(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】計測用X線CT装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/046 20180101AFI20220209BHJP
【FI】
G01N23/046
(21)【出願番号】P 2018039719
(22)【出願日】2018-03-06
【審査請求日】2021-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】特許業務法人MTS国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【氏名又は名称】松山 圭佑
(74)【代理人】
【識別番号】100144299
【氏名又は名称】藤田 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100150223
【氏名又は名称】須藤 修三
(72)【発明者】
【氏名】境 久嘉
(72)【発明者】
【氏名】高橋 哲人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 誠治
(72)【発明者】
【氏名】小林 香苗
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-296340(JP,A)
【文献】特開2010-151775(JP,A)
【文献】特開2012-161471(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0260859(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N 23/2276
A61B 6/00-A61B 6/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源とX線検出器との間に、測定対象を搭載する回転テーブルと、該回転テーブルを測定空間領域の任意位置に移動可能な走査機構を備えた計測用X線CT装置において、
前記回転テーブルの回転軸の傾斜を
直接検出する
ための、前記回転テーブルと一体で姿勢変化するように設けられた第1の水準器を含む傾斜検出手段を設け、
前記X線源から放射されるX線の投影画像から求められる前記回転軸の傾斜を基準として、前記傾斜検出手段により移動に伴う前記走査機構の幾何運動誤差に起因する前記回転軸の傾斜の変化量を直接検出し、前記傾斜検出手段からの出力を用いて
形状および寸法測定値を補正することを特徴とする計測用X線CT装置。
【請求項2】
前記傾斜検出手段が、更に、前記X線検出器の傾斜を検出する第2の水準器を含むことを特徴とする請求項
1に記載の計測用X線CT装置。
【請求項3】
X線源とX線検出器との間に、測定対象を搭載する回転テーブルと、該回転テーブルを測定空間領域の任意位置に移動可能な走査機構を備えた計測用X線CT装置において、
前記回転テーブルの回転軸の傾斜を検出する傾斜検出手段を設け、
該傾斜検出手段からの出力を用いて、前記回転軸の傾斜誤差マップを作成し、該傾斜誤差マップを用いて測定値を補正することを特徴とす
る計測用X線CT装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業製品のための計測用X線CT装置に係り、特に測定誤差要因の一つとなる回転軸の傾斜量を測定して補正することによって測定対象の内部構造を含む全面の寸法計測を、より高精度に実施可能な計測用X線CT装置に関する。
【背景技術】
【0002】
計測用X線CT装置は、従来より、外観からでは確認困難な鋳物部品の鬆、溶接部品の溶接不良、および電子回路部品の回路パターンの欠陥など、主に観察・検査に用いられてきた。しかし、近年、3Dプリンタの普及も手伝い、加工品内部の3D寸法計測とその高精度化の需要が増大しつつある。このような需要に対して、長さにトレーサブルな計測用X線CT装置が普及し始め、さらなる寸法計測の高精度化の要求に応えるため、様々な創意工夫が凝らされつつある。
【0003】
図1に従来の計測用X線CT装置の基本的な構成例を示す。計測用X線CT装置1は、X線を放射するX線源2、X線源2から放射されて測定対象Wの周囲および内部を透過するX線ビーム21を検出するX線検出器4、X線源2とX線検出器4の間にあって前記測定対象Wを搭載する回転テーブル6、回転テーブル6を測定空間領域の任意の位置に移動するステージ走査機構5、図示しない駆動制御機構部、およびデータ処理部を主な構成要素としている。図において、9は本体ベース、22はX線源台、41はX線検出器台、51はX軸ステージ、52はY軸ステージ、53はZ軸ステージである。なお、
図1において、X線源2から水平にX線検出器4に向かう方向をX軸、紙面に垂直な方向をY軸として、XY平面に垂直な方向をZ軸とする。
【0004】
測定に当たっては、X線ビーム21を放射した状態で回転テーブル6の回転面盤61上の測定対象Wを回転させ、複数の角度方向(例えば角度分割数1000~6000程度)からX線投影画像データを収集する。収集されたX線投影画像データは、データ処理部において、測定対象Wを水平に横断する後述のスライス面10を基準面として再構成処理がなされ、測定対象Wの3次元ボリュームデータが作られる。
【0005】
なお、上述の計測用X線CT装置による寸法計測をより高精度に実施するためには、測定開始前に装置固有の各種校正を行うことが重要である。例えば特許文献1には校正及び評価用の標準ゲージを用いたX線CT装置の校正方法及び評価方法が記載されている。
【0006】
計測用X線CT装置1における校正として、X線源2やX線検出器4の個体差を補正するために測定対象Wを配置しない状態で行うエア校正、X線検出器4を構成するシンチレータ等の配列の歪みを校正するための歪校正、本発明に係わるスライス面校正、回転軸の振れ幅の中心を校正するための回転中心校正などが挙げられるが、以降の説明においては、本発明に係わりのあるスライス面校正に限定して説明する。
【0007】
スライス面10は、X線源2の焦点FからX線検出器4への垂線の足を結ぶ直線を包含し、かつ、回転軸8と直交する面として定義されている。スライス面10の設定に関しては、いくつかの方法が提案されている。例えば、X線源2の焦点Fから回転テーブル6の回転軸8までの倍率設定された焦点-回転中心間距離FCD(Focus-to-Center Distance)に移動後、基準球7を搭載した回転面盤61を回転させ、Z軸ステージ53をZ軸方向に走査しつつ、X線検出器4に投影される基準球7の軌跡を観察して行われる。ここで、X線検出器4に投影される基準球7の軌跡が一直線になる位置をもって、基準球7の円運動軌跡を含む面がスライス面10となる。
【0008】
このほか、特許文献2に記載のスライスファントムと称する平行平面で挟まれた隙間を有するスライス面設定用校正具を用い、前記平面上の隙間が回転軸に垂直になるように回転面盤上に載置し、Z軸ステージをZ軸方向に走査して、隙間の透過像が最も明瞭になる位置をもってスライス面とする手法もある。
【0009】
以上の方法でスライス面10が求められ、回転テーブル6の座標位置と回転面盤61の上面から基準球7の中心までの高さ寸法を併せて、スライス面10の位置を特定し処理部に記憶させることで設定が完了する。スライス面10の設定後、回転面盤61上に測定対象Wが搭載され、測定対象WのX線CT測定が実行される。設定されたスライス面10は、X線CT測定により取得されたデータを再構成処理する際の基準面として使用される。X線CT測定においては、スライス面を正しく設定することが高精度測定への一要件である。
【0010】
なお、特許文献3には、測定対象の中心線の傾きを検出する手段と、中心線を回転軸に一致させる角度調整手段を設けることが記載されているが、スライス面設定には有効でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2012-189517号公報
【文献】特開2000-298105号公報
【文献】特公平6-92888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、計測用X線CT測定の高精度化の需要が増加する一方で、高精度測定には、より適切な各種校正が必要となる。
図2は、測定作業者によって指定された所定の測定倍率に対応する位置FCD´に回転テーブル6が移動した時の状態を示す。回転テーブル6の移動は、ステージ走査機構5を駆動させることにより行われる。ステージ走査機構5は、X軸ステージ51、Y軸ステージ52、およびZ軸ステージ53がシリアルに構成されている。例えば、
図2は、回転テーブル6の移動に伴って、XZ平面(紙面)内において回転軸8が角度φだけ傾斜した様子を示している。その傾斜角φは、X軸ステージ51のピッチング、Y軸ステージ52のローリング、およびZ軸ステージ53のヨーイングの角度の誤差成分の合計値である。つまり、回転テーブル6を移動する際、ステージ走査機構5が有する固有の機構運動誤差のために、回転テーブル6の回転軸8の倒れが発生する。
【0013】
計測用X線CTの測定では、測定対象Wの測定ポイントや拡大倍率の選定および要求精度によって、回転テーブル6を測定空間内で適切な位置に移動させるが、前述のように、高精度な寸法測定のためには、回転テーブル6が移動する度毎に、スライス面10の設定を適切に実行することが要求される。しかし、測定の高精度化のためのスライス面10の設定は、一方で、多くの工数を要し測定効率を妨げるという問題がある。前述のスライス面設定方法では、Z軸ステージ53をZ軸方向に走査し、スライス面10と回転軸8が直交する位置を透過像を観察しながら探査するという煩雑な作業を伴い、しかも、必ずしも任意位置でのスライス面10の設定ができないという問題もある。
【0014】
本発明は上述の実情に鑑みてなされたものであり、測定倍率を決めるFCD値の位置への移動の度毎に、スライス面設定作業を実施することなく、測定空間における任意の位置で、スライス面の設定を可能とし、一旦スライス面が設定されれば回転テーブルの移動に関わりなく設定が維持され、校正作業工数の削減による効率的で高精度なX線CT測定を可能とすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、X線源とX線検出器との間に、測定対象を搭載する回転テーブルと、該回転テーブルを測定空間領域の任意位置に移動可能な走査機構を備えた計測用X線CT装置において、前記回転テーブルの回転軸の傾斜を直接検出するための、前記回転テーブルと一体で姿勢変化するように設けられた第1の水準器を含む傾斜検出手段を設け、前記X線源から放射されるX線の投影画像から求められる前記回転軸の傾斜を基準として、前記傾斜検出手段により移動に伴う前記走査機構の幾何運動誤差に起因する前記回転軸の傾斜の変化量を直接検出し、前記傾斜検出手段からの出力を用いて形状および寸法測定値を補正することにより、前記課題を解決するものである。
【0017】
ここで、前記傾斜検出手段が、更に、前記X線検出器の傾斜を検出する第2の水準器を含むことができる。
【0018】
本発明は、又、X線源とX線検出器との間に、測定対象を搭載する回転テーブルと、該回転テーブルを測定空間領域の任意位置に移動可能な走査機構を備えた計測用X線CT装置において、前記回転テーブルの回転軸の傾斜を検出する傾斜検出手段を設け、該傾斜検出手段からの出力を用いて、前記回転軸の傾斜誤差マップを作成し、該傾斜誤差マップを用いて測定値を補正することにより、同様に前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0019】
前述のように、従来の計測用X線CT装置を用いて高精度なCT測定を行う場合、測定作業者は、CT測定の前に各種校正を行う。その中の一つにスライス面校正があり、スライス面の設定後にCT測定が行われるが、その後、必要に応じて測定対象を移動する度毎にスライス面の設定を行う必要があり、測定の作業効率上の課題となっている。これに対して、本発明によれば、最初のスライス面の設定を行えば、以降のスライス面の設定は不要となり、作業効率の高い計測用X線CT装置の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】計測用X線CT装置の基本的な構成例を示す正面図
【
図2】同じく所定の測定倍率に対応するFCD´の位置に回転テーブルを移動した時の状態を示す正面図
【
図3】本発明の第1実施形態で測定対象載置前の状態を示す正面図
【
図5】第1実施形態で用いられている電子水準器の構成を示す断面図
【
図6】本発明の第2実施形態で用いる傾斜角マップの例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態及び実施例に記載した内容により限定されるものではない。又、以下に記載した実施形態及び実施例における構成要件には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。更に、以下に記載した実施形態及び実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせてもよいし、適宜選択して用いてもよい。
【0022】
本発明の第1実施形態を
図3(測定対象載置前の状態)及び
図4(測定対象載置後の状態)に示す。
図3及び
図4では、
図1および
図2に示す基本構成に対して、新たに外部振動を遮断する空気式除振台14と、本発明に関連する第1及び第2の電子水準器16、17が設けられている。空気式除振台14は床面15と本体ベース9の下面の間に設けられ、床面15から伝達される振動外乱を遮断する。
【0023】
電子水準器16、17は、回転テーブル6の底面部と、本体ベース9の上面にそれぞれ配置され、回転テーブル6の回転軸8のX軸方向におけるピッチング成分の傾きは、両者の差動をとる形態で検出される。
【0024】
電子水準器16、17は、
図5に示す如く、例えば被測定面となる傾斜面に接触する3本の脚を有するフレーム161とその内部にフレーム161から支持される振り子162を有し、絶えず重力方向を指向する振り子162とフレーム161との相対的な角度変位をトランスデューサ(例えば差動トランス)163により検出する構成となっている。なお、本方式の電子水準器16、17は、公知の内容であり、市販の電子水準器の適用が可能である。また、電子水準器16、17は重力方向を基準に傾きを検出するが、スライス面校正で必要な情報は、計測用X線CT装置1内における本体ベース9上面の法線(正確にはX線検出器4の表面)に対する回転軸8の相対的な傾き角であるため、2台の電子水準器16、17の差動により検出している。なお、第2の電子水準器17をX線検出器台41の上に配設して精度を高めることもできる。
【0025】
以上により、X線源2をONにして計測用X線CT装置1を立ち上げ後、最初のスライス面校正を実行すれば、それ以降は、回転テーブル6を測定空間領域の任意の位置に移動しても、最初のスライス面校正時を基準とする本体ベース9の上面および回転軸8の傾斜の変化量が取得され、任意位置における本体ベース9の上面に対する回転軸8の相対的な傾斜量が求められる。
【0026】
以上により、X線CT測定で取得された測定対象Wの複数の投影画像、もしくはそれを用いて行われる再構成処理の段階で、2台の電子水準器16、17で求められた回転軸8の傾斜量に基づき補正を行うことで、より高精度な測定対象の3次元ボリュームデータの作成が可能となる。
【0027】
なお、本体ベース9の上面の傾きが問題にならない場合は、第2の電子水準器17を省略することも可能である。
【0028】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。この第2実施形態では、ステージ走査機構5により回転テーブル6を走査し、測定空間領域のいかなる位置においても、回転テーブル6の位置座標とそのときの回転軸8の傾斜角の関係に、十分な再現性が認められることを前提とする。この前提のもとで、事前に測定空間を網羅するX・Y・Z座標の範囲内で回転テーブル6の座標位置に対する回転軸8の傾斜角φを第1実施形態と同様に取得し、
図6に例示するような測定空間領域における回転軸8の傾斜角マップを作成してデータ処理部に記憶させる。
【0029】
次にX線CT測定で取得された測定対象Wの複数の投影画像、もしくはそれを用いて行われる再構成処理の段階で、事前にデータ処理部で記憶された回転軸8の傾斜角φを読込み補正を行うことで、より高精度な測定対象の3次元ボリュームデータの作成が可能となる。
【0030】
なお、前記実施形態においては、水準器として
図5に例示する振り子を利用した電子水準器が用いられていたが、水準器の種類はこれに限定されず、他の電気/電子水準器、例えば気泡の位置を検出する水準器等を用いても良い。
【符号の説明】
【0031】
1…計測用X線CT装置
2…X線源
4…X線検出器
5…ステージ走査機構
6…回転テーブル
8…回転軸
10…スライス面
16、17…(電子)水準器
21…X線ビーム
51…X軸ステージ
52…Y軸ステージ
53…Z軸ステージ
W…測定対象
φ…傾斜角