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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】基板研磨装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20220214BHJP
   B24B 37/013 20120101ALI20220214BHJP
   B24B 49/12 20060101ALI20220214BHJP
【FI】
H01L21/304 622S
B24B37/013
B24B49/12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017142545
(22)【出願日】2017-07-24
(65)【公開番号】P2019024034
(43)【公開日】2019-02-14
【審査請求日】2020-04-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】230112025
【弁護士】
【氏名又は名称】小林 英了
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100131451
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 理
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【弁理士】
【氏名又は名称】松野 知紘
(74)【代理人】
【識別番号】100174137
【弁理士】
【氏名又は名称】酒谷 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100184181
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 裕史
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 夕貴
(72)【発明者】
【氏名】八木 圭太
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-028554(JP,A)
【文献】特開2014-103215(JP,A)
【文献】国際公開第2016/010821(WO,A1)
【文献】特開2009-129970(JP,A)
【文献】特開2011-224678(JP,A)
【文献】特表2011-519421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/013
B24B 49/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を研磨パッドに押し付けることで基板研磨を行うためのトップリングと、
前記基板の被研磨面に光照射してその反射光を受光するとともに、当該反射光の波長に対する反射率スペクトルを算出するスペクトル生成部と、
前記反射率スペクトルに基づき前記被研磨面の膜厚を推定するための複数の膜厚推定アルゴリズムを記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された膜厚推定アルゴリズムの中から、第1の膜厚推定アルゴリズム及び第2の膜厚推定アルゴリズム、並びに前記第1の膜厚推定アルゴリズムから前記第2の膜厚推定アルゴリズムへの切替条件を設定するアルゴリズム設定部と、
前記アルゴリズム設定部により設定された前記第1の膜厚推定アルゴリズム及び前記第2の膜厚推定アルゴリズムにて前記被研磨面の膜厚を推定するとともに、前記切替条件を満たした場合に基板研磨の終了判定に適用すべき膜厚推定アルゴリズムを前記第1の膜厚推定アルゴリズムから前記第2の膜厚推定アルゴリズムに切り替える膜厚推定部とを備え、
前記切替条件は、前記第1の膜厚推定アルゴリズム及び前記第2の膜厚推定アルゴリズムにて推定された膜厚の推定値の差が所定値未満となったことである、基板研磨装置。
【請求項2】
前記被研磨面の膜厚の推定値が所定の目標値に達したときに、基板研磨の終点を指示する制御信号を出力する終点検知部を備えたことを特徴とする、請求項1記載の基板研磨装置。
【請求項3】
前記切替条件は、前記被研磨面の膜厚の推定値が設定値に達したことであることを特徴とする、請求項1または2記載の基板研磨装置。
【請求項4】
前記膜厚推定アルゴリズムを切り替える前に、切替前後の前記第1の膜厚推定アルゴリズム及び前記第2の膜厚推定アルゴリズムを用いた重み関数により被研磨面の膜厚を推定することを特徴とする、請求項1または2記載の基板研磨装置。
【請求項5】
前記第1の膜厚推定アルゴリズムはFFTを用いて膜厚を推定する方法であり、前記第2の膜厚推定アルゴリズムはFittingを用いて膜厚を推定する方法である、請求項1から4のいずれか1項に記載の基板研磨装置。
【請求項6】
基板を研磨パッドに押し付けることで基板研磨を行う基板研磨方法であって、
前記基板の被研磨面に光照射してその反射光を受光するとともに、当該反射光の波長に対する反射率スペクトルを算出するステップと、
前記反射率スペクトルに基づき前記被研磨面の膜厚を推定するための複数の膜厚推定アルゴリズムを記憶する記憶部より、第1の膜厚推定アルゴリズム及び第2の膜厚推定アルゴリズム、並びに前記第1の膜厚推定アルゴリズムから前記第2の膜厚推定アルゴリズムへの切替条件を設定するステップと、
設定された前記第1の膜厚推定アルゴリズム及び前記第2の膜厚推定アルゴリズムにて前記被研磨面の膜厚を推定するとともに、前記切替条件を満たした場合に基板研磨の終了判定に適用すべき膜厚推定アルゴリズムを前記第1の膜厚推定アルゴリズムから前記第2の膜厚推定アルゴリズムに切り替えるステップとを備え、
前記切替条件は、前記第1の膜厚推定アルゴリズム及び前記第2の膜厚推定アルゴリズムにて推定された膜厚の推定値の差が所定値未満となったことである、基板研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハ等の基板の表面を処理する基板処理装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハ等の基板に対し、いわゆるCMP(Chemical Mechanical Polishing)によって基板の表面を研磨するための基板研磨装置が広く知られている。このような基板研磨装置では、研磨中の基板の膜厚を測定するための膜厚測定器を備えている。
【0003】
膜厚測定器として、光学式の膜厚測定器が知られている。この光学式膜厚測定器では、基板の表面に測定光を照射し、基板から反射された測定光を受光してスペクトルを取得する。反射光のスペクトル特性は基板の膜厚に応じて変化することから、膜厚測定器では、所定のアルゴリズムに基づいて、反射光のスペクトルを解析して基板の膜厚を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2015/163164号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体デバイスの高集積化・高密度化に伴い、回路の配線がますます微細化し、多層配線の層数も増加しており、製造工程における半導体デバイス表面の平坦化、被研磨層と下地層との界面の検出精度がますます重要となっている。このため、基板研磨終了のタイミングを適切に制御するべく、研磨中の基板の膜厚を正確に測定することが望ましい。
【0006】
反射光のスペクトルに基づいて基板の膜厚を推定する場合、当該スペクトルの変化に線形性がある場合には、推定される膜厚の信頼性は高いといえるが、スペクトルの変化が一定でない(非線形)の場合には、推定される膜厚の信頼性は低くなる。また、基板の膜厚が厚い場合(あるいは薄い場合)には、膜厚推定のアルゴリズムによっては推定される膜厚に誤差が生じ、その結果得られる膜厚の信頼性が低くなってしまう場合があった。また、残膜厚によって最適な膜厚推定のアルゴリズムは残膜厚によって変わるが、従来の方式では残膜厚が考慮されていない。
【0007】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、研磨中の基板の膜厚をより正確に推定することで、基板研磨の終点を適切に検知することが可能な基板研磨装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様である基板研磨装置は、基板を研磨パッドに押し付けることで基板研磨を行うためのトップリングと、基板の被研磨面に光照射してその反射光を受光するとともに、当該反射光の波長に対する反射率スペクトルを算出するスペクトル生成部と、反射率スペクトルに基づき被研磨面の膜厚を推定するための複数の膜厚推定アルゴリズムを記憶する記憶部と、この記憶部に記憶された膜厚推定アルゴリズムの中から、複数の膜厚推定アルゴリズムとその切替条件を設定するアルゴリズム設定部と、アルゴリズム設定部により設定された膜厚推定アルゴリズムにて被研磨面の膜厚を推定するとともに、切替条件を満たした場合に適用すべき膜厚推定アルゴリズムを切り替える膜厚推定部とを備えたことを特徴とする。
【0009】
上記の基板研磨装置において、被研磨面の膜厚が所定の目標値に達したときに、基板研磨の終点を指示する制御信号を出力する終点検知部を備えることが好ましい。
【0010】
また、被研磨面の膜厚の推定値が設定値に達したときに、膜厚推定アルゴリズムを切り替えるようにすることが好ましい。あるいは、2つの膜厚推定アルゴリズムにて推定された膜厚の推定値の差が所定値未満となったときに、膜厚推定アルゴリズムを切り替えるようにすることが好ましい。
【0011】
上記の基板研磨装置において、膜厚推定アルゴリズムを切り替える前に、切替前後の2つの膜厚推定アルゴリズムを用いた重み関数により被研磨面の膜厚を推定するようにすることが好ましい。これにより、アルゴリズムの切り替え前後において推定値に不連続性が生じるのを防止することができる。また、膜厚推定アルゴリズムとして、FFTを用いて膜厚を推定する第1の方法と、Fittingを用いて膜厚を推定する第2の方法を含み、第1の方法の後に第2の方法に切り替えられるようにすることが好ましい。
【0012】
本発明の一態様である基板研磨方法は、基板を研磨パッドに押し付けることで基板研磨を行う基板研磨方法であって、基板の被研磨面に光照射してその反射光を受光するとともに、当該反射光の波長に対する反射率スペクトルを算出するステップと、反射率スペクトルに基づき被研磨面の膜厚を推定するための複数の膜厚推定アルゴリズムを記憶する記憶部より、複数の膜厚推定アルゴリズムとその切替条件を設定するステップと、設定された前記膜厚推定アルゴリズムにて被研磨面の膜厚を推定するとともに、切替条件を満たした場合に適用すべき膜厚推定アルゴリズムを切り替えるステップとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基板研磨中に、複数の膜厚推定アルゴリズムを切り替えて膜厚推定を行うようにしたから、研磨中の基板の膜厚をより正確に推定でき、よって基板研磨の終点を適切に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る基板研磨装置の構成を概略的に示す図である。
図2】研磨ヘッドの構造を示す断面図である。
図3】基板研磨装置に備えられた光学測定器の構成を示す断面図である。
図4】ウェハと研磨テーブルとの位置関係を示す平面図である。
図5】制御部の構成を示すブロック図である。
図6】ウェハからの反射光のスペクトルを示す説明図である。
図7】基板研磨処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図8】基板研磨処理の別の例を示すグラフである。
図9】膜厚推定アルゴリズムの切替処理の一例を示すグラフである。
図10】膜厚推定アルゴリズムの切替処理の別の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る基板処理装置について、図面を参照して説明する。なお、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る研磨装置を示す図である。図1に示すように、研磨装置10は、研磨面11aを有する研磨パッド11が取り付けられた研磨テーブル13と、基板の一例であるウェハWを保持しかつ研磨テーブル13上の研磨パッド11に押圧しながら研磨するための研磨ヘッド15と、研磨パッド11に研磨液(例えばスラリー)を供給するための研磨液供給ノズル14と、ウェハWの研磨を制御する研磨制御部12とを備えている。
【0017】
研磨テーブル13は、テーブル軸13aを介してその下方に配置されるテーブルモータ17に連結されており、このテーブルモータ17により研磨テーブル13が矢印で示す方向に回転されるようになっている。この研磨テーブル13の上面には研磨パッド11が貼付されており、研磨パッド11の上面がウェハWを研磨する研磨面11aを構成している。研磨ヘッド15は研磨ヘッドシャフト16の下端に連結されている。研磨ヘッド15は、真空吸引によりその下面にウェハWを保持できるように構成されている。研磨ヘッドシャフト16は、図示しない上下動機構により上下動するようになっている。
【0018】
ウェハWの研磨は次のようにして行われる。研磨ヘッド15および研磨テーブル13をそれぞれ矢印で示す方向に回転させ、研磨液供給ノズル14から研磨パッド1上に研磨液(スラリー)を供給する。この状態で、研磨ヘッド15は、ウェハWを研磨パッド11の研磨面11aに押し付ける。ウェハWの表面は、研磨液に含まれる砥粒の機械的作用と研磨液の化学的作用により研磨される。
【0019】
図2は、研磨ヘッド15の構造を示す断面図である。研磨ヘッド15は、円板状のキャリヤ20と、キャリヤ20の下に複数の圧力室(エアバッグ)D1,D2,D3,D4を形成する円形の柔軟な弾性膜21と、ウェハWを囲むように配置され、研磨パッド1を押し付けるリテーナリング22とを備えている。圧力室D1,D2,D3,D4は弾性膜21とキャリヤ20の下面との間に形成されている。
【0020】
弾性膜21は、複数の環状の仕切り壁21aを有しており、圧力室D1,D2,D3,D4はこれら仕切り壁21aによって互いに仕切られている。中央の圧力室D1は円形であり、他の圧力室D2,D3,D4は環状である。これらの圧力室D1,D2,D3,D4は、同心円状に配列されている。
【0021】
圧力室D1,D2,D3,D4は、流体ラインG1,G2,G3,G4に接続されており、圧力調整された加圧流体(例えば加圧空気などの加圧気体)が流体ラインG1,G2,G3,G4を通じて圧力室D1,D2,D3,D4内に供給されるようになっている。流体ラインG1,G2,G3,G4には真空ラインU1,U2,U3,U4が接続されており、真空ラインU1,U2,U3,U4によって圧力室D1,D2,D3,D4に負圧が形成されるようになっている。
【0022】
圧力室D1,D2,D3,D4の内部圧力は、後述する処理部32及び研磨制御部12によって、互いに独立して変化させることが可能であり、これにより、ウェハWの対応する4つの領域、すなわち、中央部、内側中間部、外側中間部、および周縁部に対する研磨圧力を独立に調整することができる。
【0023】
リテーナリング22とキャリヤ20との間には、環状の弾性膜21が配置されている。この弾性膜21の内部には環状の圧力室D5が形成されている。この圧力室D5は、流体ラインG5に接続されており、圧力調整された加圧流体(例えば加圧空気)が流体ラインG5を通じて圧力室D5内に供給されるようになっている。また、流体ラインG5には真空ラインU5が接続されており、真空ラインU5によって圧力室D5に負圧が形成されるようになっている。
【0024】
圧力室D5内の圧力変化に伴い、弾性膜21とともにリテーナリング22の全体が上下方向に動くため、圧力室D5内の圧力はリテーナリング22に加わり、リテーナリング22は弾性膜21とは独立して研磨パッド11を直接押圧することができるように構成されている。ウェハWの研磨中、リテーナリング22はウェハWの周囲で研磨パッド11を押し付けながら、弾性膜21がウェハWを研磨パッド11に対して押し付ける。
【0025】
キャリヤ20は、ヘッドシャフト16の下端に固定されており、ヘッドシャフト16は、上下動機構25に連結されている。この上下動機構25は、ヘッドシャフト16および研磨ヘッド15を上昇および下降させ、さらに研磨ヘッド15を所定の高さに位置させるように構成されている。この研磨ヘッド位置決め機構として機能する上下動機構25としては、サーボモータとボールねじ機構の組み合わせが使用される。
【0026】
上下動機構20は、研磨ヘッド15を所定の高さに位置させ、この状態で、圧力室D1~D5に加圧流体が供給される。弾性膜21は、圧力室D1~D4内の圧力を受けてウェハWを研磨パッド11に対して押し付け、リテーナリング22は、圧力室D5内の圧力を受けて研磨パッド11を押し付ける。この状態でウェハWが研磨される。
【0027】
研磨装置10は、ウェハWの膜厚を取得する光学測定器30を備えている。この光学測定器30は、ウェハWの膜厚に従って変化する光学信号を取得する光センサ31と、光学信号からウェハWからの反射光のスペクトルを算出する処理部32を備えている。
【0028】
光センサ31は研磨テーブル13の内部に配置されており、処理部32は研磨制御部12に接続されている。光センサ31は、図1の記号Aで示すように研磨テーブル13と一体に回転し、研磨ヘッド15に保持されたウェハWの光学信号を取得する。光センサ31は処理部32に接続されており、光センサ31によって取得された光学信号は処理部32に送られる。
【0029】
図3は、光学測定器30を備えた研磨装置を示す模式断面図である。研磨ヘッドシャフト16は、ベルト等の連結手段33を介して研磨ヘッドモータ34に連結されて回転可能に構成されている。この研磨ヘッドシャフト16の回転により、研磨ヘッド15が矢印で示す方向に回転する。
【0030】
光学測定器30は、光センサ31と処理部32とを備える。光センサ31は、ウェハWの表面に光を当て、ウェハWからの反射光を受光し、その反射光を波長に従って分解するように構成されている。光センサ31は、光をウェハWの被研磨面に照射する投光部41と、ウェハWから戻ってくる反射光を受光する受光部としての光ファイバー42と、ウェハWからの反射光を波長に従って分解し、所定の波長範囲に亘って反射光の強度を測定する分光器43とを備えている。
【0031】
研磨テーブル13には、その上面で開口する第1の孔50Aおよび第2の孔50Bが形成されている。また、研磨パッド11には、これら孔50A,50Bに対応する位置に通孔51が形成されている。孔50A,50Bと通孔51とは連通し、通孔51は研磨面11aで開口している。第1の孔50Aは液体供給路53およびロータリージョイント(図示せず)を介して液体供給源55に連結されており、第2の孔50Bは、液体排出路54に連結されている。
【0032】
投光部41は、多波長の光を発する光源45と、光源45に接続された光ファイバー46とを備えている。光ファイバー46は、光源45によって発せられた光をウェハWの表面まで導く光伝送部である。光ファイバー46,42の先端は、第1の孔50A内に位置しており、ウェハWの被研磨面の近傍に位置している。光ファイバー46,42の各先端は、研磨ヘッド15に保持されたウェハWを向いて配置される。研磨テーブル13が回転するたびにウェハWの複数の領域に光が照射される。好ましくは、光ファイバー46,42の各先端は、研磨ヘッド15に保持されたウェハWの中心を通るように配置される。
【0033】
ウェハWの研磨中は、液体供給源55からは、透明な液体として水(好ましくは純水)が液体供給路53を介して第1の孔50Aに供給され、ウェハWの下面と光ファイバー46,42の先端との間の空間を満たす。水は、さらに第2の孔50Bに流れ込み、液体排出路54を通じて排出される。研磨液は水と共に排出され、これにより光路が確保される。液体供給路53には、研磨テーブル13の回転に同期して作動するバルブ(図示せず)が設けられている。このバルブは、通孔51の上にウェハWが位置しないときは水の流れを止める、または水の流量を少なくするように動作する。
【0034】
2本の光ファイバー46,42は、互いに並列に配置されており、それぞれの先端は、ウェハWの表面に対して垂直に配置されており、光ファイバー46はウェハWの表面に垂直に光を照射するようになっている。
【0035】
ウェハWの研磨中は、投光部41から光がウェハWに照射され、光ファイバー(受光部)42によってウェハWからの反射光が受光される。分光器43は、各波長での反射光の強度を所定の波長範囲に亘って測定し、得られた光強度データを処理部32に送る。この光強度データは、ウェハWの膜厚を反映した光学信号であり、反射光の強度及び対応する波長から構成される。
【0036】
図4は、ウェハWと研磨テーブル13との位置関係を示す平面図である。投光部41および受光部42は、ウェハWの表面に対向して配置されている。投光部41は、研磨テーブル13が1回転するたびにウェハWの中心を含む複数の領域(図4における複数の黒丸の点)に光を照射する。
【0037】
ウェハWは、下層膜と、その上に形成された上層膜(例えばシリコン層または絶縁膜)とを有している。ウェハWに照射された光は、媒質(例えば水)と上層膜との界面、および上層膜と下層膜との界面で反射し、これらの界面で反射した光の波が互いに干渉する。この光の波の干渉の仕方は、上層膜の厚さ(すなわち光路長)に応じて変化する。このため、ウェハWからの反射光から生成されるスペクトルは、上層膜の厚さに従って変化する。
【0038】
分光器43は、反射光を波長に従って分解し、反射光の強度を波長ごとに測定する。また、処理部32は、分光器43から得られた反射光の強度データ(光学信号)からスペクトルを生成する。以下、研磨されるウェハWからの反射光から生成されたスペクトルを、測定スペクトル(反射率スペクトル)という。この測定スペクトルは、光の波長と強度との関係を示す線グラフ(すなわち分光波形)として表される。光の強度は、反射率または相対反射率などの相対値として表わすこともできる。
【0039】
図6は、処理部32によって生成された測定スペクトルを示す図であり、横軸は光の波長を表わし、縦軸はウェハWから反射した光の強度に基づき算出される相対反射率を表わす。ここで、相対反射率とは、光の反射強度を表わす1つの指標であり、具体的には、光の強度と所定の基準強度との比である。各波長において、光の強度(実測強度)を基準強度で割ることにより、装置の光学系や光源固有の強度のばらつきなどの不要なノイズが実測強度から除去され、これにより膜の厚さ情報のみを反映した測定スペクトルを得ることができる。
【0040】
基準強度は、例えば、膜が形成されていないシリコンウェハ(ベアウェハ)を水の存在下で水研磨しているときに得られた光の強度とすることができる。実際の研磨では、実測強度からダークレベル(光を遮断した条件下で得られた背景強度)を引き算して補正実測強度を求め、さらに基準強度から上記ダークレベルを引き算して補正基準強度を求め、そして、補正実測強度を補正基準強度で割り算することにより、相対反射率が求められる。具体的には、相対反射率R(λ)は、次式で求めることができる。
R(λ)=(E(λ)-D(λ))/(B(λ)-D(λ))
ここで、λは波長であり、E(λ)はウェハから反射した波長λでの光の強度であり、B(λ)は波長λでの基準強度であり、D(λ)は光を遮断した状態で取得された波長λでの背景強度(ダークレベル)である。
【0041】
図5は、研磨制御部12の構成を示すブロック図であり、研磨制御部12は、メモリ61,アルゴリズム設定部62、膜厚推定部63と終点検知部64を備えている。なお、本実施形態では、処理部32と研磨制御部12を分離しているが、処理部32を研磨制御部12に含めるように構成しても良い。
【0042】
メモリ61には、処理部32や研磨制御部12を駆動するためのプログラムのほかに、後述する膜厚推定アルゴリズムを実行するための処理プログラム、膜厚推定アルゴリズムを切り替えるための切替条件等の各種データが記憶されている。
【0043】
アルゴリズム設定部62は、メモリ61に記憶されている複数の膜厚推定アルゴリズムの中から、ウェハWの研磨処理に用いるべき複数の膜厚推定アルゴリズムとその適用条件を設定する。当該設定は、図示しない操作入力部を介してオペレータにより手動で入力することができる。あるいは、被研磨層ないしその下地層の材質や、研磨終了時の膜厚の目標値等に応じて自動的に設定するように構成しても良い。
【0044】
膜厚推定部63は、処理部32で生成された反射光のスペクトルに対して、アルゴリズム設定部62にて設定された膜厚推定アルゴリズムを適用して、研磨中のウェハWの膜厚を推定する。また、膜厚推定部63は、研磨中のウェハWの膜厚が所定値に達したとき、あるいは所定の切替条件を満たしたときに、適用すべき膜厚アルゴリズムを切り替える。終点検知部64は、当該推定された膜厚が所定の目標値に達したかどうかを判定し、達した場合には研磨終了を指示する制御信号を生成する。
【0045】
ここで、ウェハWの膜厚を推定するアルゴリズムとしては、例えば、参照スペクトル(Fitting Error)アルゴリズム、FFT(Fast Fourier Transform)アルゴリズム、ピークバレー(Peak Valley)アルゴリズム、及び研磨指数(Polishing Index)アルゴリズムを用いることができる。
【0046】
参照スペクトルアルゴリズムでは、異なる膜厚に対応する複数の参照スペクトルを含む複数のスペクトルグループを用意しておく。処理部32からのスペクトル信号(反射率スペクトル)と、最も形状が近い参照スペクトルを含むスペクトルグループを選択する。そして、ウェハ研磨中に、膜厚を測定するための測定スペクトルを生成し、選択されたスペクトルグループの中から、最も形状の近い参照スペクトルを選択し、当該参照スペクトルに対応する膜厚を、研磨中のウェハの膜厚として推定する。
【0047】
FFTアルゴリズムででは、処理部32からのスペクトル信号(反射率スペクトル)に対して、FFT(高速フーリエ変換)を行って周波数成分とその強さを抽出し、得られた周波数成分を所定の関係式(被研磨層の厚さを表す関数であり、実測結果等から求められる)を用いて被研磨層の厚さに変換する。これにより、被研磨層の厚さと周波数成分の強度との関係を示す周波数スペクトルを生成する。周波数成分から変換された被研磨層の厚さに対するスペクトルのピーク強度が閾値を超えた場合に、当該ピーク強度に対応する周波数成分(被研磨層の厚さ)を、研磨中のウェハの膜厚と推定する。
【0048】
ピークバレー(Peak Valley)アルゴリズムでは、処理部32からのスペクトル信号(反射率スペクトル)について、その極値(極大値または極小値)を示す極値点となる波長を抽出する。被研磨層の膜厚が減少するにつれて、極値点となる波長が短波長側にシフトしていくことから、ウェハの研磨に伴い極値点とモニタすることで、被研磨層の膜厚を推定することができる。そして、ウェハの径方向の複数の点において、極値点となる波長をモニタすることで、プロファイルを取得することができる。
【0049】
研磨指数(Polishing Index)アルゴリズムでは、処理部32からのスペクトル信号(反射率スペクトル)を受けて、所定時間当たりのスペクトルの変化量を算出し、当該スペクトルの変化量を研磨時間に沿って積算することで、スペクトル累積変化量を算出する。スペクトルの累積変化量は、ウェハの研磨に伴い単調増加し、一方で膜厚は単調減少するから、スペクトル累積変化量が所定の目標値に達した時点を研磨終了として判定することができる。
【0050】
図7は、研磨中のウェハWに適用する膜厚推定アルゴリズムを切り替えつつ、膜厚推定を行う実施例を示したフローチャートである。ウェハWの研磨の目標値(最終膜厚)、被研磨層及び下地層の材質といった情報が入力されるとともに、ウェハWの膜厚推定に用いられる複数のアルゴリズム(図7の例では3つ)が選択される(ステップS10)。
【0051】
図7の例では、膜厚推定アルゴリズムとして、FFT、Fitting Error及びPolishing Indexの3つのアルゴリズムが選択される。ウェハWの膜厚が厚い場合は、測定光の干渉波形のピーク(山と谷)の数が多いため、FFTにより膜厚推定を行うことが望ましい。そして、膜厚が薄くなるにつれて、ピークの数が減少することから、例えば膜厚が1μm以下の場合は、別のアルゴリズム(Fitting Error)によって膜厚を推定することが望ましい。さらに膜厚が薄くなり、例えば50nm以下になると干渉縞を捉えることが困難になってくるので、Polishing Indexアルゴリズムによる干渉波形の変化量に基づき膜厚を推定することが好ましい。
【0052】
このため、図7の例では、アルゴリズム設定部62において、FFT、Fitting Error及びPolishing Indexの膜厚推定アルゴリズムの処理プログラムが、メモリ61から読み出されて、FFT、Fitting Error及びPolishing Indexの順番で設定される(ステップS11)。そして、アルゴリズムの切替条件として、ウェハWの被研磨層の膜厚が1μm以下(切替条件1)、50nm以下(切替条件2)と設定される(ステップS12)。その後、基板研磨が開始される(ステップS13)。
【0053】
基板研磨が開始されると、膜厚推定部63では、FFTアルゴリズムに従い、研磨中のウェハWの膜厚を推定する(ステップS14)。そして、膜厚が1μm以下になったかどうか(切替条件1を満たしたかどうか)を判定し(ステップS15)、満たしていない場合(推定された膜厚が1μmを超える場合)には、ステップS14に戻り、ウェハWの研磨を行いながらFFTアルゴリズムによる膜厚推定が繰り返される。
【0054】
一方、切替条件1を満たした場合には、膜厚推定部63では、Fitting Errorアルゴリズムに従い、研磨中のウェハWの膜厚を推定する(ステップS16)。そして、膜厚が50nm以下になったかどうか(切替条件2を満たしたかどうか)を判定し(ステップS17)、満たしていない場合(推定された膜厚が50nmを超える場合)には、ステップS16に戻り、ウェハWの研磨を行いながらFitting Errorアルゴリズムによる膜厚推定が繰り返される。
【0055】
切替条件2を満たした場合には、膜厚推定部63では、Polishing Indexアルゴリズムに従い、研磨中のウェハWの膜厚を推定する(ステップS18)。そして、膜厚が目標値に達したかどうかを判定し(ステップS19)、目標値に達した場合には、終点検知部64において、基板研磨を終了させる制御信号を出力する(ステップS20)。一方、膜厚が目標値に達していない場合には、ステップS18に戻り、ウェハWの研磨を行いながらPolishing Indexアルゴリズムによる膜厚推定が繰り返される。
【0056】
このように、基板の膜厚に応じて膜厚推定アルゴリズムを切り換えて使用するようにしたから、基板研磨の進捗状況に適した膜厚推定アルゴリズムを適用することにより、膜厚をより正確に推定することができ、基板研磨の終点を適切に検知することができる。
【0057】
本発明による膜厚推定アルゴリズムの切替方法は、上記の実施例に限定されることはなく、適宜の方法を組み合わせることができる。図8は、Peak ValleyアルゴリズムとFitting Errorアルゴリズムとを組み合わせた場合の例であり、Fitting Errorアルゴリズムに関しては、膜厚がH1~H2の範囲内に対応する基準スペクトル(膜厚がH1~H2の参照ウェハにより計測された膜厚と基準スペクトルのデータ)のみが、メモリ61に記憶されていることを前提とする。すなわち、Fitting Errorアルゴリズムで推定可能な膜厚範囲は、H1~H2とされている。
【0058】
この場合、膜厚がH2を超えるウェハWを研磨する場合には、Fitting Errorアルゴリズムによって基板の膜厚を推定することは難しい。このため、図8で示すように、Fitting Errorが適用できる区間(膜厚H1~H2)で研磨レートが一定であると推定して、膜厚がH1を超える区間を外挿し、外挿されたエリア(外挿エリア)ではPeak Valleyアルゴリズムにて膜厚を推定する。
【0059】
図8の例において、時間T0にて、膜厚がH2を超える基板の研磨が開始されると、膜厚推定部63では、Peak Valleyアルゴリズムにて膜厚を推定する。そして、時刻T1にてウェハWの膜厚がH1となった時点で、膜厚推定部63は、推定アルゴリズムをFitting Errorアルゴリズムに切り替え、ウェハWの膜厚推定を行う。ある膜厚推定アルゴリズムで対応できない膜厚において、別のアルゴリズムにて膜厚推定を行うことで、対応可能な膜厚範囲を広げることができる。
【0060】
上記実施形態では、膜厚推定にあたり単一の膜厚推定アルゴリズムを適用しているが、複数のアルゴリズムを切り替える際に推定膜厚が不連続になってしまうおそれがある。このため、切り替え前の一定区間において複数のアルゴリズムを同時に適用することが好ましい。
【0061】
図9は、2つのアルゴリズムにより推定された膜厚値が最小値をとる場合(あるいは所定値以下になった場合)に、適用するアルゴリズムを切り替える例を示したものである。アルゴリズム1にて膜厚推定を行いつつ基板研磨が行われ、時間T4にて推定された膜厚がH3となった場合に、膜厚推定部63は、アルゴリズム1による膜厚推定を継続しつつ、別のアルゴリズム2を用いて膜厚推定を行う。
【0062】
その後、時間T5にて、これら2つのアルゴリズム1,2により推定された膜厚がH4で一致した場合(あるいは所定値以下となった場合)に、膜厚推定部63は、適用すべきアルゴリズムをアルゴリズム2に切り替える。これにより、アルゴリズムの切り替え時において、推定膜厚が不連続になってしまうのを防止することができる。
【0063】
図10は、複数のアルゴリズムを同時に適用する別の例を示したものである。この例では、アルゴリズム1にて膜厚推定を行いつつ基板研磨が行われ、時間T6にて推定された膜厚がH5となった場合に、膜厚推定部63は、アルゴリズム1とアルゴリズム2により膜厚推定を行い、下式により膜厚F(w)を推定する。
F(w)=(1-w)×x1+w×x2
ここで、x1はアルゴリズム1による膜厚推定値、x2はアルゴリズム2による膜厚推定値、wは、時間Tを入力値として例えば次式で表される重み係数である。
w(T)=(T-T6)/(T7-T6)
【0064】
このように、重み係数wを用いて複数のアルゴリズムを同時に用いて膜厚推定を行うことで、アルゴリズムの切り替え時において、推定膜厚が不連続になってしまうことを防止することができる。
【0065】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0066】
10 基板研磨装置
11 研磨パッド
12 研磨制御部
15 研磨ヘッド
30 光学測定器
32 処理部
43 分光器
61 メモリ
62 アルゴリズム設定部
63 膜厚推定部
64 終点検知部
W ウェハ
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
図9
図10