(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】銅合金線
(51)【国際特許分類】
C22C 9/02 20060101AFI20220210BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20220210BHJP
C22F 1/08 20060101ALN20220210BHJP
【FI】
C22C9/02
C22F1/00 625
C22F1/00 630A
C22F1/00 661A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/08 C
(21)【出願番号】P 2018026065
(22)【出願日】2018-02-16
【審査請求日】2020-09-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鷲見 亨
(72)【発明者】
【氏名】青山 正義
(72)【発明者】
【氏名】秦 昌平
(72)【発明者】
【氏名】早坂 孝
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 威
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆裕
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-126790(JP,A)
【文献】特開2008-001933(JP,A)
【文献】特開2015-005576(JP,A)
【文献】特開2014-077192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/02
C22F 1/08
C22F 1/00
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1000mass ppm以上3000mass ppm以下のSnと、
80mass ppm以上150mass ppm以下のTiと、
100mass ppm以上300mass ppm以下の酸素と、を含有し、残部が銅と不可避不純物からなり、前記銅中に前記Snと前記Tiと前記酸素との化合物が存在している銅合金線。
【請求項2】
前記化合物は、前記銅中の結晶粒内、及び結晶粒界に存在している請求項1に記載の銅合金線。
【請求項3】
前記銅中には、前記Snと前記酸素とからなるSn酸化物を有する請求項1又は2に記載の銅合金線。
【請求項4】
前記銅中には、前記Tiと前記酸素とからなるTi酸化物を有する請求項1又は2に記載の銅合金線。
【請求項5】
導電率が80%IACS以上であり、引張強度が470MPa以上である請求項1~
4のいずれか1項に記載の銅合金線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅合金線に関する。
【背景技術】
【0002】
トロリ線などの電車線に用いられる銅合金線では、高い導電率と耐摩耗性を有する銅合金線が使用されている。このような銅合金線としては、例えばSnが0.1重量%以上0.4重量%以下で含有され、さらにSnよりも酸素との親和力が大きい添加元素が0.01重量%以上0.4重量%以下で含有されたものが知られている(特許文献1参照)。そして、特許文献1に記載の銅合金線では、450MPa以上の引張強度及び60%IACS以上80%IACS未満の導電率を有する銅合金線が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているようなSnを含有する銅合金線では、細径化と大電流化とが求められている用途へ適用したいため、高い引張強度を有しつつ、導電率を更に高くしたい。
【0005】
したがって、本発明の目的は、高い引張強度と高い導電率とを有する銅合金線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記の銅合金線を提供する。
【0007】
[1]1000mass ppm以上3000mass ppm以下のSnと、Tiと、酸素と、を含有し、残部が銅と不可避不純物からなり、前記銅中に前記Snと前記Tiと前記酸素との化合物が存在している銅合金線。
[2]前記化合物は、前記銅中の結晶粒内、及び結晶粒界に存在している上記[1]に記載の銅合金線。
[3]前記銅中には、前記Snと前記酸素とからなるSn酸化物を有する上記[1]又は[2]に記載の銅合金線。
[4]前記銅中には、前記Tiと前記酸素とからなるTi酸化物を有する上記[1]又は[2]に記載の銅合金線。
[5]前記Tiは、80mass ppm以上150mass ppm以下で含有されており、前記酸素は、100mass ppm以上300mass ppm以下で含有されている上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の銅合金線。
[6]導電率が80%IACS以上であり、引張強度が470MPa以上である上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の銅合金線。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高い引張強度と高い導電率とを有する銅合金線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施の形態に係る銅合金線の製造方法を示す図である。
【
図2】鋳造材の横断面におけるビッカース硬さを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔銅合金線〕
本実施の形態に係る銅合金線は、1000mass ppm以上3000mass ppm以下のSnと、チタン(Ti)と、酸素(O)と、を含有し、残部が銅と不可避不純物からなり、前記銅中に前記Snと前記Tiと前記酸素との化合物が存在しているものである。
【0011】
本実施の形態に係る銅合金線では、Snが1000mass ppm以上3000mass ppm以下で含有されていることにより、銅中へSnが固溶するとともに、SnとTiと酸素とで構成される化合物が銅中に存在するため、高い引張強度と高い導電率とを有する銅合金線とすることができる。
【0012】
このとき、Snとともに含有されるTiは、80mass ppm以上150mass ppm以下の含有量で含有されることが好ましく、Snとともに含有される酸素は、100mass ppm以上300mass ppm以下の含有量で含有されることが好ましい。銅合金線では、Tiが80mass ppm以上150mass ppm以下で含有され、さらに、酸素が100mass ppm以上300mass ppm以下で含有されていることにより、SnとTiと酸素との化合物が形成されやすくなるため、後述するSn酸化物が針状の化合物に成長しにくくなる。その結果、得られる銅合金線では、高い引張強度と高い導電率とを有することに加えて、断線が生じにくくなる。
【0013】
本実施の形態に係る銅合金線では、銅中にSnとTiと酸素との化合物が存在している。この化合物としては、Sn-O-Tiである。Sn-O-Tiからなる化合物は、銅の結晶粒界や結晶粒内に存在している。銅合金線は、このようなSn-O-Tiからなる化合物が銅中に存在していることにより、Snのみを添加してSn-OからなるSn酸化物が結晶粒界のみに存在する場合と比べて、結晶粒内、及び結晶粒界に存在するSn-O-Tiからなる化合物が銅の結晶粒径を小さくするとともに、Sn-OからなるSn酸化物を針状の化合物へ成長するのを抑制することができる。なお、Sn-O-Tiからなる化合物の大きさは、例えば、平均粒径が0.5μm以上3.5μm以下であることが好ましい。このような大きさの化合物とすることにより、結晶粒径を微細にすることができるため、高い引張強度が得られやすくなる。
【0014】
すなわち、本発明の実施の形態に係る銅合金線では、特定の含有量で含有するSnがSn-O-Tiからなる化合物の状態で結晶粒内、及び結晶粒界に存在しており、銅中に固溶しているSnの固溶量が少ないため、Snの含有量を多くして引張強度を高くするとともに、導電率を従来よりも高くすることができる。
【0015】
また、銅合金線では、Sn-O-Tiからなる化合物以外に、銅中にSnと酸素とからなるSn酸化物、Tiと酸素とからなるTi酸化物が存在している。このSn酸化物及びTi酸化物は、平均粒径が10μm以下であることが好ましく、より好ましくは、0.5μm以上3.5μm以下である。なお、銅合金線は、このようなSn酸化物及びTi酸化物が銅中に存在していることにより、結晶粒径を微細にすることができるため、高い引張強度が得られやすくなる。
【0016】
銅合金線は、Sn及びTi以外の添加元素としてMgなどが含有されていてもよい。特に、Mgが銅中に固溶していることにより、銅合金線の引張強度を向上させることができる。なお、Mgなどの添加元素は、銅合金線に100mass ppm以上2000mass ppm以下で含有されていることが好ましい。
【0017】
〔銅合金線の製造方法〕
次に、上述した銅合金線の製造方法について、
図1を用いて説明する。
図1は、本実施の形態に係る銅合金線の製造方法を示す図である。
【0018】
本実施の形態に係る銅合金線の製造方法は、
図1に示すように、酸素を含む銅母材11を溶解してなる溶銅14を得る溶解工程(F1)と、溶銅14を鋳造することによって鋳造材15を得る鋳造工程(F2)と、鋳造材15を熱間圧延することによって圧延材(銅合金線材ともいう)16を得る熱間圧延工程(F3)と、銅合金線材16を洗浄して巻き取る洗浄・巻取り工程(F4)と、前工程で得られた荒引き線17を冷間加工する冷間加工工程(F5)と、を少なくとも含むものである。
【0019】
(溶解工程)
溶解工程では、得られる銅合金線18の酸素が100mass ppm以上300mass ppm以下であり、Tiが80mass ppm以上150mass ppm以下であり、Snが1000mass ppm以上3000mass ppm以下であるものになるように、溶解した銅母材にSn及びTiを添加する。具体的には、酸素を含む銅母材を溶解して得られる溶銅にSnを添加し、次いでSnが添加されている溶銅にTiを添加することにより溶銅14が得られる。このように、溶解された銅母材からなる溶銅へSnを添加した後にTiを添加することにより、SnがTiよりも優先してO(酸素)と反応し、Sn-O-Tiからなる化合物を分散させることができる。そのため、高い引張強度と高い導電率とを有する銅合金線18を得ることができる。
【0020】
銅母材11としては、タフピッチ銅、無酸素銅、高純度銅などの純銅からなる電気銅を使用することができる。溶解工程では、このような電気銅からなる銅母材11を例えば1120℃以上1150℃以下で加熱することによって溶解を行い、上述した手順でSn及びTiを添加することによって溶銅14を得る。
【0021】
なお、溶銅14に上述したSn及びTi以外の添加元素(例えば、Mgなど)をさらに添加させることもできる。この場合には、Sn及びTiを添加した後にMgなどの添加元素を添加することが好ましい。溶銅14では、特に添加元素としてMgを添加することにより、得られる銅合金線の引張強度をさらに高めるのに効果的である。
【0022】
(鋳造工程)
次に、鋳造工程(F2)において、溶解工程で得られた溶銅14は、例えばベルト&ホイール方式の連続鋳造に供される。具体的には、鋳造温度(1100℃以上1150℃以下)で鋳造を行うと共に、鋳型を強制水冷し、溶銅14の凝固温度より少なくとも15℃以上低い温度まで急速冷却することによって鋳造材15が得られる。
【0023】
図2は、鋳造工程で得られる鋳造材15の横断面におけるビッカース硬さを示す図である。なお、ビッカース硬さは、鋳造材15に対してJISZ2244に準拠する方法を用いてビッカース硬さ試験を行った。なお、ビッカース硬さ試験における試験力は、1.96Nとした。また、
図2において、試料1は、酸素が300mass ppm、Tiが150mass ppm含有し、残部が銅と不可避不純物からなる鋳造材であり、試料2は、酸素が300mass ppm、Snが3000mass ppm含有し、残部が銅と不可避不純物からなる鋳造材であり、試料3は、酸素が300mass ppm、Snが1000mass ppm、Tiが150mass ppm含有し、残部が銅と不可避不純物からなる鋳造材であり、試料4は、酸素が300mass ppm、Snが3000mass ppm、Tiが150mass ppm含有し、残部が銅と不可避不純物からなる鋳造材である。
【0024】
本実施の形態に係る鋳造材15では、
図2の試料3~4に示す通り、ビッカース硬さが95HV以上であり、非常に高い強度を有していることが分かる。このような強度の高い鋳造材15を用いて得られる銅合金線は、高い引張強度(例えば、470MPa以上の引張強度)を有することができる。
【0025】
(熱間圧延工程)
次に、熱間圧延工程(F3)において、前工程で得られた鋳造材15の温度を900℃以下、好ましくは750℃以上900℃以下に調整した状態で最初の圧延が行われる。その後、鋳造材15には、熱間圧延が多段に施される。最終圧延時において、500℃以上600℃以下の圧延温度で熱間圧延加工を施し、圧延材(銅合金線材)16が形成される。最終圧延温度が、500℃以上600℃以下であると、圧延加工時に圧延材16の表面に傷が発生して表面品質が低下することを防止することができるとともに、圧延材16の結晶組織が粗大化するのを防止することができる。また、銅合金導体18の引張強度を向上させるためには、熱間圧延加工における加工度を高めて圧延材16及び荒引き線17の引張強度を十分に向上させておくことがよい。
【0026】
(洗浄・巻取り工程)
次に、洗浄・巻取り工程(F4)において、全工程で得られた圧延材16を洗浄し、巻取りを行い、荒引き線17が得られる。巻取った荒引き線17の直径は、例えば、8mm以上40mm以下、好ましくは8mm以上30mm以下とされる。例えば、トロリ線としての銅合金線18を得るための荒引き線17の直径は、20mm以上30mm以下が好ましい。
【0027】
(冷間加工工程)
最後に、冷間加工工程(F5)において、巻取った荒引き線17を送り出し、その荒引き線17に、-193℃(液体窒素温度)以上100℃以下、好ましくは-193℃以上25℃以下の温度で冷間加工(伸線加工)を行う。これによって、直径が15mm以下の銅合金線18が得られる。
【0028】
ここで、連続伸線時の加工熱が、銅合金線18に及ぼす影響(引張強度の低下など)を少なくするため、引抜きダイスなどの冷間加工装置の冷却を行い、加工される線材の温度が100℃以下、好ましくは25℃以下となるように調整を行う。また、冷間加工における加工度を50%以上とすることが好ましい。ここで、加工度が50%以上とすることにより、420MPaを超える引張強度を得るのに効果的である。
【0029】
得られた銅合金線18は、例えば公称断面積が110mm2以上170mm2以下のトロリ線、ロボットケーブル、又は鉄道車両用途や医療用途に適用される電線やケーブルの中心導体や外部導体などとされる。
【0030】
〔実施の形態の効果〕
本実施の形態によれば、高い導電率(例えば、80%IACS以上の導電率)と高い引張強度(例えば、470MPa以上の引張強度)を有する銅合金線18を得ることができる。また、本実施の形態によれば、既存あるいは慣用の連続鋳造圧延設備や冷間加工装置を使用することができるため、高い導電率と高い引張強度を有する銅合金線18を低コストで製造することができる。
【実施例】
【0031】
表1では、実施例及び比較例で得られる銅合金線における酸素、Sn、Tiの含有量、Sn-O-Tiからなる化合物の有無、導電率、及び引張強度を示す。
【0032】
【0033】
実施例1~2の銅合金線は、以下の方法によって製造した。具体的には、銅母材を1120℃以上1150℃以下で加熱することによって溶解を行い、溶解した銅母材にSnを添加した後にTiを添加することにより溶銅を製造し、当該溶銅を連続鋳造して鋳造材を製造し、当該鋳造材を750℃以上900℃以下の温度で最初の圧延を行った後、最終圧延時の温度が500℃以上600℃以下となるように熱間圧延を多段に施すことによって圧延材を製造し、当該圧延材を洗浄して巻取ることにより、直径が30mmの荒引き線を製造した。この荒引き線に対して冷間加工を行うことにより、表1に示す含有量からなり、直径が14mmの銅合金を製造した。
【0034】
比較例1~2の銅合金線は、以下の方法によって製造した。具体的には、銅母材を1120℃以上1150℃以下で加熱することによって溶解を行い、溶解した銅母材にSn、又はTiを添加することにより溶銅を製造し、当該溶銅を連続鋳造して鋳造材を製造し、当該鋳造材を750℃以上900℃以下の温度で最初の圧延を行った後、最終圧延時の温度が500℃以上600℃以下となるように熱間圧延を多段に施すことによって圧延材を製造し、当該圧延材を洗浄して巻取ることにより、直径が30mmの荒引き線を製造した。この荒引き線に対して冷間加工を行うことにより、表1に示す含有量からなり、直径が14mmの銅合金を製造した。
【0035】
導電率は、得られた銅合金線に対して、JCBA T603渦流式導電率計による導電率測定方法に準拠する方法によって評価した。また、引張強度は、得られた銅合金線に対して、JISC3002に準拠する方法によって評価した。さらに、化合物の有無は、得られた銅合金線に対して、SEM観察、EDX(エネルギー分散型X線分光法)分析によってSn-O-Tiからなる化合物を特定した。
【0036】
表1に示すように、1000mass ppm以上3000mass ppm以下のSnと、Tiと、酸素と、を含有し、銅中にSnとTiと酸素との化合物が存在している実施例1~2の各銅合金線では、高い導電率(83%IACS以上)と高い引張強度(470MPa以上)とをともに有することが分かる。これに対して、銅中にSnとTiと酸素との化合物が存在していない比較例1~2の各銅合金線では、引張強度が実施例1~2に比べて低いことが分かる。
【0037】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。
【0038】
また、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0039】
11 銅母材
14 溶銅
15 鋳造材
16 圧延材
18 銅合金線