(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】成膜装置及び成膜装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/50 20060101AFI20220208BHJP
C23C 14/04 20060101ALI20220208BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
C23C14/50 A
C23C14/04 A
H05B33/10
(21)【出願番号】P 2020161038
(22)【出願日】2020-09-25
【審査請求日】2020-09-25
(31)【優先権主張番号】10-2019-0139813
(32)【優先日】2019-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青沼 大介
(72)【発明者】
【氏名】菅原 洋紀
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-204100(JP,A)
【文献】特開2019-099912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスクを介して基板の成膜面に成膜する成膜装置において、
前記基板の前記成膜面側を支持する基板支持部と、
前記基板の前記成膜面と反対側の非成膜面を吸着する吸着面を有する基板吸着手段と、
前記基板吸着手段を挟んで前記マスクとは反対側に配され、当該マスクを前記成膜面に引き寄せるマスク吸引手段と、
前記マスク吸引手段に設けられ、前記基板吸着手段に向けて前記非成膜面と交差する方向に延びる押圧部と、を備え、
前記基板支持部に支持された前記基板を前記基板吸着手段の吸着面に吸着させる際に、前記マスク吸引手段を
前記押圧部が前記基板吸着手段に形成された貫通部を貫通する位置まで前記基板吸着手段に向けて移動させ
て、前記基板支持部との間で前記押圧部によって前記基板の前記非成膜面を押すことで前記基板の吸着動作を補助することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記貫通部は、貫通孔であることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記基板支持部を前記基板吸着手段側に相対移動させて、
前記マスク吸引手段を前記基板吸着手段に向けて移動させることによって前記貫通部を通過した前記押圧部と、前記基板支持部と、によって前記基板を挟持することを特徴とする請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記基板吸着手段は、第1電極と第2電極を有する静電チャックであり、前記第1電極と第2電極それぞれに付与される電位の電位差が基板吸着電位差であれば前記基板を吸着し、前記電位差が基板分離電位差であれば前記基板を分離するものであることを特徴とする請求項3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記押圧部が前記貫通部を貫通する位置は、前記マスク吸引手段が前記基板吸着手段には接触していない状態で、前記押圧部によって前記基板の前記非成膜面を押すことが可能な位置であることを特徴とする請求項4に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記マスク吸引手段は、磁力によって前記マスクを引き寄せるマグネット板であることを特徴とする請求項4または5に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記押圧部と前記貫通部は、それぞれ、前記基板支持部によって支持される前記基板の外周端部に対応する、前記マスク吸引手段の外周位置と、前記基板吸着手段の外周位置に設置されることを特徴とする請求項4から6のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記基板吸着手段への前記基板の吸着時に、前記マスク吸引手段の前記押圧部と前記基板支持部によって前記基板の外周端部の両面が押された状態で、前記基板の前記非成膜面が前記基板吸着手段の吸着面に接触するまで、前記マスク吸引手段と前記基板支持部が同期して移動することを特徴とする請求項7に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記マスク吸引手段と前記基板支持部の同期移動によって前記基板の前記非成膜面が前記基板吸着手段の吸着面に接触した後、または前記マスク吸引手段と前記基板支持部の同期移動と同時に、前記基板吸着手段に前記基板吸着電位差が印加することを特徴とする請求項8に記載の成膜装置。
【請求項10】
基板の成膜面側を支持する基板支持部と、前記基板の前記成膜面と反対側の非成膜面を吸着する吸着面を有する基板吸着手段と、前記基板吸着手段を挟んでマスクとは反対側に配されるマスク吸引手段と、を備え、前記基板の前記成膜面に前記マスクを介して蒸着材料を成膜する成膜装置の制御方法であって、
前記基板吸着手段の前記吸着面に前記基板の前記非成膜面を吸着させる工程と、
前記マスク吸引手段によって前記マスクを引き寄せて、前記基板の前記成膜面に前記マスクを密着させる工程と、
前記蒸着材料を蒸発させて前記マスクを介して前記基板の前記成膜面に前記蒸着材料を成膜する工程とを含み、
前記マスク吸引手段には、前記基板吸着手段に向けて前記非成膜面と交差する方向に延びる押圧部が形成され、
前記基板吸着手段の吸着面に前記基板の前記非成膜面を吸着させる工程では、前記マスク吸引手段を、前記押圧部が前記基板吸着手段に形成された貫通部を貫通する位置まで、前記基板吸着手段に向かって相対移動させて、前記基板支持部との間で前記押圧部によって前記基板の前記非成膜面を押すことで前記基板の吸着動作を補助することを特徴とする制御方法。
【請求項11】
前記貫通部は、貫通孔であることを特徴とする請求項10に記載の制御方法。
【請求項12】
前記基板吸着手段は、第1電極と第2電極を有する静電チャックであり、前記第1電極と第2電極それぞれに付与される電位の電位差が基板吸着電位差であれば前記基板を吸着し、前記電位差が基板分離電位差であれば前記基板を分離するものであることを特徴とする請求項11に記載の制御方法。
【請求項13】
前記押圧部が前記貫通部を貫通する位置は、前記マスク吸引手段が前記基板吸着手段には接触されず、前記押圧部によって前記基板の前記非成膜面を押すことが可能な位置であることを特徴とする請求項12に記載の制御方法。
【請求項14】
前記マスク吸引手段は、磁力によって前記マスクを引き寄せるマグネット板であることを特徴とする請求項12または13に記載の制御方法。
【請求項15】
前記押圧部と前記貫通部は、それぞれ、前記基板支持部によって支持される前記基板の外周端部に対応する、前記マスク吸引手段の外周位置と、前記基板吸着手段の外周位置に
設置されることを特徴とする請求項12から14のいずれか1項に記載の制御方法。
【請求項16】
前記基板吸着手段の吸着面に前記基板の前記非成膜面を吸着させる工程は、
前記マスク吸引手段を、前記基板吸着手段に向かって、前記押圧部が前記貫通部を貫通する位置まで相対移動させる工程と、
前記基板の外周端部の両面が前記貫通部を貫通した前記押圧部と前記基板支持部によって押されるまで、前記基板支持部を前記基板吸着手段側に相対移動させる工程と、
前記押圧部と前記基板支持部によって前記基板の外周端部の両面が押された状態で、前記基板の前記非成膜面が前記基板吸着手段の吸着面に接触するまで、前記マスク吸引手段と前記基板支持部を同期して移動させる工程とを含むことを特徴とする請求項15に記載の制御方法。
【請求項17】
前記基板吸着手段の吸着面に前記基板の前記非成膜面を吸着させる工程は、
前記基板吸着手段に前記基板吸着電位差を付与する工程をさらに含み、前記基板吸着電位差を付与する工程は、前記マスク吸引手段と前記基板支持部の同期移動によって前記基板の前記非成膜面が前記基板吸着手段の前記吸着面に接触した後、または前記マスク吸引手段と前記基板支持部の同期移動と同時に、行われることを特徴とする請求項16に記載の制御方法。
【請求項18】
前記基板の成膜面に前記マスクを密着させる工程は、前記マスク吸引手段を、前記基板吸着手段に向かって、マスク吸引が可能な位置まで相対移動させる工程を含み、
マスク吸引が可能な前記位置では、前記押圧部は前記貫通部内部に位置し前記基板の非成膜面と接触しないことを特徴とする請求項11に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置及び成膜装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置(有機ELディスプレイ)の製造においては、有機EL表示装置を構成する有機発光素子(有機EL素子;OLED)を形成する際に、成膜装置の蒸発源から蒸発した蒸着材料を、画素パターンが形成されたマスクを介して、基板に蒸着させることで、有機物層や金属層を形成する。
【0003】
上向蒸着方式(デポアップ)の成膜装置において、蒸発源は成膜装置の真空容器の下部に設けられ、基板は真空容器の上部に配置され、基板の下面に蒸着される。このような上向蒸着方式の成膜装置の真空容器内において、基板はその下面の周辺部だけが基板ホルダによって保持されるので、基板がその自重によって撓み、これが蒸着精度を落とす一つの要因となっている。上向蒸着方式以外の方式の成膜装置においても、また、基板の自重による撓みは生じる可能性がある。
【0004】
基板の自重による撓みを低減するための方法として、静電チャックを使う技術が検討されている。すなわち、基板の上部に静電チャックを設置し、基板ホルダの支持部によって支持された基板の上面を静電チャックに吸着させることで、基板の中央部が静電チャックの静電引力によって引っ張られるようにして基板の撓みを低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-204100号公報
【文献】特開2014-065959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、このように静電チャックに基板を吸着させて蒸着を行う成膜装置の場合、成膜完了後の基板を静電チャックから分離させる時に時間がかかる。つまり、静電チャックに印加されていた吸着電圧をオフ(または、分離電圧を印加)しても、基板が静電チャックから直ちに分離されず、吸着時に誘導されていた分極電荷が完全に除去されるまで所定の時間がかかる。
【0007】
また、静電チャックに基板を吸着させるときには、前述のように、基板ホルダの支持部によって基板の外周端部を支持した状態で基板ホルダを上昇、または静電チャックを下降させて基板と静電チャックを近接させた後、静電チャックに吸着電圧を印加することになるが、このような基板移動の際に基板の位置がずれる可能性がある。つまり、基板は基板ホルダの支持部に単に載置されているだけで、固定はされていないので、吸着のために静電チャックへと近接移動する際に、または静電チャックに吸着電圧が印加されている間に、基板の位置がずれる可能性がある。
【0008】
本発明は、このような基板吸着手段(静電チャック)から基板を分離させる時の時間を短縮させることで、成膜装置の効率的な運用を図ることを目的とする。
また、本発明は、基板吸着手段(静電チャック)による基板吸着時に、基板の位置ずれを防止することを目的とする。
また、本発明は、このような基板分離時間の短縮および基板吸着時の位置ずれ防止を、
別途の駆動機構を追加設置せずに実現することで、装置構造の複雑化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態による成膜装置は、
マスクを介して基板の成膜面に成膜する成膜装置において、
前記基板の前記成膜面側を支持する基板支持部と、
前記基板の前記成膜面と反対側の非成膜面を吸着する吸着面を有する基板吸着手段と、
前記基板吸着手段を挟んで前記マスクとは反対側に配され、当該マスクを前記成膜面に引き寄せるマスク吸引手段と、
前記マスク吸引手段に設けられ、前記基板吸着手段に向けて前記非成膜面と交差する方向に延びる押圧部と、を備え、
前記基板支持部に支持された前記基板を前記基板吸着手段の吸着面に吸着させる際に、前記マスク吸引手段を前記押圧部が前記基板吸着手段に形成された貫通部を貫通する位置まで前記基板吸着手段に向けて移動させて、前記基板支持部との間で前記押圧部によって前記基板の前記非成膜面を押すことで前記基板の吸着動作を補助することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基板吸着手段(静電チャック)から基板を分離させる時の時間を短縮させることによって、成膜装置の効率的な運用を図ることができる
また、本発明によれば、基板吸着手段(静電チャック)による基板吸着時に、基板の位置ずれを防止することができる。
また、本発明によれば、このような基板分離時間の短縮および基板吸着時の位置ずれ防止を、別途の駆動機構を追加設置せずに実現することで、装置構造の複雑化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、電子デバイスの製造装置の一部の模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態による成膜装置の模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態による基板吸着手段(静電チャック)とマスク吸引手段(マグネット板)との配置関係を示す模式図である。
【
図4A】
図4Aは、本発明の一実施形態による静電チャックへの基板の吸着の工程の前の様子を示す工程図である。
【
図4B】
図4Bは、本発明の一実施形態による静電チャックへの基板の吸着の工程を示す工程図である。
【
図4C】
図4Cは、本発明の一実施形態による基板に対するマスクの密着の工程を示す工程図である。
【
図4D】
図4Dは、本発明の一実施形態による成膜完了後マスクの分離の工程を示す工程図である。
【
図4E】
図4Eは、本発明の一実施形態による成膜完了後基板の分離の工程を示す工程図である。
【
図5A】
図5Aは、押しピン及び貫通孔の配置に関する本発明の他の実施形態による構成を示す図である。
【
図5B】
図5Bは、押しピン及び貫通孔の配置に関する本発明のさらに他の実施形態による構成を示す図である。
【
図6A】
図6Aは、本発明の他の実施形態による静電チャックへの基板の吸着工程を示す工程図である。
【
図6B】
図6Bは、本発明の他の実施形態による静電チャックへの基板の吸着工程を示す工程図の続きである。
【
図6C】
図6Cは、本発明の他の実施形態による静電チャックへの基板の吸着工程を示す工程図の続きである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態及び実施例を説明する。ただし、以下の実施形態及び実施例は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲はそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特定的な記載がないかぎりは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0013】
本発明は、基板の表面に各種材料を堆積させて成膜を行う装置に適用することができ、真空蒸着によって所望のパターンの薄膜(材料層)を形成する装置に望ましく適用することができる。基板の材料としては、ガラス、高分子材料のフィルム、シリコンウェハ、金属などの任意の材料を選択することができ、基板は、例えば、ガラス基板上にポリイミドなどのフィルムが積層された基板であってもよい。また、蒸着材料としても、有機材料、金属性材料(金属、金属酸化物など)などの任意の材料を選択してもよい。なお、以下の説明において説明する真空蒸着装置以外にも、スパッタ装置やCVD(Chemical
Vapor Deposition)装置を含む成膜装置にも、本発明を適用することができる。本発明は、かかる成膜装置を用いた制御方法にも適用することができる。本発明の技術は、具体的には、有機電子デバイス(例えば、有機発光素子、薄膜太陽電池)、光学部材などの製造装置に適用可能である。その中でも、蒸着材料を蒸発させてマスクを介して基板に蒸着させることで有機発光素子を形成する有機発光素子の製造装置は、本発明の好ましい適用例の一つである。
【0014】
<電子デバイスの製造装置>
図1は、電子デバイスの製造装置の一部の構成を模式的に示す平面図である。
図1の製造装置は、例えば、スマートフォン用の有機EL表示装置、またはVRHMD用の有機EL表示装置の表示パネルの製造に用いられる。スマートフォン用の表示パネルの場合、例えば、4.5世代の基板(約700mm×約900mm)や6世代のフルサイズ(約1500mm×約1850mm)又はハーフカットサイズ(約1500mm×約925mm)の基板に、有機EL素子の形成のための成膜を行った後、該基板を切り抜いて複数の小さなサイズのパネルに製作する。VR HMD用の表示パネルの場合、例えば、所定のサイズ(例えば、300mm)のシリコンウェハに有機EL素子の形成のための成膜を行った後、素子形成領域の間の領域(スクライブ領域)に沿って該シリコンウェハを切り抜いて複数の小さなサイズのパネルに製作する。
【0015】
電子デバイスの製造装置は、一般的に、複数のクラスタ装置1と、クラスタ装置の間を繋ぐ中継装置とを含む。
クラスタ装置1は、基板Sに対する処理(例えば、成膜)を行う複数の成膜装置11と、使用前後のマスクMを収納する複数のマスクストック装置12と、その中央に配置される搬送室13と、を具備する。搬送室13は、
図1に示すように、複数の成膜装置11およびマスクストック装置12のそれぞれと接続されている。
【0016】
搬送室13内には、基板およびマスクを搬送する搬送ロボット14が配置されている。搬送ロボット14は、上流側に配置された中継装置のパス室15から成膜装置11へと基板Sを搬送する。また、搬送ロボット14は、成膜装置11とマスクストック装置12との間でマスクMを搬送する。搬送ロボット14は、例えば、多関節アームに、基板S又はマスクMを保持するロボットハンドが取り付けられた構造を有するロボットである。
【0017】
成膜装置11(蒸着装置とも呼ぶ)では、蒸発源に収納された蒸着材料がヒータによって加熱されて蒸発し、マスクを介して基板上に蒸着される。搬送ロボット14との基板S
の受け渡し、基板SとマスクMの相対位置の調整(アライメント)、マスクM上への基板Sの固定、成膜(蒸着)などの一連の成膜プロセスは、成膜装置11によって行われる。
【0018】
マスクストック装置12には、成膜装置11での成膜工程に使われる新しいマスクと、使用済みのマスクとが、二つのカセットに分けて収納される。搬送ロボット14は、使用済みのマスクを成膜装置11からマスクストック装置12のカセットに搬送し、マスクストック装置12の他のカセットに収納された新しいマスクを成膜装置11に搬送する。
【0019】
クラスタ装置1には、基板Sの流れ方向において上流側からの基板Sを当該クラスタ装置1に供給するパス室15と、当該クラスタ装置1で成膜処理が完了した基板Sを下流側の他のクラスタ装置に供給するバッファー室16が連結される。搬送室13の搬送ロボット14は、上流側のパス室15から基板Sを受け取って、当該クラスタ装置1内の成膜装置11の一つ(例えば、成膜装置11a)に搬送する。また、搬送ロボット14は、当該クラスタ装置1での成膜処理が完了した基板Sを複数の成膜装置11の一つ(例えば、成膜装置11b)から受け取って、下流側に連結されたバッファー室16に搬送する。
【0020】
バッファー室16とパス室15との間には、基板の向きを変える旋回室17が設置される。旋回室17には、バッファー室16から基板Sを受け取って基板Sを180°回転させ、パス室15に搬送するための搬送ロボット18が設けられる。これにより、上流側のクラスタ装置と下流側のクラスタ装置で基板Sの向きが同じくなり、基板処理が容易になる。
【0021】
パス室15、バッファー室16、旋回室17は、クラスタ装置間を連結する、いわゆる中継装置であり、クラスタ装置の上流側及び/又は下流側に設置される中継装置は、パス室、バッファー室、旋回室のうち少なくとも1つを含む。
【0022】
成膜装置11、マスクストック装置12、搬送室13、バッファー室16、旋回室17などは、有機発光素子の製造の過程で、高真空状態に維持される。パス室15は、通常低真空状態に維持されるが、必要に応じて高真空状態に維持されてもよい。
【0023】
本実施例では、
図1を参照して、電子デバイスの製造装置の構成について説明したが、本発明はこれに限定されず、他の種類の装置やチャンバーを有してもよく、これらの装置やチャンバー間の配置が変わってもよい。例えば、本発明の一実施形態による電子デバイスの製造装置は、
図1に示すクラスタタイプでなく、インラインタイプであってもよい。つまり、基板とマスクをキャリアに搭載して、一列で並んでいる複数の成膜装置内を搬送させながら成膜を行う構成を有しても良い。また、クラスタタイプとインラインタイプを組み合わせたタイプの構造を有しても良い。例えば、有機層の成膜まではクラスタタイプの製造装置で行い、電極層(カソード層)の成膜工程から、封止工程及び切断工程などはインラインタイプの製造装置で行うこともできる。
以下、成膜装置11の具体的な構成について説明する。
【0024】
<成膜装置>
図2は、成膜装置11の構成を示す模式図である。以下の説明においては、鉛直方向をZ方向とし、水平面をXY平面とするXYZ直交座標系を用いる。また、Z軸まわりの回転角をθで表示する。
【0025】
成膜装置11は、真空雰囲気又は窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持される真空容器21と、真空容器21の内部に設けられる、基板支持ユニット22と、マスク支持ユニット23と、静電チャック24と、蒸発源25とを含む。
【0026】
基板支持ユニット22は、搬送室13に設けられた搬送ロボット14が搬送する基板Sを受取って保持する手段であり、基板ホルダとも呼ばれる。基板支持ユニット22は基板の下面の周縁部を支持する支持部221を含む。支持部上には基板の損傷を防止するためにフッ素コーティングされたパット(不図示)が設置されてもよい。
【0027】
基板支持ユニット22の下方には、マスク支持ユニット23が設けられる。マスク支持ユニット23は、搬送室13に設けられた搬送ロボット14が搬送するマスクMを受取って保持する手段であり、マスクホルダとも呼ばれる。
【0028】
マスクMは、基板S上に形成する薄膜パターンに対応する開口パターンを有し、マスク支持ユニット23の上に載置される。特に、スマートフォン用の有機EL素子を製造するのに使われるマスクは、微細な開口パターンが形成された金属製のマスクであり、FMM(Fine Metal Mask)とも呼ぶ。
【0029】
基板支持ユニット22の上方には、基板を静電引力によって吸着し固定するための静電チャック24(基板吸着手段)が設けられる。静電チャック24は、誘電体(例えば、セラミック材質)マトリックス内に金属電極などの電気回路が埋設された構造を有する。静電チャック24は、クーロン力タイプの静電チャックであってもよいし、ジョンソン・ラーベック力タイプの静電チャックであってもよいし、グラジエント力タイプの静電チャックであってもよい。
【0030】
静電チャック24は、グラジエント力タイプの静電チャックであることが好ましい。静電チャック24がグラジエント力タイプの静電チャックであることによって、基板Sが絶縁性基板であっても、静電チャック24によって良好に吸着することができる。静電チャック24がクーロン力タイプの静電チャックである場合には、金属電極にプラス(+)及びマイナス(-)の電位が印加されると、誘電体マトリックスを通じて基板Sなどの被吸着体に金属電極と反対極性の分極電荷が誘導され、これら間の静電引力によって基板Sが静電チャック24に吸着固定される。
【0031】
静電チャック24は、一つのプレートで形成してもよく、複数のサブプレートを有するように形成してもよい。また、一つのプレートで形成する場合にも、その内部に複数の電気回路を含み、一つのプレート内で位置によって静電引力が異なるように制御してもよい。また、静電チャック24は、一つのプレートで形成するときも、複数のプレートで形成するときも、位置によらず、全面が同じ静電引力になるように制御するとよい。
【0032】
静電チャック24の上部には、金属製マスクMに磁力を印加してマスクの撓みを防止し、マスクMと基板Sを密着させるためのマスク吸引手段としてのマグネット板30が設置される。マグネット板30は、永久磁石、または電磁石で構成することができ、複数のモジュールに区切ることができる。
【0033】
本実施形態では、後述のように、成膜前に、まず、静電チャック24の鉛直方向の下側に置かれた基板Sを静電チャック24で吸着及び保持し、この状態で基板SとマスクMの相対位置調整を行い、基板SとマスクMの相対位置調整が完了すると、静電チャック24の基板吸着面(基板支持面)の反対側に設置されたマスク吸引手段としての上記マグネット板30を静電チャック24側に下降させ、基板S越しにマスクMを引き寄せることによって基板SとマスクMを密着させる。こうして、基板SとマスクMが密着した後に成膜工程を開始する。成膜後には、先ずマスクMを基板Sから分離させ、その後基板Sを静電チャック24から剥離させる。基板SとマスクMの吸着及び分離の詳細については、
図4~
図6を参照して後述する。
【0034】
図2には示さなかったが、静電チャック24の吸着面とは反対側に基板Sの温度上昇を抑える冷却機構(例えば、冷却板)を設けることで、基板S上に堆積された有機材料の変質や劣化を抑制する構成としてもよく、この冷却板はマグネット板30と一体で形成されてもよい。
【0035】
蒸発源25は、基板に成膜される蒸着材料が収納されるるつぼ(不図示)、るつぼを加熱するためのヒータ(不図示)、蒸発源からの蒸着材料が基板に飛散することを阻むシャッタ(不図示)などを含む。蒸発源25は、点(point)蒸発源や線状(linear)蒸発源など、用途に従って多様な構成を有することができる。
【0036】
図2に示さなかったが、成膜装置11は、基板に蒸着された膜の厚さを測定するための膜厚モニタ(不図示)及び膜厚算出ユニット(不図示)を含む。
【0037】
真空容器21の上部外側(大気側)には、基板Zアクチュエータ26、マスクZアクチュエータ27、静電チャックZアクチュエータ28、マグネット板Zアクチュエータ31、位置調整機構29などが設けられる。これらのアクチュエータと位置調整機構は、例えば、モータとボールねじ、或いはモータとリニアガイドなどで構成される。基板Zアクチュエータ26は、基板支持ユニット22を昇降(Z方向移動)させるための駆動手段である。マスクZアクチュエータ27は、マスク支持ユニット23を昇降(Z方向移動)させるための駆動手段である。静電チャックZアクチュエータ28は、静電チャック24を昇降(Z方向移動)させるための駆動手段である。マグネット板Zアクチュエータ31は、マグネット板30を昇降(Z方向移動)させるための駆動手段である。
【0038】
位置調整機構29は、静電チャック24のアライメントのための駆動手段である。位置調整機構29は、静電チャック24全体を基板支持ユニット22及びマスク支持ユニット23に対して、X方向移動、Y方向移動、θ回転させる。なお、本実施形態では、基板Sを吸着した状態で、静電チャック24をX、Y、θ方向に位置調整することで、基板SとマスクMの相対的位置を調整するアライメントを行う。
【0039】
真空容器21の外側上面には、上述した駆動機構の他に、真空容器21の上面に設けられた透明窓を介して、基板S及びマスクMに形成されたアライメントマークを撮影するためのアライメント用カメラ20を設置してもよい。
【0040】
本実施形態の成膜装置11に設置されるアライメント用カメラ20は、基板SとマスクMとの相対的な位置を高精度で調整するのに使われるファインアライメント用カメラであり、その視野角は狭いが高解像度を持つカメラである。成膜装置11は、ファインアライメント用カメラ20の他に相対的に視野角が広くて低解像度であるラフアライメント用カメラを有してもよい。本実施例においては、アライメント用カメラ20は、基板S及びマスクMに形成されたアライメントマークに対応する位置に設置される。例えば、ファインアライメント用カメラは、4つのカメラが矩形の4つのコーナー部をなすように設置される。ラフアライメント用カメラは、該矩形の対向する二辺の中央に設置される。ただし、本発明は、これに限定されず、基板S及びマスクMのアライメントマークの位置に応じて他の配置を有してもよい。
【0041】
尚、位置調整機構29は、アライメント用カメラ20によって取得した基板S及びマスクMの位置情報に基づいて、基板SとマスクMを相対的に移動させて位置調整するアライメントを行う。
【0042】
成膜装置11は、制御部(不図示)を具備する。制御部は、基板Sの搬送及びアライメント、蒸発源25の制御、成膜の制御などの機能を有する。制御部は、例えば、プロセッ
サ、メモリー、ストレージ、I/Oなどを持つコンピューターによって構成可能である。この場合、制御部の機能はメモリーまたはストレージに格納されたプログラムをプロセッサが実行することにより実現される。コンピューターとしては、汎用のパーソナルコンピューターを使用してもよく、組込み型のコンピューターまたはPLC(programmable logic controller)を使用してもよい。または、制御部の機能の一部または全部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。また、成膜装置ごとに制御部が設置されていてもよく、一つの制御部が複数の成膜装置を制御するように構成してもよい。
【0043】
<基板吸着手段(静電チャック)及びマスク吸引手段(マグネット板)>
図3を参照して本実施形態による基板吸着手段としての静電チャック24と、静電チャック24の上部に配置され磁力でマスクMを基板S側に引き寄せるマスク吸引手段としてのマグネット板30について説明する。
【0044】
静電チャック24は、吸着面に被吸着体(例えば、基板S)を吸着するための静電吸着力を発生させる、複数の電極を有する電極部を含む。電極部は、電極対をなす第1電極241と第2電極242とを含む。第1電極241は、図示していない電位制御部の制御によって所定の電位Vaが付与される電極または電極のセットを指し、第2電極242は、第1電極241に付与される電位Vaとは異なる所定の電位Vbが付与される電極または電極のセットを指す。そして、第1電極241と第2電極242にそれぞれ付与される電位によって、静電チャック24は、基板Sを吸着する静電引力を発生させることができる。
【0045】
図3には、第1電極241と第2電極242が一つずつ交互に配置されているが、これに限定されず、第1電極241と第2電極242は他の形態で(例えば、2つずつ交互に)配置されていてもよい。
【0046】
交互に配置されている第1電極241及び第2電極242は、被吸着体である基板Sとの間で静電引力を発生させることができるかぎり、多様な形状を有することができる。例えば、第1電極241及び第2電極242は、それぞれ櫛形状を有してもよい。櫛状の第1電極241及び第2電極242は、それぞれ複数の櫛歯部と、複数の櫛歯部に連結される基部とを含む。各電極241、242の基部は櫛歯部に電位を供給し、複数の櫛歯部は、被吸着体との間で静電吸着力を生じさせる。このため、第1電極241の各櫛歯部は、第2電極242の各櫛歯部と対向するように、交互に配置される。このように、各電極241、242の各櫛歯部が対向しかつ互いに入り組んだ構成とすることで、異なる電位が付与される電極間の間隔を狭くすることができ、大きな不平等電界を形成し、グラジエント力によって被吸着体を吸着することができる。
【0047】
静電チャック24は、所定の位置に、基板Sを吸着する吸着面とその反対面を上下に貫通する貫通孔243(貫通部)を少なくとも一つ以上有する。
【0048】
静電チャック24の上部には、静電チャック24に吸着された基板S側に磁力でマスクMを引き寄せるためのマスク吸引手段としてのマグネット板30が設置される。マグネット板30の静電チャック24側(すなわち、基板S及びマスクMに向かう側)の面には、上記静電チャック24の貫通孔243に対応する位置に、押しピン301(押圧部)が設置される。押しピン301は、静電チャック24に向けて、基板Sの非成膜面と交差する方向に延びている。押しピン301は、静電チャック24への基板Sの吸着時の吸着動作、及び/または、静電チャック24からの基板Sの分離時の分離動作、を補助する。
図3では、押しピン301とこれに対応する貫通孔243が、それぞれ、マグネット板30と静電チャック24の外周端部近傍に形成される例を示しているが、押しピン301と貫通
孔243の形成位置及び数はこれに限定されず適宜に設定されることができる。例えば、後述のように、主に剥離補助機能として利用する時には、押しピン301と貫通孔243をマグネット板30と静電チャック24の中央部に設置することで分離動作をより効率良く補助できる場合がある。
【0049】
以下、マグネット板30に設置された押しピン301によって、静電チャック24からの基板Sの分離と静電チャック24への基板Sの吸着を補助する詳細動作について順次説明する。
【0050】
<基板分離動作の補助>
図4A~
図4Eは、本発明の一実施形態により、静電チャック24に基板Sを吸着させ、その後、基板に対してマスクを密着させ、成膜工程が完了したら、マスクと基板を順次分離する一連の工程を示す。
図4Aは、真空容器21内の基板支持ユニット22(より詳細には、基板支持ユニットの支持部221)に基板Sが、そして、マスク支持ユニット23にマスクMがそれぞれ載置されている状態を示す。
図4Aを参照すると、静電チャック24から所定の間隔で離隔されている基板Sは、マスクMとも所定の間隔をもって離隔されている。そして、静電チャック24の第1電極241と第2電極242には電位が付与されておらず、静電チャック24には静電引力が誘発されていない。
【0051】
続いて、
図4Bに示したように、基板支持ユニット22を上昇(または静電チャック24を下降)させて基板支持ユニット22の支持部上に載置された基板Sを静電チャックに向かって移動させ、静電チャック24に基板Sが十分に近接または接触すると、静電チャック24の第1電極241と第2電極242に所定の電位を付与し、第1および第2電極の間に吸着電位差ΔV1が発生するようにして、静電チャック24に基板Sを吸着させる。静電チャック24に基板Sが吸着したら、基板SとマスクMとの平面内方向の相対位置を調整する(アライメント)。具体的な図示は省略しているが、マスクとの相対位置の調整は、基板SとマスクMが接触しない範囲内で相互間の離隔距離が狭まった状態で行われることが好ましい。そのため、基板吸着の後、静電チャック24を下降させるかマスク支持ユニット23を上昇させ、基板SとマスクMとの相対位置を調整する高さまで基板SまたはマスクMを移動させる工程が追加で行われてもよい。また、このような基板SとマスクMの相対位置調整(アライメント)は、静電チャック24の電極部に前述した吸着電位差ΔV1がそのまま維持される状態で行ってもよく、基板吸着が完了した後、所定の時点で前記吸着電位差より小さいが依然として基板の吸着状態は維持可能な電位差に下げた状態で行ってもよい。
【0052】
基板Sの吸着、およびマスクMとのアライメント調整が終わると、
図4Cに示すように、マグネット板30を基板S越しのマスクMに磁力が及ぶ位置(第2位置)まで下降させる。この時、このようにマスクMの吸引が可能な位置までマグネット板30が下降した状態では、前述したマグネット板30に設置された押しピン301は、静電チャック24の対応する位置に形成された貫通孔243内に挿入され、静電チャック24の基板吸着面側からは突出しない状態、すなわち、吸着した基板S面に押しピン301の先端が当たらない状態にある。マスクM吸引のためマグネット板30が下降した位置でのこのような押しピン301の位置関係が満たすように、押しピン301の長さやマグネット板30に印加される磁力の大きさを調整することができる。
【0053】
こうして、静電チャック24に吸着した基板Sの下面にマスクMを密着させた状態で、蒸発源25から蒸発された蒸着材料がマスクMを介して基板Sに成膜される成膜工程が行われる。
成膜工程が完了すると、
図4Dに示すように、マグネット板30を再度上昇させ(第3位置)、マスクMへの磁力印加状態を解除することによって、マスクMを基板Sの成膜面
から離脱させる。
【0054】
続いて、このようにマスクMが基板Sから分離され基板Sだけが静電チャック24に吸着された状態で、
図4Eに示すように、マグネット板30を静電チャック24に向かって再度下降(または、静電チャック24を上昇)させながら、静電チャック24の電極部に印加される電位差を基板分離が可能な電位差ΔV2に設定する。基板分離電位差ΔV2は、ゼロ(0)、または基板吸着電位差ΔV1とは逆極性である。
【0055】
つまり、基板分離電位差ΔV2の印加により、基板Sに誘導されていた分極電荷が除去され、基板Sが静電チャック24から分離される基板分離動作が行われることになるが、本発明による実施形態では、この基板分離動作が行われる際(基板分離電位差を印加した後)に、マグネット板30に設置した押しピン301が静電チャック24の貫通孔243を貫通し静電チャック24の基板吸着面側に突出するまで(第1位置)、マグネット板30を再度相対移動させることによって、押しピン301が非成膜面(成膜面の反対側面)を押し出す力によって基板分離動作が補助されるようにすることを特徴とする。
【0056】
この時、押しピン301の長さは、
図4Eにも示したように、マグネット板30が静電チャック24には接触しない位置まで下降した状態で、反対側の吸着面に吸着されている基板Sを押すことができるように調整されることが好ましい。
【0057】
以上のように、本発明の一実施形態では、マスク吸引手段として設置されたマグネット板30に押しピン301を形成し、基板分離動作を補助する機能も兼ねたことを特徴とする。具体的に、成膜完了後、静電チャック24から基板Sを分離する際に、基板分離電位差を静電チャック24に印加することに合わせて、マグネット板30を静電チャック24側に再度相対移動させ基板の吸着面(成膜面の反対側面)を押しピン301で押すようにすることで基板分離動作を補助する。
【0058】
これにより、成膜完了後の基板分離時間を短縮することができる。また、分離動作を補助する押しピン301をマスク吸引手段として既に設置されているマグネット板30上に配置することによって、押しピン301昇降用の別途の駆動機構を設ける必要がなく、マグネット板昇降機構(マグネット板Zアクチュエータ31)をそのまま利用することができる。
【0059】
押しピン301の設置位置は、前述したように、マグネット板30の外周端部近傍に設置する構成に限定されず、
図5Aに示すように、マグネット板30の中心位置(中央部)に設置してもよい。例えば、直径300mmのシリコンウェハを基板として成膜を行う場合には、ウェハは静電チャックへの吸着時に完全に平らでなく、上に凸状になっている場合があり、よって、このような場合に分離補助用として押しピンを設置する時にはウェハの中央位置を押すようにマグネット板の中央部に押しピンを設置することが分離動作をより効率良く補助することができる。また、
図5Bに示すように、マグネット板30の中央部と外周端部近傍の両方に押しピン301を設置してもよい。
【0060】
また、押しピン301は、基板の損傷を抑制するため、その材質はポリイミド製、またはテフロン製などのものを使うことが好ましい。また、基板と直接接触する部位を弾性を持つ部材で形成してもよい。
【0061】
また、前述したように、押しピン301をマグネット板30の複数の位置に設置して基板分離補助用として利用する場合には、各押しピンの長さを異ならせたり、基板と接触する部位の弾性を各押しピン毎に適宜設定してもよい。上記構成により、例えば、基板の中央部から外周へ、又は、外周から中央部へ、又は、外周から対向する反対側の外周への順
に、基板が押しピンによって押圧されるタイミングを基板の位置別に制御することもできる。
【0062】
<基板吸着動作の補助>
マグネット板30に設置される押しピン301は、静電チャック24に基板Sを吸着させる際に、その吸着動作を補助する構成としても用いることができる。
【0063】
静電チャック24を使った基板吸着の通常の工程は、前述の
図4A~
図4Bで説明した通りである。つまり、静電チャック24を挟んで、一方には基板SとマスクMが離隔配置され、他方にはマグネット板30が離隔配置された状態で、基板支持ユニット22を上昇(または、静電チャック24を下降)させて、基板Sを静電チャック24に近接又は接触させた後、静電チャック24の電極部に吸着電位差ΔV1を付与することで静電チャック24に基板Sを吸着させる。
【0064】
以下、
図6A~
図6Cを参照して、マグネット板30に設置された押しピン301により、静電チャック24への基板Sの吸着を補助する詳細動作について説明する。
【0065】
まず、静電チャック24を挟んで両側に基板SとマスクM、マグネット板30がそれぞれ離隔配置されて、静電チャック24の電極部には吸着電位差が付与されていない状態(
図4A)から、
図6Aに示すように、マグネット板30を押しピン301が静電チャック24の貫通孔243を通過し吸着面側に突出するまで下降させる。
【0066】
続いて、
図6Bに示すように、基板支持ユニット22を上昇させて、基板支持ユニット22の支持部上に載置された基板Sの外周端部が、貫通孔243の外に突出した押しピン301に突き当り、支持部と押しピン301とよりクランプされるようにする。
【0067】
続いて、
図6Cに示すように、基板Sが基板支持ユニット22の支持部と押しピン301によりクランプされた状態を維持しながら、基板支持ユニット22とマグネット板30を同時に上昇(または、静電チャック24を下降)させて基板Sを静電チャック24に近づけていき(押しピン301を貫通孔243内に後退させる)、静電チャック24に基板Sが十分に近接又は接触したら静電チャック24に吸着電位差ΔV1を付与して基板Sを吸着させる。
【0068】
このように、静電チャック24に基板Sを吸着させる際に、押しピン301と基板支持ユニット22の支持部で基板Sをクランプした状態で基板Sを静電チャック24に近づけていくことによって、吸着時の基板Sの位置ずれを抑制することができる。つまり、基板吸着工程の際に、マグネット板30に設置した押しピン301を吸着動作を補助する手段として利用できる。
これにより、静電チャック24への基板Sの吸着精度を向上させることができ、成膜品質を向上させることができる。
【0069】
一方、上記実施形態では、押しピン301が貫通孔243内に後退し静電チャック24に基板Sが実質的に接触してから、静電チャック24に吸着電位差を付与すると説明したが、これに限定されず、例えば、押しピン301で基板Sをクランプした状態で押しピン301を貫通孔243内に後退させながら、同時に静電チャック24に吸着電位差を付与し始めるようにしてもよい。
【0070】
また、このように、基板吸着動作補助用(吸着時の基板位置ずれ防止用)として利用する場合は、押しピン301は基板支持ユニット22の支持部に対応する位置、すなわち、基板の外周端部に対応するマグネット板30の外周位置に複数設置することが好ましい。
【0071】
<基板吸着動作及び分離動作の補助>
マグネット板30に設置した押しピン301を、以上説明した基板吸着動作を補助する手段と基板分離動作を補助する手段の両方として兼用することもできる。
すなわち、マグネット板30の外周端部近傍に押しピン301を設置する。静電チャック24への基板S吸着時には、
図6A~
図6Cを参照して説明したように、基板位置ずれを防止する吸着補助用手段として使用する。成膜完了後基板分離時には、
図4Eを参照して説明したように、基板分離時間を短縮できる分離補助用手段としても使用する。これにより、吸着動作および分離動作補助による効果をともに得ることができる。
【0072】
<電子デバイスの製造方法>
次に、本実施形態の成膜装置を用いた電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図7(a)は有機EL表示装置60の全体図、
図7(b)は1画素の断面構造を表している。
【0073】
図7(a)に示すように、有機EL表示装置60の表示領域61には、発光素子を複数備える画素62がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域61において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本実施例にかかる有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子62R、第2発光素子62G、第3発光素子62Bの組合せにより画素62が構成されている。画素62は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組合せで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0074】
図7(b)は、
図7(a)のA-B線における部分断面模式図である。画素62は、基板63上に、陽極64と、正孔輸送層65と、発光層66R、66G、66Bのいずれかと、電子輸送層67と、陰極68と、を備える有機EL素子を有している。これらのうち、正孔輸送層65、発光層66R、66G、66B、電子輸送層67が有機層に当たる。また、本実施形態では、発光層66Rは赤色を発する有機EL層、発光層66Gは緑色を発する有機EL層、発光層66Bは青色を発する有機EL層である。発光層66R、66G、66Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、陽極64は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層65と電子輸送層67と陰極68は、複数の発光素子62R、62G、62Bに共通で形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、陽極64と陰極68とが異物によってショートするのを防ぐために、陽極64間に絶縁層69が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層70が設けられている。
【0075】
図7(b)では正孔輸送層65や電子輸送層67が一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によって、正孔ブロック層や電子ブロック層を含む複数の層で形成されてもよい。また、陽極64と正孔輸送層65との間には陽極64から正孔輸送層65への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成することもできる。同様に、陰極68と電子輸送層67の間にも電子注入層が形成されることができる。
【0076】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)および陽極64が形成された基板63を準備する。
【0077】
陽極64が形成された基板63の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、陽極64が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層69を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0078】
絶縁層69がパターニングされた基板63を第1の有機材料成膜装置に搬入し、静電チャックにて基板を保持し、正孔輸送層65を、表示領域の陽極64の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層65は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層65は表示領域61よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0079】
次に、正孔輸送層65までが形成された基板63を第2の有機材料成膜装置に搬入し、静電チャックにて保持する。基板とマスクとのアライメントを行い、マグネット板でマスクを吸引して基板に密着させた後、基板63の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層66Rを成膜する。
【0080】
発光層66Rの成膜と同様に、第3の有機材料成膜装置により緑色を発する発光層66Gを成膜し、さらに第4の有機材料成膜装置により青色を発する発光層66Bを成膜する。発光層66R、66G、66Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域61の全体に電子輸送層67を成膜する。電子輸送層67は、3色の発光層66R、66G、66Bに共通の層として形成される。
電子輸送層67まで形成された基板を金属性蒸着材料成膜装置で移動させて陰極68を成膜する。
【0081】
本発明によると、以上の各成膜装置内で基板を静電チャックに吸着させる時、および/または、成膜完了した基板を次の工程の成膜装置に移送するため静電チャックから分離させる時、マグネット板(マスク吸引手段)に設置した押しピン301を吸着および/または分離動作を補助する手段として利用することができる。
その後プラズマCVD装置に移動して保護層70を成膜して、有機EL表示装置60が完成する。
【0082】
絶縁層69がパターニングされた基板63を成膜装置に搬入してから保護層70の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本例において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【0083】
上記実施例は本発明の一例を示すものでしかなく、本発明は上記実施例の構成に限定されないし、その技術思想の範囲内で適宜に変形しても良い。
【符号の説明】
【0084】
11:成膜装置、22:基板支持ユニット、23:マスク支持ユニット、24:静電チャック、243:貫通孔、30:マグネット板、301:押しピン、31:マグネット板Zアクチュエータ