(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】ビスフェノールの製造方法及びポリカーボネート樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 37/20 20060101AFI20220209BHJP
C07C 39/16 20060101ALI20220209BHJP
C08G 64/04 20060101ALI20220209BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220209BHJP
【FI】
C07C37/20
C07C39/16
C08G64/04
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2018031478
(22)【出願日】2018-02-26
【審査請求日】2020-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2017041827
(32)【優先日】2017-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内山 馨
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-035141(JP,A)
【文献】特開2015-051935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 37/20
C07C 39/16
C08G 64/04
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドを、硫酸及びチオールの存在下でビスフェノールを生成反応させる工程を含むビスフェノールの製造方法であって、前記チオールと前記ケトン又はアルデヒドを混合し、得られた混合物を前記芳香族アルコールと混合して前記ビスフェノールを生成反応させることを特徴と
し、
前記生成反応の反応温度が、50℃以下であることを特徴とする、ビスフェノールの製造方法。
【請求項2】
請求項
1に記載のビスフェノールの製造方法によりビスフェノールを製造し、これを用いてポリカーボネート樹脂を製造することを特徴とするポリカーボネート樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスフェノールの製造方法及び該製造方法により得られるビスフェノールを
用いたポリカーボネート樹脂に関する。
本発明で製造されるビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、芳香族
ポリエステル樹脂などの樹脂原料や、硬化剤、顕色剤、退色防止剤、その他殺菌剤や防菌
防カビ剤等の添加剤として有用である。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエステル樹脂な
どの高分子材料の原料として有用である。代表的なビスフェノールとしては、例えば、2
,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-
メチルフェニル)プロパンなどが知られている(特許文献1)。ビスフェノールの製造方
法の中で、硫酸を触媒として使用する製法として、例えば塩酸と硫酸の混合物を触媒とす
る製造方法(特許文献2)、硫酸を触媒とする製造方法(特許文献3)が知られている。
【0003】
硫酸を触媒とする製造方法(特許文献3)では、硫酸、フェノール、環状ケトン並びに
チオールを反応器に投入し均一とした後に、ビスフェノールを製造する反応を行うことが
知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭62-138443
【文献】特開2014-40376
【文献】特開2015-51935
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が特許文献3に記載の方法でビスフェノールの製造をしたとこ
ろ、著しくチオールが酸化分解してジスルフィドが生成し、ビスフェノールの収率が著し
く低下する問題があることが判明した。そこで、本発明は、腐食性が高く、専用の設備が
必要となる塩化水素ガスや塩酸を用いることなく、該チオールの酸化分解を抑制し、簡便
で、効率的で、安定な、工業的に有利なビスフェノールの製造方法を提供することを目的
とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。この結果、チオールとケトン又
はアルデヒドを予め混合してからビスフェノール生成する反応をさせることで、好ましく
はさらに、その反応温度を50℃以下とし、また、好ましくは用いる硫酸の濃度を50重
量%以上95重量%以下とすることで、簡便で効率的な工業的に有利なビスフェノールの
製造方法の発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、以下の[1]~[3]に存する。
[1] 芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドを、硫酸及びチオールの存在下でビ
スフェノールを生成反応させる工程を含むビスフェノールの製造方法であって、前記チオ
ールと前記ケトン又はアルデヒドを混合し、得られた混合物を前記芳香族アルコールと混
合して前記ビスフェノールを生成反応させることを特徴とするビスフェノールの製造方法
。
[2] 前記生成反応の反応温度が、50℃以下であることを特徴とする[1]に記載の
ビスフェノールの製造方法。
[3] [1]又は[2]かに記載のビスフェノールの製造方法によりビスフェノールを
製造し、これを用いてポリカーボネート樹脂を製造することを特徴とするポリカーボネー
ト樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、チオールとケトン又はアルデヒドを予め混合してから反応させること
で、チオールの酸化分解を抑制することが可能であり、目的とするビスフェノールの収率
が向上する。このように、チオールの酸化分解を抑制することで、簡便で効率的な工業的
に有利に様々なビスフェノールを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のビスフェノールの製造方法の実施の形態について、詳細に説明する。本
発明のビスフェノールの製造方法では、硫酸を触媒として、かつチオールを助触媒として
、芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドを縮合させることによりビスフェノールを製
造するが、チオールと前記ケトン又はアルデヒドを混合し、得られた混合物を前記芳香族
アルコールと混合して前記ビスフェノールを生成反応させることを特徴とする。
ビスフェノール製造の反応は、以下に示す反応式(1)に従って行われる。
【0010】
【0011】
(式中、R1~R6は、それぞれに独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アル
コキシ基、アリール基を示す。)
【0012】
[ビスフェノール]
本発明において製造されるビスフェノールは、通常、以下の一般式(2)で表される化
合物である。
【0013】
【0014】
R1~R4としては、それぞれに独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコ
キシ基、アリール基などが挙げられ、例えば、プロトン;フルオロ基、クロロ基、ブロモ
基、ヨード基等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、n-プロピル基、i―プロピル基
、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i‐ペンチル基、n-
ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n―ウン
デシル基、n-ドデシル基等の鎖状アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキ
シ基、i―プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペン
チルオキシ基、i‐ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、
n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n―ウンデシルオキ
シ基、n-ドデシルオキシ基等のアルコキシ基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シ
クロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロドデ
シル基等の環状アルキル基;ベンジル基、フェニル基、トリル基、2,6-ジメチルフェ
ニル基等のアリール基などが挙げられる。これらのうちR2とR3は立体的に嵩高いと縮
合反応が進行しにくいことから、好ましくはプロトンである。
【0015】
R5とR6としては、それぞれに独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリー
ル基などが挙げられ、例えば、プロトン、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i―プ
ロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i‐ペンチル
基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルへキシル基、n-ノ
ニル基、n-デシル基、n―ウンデシル基、n-ドデシル基等の鎖状アルキル基;メトキ
シ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i―プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキ
シ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、i‐ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオ
キシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシ
ルオキシ基、n―ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基等のアルコキシ基;シクロ
プロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基
、シクロオクチル基、シクロドデシル基等の環状アルキル基;ベンジル基、フェニル基、
トリル基、2,6-ジメチルフェニル基等のアリール基などが挙げられる。
【0016】
R5とR6は、2つの基の間で互いに結合又は架橋していても良く、例えば、シクロプ
ロピリデン、シクロブチリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、3,3,5
-トリメチルシクロヘキシリデン、シクロヘプチリデン、シクロオクチリデン、シクロノ
ニリデン、シクロデシリデン、シクロウンデシリデン、シクロドデシリデン、フルオレニ
リデン、キサントニリデン、チオキサントニリデンなどが挙げられる。
【0017】
[芳香族アルコール]
本発明において使用する芳香族アルコールは、通常、以下の一般式(3)で表される化
合物である。
【0018】
【0019】
R1~R4の置換基としては、それぞれに独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基
、アルコキシ基、アリール基などが挙げられ、例えば、プロトン、フルオロ基、クロロ基
、ブロモ基、ヨード基等のハロゲン原子:メチル基、エチル基、n-プロピル基、i―プ
ロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i‐ペンチル
基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、
n―ウンデシル基、n-ドデシル基等の鎖状アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n-
プロポキシ基、i―プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、
n-ペンチルオキシ基、i‐ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオ
キシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n―ウンデ
シルオキシ基、n-ドデシルオキシ基等のアルコキシ基;シクロプロピル基、シクロブチ
ル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シ
クロドデシル基等の環状アルキル基;ベンジル基、フェニル基、トリル基、2,6-ジメ
チルフェニル基などのアリール基が挙げられる。これらのうちR2とR3は立体的に嵩高
いと縮合反応が進行しにくいことから、好ましくはプロトンである。
【0020】
[ケトン及びアルデヒド]
本発明において使用するケトン及びアルデヒドは、通常、以下の一般式(4)で表され
る化合物である。
【0021】
【0022】
R5とR6としては、それぞれに独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリー
ル基などが挙げられ、例えば、プロトン;メチル基、エチル基、n-プロピル基、i―プ
ロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i‐ペンチル
基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルへキシル基、n-ノ
ニル基、n-デシル基、n―ウンデシル基、n-ドデシル基の鎖状アルキル基;メトキシ
基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i―プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ
基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、i‐ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキ
シ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシル
オキシ基、n―ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基等のアルコキシ基;シクロプ
ロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、
シクロオクチル基、シクロドデシル基等の環状アルキル基、ベンジル基、フェニル基、ト
リル基、2,6-ジメチルフェニル基などのアリール基などが挙げられる。
【0023】
R5とR6は、2つの基の間で互いに結合又は架橋していても良く、例えば、シクロプ
ロピリデン、シクロブチリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、3,3,5
-トリメチルシクロヘキシリデン、シクロヘプチリデン、シクロオクチリデン、シクロノ
ニリデン、シクロデシリデン、シクロウンデシリデン、シクロドデシリデン、フルオレニ
リデン、キサントニリデン、チオキサントニリデンなどが挙げられる。
【0024】
芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドを縮合させる反応において、ケトン又はアル
デヒドに対する芳香族アルコールのモル比は、少ない場合ケトン又はアルデヒドが多量化
してしまう、多い場合は芳香族アルコールを未反応のままロスする。これらのことから、
ケトン又はアルデヒドに対する芳香族アルコールのモル比は、好ましくは1.5以上、よ
り好ましくは1.6以上、更に好ましくはモル比1.7以上であり、また、好ましくは、
15以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは8以下である。
ケトン及びアルデヒドの供給方法は、一括で供給する方法、及び分割して供給する方法
を用いることができるが、ビスフェノールを生成する反応が発熱反応であることから、少
しずつ滴下して供給するような分割して供給する方法が好ましい。
【0025】
[硫酸]
本発明において使用する硫酸は、濃硫酸を用いることができる。しかしながら、該硫酸
の濃度が高いと、ケトン又はアルデヒドの多量化、及び、適宜使用される脂肪族アルコー
ルの脱水2量化を促進させる怖れがあり、チオールの劣化及び生成したビスフェノールを
スルホン化させる可能性がある。また、用いる硫酸の濃度が低いと、反応時間が長くなり
、ビスフェノール製造の効率が劣る傾向がある。そのため、用いられる硫酸の濃度は、好
ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上である。また、該硫酸濃度が高
く(即ち、該硫酸中の水の濃度が低く)、かつ、該硫酸に含まれる水の量に対する、アセ
トン及び適宜用いられる溶媒(詳細は後述)の量が少ない場合には、アセトンがメシチル
オキサイド(2量化生成物)などに多量化し、適宜用いられる脂肪族アルコールの脱水2
量化を促進させ、チオールを酸化分解させてしまう怖れがあることから、用いられる硫酸
の濃度は、好ましくは95重量以下、より好ましくは90重量%以下である。一方で、該
硫酸濃度が高く(即ち、該硫酸中の水の濃度が低く)、かつ、該硫酸に含まれる水の量対
する、アセトン及び適宜用いられる溶媒(詳細は後述)の量が多い場合には、アセトンが
メシチルオキサイド(2量化生成物)などの多量化を抑制し、適宜用いられる脂肪族アル
コールの脱水2量化を抑制し、チオールの酸化分解を抑制できることから、用いられる硫
酸の濃度は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上である。
【0026】
本発明において、ケトン又はアルデヒドに対する硫酸のモル比は、少ない場合は縮合反
応時に副生する水によって硫酸が希釈されて反応時間を要する傾向があり、多い場合はケ
トン又はアルデヒドの多量化が進行する傾向がある。これらのことから、ケトン又はアル
デヒドに対する硫酸のモル比は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上
、更に好ましくは0.1以上であり、また、10以下、より好ましくは8以下、更に好ま
しくは5以下である。
【0027】
[脂肪族アルコール]
本発明において、脂肪族アルコールを用いることができる。使用する脂肪族アルコール
としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n
-ブタノール、i-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール、i‐ペンタノール
、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、n-ノナノール、n-デカ
ノール、n―ウンデカノール、n-ドデカノール、エチレングリコール、ジエチレングル
コール、トリエチレングリコールなどの炭素数1~12のアルキルアルコール類などを挙
げることができる。該脂肪族アルコールは、炭素数が多くなると親油性が増加し、硫酸と
混ざりにくくなり硫酸モノアルキルを得にくくなる傾向があることから、炭素数が8以下
のアルキルアルコールが好ましい。
【0028】
本発明において、該脂肪族アルコールは、硫酸と混合して硫酸モノアルキルを調製して
、用いることができる。硫酸に対する脂肪族アルコールのモル比は、低い場合は発生する
硫酸モノアルキルの量が少なくなり反応時間を要し、また、多い場合硫酸濃度が低下する
。これらのことから、硫酸に対する脂肪族アルコールのモル比は、好ましくは0.01以
上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上であり、また、好ましくは
10以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下である。
【0029】
[チオール]
本発明において用いるチオールとしては、例えば、メルカプト酢酸、チオグリコール酸
、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、4-メルカプト酪酸など
のメルカプトカルボン酸、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプ
タン、ブチルメルカプタン、ペンチルメルカプタン、へキシルメルカプタン、へプチルメ
ルカプタン、オクチルメルカプタン、ノニルメルカプタン、デシルメルカプタン、ウンデ
シルメルカプタン、ドデシルメルカプタンである。
【0030】
ケトン又はアルデヒドに対する該チオールのモル比は、少ない場合選択性改善の効果が
不十分となる傾向があり、多い場合ビスフェノールに混入して品質が悪化する傾向がある
。これらのことから、ケトン又はアルデヒドに対する該チオールのモル比は、好ましくは
0.001以上、より好ましくは該モル比0.005以上、更に好ましくは0.01以上
であり、好ましくは1以下、より好ましくは0.5以下、更に好ましくは0.1以下であ
る。
【0031】
本発明の製造方法においては、チオールは、ケトン又はアルデヒドと予め混合させてか
ら、反応させる。チオールとケトン又はアルデヒドの供給方法は、チオールにケトン又は
アルデヒドを混合させても良く、ケトン又はアルデヒドにチオールを混合させても良い。
また、本発明の製造方法においては、チオールとケトン又はアルデヒドとの混合物を、芳
香族アルコールと混合してビスフェノールの生成反応を行う。該混合物と芳香族アルコー
ルの混合方法は特に限定されないが、芳香族アルコールに該混合物を供給するのが、ケト
ン又はアルデヒドの自己縮合の回避の点から好ましい。
また、チオールとケトン又はアルデヒドの混合液と硫酸の混合方法は、該混合液に硫酸
を混合させても良く、硫酸に該混合液を混合させても良いが、硫酸に該混合液を混合させ
る方が好ましい。更に、反応槽に硫酸と芳香族アルコールを供給した後に、該混合液を反
応槽に供給して混合させる方がより好ましい。
【0032】
[溶媒]
本発明において、ビスフェノールの生成反応は、トルエン、キシレンなどの溶媒の存在
下で行っても良い。また、ビスフェノールの製造に使用した溶媒は、蒸留などで回収及び
精製して再使用することが可能である。
また、溶媒を使わず芳香族アルコールを多量に使用して溶媒の代わりにしても良く、未
反応の芳香族アルコールはロスとなることから、蒸留などにより回収及び精製して再使用
することが可能である。
【0033】
[ビスフェノールの生成反応]
本発明において、ビスフェノールの生成反応は縮合反応であるが、生成反応の反応温度
は、高温の場合チオールの酸化分解が進行する傾向があり、低温の場合は反応に要する時
間が長時間化する傾向があることから、好ましくは0℃以上50℃以下である。
生成反応の反応時間は、長い場合生成したビスフェノールが分解する怖れがあることか
ら、好ましくは30時間以内、より好ましくは25時間以内、更に好ましくは20時間以
内である。なお、用いる硫酸と同等量以上の水を加えて硫酸濃度を低下させ、反応を停止
することが可能である。
【0034】
[精製方法]
本発明において生成反応によって得られた前記ビスフェノールの精製は、常法により行
うことができる。例えば、晶析やカラムクロマトグラフィーなどの簡便な手段により精製
することが可能である。具体的には、縮合反応後、反応液を分液して得られた有機相を水
又は食塩水などで洗浄し、更に必要に応じて重曹水などで中和洗浄する。次いで、洗浄後
の有機相を冷却し晶析させる。芳香族アルコールを多量に用いる場合は、該晶析前に蒸留
により余剰の芳香族アルコールを留去してから晶析させる。
【0035】
[ビスフェノールの用途]
本発明のビスフェノールは、光学材料、記録材料、絶縁材料、透明材料、電子材料、接
着材料、耐熱材料など種々の用途に用いられるポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポ
リアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂など種々の
熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリベンゾ
オキサジン樹脂、シアネート樹脂など種々の熱硬化性樹脂などの構成成分、硬化剤、添加
剤もしくはそれらの前駆体などとして用いることができる。また、感熱記録材料等の顕色
剤や退色防止剤、殺菌剤、防菌防カビ剤等の添加剤としても有用である。
これらのうち、良好な機械物性を付与できることより、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の
原料(モノマー)として用いることが好ましく、なかでもポリカーボネート樹脂、エポキ
シ樹脂の原料として用いることがより好ましい。また、顕色剤として用いることも好まし
く、特にロイコ染料、変色温度調整剤と組み合わせて用いることがより好ましい。
【0036】
[ポリカーボネート樹脂の製造方法]
本発明で製造されるビスフェノールの用途のひとつであるポリカーボネート樹脂は、上
述の方法により製造されたビスフェノールと、炭酸ジフェニル等の炭酸ジエステルとを、
例えば、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物の存在下でエステル
交換反応させることで製造できる。上記エステル交換反応は、公知の方法を適宜選択して
行うことができるが、以下に該ビスフェノールと炭酸ジフェニルを原料とした一例を説明
する。
【0037】
上記のポリカーボネート樹脂の製造方法において、炭酸ジフェニルは、該ビスフェノー
ルに対して過剰量用いることが好ましい。該ビスフェノールに対して用いる炭酸ジフェニ
ルの量は、製造されたポリカーボネート樹脂に末端水酸基が少なく、ポリマーの熱安定性
に優れる点では多いことが好ましく、また、エステル交換反応速度が速く、所望の分子量
のポリカーボネート樹脂を製造し易い点では少ないことが好ましい。これらのことから、
ビスフェノール1モルに対する使用する炭酸ジフェニルの量は、通常1.001モル以上
、好ましくは1.002モル以上であり、また、通常1.3モル以下、好ましくは1.2
モル以下である。
【0038】
原料の供給方法としては、該ビスフェノールおよび炭酸ジフェニルを固体で供給するこ
ともできるが、一方または両方を、溶融させて液体状態で供給することが好ましい。
炭酸ジフェニルとビスフェノールとのエステル交換反応でポリカーボネート樹脂を製造
する際には、通常、触媒が使用される。上記のポリカーボネート樹脂の製造方法において
は、このエステル交換触媒として、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属
化合物を使用するのが好ましい。これらは、1種類で使用してもよく、2種類以上を任意
の組み合わせ及び比率で使用してもよい。実用的には、アルカリ金属化合物が望ましい。
【0039】
ビスフェノールまたは炭酸ジフェニル1モルに対して用いられる触媒量は、通常0.0
5μモル以上、好ましくは0.08μモル以上、さらに好ましくは0.10μモル以上で
あり、また、通常100μモル以下、好ましくは50μモル以下、さらに好ましくは20
μモル以下である。
触媒の使用量が上記範囲内であることにより、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を
製造するのに必要な重合活性を得やすく、且つ、ポリマー色相に優れ、また過度のポリマ
ーの分岐化が進まず、成型時の流動性に優れたポリカーボネート樹脂を得やすい。
【0040】
上記方法によりポリカーボネート樹脂を製造するには、上記の両原料を、原料混合槽に
連続的に供給し、得られた混合物とエステル交換触媒を重合槽に連続的に供給することが
好ましい。
エステル交換法によるポリカーボネート樹脂の製造においては、通常、原料混合槽に供
給された両原料は、均一に攪拌された後、触媒が添加される重合槽に供給され、ポリマー
が樹脂生産される。
【0041】
[ポリカーボネート樹脂]
上述のように本発明の製造方法により得られるビスフェノールは非常に高純度であり、
着色が少ないことから、本発明の製造方法により得られるビスフェノールと炭酸ジフェニ
ルとをエステル交換触媒の存在下で重縮合させることにより高純度なポリカーボネート樹
脂を得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例および比較例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそ
の要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0043】
[原料及び試薬]
オルトクレゾール、アセトン、メタノール、ドデシルメルカプタン、トルエン、硫酸、
アセトニトリル、酢酸、酢酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、炭酸セシウム及び炭酸水
素ナトリウムは和光純薬株式会社製特級試薬を使用した。
炭酸ジフェニルは、三菱ケミカル株式会社製の製品を使用した。
ジドデシルジスルフィドは、Angene International Limit
ed社製試薬を使用した。
【0044】
[分析]
ビスフェノール反応の組成分析は、高速液体クロマトグラフィーにより、以下の手順と
条件で行った。
装置:島津製作所社製LC-2010A、ImtaktScherzoSM-C18
3μm 150mm×4.6mmID。低圧グラジェント法。分析温度40℃。溶離液組
成:A液酢酸アンモニウム:酢酸:脱塩素水=3.000g:1ミリリットル:1リット
ルの溶液。B液 酢酸アンモニウム:酢酸:アセトニトリル=1.500g:1ミリリッ
トル:900ミリリットルの溶液。分析時間0分ではA液:B液=60:40(体積比、
以下同様。)分析時間0~25分は溶離液組成をA液:B液=90:10へ徐々に変化さ
せ、分析時間25~30分はA液:B液=90:10に維持、流速0.8ミリリットル/
分にて分析した。検出波長は、280nmとした。
【0045】
本発明に係るアセトン基準の反応収率(モル%)は、高速液体クロマトグラフィーによ
り得られたビスフェノールの分析値から反応液中に含まれるビスフェノールのモル量を算
出し、該ビスフェノールのモル量÷原料アセトンのモル量×100%で算出した。
ドデシルメルカプタン及びジドデシルジスルフィドの分析は、ガスクロマトグラフィー
により、以下の手順と条件で行った。装置は、島津製作所社製「GC-17A」を使用し
た。カラムは、アジレントテクノロジー社製「DB―1」(内径0.53mm、カラム長
30m、膜厚1μm)を使用した。キャリアーガスはヘリウムとし、その流量を毎分5.
58cm3、線速を毎秒47.4cmとした。注入口温度を250℃、検出器温度を28
0℃とした。カラムの昇温パターンは、先ず150℃で5分間保持させた後に毎分13℃
で295℃まで昇温させ、295℃で15分間保持させて分析した。
【0046】
ドデシルメルカプタンの残存量は、ガスクロマトグラフィーにより得られたドデシルメ
ルカプタンの分析値から反応液中に含まれるドデシルメルカプタンの重量を算出し、該ド
デシルメルカプタンの重量÷原料ドデシルメルカプタンの重量×100%で算出した。
ジドデシルジスルフィドの生成率は、ガスクロマトグラフィーにより得られたジドデシ
ルジスルフィドの分析値から反応液中に含まれるジドデシルジスルフィドの物質量を算出
し、該ジドデシルジスルフィドの物質量×2÷原料ドデシルメルカプタンの物質量×10
0%で算出した。
【0047】
(粘度平均分子量)
粘度平均分子量(Mv)は、ポリカーボネート樹脂を塩化メチレンに溶解し(濃度6.
0g/L)、ウベローデ粘度管を用いて20℃における比粘度(ηsp)を測定し、下記
の式により粘度平均分子量(Mv)を算出した。
ηsp/C=[η](1+0.28ηsp)
[η]=1.23×10-4Mv0.83
【0048】
(ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度)
ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度(OH)濃度は、四塩化チタン/酢酸法(Ma
kromol.Chem. 88,215(1965)参照)に準拠し、比色定量を行う
ことにより測定した。
【0049】
(ペレットYI)
ペレットYI(ポリカーボネート樹脂の透明性)は、ASTM D1925に準拠して
、ポリカーボネート樹脂ペレットの反射光におけるYI値(イエローネスインデックス値
)を測定して評価した。装置はコニカミノルタ社製分光測色計CM-5を用い、測定条件
は測定径30mm、SCEを選択した。シャーレ測定用校正ガラスCM-A212を測定
部にはめ込み、その上からゼロ校正ボックスCM-A124をかぶせてゼロ校正を行い、
続いて内蔵の白色校正板を用いて白色校正を行った。次いで、白色校正板CM-A210
を用いて測定を行い、L*が99.40±0.05、a*が0.03±0.01、b*が
-0.43±0.01、YIが-0.58±0.01となることを確認した。ペレットの
測定は、内径30mm、高さ50mmの円柱ガラス容器にペレットを40mm程度の深さ
まで詰めて測定を行った。ガラス容器からペレットを取り出してから再度測定を行う操作
を2回繰り返し、計3回の測定値の平均値を用いた。
【0050】
実施例1
温度計、撹拌機及び500ミリリットルの滴下ロートを備えたフルジャケット式1リッ
トルのセパラブルフラスコに、窒素雰囲気下でメタノール5g(0.16モル)、オルト
クレゾール180g(1.66モル)、トルエン56g、を入れた後、80重量%の硫酸
100gをゆっくり供給した。前記滴下ロートにアセトン39g(0.67モル)、ドデ
シルメルカプタン7.5(0.04モル)gを供給して混合させ、混合液を得た。該混合
液を、前記滴下ロートを用いて、30分かけて、ゆっくりと、セパラブルフラスコ中のメ
タノール、オルトクレゾール、トルエン及び、硫酸の混合液へ滴下して供給した。この反
応液を1時間、40℃で反応させた。反応終了後、トルエン100g及び脱塩素水100
gを供給して80℃まで昇温した。80℃に到達後、静置して反応中に析出していた物が
有機相及び水相に溶解したことを確認した後、下層の水相を抜き出した。その後、得られ
た有機相へ飽和の炭酸水素ナトリウム溶液を加えて中和し、下層の水相pHが9以上にな
ったことを確認した。下層の水相を抜出した後、得られた有機相に脱塩素水を加えて10
分間撹拌した。撹拌後、静置し、水相を抜き出した。得られた有機相の一部を取り出し、
高速液体クロマトグラフィーで生成した2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェ
ニル)プロパン(以下、ビスフェノールCとする)の量を確認したところ、アセトン基準
の反応収率は83モル%であった。また、ドデシルメルカプタンの残存量をガスクロマト
グラフィーで確認したところ、62%であった。更に、ジドデシルジスルフィドの生成率
は、31モル%であった。
【0051】
比較例1
温度計、撹拌機及び500ミリリットルの滴下ロートを備えたフルジャケット式1リッ
トルのセパラブルフラスコに、窒素雰囲気下でメタノール5g(0.16モル)、オルト
クレゾール180g(1.66モル)、トルエン56g、ドデシルメルカプタン7.5(
0.04モル)gを入れた後、80重量%の硫酸100gをゆっくり供給した。前記滴下
ロートにアセトン39g(0.67モル)を供給し、該アセトンを、前記滴下ロートを用
いて、30分かけて、ゆっくりと、セパラブルフラスコ中のメタノール、オルトクレゾー
ル、トルエン、ドデシルメルカプタン及び、硫酸の混合液へ滴下して供給した。この反応
液を1時間、40℃で反応させた。反応終了後、トルエン100g及び脱塩素水100g
を供給して80℃まで昇温した。80℃に到達後、静置して反応中に析出していた物が有
機相及び水相に溶解したことを確認した後、下層の水相を抜き出した。その後、得られた
有機相へ飽和の炭酸水素ナトリウム溶液を加えて中和し、下層の水相pHが9以上になっ
たことを確認した。下層の水相を抜出した後、得られた有機相の一部を取り出し、高速液
体クロマトグラフィーで生成した2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)
プロパンの量を確認したところ、アセトン基準の反応収率は63モル%であった。また、
ドデシルメルカプタンの残存量をガスクロマトグラフィーで確認したところ、27%であ
った。更に、ジドデシルジスルフィドの生成率は、55モル%であった。
【0052】
実施例1及び比較例1について、ドデシルメルカプタンの残存量と2,2-ビス(4-
ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの量を表1に纏めた。その結果、ドデシルメ
ルカプタンとアセトンを予め混合させてから反応させることで、ドデシルメルカプタンの
酸化分解を抑制し、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(ビ
スフェノールC)の反応収率が向上することがわかった。
【0053】
【0054】
実施例2
撹拌機及び留出管を備えた内容量150mLのガラス製反応槽に、実施例1で得られた
ビスフェノールC100g(0.39モル)、炭酸ジフェニル86.5g(0.4モル)
及び400質量ppmの炭酸セシウム水溶液479μLを入れた。該ガラス製反応槽を約
100Paに減圧し、続いて、窒素で大気圧に復圧する操作を3回繰り返し、反応槽の内
部を窒素に置換した。その後、該反応槽を200℃のオイルバスに浸漬させ、内容物を溶
解した。撹拌機の回転数を毎分100回とし、反応槽内のビスフェノールCと炭酸ジフェ
ニルのオリゴマー化反応により副生するフェノールを留去しながら、40分間かけて反応
槽内の圧力を、絶対圧力で101.3kPaから13.3kPaまで減圧した。続いて反
応槽内の圧力を13.3kPaに保持し、フェノールを更に留去させながら、80分間、
エステル交換反応を行った。その後、反応槽外部温度を250℃に昇温すると共に、40
分間かけて反応槽内圧力を絶対圧力で13.3kPaから399Paまで減圧し、留出す
るフェノールを系外に除去した。その後、反応槽外部温度を280℃に昇温、反応槽の絶
対圧力を30Paまで減圧し、重縮合反応を行った。反応槽の撹拌機が予め定めた所定の
撹拌動力となったときに、重縮合反応を終了した。次いで、反応槽を窒素により絶対圧力
で101.3kPaに復圧した後、ゲージ圧力で0.2MPaまで昇圧し、反応槽の底か
らポリカーボネートをストランド状で抜出し、ストランド状のポリカーボネート樹脂を得
た。その後、回転式カッターを使用して、該ストランドをペレット化して、ペレット状の
ポリカーボネート樹脂を得た。
【0055】
該ポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv)は25000であった。またペレットY
Iは、8.0であった。