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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】機器用配線集合体
(51)【国際特許分類】
   H02G 3/30 20060101AFI20220210BHJP
   H01R 4/02 20060101ALI20220210BHJP
   H01R 4/18 20060101ALI20220210BHJP
   H01R 11/11 20060101ALI20220210BHJP
   H01R 11/12 20060101ALI20220210BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20220210BHJP
   H05K 7/00 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
H02G3/30
H01R4/02 C
H01R4/18 A
H01R11/11 D
H01R11/12 D
H02M7/48 Z
H05K7/00 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021028958
(22)【出願日】2021-02-25
(62)【分割の表示】P 2019232224の分割
【原出願日】2015-07-28
(65)【公開番号】P2021108534
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2021-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】岡 太一
【審査官】和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-013675(JP,A)
【文献】特開2014-022327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 3/30
H01R 4/02
H01R 4/18
H01R 11/11
H01R 11/12
H02M 7/48
H05K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器本体と当該機器本体を収容する機器ケースとを備えた機器内に屈曲された状態で配線され、導体と当該導体の外周に設けられた絶縁体とを備える複数の機器用配線部材と、
屈曲された状態の前記複数の機器用配線部材を保持し、前記機器ケース内に全体が収容される保持部材と、
を備え、
前記導体の両端に存在する2つの接続部は、それぞれ前記機器ケースに収容されており、
前記2つの接続部の一方は、ボルト穴を有する圧着端子であり、前記2つの接続部の他方は、圧着端子ではなく、ボルト穴を有しない板状に形成されており、
前記保持部材は、前記機器ケース内において前記2つの接続部の他方よりも前記導体の前記圧着端子に近い端側に設けられている、
機器用配線集合体。
【請求項2】
前記保持部材は、絶縁性樹脂からなる、
請求項1に記載の機器用配線集合体。
【請求項3】
前記絶縁体の厚さは、2mm以下である、
請求項1又は2に記載の機器用配線集合体。
【請求項4】
前記複数の機器用配線部材の長さが異なっている、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の機器用配線集合体。
【請求項5】
前記保持部材には、前記複数の機器用配線部材をそれぞれ保持する複数の切欠きが形成されている、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の機器用配線集合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、インバータ装置の機器内配線等に用いられる機器用配線集合体に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の大電流用のワイヤハーネスは、車両に搭載されたインバータ装置等の機器に接続される。ワイヤハーネスのコネクタがメス端子である場合には、オス端子(バスバ端子)が機器側(例えば、機器内部)に配置される。オス端子と機器内の接続端子との接続には、機器用配線部材が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-95280号公報
【文献】特開2012-110188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、車両に搭載されるインバータ装置等の機器では、小型化が進んでいる。このような機器の小型化に伴い、複数の機器用配線部材の配線作業を容易にしたいという課題がある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたもので、複数の機器用配線部材の配線作業を容易とすることができる機器用配線集合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、複数の導体と前記導体の両端に設けられた2つの接続部とを備える機器用配線部材を複数備えた機器用配線集合体において、複数の前記機器用配線部材を保持する保持部材を備え、前記2つの接続部の一方は、機器の接続端子と接続されるボルト穴を有する圧着端子であり、前記保持部材は、前記導体の前記圧着端子に近い端側に設けられており、全ての前記ボルト穴が直線状に所定間隔となるように複数の前記機器用配線部材を保持する、機器用配線集合体を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る機器用配線集合体によれば、複数の機器用配線部材の配線作業を容易とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施の形態に係る車両用の機器用配線部材の斜視図である。
図2】撚線導体とオス端子との接続部分を示す図であり、(a)は側面図、(b)は撚線導体を屈曲させたときの側面図およびその要部拡大図である。
図3】本発明の一変形例における撚線導体とオス端子との接続部分を示す側面図である。
図4】(a)~(c)は、機器用配線部材の製造方法を説明する図である。
図5】本発明の一実施の形態に係る機器用配線部材集合体を示す斜視図である。
図6】機器用配線部材を適用したインバータ装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0010】
(車両用の機器用配線部材の説明)
図1は、本実施の形態に係る車両用の機器用配線部材(以下、単に機器用配線部材という)の斜視図である。
【0011】
図1に示すように、機器用配線部材1は、複数本の素線を撚り合わせた撚線導体2と、撚線導体2の両端に設けられる2つ接続部3,4と、を備えている。
【0012】
機器用配線部材1は、車両に搭載される機器の機器内配線等に用いられ、例えば最大で200~500Aの大電流が導通されるものである。本実施の形態では、一例として、電気自動車やハイブリッド車において走行用の電動モータにモータ電流を供給するインバータ装置の機器内配線に機器用配線部材1を用いる場合について説明する。
【0013】
撚線導体2は、例えば、外径0.32mmの素線(銅やアルミニウム等の電気良導体)を17本撚り合わせて子撚り線とし、この子撚り線をさらに19本撚り合わせた複合撚線導体であり、撚線導体2全体の外径は例えば7.5mmである。また、撚線導体2の撚りピッチ(任意の素線が周方向の同じ位置となる長手方向に沿った間隔)は例えば23mm、導体断面積は例えば50mm2である。撚線導体2の長さは、機器用配線部材1を適用する機器における配線長に応じて設定されるが、例えば、80mmと短尺(例えば50mm~150mm)である。
【0014】
なお、機器用配線部材1の導体として、単線を用いることも考えられるが、断面積の大きい単線を用いた場合には、機器用配線部材1を屈曲させることが困難となり、配線作業時の微調整を行うことも困難になる。つまり、機器用配線部材1の導体として撚線導体2を用いることで、単線を用いた場合と比較して屈曲させやすくなり、配線作業時の微調整も容易になる。また、予め素線を撚り合わせた撚線導体2(複合撚線導体)を用いることで、多数の素線がばらばらにならないように一体に保持することが可能であり、後述する超音波接合等の作業が容易になる。
【0015】
撚線導体2の外周には、絶縁体からなる絶縁チューブ5が設けられている。本実施の形態では、撚線導体2に大電流が導通され高温となるため、絶縁チューブ5としては、耐熱性の優れたものを用いる必要がある。具体的には、絶縁チューブ5としては、150℃~200℃程度の耐熱性を有するものを用いることが望ましく、例えば、シリコンゴムからなるものを用いることができる。
【0016】
絶縁チューブ5は、絶縁チューブ5内で撚線導体2が滑り、撚線導体2がある程度自由に動くことができるように構成されている。詳細は後述するが、本実施の形態では、撚線導体2の一部において子撚り線同士の撚りをほぐすため、ほぐした位置(配線屈曲部)において子撚り線間に隙間ができ撚線導体2が径方向外方に膨らんだ状態となる。絶縁チューブ5は、この撚線導体2の径方向外方への膨らみを考慮して、あらかじめ膨らんだ後の外形(外径)に合わせてチューブ径を選定する。
【0017】
具体的には、絶縁チューブ5としてナイロンからなるものを用いる場合、絶縁チューブ5の厚さは、2mm以下とすることが望ましい。また、絶縁チューブ5の機械的強度を確保し絶縁性能を維持するという観点からは、絶縁チューブ5の厚さは、0.5mm以上とすることが望ましい。
【0018】
撚線導体2の両端は絶縁チューブ5から露出されており、この撚線導体2の両端に接続部3,4がそれぞれ設けられている。
【0019】
本実施の形態では、2つの接続部3,4は、図示しないワイヤハーネスのメス端子が嵌合され接続されるオス端子3aと、機器の接続端子と接続される圧着端子4aと、からなる。
【0020】
オス端子3aは、電気良導体からなる板状の部材、すなわちバスバ端子からなり、その先端側(撚線導体2の延出側と反対側)には、ワイヤハーネスのメス端子への挿入を容易とするために面取り加工が施されている。
【0021】
なお、図示していないが、ワイヤハーネスのメス端子は、例えば、オス端子3aの先端部を挿入する挿入穴が形成された筒状部を有し、筒状部内に設けられた弾性部材等の押圧部材により、筒状部内に挿入されたオス端子3aを押圧してオス端子3aとメス端子とが電気的に接続されるように構成されている。ワイヤハーネスは配線作業時に作業者が把持するものであるため、作業者がメス端子に直接触れることができないようにタッチプロテクト構造となっている。ワイヤハーネス側をメス端子、機器側(機器用配線部材1側)をオス端子3aとすることで、ワイヤハーネス側のタッチプロテクト構造を容易に実現することが可能になる。
【0022】
本実施の形態では、オス端子3aと撚線導体2とは、超音波接合(超音波溶着)により接続されている。超音波接合を行う際には、撚線導体2の素線(子撚り線)がばらばらにならないように、全体が撚られた状態のまま接合を行う。
【0023】
圧着端子4aは、ボルト穴41aが形成された板状の接続部41と、接続部41の基端側(撚線導体2の延出側)に形成され撚線導体2を圧着固定(かしめ固定)するための導体固定部42と、を一体に備えている。導体固定部42は筒状に形成されており、その中空部に撚線導体2の端部を挿入した後に導体固定部42を変形させる(押し潰す)ことで、撚線導体2を導体固定部42に圧着固定するように構成されている。撚線導体2の圧着固定を行う際には、撚線導体2の素線(子撚り線)がばらばらにならないように、全体が撚られた状態のまま圧着固定を行う。
【0024】
さて、本実施の形態に係る機器用配線部材1では、撚線導体2の中央部21は、配線の際に屈曲させる部分であって子撚り線同士の撚りが両端側よりほぐれている配線屈曲部(中央部21の一部)を含んでおり、この配線屈曲部にて、所定の角度に屈曲(湾曲)されている。
【0025】
なお、ここでいう中央部21とは、撚線導体2の両端側の部分(撚りピッチが細かい部分)、すなわち接続部3,4の近傍の部分を除いた部分であり、撚線導体2の両端部を除いた中間部分をいう。また、図1では、一例として、撚線導体2を直角(90度)に屈曲させた場合を示しているが、撚線導体2を屈曲させる角度は、機器の配線レイアウト等に応じて適宜変更可能である。
【0026】
撚線導体2において、子撚り線同士の撚りをほぐすと、曲がり癖(巻き癖)の影響により、当該子撚り線同士の撚りをほぐした位置において子撚り線間に隙間ができ、撚線導体2が径方向外方に膨らんだ状態となる。この状態で撚線導体2を屈曲させることで、形成された隙間や外方に子撚り線が移動して容易に屈曲させることが可能になる。
【0027】
また、本実施の形態では、ワイヤハーネスのメス端子が嵌合され接続されるオス端子3aを撚線導体2に接続しているが、ワイヤハーネスのメス端子に嵌合する際に、撚線導体2における子撚り線同士の撚りがほぐれている中央部21(配線屈曲部)が調整部分となりオス端子3aの動きを許容することが可能となり、嵌合時にオス端子3aが少し動くことで、ワイヤハーネスのメス端子との接続性を向上させることも可能になる。
【0028】
子撚り線同士の撚りをほぐす方法として、例えば、子撚り線同士の撚り方向と反対方向に撚線導体2を回転させる(捩る)方法が挙げられる。この場合、子撚り線同士の撚りのほぐし具合は、撚りをほぐす際の撚線導体2の回転量(捩り角度)により調整することができる。なお、撚線導体2の中央部21の一部のみで局所的に撚りがほぐされていてもよいし、中央部21の略全体で緩やかに撚りがほぐされていてもよい。すなわち、中央部21のうち、少なくとも屈曲される部分にて撚りがほぐされていればよい。
【0029】
撚線導体2の中央部21における子撚り線同士の撚りのほぐし具合は、素線や子撚り線の外径や本数、屈曲角度等に応じて適宜設定可能であるが、少なくとも、撚線導体2を屈曲させる前の状態(撚線導体2を直線状とした状態)において、中央部21(配線屈曲部)の最大外径が、両端側(撚りがほぐされていない部分)の最大外径の1.1倍以上となるようにすることで、屈曲性を向上することができる。なお、ここでいう最大外径とは、撚線導体2の長手方向に垂直な方向、すなわち周方向の各位置から見たときの撚線導体2の最大幅(観察方向と対向配置した平面に投影した像の最大幅)をいう。撚線導体2を90度に屈曲させた際には、その屈曲部分の最大外径(ここでは、両面A,Bの法線方向に対して垂直な方向の長さ)が、両端側の最大外径の1.3倍以上となるように構成するとよい。
【0030】
なお、撚線導体2の子撚り線同士の撚りをほぐしすぎると、当該子撚り線同士の撚りをほぐした位置(配線屈曲部)での撚線導体2の幅(最大外径)が大きくなりすぎ、複数の機器用配線部材1を整列配置して機器用配線集合体(後述する)を構成した際に、隣り合う機器用配線部材1同士、あるいは機器のケース等の周囲の部材と干渉してしまうおそれが生じる。よって、機器へ適用した際に、隣り合う機器用配線部材1や周囲の部材と干渉しない程度の幅(最大外径)となるように、子撚り線同士の撚りのほぐし具合を調整するとよい。周囲の部材との干渉を抑制するという観点から、撚線導体2の全体において、撚線導体2の最大外径がオス端子3aの幅(厚さ方向および撚線導体2の延出方向(メス端子との嵌合方向)に対して垂直な方向の長さ)よりも小さいことが望ましい。
【0031】
本実施の形態では、非屈曲状態において、オス端子3aの撚線導体2を接合した面Aと、圧着端子4aの接続部41における撚線導体2を接続した側の面Bとを同一平面上に配置した後、両面A,Bが近接する方向に撚線導体2を90度屈曲させて機器用配線部材1を構成している。90度に屈曲させたときのオス端子3aの先端から圧着端子4aの面Bと反対側の面までの距離Hは例えば70mmであり、圧着端子4aの先端からオス端子3aの面Aと反対側の面までの距離Wは例えば60mmである。なお、機器用配線部材1は、機器に設けられ配線に使用された状態で屈曲されていればよく、未配線状態では屈曲されていなくてもよい。また、両端子3a,4aの面A,Bの向きは適用する機器の接続端子の配置等に応じて適宜決定すればよく、両端子3a,4aの面A,Bの向きは図示の方向に限定されない。
【0032】
ところで、車両用の機器用配線部材1では、車両の振動による影響を大きく受けるため、繰り返し振動を受けた際の信頼性が重要になる。機器用配線部材1のオス端子3aにワイヤハーネスのメス端子を接続すると、ワイヤハーネスから機器用配線部材1に振動が伝わり、オス端子3aと撚線導体2の接続部が振動し、オス端子3aの基端部の角部Cが撚線導体2と干渉して撚線導体2に損傷や断線等の不具合が生じるおそれがある。
【0033】
そこで、本実施の形態では、図2(a)に示すように、オス端子3aとオーバーラップさせた撚線導体2のうち、一部のみを超音波接合により接続している。図2(a)における符号22は、超音波接合がなされた部分(以下、超音波接合部という)を表している。ここでは、オス端子3aの基端部(撚線導体2の延出側の端部)から所定距離先端側に離れた位置に、超音波接合部22を形成しており、角部Cでは超音波接合を行っていない。
【0034】
オス端子3aとオーバーラップさせた撚線導体2のうち、一部のみ(オス端子3aの基端部から所定距離先端側に離れた位置)に超音波接合部22を形成しておくことで、図2(b)に示すように、面Aの法線方向(上述の面A,Bが近接する方向)に撚線導体2を屈曲させると、超音波接合部22よりも基端側の撚線導体2が、オス端子3aの基端部における角部Cから離間し、これにより、角部Cと撚線導体2との干渉を抑制し、振動の影響により撚線導体2に断線等の不具合が発生することを抑制できる。
【0035】
なお、これに限らず、図3に示すように、オス端子3aの撚線導体2の延出側の端部(角部Cの位置)に、面取り加工(丸め加工)を施すことでも、角部Cと撚線導体2との干渉を抑制することが可能である。この場合、オス端子3aとオーバーラップさせた撚線導体2の全体を超音波接合部22とし、オス端子3aと撚線導体2の接続強度をより高めることが可能である。また、この場合において、さらに、オス端子3aとオーバーラップさせた撚線導体2のうち、一部のみ(オス端子3aの基端部から所定距離先端側に離れた位置)に超音波接合部22を形成することで、角部Cと撚線導体2との干渉をより抑制し、振動の影響による撚線導体2の断線等の不具合をより抑制することも可能である。
【0036】
(機器用配線部材1の製造方法の説明)
次に、機器用配線部材1の製造方法について説明する。
【0037】
機器用配線部材1を製造する際には、まず、図4(a)に示すように、撚線導体2の一端を超音波接合によりオス端子3aに接続する。このとき、撚線導体2は屈曲されておら
ず直線状となっている。また、超音波接合の際には、撚線導体2の素線(子撚り線)がばらばらにならないように、全体が撚られた状態のまま接合を行う。
【0038】
具体的には、超音波接合装置のアンビルにオス端子3aを固定し、撚線導体2の側方からガイドの型を当てた状態で、撚線導体2に超音波ホーンを押し当て、超音波ホーンを超音波振動させる。すると、撚線導体2の素線が加振され、撚線導体2とオス端子3aの酸化被膜や表面の不純物が飛散され、接合面に清浄な活性化した金属分子が現れる。さらに超音波振動を与えると、金属原子間の引力により固相溶接状態が作り出され、撚線導体2とオス端子3aとが接合される。
【0039】
このとき、オス端子3aと同じ幅か、あるいはオス端子3aの幅よりも小さい幅となるように、超音波接合部22を形成するとよい。
【0040】
その後、図4(b)に示すように、撚線導体2の他端を圧着端子4aの導体固定部42に挿入し、導体固定部42を変形させることで、撚線導体2を圧着端子4aに圧着固定する。
【0041】
つまり、本実施の形態では、オス端子3aと撚線導体2とを超音波接合により接続した後に、圧着端子4aと撚線導体2とを圧着により接続している。これにより、末端を揃えた状態で圧着により圧着端子4aを取り付けることができ、また、超音波接合の際の振動が圧着端子4aと撚線導体2との接続部分に悪影響を及ぼすことを抑制できる。
【0042】
その後、図4(c)に示すように、撚線導体2を、子撚り線同士の撚り方向と反対方向に捩る。すると、撚線導体2の中央部21において、子撚り線同士の撚りがほぐれた状態になる。このとき、撚線導体2が絶縁チューブ5内で移動(回転)して子撚り線同士の撚りがほぐされるため、絶縁チューブ5自体には捩れは生じない。その後、子撚り線同士の撚りがほぐれた撚線導体2の中央部21にて撚線導体2を屈曲させると、図1の機器用配線部材1が得られる。なお、図4(a)~(c)では、絶縁チューブ5を一点鎖線にて示している。
【0043】
本実施の形態では、撚線導体2の撚りをほぐすために撚線導体2を捩る方法を採用しているため、圧着端子4aは、撚線導体2を捩る作業を行った後に、両端子3a,4aの面A,Bが一致するように(面A,Bが機器への取付時の位置関係に応じた位置関係となるように)、取付角度が調整される。ここでは、オス端子3aの面Aの法線方向と圧着端子4a(接続部41)の面Bの法線方向とが垂直となるように圧着端子4aを取り付けた後、撚線導体2を90度捩ることで、両面A,Bが同一平面上に位置するようにしたが、圧着端子4aの取付角度は、所望の捩り角度(子撚り線同士の撚りのほぐれ具合)に応じて適宜調整可能である。つまり、圧着端子4aの取付時の角度(面A,Bの相対的な角度)により、撚線導体2の子撚り線同士の撚りのほぐれ具合を調整することが可能である。
【0044】
また、撚線導体2を捩る際には、両端子3a,4aを把持して捩るようにしてもよいし、撚線導体2の任意の2箇所を把持して捩るようにしてもよい。両端子3a,4aを把持して捩る場合、両端子3a,4aの近傍では、撚線導体2が撚られた状態で固定(接合あるいは圧着)されているため撚りがほぐれにくく、その中間部分である中央部21にて全体的に(緩やかに)子撚り線同士の撚りがほぐされることになる。他方、撚線導体2の任意の2箇所の位置を把持して捩る場合、当該2箇所の間の部分で局所的に子撚り線同士の撚りがほぐされることになる。よって、例えば、屈曲時の曲げ半径をより小さくしたい場合には、撚線導体2の任意の2箇所を把持して捩り局所的に子撚り線同士の撚りがほぐされるようにし、中央部21全体で緩やかに湾曲させ屈曲させてもよい場合には、両端子3a,4aを把持して捩り中央部21の全体で撚りがほぐされるようにしてもよい。
【0045】
なお、撚線導体2の曲がり癖(巻き癖)の影響により、撚線導体2を捩っても撚りが締まる方向に戻る場合も考えられる。このような場合、例えば、撚線導体2を子撚り線同士の撚り方向と反対方向に大きく捩った後に、両端子3a,4aが所望の位置関係となる位置まで撚り方向と同じ方向に捩って戻すようにしてもよい。また、両端子3a,4aが所望の位置関係となる位置まで撚線導体2を捩った後、撚線導体2に治具等で押圧力を加えて撚線導体2の一部を押し潰すことで、両端子3a,4aを所望の位置関係に維持するようにしてもよい。
【0046】
本実施の形態では、両端子3a,4aを接続した後に撚線導体2を捩ることで子撚り線同士の撚りをほぐす場合について説明したが、これに限らず、撚線導体2の一端を超音波接合によりオス端子3aに接続した後に、撚線導体2を屈曲させ、撚線導体2を屈曲させた後に撚線導体2の他端に圧着端子4aを接続するようにしてもよい。
【0047】
撚線導体2の一端をオス端子3aに接続した状態で撚線導体2を屈曲させると、撚線導体2を屈曲させる際に各素線に作用する引張または圧縮の応力の影響で、撚線導体2の子撚り線同士の撚りが自然にほぐれた状態となる。その後、撚線導体2の他端に圧着端子4aを接続するが、撚線導体2を屈曲させた際に撚線導体2の他端において素線(子撚り線)の端部が揃わなくなるので、撚線導体2の他端部を一部切除して素線(子撚り線)の末端を揃えた後に、撚線導体2の他端に圧着端子4aを圧着固定するとよい。
【0048】
この場合、撚線導体2の中央部21から圧着端子4a側にかけて、緩やかに子撚り線同士の撚りがほぐれた状態となる。より詳細には、撚線導体2には曲がり癖(巻き癖)があるため、より曲げ半径が小さい中央部21(屈曲部分)で子撚り線同士の撚りが最もほぐれた状態となり、圧着端子4aに近づくほど撚りが締まった(ほぐれていない)状態となる。
【0049】
このような製造方法を適用することで、撚線導体2の子撚り線同士のほぐれを最小限として、撚線導体2の幅(最大外径)の増加を抑制することが可能になる。また、撚線導体2を屈曲させた状態で圧着端子4aを設けることで、屈曲された状態で各素線(各子撚り線)が圧着固定されることとなるため、撚線導体2が屈曲された状態で維持されやすくなる。
【0050】
(機器用配線集合体の説明)
次に、機器用配線部材1を用いた機器用配線集合体について説明する。
【0051】
図5に示すように、機器用配線集合体51は、複数の機器用配線部材1と、複数の車両用の機器用配線部材1を所定間隔で保持する保持部材52と、を備えている。
【0052】
ここでは、三相交流電力を伝送することを想定し、3つの機器用配線部材1を用いる場合を説明するが、機器用配線部材1の数はこれに限定されず、2つ、あるいは4つ以上であってもよい。
【0053】
保持部材52としては、150℃~200℃程度の耐熱性を有する絶縁性樹脂からなるものを用いるとよい。保持部材52に好適な絶縁性樹脂としては、例えば、PBT、PPS、ナイロンが挙げられる。なお、保持部材52は機器用配線部材1と接触する部分が絶縁性樹脂で構成されていればよく、機器用配線部材1と接触しない部分が金属で構成されていてもよい。
【0054】
保持部材52は、全体として直方体状に形成されると共に、機器用配線部材1を保持するための切欠き53が3つ形成されており、略櫛歯状に形成されている。この切欠き53に各機器用配線部材1をそれぞれ収容することで、機器用配線部材1が所定間隔で保持される。
【0055】
なお、ここでは、3つの機器用配線部材1を保持する保持部材52を形成したが、隣り合う機器用配線部材1の間隔を保持するように構成された保持部材を複数備えるようにしてもよい。つまり、保持部材は、一体構成であってもよいし、複数に分割されていてもよい。
【0056】
本実施の形態に係る機器用配線集合体51では、保持部材52は、撚線導体2の中央部21に設けられておらず、撚線導体2の圧着端子4a側に近い端側に設けられている。これにより、各機器用配線部材1を保持部材52により保持させ機器用配線部材1の配線作業を容易としつつも、保持部材52よりもオス端子3a側の撚線導体2(子撚り線同士の撚りがほぐされた中央部21)が調整部分となり、オス端子3aの動きを許容することが可能になり、ワイヤハーネスのメス端子を嵌合させる際の接続性を向上させることが可能になる。
【0057】
図5では、3つの切欠き53を等間隔に形成し、3つの機器用配線部材1を等間隔で保持するように保持部材52を構成した場合を示しているが、適用する機器の配線レイアウトに応じて、各機器用配線部材1の間隔は異なっていてもよい。この場合、各機器用配線部材1のオス端子3aには共通のワイヤハーネスが接続されることになるため、オス端子3aの位置は、ワイヤハーネスのメス端子の位置に応じた固定の位置とされ、圧着端子4a側の位置(撚線導体2の圧着端子4a側の端の間隔)が適宜調整されることになる。
【0058】
また、図5では、3つの機器用配線部材1の長さ(撚線導体2の長さ)が同じ場合を示しているが、機器用配線部材1の長さ(撚線導体2の長さ)は異なっていてもよい。この場合も、各機器用配線部材1のオス端子3aには共通のワイヤハーネスが接続されることになるため、オス端子3aの位置は、ワイヤハーネスのメス端子の位置に応じた固定の位置とされ、圧着端子4a側の位置(図示上下方向の位置)や撚線導体2の屈曲角度等が適宜調整されることになる。
【0059】
(機器への適用例)
次に、機器用配線部材1(機器用配線集合体51)を車両のインバータ装置に適用した場合の具体的な配置等について説明する。
【0060】
図6に示すように、機器用配線部材1は、例えば、車両のインバータ装置61の機器内配線として用いられる。
【0061】
インバータ装置61は、複数のパワートランジスタ等のスイッチング素子やフライホイールダイオード等を有するインバータ本体62と、インバータ本体62を収容するアルミニウム等の導電性金属からなるインバータケース63と、インバータケース63に設けられたコネクタ部64と、を備えて構成されている。
【0062】
インバータ本体62は、直流電力をスイッチング素子のオン/オフ状態の切り替えによって交流電力に変換し、変換した交流電力をコネクタ部64を介して出力するように構成されている。本実施の形態では、三相交流電力を3つの機器用配線部材1を有する機器用配線集合体51を介して出力するが、図6では、このうち1つの機器用配線部材1のみを図示している。
【0063】
インバータケース63は、図示しないグランド線により電気的に接地され、インバータ本体62から放射される電磁波を遮断するように構成されている。インバータケース63のコネクタ部64に対応する部分には、開口63aが形成されている。
【0064】
コネクタ部64は、ボルト65によってインバータケース63に固定された導電性金属からなる固定部材66と、固定部材66に支持され、各機器用配線部材1のオス端子3aを保持する絶縁性樹脂からなるインシュレータ67と、を備えている。オス端子3aは、インバータケース63の開口63aを挿通され、その先端部がインシュレータ67内に収容されている。
【0065】
インシュレータ67は、オス端子3aの全体を覆うように設けられると共に、オス端子3aの先端よりも前方(図示右側)に突出するように設けられており、これにより、オス端子3aへの人体等の不用意な接触を抑止するタッチプロテクト構造を実現している。このコネクタ部64に、電気モータから延出されたワイヤハーネスを嵌合させることにより、ワイヤハーネスのメス端子にオス端子3aが嵌合され、ワイヤハーネスを介して電気モータに三相交流電力が供給されることになる。
【0066】
各機器用配線部材1の圧着端子4aは、インバータ本体62の接続端子(バスバ端子)68にボルト69により固定され電気的に接続される。接続端子68の圧着端子4aを接続する接続部68aは、ワイヤハーネスのメス端子の嵌合方向に対して略垂直方向に延びるように形成されており、圧着端子4aとオス端子3a間の撚線導体2は、略90度屈曲(湾曲)されて配置される。
【0067】
図示の例では、各機器用配線部材1を保持する保持部材52が、インバータ本体62から延出された支持部材70に固定されている場合を示しているが、これに限らず、支持部材70はインバータケース63に固定されていてもよいし、保持部材52が支持部材70を介さず直接インバータ本体62やインバータケース63に支持される構造となっていてもよい。
【0068】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る機器用配線部材1では、撚線導体2の中央部21(配線屈曲部)の子撚り線同士の撚りが両端側よりほぐれている。
【0069】
これにより、子撚り線同士の撚りをほぐした中央部21(配線屈曲部)にて撚線導体2を屈曲させやすくなり、たとえ、機器用配線部材1を短尺化しても、屈曲のし難さを低減することが可能になる。また、機器用配線部材1が屈曲し易くなることにより、配線作業における微調整がし易くなり、配線作業も容易になる。
【0070】
さらに、機器用配線部材1では、2つの接続部3,4は、ワイヤハーネスのメス端子が嵌合され接続されるオス端子3aと、機器の接続端子68と接続される圧着端子4aと、からなる。
【0071】
このように構成することで、ワイヤハーネスのメス端子にオス端子3aを嵌合する際に、撚線導体2における子撚り線同士の撚りがほぐれている中央部21が調整部分となりオス端子3aの動きを許容することが可能となり、嵌合時にオス端子3aが少し動くことで、ワイヤハーネスのメス端子との接続性を向上させることが可能になる。
【0072】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0073】
[1]素線を複数本撚り合わせた子撚り線をさらに複数本撚り合わせた複合撚線導体である撚線導体(2)と、前記撚線導体(2)の両端に設けられる2つ接続部(3,4)と、を備え、前記撚線導体(2)の中央部(21)は、配線の際に屈曲させる部分であって前記子撚り線同士の撚りが両端側よりほぐれている配線屈曲部を含む、車両用の機器用配線部材(1)。
【0074】
[2]前記2つの接続部(3,4)は、ワイヤハーネスのメス端子が嵌合され接続されるオス端子(3a)と、機器の接続端子(68)と接続される圧着端子(4a)と、からなる、[1]に記載の車両用の機器用配線部材(1)。
【0075】
[3]前記オス端子(3a)と前記撚線導体(2)とは、超音波接合により接続されている、[2]に記載の車両用の機器用配線部材(1)。
【0076】
[4]前記オス端子(3a)の前記撚線導体の延出側の端部には、面取り加工が施されている、[3]に記載の車両用の機器用配線部材(1)。
【0077】
[5]前記配線屈曲部の外径が両端側の1.3倍以上となる、[1]乃至[4]の何れか1項に記載の車両用の機器用配線部材(1)。
【0078】
[6][1]乃至[5]の何れか1項に記載の車両用の機器用配線部材(1)を複数備えると共に、前記複数の車両用の機器用配線部材(1)を所定間隔で保持する保持部材(52)を備えた、機器用配線集合体(51)。
【0079】
[7]前記2つの接続部(3,4)は、ワイヤハーネスのメス端子が嵌合され接続されるオス端子(3a)と、機器の接続端子(68)と接続される圧着端子(4a)と、からなり、前記保持部材(52)は、前記撚線導体(2)の中央部(21)に設けられておらず、前記撚線導体(2)の前記圧着端子(4a)側に近い端側に設けられている、[6]に記載の機器用配線集合体(51)。
【0080】
[8]素線を複数本撚り合わせた子撚り線をさらに複数本撚り合わせた複合撚線導体である撚線導体(2)と、前記撚線導体(2)の両端に設けられ、ワイヤハーネスのメス端子が嵌合され接続されるオス端子(3a)、および機器の接続端子と接続される圧着端子(4a)からなる2つ接続部(3,4)と、を備え、前記撚線導体(2)の中央部(21)は、配線の際に屈曲させる部分であって前記子撚り線同士の撚りが両端側よりほぐれている配線屈曲部を含む、車両用の機器用配線部材(1)の製造方法であって、前記オス端子(3a)と前記撚線導体(2)とを、超音波接合により接続した後に、前記圧着端子(4a)と前記撚線導体(2)とを、圧着により接続する、車両用の機器用配線部材(1)の製造方法。
【0081】
[9]前記撚線導体(2)に前記オス端子(3a)と前記圧着端子(4a)とを接続した後、前記素線の撚り方向と反対側に前記撚線導体(2)を捩ることで、前記撚線導体(2)の中央部(21)における前記子撚り線同士の撚りをほぐし前記配線屈曲部を形成する、[8]に記載の車両用の機器用配線部材(1)の製造方法。
【0082】
[10]前記撚線導体(2)の一端に前記オス端子(3a)を接続した後、前記撚線導体(2)を屈曲させることで前記撚線導体(2)の中央部(21)における前記子撚り線同士の撚りをほぐし前記配線屈曲部を形成し、その後、前記撚線導体(2)の他端に前記圧着端子(4a)を接続する、[8]に記載の車両用の機器用配線部材(1)の製造方法。
【0083】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0084】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【0085】
例えば、上記実施の形態では、絶縁チューブ5を備える場合について説明したが、絶縁チューブ5は必須ではなく、省略可能である。
【0086】
また、上記実施の形態では、3つの機器用配線部材1を用いて三相交流電力を伝送する場合を説明したが、これに限らず、例えば直流電力を伝送するようにしてもよい。
【0087】
また、上記実施の形態では、機器用配線部材1をインバータ装置61に適用する場合を説明したが、インバータ装置61以外の車両に搭載される機器に機器用配線部材1を適用してもよい。
【0088】
また、上記実施の形態では、機器用配線部材1をインバータ装置61の機器内配線に用いる場合を説明したが、機器用配線部材1の全体が機器内に配置されている必要はなく、機器用配線部材1の一部または全部が機器の外部に配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0089】
1…機器用配線部材(車両用の機器用配線部材)
2…撚線導体
3,4…接続部
3a…オス端子
4a…圧着端子
5…絶縁チューブ
21…中央部(配線屈曲部)
22…超音波接合部
41…接続部
41a…ボルト穴
42…導体固定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6