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  • 特許-ガラスの加飾方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】ガラスの加飾方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20220210BHJP
   C09D 11/54 20140101ALI20220210BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20220210BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220210BHJP
   C03C 17/42 20060101ALI20220210BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20220210BHJP
   B05D 5/04 20060101ALI20220210BHJP
   B05D 1/26 20060101ALI20220210BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220210BHJP
   B32B 17/06 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
B41M5/00 116
B41M5/00 100
B41M5/00 132
C09D11/54
C09D11/30
B41J2/01 123
B41J2/01 125
B41J2/01 401
C03C17/42
B05D7/00 E
B05D5/04
B05D1/26 Z
B05D7/24 301M
B32B17/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020523589
(86)(22)【出願日】2019-05-16
(86)【国際出願番号】 JP2019019447
(87)【国際公開番号】W WO2019235157
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2020-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2018107821
(32)【優先日】2018-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】幕田 俊之
【審査官】川村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-302627(JP,A)
【文献】特開2004-235400(JP,A)
【文献】国際公開第02/086924(WO,A1)
【文献】特開2003-261397(JP,A)
【文献】特開2005-154186(JP,A)
【文献】国際公開第2007/020779(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00-5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基材上に、インク凝集剤含有組成物を付与する工程と、
ガラス基材上の、少なくとも前記インク凝集剤含有組成物を付与した領域に、無機顔料と、樹脂粒子と、水とを含むインク組成物をインクジェット方式により付与してインク画像を形成する工程と、
形成された前記インク画像をガラスの溶融温度以上に加熱する工程と、を含み、
前記インク凝集剤含有組成物は水及びインク凝集剤を含み、
前記インク凝集剤含有組成物の全固形分に対する炭素、酸素、窒素、フッ素及び水素以外の元素の含有量が1.0質量%以下である
ガラスの加飾方法。
【請求項2】
前記形成されたインク画像をガラスの溶融温度以上に加熱する工程は、インク画像を500℃以上に加熱する工程である請求項1に記載のガラスの加飾方法。
【請求項3】
前記樹脂粒子が、ウレタン樹脂粒子を含む請求項1又は請求項2に記載のガラスの加飾方法。
【請求項4】
前記インク凝集剤は、酸性化合物及びカチオン性ポリマーから選ばれる少なくとも1種の化合物を含む請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のガラスの加飾方法。
【請求項5】
前記インク凝集剤は、酸性化合物を含む請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のガラスの加飾方法。
【請求項6】
前記インク凝集剤含有組成物の表面張力が30mN/m以下である請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のガラスの加飾方法。
【請求項7】
前記インク凝集剤含有組成物は、さらにフッ素系界面活性剤を含む請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のガラスの加飾方法。
【請求項8】
前記インク凝集剤含有組成物の付与が、インクジェット方式により行われる請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のガラスの加飾方法。
【請求項9】
前記インク凝集剤含有組成物の全固形分に対する炭素、酸素、窒素、フッ素及び水素以外の元素の含有量が0.1質量%以下である請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のガラスの加飾方法。
【請求項10】
前記インク凝集剤は、カルボキシ基を有する有機酸性化合物を含む請求項1~請求項9のいずれか1項に記載のガラスの加飾方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】

本開示は、ガラスの加飾方法及び加飾ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】

近年、ガラス基材上に、鮮鋭な画像を定着させるガラスの加飾方法及び加飾ガラスが注目されている。

透明性が高い無機質基材であるガラス基材に着色剤を付与して定着させることで、外観に優れた種々の用途に適用しうる加飾ガラスを得ることができる。
【0003】

ガラスなどの無機部材の加飾方法として、耐熱性無機部材に、有機高分子及び無機顔料を含むインクをインクジェット法により印字し、得られたインク画像を加熱することにより有機物成分を除去する絵付耐熱部材の製造方法が提案されている(特許文献1参照)。

また、無機顔料、重合性モノマー及び重合開始剤を含む第1のインク組成物と、熱溶融性無機粉末、重合性モノマー及び重合開始剤を含む第2のインク組成物とを組み合わせた無機質基材加飾用インクセットが提案されている。インクセットの使用方法として、第1のインク組成物をガラスなどの非吸収性無機部材に印字し、エネルギーを付与して硬化させ、無機顔料層を形成した後、無機顔料層に第2のインク組成物を印字し、エネルギーを付与して硬化させ、熱溶融性無機粉末層を形成し、その後、焼成して無機焼成体を形成する無機焼成体の製造方法が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】

【文献】特開2015-9387号公報
【文献】特開2017-75251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】

ガラスなどの非吸収性無機材料に、耐摩耗性の画像を形成するためには、上記の如く、着色剤を含むインク組成物をガラスなどに付与した後、焼成して、画像を定着させることが必要である。

特許文献1に記載の方法では、非吸収性の基材上に有機高分子及び無機顔料を含むインクをインクジェット法により印字した場合、着弾干渉により設計値どおりの鮮鋭な画像が得られないことがある。

また、本発明者の検討によれば、無機顔料をインク中に分散させるために併用する化合物等が炭素、酸素、窒素、フッ素及び水素以外の元素、例えばある種の無機元素を一定以上含むことで、焼成後の画像、或いは、基材としてガラスを用いた場合には焼成後のガラス基材自体が、濁りを生じることが見出された。

また、特許文献2に記載の無機焼成体の製造方法では、2種のインク組成物を基材に付与した後、それぞれエネルギー付与して硬化する工程が必要であり、製造工程上の効率が低いこと、製造装置が煩雑であることなどの問題がある。さらに、使用する熱溶融性無機粉末の種類によっては、既述の焼成後の画像、或いは、ガラス基材の濁りが生じることが懸念される。
【0006】

本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、ガラス基材上に、色再現性及び耐磨耗性に優れた画像を形成することができ、画像を加熱定着した後のガラス基材における濁りの発生が抑制されたガラスの加飾方法を提供することである。

本発明の別の実施形態が解決しようとする課題は、ガラス基材上に、色再現性及び耐磨耗性に優れた画像を有する加飾ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】

課題を解決するための手段は、下記実施形態を含む。

<1> ガラス基材上に、インク凝集剤含有組成物を付与する工程と、ガラス基材上の、少なくともインク凝集剤含有組成物を付与した領域に、無機顔料と、樹脂粒子と、水とを含むインク組成物をインクジェット方式により付与してインク画像を形成する工程と、形成されたインク画像をガラス基材の溶融温度以上に加熱する工程と、を含み、インク凝集剤含有組成物は水及びインク凝集剤を含み、インク凝集剤含有組成物は、インク凝集剤含有組成物の全固形分に対する炭素(C)、酸素(O)、窒素(N)、フッ素(F)及び水素(H)以外の元素の含有量が1.0質量%以下であるガラスの加飾方法。

<2> 形成されたインク画像をガラスの溶融温度以上に加熱する工程は、インク画像を500℃以上に加熱する工程である<1>に記載のガラスの加飾方法。

<3> 樹脂粒子が、ウレタン樹脂粒子を含む<1>又は<2>に記載のガラスの加飾方法。
【0008】

<4> インク凝集剤は、酸性化合物及びカチオン性ポリマーから選ばれる少なくとも1種の化合物を含む<1>~<3>のいずれか1つに記載のガラスの加飾方法。

<5> インク凝集剤は、酸性化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む<1>~<4>のいずれか1つに記載のガラスの加飾方法。

<6> インク凝集剤含有組成物の表面張力が30mN/m以下である<1>~<5>のいずれか1つに記載のガラスの加飾方法。

<7> インク凝集剤含有組成物は、さらにフッ素系界面活性剤を含む<1>~<6>のいずれか1つに記載のガラスの加飾方法。

<8> インク凝集剤含有組成物の付与が、インクジェット方式により行われる<1>~<7>のいずれか1つに記載のガラスの加飾方法。

<9> インク凝集剤含有組成物の全固形分に対する炭素、酸素、窒素、フッ素及び水素以外の元素の含有量が0.1質量%以下である<1>~<8>のいずれか1つに記載のガラスの加飾方法。

<10> 前記インク凝集剤は、カルボキシ基を有する有機酸性化合物を含む<1>~<9>のいずれか1つに記載のガラスの加飾方法。
【0009】

<11> ガラス基材上に、C、O、N、F及びH以外の元素の含有量が1.0質量%以下であるインク凝集剤含有組成物を用いて形成された下層と、無機顔料を含む画像と、をこの順で有し、ガラス基材における下層を有する領域と下層を有しない領域との可視光透過率の差が1%未満である加飾ガラス。
【発明の効果】
【0010】

本発明の一実施形態によれば、ガラス基材上に、色再現性及び耐磨耗性に優れた画像を形成することができ、画像を加熱定着した後のガラス基材における濁りの発生が抑制されたガラスの加飾方法を提供することができる。

本発明の別の実施形態によれば、ガラス基材上に、色再現性及び耐磨耗性に優れた画像を有する加飾ガラスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】

図1】本開示のガラスの加飾方法により得られた加飾ガラスの一態様を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】

本明細書において「~」を用いて記載した数値範囲は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を表す。

本明細書において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。

また、「置換基」の表記は、特に断りのない限り、無置換のもの、置換基を更に有するものを包含する意味で用いられ、例えば「アルキル基」と表記した場合、無置換のアルキル基と置換基を更に有するアルキル基の双方を包含する意味で用いられる。その他の置換基についても同様である。

本明細書中において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの少なくとも一方を意味する。

本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。

また、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。

本明細書において、可視光とは、380nm~780nmの波長域の光を指す。また、透明とは、波長500nmの光透過性が70%以上であることを指す。

本明細書において、「色再現性に優れた画像」とは、インク組成物に含まれ、画像形成に用いられる無機顔料の色が、形成された画像に反映され、色濁りの発生及び所望されない色の変化が抑制された画像を指す。

本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0013】

以下、本開示のガラスの加飾方法について、使用する材料及び工程についての一例を挙げて詳細に説明する。
【0014】

<ガラスの加飾方法>

本開示のガラスの加飾方法(以下、単に「加飾方法」と称することがある)は、ガラス基材上に、インク凝集剤を含むインク凝集剤含有組成物であり、インク凝集剤含有組成物の全固形分に対するC、O、N、F及びHの含有量が1.0質量%以下であるインク凝集剤含有組成物を付与する工程(以下、工程Aとも称する)と、ガラス基材上の、少なくともインク凝集剤含有組成物を付与した領域に、無機顔料と、樹脂粒子と、水とを含むインク組成物をインクジェット方式により付与してインク画像を形成する工程(以下、工程Bとも称する)と、形成されたインク画像をガラスの溶融温度以上に加熱する工程(以下、工程Cとも称する)と、を含む。

本開示の加飾方法では、インク凝集剤含有組成物及びインク組成物のいずれもが水性の組成物であり、環境負荷が極めて低いにも拘わらず、非吸収性のガラス基材上に、色再現性及び耐磨耗性に優れた画像を形成し得ることも一つの利点である。
【0015】

〔工程A〕

工程Aは、ガラス基材上に、インク凝集剤を含むインク凝集剤含有組成物(以下、凝集液と称することがある)を付与する工程である。

凝集液は、ガラス基材において、少なくともインク画像が形成される箇所に付与されていればよい。凝集液は、ガラス基材の全面に付与されていてもよく、局所的に必要な領域のみに付与されていてもよい。効率が良好であるという観点からは、インク画像が形成される箇所に局所的に付与されることが好ましい。なお、凝集液の詳細については後述する。
【0016】

ガラス基材上に、凝集液を付与する方法には特に制限はなく、例えば、ガラス基材の全面に凝集液を付与する場合には、公知の塗布方法により付与することができる。

公知の塗布方法としては、スプレー塗布、塗布ローラー等の塗布方法、浸漬方法などが挙げられる。具体的には、例えば、ホリゾンタルサイズプレス法などのサイズプレス法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、バーコート法、キャストコート法、グラビアコート法、カーテンコート法、ダイコート法、ブラシコート法、転写法などが挙げられる。また、特開平10-230201号公報に記載の塗布装置のように、液量制限部材を備えた塗布装置を用いることで塗布量を制御して塗布する方法であってもよい。
【0017】

また、凝集液を局所的に付与する場合には、公知の印刷方法、例えば、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、インクジェット法等により付与することができる。なかでも、所望の領域に、正確に凝集液を付与しうるという観点からは、凝集液の付与はインクジェット方式により行われることが好ましい。
【0018】

(ガラス基材)

本開示の加飾方法に用い得るガラス基材はガラスによって構成されており、本開示の加飾方法により加飾されたガラス(以下、加飾ガラスとも称する)の用途、必要な強度など、加飾ガラスの使用目的に応じて適宜選択することができる。

ガラス基材に用いるガラスとしては、ソーダガラス(ソーダ石灰ガラス)、酸化鉛、酸化亜鉛、酸化カリウムなどをさらに含み、屈折率と透明性とを高めたクリスタルガラスなどの軟質ガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラスなどの硬質ガラスなどが挙げられる。

加飾を目的とするため、可視光透過性の透明ガラスを用いることが好ましい。また、目的に応じて、着色されたガラスを基材として用いてもよい。
【0019】

ガラス基材の形状には特に制限はない。一般的には、例えば、窓ガラス、内装材、衝立などの室内装飾品、ガラス絵などに使用される平板状のガラスが用いられる。また、曲面を有するガラス板を基材として用いてもよく、円筒形などの所望の形状に成形された立体形状のガラス成形体等を基材として用いてもよい。

なお、本開示のガラスの加飾方法においては、インクジェット方式を用いてインク画像を形成する工程を含むため、生産性の観点から、平板状のガラスを用いることが好ましい。
【0020】

加飾を施す前のガラス基材は、洗浄して塵、油分等を除去し、その後、乾燥する等の前処理を行ってもよい。前処理を行った後のガラス基材の凝集液を付与する面の水接触角は、10°~150°であることが好ましく、30°~100°であることがより好ましい。

本明細書における水接触角は、測定装置として全自動接触角計(型番:DM-701、協和界面科学(株)製)を用い、雰囲気温度25℃、相対湿度50%の条件下で、防曇層の表面に純水を1μL滴下し、θ/2法により接触角を5回測定し、得られた値の算術平均値を用いる。

また、ガラス基材と凝集液等との親和性向上を目的として、コロナ放電処理などの、洗浄以外の前処理を行ってもよい。
【0021】

(インク凝集剤含有組成物:凝集液)

凝集液は、インク凝集剤を含む。

インク凝集剤は、インクを凝集させることができる化合物であれば如何なる化合物でも用いることができる。

インク凝集剤としては、酸性化合物、カチオン性ポリマー、多価金属等が挙げられる。
【0022】

本発明者の検討によれば、凝集液に炭素、酸素、窒素及び水素以外の元素を多く含むことで、ガラス表面上で色濁りが発生し、特に、凝集液が付与され、かつインク組成物が付与されていない領域において、ガラス基材に濁りが生じ、可視光透過率の減少が生じることが確認された。

このため、本開示における凝集液は、凝集液に含まれる全固形分中、C、O、N、F及びH以外の元素の含有量は1.0質量%以下である。

凝集液におけるC、O、N、F及びH以外の元素の含有量が1.0質量%以下であることで、C、O、N、F及びH以外の元素に起因するインク画像の色濁り、及び凝集液が付与された領域における焼成後のガラス基材における濁りの発生が抑制される。

凝集液に含まれる全固形分中のC、O、N、F及びH以外の元素の含有量は、0.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。凝集液におけるC、O、N、F及びH以外の元素の含有量は少ないほど好ましく、検出限界以下であることがさらに好ましい。なお、検出限界以下とは、0質量%、即ち、当該元素を含まないことも包含される。

なお、本明細書におけるC、O、N、F及びH以外の元素とは、これらの元素を含む分子中に含まれる元素も包含する。

凝集液をガラス基材に付与し、その後、焼成することで、C、O、N、及びHから選ばれる元素は、殆どが焼成に伴い消失する。また、C、O、N、F及びHから選ばれる元素は、焼成後にガラス基材上に残存しても、残存量が1.0質量%以下であれば、引き続き付与されるインク組成物及びガラス基材に影響を与える可能性は極めて低い。
【0023】

凝集液に含まれるC、O、N、F及びH以外の元素の含有量を1.0質量%以下にする手段としては、凝集剤として、C、O、N、F及びH以外の元素を含まないか、含んでも極めて少ない成分、例えば、有機酸性化合物、アンモニウム塩等を選択すること、有機酸性化合物とC、O、N、F及びH以外の原子を持つ極微量の凝集性化合物併用すること、などが挙げられる。C、O、N、F及びH以外の原子を持つ凝集性化合物としては、例えば、燐酸、スルホン酸等C、O、N、F及びH以外の原子を持つ酸性化合物、多価金属等が挙げられる。

更に、水、溶媒、C、O、N、F及びH以外の元素を含まない凝集剤として、不純物としてC、O、N、F以外の原子を持つ化合物を極力含まない高純度のものを選択することも有効である。

また、水、溶剤、凝集剤以外の添加剤としても、C、O、N、F及びH以外の原子を持つ化合物を添加しないか、もしくは、添加するにしても極微量に留めることも有効な手段である。

本開示における凝集液は、凝集液に含まれる全固形分中、C、O、N、F及びHの元素の合計の含有量は99質量%以上である。凝集液に含まれる全固形分中、C、O、N、F及びHの元素の合計の含有量は、99.5質量%以上であることが好ましく、99.9質量%以上であることがより好ましい。
【0024】

凝集液に含まれるC、O、N、F及びH以外の元素の含有量は、以下の方法で測定することができる。

(各元素の種類及び含有量の測定方法)

試料としての凝集液に、凝集液の総量に対して、質量基準で20倍量の濃硝酸を添加、混合して混合液を調製し、灰化装置(Multiwave3000、パーキンエルマー社製)を用いて、230℃にて灰化させる。なお、灰化とは、試料を焼成して有機化合物を焼成除去し、無機化合物を残存させる処理をいう。

灰化した試料を、以下の分析装置を用いて元素分析することで、C、O、N、F及びH以外の元素の含有量を測定することができ、本明細書では、以下の分析装置を用いた結果を採用している。

パーキンエルマー社製:Optima 7300DV (ICP-OES、誘導結合プラズマ発光分光分析)
【0025】

なお、後述の工程(C)において、画像の定着のためにガラス基板に用いられるガラスの溶融温度以上の温度で加熱(焼成)する際に、元素C、O、N、及びHはその殆どが消失し、焼成後の凝集液由来の元素としては、Fが残存する。また、凝集液に含まれるC、O、N及びH以外の元素は焼成後も残存する。このため、焼成後の凝集液の付着領域であって、インク画像が形成されない領域を分析することによっても、凝集液に含まれるC、O、N、F及びH以外の元素の含有量を検知することができる。

最終製品における凝集液付着領域の元素の種類及び量の分析は、以下のようにして行われる。

最終製品としての加飾ガラスを試料とし、加飾ガラスにおける凝集液付着領域であって、インク画像の非形成領域を、以下の分析装置を用いて元素分析する。この方法によれば、加飾ガラスを非破壊でそのまま分析装置にかけて元素の種類と量とを測定することができる。

走査型蛍光X線分析装置、ZSX Primus II (商品名:(株)リガク製、XRF:蛍光X線)
【0026】

本開示における凝集液は、上記の観点から、インク凝集剤として多価金属塩を含んでいてもよいが、多価金属塩は、多価金属塩に由来するC、O、N、F及びH以外の元素の合計含有量が1.0質量%以下の範囲となる量で用いられる。

本開示の凝集液に用い得る多価金属としては、特開2011-042150号公報の段落0155に記載されている多価金属を挙げることができる。
【0027】

-インク凝集剤-

インク凝集剤としては、C、O、N、F及びH以外の元素の含有量を低く抑え得るという観点から、インク凝集剤として、酸性化合物及びカチオン性ポリマーからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含むことが好ましく、酸性化合物を含むことがより好ましい。

凝集液に用い得るカチオン性ポリマーとしては、例えば、特開2011-042150号公報の段落0156に記載されているカチオン性ポリマーが挙げられる。
【0028】

酸性化合物としては、水性インクのpHを低下させ得る酸性物質が挙げられる。酸性化合物は、有機酸性化合物及び無機酸性化合物のいずれを用いてもよく、有機酸性化合物及び無機酸性化合物を2種以上併用してもよい。

なかでも、焼成により除去されやすく、C、O、N、F及びH以外の元素の含有量を低く抑え易いという観点から、有機酸性化合物であることが好ましい。

有機酸性化合物としては、酸性基を有する有機化合物が挙げられ、カルボキシ基を有する有機酸性化合物およびアスコルビン酸が好ましく、カルボキシ基を有する有機酸性化合物がより好ましい。

酸性基としては、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、及びカルボキシ基等を挙げることができる。なかでも、効果の観点、さらには、C、O、N、F及びH以外の元素の含有量を低く抑え易いという観点から、酸性化合物が有する酸性基は、カルボキシル基であることが好ましい。
【0029】

カルボキシ基を有する有機酸性化合物(有機カルボン酸)は、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸(好ましくは、DL-リンゴ酸)、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、フタル酸、4-メチルフタル酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩(例えば多価金属塩)等が好ましい。

これらの化合物は、1種類で使用されてもよく、2種類以上併用されてもよい。
【0030】

有機カルボン酸としては、水性インクの凝集速度の観点から、2価以上のカルボン酸(以下、多価カルボン酸ともいう。)であることが好ましく、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、酒石酸、4-メチルフタル酸、及びクエン酸から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、及びクエン酸が更に好ましい。

有機酸性化合物は、pKaが低いことが好ましい。これにより、カルボキシ基等の弱酸性の官能基で分散安定化している水性インク中の顔料、樹脂粒子などの粒子の表面電荷を、よりpKaの低い有機酸性化合物と接触させることにより減じ、分散安定性を低下させることができる。凝集液に含まれる有機酸性化合物は、pKaが低く、水に対する溶解度が高く、価数が2価以上であることが好ましく、水性インク中の粒子を分散安定化させている官能基(例えば、カルボキシ基等)のpKaよりも低いpH領域に高い緩衝能を有する2価又は3価の酸性物質であることがより好ましい。

無機酸性化合物としては、リン酸、硝酸、亜硝酸、硫酸、塩酸などが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0031】

凝集液が酸性化合物を含む場合、凝集液のpH(25℃)は、0.1~6.0であることが好ましく、0.5~5.0であることがより好ましく、0.8~4.0であることがさらに好ましい。
【0032】

凝集液は、インク凝集剤を1種のみ含んでもよく、2種以上を併用してもよい。

インク組成物を凝集させるインク凝集剤の凝集液における含有量は、凝集液の全量に対し、1質量%~50質量%が好ましく、3質量%~45質量%がより好ましく、5質量%~40質量%がさらに好ましい。
【0033】

-水-

凝集液は、溶媒としての水を含有する。

水の含有量は、凝集液の全質量に対して、好ましくは50質量%~90質量%であり、より好ましくは60質量%~80質量%である。
【0034】

-その他の成分-

凝集液は、既述の凝集剤及び溶媒としての水に加えて、目的に応じて、効果を損なわない範囲で、凝集剤及び水以外の成分(その他の成分と称することがある)を含むことができる。

その他の成分としては、例えば、湿潤、浸透促進の効果を得るための水溶性有機溶剤、凝集液の粘度、表面張力などを好適な範囲に調整しうる界面活性剤、増粘剤などが挙げられる。
【0035】

-水溶性有機溶剤-

凝集剤は、水溶性有機溶剤の少なくとも1種を含有してもよい。

水溶性有機溶剤を含有することで、乾燥防止、湿潤あるいは浸透促進の効果を得ることができる。凝集液をインクジェット方式にて基材に付与する場合には、噴射ノズルの吐出口において凝集剤が付着乾燥して凝集体ができ、目詰まりするのを防止する乾燥防止剤として水溶性有機溶剤が有効である。

乾燥防止や湿潤効果が良好とであるという観点からは、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶剤が好ましい。
【0036】

水溶性有機溶剤の例としては、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ペンタンジオール、4-メチル-1,2-ペンタンジオール等のアルカンジオール(多価アルコール類);グルコース、マンノース、フルクトース等の糖類;糖アルコール類;ヒアルロン酸類;エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1~4のアルキルアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、1-メチル-1-メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-iso-プロピルエーテルなどのグリコールエーテル類;2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】

乾燥防止又は湿潤の目的としては、多価アルコールが有用であり、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオールなどが挙げられる。
【0038】

水溶性有機溶剤としては、加熱時に消失し易いという観点から、プロピレングリコール及びエーテルが好ましく、プロピレングリコールがより好ましい。

凝集液が水溶性有機溶剤を含む場合、水溶性有機溶剤は、1種のみ含んでもよく、2種以上を含んでもよい。

凝集液が水溶性有機溶剤を含む場合の含有量は、凝集液の全量に対して、5質量%~40質量%の範囲が好ましく、10質量%~30質量%の範囲がより好ましい。
【0039】

-界面活性剤-

凝集液は、界面活性剤を含むことができる。界面活性剤は、表面張力調整剤として用いることができる。表面張力調整剤として、分子内に親水部と疎水部を合わせ持つ構造を有する化合物等が有効に使用することができ、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、ベタイン系界面活性剤のいずれも用いることができる。なかでも、インクの凝集速度の観点から、ノニオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤が好ましく、消泡効果の観点から、ノニオン性界面活性剤がより好ましい。
【0040】

界面活性剤としては、特開昭59-157636号公報の第37~38頁及びリサーチディスクロージャーNo.308119(1989年)に界面活性剤として挙げた化合物も挙げられる。また、特開2003-322926号、特開2004-325707号、特開2004-309806号の各公報に記載のフッ素(フッ化アルキル系)系界面活性剤やシリコーン系界面活性剤等も挙げられる。

凝集液が界面活性剤を含む場合、1種のみを含んでもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0041】

凝集液に含まれる界面活性剤としては、表面張力を適切に調整できること、気泡の発生を抑制しうること、凝集液をインクジェット方式で吐出する際の吐出性、ガラス基材との親和性などの観点から、フッ素系ノニオン性界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤等が好適に用いられる。なかでも、ガラス基材との親和性などの観点から、フッ素系界面活性剤がより好ましい。

フッ素系界面活性剤としては、疎水基にフルオロアルキル基を有するノニオン性界面活性剤が好ましく挙げられる。フルオロアルキル基としては、パーフルオロアルキル基が好ましい。

フッ素系界面活性剤としては、より具体的には、パーフルオルアルキルカルボン酸、フッ素テロマーアルコール、パーフルオロ(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)等が好ましく、表面張力の低下に、より有効であるという観点からパーフルオルアルキルカルボン酸がより好ましい。
【0042】

フッ素系界面活性剤の分子量は適宜選択できる。なかでも、水性の凝集液におけるインクジェットの吐出性観点から、フッ素系ノニオン性界面活性剤の分子量は1000以上10000以下であることが好ましく、2000以上8000以下であることがより好ましい。

凝集液に用いられる界面活性剤は、水系でミセルを形成できることが好ましい。ここで、水系でミセルを形成できるとは、25℃のイオン交換水に3質量%以上添加した際に安定なミセルを形成しうる特性を指す。

安定なミセルが形成されたことは、25℃のイオン交換水に評価対象となる界面活性剤を3質量%添加し、混合して得た混合液を25℃にて1時間静置し、目視にて観察した際に、混合液が透明であることで確認することができる。

フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロ(ポリオキシプロピレンエチルエーテル)等が好ましく使用される。フッ素系界面活性剤は、市販品を用いてもよく、市販品としては、水溶性のフッ素系ノニオン性界面活性剤であるAGCセイミケミカル(株)製、サーフロン(商品名)シリーズ、ノニオン性であり、親水性部分構造としてエチレンオキシド基を有するサーフロンS-242、S-243、三菱マテリアル社製のノニオン性でありパーフルオロアルキル基を有するEF-PP31N09、EF-PP31N15等が好ましい例として挙げられる。
【0043】

凝集液が界面活性剤を含む場合の、凝集液における界面活性剤の具体的な量としては、既述の好ましい表面張力となる含有量の範囲であることが好ましく、それ以外は特に制限はない。界面活性剤の含有効果を発現しうるという観点からは、0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.1質量%~5質量%であり、更に好ましくは0.2質量%~3質量%である。
【0044】

凝集液に使用しうる成分としては、上記の成分の他、例えば、固体湿潤剤、コロイダルシリカ、無機塩、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、粘度調整剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0045】

(凝集液の好ましい物性)

凝集液の25℃における表面張力は、ガラス基材への親和性が良好であるという観点から、30mN/m以下であることが好ましい。

凝集液の表面張力(25℃)は、より好ましくは、5mN以上30mN/m以下であり、更に好ましくは、15mN/m以上25mN/m以下である。

本明細書における凝集液の表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学(株)製)を用い、凝集液の温度25℃の条件下で測定される値を採用している。
【0046】

凝集液の30℃における粘度は、ガラス基材に対する付与が容易という観点から、1mPa・s~40mPa・sとすることができる。また、凝集液をインクジェット方式により付与する場合には、吐出性の観点から1mPa・s~20mPa・sであることが好ましく、2mPa・s~12mPa・sであることがより好ましい。

本明細書における凝集液の粘度は、VISCOMETER TV-22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用い、凝集液の温度30℃の条件下で測定される値を採用している。
【0047】

<工程B>

工程Bは、ガラス基材上の、少なくともインク凝集剤含有組成物を付与した領域に、無機顔料と、樹脂粒子と、水とを含むインク組成物をインクジェット方式により付与してインク画像を形成する工程である。

インク凝集剤を含む凝集液を付与した領域に、インク組成物を付与することで、インク組成物をインクジェット方式により付与する際の着弾干渉が抑制され、鮮鋭で輪郭がシャープなインク画像が形成される。
【0048】

インクジェット法には、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれであってもよい。インクジェット法としては、特に、特開昭54-59936号公報に記載の方法で、熱エネルギーの作用を受けたインクが急激な体積変化を生じ、この状態変化による作用力によって、インクをノズルから吐出させるインクジェット法を有効に利用することができる。
【0049】

インクジェットヘッドとしては、短尺のシリアルヘッドを用い、ヘッドをガラス基材の幅方向に走査させながら記録を行なうシャトル方式と、ガラス基材の1辺の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いたライン方式とがある。ライン方式では、記録素子の配列方向と交差する方向にガラス基材を走査させることでガラス基材の全面に画像記録を行なうことができ、短尺ヘッドを走査するキャリッジ等の搬送系が不要となる。また、キャリッジの移動とガラス基材との複雑な走査制御が不要になり、ガラス基材だけが移動するので、シャトル方式に比べて記録速度の高速化が実現できる。

本開示に係る画像記録方法は、これらのいずれにも適用可能であるが、一般にダミージェットを行なわないライン方式に適用した場合に、吐出精度及び画像の耐擦性の向上効果が大きい。
【0050】

インクジェットヘッドから吐出されるインクの液滴量としては、高精細な画像を得る観点で、1pl(ピコリットル)~10plが好ましく、1.5pl~6plがより好ましい。また、画像のムラ、連続階調のつながりを改良する観点で、異なる液適量を組み合わせて吐出することも有効である。

インク組成物の色相の数に応じた複数のインク吐出用ヘッドを有する記録装置を用いることで多色インク画像を形成しうる。
【0051】

本開示の加飾方法に用いることができるインクジェット記録装置には、特に制限はなく、特開2010-83021号公報、特開2009-234221号公報、特開平10-175315号公報等に記載の公知の画像形成装置を用いることができる。

また、曲面に印字しうるインクジェット記録装置を用いることで、平板状のガラス基材以外のガラス基材にもインク画像を形成することができる。

例えば、インクジェットプリンターUJF3042HG(ミマキエンジニアリング社製)に、KEBABユニットを搭載して円柱状のガラス基材に印刷することが出来る。
【0052】

(インク組成物)

本開示の加飾方法に用いられるインク組成物は、無機顔料と、樹脂粒子と、水とを含む水性インク組成物である以外には、特に制限はない。本開示において、水性インク組成物とは、水を、インクの全質量に対し、50質量%以上含むインク組成物をいう。
【0053】

-無機顔料-

インク組成物が無機顔料を含むことで、後述の加熱工程を経てガラス基材上に形成されるインク画像の色相が良好となり、加熱による色の劣化が抑制され、定着後の画像の色再現性が良好となる。

無機顔料としては、インクジェット用インクの分野で公知の無機顔料が使用可能である。

無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエローなどが挙げられる。

着色剤としては、特開2009-241586号公報の段落0096~0100に記載の着色剤において例示される無機顔料が好ましく挙げられる。
【0054】

インク組成物は、無機顔料を1種のみ含んでもよく、目的に応じて2種以上を併用してもよい。

無機顔料の含有量としては、インク組成物の全質量に対して、1質量%~50質量%が好ましく、2質量%~40質量%がより好ましく、5質量%~35質量%が更に好ましく、5質量%~30質量%が特に好ましい。
【0055】

-水-

インク組成物は、水を含有する。

水の含有量は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは20質量%~90質量%であることが好ましく、40質量%~80質量%であることがより好ましい。
【0056】

-分散剤-

本開示において用いられるインク組成物は分散剤を含有してもよい。分散剤は、上記無機顔料の分散に有用である。分散剤としては、ポリマー分散剤、又は低分子の界面活性剤型分散剤のいずれでもよい。また、ポリマー分散剤は、水溶性の分散剤、又は非水溶性の分散剤のいずれでもよい。

分散剤としては、例えば、特開2016-145312号公報の段落0080~0096に記載の分散剤が好ましく挙げられる。
【0057】

分散剤を用いる場合の、無機顔料(p)と分散剤(s)との混合質量比(p:s)としては、1:0.06~1:3の範囲が好ましく、1:0.125~1:2の範囲がより好ましく、更に好ましくは1:0.125~1:1.5である。
【0058】

-樹脂粒子-

本開示におけるインク組成物は、樹脂粒子の少なくとも1種を含有する。

樹脂粒子を含有することにより、主にインク組成物のガラス基材への定着性及びガラス基材上に形成された焼成前の画像の耐擦過性をより向上させることができる。また、樹脂粒子は、既述のインク凝集剤と接触した際に凝集又は分散不安定化してインク組成物を増粘させることにより、インク組成物、すなわち画像を固定化させる機能を有する。このような樹脂粒子は、水及び含水有機溶媒に分散されている態様で用いることが好ましい。

樹脂粒子としては、例えば、特開2016-188345号公報の段落0062~0076に記載の樹脂粒子が好ましく挙げられる。

樹脂粒子としては、凝集性の観点から、マイナス電荷を有する樹脂粒子が好ましい。具体的には、インク組成物は、ポリエステル樹脂粒子、アクリル樹脂粒子、及びウレタン樹脂粒子から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、ガラス基材への定着性が良好であるという観点から、ウレタン樹脂粒子を含むことがより好ましい。
【0059】

インク組成物における樹脂粒子の含有量には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択される。

なかでも、インク組成物による画像の安定性の観点からは、インク組成物の全量に対し、3質量%~30質量%が好ましく、5質量%~20質量%がより好ましく、5質量%~10質量%がさらに好ましい。
【0060】

-水溶性有機溶媒-

本開示に用いられるインク組成物は、水溶性有機溶媒の少なくとも1種を含有することが好ましい。水溶性有機溶媒は、乾燥防止又は湿潤の効果を得ることができる。乾燥防止には、噴射ノズルのインク吐出口においてインクが付着乾燥して凝集体ができ、目詰まりするのを防止する乾燥防止剤として用いられ、乾燥防止や湿潤には、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶媒が好ましい。

また、上記水溶性有機溶媒の1気圧(1013.25hPa)における沸点は、80℃~300℃が好ましく、120℃~250℃がより好ましい。
【0061】

乾燥防止剤として用いる場合には、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶媒であることが好ましい。水より蒸気圧の低い水溶性有機溶媒の具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、トリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール類が挙げられる。

このうち、乾燥防止剤としては、グリセリン、ジエチレングリコール等の多価アルコールが好ましい。

インク組成物が水溶性有機溶剤を含有する場合、水溶性有機溶剤は、1種のみ含んでもてもよく、2種以上を併用してもよい。

インク組成物が水溶性有機溶剤を含有する場合の好ましい水溶性有機溶剤の含有量は、インク組成物全量に対し、10質量%~50質量%が好ましく、15質量%~45質量%がより好ましく、20質量%~40質量%がさらに好ましい。
【0062】

水溶性有機溶媒は、上記以外にも粘度の調整のために用いられる。粘度の調整に用いることができる水溶性有機溶媒の具体例としては、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、グリコール誘導体(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル)、アミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、テトラメチルプロピレンジアミン)、及びその他の極性溶媒(例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、アセトニトリル、アセトン)が含まれる。

水溶性有機溶剤を粘度調整に用いる場合においても、水溶性有機溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】

-その他の添加剤-

本開示において用いられるインク組成物は、上記成分以外にその他の添加剤を用いて構成することができる。その他の添加剤としては、例えば、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0064】

<工程C>

工程Cは、工程A及び工程Bを経てガラス基材上に形成されたインク画像をガラスの溶融温度以上に加熱する工程である。

インク画像をガラスの溶融温度以上、より具体的には、ガラス基材として用いるガラスの溶融温度以上に加熱することで、ガラス基材の少なくとも一部が溶融し、インク画像がガラス基材に定着され、加飾ガラスを得ることができる。(本明細書において、工程Cにおける加熱を焼成と称することがある。)

加熱温度がガラス基板としてのガラスの溶融温度未満であると、インク画像が十分にガラス基材に定着されず、形成された画像の必要な耐擦性が得られないことがある。

加熱温度であるガラスの溶融温度は、ガラス基材を構成するガラスを溶融する温度であり、ガラス基材の材質により適宜決定される。なかでも、得られる画像の耐擦性がより良好であるという観点からは、加熱温度は500℃以上が好ましく、550℃以上がより好ましく、600℃以上がさらに好ましい。

加熱温度の上限には特に制限はないが、ガラスの取り扱い性の観点からは、ソーダガラス等の軟質ガラスを用いる場合は1000℃以下で加熱することが好ましく、ホウケイ酸ガラス等の硬質ガラスを用いる場合には2000℃以下で加熱することが好ましい。
【0065】

工程Cに用いうる加熱装置としては、公知の加熱装置、例えば、非接触型の加熱手段を有する加熱炉、加熱ゾーンなどが挙げられる。

なお、上記加熱温度は、工程Cの実施中におけるガラス基材の表面温度である。ガラス基材の表面温度は、非接触式の温度計、例えば、1000℃までの領域では、堀場 高精度 放射温度計 (高温タイプ)、(株)堀場製作所などを、また、1000℃以上の領域では、携帯形放射温度計(単色形高温用)アズワン社製などを用いて測定することができる。
【0066】

本開示の加飾方法は、上記工程A、工程B及び工程Cに加え、任意の工程をさらに有していてもよい。任意の工程としては、例えば、工程Aと工程Bとの間、及び工程Bと工程Cとの間の少なくともいずれかにおいて、所望により実施される乾燥工程などが挙げられる。
【0067】

本開示の加飾方法によれば、任意のガラス基材に、色相が良好な耐磨耗性の画像を形成することができ、画像を加熱定着した後のガラス基材における濁りの発生が抑制された加飾ガラスを得ることができ、その応用範囲は広い。
【0068】

<加飾ガラス>

本開示の加飾ガラスは、ガラス基材上に、炭素、酸素、窒素、フッ素及び水素以外の元素の含有量が1.0質量%以下であるインク凝集剤含有組成物を用いて形成された下層と、無機顔料を含む画像と、をこの順で有し、ガラス基材における下層を有する領域と下層を有しない領域との可視光透過率の差が1%未満である。
【0069】

図1は、既述の本開示の加飾方法により得られた本開示の加飾ガラスの一例を示す概略断面図である。

図1に示すように、加飾ガラス10は、ガラス基材12上に、既述の凝集液を用いて形成された下層14と、インク組成物により形成されたインク画像16とをこの順で有する。

本開示の加飾ガラス10は、下層14に含まれるC、O、N、F及びH以外の元素の含有量が1.0質量%以下であることで、下層14に含まれる成分が、ガラス基材12に影響を与え難いため、焼成して形成された画像16は色再現性及び耐擦性に優れ、焼成に伴うガラス基材の濁り、インク画像の濁りの発生が抑制される。

従って、意匠性に優れた加飾ガラスとなり、その応用範囲は広い。
【実施例
【0070】

以下に実施例を挙げて本開示の加飾方法を具体的に説明する。本開示の加飾方法は、以下の実施例に示す例に制限されず、主旨を逸脱しない限り適宜変更して実施することができる。

なお、以下の実施例、比較例において、特に断りのない限り「%」及び「部」は、質量基準である。
【0071】

<1.インク組成物の調製>

-ウレタン樹脂粒子含有インク組成物-

(イエローインクEx1Yの調製)

以下の(組成)に示す成分を混合した溶液を、ミキサー(シルバーソン社製、L4R)

を用いて室温で5,000回転/分にて20分撹拌し、イエローインクEx1Yを調製した。
【0072】

調製したイエローインクEx1Yの粘度は、VISCOMETER TV-22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用いて測定し、30℃において6mPa・sであった。

調製したイエローインクEx1Yの表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学(株)製)を用いて測定し、25℃において38mN/mであった。

後述の他のインク組成物の粘度及び表面張力についても、Ex1Yと同様の方法で測定した。
【0073】

(イエローインクEx1Yの組成)

・Yellow 259(無機顔料) 6.4部

・WBR2101(商品名:ウレタンラテックス

大成ファインケミカル製、固形分量26%) 30.8部

・プロピレングリコール 30部

・CAPSTONE(登録商標) FS-63 0.01部

(界面活性剤、Dupont社製)

・イオン交換水 残部

(「残部」は、組成物全量を100部とした場合の残部を示す。以下の組成物も同様である。)
【0074】

(マゼンタインクEx1Mの組成)

・Magenta 307(無機顔料) 16.4部

・WBR2101(商品名:ウレタンラテックス

大成ファインケミカル製、固形分量26%) 30.8部

・プロピレングリコール 30部

・CAPSTONE(登録商標) FS-63 0.01部

(界面活性剤、Dupont社製)

・イオン交換水 残部
【0075】

(シアンインクEx1Cの組成)

・Cyan 561(無機顔料) 8.65部

・WBR2101(商品名:ウレタンラテックス

大成ファインケミカル製、固形分量26%) 30.8部

・プロピレングリコール 30部

・CAPSTONE(登録商標) FS-63 0.01部

(界面活性剤、Dupont社製)

・イオン交換水 残部
【0076】

(ブラックインクEx1Bkの組成)

・Black 980(無機顔料) 8.05部

・WBR2101(商品名:ウレタンラテックス

大成ファインケミカル製、固形分量26%) 30.8部

・プロピレングリコール 30部

・CAPSTONE(登録商標) FS-63 0.01部

(界面活性剤、Dupont社製)

・イオン交換水 残部
【0077】

-アクリル樹脂粒子含有インク組成物-

1.自己分散性ポリマー粒子P-1(樹脂粒子)の合成

攪拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた2リットル三口フラスコに、メチルエチルケトン360.0gを仕込んで、75℃まで昇温した。その後、別の容器において、イソボルニルメタクリレート72.0g、メチルメタクリレート252.0g、メタクリル酸36.0g、メチルエチルケトン72g、及び「V-601」(富士フイルム和光純薬(株)製の重合開始剤、化合物名:(ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート))1.44gを混合して混合溶液を調製した。

メチルエチルケトンを仕込んだフラスコ内温度を75℃に保ちながら、上記で調製した混合溶液を、2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。滴下完了後、これに「V-601」0.72g及びメチルエチルケトン36.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌後、さらに「V-601」0.72g及びイソプロパノール36.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌した。その後、85℃に昇温して、さらに2時間攪拌を続け、イソボルニルメタクリレート/メチルメタクリレート/メタクリル酸(=20/70/10[質量比])共重合体のポリマー溶液を得た。

得られた共重合体の重量平均分子量(Mw)を下記の方法で測定したところ60,000であった。また、得られた共重合体の酸価を下記の方法で測定したところ64.9mgKOH/gであった。
【0078】

-重量平均分子量の測定-

重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフ(GPC)によって測定した。

上記GPCは、HLC-8020GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgel(登録商標)、Super Multipore HZ-H(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)を3本用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)

を用いて行った。

また、GPCは、試料濃度を0.45質量%、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、測定温度を40℃とし、RI検出器を用いて行った。

検量線は、東ソー(株)製「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F-40」、「F-20」、「F-4」、「F-1」、「A-5000」、「A-2500」、「A-1000」、「n-プロピルベンゼン」の8サンプルから作製した。
【0079】

-酸価の測定-

酸価は樹脂粒子1グラム(g)を中和するのに必要な水酸化カリウムのモル数で表され、JIS規格(JIS K 0070:1992年)による測定法で求められる値を用いた。
【0080】

次に、得られたポリマー溶液668.3gを秤量し、これにイソプロパノール388.3g及び1mol/L水酸化ナトリウム水溶液145.7mlを加え、反応容器内温度を80℃に昇温した。次に、蒸留水720.1gを20ml/minの速度で滴下し、水分散化した後、大気圧下にて反応容器内温度80℃で2時間、85℃で2時間、90℃で2時間保った。その後、反応容器内を減圧にし、イソプロパノール、メチルエチルケトン、蒸留水を合計で913.7g留去し、固形分濃度(ポリマー粒子濃度)28.0質量%の自己分散性ポリマー粒子P-1(樹脂粒子)の水分散物を得た。
【0081】

上記自己分散性ポリマー粒子P-1のガラス転移温度(Tg)を以下の方法で測定したところ、145℃であった。
【0082】

-ガラス転移温度(Tg)の測定-

固形分で0.5gの自己分散性ポリマー粒子の水分散物を50℃で4時間、減圧乾燥させ、ポリマー固形分を得た。得られたポリマー固形分のTgを、(株)日立ハイテクサイエンス製の示差走査熱量計(DSC)EXSTAR6220によって測定した。詳細には、ポリマー固形分5mgをアルミパンに密閉し、窒素雰囲気下、ポリマー固形分に対し、以下の温度プロファイルによる温度変化を施し、2回目の昇温時の測定データに基づいてTgを求めた。なお、以下の温度プロファイルの範囲内では、融点は観測されなかった。
【0083】

-樹脂粒子のTg測定における温度プロファイル-

30℃→-50℃ (50℃/分で冷却)

-50℃→220℃(20℃/分で昇温)

220℃→-50℃(50℃/分で冷却)

-50℃→220℃(20℃/分で昇温)
【0084】

上記で調製したアクリル樹脂粒子であるポリマー粒子P-1を用いて、以下に示す組成に従い、アクリル樹脂粒子を含むインク組成物を、ウレタン樹脂粒子を含むインク組成物と同様にして調製した。
【0085】

(イエローインクEx2Yの組成)

・Yellow 259(無機顔料) 6.4部

・ポリマー粒子P-1(上記で調製した粒子) 28.6部

・プロピレングリコール 30部

・CAPSTONE(登録商標) FS-63 0.01部

(界面活性剤、Dupont社製)

・イオン交換水 残部
【0086】

(マゼンタインクEx2Mの組成)

・Magenta 307(無機顔料) 16.4部

・ポリマー粒子P-1(上記で調製した粒子) 28.6部

・プロピレングリコール 30部

・CAPSTONE(登録商標) FS-63 0.01部

(界面活性剤、Dupont社製)

・イオン交換水 残部
【0087】

(シアンインクEx2Cの組成)

・Cyan 561(無機顔料) 8.65部

・ポリマー粒子P-1(上記で調製した粒子) 28.6部

・プロピレングリコール 30部

・CAPSTONE(登録商標) FS-63 0.01部

(界面活性剤、Dupont社製)

・イオン交換水 残部
【0088】

(ブラックインクEx2Bkの調製)

・Black 980(無機顔料) 8.05部

・ポリマー粒子P-1(上記で調製した粒子) 28.6部

・プロピレングリコール 30部

・CAPSTONE(登録商標) FS-63 0.01部

(界面活性剤、Dupont社製)

・イオン交換水 残部
【0089】

-ポリエステル樹脂粒子含有インク組成物-

以下に示す組成に従い、ポリエステル樹脂粒子であるペスレジンA-520(商品名、高松油脂(株)製)を用いて、ポリエステル樹脂粒子を含むインク組成物を、ウレタン樹脂粒子を含むインク組成物と同様にして調製した。
【0090】

(イエローインクEx3Yの調製)

・Yellow 259(無機顔料) 6.4部

・ポリエステル樹脂粒子(ペスレジンA-520:商品名、

固形分量30%、高松油脂(株)製) 26.7部

・プロピレングリコール 30部

・CAPSTONE(登録商標) FS-63 0.01部

(界面活性剤、Dupont社製)

・イオン交換水 残部
【0091】

(マゼンタインクEx3Mの組成)

・Magenta 307(無機顔料) 16.4部

・ポリエステル樹脂粒子(ペスレジンA-520:商品名、

固形分量30%、高松油脂(株)製) 26.7部

・プロピレングリコール 30部

・CAPSTONE(登録商標) FS-63 0.01部

(界面活性剤、Dupont社製)

・イオン交換水 残部
【0092】

(シアンインクEx3Cの調製)

・Cyan 561(無機顔料) 8.65部

・ポリエステル樹脂粒子(ペスレジンA-520:商品名、

固形分量30%、高松油脂(株)製) 26.7部

・プロピレングリコール 30部

・CAPSTONE(登録商標) FS-63 0.01部

(界面活性剤、Dupont社製)

・イオン交換水 残部
【0093】

(ブラックインクEx3Bkの調製)

・Black 980(無機顔料) 8.05部

・ポリエステル樹脂粒子(ペスレジンA-520:商品名、

固形分量30%、高松油脂(株)製) 26.7部

・プロピレングリコール 30部

・CAPSTONE(登録商標) FS-63 0.01部

(界面活性剤、Dupont社製)

・イオン交換水 残部
【0094】

-比較用インク組成物の調製-

以下に示す組成に従い、比較用インク組成物を、ウレタン樹脂粒子を含むインク組成物と同様にして調製した。
【0095】

(比較用イエローインクCo1Yの組成)

・Projet Yellow APD 1000(有機顔料)、

富士フイルムイメージングカラーラント(株)製、

顔料濃度14質量%) 25部

・WBR2101(ウレタンラテックス、大成ファインケミカル製、

固形分量26%) 30.8部

・プロピレングリコール 30部

・CAPSTONE(登録商標) FS-63 0.01部

(界面活性剤、Dupont社製)

・イオン交換水 残部
【0096】

(比較用マゼンタインクCo1Mの調製)

・Projet Magenta APD 1000(有機顔料)、

富士フイルムイメージングカラーラント(株)製、

顔料濃度14質量%) 40部

・WBR2101(ウレタンラテックス、大成ファインケミカル製、

固形分量26%) 30.8部

・プロピレングリコール 30部

・CAPSTONE(登録商標) FS-63 0.01部

(界面活性剤、Dupont社製)

・イオン交換水 残部
【0097】

(比較用シアンインクCo1Cの調製)

・Projet Cyan APD 1000(有機顔料)、

富士フイルムイメージングカラーラント(株)製、

顔料濃度14質量%) 18部

・WBR2101(ウレタンラテックス、大成ファインケミカル製、

固形分量26%) 30.8部

・プロピレングリコール 30部

・CAPSTONE(登録商標) FS-63 0.01部

(界面活性剤、Dupont社製)

・イオン交換水 残部
【0098】

(ブラックインクCo1Bkの調製)

・Projet Magenta APD 1000、(カーボンブラック)、

富士フイルムイメージングカラーラント(株)製、

顔料濃度14質量%) 21部

・WBR2101(ウレタンラテックス、大成ファインケミカル製、

固形分量26%) 30.8部

・プロピレングリコール 30部

・CAPSTONE(登録商標) FS-63 0.01部

(界面活性剤、Dupont社製)

・イオン交換水 残部
【0099】

(凝集液Ex1Pの調製)

下記組成に記載された各成分を混合した溶液を、ミキサー(シルバーソン社製、L4R)を用いて室温で5,000回転/分にて20分撹拌し、凝集液Ex1Pを調製した。

調製した凝集液Ex1Pの粘度は、VISCOMETER TV-22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用いて測定したところ、30℃において4mPa・sであった。

調製した凝集液の表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学(株)製)を用いて測定したところ、25℃において25mN/mであった。

凝集液Ex1Pにおいて、炭素、酸素、窒素、フッ素及び水素以外の原子が検出されないことを、パーキンエルマー社製 Optima 7300DV (ICP-OES、誘導結合プラズマ発光分光分析)により確認した。

さらに、分析装置として、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製 Element II (ICP-MS、誘導結合プラズマ質量分析)を用いて凝集液Ex1Pを分析したが、炭素、酸素、窒素、フッ素及び水素以外の原子は検出されなかった。

このため、凝集液Ex1Pには、炭素、酸素、窒素、フッ素及び水素以外の原子が含まれないか、或いは、含まれていても検出限界以下の量であることが確認された。
【0100】

(凝集液Ex1Pの組成)

・リカシッドTCR-100(1,2,3-プロパントリカルボン酸)

(有機酸) 2.0部

・マロン酸 9.0部

・リンゴ酸 8.0部

・クエン酸 7.0部

・プロピレングリコール 20.0部

・サーフロンS-243(商品名:フッ素系界面活性剤、

AGCセイミケミカル(株)製) 0.3部

・イオン交換水 残部
【0101】

(凝集液Ex2Pの調製)

凝集液Ex1Pの調製と同様にして、凝集液Ex2Pを調製した。凝集液Ex2Pの組成は以下の通りである。

(凝集液Ex2Pの組成)

・リン酸 0.32部

・リカシッドTCR-100(1,2,3-プロパントリカルボン酸)

(有機酸) 2.0部

・マロン酸 9.0部

・リンゴ酸 8.0部

・クエン酸 7.0部

・プロピレングリコール 20.0部

・サーフロンS-243(商品名:フッ素系界面活性剤、

AGCセイミケミカル(株)製、 0.3部

・イオン交換水 残部

凝集液Ex1Pと同様にして、凝集液Ex2Pの物性を測定した。

その結果、凝集液Ex2Pの粘度は、30℃において4mPa・sであった。表面張力は25℃において25mN/mであった。

凝集液Ex2Pをパーキンエルマー社製 Optima 7300DVで分析した結果、凝集液Ex2Pに含まれる炭素、酸素、窒素、フッ素及び水素以外の原子の割合は全固形分に対し0.1質量%であった。
【0102】

(凝集液Ex3Pの調製)

凝集液Ex1Pの調製と同様に凝集液Ex3Pを調製した。凝集液Ex3Pの組成は以下の通りである。

(凝集液Ex3Pの組成)

・リカシッドTCR-100(1,2,3-プロパントリカルボン酸)

(有機酸) 2.0部

・マロン酸 9.0部

・リンゴ酸 8.0部

・クエン酸 7.0部

・プロピレングリコール 20.0部

・サーフィノールA104A 0.1部

(アセチレングリコール系非イオン界面活性剤、

日信化学工業(株)製)

・イオン交換水 残部
【0103】

凝集液Ex1Pと同様にして、凝集液Ex3Pの物性を測定した。

その結果、凝集液Ex3Pの粘度は、30℃において4mPa・sであった。表面張力は25℃において35mN/mであった。

凝集液Ex3Pをパーキンエルマー社製 Optima 7300DVで分析した結果、凝集液Ex3Pでは、炭素、酸素、窒素、フッ素及び水素以外の原子は検出されなかった。また、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製 Element II を用いて凝集液Ex3Pを分析したが、同様に炭素、酸素、窒素、フッ素及び水素以外の原子は検出されなかった。
【0104】

(凝集液Ex4Pの調製)

凝集液Ex1Pの調製と同様に凝集液Ex4Pを調製した。凝集液Ex3Pの組成は以下の通りである。

(凝集液Ex4Pの組成)

・リカシッドTCR-100(1,2,3-プロパントリカルボン酸)

(有機酸) 2.0部

・マロン酸 9.0部

・リンゴ酸 8.0部

・クエン酸 7.0部

・プロピレングリコール 20.0部

・イオン交換水 残部
【0105】

凝集液Ex1Pと同様にして、凝集液Ex4Pの物性を測定した。

その結果、凝集液Ex4Pの粘度は、30℃において4mPa・sであった。表面張力は25℃において29mN/mであった。

凝集液Ex4Pをパーキンエルマー社製 Optima 7300DVで分析した結果、凝集液Ex4Pでは、炭素、酸素、窒素、フッ素及び水素以外の原子は検出されなかった。また、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製 Element II を用いて凝集液Ex4Pを分析したが、同様に炭素、酸素、窒素、フッ素及び水素以外の原子は検出されなかった。
【0106】

(凝集液Ex5Pの調製)

凝集液Ex1Pの調製と同様に凝集液Ex5Pを調製した。凝集液Ex5Pの組成は以下の通りである。

(凝集液Ex5Pの組成)

・シャロール(登録商標)DC303P、第一工業製薬(株)製

カチオン性ポリマー凝集剤) 4部

・プロピレングリコール 20部

・サーフロンS-243(商品名:フッ素系界面活性剤、

AGCセイミケミカル(株)製 0.3部

・イオン交換水 残部
【0107】

凝集液Ex1Pと同様にして、凝集液Ex5Pの物性を測定した。

その結果、凝集液Ex5Pの粘度は、30℃において4mPa・sであった。表面張力は25℃において29mN/mであった。

凝集液Ex5Pをパーキンエルマー社製 Optima 7300DVで分析した結果、凝集液Ex5Pでは、炭素、酸素、窒素、フッ素及び水素以外の原子は検出されなかった。また、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製 Element II を用いて凝集液Ex5Pを分析したが、同様に炭素、酸素、窒素、フッ素及び水素以外の原子は検出されなかった。
【0108】

(凝集液Ex6Pの組成)

・リン酸 3.2部

・リカシッドTCR-100(1,2,3-プロパントリカルボン酸)

(有機酸) 2.0部

・マロン酸 9.0部

・リンゴ酸 8.0部

・クエン酸 7.0部

・プロピレングリコール 20.0部

・サーフロンS-243(商品名:フッ素系界面活性剤、

AGCセイミケミカル(株)製、 0.3部

・イオン交換水 残部

凝集液Ex1Pと同様にして、凝集液Ex6Pの物性を測定した。

その結果、凝集液Ex6Pの粘度は、30℃において4mPa・sであった。表面張力は25℃において25mN/mであった。

凝集液Ex2Pをパーキンエルマー社製 Optima 7300DVで分析した結果、凝集液Ex6Pに含まれる炭素、酸素、窒素、フッ素及び水素以外の原子の割合は全固形分に対し1質量%であった。
【0109】

(比較凝集剤液Co1Pの調製)

凝集液Ex1Pの調製と同様に比較凝集液Co1Pを調製した。比較凝集液Co1Pの組成は以下の通りである。

(比較凝集液Co1Pの組成)

・リン酸(凝集剤) 4.8部

・リカシッドTCR-100(1,2,3-プロパントリカルボン酸)

(有機酸) 2.0部

・マロン酸 7.0部

・リンゴ酸 6.0部

・プロピレングリコール 20.0部

・サーフロンS-243(商品名:フッ素系界面活性剤、

AGCセイミケミカル(株)製) 0.3部

・イオン交換水 残部
【0110】

凝集液Ex1Pと同様にして、比較凝集液Co1Pの物性を測定した。

その結果、比較凝集液Co1Pの粘度は、30℃において4mPa・sであった。表面張力は25℃において25mN/mであった。

比較凝集液Co1Pをパーキンエルマー社製 Optima 7300DVで分析した結果、比較凝集液Co1Pに含まれる炭素、酸素、窒素、フッ素及び水素以外の原子の割合は全固形分に対し1.5質量%であった。
【0111】

(比較凝集剤液Co2Pの調製)

凝集液Ex1Pの調製と同様に比較凝集液Co2Pを調製した。比較凝集液Co2Pの組成は以下の通りである。

(比較凝集液Co2Pの組成)

・リン酸(凝集剤) 9.6部

・リカシッドTCR-100(1,2,3-プロパントリカルボン酸)

(有機酸) 2.0部

・マロン酸 5.0部

・リンゴ酸 4.0部

・プロピレングリコール 20.0部

・サーフロンS-243(商品名:フッ素系界面活性剤、

AGCセイミケミカル(株)製) 0.3部

・イオン交換水 残部
【0112】

凝集液Ex1Pと同様にして、比較凝集液Co2Pの物性を測定した。

その結果、比較凝集液Co2Pの粘度は、30℃において4mPa・sであった。表面張力は25℃において25mN/mであった。

比較凝集液Co2Pをパーキンエルマー社製 Optima 7300DVで分析した結果、比較凝集液Co2Pに含まれる炭素、酸素、窒素、フッ素及び水素以外の原子の割合は全固形分に対し3.0質量%であった。
【0113】

(比較凝集剤液Co3Pの調製)

凝集液Ex1Pの調製と同様に比較凝集液Co3Pを調製した。比較凝集液Co3Pの組成は以下の通りである。

(比較凝集液Co3Pの組成)

・塩化カルシウム(凝集剤) 20.0部

・プロピレングリコール 20.0部

・サーフロンS-243(商品名:フッ素系界面活性剤、

AGCセイミケミカル(株)製) 0.3部

・イオン交換水 残部
【0114】

凝集液Ex1Pと同様にして、比較凝集液Co3Pの物性を測定した。

その結果、比較凝集液Co3Pの粘度は、30℃において4mPa・sであった。表面張力は25℃において25mN/mであった。

比較凝集液Co3Pをパーキンエルマー社製 Optima 7300DVで分析した結果、比較凝集液Co3Pに含まれる炭素、酸素、窒素、フッ素及び水素以外の原子の割合は全固形分に対し8.2質量%であった。
【0115】

〔実施例1〕

<インクジェット方式によるインク画像の形成1>

ガラス基材として、普通板ガラス(ガラスの種類ソーダライム)関谷理化社製:軟化点730℃を準備した。

ガラス基材上に、FUJIFILM Dimatix社製DMP-2831プリンターで、インクジェット方式により凝集液Ex1Pを付与した。付与した領域は20cm×20cmの領域であった。(工程A)
【0116】

画像形成のための各インク組成物の付与は、画像解像度1200dpi(dot per inch (2.54cm))×1200dpiにて、10pl(ピコリットル)

の吐出量が得られるヘッドで行った。

インク組成物としては、既述の方法で調製した各インク組成物を、以下の表に記載した組み合わせで使用した。

まず、工程Aで凝集液Ex1Pを付与したガラス基材上に、イエローインクEx1Y、マゼンタインクEx1M、シアンインクEx1C、及びブラックインクEx1Bkの各インク組成物をFUJIFILM Dimatix社製DMP-2831プリンターを用いて、5cm×5cmの範囲に、以下に示す色の画像を描画した。

それぞれのインク組成物を単独又は2種以上を組合せて、シアン(C)画像、マゼンタ

(M)画像、イエロー(Y)画像、ブラック(K)画像、ブルー(B)画像、グリーン(G)画像、レッド(R)画像、3カラーブラック(3C:C+Y+M)画像、及び4カラーブラック(4C:C+Y+M+K)画像のそれぞれの色の画像を形成した。

なお、インク画像の非形成部(非画像部)の評価用として、凝集液のみを付与し、インク組成物を付与しない領域を作製した。

また、画質評価のため、画像解像度1200dpi×1200dpiで、5ノズルを用いて、連続したライン画像の描画を行った。(工程B)

インク組成物の付与後、ドライヤーを用いて、80℃の温風によりインク組成物(インク画像)の乾燥を行った。
【0117】

インク組成物による画像を形成した後、凝集液とインク組成物とを付与したガラス基材を、730℃のオーブンにて1時間加熱し、焼成を行い、加飾ガラスを得た。(工程C)
【0118】

〔比較例1〕

<インクジェット方式によるインク画像の形成2>

実施例1において、工程Cによる730℃の加熱、焼成を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例1の加飾ガラスを得た。(工程C実施せず)
【0119】

〔比較例2〕

<インクジェット方式によるインク画像の形成3>

実施例1において、工程Cによる730℃の加熱、焼成に変えて、300℃のオーブンによる加熱を行なった以外は、実施例1と同様にして、比較例2の加飾ガラスを得た。(工程Cを低温で実施)
【0120】

〔比較例3〕

<インクジェット方式によるインク画像の形成4>

実施例1において、凝集液Ex1Pを付与する工程Aを行わなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例2の加飾ガラスを得た。(工程A実施せず)
【0121】

〔比較例4〕

<インクジェット方式によるインク画像の形成5>

実施例1において、凝集液Ex1Pを付与する工程A、及び、工程Cによる730℃の加熱、焼成を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例3の加飾ガラスを得た。(工程A及び工程C実施せず)
【0122】

〔比較例5〕

<インクジェット方式によるインク画像の形成6>

実施例1において用いたEx1Y、Ex1M、Ex1C、及びEx1Bkの各インク組成物に代えて、比較インク組成物であるCo1Y、Co1M、Co1C、及びCo1Bk比を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例4の加飾ガラスを得た。
【0123】

〔比較例6〕

<インクジェット方式によるインク画像の形成7>

比較例1において用いたEx1Y、Ex1M、Ex1C、及びEx1Bkの各インク組成物に代えて、比較インク組成物であるCo1Y、Co1M、Co1C、及びCo1Bk比を用いた以外は、比較例1と同様にして、比較例5の加飾ガラスを得た。(工程Cを実施せず)
【0124】

〔比較例7〕

<インクジェット方式によるインク画像の形成8>

比較例3において用いたEx1Y、Ex1M、Ex1C、及びEx1Bkの各インク組成物に代えて、比較インク組成物であるCo1Y、Co1M、Co1C、及びCo1Bk比を用いた以外は、比較例3と同様にして、比較例6の加飾ガラスを得た。(工程Aを実施せず)
【0125】

〔比較例8〕

<インクジェット方式によるインク画像の形成9>

比較例4において用いたEx1Y、Ex1M、Ex1C、及びEx1Bkの各インク組成物に代えて、比較インク組成物であるCo1Y、Co1M、Co1C、及びCo1Bkを用いた以外は、比較例4と同様にして、比較例7の加飾ガラスを得た。(工程A及び工程Cを実施せず)
【0126】

〔実施例2〕

<インクジェット方式によるインク画像の形成10>

実施例1において用いた凝集液Ex1Pに代えて、凝集液Ex2Pを用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2の加飾ガラスを得た。
【0127】

〔実施例3〕

<インクジェット方式によるインク画像の形成11>

実施例1において用いた凝集液Ex1Pに代えて、凝集液Ex3Pを用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例3の加飾ガラスを得た。
【0128】

〔実施例4〕

<インクジェット方式によるインク画像の形成12>

実施例1において用いた凝集液Ex1Pに代えて、凝集液Ex4Pを用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例4の加飾ガラスを得た。
【0129】

〔実施例5〕

<インクジェット方式によるインク画像の形成13>

実施例1において用いた凝集液Ex1Pに代えて、凝集液Ex5Pを用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例5の加飾ガラスを得た。
【0130】

〔比較例9〕

<インクジェット方式によるインク画像の形成14>

実施例1において用いた凝集液Ex1Pに代えて、比較凝集液Co1Pを用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例9の加飾ガラスを得た。
【0131】

〔比較例10〕

<インクジェット方式によるインク画像の形成15>

実施例1において用いた凝集液Ex1Pに代えて、比較凝集液Co2Pを用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例10の加飾ガラスを得た。
【0132】

〔比較例11〕

<インクジェット方式によるインク画像の形成16>

実施例1において用いた凝集液Ex1Pに代えて、比較凝集液Co3Pを用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例10の加飾ガラスを得た。
【0133】

〔加飾ガラスの評価〕

実施例及び比較例のガラスの加飾方法で作製した加飾ガラスについて、以下の方法によって評価した。

なお、比較インク組成物を用いた比較例5及び比較例7では、730℃の加熱において当初形成したインク画像の色が失われてしまい、評価ができなかった。下記表1~表2において。「--」は当該成分が含まれないことを示し、「※」は、当該評価を行えなかったことを示す。
【0134】

(1.画質評価)

画質として描画した線の均一性を指標とした。線の均一性はライン画像の品質で評価した。得られたライン画像を画像評価システム、ドットアナライザー(王子計測機器社製;DA6000)でラインのラジッドネス(最小二乗法により得られた理想エッジに対する得られたライン画像エッジの偏差)を測定し、以下の評価基準で評価を行った。ライン画像の品質としては、AまたはBが好ましく、Aがより好ましい。

(評価基準)

A:ラジッドネスが2.0未満のもの。

B:ラジッドネスが2.0以上4.0未満のもの。

C:ラジッドネスが4.0以上6.0未満のもの。

D:ラジッドネスが6.0以上8.0未満のもの。

E:ラジッドネスが8.0以上のもの。
【0135】

(2.耐擦性(耐磨耗性))

学振式テストにより、500gの加重で学振テストを実施し、以下の評価基準で評価した。耐擦性としては、A及びBが実用上問題のないレベルであり、Aが好ましい。

(評価基準)

A:布に全く色移りがなく、サンプルの濃度変化がない。

B:布にわずかに色移りが観測されるが(濃度で0.05未満)、サンプルの濃度変化がない。

C:布に色移りが観測されるが(濃度で0.05以上)、サンプル濃度変化はない。

D:布に色移りが観測され、サンプルの色濃度が(0.1未満)減少している。

E:布に色移りが観測され、サンプルの色濃度が(0.1以上)減少している。
【0136】

(3.耐光性)

スーパーキセノンウェザーメーター SX75 スガ試験機(株)製、キセノンXeランプを用いて、露光量:180W/mで1カ月間光照射し、光照射前後の画像の色濃度を、濃度計FD-7、コニカミノルタ(株)製にて測定し、光照射前後の画像の色変化を以下の基準で評価した。耐光性としては、A及びBが実用上問題のないレベルであり、Aが好ましい。

(評価基準)

A:全く色濃度に変化なかった。

B:5%未満の色変化が観測された。

C:5%以上10%未満の色変化が観測された。

D:10%以上20%未満の色変化が観測された。

E:20%以上の色変化が観測された。
【0137】

(4.非画像部透過率変化)

加熱定着した後のガラス基材における濁りは非画像部透過率変化で評価した。焼成後のガラスにおいて、非画像部評価用の、凝集液のみ付与し、インク組成物の非付与領域の光透過率、及び、凝集液を付与しないガラス基材の光透過性をそれぞれ測定し、以下の基準で透過率の変化を評価した。

透過率の測定は、紫外・可視・近赤外分光高度計V570、(日本分光(株)製)を用いて行った。透過率の変化は、凝集液付与部分と凝集液非付与部分との透過率の絶対値の差として、以下の基準で評価した。透過率の変化としては、A、B及びBが実用上問題のないレベルであり、Aが好ましい。

A:凝集液付与部分と凝集液非付与部分との透過率の差がない。

B:凝集液付与部分と凝集液非付与部分との透過率差が0.5%未満である。

:凝集液付与部分と凝集液非付与部分との透過率差が0.5%以上1%未満である。

C:凝集液付与部分と凝集液非付与部分との透過率差が1%以上5%未満である。

D:凝集液付与部分と凝集液非付与部分との透過率差が5%以上10%未満である。

E:凝集液付与部分と凝集液非付与部分との透過率差が10%以上である。
【0138】

各評価結果を下記表1~表2に示す。
【0139】

【表1】
【0140】

【表2】
【0141】

表1~表2の結果より、実施例1~実施例5のガラスの加飾方法で得られた加飾ガラスは、ライン画像の解像度が良好であり、色が良好で、優れた画質を有する画像が形成され、焼成後も非画像部におけるガラスの濁りが抑制されることがわかった。

一方、工程Cにて焼成を行わなかった比較例1及び加熱を行っても、加熱温度がガラスの溶融温度以下である比較例2では、耐擦性の画像は形成できなかった。

また、C、O、N、F及びH以外の元素の含有量が1.0%を超える凝集液を用いた比較例9~11では、凝集液の付着部においてガラス基材の濁りが発生し、透過性の低下が見られた。なお、比較例9と比較例11との対比より、C、O、N、F及びH以外の元素の含有量が多い程、濁りの発生が著しいことがわかる。

着色剤として有機色素を用いた比較例5~8では、画像が焼成に耐えず、画像の色味が失われたり、耐光性が著しく低下したりした。
【0142】

〔実施例6〕

<インクジェット方式によるインク画像の形成17>

実施例1において用いたインク組成物であるEx1Y、Ex1M、Ex1C、及びEx1Bkに代えて、インク組成物Ex2Y、Ex2M、Ex2C、Ex2Bkを用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例6の加飾ガラスを得た。

実施例1と同様にして評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0143】

〔実施例7〕

<インクジェット方式によるインク画像の形成18>

実施例1において用いたインク組成物であるEx1Y、Ex1M、Ex1C、及びEx1Bkに代えて、インク組成物Ex3Y、Ex3M、Ex3C、及びEx3Bkを用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例7の加飾ガラスを得た。

実施例1と同様にして評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0144】

【表3】
【0145】

表3の結果より、実施例6及び実施例7のガラスの加飾方法で得られた加飾ガラスは、ライン画像の解像度が良好であり、色再現性が良好で、優れた画質を有する画像が形成され、焼成後も非画像部におけるガラスの濁りが抑制されることがわかった。
【0146】

〔実施例8〕

<インクジェット方式によるインク画像の形成19>

実施例1において用いた凝集液Ex1Pに代えて、凝集液Ex6Pを用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例8の加飾ガラスを得た。

実施例1と同様にして評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0147】

【表4】
【0148】

表4の結果より、実施例8のガラスの加飾方法で得られた加飾ガラスは、ライン画像の解像度が良好であり、色が良好で、優れた画質を有する画像が形成され、焼成後も非画像部におけるガラスの濁りが抑制されることがわかった。
【0149】

なお、実施例1~実施例5及び実施例8と、実施例6~実施例7との対比より、実施例6及び実施例7では、工程Cにて焼成する前のインク組成物からなる画像は、ガラス基材への付着性が弱く、取り扱いの際にインク組成物を付与した面に触れると、インク組成物による画像が削れてしまうため、取り扱いに細心の注意が必要であった。このことから、インク組成物として、ウレタン樹脂粒子を含むものは、アクリル樹脂粒子又はポリエステル樹脂粒子を含むものに比較して、ガラス基材における焼成前のインク画像の安定性により優れていることがわかる。
図1