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特許7021487前処理装置、インクジェットシステム、前処理方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】前処理装置、インクジェットシステム、前処理方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20220209BHJP
【FI】
B41J2/01 123
B41J2/01 401
B41J2/01 451
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017182939
(22)【出願日】2017-09-22
(65)【公開番号】P2019059023
(43)【公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100186853
【弁理士】
【氏名又は名称】宗像 孝志
(72)【発明者】
【氏名】原田 祥宏
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/012879(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0304661(US,A1)
【文献】特開2015-182249(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体の表面特性を測定する表面特性測定部と、
着色剤を含む液滴を前記媒体に吐出する処理の前に、当該着色剤の粒子を凝集させる性質を有する処理剤を当該媒体に塗布して前処理剤層を形成する前処理を前記媒体に行う前処理実行部と、
前記表面特性に基づいて前記媒体の位置ごとに前記前処理の実行態様を制御する前処理実行制御部と、
を含み、
前記前処理実行部は、
前記前処理として、前記媒体に対して、当該媒体上に吐出される液滴に含まれる着色剤の分散状態を変化させて当該液滴の挙動を制御するための処理を実行し、
前記前処理実行制御部は、
前記媒体上に吐出される液滴の挙動が一定になるように、前記媒体の位置ごとに前記前処理の実行態様を制御する
ことを特徴とする前処理装置。
【請求項2】
前記前処理実行部は、
前記媒体に対して当該媒体上に吐出される液滴に含まれる着色剤の分散状態を変化させる前処理剤を吐出することを特徴とする、
請求項1に記載の前処理装置。
【請求項3】
媒体の表面特性を測定する表面特性測定部と、
着色剤を含む液滴を前記媒体に吐出する処理の前に、当該着色剤の粒子を凝集させる性質を有する処理剤を当該媒体に塗布して前処理剤層を形成する前処理を前記媒体に行う前処理実行部と、
前記表面特性に基づいて前記媒体の位置ごとに前記前処理の実行態様を制御する前処理実行制御部と、
を含み、
前記前処理実行制御部は、
前記媒体の位置ごとの前記媒体上に吐出される液滴の挙動が一定になるように、前記媒体上に吐出される液滴の濡れ広がる速さに係る前記前処理の実行態様を制御する、
ことを特徴とする前処理装置。
【請求項4】
前記前処理実行制御部は、
前記媒体上に吐出される液滴の情報と前記表面特性とに基づいて、前記媒体の位置ごとに前記前処理の実行態様を制御することを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の前処理装置。
【請求項5】
前記前処理実行部は、
前記媒体に対して当該媒体上に吐出される液滴に含まれる着色剤の分散状態を変化させるプラズマ処理を実行することを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の前処理装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の前処理装置と、
媒体に液滴を吐出して画像形成出力を実行する液滴吐出装置と、
を含むことを特徴とするインクジェットシステム。
【請求項7】
着色剤を含む液滴を媒体に吐出する処理の前に、当該着色剤の粒子を凝集させる処理剤を媒体上に塗布して前処理剤層を形成する前処理を実行する前処理方法であって、
媒体の表面特性を測定し、
前記媒体に前処理を行う際に、前記表面特性に基づいて前記媒体の位置ごとに前記前処理の実行態様を制御するにあたり、
当該前処理として、前記媒体上に吐出される液滴の挙動が一定になるように、当該液滴に含まれる着色剤の分散状態を前記媒体の位置ごとに変化させる処理を実行する、
ことを特徴とする前処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前処理装置、インクジェットシステム、前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子化された情報の出力に用いられる装置の一態様として、インクジェット方式を採用したプリンタ(以降、「インクジェット装置」という)が知られている。インクジェット装置における情報出力の一態様である画像形成出力は、画像の形成に用いられるインクなどを記録ヘッドから吐出し、画像を形成する媒体(例えば紙)に付着させる。
【0003】
媒体に付着させるインクの量を制御することにより画像を形成するインクのドットを所定の大きさにし、インクのドットを2次元方向に並べるように媒体に付着させることによって、画像を形成することができる。
【0004】
インクジェット方式を用いた画像形成出力では、インクのドットの大きさを調整し、また配置に粗密をつけるなどの調整をすることによって画像の階調やグラデーションを繊細に表現することができる。
【0005】
しかしながら、インクジェット方式には、媒体上に形成した画像の質を低下させる原因となる課題がある。すなわち、インクの濡れが広がる速さによっては、媒体に付着させたインクが媒体上を流動する、または、インクが媒体上で広がることで、インクのドット同士がつながるビーディング現象が生じ、または、インクのドットがにじむブリード現象などが生じる。このような現象によって媒体に形成した画像の質が低下する。
【0006】
これに対して、インクを吐出する前に媒体に前処理剤を塗布し、吐出されたインクの粘性を変化させ、媒体に対するインクの濡れが広がる速さ、すなわち媒体に対するインクの挙動を制御する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1は、媒体の種類に応じた前処理が媒体の一面に対して一様に行われる。そのため、特許文献1に開示されている技術を適用しても、媒体上の位置によっては媒体の表面の形状が異なるために、媒体に対するインクの挙動を制御することができず、媒体に形成される像の品質を低下させてしまう。
【0008】
本発明は、上記実情を考慮してなされたものであり、インクジェット装置から吐出される液滴の挙動を制御して、品質の良い像形成を実行可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は着色剤を含む液滴を媒体に吐出する処理の前に、当該着色剤の粒子を凝集させる処理剤を媒体上に塗布して前処理剤層を形成する前処理を実行する前処理装置であって、媒体の表面特性を測定する表面特性測定部と、着色剤を含む液滴を前記媒体に吐出する処理の前に、当該着色剤の粒子を凝集させる性質を有する処理剤を当該媒体に塗布して前処理剤層を形成する前処理を前記媒体に行う前処理実行部と、前記表面特性に基づいて前記媒体の位置ごとに前記前処理の実行態様を制御する前処理実行制御部と、を含み、前記前処理実行部は、前記前処理として、前記媒体に対して、当該媒体上に吐出される液滴に含まれる着色剤の分散状態を変化させて当該液滴の挙動を制御するための処理を実行し、前記前処理実行制御部は、前記媒体上に吐出される液滴の挙動が一定になるように、前記媒体の位置ごとに前記前処理の実行態様を制御する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、インクジェット装置から吐出される液滴の挙動を制御して、品質の良い像形成を実行可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】液滴の流動性を説明する説明図。
図2】溶媒に対する顔料粒子の分散状態を示す図。
図3】記録媒体の表面の形状を測定した測定画像を示す図。
図4】記録媒体の断面を示す図。
図5】本発明の第1の実施形態に係るインクジェットシステムの概略を示す図。
図6】本発明の第1の実施形態に係る液滴を吐出する吐出ヘッドの構成図。
図7】本発明の第1の実施形態に係る着色剤吐出ヘッドの概略構成を示す断面図。
図8】本発明の第1の実施形態に係る本実施形態に係るインクジェットシステムの運用形態を示す図。
図9】本発明の第1の実施形態に係るDFEのハードウェア構成を示す図。
図10】本発明の第1の実施形態に係るインクジェット装置および前処理装置の機能構成を示すブロック図。
図11】本発明の第1の実施形態に係るDFEの機能構成を示すブロック図。
図12】本発明の第1の実施形態に係る主制御部の機能構成を示すブロック図。
図13】本発明の第1の実施形態に係る特性情報データテーブルの構成を示す図。
図14】本発明の第1の実施形態に係る特性情報データテーブルの構成を示す図。
図15】本発明の第1の実施形態に係る特性情報データテーブルの構成を示す図。
図16】本発明の第1の実施形態に係る記録媒体の表面の測定画像の濃淡値と表面特性との関係を表す図。
図17】本発明の第1の実施形態に係る記録媒体の表面の測定画像の濃淡値と表面特性との関係を表す図。
図18】本発明の第1の実施形態に係る前処理剤層の形成態様を示す図。
図19】本発明の第1の実施形態に係る前処理剤層の形成態様を示す図。
図20】本発明の第1の実施形態に係る液滴の吐出態様を示す図。
図21】本発明の第1の実施形態に係る前処理剤の量を算出する処理の流れを示すフローチャート。
図22】本発明の第2の実施形態に係るインクジェットシステムの概略を示す図。
図23】本発明の第2の実施形態に係る画像形成装置の透視図。
図24】本発明の第2の実施形態に係る画像形成装置の透視図。
図25】本発明の第2の実施形態に係る画像形成装置の機能構成を示す図。
図26】本発明の第2の実施形態に係る画像形成出力を行う処理の流れを示すシーケンス図。
図27】本発明の第3の実施形態に係る主制御部の機能構成を示す図。
図28】本発明の第3の実施形態に係るフィードバック制御の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下において説明する実施形態は、本発明に係る像形成剤の一例であるインクを媒体の一例である印刷用紙に吐出することで、像形成物の一例である画像を形成するものである。まず、印刷用紙などの記録媒体に吐出されたインク滴の挙動の一例として、インク滴の流動性について説明する。
【0013】
図1(a)から(c)は、顔料などの着色剤を含むインク滴である液滴LDの記録媒体Mに対する流動性を説明する説明図である。図1(a)は、液滴LDが吐出されて印刷用紙である記録媒体Mに接触する直前の様子を示す図である。図1(a)に示すように、液滴LDは、顔料粒子Pと溶媒Lからなる。
【0014】
また、記録媒体Mの表面には、顔料粒子Pの分散状態を変化させて顔料粒子Pを凝集させる処理剤(反応剤)である凝集剤AGが塗布されているものとする。凝集剤AGを記録媒体Mの表面に塗布する処理を「前処理」と呼ぶ。前処理は、あらかじめ、液滴LDを吐出する前に施されている。この前処理によって、液滴LDの吐出先である記録媒体Mの表面には、前処理剤層PCが形成されている。
【0015】
図1(a)は、液滴LDが記録媒体Mに接触する直前の溶媒Lに対する顔料粒子Pの分散状態を示す図である。図1(a)に示すように、液滴LDは、溶媒Lに顔料粒子Pが分散した状態で形成される。着色剤として顔料を含む顔料インクの場合、溶剤や樹脂などの溶媒Lに顔料粒子Pが均一に分散して存在している。
【0016】
図1(b)は、液滴LDが記録媒体Mに付着した瞬間の溶媒Lに対する顔料粒子Pの分散状態を示す図である。液滴LDが記録媒体Mに付着すると、前処理剤層PCに含まれる凝集剤AGによって、顔料粒子Pが凝集し、溶媒Lに対する顔料粒子Pの分散状態が均一ではなくなる。
【0017】
図2は、液滴LDにおける顔料粒子Pの溶媒Lに対する分散状態を例示している。以下の説明においては、記録媒体Mに付着する前の液滴LDが、図2(a)に示すような状態、すなわち、顔料粒子Pが溶媒Lに対して均一に分散して存在しているものと仮定する。図2(b)は、記録媒体Mに形成されている前処理剤層PCの効果により溶媒Lに対して顔料粒子Pの分布が不均一になった状態を例示している。
【0018】
図2(a)に示すように、溶媒Lに対して均一に分散している顔料粒子Pの大きさを粒子径rとした場合、溶媒Lに対して一様に分布していた顔料粒子Pが、図2(b)に示すように互いに凝集すると、顔料粒子Pの見かけ上の粒子の大きさが粒子径rから粒子径r´へと大きくなる。また、顔料粒子Pが凝集することによって、溶媒Lに対する顔料粒子Pの分散状態が均一ではなくなる。
【0019】
このとき、溶媒Lに分散している顔料粒子Pが移動するときの係数である拡散係数Dは、式1に示すストークス‐アインシュタインの式に従って、絶対温度Tに比例し、移動する顔料粒子Pの大きさに逆比例する。ストークス‐アインシュタインの式は、溶媒Lの粘度ηと拡散係数Dとの関係に基づいて溶媒Lに分散している顔料粒子Pの拡散状態を表す式である。
【0020】
【数1】
【0021】
式1において、Dは拡散係数、ηは溶媒Lの粘度、Tは絶対温度、kはボルツマン定数、aは粒子半径である。式1に示すように、顔料粒子Pの大きさが大きくなるほど、拡散係数Dは小さくなり、溶媒Lに対する顔料粒子Pの移動の自由度が小さくなる。したがって、顔料粒子Pが凝集すると、液滴LDは流動しにくくなる。
【0022】
一般的に記録媒体Mに付着した液滴LDは、付着箇所の周囲に向かって流動して広がるため、液滴LDが記録媒体M上で固着するときには、液滴LDが記録媒体Mに接触した瞬間よりも液滴LDの大きさが大きくなる。しかし、上記のように顔料粒子Pの凝集により液滴LDが流動しにくくなると、記録媒体Mに付着している液滴LDの大きさも変化しにくくなり、記録媒体M上で固着するときの液滴LDの大きさは、液滴LDが流動しやすいときよりも小さくなる。図1(c)は、液滴LDが記録媒体Mに浸透する様子を示す図である。
【0023】
図1(c)に示すように、記録媒体Mが普通紙など浸透性の媒体である場合、液滴LDは、前処理剤層PCおよび記録媒体Mへと浸透し、顔料粒子Pが記録媒体Mの表面に固着する。そして、固着した液滴LDが乾燥して顔料粒子Pのドットが形成される。
【0024】
図3は、記録媒体Mの表面を測定して得られた測定値の一例を示す図である。図3においては、記録媒体M表面の形状の測定値が濃淡の画像で表されている。この濃淡の差は、記録媒体Mにおける細かい凹凸など、例えば、記録媒体Mの表面付近の構造の違いや記録媒体Mの材料の偏りなどによって生じる。
【0025】
このような記録媒体Mの表面付近の構造の違いや材料の偏りなどを記録媒体Mの表面特性という。ここで、記録媒体Mの表面特性について詳細に説明する。図4(a)は、表面が水平である記録媒体Mの断面を示す図、図4(b)は、表面に凹凸を持つ記録媒体Mの断面を示す図である。
【0026】
図4(b)に示すように、記録媒体Mの表面に細かい凹凸などがある場合、凝集剤濃度AGCが記録媒体Mの表面において均一であっても記録媒体Mの表面に対する接触角が変化する。このとき、記録媒体Mに対する液滴LDが濡れ広がる速さ、すなわち記録媒体Mに対する液滴LDの挙動の違いを示す例として、記録媒体Mの表面に対する液滴LDの接触角の大小によって記録媒体Mに対する液滴LDの付着具合を示す指標である濡れ性を評価することができる。
【0027】
例えば、記録媒体Mに対する液滴LDの接触角が小さいほど濡れ性が良いと評価される。濡れ性が良いほど、液滴LDと記録媒体Mとの接触面積が大きくなり、記録媒体Mに対する液滴LDの濡れ広がりが速くなる。一方で、濡れ性が悪いほど、液滴LDと記録媒体Mとの接触面積が小さくなり、記録媒体Mに対する液滴LDの濡れ広がりが遅くなる。
【0028】
図4(a)に示す記録媒体Mに対して液滴LDは、液滴LDの濡れ性が記録媒体Mの表面に対して一様である。このような場合、液滴LDは記録媒体Mに対して、球帽状の形状を形成して付着する。一方で、図4(b)に示すような、表面に凹凸のある記録媒体Mに対して液滴LDが接触した場合、液滴LDが記録媒体Mに接触する面積が小さく、記録媒体Mに対する液滴LDの接触角が大きくなるため、液滴LDの濡れ性が悪くなる。
【0029】
このように、液滴LDが記録媒体Mに接触する面積は、記録媒体Mの凹凸具合によっても変化する。したがって、記録媒体Mの表面特性が一様ではない場合には、記録媒体Mに対する液滴LDの挙動も変化して一様ではなくなるため、記録媒体M上に形成されるドットの形状が均一ではなくなる。
【0030】
さらに、前処理剤層PCにおける凝集剤濃度AGCは、記録媒体Mに対する液滴LDの接触角や、凝集剤AGが液滴LDの溶媒Lに拡散する速度などに影響を与える。したがって、前処理剤層PCの凝集剤濃度AGCによっても液滴LDと記録媒体Mとの接触面積が変化するため、記録媒体Mに対する液滴LDの挙動が変化する。
【0031】
このような記録媒体Mに対する液滴LDの挙動の変化によって、液滴LDを吐出して記録媒体Mに形成される画像の質(画質)が低下することがある。例えば、記録媒体Mの表面特性が一様ではないために、均一な形状の顔料粒子Pのドットが形成できない場合には、形成された画像に濃度ムラなどが発生し、画質が低下してしまう。
【0032】
そこで、本発明においては、記録媒体Mに吐出される液滴LDの挙動を制御するようにする。このとき、液滴LDの挙動を制御するために実行する記録媒体Mへの前処理を記録媒体Mの表面特性に基づいて行うことによって、記録媒体Mの位置によらず一定した液滴LDの挙動の制御を実行できるようにする。これによって、より品質のよい画像形成出力を実行可能とすることが本発明の要旨である。
【0033】
実施の形態1.
本実施形態では、記録媒体を搬送して、固定された吐出ヘッドから吐出される液滴によって画像形成出力を実行するラインヘッド方式のインクジェット装置を例として説明を行う。
【0034】
図5は、本実施形態に係るインクジェットシステム4の概略を示す図である。図5に示すように、本実施形態に係るインクジェットシステム4は、DFE(Digital Front End)1、インクジェット装置2、前処理装置3、測定装置5A、5B、記録媒体Mであるロール紙Mdの搬送方向Xmに沿って配置された搬入部17、乾燥部30および搬出部60を備えている。
【0035】
DFE1は、インクジェットシステム4を構成する各部に対して命令情報を送信して、その動作を制御して画像形成出力を実行させる。したがって、DFE1は、画像形成出力制御装置として機能する。また、DFE1は、画像形成出力の対象となる画像の情報に基づいてRIP(Raster Image Processor)処理を実行して、ラスターデータを生成する。
【0036】
DFE1は、ラスターデータやDFE1に入力されたビットマップデータなどを用いてインクジェット装置2および前処理装置3に画像形成出力を実行させる。したがって、DFE1に入力されたビットマップデータやDFE1で生成されたラスターデータは、画像形成出力を実行する際に、インクジェット装置2および前処理装置3が参照する描画情報に相当する。この描画情報は、後述するように、前処理装置3の動作を制御し、インクジェット装置2の動作を制御する像形成情報の一部である。
【0037】
インクジェット装置2は、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の4色の着色剤吐出ヘッド21K、21C、21M、21Y(以後、「着色剤吐出ヘッド21」という)を含む液滴吐出装置である。なお、以下の説明においては、かっこ内に示した記号を用いて着色剤吐出ヘッド21から吐出される液滴LDの色を示すこととする。
【0038】
また、本実施形態においては、着色剤として顔料粒子Pが含まれたインクなどの着色液滴を液滴LDとして説明を行う。したがって、着色剤吐出ヘッド21は、着色液滴吐出部として機能する。
【0039】
前処理装置3は、顔料粒子Pの分散状態を変化させる特性を有する凝集剤AGを吐出する前処理実行部である前処理剤吐出ヘッド31H、31Lを含む液滴吐出装置である。前処理剤吐出ヘッド31Hは、凝集剤AGの濃度が高い液滴LD(第1処理液滴)として前処理剤AGHを吐出する吐出ヘッドであり、第1液滴吐出部として機能する。
【0040】
前処理剤吐出ヘッド31Lは、凝集剤AGの濃度が低い液滴LD(第2処理液滴)として前処理剤AGLを吐出する吐出ヘッドであり、第2液滴吐出部として機能する。前処理剤吐出ヘッド31H、31Lは、処理液滴として前処理剤AGLを吐出する処理液滴吐出部として機能する。
【0041】
本実施形態において、記録媒体Mはロール状に巻かれた連続紙(以下、「ロール紙Md」という)である。記録媒体Mとして、ロール状に巻かれたものでなく、例えば、所定の間隔ごとにミシン目が形成された連帳紙あるいは連続帳票などの連続紙を用いてもよい。また、記録媒体Mは所定のサイズにカットされたカット紙であってもよい。さらに、紙でなくフィルムであってもよい。
【0042】
測定装置5A、5Bは、ロール紙Mdの搬送方向Xmに対して垂直に交わる方向、すなわち、ロール紙Mdの幅方向にわたってロール紙Mdの一次元画像を連続して取得するラインセンサである。また、測定装置5A、5Bとして、ロール紙Mdの二次元画像を取得するエリアセンサであってもよく、カメラなどの撮像装置を用いてもよい。
【0043】
測定装置5A、5Bは、例えば、ロール紙Mdの所定の範囲(以後「1バンド分」という)について測定を行い、測定した値に基づいて、図3に示すような測定画像を生成する。なお、測定画像は、少なくとも、画像形成出力される画像の解像度よりも大きくなる程度の品質で生成される。測定される所定の範囲は、例えば、当該所定の範囲において前処理装置3が実行する処理を制御可能な最小の単位を所定の範囲としてもよい。
【0044】
また、複数のラインセンサもしくはエリアセンサによって測定装置5A、5Bを構成し、センサ1つあたりの測定量を削減し、測定速度を向上させることができる。測定装置5Aは、搬送方向Xmに対して前処理装置3の上流に配置され、画像形成出力が行われる前の記録媒体Mを測定して出力前測定情報である出力前測定画像を生成する。
【0045】
測定装置5Bは、搬送方向Xmに対してインクジェット装置2の下流に配置され、画像形成出力が行われた後の記録媒体Mを測定して出力後測定情報である出力後測定画像を生成する。したがって、測定装置5Aは、液滴LDが吐出される前のロール紙Mdの表面特性を測定する表面特性測定部として機能する。また、測定装置5Bは、液滴LDによって顔料粒子Pのドットが形成されたロール紙Mdを測定する。
【0046】
搬入部17は、給紙部18および複数の搬入側搬送ローラ19を有し、搬入側搬送ローラ19を用いて、給紙部18にあるロール紙Mdを前処理装置3に搬入する。前処理装置3は、搬入部17から搬送されてきたロール紙Mdに凝集剤AGを含む液滴LDを吐出してロール紙Mdの表面に前処理剤層PCを形成する。
【0047】
インクジェット装置2は、前処理剤層PCが形成されたロール紙Mdに、着色剤として顔料もしくは染料を含んだ液滴を吐出してロール紙Mdの表面に画像を形成する。乾燥部30は、画像が形成されたロール紙Mdを、例えば加熱することにより乾燥させる。搬出部60は、画像が形成されたロール紙Mdを搬出し、搬出側搬送ローラ62を用いて保管部61に画像が形成されたロール紙Mdを巻き付ける。
【0048】
なお、ロール紙Mdを保管部61の保管ロールに巻き付けるときに、ロール紙Mdに作用する圧力が大きくなる場合には、ロール紙Mdの裏面に他の画像が転写しないようにするために、保管部61で巻き取る直前にロール紙Mdを乾燥させるための乾燥機構を設けてもよい。
【0049】
このように、本実施形態に係るインクジェットシステム4は、搬入部17によってロール紙Mdを前処理装置3およびインクジェット装置2に搬送してロール紙Mdの表面に画像を形成する。そして、画像が形成されたロール紙Mdを乾燥部30によって乾燥させて搬出部60によって巻き取ることで、インクジェットシステム4の外部に搬出可能な状態にする。
【0050】
次に、図6を参照して、本実施形態に係る液滴LDを吐出する吐出ヘッドの構成について説明する。図6に示すように、インクジェットシステム4は、前処理剤吐出ヘッド31H、31L、着色剤吐出ヘッド21K、21C、21M、21Yを備える。
【0051】
ロール紙Mdの搬送方向Xmの上流側に前処理剤吐出ヘッド31H、31Lが配置され、前処理剤吐出ヘッド31H、31Lよりも下流側に着色剤吐出ヘッド21K、21C、21M、21Yが配置されている。
【0052】
すなわち、インクジェットシステム4は、像を形成する対象物である媒体の一種としてロール紙Mdを搬送しながら、その搬送方向Xmの上流側において像の形成位置に対する前処理を行うために処理剤を付着させる。ロール紙Mdに処理剤が付着した領域を処理領域として、当該処理領域に対して着色剤を付着させて、像(画像)を形成する。
【0053】
なお、本実施形態では、吐出ヘッドの構成としてK、C、M、Yの配置の順序のものを例示しているが、これに限定されず、例えば、色の配置順をY、M、C、Kとしてもよい。また、色の組み合わせは、K、C、M、Yに限らず、グリーン(G)、レッド(R)、およびライトシアン(LC)などの3色でもよい。また、色の組み合わせは、組み合わせとしてではなく、ブラック(K)1色でもよい。
【0054】
着色剤吐出ヘッド21Kは、第1ヘッド21K-1、第2ヘッド21K-2、第3ヘッド21K-3、第4ヘッド21K-4は、ブラック(K)の着色剤吐出ヘッド21Kにおいて、ロール紙Mdの搬送方向Xmと直交する方向に千鳥状に配置されている。
【0055】
インクジェット装置2では、第1ヘッド21K-1、第2ヘッド21K-2、第3ヘッド21K-3、第4ヘッド21K-4を千鳥状に配置することによって、記録媒体Mに対して画像が形成される領域の幅方向、すなわちロール紙Mdの搬送方向Xmと直交する方向の領域に画像形成を行うことができる。
【0056】
なお、K、C、M、Yの各色の着色剤吐出ヘッド21、および、前処理剤吐出ヘッド31H、31Lの各吐出ヘッドもブラック(K)の着色剤吐出ヘッド21Kと同様の構成であるため、重複する説明は省略する。
【0057】
図7は、着色剤吐出ヘッド21Kの概略構成を示す断面図である。着色剤吐出ヘッド21Kは、流路板41、振動板42、ノズル板43、フレーム部材44および圧力発生部45を有する。流路板41は、吐出する液滴LDの通路を形成する。流路板41は、例えば結晶面方位(110)の単結晶シリコン基板からなる。
【0058】
流路板41は、水酸化カリウム(KOH)水溶液などのアルカリ性エッチング液によって異方性エッチングすることで、ノズル連通路40Rおよび液室40Fを形成する。なお、流路板41に用いることができる材料は、単結晶シリコン基板に限られない。例えば、流路板41の材料として、ステンレス、感光性樹脂、およびその他材料などを用いてもよい。
【0059】
振動板42は、例えば、ニッケル電鋳(例えば、エレクトロフォーミング法、電鋳法など)で加工された金属プレートからなる。なお、振動板42は、ニッケル以外の金属板、または、金属と樹脂板との接合部材などでもよい。振動板42は流路板41の下面に、すなわち着色剤吐出ヘッド21Kの内部方向に接合されている。振動板42は、圧力発生部45によって力が加えられることによって変形する。
【0060】
ノズル板43は、例えば、単結晶シリコン基板からなる。ノズル板43は、流路板41と同様に異方性エッチングによって加工される。なお、ノズル板43は、金属部材によって構成された外形表面に所要の層を介して撥水層が形成された構成であってもよい。ノズル板43は、流路板41の上面、すなわち着色剤吐出ヘッド21Kの外部方向に接合されている。
【0061】
また、ノズル板43は、液滴LDを吐出する複数のノズル40Nを有する。具体的には、各液室40Fに対応して直径10~30μmのノズル40Nがノズル板43に形成されている。
【0062】
フレーム部材44は、エポキシ系樹脂などの熱硬化性樹脂またはポリフェニレンサルファイト(PPS)からなる。その他、同様の特性を有する樹脂をフレーム部材44の素材として使用してもよい。フレーム部材44は、圧力発生部45を収納する収容部44I、共通液室40CRとなる凹部、共通液室40CRに吐出ヘッド外部からインクを供給するためのインク供給口40INを備え、射出成形で加工されている。フレーム部材44は、振動板42の周縁部を保持する。
【0063】
圧力発生部45は、圧電素子45P、圧電素子45Pを接合固定するベース基板45B、および隣り合う圧電素子45Pの間隙に配置された支柱部を有する。また、圧力発生部45には、圧電素子45Pを駆動回路に繋ぐFPC(Flexible Printed Circuits)ケーブル45Cが接続されている。
【0064】
圧電素子45Pとして、例えば、圧電材料と内部電極とを交互に積層した積層型圧電素子(PZT)が使用される。内部電極は、複数の個別電極と複数の共通電極とを有し、圧電素子45Pの端面に交互に個別電極または共通電極が接続されている。
【0065】
圧電素子45Pの圧電方向は、例えば、圧電素子45Pの結晶体に対して、分極方向に平行に電場を加えた場合、結晶体が長くなる方向(以後、「d33モード」という)である。圧力発生部45は、圧電素子45Pのd33モードに、圧電効果を用いて液室40F内のインクを加圧し、または減圧する。
【0066】
なお、圧電素子45Pの圧電方向は、圧電素子45Pの結晶体に対して、分極方向に平行に電場を加えた場合、結晶体が短くなる方向であるd31モードに液室40F内のインクを加圧し、または減圧してもよい。また、圧力発生部45は、インクの吐出口である1つのノズル40Nに対して1列の圧電素子を配置してもよい。
【0067】
なお、支柱部は、圧電素子部材である圧電素子45Pを分割して圧電素子45Pと同時に形成してもよい。すなわち、吐出ヘッド40Kは、電圧を印加しない圧電素子45Pを部材とした支柱部として用いてもよい。なお、K、C、M、Yの各色の着色剤吐出ヘッド21、および、前処理剤吐出ヘッド31H、31Lの各吐出ヘッドもブラック(K)の着色剤吐出ヘッド21Kと同様の構成であるため、重複する説明は省略する。
【0068】
次に、着色剤吐出ヘッド21Kがノズル40Nから液滴LDを吐出する動作である引き打ちまたは押し打ち動作について具体的に説明する。図8は、本実施形態に係るインクジェットシステム4の運用形態を示す図である。
【0069】
図8に示すように、DFE1は、インクジェットシステム4を構成する各部に動作を指示し、その動作を制御する。そして、前処理装置3は、ロール紙Mdに対して前処理剤PCAを吐出する前処理を実行する。また、インクジェット装置2は、前処理が施されたロール紙Mdに着色剤を含む液滴LDを吐出して画像を形成する。
【0070】
また、測定装置5A、5Bはそれぞれロール紙Mdを測定し、測定値に基づいて測定画像を生成する。DFE1およびインクジェット装置2、DFE1および前処理装置3、DFE1および測定装置5A、5Bは、それぞれ信号線70LC、71LC、50ALC、50BLCによって通信可能に接続されている。
【0071】
図8に示す印刷制御部20Ccは、圧電素子45Pに印加している電圧を基準電位から下げ、圧電素子45Pをその積層方向に縮小させることによって振動板42を撓み変形させる。そして、振動板42の撓み変形によって、液室40Fの容積を大きくさせる。これにより、液滴LDが、共通液室40CRから液室40Fに流入する。
【0072】
次に、印刷制御部20Ccは、圧電素子45Pに印加している電圧を上げ、圧電素子45Pを積層方向に伸長させることによって振動板42をノズル40N方向に変形させる。そして、振動板42の変形によって、液室40Fの容積を小さくさせる。これにより、液室40F内の液滴LDに圧力が付加されてノズル40Nから液滴LDが吐出される。
【0073】
その後、印刷制御部20Ccは、圧電素子45Pに印加している電圧を基準電位に戻し、振動板42を、基準電圧を下げる前の位置、すなわち初期位置に復元する動作を実行する。着色剤吐出ヘッド21Kでは、液室40Fの膨張によって液室40F内が減圧され、共通液室40CRから液室40Fに液滴LDが充填される。次いで、ノズル40Nのメニスカスの振動が減衰し、その後、次の液滴LDの吐出動作に移行する。このようにして、液滴LDを吐出する動作が繰り返される。
【0074】
なお、着色剤吐出ヘッド21Kの駆動方法は、引き打ちまたは押し打ちに限定されず、圧電素子45Pに印加する電圧(以下、「駆動波形」と記載する)を制御することによって、引き打ちまたは押し打ちなどを行うことができる。なお、K、C、M、Yの各色の着色剤吐出ヘッド21の各吐出ヘッドもブラック(K)の着色剤吐出ヘッド21Kと同様の構成であるため、重複する説明は省略する。
【0075】
また、前処理剤吐出ヘッド31H、31Lについては、図8に示すプレコートコントローラ30Cに含まれる前処理制御部30Ccが、印刷制御部20Ccと同様の動作を行い、ロール紙Mdに対して液滴LDを吐出することによって前処理を実行する。
【0076】
なお、本実施形態における圧力発生部45は、圧電素子45Pに限定されず、例えば、サーマル型、静電型などの公知の技術を採用することもできる。なお、サーマル型とは、発熱抵抗体を用いて液室40F内の液滴LDを加熱して気泡を発生させる方法である。静電型とは、液室40Fの壁面に振動板と電極とを対向させて配置し、振動板と電極との間に静電力を発生させることによって振動板を変形させる方法である。
【0077】
本実施形態に係るインクジェットシステム4は、このような着色剤吐出ヘッド21K、21C、21M、21Y、前処理剤吐出ヘッド31H、31Lを用いて、ロール紙Mdにおいて画像が形成される領域の幅方向全域に対してフルカラーの画像あるいはモノクロの画像を形成することができる。
【0078】
次に、本実施形態に係るDFE1のハードウェア構成について説明する。図9に示すように、DFE1は、CPU(Central ProcessingUnit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13を有する。DFE1は、さらに、HDD(ハードディスクドライブ)14、I/F15を有する。DFE1を構成するCPU11などのデバイスはバス16によって相互に接続されている。
【0079】
なお、インクジェット装置2、前処理装置3および測定装置5A、5BもDFE1と同様のハードウェアによって構成される。また、測定装置5A、5Bがカメラなどの撮像装置である場合には、図9に示す構成に加えてカメラなどの撮像部を有していてもよく、測定装置5A、5Bが赤外線や超音波などによってロール紙Mdの表面を測定するセンサを含む構成であってもよい。
【0080】
CPU11は、DFE1全体の動作を制御する。CPU11は、ROM12またはHDD14に格納されているプログラムをRAM13にロードし、実行することによりDFE1の動作を制御する。ROM12およびHDD14には、CPU11を制御するための制御プログラムが格納される。RAM13は、CPU11が動作させるプログラムまたは中間のデータを展開するための作業領域として用いられる。
【0081】
I/F15は、DFE1とホスト装置などの外部装置との通信に用いられ、例えばTCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)などのプロトコルに対応した通信を行う。
【0082】
また、I/F15は、例えば、PCI Express(Peripheral Component Interconnect Bus Express)、ISA(Industry Standard Architecture)などによって通信を行う構成であってもよい。また、I/F15は、印刷画像データの各色に対応した複数のチャネルを有するように構成されてもよい。
【0083】
DFE1は、CPU11の制御によってホスト装置などの外部装置から送信された印刷ジョブデータをI/F15を介して受信し、HDD14に格納する。DFE1は、PC(Personal Computer)などのホスト装置から受信したジョブデータに基づいて、CMYK各色に対応するビットマップデータなどの画像の情報であるラスターデータを生成し、ラスターデータを含む情報(以後、「印刷出力データ」という)をインクジェット装置2に送信する。インクジェット装置2は、印刷出力データに基づいて、ロール紙Mdに対して液滴LDを吐出する。
【0084】
また、DFE1は、印刷ジョブデータおよびホスト装置から入力された情報などに基づいて、印刷動作を制御するためのデータ(以下、「制御情報データ」という。)を生成する。制御情報データは、印刷形態、印刷種別、給排紙情報、印刷面順、印刷用紙サイズ、印刷画像データのデータサイズ、解像度、紙種情報、階調、色情報および印刷を行うページ数の情報などの印刷条件に関するデータを含む。
【0085】
さらに、この制御情報データとして、後処理装置が吐出する後処理液の吐出に関するデータを含んでいてもよい。印刷出力データは、DFE1からインクジェット装置2および前処理装置3にそれぞれ送信される。
【0086】
また、DFE1は、測定装置5Aが生成する出力前測定画像に基づいて前処理装置3が吐出する液滴LDの吐出に関するデータ(以下、「前処理出力データ」という。)を前処理装置3に送信する。
【0087】
さらに、DFE1は、測定装置5Bが生成する測定画像を解析して、所望のドットが形成されているか否かを判定し、判定結果に基づいて前処理出力データにおいて液滴LDの吐出量を変更して前処理装置3に送信する。
【0088】
図10は本実施形態に係るインクジェット装置2および前処理装置3の機能構成を示すブロック図である。インクジェット装置2は、DFE1から入力された印刷出力データおよび制御情報データに基づいてロール紙Mdに画像を形成する動作を制御する。インクジェット装置2は、プリンタコントローラ20Cおよびプリンタエンジン20Eを含む。
【0089】
プリンタコントローラ20Cは、CPU20Cpおよび印刷制御部20Ccを含み、CPU20Cpおよび印刷制御部20Ccは送受信可能にバス20Cbによって接続されている。バス20Cbは、通信I/Fを介して、信号線70LCに接続されている。CPU20Cpは、ROMに格納されている制御プログラムを用いて、インクジェット装置2全体の動作を制御する。
【0090】
印刷制御部20Ccは、DFE1から送信された制御情報データに基づいて、プリンタエンジン20Eと、コマンド、パラメータ、またはデータなどの情報の送受信を行う。印刷制御部20Ccは、プリンタエンジン20Eと情報を送受信することによって、プリンタエンジン20Eを制御する。
【0091】
プリンタコントローラ20Cはプリンタエンジン20Eを制御する。プリンタコントローラ20Cは、信号線20LCを介して、DFE1と制御情報データなどの送受信を行う。プリンタコントローラ20Cは、信号線20LCを介して、後述するプリンタエンジン20Eと制御情報データなどの送受信を行う。
【0092】
プリンタコントローラ20Cは、送受信される制御情報データに含まれる印刷条件などを印刷制御部20Ccのレジスタに書き込み、印刷条件をレジスタに格納する。プリンタコントローラ20Cは、制御情報データに基づいてプリンタエンジン20Eを制御し、印刷ジョブデータおよび制御情報データに従った印刷を実行させる。
【0093】
プリンタエンジン20Eは、吐出制御部20EiC、20EiM、20EiY、20EiKを有する。吐出制御部20EiC、20EiM、20EiY、20EiKは、それぞれ、着色剤吐出ヘッド21C、21M、21Y、21Kに印刷制御部20Ccから送信された印刷出力データに基づいてロール紙Mdに液滴LDを吐出させ、画像を形成する画像形成出力を実行する。
【0094】
プリンタエンジン20Eは、プリンタコントローラ20Cからの指示に基づいて、DFE1からインクジェット装置2に入力されたビットマップデータを、画像形成出力に対応するデータに変換し、着色剤吐出ヘッド21C、着色剤吐出ヘッド21M、着色剤吐出ヘッド21Y、着色剤吐出ヘッド21Kごとのデータに分割する。
【0095】
例えば、プリンタエンジン20Eは、入力された256ビットのビットマップデータを大滴、中滴、小滴、吐出なしの4値に変換し、対応する着色剤吐出ヘッド21C、着色剤吐出ヘッド21M、着色剤吐出ヘッド21Y、着色剤吐出ヘッド21Kごとのデータに分割する。
【0096】
前処理装置3は、DFE1から入力された前処理出力データおよび制御情報データに基づいてロール紙Mdに液滴LDを吐出して前処理が施された領域である前処理領域を形成する動作を実行する。前処理装置3は、プレコートコントローラ30Cおよびプレコートエンジン30Eを含む。
【0097】
プレコートコントローラ30Cは、CPU30Cpおよび前処理制御部30Ccを含み、CPU30Cpおよび前処理制御部30Ccは送受信可能にバス30Cbによって接続されている。バス30Cbは、通信I/Fを介して、信号線71LCに接続されている。CPU30Cpは、ROMに格納されている制御プログラムを用いて、前処理装置3全体の動作を制御する。
【0098】
前処理制御部30Ccは、DFE1から送信された制御情報データに基づいて、プレコートエンジン30Eと、コマンド、パラメータ、またはデータなどの情報の送受信を行う。前処理制御部30Ccは、プレコートエンジン30Eと情報を送受信することによって、プレコートエンジン30Eを制御する。
【0099】
プレコートコントローラ30Cはプレコートエンジン30Eを制御する。プレコートコントローラ30Cは、信号線30LCを介して、DFE1と制御情報データなどの送受信を行う。プレコートコントローラ30Cは、信号線30LCを介して、後述するプレコートエンジン30Eと制御情報データなどの送受信を行う。
【0100】
プレコートコントローラ30Cは、送受信される制御情報データに含まれる印刷条件などを前処理制御部30Ccのレジスタに書き込み、印刷条件をレジスタに格納する。プレコートコントローラ30Cは、制御情報データに基づいてプレコートエンジン30Eを制御し、印刷ジョブデータおよび制御情報データに従った印刷を実行させる。
【0101】
プレコートエンジン30Eは、前処理剤吐出制御部30Eph、30Eplを有する。プレコートエンジン30Eは、プレコートコントローラ30Cからの指示に基づいて、DFE1から前処理装置3に入力されたビットマップデータを、画像形成出力に対応する小値のデータに変換し、前処理剤吐出制御部30Eph、30Eplごとのデータに分割する。
【0102】
例えば、プレコートエンジン30Eは、入力された256ビットのビットマップデータを大滴、中滴、小滴、吐出なしの4値に変換し、対応する前処理剤吐出制御部30Eph、30Eplごとのデータに分割する。前処理剤吐出制御部30Eph、30Eplは、それぞれ、前処理制御部30Ccから送信された前処理出力データに基づいて、前処理剤吐出ヘッド31H、31Lにロール紙Mdに液滴LDを吐出させ、ロール紙Mdに前処理剤層PCを形成する。
【0103】
測定装置5Aは、測定制御部50Aを含む。測定制御部50Aは、DFE1から送信される測定実行情報に基づいて、ロール紙Mdの表面を、幅方向および搬送方向Xmの所定の範囲にわたって測定する。そして、測定した値に基づいて測定画像を生成し、生成した測定画像をDFE1に送信する。
【0104】
測定装置5Bは、測定制御部50Bを含む。測定制御部50Bは、DFE1から送信される測定実行情報に基づいて、ロール紙Mdの表面を、幅方向および搬送方向Xmの所定の範囲にわたって測定する。そして、測定した値に基づいて測定画像を生成し、生成した測定画像をDFE1に送信する。
【0105】
このように、本実施形態に係るインクジェットシステム4は、DFE1から入力された描画情報に基づいて、前処理装置3によって前処理が施されたロール紙Mdに対してインクジェット装置2が液滴を吐出することによって画像形成出力を実行する。次に、本実施形態に係るDFE1の機能構成について図11を参照して説明する。
【0106】
図11に示すように、DFE1は、コントローラ100、入出力装置400、ネットワークI/F15Fを含む。入出力装置400は、DFE1の状態を視覚的に表示する出力インタフェースであるとともに、タッチパネルとしてユーザがDFE1を直接操作し、もしくはDFE1に対して情報を入力する際の入力インタフェースでもある。
【0107】
すなわち、入出力装置400は、ユーザによる操作を受けるための画像を表示する機能を含む。入出力装置400は、I/F15に接続されたディスプレイ装置および操作装置によって実現される。
【0108】
ネットワークI/F15Fは、DFE1がネットワークを介してホスト端末や測定装置5A、5Bなど他の機器と通信するためのインタフェースであり、Ethernet(登録商標)やUSB(Universal Serial Bus)インタフェースが用いられる。ネットワークI/F15Fは、TCP/IPプロトコルによる通信が可能である。ネットワークI/F15Fは、I/F15によって実現される。
【0109】
コントローラ100は、主制御部110、エンジン制御部120、画像処理部130、操作表示制御部140および入出力制御部150を含み、図9に示すハードウェアとソフトウェアとの組み合わせによって構成される。具体的には、ROM12や不揮発性メモリならびにHDD14や光学ディスクなどの不揮発性の記憶媒体に格納されたプログラムが、RAM13などの揮発性メモリ(以下、メモリ)にロードされる。
【0110】
CPU11がRAM13などにロードされたプログラムに従って演算を行う。これら一連の協働により構成されるソフトウェア制御部と集積回路などのハードウェアとによってコントローラ100が構成される。コントローラ100は、DFE1全体を制御する制御部として機能する。
【0111】
主制御部110は、コントローラ100に含まれる各部を制御する役割を担い、コントローラ100の各部に命令を与える。エンジン制御部120は、インクジェット装置2や前処理装置3、搬入部17、搬出部60などを制御もしくは駆動する駆動手段としての役割を担う。画像処理部130は、主制御部110の制御に従い、印刷出力すべき画像の情報に基づいてビットマップデータなどの描画情報を生成する。この描画情報とは、インクジェット装置2や前処理装置3が画像形成動作において形成すべき画像、すなわち、画像形成出力の対象の画像を描画するための情報である。
【0112】
操作表示制御部140は、入出力装置400に情報表示を行い、もしくは、入出力装置400を介して入力された情報を主制御部110に通知する。入出力制御部150は、ネットワークI/F15Fを介して入力される情報を主制御部110に入力する。また、主制御部110は、入出力制御部150を制御し、ネットワークI/F15Fおよびネットワークを介してネットワークに接続された他の機器にアクセスする。
【0113】
DFE1が実行する処理として、まず、入出力制御部150がネットワークI/F15Fを介してホスト装置などから画像形成出力を実行する命令情報である印刷ジョブを受信する。入出力制御部150は、受信した印刷ジョブを主制御部110に転送する。主制御部110は、印刷ジョブを受信すると、画像処理部130を制御して印刷ジョブに含まれる文書情報、もしくは、画像情報に基づいて描画情報を生成させる。
【0114】
本実施形態に係る印刷ジョブには、出力対象の画像情報がDFE1の画像処理部130によって解析可能な情報形式で記述された画像の情報の他、画像形成出力に際して設定されるべきパラメータの情報が含まれる。このパラメータの情報とは、例えば、両面印刷の設定、集約印刷の設定、カラー/モノクロの設定等の情報である。
【0115】
画像処理部130によって描画情報が生成されると、エンジン制御部120は、インクジェット装置2や前処理装置3にそれぞれ印刷出力データおよび前処理出力データを送信し、生成された描画情報に基づいて、搬入部17から搬送される用紙に対して画像形成を実行させる。
【0116】
前述したように、本実施形態においては、主制御部110がコントローラ100に含まれる各部を制御する。次に、図12を参照して、本実施形態において前処理実行制御部としても機能する主制御部110の機能構成について説明する。
【0117】
本実施形態に係る主制御部110は、特性情報記憶部111、測定情報解析部112、前処理剤吐出量算出部113を含む。特性情報記憶部111には、媒体特性情報記憶部114、前処理剤特性情報記憶部115、着色剤特性情報記憶部116を含む。なお、特性情報データテーブルSDが特性情報記憶部111に記憶されている構成であってもよい。
【0118】
特性情報データテーブルSDは、図13から図15に示すように、液滴LDが記録媒体Mに付着することで形成されるドットの大きさについて、前処理剤PCAの吐出量と凝集剤濃度AGCとの関係を、記録媒体Mの種類ごとに特性情報として示したものである。
【0119】
なお、図13から図15に示す特性情報データテーブルSDは、記録媒体Mの媒体特性(例えば、浸透性の高低)、液滴LDに含まれる顔料粒子Pの種類、および、前処理剤PCAの種類の組み合わせごとに構成される。
【0120】
図13は、低浸透性の記録媒体Mにおける前処理剤PCAaの吐出量と凝集剤濃度AGCと顔料Dyのドットの大きさとの関係、図14は、中浸透性の記録媒体Mにおける前処理剤PCAaの吐出量と凝集剤濃度AGCと顔料Dyのドットの大きさとの関係、図15は、高浸透性の記録媒体Mにおける前処理剤PCAaの吐出量と凝集剤濃度AGCと顔料Dyのドットの大きさとの関係をそれぞれ示す特性情報データテーブルSDを例示した図である。
【0121】
図13から図15に示すように、記録媒体Mに対して前処理剤層PCを形成した後に液滴LDを吐出して画像形成を行った場合、液滴LDにふくまれる顔料粒子Pによって形成されるドットは、前処理剤PCAの吐出量が多いほど大きくなり、また、凝集剤AGの濃度が高いほど大きくなる。また、液滴LDに含まれる顔料粒子Pによって形成されるドットは、記録媒体Mに対する液滴LDの浸透性が低いほど大きくなる。
【0122】
すなわち、特性情報データテーブルSDを参照して前処理剤PCAの吐出量を制御することによって、記録媒体Mの特性ごとに顔料粒子Pによって形成されるドットの大きさを制御することができる。言い換えると、特性情報データテーブルSDを用いることで、像形成剤であって、着色剤として顔料粒子Pを含んだ液滴LDが濡れ広がる速さを早めたり、遅くしたりすることができる。
【0123】
このように、特性情報データテーブルSDは、記録媒体Mの特性および顔料粒子Pの種類および前処理剤PCAの種類の組み合わせごとに、ドットの大きさと前処理剤PCAの吐出量と凝集剤濃度AGCとの関係として構成した情報を特性情報として含む。
【0124】
また、特性情報データテーブルSDは、記録媒体Mの特性および顔料粒子Pの種類および前処理剤PCAの種類の組み合わせごとに、ドットの大きさと前処理剤PCAの吐出量と凝集剤濃度AGCとの関係として構成した情報を画像形成出力の結果として入力して構成されていてもよいし、実験もしくはシミュレーションの結果として得られた特性情報によって構成されていてもよい。
【0125】
また、記録媒体Mの種類ごとに、前処理剤PCAの吐出量と凝集剤濃度AGCとの関係を示すシミュレーション結果や実験結果として得られた特性情報によって特性情報データテーブルSDが構成されてもよい。なお、特性情報データテーブルSDについての詳細は、後述する。
【0126】
媒体特性情報記憶部114には、記録媒体Mの物理的な特性の情報である媒体特性情報が記憶されている。ここで、媒体特性情報とは、記録媒体Mが非浸透性媒体であるのか、もしくは、浸透性媒体であるのかを示す情報であって、記録媒体Mに対する液滴LDの浸透度合いを示す情報である。
【0127】
なお、非浸透性媒体としては、フィルム、浸透性媒体としては普通紙やコート紙などが知られている。また、媒体特性情報として、記録媒体Mごとに、記録媒体M表面の表面粗さなどを測定し、その測定値を媒体特性情報として用いてもよい。
【0128】
前処理剤特性情報記憶部115には、前処理剤吐出ヘッド31Hから吐出される前処理剤PCA1、前処理剤吐出ヘッド31Lから吐出される前処理剤PCA2の特性の情報である前処理剤特性情報が記憶されている。前処理剤特性情報とは、例えば、前処理剤PCAの材料や物理的な特性を示す情報のことである。
【0129】
着色剤特性情報記憶部116には、着色剤吐出ヘッド21から吐出されるYMCKの各インクの特性の情報である着色剤特性情報が記憶されている。着色剤特性情報とは、例えば、YMCK各色を着色する着色剤の材料や物理的な特性を示す情報のことである。
【0130】
なお、主制御部110は、画像形成出力の実行結果に基づいて、前処理剤特性情報や着色剤特性情報を参照して、特性情報データテーブルSDに特性情報を追加する構成であってもよい。
【0131】
測定情報解析部112は、入出力制御部150を介して主制御部110に入力された出力前測定画像に対して、画素ごとに記録媒体Mの表面特性を解析して、解析結果を出力する。
【0132】
測定情報解析部112は、例えば、図16図17に示す記録媒体Mの表面の測定画像の濃淡値と表面特性との関係を表す関係式に基づいて、測定画像の画素ごとに記録媒体Mの表面特性の解析結果を出力する。記録媒体Mの表面特性の解析結果は画素ごとである必要はなく、例えば、液滴の吐出解像度に合わせた所定の領域ごとに出力される構成であってもよい。
【0133】
図16は、記録媒体Mの表面の測定画像の濃淡値と記録媒体Mに対する液滴LDの濡れ性との関係を表す関係式を模式化した図、図17は、記録媒体Mの表面の測定画像の濃淡値と記録媒体Mに対する液滴LDの浸透性との関係を表す関係式を模式化した図である。
【0134】
図16においては、記録媒体Mの表面の測定画像の濃淡が濃くなるほど、記録媒体Mに対する液滴LDの濡れ性がよくなり、液滴LDが記録媒体Mに付着しやすいことを示している。図17においては、記録媒体Mの表面の測定画像の濃淡が濃くなるほど、記録媒体Mに対する液滴LDの浸透性が大きくなり、液滴LDが記録媒体Mに浸透しやすいことを示している。
【0135】
測定情報解析部112は、測定画像の画素ごとの濃淡の情報に基づいて、記録媒体Mに対する液滴LDの濡れ性を解析し、解析結果を前処理剤吐出量算出部113に送信する。また、測定情報解析部112は、測定画像の画素ごとの濃淡の情報に基づいて、記録媒体Mに対する液滴LDの浸透性を解析し、解析結果を前処理剤吐出量算出部113に送信する。
【0136】
前処理剤吐出量算出部113は、測定情報解析部112による測定画像の解析結果および特性情報記憶部111に記憶されている各種の特性情報に基づいて、前処理剤吐出ヘッド31H、31Lからそれぞれ吐出する処理液滴吐出量である前処理剤の量を算出する処理液滴吐出量算出部、第1液滴吐出量算出部、第2液滴吐出量算出部として機能する。
【0137】
そして、前処理剤吐出量算出部113が算出した前処理剤PCAの吐出量に基づいて記録媒体Mに対して前処理剤PCAを吐出し、前処理剤層PCを形成することにより、記録媒体M表面における像形成剤を含む液滴LDの挙動を制御する。
【0138】
次に、記録媒体Mに対する前処理剤層PCの形成態様の違いについて、図18を用いて説明する。まず、記録媒体Mに対して前処理剤PCAを吐出すると、前処理剤層PCは、図18に示すように記録媒体Mの表面上に形成される。
【0139】
なお、(a)の領域および(b)の領域に対して吐出される前処理剤PCAの量および凝集剤濃度AGCは同じであり、かつ、(a)で示す領域と(b)で示す領域とでは、それぞれ記録媒体Mに対する液滴LDの浸透度が異なると仮定して説明を行う。
【0140】
このとき、図18(a)で示す領域と図18(b)で示す領域とでは、それぞれ記録媒体Mに対する液滴LDの浸透度が異なる。具体的には、記録媒体Mの空隙よりも凝集剤AGが小さいなどの理由によって、(b)で示す領域では、凝集剤AGが記録媒体Mの厚さ方向に移動しやすい状態である。
【0141】
そのため、記録媒体Mに対する前処理剤PCAを含む液滴LDの挙動に違いが生じ、(b)の領域においては、記録媒体Mの厚さ方向に、(a)の領域よりもより大きく前処理剤層PCが形成される。
【0142】
(a)の領域における凝集剤AGの分布態様と比較すると、(b)の領域においては、凝集剤AGが記録媒体Mの厚さ方向に拡散して、記録媒体Mの厚さ方向のより大きい範囲に前処理剤層PCが形成される。そのため、(b)の領域に形成された前処理剤層PCでは、(a)の領域に形成された前処理剤層PCよりも凝集剤AGの濃度が低くなる。
【0143】
したがって、(a)の領域の前処理剤層PCと(b)の領域の前処理剤層PCとでは、記録媒体Mの厚さ方向における凝集剤濃度AGCが異なる。また、(b)の領域では、記録媒体Mの表面より遠い位置に凝集剤AGが分布しているため、記録媒体Mに付着した液滴LDに拡散する凝集剤AGの単位時間あたりの量は、(a)の領域と比較すると少なくなる。
【0144】
一方で、(a)の領域では、記録媒体Mの表面から近い位置に凝集剤AGが分布しているため、記録媒体Mに付着した液滴LDに拡散する凝集剤AGの単位時間あたりの量は、(b)の領域と比較すると多くなる。
【0145】
したがって、(a)、(b)それぞれの領域に対して液滴LDが吐出されたとすると、それぞれの領域に吐出された液滴LDに拡散する凝集剤AGの量に差異が生じる。その結果、吐出された液滴LDの挙動にも差異が生じることとなり、顔料粒子Pによって形成されるドットの大きさにも差異が生じる。
【0146】
そこで、本実施形態においては、図19に示すように、記録媒体M表面における像形成剤を含む液滴LDの挙動を制御し、像形成剤によって所望のドットが形成されるように記録媒体Mの表面特性に基づいて前処理の実行態様を制御する。具体的に、主制御部110は、記録媒体Mの表面特性に基づいて凝集剤濃度AGCが異なる前処理剤PCA1および前処理剤PCA2の吐出量を制御して前処理剤層PCを形成する。
【0147】
具体的に説明すると、図19の(a)に示す領域は、測定情報解析部112によって、記録媒体Mに対する液滴LDの浸透性が低いと解析された領域である。また、図19の(b)に示す領域は、測定情報解析部112によって、記録媒体Mに対する液滴LDの浸透性が高いと解析された領域である。
【0148】
このとき、前処理剤吐出量算出部113は、(a)に示す領域および(b)に示す領域に付着する液滴LDに拡散する単位時間当たりの凝集剤AGの量が同等になるように前処理剤PCA1および前処理剤PCA2の吐出量を算出する。このようにすることで、前処理装置3は、液滴LDの挙動が一定となるような前処理を記録媒体M上に実行することができる。
【0149】
なお、図19においては、記録媒体Mの表面が水平になるように前処理剤層PCが形成されているが、必ずしも記録媒体Mの表面が水平になるように記録媒体Mに前処理剤PCA1および前処理剤PCA2を吐出して前処理剤層PCを形成しなくともよい。
【0150】
このようにして、前処理剤吐出量算出部113によって算出された前処理剤PCA1および前処理剤PCA2の吐出量の情報は、主制御部110によってエンジン制御部120を介して前処理装置3に送信される。
【0151】
本実施形態において、前処理装置3は、凝集剤AGの濃度が高い前処理剤PCA1を吐出する前処理剤吐出ヘッド31Hおよび凝集剤AGの濃度が低い前処理剤PCA2を吐出する前処理剤吐出ヘッド31Lを含む。そして、前処理装置3は、前処理剤吐出ヘッド31Hおよび前処理剤吐出ヘッド31Lのそれぞれから、図20に示すように、記録媒体Mに対して凝集剤AGの濃度が高い前処理剤PCA1と凝集剤AGの濃度が低い前処理剤PCA2とを吐出する。
【0152】
図20に示すように、前処理剤PCA1が吐出された領域には前処理剤層PC1が、前処理剤PCA2が吐出された領域には前処理剤層PC2がそれぞれ形成される。ここで、図20に示す前処理剤層PCに対して、顔料粒子Pを含む像形成剤である液滴LDが吐出されたと仮定する。
【0153】
このとき、図19に示すように、前処理剤層PC1は、凝集剤AGが低濃度であって、前処理剤層PCが記録媒体Mの表面付近に形成されている。一方、前処理剤層PC2は、凝集剤AGが高濃度であって、前処理剤層PCが、前処理剤層PC1よりも記録媒体Mの厚さ方向に拡大して形成される。
【0154】
このとき、前処理剤層PC1および前処理剤層PC2にそれぞれ付着する液滴LDに対して拡散する単位時間当たりの凝集剤AGの量は、同等であるため、前処理剤層PC1および前処理剤層PC2にそれぞれ付着した液滴LDによって、同じ大きさのドットが形成される。
【0155】
このように、本実施形態に係るインクジェットシステム4においては、記録媒体Mに形成される前処理剤層PCにおける凝集剤AGの濃度によって、着色剤を含む液滴LDの記録媒体M上での挙動を制御し、液滴LDが記録媒体Mに付着して形成される着色領域であるドットの大きさやドットの形状を制御する。
【0156】
なお、前処理剤吐出量算出部113は、記録媒体M上の同じ領域に対して前処理剤吐出ヘッド31Hおよび前処理剤吐出ヘッド31Lから、それぞれ前処理剤PCA1、PCA2の吐出を実行させるように前処理剤PCA1、PCA2の吐出量である第1処理液滴吐出量、第2処理液滴吐出量を算出する構成であってもよい。このとき、前処理装置3は、前処理剤吐出ヘッド31Hおよび前処理剤吐出ヘッド31Lの吐出タイミングを制御し、前処理剤PCA1と前処理剤PCA2とを同じ領域に吐出して前処理剤層PCを形成する。
【0157】
次に、本実施形態に係るインクジェットシステム4において吐出する前処理剤PCAの量(吐出量)を算出する処理の流れについて、図21のフローチャートを参照して説明する。主制御部110は、ジョブデータを受信すると(S2101)、受信したジョブデータを画像処理部130に転送する。
【0158】
画像処理部130は、ジョブデータに基づいて、画像情報に対してジョブデータにおいて指定された印刷条件を設定してRIP(Raster Image Processing)処理を実行し、画像形成出力を実行するためのビットマップデータなどの描画情報を生成する(S2102)。
【0159】
このとき、ジョブデータには、印刷条件を設定して描画情報を生成するための設定情報として、例えば、記録媒体Mを設定するための媒体設定情報、画像形成出力される画像の濃度を設定する濃度設定情報、カラーもしくはモノクロのどちらかで画像形成出力を実行するかを設定するカラー設定情報、画像形成出力を精密に行う場合に設定するモード設定情報などが含まれる。
【0160】
画像処理部130は、RIP処理によって生成した描画情報および設定情報を主制御部110に送信する(S2103)。主制御部110は、描画情報および設定情報を受信すると、入出力制御部150を介して測定装置5Aに記録媒体Mを測定させ、測定結果として測定画像を1バンド分取得し(S2104)、測定情報解析部112に送信する。
【0161】
測定情報解析部112は、測定画像に基づいて測定画像に相当する記録媒体Mの領域の表面特性(例えば、濡れ性や浸透性)を解析して、解析結果を前処理剤吐出量算出部113に送信する(S2105)。
【0162】
次に、前処理剤吐出量算出部113は、特性情報記憶部111を参照し、前処理剤特性情報および着色剤特性情報を取得する(S2106)。このとき、前処理剤吐出量算出部113は、特性情報データテーブルSDから特性情報を取得してもよい。
【0163】
前処理剤吐出量算出部113は、S2106で取得した特性情報と、測定情報解析部112から受信した記録媒体Mの表面特性の解析結果とに基づいて、解析結果から得られる画素ごとに前処理剤PCA1、PCA2の吐出量を算出する(S2107)。これにより、記録媒体Mの表面の位置で異なる解析結果が得られた場合、記録媒体Mの位置によって、記録媒体Mに吐出される液滴LDに応じて前処理の実行態様を変更する。
【0164】
なお、S2107の処理においては、前処理剤PCA1もしくは前処理剤PCA2のいずれかの吐出量を「0」として前処理剤PCA1、PCA2の吐出量を算出してもよい。算出された前処理剤PCA1、PCA2の吐出量の情報である前処理剤量情報は、主制御部110によってエンジン制御部120を介して前処理装置3に送信される(S2108)。
【0165】
次に、本実施形態に係るインクジェットシステム4において、画像形成出力を行う処理の流れについて説明する。主制御部110は、前処理装置3に前処理を実行させる前処理実行情報を送信する。
【0166】
前処理装置3は、DFE1から前処理実行情報を受信すると、S2108でDFE1から受信した前処理剤量情報に基づいて、記録媒体Mに対して前処理剤PCA1および前処理剤PCA2を吐出して前処理を実行する。
【0167】
主制御部110は、インクジェット装置2に画像形成実行情報を送信する。インクジェット装置2は、前処理装置3によって前処理が施された記録媒体Mがインクジェット装置2に搬送され、着色剤吐出ヘッド21K、21C、21M、21Yのそれぞれの吐出位置に到達するタイミングで、着色剤を含む着色液滴を記録媒体Mへ吐出する。
【0168】
測定装置5Aが測定した位置、前処理装置3が前処理を行った位置、着色剤吐出ヘッド21が吐出を行う位置はそれぞれ記録媒体Mの搬送位置として管理され、主制御部110からの指示で測定装置5A、前処理装置3、着色剤吐出ヘッド21が同期して動作を行うことで記録媒体M上に画像が形成される。
【0169】
したがって、主制御部110は、インクジェット装置2および前処理装置3に液滴を吐出させる液滴吐出制御部として機能する。また、主制御部110は、前処理剤PCAなどの処理液滴を前処理装置3に吐出させる処理液滴吐出実行制御部、および、着色剤を含む着色液滴をインクジェット装置2に吐出させる着色液滴吐出実行制御部としても機能する。画像が形成された記録媒体Mは、搬出部60から排出される。
【0170】
以上説明したように、本実施形態では、記録媒体Mの表面特性に基づいて前処理剤層PCを形成することによって、吐出される液滴LDの挙動を制御し、液滴LDに含まれる顔料粒子Pによって形成されるドットの形状が所望の形状となるようにする。
【0171】
なお、本実施形態では、前処理剤PCA1が吐出された領域には前処理剤層PC1が、前処理剤PCA2が吐出された領域には前処理剤層PC2がそれぞれ形成されるものとして説明を行ったが、前処理剤PCA1と前処理剤PCA2とを同一の領域に吐出して前処理剤層PCを形成してもよい。このようにすると、前処理剤層PCにおける凝集剤濃度AGCをより細かく制御することができる。
【0172】
以上より、本実施形態では、例えば、普通紙や塗工紙、木材など、厚さ方向に対して表面の形状が一定ではない媒体に対して前処理を行い、その後インクを吐出した場合、媒体に対するインクの濡れ性や浸透性を一定にすることができる。したがって、媒体上に吐出されるインクの挙動を一定にすることができるため、媒体上に均一なインク形状を形成することができる。
【0173】
また、媒体に吐出されるインクの情報と媒体の表面特性に応じて媒体の位置ごとにインクに応じた濡れ性や浸透性である前処理領域を形成することができるため、品質のよい像形成を実行することができる。
【0174】
また、インクジェット装置2および前処理装置3から記録媒体Mに吐出する液滴LDに含まれるものとして、顔料粒子Pのほかに、染料、たんぱく質・脂質・核酸・ホルモン・糖・アミノ酸などの生体分子、樹脂、高分子などを用いてもよい。また、前処理剤PCAに含まれる反応剤として、凝集剤AGのほかに、キレート剤、フィブリン系接着剤、ハイドロキシアパタイト、重合剤などを用いてもよい。
【0175】
さらに、本実施形態に係るインクジェットシステム4は、3Dプリンタなどの立体造形装置についても適用することができる。
【0176】
なお、測定装置5Aに測定情報解析部112と同等の機能を持たせ、測定装置5Aおよび測定装置5Bに出力前測定画像の解析を実行させてもよい。そして、測定装置5Aは、出力前測定画像の解析結果をDFE1に送信する。
【0177】
このような場合、前処理剤吐出量算出部113は、測定装置5AからDFE1に送信された記録媒体Mの表面特性に基づいて前処理剤PCAの吐出量を算出する。
【0178】
実施の形態2.
本実施形態では、記録媒体を搬送して、主走査方向に移動する吐出ヘッドから吐出される液滴によって画像形成出力を実行するシリアルヘッド方式のインクジェット装置を例として説明を行う。なお、実施の形態1と同様の構成については、同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0179】
図22は、本実施形態に係るインクジェットシステム4の概略を示す図である。インクジェットシステム4は、DFE1と画像形成装置6とが、通信線によって接続されて構成される。なお、本実施形態に係る画像形成装置6は、実施の形態1のインクジェット装置2および前処理装置3がひとつの筐体に一体化されて構成されたものである。
【0180】
次に、図23および図24の画像形成装置6の透視図を参照して、本実施形態に係る画像形成装置6の構成について説明する。画像形成装置6は、インクジェット装置2、前処理装置3、測定装置5A、5B、装置本体の内部においてインクジェット装置2および前処理装置3を主走査方向に移動させるキャリッジ101を含む。
【0181】
キャリッジ101は、左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド107と従ガイドロッド107bとで主走査方向(搬送方向Xmに対して垂直の方向)に摺動自在に配設されている。キャリッジ101には、インクジェット装置2および前処理装置3が搭載されている。また、キャリッジ101の前処理装置3側の側面には、測定装置5Aが、キャリッジ101のインクジェット装置2側の側面には、測定装置5Bがそれぞれ搭載されている。
【0182】
そして、インクジェット装置2に搭載されている着色剤吐出ヘッド21によって、YMCKの各色の着色剤を吐出し、前処理装置3に搭載されている前処理剤吐出ヘッド31によって前処理剤PCAを記録媒体Mに対して吐出する。着色剤吐出ヘッド21および前処理剤吐出ヘッド31は主走査方向と交差する方向に配列されており、かつ、ノズル40Nは下向きに開口して構成される。
【0183】
着色剤吐出ヘッド21に各色の着色剤を含む液滴LDを、また、前処理剤吐出ヘッド31に前処理剤PCAを含む液滴LDを供給するカートリッジ103は、交換可能なようにキャリッジ101に装着されている。また、カートリッジ103は、上方に大気と連通する大気口、下方には着色剤吐出ヘッド21または前処理剤吐出ヘッド31に液滴LDを供給する供給口を有する。そして、カートリッジ103は、液滴LDが充填された多孔質体を有して構成される。
【0184】
カートリッジ103の内圧は、多孔質体の毛管力により供給される液滴LDがわずかな負圧になるように維持されている。なお、本実施形態においては、着色剤吐出ヘッド21が色ごとに設けられている場合を例としているが、YMCK各色の液滴LDを吐出するノズル40Nを有する1個のヘッドでもよい。
【0185】
さらに、前処理剤吐出ヘッド31も、凝集剤AGの濃度別に設けられている場合を例としているが、濃度の異なる凝集剤AGの液滴LDを吐出するノズル40Nを有する1個のヘッドでもよい。
【0186】
キャリッジ101は、後方側(用紙搬送方向下流側)が主ガイドロッド107に摺動自在に装着され、前方側(用紙搬送方向上流側)が従ガイドロッド107bに摺動自在に装着されている。そして、キャリッジ101を主走査方向に移動走査するために、主走査モータ109で回転駆動される駆動プーリ210と従動プーリ211との間にタイミングベルト212が架け渡されている。タイミングベルト212とキャリッジ101とは固定されており、主走査モータ109の正逆回転によりキャリッジ101が往復して駆動される。
【0187】
一方、給紙カセット204に積層された記録媒体Mをインクジェットヘッド102の下方側に搬送するために、給紙カセット204から記録媒体Mを分離給装する給紙ローラ213およびフリクションパッド214と、記録媒体Mを案内するガイド部材215と、搬送された記録媒体Mを反転させて搬送する搬送ローラ216と、この搬送ローラ216の周面に押し付けられる搬送コロ118aおよび搬送ローラ216から記録媒体Mの送り出し角度を規定する先端コロ118bとが設けられている。搬送ローラ216は副走査モータによってギヤ列を介して回転駆動される。
【0188】
キャリッジ101が移動する主走査方向の範囲に対応して搬送ローラ216から送り出された記録媒体Mを、着色剤吐出ヘッド21および前処理剤吐出ヘッド31の下方側で案内するガイド部材である印写受け部材119が設けられている。
【0189】
この印写受け部材119に対して記録媒体Mが搬送される方向の下流側には、記録媒体Mが画像形成装置6の筐体の外部に排紙される方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ220、拍車121が設けられている。さらに記録媒体Mを排紙トレイ106に送り出す排紙ローラ122および拍車123と、画像形成装置6の筐体の外部に記録媒体Mを排紙する経路を形成するガイド部材124、125とが配置されている。
【0190】
次に、図25を参照して、本実施形態に係る画像形成装置6の機能構成について説明する。なお、本実施形態に係る画像形成装置6は、図9に示すインクジェット装置2および前処理装置3の機能に、記録媒体Mの搬送を制御する搬送制御部60Cを加えて構成される。
【0191】
搬送制御部60Cは、印刷制御部20Ccおよび前処理制御部30Ccから受信した命令情報に基づいて副走査モータを駆動させて記録媒体Mを搬送する。また、印刷制御部20Ccおよび前処理制御部30Ccは、主走査モータ109の駆動を制御する駆動制御部としても機能する。その他の構成は、図9と同様であるため、重複する説明を省略する。
【0192】
なお、本実施形態では、インクジェット装置2および前処理装置3がひとつの筐体に一体化されて画像形成装置6が構成されている。したがって、画像形成装置6の動作を制御する制御部である画像形成コントローラによって主制御部110から受信した情報に基づいて画像形成装置6の各部を制御する構成であってもよい。
【0193】
このような場合、画像形成コントローラは、主制御部110から受信した情報に基づいて、プリンタエンジン20Eに着色剤吐出ヘッド21の動作を、プレコートエンジン30Eに前処理剤吐出ヘッド31の動作を制御させる。また、このとき、主制御部110は、画像形成装置6に液滴を吐出させる液滴吐出制御部として機能する。
【0194】
このように構成される画像形成装置6を用いて、本実施形態に係るインクジェットシステム4は、画像の情報に基づいて画像形成出力を実行する。次に、本実施形態に係るインクジェットシステム4において、画像形成出力を行う処理の流れについて図26を参照して説明する。
【0195】
DFE1が図21のフローチャートに示す処理を終了すると、主制御部110は、前処理装置3に前処理を実行させる前処理実行情報を送信する(S2601)。前処理装置3は、DFE1から受信した前処理実行情報に基づいて記録媒体Mに対して前処理剤PCA1および前処理剤PCA2を吐出して前処理を実行する。
【0196】
前処理剤吐出ヘッド31H、31Lが記録媒体Mへ液滴LDを吐出するときには、前処理制御部30Ccがキャリッジ101を移動させながら描画情報に基づいて前処理剤吐出ヘッド31H、31Lを駆動させて、停止している記録媒体Mに対して前処理剤PCAを含む液滴LDを、主走査方向に1バンド分吐出する(S2602)。1バンド分の吐出が終了すると、前処理装置3は、1バンド分の前処理を実行した前処理完了通知をDFE1に送信する(S2603)。
【0197】
DFE1は、前処理装置3から前処理完了通知を受信すると、記録媒体Mを副走査方向に1バンド分搬送させる搬送実行情報を画像形成装置6に送信する(S2604)。画像形成装置6は、搬送実行情報に従って、搬送制御部60Cに副走査モータを駆動させ、搬送ローラ216によって記録媒体Mを副走査方向に1バンド分搬送し(S2605)、搬送完了通知をDFE1に送信する(S2606)。
【0198】
DFE1は、搬送実行通知を受信すると、インクジェット装置2に1バンド分の画像形成出力を実行させるための画像形成実行情報を送信する(S2607)。着色剤吐出ヘッド21が記録媒体Mへ液滴LDを吐出するときには、印刷制御部20Ccがキャリッジ101を移動させながら描画情報に基づいて各色の着色剤吐出ヘッド21を駆動させて、停止している記録媒体Mに対して各色の着色剤を含む液滴LDを主走査方向に1バンド分吐出する(S2608)。
【0199】
1バンド分の吐出が終了すると、インクジェット装置2は、印刷制御部20Ccに副走査モータを駆動させて記録媒体Mを搬送し、画像形成完了通知をDFE1に送信する(S2609)。
【0200】
DFE1は、ジョブデータに含まれる描画情報の画像形成出力が全て終了した場合に、画像形成装置6に記録媒体Mを排出させる排出実行情報を送信し(S2610)、副走査モータを駆動させて画像が形成された記録媒体Mを排出させる(S2611)。なお、ジョブデータに含まれる描画情報の画像形成出力が全てのバンド分終了していない場合、DFE1は、S2101の処理から再度実行する。
【0201】
実施の形態3.
本実施形態では、画像形成出力された画像を解析し、その解析結果に基づいて前処理剤PCAの吐出量をフィードバック制御するインクジェットシステム4を例に説明を行う。また、実施の形態1と同じ構成には同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0202】
なお、本実施形態に係るインクジェットシステム4は、実施の形態1に示すインクジェットシステム4と同様に構成される。図27は、本実施形態に係る主制御部110の機能構成を示す図である。本実施形態に係る主制御部110は、図12に示す構成にフィードバック制御部117を加えた構成である。
【0203】
フィードバック制御部117は、測定装置5Bから取得した画像形成出力後の測定情報である出力後測定画像と描画情報とに基づいて、記録媒体Mにおいて所望のドットが形成されているか否かを判定する形状比較部として機能する。そして、判定結果に基づいて、フィードバック制御部117は、前処理剤吐出量算出部113が算出する前処理剤PCAの吐出量を補正するフィードバック制御を行う吐出量補正部として機能する。
【0204】
フィードバック制御部117は、出力後測定画像と描画情報とのドット形状において、例えば、ドットの大きさや面積などを比較し、どの程度の差異が生じているかを判定する。なお、このとき、画像形成出力される画像が線や面、あるいは、多色の顔料粒子Pが重なって形成されるドットである場合には、フィードバック制御部117は、単一のドットの形状を検知することができない。
【0205】
このような場合、フィードバック制御部117は、画像形成出力される画像の中で、ドットの大きさや面積などが比較できる画素においてのみドットの大きさや面積などを比較し、どの程度の差異が生じているかを判定してもよい。
【0206】
また、フィードバック制御部117が行う記録媒体Mにおいて所望のドットが形成されているか否かの判定は、画像形成出力動作を行う間、連続的に実行する必要はなく、例えば、毎朝や6時間おきなど、定期的に実行する構成であってもよい。
【0207】
また、フィードバック制御部117は、記録媒体Mにおいて所望のドットが形成されているか否かを判定することが可能なドットのテストパターンを形成して、ドットの大きさや面積などを比較し、どの程度の差異が生じているかを判定する構成であってもよい。
【0208】
フィードバック制御部117は、出力後測定画像と描画情報とにおけるドットの大きさや面積などを比較し、所定値以上の差異が生じていると判定した場合には、図13から図15に示す特性情報データテーブルSDの値に基づいて前処理剤吐出量算出部113が算出する前処理剤PCAの吐出量を制御する。
【0209】
具体的に、フィードバック制御部117は、出力後測定画像におけるドットの大きさや面積が、描画情報におけるドットの大きさや面積より大きい場合、それまでの前処理剤PCA2の凝集剤濃度AGCよりも低い濃度の凝集剤AGが含まれる前処理剤PCA1を使用する。または、前処理剤PCA2の吐出量を少なくなるようにフィードバック制御を実行する。
【0210】
また、このとき、記録媒体Mの浸透性の高い領域では、ドットの大きさが小さくなっていくため、ドットが大きくなるようにフィードバック制御を行うとともに、記録媒体Mの浸透性の低い領域では、ドットが大きくなっていくため、ドットの大きさが小さくなるようにフィードバック制御を行ってもよい。
【0211】
次に、本実施形態に係るフィードバック制御の流れについて、図28を参照して説明する。前回の画像形成出力の実行から所定の時間が経過する、または、入出力装置400からインクジェットシステム4のユーザがフィードバック制御の実行を指示する操作を行うなどして、主制御部110にフィードバック実行指示情報が入力される(S2801)。
【0212】
フィードバック実行指示情報が入力されると、フィードバック制御部117は、測定装置5Bから画像形成出力後の測定情報である出力後測定画像を取得する(S2802)。そして、フィードバック制御部117は、出力後測定画像と描画情報とを比較し、比較結果に基づいて、記録媒体Mにおいて所望のドットが形成されているか否かを判定する(S2803)。
【0213】
そして、フィードバック制御部117は、判定の結果に基づいて、前処理剤吐出量算出部113によって算出される前処理剤PCAの吐出量をフィードバック制御する(S2804)。
【0214】
このように、本実施形態に係るインクジェットシステム4においては、記録媒体Mに像形成剤を吐出して形成される着色領域であるドットの形状が変動しないように、特性情報データテーブルSDの値に基づいて前処理剤吐出量算出部113が算出する前処理剤PCAの吐出量を制御する。
【0215】
なお、測定装置5Bにフィードバック制御部117と同等の機能を持たせ、測定装置5Bに出力後測定画像の解析を実行させてもよい。そして、測定装置5Bは、出力後測定画像の解析結果をDFE1に送信する。
【0216】
このような場合、DFE1のフィードバック制御部117は、測定装置5Bから受信した解析結果に基づいて、前処理剤吐出量算出部113が算出する前処理剤PCAの吐出量に対してフィードバック制御を実行する。
【0217】
なお、上述したDFE1は、専用の装置であってもよいし、サーバ装置やパーソナルコンピュータに所定のソフトウェアをインストールして実現されるものであってもよい。
【0218】
また、DFE1はインクジェット装置と別体である必要はなく、インクジェット装置の内部にあるコントローラで実現されてもよい。また、DFE1の機能のうち、測定制御部50Aの出力に基づいて前処理装置3に指示を行う機能は、前処理装置3内のコントローラで実現されてもよい。さらに、DFE1と、インクジェット装置2内のコントローラと、前処理装置3内のコントローラで協業して、DFE1の機能を実現してもよい。
【0219】
また、上述した実施形態では記録媒体Mが搬送されているが、記録媒体Mは搬送されなくてもよい。例えば、テーブル上に記録媒体Mを配置し、着色剤吐出ヘッド21と前処理剤吐出ヘッド31を搭載したキャリッジが、二次元方向に移動することで記録媒体Mに画像を形成するフラットベッド方式のインクジェット装置にも適用可能である。
【0220】
また、上述した前処理装置3は、前処理液を吐出する装置の例で説明したが、その他の前処理を行う装置であってもよい。例えば、前処理装置3が、記録媒体Mの表面特性に基づいてプラズマ処理を細かく変更できる場合には、測定装置5A、5Bの測定結果に基づいて、前処理装置3が記録媒体Mに対して行うプラズマ処理の強度を位置ごとに変更する態様であってもよい。
【符号の説明】
【0221】
1 DFE
2 インクジェット装置
3 前処理装置
4 インクジェットシステム
5A、5B 測定装置
6 画像形成装置
11 CPU
12 ROM
13 RAM
14 HDD
15 I/F
15F ネットワークI/F
16 バス
21 着色剤吐出ヘッド
31 前処理剤吐出ヘッド
100 コントローラ
110 主制御部
111 特性情報記憶部
112 測定情報解析部
113 前処理剤吐出量算出部
114 媒体特性情報記憶部
115 前処理剤特性情報記憶部
116 着色剤特性情報記憶部
117 フィードバック制御部
SD 特性情報データテーブル
【先行技術文献】
【特許文献】
【0222】
【文献】特開2015-189110号公報
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