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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】ガス検出器
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20220209BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
G01N27/12 B
G01N27/04 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020536457
(86)(22)【出願日】2019-07-25
(86)【国際出願番号】 JP2019029238
(87)【国際公開番号】W WO2020031723
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2018151404
(32)【優先日】2018-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000112439
【氏名又は名称】フィガロ技研株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000190301
【氏名又は名称】新コスモス電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】竹内 雅人
(72)【発明者】
【氏名】古野 純平
(72)【発明者】
【氏名】福井 健太
(72)【発明者】
【氏名】井澤 邦之
(72)【発明者】
【氏名】佐井 正和
(72)【発明者】
【氏名】三橋 弘和
(72)【発明者】
【氏名】谷口 卓史
【審査官】櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-242269(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152645(WO,A1)
【文献】特表2010-509056(JP,A)
【文献】特開2011-212565(JP,A)
【文献】特開2008-128687(JP,A)
【文献】国際公開第2017/138190(WO,A1)
【文献】特表2017-531163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/04,27/12
B01D 53/02-53/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルタを介して雰囲気をガス検出部へ導入するガス検出器において、
前記フィルタは酸性基あるいは塩基性基を有しかつ通気性の有機高分子膜であり、前記有機高分子膜は、有機高分子膜内をガスが透過し、かつシロキサン分子が有機高分子膜内に固定されるように構成されていることを特徴とする、ガス検出器。
【請求項2】
前記ガス検出器はガスセンサであり、
前記ガス検出部と前記フィルタに加えて、前記ガス検出部を収容しかつ前記フィルタが取り付けられているハウジングを備えていることを特徴とする、請求項1のガス検出器。
【請求項3】
前記有機高分子膜は、酸性基としてカルボキシル基を有するか、あるいは塩基性基としてアミノ基を有することを特徴とする、請求項1または2のガス検出器。
【請求項4】
前記有機高分子膜は多糖類の膜であることを特徴とする、請求項1または2のガス検出器。
【請求項5】
前記有機高分子膜は、カルボキシル基を有するカルボキシメチルセルロースの膜、あるいはアミノ基を有するキトサンの膜であることを特徴とする、請求項1または2のガス検出器。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はガスセンサ等のガス検出器に関し、特にそのフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の有機高分子通気性膜を、ガスセンサのフィルタとすることが知られている(例えば特許文献1:特開2008-128687A)。このような有機高分子通気性膜は、水素等の小さな分子を速やかに透過させる一方で、分子量の大きなガスはゆっくりとしか透過させない。このため有機高分子通気性膜は、シロキサンガスのフィルタとして有望である。
【0003】
特許文献2(特開2011-212565A)は、Nafion(NafionはE.I.Dupont社の商標)等のイオン交換樹脂をシロキサンガスのフィルタとすることを開示している。イオン交換樹脂は、シロキサンガスを効率的に吸収あるいは吸着するとされている。またイオン交換樹脂は例えばビーズ状とし、シリカ担体にNafionを担持させても良いとされている。特許文献3(WO2017-138190A)はメソポーラスシリカにスルホ基を含有させると、シロキサン分子をメソポーラスシリカ内で重合させることができることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-128687A
【文献】特開2011-212565A
【文献】WO2017-138190A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機高分子通気性膜を長期間シロキサンガスに暴露すると、シロキサン分子が膜中に蓄積し、いずれは膜を透過し、ガス検出部を被毒すると考えられる。
この発明の課題は、有機高分子通気性膜中にシロキサン分子を固定し、その透過を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、フィルタを介して雰囲気をガス検出部へ導入するガス検出器において、フィルタは酸性基あるいは塩基性基を有しかつ通気性の有機高分子膜であることを特徴とする。好ましくは、ガス検出器はガスセンサであり、ガス検出部とフィルタに加えて、ガス検出部を収容しかつフィルタが取り付けられているハウジングを備えている。またフィルタはガスセンサのハウジングの外部に設けても良い。例えば、フィルタのないガスセンサを吸引パイプの基端などに収容し、パイプの先端など、ガスセンサへのガス流路の上流側に、この発明のフィルタを設けても良い。このようにしてもフィルタの作用は同一である。
【0007】
好ましくは、通気性有機高分子膜は酸性基としてカルボキシル基を有するか、あるいは塩基性基としてアミノ基を有する。これ以外にスルホ基、リン酸基等でも良い。膜内に拡散したシロキサン分子は、-(O-Si-O)-の部分が酸性基あるいは塩基性基に固定されることにより、膜からの脱離が妨げられる。そして膜中のシロキサン濃度が増し、-(O-Si-O)-の部分で加水分解されたシロキサン分子が重合すると、シロキサンは膜に完全に固定される。以上のように、酸性基あるいは塩基性基の導入により、シロキサンは膜を透過し難くなる。なお通気性有機高分子膜を、上記のように膜と呼び、あるいは高分子膜、通気性膜などと呼ぶことがある。
【0008】
好ましくは、通気性の有機高分子膜は多糖類の膜である。多糖類膜はセルロース膜、キトサン膜、フコイダン膜、その他の酸性多糖類の膜等である。これらの多糖類膜はカルボキシル基等の酸性基、あるいはアミノ基等の塩基性基を最初から備えていたり、あるいはスルホ基等の酸性基、もしくは塩基性基を導入することができる。多糖類膜の他に、合成高分子からなる気体選択性透過膜に、酸性基あるいは塩基性基を導入しても良い。例えばNafion等のプロトン導電性高分子、あるいは水酸イオン導電性高分子等を導入すれば良い。特許文献1に記載のように、PTFE膜はガスセンサのレスポンスを損ねない程度の通気性を有し、かつセルロース膜、気体選択性透過膜なども高い通気性を有するので、膜によるガスセンサのレスポンスの低下は僅かである。
【0009】
有機高分子膜は特に好ましくは、カルボキシル基を有するカルボキシメチルセルロースの膜、あるいはアミノ基を有するキトサンの膜である。
【0010】
有機高分子膜はキャスティング、スピンコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング等により成膜し、単独の膜でも、支持膜上に成膜した膜でも良い。膜はハウジングに取り付けられ、ハウジング外の雰囲気は膜を透過してハウジング内部のガス検出部に達する。
【0011】
膜の通気性の機構は任意で、例えば孔径がnmオーダーでかつ連続したミクロポアが存在し、ミクロポアをガス分子が拡散する機構でも良い。また膜に大きな自由容積(高分子が占有していないスペース)があり、膜に溶解したガス分子が自由容積間をホッピングしながら拡散する機構でも良い。
【0012】
この発明では、膜内をガスが透過し、ガス検出部に達する。そして酸性基及び塩基性基の機能は、膜内にシロキサン分子を固定することである。この時、シロキサン分子は膜内で分子運動が制限され、姿勢が固定されやすいため、酸性基あるいは塩基性基に安定して固定され反応しやすい。これに対して特許文献2では、Nafion膜はシリカ等の担体に担持され、膜内をガスを透過させるものではない。またシロキサンガスの除去機構は、膜表面に吸着したシロキサン分子の加水分解による重合と考えられる。さらにシロキサン分子はnafion膜と気相との界面にあり運動しやすいため、重合にはスルホ基のような強い官能基が必要であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例のガスセンサの断面図
図2】実施例での積層膜の断面図
図3】実施例でのチップの平面図
図4】実施例でのガスセンサの駆動パターンを示す図
図5】シロキサン(D5×100ppm)に対する実施例と比較例の耐久性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例
【0015】
図1図4に実施例のガスセンサ2を示し、図5に試験結果を示す。ガスセンサ2は例えばSiチップ4を備え、Siチップ4はガス検出部の例である。Siチップ4はセラミック等のハウジング5に収容され、ダイボンド等によりハウジング5内に固定されている。ハウジング5の開口部をセラミックスのリッド6が覆い、複数の開口7からハウジング外の雰囲気をフィルタ8へ供給する。リッド6の内面(Siチップ4側の面)に膜状のフィルタ8が取り付けられている。なおガス検出部の種類とハウジングの構造は任意である。
【0016】
フィルタ8は、例えば多孔質の支持膜10上に、通気性有機高分子膜12を積層した膜である。通気性有機高分子膜12を単に膜12ということがあり、膜12の厚さは例えば0.1μm~5μm程度である。支持膜10は連続気孔を有する合成樹脂あるいは多糖類の膜で、膜厚は例えば1μm~100μm程度である。実施例では支持膜10により、通気性有機高分子膜12の取扱いを容易にするが、支持膜10はなくても良い。
【0017】
通気性有機高分子膜12は、カルボキシルメチルセルロース、硫酸化セルロース、フコイダン、キトサン等の多糖類から成り、カルボキシル基(カルボキシメチルセルロース)、スルホ基(硫酸化セルロース及びフコイダン)、アミノ基(キトサン)等の酸性基あるいは塩基性基を備えている。これらの官能基以外に、リン酸基、塩基性の水酸基等を備えていても良い。以下では、酸性基及び塩基性基を単に官能基という。
【0018】
多糖類の膜では長鎖状の分子が規則的に配列されやすいので、連続したマイクロポアが生じやすい。そしてこのマイクロポアがガスの拡散経路となると考えられる。またカルボキシル基、アミノ基等の官能基間の水素結合が規則的なマイクロポアが生じる原因と考えられ、官能基はマイクロポアの付近に存在すると考えられる。官能基はシロキサン分子の-(O-SiO)-部分と水素結合し、シロキサン分子のこの部分と加水分解等により反応し、シロキサン分子を固定すると考えられる。そして膜内にシロキサン分子が蓄積されると、固定されたシロキサン分子同士が重合すると考えられる。発明者は、メソポーラスシリカにスルホ基を導入すると、吸着したシロキサン分子を重合させることができることを確認している(特許文献3)。膜内でも同様の機構が作用し、膜内に拡散したシロキサン分子は加水分解により重合するはずである。
【0019】
カルボキシメチルセルロース等の膜は、アルカリと反応させると水溶性になり、酸で処理すると水に不溶になる。そこで水溶性の状態で成膜し、酸で処理することにより水に不溶な膜にできる。水溶性の状態と水に不溶な状態との間の操作が難しい膜は、適宜の溶媒に溶かして成膜し、溶媒を除去することにより安定な膜に変化させることができる。
【0020】
多糖類の膜以外に、気体選択性透過膜として知られる高通気性の合成樹脂膜に、酸性基あるいは塩基性基を導入しても良い。例えばフッ素樹脂系の気体選択性透過膜にnafionを導入しても良い。気体選択性透過膜(フッ素樹脂系の合成樹脂膜)の材料もNafion膜の材料も溶液として商業的に入手でき、これらを混合して成膜すると、気体選択性透過膜にスルホ基を導入できる。
【0021】
図3にSiチップ4を示し、Siチップ4は電極とヒータを備えるマイクロホットプレート20をキャビティ26上に備えている。ホットプレート20はビーム24により支持され、ホットプレート20上に膜状の金属酸化物半導体22が設けられている。28はパッドである。
【0022】
図1に戻り、Siチップ4のパッドはリード線16を介して、ハウジング5に設けた端子17に接続されている。
【0023】
図4はガスセンサ2の動作パターンを示す。ガスセンサ2は周期Pで動作し、1周期毎に時間T1の間、250℃~450℃程度の動作温度へ加熱され、加熱時の金属酸化物半導体の抵抗値から、ガスを検出する。
【0024】
ガス検出部はSiチップ4に限らず、ガスの検出材料は金属酸化物半導体に限らない。例えば接触燃焼触媒をガス検出材料としても良く、その場合、膜状の接触燃焼触媒をホットプレート20上に設けるか、図示しないヒータコイルに接触燃焼触媒を支持させるかは任意である。また金属酸化物半導体22の場合も、ホットプレート20以外のものに支持させても良い。さらにガス検出部として、液体あるいは固体の電解質に、検出極と対極、あるいはこれらに加えて参照極を接続した電気化学ガスセンサを用いても良い。シロキサンは触媒毒であり、接触燃焼式ガスセンサ中のPt触媒等を被毒し、電気化学ガスセンサの検出極でのPt触媒等を被毒する。そこでこの発明のフィルタにより、これらのガスセンサの被毒を防止できる。
【0025】
図5は、シロキサンへの耐久試験(100ppmのD5中に10日間暴露)の結果を示す。用いたガスセンサは図1図3のもので、実施例(実線)ではカルボキシメチルセルロースの薄膜(膜厚約0.5μm)を用い、比較例(破線)ではメチルセルロースの薄膜(膜厚約0.4μm)を用いた。D5への暴露に伴う、水素10ppmへの感度変化とエタノール10ppmの感度変化を測定し、暴露前の検量線から暴露中及び暴露後の感度を水素とエタノールの濃度に換算して示す。
【0026】
比較例では暴露の後期から水素感度が増し、これはシロキサンによる被毒の兆候である。実施例ではシロキサン被毒の兆候は観察されなかった。
【0027】
カルボキシメチルセルロース膜についてデータを示した。しかし他の膜でも、通気性の有機高分子膜内に酸性基あるいは塩基性基を導入することにより、膜内にシロキサン分子を固定すると共に、シロキサン分子を重合させることにより、シロキサンガスの透過を防止できる。
【0028】
有機高分子膜内に酸性基あるいは塩基性基を導入する方法は任意である。例えば水と酢酸ビニルのエマルジョンに、食塩、砂糖、微細な油滴などを含有させて成膜する。次いで水により食塩、砂糖などを除去する、あるいは油により油滴を除去すると、多孔質の酢酸ビニル膜が得られる。この膜に、有機スルホン酸化合物などの水溶液を含浸し乾燥すると、有機スルホン酸化合物を膜の細孔内に導入できる。酢酸ビニルに限らず、多孔質の有機高分子ガス透過膜に、有機酸性化合物、あるいは有機塩基性化合物の水溶液などを含浸させ、乾燥しても良い。
【0029】
有機高分子膜に対する有機酸性物質あるいは有機塩基性物質の濃度は任意で、例えば細孔径が小さい場合、濃度も低くなる。細孔径が大きい場合、濃度を高めることができる。例えば酢酸ビニルに有機スルホン酸化合物を担持させる場合、有機スルホン酸化合物と膜の重量比は1:100~30:100程度が好ましい。
【符号の説明】
【0030】
2 ガスセンサ
4 Siチップ(ガス検出部)
5 ハウジング
6 リッド
7 開口
8 フィルタ
10 支持膜
12 通気性有機高分子膜
16 リード線
17 端子
20 マイクロホットプレート
22 金属酸化物半導体
24 ビーム
26 キャビティ
28 パッド
図1
図2
図3
図4
図5