(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】コンクリート組成物、及び、コンクリート組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20220214BHJP
C04B 24/02 20060101ALI20220214BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B24/02
(21)【出願番号】P 2017169556
(22)【出願日】2017-09-04
【審査請求日】2020-08-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第19回生コン技術大会論文集,第201~204頁(発行:全国生コンクリート工業組合連合会・全国生コンクリート協同組合連合会)
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503116224
【氏名又は名称】新菱商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】小田部 裕一
(72)【発明者】
【氏名】小澤 良一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 克実
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-508261(JP,A)
【文献】特開2013-147339(JP,A)
【文献】特開平10-338560(JP,A)
【文献】特開昭61-048480(JP,A)
【文献】特開昭58-069763(JP,A)
【文献】特開2010-100478(JP,A)
【文献】コンクリート便覧,第2版,技報堂出版株式会社,1996年02月15日,P.80-83
【文献】コンクリート総覧,第1版,技術書院,1998年06月10日,P.255
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00-32/02,
C04B40/00-40/06,
C04B103/00-111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、骨材と、エチレングリコール及びプロピレングリコールの少なくとも一方と、水とを含み、
エチレングリコール及びプロピレングリコールの合計含有量が、組成物全体に対して、20kg/m
3以上30kg/m
3以下であ
り、
練り上がり直後の空気量が7.5~10.0%である、コンクリート組成物。
【請求項2】
請求項
1に記載のコンクリート組成物の製造方法であって、
セメントと、骨材と、エチレングリコール及びプロピレングリコールの少なくとも一方と、水とを混合し、
エチレングリコール及びプロピレングリコールの合計含有量が、組成物全体に対して、20kg/m
3以上30kg/m
3以下となるように調整する、コンクリート組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート組成物、及び、該コンクリート組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物に発生するひび割れが、該コンクリート構造物の耐久性の低下に大きな影響を及ぼしている。コンクリート構造物に発生するひび割れの主な原因としては、打設時からの時間経過に伴う乾燥収縮、セメントが水和反応する過程で生じる熱による温度応力等が挙げられる。
【0003】
コンクリート構造物の乾燥収縮を低減させるためには、コンクリート組成物中に収縮低減剤等の化学混和剤、膨張材等のコンクリート用混和材を含有させることが効果的である(例えば、特許文献1及び非特許文献1)。特に、収縮低減剤と膨張材とを併用することにより、コンクリート構造物の乾燥収縮をより低減させることができる。さらに、コンクリート組成物中に、石灰岩を砕いて製造した石灰砕砂、石灰砕石等のコンクリート用骨材を含有させてもよい。
【0004】
温度応力が発生する原因となる発熱を低減させるためには、コンクリート組成物に含まれるセメントとして、水和発熱の低いセメントを用いることが知られている。また、コンクリート組成物中に、水和熱抑制剤等の特殊混和剤を含有させてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】富田六郎、「有機系収縮低減剤の作用機構に関する考案」、土木学会論文集 No.433/V-15,pp.197~205 1991年8月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コンクリート構造物の乾燥収縮及びセメントの発熱低減を同時に達成するためには、それぞれの目的に合った異なる材料を併用することが考えられる。具体的には、低熱ポルトランドセメントと収縮低減剤との併用、膨張材と水和熱抑制剤との併用が挙げられる。しかしながら、このような材料の併用は、コンクリート構造物の品質を劣化させる場合がある。例えば、低熱ポルトランドセメントと収縮低減剤とを併用すると、収縮低減剤によって低熱ポルトランドセメントの水和反応が阻害されるため、コンクリート組成物の硬化不良が生じ、その結果、コンクリート構造物の強度が低下する。また、膨張材と水和熱抑制剤とを併用すると、水和熱抑制剤によって膨張材の反応が抑制されるため、膨張材による収縮低減効果が充分に発揮されない。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、コンクリート構造物の強度低下を抑制すると共に、コンクリート構造物の乾燥収縮及びセメントの発熱を同時に低減可能なコンクリート組成物、及び、該コンクリート組成物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るコンクリート組成物は、セメントと、骨材と、エチレングリコール及びプロピレングリコールの少なくとも一方と、水とを含み、エチレングリコール及びプロピレングリコールの合計含有量が、組成物全体に対して、10kg/m3を超えて30kg/m3以下である。
【0010】
本発明に係るコンクリート組成物がエチレングリコール及びプロピレングリコールの少なくとも一方を含有し、エチレングリコール及びプロピレングリコールの合計含有量が、組成物全体に対して、10kg/m3を超えて30kg/m3以下であることにより、前記コンクリート組成物から製造されたコンクリート構造物の強度低下を抑制すると共に、該コンクリート構造物の乾燥収縮、及び、前記コンクリート組成物に含まれるセメントの発熱を同時に低減することができる。
【0011】
本発明に係るコンクリート組成物は、練り上がり直後の空気量が7.0~10.0%であることが好ましい。
【0012】
斯かる構成により、前記コンクリート組成物から製造されたコンクリート構造物の耐凍害性を向上させることができる。
【0013】
本発明に係るコンクリート組成物の製造方法は、前記コンクリート組成物の製造方法であって、セメントと、骨材と、エチレングリコール及びプロピレングリコールの少なくとも一方と、水とを混合し、エチレングリコール及びプロピレングリコールの合計含有量が、組成物全体に対して、10kg/m3を超えて30kg/m3以下となるように調整する。
【0014】
斯かる構成により、コンクリート構造物の強度低下を抑制すると共に、コンクリート構造物の乾燥収縮及びセメントの発熱を同時に低減可能なコンクリート組成物を好適に製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コンクリート構造物の強度低下を抑制すると共に、コンクリート構造物の乾燥収縮及びセメントの発熱を同時に低減可能なコンクリート組成物、及び、該コンクリート組成物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施例1~4及び比較例1,6,7のコンクリート組成物について、簡易断熱によるコンクリート温度を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<コンクリート組成物>
以下、本発明の実施形態に係るコンクリート組成物について説明する。
【0018】
(セメント)
本発明の実施形態に係るコンクリート組成物は、セメントを含む。前記セメントとしては、特に限定されず、従来公知のセメントを用いることができる。従来公知のセメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント等の混合セメント、アルミナセメント、ジェットセメント等の超速硬セメント等が挙げられる。なお、これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0019】
前記セメントの含有量は、組成物全体に対して、200kg/m3以上であることが好ましく、250kg/m3以上であることがより好ましい。また、550kg/m3以下であることが好ましく、500kg/m3以下であることがより好ましい。なお、前記セメントが2種以上含まれる場合、前記含有量は前記セメントの合計含有量である。
【0020】
(骨材)
本発明の実施形態に係るコンクリート組成物は、骨材を含む。前記骨材としては、細骨材と粗骨材とがある。なお、本明細書において、細骨材とは、10mm網ふるいを全部通過し、5mm網ふるいを質量で85%以上通過する骨材のことをいう。また、粗骨材とは、5mm網ふるいに質量で85%以上とどまる骨材のことをいう。(JIS A 0203:2014)
【0021】
前記細骨材としては、特に限定されず、例えば、川砂、陸砂、山砂、海砂、砕砂、石灰石砕砂等の天然物由来の砂、高炉スラグ、電気炉酸化スラグ、フェロニッケルスラグ、銅スラグ等のスラグ由来の砂等が挙げられる。なお、これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0022】
前記細骨材の表乾密度は、2.50g/cm3以上であることが好ましく、2.55g/cm3以上であることがより好ましい。また、前記細骨材の吸水率は、1.25質量%以上であることが好ましく、1.31質量%以上であることがより好ましい。なお、前記表乾密度及び前記吸水率は、例えば、JIS A 1109-2006に記載の測定方法で測定することができる。
【0023】
前記粗骨材としては、特に限定されず、例えば、川砂利、山砂利、海砂利等の天然骨材、砂岩、硬質石灰岩、玄武岩、安山岩等の砕石等の人工骨材、再生骨材等が挙げられる。なお、これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0024】
前記粗骨材の表乾密度は、2.50g/cm3以上であることが好ましい。また、前記細骨材の吸水率は、1.50質量%以下であることが好ましい。なお、前記表乾密度及び前記吸水率は、例えば、JIS A 1109-2006に記載の測定方法で測定することができる。
【0025】
前記骨材の含有量は、組成物全体に対して、1600kg/m3以上であることが好ましく、1650kg/m3以上であることがより好ましい。また、2000kg/m3以下であることが好ましく、1950kg/m3以下であることがより好ましい。なお、前記骨材が2種以上含まれる場合、前記含有量は前記骨材の合計含有量である。
【0026】
(エチレングリコール及びプロピレングリコール)
本発明の実施形態に係るコンクリート組成物は、エチレングリコール及びプロピレングリコールの少なくとも一方を含む。好ましくは、本発明の実施形態に係るコンクリート組成物は、プロピレングリコールを含む。本発明の実施形態に係るコンクリート組成物がプロピレングリコールを含むと、前記コンクリート組成物から製造されたコンクリート構造物の強度低下をより抑制すると共に、該コンクリート構造物の乾燥収縮、及び、前記コンクリート組成物に含まれるセメントの発熱を同時により低減することができる。
【0027】
エチレングリコール及びプロピレングリコールの合計含有量は、組成物全体に対して、10kg/m3を超えて30kg/m3以下である。好ましくは、エチレングリコール及びプロピレングリコールの合計含有量は、組成物全体に対して、20kg/m3以上30kg/m3以下である。なお、本発明の実施形態に係るコンクリート組成物がエチレングリコール及びプロピレングリコールのうちいずれか一方を含有する場合、前記合計含有量は、エチレングリコール及びプロピレングリコールのうちいずれか一方の含有量と等しい。
【0028】
前記コンクリート組成物がエチレングリコール及びプロピレングリコールの少なくとも一方を含有し、エチレングリコール及びプロピレングリコールの合計含有量が、組成物全体に対して、10kg/m3を超えて30kg/m3以下であることにより、前記コンクリート組成物から製造されたコンクリート構造物の強度低下を抑制すると共に、該コンクリート構造物の乾燥収縮、及び、前記コンクリート組成物に含まれるセメントの発熱を同時に低減することができる。
【0029】
(水)
本発明の実施形態に係るコンクリート組成物は、水を含む。前記水としては、特に限定されず、例えば、水道水、工業用水、回収水、地下水、河川水、雨水等を使用することができる。前記水には、セメントの水和反応及びコンクリート構造物に悪影響を及ぼす有機物、塩化物イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が含まれないか、含まれていても極めて微量であることが好ましい。前記水としては、品質の安定した水道水又は工業用水であることがより好ましい。
【0030】
前記水の合計含有量は、組成物全体に対して、140~190kg/m3であることが好ましく、150~180kg/m3であることがより好ましい。
【0031】
(その他の添加材)
本発明の実施形態に係るコンクリート組成物は、必要に応じて、その他の添加材を含んでいてもよい。前記その他の添加材としては、膨張材、AE剤、減水剤、AE減水剤、流動化剤、分離低減剤、凝結遅延剤、凝結促進剤、急結剤、収縮低減剤、起泡剤、発泡剤、防水剤等が挙げられる。なお、これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0032】
<コンクリート組成物の製造方法>
本発明の実施形態に係るコンクリート組成物の製造方法は、セメントと、骨材と、エチレングリコール及びプロピレングリコールの少なくとも一方と、水とを混合し、エチレングリコール及びプロピレングリコールの合計含有量が、組成物全体に対して、10kg/m3を超えて30kg/m3以下となるように調整する。
【0033】
このようにして製造された本発明の実施形態に係るコンクリート組成物は、練り上がり直後の空気量が7.0~10.0%であることが好ましい。前記練り上がり直後の空気量は、7.5%以上であることがより好ましく、8.0%以上であることが特に好ましい。また、前記練り上がり直後の空気量は、9.8%以下であることがより好ましく、9.5%以下であることが特に好ましい。
【0034】
前記コンクリート組成物は、練り上がり直後の空気量が7.0~10.0%であることにより、該コンクリート組成物から製造されたコンクリート構造物の耐凍害性を向上させることができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
(1)コンクリート組成物の調整
表1に示す配合量で各成分を混合することにより、実施例1~6及び比較例1~7のコンクリート組成物を得た。
【0037】
【0038】
表1に示す各成分の詳細を以下に示す。
水:上水道水
セメント:普通ポルトランドセメント、住友大阪セメント社製
細骨材:山砂、静岡県掛川産
粗骨材:砂岩砕石、茨城県岩瀬産
PG:プロピレングリコール、三協化学社製
EG:エチレングリコール、三協化学社製
DEG:ジエチレングリコール、三協化学社製
TF:コンクリート用収縮低減剤「テスタF」、住友大阪セメント社製
AE減水剤:BASFジャパン社製
AE剤:BASFジャパン社製
【0039】
(2)乾燥収縮評価
表1に示す各コンクリート組成物について、JIS A 1129に準じて、乾燥収縮量を測定した。材齢6ヶ月における乾燥収縮量を表2に示す。
【0040】
【0041】
(3)発熱評価
表1に示す実施例1~4及び比較例1,6,7のコンクリート組成物について、JASS5T-606に準じて、簡易断熱によるコンクリート温度を測定した。結果を
図1に示す。
【0042】
(4)強度評価
表1に示す実施例1~6及び比較例1,6,7のコンクリート組成物について、JIS A 1108に準じて、圧縮強度試験を行った。材齢7日及び28日の圧縮強度を、それぞれ表3に示す。
【0043】
【0044】
(5)耐凍害性評価
表1に示す実施例2,4~6及び比較例1,6,7のコンクリート組成物について、JIS A 1128に準じて、練り上がり直後の空気量を測定した。結果を表4に示す。
【0045】
また、これらの実施例及び比較例のコンクリート組成物について、JIS A 1148に準じて凍結融解試験を行い、耐久性指数を求めた。結果を表4に示す。なお、耐凍害性の評価は、下記基準に基づき行った。
○:耐久性指数が60を超える。
△:耐久性指数が30を超えて60以下。
×:耐久性指数が30以下。
【0046】
【0047】
表2に示すように、本発明の構成要件をすべて満たす実施例1~6のコンクリート組成物は、比較例1~5のコンクリート組成物に比べて、乾燥収縮量が低減されていることが分かる。また、
図1に示すように、本発明の構成要件をすべて満たす実施例1~4のコンクリート組成物は、比較例1のコンクリート組成物に比べて、コンクリート温度のピークが低いことから、発熱が低減されたことが分かる。さらに、表3に示すように、本発明の構成要件をすべて満たす実施例1~6のコンクリート組成物は、比較例1のコンクリート組成物と同等の圧縮強度であることが分かる。すなわち、実施例1~6のコンクリート組成物では、強度低下が抑制されていることが分かる。
【0048】
比較例6及び7のコンクリート組成物は、表2に示すように、乾燥収縮量が低減されていることが分かる。しかしながら、表3に示すように、圧縮強度が劣る。
【0049】
以上の結果から、本発明の構成要件をすべて満たす実施例1~4のコンクリート組成物は、コンクリート構造物の強度低下を抑制すると共に、コンクリート構造物の乾燥収縮及びセメントの発熱を同時に低減可能であることが分かる。
【0050】
また、表4に示すように、練り上がり直後の空気量が7.0~10.0%である実施例2及び4のコンクリート組成物は、コンクリート構造物の強度低下を抑制すると共に、コンクリート構造物の乾燥収縮及びセメントの発熱を同時に低減可能であることに加え、コンクリート構造物の耐凍害性を向上させることができることが分かる。