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特許7020309熱電変換材料、それを用いた熱電変換モジュール、並びにその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】熱電変換材料、それを用いた熱電変換モジュール、並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/20 20060101AFI20220208BHJP
   H01L 35/34 20060101ALI20220208BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220208BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20220208BHJP
【FI】
H01L35/20
H01L35/34
B22F1/00 S
C22C38/00 304
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018113557
(22)【出願日】2018-06-14
(65)【公開番号】P2019216210
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2020-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】西出 聡悟
(72)【発明者】
【氏名】深谷 直人
(72)【発明者】
【氏名】早川 純
【審査官】柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-087955(JP,A)
【文献】国際公開第2016/185852(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/065081(WO,A1)
【文献】特開2015-122476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/20
H01L 35/34
B22F 1/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Laが添加されたFeTiSi系フルホイスラ合金からなり、前記Laは前記合金中に固溶しており、さらにCuが添加されていることを特徴とする熱電変換材料。
【請求項2】
La及びCuの添加量の合計が2at%以下であることを特徴とする、
請求項に熱電変換材料。
【請求項3】
La及びCuの添加量の合計が0.5at%以上2at%以下であることを特徴とする、
請求項に熱電変換材料。
【請求項4】
前記合金の結晶粒の平均粒径が10nm以上100nm以下であることを特徴とする、
請求項1からのいずれかに記載の熱電変換材料。
【請求項5】
Ti及びSiの少なくともひとつの一部を他の元素で置換したことを特徴とする、
請求項1からのいずれかに記載の熱電変換材料。
【請求項6】
Tiの一部をVで置換したことを特徴とする、
請求項に記載の熱電変換材料。
【請求項7】
熱電変換部と、
前記熱電変換部に電気的および熱的に接触する第1電極および第2電極を備え、
前記熱電変換部の少なくとも一部は熱電変換材料により形成され、
前記熱電変換材料は、
請求項1から請求項のいずれかに記載の熱電変換材料である、
熱電変換モジュール。
【請求項8】
Fe、Ti、Si、およびLaを含むアモルファス化された原料粉末を準備する仕込み工程と、
前記原料粉末を熱処理する熱処理工程と、
前記熱処理工程後に生成物を冷却する冷却工程と、を含み、
前記原料粉末は、Cuが添加されており、
Laが固溶したFeTiSi系フルホイスラ合金を得ることを特徴とする、
熱電変換材料の製造方法。
【請求項9】
前記原料粉末は、La及びCuの添加量の合計が2at%以下であることを特徴とする、
請求項に記載の熱電変換材料の製造方法。
【請求項10】
前記原料粉末は、La及びCuの添加量の合計が0.5at%以上2at%以下であることを特徴とする、
請求項に記載の熱電変換材料の製造方法。
【請求項11】
前記原料粉末は、Ti及びSiの少なくともひとつの一部を置換する他の元素が含まれることを特徴とする、
請求項に記載の熱電変換材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱電変換材料、熱電変換材料を用いた熱電変換モジュール、熱電変換材料の製造方法等に関わる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギ問題に対する関心が高まる中、再生可能エネルギの利用と並んで、一次エネルギの利用過程で発生する排熱の有効活用が重要な課題となっている。排熱のエネルギ量は一次エネルギの約60%を占め、その多くは、プラント、産業インフラ、民生用プロダクツ、モビリティなどの広範囲な場所で発生している。
【0003】
ヒートポンプ技術の進化により、排熱を熱として利用する用途が拡大している一方で、排熱を電気に変換して電力として利用する需要も大きい。熱の電力変換を実現するシステムは、液媒の高圧蒸気で動作する蒸気機関である大型なランキンサイクル(タービン)発電システムが主流である。しかし、広範囲に分散する排熱は、一極集中で電力変換するシステムには適さない。
【0004】
上記のような課題を克服する技術として、材料が温度差により電圧を発生するゼーベック効果を使った熱電変換システムが知られている。熱電変換システムは、タービンのような駆動部を含まないため小型化が可能であり、幅広い温度の熱回収に適している。
【0005】
材料が温度差により電圧を発生するゼーベック効果を使った熱電変換システムに用いる無毒で安価な元素を用いた熱電変換材料として、Fe基フルホイスラ合金が知られている。Fe基フルホイスラ合金はFe,V,Al,Si,Tiなどの安価、無毒な元素を主成分とした熱電変換材料である。特にこの構成元素の中でVの比率を著しく低減させたFeTiSi系フルホイスラ合金が近年、発明されている。そのFeTiSi系フルホイスラ合金は特許文献1などに開示されている。
【0006】
ここでフルホイスラ合金について補足する。フルホイスラ合金はホイスラ合金に属しているが、ホイスラ合金はフルホイスラ合金とハーフホイスラ合金の2分類がある。これらは組成式と結晶構造によって分類される。構成元素をX,Y,Zとした場合、フルホイスラ合金の組成式はXYZでありその結晶構造はL2構造である。一方、ハーフホイスラ合金の場合、組成式はXYZでありその結晶構造はC1構造である。すなわち、仮に構成元素X,Y,Zや添加元素が同一であった場合も、フルホイスラ合金と明記してある場合、ハーフホイスラ合金とは荷電子の状態が異なり、科学的には明確に区別される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2016/185852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されるように、熱電変換モジュールの熱電変換効率は、無次元の性能指数ZTに依存する。ここで、ZTは性能指数Zに絶対温度Tを掛けた無次元性能指数であり、Z=S/(κρ)(Sはゼーベック係数、ρは電気抵抗率、κは熱伝導率)である。従って、熱電変換モジュールの出力を向上させるためには、熱電変換材料のゼーベック係数Sを増加させ、電気抵抗率ρを減少させ、熱伝導率κを減少させることが必要である。特許文献1では、FeTiSi系フルホイスラ合金にCuを添加することが、高い熱電変換特性を得るために好ましいことが指摘されている。
【0009】
しかし、特許文献1にあるFe基フルホイスラ合金では、電気抵抗率ρを低減するために低抵抗の合金と複合材料を形成し、熱伝導率κと電気抵抗率ρを同時に低減させ、ZTを増加させるアプローチをとっていた。しかし、この手法では同時にSが減少してしまうため、さらにZTを増加させるうえで妨げになっていた。
【0010】
そこで、本発明の課題は、Fe基フルホイスラ合金のゼーベック係数Sを低下させないことにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の好ましい一側面は、Laが添加されたFeTiSi系フルホイスラ合金からなり、Laは合金中に固溶していることを特徴とする熱電変換材料である。
【0012】
本発明の他の好ましい一側面は、熱電変換部と、熱電変換部に電気的および熱的に接触する第1電極および第2電極を備え、熱電変換部の少なくとも一部は熱電変換材料により形成され、熱電変換材料は、Laが添加されたFeTiSi系フルホイスラ合金からなり、Laは合金中に固溶している熱電変換材料である熱電変換モジュールである。
【0013】
本発明の好ましい一側面は、Fe、Ti、Si、およびLaを含むアモルファス化された原料粉末を準備する仕込み工程と、原料粉末を熱処理する熱処理工程と、熱処理工程後に生成物を冷却する冷却工程と、を含み、Laが固溶したFeTiSi系フルホイスラ合金を得ることを特徴とする、熱電変換材料の製造方法である。
【0014】
上記のFeTiSi系フルホイスラ合金には、Cuが添加されていても良い。また、TiやSiを置換する他の元素が含まれていても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、Fe基フルホイスラ合金のゼーベック係数Sを向上させる事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】実施例のLaCu添加FeTiSi系フルホイスラ合金のXRDプロファイルを示すグラフ図。
図1B】比較例のLa添加FeTiSi系フルホイスラ合金のXRDプロファイルを示すグラフ図。
図1C】比較例のCu添加FeTiSi系フルホイスラ合金のXRDプロファイルを示すグラフ図。
図2A】実施例のLaCu添加FeTiSi系フルホイスラ合金と比較例のLa添加FeTiSi系フルホイスラ合金の格子定数をXRDプロファイルから算出した結果をに示すグラフ図。
図2B】実施例のLaCu添加FeTiSi系フルホイスラ合金と比較例のCu添加FeTiSi系フルホイスラ合金の格子定数をXRDプロファイルから算出した結果をに示すグラフ図。
図3】実施例のLaCu添加FeTiSi系フルホイスラ合金の、走査型透過電子顕微鏡(STEM)と走査型透過電子顕微鏡-エネルギ分散型X線分析(STEM-EDX)像を示すイメージ図。
図4】実施例のLaCu添加FeTiSi系フルホイスラ合金および比較例のゼーベック係数を示すグラフ図。
図5】実施例の熱電変換材料を用いた熱電変換モジュールの上部基板を取り付ける前の状態を示す斜視図。
図6】実施例の熱電変換材料を用いた熱電変換モジュールの上部基板を取り付けた後の状態を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。
【0018】
また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
【0019】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではない。同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0021】
また、以下の実施の形態において、A~Bとして範囲を示す場合には、特に明示した場合を除き、A以上B以下を示すものとする。
【0022】
以下の実施例では、FeTiSi系フルホイスラ合金にLaを固溶することで、ゼーベック係数Sの減少を抑え、あるいは向上させられることを開示する。このフルホイスラ合金をここではLa固溶FeTiSi系フルホイスラ合金と呼称する。周知のように、ある金属の結晶構造の中に他の原子が入り込んでも、元の結晶構造の形を保って固体状態で混じり合っている状態を固溶という。
【0023】
他の例では、FeTiSi系フルホイスラ合金へLaとCuを合わせて2at%程度まで添加することでゼーベック係数Sが増加することを示す。LaとCuを合わせて0.5at%以上、2at%以下添加した場合に、フルホイスラ合金の熱電変換材料としては高水準の|S| > 170μV/Kのゼーベック係数が得られる。さらにLaとCuを添加した状態でFeTiSi系フルホイスラ合金のTiをVに2.0~2.5at%程度置換することで、フルホイスラ合金の熱電変換材料としては最高水準の|S| = 197μV/Kが得られる。
【0024】
また他の実施例として、熱電変換材料の製造方法であって、アモルファス化されたLa固溶FeTiSi系フルホイスラ合金の原料粉末を準備する仕込み工程、原料粉末を熱処理する熱処理工程、熱処理後に生成物を冷却する冷却工程を含む。
【0025】
<1.熱電変換材料の構成>
発明者等は、本実施の形態の熱電変換材料として、La固溶FeTiSi系フルホイスラ合金を提案する。具体的な構成例として、LaとCuの両者を添加したFeTiSi系フルホイスラ合金を採用した。このフルホイスラ合金を、LaCu添加FeTiSi系フルホイスラ合金ということにする。具体的な構造としては、La原子及びCu原子がFeTiSi系フルホイスラ合金に固溶した状態となる。
【0026】
前述の特徴と原理を発現せしめる構成として、組成式FeTiSiで表されるフルホイスラ合金、すなわちFeTiSi系フルホイスラ合金を採用した。つまり、本実施の形態の熱電変換材料は、鉄(Fe)、チタン(Ti)およびシリコン(Si)を主成分として含有するフルホイスラ合金からなる。
【0027】
ここで、フルホイスラ合金が、鉄、チタンおよびシリコンを主成分として含有する、とは、鉄の含有量が25at%(原子%)を超え、チタンの含有量が12.5at%を超え、シリコンの含有量が12.5at%を超えることを、本明細書等では意味するものとする。
【0028】
すなわち、本明細書等でいうFeTiSi系フルホイスラ合金とは、XYZで表されるL2型結晶構造を有するフルホイスラ合金において、全てのXサイトのうち50%を超えるXサイトが鉄原子により占有されていることを、意味する。また、全てのYサイトのうち50%を超えるYサイトがチタン原子により占有され、全てのZサイトのうち50%を超えるZサイトがシリコン原子により占有されていることを、意味する。
【0029】
このように表されるFeTiSi系フルホイスラ合金に少量のLa、Cuが固溶して結晶格子内に存在する場合、特にLaからはホールキャリアが供給されるため全キャリア濃度が減少し電子状態が半導体的になるため、ゼーベック係数Sの絶対値が増加する。Cuは、本来FeTiSi系フルホイスラ合金に固溶できないLaをFeTiSi系フルホイスラ合金へ固溶せしめる補助元素として働いている。CuとLaの添加量の合計が2at%程度とすることで、|S| > 170μV/Kのゼーベック係数が得られるため好ましい。
【0030】
<2.熱電変換材料の製法>
これまで述べた実施例について、それを得る望ましい手法について述べる。例えば、アモルファス化されたLaCu添加FeTiSi系フルホイスラ合金の原料粉末を熱処理することにより、La原子とCu原子がFeTiSi系フルホイスラ合金の結晶格子内に固溶した結晶が得られる。また本手法を取った場合、副次的な効果として結晶粒の平均粒径が1μm未満の微細な結晶粒からなる熱電変換材料を製造することができる。平均粒径の測定法の一例としては、サンプルの所定範囲の結晶粒の測定結果の平均値を計算すればよい。粒径に長径と短径がある場合には、これらも平均化すればよい。サンプルの組成は通常の製法では均一と想定できるので、実質的にサンプル全体の平均粒径が求まる。また、アモルファス化されたLaCu添加FeTiSi系フルホイスラ合金の原料粉末を製造する方法として、メカニカルアロイングや、原料を溶解した後に超急冷する方法等を用いることができる。
【0031】
アモルファス化されたLaCu添加FeTiSi系フルホイスラ合金の原料粉末を熱処理する工程において、熱処理する温度が高いほど、また、熱処理する時間が長いほど、製造される熱電変換材料の結晶粒の平均粒径は、大きくなる。熱処理する温度と時間とを適宜設定することにより、結晶粒の平均粒径を制御することができる。例えば、熱処理する温度は、550~700℃であることが好ましく、熱処理する時間は、3分以上10時間以下とすることが好ましい。
【0032】
熱伝導率κは結晶粒の微細化によって低減することが期待できる。κの低減の主要因は、結晶粒の微細化によって増加した結晶粒界面で起こるフォノンの散乱と推定される。一方、結晶粒が小さすぎると結晶構造が不安定になる。ここで結晶粒の平均粒径が10nm以上100nm以下の微細な結晶を得るためには、アモルファス化されたLaCu添加FeTiSi系フルホイスラ合金の原料粉末を、カーボンからなるダイス、または、タングステンカーバイドからなるダイスに入れ、不活性ガス雰囲気中において、40MPa~5GPaの圧力下でパルス電流をかけながら焼結する方法が望ましい。この焼結の際、550~700℃の範囲の目標温度まで昇温した後、その目標温度で3~180分間保持し、その後、室温まで冷却することが好ましい。
【0033】
なお、LaCu添加FeTiSi系フルホイスラ合金の原料をアモルファス化する方法として、ロール急冷またはアトマイズ等の方法を用いることができる。アモルファス化したものが粉末で得られていない場合は、水素脆化し酸化が防止されるような環境下で粉砕する方法を用いてもよい。
【0034】
原料の成型の方法として、加圧成型等の各種の方法を用いることができる。焼結を磁場中で行い、磁場配向させた焼結体を得ることもできる。また、加圧成型と焼結を同時に行うことができる放電プラズマ焼結を用いることもできる。
【実施例1】
【0035】
本実施例による熱電変換材料は、以下の構成で表されるn型のフルホイスラ合金からなる。フルホイスラ合金の組成であるが、La固溶FeTiSi系フルホイスラ合金である。より具体的な組成としては、LaとCuを添加してLaを固溶せしめたFeTiSi系フルホイスラ合金である。
【0036】
FeTiSi系フルホイスラ合金といった場合には、FeとTiとSiを主成分とし、原子量比がFe:Ti:Si=50(at%):25(at%):25(at%)近傍で組成調整され、フルホイスラ合金の結晶構造を有する合金のことを言う。例えばFe、Ti、Siの比率が非化学量論比となっているFe:Ti:Si=48(at%):25(at%):27(at%)の合金などもその範疇に入れて定義する。また、ゼーベック係数の絶対値を最大化せしめるために元素置換した合金についても同様にFeTiSi系フルホイスラ合金と表記する。たとえばn型のFeTiSi系フルホイスラ合金では、特許文献1で示唆されているように、ゼーベック係数Sの絶対値を最大化せしめるためVなどをTiに対し適量置換することがあるが、その場合もFeTiSi系フルホイスラ合金と表記する。
【0037】
以下の方法により、本実施例の熱電変換材料であるLaCu添加FeTiSi系フルホイスラ合金を作製した。まず、FeTiSi系フルホイスラ合金については、Tiを一部Vで置換したFeTiVSiを採用した。具体的にはXYZで表されるL2型結晶構造を有するフルホイスラ合金からなる熱電変換材料において、Xサイト、YサイトおよびZサイトの各サイトの主成分となる原料として、鉄(Fe)、チタン(Ti)およびシリコン(Si)を用いた。また、Yサイトの主成分を置換する原料としてバナジウム(V)を用いた。さらにZサイトの主成分を置換する原料としてアルミニウム(Al)を用いてもよい。そして、作製される熱電変換材料が所望の組成となるように、各原料を秤量した。
【0038】
次に、この原料を、不活性ガス雰囲気中において、ステンレス鋼からなる容器の中に入れ、10mmの直径を有するステンレス鋼からなるボールと混合した。次に、遊星ボールミル装置を用いたメカニカルアロイングを行い、200~500rpmの公転回転速度で20時間以上実施し、アモルファス化した合金粉末を得た。飛散などがなく、原料が100%FeTiSi系フルホイスラ合金として得られる場合、原料粉末中には、例えばLa及びCuの添加量の合計が2at%以下、より好ましくは0.5at%以上2at%以下含まれる。その他、TiおよびSiの少なくとも一つを置換すべき元素が含まれていても良い。
【0039】
このアモルファス化した合金粉末を、カーボンからなるダイス、または、タングステンカーバイドからなるダイスに入れ、不活性ガス雰囲気中において、40MPa~5GPaの圧力下でパルス電流をかけながら焼結した。この焼結の際、550~700℃の範囲の目標温度まで昇温した後、その目標温度で3~180分間保持し、その後、室温まで冷却することにより、熱電変換材料を得た。
【0040】
得られたFeTiSi系フルホイスラ合金の結晶粒の平均粒径を、X線回折(X‐ray diffraction:XRD)法と透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)によって評価した。また得られた熱電変換材料の熱電変換特性として電気抵抗率ρおよびゼーベック係数Sを、熱電特性評価装置ZEM(アルバック理工社製)を用いて測定した。
【0041】
図1Aに、得られたLaCu添加FeTiSi系フルホイスラ合金のXRDプロファイルを示す。サンプルの組成式は、
[Fe1.99(Ti0.880.120.94Si1.071-y(Cu0.5La0.5
であり、LaとCuは合計でy=1at%,2at%,3at%,4at%添加されている。XRDプロファイルにおいて(111)(200)(220)などの回折ピークが、LaとCuの添加量によらず確認できることから、所望の結晶構造を有するFeTiSi系フルホイスラ合金が得られていると言える。特に添加量が高々2at%までであれば、ほとんど回折ピークに変動がみられない。
【0042】
図1Bに、比較のためにLaを単独で添加した場合のFeTiSi系フルホイスラ合金のXRDプロファイルを示す。
サンプルの組成式は、
[Fe1.99(Ti0.880.120.94Si1.071-y(La)
であり、図に示すように添加量が2at%程度でも、回折ピークが弱まる状況が見て取れる。
【0043】
図1Cに、比較のためにCuを単独で添加した場合のFeTiSi系フルホイスラ合金のXRDプロファイルを示す。
サンプルの組成式は、
[Fe1.99(Ti0.880.120.94Si1.071-y(Cu)
であり、(111)(200)(220)などの回折ピークが、Cuの添加量によらず確認できることから、所望の結晶構造のFeTiSi系フルホイスラ合金が得られていると言える。
【0044】
図2A図2Bに、得られたLaCu添加FeTiSi系フルホイスラ合金の格子定数をXRDプロファイルから算出した結果を示す。サンプルの組成式は図1で示したものと同様であり、添加量yの値を変えている。すなわち、LaとCuの添加量は合計値を示し、LaとCuの比率は1:1である。
【0045】
図2AにおいてLaCu添加FeTiSi系フルホイスラ合金の格子定数はLaCuの添加量の増加に伴い単調に増加する。固溶体では成分と格子定数の関係が、いわゆるべガード則に従って直線で律せられる。LaCu添加FeTiSi系フルホイスラ合金の格子定数の変化をべガード則をもちいて解釈すると、LaCuの各元素はFeTiSi系フルホイスラ合金の格子内に固溶していると言える。
【0046】
ここで比較のために前述の製法でLaのみ、あるいはCuのみを添加したFeTiSi系フルホイスラ合金の格子定数と、FeTiSi系フルホイスラ合金の格子定数を合わせて、図2A図2Bに示す。
【0047】
図2Aにおいて、La添加FeTiSi系フルホイスラ合金の格子定数は、La添加量が1at%以下の範囲では増加するが、1at%以上の範囲では横這いに推移すると分かる。
【0048】
図2Bにおいて、Cu添加FeTiSi系フルホイスラ合金の格子定数においては、Cu添加量によらず横這いに推移すると分かる。以上の事実から、分析した3種類のうち、LaとCuを同時に添加したLaCu添加FeTiSi系フルホイスラ合金においてのみ、2at%までの添加量の範囲で添加元素が固溶することが分かる。
【0049】
図3は、実施例のLaCu添加FeTiSi系フルホイスラ合金におけるLa、Cu原子の固溶の様子を走査型透過電子顕微鏡(STEM)と走査型透過電子顕微鏡-エネルギ分散型X線分析(STEM-EDX)を用いて確認した結果を示す。
【0050】
図3(a)(b)(c)ではLa:1at%,Cu:1at%添加した試料を観察している。また比較のために図3(d)(e)にCu:1at%添加した試料についてもSTEM像、STEM-EDX像をそれぞれ示す。
【0051】
図3(a)のSTEM像から50nm程度の微細な結晶粒を有することが分かる。さらに図3(b)のSTEM-EDX像からFeTiSi系フルホイスラ合金では析出が見られず、合金内に一様にCuが分布している事が分かる。また、図3(c)のSTEM-EDX像からFeTiSi系フルホイスラ合金内に一様にLaが分布している事が分かる
一方、たとえばCuを単独で添加した場合、図3(e)のSTEM-EDX像から観察されるようにCuが粒界に析出することがわかる。
【0052】
以上、構造解析の結果をまとめるとCuとLaを同時に添加したLaCu添加FeTiSi系フルホイスラ合金において、La、Cu原子がFeTiSi系フルホイスラ合金の結晶格子内に固溶し、La固溶FeTiSi系フルホイスラ合金が得られていることが分かった。
【0053】
図4に、得られたLaCu添加FeTiSi系フルホイスラ合金のゼーベック係数を示す。横軸はLaとCuの添加量合計値である。LaCu添加FeTiSi系フルホイスラ合金のゼーベック係数の絶対値|S|はLaCu添加量の増加に伴い、|S| = 137.5μV/Kから192.2μV/Kへ大幅に増加する。特に、LaCu添加量が0.5at%以上、2.0at%以下の範囲では、|S| > 170μV/Kの優れたゼーベック係数を得ることができる。一方、La単独添加FeTiSi系フルホイスラ合金の|S|は、La添加量の増加に伴い金属相が析出するため急速に減少すると考えられる。また、Cu単独添加FeTiSi系フルホイスラ合金の|S|はある程度の改善がみられるが、LaCuの同時添加の効果が優れていることが分かる。
【0054】
以上、本実施例で示されたとおりLaとCuを同時に添加することでゼーベック係数Sの絶対値が増加せしめることが示された。また図3に示した観察像より副次的にその場合、結晶粒系が100nm程度であることもわかる。本実施例によって、より好適なLaCu添加FeTiSi系フルホイスラ合金の形態が示されたと言える。具体的には結晶粒径が100nm程度まで微細化された状態でゼーベック係数の絶対値を増加せしめるLa原子が固溶したLaCu添加FeTiSi系フルホイスラ合金が形成できるとわかった。
【実施例2】
【0055】
図5および図6により、実施例1で説明した熱電変換材料を用いた熱電変換モジュールについて説明する。図5は、上部基板を取り付ける前の状態を示し、図6は、上部基板を取り付けた後の状態を示す。
【0056】
上記で説明したLaCu添加FeTiSi系フルホイスラ合金で構成される熱電変換材料は、例えば図5および図6に示す熱電変換モジュール10に搭載することができる。熱電変換モジュール10は、p型熱電変換部11と、n型熱電変換部12と、複数の電極13と、上部基板14と、下部基板15と、を有する。また、熱電変換モジュール10は、複数の電極13として、電極13aと、電極13bと、電極13cと、を有する。
【0057】
p型熱電変換部11とn型熱電変換部12とは、電極13aと電極13cとの間に、互いに直列に接続されている。電極13aと電極13cとして図示されている以外の電極は電極13bであり、p型熱電変換部11とn型熱電変換部12とは、電極13bを介して直列に接続されている。電極13aおよび13cは、下部基板15に形成されている。p型熱電変換部11の電極13a側は、下部基板15と熱的に接触し、p型熱電変換部11の電極13b側は、上部基板14と熱的に接触している。n型熱電変換部12の電極13b側は、上部基板14と熱的に接触し、n型熱電変換部12の電極13c側は、下部基板15と熱的に接触している。これにより、電極13aと電極13cとの間で、p型熱電変換部11の両端の間に発生する熱起電力と、n型熱電変換部12の両端の間に発生する熱起電力とが打ち消されずに足し合わされるため、熱電変換モジュール10により、大きな熱起電力を発生させることができる。
【0058】
p型熱電変換部11およびn型熱電変換部12の各々は、熱電変換材料を含む。n型熱電変換部12に含まれる熱電変換材料として、本実施の形態の熱電変換材料を用いることができる。p型熱電変換部11としては、FeNbAlまたはFeSなど、FeTiSi系フルホイスラ合金とは異なる組成を有するフルホイスラ合金からなる熱電変換材料を用いることもできる。
【0059】
一方、上部基板14および下部基板15の各々の材料として、窒化ガリウム(GaN)または窒化珪素(Si)、酸化アルミニウム等を用いることができる。また、電極13の材料として、銅(Cu)または金(Au)等を用いることができる。より好適には応力を緩和する部材の組み合わせを選定することが望ましい。
【0060】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることが可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の実施例の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0061】
熱電変換モジュール10、p型熱電変換部11、n型熱電変換部12、電極13、上部基板14、下部基板15
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6