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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/00 20060101AFI20220214BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20220214BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20220214BHJP
   C01B 32/15 20170101ALI20220214BHJP
   C01B 32/168 20170101ALI20220214BHJP
   C01B 32/174 20170101ALI20220214BHJP
   C25D 3/38 20060101ALI20220214BHJP
【FI】
C25D7/00 R
B82Y30/00
B82Y40/00
C01B32/15
C01B32/168
C01B32/174
C25D3/38 101
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017537702
(86)(22)【出願日】2016-08-03
(86)【国際出願番号】 JP2016073508
(87)【国際公開番号】W WO2017038413
(87)【国際公開日】2017-03-09
【審査請求日】2019-04-04
【審判番号】
【審判請求日】2021-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2015169352
(32)【優先日】2015-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】新井 進
(72)【発明者】
【氏名】上島 貢
(72)【発明者】
【氏名】堅田 有信
【合議体】
【審判長】平塚 政宏
【審判官】土屋 知久
【審判官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/091139(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/012275(WO,A1)
【文献】特開2011-119539(JP,A)
【文献】特開2011-98885(JP,A)
【文献】特開2006-283169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状炭素ナノ構造体を含む炭素膜(但し、配向したカーボンナノチューブ集合体を除く。)に、めっき液を用いて、前記炭素膜の内部に前記めっき液由来の金属を析出させるめっき処理を行う工程を含み、
前記炭素膜の密度が0.01g/cm以上1.8g/cm以下である、複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記めっき処理を行う工程に先んじて、前記繊維状炭素ナノ構造体と溶媒を含む分散液から溶媒を除去することにより前記炭素膜を調製する工程を含む、請求項1に記載の複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記めっき液がノニオン系界面活性剤を含む、請求項1又は2に記載の複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記ノニオン系界面活性剤がポリエーテル系界面活性剤である、請求項3に記載の複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記繊維状炭素ナノ構造体がカーボンナノチューブを含む、請求項1~4の何れかに記載の複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体の比表面積が600m/g以上である、請求項5に記載の複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料の製造方法および複合材料に関し、特には、金属と繊維状炭素ナノ構造体とを含む複合材料の製造方法、およびその製造方法により得られる複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属、なかでも銅は、導電性が高く、圧延性にも優れるため、配線材料、電線等の導電材料として広く活用されている。
一方、カーボンナノチューブ(以下「CNT」と称することがある。)などの繊維状炭素ナノ構造体は、導電性、熱伝導性、摺動特性、機械特性等に優れるため、幅広い用途への応用が検討されている。
そこで、近年、繊維状炭素ナノ構造体の優れた特性を活かし、銅をはじめとした金属と繊維状炭素ナノ構造体とを複合化することで、導電性および熱伝導性をより一層向上させた複合材料を提供する技術の開発が進められている。
【0003】
しかしながら、金属と繊維状炭素ナノ構造体とでは、材料間の比重差が大きいため、上記複合材料の調製には、複合化が非常に難しいという点に問題があった。
そこで、上記問題を解決するための方法として、例えば、CNTをめっき液中に混入させ、そのめっき液によりめっき皮膜を形成することで、金属とCNTとを良好に複合化させる技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-156074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、繊維状炭素ナノ構造体を含むめっき液を用いて形成した複合材料の性能(例えば、導電性および熱伝導性)を十分に向上させるためには、めっき液中で、繊維状炭素ナノ構造体を良好に分散させて、得られる複合材料中における繊維状炭素ナノ構造体の凝集物の生成を抑制する必要がある。
【0006】
しかしながら、上記従来の技術では、CNT等の繊維状炭素ナノ構造体の凝集物の生成を十分に抑制することはできない場合があった。そのため、金属と繊維状炭素ナノ構造体を良好に複合化させて、その表層部から内部にかけて金属と繊維状炭素ナノ構造体とが各々万遍なく存在する複合材料を製造することが困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、金属と繊維状炭素ナノ構造体を良好に複合化させ、優れた物性を有する複合材料を製造する方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、当該製造方法を用いて製造された複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するべく、鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、意外にも、繊維状炭素ナノ構造体を膜状に集合させてなる炭素膜をめっき液中に浸漬させてめっき処理を行うことにより、金属と繊維状炭素ナノ構造体が良好に複合化した複合材料が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の複合材料の製造方法は、繊維状炭素ナノ構造体を含む炭素膜に、めっき液を用いてめっき処理を行う工程を含むことを特徴とする。このように、繊維状炭素ナノ構造体を含む炭素膜にめっき処理を行えば、炭素膜内部に金属を析出させて、金属と繊維状炭素ナノ構造体が良好に複合化した複合材料を製造することができる。そしてこのような複合材料は、導電性および熱伝導性などの物性に優れる。
【0010】
ここで、本発明の複合材料の製造方法は、前記めっき処理を行う工程に先んじて、前記繊維状炭素ナノ構造体と溶媒を含む分散液から溶媒を除去することにより前記炭素膜を調製する工程を含むことが好ましい。溶媒中に繊維状炭素ナノ構造体が分散した分散液から溶媒を除去することで得られる炭素膜は、密度が疎となり易い。そのため、めっき処理においてめっき液が炭素膜中に浸透し易く、炭素膜内部における金属の析出が容易となる。よって、金属と繊維状炭素ナノ構造体を一層良好に複合化することができ、複合材料の物性を更に高めることができる。
【0011】
また、本発明の複合材料の製造方法において、前記炭素膜の密度が0.01g/cm以上1.8g/cm以下であることが好ましい。密度が上述の範囲内である炭素膜を用いれば、得られる複合材料の強度を確保しつつ、金属と繊維状炭素ナノ構造体を一層良好に複合化することができる。
【0012】
そして、本発明の複合材料の製造方法において、前記めっき液がノニオン系界面活性剤を含むことが好ましい。ノニオン系界面活性剤を含むめっき液は炭素膜中に浸透しやすく、炭素膜内部における金属の析出が容易となる。そのため、金属と繊維状炭素ナノ構造体を一層良好に複合化することができ、複合材料の物性を更に高めることができる。
なお、前記ノニオン系界面活性剤がポリエーテル系界面活性剤であることが好ましい。ポリエーテル系界面活性剤を含むめっき液を用いれば、金属と繊維状炭素ナノ構造体をより一層良好に複合化することができる。
【0013】
また、本発明の複合材料の製造方法において、前記繊維状炭素ナノ構造体がカーボンナノチューブを含むことが好ましい。カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体を用いれば、複合材料の物性を一層高めることができる。
なお、前記カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体の比表面積が600m/g以上であることが好ましい。比表面積が600m/g以上である繊維状炭素ナノ構造体を用いれば、複合材料の物性をより一層高めることができる。
【0014】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の複合材料は、上述した複合材料の製造方法の何れかを用いて製造したことを特徴とする。上述した何れかの複合材料の製造方法を使用すれば、優れた物性を有する複合材料が得られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の複合材料の製造方法によれば、金属と繊維状炭素ナノ構造体を良好に複合化させ、優れた物性を有する複合材料を製造することができる。
また、本発明によれば、優れた物性を有する複合材料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】電界放出型走査電子顕微鏡で撮影した、実施例1の複合材料の断面写真である。
図2】電界放出型走査電子顕微鏡で撮影した、実施例2の複合材料の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の複合材料の製造方法は、金属と繊維状炭素ナノ構造体が複合化された複合材料を製造する際に用いることができる。そして、本発明の複合材料の製造方法を用いて製造した本発明の複合材料は、導電性や熱伝導性などの物性に優れている。
【0018】
(複合材料の製造方法)
ここで、本発明の複合材料の製造方法は、繊維状炭素ナノ構造体を含む炭素膜に、めっき液を用いてめっき処理を行う工程(めっき処理工程)を含む。
そして、本発明の複合材料の製造方法では、炭素膜内部にめっき液由来の金属を析出させることで、金属と繊維状炭素ナノ構造体が良好に複合化し、優れた導電性や熱伝導性などの物性を発揮する複合材料を得ることができる。
【0019】
<炭素膜>
炭素膜は、複数本の繊維状炭素ナノ構造体を膜状に集合させてなる繊維状炭素ナノ構造体の集合体よりなる。ここで、複数本の繊維状炭素ナノ構造体を膜状に集合させて炭素膜を得る工程(炭素膜調製工程)は、特に限定されないが、例えば以下の工程:
(1)複数本の繊維状炭素ナノ構造体と溶媒とを含む分散液から溶媒を除去することにより製膜する工程
(2)基材上に略垂直方向に成長させて得られた繊維状炭素ナノ構造体の集合体を基材に倒伏させ、その後必要に応じて圧縮することにより製膜する工程
が挙げられる。中でも、(1)の工程が好ましい。(1)の工程を経て得られた炭素膜は、密度が疎となり易く、めっき処理においてめっき液が浸透し易い。そのため炭素膜内部の金属析出が容易となり、金属と繊維状炭素ナノ構造体が一層良好に複合化され、複合材料の物性を更に向上させることができる。
以下、(1)の工程を例に挙げて炭素膜調製工程について詳述する。
【0020】
[分散液]
炭素膜の調製に用いる分散液としては、特に限定されることなく、既知の分散処理方法を用いて繊維状炭素ナノ構造体の集合体を溶媒に分散させてなる分散液を用いることができる。具体的には、分散液としては、繊維状炭素ナノ構造体と、溶媒とを含み、任意に分散剤などの分散液用添加剤を更に含有する分散液を用いることができる。
【0021】
[[繊維状炭素ナノ構造体]]
繊維状炭素ナノ構造体としては、特に限定されることなく、例えば、アスペクト比が10を超える繊維状炭素ナノ構造体を使用することができる。具体的には、繊維状炭素ナノ構造体としては、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維、有機繊維を炭化して得られる炭素繊維、及びそれらの切断物などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明において、「アスペクト比」は、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択した繊維状炭素ナノ構造体100本の直径(外径)および長さを測定して求めることができる。
中でも、繊維状炭素ナノ構造体としては、カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体を用いることがより好ましい。カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体を使用すれば、複合材料の物性を更に向上させることができるからである。
【0022】
―カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体―
ここで、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、CNTのみからなるものであってもよいし、CNTと、CNT以外の繊維状炭素ナノ構造体との混合物であってもよい。
なお、繊維状炭素ナノ構造体中のCNTとしては、特に限定されることなく、単層カーボンナノチューブおよび/または多層カーボンナノチューブを用いることができるが、CNTは、単層から5層までのカーボンナノチューブであることが好ましく、単層カーボンナノチューブであることがより好ましい。単層カーボンナノチューブを使用すれば、多層カーボンナノチューブを使用した場合と比較し、複合材料の物性を更に向上させることができるからである。
【0023】
また、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることがより好ましく、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)が0.5nm以上であれば、炭素膜中において複数の繊維状炭素ナノ構造体間に金属が析出するための空間が十分に確保され、金属と繊維状炭素ナノ構造体がより良好に複合化した複合材料を得ることができる。また、繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)が15nm以下であれば、複合材料の物性を更に向上させることができる。
なお、「繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)」は、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択した繊維状炭素ナノ構造体100本の直径(外径)を測定して求めることができる。そして、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)は、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られたCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
【0024】
更に、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積は、600m/g以上であることが好ましく、800m/g以上であることがより好ましく、2500m/g以下であることが好ましく、1200m/g以下であることがより好ましい。CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積が600m/g以上であれば、複合材料の物性を更に向上させることができる。また、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積が2500m/g以下であれば、炭素膜中および複合材料中での繊維状炭素ナノ構造体の過度な密集を抑制して、金属と繊維状炭素ナノ構造体を一層良好に複合化することができる。
なお、本発明において、「BET比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
【0025】
更に、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、後述のスーパーグロース法によれば、カーボンナノチューブ成長用の触媒層を表面に有する基材上に、基材に略垂直な方向に配向した集合体(配向集合体)として得られるが、当該集合体としての、繊維状炭素ナノ構造体の質量密度は、0.002g/cm以上0.2g/cm以下であることが好ましい。質量密度が0.2g/cm以下であれば、繊維状炭素ナノ構造体同士の結びつきが弱くなるので、繊維状炭素ナノ構造体を均質に分散させることができる。また、質量密度が0.002g/cm以上であれば、繊維状炭素ナノ構造体の一体性を向上させ、バラけることを抑制できるため取り扱いが容易になる。
【0026】
また、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、吸着等温線から得られるt-プロットが上に凸な形状を示すことが好ましい。中でも、CNTの開口処理が施されておらず、t-プロットが上に凸な形状を示すことがより好ましい。なお、「t-プロット」は、窒素ガス吸着法により測定された繊維状炭素ナノ構造体の吸着等温線において、相対圧を窒素ガス吸着層の平均厚みt(nm)に変換することにより得ることができる。すなわち、窒素ガス吸着層の平均厚みtを相対圧P/P0に対してプロットした、既知の標準等温線から、相対圧に対応する窒素ガス吸着層の平均厚みtを求めて上記変換を行うことにより、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のt-プロットが得られる(de Boerらによるt-プロット法)。
【0027】
ここで、表面に細孔を有する物質では、窒素ガス吸着層の成長は、次の(1)~(3)の過程に分類される。そして、下記の(1)~(3)の過程によって、t-プロットの傾きに変化が生じる。
(1)全表面への窒素分子の単分子吸着層形成過程
(2)多分子吸着層形成とそれに伴う細孔内での毛管凝縮充填過程
(3)細孔が窒素によって満たされた見かけ上の非多孔性表面への多分子吸着層形成過程
【0028】
そして、上に凸な形状を示すt-プロットは、窒素ガス吸着層の平均厚みtが小さい領域では、原点を通る直線上にプロットが位置するのに対し、tが大きくなると、プロットが当該直線から下にずれた位置となる。かかるt-プロットの形状を有する繊維状炭素ナノ構造体は、繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積に対する内部比表面積の割合が大きく、繊維状炭素ナノ構造体を構成する炭素ナノ構造体に多数の開口が形成されていることを示している。
【0029】
なお、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のt-プロットの屈曲点は、0.2≦t(nm)≦1.5を満たす範囲にあることが好ましく、0.45≦t(nm)≦1.5の範囲にあることがより好ましく、0.55≦t(nm)≦1.0の範囲にあることが更に好ましい。
なお、「屈曲点の位置」は、前述した(1)の過程の近似直線Aと、前述した(3)の過程の近似直線Bとの交点である。
【0030】
更に、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、t-プロットから得られる全比表面積S1に対する内部比表面積S2の比(S2/S1)が0.05以上0.30以下であるのが好ましい。
また、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積S1および内部比表面積S2は、特に限定されないが、個別には、S1は、600m/g以上1400m/g以下であることが好ましく、800m/g以上1200m/g以下であることが更に好ましい。一方、S2は、30m/g以上540m/g以下であることが好ましい。
ここで、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積S1および内部比表面積S2は、そのt-プロットから求めることができる。具体的には、まず、(1)の過程の近似直線の傾きから全比表面積S1を、(3)の過程の近似直線の傾きから外部比表面積S3を、それぞれ求めることができる。そして、全比表面積S1から外部比表面積S3を差し引くことにより、内部比表面積S2を算出することができる。
【0031】
因みに、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の吸着等温線の測定、t-プロットの作成、および、t-プロットの解析に基づく全比表面積S1と内部比表面積S2との算出は、例えば、市販の測定装置である「BELSORP(登録商標)-mini」(日本ベル(株)製)を用いて行うことができる。
【0032】
そして、上述した性状を有するCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、例えば、カーボンナノチューブ製造用の触媒層を表面に有する基材上に、原料化合物およびキャリアガスを供給して、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)に準じて、効率的に製造することができる。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
【0033】
なお、スーパーグロース法により製造したCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、SGCNTのみから構成されていてもよいし、SGCNTと、非円筒形状の炭素ナノ構造体とから構成されていてもよい。具体的には、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体には、内壁同士が近接または接着したテープ状部分を全長に亘って有する単層または多層の扁平筒状の炭素ナノ構造体(以下、「グラフェンナノテープ(GNT)」と称することがある。)が含まれていてもよい。
【0034】
ここで、GNTは、その合成時から内壁同士が近接または接着したテープ状部分が全長に亘って形成されており、炭素の六員環ネットワークが扁平筒状に形成された物質であると推定される。そして、GNTの形状が扁平筒状であり、かつ、GNT中に内壁同士が近接または接着したテープ状部分が存在していることは、例えば、GNTとフラーレン(C60)とを石英管に密封し、減圧下で加熱処理(フラーレン挿入処理)して得られるフラーレン挿入GNTを透過型電子顕微鏡で観察すると、GNT中にフラーレンが挿入されない部分(テープ状部分)が存在していることから確認することができる。
【0035】
そして、GNTの形状は、幅方向中央部にテープ状部分を有する形状であることが好ましく、延在方向(軸線方向)に直行する断面の形状が、断面長手方向の両端部近傍における、断面長手方向に直交する方向の最大寸法が、いずれも、断面長手方向の中央部近傍における、断面長手方向に直交する方向の最大寸法よりも大きい形状であることがより好ましく、ダンベル状であることが特に好ましい。
ここで、GNTの断面形状において、「断面長手方向の中央部近傍」とは、断面の長手中心線(断面の長手方向中心を通り、長手方向線に直交する直線)から、断面の長手方向幅の30%以内の領域をいい、「断面長手方向の端部近傍」とは、「断面長手方向の中央部近傍」の長手方向外側の領域をいう。
【0036】
なお、非円筒形状の炭素ナノ構造体としてGNTを含む炭素ナノ構造体は、触媒層を表面に有する基材を用いてスーパーグロース法によりCNTを合成する際に、触媒層を表面に有する基材(以下、「触媒基材」と称することがある。)を所定の方法で形成することにより、得ることができる。具体的には、GNTを含む炭素ナノ構造体は、アルミニウム化合物を含む塗工液Aを基材上に塗布し、塗布した塗工液Aを乾燥して基材上にアルミニウム薄膜(触媒担持層)を形成した後、アルミニウム薄膜の上に、鉄化合物を含む塗工液Bを塗布し、塗布した塗工液Bを温度50℃以下で乾燥してアルミニウム薄膜上に鉄薄膜(触媒層)を形成することで得た触媒基材を用いてスーパーグロース法によりCNTを合成することで得ることができる。
【0037】
[[溶媒]]
また、分散液の溶媒(繊維状炭素ナノ構造体の分散媒)としては、特に限定されることなく、例えば、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、アミルアルコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド系極性有機溶媒、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類などが挙げられる。これらは1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0038】
[[分散液用添加剤]]
更に、分散液に任意に配合される分散液用添加剤としては、特に限定されることなく、分散剤などの分散液の調製に一般に使用される添加剤が挙げられる。
なお、例えばろ過により分散液から溶媒を除去する際にろ紙が目詰まりするのを防止する観点、および、得られる複合材料の物性(例えば、導電性)の低下を抑制する観点からは、分散剤などの分散液用添加剤の添加量は少量であることが好ましい。
【0039】
そして、分散液の調製に用いる分散剤としては、繊維状炭素ナノ構造体を分散可能であり、前述した溶媒に溶解可能であれば、特に限定されることなく、界面活性剤、合成高分子または天然高分子を用いることができる。
【0040】
ここで、界面活性剤としては、ドデシルスルホン酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
また、合成高分子としては、例えば、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリビニルアルコール、部分けん化ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、アセタール基変性ポリビニルアルコール、ブチラール基変性ポリビニルアルコール、シラノール基変性ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-ビニルアルコール-酢酸ビニル共重合樹脂、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ系樹脂、フェノキシ樹脂、変性フェノキシ系樹脂、フェノキシエーテル樹脂、フェノキシエステル樹脂、フッ素系樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
更に、天然高分子としては、例えば、多糖類であるデンプン、プルラン、デキストラン、デキストリン、グアーガム、キサンタンガム、アミロース、アミロペクチン、アルギン酸、アラビアガム、カラギーナン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、カードラン、キチン、キトサン、セルロース、並びに、その塩または誘導体が挙げられる。
そして、これらの分散剤は、1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0041】
[[分散液の性状]]
そして、分散液は、1mm以上の凝集体が目視で確認されないことが好ましい。また、分散液中の繊維状炭素ナノ構造体は、粒度分布計で測定した際のメジアン径(平均粒子径)の値が150μm以下となるレベルで分散していることが好ましい。分散液中で繊維状炭素ナノ構造体を良好に分散させれば、溶媒を除去して得られる炭素膜の密度むらが抑制される。そして密度むらの少ない炭素膜には、めっき液が満遍なく浸透し易く、金属と繊維状炭素ナノ構造体を一層良好に複合化することができる。その結果、複合材料の物性が更に向上する。
【0042】
また、分散液の固形分濃度は、繊維状炭素ナノ構造体の種類にもよるが、0.001質量%以上20質量%以下が好ましい。固形分濃度が0.001質量%未満の場合、溶媒を除去して得られる炭素膜の量が少なくなり、製造効率を十分に高めることができない虞がある。また、固形分濃度が20質量%超の場合、分散液中での繊維状炭素ナノ構造体の分散性が低下する虞があると共に、分散液の粘度が増加し、流動性が低下する。
【0043】
[[分散液の調製]]
なお、分散液として、繊維状炭素ナノ構造体の集合体を溶媒に分散させてなる市販の分散液を用いてもよいが、炭素膜調製工程の前に分散液調製工程を実施して調製した分散液を用いることが好ましい。中でも、溶媒中で繊維状炭素ナノ構造体が良好に分散した分散液を使用し、炭素膜の密度むらを抑制して物性に優れる複合材料を得る観点からは、分散液としては、溶媒中に繊維状炭素ナノ構造体を添加してなる粗分散液をキャビテーション効果または解砕効果が得られる分散処理に供して得た分散液を用いることがより好ましい。
【0044】
具体的には、上述した溶媒に対して上述した繊維状炭素ナノ構造体と任意の分散液用添加剤とを添加してなる粗分散液を、以下に詳細に説明するキャビテーション効果が得られる分散処理または解砕効果が得られる分散処理に供して得た分散液を用いることが好ましい。
【0045】
―キャビテーション効果が得られる分散処理―
キャビテーション効果が得られる分散処理は、液体に高エネルギーを付与した際、水に生じた真空の気泡が破裂することにより生じる衝撃波を利用した分散方法である。この分散方法を用いることにより、繊維状炭素ナノ構造体を良好に分散させることができる。
【0046】
ここで、キャビテーション効果が得られる分散処理の具体例としては、超音波による分散処理、ジェットミルによる分散処理および高剪断撹拌による分散処理が挙げられる。これらの分散処理は一つのみを行なってもよく、複数の分散処理を組み合わせて行なってもよい。より具体的には、例えば超音波ホモジナイザー、ジェットミルおよび高剪断撹拌装置が好適に用いられる。これらの装置は従来公知のものを使用すればよい。
【0047】
繊維状炭素ナノ構造体の分散に超音波ホモジナイザーを用いる場合には、粗分散液に対し、超音波ホモジナイザーにより超音波を照射すればよい。照射する時間は、繊維状炭素ナノ構造体の量等により適宜設定すればよく、例えば、3分以上が好ましく、30分以上がより好ましく、また、5時間以下が好ましく、2時間以下がより好ましい。また、例えば、出力は20W以上500W以下が好ましく、100W以上500W以下がより好ましく、温度は15℃以上50℃以下が好ましい。
【0048】
また、ジェットミルを用いる場合、処理回数は、繊維状炭素ナノ構造体の量等により適宜設定すればよく、例えば、2回以上が好ましく、100回以下が好ましく、50回以下がより好ましい。また、例えば、圧力は20MPa以上250MPa以下が好ましく、温度は15℃以上50℃以下が好ましい。
【0049】
さらに、高剪断撹拌を用いる場合には、粗分散液に対し、高剪断撹拌装置により撹拌および剪断を加えればよい。旋回速度は速ければ速いほどよい。例えば、運転時間(機械が回転動作をしている時間)は3分以上4時間以下が好ましく、周速は5m/秒以上50m/秒以下が好ましく、温度は15℃以上50℃以下が好ましい。
【0050】
なお、上記したキャビテーション効果が得られる分散処理は、50℃以下の温度で行なうことがより好ましい。溶媒の揮発による濃度変化が抑制されるからである。
【0051】
―解砕効果が得られる分散処理―
解砕効果が得られる分散処理は、繊維状炭素ナノ構造体を溶媒中に均一に分散できることは勿論、上記したキャビテーション効果が得られる分散処理に比べ、気泡が消滅する際の衝撃波による繊維状炭素ナノ構造体の損傷を抑制することができる点で有利である。
【0052】
この解砕効果が得られる分散処理では、粗分散液にせん断力を与えて繊維状炭素ナノ構造体の凝集体を解砕・分散させ、さらに粗分散液に背圧を負荷し、また必要に応じ、粗分散液を冷却することで、気泡の発生を抑制しつつ、繊維状炭素ナノ構造体を溶媒中に均一に分散させることができる。
なお、粗分散液に背圧を負荷する場合、粗分散液に負荷した背圧は、大気圧まで一気に降圧させてもよいが、多段階で降圧することが好ましい。
【0053】
ここに、粗分散液にせん断力を与えて繊維状炭素ナノ構造体をさらに分散させるには、例えば、以下のような構造の分散器を有する分散システムを用いればよい。
すなわち、分散器は、粗分散液の流入側から流出側に向かって、内径がd1の分散器オリフィスと、内径がd2の分散空間と、内径がd3の終端部と(但し、d2>d3>d1である。)、を順次備える。
そして、この分散器では、流入する高圧(例えば10~400MPa、好ましくは50~250MPa)の粗分散液が、分散器オリフィスを通過することで、圧力の低下を伴いつつ、高流速の流体となって分散空間に流入する。その後、分散空間に流入した高流速の粗分散液は、分散空間内を高速で流動し、その際にせん断力を受ける。その結果、粗分散液の流速が低下すると共に、繊維状炭素ナノ構造体が良好に分散する。そして、終端部から、流入した粗分散液の圧力よりも低い圧力(背圧)の流体が、繊維状炭素ナノ構造体の分散液として流出することになる。
【0054】
なお、粗分散液の背圧は、粗分散液の流れに負荷をかけることで粗分散液に負荷することができ、例えば、多段降圧器を分散器の下流側に配設することにより、粗分散液に所望の背圧を負荷することができる。
そして、粗分散液の背圧を多段降圧器により多段階で降圧することで、最終的に繊維状炭素ナノ構造体の分散液を大気圧に開放した際に、分散液中に気泡が発生するのを抑制できる。
【0055】
また、この分散器は、粗分散液を冷却するための熱交換器や冷却液供給機構を備えていてもよい。というのは、分散器でせん断力を与えられて高温になった粗分散液を冷却することにより、粗分散液中で気泡が発生するのをさらに抑制できるからである。
なお、熱交換器等の配設に替えて、粗分散液を予め冷却しておくことでも、繊維状炭素ナノ構造体を含む溶媒中で気泡が発生することを抑制できる。
【0056】
上記したように、この解砕効果が得られる分散処理では、キャビテーションの発生を抑制できるので、時として懸念されるキャビテーションに起因した繊維状炭素ナノ構造体の損傷、特に、気泡が消滅する際の衝撃波に起因した繊維状炭素ナノ構造体の損傷を抑制することができる。加えて、繊維状炭素ナノ構造体への気泡の付着や、気泡の発生によるエネルギーロスを抑制して、繊維状炭素ナノ構造体を均一かつ効率的に分散させることができる。
【0057】
以上のような構成を有する分散システムとしては、例えば、製品名「BERYU SYSTEM PRO」(株式会社美粒製)などがある。そして、解砕効果が得られる分散処理は、このような分散システムを用い、分散条件を適切に制御することで、実施することができる。
【0058】
[溶媒の除去]
分散液から溶媒を除去する方法としては、特に限定されることなく、乾燥やろ過などの既知の溶媒除去方法を用いることができる。中でも、効率的に溶媒を除去する観点からは、溶媒除去方法としては、減圧乾燥、真空乾燥またはろ過を用いることが好ましい。更に、容易かつ迅速に溶媒を除去する観点からは、溶媒除去方法としては、ろ過を用いることが好ましく、減圧ろ過を用いることが更に好ましい。迅速かつ効率的に溶媒を除去すれば、一度分散させた繊維状炭素ナノ構造体が再び凝集するのを抑制し、得られる炭素膜の密度むらを抑制することができる。
ここで、分散液中の溶媒は完全に除去する必要はなく、溶媒の除去後に残った繊維状炭素ナノ構造体が集合体(炭素膜)としてハンドリング可能な状態であれば、多少の溶媒が残留していても問題はない。
【0059】
[炭素膜の性状]
得られる炭素膜の厚みは、2μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることが更に好ましく、また200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、60μm以下であることが更に好ましい。炭素膜の厚みが2μm以上であれば、得られる複合体の強度を確保することができる。一方、炭素膜の厚みが200μm以下であれば、めっき液が炭素膜の厚み方向中心部まで容易に浸透し、金属と繊維状炭素ナノ構造体が一層良好に複合化した複合材料を得ることができる。
【0060】
また、炭素膜の密度は、0.01g/cm以上であることが好ましく、0.1g/cm以上であることがより好ましく、0.5g/cm以上であることが更に好ましく、また、1.8g/cm以下であることが好ましく、1.5g/cm以下であることがより好ましく、1.2g/cm以下であることが更に好ましい。炭素膜の密度が0.01g/cm以上であれば、得られる複合体の強度を確保することができる。一方、炭素膜の密度が1.8g/cm以下であれば、めっき液が炭素膜の厚み方向中心部まで容易に浸透し、金属と繊維状炭素ナノ構造体が一層良好に複合化した複合材料を得ることができる。
なお、本発明において、「炭素膜の密度」は、炭素膜の質量、面積および厚さを測定し、炭素膜の質量を体積で割って求めることができる。
【0061】
<めっき処理>
上述した炭素膜に対して、めっき液を用いて電解めっき処理または無電解めっき処理、好ましくは電解めっき処理を施すことにより、複合材料を得ることができる。
【0062】
[めっき液]
めっき処理に用いるめっき液は、少なくともめっき可能な金属イオンを含み、任意にめっき液用添加剤(ノニオン系界面活性剤や、その他めっき液に一般に添加される添加剤)を更に含む。
【0063】
[[めっき可能な金属イオン]]
めっき可能な金属イオンとしては、特に限定されることなく、めっき処理可能な金属のイオン、例えば、銅、ニッケル、錫、白金、クロム、亜鉛のイオンなどが挙げられる。これらの中でも、めっき可能な金属イオンとしては、銅イオンが好ましい。銅は、導電性、熱伝導性などに優れており、繊維状炭素ナノ構造体と複合化させれば、優れた性能(例えば、導電性および熱伝導性)を有する複合材料を得ることができるからである。
なお、めっき可能な金属イオンは、特に限定されることなく、例えば硫酸銅五水和物や硫酸ニッケル六水和物などの既知の金属化合物を溶解させることによりめっき液中に導入することができる。また、めっき液中におけるめっき可能な金属イオンの濃度は、特に限定されない。
【0064】
[[ノニオン系界面活性剤]]
めっき液は、ノニオン系界面活性剤を含むことが好ましい。ノニオン系界面活性剤を含むめっき液は、ノニオン系界面活性剤が繊維状炭素ナノ構造体との親和性に優れるためと推察されるが、炭素膜内部に容易に浸透することができる。そのため、ノニオン系界面活性剤を含むめっき液を用いれば、金属と繊維状炭素ナノ構造体を一層良好に複合化することができ、複合材料の物性を更に高めることができる。
【0065】
そして、ノニオン系界面活性剤としては、ポリエーテル系界面活性剤、アルキルフェノール系界面活性剤、ポリエステル系界面活性剤、ソルビタンエステルエーテル系界面活性剤、アルキルアミン系界面活性剤等が挙げられる。これらの中でも、複合材料の物性をより一層高める観点からは、ポリエーテル系界面活性剤が好ましい。ポリエーテル系界面活性剤としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体が挙げられる。これらの中でもポリエチレングリコールが特に好ましい。なお、ノニオン系界面活性剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0066】
ノニオン系界面活性剤の重量平均分子量は、特に限定されないが、500以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましく、1500以上であることが更に好ましく、また20000以下であることが好ましく、10000以下であることがより好ましく、5000以下であることが更に好ましく、4000以下であることが特に好ましい。ノニオン系界面活性剤の重量平均分子量が上述の範囲内であれば、金属と繊維状炭素ナノ構造体を一層良好に複合化することができ、複合材料の物性を更に高めることができる。
なお、ノニオン系界面活性剤の重量平均分子量(Mw)は、テトラヒドロフランを溶離液とするゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、標準ポリスチレン換算で求めることができる。
【0067】
めっき液中におけるノニオン系界面活性剤の濃度は、特に限定されないが、5質量ppm以上であることが好ましく、10質量ppm以上であることがより好ましく、50質量ppm以上であることが更に好ましく、また500質量ppm以下であることが好ましく、300質量ppm以下であることがより好ましく、200質量ppm以下であることが更に好ましい。ノニオン系界面活性剤の濃度が上述の範囲内であれば、金属と繊維状炭素ナノ構造体を一層良好に複合化することができ、複合材料の物性を更に高めることができる。
【0068】
[[その他のめっき液用添加剤]]
めっき液は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述した成分以外に、光沢剤などの既知のめっき液用添加剤を含有していてもよい。
【0069】
[[めっき液の製造方法]]
めっき液は、上述した成分を水などの既知の溶媒中に溶解または分散させることにより調製することができる。
【0070】
[めっき処理の方法]
炭素膜にめっき処理を施す方法は、炭素膜の内部にめっき液中の金属イオン由来の金属を析出させうる方法であれば特に限定されない。例えば、電解めっき処理を行う場合、陰極として、炭素膜のみを使用してもよいし、基板表面にカーボンテープ等を介して炭素膜を接着してなる積層体を使用してもよい。そして、炭素膜内部へのめっき液の浸透を容易として、金属と繊維状炭素ナノ構造体とが複合化した複合材料を効率良く製造する観点からは、炭素膜のみからなる陰極を使用することが好ましい。また、炭素膜の両面に接するように二枚の陰極を配置した状態で電解めっき処理を行うことで、炭素膜の両面から炭素膜の内部にかけて、めっき液中の金属イオン由来の金属を析出させることもできる。
なお電解めっきの場合、直流めっきに限定されることはなく、電流反転めっき法やパルスめっき法も採用することができる。
まためっき処理としては、電解めっきに限らず、無電解めっきを採用することもできる。
めっき処理中、めっき液の分散状態を維持するため、例えばスターラー等でめっき液を撹拌してもよい。
そして炭素膜にめっき処理を行うに際し、めっき液中に炭素膜を浸漬させてからめっき処理を開始(例えば、電解めっき処理の場合においては通電を開始)するまでの待ち時間(めっき処理前待ち時間)を設けるのが好ましい。めっき処理前待ち時間は、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上である。めっき処理前待ち時間が5分以上あれば、炭素膜内部にまで、めっき液の浸透を促すことができる。なお、めっき処理前待ち時間の上限は特に限定されないが、通常60分以下である。
さらに、電解めっき処理の場合、通電量は、好ましくは40C以上であり、より好ましくは50C以上である。通電量が40C以上あれば、炭素膜内部まで十分にめっき処理を実施可能である。
【0071】
(複合材料)
そして、上述した製造方法を用いて製造された複合材料は、金属と繊維状炭素ナノ構造体が良好に複合化しているので、優れた導電性および熱伝導性を示す。このような複合材料は、例えばエレクトロニクス関連分野において幅広い応用が期待される。
【実施例
【0072】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
なお、実施例において調製した複合材料の評価は、以下の方法を使用して行った。
【0073】
(複合材料の評価)
シート状の複合材料の断面試料を、クロスセクションポリッシャ(登録商標)を用いて作成した。得られた断面試料中における銅と繊維状炭素ナノ構造体の複合化の状態を、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて倍率400倍で観察した。
【0074】
(実施例1)
<単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の合成>
実施例において用いる単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を、国際公開第2006/011655号の記載に従って、スーパーグロース法により調製した(以下、「繊維状炭素ナノ構造体A」という)。なお、金属触媒の鉄薄膜層の厚さは2nmとした。
得られた繊維状炭素ナノ構造体Aは、BET比表面積が1050m/g(未開口状態)、平均直径(Av)が3.3nmであった。また、繊維状炭素ナノ構造体Aを、ラマン分光光度計での測定において、単層CNTに特長的な100~300cm-1の低波数領域におけるラジアルブリージングモード(RBM)のスペクトルが観察された。また、未開口状態におけるt-プロットは上に凸な形状を示し、その屈曲点は0.55≦t(nm)≦1.0の範囲にあり、全比表面積S1と内部比表面積S2との比は0.05≦S2/S1≦0.30を満たしていた。
<分散液の調製>
繊維状炭素ナノ構造体Aを400mg量り取り、溶媒としてのメチルエチルケトン2L中に混ぜ、ホモジナイザーにより2分間撹拌し、粗分散液を得た。湿式ジェットミル(株式会社常光製、JN-20)を使用し、得られた粗分散液を湿式ジェットミルの0.5mmの流路に100MPaの圧力で2サイクル通過させて、繊維状炭素ナノ構造体Aをメチルエチルケトンに分散させた。そして、固形分濃度0.20質量%の分散液Aを得た。
なお、得られた分散液Aの性状を評価したところ、分散液A中の繊維状炭素ナノ構造体Aのメジアン径(平均粒子径)は24.1μmであった。
<炭素膜の調製>
得られた分散液Aをキリヤマろ紙(No.5A)を用いて減圧ろ過し、厚みが40μm、密度が0.85g/cmである炭素膜Aを得た。
<複合材料の調製>
陰極として上述した炭素膜A、陽極として含リン銅板を使用し、銅めっき浴中で以下の条件で電解めっきを行うことで複合材料Aを得た。
1)銅めっき浴中のめっき液組成(溶媒:水、温度:25℃)
[基本浴]
CuSO・5HO:0.85M
SO:0.55M
[めっき液用添加剤]
ポリエチレングリコール(重量平均分子量2000):100質量ppm
塩化物イオン(塩酸由来):50質量ppm
3,3’-ジチオビス(1-プロパンスルホン酸)2ナトリウム:2質量ppm
ヤヌスグリーンB:2質量ppm
2)電析条件
電流モード:電流規制法
通電量:108.6C
めっき処理時間:30分
めっき処理前待ち時間:10分
【0075】
得られた複合材料Aの断面をFE-SEMにて観察したところ、繊維状炭素ナノ構造体と銅とが良好に複合化されている様子が確認された(図1)。かかる複合材料は優れた導電性および熱伝導性を示す。
【0076】
(実施例2)
<炭素膜の調製>
厚みを40μm、密度を1.30g/cmとした以外は、炭素膜Aと同様にして炭素膜Bを調製した。
<複合材料の調製>
脱脂および酸洗浄を施した純銅板(基板)の上にカーボンテープを貼り付けた。このカーボンテープの上に更に上述の炭素膜Bを貼り付けることで、陰極を得た。この陰極と、陽極として銅板とを使用し、銅めっき浴中で以下の条件で電解めっきを行うことで複合材料Bを得た。
1)銅めっき浴中のめっき液組成(溶媒:水、温度:25℃)
[基本浴]
CuSO・5HO:0.85M
SO:0.55M
[めっき液用添加剤]
ポリエチレングリコール(重量平均分子量2000):100質量ppm
塩化物イオン(塩酸由来):50質量ppm
3,3’-ジチオビス(1-プロパンスルホン酸)2ナトリウム:2質量ppm
ヤヌスグリーンB:2質量ppm
2)電析条件
電流モード:電流規制法
通電量:54.3C
めっき処理時間:30分
めっき処理前待ち時間:10分
【0077】
得られた複合材料Bの断面をFE-SEMにて観察したところ、実施例1に比べると炭素膜内部への銅の浸透度合いにやや劣るが、総じて繊維状炭素ナノ構造体と銅とが良好に複合化されている様子が確認された(図2)。かかる複合材料は優れた導電性および熱伝導性を示す。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の複合材料の製造方法によれば、金属と繊維状炭素ナノ構造体を良好に複合化させ、優れた物性を有する複合材料を製造することができる。
また、本発明によれば、優れた物性を有する複合材料が得られる。
図1
図2