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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】封止樹脂材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20220208BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20220208BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20220208BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/013
H01L23/30 R
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018154792
(22)【出願日】2018-08-21
(65)【公開番号】P2020029491
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2020-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 寿
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智久
(72)【発明者】
【氏名】井上 英俊
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/070237(WO,A1)
【文献】特開2006-070266(JP,A)
【文献】特開2004-018568(JP,A)
【文献】特開2015-189848(JP,A)
【文献】特開2011-014885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C09K 3/10- 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径が200nm以上10μm未満の粒子から構成される第1フィラーと、
粒径が7nm以上200nm未満の粒子から構成される第2フィラーと、
粒径が0.5nm以上5nm未満の粒子から構成される第3フィラーと、
熱硬化性樹脂と、
硬化剤と、
を有し、
前記第1フィラーに対する前記第2フィラーの体積比が0.0001以上0.3以下であり、
前記第2フィラーに対する前記第3フィラーの体積比が0.03以上0.2以下であり、
前記第1フィラー、前記第2フィラー、及び前記第3フィラーを含むフィラーの粒径分布は、200nm以上10μm未満の領域A、7nm以上200nm未満の領域B、及び0.5nm以上5nm未満の領域Cのうち、前記領域A、前記領域B、及び前記領域Cのそれぞれにピークを有することを特徴とする封止樹脂材料。
【請求項2】
前記第1フィラー、前記第2フィラー、及び前記第3フィラーを含むフィラーの粒径分布は、0.5nm以上10μm未満の領域に3つ以上のピークを有することを特徴とする請求項1に記載の封止樹脂材料。
【請求項3】
前記フィラーの粒径分布は、0.5nm以上10μm未満の領域に3つ以上のピークを有し、かつ0.5nm以上200nm未満の領域に2つ以上のピークを有することを特徴とする請求項に記載の封止樹脂材料。
【請求項4】
前記第2フィラーに対する前記第3フィラーの体積比が0.05以上0.15以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の封止樹脂材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止樹脂材料に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の高性能化、小型化、軽量化の実現のため、半導体パッケージにおいては、半導体素子の高集積化及び高密度化が求められている。これに伴い、半導体素子の実装方法としては、高密度配線に有利なフリップチップ実装が広く採用されている。
【0003】
フリップチップ実装において接合される配線基板と半導体素子は、熱膨張率に差があるため、接合面の温度変化により熱変形が生じ易い。熱変形に伴い生じる応力は、接合部である導電性部材に集中し易く、場合によっては部材の破断を招く恐れがある。破断の防止や物理的衝撃の緩和のためには、熱硬化性の封止樹脂材料を配線基板及び半導体素子の間の隙間に充填して硬化させる方法が用いられている。この方法であれば、封止樹脂材料により、導電性部材を粉塵や湿気、空気酸化から防ぎ、機器の信頼性を向上させる効果も得られる。
【0004】
封止樹脂材料を配線基板及び半導体素子の間の隙間に充填させる一般的な方法として、Capillary Under Fill工法(以下、「CUF工法」と略すことがある。)が知られている。CUF工法では、封止樹脂材料を半導体素子の端部付近の配線基板の表面に滴下し、毛細管現象を利用して、配線基板及び半導体素子の間の隙間に封止樹脂材料を浸透させることにより充填する。
【0005】
封止樹脂材料に求められる性能としては、硬化後の耐湿性、耐剥離性、耐クラック性等が挙げられる。また、毛細管現象を利用した充填では、気泡の発生防止、充填時間の短縮、過度な展延の防止が主な課題となっている。特に、ここで述べた展延とは、封止すべき箇所である配線基板及び半導体素子の間の隙間の外周側の領域にまで封止樹脂材料が広がる問題であり、これは半導体パッケージにおいて部品間のピッチ間隔の狭小化を実現するにあたり技術障壁となっている。
【0006】
封止樹脂材料は、主に、エポキシ樹脂や硬化剤等の樹脂成分とシリカ等から形成されたフィラーとから構成されている。上記の展延は、樹脂成分及びフィラーが混合状態で半導体素子の端から外周側にはみ出すフィレットと、樹脂成分がフィレットの外周からさらに外周側に染み出すブリードと、に大別される。ブリードの染み出しの抑制に対しては、配線基板への対策の他、封止樹脂材料への対策が講じられている。
【0007】
配線基板への対策としては、例えば、特許文献1及び2に記載された方法が施されている。具体的には、特許文献1には、実装される半導体素子の四隅近傍における配線基板の表面に、充填される封止樹脂材料を堰き止めるためのブロック状の部材を配置形成する工程を備える半導体パッケージの製造方法が記載されている。また、特許文献2には、多層配線基板に半導体素子をフリップチップ実装する工程と、多層配線基板の表面絶縁層に対して表面活性処理を施す工程と、表面絶縁層の半導体素子が実装される部位より外周側の所定領域と半導体素子上の所定領域に対して表面不活性処理を施す工程と、半導体素子と多層配線基板の間隙に樹脂を充填する工程と、を備える半導体パッケージの製造方法が記載されている。
【0008】
一方、封止樹脂材料への対策としては、エポキシ樹脂や硬化剤等の樹脂成分又はフィラーの種類や量を調整する手段が知られている。例えば、特許文献3には、ブリードとして外周側へ染み出す樹脂成分を堰き止めるという着想に基づいて、フィラーとして2種類のシリカフィラーを用いた樹脂材料が記載されている。また、特許文献4には、樹脂材料を硬化させるときに生じるブリードを抑制可能な樹脂材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2013-62472号公報
【文献】特開2014-49533号公報
【文献】特開2015-105304号公報
【文献】特許第4969069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記の特許文献1及び2に記載されているような配線基板への対策は、半導体パッケージの製造プロセスを複雑にするため、時間的・金銭的な製造コストが大きくなり易い。
【0011】
一方、上記の封止樹脂材料への対策のうち、特許文献3に記載された樹脂材料では、フィラーによる堰き止め効果が発揮される前の段階で先行的に樹脂成分がブリードとして染み出すことを抑制することは困難であった。また、特許文献4に記載された樹脂材料では、硬化時に樹脂成分がブリードとして染み出すことを抑制することはできるものの、硬化前において樹脂材料が毛細管現象で流動している最中に樹脂成分がブリードとして染み出すことを抑制することは困難であった。このため、ブリードの染み出しの抑制は、不十分であった。
【0012】
本発明は、上記実情を鑑みてなされたものであり、ブリードの染み出しを十分に抑制することができる封止樹脂材料を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の封止樹脂材料は、粒径が200nm以上10μm未満の粒子から構成される第1フィラーと、粒径が7nm以上200nm未満の粒子から構成される第2フィラーと、粒径が0.5nm以上7nm未満の粒子から構成される第3フィラーと、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ブリードの染み出しを十分に抑制することができる。
上記した以外の課題、構成、及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】CUF工法により封止樹脂材料を半導体パッケージの配線基板及び半導体素子の間の隙間に充填する方法の一例を示す概略工程断面図(充填途中概略図)である。
図2】CUF工法により封止樹脂材料を半導体パッケージの配線基板及び半導体素子の間の隙間に充填する方法の一例を示す概略工程断面図(充填後概略図)である。
図3】従来の封止樹脂材料の一例を配線基板及び半導体素子の間の隙間に充填した場合における図2に示される領域Xの拡大図である。
図4図3に示される領域Yの拡大図である。
図5】本発明の封止樹脂材料の一例を配線基板及び半導体素子の間の隙間に充填した場合における図2に示される領域Xの拡大図である。
図6図5に示される領域Yの拡大図である。
図7】従来の封止樹脂材料におけるフィラーの粒径分布の一例を示すグラフである。
図8】本発明の封止樹脂材料におけるフィラーの粒径分布の例を示すグラフである。
図9】実施例1及び実施例2の計算モデルのシミュレーションにおける初期状態を示す概略断面図である。
図10】実施例1及び実施例2の計算モデルのシミュレーションにおける最終状態を示す概略断面図である。
図11】実施例1、実施例2、及び比較例の計算モデルのシミュレーションにおけるブリードに対応する部分の濡れ広がり長さLB及び仮想のブリードに対応する部分の濡れ広がり長さLB´を示すグラフである。
図12】実施例1の計算モデルのシミュレーションにおける樹脂分子、第2フィラーの構成粒子、及び第3フィラーの構成粒子の単位時間あたりの移動量の時間変化を平均二乗変位で示すグラフである。
図13】実施例1、実施例2、及び比較例の計算モデルのシミュレーションにおける樹脂分子の単位時間あたりの移動量の時間変化を平均二乗変位で示すグラフである。
図14】実施例1、実施例2、及び比較例の計算モデルのシミュレーションにおける充填完了までのシミュレーションステップ数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の封止樹脂材料の実施形態について説明する。具体的には、本発明の封止樹脂材料の実施形態の前提として、CUF工法による封止樹脂材料の充填方法及び従来の封止樹脂材料について説明した後に、本発明の封止樹脂材料の実施形態について説明する。
【0017】
なお、本発明の封止樹脂材料、該封止樹脂材料が有するフィラー及び樹脂成分、該封止樹脂材料が用いられる半導体パッケージの半導体素子及び配線基板、これらの電極を接合する接合材料、ディスペンサ、並びに従来及び本発明の封止樹脂材料が用いられる場合に形成されるフィレット及びブリードの材質、配置、寸法、形状、及び形成時の充填方法や充填手順等は、以下に説明される本発明の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
(CUF工法による封止樹脂材料の充填方法)
図1及び図2は、CUF工法により封止樹脂材料を半導体パッケージの配線基板及び半導体素子の間の隙間に充填する方法の一例を示す概略工程断面図である。図1及び図2に示される充填方法は、従来及び本発明の両方の封止樹脂材料の充填に同様に用いられる。
【0019】
この充填方法を用いて封止樹脂材料が充填される半導体パッケージ100は、図1に示されるように、配線基板110と配線基板110に対向して設けられた半導体素子120とを備え、配線基板110の表面110fに設けられた基板電極112と、半導体素子120の表面120fに設けられた素子電極122とが、接合材料130によって電気的に接続されている。
【0020】
配線基板110及び半導体素子120は熱膨張率に差があるため、接合面の温度変化により熱変形が起こり易い。配線基板110及び半導体素子120は、基板電極112及び素子電極122並びに接合材料130を含む導電性部材150を介して接合されているが、熱変形により生じる接合面近傍の応力が、接合部である導電性部材150に集中し易いので、破断を招く恐れがある。このような破断の防止や半導体パッケージ100への物理的衝撃の緩和のため、熱硬化性の封止樹脂材料10(20)を配線基板110及び半導体素子120の間の隙間115に充填して硬化させる方法が用いられている。封止樹脂材料10(20)によれば、導電性部材150を粉塵や空気酸化から防いで機器の信頼性を向上させる効果も得られる。
【0021】
封止樹脂材料10(20)を配線基板110及び半導体素子120の間の隙間115に充填させる代表的な方法として、CUF工法が知られている。一般的なCUF工法においては、図1に示されるように、ディスペンサ200を用いて、封止樹脂材料10(20)を半導体素子120の端120e付近の配線基板110の表面110fに滴下し、毛細管現象を利用して、配線基板110及び半導体素子120の間の隙間115に封止樹脂材料10(20)を浸透させることにより充填する。
【0022】
この結果、図2に示されるように、封止樹脂材料10(20)は、導電性部材150の周囲の領域を含め、配線基板110及び半導体素子120の間の隙間115に充填される。そして、封止樹脂材料10(20)を充填した後に、熱処理等の硬化処理を施して封止樹脂材料10(20)を硬化させることで封止を完了させることにより、半導体パッケージ100を製造する。
【0023】
(従来の封止樹脂材料)
ここで、従来の封止樹脂材料について、図に例示して説明する。
図3は、従来の封止樹脂材料の一例を配線基板及び半導体素子の間の隙間に充填した場合における図2に示される領域Xの拡大図であり、半導体素子の端部付近の領域を拡大した図である。図4は、図3に示される領域Yの拡大図である。
【0024】
従来の封止樹脂材料20は、図3に示されるように、樹脂成分12とフィラー14とを有するものである。樹脂成分12は、エポキシ樹脂12a及び硬化剤12bから構成される。フィラー14は、第1フィラー14a及び第2フィラー14bから構成される。第1フィラー14aは、粒径が200nm以上10μm未満の複数の球状シリカ粒子から構成され、第2フィラー14bは、粒径が7nm以上200nm未満の複数の球状シリカ粒子から構成される。
【0025】
従来の封止樹脂材料20を、上記の図1に示される半導体パッケージ100の配線基板110及び半導体素子120の間の隙間115に充填する場合には、図3に示されるように、封止樹脂材料20が、配線基板110の表面110fにおいて、半導体素子120の端120eから半導体パッケージ100の外周側(以下、「外周側」と略すことがある。)に濡れ広がってはみ出す。このような封止樹脂材料20のはみ出し部分22は、半導体素子120の端120eから外周側に向かって稜線を描くように形成される。はみ出し部分22は、図3及び図4に示されるように、樹脂成分12及びフィラー14が混合状態で半導体素子120の端120eから外周側はみ出すフィレット22fと、樹脂成分12のみがフィレット22fの外周からさらに外周側に薄膜状に広がるように染み出すブリード22bと、から構成される。
【0026】
フィレット22f及びブリード22bについては、境界の厳密性を求めない場合には、肉眼でのマクロ的な観察により、光の反射の程度の違いを基準に識別可能であるが、境界の厳密性を求める場合には、SEM(Scanning Electron Microscope)やXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)を用いたミクロ的な観察により、フィラーが含有されているか否かを基準に識別される。
【0027】
図3及び図4において、はみ出し部分22がはみ出した長さのうち、フィレット22fの長さ(以下、「フィレット長」と略すことがある。)をLFで示し、ブリード22bの長さ(以下、「ブリード長」と略すことがある。)をLBで示す。
【0028】
ここで、従来及び本発明の封止樹脂材料を、例えば、図1及び図2に示されるような半導体パッケージの配線基板及び半導体素子の間の隙間に充填する場合に形成されるフィレット及びブリードにおいて、「フィレット長」とは、半導体素子の端から最も外周側に離れているフィラー(例えば、図4に示される第2フィラー14bや下記の図6に示される第3フィラー14c等)の構成粒子の外周側の端までの長さを意味し、「ブリード長」とは、該フィラーの構成粒子の外周側の端からブリードの外周側の端までの長さを意味する。
【0029】
はみ出し部分22のうち、フィレット22fについては、配線基板110及び半導体素子120の接合強度の確保等の理由から必要であるのに対し、ブリード22bについては、半導体素子120に隣接する他の部品に干渉するために、部品間のピッチの狭小化を実現するにあたり技術障壁になるばかりではなく、半導体パッケージ100の外観を悪くするおそれがある。
【0030】
このため、上記の通り、封止樹脂材料20に対して、樹脂成分12又はフィラー14の種類や量の調整といった対策を施すことにより、樹脂成分12からなるブリード22bがフィレット22fの外周からさらに外周側に染み出すことを抑制することが試みられている。このような対策が施された樹脂材料として、例えば、特許文献3には、ブリードとして外周側へ染み出す樹脂成分を堰き止めるという着想に基づいて、フィラーとして2種類のシリカフィラーを用いた樹脂材料が記載されている。また、特許文献4には、樹脂材料を硬化させるときに生じるブリードを抑制可能な樹脂材料が記載されている。
【0031】
しかしながら、特許文献3に記載された樹脂材料では、フィラーによる堰き止め効果が発揮される前の段階で先行的に樹脂成分がブリードとして染み出すことを抑制することは困難であった。また、特許文献4に記載された樹脂材料では、硬化時に樹脂成分がブリードとして染み出すことを抑制することはできるものの、硬化前において樹脂材料が毛細管現象で流動している最中に樹脂成分がブリードとして染み出すことを抑制することは困難であった。このため、ブリードの染み出しの抑制は、不十分であった。
【0032】
(本発明の封止樹脂材料)
そこで、本発明者らは、上記のような実情を鑑み、封止樹脂材料に施すべき対策について検討を行った。その結果、封止樹脂材料を配線基板及び半導体素子の間の隙間に充填した場合に樹脂成分がブリードとして染み出すメカニズムが、樹脂成分を構成する樹脂分子及びフィラーの構成粒子の単位時間当たりの移動量と相関することを見出し、このような新しい知見に基づいて、本発明の封止樹脂材料を完成させた。
【0033】
ここで、本発明において、「単位時間当たりの移動量」とは、樹脂成分を構成する樹脂分子1つ又はフィラーの構成粒子1つが単位時間に移動する距離をいう。以下、本発明者らの新しい知見の内容について具体的に説明する。
【0034】
上記の通り、従来の封止樹脂材料20を配線基板110及び半導体素子120の間の隙間115に充填した場合、ブリード22bとして染み出す樹脂成分12を構成する樹脂分子は、通常、一定の移動量で移動しているのに対し、フィラー14を分子レベルで観察した際に粒子の移動量が最大となるフィラーは粒径が小さい粒子から構成される第2フィラー14bであるが、第2フィラー14bを構成する粒子及び樹脂成分12を構成する樹脂分子の移動量を比較すると、樹脂分子の方が顕著に大きい。これは、封止樹脂材料20が配線基板110の表面110fを濡れ広がる際に、樹脂成分12を構成する樹脂分子の方が第2フィラー14bを構成する粒子よりも顕著に速く拡散することにより、樹脂成分12が、ブリード22bとして、第2フィラー14bを含有するフィレット22fの外周からさらに外周側に染み出し易くなることを示している。
【0035】
このことから、樹脂成分12が、ブリード22bとしてフィレット22fの外周からさらに外周側に染み出すことを抑制するためには、以下の2つのアプローチが考えられる。
【0036】
・アプローチ1
移動量がより大きく、樹脂成分を構成する樹脂分子への追従性が従来よりも高いフィラーをフィラーの1種類として新規に用いて、フィレットの外周側の端部により速くフィラーを配置することにより、樹脂成分がフィレットの外周からさらに外周側に染み出す場合に、より早い段階で樹脂成分がフィラーで堰き止められるようにする。
【0037】
・アプローチ2
樹脂成分を構成する樹脂分子の移動量を低減する作用が得られるフィラーをフィラーの1種類として新規に用いて、樹脂成分がブリードとして染み出す速度を低減させる。
【0038】
本発明者らは、鋭意検討を行うことにより、従来一般的に用いられていたフィラーに加えて、それよりも粒径が小さい粒子から構成される新規のフィラーを用いることにより、上記の2つのアプローチの双方からブリードの染み出しを抑制することができることを見出した。
【0039】
ここで、本発明の封止樹脂材料について、図に例示して説明する。
図5は、本発明の封止樹脂材料の一例を配線基板及び半導体素子の間の隙間に充填した場合における図2に示される領域Xの拡大図であり、半導体素子の端部付近の領域を拡大した図である。また、図6は、図5に示される領域Yの拡大図である。
【0040】
本発明の封止樹脂材料10は、図5に示されるように、樹脂成分12とフィラー14とを有するものである。樹脂成分12は、エポキシ樹脂12a及び硬化剤12bから構成される。フィラー14は、第1フィラー14a、第2フィラー14b、及び第3フィラー14cから構成される。第1フィラー14aは、粒径が200nm以上10μm未満の複数の球状シリカ粒子から構成され、第2フィラー14bは、粒径が7nm以上200nm未満の複数の球状シリカ粒子から構成され、第3フィラー14cは、粒径が0.5nm以上7nm未満の複数の球状シリカ粒子から構成される。
【0041】
本発明の封止樹脂材料10のフィラー14には、上記の従来の封止樹脂材料20のフィラー14に用いられている第1フィラー14a及び第2フィラー14bに加えて、第3フィラー14cが用いられている。第3フィラー14cは、第1フィラー14a及び第2フィラー14bのうち粒径が小さい第2フィラー14bよりも、さらに粒径が小さい。このため、第3フィラー14cは、第2フィラー14bと比較して、移動量がより大きく、樹脂成分12を構成する樹脂分子への追従性がより高い。さらに、第3フィラー14cをフィラー14に用いることにより、樹脂成分12を構成する樹脂分子の移動量を低減する作用が得られる。
【0042】
したがって、本発明の封止樹脂材料10を、配線基板110及び半導体素子120の間の隙間115に充填した場合において、図5及び図6に示されるように、封止樹脂材料20が配線基板110の表面110fを濡れ広がる際には、上記の従来の封止樹脂材料20と比較して、フィレット22fの外周側の端部により速くフィラー14が配置されることになる。このため、樹脂成分12がフィレット22fの外周からさらに外周側に染み出す場合に、より速い段階で樹脂成分12がフィラー14で堰き止められるようになる。さらに、上記の樹脂分子の移動量を低減する作用により、樹脂成分12がブリード22bとして染み出す速度が低減する。これにより、ブリード長LBを従来の封止樹脂材料20を用いた場合と比較して顕著に短くすることができる。よって、本発明によれば、ブリードの染み出しを十分に抑制することができる。
【0043】
なお、図6において、ブリード長LBは、第3フィラー14cの構成粒子の外周側の端からブリードの外周側の端までの長さであるが、第3フィラー14cを樹脂成分12と同等とみなした場合の仮想のブリードを想定した場合には、仮想のブリードの長さは、図6に示されるように、半導体素子120の端から最も外周側に離れている第2フィラー14bの構成粒子の外周側の端から樹脂成分12の外周側の端までの長さLB´で示される。本発明によれば、仮想のブリードの長さLB´を短くする効果も得られる。
【0044】
さらに、本発明によれば、従来用いられているフィラーよりもさらに粒径が小さい第3フィラーを封止樹脂材料に用いることにより、毛細管現象を利用して封止樹脂材料を充填する場合の課題である充填時間の短縮を実現することができる。すなわち、本発明によれば、ブリードの染み出しの抑制及び充填時間の短縮を両立することができる。
【0045】
以下、本発明の封止樹脂材料の各構成について詳細に説明する。
【0046】
1.フィラー
本発明の封止樹脂材料は、フィラーとして、第1フィラーと、第2フィラーと、第3フィラーと、を有する。以下、各フィラーについて説明する。
【0047】
(1)第3フィラー
第3フィラーは、粒径が0.5nm以上7nm未満の粒子から構成されるものである。
【0048】
第3フィラーの構成粒子の形状としては、例えば、球状であるが、真球状に限定されるものではない。球状の構成粒子としては、長径に対する短径の比率(以下、「真球度」と略すことがある。)が、例えば、特開2015-218229号公報に記載されているように0.8以上のものが挙げられるが、真球度が1.0により近いものが好ましい。
【0049】
本発明において、第3フィラーの構成粒子の粒径とは、該構成粒子の長径及び短径の平均値を意味する。また、第3フィラーの構成粒子の長径及び短径の測定方法としては、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて観察することにより測定する方法等が挙げられる。
【0050】
第3フィラーの構成粒子の粒径としては、中でも1.5nm以上6nm未満、特に2.5nm以上5nm未満が好ましい。構成粒子の粒径が、これらの下限以上であることにより、ブリードの染み出しを効果的に抑制できるからであり、これらの上限以下であることにより、ブリードの染み出しを効果的に抑制できるからである。
【0051】
第3フィラーの構成粒子の材料としては、封止樹脂材料の流動性や熱伝導性や機械的特性を確保する機能等のフィラーに求められる機能を発揮することができれば特に限定されるものではなく、無機材料でも有機材料でもよいが、主に、無機材料が用いられる。該無機材料としては、例えば、シリカ、アルミナに代表される酸化物、窒化物、金属等が挙げられ、中でもシリカが好ましい。さらに、第3フィラーの構成粒子は、これらの材料が各種のカップリング剤等で被覆されたものでもよい。
【0052】
(2)第2フィラー
第2フィラーは、粒径が7nm以上200nm未満の粒子から構成されるものである。
【0053】
第2フィラーの構成粒子の形状及び材料については、第3フィラーと同様であるために、ここでの説明は省略する。
【0054】
本発明において、第2フィラーの構成粒子の粒径とは、該構成粒子の長径及び短径の平均値を意味する。また、第2フィラーの構成粒子の長径及び短径の測定方法は、第3フィラーの構成粒子の長径及び短径の測定方法と同様であるために、ここでの説明は省略する。
【0055】
第2フィラーの構成粒子の粒径としては、中でも7nm以上100nm未満、特に10nm以上50nm未満が好ましい。構成粒子の粒径が、これらの下限以上であることにより、ブリードの染み出しを効果的に抑制できるからであり、これらの上限以下であることにより、ブリードの染み出しを効果的に抑制できるからである。
【0056】
(3)第1フィラー
第1フィラーは、粒径が200nm以上10μm未満の粒子から構成されるものである。
【0057】
第1フィラーの構成粒子の形状及び材料については、第3フィラーと同様であるために、ここでの説明は省略する。
【0058】
本発明において、第1フィラーの構成粒子の粒径とは、該構成粒子の長径及び短径の平均値を意味する。また、第1フィラーの構成粒子の長径及び短径の測定方法は、第3フィラーの構成粒子の長径及び短径の測定方法と同様であるために、ここでの説明は省略する。
【0059】
第1フィラーの構成粒子の粒径としては、中でも300nm以上5μm未満、特に400nm以上2μm未満が好ましい。構成粒子の粒径が、これらの下限以上であることにより、封止樹脂材料の充填時間短縮、熱伝導率の向上などの機能が実現でき、また封止樹脂材料をより安価に製造できるからであり、これらの上限以下であることにより、配線基板及び半導体素子の間が数十μm以下の微細な隙間であっても封止樹脂材料が円滑に充填できるからである。
【0060】
(4)封止樹脂材料に対するフィラーの質量比
封止樹脂材料の全体に対する第1フィラー、第2フィラー、及び第3フィラーの合計の質量比としては、フィラーが封止樹脂材料の流動性や熱伝導性や機械的特性を確保する機能等を発揮できれば特に限定されないが、例えば、フィラーをシリカとする場合、40質量%~85質量%であることが好ましく、中でも45質量%~75質量%、特に50質量%~70質量%であることが好ましい。フィラーの質量比がこれらの下限以上であることにより、封止樹脂材料の熱伝導性や機械的特性を確保する機能等を効果的に発揮できるからであり、フィラーの質量比がこれらの上限以下であることにより、フィラーが封止樹脂材料の流動性を確保する機能等を効果的に発揮できるからである。
【0061】
(5)各フィラーの体積比
第2フィラーに対する第3フィラーの体積比としては、ブリードの染み出しを十分に抑制することができ、かつ封止樹脂材料の流動性や熱伝導性や機械的特性を確保することができれば特に限定されないが、0.0001以上0.3以下であることが好ましく、中でも0.03以上0.2以下、特に0.05以上0.15以下であることが好ましい。第2フィラーに対する第3フィラーの体積比が、これらの下限以上であることにより、ブリードの染み出しを効果的に抑制することができる上、封止樹脂材料の流動性を効果的に向上させて、充填時間を短縮することができるからである。第2フィラーに対する第3フィラーの体積比がこれらの上限以下であることにより、封止樹脂材料の流動性を効果的に向上させて、充填時間を短縮することができるからである。
【0062】
第1フィラーに対する第2フィラーの体積比としては、封止樹脂材料の流動性や熱伝導性や機械的特性を確保することができれば特に限定されないが、0.0001以上0.3以下であることが好ましく、中でも0.001以上0.2以下、特に0.01以上0.1以下であることが好ましい。第1フィラーに対する第2フィラーの体積比が、これらの下限以上であることにより、封止樹脂材料の流動性を効果的に向上させることができるからである。第1フィラーに対する第2フィラーの体積比がこれらの上限以下であることにより、封止樹脂材料の流動性を効果的に向上させつつ、フィラーの製造コストを抑えることができるからである。
【0063】
なお、上記の特許文献4には、樹脂材料を硬化させるときに生じるブリードを抑制可能な樹脂組成物に、酸化物からなる粒子を3質量%~60質量%用いることが記載されている。また、酸化物からなる粒子の内訳として、0.5nm以上10nm未満のものを50体積~80体積%、10nm以上100nm未満のものを50体積~20体積%用いることが記載されているが、本発明は特許文献4と異なり、100nm以上のフィラーになり得る第1フィラー及び第2フィラーを用いる。100nm以上のフィラーは、封止樹脂材料の流動性を確保する目的、封止樹脂材料の熱伝導性を確保する目的、平均粒径の大きく安価なフィラーを用いて製造コストを抑える目的等のため必要である。特許文献4は、樹脂組成物が硬化するときにブリード抑制効果を発揮するものであるのに対し、本発明は、硬化前の封止樹脂材料の流動中においてブリード抑制効果を発揮する点で特許文献4と異なる。
【0064】
(6)フィラーの粒径分布
続いて、本発明の樹脂材料における第1フィラー、第2フィラー、及び第3フィラーを含むフィラーの粒径分布について説明する。以下において、フィラーの粒径分布における粒径の領域うち、200nm以上10μm未満の粒径の領域、7nm以上200nm未満の粒径の領域、及び0.5nm以上7nm未満の粒径の領域を、それぞれ領域A、領域B、及び領域Cと省略して記載する。
【0065】
本発明の樹脂材料におけるフィラーの粒径分布(以下、「本発明の粒径分布」と略すことがある。)について説明するにあたり、まず、従来の封止樹脂材料におけるフィラーの粒径分布(以下、「従来の粒径分布」と略すことがある。)について説明する。ここで、図7は、従来の封止樹脂材料におけるフィラーの粒径分布の一例を示すグラフであり、横軸が粒径[nm]を示しており、縦軸が粒子の含有率[体積%]を示している。
【0066】
図7に示される従来の粒径分布は、領域Cの全ての箇所において粒子の含有率が0体積%となっており、領域A及び領域Bにそれぞれ1つのピークを有している。なお、従来の粒径分布としては、このような粒径分布に限定されるものではなく、例えば、上記の領域A及び領域Bに合計で一つのピークを有するもの等も挙げられる。
【0067】
これに対し、図8(a)~図8(c)は、それぞれ、本発明の封止樹脂材料におけるフィラーの粒径分布の一例を示すグラフであり、横軸が粒径[nm]を示しており、縦軸が粒子の含有率[体積%]を示している。
【0068】
図8(a)に示される本発明の粒径分布は、領域A、領域B、及び領域Cにそれぞれ1つのピークを有している。図8(b)に示される本発明の粒径分布は、領域Aに1つのピークを有しており、領域Bに2つのピークを有しているものの、領域Cにピークを有していない。図8(c)に示される本発明の粒径分布は、領域A及び領域Bにそれぞれ1つのピークを有しているものの、領域Cにピークを有していない。
【0069】
本発明の粒径分布としては、図8(a)~図8(c)に示されるように、領域Cのいずれかの箇所の含有率が0体積%よりも大きくなるものであれば特に限定されるものではなく、図8(a)に示されるように、領域A、領域B、及び領域Cのうち、領域Cにピークを有するものでもよいし、図8(b)及び図8(c)に示されるように、領域Cにピークを有しないものでもよいが、領域Cにピークを有するものが好ましい。中でも領域A又は領域Bのどちらか一方及び領域Cにピークを有するものが好ましく、特に領域A、領域B、及び領域Cにそれぞれピークを有するものが好ましい。この理由は、ブリードの染み出しを効果的に抑制することができるからである。
【0070】
また、本発明の粒径分布としては、図8(a)及び図8(b)に示されるように、領域A、領域B、及び領域Cを含む0.5nm以上10μm未満の領域に3つ以上のピークを有するものでもよいし、図8(c)に示されるように、該0.5nm以上10μm未満の領域に2つ以下のピークを有するものでもよいが、該0.5nm以上10μm未満の領域に3つ以上のピークを有するものが好ましい。中でも領域B及び領域Cを含む0.5nm以上200nm未満の領域に2つ以上のピークを有するものが好ましく、特に領域B及び領域Cにそれぞれ1つ以上のピークを有するものが好ましい。この理由は、ブリードの染み出しを効果的に抑制することができるからである。
【0071】
なお、領域Aにピークを有する粒径分布としては、中でも300nm以上5μm未満の粒径の領域、特に400nm以上2μm未満の粒径の領域にピークを有するものが好ましい。これらの下限以上であることにより、封止樹脂材料の充填時間短縮、熱伝導率の向上などの機能が実現でき、また封止樹脂材料をより安価に製造できるからであり、これらの上限以下であることにより、配線基板及び半導体素子の間が数十μm以下の微細な隙間であっても封止樹脂材料が円滑に充填できるからである。また、領域Bにピークを有する粒径分布としては、中でも7nm以上100nm未満の粒径の領域、特に10nm以上50nm未満の粒径の領域にピークを有するものが好ましい。この理由は、ブリードの染み出しを効果的に抑制できるからである。さらに、領域Cにピークを有する粒径分布としては、中でも1.5nm以上6nm未満の粒径の領域、特に2.5nm以上5nm未満の粒径の領域にピークを有するものが好ましい。この理由は、ブリードの染み出しを効果的に抑制できるからである。
【0072】
さらに、本発明の粒径分布としては、体積基準で、領域B及び領域Cの閾値である7nm近傍の粒径を有するフィラーの含有率よりも該7nm近傍より小さい粒径を有するフィラーの含有率が多いものが好ましい。具体的には、粒径が0.5nm以上6.9nm未満のフィラーの含有率が、体積基準で、粒径が6.9nm以上7.1nm未満のフィラーの含有率よりも大きいものが好ましく、中でも粒径が0.5nm以上6.9nm未満のフィラーの含有率が、体積基準で、粒径が6.9nm以上7.1nm未満のフィラーの含有率の2倍よりも大きいものが好ましい。
【0073】
なお、フィラーの粒径分布の測定方法としては、SEM画像を用いた測定方法等が挙げられる。
【0074】
(7)フィラーの粒径分布の制御方法
本発明の粒径分布は、例えば、異なる平均粒径を有する2種類以上のフィラーを混合することにより、混合物の粒径分布として制御することができる。例えば、平均粒径がdxのフィラーX及び平均粒径がdy(dx>dy)のフィラーYの2種類のフィラーを混合する場合には、フィラーX及びフィラーYがそれぞれ粒径分布を有するために、混合物の粒径分布を、例えば、フィラーXの粒径分布のピーク及びフィラーYの粒径分布のピークと同様の値にピークを有し、dxよりも大きい粒径の粒子、dxより小さくdyより大きい粒径の粒子、及びdyより小さい粒径の粒子のいずれもが存在するものに制御することができる。
【0075】
また、異なる平均粒径を有する2種類以上のフィラーを混合する場合に、混合物の粒径分布を意図した分布となるように制御するためには、例えば、上記のフィラーX及びフィラーYのそれぞれに対して、混合前に所定範囲以外の粒径の粒子を取り除く処理等を実施することができる。このような処理としては、例えば、所定値より大きい粒径の粒子を取り除くトップカット等が知られている。このため、例えば、フィラーX及びフィラーYの平均粒径及び混合比の選択やトップカットの処理等を実施することにより、フィラーX及びフィラーYの混合物から、フィラーXの粒径分布のピーク及びフィラーYの粒径分布のピークを消滅させることも可能である。すなわち、2種類以上のフィラーの平均粒径及び混合比の選択やトップカットの処理等を実施することにより、本発明の粒径分布の制御を行うことができる。
【0076】
例えば、図8(a)に示される本発明の粒径分布は、例えば、200nm以上10μm未満の平均粒径を有するフィラー、7nm以上200nm未満の平均粒径を有するフィラー、及び0.5nm以上7nm未満の平均粒径を有するフィラーを混合し、これらのフィラーの混合比の選択やトップカットの処理等を実施して制御することにより得られる。図8(b)や図8(c)に示される本発明の粒径分布は、例えば、200nm以上10μm未満の平均粒径を有するフィラー及び7nm以上200nm未満の異なる平均粒径を有する2種類のフィラーを混合し、これらのフィラーの混合比の選択やトップカットの処理等を実施して制御することにより得られる。
【0077】
2.樹脂成分
本発明の封止樹脂材料は、樹脂成分として、熱硬化性樹脂と硬化剤とを有する。
【0078】
(1)熱硬化性樹脂
熱硬化性樹脂としては、封止樹脂材料に用いることができれば特に限定されるものではないが、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられるが、中でもエポキシ樹脂等が好ましい。従来から封止樹脂材料に広く用いられており、信頼性が高いからである。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型、ノボラック型、グリシジルエーテル型、グリシジルアミン型、ナフタレン型、ビフェニル型、脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
(2)硬化剤
硬化剤としては、封止樹脂材料に用いることができれば特に限定されるものではないが、例えば、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤等が挙げられる。これらの硬化剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
硬化剤の配合割合としては、特に限定されるものではないが、熱硬化性樹脂と同様、封止樹脂材料の滴下や充填の効率性や硬化後の封止樹脂材料の機械的特性の確保等の観点から、熱硬化性樹脂に対する硬化剤の当量比が0.6~1.6であるものが好ましく、中でも0.7~1.4、特に0.85~1.1であるものが好ましい。
【0081】
(3)その他
本発明の封止樹脂材料は、樹脂成分として、熱硬化性樹脂及び硬化剤の他に添加剤を有していてもよい。
【0082】
添加剤としては、封止樹脂材料に用いることができれば特に限定されるものではないが、例えば、可とう化剤、カップリング剤、硬化促進剤、溶剤、界面活性剤、イオントラップ剤、着色剤等が挙げられる。これらは全て用いても、選択的に用いてもよく、また、これら以外の添加剤を用いてもよい。
【0083】
3.その他
本発明の封止樹脂材料は、例えば、図1及び図2に示されるように、上記のCUF工法を用いて、毛細管現象を利用して半導体パッケージの配線基板及び半導体素子の間の隙間に浸透させることにより充填する用途で用いられるものである。
【0084】
上記半導体パッケージは、例えば、図1及び図2に示されるように、上記配線基板に設けられた基板電極と、上記半導体素子に設けられた素子電極とが、接合材料によって電気的に接続されたものである。上記配線基板としては、例えば、銅、アルミナ、タングステン、モリブデン等に代表されるような金属を含有する金属含有層を有する多層構造を備えるもの等が挙げられる。また、上記配線基板が接合時に上記半導体素子に対抗する面は、例えば、ガラス系材料層、例えば、シリコン窒化膜等の保護層、又はポリイミド系樹脂等から構成される樹脂層等から構成される。また、一部の箇所においては、これらの層から配線基板電極が露出する。上記接合材料は、一般的にCUF工法において用いられる接合材料であり、上記接合材料としては、例えば、はんだ、銅、金等の導電性金属材料が挙げられる。
【0085】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例
【0086】
以下、比較例及び実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0087】
1.ブリードの染み出しの評価
以下の実施例及び比較例の封止樹脂材料の計算モデルを使用して、粗視化分子動力学法を用いたシミュレーションによって、初期状態において固体表面に置かれた液滴状の封止樹脂材料が外周側に濡れ広がる過程を解析した。これにより、これらの計算モデルにモデル化された封止樹脂材料を配線基板及び半導体素子の間の隙間に充填した場合のブリードの染み出しを、模擬的に評価した。
【0088】
粗視化分子動力学法とは、分子のダイナミクス(動的過程)を解析するために汎用的に用いられている分子シミュレーションの手法であり、液体材料についての計算事例が幅広く知られている。また、高分子をはじめとする樹脂材料の計算事例も多く知られており、フィラーを含む材料のシミュレーションにも頻繁に用いられている(例えば、K. Hagita, H. Morita, M. Doi, and H. Takano, “Coarse-Grained Molecular Dynamics Simulation of Filled Polymer Nanocomposites under Uniaxial Elongation”, Macromolecules, pp.1972, vol.49, (2016)参照)。
【0089】
[実施例1]
封止樹脂材料の計算モデルを、エポキシ樹脂から構成される樹脂成分と、第2フィラー及び第3フィラーから構成されるフィラーと、を有する封止樹脂材料をモデル化して作成した。なお、第1フィラーについては、上記の図3及び図5に示されるようにブリードに存在することがないと考え、計算モデルから除外した。
【0090】
封止樹脂材料の計算モデルのモデル化においては、具体的に、樹脂成分のエポキシ樹脂を、ビスフェノール型の樹脂分子の1種(長辺約1.6nm、短辺約0.5nm)を見立てた直鎖の樹脂分子から構成されるものとしてモデル化し、樹脂分子を4個の粗視化粒子でモデル化した。また、第2フィラー及び第3フィラーを、それぞれ粒径が14nmの球状粒子及び粒径が3nmの球状粒子から構成されるものとしてモデル化した。そして、各フィラーを構成する球状粒子は、公知文献(K. Hagita, H. Morita, M. Doi, and H. Takano, “Coarse-Grained Molecular Dynamics Simulation of Filled Polymer Nanocomposites under Uniaxial Elongation”, Macromolecules, pp.1972, vol.49, (2016))を参照して、中空球殻形状としてモデル化した。また、第2フィラーを構成する球状粒子及び第3フィラーを構成する球状粒子は、それぞれ1281個の粗視化粒子及び61個の粗視化粒子でモデル化した。さらに、樹脂分子の比重に対する各フィラーを構成する球状粒子の比重の比率は、エポキシ樹脂及びシリカの比重(それぞれ約1.2、2.2[g/cm])を想定し、1.8に設定した。
【0091】
さらに、封止樹脂材料の計算モデルのモデル化においては、エポキシ樹脂及びフィラー(第2フィラー及び第3フィラーの合計)の質量比を、エポキシ樹脂:フィラー=40:60とした。さらに、第2フィラー及び第3フィラーの体積比を、第2フィラー:第3フィラー=54:6とした。なお、ブリードの染み出しの評価においては、エポキシ樹脂の樹脂分子数及び各フィラーの球状粒子数を、現実のブリードの染み出しを模擬的に評価できる数に設定した。
【0092】
[実施例2]
封止樹脂材料の計算モデルを、第2フィラー及び第3フィラーの体積比を、第2フィラー:第3フィラー=48:12としてモデル化した点を除いて、実施例1と同様に作成した。
【0093】
[比較例]
封止樹脂材料の計算モデルを、第2フィラー及び第3フィラーの体積比を、第2フィラー:第3フィラー=60:0としてモデル化した点を除いて、実施例1と同様に作成した。
【0094】
[粗視化分子動力学法を用いたシミュレーション]
粗視化分子動力学法を用いたシミュレーションの条件は、以下の通りである。
【0095】
・結合粒子間にFENE(Finitely Extensible Nonlinear Elastic)型のポテンシャル、非結合粒子間にLJ(Lennard-Jones)型のポテンシャルを用いて、Langevin方程式によって、液滴状の封止樹脂材料の時間発展に伴うダイナミクス(動的過程)を解析した。
・長さσ、質量m、エネルギーεは無次元量とし、時間τ=σ(m/ε)1/2を用いて積分時間を0.004τとした。
・計算は4000万ステップ実施し、実行中、固体表面は固定し、フィラーは剛体とした。
【0096】
図9及び図10は、実施例1及び実施例2の計算モデルのシミュレーションにおける初期状態及び最終状態をそれぞれ示す概略断面図である。
【0097】
図9及び図10に示されるように、上記のシミュレーションによる初期状態から最終状態に至るまでの間に、液滴状の封止樹脂材料30は固体300の表面300fにおいて外周側に濡れ広がった。最終状態の封止樹脂材料30の濡れ広がり部分32では、第3フィラー14cが第2フィラー14bよりも外周側に広がり、樹脂成分12が第3フィラー14cよりも外周側に広がった。
【0098】
また、図示はしないものの、比較例の計算モデルを使用して行われたシミュレーションにおいても同様に、初期状態から最終状態に至るまでの間に、液滴状の封止樹脂材料が固体表面において外周側に濡れ広がり、最終状態の封止樹脂材料の濡れ広がり部分では、樹脂成分が第2フィラーよりも外周側に広がった。
【0099】
実施例及び比較例のいずれにおいても、最終状態の濡れ広がり部分において、フィレットに対応する部分は、第2フィラー及び第3フィラーのうち少なくとも一方のフィラーが樹脂成分と混合状態で外周側に濡れ広がった部分であり、ブリードに対応する部分は、フィレットに対応する部分のさらに外周側に樹脂成分のみが濡れ広がった部分である。ブリードに対応する部分の濡れ広がり長さは、図10において、第3フィラー14cの構成粒子の外周側の端から樹脂成分の外周側の端までの長さLBで示される。
【0100】
また、第2フィラー14bを樹脂成分12と同等とみなした場合の仮想のフィレット及び仮想のブリードを想定した場合には、実施例及び比較例の最終状態の濡れ広がり部分32において、仮想のフィレットに対応する部分は、第2フィラー14bが樹脂成分12と混合状態で外周側に濡れ広がった部分となり、仮想のブリードに対応する部分は、仮想のフィレットに対応する部分のさらに外周側に第3フィラー及び樹脂成分が濡れ広がった部分となる。仮想のブリードに対応する部分の濡れ広がり長さは、第2フィラー14bの構成粒子の外周側の端から樹脂成分の外周側の端までの長さLB´で示される。
【0101】
図11は、実施例1、実施例2、及び比較例の計算モデルのシミュレーションにおけるブリードに対応する部分の濡れ広がり長さLB及び仮想のブリードに対応する部分の濡れ広がり長さLB´を示すグラフである。
【0102】
図11に示されるように、第3フィラーの体積比が大きくなるほど、LB及びLB´がいずれも短縮した。このことから、第3フィラーがブリードの染み出しを抑制することができることが確認できる。
【0103】
図12は、実施例1の計算モデルのシミュレーションにおける樹脂分子、第2フィラーの構成粒子、及び第3フィラーの構成粒子の単位時間あたりの移動量の時間変化を平均二乗変位で示すグラフである。
【0104】
図12に示されるように、それぞれの平均二乗変位を比較すると、樹脂分子の平均二乗変位は、第2フィラーの構成粒子よりも二桁程度大きい。このことは、封止樹脂材料が配線基板の表面を濡れ広がる時には、樹脂分子が第2フィラーの構成粒子よりも顕著に速く拡散するため、樹脂分子がブリードとして染み出し易いことを示している。一方、第3フィラーの構成粒子の平均二乗変位は、第2フィラーの構成粒子よりも一桁程度大きく、樹脂分子よりも一桁程度小さい。このことは、第3フィラーが、第2フィラーよりも樹脂分子への追従性が高いため、第3フィラーにより上記のアプローチ1を実現できることを示している。
【0105】
図13は、実施例1、実施例2、及び比較例の計算モデルのシミュレーションにおける樹脂分子の単位時間あたりの移動量の時間変化を平均二乗変位で示すグラフである。
【0106】
図13に示されるように、それぞれの計算モデルにおいて、第3フィラーの体積比が大きくなるほど、樹脂分子の平均二乗変位は小さくなった。このことは、第3フィラーにより上記のアプローチ2を実現できることを示している。
【0107】
2.封止樹脂材料の充填時間の評価
ブリードの染み出しの評価に加えて、上記の実施例及び比較例の封止樹脂材料の計算モデルを使用して、粗視化分子動力学法を用いたシミュレーションによって、半導体素子及び配線基板の隙間に封止樹脂材料が毛細管現象で充填される過程を簡易的にモデル化した系を解析した。これにより、これらの計算モデルにモデル化された封止樹脂材料を配線基板及び半導体素子の間の隙間に充填した場合の充填時間を模擬的に評価した。
【0108】
本評価のシミュレーションにおける封止樹脂材料の計算モデルとしては、上記の実施例1、実施例2、及び比較例の封止樹脂材料の計算モデルを使用した。この際には、エポキシ樹脂の樹脂分子数及び各フィラーの球状粒子数を、現実の充填時間を模擬的に評価できる数に設定した。また、本評価のシミュレーションの条件としては、以下の条件を用いた。
【0109】
・毛細管現象を分子動力学計算等によって解析している文献(例えば、C. Cupelli, B. Henrich, T. Glatzel, R. Zengerle, M. Moseler, and M. Santer, “Dynamic capillary wetting studied with dissipative particle dynamics”, New Journal of Physics, 043009, vol.10, (2008)等)を参考に、半導体素子及び配線基板の隙間に封止樹脂材料が毛細管現象で充填される過程を、平行平板間の隙間に封止樹脂材料が流入する系で簡易的にモデル化した。このとき、両方の平行平板を固定平行平板とした。
・ブリードの染み出しの評価と同様に、結合粒子間にFENE型のポテンシャル、非結合粒子間にLJ型のポテンシャルを用いて、Langevin方程式によって、モデル化した系の平行平板間の隙間に流入する封止樹脂材料の時間発展に伴うダイナミクス(動的過程)を解析した。計算実行中、固体表面は固定し、フィラーは剛体とした。
・長さσ、質量m、エネルギーεは無次元量とし、時間τ=σ(m/ε)1/2を用いて積分時間を0.004τとした。
・実施例1、実施例2、及び比較例の封止樹脂材料の計算モデルがモデル化した系の平行平板間の隙間に流入する過程をそれぞれ解析し、平行平板間の隙間の一定体積の充填が完了するまでのシミュレーションステップ数を求めた。これにより、封止樹脂材料の充填時間を模擬的に評価した。
【0110】
図14は、実施例1、実施例2、及び比較例の計算モデルのシミュレーションにおける充填完了までのシミュレーションステップ数を示すグラフである。
【0111】
図14に示されるように、実施例1においては、最も少ないステップ数で充填が完了した。また、実施例2及び比較例においては、充填が完了したステップ数が近い値となった。このことは、第2フィラーに対する第3フィラーの体積比が比較例から実施例2までの範囲及びその近傍である場合には、充填時間の短縮効果が得られることを示している。
【0112】
3.総合評価
以上のことから、ブリードの染み出しの抑制及び充填時間の短縮を両立させる観点から、第2フィラーに対する第3フィラーの体積比には好ましい範囲があることがわかる。具体的には、第2フィラーに対する第3フィラーの体積比は、0.0001以上0.3以下が好ましく、中でも0.03以上0.2以下、特に0.05以上0.15以下が好ましい。
【0113】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0114】
100 半導体パッケージ
110 配線基板
110f 配線基板の表面
112 基板電極
120 半導体素子
120f 半導体素子の表面
120e 半導体素子の端
122 素子電極
115 配線基板及び半導体素子の間の隙間
130 接合材料
150 導電性部材
200 ディスペンサ
10 封止樹脂材料(本発明の封止樹脂材料)
20 封止樹脂材料(従来の封止樹脂材料)
30 封止樹脂材料(計算モデル)
12 樹脂成分
12a エポキシ樹脂
12b 硬化剤
14 フィラー
14a 第1フィラー
14b 第2フィラー
14c 第3フィラー
22 封止樹脂材料のはみ出し部分
22b ブリード
22f フィレット
32 封止樹脂材料の濡れ広がり部分
LF フィレット長
LB ブリード長
LB´ 仮想のブリード長
LB ブリードに対応する部分の濡れ広がり長さ
LB´ 仮想のブリードに対応する部分の濡れ広がり長さ
300 固体
300f 固体の表面
図1
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