(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】ボンド磁石用コンパウンド、成形体、及びボンド磁石
(51)【国際特許分類】
H01F 1/08 20060101AFI20220208BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20220208BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220208BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20220208BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20220208BHJP
C08G 59/20 20060101ALI20220208BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20220208BHJP
C08K 5/54 20060101ALI20220208BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
H01F1/08 130
H01F1/057 180
B22F1/00 Y
B22F1/102 100
B22F3/00 C
C08G59/20
C08K5/09
C08K5/54
C08L63/00 C
(21)【出願番号】P 2021570247
(86)(22)【出願日】2021-07-13
(86)【国際出願番号】 JP2021026302
【審査請求日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2020120780
(32)【優先日】2020-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】竹内 一雅
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 輝雄
(72)【発明者】
【氏名】平良 有紗
(72)【発明者】
【氏名】浦島 航介
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-163075(JP,A)
【文献】特開2001-160505(JP,A)
【文献】特開2013-253219(JP,A)
【文献】特開2004-14986(JP,A)
【文献】特開2011-142301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/08
H01F 1/057
B22F 1/00
B22F 3/00
C08G 59/20
C08K 5/09
C08K 5/54
C08L 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粉末、エポキシ樹脂、硬化剤、カップリング剤、及び金属塩を備え、
前記金属塩は、R
2Mと表され、
前記Rは、炭素数が6以上10以下である飽和脂肪酸基であり、
前記Mは、Ca及びBaのうち少なくとも一種の金属元素である、
ボンド磁石用コンパウンド。
【請求項2】
少なくとも一部の前記エポキシ樹脂が、ナフタレン構造を有するナフタレン型エポキシ樹脂である、
請求項1に記載のボンド磁石用コンパウンド。
【請求項3】
前記ナフタレン型エポキシ樹脂が、3官能エポキシ樹脂及び4官能エポキシ樹脂のうち少なくとも一つである、
請求項2に記載のボンド磁石用コンパウンド。
【請求項4】
少なくとも一部の前記硬化剤が、フェノール樹脂であり、
前記エポキシ樹脂のエポキシ当量に対する前記フェノール樹脂の水酸基当量の比率が、1.0以上1.4以下である、
請求項1~3のいずれか一項に記載のボンド磁石用コンパウンド。
【請求項5】
少なくとも一部の前記カップリング剤が、無水コハク酸基を有する、
請求項1~4のいずれか一項に記載のボンド磁石用コンパウンド。
【請求項6】
前記磁性粉末と、前記磁性粉末を構成する各磁性粒子を覆う樹脂組成物と、を含む第一粉と、
前記金属塩を含む第二粉と、を備え、
前記樹脂組成物が、前記エポキシ樹脂、前記硬化剤及び前記カップリング剤を含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載のボンド磁石用コンパウンド。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のボンド磁石用コンパウンドを備える、
成形体。
【請求項8】
前記磁性粉末を構成する一部又は全ての磁性粒子の表面の少なくとも一部は、樹脂組成物で覆われ、
前記樹脂組成物が、前記エポキシ樹脂、前記硬化剤及び前記カップリング剤を含み、
前記金属塩は前記成形体中に分散している、
請求項7に記載の成形体。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載のボンド磁石用コンパウンドの硬化物を備える、
ボンド磁石。
【請求項10】
前記磁性粉末を構成する一部又は全ての磁性粒子の表面の少なくとも一部は、樹脂組成物で覆われ、
前記樹脂組成物が、前記エポキシ樹脂、前記硬化剤及び前記カップリング剤を含み、
前記金属塩は前記ボンド磁石中に分散している、
請求項9に記載のボンド磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ボンド磁石用コンパウンド、成形体、及びボンド磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
ボンド磁石とは、ボンド磁石用コンパウンドを高圧で所定の形状に成形(compaction)し、コンパウンド中の樹脂を硬化することによって得られる磁石である。ボンド磁石用コンパウンドは、磁性粉末、樹脂(結着剤)、硬化剤及びカップリング剤等を含む混合物である。コンパウンドは成形され易いため、ボンド磁石の形状及び寸法の自由度は、焼結磁石に比べて高い。つまり、コンパウンドの成形により、薄いリング状のボンド磁石のような多様な形状及び寸法を有するボンド磁石を容易に製造することができる。またボンド磁石は磁性粉末だけではなく結着剤を含むため、焼結磁石に比べて、ボンド磁石の割れ及び欠けは生じ難い。さらに、ボンド磁石用コンパウンドは、他の部材と一体的に成形することができる。また、ボンド磁石内では絶縁性の結着剤が磁性粒子の間に存在するため、ボンド磁石は高い電気抵抗を有することができる。以上の理由により、ボンド磁石の用途は多岐にわたる。例えば、ボンド磁石は、自動車、一般的な家電製品、通信機器、音響機器、医療機器、又は一般産業機器等に利用されている。
【0003】
ボンド磁石は、金属石鹸(例えば、ステアリン酸亜鉛)又はワックス等の潤滑剤を含むコンパウンドの粉末を金型で成形することによって、製造される。しかし、ボンド磁石は結着剤として樹脂を含むため、ボンド磁石の加熱に伴う樹脂の軟化によって、ボンド磁石の機械的強度が著しく低下してしまう。特に、高温では、ボンド磁石の圧壊強度(crushing strength)が低下し易い。したがって、従来のボンド磁石を、耐熱性が要求される環境下で使用することは困難であった。
【0004】
ボンド磁石の耐熱性を向上するために、様々な熱硬化性樹脂を用いることが検討されている。例えば、特許文献1は、希土類ボンド磁石の高温での機械的強度を高める樹脂として、エポキシ樹脂及びポリベンゾイミダゾール其々を一定比率で含む結着剤を開示している。また、特許文献2は、希土類ボンド磁石用の結着剤として、ジヒドロベンズオキサジン環を有する化合物、ジヒドロベンズオキサジン環を有する化合物とエポキシ樹脂との混合物、又はジヒドロベンズオキサジン環を有する化合物とフェノール樹脂との混合物を開示している。また、特許文献3は、希土類ボンド磁石用の結着剤として、ポリアミドイミド樹脂を開示している。特許文献4には、樹脂量が低減された原料粉末を高圧力下で成形してもクラックの生じ難い圧粉体を用いることにより、密度の高いボンド磁石を製造することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-273916号公報
【文献】特開2001-214054号公報
【文献】特開2004-31786号公報
【文献】特開2012-209484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一側面の目的は、ボンド磁石の機械的強度(例えば、圧壊強度)を高めるボンド磁石用コンパウンド、当該ボンド磁石用コンパウンドを含む成形体、及びボンド磁石用コンパウンドの硬化物を含むボンド磁石を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係るボンド磁石用コンパウンドは、磁性粉末、エポキシ樹脂、硬化剤、カップリング剤、及び金属塩を含み、金属塩は、R2Mと表され、Rは、炭素数が6以上10以下である飽和脂肪酸基であり、Mは、Ca及びBaのうち少なくとも一種の金属元素である。
【0008】
少なくとも一部のエポキシ樹脂が、ナフタレン構造を有するナフタレン型エポキシ樹脂であってよい。
【0009】
ナフタレン型エポキシ樹脂が、3官能エポキシ樹脂及び4官能エポキシ樹脂のうち少なくとも一つであってよい。
【0010】
少なくとも一部の硬化剤が、フェノール樹脂であってよく、エポキシ樹脂のエポキシ当量に対するフェノール樹脂の水酸基当量の比率が、1.0以上1.4以下であってよい。
【0011】
少なくとも一部のカップリング剤が、無水コハク酸基を有してよい。
【0012】
本発明の一側面に係るボンド磁石用コンパウンドは、磁性粉末と、当該磁性粉末を構成する各磁性粒子を覆う樹脂組成物と、を含む第一粉と、上記金属塩を含む第二粉と、を含んでよく、樹脂組成物が、エポキシ樹脂、硬化剤及びカップリング剤を含んでよい。
【0013】
本発明の一側面に係る成形体(cоmpact)は、上記ボンド磁石用コンパウンドを含む。
成形体中の磁性粉末を構成する一部又は全ての磁性粒子の表面の少なくとも一部は、樹脂組成物で覆われてよく、樹脂組成物は、エポキシ樹脂、硬化剤及びカップリング剤を含んでよく、金属塩は成形体中に分散していてよい。
【0014】
本発明の一側面に係るボンド磁石は、上記ボンド磁石用コンパウンドの硬化物を含む。
ボンド磁石中の磁性粉末を構成する一部又は全ての磁性粒子の表面の少なくとも一部は、樹脂組成物で覆われてよく、樹脂組成物は、エポキシ樹脂、硬化剤及びカップリング剤を含んでよく、金属塩はボンド磁石中に分散していてよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一側面によれば、ボンド磁石の機械的強度(例えば、圧壊強度)を高めるボンド磁石用コンパウンド、当該ボンド磁石用コンパウンドを含む成形体、及びボンド磁石用コンパウンドの硬化物を含むボンド磁石が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態が説明される。本発明は下記実施形態に限定されない。
【0017】
[ボンド磁石用コンパウンド、成形体及びボンド磁石の概要]
本実施形態に係るボンド磁石用コンパウンドは、磁性粉末、エポキシ樹脂、硬化剤、カップリング剤、及び金属塩を含む。金属塩は、R2Mと表される。Rは、炭素数が6以上10以下である飽和脂肪酸基である。Mは、Ca(カルシウム)及びBa(バリウム)のうち少なくとも一種の二価の金属元素である。以下に記載のコンパウンドは、「ボンド磁石用コンパウンド」を意味する。
【0018】
R2Mと表される金属塩を含むコンパウンドからボンド磁石を製造することにより、ボンド磁石は高い機械的強度(圧壊強度等)を有し、高温でのボンド磁石の機械的強度(圧壊強度等)の低下が抑制される。つまり、飽和脂肪酸基Rの炭素数が6以上10以下であり、且つMがCa及びBaのうち少なくとも一種の金属元素である場合、ボンド磁石は高い機械的強度(圧壊強度等)を有し、高温でのボンド磁石の機械的強度(圧壊強度等)の低下が抑制される。高温でのボンド磁石の機械的強度とは、例えば、100℃以上200℃以下である温度でのボンド磁石の機械的強度である。
【0019】
Rの炭素数が6未満である場合、コンパウンドが十分な流動性及び離型性を有し難く、コンパウンドを成形し難く、ボンド磁石が所望の形状及び寸法を有し難く、室温及び高温においてボンド磁石が高い機械的強度(圧壊強度等)を有し難い。Rの炭素数が10より大きい場合、室温及び高温においてボンド磁石が高い機械的強度(圧壊強度等)を有し難い。本実施形態においてボンド磁石の機械的強度の低下が抑制される機構は、必ずしも解明されていない。発明者らは、以下の機構に因り、ボンド磁石の機械的強度の低下が抑制される、と考察する。
コンパウンドが、上記金属塩R2Mの代わりに、ステアリン酸亜鉛等の長鎖飽和脂肪酸の亜鉛塩を潤滑剤として含む場合、潤滑剤は、コンパウンドから形成されたボンド磁石に含まれるバインダー樹脂(樹脂組成物の硬化物)中に分散し易い。対照的に、ボンド磁石が、主な潤滑剤として上記金属塩R2Mを含むコンパウンドから形成される場合、多量の金属塩R2Mがボンド磁石の表面近傍に存在し易く、ボンド磁石の内部(ボンド磁石の表面から遠い部分)に存在する金属塩R2Mは少ない。その結果、ボンド磁石の内部に含まれるバインダー樹脂(樹脂組成物の硬化物)の機械的強度の低下が抑制され、ボンド磁石の機械的強度の低下も抑制される。ボンド磁石における上記金属塩R2Mの存在状態が、ボンド磁石における長鎖飽和脂肪酸塩(ステアリン酸亜鉛等)の存在状態と異なる理由は、Ca及びBaの少なくともいずれかから構成される上記金属塩R2Mの樹脂組成物との相溶性が、Znから構成される長鎖飽和脂肪酸塩の樹脂組成物との相溶性と異なるからである。長鎖飽和脂肪酸基(ステアリン酸基等)に比べて短いアルキル鎖(R)から構成される金属塩R2Mの潤滑性能を維持できる理由も、上記の機構に因る、と考えられる。ただし、本発明の技術的範囲は、上記機構によって限定されるものではない。
Rが、炭素数が6以上10以下である飽和脂肪酸基である場合、コンパウンドから形成された成形体(熱処理前の成形体)中の磁性粉末の錆が抑制され易く、コンパウンドから形成されたボンド磁石(熱処理後の成形体)中の磁性粉末の錆も抑制され易い。例えば、水の存在下で成形体中及びボンド磁石中の磁性粉末の錆が抑制され易い。
発明者らは、以下のメカニズムにより、水の存在下で成形体中及びボンド磁石中の磁性粉末の錆が抑制される、と推測する。
コンパウンドから形成された成形体においては、磁性粉末を構成する一部又は全ての磁性粒子の表面の少なくとも一部は、樹脂組成物で覆われ、金属塩は成形体中に分散している。金属塩は成形体に含まれる樹脂組成物中に存在していてよい。またコンパウンドから形成されたボンド磁石(熱処理後の成形体)においても、磁性粉末を構成する一部又は全ての磁性粒子の表面の少なくとも一部は、樹脂組成物(未硬化の樹脂組成物又は樹脂組成物の硬化物)で覆われ、金属塩はボンド磁石中に分散している。金属塩はボンド磁石に含まれる樹脂組成物中に存在していてよい。磁性粒子の表面が樹脂組成物で覆われることなく露出している場合、磁性粒子の露出した表面が水に直接接触する可能性がある。その結果、磁性粒子の露出した表面が水によって酸化され、錆が生じ易い。しかし、Rが、炭素数が6以上10以下である飽和脂肪酸基である場合、水中での金属塩(R2M)の解離によって飽和脂肪酸イオン(R-)が生成し易く、飽和脂肪酸イオンを構成するカルボキシレート基(‐COO-)の酸素(O-)が、磁性粒子の露出した表面に位置する金属元素(例えば鉄)と結合し易い。その結果、樹脂組成物で覆われていない磁性粒子の表面が飽和脂肪酸基で覆われ、飽和脂肪酸基が磁性粒子の表面の酸化を抑制する。つまり、金属塩に由来する飽和脂肪酸基が、磁性粒子の表面と水との直接的な接触を抑制し、成形体中及びボンド磁石中の磁性粉末の錆を抑制する。Rの炭素数が10より大きい場合、水中で金属塩(R2M)が解離し難く、飽和脂肪酸イオン(R-)が生成し難いので、成形体中及びボンド磁石中の磁性粉末の錆を抑制し難い。つまり、Rの炭素数が10より大きい金属塩を含む成形体中の磁性粉末は、Rの炭素数が6以上10以下である金属塩を含む成形体中の磁性粉末に比べて、水の存在下において短時間で錆び易い。成形体の場合と同様に、Rの炭素数が10より大きい金属塩を含むボンド磁石中の金属粉末は、Rの炭素数が6以上10以下である金属塩を含むボンド磁石中の磁性粉末に比べて、水の存在下において短時間で錆び易い。
成形体中及びボンド磁石中の磁性粉末の錆が更に抑制され易いことから、Rは、炭素数が6以上8以下である飽和脂肪酸基であってよい。
【0020】
コンパウンドは、磁性粉末、エポキシ樹脂、硬化剤、カップリング剤、及び上記金属塩R2Mを含む混合物であってよい。以下では、説明のために、樹脂(エポキシ樹脂等)、硬化剤、及びカップリング剤を包含する成分は、「樹脂組成物」と表記される。つまり、樹脂組成物は、樹脂(エポキシ樹脂等)、硬化剤、カップリング剤及び添加剤を包含し得る成分であって、有機溶媒と磁性粉末とを除く残りの成分(不揮発性成分)であってよい。添加剤とは、樹脂組成物のうち、樹脂(エポキシ樹脂等)、硬化剤及びカップリング剤を除く残部の成分である。添加剤とは、例えば、硬化促進剤及び難燃剤等であってよい。樹脂組成物は、添加剤として、上記金属塩R2Mを含んでいてもよい。樹脂組成物が、添加剤として、ワックスを含んでいてもよい。
【0021】
樹脂組成物は、磁性粉末を構成する個々の磁性粒子を互いに結着するバインダーとして機能し、コンパウンドから形成される成形体に機械的強度を付与する。例えば、金型を用いてコンパウンドが高圧で成形される際に、樹脂組成物は磁性粒子の間に充填され、磁性粒子を互いに結着する。そして、成形体中の樹脂組成物を硬化させることにより、樹脂組成物の硬化物が磁性粒子同士を更に強固に結着して、高い機械的強度を有するボンド磁石が得られる。
【0022】
コンパウンド中の磁性粉末の含有量は、磁性粉末及び樹脂組成物の総質量(100質量%)に対して、95質量%以上99.5質量%以下、より好ましくは96質量%以上99質量%以下であってよい。磁性粉末の含有量が上記範囲内である場合、ボンド磁石は磁気特性に優れ、且つボンド磁石の機械的強度と耐熱性が両立し易い。
【0023】
コンパウンドは、粉末であってよい。例えば、コンパウンドは、磁性粉末と、磁性粉末を構成する各磁性粒子を覆う樹脂組成物と、を含む第一粉と、上記金属塩R2Mを含む第二粉と、を含んでよい。つまり、第一粉を構成する個々の粒子は、磁性粒子と、磁性粒子の表面を覆う樹脂組成物と、を有してよい。第一粉を構成する個々の粒子は、磁性粒子及び樹脂組成物のみからなっていてよい。第二粉を構成する個々の粒子は、上記金属塩R2Mを含んでよい。第二粉を構成する個々の粒子は、上記金属塩R2Mのみからなっていてよい。例えば、上記金属塩R2Mがワックスとして機能する場合、第二粉を構成する個々の粒子は、上記金属塩R2Mのみからなっていてよい。第二粉を構成する個々の粒子は、上記金属塩R2Mと、当該金属塩とは異なるワックスの両方を含んでよい。第二粉を構成する個々の粒子は、上記金属塩R2M及びワックスのみからなっていてよい。コンパウンドは、第一粉及び第二粉の混合物であってよい。コンパウンド中の第一粉及び第二粉は、均一に混合されていてよい。コンパウンドは、第一粉及び第二粉のみからなっていてもよい。コンパウンドは、磁性粉末、樹脂組成物、及び上記金属塩R2Mが一体化された一種類の粉末のみからなっていてもよい。コンパウンドは、磁性粉末、樹脂組成物、上記金属塩R2M、及びR2Mとは異なるワックスが一体化された一種類の粉末のみからなっていてもよい。
【0024】
コンパウンドが、上記金属塩R2Mのみからなる第二粉、又は金属塩R2M及び他のワックスを含む第二粉を有することにより、コンパウンドの全体が、上記金属塩又はワックスに由来する優れた流動性を有することができる。優れた流動性とは、コンパウンドが流動し易い性質と言い換えられてよい。第二粉を含まない従来のコンパウンド粉は、第一粉及び第二粉を含むコンパウンドよりも流動性に劣る。例えば、磁性粒子、樹脂組成物及び上記金属塩R2Mが一体化された一種類の粉末のみからなるコンパウンド粉は、第一粉及び第二粉を含むコンパウンドよりも流動性に劣る傾向がある。
【0025】
本実施形態に係る成形体は、上記ボンド磁石用コンパウンドを含む。金型内に充填されたコンパウンドの圧縮成形により、成形体が得られる。本実施形態では、常温下でコンパウンドの圧縮成形を行うことができる。コンパウンド粉を加熱しながらコンパウンドの圧縮成形を行うこともできる。
【0026】
本実施形態に係るボンド磁石は、上記ボンド磁石用コンパウンドの硬化物を含む。金型から抜き出された成形体の熱処理により、成形体中の樹脂組成物が硬化し、成形体中の磁性粒子が樹脂組成物の硬化物で互いに結着され、ボンド磁石が得られる。
【0027】
(金属塩R2M)
上述の通り、金属塩R2Mを構成するRは、炭素数が6以上10以下である飽和脂肪酸基である。金属塩R2Mを構成するMは、Ca及びBaのうち少なくとも一種の金属元素である。炭素数が6以上10以下である飽和脂肪酸基Rは、炭素数が6であるカプロン酸基(CH3(CH2)4COO‐)、炭素数が7であるエナント酸基(CH3(CH2)5COO‐)、炭素数が8であるカプリル酸基(CH3(CH2)6COO‐)、炭素数が9であるペラルゴン酸基(CH3(CH2)7COO‐)、及び、炭素数が10であるカプリン酸基(CH3(CH2)8COO‐)からなる群より選ばれる少なくとも一種の飽和脂肪酸基であってよい。つまり、R2Mと表される金属塩は、カプロン酸カルシウム((CH3(CH2)4COO)2Ca)、カプロン酸バリウム((CH3(CH2)4COO)2Ba)、エナント酸カルシウム((CH3(CH2)5COO)2Ca)、エナント酸バリウム((CH3(CH2)5COO)2Ba)、カプリル酸カルシウム((CH3(CH2)6COO)2Ca)、カプリル酸バリウム((CH3(CH2)6COO)2Ba)、ペラルゴン酸カルシウム((CH3(CH2)7COO)2Ca)、ペラルゴン酸バリウム((CH3(CH2)7COO)2Ba)、カプリン酸カルシウム((CH3(CH2)8COO)2Ca)及びカプリン酸バリウム((CH3(CH2)8COO)2Ba)からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属塩を含んでよい。コンパウンドは、上記の金属塩のうち複数種の金属塩を含んでよい。コンパウンドは、上記の金属塩を含有する部分ケン化飽和脂肪酸エステルを含んでよい。
【0028】
R2Mと表される上記の金属塩は、ワックスとして機能してよい。ワックスは、潤滑剤及び離型剤のうちいずれか又は両方を意味する。R2Mと表される上記の金属塩が、ワックスとして機能する場合、コンパウンドは、金属塩に由来する優れた流動性を有することができるため、所望の形状に成形され易い。また金属塩がワックスとして機能する場合、コンパウンドから形成された成形体を破損させることなく型から分離し易い。
【0029】
ボンド磁石用コンパウンドは、RMR’と表される金属塩を含んでよく、R及びR’其々は、炭素数が6以上10以下である飽和脂肪酸基であってよく、R及びR’其々の炭素数は互いに異なってよく、Mは、Ca及びBaのうち少なくとも一種の金属元素であってよい。ボンド磁石用コンパウンドは、飽和脂肪酸のマグネシウム塩及び飽和脂肪酸のストロンチウム塩のうち少なくとも一種の金属塩を含んでよい。例えば、ボンド磁石用コンパウンドは、R2Mg、RMgR’、R2Sr及びRSrR’からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属塩を含んでよく、R及びR’其々は、炭素数が6以上10以下である飽和脂肪酸基であってよい。
【0030】
金属塩R2Mの質量の割合は、磁性粉末及び樹脂組成物の総質量(100重量部)に対して、0.01質量部以上1重量部以下、好ましくは0.05質量部以上0.5質量部以下、更に好ましくは0.1質量部以上0.3質量部以下であってよい。例えば、金属塩R2Mからなる上記の第二粉の質量の割合は、磁性粉末及び樹脂組成物からなる上記第一粉の総質量(100重量部)に対して、0.01質量部以上1重量部以下、好ましくは0.05質量部以上0.5質量部以下、更に好ましくは0.1質量部以上0.3質量部以下であってよい。金属塩R2Mの割合が0.01質量部未満である場合、コンパウンドの成形によって得られたボンド磁石を、金型から抜き出し難い。金属塩R2Mの割合が1質量部より大きい場合、ボンド磁石の機械的強度が低下する傾向がある。ただし、金属塩R2Mの質量の割合が上記範囲外であっても、本発明の効果を得ることはできる。
【0031】
(エポキシ樹脂及び硬化剤)
本実施形態に係るコンパウンドに含まれるエポキシ樹脂は、熱硬化性樹脂の中でも流動性に優れている。エポキシ樹脂は、例えば、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する樹脂であってよい。エポキシ樹脂のエポキシ当量は、230以下であることが好ましい。エポキシ当量が230以下であるエポキシ樹脂を用いることで、硬化剤であるフェノール樹脂との反応で生じるコンパウンドの単位質量当たりの水酸基(OH基)が多くなる。その結果、コンパウンドの硬化によって製造されるボンド磁石の機械的強度が向上する。コンパウンドの単位質量当たりの水酸基が多いほど、疎水性の油中におけるボンド磁石の耐食性が向上する。
【0032】
エポキシ樹脂は、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ジフェニルメタン型エポキシ樹脂、硫黄原子含有型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒド型エポキシ樹脂、ナフトール類とフェノール類との共重合型エポキシ樹脂、アラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アルコール類のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、パラキシリレン変性フェノール樹脂及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、シクロペンタジエン型エポキシ樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジル型又はメチルグリシジル型のエポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂、及びオレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0033】
少なくとも一部のエポキシ樹脂は、ナフタレン構造を有するナフタレン型エポキシ樹脂であってよい。ナフタレン型エポキシ樹脂は、常温で固体である。コンパウンドが、ナフタレン型エポキシ樹脂を含むことにより、ボンド磁石は室温で高い機械的強度を有し易く、ボンド磁石の耐熱性が向上し易く、高温におけるボンド磁石の機械的強度の低下を抑制し易い。ナフタレン型エポキシ樹脂は、例えば、ナフタレンジエポキシ化合物、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、ナフタレンノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレンジエポキシ化合物のメチレン結合二量体、及び、ナフタレンモノエポキシ化合物とナフタレンジエポキシ化合物のメチレン結合体等からなる群より選ばれる少なくとも一種のエポキシ樹脂であってよい。
【0034】
ナフタレン型エポキシ樹脂は、3官能エポキシ樹脂及び4官能エポキシ樹脂のうち少なくとも一つであることが好ましい。ナフタレン型エポキシ樹脂は、4官能エポキシ樹脂であることがより好ましい。コンパウンドに含まれるナフタレン型エポキシ樹脂が、3官能エポキシ樹脂及び4官能エポキシ樹脂のうち少なくとも一つである場合、コンパウンドの硬化の過程で、ナフタレン型エポキシ樹脂が互いに三次元的に架橋され、強固な架橋ネットワークがボンド磁石中に形成され、高温においてボンド磁石中のナフタレン型エポキシ樹脂の動きが抑制され易い。つまり、3官能エポキシ樹脂及び4官能エポキシ樹脂其々のガラス転移温度は、2官能エポキシ樹脂のガラス転移温度よりも高い。したがって、コンパウンドに含まれるナフタレン型エポキシ樹脂が、3官能エポキシ樹脂及び4官能エポキシ樹脂のうち少なくとも一つである場合、ボンド磁石の耐熱性が向上し易く、高温におけるボンド磁石の機械的強度の低下を抑制し易い。
【0035】
3官能のナフタレン型エポキシ樹脂又は4官能のナフタレン型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、DIC株式会社製のHP-4700、HP-4710、HP-4770、EXA-5740、又はEXA-7311-G4等が用いられてよい。コンパウンドに含まれるナフタレン型エポキシ樹脂は、2官能エポキシ樹脂であってもよい。2官能のナフタレン型エポキシ樹脂の市販品としては、HP-4032又はHP-4032D等が用いられてよい。コンパウンドに含まれるナフタレン型エポキシ樹脂は、βナフトール型エポキシ樹脂であってもよい。
【0036】
コンパウンドは、上記のうち一種のエポキシ樹脂を含んでよい。コンパウンドは、上記のうち複数種のエポキシ樹脂を含んでもよい。
【0037】
硬化剤は、低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤と、加熱に伴ってエポキシ樹脂を硬化させる加熱硬化型硬化剤と、に分類される。低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤は、例えば、脂肪族ポリアミン、ポリアミノアミド、及びポリメルカプタン等である。加熱硬化型硬化剤は、例えば、芳香族ポリアミン、酸無水物、フェノールノボラック樹脂、及びジシアンジアミド(DICY)等である。
【0038】
低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤を用いた場合、エポキシ樹脂の硬化物のガラス転移点は低く、エポキシ樹脂の硬化物は軟らかい傾向がある。その結果、コンパウンドから形成された成形体及びボンド磁石も軟らかくなり易い。したがって、ボンド磁石の耐熱性(高温での機械的強度)を向上させる観点から、硬化剤は、好ましくは加熱硬化型の硬化剤、より好ましくはフェノール樹脂、さらに好ましくはフェノールノボラック樹脂であってよい。特に硬化剤としてフェノールノボラック樹脂を用いることで、ガラス転移点が高いエポキシ樹脂の硬化物が得られ易い。その結果、ボンド磁石の耐熱性が向上し易い。
【0039】
一部又は全部の硬化剤は、フェノール樹脂であってよい。フェノール樹脂は、例えば、アラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、サリチルアルデヒド型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、ベンズアルデヒド型フェノールとアラルキル型フェノールとの共重合型フェノール樹脂、パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂、メラミン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトール樹脂、シクロペンタジエン変性フェノール樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、及びトリフェニルメタン型フェノール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノール樹脂は、上記のうちの2種以上のフェノール樹脂から構成される共重合体であってもよい。フェノール樹脂の市販品としては、例えば、荒川化学工業株式会社製のタマノル758、又は昭和電工マテリアルズ株式会社製のHP-850N等を用いてもよい。
【0040】
フェノールノボラック樹脂は、例えば、フェノール類及び/又はナフトール類と、アルデヒド類と、を酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られる樹脂であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するフェノール類は、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール及びアミノフェノールからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するナフトール類は、例えば、α‐ナフトール、β‐ナフトール及びジヒドロキシナフタレンからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するアルデヒド類は、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド及びサリチルアルデヒドからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0041】
硬化剤は、例えば、1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物であってよい。1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物は、例えば、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、及び置換又は非置換のビフェノールからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0042】
コンパウンドは、硬化剤として、上記のうち一種のフェノール樹脂を含んでよい。コンパウンドは、硬化剤として、上記のうち複数種のフェノール樹脂を含んでもよい。
【0043】
エポキシ樹脂のエポキシ当量に対するフェノール樹脂の水酸基当量の比率は、0.5以上1.5以下、0.9以上1.4以下、1.0以上1.4以下、又は1.0以上1.2以下であってよい。つまり、エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応するフェノール樹脂中の活性基(フェノール性OH基)の比率は、エポキシ樹脂中の1当量のエポキシ基に対して、好ましくは0.5当量以上1.5当量以下、より好ましくは0.9当量以上1.4当量以下、さらに好ましくは1.0当量以上1.4当量以下、特に好ましくは1.0当量以上1.2当量以下であってよい。フェノール樹脂中の活性基の比率が0.5当量未満である場合、硬化後のエポキシ樹脂の単位重量当たりのOH量が少なくなり、樹脂組成物(エポキシ樹脂)の硬化速度が低下する。またフェノール樹脂中の活性基の比率が0.5当量未満である場合、得られる硬化物のガラス転移温度が低下し易く、硬化物の充分な弾性率が得られ難く、ボンド磁石の耐油性が低下し易い。一方、フェノール樹脂中の活性基の比率が1.5当量を超える場合、コンパウンドから形成されたボンド磁石の機械的強度が低下する傾向がある。ただし、フェノール樹脂中の活性基の比率が上記範囲外である場合であっても、本発明に係る効果は得られる。
【0044】
(硬化促進剤)
硬化促進剤は、例えば、エポキシ樹脂と反応してエポキシ樹脂の硬化を促進させる組成物であればよく、限定されない。硬化促進剤は、リン系の硬化促進剤であることが好ましい。リン系硬化促進剤は、トリフェニルホスフィン-ベンゾキノン、トリス-4-ヒドロキシフェニルホスフィン-ベンゾキノン、テトラフェニルホスホニウム・テトラキス(4-メチルフェニル)ボレート、及びテトラ(n-ブチル)ホスホニウムテトラフェニルボレート等からなる群より選ばれる少なくとも一種の硬化促進剤であってよい。上記硬化促進剤を含むコンパウンドから製造されたボンド磁石は、優れた機械的強度を有し易い。また上記硬化促進剤を含むコンパウンドは、高温及び高湿な環境下においても長期間にわたって安定的に保存し易い。硬化促進剤は、例えば、アルキル基置換イミダゾール、又はベンゾイミダゾール等のイミダゾール類であってもよい。コンパウンドは、一種の硬化促進剤を含んでよい。コンパウンドは、複数種の硬化促進剤を含んでもよい。
【0045】
硬化促進剤の配合量は、硬化促進効果が得られる量であればよく、特に限定されない。ただし、樹脂組成物の吸湿時の硬化性及び流動性を改善する観点からは、硬化促進剤の配合量は、100質量部のエポキシ樹脂に対して、好ましくは0.1質量部以上30質量部以下、より好ましくは1質量部以上15質量部以下であってよい。硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂及び硬化剤(例えばフェノール樹脂)の質量の合計に対して0.001質量部以上5質量部以下であることが好ましい。硬化促進剤の配合量が0.1質量部未満である場合、十分な硬化促進効果が得られ難い。硬化促進剤の配合量が30質量部を超える場合、コンパウンドの保存安定性が低下し易い。ただし、硬化促進剤の配合量及び含有量が上記範囲外である場合であっても、本発明に係る効果は得られる。
【0046】
(カップリング剤)
カップリング剤は、エポキシ樹脂が有するグリシジル基と反応するカップリング剤であればよい。カップリング剤は、磁性粒子と樹脂組成物(エポキシ樹脂)との密着性を向上させ、コンパウンド粉から形成される成形体及びボンド磁石其々の機械的強度を向上させる。グリシジル基と反応するカップリング剤としては、例えば、シラン系化合物(シランカップリング剤)が好ましい。シランカップリング剤は、例えば、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、酸無水物系シラン及びビニルシランからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0047】
一部又は全部のカップリング剤は、無水コハク酸基を有することが好ましい。カップリング剤が無水コハク酸基を有することにより、磁性粒子と樹脂組成物(エポキシ樹脂)の密着性が向上し易く、多湿な環境下でカップリング剤がエポキシ樹脂と架橋され易く、ボンド磁石の耐熱性及び耐候性が向上し易い。コンパウンドは、上記のうち一種のカップリング剤を含んでよい。コンパウンドは、上記のうち複数種のカップリング剤を含んでもよい。
【0048】
(その他の添加剤)
コンパウンドの環境安全性、リサイクル性、成形加工性及び低コストのために、コンパウンドは難燃剤を含んでよい。難燃剤は、例えば、臭素系難燃剤、リン系難燃剤、水和金属化合物系難燃剤、シリコーン系難燃剤、窒素含有化合物、ヒンダードアミン化合物、有機金属化合物及び芳香族系エンジニアリングプラスチックからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。コンパウンドは、上記のうち一種の難燃剤を含んでよく、上記のうち複数種の難燃剤を含んでもよい。
【0049】
(ワックス)
コンパウンドは、上記金属塩R2Mに加えて、ワックスを含んでよい。コンパウンドがワックスを含むことにより、コンパウンドの流動性及び成形性が向上し、コンパウンドの離型性が向上する。その結果、ボンド磁石の形状及び寸法の精度が向上し、ボンド磁石の構造的欠陥が抑制され易い。ただし、上記金属塩R2Mがワックスとして十分に機能する場合、コンパウンドは、上記金属塩R2M及び他のワックスのうち、上記金属塩R2Mのみを含むことが好ましい。コンパウンドが、上記金属塩R2M以外のワックスを含まないことにより、室温及び高温でのボンド磁石の機械的強度が向上し易い。同様の理由から、コンパウンドが、上記金属塩R2Mと他のワックスの両方を含む場合、コンパウンド中の上記金属塩R2Mの含有量(単位:質量%)は、コンパウンド中の他のワックスの含有量よりも多いことが好ましい。ワックスは、例えば、飽和脂肪酸、飽和脂肪酸塩、及び飽和脂肪酸エステルのうち少なくともいずれか一つであってよい。ワックスは、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ヘンイコシル酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラウリン酸カルシウム、ミリスチン酸カルシウム、ペンタデシル酸カルシウム、パルミチン酸カルシウム、マルガリン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、アラキジン酸カルシウム、ヘンイコシル酸カルシウム、ベヘン酸カルシウム、リグノセリン酸カルシウム、セロチン酸カルシウム、モンタン酸カルシウム、メリシン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、ミリスチン酸バリウム、ペンタデシル酸バリウム、パルミチン酸バリウム、マルガリン酸バリウム、ステアリン酸バリウム、アラキジン酸バリウム、ヘンイコシル酸バリウム、ベヘン酸バリウム、リグノセリン酸バリウム、セロチン酸バリウム、モンタン酸バリウム、メリシン酸バリウム、ラウリン酸エステル、ミリスチン酸エステル、ペンタデシル酸エステル、パルミチン酸エステル、マルガリン酸エステル、ステアリン酸エステル、アラキジン酸エステル、ヘンイコシル酸エステル、ベヘン酸エステル、リグノセリン酸エステル、セロチン酸エステル、モンタン酸エステル及びメリシン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。コンパウンドは、上記以外のワックスを含んでもよい。例えば、ワックスは、上記飽和脂肪酸のマグネシウム塩、上記飽和脂肪酸のアルミニウム塩、12-オキシステアリン酸、リシノール酸カルシウム、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド、パルミチン酸アミド、ラウリン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ジステアリルアジピン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ジオレイルアジピン酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-オレイルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘン酸アミド、エチレングリコール、ステアリルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、シリコーンオイル、シリコングリース、フッ素系オイル、フッ素系グリース、含フッ素樹脂粉末、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、アマイドワックス、ポリプロピレンワックス、エステルワックス、カルナウバワックス、及びマイクロワックス等からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。コンパウンドは、上記のうち一種のワックスを含んでよい。コンパウンドは、上記のうち複数種のワックスを含んでもよい。
【0050】
(有機溶媒)
コンパウンドの製造過程では、樹脂組成物が溶解した有機溶媒で、磁性粉末を構成する個々の磁性粒子の表面を被覆することにより、均一なコンパウンドを得ることができる。有機溶媒は、樹脂組成物が溶解できる溶媒である限り、限定されない。有機溶媒は、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ベンゼン、トルエン及びキシレン等からなる群より選ばれる少なくとも一種の溶媒であってよい。作業性を考慮した場合、有機溶媒は、常温で液体であることが好ましく、有機溶媒の沸点が60℃以上150℃以下であることが好ましい。このような溶媒としては、例えば、アセトン又はメチルエチルケトンが好ましい。
【0051】
(磁性粉末)
磁性粉末は、樹脂組成物の硬化特性を低下させない限り、限定されない。磁性粉末は、例えば、サマリウム-コバルト(Sm-Co)系合金(希土類磁石)の粉末、ネオジム-鉄-ホウ素(Nd-Fe-B)系合金(希土類磁石)の粉末、サマリウム-鉄-窒素(Sm-Fe-N)系合金(希土類磁石)の粉末、鉄-コバルト(Fe-Co)系合金(合金磁石)の粉末、Al-Ni-Co系合金(アルニコ磁石)の粉末、又はフェライト系磁石の粉末等であってよい。
【0052】
磁性粉末を構成する個々の磁性粒子の形状は、特に限定されない。個々の磁性粒子は、扁平であってよい。個々の磁性粒子は、例えば、球状、又は針状であってもよい。磁性粉末の粒径は、例えば、20μm以上300μm以下、又は40μm以上250μm以下であってよい。磁性粉末の粒度は、ふるい分けによる磁性粒子の質量測定に基づいて算出されてよい。磁性粉末の粒度は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定されてもよい。コンパウンドは、平均粒径又はメジアン径(D50)において異なる複数種の磁性粉末を含んでよい。
【0053】
(無機フィラー)
コンパウンドは、無機フィラーを含んでよい。無機フィラーは、一種の粒子から構成されていてよい。無機フィラーは、二種以上の粒子の組み合わせであってもよい。無機フィラーの平均粒径は、1μm以上100μm以下、好ましくは1μm以上50μm以下、更に好ましくは1μm以上20μm以下、特に好ましくは1.5μm以上10μm以下であってよい。無機フィラーは、平均粒径の異なる複数種のフィラーの混合物であることが好ましい。これにより、ボンド磁石の空間充填率を高めることができる。
【0054】
好ましい無機フィラーは、シリカ(SiO2)粒子である。シリカ粒子は、例えば、ゾルゲル法により得られる球状シリカ、粉砕により微細化された破砕シリカ、乾式シリカ、又は湿式シリカであってもよい。球状シリカの市販品としては、MSR-2212、MSR-SC3、MSR-SC4、MSR-3512、MSR-FC208(以上、株式会社龍森の商品名)、エクセリカ(以上、株式会社トクヤマの商品名)、SO-E1、SO-E2、SO-E3、SO-E5、SO-E6、SO-C1、SO-C2、SO-C3、SO-C5、又はSO-C6(以上、アドマテックス株式会社の商品名)が用いられてよい。破砕シリカの市販品としては、クリスタライト3K-S、NX-7、MCC-4、CMC-12、A1、AA、CMC-1、VX-S2、VX-SR(以上、株式会社龍森の商品名)、F05、F05-30、F05-12(以上、福島窯業株式会社の商品名)が用いられてよい。レオロシール等の乾式シリカ、トクシール及びファインシール等の湿式シリカ(以上、株式会社トクヤマの商品名)が用いられてもよい。
【0055】
シリカ粒子の表面は、シランカップリング剤により処理されていることが好ましい。シリカ粒子の表面へのシランカップリング剤の付着により、コンパウンド中のシリカ粒子の沈降が抑制されて、シリカ粒子が安定的に分散したボンド磁石を得ることができる。シリカ粒子の表面処理用のシランカップリング剤は、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、n-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシランリエトキシシラン、n-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、n-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネ―トプロピルトリエトキシシラン、ジメチルシランの重縮合物、ジフェニルシランの重縮合物、及びジメチルシランとジフェニルシランの共重縮合物からなる群より選ばれる少なくとも一種のカップリング剤であってよい。上記の中でも、アミノ基を有するシランカップリング剤が特に好ましい。
【0056】
[ボンド磁石用コンパウンド、成形体及びボンド磁石の製造方法]
エポキシ樹脂、硬化剤(フェノール樹脂等)、硬化促進剤及びカップリング剤等の樹脂組成物の原料を有機溶媒に溶解することにより、樹脂組成物の溶液が得られる。磁性粉末を樹脂組成物の溶液へ添加して、磁性粉末を樹脂組成物の溶液中に分散させた後、減圧留去及び乾燥により、磁性粉末及び樹脂組成物を含む溶液から有機溶媒が除去される。その結果、磁性粉末を構成する個々の磁性粒子の表面が樹脂組成物で被覆され、磁性粉末及び樹脂組成物からなる第一粉が得られる。無機フィラーを含むコンパウンドを製造する場合、無機フィラーは磁性粉末と共に樹脂組成物の溶液へ添加されてよい。上述の通り、シランカップリング剤による無機フィラーの表面処理が予め実施されていることが好ましい。
【0057】
磁性粉末及び樹脂組成物を含む溶液から有機溶媒が除去する工程では、エバポレーターを用いて、溶液を撹拌しながら常温で有機溶媒の減圧留去を行うことが好ましい。減圧留去によって得られた固形物を減圧乾燥機などで更に乾燥した後、適宜、固形物を粉砕することにより、第一粉を得てよい。減圧留去の代わりに、ニーダなどで上記溶液を撹拌しながら常圧留去を行ってよい。留去によって得られた固形物の乾燥方法として、加熱は好ましくない。ただし、80℃以下、好ましくは60℃以下での固形物の加熱によって、固形物を乾燥してもよい。
【0058】
上記の方法によって得られた第一粉と、上記金属塩R2Mを含む第二粉を混合することにより、ボンド磁石用コンパウンドが得られてよい。
【0059】
金型内に充填された上記コンパウンドの圧縮成形により、成形体が得られる。成形圧力が高いほど、ボンド磁石の残留磁束密度及び機械的強度が高まる。成形圧力は、例えば、500MPa以上2500MPa以下であってよい。量産性及び金型の寿命も考慮される場合、成形圧力は、1400MPa以上2000MPa以下であってよい。成形体の密度は、磁性粉末の真密度に対して、好ましくは75%以上86%以下、より好ましくは80%以上86%以下であってよい。成形体の密度が磁性粉末の真密度に対して75%以上86%以下である場合、磁気特性及び機械的強度に優れたボンド磁石を製造することができる。
【0060】
成形体の熱処理により、成形体中の樹脂組成物が硬化し、成形体中の磁性粒子が樹脂組成物の硬化物で互いに結着され、ボンド磁石が得られる。成形体の熱処理温度は、樹脂組成物が十分に硬化する温度であればよい。成形体の熱処理温度は、例えば、150℃以上300℃以下、好ましくは175℃以上250℃以下であってよい。成形体中の磁性粉末の酸化を抑制するために、不活性雰囲気下で成形体の熱処理を行うことが好ましい。熱処理温度が300℃よりも高い場合、製造過程に不可避的に成形体中に含まれる微量の酸素によって、磁性粉末が酸化され易く、樹脂組成物の硬化物が劣化し易い。また、磁性粉末の酸化及び樹脂組成物の硬化物の劣化を抑制するために、上記の熱処理温度を保持する時間は、数分以上4時間以下、好ましくは5分以上1時間以下であってよい。
【0061】
[ボンド磁石に好適な樹脂硬化物硬化体のガラス転移温度]
ボンド磁石中の樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度は、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上であってよい。ガラス転移温度とは、動的粘弾性測定において、tanδがピークになる温度を意味する。樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度が150℃以上である場合、過酷な高温環境下においてもボンド磁石の機械的強度の低下が抑制され易い。
【0062】
本発明は必ずしも上述された実施形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、本発明の種々の変更が可能であり、これ等の変更例も本発明に含まれる。
【実施例】
【0063】
以下の実施例及び比較例により、本発明が詳細に説明される。本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
樹脂組成物の原料として、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、カップリング剤、及び溶媒が用いられた。これらの原料をプラスチック製の容器内で混合し、更に60分攪拌することにより、樹脂組成物の溶液(樹脂溶液)が調製された。樹脂溶液中の各原料の配合比は、下記表1に示される。上記原料の攪拌には、ミックスローターが用いられた。ミックスローターの回転数は、40rpmであった。
エポキシ樹脂としては、DIC株式会社製のHP-4700が用いられた。HP-4700は、4官能ナフタレン型エポキシ樹脂である。HP-4700のエポキシ当量は160g/eqである。HP-4700の軟化点は、64℃である。
硬化剤としては、昭和電工マテリアルズ株式会社製のHP-850Nが用いられた。HP-850Nは、フェノールノボラック樹脂(ノボラック型硬化剤)である。HP-850Nの水酸基当量は、108g/eqである。
エポキシ樹脂のエポキシ当量に対するフェノールノボラック樹脂脂の水酸基当量の比率は、1.0(単位:eq/eq)に調整された。
硬化促進剤としては、日本化学工業株式会社製のPX-4PBが用いられた。PX-4PBは、テトラ(n-ブチル)ホスホニウムテトラフェニルボレート(Bu4P+B(Ph)4
-)である。
カップリング剤としては、信越化学工業株式会社製のX-12-967Cが用いられた。X-12-967Cは、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物である。つまり、X-12-967Cは、無水コハク酸基を有するシランカップリング剤である。
溶媒としては、メチルエチルケトン(2-ブタノン)が用いられた。
【0065】
上記の樹脂溶液と磁性粉末が、ナス型のフラスコに容れられた。磁性粉末としては、Nd-Fe-B系合金粉末が用いられた。Nd-Fe-B系合金粉末は、マグネクエンチ社(Magnequench International, LLC)製のMQP-Bであった。Nd-Fe-B系合金粉末の平均粒子径は、100μmであった。磁石用コンパウンドの製造に用いた磁性粉末の質量(単位:g)は、下記表1に示される。フラスコの容積は、300mLであった。エバポレーターを用いて、フラスコの内容物が、25℃で30分程度撹拌された。続いて、エバポレーター内を0.1MPa以下に減圧することより、フラスコ内の溶媒が留去された。溶媒を留去する過程では、溶媒を十分に除去するために、フラスコ内を減圧する操作、フラスコ内を常圧に戻す操作、フラスコ内の凝集した内容物をほぐす操作が、この順に数回繰り返された。溶媒の留去後、樹脂組成物及び磁性粉末の混合物がフラスコから回収され、混合物が平皿の上に広げられた。平皿上の混合物は、真空乾燥機により常温で8時間乾燥された。混合物の乾燥後、凝集した混合物の粗粉砕により、第一粉が得られた。第一粉とは、Nd-Fe-B系合金粉末と、Nd-Fe-B系合金粉末を構成する各合金粒子を覆う樹脂組成物と、から構成される粉末である。100メッシュのふるいで粗大粉を第一粉から除去することにより、第一粉の粒度が調整された。
【0066】
第一粉がポリ瓶(Plastic bottle)に容れられ、0.2gのカプリル酸カルシウム(第二粉)が第一粉に添加された。第一粉及び第二粉を、V型混合器で60分間混合することにより、磁石用コンパウンドが得られた。ポリ瓶の容積は、250mlであった。
【0067】
油圧プレス機を用いたボンド磁石用コンパウンドの圧縮成形により、成形体が得られた。コンパウンドの圧縮成形は、常温下で行われた。成形圧力は、2000MPaであった。成形体は、7mm×7mm×7mmの立方体であった。窒素ガス(N2)からなる雰囲気下で、成形体を200℃で10分間加熱することにより、立方体形状のボンド磁石が得られた。
【0068】
<圧壊強度の測定>
万能圧縮試験機を用いて、圧縮圧力がボンド磁石の端面に印加された。つまり、ボンド磁石の高さ方向において、圧縮圧力がボンド磁石へ印加された。圧縮圧力を増加させて、ボンド磁石が破壊された時の圧縮圧力が測定された。ボンド磁石が破壊された時の圧縮圧力は、圧壊強度(単位:MPa)を意味する。万能圧縮試験機としては、株式会社島津製作所製のAG-10TBRが用いられた。圧壊強度の測定におけるクロスヘッドの速度は、0.5mm/分であった。圧壊強度の測定は、室温(25℃)の大気中で行われた。実施例1の圧壊強度は、下記表1に示される。
<成形体の密度の測定>
成形体の密度を測定するために、上記の方法で成形体が作製された。成形体の質量が電子天秤で測定された。成形体の上記寸法から成形体の体積が算出された。成形体の質量を成形体の体積で割ることにより、実施例1の成形体の密度が算出された。実施例1の成形体の密度は、下記表1に示される。
<防錆性の評価>
成形体の防錆性を測定するために、上記の方法で成形体が作製された。成形体の全体が、容器に容れられた純水中に浸漬された。容器の密閉後、純水中に浸漬された成形体が、室温の大気下に静置された。成形体が純水中に浸漬された日から、褐色の錆が成形体から染み出るまでの所要時間(単位:日)が計測された。実施例1の成形体の防錆性は、下記表1に示される。
【0069】
(実施例2~6及び比較例1~3)
実施例2及び4では、飽和脂肪酸の金属塩として、カプリル酸カルシウムの代わりに、カプロン酸カルシウムが用いられた。
実施例3、5及び6では、飽和脂肪酸の金属塩として、実施例1と同様に、カプリル酸カルシウムが用いられた。
比較例1では、飽和脂肪酸の金属塩として、カプリル酸カルシウムの代わりに、ステアリン酸バリウムが用いられた。
比較例2では、飽和脂肪酸の金属塩として、カプリル酸カルシウムの代わりに、ステアリン酸亜鉛が用いられた。
比較例3では、飽和脂肪酸の金属塩として、カプリル酸カルシウムの代わりに、ステアリン酸カルシウムが用いられた。
実施例2~6及び比較例1~3其々のボンド磁石用コンパウンドの製造に用いられた各原料の質量は、下記表1に示される。
上記の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例2~6及び比較例1~3其々のボンド磁石用コンパウンド、成形体及びボンド磁石が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例2~6及び比較例1~3其々のボンド磁石の圧壊強度が測定された。実施例2~6及び比較例1~3其々の圧壊強度は、下記表1に示される。実施例1と同様の方法で、実施例2~6及び比較例1~3其々の成形体の密度が測定された。実施例2~6及び比較例1~3其々の成形体の密度は、下記表1に示される。
実施例1と同様の方法で、実施例2~6及び比較例1~3其々の成形体の防錆性が評価された。実施例2~6及び比較例1~3其々の成形体の防錆性は、下記表1に示される。
実施例1~6の場合、成形体が純水中に浸漬されてから6か月経過した時点において、成形体からの錆の染み出しは目視で観察されなかった。つまり、実施例2~6の場合、成形体に含まれる磁性粉末の錆が6か月に亘って抑制された。一方、比較例1~3の場合、成形体が純水中に浸漬されてから2日経過した時点において、成形体からの錆の染み出しが目視で観察された。
【0070】
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の一側面に係るボンド磁石用コンパウンド用いることにより、機械的強度に優れたボンド磁石を製造することができる。
【要約】
ボンド磁石の機械的強度(例えば、圧壊強度)を高めるボンド磁石用コンパウンドが提供される。ボンド磁石用コンパウンドは、磁性粉末、エポキシ樹脂、硬化剤、カップリング剤、及び金属塩を備え、金属塩は、R2Mと表され、Rは、炭素数が6以上10以下である飽和脂肪酸基であり、Mは、Ca及びBaのうち少なくとも一種の金属元素である。