(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】炭素繊維用サイジング剤、炭素繊維用サイジング剤の水分散液、及びサイジング剤付着炭素繊維束
(51)【国際特許分類】
D06M 15/564 20060101AFI20220208BHJP
D06M 15/507 20060101ALI20220208BHJP
D06M 15/59 20060101ALI20220208BHJP
D06M 15/55 20060101ALI20220208BHJP
D06M 13/224 20060101ALI20220208BHJP
D06M 13/256 20060101ALI20220208BHJP
D06M 13/165 20060101ALI20220208BHJP
C08L 75/04 20060101ALI20220208BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20220208BHJP
C08L 77/06 20060101ALI20220208BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20220208BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20220208BHJP
D06M 101/40 20060101ALN20220208BHJP
【FI】
D06M15/564
D06M15/507
D06M15/59
D06M15/55
D06M13/224
D06M13/256
D06M13/165
C08L75/04
C08L67/02
C08L77/06
C08L63/00 A
C08J5/04 CEY
C08J5/04 CFC
C08J5/04 CFD
D06M101:40
(21)【出願番号】P 2020138922
(22)【出願日】2020-08-19
(62)【分割の表示】P 2018547814の分割
【原出願日】2017-10-30
【審査請求日】2020-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2016211672
(32)【優先日】2016-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017200941
(32)【優先日】2017-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】兼田 顕治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝明
(72)【発明者】
【氏名】若林 巧己
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彰浩
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 直樹
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-280624(JP,A)
【文献】特開2015-071663(JP,A)
【文献】特開昭60-065181(JP,A)
【文献】特開2014-098134(JP,A)
【文献】中国特許第104562693(CN,B)
【文献】国際公開第2016/043043(WO,A1)
【文献】特開2016-089276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 15/564
D06M 15/507
D06M 15/59
D06M 15/55
D06M 13/224
D06M 13/256
D06M 13/165
C08L 75/04
C08L 67/02
C08L 77/06
C08L 63/00
C08J 5/04
D06M 101/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)、成分(B)、及び成分(C)を含む炭素繊維用サイジング剤を0.1~5.0質量%含有する、サイジング剤付着炭素繊維束
であって、
前記成分(A)が成分(A-2)、及び成分(A-3)からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記成分(A-2)が、分子中に下記式(1-2)で表される構造を有するエステル化合物であり、
【化1】
[式中、Xは二価の芳香族基、二価の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基、又は二価の脂環式炭化水素基を表し;R1、及びR2はそれぞれ独立してメチル基、又は水素原子を表し、n1は1から50の整数を表す。]
前記成分(A-3)が、分子中に下記式(1-3)の構造を有するアミド化合物であり、
【化2】
[式中、Xは二価の芳香族基、二価の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基、または二価の脂環式炭化水素を表し;R、R1、及びR2はそれぞれ独立してメチル基、又は水素原子を表し;nは1から49の整数を表す。]
前記成分(B)が、下記式(2)で表されるエポキシ化合物、下記式(3)で表されるエポキシ化合物、及び下記式(4)で表されるエポキシ化合物からなる群より選ばれるエポキシ化合物であり、
【化3】
[式中、mは1~5の整数を表す。]
【化4】
[式中、R3およびR4は各々独立に水素原子または炭素数1~4の飽和脂肪族炭化水素基を表す。pは0~5の整数を表す。]
【化5】
[式中、qは0~5の整数を表す。]
前記成分(C)が、ビスフェノール型エポキシ化合物または脂肪族エポキシ化合物であ
る、サイジング剤付着炭素繊維束。
【請求項2】
成分(A)、成分(B)、及び成分(C)を含む炭素繊維用サイジング剤を0.1~5.0質量%含有する、サイジング剤付着炭素繊維束であって、
前記成分(A)が成分(A-1)を含み、
前記成分(A-1)が、分子中に下記式(1-1)の構造を有するウレタン化合物であり、
【化6】
[式中、Xは二価の芳香族基、二価の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基、または二価の脂環式炭化水素を表し;R1、及びR2はそれぞれ独立してメチル基、又は水素原子を表し;nは1から50の整数を表す。]
前記成分(B)が、下記式(2)で表されるエポキシ化合物、下記式(3)で表されるエポキシ化合物、及び下記式(4)で表されるエポキシ化合物からなる群より選ばれるエポキシ化合物であり、
【化7】
[式中、mは1~5の整数を表す。]
【化8】
[式中、R3およびR4は各々独立に水素原子または炭素数1~4の飽和脂肪族炭化水素基を表す。pは0~5の整数を表す。]
【化9】
[式中、qは0~5の整数を表す。]
前記成分(C)が、ビスフェノール型エポキシ化合物または脂肪族エポキシ化合物である、炭素繊維用サイジング剤であって、
前記成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計100質量部に対し、前記成分(A-1)の含有量が10~60質量部であり、前記成分(B)の含有量が15~55質量部であり、前記成分(C)の含有量が20~75質量部であり、かつ成分(A-1)と前記成分(B)と前記成分(C)との合計が、炭素繊維用サイジング剤の総質量に対し、50質量%以上である、サイジング剤付着炭素繊維束。
【請求項3】
前記成分(A-1)が分子中にエポキシ基を有する、請求項2に記載のサイジング剤付着炭素繊維束。
【請求項4】
さらに、脂肪族系エステル化合物を含有し、前記脂肪族系エステル化合物の含有量が、炭素繊維用サイジング剤の総質量に対し、5~20質量%である、請求項2または3に記載のサイジング剤付着炭素繊維束。
【請求項5】
さらに、界面活性剤を含有し、前記界面活性剤の含有量が、炭素繊維用サイジング剤の総質量に対し、10~25質量%である、請求項2~4のいずれか一項に記載のサイジング剤付着炭素繊維束。
【請求項6】
前記界面活性剤が下記式(5)で表されるアニオン系界面活性剤である請求項5に記載のサイジング剤付着炭素繊維束。
【化10】
[式中、R5およびR6は各々独立に水素原子、炭素数1~18の脂肪族炭化水素基または炭素数6~20の芳香族炭化水素基であり;rは5~25の整数を表す。]
【請求項7】
前記成分(A)が成分(A-2)を含み、前記成分(A-2)が分子中にエポキシ基を有する、請求項1に記載のサイジング剤付着炭素繊維束。
【請求項8】
前記成分(A)が成分(A-2)を含み、前記成分(A-2)が分子中に下記式(1-2)’で表される構造を有する、請求項1又は7に記載のサイジング剤付着炭素繊維束。
【化11】
[式中、Xは二価の芳香族基、二価の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基、又は二価の脂環式炭化水素基を表し;Yはメチレン基、1,1-エチレン基、2,2-プロピレン基、-SO
2
-、酸素原子、硫黄原子又は単結合を表し;R1、及びR2はそれぞれ独立してメチル基、又は水素原子であり;n1、及びn2はそれぞれ独立して1から50の整数を
表す。]
【請求項9】
前記成分(A)が成分(A-2)を含み、前記成分(A)、前記成分(B)、及び前記成分(C)の含有量の合計100質量部に対し、前記成分(A-2)の含有量が40~80質量部であり、前記成分(B)の含有量が10~40質量部であり、前記成分(C)の含有量が10~30質量部である、請求項1、7および8のいずれか一項に記載のサイジング剤付着炭素繊維束。
【請求項10】
さらに、界面活性剤を含み、前記界面活性剤の含有量が、炭素繊維用サイジング剤の総質量に対し、5~30質量%である、請求項9に記載のサイジング剤付着炭素繊維束。
【請求項11】
前記界面活性剤がノニオン系界面活性剤である、請求項10に記載のサイジング剤付着炭素繊維束。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のサイジング剤付着炭素繊維束に熱硬化性樹脂組成物を含浸して熱硬化性樹脂組成物を加熱硬化させることを含む、炭素繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項13】
フィラメントワインディング法により、請求項
1~11のいずれか一項に記載のサイジング剤付着炭素繊維束に熱硬化性樹脂組成物を含浸して熱硬化性樹脂組成物を加熱硬化させ、炭素繊維強化圧力容器を製造することを含む、炭素繊維強化圧力容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維用サイジング剤、炭素繊維用サイジング剤の水分散液、サイジング剤付着炭素繊維、及びサイジング剤付着炭素繊維束に関する。
本願は、2016年10月28日に、日本に出願された特願2016-211672号、及び2017年10月17日に、日本に出願された特願2017-200941号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料の一つに、炭素繊維からなる強化材とマトリクス樹脂とにより形成される炭素繊維強化樹脂複合材料(以下、「炭素繊維複合材料」と表記する場合がある)がある。このマトリクス樹脂としては、エポキシ樹脂や、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂などの種々の樹脂が使用され、中でもエポキシ樹脂が広く使われている。
一般的に炭素繊維は、直径が5~8μm程度の単繊維を数千本から数万本の単位で束ねた炭素繊維束として用いられるので、炭素繊維束にマトリクス樹脂を含浸せしめることは容易ではない。
【0003】
マトリクス樹脂の含浸が不十分である場合、炭素繊維の強化材としての優れた性質を十分に発揮することができないことがあった。
【0004】
特に近年ではフィラメントワインディング(以下、「FW」と略す場合がある)成形法、プルトルージョン(以下、「PT」と略す場合がある)成形法など、優れた生産性を有する成形方法が炭素繊維複合材料に適用されるようになってきている。これらの成形方法においては、炭素繊維束を巻いたボビンから高速で炭素繊維束を引き出し、ローラーやガイドなどを介する加工工程において短い時間でマトリクス樹脂を含浸することが望まれている。
【0005】
従来から炭素繊維には、加工工程における取り扱い性、マトリクス樹脂との濡れ性を向上させることを目的として、サイジング剤が付与されている。
【0006】
例えば、炭素繊維束へのマトリクス樹脂の含浸が良好となるサイジング剤として、特許文献1及び2には表面自由エネルギーの異なるエポキシ化合物からなるサイジング剤が開示されている。また、耐擦過性を向上させることを目的として、特許文献3および特許文献4にはウレタン変性された化合物が付与されてなる炭素繊維束が開示されている。また、加工工程における炭素繊維束の取扱い性の向上を目的として特許文献5にはウレタン変性エポキシ樹脂とビスフェノールAエチレンオキサイド付加物からなるサイジング剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2003/010383号
【文献】特開2008-280624号公報
【文献】特開昭58-013781号公報
【文献】特開平01-314785号公報
【文献】特開2008-274520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び2に記載のサイジング剤を付与した炭素繊維束はフィラメントワインディングなどの高速の成形方法においてはマトリクス樹脂を十分に含浸させることが難しい場合があり、得られた複合材料の機械特性が不十分となる場合があった。特許文献3および4に記載のサイジング剤を付与した炭素繊維束は耐擦過性に優れるため、炭素繊維束の加工工程における取扱い性は良好であるものの、マトリクス樹脂の含浸が不十分となる場合があった。また、同様に特許文献5に記載のサイジング剤を用いた炭素繊維束の場合は、加工工程における取扱い性は良好であるものの、フィラメントワインディングなどの高速の成形方法においてはマトリクス樹脂を十分に含浸させることが難しい場合があった。
【0009】
すなわち、加工工程における樹脂の含浸、取扱い性、合材料の機械特性がいずれも良好である炭素繊維および炭素繊維束を提供できるサイジング剤は得られていないという課題がある。
さらにサイジング剤には、マトリクス樹脂の炭素繊維への含浸性、特にマトリクス樹脂内に炭素繊維が均一に分散し易い性質の向上の他、炭素繊維の集束性(炭素繊維の剛性)、炭素繊維とマトリクス樹脂との界面接着性の向上が要求されている。
【0010】
本発明の一つの局面は、上記事情に鑑みてなされたものであって、マトリクス樹脂の含浸、加工工程における取扱い性、複合材料の機械特性がいずれも良好である炭素繊維および炭素繊維束を提供できる炭素繊維用サイジング剤およびサイジング剤の水分散液を提供することを目的とする。また、そのサイジング剤が付与されたサイジング剤付着炭素繊維およびサイジング剤付着炭素繊維束、さらには機械特性に優れた炭素繊維強化複合材を提供することを目的とする。
【0011】
本発明の他の局面は、上記事情に鑑みてなされたものであって、マトリクス樹脂の含浸性、集束性、マトリクス樹脂との界面接着性、マトリクス樹脂内での分散のし易さがいずれも良好である炭素繊維及び炭素繊維束を提供できる炭素繊維用サイジング剤、及び炭素繊維用サイジング剤の水分散液を提供することを目的とする。
また、前記炭素繊維用サイジング剤が付与されたサイジング剤付着炭素繊維及びサイジング剤付着炭素繊維束を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の態様を含む。
[1] 成分(A)、成分(B)、及び成分(C)を含む炭素繊維用サイジング剤であって、
前記成分(A)が成分(A-1)、成分(A-2)、及び成分(A-3)からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記成分(A-1)が、分子中に下記式(1-1)の構造を有するウレタン化合物であり、
【化1】
[式中、Xは二価の芳香族基、二価の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基、または二価の脂環式炭化水素を表し;R1、及びR2はそれぞれ独立してメチル基、又は水素原子を表し;nは1から50の整数を表す。]
前記成分(A-2)が、分子中に下記式(1-2)で表される構造を有するエステル化合物であり、
【化2】
[式中、Xは二価の芳香族基、二価の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基、又は二価の脂環式炭化水素基を表し;R1、及びR2はそれぞれ独立してメチル基、又は水素原子を表し、n1は1から50の整数を表す。]
前記成分(A-3)が、分子中に下記式(1-3)の構造を有するアミド化合物であり、
【化3】
[式中、Xは二価の芳香族基、二価の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基、または二価の脂環式炭化水素を表し;R、R1、及びR2はそれぞれ独立してメチル基、又は水素原子を表し;nは1から49の整数を表す。]
前記成分(B)が、下記式(2)で表されるエポキシ化合物、下記式(3)で表されるエポキシ化合物、及び下記式(4)で表されるエポキシ化合物からなる群より選ばれるエポキシ化合物であり、
【化4】
[式中、mは1~5の整数を表す。]
【化5】
[式中、R3およびR4は各々独立に水素原子または炭素数1~4の飽和脂肪族炭化水素基を表す。pは0~5の整数を表す。]
【化6】
[式中、qは0~5の整数を表す。]
前記成分(C)が、ビスフェノール型エポキシ化合物または脂肪族エポキシ化合物である、炭素繊維用サイジング剤。
[2] 前記成分(A)が成分(A-1)を含み、前記成分(A-1)が分子中にエポキシ基を有する、[1]記載の炭素繊維用サイジング剤。
[3] 前記成分(A)が成分(A-1)を含み、前記成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計100質量部に対し、前記成分(A-1)の含有量が10~60質量部であり、前記成分(B)の含有量が15~55質量部であり、前記成分(C)の含有量が20~75質量部であり、かつ成分(A-1)と前記成分(B)と前記成分(C)との合計が、炭素繊維用サイジング剤の総質量に対し、50質量%以上である、[1]または[2]に記載の炭素繊維用サイジング剤。
[4] さらに、脂肪族系エステル化合物を含有し、前記脂肪族系エステル化合物の含有量が、炭素繊維用サイジング剤の総質量に対し、5~20質量%である、[3]に記載の炭素繊維用サイジング剤。
[5] さらに、界面活性剤を含有し、前記界面活性剤の含有量が、炭素繊維用サイジング剤の総質量に対し、10~25質量%である、[3]または[4]に記載の炭素繊維用サイジング剤。
[6] 前記界面活性剤が下記式(5)で表されるアニオン系界面活性剤である[5]に記載の炭素繊維用サイジング剤。
【化7】
[式中、R5およびR6は各々独立に水素原子、炭素数1~18の脂肪族炭化水素基または炭素数6~20の芳香族炭化水素基であり;rは5~25の整数を表す。]
[7] 前記成分(A)が成分(A-2)を含み、前記成分(A-2)が分子中にエポキシ基を有する、[1]に記載の炭素繊維用サイジング剤。
[8] 前記成分(A)が成分(A-2)を含み、前記成分(A-2)が分子中に下記式(1-2)’で表される構造を有する、[1]又は[7]に記載の炭素繊維用サイジング剤。
【化8】
[式中、Xは二価の芳香族基、二価の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基、又は二価の脂環式炭化水素基を表し;Yはメチレン基、1,1-エチレン基、2,2-プロピレン基、-SO
2-、酸素原子、硫黄原子又は単結合を表し;R1、及びR2はそれぞれ独立してメチル基、又は水素原子であり;n1、及びn2はそれぞれ独立して1から50の整数を表す。]
[9] 前記成分(A)が成分(A-2)を含み、前記成分(A)、前記成分(B)、及び前記成分(C)の含有量の合計100質量部に対し、前記成分(A-2)の含有量が40~80質量部であり、前記成分(B)の含有量が10~40質量部であり、前記成分(C)の含有量が10~30質量部である、[1]、[7]および[8]の何れか一項に記載の炭素繊維用サイジング剤。
[10] さらに、界面活性剤を含み、前記界面活性剤の含有量が、炭素繊維用サイジング剤の総質量に対し、5~30質量%である、[9]に記載の炭素繊維用サイジング剤。
[11] 前記界面活性剤がノニオン系界面活性剤である、[10]に記載の炭素繊維用サイジング剤。
[12] [1]~[11]のいずれか一項に記載の炭素繊維用サイジング剤、及び水を含み、
前記炭素繊維用サイジング剤が水中に分散した炭素繊維用サイジング剤の水分散液。
[13] 炭素繊維、及び炭素繊維用サイジング剤を含むサイジング剤付着炭素繊維束であって、自発分散性試験により測定される自発分散率が3以上である、サイジング剤付着炭素繊維束。
[14] サイジング剤付着炭素繊維束の総質量に対し、[1]~[11]のいずれか一項に記載の炭素繊維用サイジング剤を0.1~5.0質量%含有する、[13]に記載のサイジング剤付着炭素繊維束。
[15] [13]または[14]に記載のサイジング剤付着炭素繊維束に熱硬化性樹脂組成物を含浸して熱硬化性樹脂組成物を加熱硬化させることを含む、炭素繊維強化複合材料の製造方法。
[16] フィラメントワインディング法により、[13]または[14]に記載のサイジング剤付着炭素繊維束に熱硬化性樹脂組成物を含浸して熱硬化性樹脂組成物を加熱硬化させ、炭素繊維強化圧力容器を製造することを含む、炭素繊維強化圧力容器の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一つの局面では、炭素繊維用サイジングを用いることにより、マトリクス樹脂の含浸、加工工程における取扱い性、複合材料の機械特性がいずれも良好であるサイジング剤付着炭素繊維およびサイジング剤付着炭素繊維束を得ることができる。
【0014】
本発明の他の局面では、炭素繊維用サイジングを用いることにより、マトリクス樹脂の含浸性、集束性、マトリクス樹脂との界面接着性、マトリクス樹脂内での分散のし易さがいずれも良好であるサイジング剤付着炭素繊維及びサイジング剤付着炭素繊維束を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】開繊率Aを測定するための装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
≪炭素繊維用サイジング剤≫
<成分(A)>
本発明において、(A)成分は、成分(A-1)、成分(A-2)、及び成分(A-3)からなる群から選択される少なくとも1種である。
本発明の炭素繊維用サイジング剤に用いる成分(A-1)は、分子中に式(1-1)の構造を有するウレタン化合物である。成分(A-1)は、1分子中に少なくとも二つ以上のエポキシ基を有することが好ましい。
【0017】
【0018】
[式中、Xは二価の芳香族基、二価の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基、または二価の脂環式炭化水素基を表し;R1、及びR2はそれぞれ独立してメチル基または水素原子を表し;nは1から50の整数を表す。R1、及びR2はいずれか一方がメチル基で他方が水素原子であることが好ましい。]
【0019】
成分(A-1)は、ヒドロキシエチルオキシ基、ヒドロキシポリ(エチレンオキシ)基、ヒドロキシイソプロピルオキシ基またはヒドロキシポリ(イソプロピルオキシ)基を有するポリヒドロキシ化合物(以下、ポリヒドロキシ化合物Aと表記する)を含むポリヒドロキシ化合の物混合物(ポリオール混合物)と、ジイソシアネート化合物とを反応させて得ることができる。
ポリヒドロキシ化合物Aとしてヒドロキシイソプロピルオキシ基またはヒドロキシポリ(イソプロピルオキシ)基を有するポリヒドロキシ化合物を用いることが好ましい。
【0020】
分子中にエポキシ基を有する成分(A-1)は式(1-1)’で表される構造を有するウレタン化合物とヒドロキシ基を有するエポキシ化合物を反応させて得ることができる。
【0021】
【0022】
[式中、Xは二価の芳香族基、二価の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基、または二価の脂環式炭化水素基を表し;R1、及びR2はそれぞれ独立してメチル基または水素原子を表しり;nは1から50の整数を表す。R1、及びR2はいずれか一方がメチル基で他方が水素原子であることが好ましい。]
【0023】
分子中に式(1-1)’で表される構造を有するウレタン化合物は、ポリヒドロキシ化合物Aを含むポリヒドロキシ化合の物混合物(ポリオール混合物)とジイソシアネート化合物を、ポリオール混合物中のヒドロキシ基1molに対して、ジイソシアネート化合物中のイソシアネート基が過剰となるよう混合して、40~140℃で反応させることで得られる。
ポリヒドロキシ化合物Aとしてヒドロキシイソプロピルオキシ基またはヒドロキシポリ(イソプロピルオキシ)基を有するポリヒドロキシ化合物を用いることが好ましい。
【0024】
ポリヒドロキシ化合物Aを含むポリヒドロキシ化合の物混合物(ポリオール混合物)と、ジイソシアネート化合物とを反応させる際、反応を促進するためにウレタン重合用触媒、例えば、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジラウレート、第一スズオクトエート、スタナスオクトエート、オクチル酸鉛、ナフテン酸鉛、オクチル酸亜鉛等の有機金属化合物、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン等の第三級アミン系化合物を使用することも可能である。
【0025】
ポリヒドロキシ化合物A以外のポリヒドロキシ化合物としては、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルアミドポリオール、アクリルポリオール、ポリウレタンポリオールが挙げられ、このうち、ポリエーテルポリオールを好ましく用いることができる。ポリヒドロキシ化合物は単独で用いても良いし、複数のものを併用しても良い。
【0026】
上記ヒドロキシイソプロピレンオキシ基またはヒドロキシポリ(イソプロピルオキシ)基を有するポリヒドロキシ化合物としては、多価アルコールに所望の分子量となるようにプロピレンオキサイドを付加させたもの(分子量100~10000)が好ましく用いられる。
【0027】
上記多価アルコールとしては、例えば、二価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール等が挙げられ、三価アルコールとしては、グリセリン、トリオキシイソブタン、1,2,3-ブタントリオール、1,2,3-ペンタントリオール、2-メチル-1,2,3-プロパントリオール、2-メチル-2,3,4-ブタントリオール、2-エチル-1,2,3-ブタントリオール、1,2,4-ブタントリオール、2,3,4-ペンタントリオール、2,3,4-ヘキサントリオール、ペンタメチルグリセリン、1,2,4-ペンタントリオール等が挙げられ、四価アルコールとしては、エリトリトール、1,2,3,4-ペンタンテトラオール、2,3,4,5-ヘキサテトラオール、1,2,3,5-ペンタンテトラオール、1,3,4,5-ヘキサンテトラオール等が挙げられ、五価アルコールとしては、キシリトール、アラビトール等が挙げられ、六価アルコールとしては、ソルビトール、マンニトール等が挙げられる。上記多価アルコールとして好ましいものは、これらの中でも2~4価のアルコールである。
【0028】
ジイソシアネート化合物としては、プロパン-1,2-ジイソシアネート、2,3-ジメチルブタン-2,3-ジイソシアネート、2-メチルペンタン-2,4-ジイソシアネート、オクタン-3,6-ジイソシアネート、3,3-ジニトロペンタン-1,5-ジイソシアネート、オクタン-1,6-ジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート、メタテトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート)、1,3-又は1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(水添MDI)、水添トリレンジイソシアネート等、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0029】
また、式(1-1)中のXが二価の芳香族基である場合、ジイソシアネートがトリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート、などの芳香族のジイソシアネートである場合は、本発明の炭素繊維用サイジング剤が炭素繊維表面との相互作用が強くなるとともに、耐熱性に優れる芳香環を有するマトリクス樹脂との相溶性に優れるものとなるため、好ましい。
【0030】
また、ジイソシアネートは単独で用いても良いし、複数のジイソシアネートを併用しても良い。さらに、トリイソシアネート、テトライソシアネートなどの一分子中に3個以上のイソシアネート基を持つポリイソシアネートを併用しても良い。
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、多価アルコール類と前記ハロゲン含有エポキシド類との反応生成物であるポリエチレングリコール型エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂の中でヒドロキシ基を有するものが、ヒドロキシ基を有するエポキシ化合物として挙げられ、このうちマトリクス樹脂との相溶性を向上させるという観点から、ヒドロキシ基を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0031】
分子中にエポキシ基を有する成分(A-1)は、例えば、イソシアネート残基を有し、分子中に式(1-1)’で表される構造を有するウレタン化合物とヒドロキシ基を有するエポキシ化合物を混合して40~140℃で反応させることで得られる。その際、分子中に式(1-1)’で表される構造を有するウレタン化合物中のイソシアネート残基1molに対して、ヒドロキシ基を有するエポキシ化合物中のヒドロキシ基が1~10molとなるようにする。
またその際、反応を促進するためにウレタン重合用触媒、例えば、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジラウレート、第一スズオクトエート、スタナスオクトエート、オクチル酸鉛、ナフテン酸鉛、オクチル酸亜鉛等の有機金属化合物、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン等の第三級アミン系化合物を使用することも可能である。
【0032】
成分(A-1)は分子中にウレタン結合を有しており、炭素繊維表面との相互作用が強く、かつ柔軟性を有する化合物である。炭素繊維束にマトリクス樹脂を含浸・硬化させる工程において、炭素繊維の単繊維の表面に付着したサイジング剤に成分(A-1)が含まれることによって、炭素繊維の単繊維の表面に強固に接着した柔軟な界面層を形成することが可能になり、その結果成分(A)を含むサイジング剤が付着した炭素繊維を複合材料の強化繊維として用いた場合にその複合材料の機械特性能が良好なものとなる。
分子中にエポキシ基を有する成分(A-1)は分子中にエポキシ基とウレタン結合を有しており、炭素繊維表面との相互作用が強く、かつ柔軟性を有する化合物である。炭素繊維束にマトリクス樹脂を含浸・硬化させる工程において、炭素繊維の単繊維の表面に付着したサイジング剤に分子中にエポキシ基を有する成分(A-1)が含まれることによって、炭素繊維の単繊維の表面に強固に接着した柔軟な界面層を形成することが可能になり、その結果成分(A)を含むサイジング剤が付着した炭素繊維を複合材料の強化繊維として用いた場合にその複合材料の機械特性能が特に良好なものとなる。
【0033】
成分(A-1)を含むサイジング剤の原料として、アデカレジンEPU-73B((株)ADEKA製)、アデカレジンEPU-78-11((株)ADEKA製)などの市販製品が使用できるが、これらの市販製品の多くはビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂など分子中に式(1-1)の構造を有さないビスフェノール型エポキシ樹脂が含まれている。本発明において、分子中に式(1-1)の構造を有さないビスフェノール型エポキシ樹脂は後述する成分(C)に該当する。アデカレジンEPU-73B、およびアデカレジンEPU-78-11に含まれる成分(A-1)は、分子中にエポキシ基を有する。
【0034】
成分(A-2)は、分子中に下記式(1-2)の構造を有するエステル化合物である。
【0035】
【0036】
[式中、Xは二価の芳香族基、二価の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基、又は二価の脂環式炭化水素基を表し;R1、及びR2はそれぞれ独立してメチル基、又は水素原子であり;n1は1から50の整数を表す。]
【0037】
成分(A-2)は、主鎖の末端がカルボキシ基であってもよく、アルコール性のヒドロキシ基であってもよい。
【0038】
成分(A-2)は、ポリヒドロキシ化合物Aを含むポリヒドロキシ化合の物混合物(ポリオール混合物)と、ジカルボキシ化合物又はカルボン酸無水物(以下、単に酸無水物と表記することがある)を混合して、反応させることで得られる。
【0039】
成分(A-2)は、分子中に式(1-2)’で表される構造を有することが好ましい。
【0040】
【0041】
[式中、Xは二価の芳香族基、二価の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基、又は二価の脂環式炭化水素基を表し;Yはメチレン基、1,1-エチレン基、2,2-プロピレン基、-SO2-、酸素原子、硫黄原子又は単結合を表し;R1、及びR2はそれぞれ独立してメチル基、又は水素原子であり;n1、及びn2はそれぞれ独立して1から50の整数を表す。]
【0042】
成分(A-2)は、分子中にエポキシ基を有していてもよい。エポキシ基を有する成分(A-2)は、下記式(1-2)’’で表される構造を有する成分(A-2’)と、1分子中に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物とを反応させて得ることができる。
【0043】
【0044】
[式中、Xは二価の芳香族基、二価の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基、又は二価の脂環式炭化水素基を表し;R1、及びR2はそれぞれ独立してメチル基、又は水素原子であり;n1は1から50の整数を表す。]
【0045】
分子中に式(1-2)’’で表される構造を有する成分(A-2’)(即ち、主鎖の末端がカルボキシ基である成分(A-2))は、ポリヒドロキシ化合物Aを含むポリヒドロキシ化合物の混合物(ポリオール混合物)と、ジカルボキシ化合物又はカルボン酸無水物(以下、単に酸無水物と表記することがある)を、ポリオール混合物中のヒドロキシ基に対して、ジカルボキシ化合物又は酸無水物中のカルボン酸が過剰となるよう混合して、反応させることで得られる。
【0046】
主鎖の末端がアルコール性のヒドロキシ基である成分(A-2)は、ポリオール混合物と、ジカルボキシ化合物又は酸無水物を、ポリオール混合物中のヒドロキシ基に対して、ジカルボキシ化合物又は酸無水物中のカルボン酸が不足となるよう混合して、反応させることで得られる。
【0047】
ポリヒドロキシ化合物A以外のポリヒドロキシ化合物としては、ヒドロキシ基末端のポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルアミドポリオール、アクリルポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリエーテルポリオールを用いることができる。
ポリヒドロキシ化合物は単独で用いても良いし、複数のものを併用しても良い。
ポリヒドロキシ化合物Aとしては、ビスフェノール類に所望の分子量となるようにエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドを付加させたもの(質量平均分子量100~10000)が好ましく用いられ、分子中に式(1-2)’で表される構造を有する成分(A-2)を得ることができる。
なお、本発明において質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定された、標準ポリスチレン換算の値である。
【0048】
上記ビスフェノール類としては、例えば、ビスフェノールF、ビスフェノールE、ビスフェノールA、ビスフェノールS、4,4’-オキシジフェノール、4,4’-チオキシジフェノール及び4,4’-ビフェノールが挙げられる。ビスフェノール類のフェニレン基は置換基を有しても良い。置換基を有するフェニレン基を持つビスフェノール類として、各種のビスキシレノールやビスオルトクレゾールが挙げられる。このうちビスフェノールF及びビスフェノールAが好ましく、ビスフェノールAが更に好ましい。
ポリヒドロキシ化合物Aとしては、多価アルコールに所望の分子量となるようにエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドを付加させたもの(質量平均分子量100~10000)も好ましく用いられる。
【0049】
上記多価アルコールとしては、例えば、二価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,4-ジヒドロキシメチルベンゼン等が挙げられ、三価アルコールとしては、グリセリン、トリオキシイソブタン、1,2,3-ブタントリオール、1,2,3-ペンタントリオール、2-メチル-1,2,3-プロパントリオール、2-メチル-2,3,4-ブタントリオール、2-エチル-1,2,3-ブタントリオール、1,2,4-ブタントリオール、2,3,4-ペンタントリオール、2,3,4-ヘキサントリオール、ペンタメチルグリセリン、1,2,4-ペンタントリオール等が挙げられ、四価アルコールとしては、エリトリトール、1,2,3,4-ペンタンテトラオール、2,3,4,5-ヘキサテトラオール、1,2,3,5-ペンタンテトラオール、1,3,4,5-ヘキサンテトラオール等が挙げられ、五価アルコールとしては、キシリトール、アラビトール等が挙げられ、六価アルコールとしては、ソルビトール、マンニトール等が挙げられる。上記多価アルコールとして好ましいものは、これらの中でも2~4価のアルコールである。
【0050】
ジカルボキシ化合物としては、テレフタル酸、イソフタル酸等、及びこれらの混合物が挙げられる。酸無水物としては無水フタル酸が挙げられる。これらのジカルボン酸と酸無水物はメチル基、エチル基等の置換基を有しても良い。
【0051】
また、式(1-2)中のXが二価の芳香族基である場合、即ち、ジカルボキシ化合物がテレフタル酸、イソフタル酸、などの芳香族のジカルボキシ化合物である場合は、本発明の炭素繊維用サイジング剤が炭素繊維表面との相互作用が強くなるとともに、耐熱性に優れる芳香環を有するマトリクス樹脂との相溶性に優れるものとなるため、好ましい。
また、ジカルボキシ化合物は単独で用いても良いし、複数のジカルボキシ化合物を併用しても良い。さらに、一分子中に3個以上のカルボキシ基を持つポリカルボン酸を併用しても良い。
【0052】
1分子中に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、多価アルコール類とハロゲン含有エポキシド類との反応生成物であるポリオール型エポキシ樹脂、ポリエチレングリコール型エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂が挙げられる。このうちマトリクス樹脂との相溶性を向上させるという観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂又はビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0053】
本発明の炭素繊維用サイジング剤に用いる成分(A-3)は、分子中に式(1-3)の構造を有するアミド化合物である。
【0054】
【0055】
[式中、Xは二価の芳香族基、二価の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基、または二価の脂環式炭化水素を表し;R、R1、及びR2はそれぞれ独立してメチル基、又は水素原子を表し;nは1から49の整数を表す。]
【0056】
成分(A-3)は、ポリヒドロキシ化合物Aを含むポリヒドロキシ化合物の混合物(ポリオール混合物)の分子末端のヒドロキシメチル基を酸化してカルボキシ基としたカルボン酸と、ジアミノ化合物とを反応させて得ることができる。
ジアミノ化合物としては、プロパン-1,2-ジアミン、2,3-ジメチルブタン-2,3-ジアミン、2-メチルペンタン-2,4-ジアミン、オクタン-3,6-ジアミン、3,3-ジニトロペンタン-1,5-ジアミン、オクタン-1,6-ジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、リジンジアミン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、メタテトラメチルキシリレンジアミン、イソホロンジアミン(3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルアミン)、1,3-又は1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ジフェニルメタン-4,4’-ジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジアミン、水添トリレンジアミン等、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0057】
<成分(B)>
成分(B)は、下記式(2)で表されるエポキシ化合物、下記式(3)で表されるエポキシ化合物、及び下記式(4)で表されるエポキシ化合物からなる群より選ばれるエポキシ化合物である。
【0058】
【0059】
[式中、mは1~5の整数を表す。]
【0060】
【0061】
[式中、R3及びR4は各々独立に水素原子または炭素数1~4の飽和脂肪族炭化水素基を表し;pは0~5の整数を表す。]
【0062】
【0063】
[式中、qは0~5の整数を表す。]
【0064】
成分(B)は、上記式(2)で表されるエポキシ化合物、上記式(3)で表されるエポキシ化合物、及び上記式(4)で表されるエポキシ化合物からなる群より選ばれるエポキシ化合物であればよく、一種を用いても複数種を混合して用いても良い。
一般的に工業的に入手可能なエポキシ樹脂は上記式(2)、(3)及び(4)中のm、p及びqが互いに異なる整数である化合物の混合物であり、混合物を上記式(2)、(3)及び(4)中のm、p、qに小数点以下の桁を表示して表す場合がある。
以下に成分(B)の例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
成分(B)の式(2)で表されるエポキシ化合物として、EPICLONHP7200シリーズ((DIC(株)製)などの市販製品が使用できる。
成分(B)の式(3)で表されるエポキシ化合物として、jER157S70(三菱ケミカル(株)製)、jER157S60(三菱ケミカル(株)製)などの市販製品が使用できる。
成分(B)の式(4)で表されるエポキシ化合物として、jER1032H60(三菱ケミカル(株)製)、jER1032S50(三菱ケミカル(株)製)などの市販製品が使用できる。
【0066】
成分(C)のビスフェノール型エポキシ化合物または脂肪族エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂などのビスフェノール型のエポキシ樹脂、または脂肪族のアルコールまたはポリオールとエピクロルヒドリンとの反応で形成されるグリシジルエーテル末端のエポキシ樹脂が挙げられる。また、エポキシ当量としては160~400g/eq、数平均分子量としては340~800、50℃における粘度が100mPa・s以上10000mPa・s以下であるものが好ましい。
また、粘度は、JIS Z8803(2011)における「円すい-板形回転粘度計による粘度測定方法」によって測定できる。
成分(C)としては、ビスフェノール型エポキシ化合物が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型樹脂が汎用的であるから更に好ましい。
脂肪族エポキシ化合物としては、グリセリントリグリシジルエーテルとしてエピオールG-100(日油(株)製)、ソルビトールポリグリシジルエーテルとしてデナコール、EX-612、EX-614、EX-622(以上ナガセケムテックス(株)製)などの市販製品が使用できる。
【0067】
本発明の一つの局面において、成分(A)の含有量は、成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計100質量部に対し、10質量部以上60質量部以下が好ましい。
成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計100質量部中に含まれる成分(A)が10質量部以上であれば、本発明の炭素繊維束へのマトリクス樹脂の含浸が良好なものとなると同時に、複合材料の強化繊維として用いた場合にその複合材料の機械特性が良好な炭素繊維束が得られる。60質量部以下であれば、FW成形などの加工工程における炭素繊維束の取扱い性が良好なものとなる。15質量部以上40質量部以下がさらに好ましい。
【0068】
本発明の他の局面において、成分(A)の含有量は、成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計100質量部に対し、10質量部以上90質量部以下が好ましい。
成分(A)の含有量が10質量部以上であれば、本発明のサイジング剤付着炭素繊維束へのマトリクス樹脂の含浸が良好なものとなると同時に、複合材料の強化繊維として用いた場合にその複合材料の機械特性が良好なサイジング剤付着炭素繊維束が得られる。
成分(A)の含有量が90質量部以下であれば、FW成形などの加工工程における炭素繊維束の取扱い性が良好なものとなる。
成分(A)の含有量は、40質量部以上80質量部以下がさらに好ましい。
【0069】
本発明の一つの局面において、成分(B)の含有量は、成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計100質量部に対し、15質量部以上55質量部以下が好ましい。
成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計100質量部中に含まれる成分(B)が15質量部以上であれば、本発明の炭素繊維束のFW成形などの加工工程における取扱い性が良好なものとなる。55質量部以下であれば、炭素繊維束へのマトリクス樹脂の含浸が良好なものとなる。20質量部以上45質量部以下がさらに好ましい。
【0070】
本発明の他の局面において、成分(B)の含有量は、成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計100質量部に対し、2質量部以上70質量部以下が好ましい。
成分(B)の含有量が2質量部以上であれば、本発明の炭素繊維束のFW成形などの加工工程における取扱い性が良好なものとなる。
成分(B)の含有量が70質量部以下であれば、サイジング剤付着炭素繊維束へのマトリクス樹脂の含浸が良好なものとなる。
成分(B)の含有量は、10質量部以上40質量部以下がさらに好ましい。
【0071】
本発明の一つの局面において、成分(C)の含有量は、成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計100質量部に対し、20質量部以上75質量部以下が好ましい。
成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計100質量部中に含まれる成分(C)が20質量部以上であれば本発明の炭素繊維束へのマトリクス樹脂の含浸が良好なものとなり、75質量部以下であればFW成形などの加工工程における炭素繊維束の取扱い性が良好なものとなる。40質量部以上60質量部以下がさらに好ましい。
【0072】
本発明の他の局面において、成分(C)の含有量は、成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計100質量部に対し、2質量部以上70質量部以下が好ましい。
成分(C)の含有量が2質量部以上であれば本発明のサイジング剤付着炭素繊維束へのマトリクス樹脂の含浸が良好なものとなる。
成分(C)の含有量が70質量部以下であればFW成形などの加工工程における炭素繊維束の取扱い性が良好なものとなる。
成分(C)の含有量は、10質量部以上30質量部以下がさらに好ましい。
【0073】
本発明の炭素繊維用サイジング剤は成分(A)、成分(B)、成分(C)に加えて、成分(D)として脂肪族系エステルを含んでいてもよい。
成分(D)の含有量は、炭素繊維用サイジング剤の総質量に対し、5質量%以上20質量%以下が好ましい。
成分(D)を含有することで、サイジング剤付着炭素繊維束の加工工程における取扱い性をより良好なものとすることができる。
【0074】
成分(D)としては脂肪族カルボン酸エステルであれば特に限定されるものではないが、炭素数が8以上21以下の脂肪族モノカルボン酸と脂肪族アルコールを脱水縮合して得られる脂肪族エステルが好ましい。具体的にはエキセパールシリーズ(花王(株))などが挙げられる。より具体的にはエキセパールEH-S、エキセパールSS(いずれも花王(株)の製品名)を挙げることができる。
【0075】
本発明のサイジング剤は、さらに、成分(E)としてノニオン系界面活性剤やアニオン系界面活性剤などの界面活性剤を含んでいてもよい。
本発明の炭素繊維用サイジング剤に含まれる成分(E)は、上述した成分(A)、成分(B)および成分(C)、任意成分としての成分(D)、およびその他の成分を水に分散させるために用いるものである。界面活性剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
炭素繊維用サイジング剤を炭素繊維に付与するために、水又は溶解性の低い有機溶剤に炭素繊維用サイジング剤を分散させて使用することもできるし、溶解性の高い有機溶剤にサイジング剤を溶解して使用することもできる。
水に分散させて使用する方が、有機溶剤に溶解させて使用するのに比べて取り扱いやすく、より優れる。
溶解性の低い有機溶剤としてはエタノールが挙げられる。
溶解性の高い有機溶剤としては、アセトンが挙げられる。
【0077】
成分(E)の含有量は、炭素繊維用サイジング剤が水中に分散した水分散液の安定性を勘案して適宜決定することができる。
成分(E)の含有量は、炭素繊維用サイジング剤の総質量に対し、5~30質量%が好ましく、10~25質量%がより好ましい。
5質量%以上であれば、サイジング剤の水分散液の安定性が良好であり、30質量%以下であれば、サイジング剤の効果が良好に発現する。
【0078】
ノニオン系界面活性剤としては、脂肪族ノニオン系界面活性剤として、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、グリセロールの脂肪酸エステル、ソルビトールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステルなどが挙げられる。又、フェノール系ノニオン界面活性剤として、アルキルフェノール系ノニオン、多環フェノール系ノニオンなどが挙げられる。また、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロック重合体(いわゆるプルロニックタイプ)が好適に用いられる。
【0079】
アニオン系界面活性剤としては、アンモニウムインを対イオンとしてアルキレンオキサイドの付加したフェノール系基を疎水基とする化合物が好ましい。
アニオン系界面活性剤としてはカルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩などの界面活性剤を用いることができる。なかでも硫酸エステル塩が好ましい。
【0080】
アニオン系界面活性剤としては、以下の式(5)で表される構造のものが好適に使用される。
【0081】
【0082】
[式中、R5及びR6は各々独立に水素原子、炭素数1~18の脂肪族炭化水素基または炭素数6~20の芳香族炭化水素基を表す。rは5~25の整数を表す。]
【0083】
≪炭素繊維用サイジング剤の水分散液≫
本発明の炭素繊維用サイジング剤の水分散液は、本発明の炭素繊維用サイジング剤、水を含む。これら以外に、他の成分を含んでいてもよい。本発明の炭素繊維サイジング用の水分散液に含まれる他の成分は、本発明の炭素繊維用サイジング剤によって奏される機能が損なわれることのない範囲内で配合されるものであり、例えば(ポリ)エステル化合物、(ポリ)ウレタン化合物、(ポリ)アミド化合物、(ポリ)イミド化合物などが挙げられる。
【0084】
本発明の炭素繊維用サイジング剤の水分散液は炭素繊維用サイジング剤と界面活性剤を混合して均一物とし、これを撹拌しながら水を徐々に加えて転相乳化させることにより調製できる。
本明細書において「分散」とは、水や有機溶剤などの分散媒中にサイジング剤が1nm~10μm程度の粒子またはミセルとなって浮遊した懸濁液となっている状態を意味する。
【0085】
本発明の炭素繊維用サイジング剤を炭素繊維の表面に付着させるサイジング処理は、ローラーを介して炭素繊維用サイジング剤溶液、又は炭素繊維用サイジング剤の分散液に炭素繊維を浸漬する方法、該炭素繊維用サイジング剤溶液、又は該炭素繊維用サイジング剤の分散液の付着したローラーに炭素繊維を接する方法、等によって炭素繊維に付与し、これを乾燥することによって行なうことができる。なお、炭素繊維の表面へのサイジング剤の付着量の調節は、炭素繊維用サイジング剤溶液、又は炭素繊維用サイジング剤の分散液の濃度調整や絞り量調整によって行なうことができる。又、乾燥は、熱風、熱板、加熱ローラー、各種赤外線ヒーターなどを利用して行なうことができる。
【0086】
また、本発明の炭素繊維用サイジング剤の水分散液中のサイジング剤濃度、すなわち炭素繊維用サイジング剤の水分散液中の揮発成分(サイジング処理において乾燥除去される水など)以外の成分の濃度は、通常10~50質量%程度の濃度になるように調整する。炭素繊維用サイジング剤の水分散液の調製段階で濃度を10質量%未満としてもよいが、炭素繊維用サイジング剤の水分散液中の水の占める割合が大きくなり、炭素繊維用サイジング剤の水分散液の調製から使用(炭素繊維のサイジング処理)までの間の運搬・保管などの面で不経済となる場合がある。そのため、炭素繊維用サイジング剤の水分散液を使用する(炭素繊維のサイジング処理する)に際して、所望のサイジング剤付着量となるように、炭素繊維用サイジング剤の水分散液をサイジング剤の濃度が、炭素繊維用サイジング剤の水分散液の総質量に対し、0.1~10質量%になるように希釈して用いる。
【0087】
≪サイジング剤付着炭素繊維≫
本発明のサイジング剤付着炭素繊維は、炭素繊維の表面に本発明の炭素繊維用サイジング剤が付着している。本発明の炭素繊維用サイジング剤が付着していることによって炭素繊維束へのマトリクス樹脂の含浸、FW成形などの加工工程における炭素繊維束の取扱い性が優れたものとなる。
炭素繊維用サイジング剤の付着量は、サイジング剤付着炭素繊維の総質量に対し、0.1~5.0質量%が好ましく、0.2~3.0質量%がより好ましい。
【0088】
本発明の炭素繊維用サイジング剤を付着させる炭素繊維は、ピッチ系、レーヨン系あるいはポリアクリロニトリル系などのいずれの原料物質から得られたものであってもよく、高強度タイプ(低弾性率炭素繊維)、中高弾性炭素繊維又は超高弾性炭素繊維のいずれでもよい。
【0089】
≪サイジング剤付着炭素繊維束≫
本発明のサイジング剤付着炭素繊維束は、炭素繊維、及び炭素繊維用サイジング剤を含み、サイジング剤により集束された炭素繊維束であって、自発分散性試験により測定される自発分散率が3以上である。
【0090】
(自発分散性試験の方法)
自発分散性試験は以下の方法により行う。
繊維長手方向に2.5cmの長さに炭素繊維束を切断して供試体とする。
この時、炭素繊維束の形状を乱さないように切断するため、ボビンから30cm引出した炭素繊維束をひねりや乱れのない状態でカッティングマットに置き、形状を維持したまま剃刀で切断する。
供試体の繊維長さ方向の両端と中央の幅を測定し、平均幅W0を算出する。
44~46℃の範囲に保持したビスフェノールA型エポキシ樹脂(25℃の粘度:11~15Pa・s)を自発分散性試験用の評価液とする。
自発分散性試験用の評価液をシャーレに入れ、対流のない状態で44~46℃の範囲に保持する。
供試体を自発分散性試験用評価液の上に浮かべて、この時を0秒とする。
60秒後の供試体繊維長さ方向の両端と中央の幅を測定し、平均幅Wを算出する。
供試験体の平均幅の測定期間(60秒)における増加倍率(平均幅W/平均幅W0)を各供試体の自発分散率とする。
同一炭素繊維束から採取した20個の供試体について自発分散性試験をそれぞれ行い、各供試体の自発分散率の平均値を炭素繊維束の自発分散率とする。
自発分散性試験を行うことにより評価液にサイジング剤が溶けるので、自発分散性試験の各測定には新しい評価液を用いる必要がある。
【0091】
自発分散性試験の評価液は44~46℃の範囲で液状である必要がある。従って25℃で11~15Pa・sのビスフェノールA型エポキシ樹脂であれば44~46℃の範囲で安定して液状を保つことができる。上述の粘度特性を有する、市販されるビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、jER828(三菱ケミカル(株)製)、EPICLON 850S(DIC(株)製)、アデカレジンEP-4100((株)ADEKA製)、等が挙げられる。
【0092】
サイジング剤付着炭素繊維束は、本発明のサイジング剤付着炭素繊維からなるものであることが好ましい。
【0093】
自発分散性の評価液としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(25℃の粘度:11~15Pa・s)以外の液体を用いた場合には異なった測定結果となる。
【0094】
本発明の炭素繊維束はマトリクス樹脂組成物との相互作用により炭素繊維束のフィラメント一本一本が外力を加えなくとも自発的に分散することを特徴とする。本発明の炭素繊維束に用いることが出来るサイジング剤は、マトリクス樹脂組成物に優れた濡れ性を有して、マトリクス樹脂組成物にすみやかに溶解し、且つマトリクス樹脂組成物にサイジング剤が溶解した溶解液の表面自由エネルギーが、マトリクス樹脂組成物のみの表面自由エネルギーよりも低いことを特徴とする。ここで、液体の表面自由エネルギーはWilhelmy法、等で測定できる。また、濡れ性はサイジング剤が付着した炭素繊維フィラメントとマトリクス樹脂組成物との動的接触角で測定できる。
【0095】
自発分散性試験における炭素繊維束の自発的な分散は以下の現象として理解される。
まず、炭素繊維束を評価液に浮かべると、炭素繊維のフィラメントに付着したサイジング剤が評価液に溶解する。サイジング剤が評価液に溶解することで炭素繊維束を拘束していたサイジング剤の量が少なくなるため、炭素繊維のフィラメント間の拘束力は低下する。炭素繊維束(供試体)を評価液に浮かべて炭素繊維束に付着したサイジング剤が評価液に溶解した直後は、炭素繊維束近傍には「サイジング剤が高濃度に溶解した評価液」が存在する。
【0096】
この「サイジング剤が高濃度に溶解した評価液」は、供試体から離れた(サイジング剤が溶解していない)評価液に比べて表面自由エネルギーが低い。
【0097】
供試体の端に位置する炭素繊維のフィラメントに注目すると、炭素繊維束側の評価液中のサイジング濃度が高く、反対側(炭素繊維束の外)のサイジング剤の濃度が低くいるので、炭素繊維束を広げる方向に力が働く。
【0098】
炭素繊維束を広げる力が、炭素繊維束のフィラメント間の拘束力を上回ったときに評価液に接した炭素繊維のフィラメント群は幅方向に広がっていく。
【0099】
評価液に溶解したサイジング剤の評価液中への拡散は濃度差を解消する方向に作用するが、評価液に接した炭素繊維のフィラメント群が幅方向広がることで、それまで評価液に接していなかった炭素繊維束の厚み方向内部にあった炭素繊維のフィラメントが評価液に接して、新たに評価液に接したフィラメントから評価液にサイジング剤が溶解して評価液中のサイジング剤の濃度が高くなり濃度差が維持され、炭素繊維束の幅が評価液の上で広がり続ける。
【0100】
本発明のサイジング剤付着炭素繊維束は下記の方法で測定する開繊率Aが150%以下であることを特徴とする。開繊率Aが150%以下であることにより、フィラメントワインディング成形などの加工工程における取扱い性に優れる。加工工程において、炭素繊維束を搬送するためのローラーやガイドにおいて炭素繊維束が過剰に開繊することを抑えることで、炭素繊維束の端折れなどによる加工工程中におけるトウ幅の変動の発生が抑えられ、均質な加工が容易となり、取扱い性に優れるため、好ましい。また、開繊率Aは110%以上であることが好ましい。開繊率Aが110%以下であると、サイジング剤による炭素繊維束内のフィラメント同士の拘束力が強く、炭素繊維束にマトリクス樹脂を含浸せしめることが難しい場合がある。
【0101】
本発明で記載される開繊率Aは以下の式で定義される。
{(開繊時のトウ幅)/(ボビン上のトウ幅)}×100(%)
上記「ボビン上のトウ幅」は、トラバースの折り返し部や外観上の変化が見られる部分を除いた3か所に定規を当てて測定し、その平均値として得られる。
さらに上記「開繊時のトウ幅」は、以下の方法で得られる。
図1のように開繊率Aを測定するための装置10を用いる。紙管上にトラバースを加えて円筒状に巻かれた炭素繊維束(ボビン1)から炭素繊維束を巻出し、ローラーを介して開繊バー2(スチール製円筒、直径10mm、硬質クロムメッキ、ビッカース硬度1000、表面粗さRa:0.8μm)3本からなる開繊装置に導き、それぞれの開繊バーへ抱き角60°で接触させて開繊処理を行う。この炭素繊維束を開繊したトウ幅を保ったまま、ローラーを介して駆動ローラー3で搬送し、張力1.0cN/texを与えてレーザー式測長センサ4により非接触でトウ幅の測定を行う。
なお、巻出し張力を0.30cN/tex、炭素繊維束の走行速度を10m/分とする。レーザー式測長センサの出力を100msに1回の頻度で取り込み10分間の平均値を「開繊時のトウ幅」とする。
【0102】
また、本発明のサイジング剤付着炭素繊維束は、本発明の炭素繊維用サイジング剤を含むものであることが好ましい。本発明の炭素繊維用サイジング剤付着炭素繊維束は、本発明の炭素繊維用サイジング剤が付与されていることによってFW成形などの加工工程における炭素繊維束の取扱い性が良好なものとなり、また、炭素繊維束への樹脂の含浸が良好である。また、本発明の炭素繊維用サイジング剤付着炭素繊維束を用いて製造した炭素繊維複合材料成型物の機械特性が良好なものとなる。
本発明において、サイジング剤付着炭素繊維束は、サイジング剤が炭素繊維束を構成する各々の炭素繊維の表面の少なくとも一部を被覆する形態または炭素繊維と炭素繊維の隙間を繋ぐ形態で、炭素繊維束の内部と表面の全体に分散して保持されている炭素繊維束を意味する。
【0103】
特に、本発明の炭素繊維用サイジング剤が成分(D)を含有する場合、該サイジング剤を含むサイジング剤付着炭素繊維束は優れた耐擦過性を有するものとなり、加工工程における取扱い性が良好なものとなる。
【0104】
本発明の炭素繊維用サイジング剤を含むがサイジング剤付着炭素繊維束は、機械的摩擦に対する耐擦過性に優れ、毛羽立ちが少ないので、製織などの加工工程における取扱いが容易で、毛羽の少ない織布やマルチアキシャルワープニット等の繊維基材を得ることができる。
【0105】
また、本発明の炭素繊維用サイジング剤を含むサイジング剤付着炭素繊維束は、機械的摩擦に対する耐擦過性に優れ、毛羽立ちが少なく、炭素繊維束へのマトリクス樹脂の含浸が良好であるため、フィラメントワインディング成形や引き抜き成形などの工程においてローラーやガイドを介しても毛羽やローラーへの巻き付きが発生せず、短い時間でマトリクス樹脂を含浸させることが容易であるためこれら成形方法の優れた生産性を損なわない。
【0106】
本発明の炭素繊維用サイジング剤を含むサイジング剤付着炭素繊維束は、マトリクス樹脂組成物を含浸させることにより、一方向プリプレグ、クロスプリプレグ、トウプレグ、短繊維シートプリプレグ、短繊維マットプリプレグなどの中間材料の形態にして炭素繊維複合材料に加工することができる。マトリクス樹脂組成物としては、特に限定されるものではないが、例えば、エポキシ樹脂、ラジカル重合系樹脂であるアクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱可塑性アクリル樹脂、さらにはフェノール樹脂などが挙げられる。
【0107】
≪炭素繊維複合材料≫
本発明の炭素繊維複合材料は、本発明の炭素繊維用サイジング剤を含むサイジング剤付着炭素繊維を用いて炭素繊維複合材料を成形したものであって、マトリクス樹脂としてエポキシ樹脂やアクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などのラジカル重合系樹脂、フェノール樹脂などを用いることができる。
炭素繊維複合材料を成形することにより、炭素繊維複合材料成形品を得ることができる。
【0108】
≪炭素繊維複合材料の製造方法≫
本発明の炭素繊維複合材料の製造方法は、本発明のサイジング剤付着炭素繊維束に、熱硬化性樹脂組成物を含浸したのち、熱硬化性樹脂組成物を加熱硬化させることを含む。
熱硬化性樹脂組成物の割合は、サイジング剤付着炭素繊維束100質量部に対して30~70質量部が好ましく、40~60質量部がより好ましい。
熱硬化性樹脂組成物を加熱硬化させる際の加熱条件は、60~200℃が好ましく、130~180℃が好ましい。また、上記温度で1~200分加熱することが好ましく、15~60分加熱することがより好ましい。
【0109】
≪炭素繊維強化圧力容器の製造方法≫
本発明の炭素繊維強化圧力容器の製造方法は、フィラメントワインディング法により、本発明のサイジング剤付着炭素繊維束に熱硬化性樹脂組成物を含浸したのち、熱硬化性樹脂組成物を加熱硬化させることを含む。
フィラメントワインディング法において、熱硬化性樹脂組成物の割合は、サイジング剤付着炭素繊維束100質量部に対して30~70質量部が好ましく、40~60質量部がより好ましい。
フィラメントワインディング法において、熱硬化性樹脂組成物を加熱硬化させる際の加熱条件は、60~200℃が好ましく、130~180℃が好ましい。また、上記温度で30~200分加熱することが好ましく、60~150分加熱することがより好ましい。
【実施例】
【0110】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0111】
表1及び表2に、実施例及び比較例に使用した原料を示す。
【0112】
【0113】
【0114】
表2に記載のA原料組成物は、成分(A)の他に液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂(いずれも成分(C))含むため、成分(A)の含有率を併記した。
<調製組成物1の調製>
調製組成物1は表2に記載のアデカレジンEPU-73Bからトルエンとメタノールを用いた抽出を繰り返し行うことで得た。
表3に参考例に使用した原料を示す。
【0115】
【0116】
[実施例1-1]
<炭素繊維用サイジング剤の水分散液の調製>
表1、表2に記載にしたA原料組成物と成分(B)~(E)を表4に記載した質量部で混合した炭素繊維用サイジング剤にイオン交換水を加え、ホモミキサーを用いた転相乳化によって、炭素繊維用サイジング剤の水分散液を得た。また、水分散液におけるサイジング剤の濃度を40質量%となるように調整した。
【0117】
また、表7には表4に記載した質量部で原料を混合して得られる炭素繊維用サイジング剤の、成分(A)、成分(B)、成分(C)の配合比率を記載した。なお、この配合比率は成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計100質量部に対する各成分の質量部である。
【0118】
<水分散液中のサイジング剤濃度の測定>
アルミニウム製のシャーレ(直径45mm、深さ10mm)にサイジング剤の水分散液を約2g秤量して105℃の熱風乾燥器で1時間乾燥後、シャーレに残留した成分を秤量した。サイジング剤の水分散液の質量をW1、乾燥後に残留した成分の質量をW2とし、下記計算式により水分散液中のサイジング剤濃度とした。
サイジング剤の水分散液中のサイジング剤濃度(%)={W2/W1}×100
【0119】
<炭素繊維のサイジング処理>
サイジング剤を付与していない炭素繊維束パイロフィルTRH50 18M(商品名、三菱ケミカル(株)製;フィラメント数18000本、繊維径6μm)を、サイジング剤の水分散液を満たした浸漬槽内を浸漬通過させた後、140℃の雰囲気下で10分間乾燥してからボビンに巻き取った。このとき、浸漬槽内におけるサイジング剤の水分散液中のサイジング剤濃度が約2.2質量%となるように、40質量%に調整したサイジング剤の水分散液を希釈して用いた。
【0120】
<炭素繊維束へのサイジング剤の付着量の測定>
メチルエチルケトンによるソックスレー抽出法によりサイズジング剤付与後の炭素繊維束のサイズ剤付着量を測定した。抽出時間は1時間とした。
【0121】
<自発分散性試験>
前記の方法により自発分散性を評価した。但し、評価液としてjER828(三菱ケミカル(株)製)を用いた。
【0122】
<圧力容器の作製および破裂圧の測定>
サイジング剤を付与した炭素繊維束を、FW装置を用いて、容量9リットルのアルミニウム製ライナー(全長540mm、胴部長さ415mm、胴部外径163mm、胴部の中央での肉厚3mm)に巻き付けた。使用したアルミニウム製のライナーは、JIS H 4040のA6061-T6に規定されるアルミニウム素材に熱処理を施した材料からなるものである。炭素繊維束は、紙管に巻いたボビンから巻出しガイドロールを介して位置を調整し、続けてタッチロールを使用してマトリクス樹脂組成物を炭素繊維束へ定量供給、含浸させた後に、以下の様にしてライナーへ巻きつけた。まず、ライナーの胴部に接する第一層目として、胴部上にライナーの回転軸方向に対し88.6°をなすフープ層を形成した。その後、ライナーの回転軸方向に対し11.0°の角度でライナーの鏡部を補強するヘリカル層を積層し、以降、表16に示すラミネートNo.3~8に記載の層を順次形成し、容器中間体を作製した。
【0123】
得られた容器中間体をFW装置から外し、加熱炉内に吊り下げて、炉内温度を2℃/分で135℃まで昇温した後135℃で2時間保持して硬化させた。その後、炉内温度を1℃/分で60℃まで冷却し、複合材料補強圧力容器を得た。複合材料補強圧力容器のタンク性能の評価結果(破裂圧の測定結果:タンクバースト 単位(MPa))を表4に示した。
なお、マトリクス樹脂組成物として、jER828、100質量部に対して、XN1045を80質量部加えたものを使用した。
【0124】
<圧力容器の作製における樹脂の含浸状態の評価>
圧力容器の作製時におけるタッチロール上でのマトリクス樹脂組成物の吸い込みと、作製した圧力容器の断面のボイドを観察しを以下の基準に従って評価し、結果を表7に示した。
◎:タッチロール上でのマトリクス樹脂組成物の吸い込みが良好であり、圧力容器断面にボイドがほとんど見られない。
○:タッチロール上でのマトリクス樹脂組成物の吸い込みはやや緩慢であるが、圧力容器断面にボイドがほとんど見られない。
△:タッチロール上でのマトリクス樹脂組成物の吸い込みはやや緩慢であり、圧力容器断面にボイドが一部見られる。
×:タッチロール上でのマトリクス樹脂組成物の吸い込みは緩慢であり、圧力容器断面にボイドが見られる。
【0125】
<圧力容器の作製工程での炭素繊維束の工程通過性の評価>
上記の圧力容器の作製時の工程通過性を以下の基準に従って評価し、結果を表7に示した。
◎:ガイドロールへの毛羽の堆積がほとんど見られない。
○:ガイドロールへの毛羽の堆積が若干ある。
△:ガイドロールへの毛羽の堆積が多いが、ガイドロールへの巻き付きは見られない。
×:ガイドロールへの毛羽の堆積が非常に多く、ガイドロールへの巻き付きが発生する。
【0126】
<開繊率Aの評価>
図1のように開繊率Aを測定するための装置10を用いた。紙管上にトラバースを加えて円筒状に巻かれた炭素繊維束(ボビン1)から炭素繊維束を巻出し、ローラーを介して開繊バー2(スチール製円筒、直径10mm、硬質クロムメッキ、ビッカース硬度1000、表面粗さRa:0.8μm)3本からなる開繊装置に導き、それぞれの開繊バーへ抱き角60°で接触させて開繊処理を行った。この炭素繊維束を開繊したトウ幅を保ったまま、ローラーを介して駆動ローラー3で搬送し、張力1.0cN/texを与えてレーザー式測長センサ4により非接触でトウ幅の測定を行った。
なお、巻出し張力を0.30cN/tex、炭素繊維束の走行速度を10m/分とした。レーザー式測長センサの出力を100msに1回の頻度で取り込み10分間の平均値を「開繊時のトウ幅」とした。
下記式から、開繊率Aを算出した。
開繊率A={(開繊時のトウ幅)/(ボビン上のトウ幅)}×100(%)
上記式の「ボビン上のトウ幅」は、トラバースの折り返し部や外観上の変化が見られる部分を除いた3か所に定規を当てて測定し、その平均値として得た。
【0127】
<樹脂含浸性の評価>
以下の方法により、樹脂付着率を測定し樹脂含浸性の評価を行った。
FW装置を用いて、サイジング剤が付与された炭素繊維束に、タッチローラーで樹脂を供給し、アルミニウム製ライナー(全長540mm、胴部長さ415mm、胴部外径163mm、胴部の中央での肉厚3mm)をマンドレルとして巻き付けた。
タッチローラーはφ200mmとし、タッチローラーの下部10mmを樹脂浴に浸漬させた。タッチローラーには金属ブレードを設置し、ローラーとブレードのクリアランスを0.1mmとした。樹脂にはjER828を用い、樹脂浴を温水に浸漬することで樹脂の温度を35℃とした。このタッチローラー上を抱き角50°でサイジング剤が付着した炭素繊維束を接触させた。また、タッチローラー直前のロール出側のトウ幅をφ10の金属ガイドで、5.5×10-3mm/texに規制した。タッチローラーに接触する直前の炭素繊維束の張力を1.2cN/tex、巻き取り速度を10/minとした。
【0128】
表7に記載した通り、実施例1-1では、圧力容器の作製工程における工程通過性は若干劣るものの、樹脂の含浸状態が良好であり、得られた圧力容器の性能も良好であった。
【0129】
[実施例2-1~24-1]
表1、表2に記載にしたA原料組成物と成分(B)~(E)を表4~6に記載した質量部で混合した他は、実施例1-1と同様の方法でサイジング処理された炭素繊維束を得て、得られた炭素繊維束を用いて実施例1-1と同様の評価を実施した。結果を表7~9に示す。
また、表7~9には表4~6に記載した質量部で原料を混合して得られる炭素繊維用サイジング剤の、成分(A)、成分(B)、成分(C)の配合比率を記載した。なお、この配合比率は成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計を100質量部に対する各成分の質量部である。
【0130】
[実施例25-1]
パイロフィルTRH50 18Mに代えて、パイロフィルTRH50 60M(商品名:三菱ケミカル(株)製;フィラメント数60000本、繊維径6μm)に変更した以外は、実施例2-1と同様の方法でサイジング処理された炭素繊維束を用いて実施例1-1と同様の評価を実施した。結果を表9に示す。
【0131】
[実施例26-1]
パイロフィルTRH50 18Mに代えて、パイロフィルTR50D 12L(商品名:三菱ケミカル(株)製;フィラメント数12000本、繊維径7μm)に変更した以外は、実施例2-1と同様の方法でサイジング処理された炭素繊維束を用いて実施例1-1と同様の評価を実施した。結果を表9に示す。
【0132】
[比較例1-1~5-1]
表1、表2に記載にしたA原料組成物と成分(B)~(E)を表10に記載した質量部で混合した他は、実施例1-1と同様の方法でサイジング処理された炭素繊維束を得て、得られた炭素繊維束を用いて実施例1-1と同様の評価を実施した。結果を表11に示す。
また、表11には表10に記載した質量部で原料を混合して得られる炭素繊維用サイジング剤の、成分(A)、成分(B)、成分(C)の配合比率を記載した。なお、この配合比率は成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計を100質量部に対する各成分の質量部である。
【0133】
[参考例1-1、2-1]
表12に記載の配合量にした他は実施例1-1と同様の方法でサイジング処理された炭素繊維束を得て、得られた炭素繊維束を用いて同様の評価を実施した。圧力容器の作製工程における樹脂の含浸状態は悪く、満足できるものではなかった。工程通過性および、得られた圧力容器の性能は良好であった。結果は表12に示す。
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
表13に、実施例1-2~10-2及び比較例1-2~6-2に使用した原料を示す。
【0144】
【0145】
<エステルA1の製造例>
ビスフェノールA-EO80モル付加物(ビルフェノールAの1モルに対するEO(エチレンオキサイド)の付加モル数80モル)を以下の手順にて用意した。
ビスフェノールA228質量部、トルエン1000質量部及び水酸化カリウム3質量部を耐圧反応器に仕込み、100℃、-0.1MPaの条件下、3時間かけて3520質量部のEOを圧力が0.5MPaを超えないように調整しながら仕込んだ。120℃で1時間熟成した後、-0.1MPaまで減圧し、トルエンを溜去した。こうして3700質量部のビスフェノールA-EO80モル付加物を得た。
【0146】
ビスフェノールAの1モルに対してEOが2モル付加したビスフェノールAのEO付加物(三洋化成工業株式会社製「ニューポールBPE-20」 以下「BPE-20」と略記する。)1580質量部、テレフタル酸996質量部(アルコール/酸=5/6モル比)及びテトライソプロポキシチタネート2質量部を、反応容器中で窒素流通下、170℃で水を留去しながら10時間反応させた。ここに更に前記ビスフェノールA-EO80モル付加物1590質量部を加えて180℃で-0.1MPaまで減圧し水を留去しながら10時間反応させ、3900質量部のエステルA1を得た。
【0147】
<エステルA2の製造例>
ビスフェノールA-40モルEO付加物(ビルフェノールAの1モルに対するEOの付加モル数40モル)を以下の手順にて用意した。
ビスフェノールA228質量部、トルエン400質量部及び水酸化カリウム2質量部を耐圧反応器に仕込み、100℃、-0.1MPaの条件下、3時間かけて1760質量部のEOを圧力が0.5MPaを超えないように調整しながら仕込んだ。120℃で1時間熟成した後、-0.1MPaまで減圧し、トルエンを溜去した。こうして1980部のビスフェノールA-EO40モル付加物を得た。
【0148】
BPE-20を1264質量部、テレフタル酸を830質量部(アルコール/酸=4/5モル比)及びテトライソプロポキシチタネートを2質量部の混合物を反応容器中、窒素流通下170℃で水を留去しながら10時間反応させた。ここに更に前記ビスフェノールA-EO40モル付加物1928質量部を加えて180℃で-0.1MPaまで減圧し、水を留去しながら10時間反応させ、3800質量部のエステルA2を得た。
【0149】
[実施例1-2]
<炭素繊維用サイジング剤の水分散液の調製>
表13に記載にした成分(A)~(E)を表14の実施例1-2の列に記載した割合(質量部)で混合して、炭素繊維用サイジング剤を得た。得られた炭素繊維用サイジング剤にイオン交換水を加え、ホモミキサーを用いた転相乳化によって、炭素繊維用サイジング剤の水分散液を得た。また、水分散液におけるサイジング剤の濃度を30質量%となるように調整した。
【0150】
<水分散液中のサイジング剤濃度の測定>
アルミニウム製のシャーレ(直径45mm、深さ10mm)にサイジング剤の水分散液を約2g秤量して105℃の熱風乾燥器で1時間乾燥後、シャーレに残留した成分を秤量した。サイジング剤の水分散液の質量をW1、乾燥後に残留した成分の質量をW2とし、下記計算式により水分散液中のサイジング剤濃度とした。
サイジング剤の水分散液中のサイジング剤濃度(質量%)={W2/W1}×100
【0151】
<炭素繊維のサイジング処理>
サイジング剤を付与していない炭素繊維束パイロフィルTRH50 30M(商品名、三菱ケミカル(株)製;フィラメント数30000本、繊維径6μm)を、サイジング剤の水分散液を満たした浸漬槽内を浸漬通過させた後、140℃の雰囲気下で10分間乾燥してからボビンに巻き取った。このとき、浸漬槽内におけるサイジング剤の水分散液中のサイジング剤濃度が約2.2質量%となるように、30質量%に調整したサイジング剤の水分散液を希釈して用いた。
【0152】
<炭素繊維束へのサイジング剤の付着量の測定>
メチルエチルケトンによるソックスレー抽出法により、サイジング剤付着炭素繊維の総質量に対する、炭素繊維用サイジング剤の付着量(質量%)を測定した。抽出時間は1時間とした。
【0153】
<樹脂含浸性の評価>
以下の方法により、樹脂付着率を測定し樹脂含浸性の評価を行った。
FW装置を用いて、サイジング剤が付与された炭素繊維束に、タッチローラーで樹脂を供給し、アルミニウム製ライナー(全長540mm、胴部長さ415mm、胴部外径163mm、胴部の中央での肉厚3mm)をマンドレルとして巻き付けた。
タッチローラーはφ200mmとし、タッチローラーの下部10mmを樹脂浴に浸漬させた。タッチローラーには金属ブレードを設置し、ローラーとブレードのクリアランスを0.1mmとした。樹脂にはjER828を用い、樹脂浴を温水に浸漬することで樹脂の温度を35℃とした。このタッチローラー上を抱き角50°でサイジング剤が付着した炭素繊維束を接触させた。また、タッチローラー直前のロール出側のトウ幅をφ10の金属ガイドで、9mmに規制した。タッチローラーに接触する直前の炭素繊維束の張力を2kgf、巻き取り速度を10/minとした。
マンドレルに巻き取った炭素繊維束を解舒して1m長さに5本切り出し、それぞれの質量を測定して、5本の質量の平均を「樹脂供給後の炭素繊維束の単位長さあたり質量」とした。
樹脂付着率(%)={(樹脂供給後の炭素繊維束の単位長さあたりの質量
-炭素繊維束の単位長さあたりの質量)/(樹脂供給後の炭素繊維束の単位長さあたりの質量)}×100
なお、「炭素繊維束の単位長さ当たりの質量」は紙管に巻いた状態の炭素繊維束(スプール)から炭素繊維束を解舒して1m長さに5本切り出し、それぞれの質量を測定して、5本の質量の平均値として計算した。
樹脂付着率が大きいほど、炭素繊維束の樹脂含浸性が高い。16%以上を○、14%以上16%未満を△、14%未満を×として判定を行った。
【0154】
<自発分散性試験>
前記の方法により自発分散性を評価した。但し、評価液としてjER828(三菱ケミカル(株)製)を用いた。
【0155】
<カンチレバー試験>
以下の方法により、カンチレバー値を測定し、これを炭素繊維束の集束性の指標とした。カンチレバー値が大きいほど、炭素繊維束の集束性が高い。24.0cm以上を○、22.0cm以上24.0cm未満を△、22.0cm未満を×として判定を行った。
(手順1)
測定は25℃の空気雰囲気下で行う。水平面と、該水平面の一端(直線状)から下方に向かって傾斜する、傾斜角度が45度の斜面とを有する測定台の、前記水平面上に炭素繊維束をボビンから30cm出し、ひねりや乱れのない状態で載せ、該試験用炭素繊維束の端部(直線状)を前記斜面と前記水平面との境界線Aにあわせる。この際に試験用炭素繊維束はボビンの表層側にあった面を水平面側にして載せる。該試験用炭素繊維束の上に押さえ板を載せ、該押さえ板の端部(直線状)を前記境界線Aに合わせる。
(手順2)
次に押さえ板を斜面に向かう水平方向に0.5cm/秒の速さで移動させて、前記試験用炭素繊維束の端部が斜面と接触した時点で押さえ板の移動を停止させる。
(手順3)
手順2で炭素繊維束の端部が斜面と接触した点と境界線Aの最短距離を測定する。
(手順4)
手順1~手順3を10回行い、得られた数値の単純平均値をカンチレバー値とした。
【0156】
<界面接着性の評価>
Bステージ化したエポキシ樹脂#350(三菱ケミカル(株)130℃硬化タイプ)からなるマトリクス樹脂を塗布してある離型紙の前記エポキシ樹脂の塗布面に、得られた炭素繊維束156本を引き揃えて配置した後、加熱圧着ローラーに通して炭素繊維束にエポキシ樹脂を含浸し、更にその上に保護フィルムを積層することにより、樹脂含有量約33質量%、炭素繊維目付250g/m2、幅500mmの一方向引揃え(UD)プリプレグを作製した。
続いて、前記UDプリプレグから調製した厚さ2mmのUD積層板を硬化成形することにより、炭素繊維複合材料成形品としての積層板を得た。
得られた炭素繊維複合材料成形品としての積層板における、炭素繊維とマトリクス樹脂との界面接着性を、該積層板の90°曲げ応力(ASTM-D-790に準拠)によって評価した。
90°曲げ応力が大きいほど、炭素繊維とマトリクス樹脂の接着性が良好であることを示す。90°曲げ応力が135MPa以上を○、125MPa以上135MPa未満を△、125MPa未満を×として判定を行った。
結果を表14に併記する。
【0157】
<開繊率Aの評価>
実施例1-1に記載した方法により開繊率Aを評価した。
【0158】
[実施例2-2~10-2、比較例1-2~6-2]
表13に記載にした成分(A)~(E)を表14又は15に記載の割合(質量部)で混合した他は、実施例1-2と同様の方法でサイジング剤付着炭素繊維束を得た。得られたサイジング剤付着炭素繊維束を用いて実施例1-2と同様の評価を実施した。結果を表14及び15に示す。
【0159】
【0160】
【0161】
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明の一つの局面では、炭素繊維用サイジングを用いることにより、マトリクス樹脂の含浸、加工工程における取扱い性、複合材料の機械特性がいずれも良好であるサイジング剤付着炭素繊維およびサイジング剤付着炭素繊維束を得ることができる。
【0163】
本発明の他の局面では、炭素繊維用サイジングを用いることにより、マトリクス樹脂の含浸性、集束性、マトリクス樹脂との界面接着性、マトリクス樹脂内での分散のし易さがいずれも良好であるサイジング剤付着炭素繊維及びサイジング剤付着炭素繊維束を得ることができる。
【符号の説明】
【0164】
1:サイジング剤付着炭素繊維束の捲かれたボビン
2:開繊バー
3:駆動ローラー
4:レーザー式測長センサ
10:開繊率Aを測定するための装置