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特許7021366充電式リチウム二次電池用正極活物質としてのリチウム遷移金属複合酸化物
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  • 特許-充電式リチウム二次電池用正極活物質としてのリチウム遷移金属複合酸化物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】充電式リチウム二次電池用正極活物質としてのリチウム遷移金属複合酸化物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20220208BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220208BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220208BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
C01G53/00 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020551972
(86)(22)【出願日】2019-03-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-26
(86)【国際出願番号】 EP2019055545
(87)【国際公開番号】W WO2019185318
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-09-25
(31)【優先権主張番号】18164677.9
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(73)【特許権者】
【識別番号】517107151
【氏名又は名称】ユミコア・コリア・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジヘ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジェンス・ポールセン
(72)【発明者】
【氏名】アルム・パク
(72)【発明者】
【氏名】ヒ-スン・ギル
【審査官】佐宗 千春
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-015230(JP,A)
【文献】特表2013-535771(JP,A)
【文献】特開2017-154915(JP,A)
【文献】特表2014-506220(JP,A)
【文献】特開2018-098174(JP,A)
【文献】国際公開第2016/060105(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/010448(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/64-4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Li1+a((Ni(Ni0.5Mn0.5Co1-k1-aを有する結晶性リチウム遷移金属系酸化物粒子を含むリチウムイオン電池用の粉末状正極材料であって、式中、Aがドーパントであり、-0.030≦a≦0.025であり、0.10≦x≦0.40であり、0.25≦z≦0.52であり、x+y+z=1であり、k≦0.01であり、前記粉末状正極材料が、Cu Kα放射線源を使用するX線回折パターンから得られる(104)面のピークに基づいて、シェラーの等式によって決定される際、25nm以上かつ33nm未満の結晶子径を有し、MR(SC-Ni)が、1.04~1.10であり、MR(SC-Ni)が、粒子の表面領域の正規化モル比MR(Ni)であり、EDS分析によって決定される際、前記粒子の中心を通って引いた仮想直線の対向する粒子縁部の表面領域で測定したMR(Ni)の2つの値の合計を、前記粒子の中心におけるMR(Ni)の値の2倍で除算することによって得られる、粉末状正極材料。
【請求項2】
0.18≦x≦0.22であり、0.42≦z≦0.52であり、1.075<z/y<1.625である、請求項1に記載の粉末状正極材料。
【請求項3】
25.0~30.5nmの結晶子径を有する、請求項1又は2に記載の粉末状正極材料。
【請求項4】
炭素含有量≦400ppmを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の粉末状正極材料。
【請求項5】
LiNaSOを含むコーティングを有する粒子を含み、LiNaSOが、前記粉末状正極材料の総重量に対して0.15~5重量%の含有量で存在し、二次相が、最大1重量%のAl、LiAlO、LiF、LiPO、MgO、及びLiTiOのうちのいずれか1つ以上を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の粉末状正極材料。
【請求項6】
前記ドーパントAが、Al、Ca、W、B、Si、Ti、Mg、及びZrのうちいずれか1つ以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の粉末状正極材料。
【請求項7】
前記粉末状正極材料が、8~12μmのD50を有する粒径分布を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の粉末状正極材料。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の粉末状正極材料を調製するための方法であって、
-金属塩と塩基との共沈から調製されるM’系前駆体を提供する工程であって、前記前駆体が、EDS分析によって決定される際、粒子の断面における総遷移金属含有量に対するNiのモル比MR(Ni)が、前記粒子の中心領域よりも表面領域において高い粒子を含む、工程と、
-前記M’系前駆体を、LiOH、LiO、及びLiOH・HOのうちのいずれか1つと混合する工程であって、これにより第1の混合物を得、これにより前記第1の混合物におけるLi対遷移金属の比が、0.65~0.97である、工程と、
-前記第1の混合物を、ロータリキルン内の酸化雰囲気中650~850℃の温度で、1/3~3時間焼結する工程であって、これによりリチウム欠乏前駆体粉末を得る、工程と、
-前記リチウム欠乏前駆体粉末を、LiOH、LiO、及びLiOH・HOのうちのいずれか1つと混合する工程であって、これにより第2の混合物を得る、工程と、
-前記第2の混合物を、酸化雰囲気中750~800℃の温度で、6~36時間焼結する工程と、を含む、方法。
【請求項9】
前記M’系前駆体が、10~15μmのD50を有する粒径分布を有する、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充電式リチウムイオン電池用の正極材料として適用することができる、リチウム遷移金属酸化物材料に関する。より具体的には、材料は、特定の範囲の組成及び結晶子径を有する。正極材料は、容量、不可逆性、及びサイクル安定性などの電池性能を向上させる。
【背景技術】
【0002】
充電式リチウムイオン電池(lithium ion batteries、LIB)は、それらの高い体積エネルギー密度及び質量エネルギー密度、並びにそれらの長いサイクル寿命に起因して、ノート型パソコン、携帯電話、カメラ、及び他の多様な電子デバイスに現在使用されている。充電式電池はまた、化石燃料の使用による地球温暖化、環境汚染、及びヒトの健康への影響のような今日の問題を軽減する大きな手段である。更に、電気自動車(electric vehicle、EV)及びハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)用の大型電池の必要性を満たすためには、高いエネルギー密度の電池が必要とされる。
【0003】
層状酸化物材料、特にLiCoO(ドープ型又は非ドープ型-以下、「LCO」と称される)は、LIBの正極材料として高い理論容量及び良好な熱安定性のため、一般に好ましい。しかしながら、資源不足及び環境問題と関連するコバルト(Co)価格の高さが原因で、安定した層状構造及び高い理論容量を有する代替的な正極材料が開発されてきた。LCO化合物中のCoを他の遷移金属に置換することによって、リチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物(以下、「lithium nickel cobalt manganese-based oxide、NMC」と称する)及びリチウムニッケルコバルトアルミニウム系酸化物(以下、「lithium nickel cobalt aluminum-based oxide、NCA」と称する)が、LIBの代替物として提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非ドープ型NMC材料は、式Li[Ni(Ni0.5Mn0.5Co]Oに対応する、LiCoO、LiNi0.5Mn0.5、及びLiNiOの固溶体と見なすことができる。式中、「z」は、いわゆるNi過剰である。例えば、LiNiO中の全てのNiは3価であり、Ni過剰は100%である。LiNi0.5Mn0.5中の全てのNiは二価(Ni2+)であり、Ni過剰は0である。4.3VでのLiCoO及びLiNi0.5Mn0.5の公称容量は、約160mAh/gであり、対してLiNiOでは220mAh/gである。したがって、予想される可逆容量は、Ni過剰で増加する。NMC化合物の可逆容量は、容易に計算することができる。例えば、Li[Ni0.4(Ni0.5Mn0.50.4Co0.2]OであるNMC622の容量は、0.2LiCoO+0.4LiNi0.5Mn0.5+0.4LiNiOと理解される。予想容量は、0.2×160+0.4×160+0.4×220=184mAh/gに等しい。
【0005】
したがって、Ni過剰が増加するほど、NMC物質の容量が増加する。加えて、NMCはまた、Li過剰量:Li1+a[Ni(Ni0.5Mn0.5Co1-aを有し得る。正極材料の電気化学的性能は、電池における可逆的及び不可逆的化学反応に依存する。電池の不可逆容量(以下、「irreversible capacity、IRRQ」と称される)は、(CQ-DQ)/CQ(%)として定義され、式中、CQ及びDQはそれぞれ、第1のサイクルの充放電容量である。NMC化合物のCQは、元素組成によってほぼ決定され、特に、Ni過剰が増加するにつれて増加する。したがって、固定的なNMC組成で高い容量を達成するためには、低いIRRQが必要である。
【0006】
負極材料の容量も電池のDQに寄与するので、実際の電池では状況は更に複雑である。理想的な電池では、正極材料及び負極材料のCQ、DQ、及びIRRQは、完全に互いに一致する。しかしながら、実際の電池では、「電池平衡化」又は「アノードカソード平衡化」は、より複雑な問題である。典型的な電池設計では、正極のCQは、負極のもの未満であるべきであり、さもなければ、Liめっきが生じるであろう。加えて、正極のCQは、負極のものよりも有意に小さくてはならず、さもなければ、負極は部分的にのみ利用され、エネルギー密度は減少する。実用的な負極材料(グラファイトなど)のIRRQは、約6~8%である。一方、既知の正極材料(NMCなど)のIRRQは、負極材料のIRRQよりも大きく、したがって、DQは、「正極材料によって制限される」。換言すれば、放電中、負極がより高い電圧に達する前に、正極材料は低閾値電圧に達し、負極の容量は部分的にのみ利用される。したがって、正極材料のIRRQを低減することができれば、負極材料のより良好な利用が可能となり、電池のDQの増加をもたらすことができる。
【0007】
更に、正極材料のIRRQは、負極材料のものよりも更に小さい場合があることが望ましい。そのような場合、電池のDQは、「負極材料によって制限される」。負極の電圧は、正極の電圧が降下した後に増加する。したがって、完全に放電された電池は、完全に脱リチウム化された負極を含有するが、正極は部分的にのみリチウム化される。
【0008】
電池のパルス電力は、通常は正極が優勢であり、放電終了時に減少する重要な特性である。パルス電力の減少は、正極が完全なリチウム化に近づくと、正極の電力性能がますます悪化することによって引き起こされる。負極に制限されるセルでは、放電終了時に正極が完全にリチウム化されない。したがって、正極の低電力領域には達しない。したがって、負極に制限されるセルのパルス電力は、放電中に高いままである。要するに-低IRRQを有する正極は、特に放電終了に近づくと、改善された直流抵抗又はパルス電力を可能にする。
【0009】
要約すると、正極材料のIRRQを低減して、(1)正極の可逆容量を増加させること、(2)より良好な容量バランスによって負材料をより良好に利用すること、並びに(3)電池の電力及びDCRを改善することを可能にすることが望ましい。本発明の目的は、容易に制御される製造プロセスによって、最適範囲の組成及び結晶子径を有する新規の正極活物質を提供することである。正極材料は、高い可逆容量、低い不可逆性、及び長いサイクル安定性などの優れた電気化学的特性を有するべきである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様からの観点では、本発明は、一般式Li1+a((Ni(Ni0.5Mn0.5Co1-k1-aを有する結晶性リチウム遷移金属系酸化物粒子を含むリチウムイオン電池用の粉末状正極材料であって、式中、Aがドーパントであり、-0.030≦a≦0.025であり、0.10≦x≦0.40であり、0.25≦z≦0.52であり、x+y+z=1であり、k≦0.01であり、結晶性粉末が、Cu Kα放射線源を使用するX線回折パターンから得られる(104)面のピークに基づいて、シェラーの等式によって決定される際、33nm未満の結晶子径を有し、粒子の断面における総遷移金属含有量に対するNiのモル比MR(Ni)が、EDS分析によって決定される際、粒子の中心領域よりも表面領域において高い、粉末状正極材料を提供することができる。これは、粒子の全ての断面における総遷移金属含有量に対するNiのモル比MR(Ni)が、粒子の中心領域よりも表面領域において高いことであり得る。結晶子径はまた、32nm未満、又は好ましくは25.0~30.5nmであってもよい。一般式の一実施形態では、0.15≦x≦0.25であり、0.38≦z≦0.52である。また、0.18≦x≦0.22であり、0.42≦z≦0.52であり、1.075≦z/y≦1.625が好ましく、電極材料の電気化学的に更に良好な特性の結果をもたらす。ドーパントAは、例えば、Al、Ca、W、B、Si、Ti、Mg、及びZrのうちいずれか1つ以上であり得る。kの値はまた、ゼロであってもよい。前述の勾配を容易に得るために、8~12μmのD50を有する粒径分布を有する粉末を有することが最良であり得る。D50値が小さすぎると、使用されるプロセスにより、所望の勾配を得ることができない場合がある。
【0011】
特定の実施形態では、パラメータMR(SC-Ni)は、1.04~1.10であり、MR(SC-Ni)は、粒子の表面領域の正規化モル比MR(Ni)であり、粒子の中心を通って引いた仮想直線の対向する粒子縁部の表面領域で測定したMR(Ni)の2つの値の合計を、粒子の中心におけるMR(Ni)の値の2倍で除算することによって得られる。一実施形態では、粒子の中心を通って引いた全ての直線に対して、同じことが言える。粉末状正極材料は、好ましくは、≦400ppm、又は更には<200ppm、最も好ましくは<100ppmの炭素含有量を有し得る。
【0012】
また、0.15~5重量%のLiNaSO二次相を有する前述の粉末を提供することによって、本発明の効果を更に改善することも可能である。そのような粉末は、結晶子からなる二次粒子からなり得、結晶子は、このLiNaSO二次相を含むコーティングを更に含み得る。更に二次相は、最大1重量%のAl、LiAlO、LiF、LiPO、MgO、及びLiTiOのうちいずれか1つ以上を更に含み得る。
【0013】
第2の態様からの観点では、本発明は、本発明による粉末状正極材量を調製するための方法であって、
-金属塩と塩基との共沈から調製されるM’系前駆体を提供する工程であって、前駆体が、EDS分析によって決定される際、粒子の断面における総遷移金属含有量に対するNiのモル比MR(Ni)が、粒子の中心領域よりも表面領域において高い粒子を含む、工程と、
-M’系前駆体を、LiOH、LiO、及びLiOH・HOのうちのいずれか1つと混合する工程であって、これにより第1の混合物を得、これにより第1の混合物におけるLi対遷移金属の比が、0.65~0.97である、工程と、
-第1の混合物を、ロータリキルン内の酸化雰囲気中650~850℃の温度で、1/3~3時間焼結する工程であって、これによりリチウム欠乏前駆体粉末を得る、工程と、
-リチウム欠乏前駆体粉末を、LiOH、LiO、及びLiOH・HOのうちのいずれか1つと混合する工程であって、これにより第2の混合物を得る、工程と、
-第2の混合物を、酸化雰囲気中750~800℃の温度で、6~36時間焼結する工程と、を含む、方法を提供することができる。第1の焼結する工程は、代替的にチャンバ炉で8~36時間行ってもよい。結晶子径の最良の値は、760~790℃の第2の焼結温度で得ることができる。一実施形態では、M’系前駆体は、最終生成物の好ましいD50と良好に適合する、10~15μmのD50を有する粒径分布を有する。
【0014】
(本発明の実施形態)
本発明は、以下の実施形態を網羅する。
【0015】
実施形態1.一般式Li1+a((Niz(Ni0.5Mn0.5)y Cox)1-k Ak)1-a O2を有する結晶性リチウム遷移金属系酸化物粒子を含むリチウムイオン電池用の粉末状正極材料であって、式中、Aがドーパントであり、-0.030≦a≦0.025であり、0.10≦x≦0.40であり、0.25≦z≦0.52であり、x+y+z=1であり、k≦0.01であり、結晶性粉末が、Cu Kα放射線源を使用するX線回折パターンから得られる(104)面のピークに基づいて、シェラーの等式によって決定される際、33nm未満の結晶子径を有し、粒子の断面における総遷移金属含有量に対するNiのモル比MR(Ni)が、EDS分析によって決定される際、粒子の中心領域よりも表面領域において高い、粉末状正極材料。
【0016】
実施形態2.MR(SC-Ni)が、1.04~1.10であり、MR(SC-Ni)が、粒子の表面領域の正規化モル比MR(Ni)であり、粒子の中心を通って引いた仮想直線の対向する粒子縁部の表面領域で測定したMR(Ni)の2つの値の合計を、粒子の中心におけるMR(Ni)の値の2倍で除算することによって得られる、実施形態1に記載の粉末状正極材料。
【0017】
実施形態3.0.18≦x≦0.22であり、0.42≦z≦0.52であり、1.075<z/y<1.625である、実施形態1又は2に記載の粉末状正極材料。
【0018】
実施形態4.25.0~30.5nmの結晶子径を有する、実施形態1~3のいずれか一項に記載の粉末状正極材料。
【0019】
実施形態5.炭素含有量≦400ppmを有する、実施形態1~4のいずれか一項に記載の粉末状正極材料。
【0020】
実施形態6.粉末が、0.15~5重量%のLiNaSO4二次相を更に含む、実施形態1~5のいずれか一項に記載の粉末状正極材料。
【0021】
好ましくは、実施形態6では、粉末状正極は、粉末の総重量に対して0.15~5重量%のLiNaSOの含有量を有する、LiNaSOを含むコーティングを有する粒子を含む。より好ましくは、粉末状正極は、LiNaSOを含むコーティングに加えて、粉末の総重量に対して0.1~1重量%のAlの含有量を有するAlを含むコーティングを有する粒子を含む。
【0022】
実施形態7.粉末が、LiNaSO4二次相を含むコーティングを有する粒子を有する、実施形態6に記載の粉末状正極材料。
【0023】
実施形態8.二次相が、最大1重量%のAl2O3、LiAlO2、LiF、Li3PO4、MgO、及びLi2TiO3のうちいずれか1つ以上を更に含む、実施形態6又は7に記載の粉末状正極材料。
【0024】
実施形態9.ドーパントAが、Al、Ca、W、B、Si、Ti、Mg、及びZrのうちいずれか1つ以上である、実施形態1~8のいずれか一項に記載の粉末状正極材料。
【0025】
実施形態10.粉末が、8~12μmのD50を有する粒径分布を有する、実施形態1~9のいずれか一項に記載の粉末状正極材料。
【0026】
実施形態11.実施形態1~10のいずれかに記載の粉末状正極材料を調製するための方法であって、
-金属塩と塩基との共沈から調製されるM’系前駆体を提供する工程であって、前駆体が、EDS分析によって決定される際、粒子の断面における総遷移金属含有量に対するNiのモル比MR(Ni)が、粒子の中心領域よりも表面領域において高い粒子を含む、工程と、
-M’系前駆体を、LiOH、Li2O、及びLiOH H2Oのうちのいずれか1つと混合する工程であって、これにより第1の混合物を得、これにより第1の混合物におけるLi対遷移金属の比が、0.65~0.97である、工程と、
-第1の混合物を、ロータリキルン内の酸化雰囲気中650~850℃の温度で、1/3~3時間焼結する工程であって、これによりリチウム欠乏前駆体粉末を得る、工程と、
-リチウム欠乏前駆体粉末を、LiOH、Li2O、及びLiOH H2Oのうちのいずれか1つと混合する工程であって、これにより第2の混合物を得る、工程と、
-第2の混合物を、酸化雰囲気中750~800℃の温度で、6~36時間焼結する工程と、を含む、方法。
【0027】
実施形態12.M’系前駆体が、10~15μmのD50を有する粒径分布を有する、実施形態11に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】位置(D1、D2、D3、D4、及びD5)がEDS分析用に選択された、pEX1の断面SEM画像。
図2】選択された位置におけるpEX1及びpCEX2のNi/M’モル比(モル/モル)のEDSプロファイル。
図3】選択された位置におけるEX1.7及びCEX2.2のNi/M’モル比(モル/モル)のEDSプロファイル。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、充電式リチウム電池における正極活物質として使用される、リチウム遷移金属酸化物に焦点をあてている。正極材料は、M’が、Ni、Mn、及びCoから選択される1つ以上の遷移金属である、Li1+aM’1-aである、NMC組成を有するが、M’はまた、Al、Ca、Ti、Mg、W、Zr、B、及びSiなどの他の元素、又は更には非金属でドープされてもよく、そのような元素は、潜在的に電極材料の電気化学的性能に好影響を有する。本発明の正極材料は、高い放電容量(discharge capacity、DQ1)及び低い不可逆性(IRRQ)を達成することを可能にする、特定の範囲の組成及び最適な結晶子径を有する。
【0030】
本発明に開示される正極活物質は、一般式Li1+aM’1-a’(式中、M’=(Ni(Ni0.5Mn0.5Co1-k)を有し、x+y+z=1、0.1≦x≦0.4、0.25≦z≦0.52、Aがドーパントであり、0≦k≦0.1及び0.01≦a’≦0.10である、正極材料を調製するための方法について開示している、同時係属特許出願の国際公開第2018/158078(A1)号で考察されている、二重焼結方法によって製造することができ、方法が、
-金属塩と塩基との共沈から調製されるM’系前駆体を提供する工程と、
-M系前駆体を、LiOH、Li2O、及びLiOH・HOのうちのいずれか1つと混合する工程であって、これにより第1の混合物を得、これにより第1の混合物におけるLi対遷移金属の比が、0.65~0.97である、工程と、
-第1の混合物を、ロータリキルン内の酸化雰囲気中650~850℃の温度で、1/3~3時間焼結する工程であって、これによりリチウム欠乏前駆体粉末を得る、工程と、
-リチウム欠乏前駆体粉末を、LiOH、LiO、及びLiOH・HOのうちのいずれか1つと混合する工程であって、これにより第2の混合物を得る、工程と、
-第2の混合物を、酸化雰囲気中800~1000℃の温度で、6~36時間焼結する工程と、を含む。二重焼結プロセスは、高Ni NMC材料を生成するための通常のワンステップ焼結プロセスよりも生産スループットに関して優れている。第1の焼結する工程は、代替的にチャンバ炉で8~36時間行ってもよい。
【0031】
NMCの典型的な前駆体は、混合遷移金属水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、酸化物などである。水酸化物及びオキシ水酸化物は、一般式(Ni(Ni0.5Mn0.5CO)O(OH)(式中、0≦v≦1、及びv+w=2である)を有する。乾燥条件に応じて、遷移金属原子価状態は異なる。酸素中で乾燥を実施する場合、窒素中での乾燥と比較して、より高い原子価状態が達成される。したがって、原子価状態を知ることにより、v及びwを推定することが可能になり、これにより、予想される水酸化物組成の低下をもたらす。乾燥温度が十分に高い場合、水酸化物又はオキシ水酸化物は、徐々に酸化物に変換されることについて言及するべきである。
【0032】
本発明では、第1の焼結プロセス工程において、リチウム欠乏中間生成物は、混合遷移金属前駆体をリチウム源とブレンドし、続いて焼成することによって調製される。典型的には、LiOH HO又はLiCOは、リチウム源として使用される。LiCOを使用することにより、調製コストを低減することが可能になるが、Ni過剰が高すぎる場合には、LiCOを使用することができない。ブレンドは、1未満の、典型的には0.70~0.95の範囲のLi/M’化学量論比を有する。
【0033】
LiCOがリチウム前駆体を使用する場合、ブレンドは、650℃超であるが870℃未満の典型的な第1の焼結温度の酸素含有ガス中(例えば、空気流又は酸素流中で)で焼結される。LiOHは、より高い反応性を有するので、LiOH又はLiOH・HOが使用される場合、温度を下げてもよい。リチウム源、第1の焼結温度、及び第1の焼結雰囲気の選択は、これらのプロセス条件が最終正極材料の特性を決定することができるので重要である。リチウム欠乏中間生成物の最も重要な特性は、(未反応)LiOH、及びLiCOなどの表面不純物の含有量、並びに最初の粒径である。
【0034】
未反応のLiの量が高すぎる場合-例えば10%超の場合、第1の焼成温度が低すぎる場合がある。有意なLiCO不純物が存在する場合、焼成時間又は温度を増加させてもよいか、又はLi:M’比を減少させてもよい。第2の焼結工程中の不純物の除去は困難であるので、低LiCO不純物(典型的には0.5重量%未満)が、望ましい。第1の焼結工程後の結晶化度が、第2の焼結工程の後の目標よりも高い場合、第1の焼成時間及び/又は温度を減少させる。これは、任意の更なる焼成が結晶子のサイズを増加させるのみであり、減少させることはないからである。リチウム欠乏中間体の最初の粒径が、低ナノ範囲である場合、第2の焼結工程で、最初の粒径を増加させることができる。しかしながら、サイズが大きすぎる場合、第2の焼結工程で調節することができない。
【0035】
第2の焼結プロセス工程では、リチウム欠乏中間体をリチウム源と混合して、化学量論的Li/M’=1.00値に近い最終Li/M’目標組成を得る。酸素含有ガス中(例えば、空気流又は酸素流中)でブレンドを焼結して、最終正極活物質を得る。本発明における第2の焼結温度は、典型的には700℃超であるが、800℃未満である。加熱及び冷却を含む第2の焼結時間は、8~36時間の範囲に設定される。第2の焼結条件は、正極材料の最初の粒径を決定し、その特性に大きな影響を与える。
【0036】
最終生成物は、少量の表面不純物を有する場合がある。LiCOが表面不純物として存在する場合、電池サイクル中の望ましくないガス発生を引き起こし得、表面不純物としてのLiOHは、電極スラリー調製中にプロセス問題をもたらし得る。表面不純物の量は、リチウム源としてLiOHを使用しながら高い焼結温度を選択することによって、及び純粋な酸素ガス雰囲気を使用することによって、最小化することができる。
【0037】
したがって、最初の粒径は、焼結温度によって制御することができる。本発明では、選択されたNMC組成範囲と、33nm未満、好ましくは32nm未満、より好ましくは30nm未満の結晶子径との組み合わせが、良好なサイクル安定性、並びに低IRRQを達成することが、驚くべきことに観察されている。33nm未満の結晶子径は、第2の焼結温度を、欧州特許第17159083.9号に記載されているように選択された組成に対応する通常温度に対して、少なくとも50℃減少させることによって達成することができる。第2の焼結温度が減少されるので、許容可能な表面不純物レベルを達成することはより困難である。したがって、LiOH又はLiOH・HOが、好ましくはリチウム前駆体として使用され、中間体Li-M’-酸化物及びリチウム前駆体の両方が、低LiCO不純物レベルを有する必要がある。第2の焼成中の酸素ガスの使用は、表面不純物レベルを低減するのに更に役立つ。
【0038】
Co含有量が0.15~0.25の範囲であり、かつNi及びMnを狭い範囲内で変動させると、好ましくは、改善された性能が得られる。このNi-Mnの範囲はまた、互いに関連する2つの関係によって表すことができる。式Li1+a[Ni(Ni0.5Mn0.5Co1-aにおける(2z+y)/yによって表されるNi/Mnのモル比は、容量及びサイクル安定性などの性能に影響を及ぼし得る。Ni/Mn比が増加すると、総放電容量が増加するが、比が大きくなり過ぎると、電極材料の安定性が減少する。一方、Ni含有量に対してMn含有量が増加されると、電池の安全性及びサイクル保持が改善されるが、容量は減少する。Ni含有量が増加するにつれて、Ni過剰(式Li1+a[Ni(Ni0.5Mn0.5Co1-aにおける「z」によって表される)、及びNi対Mn化学量論比の両方が増加する。Ni過剰が0.25~0.52の範囲であり、対応するNi対Mn化学量論比が1.83~5.52の範囲であるが、好ましくは2.8~4.5である場合に、改善された性能が得られる。
【0039】
本発明では更に、正極材料が、表面から中心まで特定の組成勾配を有することが観察されている。一般に、表面から中心までの濃度勾配を有する正極材料は、専用の共沈プロセスによって生成される濃度勾配を有する前駆体を使用することによって得ることができる。例えば、共沈用のバッチ反応器からの混合遷移金属水酸化物を使用することにより、濃度勾配層を有する正極活物質を調製することができる。勾配の程度は、表面と中心との間の元素のモル比を比較することによって決定される。正極材料の表面領域におけるNi含有量が高いほど、IRRQなどの電気化学的特性を向上させることができる。
【0040】
勾配は、低い結晶化度レベルでのみ存在する。欧州特許第17159083.9号のもののような通常の焼成温度が適用されると、最終生成物の結晶化度は、33nmよりも高く、勾配は消失する。IRRQは、緩やかな第2の焼成条件中に勾配が保存されることに関連すると予想される。最終正極の濃度勾配は、水酸化物前駆体中の対応する濃度勾配から生じる。しかしながら、焼成中の濃度勾配は、なだらかな傾向を有し、したがって、前駆体の実際のコア-シェル濃度タイプ-コアとシェルとの間の組成にはっきりとした区別を伴う-は、正極における濃度勾配も引き起こし得る。正極における最終勾配は、焼成条件及び前駆体の初期組成勾配に依存する。
【0041】
正極材料の性能は、表面改質によって更に向上させることができる。正極材料の表面上にコーティングを提供することは、サイクル中の電気化学的性能の低下をもたらす場合がある、電極材料と電解質との間の副反応を抑制する既知の戦略である。表面コーティングはまた、正極材料の構造安定性を向上させ、優れた電池性能をもたらすことができる。
【0042】
国際公開第2016/116862号は、N(M)C材料、並びにAl、TiO、MgO、WO、ZrO、Cr、及びVからなる群からのいずれか1つ以上の化合物の金属元素の均質な混合物からなる表面層を提供する、表面処理について開示している。特定の実施形態では、表面層は、コアの元素、LiF、及びナノメートル結晶性AIの均質な混合物からなり、この処理は、性能を劣化させることなく充電電圧を増加させることを可能にし、したがって、より高いエネルギー密度を達成することを可能にする。国際公開第2015/128722号に考察されているように、電池性能に直接影響する可溶性表面塩基化合物の分解は、Naを用いる表面処理を適用することによって更に向上させることができる。一例として、Na処理は、AlF(又はLiAlF)、AlPO、Al(OH)、又はAl処理と組み合わせることができる。フッ化物、リン酸塩、酸化物、及び水酸化物は、可溶性塩基を分解し、かつ同時に、酸化物Al又はLiAlO表面フィルムを作り出すことに役立ち得る、リチウム受容体である。
【0043】
実施例では、以下の分析方法を使用する。
【0044】
A)SEM及びEDS分析
A1)SEM分析
走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy、SEM)技術によって、正極材料及びその断面の形態を分析する。この測定は、25℃の9.6×10-5Paの高真空環境下で、JEOL JSM7100F走査型電子顕微鏡装置を用いて実施する。試料の画像は、2000~10000倍の倍率で記録する。
【0045】
A2)断面調製
正極材料の断面は、JEOL(IB-0920CP)であるイオンビーム断面ポリッシャ(CP)機器によって調製する。この機器は、ビーム源としてアルゴンガスを使用する。少量の正極材料粉末を、樹脂及び硬化剤と混合し、次いで混合物をホットプレート上で10分間加熱する。加熱後、これを、切断用のイオンビーム機器内に置き、設定を3時間の持続時間、6.5kVの電圧の標準的な手順に調節する。正極材料の断面を、方法A1)によって分析する。
【0046】
A3)EDS分析
方法A2)で調製された試料を使用して、SEM及びエネルギー分散X線分光法(energy-dispersive X-ray spectroscopy、EDS)によって、正極材料粒子の表面部から中心部までの濃度勾配を分析する。Oxford instrumentsからの50mmX MaxEDSセンサを備えたJEOL JSM7100F SEM装置で、SEM/EDSを実施する。正極材料粒子のEDS分析は、断面の定量的元素分析を提供する。断面EDSでは、粒子は、球状であると仮定する。粒子の表面の点から対向する表面の点に、仮想直線を設定し、線は、粒子の中心点を通る。第1の表面の点を「D1」として設定し、中心点を「D3」として設定し、第2の表面の点を「D5」と設定する。中心(D3)と表面(D1及びD5)との間の「D2」及び「D4」である追加の2つの点を、図1に示す。走査時間1分のEDS分析によって、5つの点を調査する。粒子の非常に縁部で測定することによって、外部影響による誤った影響を受けた結果をもたらすであろうため、表面の点D1及びD5のEDS分析は、実験的に実現可能なほど表面近くで(すなわち、表面からおよそ0.5μmの距離で)行われる。実施例でのEDSは、4つの粒子の選択から得られた値の平均を提供する。
【0047】
B)PSD分析
水性媒体中に粉末を分散させた後、Hydro MV湿式分散アクセサリを備えたMalvern Mastersizer3000を使用して、PSDを測定する。粉末の分散を改善するために、十分な超音波照射及び撹拌を適用し、適切な界面活性剤を導入する。D10、D50、及びD90は、累積体積分布%のうちの10%、50%、及び90%での粒径として定義する。
【0048】
C)X線回折測定
正極材料のX線回折パターンは、1.5418Åの波長で放射されるCu Kα放射線源(40kV、40mA)を使用して、RigakuX線回折計(Ultima IV)を用いて収集する。機器の構成は、1°のソーラースリット(Soller slit、SS)、10mmの発散高さ制限スリット(divergent height limiting slit、DHLS)、1°の発散スリット(divergence slit、DS)、及び0.3mmの受光スリット(reception slit、RS)に設定する。ゴニオメータの直径は、158mmである。XRDでは、回折パターンは、スキャン速度1°/分及びステップサイズ0.02°/スキャンで5~85°(2θ)の範囲で得る。結晶子径は、既知のシェラーの等式を使用して、X線回折パターンから得た(104)面のピークの回折角及び半値全幅(full width at half maximum、FWHM)から計算する。
【0049】
【数1】
【0050】
τ結晶子径(nm)は、結晶粒度以下であり得る、規則的な(結晶性)ドメインの平均サイズである。
K:シェラー定数、0.9
λ:X線波長(CuKα=1.5418Å)
β:FWHM
θ:XRDピーク位置、2θの1/2
X線回折パターンの(ほぼ)44.5±1°で、空間群R-3mを有する結晶構造に割り当てられた(104)面のピークを観察する。
【0051】
D)コインセル試験
D1)コインセルの調製
正極の作製に関しては、重量比90:5:5の配合で、電気化学的活性材料、コンダクタ(スーパーP、Timcal)、バインダ(KF#9305、Kureha)を溶媒(NMP、三菱)中に含有するスラリーを、高速ホモジェナイザにより調製する。均質化したスラリーを、230μmのギャップを有するドクターブレードコータを使用してアルミニウム箔の片面上に塗り広げる。スラリーでコーティングした箔をオーブン内で120℃において乾燥させて、次いで、カレンダ加工工具を使用してプレスする。次いで、真空オーブン中で再び乾燥させて、電極フィルム内の残留溶媒を完全に取り除く。コインセルは、アルゴンを充填させたグローブボックス中で組み立てられる。セパレータ(Celgard2320)を、正極と、負極として使用するリチウム箔片との間に配置する。EC/DMC(1:2)中1MのLiPFは、電解質として使用され、セパレータと電極との間に滴下される。次いで、コインセルを完全に密封して、電解質の漏れを防止する。
【0052】
D2)試験方法
従来の「一定カットオフ電圧」試験である本発明のコインセル試験は、表1に示すスケジュールに従う。各セルを、Toscat-3100コンピュータ制御ガルバノスタットサイクリングステーション(galvanostatic cycling station)(東洋製)を用いて、25℃でサイクルする。コインセル試験手順は、160mA/gの1C電流定義を使用し、以下のような2つの部分を含む:パートIは、4.3~3.0V/Li金属枠範囲における0.1C、0.2C、0.5C、1C、2C、及び3Cでのレート性能の評価である。初期充電容量(CQ1)及び放電容量(DQ1)が定電流モード(constant current mode、CC)で測定される第1のサイクルを除いて、0.05Cの終止電流基準で充電する間、定電流-定電圧の特色を示す、全ての後続サイクル。第1のサイクルの30分間、及び全ての後続サイクルの10分間の静止時間(rest time)が、各充電と放電との間に設けられる。
【0053】
不可逆容量IRRQは、以下のように%で表される。
【0054】
【数2】
【0055】
パートIIは、1Cにおけるサイクル寿命の評価である。充電カットオフ電圧は、4.5V/Liの金属として設定される。4.5V/Liの金属における放電容量は、サイクル7及び34において0.1Cであり、またサイクル8及び35において1Cで測定される。
【0056】
パートIIIは、4.5~3.0V/Li金属間の、充電に関する1Cレート及び放電に対する1Cレートを用いた、加速サイクル寿命の実験である。容量減退1C/1C QFad.は、以下のように計算する。
【0057】
【数3】
【0058】
【表1】
【0059】
E)フルセル試験
650mAhのパウチタイプセルを次のように調製する:正極材料、Super-P(Super-P、Timcal)、正極導電剤としてのグラファイト(KS-6、Timcal)、及び正極バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF1710、Kureha)を、分散媒としてのN-メチル-2-ピロドン(NMP)に添加し、これにより、正極活物質粉末、正極導電剤(super P及びグラファイト)、及び正極バインダの質量比を92/3/1/4に設定する。その後、混合物を混練して正極混合スラリーを調製する。次いで、得られた正極混合スラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔から作製された正極集電体の両面に適用する。適用領域の幅は、43mmであり、長さは、406mmである。正極活物質の典型的な充填重量は、約11.5±lmg/cmである。次いで、電極を乾燥させ、電極密度3.3±0.5g/cmまで100kgf(980.7N)の圧力を使用してカレンダ加工する。また、正極の端部には、正極集電体タブとして働くアルミニウム板がアーク溶接されている。
【0060】
市販の負極が用いられる。要するに、グラファイト、カルボキシ-メチル-セルロース-ナトリウム(carboxy-methyl-cellulose-sodium、CMC)、及びスチレンブタジエンゴム(styrenebutadiene-rubber、SBR)の質量比96/2/2の混合物を、銅箔の両側に適用する。負極の端部には、負極集電体タブとして機能するニッケル板をアーク溶接する。負極活物質の典型的な充填重量は、8±1mg/cmである。エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)及びジエチルカーボネート(diethyl carbonate、DEC)の体積比1:2の混合溶媒中に、1.0モル/Lの濃度でヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)塩を溶解させることにより、非水性電解質を得る。
【0061】
螺旋状に巻かれた電極アセンブリを得るために、正極、負極、及びそれらの間に差し込まれた、厚さ20μmの微多孔性ポリマーフィルム(Celgard(登録商標)2320、Celgard)から作製されたセパレータのシートを、巻線コアロッドを使用して螺旋状に巻いた。次いで、アセンブリ及び電解質は、-50℃の露点を有する風乾室内で、アルミニウム積層されたパウチ内に入れられ、これにより、平坦なパウチ型のリチウム二次電池が作製される。二次電池の設計容量は、4.20Vに充電されると650mAhである。非水電解液を、室温で8時間含浸させる。電池は、その理論容量の15%まで予備充電し、室温で1日放置する。次いで、電池を脱気させて、アルミニウムパウチを密閉する。使用するための電池を、以下のように調製する:CCモード(定電流)において0.2C(1C=630mA)の電流を使用して最大4.2V、次いでCVモード(定電圧)においてC/20のカットオフ電流に達するまで、電池を充電し、その後CCモードにおいて0.5Cレートで放電して2.7Vのカットオフ電圧まで下げる。
【0062】
25℃での以下の条件下で、調製したフルセル電池を数回充放電して、充放電サイクル性能を決定する。
-1CレートのCCモードにおいて最大4.2V、次いでCVモードにおいてC/20に達するまで、充電を実施する。
-次いで、セルを、10分間休止設定する。
-CCモードにおいて1Cレートで、2.7Vまで放電を行う。
-次いで、セルを、10分間休止設定する。
-充電-放電サイクルを、電池が約80%の保持容量に到達するまで続けて行う。100サイクルの全てにおいて、CCモードにおいて0.2のCレートで、2.7Vまでの放電を一度行う。
実施例では、相対放電容量(%での「RDC」)は、200サイクル及び600サイクルでの放電容量を、初期放電容量で除算し、100を乗算したものとして定義する。長期サイクル安定性を決定するために、200サイクル後と600サイクル後との間の相対放電容量の傾きS(%)の値を、以下のように計算する。
【0063】
【数4】
【0064】
F)炭素分析
Horiba EMIA-320V炭素/硫黄分析器によって、正極活物質の炭素含有量を測定し、高周波誘導炉内のセラミックるつぼ内に1gのNMC試料を置く。タングステン1.5g及びスズ0.3gを、促進剤として坩堝中に添加する。プログラム可能な温度まで、試料を加熱する。次いで、燃焼の間に発生したガスを、4つの赤外線検出器により分析する。低及び高CO及びCOの分析により、炭素濃度を決定する。
【0065】
本発明を以下の実施例において更に例示する。
【0066】
実施例1及び比較例1
欧州特許第17159083.9号で考察されているように、式Li1+a(Ni0.45(Ni0.5Mn0.50.35Co0.201-aを有するNMC粉末を、次のように行うリチウム源と混合遷移金属源との間の固体状態反応である二重焼結プロセスを通じて得る。
【0067】
1)混合金属前駆体を、パイロットラインでの沈殿によって得る。プロセスには、より大規模(約100L)な連続撹拌タンク反応器(continuous stirred tank reactor、CSTR)を使用する。金属硫酸塩(以下M-又はM-SO)(2M)の供給物、及びNaOH(10M)の供給物を、反応器に供給する。加えて、錯化剤としてNHOH(15M)の流れを添加する。滞留時間(反応器容積を総流量で除算したもの)は3時間であり、温度は60℃に設定する。不純物のレベルを低く保つためには、Nの保護雰囲気が推奨される。米国特許出願公開第2016/0126548(A1)号によって想起され、最終カソードの降伏勾配タイプをもたらすコア-シェル前駆体をもたらすいくつかの方法によって、勾配タイプの前駆体を調製してもよい。方法は、沈殿中の供給溶液の金属組成の変化に基づく。単一反応器を使用する場合、供給物の始めの組成は、M=Ni0.3(Ni0.5Mn0.50.5Co0.2である。次いで、供給溶液の組成は徐々に変化し、最終的にM=Ni0.5(Ni0.5Mn0.50.3Co0.2の組成に達する。組成のこの段階的な変化は、2つの金属硫酸塩溶液の流れを、組成物M及びMと混合することによって達成され、初期流量比は1:0であり、最終的に0:1になる。
【0068】
代替的に、最初に組成Mの溶液で充填し、組成Mの溶液で充填することによって連続的に補正した貯蔵タンクを使用してもよい。沈殿中、最初に(小さい)粒子の組成は、ほぼMであるが、粒子が成長し始めるにつれて供給物の組成は変化し、外殻の組成がMに近づく。沈殿物の損失及び新たな核形成の発生の両方を回避するために、溶液を「濃縮する」ことが賢明である。これは、固体の好適な濾過又は逆流を通じて、基本的に沈殿物を含まない濾液が反応器から除去されることを意味する。a)生成物中の濃度勾配と、b)前駆体中の濃度勾配と、c)経時的な供給流の組成との間の関係性は、些細なことではないことに留意されるべきである。例えば、前駆体の線形勾配(線形とは、半径と相関して変化する濃度を指す)を達成するためには、供給溶液の組成の初期変化をより速くする必要がある。これは、コアがコアよりも体積にあまり寄与しないことが原因である。加えて、勾配は、焼成中に変化する傾向がある。
【0069】
米国特許出願公開第2016/0126548(A1)号にも考察されている第3の可能性として、コアシェル前駆体は、反応器カスケードを使用することによって達成することができる。反応器カスケードは、連続的な沈殿プロセスを可能にする。2つの反応器を直列に取り付け、反応器1のオーバーフローをレクター(rector)2に供給する。好ましくは、オーバーフロー溶液は、第2の反応器に供給する前に、好適な濾過工程によって「濃縮」される。先に説明した意味では、反応器1内の金属供給溶液は、組成Mを有するが、反応器2内の金属供給溶液は、組成Mを有する。
【0070】
最後に、前述の方法のうちのいずれかの収集された前駆体スラリーを濾過し、脱イオン水で洗浄し、次いで150℃のN雰囲気下で24時間乾燥させ、混合金属水酸化物前駆体M’O0.39(OH)1.61(式中、金属組成M’=Ni0.45(Ni0.5Mn0.50.35Co0.20)を得る。前駆体は、pEX1として標識され、11.85μmのD50を有し、これを方法B)によって分析したところ、以下に考察され、図2に示されるようなNi勾配を有するコア-シェル構造を有する。
【0071】
2)第1のブレンド:リチウム欠乏焼結中間生成物を得るために、リチウム源としてLiOH・HO、及び(1の))混合遷移金属前駆体を、Henschel Mixer(登録商標)中の0.80のLi/M’比(a=-0.111)で30分間均質にブレンドする。
【0072】
3)第1の焼結:第1のブレンド工程からのブレンドを、720℃のチャンバ炉内で10時間、酸素雰囲気中で焼結する。第1の焼結後に焼結粉末をふるいにかけて、第2のブレンド工程用に調製する。Li1+aM’1-aにおけるLi/M’化学量論比が1未満であるので、この工程から得た生成物は、リチウム欠乏焼結中間生成物であることを意味している。
【0073】
4)第2のブレンド:Li化学量論量を(本実施例EX1.1ではLi/M’=0.95に)補正するために、リチウム欠乏焼結中間体を、LiOH・HOとブレンドする。30分間Henschel Mixer(登録商標)でブレンドを実施する。
【0074】
5)第2の焼結:第2のブレンドからのブレンドを、775℃のチャンバ炉内で10時間、酸素雰囲気下で焼結する。
【0075】
6)後処理:第2の焼結後、焼結ケークを粉砕し、分類しふるいにかけて、非アグロメレート化NMC粉末を得る。
上の工程によって生成されたNMC化合物を、式Li0.974M’1.026(式中、M’=Ni0.45(Ni0.5Mn0.50.35Co0.2)を有するEX1.1として標識する。EX1.1は、10.58μmのD50を有する。カソード材料のプレス密度は、充電式セルの高エネルギー密度を可能にするために高くなければならない。プレス密度は、狭いスパンのカソード材料では比較的低い。したがって、狭いスパンを有しないカソード材料を適用することが好ましい場合がある。(D90-D10)/D50の典型的な値は、約1.0以上である。
【0076】
EX1.2~EX1.9、及びCEX1.1~CEX1.6は、EX1.1と同じプロセス工程を使用して調製する。各実施例の目標Li化学量論及び第2の焼結温度を変動させ、表2に示す。目標Li/M’比及び第2の焼結温度に応じたNMC化合物の結晶化度を調査するために、方法C)によってEX1.1~EX1.9及びCEX1.1~CEX1.6を分析する。この分析では、結晶子径は、X線回折パターンにおける(ほぼ)44.5±1°での(104)面のピークを使用してシェラーの等式によって計算する。LIB用の正極材料として実施例を評価するために、方法D1)によってコインセルを調製し、方法D2)を使用して従来のコインセル試験を実施する。4.3~3.0V/Liの金属枠範囲の初期放電容量(DQ1)を、0.1Cで測定する。充放電については、4.5~3.0V/Liの金属の容量減退(1C/1C QFad.)を、1Cで測定する。不可逆容量(IRRQ)は、第1の充電/放電サイクルで測定する。実施例1及び比較例1の結晶子径、初期放電容量、及び不可逆容量を表2に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
表2に示されるように、33nm未満の結晶子径を有するNMC生成物は、より高い放電容量(>185mAh/g)及びより低い不可逆性(<6.0%)を有する。Li化学量論にかかわらず、NMC生成物が、33nm未満の結晶子径を有すると、向上した電気化学的性能を示す。最適な結晶子径を有する生成物は、第2の焼結プロセス中に760~790℃で調製される。結晶子径が20nmよりも小さい場合、放電容量が減少し、サイクル安定性が悪化することに留意されたい。そのような小さい結晶子径は、700℃のような低温での焼結から生じ、生成物は、低い結晶化度及び高い表面不純物を有し得、これは、劣った電気化学的性能をもたらす。
【0079】
専用の表面処理により、電池特性を更に改善することができる。このために、EX1.3を、コーティング源としての1000ppmのAIとHenschel Mixer(登録商標)で30分間ブレンドする。その後、調製したブレンドを、750℃の範囲のチャンバ炉内で5時間、酸素含有雰囲気下で加熱する。得られたNMC生成物の表面をAl層で封じ、EX1.10として標識する。
【0080】
またEX1.3を、1.2重量%の過硫酸ナトリウム(Na)及び0.2重量%のAlとHenschel Mixer(登録商標)で30分間ブレンドする。空気下で375℃において5時間ブレンドを加熱する。国際公開第2015/128722号に記載されているように、最終生成物は、表面上にLiNaSO及びAlを含むコーティングを担持し、これをEX1.11として標識する。方法D2)によって、EX1.10及びEX1.11の電気化学的性能を評価する。EX1.10及びEX1.11の1C(1C/1C QFad.)での初期放電容量、不可逆容量、及び容量減退を表3に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
表3は、EX1.10及びEX1.11が減少した容量減衰を有することを示し、これは、これらの特定の表面改質技術によって、サイクル安定性などの電気化学的性能を向上させることができることを示している。
【0083】
EX1.3、EX1.10、及びEX1.11の電気化学的性能もまた、方法E)によって評価する:実施例のフルセル試験結果を表4に示す。
【0084】
【表4】
【0085】
表4は、4.2~2.7Vの範囲の第1の充電/放電サイクルにおける、比容量及び効率を示す。200サイクル及び600サイクルでの相対放電容量(%でのRDC)も提供する。EX1.10及びEX1.11などの表面改質NMC化合物は、600サイクル後に、より高い相対放電容量(%)を有し、これは、表面コーティングが、サイクル安定性に寄与することを意味する。200サイクル後と600サイクル後との間の相対放電容量の傾きSの値を、以下のように計算する(ここでは、EX1.3について):
【0086】
【数5】
【0087】
電極材料の表面上にAl又はAl/LiNaSOコーティングを適用すると、傾きが改善されることを観察する。
【0088】
比較例2
混合遷移金属流組成M及びMを変動させて、異なる勾配を有するM’O0.29(OH)1.71(式中、M’=Ni0.45(Ni0.5Mn0.50.35Co0.20である)をもたらすことを除いて、EX1.1と同じ方法を使用して、式Li0.995M’1.005(式中、M’=Ni0.45(Ni0.5Mn0.50.35Co0.20である)を有するCEX2.1を調製する。米国特許出願公開第2016/0126548号に記載されているように、1つの反応器内での共沈反応によって、生成物を作製し、図2に示されるようなNi勾配を有するコア-シェル構造を有する前駆体をもたらす。前駆体を、pCEX2として標識する。第2のブレンド及び焼結プロセスでは、目標Li化学量論は、0.99であり、焼結温度は、790℃である。
【0089】
第2のブレンドが1.01.のLi化学量論を有することを除いて、EX1.1と同じ方法を使用して、式Li1.005M’0.995(式中、M’=Ni0.45(Ni0.5Mn0.50.35Co0.20)を有するCEX2.2を調製する。
【0090】
CEX2.1及びCEX2.2の結晶子径及び電気化学的性能を、実施例1と同じ方法によって評価する。CEX2.1及びCEX2.2の結晶子径、初期放電容量、及び不可逆容量を表5に示す。
【0091】
【表5】
【0092】
CEX2.1及びCEX2.2は、33nm未満の結晶子径を有し、これは、実施例1のように、向上した電池性能に寄与し得る。しかしながら、これらの実施例は、790℃の範囲で、0.99及び1.01のLi/M’において調製されたEX1.5及びEX1.7のものよりも、低い初期放電容量及び高い不可逆性を示す。CEX2.1及びCEX2.2のこの悪化した電池性能の原因を調査するために、方法A2)及びA3)に記載されるように、pEX1、pCEX2、EX1.7、及びCEX2.2の断面を分析する。この分析では、NMC化合物での濃度勾配の形成を確認する。図1は、EDS分析用に選択した位置(D1、D2、D3、D4、及びD5)での、pEX1の断面SEM画像を示す。図2は、pEX1及びpCEX2で選択した位置(x軸-Dx位置)のEDS分析結果を示し、y軸が、Ni/M’モル比(モル/モル)(M’=Ni、Mn、及びCo)を示す。D1~D5のNi/M’(モル/モル)比は、それぞれNi(1)~Ni(5)として示す。示される結果は、4つの電極粒子から得た値の平均である。図2に示されるように、pEX1では、表面部のNi/M’比(Ni(1)及びNi(5))は、中心部(Ni(3))のものよりも高い。これとは対照的に、pCEX2は、中央部よりも表面部で低いNi/M’比を有する。
【0093】
第2の焼結プロセスの後、EX1.7及びCEX2.2は、図3に示されるように、前駆体pEX1及びpCEX2と同じNiの勾配傾向を有する。しかしながら、Ni勾配の程度は、第2の熱処理の後に減少する。電気化学的特性を考慮すると、これらの結果は、表面上のより高いNi含有量が、より低いIRRQを提供することを示している。表6.1は、pEX1、EX1.7、pCEX2、及びCEX2.2における各点での平均組成を提供する。
【0094】
【表6】
【0095】
表面部の正規化Ni/M’モル比(MR(SC-Ni))を、式:MR(SC-Ni)=(Ni(1)+Ni(5))/(2Ni(3))を使用して、表面で測定した値を、中心部のNi/M’比で除算することによって得る。したがって、表6.1の正規化された結果は、表面部分(Ni(1)及びNi(5))の平均値である。例えば、EX1.7は、それぞれ0.626、0.598、及び0.625のNi(1)、Ni(3)、及びNi(5)を有する。正規化Ni/M’比(MR(SC-Ni))は、以下のように測定する。
【0096】
【数6】
【0097】
表は、1.04~1.25、又は好ましくは1.04~1.10の範囲の正規化Ni/M’モル比を有するNMC化合物が、より高い容量及びより低い不可逆性などの、向上した電池性能を有することを示す。
【0098】
同様に、Coモル比を測定し、表6.2に報告した。Ni含有量の勾配とは異なり、1.00≦MR(SC-Co)≦1.030で表すことができる(粒子コアでより高いCo含有量を有する)正のCo勾配はほとんど存在しない。
【0099】
【表7】
【0100】
実施例2及び比較例3
EX1.1と同じ方法であるが、pEX1と同じタイプのNi勾配を有する前駆体Ni0.4(Ni0.5Mn0.50.4Co0.20.17(OH)1.83を使用することによって、式Li0.995M’1.005(式中、M’=Ni0.4(Ni0.5Mn0.50.4Co0.2)を有するNMC粉末を製造する。第2のブレンド及び焼結プロセスでは、Li化学量論は、0.99であり、焼結温度は、780℃である。最終生成物を、EX2として標識する。第2の焼結温度が、例えば欧州特許第17159083.9号の実施例1で考察されているように、NMC622化合物の通常の焼結温度である、840℃であることを除いて、EX2と同じ方法を使用して、CEX3を調製する。EX2及びCEX3の結晶子径及び電気化学的性能を、実施例1と同じ方法によって評価する。EX2及びCEX3の結晶子径、初期放電容量、及び不可逆容量を表7に示す。
【0101】
【表8】
【0102】
33nm未満の結晶子径を有するNMC化合物(EX2)は、より高い放電容量(>185mAh/g)及びより低い不可逆性(<6.0%)などのより良好な電気化学的性能をもたらす。EX1.5は、実施例1及び2の組成を比較するために追加され、EX1.5(Li0.995M’1.005(式中、M’=Ni0.45(Ni0.5Mn0.50.35Co0.20))の組成は、EX2(Li0.995M’1.005(式中、M’=Ni0.4(Ni0.5Mn0.50.4Co0.2))よりも更に良好な結果をもたらす。
【0103】
説明実施例1
リチウム源及び雰囲気などのプロセス条件の表面不純物に対する効果を調査するために、EX2と同じ方法であるが、本発明によるNi勾配を有する前駆体M’O0.23(OH)1.77(式中、M’=Ni0.4(Ni0.5Mn0.50.4Co0.2)を使用することによって、式Li1.024M’0.976(式中、M’=Ni0.4(Ni0.5Mn0.50.4Co0.2)を有するNMC粉末を製造する。第1のブレンドのLi化学量論及び第1の焼結温度は、それぞれ0.80及び800℃である。このとき、国際公開第2017/042654号に記載されているように、第1のブレンド用のリチウム源として、LiCOを使用する。第2のブレンド及び焼結プロセスでは、目標Li化学量論は、1.05であり、焼結温度は、855℃である。この実施例では、全ての調製プロセスは、乾燥雰囲気下で行われる。最終生成物を、EEX1として標識する。LiCOのような表面不純物の指標である、EEX1及びEX2の炭素含有量を方法F)によって測定する。乾燥雰囲気下で第1のリチウム源としてLiCO使用して調製したEEX1は、970ppmの炭素含有量を有するが、EX2は、82ppmの炭素含有量を有する。したがって、リチウム源としてLiOH、及び低い焼結温度を選択して、最終正極活物質上の表面不純物を低減することが好ましい。
【0104】
比較例4
EX1.1と同じ方法であるが、本発明によるNi勾配を有する前駆体M’O0.35(OH)1.65(式中、M’=Ni0.55(Ni1/2Mn1/20.3Co0.15)を使用することによって、式Li0.990M’1.010(式中、M’=Ni0.55(Ni1/2Mn1/20.3Co0.15)を有するNMC粉末を製造する。第2のブレンド及び焼結プロセスでは、目標Li化学量論は0.98であり、焼結温度は720℃である。最終生成物を、CEX4.1として標識する。CEX4.2及びCEX4.2は、CEX4.1と同じ方法を使用して調製し、それらの目標Li化学量論及び第2の焼結温度を表8に示す。CEX4.1~CEX4.3の結晶子径及び電気化学的性能を、実施例1と同じ方法によって評価し、表8に示す。EX1.3の結果を参照のために追加する。
【0105】
【表9】
【0106】
比較例4のMMC化合物は、33nm未満の結晶子径を有してはいるが、低い放電容量及び高い不可逆性などの悪い電気化学的特性を有することを示している。したがって、0.55以上のNi過剰を有するNMC化合物は、良好な電気化学的特性を呈しないが、向上した電池性能に寄与し得る最適な結晶子径を有する。
図1
図2
図3