(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】脱銅電解処理方法、脱銅電解処理装置
(51)【国際特許分類】
C25C 1/08 20060101AFI20220210BHJP
C25C 1/12 20060101ALI20220210BHJP
C25C 7/06 20060101ALI20220210BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20220210BHJP
C22B 23/06 20060101ALI20220210BHJP
C22B 15/00 20060101ALI20220210BHJP
C22B 3/46 20060101ALI20220210BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
C25C1/08
C25C1/12
C25C7/06 301A
C22B23/00 102
C22B23/06
C22B15/00 107
C22B3/46
C22B3/44 101B
(21)【出願番号】P 2018067228
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2020-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】若松 貴文
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄大
(72)【発明者】
【氏名】伊達 秀一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英明
(72)【発明者】
【氏名】大石 貴雄
【審査官】大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-346269(JP,A)
【文献】特開平03-180482(JP,A)
【文献】国際公開第2011/162254(WO,A1)
【文献】特開2012-026027(JP,A)
【文献】特開2001-262389(JP,A)
【文献】特開平11-080986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 1/08
C25C 1/12
C25C 7/06
C22B 23/00
C22B 23/06
C22B 15/00
C22B 3/46
C22B 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル硫化物に対して塩素浸出処理を施して得られる含銅塩化ニッケル溶液から電解採取法により電気ニッケルを製造する電気ニッケルの製造プロセスにおける脱銅電解処理の方法であって、
前記電気ニッケルの製造プロセスは、
前記含銅塩化ニッケル溶液にニッケル硫化物を添加し、少なくとも、該含銅塩化ニッケル溶液中の2価銅イオンを1価銅イオンに還元する第1のセメンテーション工程と、
前記第1のセメンテーション工程を経て得られたスラリーに、ニッケルマット及び前記塩素浸出処理により得られた塩素浸出残渣を添加し、該スラリーに含まれる1価銅イオンを硫化物として固定化する第2のセメンテーション工程と、を有するセメンテーション工程を含み、
前記脱銅電解処理では、チタンを含む金属により構成され、銅が析出する表面の算術平均粗さ(Ra)が0.2μm~1.2μmであり、最大高さ(Rz)が1.2μm~6.0μmである負極と、正極とを備えた電解槽に、前記セメンテーション工程における前記第1のセメンテーション工程を経て得られた反応終液の一部を脱銅電解処理始液として給液して脱銅電解処理を施す
脱銅電解処理方法。
【請求項2】
前記脱銅電解処理始液の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)を300mV~470mVの範囲として電解処理を施す
請求項1に記載の脱銅電解処理方法。
【請求項3】
ニッケル硫化物に対して塩素浸出処理を施して得られる含銅塩化ニッケル溶液から電解採取法により電気ニッケルを製造する電気ニッケルの製造プロセスにおける脱銅電解処理
に用いられる脱銅電解処理装置であって、
前記電気ニッケルの製造プロセスは、
前記含銅塩化ニッケル溶液にニッケル硫化物を添加し、少なくとも、該含銅塩化ニッケル溶液中の2価銅イオンを1価銅イオンに還元する第1のセメンテーション処理と、
前記第1のセメンテーション処理を経て得られたスラリーに、ニッケルマット及び前記塩素浸出処理により得られた塩素浸出残渣を添加し、該スラリーに含まれる1価銅イオンを硫化物として固定化する第2のセメンテーション処理と、からなる2段階のセメンテーション処理を行うセメンテーション工程を含むプロセスであり、
当該脱銅電解処理装置は、
正極と負極とからなる電極対を備える電解槽が設けられ、
前記正極は、不溶性電極により構成され、
前記負極は、チタンを含む金属により構成され、銅が析出する表面の算術平均粗さ(Ra)が0.2μm~1.2μmであり、最大高さ(Rz)が1.2μm~6.0μmであ
り、
前記電解槽に対して前記セメンテーション工程における前記第1のセメンテーション処理を経て得られる反応終液の一部が脱銅電解処理始液として給液されて、前記脱銅電解処理が実行される
脱銅電解処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含銅塩化ニッケル溶液から電解採取法により電気ニッケルを製造する電気ニッケルの製造プロセスにおける脱銅電解処理方法、及びその脱銅電解処理に用いられる脱銅電解処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルを含有する硫化物から目的金属を回収する湿式製錬プロセスとして、原料であるニッケルマットやニッケルコバルト混合硫化物(MS:ミックスサルファイド、単に「ニッケル硫化物」ともいう)を塩素浸出し、得られた浸出液から不純物を除去して、電解工程にて電気ニッケルや電気コバルトを回収する方法がある。
【0003】
例えば
図7に示すように、塩素浸出工程にて得られた塩素浸出液(含銅塩化ニッケル溶液)は、セメンテーション工程との間に備えられた脱銅電解工程(図示せず)において余剰の銅が除去(例えば特許文献1~3を参照)され、さらに、脱鉄工程において鉄や砒素等の不純物が除去された後、コバルト溶媒抽出工程に送られる。
【0004】
コバルト溶媒抽出工程では、溶媒抽出によりニッケルとコバルトとを分離し、塩化ニッケル溶液(NiCl2)と塩化コバルト溶液(CoCl2)とを得る。塩化ニッケル溶液は、浄液工程にてさらに不純物が除去され高純度となってニッケル電解工程へと送られ、電解採取により電気ニッケルが製造される。また、塩化コバルト溶液も、浄液工程にてさらに不純物が除去され高純度となってコバルト電解工程に送られ、電解採取により電気コバルトが製造される。
【0005】
さて、脱銅電解工程では、従来、塩素浸出液の一部を脱銅電解処理の始液として脱銅電解設備に供給して、カソード側に銅を析出させて除去している。
【0006】
塩素浸出液中に含まれる銅は、主として2価銅イオン(Cu2+)であり、カソード側では主に下記式(1)で示す反応が生じて銅が電着する。
Cu2++2e-→Cu0 ・・・(1)
【0007】
ここで、特許文献4には、電気ニッケルの製造プロセスにおけるセメンテーション工程を改良した技術として、2段階のセメンテーション処理を実行するようにして、含銅塩化ニッケル水溶液から銅を除去する技術が開示されている。この方法によれば、第1のセメンテーション工程にて、塩素浸出液にニッケル硫化物を添加することで塩素浸出液中の2価銅イオンを1価銅イオンに還元し、続く第2のセメンテーション工程にて、ニッケルマット及び塩素浸出残渣を添加することで1価銅イオンを硫化物の形態に固定化することができ、効率的かつ効果的に塩素浸出液から銅を除去することができる。
【0008】
本件出願人は、このような2段階のセメンテーション処理を実行する方法を前提として、脱銅電解処理を行う脱銅電解工程において、第1のセメンテーション工程を経て得られる反応終液の一部を、脱銅電解処理の処理始液として用いる技術を提案している(特願2017-105799号)。上述したように、2段階のセメンテーション処理では、第1のセメンテーション工程において、主として、塩素浸出液中の2価銅イオンを1価銅イオンに還元する反応が生じる。したがって、この第1のセメンテーション工程での反応を経て得られる反応終液に含まれる銅イオンは、そのほとんどが1価銅イオンの形態となっている。
【0009】
このことから、第1のセメンテーション工程を経て得られる反応終液の一部を、脱銅電解工程における処理始液(電解液)として用いることで、カソード側では下記式(2)に示す反応を効率的に生じさせることが可能となり、脱銅電解処理における電流効率、すなわち電流当たりの回収効率を従来の方法(上記式(1)の反応)に比べておよそ2倍に向上させることができる。なお、アノード側では下記式(3)に示す反応が生じる。
カソード側:Cu++e-→Cu0 ・・・(2)
アノード側:2Cl-→Cl2+2e- ・・・(3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平11-80986号公報
【文献】特開2001-262389号公報
【文献】特開2016-89259号公報
【文献】特開2012-26027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように、脱銅電解工程での処理において、第1のセメンテーション工程から得られる反応終液の一部を脱銅電解処理の始液として用いることによって、効果的に電流効率を向上させることができる。
【0012】
しかしながら、電解処理の電流効率が向上することに伴って、カソードの表面に電着する銅粉の生成速度も上昇する。カソードの表面に電着した銅粉は、デンドライト状、あるいは樹枝状と呼ばれる形状を示す。この銅粉は、例えばエアーシリンダーを用いたビーム落下方式等の手段により間欠的に払い落とされ、脱銅電解槽の槽底に集められ、間欠的に銅粉スラリーとして抜出される。ところが、前記のように、第1のセメンテーション工程から得られる反応終液の一部を脱銅電解処理の始液として用いた場合には、銅粉の生成速度が上昇するため、例えば払い落とし頻度を倍にする等の対応をしてもなお、カソードの表面に銅粉が残留してしまい、対向して設けられたアノードの表面の近傍にまで成長してしまうという問題が生じる。このような銅粉の成長を「銅粒の異常成長」ともいう。銅粒の異常成長は、電極間でのショートの発生原因になり、そのため、電解槽への通電を停止(停電)させて、カソード表面にて成長した銅粒を人手で除去する作業が必要となる。
【0013】
銅粒の除去に伴う電解槽の停電操作は、電解槽の稼働率(電解処理の通電時間率)を著しく低下させるものである。また、銅粒の除去作業は、脱銅電解処理操業における作業負荷を増大させるものであり、言い換えれば作業効率を低下させる。また、銅粒の除去作業時に、無暗に銅粒を槽底に落下させると、脱銅電解槽の槽底にある底抜き弁を閉塞させるという別のトラブルを引き起こしてしまうこともある。なお、電解槽の稼働率とは、1日通電し続けた場合の通電時間を100%としたときの実通電時間の割合をいう。
【0014】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、脱銅電解工程での脱銅電解処理において、高い電流効率を維持しながら、銅粒の異常成長によるショート等の不具合の発生や作業効率の低下を防ぐことができる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、2段階のセメンテーション処理を実行する電気ニッケルの製造プロセスにおける第1のセメンテーション工程を経て得られる反応終液の一部を、脱銅電解処理の処理始液として用いた脱銅電解処理において、電解槽に備える負極の表面粗さを制御することで、負極表面における銅粉の残留を抑え、負極からの落下を促進して、上述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
(1)本発明の第1の発明は、ニッケル硫化物に対して塩素浸出処理を施して得られる含銅塩化ニッケル溶液から電解採取法により電気ニッケルを製造する電気ニッケルの製造プロセスにおける脱銅電解処理の方法であって、前記電気ニッケルの製造プロセスは、前記含銅塩化ニッケル溶液にニッケル硫化物を添加し、少なくとも、該含銅塩化ニッケル溶液中の2価銅イオンを1価銅イオンに還元する第1のセメンテーション工程と、前記第1のセメンテーション工程を経て得られたスラリーに、ニッケルマット及び前記塩素浸出処理により得られた塩素浸出残渣を添加し、該スラリーに含まれる1価銅イオンを硫化物として固定化する第2のセメンテーション工程と、を有するセメンテーション工程を含み、前記脱銅電解処理では、チタンを含む金属により構成され、銅が析出する表面の算術平均粗さ(Ra)が0.2μm~1.2μmであり、最大高さ(Rz)が1.2μm~6.0μmである負極と、正極とを備えた電解槽に、前記セメンテーション工程における前記第1のセメンテーション工程を経て得られた反応終液の一部を脱銅電解処理始液として給液して脱銅電解処理を施す、脱銅電解処理方法である。
【0017】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記脱銅電解処理始液の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)を300mV~470mVの範囲として電解処理を施す、脱銅電解処理方法である。
【0018】
(3)本発明の第3の発明は、ニッケル硫化物に対して塩素浸出処理を施して得られる含銅塩化ニッケル溶液から電解採取法により電気ニッケルを製造する電気ニッケルの製造プロセスにおける脱銅電解処理を実行する脱銅電解処理装置であって、正極と負極とからなる電極対を備える電解槽が設けられ、前記負極は、チタンを含む金属により構成され、銅が析出する表面の算術平均粗さ(Ra)が0.2μm~1.2μmであり、最大高さ(Rz)が1.2μm~6.0μmである、脱銅電解処理装置である。
【0019】
(4)本発明の第4の発明は、第3の発明において、前記電気ニッケルの製造プロセスでは、前記含銅塩化ニッケル溶液にニッケル硫化物を添加し、少なくとも、該含銅塩化ニッケル溶液中の2価銅イオンを1価銅イオンに還元する第1のセメンテーション処理と、前記第1のセメンテーション処理を経て得られたスラリーに、ニッケルマット及び前記塩素浸出処理により得られた塩素浸出残渣を添加し、該スラリーに含まれる1価銅イオンを硫化物として固定化する第2のセメンテーション処理と、からなる2段階のセメンテーション処理が実行され、前記電解槽には、前記セメンテーション処理における前記第1のセメンテーション処理を経て得られる反応終液の一部が脱銅電解処理始液として給液される、脱銅電解処理装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、脱銅電解工程での脱銅電解処理において、高い電流効率を維持しながら、銅粒の異常成長によるショート等の不具合の発生や作業効率の低下を効果的に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】含銅塩化ニッケル溶液から電気ニッケルを製造する電気ニッケルの製造プロセスの流れを示す工程図である。
【
図2】電気ニッケルの製造プロセス系内における脱銅電解処理の流れを示す概略工程図である。
【
図3】負極表面の銅粒の析出成長の様子を示す写真図である。
【
図4】脱銅電解処理装置を含む処理設備の構成の概略を示す模式図である。
【
図5】実施例及び比較例にて用いた脱銅電解試験装置の断面図であり、正極と負極とからなる電極対を備えた装置の構成を示す簡略図である。
【
図6】実施例1と比較例1の脱銅電解処理における、通電前の負極表面の状態と、3時間通電した後の負極表面の状態を示した写真図である
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で変更が可能である。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0023】
≪1.脱銅電解処理方法(銅の除去方法)≫
本発明に係る脱銅電解処理方法は、銅を含有する塩化ニッケル溶液(含銅塩化ニッケル溶液)から銅を電解採取して除去する方法である。より具体的には、この方法は、ニッケル硫化物を塩素浸出して得られる含銅塩化ニッケル溶液から電解採取法により電気ニッケルを製造する電気ニッケルの製造プロセスにおける脱銅電解工程の脱銅電解処理方法である。
【0024】
<1-1.電気ニッケル製造プロセスにおける脱銅電解工程の概要>
(脱銅電解処理の工程)
図1は、含銅塩化ニッケル溶液から電気ニッケルを製造する電気ニッケルの製造プロセスの流れを示す工程図である。電気ニッケルの製造プロセスにおいては、ニッケル硫化物やニッケルマット等の原料に含有される銅やニッケルが塩素浸出処理(塩素浸出工程S1)にて浸出された後、含銅塩化ニッケル溶液となり、この含銅塩化ニッケル溶液が各処理工程を経て、電解採取(電解工程S5)して電気ニッケルを製造するための電解液となる。そして、この製造プロセスの過程においては、含銅塩化ニッケルに含まれる銅が硫化物として固定され(セメンテーション工程S2,S3)、含銅塩化ニッケル溶液中のニッケルと銅を分離する処理が行われる。
【0025】
なお、セメンテーション工程(S2,S3)を経て得られた銅の硫化物を含むセメンテーション残渣は、再び塩素浸出処理(塩素浸出工程S1)に供されて浸出処理が行われる。一方、セメンテーション工程(S2,S3)を経て得られたセメンテーション終液は、その後、不純物を除去する浄液処理が施され(浄液工程S4)、ニッケル電解採取のための電解液となる。
【0026】
このように、含銅塩化ニッケル溶液から電気ニッケルを製造するプロセスにおいては、原料に由来する銅が、ある所定の濃度を保った状態でプロセス系内を循環する。銅は、塩素浸出処理に際して、原料中のニッケルを効率的に浸出するために作用する。すなわち、塩素浸出処理においては、吹き込んだ塩素ガスにより原料中の銅が酸化され2価銅イオンとなり、その2価銅イオンによる酸化浸出によって原料中のニッケルが浸出されることになる。したがって、銅は、原料中のニッケルを有効かつ安定的に浸出させるための浸出剤として重要な役割を果たしている。
【0027】
電気ニッケルの製造プロセスでは、原料に含有される銅をプロセス系内に貯め込んで、大量の銅を塩素浸出液及びセメンテーション残渣として循環させているが、系内を循環させる銅量を適正に保つためには、原料から新たに供給される銅見合いの銅量を系内から抜出す必要がある。
【0028】
そのため、このような電気ニッケルの製造プロセスにおいては、系内を循環する銅のうちの一部を電解採取して除去する処理(脱銅電解処理)が行われる。
【0029】
(脱銅電解処理の始液)
図2は、電気ニッケルの製造プロセス系内における脱銅電解処理の流れを示す概略工程図である。
図2に示すように、本実施の形態では、電気ニッケルの製造プロセスにおいて、含銅塩化ニッケル溶液中の銅を硫化物として固定化するセメンテーション処理を2段階で行うようにし(
図1の工程図参照)、1段階目のセメンテーション処理(第1のセメンテーション工程S2)での反応を経て得られた反応終液の一部を、銅を電解採取して除去する脱銅電解処理の始液として用いる。このような方法によれば、設備コスト等をかけることなく、脱銅電解処理の能力を向上させ、脱銅量を有効に増やすことができる。
【0030】
具体的に、電気ニッケルの製造プロセスにおける2段階のセメンテーション処理は、
図1に示すように、含銅塩化ニッケル溶液にニッケル硫化物を添加し、少なくとも、その含銅塩化ニッケル溶液中の2価銅イオンを1価銅イオンに還元する第1の工程(第1のセメンテーション工程S2)と、第1の工程を経て得られたスラリーに、ニッケルマット及び塩素浸出処理(塩素浸出工程S1)により得られた塩素浸出残渣を添加し、そのスラリーに含まれる1価銅イオンを硫化物として固定化する第2の工程(第2のセメンテーション工程S3)と、から構成される。
【0031】
2段階のセメンテーション処理における第1のセメンテーション工程S2では、下記の(4)及び(5)式に示すように、含銅塩化ニッケル溶液に対してニッケル硫化物を添加することで、得られる反応終液中のほとんどの銅イオンが1価銅イオンに還元される反応が生じる。このことは、ニッケル硫化物中の主形態であるNiSは、還元力が弱く、1価銅イオンを硫化銅として固定する効果は表れにくいため、主として、溶液中の2価銅イオンを1価銅イオンに還元する反応が進行することによる。
4NiS+2Cu2+→Ni2++Ni3S4+2Cu+ ・・・(4)
NiS+2Cu2+→Ni2++2Cu++S0 ・・・(5)
【0032】
そして、このような第1のセメンテーション工程S2を経て得られた反応終液の一部を、脱銅電解工程に移送して脱銅電解処理始液として用いて電解処理を施すようにすることで、反応終液中の銅イオンのほとんどが1価銅イオンの状態であることから、2価銅イオン基準で表される、脱銅電解処理における電流効率をおよそ2倍に向上させることができる。
【0033】
ここで、脱銅電解処理における電流効率は、「2価銅イオンを基準」とし、例えば1日あたりの銅の理論電着量(kg/日)に対する実電着量(kg/日)の割合で表される。
電流効率(%)=実電着量(kg/日)÷理論電着量(kg/日)×100
【0034】
従来、この脱銅電解工程では、塩素浸出工程S1にて得られた塩素浸出液の一部を、脱銅電解処理の始液として用いていた。本実施の形態においては、上述したように1価銅イオンの状態で銅イオンを含有する第1のセメンテーション工程S2を経て得られた反応終液の一部を脱銅電解処理の始液として用いていることから、従来の方法に比べて、電流効率をおよそ2倍程度まで向上させることができる。
【0035】
(電解処理始液の条件)
脱銅電解処理に際しては、第1のセメンテーション工程S2を経て得られた反応終液に対して固液分離処理を施し、溶液中に含まれるニッケル硫化物等の固形分を除去し、固形分が除去された溶液を始液として用いることが好ましい。
【0036】
また、脱銅電解処理始液は、酸化還元電位(ORP)(銀/塩化銀電極基準)が、好ましくは300mV以上470mV以下の範囲、より好ましくは320mV以上450mV以下の範囲のものを用いることが好ましい。このような範囲に属するORPの溶液を脱銅電解処理の始液とすることで、より効率的に銅を電解採取して除去することができる。
【0037】
ここで、脱銅電解処理において、第1のセメンテーション工程S2から抜き出した一部の反応終液を脱銅電解処理始液として電解槽に供給するに際しては、予め、その反応終液を所定のタンクに貯留して溶液の状態を調整(調液)するようにしてもよい。具体的には、反応終液を脱銅電解処理に供給するに先立って、所定のタンク(脱銅給液調整タンク)にその反応終液を装入して貯留し、適宜還元剤を添加する等して、溶液のORPが300mV以上470mV以下の範囲となるように調液してもよい。
【0038】
また、脱銅電解処理に供給する脱銅電解処理始液の液温は、60℃~70℃程度とすることが好ましい。第1のセメンテーション工程S2を経て得られる反応終液は、回収後の温度としておよそ80℃程度であることから、好ましくはその反応終液の温度を60℃~70℃程度にまで低下させるようにする。これにより、フィルタープレス等の固液分離装置を用いて溶液内の固形分を分離することができ、操業効率を高めることができる。この程度の降温であれば自然冷却で可能な範囲ではあるが、例えば、抜き出した反応終液(工程液)を、冷却手段を備えた槽に一時的に貯留する等の簡易な方法を選択することがより好ましい。
【0039】
<1-2.脱銅電解工程における脱銅電解処理の具体的方法>
(脱銅電解処理方法)
脱銅電解工程における脱銅電解処理では、上述したように、2段階のセメンテーション処理を行うセメンテーション工程における第1のセメンテーション処理を経て得られる反応終液の一部を、電解処理始液として用いて脱銅電解処理を行う。この脱銅電解処理は、正極と負極とからなる電極対を備える電解槽が給液に対して複数並列して設けられた電解処理装置にて行われる。したがって、第1のセメンテーション処理を経て得られる反応終液の一部は、電解処理装置を構成する各電解槽のそれぞれに並列に給液され、各電解槽にて脱銅電解処理が行われる。
【0040】
この脱銅電解処理によって、各電解槽に設けられた負極の表面にデンドライト状、あるいは樹枝状と呼ばれる形状の銅粉が析出し、一方で正極では塩素ガスが発生する。
【0041】
ここで、
図3は、負極表面における銅粒の異常成長の様子を示す写真図である。この
図3は、槽底に堆積した銅粉を払い出すために底抜き弁が開き、一時的に電解槽内液面が低下したときの写真図であり、図面向かって左側の板状体が負極であり、右側に見えるのが正極である。この写真図に示されるように、銅粒は、負極の表面から、対向する正極の表面に向かって成長していくことが分かる。
【0042】
第1のセメンテーション処理を経て得られる反応終液を脱銅電解処理始液として用いる脱銅電解処理では、溶液中に存在する1価銅イオンに基づいて、高い電流効率で電解処理を行うことが可能になる。ところが、その高い電流効率によって、電解処理の反応、すなわち、負極表面への銅の析出反応が進行することから、銅の析出成長の速度も速くなる。そして、電流効率の向上に伴って銅の析出成長の速度も上昇すると、負極表面にデンドライト状に析出した銅粉が、隣接する正極の近傍にまで伸びた状態に成長して銅粒となり、それが原因でショートを引き起こす可能性がより高まる。
【0043】
そこで、本実施の形態に係る脱銅電解処理では、脱銅電解処理を実行する電解装置として、負極の表面の粗さを制御したものを用いる。具体的には、チタンを含む金属により構成され、銅が析出する表面の算術平均粗さ(Ra)が0.2μm~1.2μmの範囲であり、最大高さ(Rz)が1.2μm~6.0μmの範囲である負極と、正極とを備えた電解槽を用い、その電解槽に、第1のセメンテーション処理を経て得られる反応終液の一部を脱銅電解処理始液として給液して脱銅電解処理を施すことを特徴としている。なお、上述した算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rz)は、JIS B0601:2001による定義に基づくものである。
【0044】
このような方法によれば、銅が析出する負極表面の粗さを特定の範囲に制御しているため、その負極表面における銅粉の残留が抑制される。すると、電解処理により、負極表面に銅粉が析出成長していく段階で、銅粉が自重により落下し易くなり、過度な成長(異常成長)によって対向する正極の表面に近接するような銅粒の異常成長を防ぎ、ショート等の不具合の発生を防ぐことができる。また、銅粉が自重によって自然落下し易くなるため、銅粒の析出成長の度合いに応じて、通電を停止した上で負極に析出成長した銅粒を掻き落とすといった作業も不要になり、操業効率を向上させることができる。
【0045】
ここで、負極を構成するチタンを含む金属としては、チタン単体からなる金属や、チタンを含む合金が挙げられる。
【0046】
また、チタンを含む金属から構成される負極の表面粗さに関しては、上述したように、算術平均粗さ(Ra)は0.2μm~1.2μmの範囲であり、好ましくは0.4μm~1.0μmの範囲である。また、最大高さ(Rz)が1.2μm~6.0μmの範囲であり、好ましくは2.0μm~5.0μmの範囲である。
【0047】
Raが1.2μmを超え、またはRzが6.0μmを超えると、負極の表面が粗すぎる状態となり、その負極表面に対する析出銅粉の付着が強固なものとなり、剥離性が低下する。この場合、負極表面に銅粉が残留し易くなるため、電解処理に伴って銅粒の異常成長が起こり易くなる。そして、銅粒が対向する正極の表面に到達して、ショート等の不具合が生じる可能性が高まる。また、異常成長した銅粒を除去する際には、電解槽への通電を停止し、掻き落とすといった作業が必要となる。
【0048】
したがって、負極の表面においては、その表面粗さを、Ra値で1.2μm以下、かつ、Rz値で6.0μm以下となるように制御することにより、銅粉の残留を抑制して、自然落下し易いようにすることができる。
【0049】
表面粗さの下限値に関しては、Raが0.2μm未満、またはRzが1.2μm未満であると、いわゆる鏡面研磨処理に相当する処理となり、特殊な加工技術を要する。また、脱銅電解操業において、負極表面には、化学的及び機械的に微小の傷が付くため、必要以上の平滑処理は無意味になる。したがって、Ra値で0.2μm~1.2μmの範囲、Rz値で1.2μm~6.0μmの範囲とすることによって、電解処理により良好に銅粉を析出させる一方で、その銅粉の負極表面における過剰な成長を抑制することができる。
【0050】
算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rz)は、JIS B0601:2001に準拠して測定することができる。測定に際しては、例えば、市販の差動インダクタンス方式の表面粗さ計を用いることができる。
【0051】
なお、負極の表面粗さの調整は、母板の表面粗さよりも平滑化させる場合には、研磨装置等を用いて研磨処理を施すことによって行うことができる。一方で、母板の表面粗さよりも粗くする場合には、ショットブラスト処理やグリッドブラスト処理等を施すことによって行うことができる。
【0052】
(銅粉の回収)
上述のような方法により脱銅電解処理を行うことで、高い電流効率を維持しながら溶液中の銅を銅粉として回収することができるとともに、負極での銅粒の異常成長を抑制して、ショート等の不具合の発生を防ぐことができる。
【0053】
電解処理により負極表面に析出した銅粉は、例えば、負極の上部に設けられたシリンダー等からなる払落し手段によって、間欠的に落下振動を与えることで、その負極表面から銅粉を払い落とすことによって回収することができる。払落し手段としては、負極を振動させる方式のほか、正極と負極との間の電解液中にスクレパーを差し込んで往復動させる方式や、バブリング等の強制撹拌方式も可能である。
【0054】
このような方法により回収される銅粉は、逆四角錐状に形成された電解槽底に集められ、底抜き弁が開くことにより、電解槽から抜出すことができる。このとき、銅粉は、塩化ニッケル溶液や洗浄水等と混合したスラリー状のものであるため、その銅粉スラリーに対して固液分離処理を施すことで、銅粉のみを回収することができる。固液分離処理は、濾過処理等の公知の方法により行うことができ、この処理により銅粉と脱銅濾液とに分離する。回収した銅粉は、系外に払出し、銅粉を分離した後の脱銅濾液は、セメンテーション工程に戻すことができる。
【0055】
なお、本実施の形態においては、銅が析出する負極の表面において、その粗さが特定の範囲に制御されていることから、銅粉の強固な残留を抑制することができる。そのため、負極板の整備や維持管理に際しても、作業負荷を有効に低減することができる。
【0056】
≪2.脱銅電解処理装置≫
次に、上述した脱銅電解処理を行う脱銅電解処理装置について説明する。
【0057】
<2-1.脱銅電解処理装置を含む処理設備の構成について>
図4は、脱銅電解処理装置を含む処理設備の構成を模式的に示す図である。なお、当該処理設備(全体)を符号1として示す。処理設備1においては、脱銅電解処理が行われる脱銅電解処理装置2と、脱銅電解処理装置2に給液する脱銅電解処理始液を収容する始液収容槽群3と、を備えている。
【0058】
[脱銅電解処理装置]
脱銅電解処理装置2は、脱銅電解処理を行うための電解槽21により構成されている。具体的に、脱銅電解処理装置2は、複数の電解槽21(21a~21d)が給液に対して並列して設けられている。各電解槽21には、図示しないが、その内部に正極と負極とからなる電極対が1つ又は複数設けられている。なお、並列して複数設けられている電解槽21の槽数は、特に限定されず、
図4では一例として4槽の電解槽が設けられている態様を示しているが、1槽のみであってもよく、5槽以上の複数槽が並列して設けられていてもよい。
【0059】
各電解槽21は、電解液として、後述する始液収容槽群3から脱銅電解処理始液(第1のセメンテーション処理を経て得られる反応終液)が収容され、正極と負極とからなる電極対に直流電流を流すことによって電解反応を生じさせる。
【0060】
電解槽21においては、正極と、負極とが互いに対向して設けられている。
【0061】
電解槽21に設けられる正極は、例えば、不溶性電極からなり、例えばチタン基板の表面に白金族酸化物の活性被膜が形成(被覆)されている塩素発生用電極を用いることができる。この正極では、電解液中の塩化物イオン(Cl-)が酸化されて塩素ガスを発生させる(2Cl-→Cl2+2e-)。正極は、FRP(繊維強化プラスチック)等の樹脂製の枠内に収められ、その枠の外周には電解液を透過する濾布が被せられて、アノードボックスを構成している。濾布の代わりに、イオン交換膜を介在させ、特定の電解質のみを透過させてもよい。このアノードボックスは、枠及び濾布、またはイオン交換膜により閉じた構造となっており、アノードボックス内は外圧に対して負圧に調整され、塩素ガス及び電解液が吸引されて排出される構造となっている。したがって、正極表面から発生した塩素ガスは、アノードボックスから外に漏洩することは無い。
【0062】
電解槽21に設けられる負極は、チタンを含む金属板から構成されている。この負極においては、電解処理に伴って電解液中の銅がデンドライト状の銅粉として負極の表面に析出する。ここで、本実施の形態においては、そのチタンを含む金属板からなる負極の表面の粗さが、算術平均粗さ(Ra)で0.2μm~1.2μmの範囲、かつ、最大高さ(Rz)で1.2μm~6.0μmの範囲に制御されている。このような負極を設けた電解槽21によれば、高い電流効率で、すなわち速い電着速度で脱銅電解処理を行った場合でも、銅粒の異常成長を抑制することができる。
【0063】
電解槽21には、脱銅電解処理始液を槽内に給液するための給液配管11が接続されている。給液配管11の他端は、脱銅電解処理始液を収容する始液収容槽群3に接続されている。給液配管11は、
図4の模式図に示すように、所定の箇所で分岐した分岐配管により構成することができ、脱銅電解処理装置2を構成する各電解槽21のそれぞれに所定量の脱銅電解処理始液を給液する。なお、この給液配管11により給液される脱銅電解処理始液は、第1のセメンテーション工程S2を経て得られる反応終液の一部である。
【0064】
[始液収容槽群]
始液収容槽群3は、脱銅電解処理装置2における電解槽21にて電解処理を行う対象、すなわち脱銅電解処理始液を収容する収容槽群である。例えば、
図4に示すように、始液収容槽群3は、中継槽31と、受入槽32と、から構成される。
【0065】
中継槽31は、第1のセメンテーション工程S2での処理を経て得られた反応終液の一部を収容する槽であり、その反応終液を脱銅電解処理始液として脱銅電解処理装置2に給液するための中継の役割を果たす槽である。
【0066】
受入槽32は、中継槽31に収容された脱銅電解処理始液としての反応終液を、脱銅電解処理装置2に給液する前に一旦受け入れる槽である。この受入槽32では、脱銅電解処理装置2に給液するに先立ち、必要に応じて濃度調整や酸化還元電位(ORP)の調整等を行う。
【0067】
なお、上述した給液配管11は、受入槽32と直接的に接続されており、例えばその受入槽32にて濃度調整やORP調整等が行われた反応終液が脱銅電解処理始液として給液配管11を介して脱銅電解処理装置2(電解槽21)に給液される。
【0068】
<2-2.処理設備における脱銅電解処理の流れについて>
上述した構成を有する処理設備1においては、例えば以下のような流れで脱銅電解処理が行われる。
【0069】
すなわち、電気ニッケルの製造プロセスの第1のセメンテーション工程S2において、塩素浸出工程S1での塩素浸出処理を経て得られた塩素浸出液(含銅塩化ニッケル溶液)に対してセメンテーション処理が行われると、その第1のセメンテーション処理の反応終液の一部が、始液収容槽群3における中継槽31に収容される。なお、中継槽31に収容される反応終液は、脱銅電解処理の処理始液となるものであり、塩化ニッケル溶液であって、銅イオンとして主に1価銅イオンを含有する含銅塩化ニッケル溶液である。
【0070】
中継槽31に収容された反応終液は、次に受入槽32に移送される。受入槽32では、必要に応じて還元剤等が添加されてORP等の調整が行われる。なお、電解処理始液としては、ORPが300mV~470mV程度の範囲であることが好ましく、例えば還元剤として金属ニッケルと接触させることで調液することができる。
【0071】
受入槽32にて必要に応じて調液が行われた反応終液は、脱銅電解処理始液として、給液配管11を介して、脱銅電解処理装置2を構成する電解槽21(21a~21d)にそれぞれ給液される。
【0072】
脱銅電解処理装置2を構成する電解槽21においては、正極と負極とからなる電極対が備えられており、給液配管11を介して脱銅電解処理始液である反応終液(第1のセメンテーション処理を経て得られた反応終液)が給液されると、その電極対に直流電流を流すことによって電解反応が生じる。
【0073】
電解槽21では、1価銅イオンを含有する塩化ニッケル溶液を電解液とする電解反応により、負極52の表面に単体銅が析出される。なお、正極では、塩素ガスが発生する。この電解反応は、脱銅電解処理装置2を構成する電解槽21にて生じる。
【0074】
従来、電解槽においては、1価銅イオンを含有する塩化ニッケル溶液である反応終液を脱銅電解処理始液として脱銅電解処理を行っているため、高い電流効率にて電解反応が進行する。したがって、例えば
図3の写真図に示したように、負極表面に析出する銅粒の成長速度も速く、負極に対向する正極の表面近傍にまで成長する、いわゆる異常成長が起こることがある。
【0075】
これに対して、脱銅電解処理装置2を構成する電解槽21においては、負極の表面の粗さを特定の範囲に制御していることから、銅粉の良好な析出は維持しつつ、強固な残留を抑制して、異常成長して銅粒となることを防ぐことができる。これにより、ショート等の不具合の発生や、異常成長した銅粒を除去するための作業の発生、その作業に伴って生じる稼働率、作業効率等の操業効率の低下を防ぐことができる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0077】
[実施例1]
実施例1では、
図5に構成を模式的に示した脱銅電解試験装置22を用いて、電気ニッケルの製造プロセスにおける脱銅電解処理試験を行った。脱銅電解試験装置22に設けられる正極51は、チタン製ネット(チタンボックス)51bに装入された銅板51aからなり、負極52は、チタン板52aとしている。なお、ここで正極51に銅板51aを用いたのは、実験室において正極から塩素ガスを発生させないようにするためである。
【0078】
具体的には、電気ニッケルの製造プロセスでは、塩素浸出処理(塩素浸出工程S1)から得られた塩素浸出液(含銅塩化ニッケル溶液)にニッケル硫化物を添加して、その含銅塩化ニッケル溶液中の2価銅イオンを1価銅イオンに還元する第1の処理と、得られたスラリーにニッケルマット及び塩素浸出残渣を添加して、そのスラリーに含まれる1価銅イオンを硫化物として固定化する第2の処理と、からなる2段階のセメンテーション処理を実行した。そして、2段階のセメンテーション処理のうちの第1の処理(第1のセメンテーション工程S2)から得られる反応終液の一部を、脱銅電解試験装置22の給液とした。
【0079】
そして、脱銅電解処理始液としての反応終液を、脱銅電解試験装置22に給液し、電解処理を実行した。
【0080】
ここで、脱銅電解試験装置22においては、負極52として、銅が析出する表面52sの粗さ(表面粗さ)が、算術平均粗さ(Ra)で1.014μmであり、最大高さ(Rz)で5.987μmのものを用いた。表面粗さの測定は、株式会社ミツトヨ製の小型表面粗さ測定器(サーフテストSJ-210)を用い、JIS B0601:2001に準拠して行った。なお、脱銅電解処理始液の銅濃度は40g/Lであり、ORP(銀/塩化銀電極基準)は405mV、2価銅イオン比率はCu2+/(Cu++Cu2+)×100%で計算して15%であった。また、負極の電流密度は557A/m2とした。
【0081】
[比較例1]
比較例1では、電解槽における負極として、銅が析出する表面の粗さ(表面粗さ)が、算術平均粗さ(Ra)で3.402μmであり、最大高さ(Rz)で17.083μmのものを用いた。このこと以外は、実施例1と同様にして電解処理を行った。
【0082】
[評価]
図6は、実施例1と比較例1の脱銅電解処理における、通電前の負極表面の状態と、3時間通電した後の負極表面の状態を示した写真図である。
【0083】
この写真図に示されるように、比較例1では、負極表面に析出した銅粉が対向する正極の方向に向かって成長し、強固な付着力で負極に残留していることが分かる。この比較例1での電解処理を継続した場合、成長した銅粒が正極の表面に接触してショートが発生する可能性が高い。
【0084】
一方で、実施例1では、負極表面に銅粉は付着しているものの、その付着量は明らかに少なく、電解処理に伴って自重で電解槽の底部に落下した。このような実施例1での電解処理によれば、析出成長した銅粉は自重により自然落下するため、正極の表面の近傍まで銅粒が異常成長してしまうことが抑制され、ショート等の不具合の発生も効果的に防ぐことができると考えらえる。
【0085】
なお、実施例1、比較例1のいずれの電解処理においても、2価の銅イオンを基準とした電流効率はおよそ160%の高効率となった。電解処理の電流効率は、「電流効率(%)=銅の実電着量(kg/月)÷理論電着量(kg/月)×100」で算出した。
【符号の説明】
【0086】
1 処理設備
2 脱銅電解処理装置
3 始液収容槽群
11 給液配管
21(21a,21b,21c,21d) 電解槽
22 脱銅電解試験装置
31 中継槽
32 受入槽
51 正極
52 負極
52s 負極の表面