(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】音響整合層用樹脂組成物、硬化物、音響整合シート、音響波プローブ、音響波測定装置、音響波プローブの製造方法、及び音響整合層用材料セット
(51)【国際特許分類】
H04R 17/00 20060101AFI20220210BHJP
A61B 8/00 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
H04R17/00 330J
A61B8/00
(21)【出願番号】P 2019550441
(86)(22)【出願日】2018-10-31
(86)【国際出願番号】 JP2018040441
(87)【国際公開番号】W WO2019088148
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2020-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2017212208
(32)【優先日】2017-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】中井 義博
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 和博
【審査官】冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/088699(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0199031(US,A1)
【文献】特開平11-113908(JP,A)
【文献】特開2013-081241(JP,A)
【文献】国際公開第2013/008470(WO,A1)
【文献】特開2004-179954(JP,A)
【文献】特開2016-214607(JP,A)
【文献】特開2009-296055(JP,A)
【文献】特開平04-062007(JP,A)
【文献】特開2015-082764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 17/00
A61B 8/00
H04R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含む結着材と表面処理金属粒子とを含有し、前記表面処理金属粒子が、表面にシランカップリング剤処理が施された金属粒子であ
り、
前記表面処理金属粒子の粒径が1~10μmである、音響整合層用樹脂組成物。
【請求項2】
樹脂を含む結着材と表面処理金属粒子とを含有し、前記表面処理金属粒子が、表面にリン酸化合物処理が施された金属粒子であ
り、
前記表面処理金属粒子の粒径が1~10μmである、音響整合層用樹脂組成物。
【請求項3】
前記リン酸化合物が、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、直鎖状のポリリン酸、及び環状のメタリン酸ならびにこれらの塩である、請求項2記載の音響整合層用樹脂組成物。
【請求項4】
前記表面処理金属粒子が、周期表第4~12族の金属の少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれか1項記載の音響整合層用樹脂組成物。
【請求項5】
前記の周期表第4~12族の金属が、周期表第4周期の金属である、請求項4記載の音響整合層用樹脂組成物。
【請求項6】
前記表面処理金属粒子が、鉄、銅及びニッケルの少なくとも1種を含む、請求項1~5のいずれか1項記載の音響整合層用樹脂組成物。
【請求項7】
前記表面処理金属粒子が表面処理金属酸化物粒子ではない、請求項1~6のいずれか1項記載の音響整合層用樹脂組成物。
【請求項8】
前記結着材が熱可塑性樹脂を含む、請求項1~
7のいずれか1項記載の音響整合層用樹脂組成物。
【請求項9】
前記結着材が、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、メタ(アクリル)樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、及び熱可塑性ポリウレタン樹脂の少なくとも1種である、請求項1~
8のいずれか1項記載の音響整合層用樹脂組成物。
【請求項10】
前記結着材が、エポキシ樹脂と該エポキシ樹脂の硬化剤とを含む、請求項1~
7のいずれか1項記載の音響整合層用樹脂組成物。
【請求項11】
前記エポキシ樹脂がビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂の少なくとも1種を含む、請求項
10記載の音響整合層用樹脂組成物。
【請求項12】
前記硬化剤が、一級アミン及び二級アミンの少なくとも1種を含む、請求項
10又は
11記載の音響整合層用樹脂組成物。
【請求項13】
請求項
10~
12のいずれか1項記載の音響整合層用樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
【請求項14】
請求項
13記載の硬化物からなる音響整合シート。
【請求項15】
請求項1~
12のいずれか1項記載の音響整合層用樹脂組成物により形成した音響整合シート。
【請求項16】
請求項
14又は
15記載の音響整合シートを音響整合層として有する音響波プローブ。
【請求項17】
請求項
16記載の音響波プローブを備える音響波測定装置。
【請求項18】
前記音響波測定装置が超音波診断装置である、請求項
17記載の音響波測定装置。
【請求項19】
圧電素子上に、請求項1~
12のいずれか1項記載の音響整合層用樹脂組成物を用いて音響整合層を形成することを含む、音響波プローブの製造方法。
【請求項20】
エポキシ樹脂と表面処理金属粒子とを含む樹脂組成物からなる主剤と、該エポキシ樹脂の硬化剤とを含み、前記表面処理金属粒子が、表面にシランカップリング剤処理が施された金属粒子であ
り、
前記表面処理金属粒子の粒径が1~10μmである、音響整合層用材料セット。
【請求項21】
エポキシ樹脂と表面処理金属粒子とを含む樹脂組成物からなる主剤と、該エポキシ樹脂の硬化剤とを含み、前記表面処理金属粒子が、表面にリン酸化合物処理が施された金属粒子であ
り、
前記表面処理金属粒子の粒径が1~10μmである、音響整合層用材料セット。
【請求項22】
前記リン酸化合物が、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、直鎖状のポリリン酸、及び環状のメタリン酸ならびにこれらの塩である、請求項
21記載の音響整合層用材料セット。
【請求項23】
前記表面処理金属粒子が表面処理金属酸化物粒子ではない、請求項20~22のいずれか1項記載の音響整合層用材料セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響整合層用樹脂組成物、硬化物、音響整合シート、音響波プローブ、音響波測定装置、音響波プローブの製造方法、及び音響整合層用材料セットに関する。
【背景技術】
【0002】
音響波測定装置には、音響波を生体等の被検対象に照射し、その反射波(エコー)を受信して信号を出力する音響波プローブが用いられる。この音響波プローブにより受信した反射波は電気信号に変換され、画像として表示される。したがって、音響波プローブを用いることにより、被検対象内部を映像化して観察することができる。
【0003】
音響波としては、超音波、光音響波などが、被検対象に応じて、また測定条件に応じて適宜に選択される。
例えば、音響波測定装置の1種である超音波診断装置は、被検対象内部に向けて超音波を送信し、被検対象内部の組織で反射された超音波を受信し、画像として表示する。
また、光音響波測定装置は、光音響効果によって被検対象内部から放射される音響波を受信し、画像として表示する。光音響効果とは、可視光、近赤外光またはマイクロ波等の電磁波パルスを被検対象に照射したときに、被検対象が電磁波を吸収して発熱し、熱膨張することにより音響波(典型的には超音波)が発生する現象である。
【0004】
音響波測定装置は、被検対象との間で音響波の送受信を行うため、音響波プローブには被検対象との音響インピーダンスの整合性が要求される。この要求を満たすために、音響波プローブには音響整合層が設けられる。このことを音響波プローブの1種である超音波診断装置用探触子(超音波プローブとも称される)を例に説明する。
超音波プローブは、超音波を送受信する圧電素子と、生体に接触する音響レンズとを備え、圧電素子と音響レンズとの間には音響整合層が配されている。圧電素子から発振される超音波は音響整合層を透過し、さらに音響レンズを透過して生体に入射される。音響レンズと生体との間の音響インピーダンス(密度×音速)には通常は差がある。この差が大きいと、超音波が生体表面で反射されやすく、超音波の生体内への入射効率が低下してしまう。そのため、音響レンズには生体に近い音響インピーダンス特性が求められる。
他方、圧電素子と生体との間の音響インピーダンスの差は一般に大きい。それゆえ、圧電素子と音響レンズとの間の音響インピーダンスの差も通常は大きなものとなる。したがって、圧電素子と音響レンズとの積層構造とした場合には、圧電素子から発せられた超音波は圧電素子と音響レンズとの界面で反射し、超音波の生体への入射効率は低下する。この界面での超音波の反射を抑制するために、圧電素子と音響レンズとの間には上記の音響整合層が設けられる。音響整合層の音響インピーダンスは生体又は音響レンズの音響インピーダンスと圧電素子の音響インピーダンスとの間にあり、これにより圧電素子から生体への超音波の伝播が効率化する。また、音響整合層を複層構造として、圧電素子側から音響レンズ側に向けて音響インピーダンスに段階的な傾斜を設けることにより、超音波の伝播をより効率化することも知られている。
【0005】
音響波プローブには上述した音響特性に加え、十分な機械強度も求められる。すなわち、音響波プローブは生体にこすり付け、ときには押圧して使用されるものであるため、機械強度は音響波プローブの製品寿命に直接影響する。
【0006】
音響レンズの構成材料としては、シリコーン樹脂を用いることが知られている。このシリコーン樹脂はそのままでは密度が低く、その音響インピーダンスと生体の音響インピーダンスとの差は大きい。また、シリコーン樹脂は単独では柔らかく、機械強度に劣る傾向がある。
この問題に対処する技術として、例えば特許文献1には、特定構造を有するシリコーン樹脂に特定粒径の無機酸化物粒子を配合した音響波プローブ用シリコーン樹脂が記載されている。特許文献1記載の技術によれば、音響インピーダンスが生体の音響インピーダンスに近く、また、音響波減衰量も抑えられ、さらに機械強度にも優れた音響波プローブを提供することができるとされる。
【0007】
他方、音響整合層には、その構成材料としてシリコーン樹脂を用いる他、シリコーン樹脂以外の材料を用いることも知られている。例えば特許文献2には、超音波探触子の音響波整合層として、1ミクロン以下の金属ナノ粒子と結合材としての無機高分子結合材とを用いて、これを低温焼成することにより一部又は全部を金属バルク化することが記載されている。特許文献2記載の技術によれば、所望の音響インピーダンス特性を有する音響整合層の作製が可能になるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-12436号公報
【文献】特開2013-192113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
音響波プローブの音響整合層には、その音響インピーダンスを、圧電素子の音響インピーダンスと生体または音響レンズの音響インピーダンスとの間で所望のレベルに調整可能な材料が採用される。
このような音響整合層として上記特許文献2に記載の音響整合層が報告されているが、特許文献2記載の音響整合層の形成に用いる組成物は金属ナノ粒子を多量に含有し、粘度が高くハンドリング性、加工性等に劣る。また、金属は還元条件下では腐食しやすく、プローブのメンテナンス、寿命等の点でも課題が残る。
また、音響整合層は、特に、上述のように複層構造とする場合には、その調製工程において切削、ダイシング等により数百μm以下の厚みレベルまで二次加工する必要がある。したがって、音響整合層の構成材料には、上述した音響波プローブに通常求められる機械特性に加え、二次加工の観点からも高い機械強度が求められる。しかし本発明者らの検討により、上記特許文献2記載の金属粒子を用いた場合には、所望の機械強度を得ることが難しいことが分かってきた。
【0010】
そこで本発明は、金属粒子と、樹脂を含む結着材とを含有する樹脂組成物であって、樹脂が熱可塑性の場合には樹脂を溶融させることにより、金属粒子が多量に含まれていても優れた流動性(ハンドリング性)を実現でき、また、樹脂が熱硬化性の場合には硬化前状態において、金属粒子が多量に含まれていても優れた流動性を実現でき、これを所望のシート状に成形又は加工することにより、機械強度と耐腐食性に優れ、また層内の音響特性のばらつきも少ない音響整合層を形成することができる音響整合層用樹脂組成物を提供することを課題とする。また本発明は、この組成物の調製に好適な音響整合層用材料セットを提供することを課題とする。
また本発明は、金属粒子を含有しながらも耐腐食性に優れ、機械強度にも優れ、シート内の音響特性のばらつきも少ない音響整合シート、及びこれに用いる硬化物を提供することを課題とする。
また本発明は、音響整合層に金属粒子を含有しながらも、耐腐食性に優れ、機械強度にも優れ、プローブ内における音響特性のばらつきも少ない音響波プローブ、及びこれを用いた音響波測定装置を提供することを課題とする。
また本発明は、音響整合層に金属粒子を含有しながらも、耐腐食性に優れ、機械強度にも優れ、プローブ内における音響特性のばらつきも少ない音響波プローブの製造を可能とする音響波プローブの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、音響整合層を形成するための組成物として、金属粒子と、樹脂を含む結着材(母材又は分散媒体ともいう。)との混合物を採用し、さらに、上記金属粒子として表面処理金属粒子を用いることにより、組成物の流動性を、金属粒子を多量に含む場合であっても所望のレベルに高めることができ、ハンドリング性に優れた組成物とすることができることを見出した。また、この組成物を用いて形成したシートは、金属粒子を含有しながらも耐腐食性に優れ、機械強度にも優れ、またシート内の音響特性のばらつきも小さなものであった。
本発明はこれらの知見に基づきさらに検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明の上記課題は下記の手段により解決された。
〔1〕
樹脂を含む結着材と表面処理金属粒子とを含有する、音響整合層用樹脂組成物。
〔2〕
上記表面処理金属粒子が、周期表第4~12族の金属の少なくとも1種を含む、〔1〕記載の音響整合層用樹脂組成物。
〔3〕
上記の周期表第4~12族の金属が、周期表第4周期の金属である、〔2〕記載の音響整合層用樹脂組成物。
〔4〕
上記表面処理金属粒子が、鉄、銅及びニッケルの少なくとも1種を含む、〔1〕記載の音響整合層用樹脂組成物。
〔5〕
上記表面処理金属粒子が、表面にリン酸化合物処理が施された金属粒子である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の音響整合層用樹脂組成物。
〔6〕
上記表面処理金属粒子が、表面にシランカップリング剤処理が施された金属粒子である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の音響整合層用樹脂組成物。
〔7〕
上記結着材が熱可塑性樹脂を含む、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の音響整合層用樹脂組成物。
〔8〕
上記結着材が、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、メタ(アクリル)樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、及び熱可塑性ポリウレタン樹脂の少なくとも1種である、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の音響整合層用樹脂組成物。
〔9〕
上記結着材が、エポキシ樹脂と、このエポキシ樹脂の硬化剤とを含む、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の音響整合層用樹脂組成物。
〔10〕
上記エポキシ樹脂がビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂の少なくとも1種を含む、〔9〕記載の音響整合層用樹脂組成物。
〔11〕
上記硬化剤が、一級アミン及び二級アミンの少なくとも1種を含む、〔9〕又は〔10〕記載の音響整合層用樹脂組成物。
〔12〕
〔9〕~〔11〕のいずれかに記載の音響整合層用樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
〔13〕
〔12〕記載の硬化物からなる音響整合シート。
〔14〕
〔1〕~〔11〕のいずれかに記載の音響整合層用樹脂組成物により形成した音響整合シート。
〔15〕
〔13〕又は〔14〕記載の音響整合シートを音響整合層として有する音響波プローブ。
〔16〕
〔15〕記載の音響波プローブを備える音響波測定装置。
〔17〕
上記音響波測定装置が超音波診断装置である、〔16〕記載の音響波測定装置。
〔18〕
圧電素子上に、〔1〕~〔11〕のいずれかに記載の音響整合層用樹脂組成物を用いて音響整合層を形成することを含む、音響波プローブの製造方法。
〔19〕
エポキシ樹脂と表面処理金属粒子とを含む樹脂組成物からなる主剤と、このエポキシ樹脂の硬化剤とを含む、音響整合層用材料セット。
【発明の効果】
【0013】
本発明の音響整合層用樹脂組成物及び音響整合層用材料セットは、金属粒子を多量に含む場合にも優れた流動性を実現でき、これらを用いて所望のシート状に成形又は加工することにより、機械強度と耐腐食性に優れ、またシート内の音響特性のばらつきも少ない音響整合シートを得ることができる。
また本発明の音響整合シートは、金属粒子を含有しながらも耐腐食性に優れ、機械強度にも優れ、シート内の音響特性のばらつきも少ない。また本発明の硬化物は、本発明の音響整合層の構成材料として好適である。
また本発明の音響波プローブ、及びこれを用いた音響波測定装置は、音響整合層に金属粒子を含有しながらも、耐腐食性に優れ、機械強度にも優れ、またプローブ内における音響特性のばらつきも少ない。
また本発明の音響波プローブの製造方法によれば、音響整合層に金属粒子を含有しながらも、耐腐食性に優れ、機械強度にも優れ、またプローブ内における音響特性のばらつきも少ない音響波プローブを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】音響波プローブの一態様であるコンベックス型超音波プローブの一例を示す斜視透過図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[音響整合層用樹脂組成物]
本発明の音響整合層用樹脂組成物(以下、単に「本発明の組成物」とも称す。)は、樹脂を含む結着材と表面処理金属粒子とを含む。
【0016】
<結着材>
本発明の組成物に含まれる結着材は、表面処理金属粒子間の隙間を埋めるものであり、表面処理金属粒子の分散媒体として機能する。
【0017】
結着材は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含むことが好ましい。
結着材として熱可塑性樹脂を用いる場合、この熱可塑性樹脂の融点は100~350℃が好ましい。結着材が熱可塑性樹脂の場合、本発明の組成物が結着材として熱可塑性樹脂を有する場合は、熱可塑性樹脂の融点未満の温度領域では固体状であり、固化した樹脂中に表面処理金属粒子が分散した形態にある。
結着材として用い得る熱可塑性樹脂は特に制限されない。熱可塑性樹脂の好ましい例としては、例えば、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、メタ(アクリル)樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリビニリデン樹脂(ポリ塩化ビニル等)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、及びフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等)等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
なかでも、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、メタ(アクリル)樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、及び熱可塑性ポリウレタン樹脂が好ましい。これらの熱可塑性樹脂を用いることにより、組成物が、樹脂の溶融状態においてより高い流動性を示し、優れたハンドリング性、加工性等をより高いレベルで実現することができる。
【0018】
結着材に用いる熱硬化性樹脂は特に制限されない。例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、熱硬化性ポリウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂等を挙げることができる。
なかでも、架橋密度を高めて、得られるシートの機械強度をより向上させる観点から、結着材を構成する熱硬化性樹脂としてはエポキシ樹脂を用いることが好ましい。この場合、結着材はエポキシ樹脂とともに硬化剤を含むことが好ましい。つまり、結着材が熱硬化性樹脂を含む場合、この結着材はエポキシ樹脂と硬化剤との組合せが好ましい。
熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂の1種又は2種以上を含むことが好ましい。
【0019】
本発明に用い得るビスフェノールA型エポキシ樹脂は特に制限されず、エポキシ系接着剤の主剤として一般的に用いられるものを広く用いることができる。好ましい具体例として、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(jER825、jER828及びjER834(いずれも商品名)、三菱化学社製)及びビスフェノールAプロポキシレートジグリシジルエーテル(シグマアルドリッチ社製)が挙げられる。
【0020】
本発明に用い得るビスフェノールF型エポキシ樹脂は特に制限されず、エポキシ系接着剤の主剤として一般的に用いられるものを広く用いることができる。好ましい具体例として、ビスフェノールFジグリシジルエーテル(商品名:EPICLON830、DIC社製)及び4,4’-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン)が挙げられる。
【0021】
本発明に用い得るフェノールノボラック型エポキシ樹脂は特に制限されず、エポキシ系接着剤の主剤として一般的に用いられるものを広く用いることができる。このようなフェノールノボラック型エポキシ樹脂は、例えば、シグマアルドリッチ社から製品番号406775として販売されている。
【0022】
硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化剤として知られているものを特に制限なく用いることができる。例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン、ジシアンジアミド、ジヒドラジド化合物、酸無水物、フェノール樹脂などが挙げられる。
架橋密度を高めて、得られるシートの機械強度をより向上させる観点からは、一級アミン及び二級アミンの少なくとも1種を用いることが好ましい。なかでも、1分子中に一級アミンと二級アミンを有する化合物が好ましく、その具体例としては、ポリアミドアミン、トリエチレンテトラミン等を挙げることができる。
【0023】
本発明の組成物が結着材としてエポキシ樹脂と硬化剤とを含む場合、おだやかな条件でも、組成物中において、経時的にエポキシ樹脂の硬化反応が進む場合がある。したがって、この組成物の性状は経時的に変化し安定でない場合がある。しかし、例えば、上記組成物を-10℃以下の温度で保存することにより、硬化反応を生じずに又は十分に抑制して各成分が安定に維持された状態の組成物とすることができる。
また、結着材にエポキシ樹脂を用いる場合には、エポキシ樹脂と表面処理金属粒子とを含む樹脂組成物を主剤とし、この主剤と硬化剤とを別々により分けた音響整合層用材料セットの形態とすることも好ましい。音響整合層の形成に当たり、主剤と硬化剤とを混合して本発明の組成物を調製し、この組成物を用いて層を形成することにより、音響整合層を形成することができる。
結着材を構成するエポキシ樹脂と硬化剤の質量比は、用いる硬化剤の種類等に応じて適宜に調整するればよい。例えば、エポキシ樹脂/硬化剤=99/1~20/80とすることができ、90/10~40/60が好ましい。
また、上記の音響整合層用材料セットを用いて、層形成時に主剤と硬化剤とを混合して本発明の組成物を調製する場合においては、エポキシ樹脂と硬化剤との質量比がエポキシ樹脂/硬化剤=99/1~20/80となるように主剤と硬化剤とを混合して用いる形態とすることが好ましく、90/10~40/60となるように主剤と硬化剤とを混合して用いる形態とすることがより好ましい。
【0024】
<表面処理金属粒子>
本発明の組成物は表面処理が施された金属粒子(表面処理金属粒子)を含有する。この表面処理金属粒子の含有量を調整することにより、組成物の密度を調整することができ、得られる音響整合層の音響インピーダンスを所望のレベルに調整することが可能になる。
また、表面処理が施された金属粒子を用いることにより、金属粒子を組成物中に高含有させた場合にも組成物は十分な流動性を示すことができる。結果、優れたハンドリング性と加工性を実現することができる。さらに、この組成物を用いて形成したシートは機械強度にも優れる。これらの理由は定かではないが、表面処理により金属粒子間の凝集力が弱められたり、金属粒子と樹脂との間の親和性が高められたりすることが、複合的に影響しているものと考えられる。
【0025】
金属粒子の表面処理に特に制限はなく、通常の表面処理技術を適用することができる。例えば、炭化水素油、エステル油、ラノリン等による油剤処理、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等によるシリコーン処理、パーフルオロアルキル基含有エステル、パーフルオロアルキルシラン、パーフルオロポリエーテルおよびパーフルオロアルキル基を有する重合体等による弗素化合物処理、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等によるシランカップリング剤処理、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート等によるチタンカップリング剤処理、金属石鹸処理、アシルグルタミン酸等によるアミノ酸処理、水添卵黄レシチン等によるレシチン処理、コーラーゲン処理、ポリエチレン処理、保湿性処理、無機化合物処理、メカノケミカル処理、リン酸、亜リン酸、リン酸塩、亜リン酸塩等によるリン酸化合物処理等の処理方法が挙げられる。
【0026】
上記表面処理はリン酸化合物処理(リン酸化合物による処理)が好ましい。リン酸化合物処理を施すことにより、金属粒子表面に高極性の処理層を厚く形成することができる。その結果、金属粒子の表面を効果的に改質できる。すなわち、金属粒子の耐腐食性を効果的に高めることができ、また、結着材との親和性が高められたり、金属粒子同士の疎水的相互作用による凝集が抑えられたりして組成物の粘度上昇をより効果的に抑制することができる。また、結着材中の金属粒子が均質に分散する様になるなどして組成物を成形して得られるシートの機械強度をより高めることができ、音響特性のばらつきもより生じにくくなる。
リン酸化合物には、リン酸の他に、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、直鎖状のポリリン酸、及び環状のメタリン酸、ならびにこれらの塩が含まれる。リン酸化合物が塩の形態の場合、金属塩が好ましい。例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属、及びアンモニウム塩が挙げられるが、これらに限定されない。
表面処理において上記のリン酸化合物の1種又は2種類以上を用いることができる。また、これらのリン酸化合物は通常、キレート剤、中和剤等と混合して表面処理剤とされる。また、表面処理剤として、一般に市販されているリン酸化合物の水溶液を使用することもできる。
リン酸化合物処理は、例えば、金属粒子と上記リン酸化合物を含む表面処理剤とを混合することにより行うことができる。混合時間、温度等の条件は目的に応じて適宜に設定すればよい。この処理においては、リン酸化合物の解離(平衡)反応を利用して不溶性のリン酸化合物を金属粒子表面に析出させる。
リン酸化合物処理は、例えば、「表面技術」、第61巻、第3号、p216、2010年、又は、「表面技術」、第64巻、第12号、p640、2013年を参照することができる。
また、感度の観点からはシランカップリング剤による表面処理(シランカップリング剤処理)が好ましい。詳細な理由は明らかではないが、シランカップリング剤により表面処理することにより金属と結着剤との相互作用が高まり、金属粒子と結着剤界面での超音波の反射、散乱が抑制されることにより、他の表面処理よりも減衰値が小さくなると推測している。
【0027】
表面処理金属粒子を構成する金属は特に制限されない。金属原子単独でもよく、金属の炭化物、窒化物、酸化物、又はホウ素化物でもよい。また合金を形成していてもよい。合金の種類としては高張力鋼(Fe-C)、クロムモリブデン鋼(Fe-Cr-Mo)、マンガンモリブデン鋼(Fe-Mn-Mo)、ステンレス鋼(Fe-Ni-Cr)、42アロイ、インバー(Fe-Ni)、バーメンデュール(Fe-Co)、ケイ素鋼(Fe-Si)、丹銅、トムバック(Cu-Zn)、洋白(Cu-Zn-Ni)、青銅(Cu-Sn)、白銅(Cu-Ni)、赤銅(Cu-Au)、コンスタンタン(Cu-Ni)、ジェラルミン(Al-Cu)、ハステロイ(Ni-Mo-Cr-Fe)、モネル(Ni-Cu)、インコネル(Ni-Cr-Fe)、ニクロム(Ni-Cr)、フェロマンガン(Mn-Fe)、超硬合金(WC/Co)などが挙げられる。
表面処理金属粒子を構成する金属は、周期表第4~12族の金属の少なくとも1種を含む(好ましくは周期表第4~12族の金属の少なくとも1種からなる)ことが好ましい。また、周期表第4~12族の金属は、周期表第4周期の金属であることが好ましい。周期表第4周期の金属を用いることにより金属粒子と結着材との親和性が高められ、耐腐食性をより向上させることができ、得られるシートの機械強度の向上にも効果的に寄与する。
上記金属は、より好ましくは鉄、亜鉛、チタン、銅及びニッケルの少なくとも1種を含み(好ましくは鉄、亜鉛、チタン、銅及びニッケルの少なくとも1種からなり)、鉄、銅及びニッケルの少なくとも1種を含む(好ましくは鉄、銅及びニッケルの少なくとも1種からなる)ことがより好ましい。
上記金属は酸化物の状態のものを含まないことが好ましい。
【0028】
本発明に用いる表面処理金属粒子の粒径は、樹脂組成物の粘度を低減し、また音響減衰を低減する観点から0.01~100μmが好ましく、1~10μmがより好ましい。ここで、表面処理金属粒子の「粒径」は平均一次粒子径を意味する。
ここで、平均一次粒子径とは、体積平均粒子径を意味する。この体積平均粒子径は、次のように決定される。
メタノールに表面処理金属粒子を、0.5質量%となるように添加し、10分間超音波にかけることにより、表面処理金属粒子を分散させる。このように処理した表面処理金属粒子の粒度分布を、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製、商品名:LA950V2)により測定し、その体積基準メジアン径を体積平均粒子径とする。なお、メジアン径とは粒径分布を累積分布として表したときの累積50%に相当する。
表面処理金属粒子において、金属粒子を覆う表面処理層の厚さは、1~1000nmが好ましく、5~100nmがより好ましい。
また、表面処理層は金属粒子表面全体を覆う必要はなく、本発明の効果を損なわない範囲で、一部に欠陥が生じていてもよい。
【0029】
本発明の組成物中、表面処理金属粒子と結着材の各含有量は、目的の音響インピーダンス等に応じて適宜に調整される。例えば、音響整合層を複層とする場合、圧電素子側の音響整合層に用いる組成物中の表面処理金属粒子の含有量は相対的に多くし、音響レンズ側の音響整合層に用いる組成物中の表面処理金属粒子の含有量は相対的に少なくすることができる。こうすることにより、圧電素子側から音響レンズ側に向けて、音響インピーダンスに傾斜を持たせることができ、音響波の伝播をより効率化することができる。
本発明の組成物中の表面処理金属粒子と結着材の各含有量は、例えば、表面処理金属粒子100質量部に対し、結着材を10~80質量部とすることができ、15~75質量部がより好ましく、20~70質量部がさらに好ましい。
【0030】
本発明の組成物は、結着材と表面処理金属粒子から構成されていてもよい。また、本発明の効果を損なわない範囲で、これら以外の成分を含有していてもよい。結着材以外で表面処理金属粒子以外の成分としては、例えば、硬化遅延剤、溶媒、分散剤、顔料、染料、帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤および/または熱伝導性向上剤等が挙げられる。
本発明の組成物中、結着材と表面処理金属粒子の各含有量の合計は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。
【0031】
本発明の組成物は、結着材が熱可塑性樹脂の場合、「樹脂の融点+20℃」の温度下において、粘度が1~5000Pa・sが好ましく、10~1000Pa・sがより好ましい。熱可塑性樹脂を2種以上用いる場合には、「樹脂の融点+20℃」とは、「融点が最も高い樹脂の融点+20℃」を意味する。
また、結着材が熱硬化性樹脂の場合、硬化前(25℃で熱硬化性樹脂と硬化剤とを均一に混合してから60分以内)の25℃における粘度が1~5000Pa・sが好ましく、10~1000Pa・sがより好ましい。なお、本発明の音響整合層用材料セットにおいては主剤の25℃における粘度が上記好ましい範囲内にあることが好ましい。
粘度は、コーン型回転レオメーター(HAAKE社製「RheoStress RS6000」)を用いて、温度25℃、1rpm、測定時間60秒間の条件で測定される。
【0032】
<音響整合層用樹脂組成物の調製>
本発明の音響整合層用樹脂組成物は、例えば、音響整合層用樹脂組成物を構成する成分を混合することにより得ることができる。この混合方法は各成分を均一混合できれば特に制限されない。例えば、撹拌機を用いたり、混練機(ニーダー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー(連続ニーダー)、2本ロールの混練装置)を用いて混練りしたりすることができる。結着材として熱可塑性樹脂を用いる場合には、樹脂の融点以上の温度で混練りする。これにより、結着材中に表面処理金属粒子が分散してなる音響整合層用樹脂組成物を得ることができる。
また、結着材として熱硬化性樹脂を用いる場合には、硬化前の状態の結着材と表面処理金属粒子とを混合することにより、また必要により硬化剤を混合することにより、結着材中に表面処理金属粒子が分散してなる音響整合層用組成物を得ることができる。この場合、上記のようなニーダー等で混合してもよいが、あまり熱が生じないように、比較的穏やかに撹拌することが好ましい。
【0033】
また、エポキシ樹脂と表面処理金属粒子とを含む樹脂組成物からなる主剤と、このエポキシ樹脂の硬化剤とを含む音響整合層用材料セットとする場合には、エポキシ樹脂と表面処理金属粒子とを混合することにより主剤を得ることができる。音響整合層の作製時に、この主剤と硬化剤とを混合することにより本発明の組成物を得る。この組成物を成形しながら硬化することにより、音響整合層又はその前駆体シートを形成することができる。
【0034】
[音響整合シート(音響整合層)]
本発明の組成物は、これをシート状に成形し、必要により所望の厚さ又は形状へと切削、ダイシング等することにより、音響整合シートを得ることができる。この音響整合シートは音響波プローブの音響整合層として用いられる。音響整合層を含む音響波プローブの構成については後述する。
本発明の組成物が結着材として熱可塑性樹脂を有する場合、組成物を加熱して樹脂を熱溶融させ、所望のシート状に成形し、冷却して固化することにより音響整合シート又はその前駆体シートを形成することができる。
また、本発明の組成物が結着材として熱硬化性樹脂を有し、また必要により硬化剤を有する場合、硬化反応を生じない低温域、あるいは硬化速度が十分に遅い低温域で所望のシート状に成形する。次いで、必要により加熱等することにより成形物に架橋構造を形成させて硬化し、音響整合シート又はその前駆体シートとする。つまり、結着材として熱硬化性樹脂を有する組成物を用いた場合、形成される音響整合シートは、本発明の組成物を硬化して三次元網状構造を形成させた硬化物である。
【0035】
[音響波プローブ]
本発明の音響波プローブは、本発明の組成物を用いて形成した音響整合シートを音響整合層として有する。
本発明の音響波プローブの構成について、その一例を
図1に示す。
図1に示す音響波プローブは、超音波診断装置における超音波プローブである。なお、超音波プローブとは、音響波プローブにおける音響波として、特に超音波を使用するプローブである。そのため、超音波プローブの基本的な構造は音響波プローブにそのまま適用することができる。
【0036】
<超音波プローブ>
超音波プローブ10は、超音波診断装置の主要構成部品であって、超音波を発生するとともに、超音波ビームを送受信する機能を有するものである。超音波プローブ10の構成は、
図1に示すように、先端(被検対象である生体に接する面)部分から音響レンズ1、音響整合層2、圧電素子層3、バッキング材4の順に設けられている。なお、近年、高次高調波を受信することを目的に、送信用超音波振動子(圧電素子)と、受信用超音波振動子(圧電素子)を異なる材料で構成し、積層構造としたものも提案されている。
【0037】
(圧電素子層)
圧電素子層3は、超音波を発生する部分であって、圧電素子の両側に電極が貼り付けられており、電圧を加えると圧電素子が伸縮と膨張を繰り返し振動することにより、超音波が発生する。
【0038】
圧電素子を構成する材料としては、水晶、LiNbO3、LiTaO3およびKNbO3などの単結晶、ZnOおよびAlNなどの薄膜ならびにPb(Zr,Ti)O3系などの焼結体を分極処理した、いわゆるセラミックスの無機圧電体が広く利用されている。一般的には、変換効率のよいPZT:チタン酸ジルコン酸鉛等の圧電セラミックスが使用されている。
また、高周波側の受信波を検知する圧電素子には、より広い帯域幅の感度が必要である。このため、高周波、広帯域に適した圧電素子として、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの有機系高分子物質を利用した有機圧電体が使用されている。
さらに、特開2011-071842号公報等には、優れた短パルス特性および広帯域特性を示し、量産性に優れ、特性ばらつきの少ないアレイ構造が得られる、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を利用したcMUTが記載されている。
本発明においては、いずれの圧電素子材料も好ましく用いることができる。
【0039】
(バッキング材)
バッキング材4は、圧電素子層3の背面に設けられており、余分な振動を抑制することにより超音波のパルス幅を短くし、超音波診断画像における距離分解能の向上に寄与する。
【0040】
(音響整合層)
音響整合層2は、圧電素子層3と被検対象間での音響インピーダンスの差を小さくし、超音波を効率よく送受信するために設けられる。
【0041】
(音響レンズ)
音響レンズ1は、屈折を利用して超音波をスライス方向に集束し、分解能を向上させるために設けられる。また、被検対象である生体と密着し、超音波を生体の音響インピーダンス(人体では、1.4~1.7×106kg/m2/sec)と整合させること、および、音響レンズ1自体の超音波減衰量が小さいことが求められている。
すなわち、音響レンズ1の材料としては、音速が人体の音速よりも十分小さく、超音波の減衰が少なく、また、音響インピーダンスが人体の皮膚の値に近い材料を使用することで、超音波の送受信感度が高められる。
【0042】
このような構成の超音波プローブ10の動作を説明する。圧電素子の両側に設けられた電極に電圧を印加して圧電素子層3を共振させ、超音波信号を音響レンズから被検対象に送信する。受信時には、被検対象からの反射信号(エコー信号)によって圧電素子層3を振動させ、この振動を電気的に変換して信号とし、画像を得る。
【0043】
[音響波プローブの製造]
本発明の音響波プローブは、本発明の音響整合層用樹脂組成物を用いること以外は、常法により作製することができる。すなわち、本発明の音響波プローブの製造方法は、圧電素子上に、本発明の音響整合層用樹脂組成物を用いて音響整合層を形成することを含む。圧電素子はバッキング材上に常法により設けることができる。
また、音響整合層上には、音響レンズの形成材料を用いて常法により音響レンズが形成される。
【0044】
[音響波測定装置]
本発明の音響波測定装置は、本発明の音響波プローブを有する。音響波測定装置は、音響波プローブで受信した信号の信号強度を表示したり、この信号を画像化したりする機能を備える。
本発明の音響波測定装置は、超音波プローブを用いた超音波測定装置であることも好ましい。
【実施例】
【0045】
以下に本発明を、音響波として超音波を用いた実施例に基づいてさらに詳細に説明する。なお、本発明は超音波に限定されるものではなく、被検対象および測定条件等に応じて適切な周波数を選択してさえいれば、可聴周波数の音響波を用いてもよい。
【0046】
[調製例1] 音響整合層用樹脂組成物の調製(結着材:熱可塑性樹脂)
下表に示す配合量で、金属粒子と、熱可塑性樹脂とを混合し、二軸混練機(商品名:ラボプラストミル Cモデル、東洋精機製作所社製)を用いて混練りした。混練り条件は、温度を「熱可塑性樹脂の融点+20℃」、スクリュー回転数を15rpmとして、混練り時間を20分間とした。こうして、熱可塑性樹脂を結着材として有する音響整合層用樹脂組成物を調製した。
【0047】
[試験例1] 粘度の評価
調製例1で得た各組成物を、各組成物の結着材として用いた熱可塑性樹脂の融点+20℃の温度まで熱し、この温度における粘度(Pa・s)を測定した。粘度の測定条件は次の通りとし、得られた粘度の測定値を下記評価基準に当てはめ、組成物のハンドリング性を評価した。粘度が低いほどハンドリング性に優れる。
<粘度測定条件>
測定装置:コーン型回転レオメーター(HAAKE社製「RheoStress RS6000」)
回転数:1rpm
測定時間:60秒間
<粘度評価基準>
A:500Pa・s未満
B:500Pa・s以上、1000Pa・s未満
C:1000Pa・s以上、5000Pa・s未満
D:5000Pa・s以上
結果を下表に示す。
【0048】
[試験例2] 密度
調製例1で得た各組成物を用いて、結着材として用いた熱可塑性樹脂の融点+10℃の温度で圧縮成型し、次いでトリミングして、縦60mm×横60mm×厚さ2mmのシートを作製した。
得られたシートについて、25℃におけるシートの密度をJIS K7112(1999)に記載のA法(水中置換法)の密度測定方法に準拠して、電子比重計(アルファミラージュ社製、商品名「SD-200L」)を用いて測定した。
結果を下表に示す。
【0049】
[試験例3] 機械強度
調製例1で得た各組成物を用いて、結着材として用いた熱可塑性樹脂の融点+10℃の温度で圧縮成型し、次いでトリミングして、縦50mm×横50mm×厚さ0.4mmのシートを作製した。このシートを、縦40mm×横5mm×厚さ0.4mmに打ち抜き、短冊状の試験片を得た。この試験片を、引張試験機(商品名:オートグラフAGS-X/20N、島津製作所社製)を用いて、引張速度を30mm/分として試験片の長手方向に向けて引張試験を行った。試験片が破断するのに要するエネルギー(破断エネルギー)を決定し、下記評価基準に当てはめ評価した。
<破断エネルギー評価基準>
A:50J以上
B:40J以上、50J未満
C:30J以上、40J未満
D:30J未満
結果を下表に示す。
【0050】
[試験例4] 音響インピーダンス(AI)のばらつき
調製例1で得た各組成物を用いて、結着材として用いた熱可塑性樹脂の融点+10℃の温度で圧縮成型し、次いでトリミングして、縦5cm×横5cm×厚さ2mmのシートを作製した。このシートの4角の近傍と中央部の計5か所について、密度(単位:g/cm3)と音速(単位:m/sec)の積(密度×音速)から音響インピーダンスを算出した。5か所の音響インピーダンスの標準偏差を求め、下記評価基準に当てはめ音響特性のばらつきを評価した。
<音速>
超音波音速は、JIS Z2353(2003)に従い、シングアラウンド式音速測定装置(超音波工業株式会社製、商品名「UVM-2型」)を用いて25℃において測定した(単位:m/sec)。5か所の測定部各々において、直径1.5cmの円形の内部全体(単チャンネルの小プローブサイズ)を測定対象とした。
<密度>
25℃における5か所の測定部の密度を、JIS K7112(1999)に記載のA法(水中置換法)の密度測定方法に準じて、電子比重計(アルファミラージュ社製、商品名「SD-200L」)を用いて測定した。ここで、測定部の密度は、上記の音速測定部(直径1.5cmの円形)内において、10mm×10mm角の正方形にシート片を切り出し、切り出したシート片(10mm×10mm角)の密度(単位:g/cm3)とした。
<音響特性のばらつき評価基準>
A:標準偏差が0.5未満
B:標準偏差が0.5以上、0.7未満
C:標準偏差が0.7以上、0.9未満
D:標準偏差が0.9以上
結果を下表に示す。
【0051】
[試験例5] 耐腐食性
調製例1で得た調製直後の各組成物を用いて、上記試験例4と同様にして縦5cm×横5cm×厚さ2mmのシート状に成形した。環境試験機中で各シートを85℃、相対湿度90%で500時間放置した後、上記試験片を取出してその表面状態をマイクロスコープBS-D8000II(ソニック株式会社製)を用いて倍率50倍でランダムに10箇所観察した。観察結果を下記基準に当てはめ、腐食の程度を評価した。
<耐腐食性評価基準>
A:腐食箇所が認められない。
B:島状の腐食箇所は認められないが、変色が確認された。
C:島状の腐食箇所が1~5箇所確認された。
D:島状の腐食箇所が6箇所以上、もしくは全体的に錆が確認された。
結果を下表に示す。
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
上記表に記載の金属粒子と熱可塑性樹脂について、詳細を以下に記載する。
【0056】
[金属粒子]
(A-1)Fe(平均粒子径4.1μm)、リン酸鉄処理
(A-2)Zn(平均粒子径6.3μm)、リン酸鉄処理
(A-3)Ti(平均粒子径5.1μm)、リン酸鉄処理
(A-4)Cu(平均粒子径3.6μm)、リン酸鉄処理
(A-5)Ni(平均粒子径2.6μm)、リン酸鉄処理
(A-6)Zr(平均粒子径6.1μm)、リン酸鉄処理
(A-7)Mo(平均粒子径4.4μm)、リン酸鉄処理
(A-8)Ag(平均粒子径5.6μm)、リン酸鉄処理
(A-9)Pt(平均粒子径6.8μm)、リン酸鉄処理
(A-10)Au(平均粒子径3.0μm)、リン酸鉄処理
(A-11)Fe(平均粒子径4.1μm)、リン酸処理
(A-12)Fe(平均粒子径4.1μm)、リン酸亜鉛処理
(A-13)Fe(平均粒子径4.1μm)、リン酸マンガン処理
(A-14)Fe(平均粒子径4.1μm)、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン処理
(A-15)Fe(平均粒子径4.1μm)、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン処理
(A-16)Fe(平均粒子径4.1μm)、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン処理
(X-1)Fe(平均粒子径4.1μm)、表面処理無し
【0057】
[熱可塑性樹脂]
(B-1)ポリアミド6(PA6)
(B-2)高密度ポリエチレン(HDPE)
(B-3)ポリプロピレン(PP)
(B-4)ポリスチレン(GPPS)
(B-5)アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)
(B-6)ポリメチルメタクリレート(PMMA)
(B-7)ポリアセタール(POM)
(B-8)ポリカーボネート(PC)
(B-9)ポリフェニレンエーテル(PPE)
(B-10)ポリブチレンテレフタレート(PBT)
(B-11)ポリエーテルサルホン(PES)
(B-12)ポリエーテルイミド(PEI)
(B-13)ポリフェニレンサルファイド(PPS)
(B-14)熱可塑性ポリウレタン(TPU)
(B-15)ポリ塩化ビニル(PVC)
(B-16)フッ素樹脂(PVDF)
【0058】
上記表1-1~1-3に示されるように、表面処理が施されていない金属粒子と熱可塑性樹脂とを組合せて組成物を調製した場合、この組成物は樹脂を溶融した際の粘度(溶融粘度)が高く、ハンドリング性に劣る結果となった。また、この組成物を用いて形成したシートは機械強度に劣り、またシート内における音響特性のばらつきが大きく、また腐食しやすいものであった(比較例1)。
これに対し、表面処理金属粒子と熱可塑性樹脂とを組合せて組成物を調製した場合には、得られる組成物の、樹脂を溶融した際の粘度(溶融粘度)を低く抑えることができた。また、この組成物を用いて形成したシートは機械強度に優れ、またシート内における音響特性のばらつきも小さく、また腐食しにくい特性を有するものであった(実施例1~33)。
【0059】
[調製例2] 音響整合層用樹脂組成物の調製(結着材:熱硬化性樹脂と硬化剤の組合せ)
下表に示す配合量で、金属粒子とエポキシ樹脂と硬化剤とを混合した。具体的には、金属粒子とエポキシ樹脂とを撹拌機(商品名:泡とり練太郎 ARV-310、シンキー社製)を用いて、室温下、1.0Paに減圧した状態で、1800rpmで撹拌しながら4分間脱泡した。そこに硬化剤を加え、同条件で撹拌して脱泡した。
こうして、熱硬化性樹脂を結着材として含む音響整合層用樹脂組成物を調製した。
【0060】
[試験例6] 粘度
調製例2で得た調製直後の各組成物の粘度(Pa・s)を測定した。粘度の測定条件は次の通りとし、得られた粘度の測定値を下記評価基準に当てはめ、組成物のハンドリング性を評価した。
<粘度測定条件>
測定装置:コーン型回転レオメーター(HAAKE社製「RheoStress RS6000」)
測定温度:25℃
回転数:1rpm
測定時間:60秒間
<粘度評価基準>
A:500Pa・s未満
B:500Pa・s以上、1000Pa・s未満
C:1000Pa・s以上、5000Pa・s未満
D:5000Pa・s以上
結果を下表に示す。
【0061】
[試験例7] 密度
調製例2で得た調製直後の各組成物を型に流し込んでシート形状とし、80℃の温度下に18時間静置し、次いで150℃の温度下に1時間静置し、縦60mm×横60mm×厚さ2mmのシート状硬化物を作製した。
得られたシートについて、試験例2と同様にして密度を測定した。
結果を下表に示す。
【0062】
[試験例8] 機械強度
調製例2で得た調製直後の各組成物をシート状に成形し、80℃の温度下に18時間静置し、次いで150℃の温度下に1時間静置し、縦50mm×横50mm×厚さ0.4mmのシート状硬化物を作製した。このシート状硬化物を、縦40mm×横5mm×厚さ0.4mmに打ち抜き、短冊状の試験片を得た。この試験片を用いて、試験例3と同様にして破断エネルギーを評価した。
結果を下表に示す。
【0063】
[試験例9] 音響インピーダンス(AI)のばらつき
調製例2で得た調製直後の各組成物をシート状に成形し、80℃の温度下に18時間静置し、次いで150℃の温度下に1時間静置し、縦5cm×横5cm×厚さ2mmのシート状硬化物を作製した。このシート状硬化物を用いて、試験例4と同様にして音響インピーダンス(AI)のばらつきを評価した。
結果を下表に示す。
【0064】
[試験例10] 耐腐食性
調製例2で得た調製直後の各組成物をシート状に成形し、80℃の温度下に18時間静置し、次いで150℃の温度下に1時間静置し、縦5cm×横5cm×厚さ2mmのシート状硬化物を作製した。このシート状硬化物を用いて、試験例5と同様にして耐腐食性を評価した。
結果を下表に示す。
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
上記表に記載のエポキシ樹脂と硬化剤について、詳細を以下に記載する。
【0069】
[エポキシ樹脂]
(C-1)ビスフェノールAジグリシジルエーテル(三菱化学社製「jER825」(商品名)、エポキシ当量170)
(C-2)ビスフェノールAジグリシジルエーテル(三菱化学社製「jER828」(商品名)、エポキシ当量190)
(C-3)ビスフェノールAジグリシジルエーテル(三菱化学社製「jER834」(商品名)、エポキシ当量230)
(C-4)ビスフェノールFジグリシジルエーテル(DIC社製「EPICLON830」(商品名)、エポキシ当量170)
(C-5)エポキシノボラック樹脂(シグマアルドリッチ社製、製品番号406775、エポキシ当量170)
(C-6)ビスフェノールAプロポキシレートジグリシジルエーテル(シグマアルドリッチ社製、エポキシ当量228)
(C-7)4,4'-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン)(東京化成工業社製、エポキシ当量106)
【0070】
[硬化剤]
(D-1)ポリアミドアミン(DIC社製「ラッカマイドEA-330」)
(D-2)トリエチレンテトラミン(東京化成工業製試薬)
(D-3)2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(ナカライテスク社製、商品名「ルベアックDMP-30」)
(D-4)2-エチル-4-メチルイミダゾール(東京化成工業製試薬)
(D-5)ヘキサヒドロ無水フタル酸(新日本理化工業社製「リカシッドHH」)
【0071】
上記表2-1~2-3に示されるように、表面処理が施されていない金属粒子と熱硬化性樹脂とを組合せて組成物を調製した場合、粘度が高く、ハンドリング性に劣る結果となった。また、この組成物を用いて形成したシートは機械強度に劣り、またシート内における音響特性のばらつきが大きく、また腐食しやすいものであった(比較例2)。
これに対し、表面処理金属粒子と熱硬化性樹脂とを組合せて組成物を調製した場合には、得られる組成物の粘度を低く抑えることができた。また、この組成物を用いて形成したシートは機械強度に優れ、またシート内における音響特性のばらつきも小さく、また腐食しにくい特性を有するものであった(実施例34~61)。
【0072】
[調製例3] 音響整合層用樹脂組成物の調製
上記調製例と同様にして、下表に示す配合により音響整合層用樹脂組成物を調製した。
【0073】
[試験例11] 超音波感度
調製例3で得た調製直後の各組成物を用いて、上記試験例に記載の方法に準じて縦100mm×横100mm×厚み2mmのシートを得た。
超音波発振器(例えば、岩通計測株式会社製、ファンクション・ジェネレータ、商品名「FG-350」)から出力された5MHzの正弦波信号(1波)を超音波プローブ(ジャパンプローブ株式会社製)に入力し、超音波プローブから中心周波数が5MHzの超音波パルス波を水中に発生させた。発生させた超音波が、上記シートを通過する前と後の振幅の大きさを超音波受信機(例えば、松下電器産業株式会社製、オシロスコープ、商品名「VP-5204A」)により、水温25℃の環境で測定した。音響波(超音波)感度を比較することにより、各シートの音響波(超音波)減衰量を比較した。
超音波感度は、超音波発振器による、半値幅50nsec以下の入力波の電圧ピーク値Vinに対し、発生させた超音波がシートを通過し、シートの対面から反射してきた音響波(超音波)を超音波発振器が受信したときに得られる電圧値をVsとし、下記計算式で与えられる数値とした。
(超音波感度)=20×Log(Vs/Vin)
得られた超音波感度を下記基準に当てはめ、感度を評価した。
<感度の評価基準>
A:-66dB以上
B:-70dB以上-66dB未満
C:-70dB未満
【0074】
結果を下表に示す。下表には、上記試験例と同様にして測定した密度、破断エネルギー、AI標準偏差(AIばらつき)、耐腐食性の評価結果も併せて示した。
【0075】
【0076】
表3に示す通り、シランカップリング剤処理された金属粒子を用いることにより、音響波の感度を効果的に高められることがわかる。
【0077】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0078】
本願は、2017年11月1日に日本国で特許出願された特願2017-212208に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0079】
1 音響レンズ
2 音響整合層(音響整合シート)
3 圧電素子層
4 バッキング材
7 筐体
9 コード
10 超音波探触子(プローブ)