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特許70215612,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの製造方法およびポリカーボネート樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの製造方法およびポリカーボネート樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 37/20 20060101AFI20220209BHJP
   C07C 39/16 20060101ALI20220209BHJP
   C07B 61/00 20060101ALI20220209BHJP
   C08G 64/04 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
C07C37/20
C07C39/16
C07B61/00 300
C08G64/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018031479
(22)【出願日】2018-02-26
(65)【公開番号】P2018145178
(43)【公開日】2018-09-20
【審査請求日】2020-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2017041828
(32)【優先日】2017-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内山 馨
(72)【発明者】
【氏名】吉田 隆之
(72)【発明者】
【氏名】中村 誠
(72)【発明者】
【氏名】内堀 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】永尾 剛一
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-214248(JP,A)
【文献】特開2014-040376(JP,A)
【文献】特開昭62-138443(JP,A)
【文献】国際公開第2016/171231(WO,A1)
【文献】特開2002-069023(JP,A)
【文献】特表2001-526249(JP,A)
【文献】特開昭50-035141(JP,A)
【文献】特開平07-242743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 37/20
C07C 39/16
C07B 61/00
C08G 64/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルトクレゾールとアセトンから2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンを製造する方法であって、
前記オルトクレゾール、前記アセトン、及び硫酸モノアルキルを反応器中で混合して2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンを生成する生成工程を含み、
前記生成工程で用いるアセトンは、予め溶媒と混合した後に前記反応器に供給し前記オルトクレゾールと混合するものであることを特徴とする2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの製造方法。


【請求項2】
前記オルトクレゾールと前記硫酸モノアルキルを予め混合した後、これを、前記アセト
ンと溶媒の混合物と混合することを特徴とする請求項1に記載の2,2-ビス(4-ヒド
ロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの製造方法。
【請求項3】
前記アセトンと溶媒の混合物を反応器内で、前記硫酸モノアルキルとオルトクレゾール
の混合物と混合する温度が、0℃以上、60℃以下であることを特徴とする請求項2に記
載の2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの製造方法。
【請求項4】
前記溶媒が芳香族炭化水素であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記
載の2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの製造方法。
【請求項5】
前記硫酸モノアルキルが、硫酸と脂肪族アルコールから生成される工程を含むことを特
徴とする請求項1乃至4に記載の2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)
プロパンの製造方法。
【請求項6】
前記硫酸に対する前記脂肪族アルコールのモル比が、0.0001以上、10以下であ
ることを特徴とする請求項5に記載の2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニ
ル)プロパンの製造方法。
【請求項7】
前記2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンを生成する工程が
、チオールの存在下で行われることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の
2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの製造方法。
【請求項8】
前記チオールと前記アセトンを混合させた後、これを前記硫酸モノアルキルと混合する
ことを特徴とする請求項7に記載の2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル
)プロパンの製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の製造方法により2,2-ビス(4-ヒドロキシ
-3-メチルフェニル)プロパンを製造し、これを用いてポリカーボネート樹脂を製造す
ることを特徴とするポリカーボネート樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの製造方法
及び該製造方法により得られる2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プ
ロパンを用いたポリカーボネート樹脂の製造方法に関する。
本発明の製造方法で製造される2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)
プロパンは、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエステル樹脂などの樹脂
原料や、硬化剤、顕色剤、退色防止剤、その他殺菌剤や防菌防カビ剤等の添加剤として有
用である。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールは、ポリマーボネート樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエステル樹脂な
どの高分子材料の原料として有用である。代表的なビスフェノールとしては、例えば、2
,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-
メチルフェニル)プロパンなどが知られている(特許文献1)。その製法として、例えば
塩化水素ガスを触媒とする製造方法(特許文献1)、塩酸を触媒とする製造方法(特許文
献2)、塩酸と硫酸の混合物を触媒とする製造方法(特許文献3)が知られている。
【0003】
塩酸と硫酸の混合物を触媒とする2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル
)プロパンの製造方法では、トルエンなどの反応溶媒を使用することが知られている。ま
た、該製造方法は、塩酸を触媒として使用することにより腐食性の高い塩化水素ガスが揮
発するため、工業的に実施する場合は専用の設備が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭62-138443
【文献】特開2008-214248
【文献】特開2014-40376
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが特許文献3に記載の方法で2,2-ビス(4-ヒドロキシ
-3-メチルフェニル)プロパンの製造をしたところ、アセトンの2量化生成物であるメ
シチルオキサイドが多量に生成して2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル
)プロパンの選択率が低下し、また反応液が固化して混合不良となり、更に反応時間を要
するという問題があることが判明した。そこで、本発明は、腐食性が高く、専用の設備が
必要となる塩酸を用いることなく、また原料のアセトンの2量化生成物であるメシチルオ
キサイドの生成を抑制し、更に反応液の流動性を改善し、かつ反応に要する時間を短縮す
ることで、簡便で効率良く2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパ
ンを安定して製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、オルトクレゾールとアセ
トンを混合し、硫酸モノアルキルを触媒として用い、溶媒をアセトンと予め混合してから
反応器に供給する2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの製造
方法、好ましくは、オルトクレゾールとアセトンの混合温度を制御した2,2-ビス(4
-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの製造方法により、簡便で、効率的で、工
業的に有利な2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの製造方法
を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、以下の[1]~[9]に存する。
[1] オルトクレゾールとアセトンから2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフ
ェニル)プロパンを製造する方法であって、
前記オルトクレゾール、前記アセトン、及び硫酸モノアルキルを反応器中で混合して2
,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンを生成する工程を含み、
前記アセトンを溶媒と予め混合した後に前記反応器に供給して前記オルトクレゾールと
混合することを特徴とする2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパ
ンの製造方法。
[2] 前記オルトクレゾールと前記硫酸モノアルキルを予め混合した後に、前記アセト
ンと溶媒の混合物に混合することを特徴とする[1]に記載の2,2-ビス(4-ヒドロ
キシ-3-メチルフェニル)プロパンの製造方法。
[3] 前記アセトンと溶媒の混合物を反応器内で、前記硫酸モノアルキルとオルトクレ
ゾールの混合物と混合する温度が、25℃以上、40℃以下であることを特徴とする[2
]に記載の2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの製造方法。
[4] 前記溶媒が芳香族炭化水素であることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに
記載の2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの製造方法。
[5] 前記硫酸モノアルキルが、硫酸と脂肪族アルコールから生成される工程を含むこ
とを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載の2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-
メチルフェニル)プロパンの製造方法。
[6] 前記硫酸に対する前記脂肪族アルコールのモル比が、0.001以上、10以下
であることを特徴とする[5]に記載の2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェ
ニル)プロパンの製造方法。
[7] 前記2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンを生成する
工程が、チオールの存在下で行われることを特徴とする[1]~[6]のいずれかに記載
の2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの製造方法。
[8] 前記チオールと前記アセトンを混合させた後、前記硫酸モノアルキルを混合する
ことを特徴とする[7]に記載の2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)
プロパンの製造方法。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の製造方法により2,2-ビス(4-ヒドロキ
シ-3-メチルフェニル)プロパンを製造し、これを用いてポリカーボネート樹脂を製造
することを特徴とするポリカーボネート樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、溶媒をアセトンと予め混合してから反応器に供給することで、反応時
間を短縮し、目的とする2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン
を高い反応収率で製造することが可能である。また、このように、簡便で効率良く2,2
-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンを安定して製造することができ
る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(以下
、ビスフェノールCと称する場合がある。)の製造方法の実施の形態について、詳細に説
明する。
本発明は、オルトクレゾールとアセトンから2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチ
ルフェニル)プロパンを製造する方法であって、前記オルトクレゾール、前記アセトン、
及び硫酸モノアルキルを反応器中で混合して2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチル
フェニル)プロパンを生成する工程を含み、
前記アセトンを溶媒と予め混合した後に前記反応器に供給して前記オルトクレゾールと
混合することを特徴とする。
【0010】
即ち、本発明の2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの製造
方法では、硫酸モノアルキルを触媒として、溶媒をアセトンと予め混合してから反応器に
供給し、該アセトンとオルトクレゾールを縮合させることにより2,2-ビス(4-ヒド
ロキシ-3-メチルフェニル)プロパンを製造する。
2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの反応は、以下に示す
反応式(1)に従って行われる。
【0011】
【化1】
【0012】
[オルトクレゾールとアセトン]
本発明の製造方法において、アセトンに対するオルトクレゾールの供給割合(モル比)
は、アセトンに対して過剰に使用することが可能である。しかし、アセトンに対するオル
トクレゾールの供給割合(モル比)が小さい場合には、アセトンがメシチルオキサイド(
2量化生成物)などに多量化してしまい、また多い場合はオルトクレゾールを未反応のま
まロスする。これらのことから、アセトンに対するオルトクレゾールの供給割合(モル比
)は、好ましくは1.5以上、より好ましくは1.6以上、更に好ましくは1.7以上で
あり、また、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは8以下であ
る。
【0013】
オルトクレゾールとアセトンの混合方法は、オルトクレゾールを反応器に予め供給した
後にアセトンを滴下して混合する方法、またはアセトンを反応器に予め供給した後オルト
クレゾールを滴下して混合する方法を用いることが可能である。しかし、アセトンを反応
器に予め供給した後オルトクレゾールを滴下して混合する方法においては、アセトンが多
量化して2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3―メチルフェニル)プロパンの選択率が低下
する傾向があることから、オルトクレゾールを反応器に予め供給した後にアセトンを滴下
して混合する方法が好ましい。
アセトンの供給方法は、一括で供給する方法、又は分割して供給する方法を用いること
ができるが、ビスフェノールを生成する反応が発熱反応であることから、少しずつ滴下し
て供給する(分割して供給する)方法が好ましい。
【0014】
[硫酸モノアルキルの調製方法]
本発明において使用する硫酸モノアルキルの調製方法としては、硫酸と後述の脂肪族ア
ルコールを混合させて得る方法及び硫酸モノアルキルナトリウムなどの硫酸モノアルキル
金属塩と硫酸を混合させて得る方法が挙げられる。
尚、本発明において、オルトクレゾール及びアセトンと混合する硫酸モノアルキルは、
予め調整したものを反応器中でオルトクレゾール及びアセトンと混合しても、反応器中に
硫酸と脂肪族アルコールを添加することで硫酸モノアルキルを生成させ、これとオルトク
レゾール及びアセトンと混合してもよい。
【0015】
また、本発明において、硫酸モノアルキルの混合とは、反応工程の何れかにおいて硫酸
と脂肪族アルコールと他の成分を混合することにより、生成した硫酸モノアルキルと他の
成分が混合されることを含む。
脂肪族アルコールと硫酸を混合すると発熱することから、その混合は該脂肪族アルコー
ルの沸点以下であることが好ましい。
【0016】
[脂肪族アルコール]
本発明において使用する脂肪族アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール
、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、t-ブタノ
ール、n-ペンタノール、i‐ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n
-オクタノール、n-ノナノール、n-デカノール、n―ウンデカノール、n-ドデカノ
ール、エチレングリコール、ジエチレングルコール、トリエチレングリコールなどの炭素
数1~12のアルキルアルコール類などを挙げることができる。該脂肪族アルコールは、
炭素数が多くなると親油性が増加し、硫酸と混ざりにくくなり硫酸モノアルキルを得にく
くなる傾向があることから、炭素数が8以下のアルキルアルコールが好ましい。
【0017】
本発明において、該脂肪族アルコールは、硫酸と混合して硫酸モノアルキルを調製して
、用いることができる。硫酸に対する脂肪族アルコールのモル比は、低い場合は発生する
硫酸モノアルキルの量が少なくなり反応時間を要し、また、多い場合硫酸濃度が低下する
ことから、硫酸に対する脂肪族アルコールのモル比は、好ましくは0.00001以上、
より好ましくは0.0001以上、更に好ましくは0.0005以上であり、好ましくは
50以下、より好ましくは30以下、更に好ましくは10以下である。
【0018】
本発明においては、該脂肪族アルコールを前記オルトクレゾールと共に反応器に予め供
給した後、アセトンを滴下して混合する方法が好ましい。
本発明において、該脂肪族アルコールはアセトンと予め混合させてから、共に反応器に
供給しても良い。
【0019】
[硫酸]
本発明において使用する硫酸としては、濃硫酸を用いることができる。しかしながら、
該硫酸の濃度が高いと、アセトンがメシチルオキサイド(2量化生成物)などに多量化し
、脂肪族アルコールの脱水2量化を促進させ、チオールを酸化分解させてしまう怖れがあ
る。また、用いる硫酸の濃度が低いと、反応時間が長くなり、効率的に2,2-ビス(4
-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンを製造することが困難となる怖れがある。
そのため、用いられる硫酸の濃度は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重
量%以上である。また、該硫酸濃度が高く(即ち、該硫酸中の水の濃度が低く)、かつ、
該硫酸に含まれる水の量に対する、アセトンと予め混合する溶媒(詳細は後述)の量が少
ない場合には、アセトンがメシチルオキサイド(2量化生成物)などに多量化し、脂肪族
アルコールの脱水2量化を促進させ、チオールを酸化分解させてしまう怖れがあることか
ら、用いられる硫酸の濃度は、好ましくは95重量以下、より好ましくは90重量%以下
である。一方で、該硫酸濃度が高く(即ち、該硫酸中の水の濃度が低く)、かつ、該硫酸
に含まれる水の量対する、アセトンと予め混合する溶媒(詳細は後述)の量が多い場合に
は、アセトンがメシチルオキサイド(2量化生成物)などの多量化を抑制し、脂肪族アル
コールの脱水2量化を抑制し、チオールの酸化分解を抑制できることから、用いられる硫
酸の濃度は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上である。
【0020】
尚、本発明において、硫酸の仕込み時の濃度とは、反応器に供給する時の硫酸の濃度で
ある。また、溶媒は、アセトンと混合する溶媒(詳細は後述)である。
前述の通り、本発明において、硫酸モノアルキルの混合とは、反応工程の何れかにおい
て硫酸と脂肪族アルコールと他の成分を混合することにより、生成した硫酸モノアルキル
と他の成分が混合されることを含むが、この場合、アセトンに対する硫酸のモル比は、少
ない場合は縮合反応時に副生する水によって硫酸が希釈されて反応時間を要する、多い場
合はアセトンがメシチルオキサイド(2量化生成物)などに多量化する。これらのことか
ら、アセトンに対する硫酸のモル比は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.0
5以上、更に好ましくは該モル比0.1以上であり、また、10以下、より好ましくは8
以下、更に好ましくは5以下である。
本発明において、該硫酸は前記脂肪族アルコール及び前記オルトクレゾールと共に反応
器に予め供給した後、アセトンを滴下して混合する方法が好ましい。
【0021】
[チオール]
本発明では、反応系にチオールを存在させるのが好ましい。チオールとしては、例えば
、メルカプト酢酸、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプ
ロピオン酸、4-メルカプト酪酸などのメルカプトカルボン酸、メチルメルカプタン、エ
チルメルカプタン、プロピルメルカプタン、ブチルメルカプタン、ペンチルメルカプタン
、へキシルメルカプタン、へプチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ノニルメルカ
プタン、デシルメルカプタン、ウンデシル、ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプ
タンである。
【0022】
本発明において、アセトンに対する該チオールのモル比は、少ない場合選択性改善の効
果が劣る傾向があり、多い場合、チオールが2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチル
フェニル)プロパンに混入する怖れがあり、結果品質の悪化が懸念される。これらのこと
から、アセトンに対する該チオールのモル比は、好ましくは0.001以上、より好まし
くは0.005以上、更に好ましくは0.01以上であり、好ましくは1以下、より好ま
しくは0.5以下、更に好ましくは0.1以下である。
【0023】
本発明において、該チオールは、硫酸、脂肪族アルコール及びオルトクレゾールと共に
反応器に予め供給した後、アセトンを滴下して混合する方法が可能である。また、硫酸、
脂肪族アルコール及びオルトクレゾールが入った反応器に、該チオールをアセトンと予め
混合してから滴下して混合する方法が可能である。該チオールを硫酸、脂肪族アルコール
及びオルトクレゾールと共に反応器に予め供給する方法においては、チオールが硫酸によ
って酸化分解してしまう傾向があるため、該チオールとアセトンを混合させた後、これを
硫酸モノアルキルと混合するのが好ましく、具体的には、該チオールをアセトンと予め混
合してから、硫酸、脂肪族アルコール及びオルトクレゾールが入った反応器に、滴下して
混合する方法が好ましい。
【0024】
[溶媒]
本発明では、アセトンを溶媒と予め混合した後に、反応器に供給してオルトクレゾール
と混合する必要がある。本発明に従い、アセトンを溶媒と予め混合した後にオルトクレゾ
ールと混合することにより、目的とする,ビスフェノールの収率が向上する。アセトンと
溶媒の混合は、使用するそれぞれの全量を予め混合しても、その一部を予め混合してもよ
いが、工程が複雑にならないこと、及び収率の点から、その全量を予め混合するのが好ま
しい。
【0025】
本発明においてアセトンと予め混合するのに用いる溶媒として、通常、芳香族炭化水素
を使用することが可能である。また、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニ
ル)プロパンの製造に使用した溶媒を、蒸留などで回収及び精製して再使用することが可
能である。用いる芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エ
チルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、メシチレンなどが挙げられる
。該溶媒を再利用する場合は、沸点が低い溶媒が好ましい。
【0026】
溶媒は、ビスフェノールを生成する反応系に供給され、存在することになる。ビスフェ
ノールを生成する反応に供給する溶媒の使用量は、硫酸モノアルキルの調製に用いられる
硫酸の量に対して少な過ぎる場合、生成したビスフェノールが分解してしまい、得られる
ビスフェノールが減少してしまう場合がある。一方で、硫酸の量に対して多すぎる場合、
ケトン又はアルデヒドと芳香族アルコールと縮合反応速度が低下し、ビスフェノールを生
成する時間を要してしまう可能性がある。したがって、該溶媒の使用量は、硫酸の量に対
して、0.05倍以上が好ましく、0.1倍以上がより好ましく、10倍以下が好ましく
、5倍以下がより好ましい。特に、濃度の高い硫酸を用いる場合は、硫酸の量に対して、
1倍以上が好ましく、2倍以上がより好ましく、10倍以下が好ましく、5倍以下がより
好ましい。
【0027】
上述の通り、本発明では、アセトンを溶媒と予め混合した後に、反応器に供給してオル
トクレゾールと混合するが、オルトクレゾールと硫酸モノアルキルを予め混合した後、こ
れを、アセトンと溶媒の混合物とを混合するのがメシチルオキサイドなどの縮合反応を抑
制する点で好ましい。具体的には、例えば、硫酸、脂肪族アルコール及びオルトクレゾー
ルが入った反応器に、溶媒をアセトンとチオールの混合物と予め混合してから滴下して混
合する方法、硫酸、脂肪族アルコール及びオルトクレゾールが入った反応器にチオールを
混合し、これに溶媒とアセトンの混合液を滴下して混合する方法、等が可能である。該溶
媒を、硫酸、脂肪族アルコール及びオルトクレゾールと共に反応器に予め供給する場合、
反応器内の溶液の疎水性が上がって、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニ
ル)プロパンの反応時間が長くなることから、アセトンを溶媒と予め混合した後にオルト
クレゾールと混合するが、特に好ましくは、硫酸、脂肪族アルコール及びオルトクレゾー
ルが入った反応器に、溶媒をアセトンとチオールの混合物と予め混合してから滴下して混
合する方法が好ましい。
【0028】
[2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン生成反応]
本発明の2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン生成反応は、
硫酸モノアルキルを触媒に用いて、オルトクレゾールとアセトンを縮合して、2,2-ビ
ス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンを製造することができる。したがっ
て、本発明の製造方法は、オルトクレゾール、アセトン、及び硫酸モノアルキルを反応器
中で混合して2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンを生成する
工程を含む。オルトクレゾールとアセトンを混合及び縮合させて2,2-ビス(4-ヒド
ロキシ-3-メチルフェニル)プロパンを生成する反応は発熱反応であるため、アセトン
を滴下して反応器に供給すると反応器の温度が上昇する。そのため、アセトンを滴下して
オルトクレゾールを混合させる場合、反応器を冷却する。この縮合反応の反応温度が高温
の場合、アセトンの多量化が進行して2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニ
ル)プロパンの選択率が低下する傾向がある。また、低温の場合は反応器内のオルトクレ
ゾール、硫酸及び脂肪族アルコールの混合物が凝固する場合がある。これらのことから、
アセトンと溶媒の混合物を反応器内で、硫酸モノアルキルとオルトクレゾールと混合する
温度は、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは25℃以上で
あり、また、60℃以下、より好ましくは70℃以下、更に好ましくは40℃以下である
【0029】
本発明において、硫酸モノアルキルを触媒に用いて、アセトンを滴下してオルトクレゾ
ールと混合した後、反応を完結(熟成)させるために混合することが可能である。該熟成
温度は、高温の場合、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンが
酸によって分解する怖れがあり、また、低温の場合、熟成に時間を要することがある。こ
れらのことから、上記生成反応後の熟成温度は、好ましくは20℃以上、より好ましくは
25℃以上、更に好ましくは30℃以上であり、80℃以下、より好ましくは75℃以下
、更に好ましくは70℃以下である。
【0030】
本発明において、前記縮合反応は、通常、アセトンの滴下時間と熟成時間(アセトンの
滴下時間と熟成時間の合計を反応時間とする)が必要である。該反応時間は、長い場合生
成した2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンが酸によって分解
することが懸念されることから、好ましくは30時間以内、より好ましくは25時間以内
、更に好ましくは20時間以内である。なお、該縮合反応は、用いる硫酸と同等量以上の
水を加えて硫酸濃度を低下させ停止させることが可能である。
【0031】
[精製方法]
本発明において前記生成反応によって得られた前記2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3
-メチルフェニル)プロパンの精製は、常法により行うことができる。例えば、晶析やカ
ラムクロマトグラフィーなどの簡便な手段により精製することが可能である。具体的には
、縮合反応後、反応液を分液して得られた有機相を水又は食塩水などで洗浄し、更に必要
に応じて重曹水などで中和洗浄する。次いで、洗浄後の有機相を冷却し晶析させる。芳香
族アルコールを多量に用いる場合は、該晶析前に蒸留による余剰の芳香族アルコールを留
去してから晶析させる。
【0032】
[2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの用途]
本発明の2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンは、光学材料
、記録材料、絶縁材料、透明材料、電子材料、接着材料、耐熱材料など種々の用途に用い
られるポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹
脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂など種々の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、不飽和
ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリベンゾオキサジン樹脂、シアネート樹脂など種
々の熱硬化性樹脂などの構成成分、硬化剤、添加剤もしくはそれらの前駆体などとして用
いることができる。また、感熱記録材料等の顕色剤や退色防止剤、殺菌剤、防菌防カビ剤
等の添加剤としても有用である。
【0033】
これらのうち、良好な機械物性を付与できることより、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の
原料(モノマー)として用いることが好ましく、なかでもポリカーボネート樹脂、エポキ
シ樹脂の原料として用いることがより好ましい。また、顕色剤として用いることも好まし
く、特にロイコ染料、変色温度調整剤と組み合わせて用いることがより好ましい。
【0034】
[ポリカーボネート樹脂の製造方法]
本発明で製造される2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの
用途のひとつであるポリカーボネート樹脂は、上述の方法により製造された2,2-ビス
(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンと、炭酸ジフェニル等の炭酸ジエステ
ルとを、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物の存在下でエステル
交換反応させること等により製造できる。上記エステル交換反応は、公知の方法を適宜選
択して行うことができるが、以下に該2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニ
ル)プロパンと炭酸ジフェニルを原料とした一例を説明する。
【0035】
上記のポリカーボネート樹脂の製造方法において、炭酸ジフェニルは、該2,2-ビス
(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンに対して過剰量用いることが好ましい
。該2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンルに対して用いる炭
酸ジフェニルの量は、製造されたポリカーボネート樹脂に末端水酸基が少なく、ポリマー
の熱安定性に優れる点では多いことが好ましく、また、エステル交換反応速度が速く、所
望の分子量のポリカーボネート樹脂を製造し易い点では少ないことが好ましい。具体的に
は、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン1モルに対
して、通常1.001モル以上、好ましくは1.002モル以上、通常1.3モル以下、
好ましくは1.2モル以下用いることが好ましい。
【0036】
原料の供給方法としては、該2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プ
ロパンおよび炭酸ジフェニルを固体で供給することもできるが、一方または両方を、溶融
させて液体状態で供給することが好ましい。
炭酸ジフェニルと2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンとの
エステル交換反応でポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、触媒が使用される。
上記のポリカーボネート樹脂の製造方法においては、このエステル交換触媒として、アル
カリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物を使用するのが好ましい。これら
は、1種類で使用してもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で使用してもよい
。実用的には、アルカリ金属化合物が望ましい。
【0037】
触媒は、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンまたは炭酸ジ
フェニル1モルに対して、通常0.05μモル以上、好ましくは0.08μモル以上、さ
らに好ましくは0.10μモル以上、また一方で、通常100μモル以下、好ましくは5
0μモル以下、さらに好ましくは20μモル以下の範囲で用いられる。
触媒の使用量が上記範囲内であることにより、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を
製造するのに必要な重合活性を得やすく、且つ、ポリマー色相に優れ、また過度のポリマ
ーの分岐化が進まず、成型時の流動性に優れたポリカーボネート樹脂を得やすい。
【0038】
上記方法によりポリカーボネート樹脂を製造するには、上記の両原料を、原料混合槽に
連続的に供給し、得られた混合物とエステル交換触媒を重合槽に連続的に供給することが
好ましい。
エステル交換法によるポリカーボネート樹脂の製造においては、通常、原料混合槽に供
給された両原料は、均一に攪拌された後、触媒が添加される重合槽に供給され、ポリマー
が生産される。
【0039】
[ポリカーボネート樹脂]
上述のように本発明の製造方法により得られる2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メ
チルフェニル)プロパンは非常に高純度であり、着色が少ないことから、本発明の製造方
法により得られる2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンと炭酸
ジフェニルとをエステル交換触媒の存在下で重縮合させることにより高純度なポリカーボ
ネート樹脂を得ることができる。
【実施例
【0040】
以下、実施例および比較例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそ
の要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0041】
[原料及び試薬]
オルトクレゾール、メシチルオキサイド、アセトン、メタノール、ドデカンチオール、
トルエン、硫酸、塩酸、アセトニトリル、酢酸、酢酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、
炭酸水素ナトリウム、3-メルカプトプロピオン酸、炭酸セシウム、及び2,2-ビス(
4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンは、和光純薬株式会社製特級試薬を使用
した。
炭酸ジフェニルは、三菱ケミカル株式会社製の製品を使用した。
【0042】
[分析]
ビスフェノールC生成反応液の組成分析は、高速液体クロマトグラフィーにより、以下
の手順と条件で行った。
装置:島津製作所社製LC-2010A、ImtaktScherzoSM-C18
3μm 150mm×4.6mmID。低圧グラジェント法。分析温度40℃。溶離液組
成:A液酢酸アンモニウム:酢酸:脱塩素水=3.000g:1ミリリットル:1リット
ルの溶液。B液 酢酸アンモニウム:酢酸:アセトニトリル=1.500g:1ミリリッ
トル:900ミリリットルの溶液。分析時間0分ではA液:B液=60:40(体積比、
以下同様。)分析時間0~25分は溶離液組成をA液:B液=90:10へ徐々に変化さ
せ、分析時間25~30分はA液:B液=90:10に維持、流速0.8ミリリットル/
分にて分析した。
【0043】
アセトン基準のビスフェノールCの反応収率(モル%)は、高速液体クロマトグラフィ
ーで波長280nmにより検出されたピークより反応液中に含まれる2,2-ビス(4-
ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの濃度を算出し、その濃度よりビスフェノー
ルC生成反応液中に含まれる該2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プ
ロパンのモル量を算出して、該2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プ
ロパンのモル量÷原料アセトンのモル量×100%で算出した。
【0044】
ビスフェノールC生成反応液中のメシチルオキサイドの生成量は、高速液体クロマトグ
ラフィーで波長210nmにより検出されたメシチルオキサイドの面積÷波長210nm
により検出された2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの面積
×100(面積%)で算出した。
ビスフェノールC生成反応液中のドデシルメルカプタン及びジドデシルジスルフィドの
分析は、ガスクロマトグラフィーにより、以下の手順と条件で行った。装置は、島津製作
所社製「GC-17A」を使用した。カラムは、アジレントテクノロジー社製「DB―1
」(内径0.53mm、カラム長30m、膜厚1μm)を使用した。キャリアーガスはヘ
リウムとし、その流量を毎分5.58cm、線速を毎秒47.4cmとした。注入口温
度を250℃、検出器温度を280℃とした。カラムの昇温パターンは、先ず150℃で
5分間保持させた後に毎分13℃で295℃まで昇温させ、295℃で15分間保持させ
て分析した。
【0045】
ビスフェノールC生成反応液中のドデシルメルカプタンの残存量は、ガスクロマトグラ
フィーにより得られたドデシルメルカプタンの分析値から反応液中に含まれるドデシルメ
ルカプタンの重量を算出し、該ドデシルメルカプタンの重量÷原料ドデシルメルカプタン
の重量×100%で算出した。
【0046】
(粘度平均分子量)
粘度平均分子量(Mv)は、ポリカーボネート樹脂を塩化メチレンに溶解し(濃度6.
0g/L)、ウベローデ粘度管を用いて20℃における比粘度(ηsp)を測定し、下記
の式により粘度平均分子量(Mv)を算出した。
ηsp/C=[η](1+0.28ηsp)
[η]=1.23×10-4Mv0.83
【0047】
(ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度)
ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度(OH)濃度は、四塩化チタン/酢酸法(Ma
kromol.Chem. 88,215(1965)参照)に準拠し、比色定量を行う
ことにより測定した。
【0048】
(ペレットYI)
ペレットYI(ポリカーボネート樹脂の透明性)は、ASTM D1925に準拠して
、ポリカーボネート樹脂ペレットの反射光におけるYI値(イエローネスインデックス値
)を測定して評価した。装置はコニカミノルタ社製分光測色計CM-5を用い、測定条件
は測定径30mm、SCEを選択した。シャーレ測定用校正ガラスCM-A212を測定
部にはめ込み、その上からゼロ校正ボックスCM-A124をかぶせてゼロ校正を行い、
続いて内蔵の白色校正板を用いて白色校正を行った。次いで、白色校正板CM-A210
を用いて測定を行い、L*が99.40±0.05、a*が0.03±0.01、b*が
-0.43±0.01、YIが-0.58±0.01となることを確認した。ペレットの
測定は、内径30mm、高さ50mmの円柱ガラス容器にペレットを40mm程度の深さ
まで詰めて測定を行った。ガラス容器からペレットを取り出してから再度測定を行う操作
を2回繰り返し、計3回の測定値の平均値を用いた。
【0049】
実施例1
温度計、撹拌機及び500ミリリットルの滴下ロートを備えたフルジャケット式1リッ
トルのセパラブルフラスコに、窒素雰囲気下でメタノール3.3g(0.10モル)、オ
ルトクレゾール128g(1.18モル)を入れた後、85重量%の硫酸67gをゆっく
り供給した。更に、ドデシルメルカプタン5.5gを該セパラブルフラスコに供給した。
前記滴下ロートにアセトン34g(0.58モル)、トルエン147gを供給して混合さ
せ、アセトンとトルエンの混合液を得た。該混合液を30分かけて、ゆっくりセパラブル
フラスコへ滴下して供給した。この反応液を2時間、40℃で反応させた。反応終了後、
トルエン100g及び脱塩素水100gを供給して80℃まで昇温した。80℃に到達後
、静置して反応中に析出していた物が有機相及び水相に溶解したことを確認した後、下層
の水相を抜き出した。その後、得られた有機相へ飽和の炭酸水素ナトリウム溶液を加えて
中和し、下層の水相pHが9以上になったことを確認した。下層の水相を抜出した後、得
られた有機相に脱塩素水を加えて10分間撹拌した。撹拌後、静置し、水相を抜き出した
。得られた有機相の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーで生成したビスフェノ
ールCの量を確認したところ、アセトン基準の反応収率は71モル%であった。また、ビ
スフェノールC生成反応液中のアセトンの2量体であるメシチルオキサイドの量は、ビス
フェノールCの面積に対して0.05面積%であった。
【0050】
比較例1
温度計、撹拌機及び500ミリリットルの滴下ロートを備えたフルジャケット式1リッ
トルのセパラブルフラスコに、窒素雰囲気下でメタノール3.3g(0.10モル)、オ
ルトクレゾール128g(1.18モル)、及びトルエン147gを入れた後、85重量
%の硫酸67gをゆっくり供給した。更に、ドデシルメルカプタン5.5gを該セパラブ
ルフラスコに供給した。前記滴下ロートにアセトン34g(0.58モル)を供給して、
30分かけてゆっくりセパラブルフラスコへ滴下して供給した。この反応液を2時間、4
0℃で反応させた。反応終了後、実施例1と同様に処理した。得られた有機相の一部を取
り出し、評価したところ、反応収率は41モル%であった。また、セトンの2量体である
メシチルオキサイドの量は、ビスフェノールCの面積に対して0.21面積%であった。
【0051】
比較例2
特開2014-40376の実施例1に記載されている方法を参考に、2,2-ビス(
4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの合成を行った。ジムロート冷却管と温
度計を備えた500mLの3口フラスコに、オルトクレゾール45g(0.42モル)、
アセトン18g(0.31モル)、トルエン6g、3-メルカプトプロピオン酸2gを加
えて撹拌した。該3口フラスコを25℃の水バスに浸漬させ、そこへ35重量%塩酸47
gをゆっくり加えて撹拌した。該水バスを30℃に昇温した後に、98重量%硫酸10g
を1時間かけて滴下して該3口フラスコに供給した。その結果、反応開始から1時間後、
反応液は固化してしまい、撹拌混合ができなくなった。この状態を、25℃で6.5時間
維持させた。得られた反応液を用いて、特開2014-40376の実施例1に記載され
ている方法に従い、温水洗浄した。得られた有機相の一部を取り出し、高速液体クロマト
グラフィーで生成した2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの
量を確認したところ、アセトン基準の反応収率は52モル%であった。また、ビスフェノ
ールC生成反応液中のアセトンの2量体であるメシチルオキサイドの生成量は、ビスフェ
ノールCの面積に対して1.70面積%であった。
【0052】
上記の結果より、公知の方法ではアセトンの2量化生成物であるメシチルオキサイドが
多量に生成して2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの選択率
が低下し、また反応液が固化して混合不良となり、更に反応時間を要するという問題があ
ることが判明した。
実施例1、比較例1及び比較例2について、トルエンの供給箇所、反応液の性状、ビス
フェノールC生成反応液中のメシチルオキサイドの生成量及びビスフェノールCの反応収
率を表1に纏めた。その結果、トルエンはアセトンと共に供給することで、反応器の疎水
性を低減して効率良くアセトンとオルトクレゾールを縮合させ、メシチルオキサイドの生
成を抑制することが可能であり、ビスフェノールCの反応収率を大幅に改善できることが
わかった。
【0053】
【表1】
【0054】
実施例2
セパラブルフラスコに、窒素雰囲気下でメタノール5g(0.16モル)、オルトクレ
ゾール191g(1.77モル)を入れた後、80重量%の硫酸100gをゆっくり供給
したこと、及び、前記滴下ロートにアセトン50g(0.86モル)、トルエン221g
、ドデシルメルカプタン7.5gを供給して混合させ、混合液を得た以外は実施例1と同
様に処理した。得られた有機相の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーで生成し
たビスフェノールCの量を確認したところ、アセトン基準の反応収率は85モル%であり
、ビスフェノールC生成反応液中のメシチルオキサイドの量はビスフェノールCに対して
0.02面積%であった。また、ビスフェノールC生成反応液中のドデシルメルカプタン
の残存量をガスクロマトグラフィーで確認したところ、44%であった。
【0055】
実施例3
実施例1において、メタノールを5g(0.16モル)、オルトクレゾールを191g
(1.77モル)、80重量%の硫酸を100g、ドデシルメルカプタンを7.5g、ア
セトンを50g(0.86モル)、トルエンを221gに変更した以外は実施例1と同様
に処理した。得られた有機相の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーで生成した
ビスフェノールCの量を確認したところ、アセトン基準の反応収率は40モル%であり、
メシチルオキサイドの量はビスフェノールCの面積に対して0.19面積%であった。ま
た、ドデシルメルカプタンの残存量をガスクロマトグラフィーで確認したところ、4%で
あった。
【0056】
実施例2及び実施例3について、ビスフェノールC生成反応液中のドデシルメルカプタ
ンの残存量、メシチルオキサイドの量、ビスフェノールCの量を表2に纏めた。その結果
、ドデシルメルカプタン及びトルエンをアセトンと予め混合させてから反応させることで
、ドデシルメルカプタンの分解を抑制し、メシチルオキサイドの生成を抑制し、ビスフェ
ノールCの反応収率を大幅に改善できることがわかった。
【0057】
【表2】
【0058】
実施例4
温度計、撹拌機及び100ミリリットルの滴下ロートを備えたフルジャケット式1.5
リットルのセパラブルフラスコのジャケットに、0℃の冷媒を流した。そこへ窒素雰囲気
下で、トルエン274g、メタノール14g、及びオルトクレゾール230.4g(2.
13モル)を入れ、内温を5℃まで冷却した。その後、98重量%硫酸90gを加えた。
該滴下ロートに、トルエン16.5g、ドデカンチオール5.4g、及びアセトン61.
2g(1.06モル)の混合物を入れた。該セパラブルフラスコの内温が5℃となったと
ころで、該混合物を1時間かけてゆっくり滴下した。滴下後、10℃で1時間撹拌した後
、更に45℃に昇温して45℃のまま1時間撹拌した。得られた反応液に、28重量%の
水酸化ナトリウム水溶液を231g加えた。80℃に昇温しながら、pHが5-8の間と
なるように28重量%の水酸化ナトリウム水溶液を加えた。内温が80℃に到達後、水相
を抜出し、飽和重曹水で洗浄及び水洗した。得られた有機相の一部を取り出し、高速液体
クロマトグラフィーで生成したビスフェノールCの量を確認したところ、アセトン基準の
反応収率は78モル%であった。
【0059】
実施例5
撹拌機及び留出管を備えた内容量150mLのガラス製反応槽に、実施例1で得られた
ビスフェノールC100g(0.39モル)、炭酸ジフェニル86.5g(0.4モル)
及び400質量ppmの炭酸セシウム水溶液479μLを入れた。該ガラス製反応槽を約
100Paに減圧し、続いて、窒素で大気圧に復圧する操作を3回繰り返し、反応槽の内
部を窒素に置換した。その後、該反応槽を200℃のオイルバスに浸漬させ、内容物を溶
解した。撹拌機の回転数を毎分100回とし、反応槽内のビスフェノールCと炭酸ジフェ
ニルのオリゴマー化反応により副生するフェノールを留去しながら、40分間かけて反応
槽内の圧力を、絶対圧力で101.3kPaから13.3kPaまで減圧した。続いて反
応槽内の圧力を13.3kPaに保持し、フェノールを更に留去させながら、80分間、
エステル交換反応を行った。その後、反応槽外部温度を250℃に昇温すると共に、40
分間かけて反応槽内圧力を絶対圧力で13.3kPaから399Paまで減圧し、留出す
るフェノールを系外に除去した。その後、反応槽外部温度を280℃に昇温、反応槽の絶
対圧力を30Paまで減圧し、重縮合反応を行った。反応槽の撹拌機が予め定めた所定の
撹拌動力となったときに、重縮合反応を終了した。次いで、反応槽を窒素により絶対圧力
で101.3kPaに復圧した後、ゲージ圧力で0.2MPaまで昇圧し、反応槽の底か
らポリカーボネートをストランド状で抜出し、ストランド状のポリカーボネート樹脂を得
た。その後、回転式カッターを使用して、該ストランドをペレット化して、ペレット状の
ポリカーボネート樹脂を得た。
【0060】
該ポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv)は25000であった。またペレットY
Iは、8.2であった。