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  • 特許-熱間鍛造材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】熱間鍛造材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21J 1/02 20060101AFI20220214BHJP
   B21J 3/00 20060101ALI20220214BHJP
   B21J 5/02 20060101ALI20220214BHJP
【FI】
B21J1/02 Z
B21J3/00
B21J5/02 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017230009
(22)【出願日】2017-11-30
(65)【公開番号】P2018089695
(43)【公開日】2018-06-14
【審査請求日】2020-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2016232694
(32)【優先日】2016-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510312950
【氏名又は名称】日立金属MMCスーパーアロイ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】広澤 拓
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 尚幸
(72)【発明者】
【氏名】小林 昂平
(72)【発明者】
【氏名】藤田 悦夫
【審査官】山本 裕太
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-530047(JP,A)
【文献】特開2014-210288(JP,A)
【文献】特表2016-512172(JP,A)
【文献】特開平02-224841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 1/02
B21J 3/00
B21J 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被鍛造素材表面に、セラミック層とガラス潤滑層とを順次積層するように被覆して被覆層を形成した鍛造用素材とする被覆工程と、
前記鍛造用素材を熱間鍛造温度に加熱する加熱工程と、
前記加熱した鍛造用素材を熱間鍛造して熱間鍛造材とする熱間鍛造工程と、を含み、
前記セラミック層の厚さが200μm未満であり、且つガラス潤滑層厚さがセラミック層厚さ以上の厚さであり、
前記セラミック層は、セラミック粒子を層状に堆積するように被覆することを特徴とする熱間鍛造材の製造方法。
【請求項2】
前記セラミック層の厚さが50μm以上、ガラス潤滑層の厚さが100~500μmであることを特徴とする請求項1に記載の熱間鍛造材の製造方法。
【請求項3】
前記被覆工程は、前記被鍛造素材の表面温度が常温~200℃の温度範囲で行われることを特徴とする請求項1または2に記載の熱間鍛造材の製造方法。
【請求項4】
前記被鍛造素材の形状が円柱形状またはリング形状であり、前記被覆工程において、前記被覆層は少なくとも前記被鍛造素材の側面の一部に形成されることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の熱間鍛造材の製造方法。
【請求項5】
前記熱間鍛造が、型彫り面を有する上型と型彫り面を有する下型による型鍛造であることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の熱間鍛造材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間鍛造材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、航空機や発電用に用いられる大型の鍛造製品には、高い強度、優れた耐熱性が求められることから、その素材には、例えば、718合金等のNi基超耐熱合金やTi合金が用いられている。前記のNi基超耐熱合金やTi合金は、難加工性材料として知られ、高温下での熱間鍛造によって所望の形状に成形されている。実際に熱間鍛造を行う場合、被鍛造素材は加熱炉で所定の温度に加熱され、加熱炉からマニピュレータ等を用いて熱間鍛造装置に搬送されて熱間鍛造装置に具備された上型と下型との押圧によって所定の形状に成形されることになる。前記のように被鍛造素材は、難加工性材料であるため、前記の搬送時に被鍛造素材の温度低下が激しくなると、熱間鍛造中に割れを生じたり、鍛造荷重が大きくなったりする問題がある。
上述した問題に対しては、以前より多くの提案がなされている。例えば、特開2002-321031号公報(特許文献1)には、保温容器中に被加工材を挿入し、保温容器ごと加熱して鍛造機等の加工機の近くまで運搬し、そこで筒状の保熱容器から加熱された被加工材Wを取り出す発明がある。また、例えば、特開2001-79633号公報(特許文献2)には、被加工材を耐熱セラミック繊維質材料で被覆し、該被覆した層の外周を金属材料で包囲して加熱炉で加熱し、昇温後該加熱炉から取り出してそのまま四面鍛造加工を施す発明がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-321031号公報
【文献】特開2001-079633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
大型の鍛造材を熱間鍛造する場合、その被鍛造素材も大型となる。例えば、特許文献1に記載された保温容器を用いて、鍛造装置付近で被鍛造素材の取り出しを行う方法では、被鍛造素材の取り出しに時間がかかり被鍛造素材の温度低下が懸念される。また、保温容器自体が大型となって、その重量も大きくなる。そうすると、保温容器ごと搬送するマニピュレータも大型となって、設備コストが高くなる場合がある。また、被鍛造素材に耐熱セラミック繊維質材料で被覆する方法では、前記の耐熱セラミック繊維質材料自体が断熱材であるため、所定の温度まで昇温する場合には耐熱セラミック繊維質材料の断熱により、被鍛造素材自体の昇温が遅くなってしまい、所定の温度とするのに時間がかかり過ぎる。しかも、重量が重く、大型の被鍛造素材であれば加熱に必要な時間とコストが大きくなる。また、セラミック繊維質材料の被覆では、熱間鍛造中に剥離してしまって、鍛造途中での保温の効果が損なわれてしまい、ニアネットシェイプの鍛造では欠肉するおそれがある。更には、熱間鍛造後に剥離したセラミック繊維質材料を清掃しなければならず、セラミック繊維質材料が飛散し、作業環境が悪化するおそれもある。
本発明の目的は、加熱炉から取り出した鍛造用素材を比較的短時間で鍛造装置に載置可能で、且つ、鍛造用素材の温度低下を抑制することが可能な熱間鍛造材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上述した課題に鑑みてなされたものである。
すなわち本発明は、被鍛造素材表面に、セラミック層とガラス潤滑層とを順次積層するように被覆して被覆層を形成した鍛造用素材とする被覆工程と、
前記鍛造用素材を熱間鍛造温度に加熱する加熱工程と、
前記加熱した鍛造用素材を熱間鍛造して熱間鍛造材とする熱間鍛造工程と、を含み、
前記セラミック層の厚さが200μm未満であり、且つガラス潤滑層厚さがセラミック層厚さ以上の厚さである熱間鍛造材の製造方法である。
好ましくは、前記セラミック層の厚さが50μm以上、ガラス潤滑層の厚さが100~500μmである。
前記被覆工程は、前記被鍛造素材の表面温度が常温~200℃の温度範囲で行われることが好ましい。
また、本発明においては、前記被鍛造素材の形状が円柱形状またはリング形状であり、前記被覆工程において、前記被覆層は少なくとも前記被鍛造素材の側面の一部に形成されることが好ましい。
本発明の熱間鍛造材の製造方法は、前記熱間鍛造が、型彫り面を有する上型と型彫り面を有する下型による型鍛造に好適である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、加熱炉から取り出した鍛造用素材を比較的短時間で鍛造装置に載置可能で、且つ、鍛造用素材の温度低下を抑制することができる。また、高い断熱性を有する耐熱セラミック繊維質材料を用いる必要もない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】鍛造用素材の断面模式図である。
図2】リング状の鍛造用素材に被覆層を形成したときの一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
上述したように、本発明の最大の特徴は、被鍛造素材表面に、セラミック層とガラス潤滑層とを順次積層することにある。なお、本発明で言う「被鍛造素材」とは熱間鍛造される形状に成形された“荒地”である。この被鍛造素材にセラミック層とガラス潤滑層とを順次積層して被覆層を形成したものを「鍛造用素材」と呼び、その鍛造用素材が熱間鍛造されたものを「熱間鍛造材」と呼ぶ。前記「被覆層」とは、セラミック層とガラス潤滑層とが積層した状態のものを言う。なお、本発明で言う「セラミック層」には、前述のセラミック繊維質材料は含まず、例えば、塗布や噴霧することが可能なセラミック粒子を特定の厚さに層状に堆積するように被覆したものを言う。
以下に、本発明を詳しく説明する。説明の順序は、熱間鍛造する工程順に説明する。
<被覆工程>
先ず、熱間鍛造される形状に成形した被鍛造素材(荒地)を用意する。例えば、図1(円柱状の鍛造用素材断面模式図)や図2(リング状の鍛造用素材断面模式図)に示すように、用意した被鍛造素材1の表面に、セラミック層2とガラス潤滑層3とを順次積層するように被覆して被覆層4を形成して鍛造用素材5とする。この被覆工程において、被鍛造素材表面上にセラミック層を被覆形成し、前記セラミック層上にガラス潤滑層を形成するのは、次の理由によるものである。
セラミック層は、保温機能を高める“断熱層(保温層)”として機能する。これを被鍛造素材表面に被覆することで、熱間鍛造温度に加熱した後に下型に載置するまでの間の鍛造用素材の温度低下を抑制するようにする。そして、セラミック層上に形成するガラス潤滑層は、保温機能を高める他、熱間鍛造温度で軟化しやすいため潤滑機能を高めて熱間鍛造中の潤滑性を確保するものである。なお、単体では潤滑性を低下させるセラミック層上にガラス潤滑層を被覆することで潤滑性低下の度合いを緩和する。また、単体では剥離しやすいセラミック層上にガラス潤滑層を塗布することで剥離しにくくする効果もある。
【0009】
前記セラミック層の厚さは200μm未満とする。これは、200μm以上の厚さとすると断熱効果が大きくなり、所定の温度に昇温するまでの時間がかかり過ぎたり、セラミック層が剥離する。なお、好ましいセラミック層の厚さの下限は50μmである。これは、セラミック層の厚さが過度に薄いと保温層としての機能が低くなるからである。より好ましいセラミック層の厚さの下限は70μmである。一方、好ましいセラミック層の厚さの上限は160μmである。
また、ガラス潤滑層の厚さはセラミック層の厚さ以上とする。前述のように、ガラス潤滑層は、保温機能を高める他、熱間鍛造温度で軟化しやすいため潤滑機能を高めて熱間鍛造中の潤滑性を確保するものである。前記のセラミック層は潤滑性は殆ど期待できないため、セラミック層上には前記セラミック層の厚さ以上の厚さでガラス潤滑層の形成が必要である。ガラス潤滑層の厚さが過度に薄いと、熱間鍛造中に潤滑切れを生じるおそれがあるため、好ましいガラス潤滑層の厚さの下限は100μmである。より好ましくは150μmであり、更に好ましくは175μmである。なお、前記ガラス潤滑層の下限の厚さについては、前記のセラミック層の厚さ以上であることが前提であることは言うまでもない。また、ガラス潤滑層の厚さの上限は500μmとすると良い。これは、500μmを超えてガラス潤滑層を形成してもガラス潤滑層のより一層の効果向上は望めないからである。好ましいガラス潤滑層上限は300μmである。
なお、前述のセラミック層とガラス潤滑層の厚さは、電磁式または渦電流式の接触型膜厚計を使用して各層の塗布が完了した後にそれぞれ測定することができる。厚さは複数箇所で測定し、その平均を算出すればよい。厚さの測定は、被覆層を形成した場所の全域を測定するのは時間がかかり過ぎるので、例えば、円柱形状またはリング形状の被鍛造素材の場合であれば、被覆層を円周方向に40~60°ピッチで各角度の位置で3~4箇所ずつ、計18~36箇所程度測定し、その平均で求めれば良い。
【0010】
また、本発明でセラミック層とガラス潤滑層との積層構造を有する被覆層の形成は、被鍛造素材の表面温度が常温~200℃の温度範囲で行うことが好ましい。また、被覆層の形成は、塗布や噴霧等、公知の方法であればよい。なお、常温とはJISで規定される20℃±15℃を言うが、被覆層の形成はやや高めの温度が好ましく、具体的には80~150℃に被鍛造素材を予熱してから行うことが好ましい。これは予熱することにより、被覆した瞬間にセラミック層やガラス潤滑層の水分を飛ばし、均一な膜厚とすることが目的である。
なお、例えば、300kg以上の重量を有する大型鍛造製品の場合には200℃を超える温度では、所定の場所に被覆層を形成することが安全上問題となる場合があり、好ましくは、90~110℃の範囲に被鍛造素材を予熱するのが好ましい。
【0011】
ところで、前述の鍛造用素材の形状は、例えば、タービンブレードとなる長尺棒状であっても良いし、形状が円柱形状またはリング形状であっても良い。なかでも、より大型鍛造製品となることが多い、円柱形状またはリング形状を有する鍛造用素材への適用が効果的である。これは、例えば、リング形状の鍛造用素材の場合、熱間鍛造後に更にリングミルによる熱間圧延を行うことがある。その場合、熱間鍛造材の結晶粒度を所定の粒径に調整しておくことが重要となる場合があり、温度低下を防止可能な本発明の熱間鍛造材の製造方法を適用すると、所望の結晶粒径に調整しやすいためである。そのため、被覆層を形成する場合は、特に温度低下が著しい、外周側の側面(軸に垂直な方向(外周側)から見える面)を含む領域に対して選択的(一部分)に被覆層を形成して鍛造用素材としても良い(図2)。勿論、図1のように被鍛造素材の全面に形成して鍛造用素材としても差し支えない。温度低下が懸念される特定の場所等に必要最小限の場所に被覆層形成することで効率的に割れを抑制することができる。なお、前記の図2で示す、部分的な被覆層の形成であっても、ガラス潤滑層は熱間鍛造時の潤滑性を確保するために必要であるため、特に大型の熱間鍛造材とする場合には、セラミック層を形成していない部分も含めて必須の層として形成すると良い。
なお、前記「円柱形状」とは、熱間鍛造装置に備えられた上型と下型に接触する面の形状が円形のものを言い、例えば、樽形のものも円柱状の範疇である。また、前記「リング形状」とは、熱間鍛造装置に備えられた上型と下型に接触する面の形状がリング形状のものを言う。
【0012】
<加熱工程>
本発明では、鍛造用素材を加熱炉内にて熱間鍛造温度に加熱する。加熱の温度は被鍛造素材の材質に応じて適宜選択するとよく、例えば、Ni基超耐熱合金で代表的な718合金の場合、1000~1040℃である。
<熱間鍛造工程>
熱間鍛造を行う場合、加熱炉から鍛造用素材をマニピュレータ等を用いて取り出して、熱間鍛造装置に具備された下型上に載置する。このとき、熱間鍛造装置に備えられた上型と下型はその作業面に型彫り面を有するものとし、この上型と下型による型鍛造によって所定の形状の熱間鍛造材とすることができる。
この鍛造用素材を搬送する際には、本発明の被覆層の形成によって、鍛造用素材の温度低下を抑制することができる。そして、鍛造用素材の最表面側(上型と下型に接触する面)に、ガラス潤滑層を形成しておくことにより、熱間鍛造時の鍛造荷重の上昇を抑制しつつ、カラス潤滑剤の効果が十分に発揮されて、潤滑切れなどの問題も抑制することができる。
【実施例
【0013】
(実施例1)
被鍛造素材として、図1に示すような円柱状の718合金製の被鍛造用素材1を用意した。この被鍛造素材を100℃に予熱した後、被鍛造素材1の表面に溶媒で希釈した粉末状のセラミックをスプレーにて塗布してセラミック層2を形成し、そのセラミック層上に溶媒で希釈した粉末状のガラスをスプレーにて塗布し、ガラス潤滑層3を順次形成して、セラミック層とガラス潤滑層との積層構造の被覆層4とした。これを鍛造用素材5とした。被覆層のうち、特にセラミック層の保温効果を確かめる目的で被覆層の形成は全面とし、ガラス潤滑層の厚さは200μmで固定した。なお、従来例としてガラス潤滑層のみの鍛造用素材も準備した。表1に厚さと被覆層の構成を示す。なお、表1に示す本発明例と従来例の熱間鍛造温度までの昇温時間は1.5時間程度であり、保温層として機能するセラミック層を形成したにもかかわらず、ほぼ同じ時間で昇温することができた。なお、セラミック層とガラス潤滑層の厚さはそれぞれの層の塗布した後に接触型膜厚計で測定した全測定点の平均値として求めた。測定した場所は円周方向に45°ピッチ、各角度位置で3箇所ずつの計24箇所を測定し、その平均とした。
【0014】
【表1】
【0015】
前記の鍛造用素材を加熱炉に挿入し、熱間鍛造温度の1000℃に加熱した後、マニピュレータを用いて熱間鍛造装置の下型上に載置した後、その下型と上型とによりトータルの鍛造比が2.9程度の2ブローの熱間鍛造を行って熱間鍛造材とした。なお、加熱炉から取り出して、熱間鍛造装置に備えられた下型へ載置するまでに要した時間は約20秒となるように固定し、1ブロー終了から2ブロー目開始までの時間は40秒で固定した。なお、今回の実施例においては、被覆層の剥離の有無を確認するため、下型と上型の作業面は平坦な形状として被覆層の剥離の有無を確認した。各工程の温度変化を表2に示し、被覆層の剥離の有無を表3に示す。なお、表2に示す各温度は放射温度計を用いて鍛造用素材及び熱間鍛造材の側面から同一場所を測定した。各温度は鍛造用素材及び熱間鍛造材の表面温度である。
【0016】
【表2】
【0017】
【表3】
【0018】
上記の結果から、従来例においては加熱炉から取り出した直後に950℃に温度が低下したが、セラミック層とガラス潤滑層の積層構造としたものでは960℃に温度低下が抑制された。この加熱炉から取り出したときの温度低下分がそのまま2ブロー目が終了した時点においてもそのまま維持された。また、本発明は比較例と比べて鍛造終了温度が20℃高い状態で温度低下が抑制された。このとき、セラミック層を200μmとした比較例は被覆層の剥離が認められた。セラミック層の厚さが200μm以上となると、型鍛造を行った場合に被覆層が剥離する危険性があることが分かった。
以上の結果から、本発明で規定する被覆層の構造を有するものにおいては、温度低下が抑制でき、且つ被覆層の剥離も認められないことから、大型製品の熱間鍛造に好適であることか分かる。
【0019】
(実施例2)
実施例1の結果を基に、重量が300kg以上の大型製品の熱間鍛造を実施した。被鍛造素材の材質は前記実施例1と同じく718合金とし、その寸法は外径1410mm×内径900mm×高さ150mmのリング状の形状を有し、重量は約400kgであった。
この被鍛造素材を100℃に予熱した後、被鍛造素材の表面にセラミック層を塗布によって形成し、そのセラミック層上にガラス潤滑層を塗布することで順次形成して、セラミック層とガラス潤滑層との積層構造の被覆層とした。セラミック層の厚さは100μm、ガラス潤滑層の厚さは250μmであり、セラミック層の保温効果を確実に得るために被覆層の形成は全面とした。これを鍛造用素材とした。なお、セラミック層とガラス潤滑層の厚さはそれぞれの層の塗布した後に接触型膜厚計で測定した全測定点の平均値として求めた。測定した場所は円周方向に45°ピッチ、各角度位置で3箇所ずつの計24箇所を測定し、その平均とした。従来例として、重量、寸法及び材質を同じとし、ガラス潤滑層のみの鍛造用素材も準備した。
【0020】
前記の鍛造用素材を加熱炉に挿入し、熱間鍛造温度の1000℃に加熱した後、マニピュレータを用いて熱間鍛造装置に備えられた製品形状の型彫り面を有する下型上に載置した後、製品形状の型彫り面を有する上型を用いて、鍛造比1.5の1ブローの熱間鍛造(型打ち鍛造)を行って熱間鍛造材とした。なお、加熱炉から取り出して、熱間鍛造装置に備えられた下型へ載置するまでに要した時間は約60秒であった。また、下型への載置から鍛造開始までの時間は20秒であった。また、熱間鍛造開始時の鍛造用素材の温度は本発明例の場合は920℃であったのに対して、比較例の鍛造用素材は910℃であった。熱間鍛造後の熱間鍛造材の表面温度を放射温度計により測定したところ、セラミック層を形成していない従来例に対して、本発明の被覆層を設けた熱間鍛造材は鍛造終了温度が15℃向上する結果となった。
これにより、重量が300kg以上の大型鍛造材へ適用しても十分な温度低下を抑制する効果が得られることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0021】
1 被鍛造素材(荒地)
2 セラミック層
3 ガラス潤滑層
4 被覆層
5 鍛造用素材

図1
図2