体がおよそ表4に示す符号2-Aの組成となるように配合する以外は実験例1と同様の方法でR1-T1-B系焼結体を複数個作製した。得られた焼結体の成分分析の結果を表4に示す。
【0085】
【0086】
R2-Ga-Ni系合金がおよそ表5に示す符号2-aから2-pの組成となるように配合する以外は実験例1と同様の方法でR2-Ga-Ni系合金を作製した。得られたR2-Ga-Ni系合金の組成を表5に示す。
【0087】
【0088】
複数個のR1-T1-X系焼結体を実験例1と同様に加工した後、実験例1と同様に符号2-aから2-pのR2-Ga-Ni系合金と符号2-AのR1-T1-B系焼結体とが接触するよう配置し、実験例1と同様に熱処理および加工を行い、サンプル(R-T-B系焼結磁石)を得た。得られたサンプルを実験例1と同様な方法により測定し、保磁力(HcJ)を求めた。その結果を表6に示す。表6の通り、本発明例はいずれも高いHcJが得られた。また、R2として、PrがR2全体に対して50mass%以上とした本発明例はいずれも高いHcJが得られたのに対し、PrがR2全体の50mass%未満であるサンプルNo.2-10は本発明例の中においては比較的低いHcJとなった。これに対し、R2-Ga-Ni系合金においてNi量が下限を下回るNo.2-1、Ga量が下限を下回るNo.2-8、Ni量、Ga量ともに下限を下回るNo.2-11、R2量が下限を下回るNo.2-14はいずれも高いHcJが得られていない。
【0089】
【0090】
図5A~Dは表6に示すNo.2-5(本発明例)の断面を走査電子顕微鏡(SEM:日本電子製JCM-7001F)で観察したものである。
図5Aは磁石表面部の領域を観察した写真であり、
図5Bは磁石表面部をさらに拡大して観察した写真であり、
図5Cは磁石中央部の領域を観察した写真であり、
図5Dは磁石中央部をさらに拡大して観察した写真である。同様に
図6A~Dは表3に示すNo.1-1(本発明例)、
図7A~Dは表3に示すNo.1-3(比較例)について観察した写真である。
図5D及び
図6Dの本発明例は磁石中央部まで100nm以上の厚い二粒子粒界が形成されているのに対し、
図7Dの比較例では、磁石中央部において100nm以上の厚い二粒子粒界が得られていない。
【0091】
図5A~D、
図6A~Dおよび
図7A~D中において、□1から□6で示した100μm×100μmの領域および○(白丸)1から〇(白丸)6で示した点領域において実施したEDSによる組成分析の結果を表7に示す。□1から□4(本発明例)に示すように、Pr、GaおよびNiの濃度はいずれも磁石中央部より磁石表面部の方が高くなっていることが分かる。これに対し、□5及び□6(比較例)では、Niの濃度が磁石表面部と磁石中央部とで同じになっている。また、表7に示すように、本発明(2-4及び1-1)はいずれも磁石表面部の方が高いものの、磁石中央部においてもGaが導入されている(拡散前の焼結体はGaを含有していない)。これに対し、比較例(1-3)では、磁石中央部においてGaがほとんど導入されていない。
【0092】
【0093】
また表7において、図中記号〇(白丸)1~6は走査電子顕微鏡の観察においてコントラストから磁石表面部および磁石中央部内に存在するR6Fe13Ga相と考えられるR4-T3-A化合物の組成を評価したものであるが、いずれもR4全体の50mass%以上がPrとなっている。代表して表7における〇(白丸)2の測定点について、電界放射型透過電子顕微鏡(FE-TEM:日立ハイテクノロジー製HF-2100)を用いて評価したところ、回折パタンからLa6Co11Ga3型の結晶構造であることが示されており、組成比から(Nd,Pr)6(Fe,Ni)13Ga相であることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の実施形態により得られたR-T-B系焼結磁石は、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)や、電気自動車用(EV、HV、PHVなど)モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品などに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0095】
1 R1-T1-X系焼結体
2 R2-Ga-Ni系合金
3 処理容器