(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】R-T-B系焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20220209BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220209BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20220209BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20220209BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220209BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
H01F41/02 G
B22F1/00 Y
B22F3/00 F
C22C33/02 J
C22C33/02 K
C22C38/00 303D
H01F1/057 170
(21)【出願番号】P 2018055048
(22)【出願日】2018-03-22
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】藤森 信彦
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-232012(JP,A)
【文献】特開平7-335468(JP,A)
【文献】特開昭63-252402(JP,A)
【文献】特開2003-45710(JP,A)
【文献】特開2016-184689(JP,A)
【文献】特開2018-28123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057、41/02
B22F 1/00、3/00
C22C 28/00、33/02、38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R:29.5~35.0質量%(Rは希土類元素のうち少なくとも1種であり、NdおよびPrの少なくとも1種を含む)、
B:0.80~0.91質量%、
Ga:0.2~1.0質量%、および
T:61.5~69.5質量%(TはFeとCoであり、Tの90~100質量%がFeである)を含有し、
下記式(1)を満足するR-T-B系焼結磁石の製造方法であって、
[T]/55.85>14[B]/10.8 (1)
([T]は質量%で示すTの含有量であり、[B]は質量%で示すBの含有量である)
合金粉末を準備する工程と、
前記合金粉末を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を、1010℃~1030℃の範囲内にある第1焼結温度で、12時間~36時間の範囲内にある第1焼結時間で加熱して、第1焼結体を得る第1焼結工程と、
前記第1焼結体を、990℃~1020℃の範囲内にあり、かつ前記第1焼結温度よりも10℃以上低い第2焼結温度で、17時間~41時間の範囲にあり、かつ前記第1焼結時間よりも5時間以上長い第2焼結時間で加熱して第2焼結体を得る第2焼結工程と、
前記第2焼結体を、400℃~800℃の範囲内にある熱処理温度で加熱する熱処理工程と、を含む、R-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記第2焼結工程において、前記第2焼結温度が、990℃~1010℃の範囲内にあり、かつ前記第1焼結温度よりも20℃以上低い、請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、R-T-B系焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素のうち少なくとも一種でありNdを必ず含む、Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種でありFeを必ず含む)は永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)、電気自動車用(EV、HV、PHVなど)モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品などに使用されている。
【0003】
R-T-B系焼結磁石は主としてR2T14B化合物からなる主相とこの主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されている。主相であるR2T14B化合物は高い磁化を持つ強磁性材料でありR-T-B系焼結磁石の特性の根幹をなしている。
【0004】
R-T-B系焼結磁石は高温で保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」という場合がある)が低下するため不可逆熱減磁が起こる。そのため、特に電気自動車用モータに使用される場合、高温下でも高いHcJを有することが要求されている。
【0005】
従来、HcJ向上のために、Dy、Tb等の重希土類元素RHをR-T-B系焼結磁石に多量に添加していた。しかし、重希土類元素RHを多量に添加すると、HcJは向上するが、残留磁束密度Br(以下、単に「Br」という場合がある)が低下するという問題があった。そのため、近年、R-T-B系焼結磁石の表面から内部にRHを拡散させて主相結晶粒の外殻部にRHを濃化させることでBrの低下を抑制しつつ、高いHcJを得る方法が提案されている。
【0006】
しかし、Dyは、もともと資源量が少ないうえ産出地が限定されている等の理由から、供給が不安定であり、価格変動するなどの問題を有している。そのため、DyなどのRHをできるだけ使用せず(使用量をできるだけ少なくして)、Brの低下を抑制しつつ、高いHcJを得ることが求められている。
【0007】
特許文献1には、通常のR-T-B合金よりもB量を低くするとともに、Al、Ga、Cuのうちから選ばれる1種類以上の金属元素Mを含有させることによりR2F17M相を生成させ、該R2Fe17相を原料として生成させた遷移金属リッチ相(R6T13M)の体積率を十分に確保することにより、Dyの含有量を抑制しつつ、保磁力の高いR-T-B系希土類焼結磁石が得られることが記載されている。
【0008】
また、上述の通りR-T-B系焼結磁石が最も利用される用途はモータであり、特に電気自動車用モータなどの用途で高温安定性を確保するためにHcJの向上は大変有効であるが、それらの特性とともに角形比Hk/HcJ(以下、単にHk/HcJという場合がある)も高くなければならない。Hk/HcJが低いと減磁しやすくなるという問題を引き起こす。そのため、高いHcJを有するとともに、高いHk/HcJを有するR-T-B系焼結磁石が求められている。なお、R-T-B系焼結磁石の分野においては、一般に、Hk/HcJを求めるために測定するパラメータであるHkは、J(磁化の強さ)-H(磁界の強さ)曲線の第2象限において、Jが0.9×Jr(Jrは残留磁化、Jr=Br)の値になる位置のH軸の読み値が用いられている。このHkを減磁曲線のHcJで除した値(Hk/HcJ=Hk(KA/m)/HcJ(KA/m)×100(%))が角形比として定義される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載されているR-T-B系希土類磁石では、Dyの含有量を低減しつつ高いHcJが得られるものの、一般的なR-T-B系焼結磁石 (R2T14B型化合物の化学量論比よりもB量が多い)と比べてHk/HcJが低下するという問題点があった。
【0011】
そこで本発明は、RHの含有量を低減しつつ、高いHcJと高いHk/HcJを有するR-T-B系焼結磁石を製造するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の態様1は、
R:29.5~35.0質量%(Rは希土類元素のうち少なくとも1種であり、NdおよびPrの少なくとも1種を含む)、
B:0.80~0.91質量%、
Ga:0.2~1.0質量%、および
T:61.5~69.5質量%(TはFeとCoであり、Tの90~100質量%がFeである)を含有し、
下記式(1)を満足するR-T-B系焼結磁石の製造方法であって、
[T]/55.85>14[B]/10.8 (1)
([T]は質量%で示すTの含有量であり、[B]は質量%で示すBの含有量である)
合金粉末を準備する工程と、
前記合金粉末を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を、1010℃~1030℃の範囲内にある第1焼結温度で、12時間~36時間の範囲内にある第1焼結時間で加熱して、第1焼結体を得る第1焼結工程と、
前記第1焼結体を、990℃~1020℃の範囲内にあり、かつ前記第1焼結温度よりも10℃以上低い第2焼結温度で、17時間~41時間の範囲にあり、かつ前記第1焼結時間よりも5時間以上長い第2焼結時間で加熱して第2焼結体を得る第2焼結工程と、
前記第2焼結体を、400℃~800℃の範囲内にある熱処理温度で加熱する熱処理工程と、
を含む、R-T-B系焼結磁石の製造方法である。
【0013】
本発明の態様2は、前記第2焼結工程において、前記第2焼結温度が、990℃~1010℃の範囲内にあり、かつ前記第1焼結温度よりも20℃以上低い、態様1に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、RHの含有量を低減しつつ、高いHcJと高いHk/HcJを有するR-T-B系焼結磁石を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するためのR-T-B系焼結磁石の製造方法を例示するものであって、本発明を以下に限定するものではない。
【0016】
本発明者らは鋭意検討した結果、本発明は、以下に規定するような特定の組成範囲、特に極めて狭い特定範囲のB含有量を有するR-T-B系焼結磁石の製造において、焼結工程を2段階(第1焼結工程と第2焼結工程)で行い、かつ第1焼結工程および第2焼結工程の焼結条件(温度および時間)を適切に制御することにより、最終的に得られるR-T-B系焼結磁石の磁気的特性を向上できることを見いだした。
以下に本発明の実施形態に係る製造方法について詳述する。
【0017】
<R-T-B系焼結磁石>
まず、本発明に係る製造方法によって得られるR-T-B系焼結磁石について説明する。
【0018】
(R-T-B系焼結磁石の組成)
本実施形態に係るR-T-B系焼結磁石の組成は、
R:29.5~35.0質量%(Rは希土類元素のうち少なくとも1種であり、NdおよびPrの少なくとも1種を含む)、
B:0.80~0.91質量%、
Ga:0.2~1.0質量%、および
T:61.5~69.5質量%(TはFeとCoであり、Tの90~100質量%がFeである)を含有し、下記式(1)を満足する。
[T]/55.85>14[B]/10.8 (1)
([T]は質量%で示すTの含有量であり、[B]は質量%で示すBの含有量である)
【0019】
上記組成により、一般的なR-T-B系焼結磁石よりもB量を少なくするとともに、Ga等を含有させているので、二粒子粒界にR-T-Ga相が生成して、高いHcJを得ることができる。ここで、R-T-Ga相とは、代表的にはNd6Fe13Ga化合物である。R6T13Ga化合物は、La6Co11Ga3型結晶構造を有する。また、R6T13Ga化合物は、その状態によっては、R6T13-δGa1+δ化合物(δは典型的には2以下)になっている場合がある。例えば、R-T-B系焼結磁石中にCu、Alが比較的多く含有される場合、R6T13-δ(Ga1-x-yCuxAly)1+δになっている場合がある。
以下に、各組成について詳述する。
【0020】
(R:29.5~35.0質量%)
Rは、希土類元素のうち少なくとも1種であり、NdおよびPrの少なくとも1種を含む。Rの含有量は、29.5~35.0質量%である。Rが29.5質量%未満であると焼結時の緻密化が困難となるおそれがあり、35.0質量%を超えると主相比率が低下して高いBrを得られないおそれがある。Rの含有量は、好ましくは29.5~33.0質量%である。Rがこのような範囲であれば、より高いBrを得ることができる。
【0021】
(B:0.80~0.91質量%)
焼結磁石中のBの含有量は、0.80~0.91質量%である。Bが0.80質量%未満であるとR2T17相が生成されて高いHcJが得られないおそれがあり、0.91質量%を超えるとR-T-Ga相の生成量が少なすぎて高いHcJが得られないおそれがある。Bの含有量は、好ましくは0.88~0.90質量%であり、より高いHcJ向上効果が得られる。
【0022】
さらに、Bの含有量は下記式(1)を満たす。
[T]/55.85>14[B]/10.8 (1)
ここで[T]は質量%で示すTの含有量であり、[B]は質量%で示すBの含有量である。
【0023】
式(1)を満足することにより、Bの含有量が一般的なR-T-B系焼結磁石よりも少なくなる。一般的なR-T-B系焼結磁石は、主相であるR2T14B相以外に軟磁性相であるR2T17相が生成しないように、[T]/55.85(Feの原子量)は14[B]/10.8(Bの原子量)よりも少ない組成となっている([T]は、質量%で示すTの含有量である)。本発明の実施形態のR-T-B系焼結磁石は、一般的なR-T-B系焼結磁石と異なり、[T]/55.85が14[B]/10.8よりも多くなるように式(1)で規定している。なお、本発明の実施形態のR-T-B系焼結磁石におけるTの主成分はFeであるため、Feの原子量を用いた。
【0024】
(Ga:0.2~1.0質量%)
Gaの含有量は、0.2~1.0質量%である。Gaが0.2質量%未満であると、R-T-Ga相の生成量が少なすぎて、R2T17相を消失させることができず、高いHcJを得ることができないおそれがあり、1.0質量%を超えると不要なGaが存在することになり、主相比率が低下してBrが低下するおそれがある。
【0025】
(T:61.5~69.5質量%(Tは、FeとCoでありTの90~100質量%がFeである))
Tは、遷移金属元素のうち少なくとも1種であり、Feを必ず含む。
焼結磁石中のTの含有量は61.5~69.5質量%である。また、Tの全量を100質量%としたとき、その10質量%以下をCoで置換できる。すなわち、Tの全量の90質量%以上がFeである。また、Tの全量(100質量%)をFeにしてもよい。Coを含有することにより耐食性を向上させることができるが、Coの置換量がFeの10質量%を超えると、高いBrが得られないおそれがある。Tの含有量は、61.5質量%以上であり、かつ、上述した式(1)を満足する。Tの含有量が61.5質量%未満または69.5質量%を超えると、大幅にBrが低下する恐れがある。好ましくは、Tが残部である。
【0026】
さらに、Tが残部の場合であっても、本発明のR-T-B系焼結磁石は、ジジム合金(Nd-Pr)、電解鉄、フェロボロンなどに通常含有される不可避的不純物としてCr、Mn、Si、La、Ce、Sm、Ca、Mgなどを含有することができる。さらに、製造工程中の不可避的不純物として、O(酸素)、N(窒素)およびC(炭素)などを例示できる。また、本発明のR-T-B系焼結磁石は、1種以上の他の元素(不可避的不純物以外の意図的に加えた元素)を含んでもよい。例えば、このような元素として、少量(各々0.1質量%程度)のAg、Zn、In、Sn、Ti、Ge、Y、H、F、P、S、V、Ni、Mo、Hf、Ta、W、Nb、Zrなどを含有してもよい。また、上述した不可避的不純物として挙げた元素を意図的に加えてもよい。このような元素は、合計で例えば1.0質量%程度含まれてもよい。この程度であれば、高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石を得ることが十分に可能である。
【0027】
本発明の焼結磁石は、任意のその他の元素を更に含んでよい。そのように選択的に含有させることができるその他の元素を以下に例示する。
【0028】
(Cu:0質量%超、0.50質量%以下)
Cuを適量含むことにより、HcJをさらに向上することができる。
Cuは、0.50質量%以下で含まれてもよい。Cuの含有量は、好ましくは0.05~0.50質量%である。Cuを0.05質量%~0.50質量%で含有すると、HcJをさらに向上させることができる。Cuの含有量は、より好ましくは0.05質量%以上である。
【0029】
(Al:0質量%超、0.50質量%以下)
Alを適量含むことにより、HcJをさらに向上することができる。
Alは、0.50質量%以下で含まれてもよい。Alの含有量は、好ましくは0.05~0.50質量%である。Alを0.50質量%以下で含有すると、HcJをさらに向上させることができる。Alは通常、製造工程で不可避的不純物として0.05質量%以上含有され得るが、不可避的不純物で含有される量と意図的に添加した量の合計で0.5質量%以下含有してもよい。Alの含有量は、より好ましくは0.05質量%以上である。
【0030】
(R-T-B系焼結磁石の磁気的特性)
本発明に係る焼結磁石は、高いHcjと高いHk/HcJを示す。特に、Hcjが1400kA/m以上、かつHk/HcJが85超であること好ましい、また、Hcjが1500kA/m超、かつHk/HcJが85超であることがさらに好ましい。また、Hkが1200kA/m以上であるのが好ましく、1230kA/m以上であるのがさらに好ましい。
【0031】
<R-T-B系焼結磁石の製造方法>
次に、本発明に係るR-T-B系焼結磁石の製造方法を説明する。
R-T-B系焼結磁石の製造方法は、合金粉末を準備する工程、成形工程、第1焼結工程、第2焼結工程、および熱処理工程を含む。
以下、各工程について説明する。
【0032】
(1)合金粉末を準備する工程
前記組成となるようにそれぞれの元素の金属または合金を準備し、これらをストリップキャスティング法等を用いてフレーク状の合金を製造する。
得られたフレーク状の合金を水素粉砕し、粗粉砕粉のサイズを例えば1.0mm以下とする。次に、粗粉砕粉をジェットミル等により微粉砕することで、例えば粒径D50(気流分散法によるレーザー回折法で得られた値(メジアン径))が3~7μmの微粉砕粉(合金粉末)を得る。なお、ジェットミル粉砕前の粗粉砕粉、ジェットミル粉砕中およびジェットミル粉砕後の合金粉末に助剤として公知の潤滑剤を使用してもよい。
【0033】
(2)成形工程
得られた合金粉末を用いて磁界中成形を行い、成形体を得る。磁界中成形は、金型のキャビティー内に乾燥した合金粉末を挿入し、磁界を印加しながら成形する乾式成形法、金型のキャビティー内に該合金粉末を分散させたスラリーを注入し、スラリーの分散媒を排出しながら成形する湿式成形法を含む既知の任意の磁界中成形方法を用いてよい。
【0034】
(3)焼結工程
成形工程で得られた成形体を焼結することにより、焼結体(焼結磁石)を得る。本発明では、2段階の焼結(第1焼結工程と第2焼結工程)を行って焼結磁石を製造する。また、第1、第2焼結工程のいずれにおいても、一般的な焼結温度より低い焼結温度、一般的な焼結時間より長い焼結時間で焼結する。
【0035】
(3-1)第1焼結工程
第1焼結工程では、成形体を、1010℃~1030℃の範囲内にある第1焼結温度で、12時間~36時間の範囲内にある第1焼結時間で加熱する。これにより、第1焼結体が得られる。
なお、一般的な焼結条件は、焼結温度1040~1060℃で、焼結時間4時間~6時間程度である。つまり、本発明の第1焼結工程の第1焼結温度は、一般的な焼結温度に比べて10~50℃程度低く、第1焼結時間は、一般的な焼結時間に比べて2倍~8倍程度長い。
【0036】
(3-2)第2焼結工程
第2焼結工程では、第1焼結体を、990℃~1020℃の範囲内にあり、かつ前記第1焼結温度よりも10℃以上低い第2焼結温度で焼結する。焼結時間(第2焼結時間)は、17時間~41時間の範囲にあり、かつ前記第1焼結時間よりも5時間以上長いで加熱する。これにより、第2焼結体(焼結磁石)が得られる。
本発明の第2焼結工程の焼結条件において、第2焼結温度は、一般的な焼結温度よりも低い第1焼結温度よりもさらに低く、第2焼結時間は、一般的な焼結時間よりも長い第1焼結時間よりもさらに長い。好ましくは、前記第2焼結工程において、前記第2焼結温度が、990℃~1010℃の範囲内にあり、かつ前記第1焼結温度よりも20℃以上低い。RHの含有量を低減しつつ、より高いHcJと高いHk/HcJを有するR-T-B系焼結磁石を製造することができる。
【0037】
第1焼結工程と、第2焼結工程とは、連続して行ってもよい。つまり、第1焼結工程終了後、第1焼結温度から第2焼結温度まで冷却して、そのまま第2焼結工程を行ってもよい。また、第1焼結工程終了後に一旦室温まで冷却し、その後に第2焼結温度まで昇温して、第2焼結工程を行ってもよい。
なお、第1焼結工程および第2焼結工程のいずれにおいても、焼結時の雰囲気による酸化を防止するために、焼結は、真空雰囲気中または雰囲気ガス中で行うことが好ましい。雰囲気ガスは、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスを用いることが好ましい。
【0038】
(4)熱処理工程
得られた第2焼結体(焼結磁石)に対し、磁気特性を向上させることを目的とした熱処理を行う。熱処理温度は、400℃~800℃の範囲内とする。熱処理時間は既知の条件を用いることができ、例えば60分~300分熱処理をすることができる。例えば、比較的低い温度(400℃以上600℃以下)のみでの熱処理(一段熱処理)をしてもよく、あるいは比較的高い温度(700℃以上800℃以下)で熱処理を行った後比較的低い温度(400℃以上600℃以下)で熱処理(二段熱処理)をしてもよい。好ましい条件は、730℃以上1020℃以下で5分から500分程度の熱処理を施し、冷却後(室温まで冷却後、または440℃以上550℃以下まで冷却後)、さらに440℃以上550℃以下で5分から500分程度熱処理をすることが挙げられる。熱処理雰囲気は、真空雰囲気あるいは不活性ガス(ヘリウムやアルゴンなど)で行うことが好ましい。
【0039】
最終的な製品形状にするなどの目的で、得られた焼結磁石に研削などの機械加工を施してもよい。その場合、熱処理は機械加工前でも機械加工後でもよい。さらに、得られた焼結磁石に、表面処理を施してもよい。表面処理は、既知の表面処理であってもよく、例えばAl蒸着や電気Niめっきや樹脂塗料などの表面処理を行うことができる。
【0040】
このようにして得られた焼結磁石は、HcjとHk/HcJが共に向上されていた。
【実施例】
【0041】
R-T-B系焼結磁石がおよそ表1のNo.M1~M4に示す組成となるように、各元素を秤量してストリップキャスト法により鋳造し、フレーク状の合金を得た。得られたフレーク状の合金を水素加圧雰囲気で水素脆化させた後、550℃まで真空中で加熱、冷却する脱水素処理を施し、粗粉砕粉を得た。次に、得られた粗粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を粗粉砕粉100質量%に対して0.04質量%添加、混合した後、気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて、窒素雰囲気中で乾式粉砕し、D50が4.3μmの合金粉末を得た。得られた合金粉末の成分分析結果を表1のNo.M1~M4に示す。表1における各成分(O、N及びC以外)は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を使用して測定した。また、O(酸素)含有量は、ガス融解-赤外線吸収法、N(窒素)含有量は、ガス融解-熱伝導法、C(炭素)含有量は、燃焼-赤外線吸収法によるガス分析装置を使用して測定した。
【0042】
前記合金粉末に、液体潤滑剤を微粉砕粉100質量%に対して、0.3質量%添加、混合した後、磁界中成形し、成形体を得た。なお、成形装置は、磁場印加方向と加圧法方向とが直行する、いわゆる直角磁界成形装置(横磁界成形装置)を用いた。
【0043】
得られた成形体を表2に示す条件で第一焼結工程、第二焼結工程及び熱処理工程を行いR-T-B系焼結磁石を得た。例えば表2のサンプルNo.1は、No.M1の合金粉末を成形して得られた成形体を1020℃の温度で24時間加熱した後室温まで冷却して第一焼結体を得た後、前記第一焼結体を1000℃の温度で36時間加熱した後室温まで冷却して第二焼結体を得た後、前記第二焼結体を800℃で2時間加熱した後、490℃まで降温し、さらに490℃で3時間加熱したものである。サンプルNo.2~24も同様に記載している。なお、サンプルNo.5~12は、第二焼結工程は行っていない。
【0044】
得られたR-T-B焼結磁石に機械加工を施し、縦7mm、横7mm、厚み7mmの試料を作製し、B-Hトレーサによって磁気特性を測定した。その結果を表3に示す。なお、HkはJ(磁化の大きさ)-H(磁界の強さ)曲線の第2象限において、Jが0.9×Jr(Jrは残留磁化、Jr=Br)の値になる位置のHの値である。
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
本明細書では、HcJとHk/HcJの良否判断は、それぞれHcJ>1300kA/m、Hk/HcJ>85を満たすかどうかで判断される。発明は、HcJとHk/HcJが共に高い、つまり「HcJ>1300kA/m、かつ、Hk/HcJ>85」の条件を満たすものを「本発明例」とし、HcJ、Hk/HcJの一方または両方が低いために「「HcJ>1300kA/m、かつ、Hk/HcJ>85」の条件を満たさないものを「比較例」とする。
表3に示すように、本発明例(サンプルNo.1~3)はいずれもHcJ>1300kA/m、かつ、Hk/HcJ>85を満たし、高いHcJと高いHk/HcJを有している。 これに対し、サンプルNo.4は、第一焼結工程、第二焼結工程及び熱処理工程の条件は本発明の規定を満たしているが、組成が本発明の規定の範囲外であるため、高いHk/HcJが得られているものの、HcJが大きく低下しているため、「HcJ>1300kA/m、かつ、Hk/HcJ>85」の条件を満たさず、高いHcJと高いHk/HcJを共に得ることができなかった。
また、第一焼結工程の第1焼結温度及び第1焼結時間が本発明の範囲外で、さらに第二焼結工程を行っていないサンプルNo.5~12、第一焼結工程の第1温度が本発明の範囲外であるサンプルNo.13~16、第二焼結工程の第2焼結温度が本発明の範囲外であるNo.17~20、及び第一焼結工程と第二焼結工程の加熱温度が同じであるNo.21~24は、いずれも「HcJ>1300kA/m、かつ、Hk/HcJ>85」の条件を満たさず、高いHcJと高いHk/HcJを共に得ることができなかった。