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特許7023202水性インクジェットインク用樹脂分散体、水性インクジェット用インク組成物、及び、水性インクジェットインク用樹脂分散体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】水性インクジェットインク用樹脂分散体、水性インクジェット用インク組成物、及び、水性インクジェットインク用樹脂分散体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20220214BHJP
   C08F 220/20 20060101ALI20220214BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20220214BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220214BHJP
【FI】
C09D11/30
C08F220/20
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2018163167
(22)【出願日】2018-08-31
(65)【公開番号】P2020033512
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2020-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】今村 弥佳
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-057087(JP,A)
【文献】国際公開第16/159054(WO,A1)
【文献】特開2012-236868(JP,A)
【文献】特開2017-114991(JP,A)
【文献】特開2018-039210(JP,A)
【文献】特開2004-269558(JP,A)
【文献】特開昭63-305182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-13/00
C08F 220/20
B41M 5/00
B41J 2/01
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂微粒子と水性媒体とを含有する水性インクジェットインク用樹脂分散体であって、前記樹脂微粒子を構成するポリマーが、構成成分として重合反応性乳化剤成分と下記一般式(1)で表される構成成分とアルキル基の炭素数が1~15のアルキル(メタ)アクリレート成分とを有し、
前記ポリマー中、前記重合反応性乳化剤成分の含有量が0.5~11.0質量%、前記一般式(1)で表される構成成分の含有量が0.1~15質量%、前記アルキル(メタ)アクリレート成分の含有量が30~80質量%である、水性インクジェットインク用樹脂分散体。
但し、前記樹脂微粒子が、表面に電荷を有する芯物質がポリマーを主成分とする壁材によって被覆したカプセル化物である形態を除く。
【化1】
一般式(1)中、
Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
Lは炭素数1~のアルキレン基を示し、
nは2~5の整数であり、
*はポリマー中に組み込まれる連結部位を示す。
【請求項2】
前記ポリマーが、イオン性基を有さず且つ芳香族環構造を有する構成成分を有する、請求項に記載の水性インクジェットインク用樹脂分散体。
【請求項3】
前記ポリマー中における前記のイオン性基を有さず且つ芳香族環構造を有する構成成分の含有量が60質量%以下である、請求項2に記載の水性インクジェットインク用樹脂分散体。
【請求項4】
前記重合反応性乳化剤成分がアニオン性及び/又はノニオン性の重合反応性乳化剤成分を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク用樹脂分散体。
【請求項5】
前記重合反応性乳化剤成分がカルボキシ基の塩及びスルホ基の塩から選ばれる構造を有する、請求項1~のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク用樹脂分散体。
【請求項6】
前記重合反応性乳化剤成分を導く重合反応性乳化剤のHLB値が15以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク用樹脂分散体。
【請求項7】
前記重合反応性乳化剤成分が炭素数6以上のアルキル基を有する、請求項1~のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク用樹脂分散体。
【請求項8】
前記ポリマー中、前記重合反応性乳化剤成分の含有量Xと前記一般式(1)で表される構成成分の含有量Zとの比が、質量比でX:Z=3:1~100:1を満たす、請求項1~のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク用樹脂分散体。
【請求項9】
前記重合反応性乳化剤成分の少なくとも一部が下記一般式(I)で表される、請求項1~のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク用樹脂分散体。
【化2】
一般式(I)中、
は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
は-O-又は-NR-を示し、
は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
は炭素数6~22のアルキレン基を示し、
は水素原子、アルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンを示す。
*はポリマー中に組み込まれる連結部位を示す。
【請求項10】
樹脂微粒子と、水性媒体とを含有する水性インクジェット用インク組成物であって、
前記樹脂微粒子を構成するポリマーが、重合反応性乳化剤成分と、下記一般式(1)で表される構成成分と、アルキル基の炭素数が1~15のアルキル(メタ)アクリレート成分とを有し、
前記ポリマー中、前記重合反応性乳化剤成分の含有量が0.5~11.0質量%、前記一般式(1)で表される構成成分の含有量が0.1~15質量%、前記アルキル(メタ)アクリレート成分の含有量が30~80質量%である、水性インクジェット用インク組成物。
但し、前記樹脂微粒子が、表面に電荷を有する芯物質がポリマーを主成分とする壁材によって被覆したカプセル化物である形態を除く。
【化3】
一般式(1)中、
Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
Lは炭素数1~のアルキレン基を示し、
nは2~5の整数であり、
*はポリマー中に組み込まれる連結部位を示す。
【請求項11】
前記水性インクジェット用インク組成物が着色剤を含有する、請求項10に記載の水性インクジェット用インク組成物。
【請求項12】
前記ポリマーが、イオン性基を有さず且つ芳香族環構造を有する構成成分を有する、請求項10又は11に記載の水性インクジェット用インク組成物。
【請求項13】
前記ポリマー中における前記のイオン性基を有さず且つ芳香族環構造を有する構成成分の含有量が60質量%以下である、請求項12に記載の水性インクジェット用インク組成物。
【請求項14】
前記重合反応性乳化剤成分がアニオン性及び/又はノニオン性の重合反応性乳化剤成分を含む、請求項10~13のいずれか1項に記載の水性インクジェット用インク組成物。
【請求項15】
前記重合反応性乳化剤成分がカルボキシ基の塩及びスルホ基の塩の少なくともいずれかの構造を有する、請求項10~14のいずれか1項に記載の水性インクジェット用インク組成物。
【請求項16】
前記重合反応性乳化剤成分を導く重合反応性乳化剤のHLB値が15以下である、請求項10~15のいずれか1項に記載の水性インクジェット用インク組成物。
【請求項17】
前記重合反応性乳化剤成分が炭素数6以上のアルキレン基を有する、請求項10~16のいずれか1項に記載の水性インクジェット用インク組成物。
【請求項18】
前記ポリマー中、前記重合反応性乳化剤成分の含有量Xと前記一般式(1)で表される構成成分の含有量Zとの比が、質量比でX:Z=3:1~100:1を満たす、請求項10~17のいずれか1項に記載の水性インクジェット用インク組成物。
【請求項19】
前記重合反応性乳化剤成分の少なくとも一部が下記一般式(I)で表される、請求項10~18のいずれか1項に記載の水性インクジェット用インク組成物。
【化4】
一般式(I)中、
は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
は-O-又は-NR-を示し、
は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
は炭素数6~22のアルキレン基を示し、
は水素原子、アルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンを示す。
*はポリマー中に組み込まれる連結部位を示す。
【請求項20】
乳化重合によりモノマーを重合して水性媒体中に樹脂微粒子が分散してなる水性樹脂分散体を得て、該水性樹脂分散体をろ過処理することを含む水性インクジェットインク用樹脂分散体の製造方法であって、
乳化剤として重合反応性乳化剤を用い、かつ、全モノマーに占める、前記重合反応性乳化剤の割合を0.5~11.0質量%、下記一般式(1a)で表されるモノマーの割合を0.1~15質量%、アルキル基の炭素数が1~15のアルキル(メタ)アクリレートモノマーの割合を30~80質量%として前記乳化重合を行う、水性インクジェットインク用樹脂分散体の製造方法。
但し、前記樹脂微粒子が、表面に電荷を有する芯物質がポリマーを主成分とする壁材によって被覆したカプセル化物である形態を除く。
【化5】
式(1a)中、
Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
Lは炭素数1~のアルキレン基を示し、
nは2~5の整数である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インクジェットインク用樹脂分散体、水性インクジェット用インク組成物、及び、水性インクジェットインク用樹脂分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像データ信号に基づき、紙等の記録媒体に画像を形成する画像記録方法として、電子写真方式、昇華型及び溶融型熱転写方式、インクジェット方式などの記録方法がある。
インクジェット記録方法は、印刷版を必要とせず、画像形成部のみにインクを吐出して記録媒体上に直接画像形成を行うため、インクを効率的に使用でき、ランニングコストが安い。更に、インクジェット記録方法は印刷装置も従来の印刷機に比べ比較的低コストで、小型化も可能であり、騒音も少ない。このように、インクジェット記録方法は他の画像記録方式に比べて種々の利点を兼ね備えている。
【0003】
水性インクジェットインク(以下、単に「インク」とも称す。)は、一般的には、顔料等の着色剤及び親水性溶媒を含有し、さらに、形成した画像部に耐擦性等を付与するためにバインダー樹脂を含有する。このバインダー樹脂は、インクの保存安定性、吐出安定性等の特性を高める観点から、固形分濃度が高くても低粘度を実現できる樹脂微粒子が多用されている。
例えば特許文献1には、スチレンモノマー、特定のアルキル鎖長の(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー、カルボキシ基含有モノマー、アルコキシシリル基含有モノマー、及び界面活性剤モノマーを各特定量含んでなるモノマー混合物を乳化重合した平均粒子径が30~100nmの樹脂粒子と、水性媒体とを含んでなる、水性インクジェットインキ用樹脂分散体が記載されている。特許文献1によれば、この樹脂分散体を用いることにより、保存安定性、吐出性などのインキ物性と、光沢、耐摩耗性、耐水性、耐溶剤性などの塗膜物性とを両立できるとされる。
また特許文献2には、少なくとも水性媒体と、特定構造の樹脂から構成される樹脂微粒子の特定量とを含有する水性インク組成物が、吐出安定性に優れ、吐出後は記録媒体上で処理剤の作用により素早く凝集すること、また、この水性インク組成物により形成した画像部の色濃度が高められることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6115694号公報
【文献】国際公開第2016/159054号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水性インクが粗大粒子(顔料の凝集体、樹脂微粒子の凝集体等)を含んでいる場合、この水性インクをインクジェット記録方法に適用すると、粗大粒子がヘッドを詰まらせるなどして所望の吐出安定性を得ることができない。したがって、水性インク中に配合する樹脂微粒子の分散体は、通常、ろ過処理に付され、粗大粒子を除去して用いられる。
水性インクに用いる樹脂微粒子の調製は、工程数が少なくコスト面で有利な乳化重合法が採用されることが多い。この乳化重合法の一形態では、乳化剤(界面活性剤)として重合反応性乳化剤が用いられる。この場合、重合反応により乳化剤自体もモノマーとして付加反応してポリマー中に取り込まれ、目的のポリマーが微粒子状の分散質として存在する反応液(樹脂分散体)が得られる。しかし、乳化剤として重合反応性乳化剤を用いた乳化重合では、重合反応性乳化剤の使用量には制約がある。したがって、乳化重合反応液中に形成された樹脂微粒子は一般に凝集しやすく、この反応液はろ過性に劣る。また、この反応液を樹脂分散体として用いて水性インクジェットインクを調製した場合にも、このインクは保存安定性、吐出性等に劣る傾向にある。
【0006】
そこで本発明は、構成成分として重合反応性乳化剤成分を有するポリマーで構成された樹脂を、水性媒体中に分散してなる水性インクジェットインク用樹脂分散体であって、樹脂微粒子の供給源として水性インクジェットインクに配合することにより、得られる水性インクジェットインクを保存安定性に優れ、また吐出性にも優れたものとすることができる樹脂分散体を提供することを課題とする。また本発明は、樹脂微粒子を含有し、保存安定性に優れ、吐出性にも優れた水性インクジェット用インク組成物を提供することを課題とする。さらに本発明は、乳化剤として重合反応性乳化剤を用いた乳化重合により水性樹脂分散体を得て、これをろ過処理することを含む水性インクジェットインク用樹脂分散体の製造方法であって、乳化重合により得られる上記の水性樹脂分散体はろ過性に優れ、また、ろ過後の水性樹脂分散体を樹脂微粒子の供給源として水性インクジェットインクに配合することにより、保存安定性及び吐出性に優れた水性インクジェットインクを得ることができる樹脂分散体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、乳化剤として重合反応性乳化剤を用いた乳化重合による水性インクジェットインク用の樹脂微粒子の調製において、原料モノマーの一部に特定構造のモノマーを用いることにより、乳化重合後のポリマーを含有する反応液である水性樹脂分散体が優れたろ過性を示すこと、また、ろ過処理後の水性樹脂分散体を配合してなる水性インクジェットインクが保存安定性に優れ、吐出性にも優れることを見い出した。
本発明はこれらの知見に基づきさらに検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明の上記課題は下記の手段により解決される。
〔1〕
樹脂微粒子と水性媒体とを含有する水性インクジェットインク用樹脂分散体であって、上記樹脂微粒子を構成するポリマーが、構成成分として重合反応性乳化剤成分と下記一般式(1)で表される構成成分とを有し、上記ポリマー中の上記一般式(1)で表される構成成分の含有量が0.1~15質量%である、水性インクジェットインク用樹脂分散体。
【化1】
一般式(1)中、
Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
Lは炭素数1~10のアルキレン基を示し、
nは2以上の整数であり、
*はポリマー中に組み込まれる連結部位を示す。
但し、上記樹脂微粒子が、表面に電荷を有する芯物質がポリマーを主成分とする壁材によって被覆したカプセル化物である形態を除く。
〔2〕
上記ポリマー中の重合反応性乳化剤成分の含有量が1~10質量%である、〔1〕に記載の水性インクジェットインク用樹脂分散体。
〔3〕
上記ポリマーが、イオン性基を有さず且つ芳香族環構造を有する構成成分を有する、〔1〕又は〔2〕に記載の水性インクジェットインク用樹脂分散体。
〔4〕
上記重合反応性乳化剤成分がカルボキシ基の塩及びスルホ基の塩から選ばれる構造を有する、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の水性インクジェットインク用樹脂分散体。
〔5〕
上記重合反応性乳化剤成分を導く重合反応性乳化剤のHLB値が15以下である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の水性インクジェットインク用樹脂分散体。
〔6〕
上記重合反応性乳化剤成分が炭素数6以上のアルキル基を有する、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の水性インクジェットインク用樹脂分散体。
〔7〕
上記ポリマー中、上記重合反応性乳化剤成分の含有量Xと上記一般式(1)で表される構成成分の含有量Zとの比が、質量比でX:Z=3:1~100:1を満たす、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の水性インクジェットインク用樹脂分散体。
〔8〕
上記重合反応性乳化剤成分の少なくとも一部が下記一般式(I)で表される、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の水性インクジェットインク用樹脂分散体。
【化2】
一般式(I)中、
は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
は-O-又は-NR-を示し、
は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
は炭素数6~22のアルキレン基を示し、
は水素原子、アルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンを示す。
*はポリマー中に組み込まれる連結部位を示す。
〔9〕
樹脂微粒子と、水性媒体とを含有する水性インクジェット用インク組成物であって、
上記樹脂微粒子を構成するポリマーが、重合反応性乳化剤成分と、下記一般式(1)で表される構成成分とを有し、上記ポリマー中の上記一般式(1)で表される構成成分の含有量が0.1~15質量%である、水性インクジェット用インク組成物。
【化3】
一般式(1)中、
Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
Lは炭素数1~10のアルキレン基を示し、
nは2以上の整数であり、
*はポリマー中に組み込まれる連結部位を示す。
但し、上記樹脂微粒子が、表面に電荷を有する芯物質がポリマーを主成分とする壁材によって被覆したカプセル化物である形態を除く。
〔10〕
上記水性インクジェット用インク組成物が着色剤を含有する、〔9〕に記載の水性インクジェット用インク組成物。
〔11〕
上記ポリマー中の重合反応性乳化剤成分の含有量が1~10質量%である、〔9〕又は〔10〕に記載の水性インクジェット用インク組成物。
〔12〕
上記ポリマーが、イオン性基を有さず且つ芳香族環構造を有する構成成分を有する、〔9〕~〔11〕のいずれかに記載の水性インクジェット用インク組成物。
〔13〕
上記重合反応性乳化剤成分がカルボキシ基の塩及びスルホ基の塩の少なくともいずれかの構造を有する、〔9〕~〔12〕のいずれかに記載の水性インクジェット用インク組成物。
〔14〕
上記重合反応性乳化剤成分を導く重合反応性乳化剤のHLB値が15以下である、〔9〕~〔13〕のいずれかに記載の水性インクジェット用インク組成物。
〔15〕
上記重合反応性乳化剤成分が炭素数6以上のアルキレン基を有する、〔9〕~〔14〕のいずれかに記載の水性インクジェット用インク組成物。
〔16〕
上記ポリマー中、上記重合反応性乳化剤成分の含有量Xと上記一般式(1)で表される構成成分の含有量Zとの比が、質量比でX:Z=3:1~100:1を満たす、〔9〕~〔15〕のいずれかに記載の水性インクジェット用インク組成物。
〔17〕
上記重合反応性乳化剤成分の少なくとも一部が下記一般式(I)で表される、〔9〕~〔16〕のいずれかに記載の水性インクジェット用インク組成物。
【化4】
一般式(I)中、
は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
は-O-又は-NR-を示し、
は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
は炭素数6~22のアルキレン基を示し、
は水素原子、アルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンを示す。
*はポリマー中に組み込まれる連結部位を示す。
〔18〕
乳化重合によりモノマーを重合して水性媒体中に樹脂微粒子が分散してなる水性樹脂分散体を得て、この水性樹脂分散体をろ過処理することを含む水性インクジェットインク用樹脂分散体の製造方法であって、
乳化剤として重合反応性乳化剤を用い、かつ、全モノマーに占める下記一般式(1a)で表されるモノマーの割合を0.1~15質量%として上記乳化重合を行う、水性インクジェットインク用樹脂分散体の製造方法。
【化5】
式(1a)中、
Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
Lは炭素数1~10のアルキレン基を示し、
nは2以上の整数である。
但し、前記樹脂微粒子が、表面に電荷を有する芯物質がポリマーを主成分とする壁材によって被覆したカプセル化物である形態を除く。
【0009】
本明細書において、特に断りがない限り、特定の符号で表示された置換基、連結基、繰り返し単位等(以下、置換基等という)が複数あるとき、あるいは複数の置換基等を同時もしくは択一的に規定するときには、それぞれの置換基等は互いに同一でも異なっていてもよい。このことは、置換基等の数の規定についても同様である。
本明細書において、各置換基及び連結基の例として説明される各基の「基」は、特に断りのない限り、無置換の形態及び置換基を有する形態のいずれも包含する意味に用いる。例えば、「アルキル基」は置換基を有してもよいアルキル基を意味する。
本発明において、ある基の炭素原子数を規定する場合、この炭素原子数は、基全体の炭素原子数を意味する。つまり、この基が更に置換基を有する形態である場合、この置換基を含めた全体の炭素原子数を意味する。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートの両者を含む意味に用いる。このことは、「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリルアミド」、及び「(メタ)アクリロイル」についても同様である。
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水性インクジェットインク用樹脂分散体は、水性インクジェットインクの樹脂微粒子の供給源として水性インクジェットインクに配合することにより、得られる水性インクジェットインクを保存安定性に優れ、また吐出性にも優れたものとすることができる。本発明の水性インクジェット用インク組成物は、保存安定性に優れ、吐出性にも優れる。
本発明の水性インクジェットインク用樹脂分散体の製造方法は、乳化剤として重合反応性乳化剤を用いた乳化重合により水性樹脂分散体を得て、これをろ過処理することを含み、上記乳化重合により得られる水性樹脂分散体のろ過性を高めることができ、また、ろ過後の水性樹脂分散体は、樹脂微粒子の供給源として水性インクジェットインクに配合することにより、得られる水性インクジェットインクを保存安定性に優れ、また吐出性にも優れたものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0012】
[水性インクジェットインク用樹脂分散体]
本発明の水性インクジェットインク用樹脂分散体(以下、「本発明の樹脂分散体」とも称す。)は、水性媒体と、この水性媒体中に分散して存在する特定の構成成分を有するポリマーで構成された樹脂微粒子とを少なくとも含有し、水性インクジェットインクに配合する樹脂微粒子の供給源として好適に用いられる。
【0013】
<水性媒体>
本発明の樹脂分散体に用いる水性媒体は少なくとも水を含み、必要に応じて水溶性有機溶媒の少なくとも1種を含んで構成される。本発明の樹脂分散体中の水性媒体の含有量は、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。本発明の樹脂分散体中の水性媒体の含有量は、通常は98質量%以下であり、95質量%以下がより好ましい。
本発明の樹脂分散体に用いる水としては、イオン交換水、蒸留水などのイオン性不純物を含まない水を用いることが好ましい。樹脂分散体を構成する水性媒体に占める水の割合は、目的に応じて適宜選択され、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%が特に好ましい。樹脂分散体を構成する水性媒体のすべてが水であることも好ましい。
本発明の樹脂分散体に用い得る水溶性有機溶媒の種類については特に制限はなく、目的に応じて適宜に選択することができる。例えば、後述する水性インクジェット用インク組成物に用い得る水性媒体が挙げられる。
【0014】
<樹脂微粒子>
本発明の樹脂分散体に含まれる樹脂微粒子は、樹脂微粒子を構成するポリマーが構成成分として重合反応性乳化剤成分を有し、また、後述する一般式(1)で表される構成成分を有する。上記のポリマーは重合反応性乳化剤成分を1種有していてもよく、2種以上有していてもよい。また、上記のポリマーは一般式(1)で表される構成成分の1種又は2種以上を有する。上記のポリマーは、通常は、重合反応性乳化剤成分以外で、かつ一般式(1)で表される構成成分以外の構成成分を有している。
【0015】
(重合反応性乳化剤成分)
上記重合反応性乳化剤成分は、重合反応性乳化剤同士の重合反応又は重合反応性乳化剤と他のモノマーとの重合反応によりポリマー中に組み込まれた、重合反応性乳化剤由来の構成成分である。重合反応性乳化剤成分を導く重合反応性乳化剤は、重合性の基を有し、かつ界面活性基を有する(すなわち、親水性基と疎水性基の両方を有する)モノマーである。重合反応性乳化剤は重合性基として炭素-炭素二重結合(エチレン性不飽和結合)又は炭素-炭素三重結合を有することが好ましく、炭素-炭素二重結合を有することがより好ましい。重合性基の例として、ビニル基、ビニリデン基、プロペニル基、イソプロペニル基、(メタ)アクリロイル基、及びイソブチリデン基が挙げられる。
【0016】
重合反応性乳化剤は、重合反応性乳化剤が有する親水性基の種類により、アニオン性、カチオン性、及びノニオン性に分類される。本発明に用いる重合反応性乳化剤はアニオン性であることが好ましい。なかでも本発明に用いる重合反応性乳化剤は、親水性基としてカルボキシ基の塩又はスルホ基の塩の少なくともいずれかの構造を有することが好ましい。
本発明に用いる重合反応性乳化剤は、保存安定性の観点からHLB値が15以下であることが好ましい。重合反応性乳化剤のHLB値は6以上が好ましい。HLB値はGriffin法(W.C.Griffin,J.Soc.Cosmetic.Chemists.,1949年,vol.1,p.311)により決定される値である。
【0017】
本発明に用いる重合反応性乳化剤は、インクの吐出安定性の観点から、疎水性基として炭素数6以上のアルキル基を有することが好ましい。このアルキル基は直鎖でも分岐を有してもよい。このアルキル基の炭素数は6~22が好ましく、8~18がより好ましい。本発明に用いる重合反応性乳化剤が有し得る炭素数6以上のアルキル基は、無置換でも置換基を有していてもよい。置換基を有する場合、この置換基はイオン性基であることが好ましく、イオン性基としてはカルボキシ基又はその塩、スルホ基又はその塩、リン酸基又はその塩などを挙げることができる。炭素数6以上のアルキル基が有し得るイオン性基はカルボキシ基又はその塩であることがより好ましい。
【0018】
本発明の樹脂分散体に含まれる樹脂微粒子は、この樹脂微粒子を構成するポリマーの構成成分である重合反応性乳化剤成分の少なくとも一部が、下記一般式(I)又は(II)で表されることが好ましく、下記一般式(I)で表されることがより好ましい。上記ポリマー中の重合反応性乳化剤成分は、そのすべてが一般式(I)又は(II)で表されることが好ましく、上記ポリマー中の重合反応性乳化剤成分のすべてが一般式(I)で表されることがさらに好ましい。
【0019】
【化6】
【0020】
一般式(I)中、Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す。Rは水素原子又はメチルが好ましく、より好ましくはメチルである。
【0021】
は-O-又は-NR-を示し、Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す。Aは-NR-が好ましく、-NH-であることがより好ましい。
【0022】
は炭素数6~22のアルキレン基を示す。このアルキレン基は直鎖でも分岐を有していてもよく、吐出安定性と樹脂微粒子の安定性の観点から直鎖であることが好ましい。Lは好ましくは炭素数8~22、より好ましくは炭素数8~18、さらに好ましくは炭素数8~16、さらに好ましくは炭素数8~14、さらに好ましくは10~12のアルキレン基である。Lは特に好ましくは炭素数11のアルキレン基である。
【0023】
は水素原子、アルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンを示す。吐出安定性と樹脂微粒子の安定性の観点から、Mはアルカリ金属イオンがより好ましく、ナトリウムイオン又はカリウムイオンがさらに好ましく、カリウムイオンがさらに好ましい。
【0024】
一般式(II)中、R及びMは、それぞれR及びMと同義であり、好ましい形態も同じである。
は単結合、-COO-又はCONH-を示し、単結合が好ましい。
は炭素数6~23の2価の連結基を示す。この2価の連結基に特に制限はなく、合成上の観点からは、-C(=O)NR-(CH-又は-C(=O)O-(CH-が好ましく、-C(=O)NR-(CH-がさらに好ましい。ここで、Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基であり、水素原子が好ましい。また、nは5~22の整数であり、6~18がより好ましく、7~15がさらに好ましく、8~14がさらに好ましく、10~12がさらに好ましく、11が特に好ましい。
*はポリマー中に組み込まれる連結部位を示す。
【0025】
本発明の樹脂分散体に含まれる樹脂微粒子は、この樹脂微粒子を構成するポリマー中の重合反応性乳化剤成分の含有量(ポリマー100質量%中の含有量)を1質量%以上とすることにより、樹脂分散体の固形分濃度の低下を効果的に防ぐことができる。この樹脂微粒子を構成するポリマー中の重合反応性乳化剤成分の含有量は1~10質量%であることが好ましく、2~9質量%がより好ましく、3~9質量%がさらに好ましく、4~8質量%が特に好ましい。
【0026】
(一般式(1)で表される構成成分)
本発明の樹脂分散体に含まれる樹脂微粒子において、樹脂微粒子を構成するポリマーは下記一般式(1)で表される構成成分を1種又は2種以上有する。
【0027】
【化7】
【0028】
一般式(1)中、Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す。Rとして採り得るアルキル基は直鎖でもよく、分岐を有してもよい。このアルキル基の炭素数は1~3が好ましく、1又は2がより好ましく、さらに好ましくはメチルである。Rは水素原子又はメチルが好ましい。
【0029】
Lは炭素数1~10のアルキレン基を示す。このアルキレン基の炭素数は1~8が好ましく、1~6がより好ましく、1~4がさらに好ましく、1~3が特に好ましい。なかでもLはエチレン基又はプロピレン基が好ましく、エチレン基が特に好ましい。
【0030】
nは2以上の整数であり、2~50が好ましく、2~30がより好ましく、2~10がさらに好ましく、2~5がさらに好ましく、2又は3が特に好ましい。
【0031】
本発明の樹脂分散体に含まれる樹脂微粒子を構成するポリマーには、一般式(1)で表される構成成分として、少なくとも、ジエチレングリコールモノメタクリレート成分及びトリエチレングリコールモノメタクリレート成分の少なくとも1種が含まれることが好ましい。上記ポリマー中に含まれる一般式(1)で表される構成成分は、ジエチレングリコールモノメタクリレート成分及び/又はトリエチレングリコールモノメタクリレート成分であることが好ましい。
【0032】
本発明の樹脂分散体に含まれる樹脂微粒子が、樹脂微粒子を構成するポリマーの構成成分として一般式(1)で表される構成成分を有することにより、樹脂微粒子の分散状態を安定化することができる。すなわち、重合反応性乳化剤成分の作用により水性媒体中に分散した樹脂微粒子の分散状態を、高度に安定化することができる。その理由は定かではないが、一般式(1)で表される構成成分がノニオン系の乳化剤(界面活性剤)として、重合反応性乳化剤成分とともに樹脂微粒子に複合的に作用し、樹脂微粒子の分散安定化に寄与するものと考えられる。
【0033】
本発明の樹脂分散体に含まれる樹脂微粒子は、この樹脂微粒子を構成するポリマー中の一般式(1)で表される構成成分の含有量(ポリマー100質量%中の含有量)が0.1~15質量%であり、0.1~10質量%であることがより好ましく、0.1~5質量%であることも好ましく、また0.1~3質量%であることも好ましい。
【0034】
本発明の樹脂分散体に含まれる樹脂微粒子は、乳化重合時の凝集物の量を抑制する観点から、この樹脂微粒子を構成するポリマー中において、上記重合反応性乳化剤成分の含有量Xと上記一般式(1)で表される構成成分の含有量Zとの比が、質量比でX:Z=3:1~100:1を満たすことが好ましく、X:Z=3:1~80:1を満たすことがさらに好ましい。
【0035】
(イオン性基を有さず且つ芳香族環構造を有する構成成分)
本発明の樹脂分散体に含まれる樹脂微粒子は、樹脂微粒子を構成するポリマーが、イオン性基を有さず且つ芳香族環構造を有する構成成分(以下、「芳香族環構造を有する非イオン性構成成分」と称す。)を1種又は2種以上有することが好ましい。上記芳香族環構造は芳香族炭化水素環構造でもよく、芳香族ヘテロ環構造でもよく、芳香族炭化水素環構造が好ましい。上記芳香族環構造は単環構造でもよく、縮合環構造でもよく、単環構造が好ましい。
イオン性基とは、水性媒体中において、イオンを生じ得る基(例えば、カルボキシ基又はその塩、スルホ基又はその塩、リン酸基又はその塩など)をいう。芳香族環構造を有する非イオン性構成成分を導くモノマーは、乳化重合において上述した重合反応性乳化剤として機能するものではない。
芳香族環構造を有する非イオン性構成成分の例としては、スチレン成分、フェニル(メタ)アクリレート成分、ベンジル(メタ)アクリレート成分、N-フェニル(メタ)アクリルアミド成分、フェノキシエチル(メタ)アクリレート成分、α―メチルスチレン成分、p-メチルスチレン成分、ビニルトルエン成分、クロロスチレン成分、ジビニルベンゼン成分等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。芳香族環構造を有する非イオン性構成成分は、より好ましくはスチレン成分、フェニル(メタ)アクリレート成分、ベンジル(メタ)アクリレート成分、N-フェニル(メタ)アクリルアミド成分、フェノキシエチル(メタ)アクリレート成分、及びα―メチルスチレン成分の1種又は2種以上であり、さらに好ましくはスチレン成分、フェニル(メタ)アクリレート成分、ベンジル(メタ)アクリレート成分、N-フェニル(メタ)アクリルアミド成分の1種又は2種以上である。
本発明の樹脂分散体に含まれる樹脂微粒子は、この樹脂微粒子を構成するポリマー中、芳香族環構造を有する非イオン性構成成分の含有量(ポリマー100質量%中の含有量)が15質量%以上であることが好ましい。上記ポリマー中、芳香族環構造を有する非イオン性構成成分の含有量は15~60質量%であることがより好ましく、15~50質量%であることがさらに好ましい。
【0036】
(アルキル(メタ)アクリレート成分)
本発明の樹脂分散体に含まれる樹脂微粒子は、樹脂微粒子を構成するポリマーが、アルキル(メタ)アクリレート成分を有することが好ましい。アルキル(メタ)アクリレート成分のアルキル基は、直鎖でもよく、分岐を有してもよい。アルキル(メタ)アクリレート成分のアルキル基は無置換のアルキル基である。このアルキル基の炭素数は1~20が好ましく、1~15がより好ましく、1~10がさらに好ましい。樹脂微粒子を構成するポリマーがアルキル(メタ)アクリレート成分を有する場合、このアルキル(メタ)アクリレート成分の少なくとも一部はメチル(メタ)アクリレートであることが好ましい。
本発明の樹脂分散体に含まれる樹脂微粒子は、この樹脂微粒子を構成するポリマー中、アルキル(メタ)アクリレート成分の含有量(ポリマー100質量%中の含有量)が20質量%以上であることが好ましい。上記ポリマー中、アルキル(メタ)アクリレート成分の含有量は、より好ましくは30~80質量%、さらに好ましくは40~80質量%、特に好ましくは45~80質量%である。
【0037】
(他の構成成分)
本発明の樹脂分散体に含まれる樹脂微粒子は、樹脂微粒子を構成するポリマーが、上述した構成成分に加え、さらに他の構成成分を有していてもよい。他の構成成分に特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲で適宜にポリマー中に組み込むことができる。他の構成成分の例としては、脂肪族環を有する構成成分、(メタ)アクリルアミド成分、及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート成分(ヒドロキシアルキル基の炭素数が好ましくは2~10、より好ましくは2~6、さらに好ましくは2~4)、グリシジル基を含有する(メタ)アクリレート成分、エチレン性不飽和結合を二つ以上有する(メタ)アクリレート成分、アルコキシシリル基を含有する(メタ)アクリレート成分等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。上記脂肪族環を有する構成成分の脂肪族環は、環構成原子数が3~20が好ましく、4~15がより好ましく、5~12がさらに好ましい。上記脂肪族環は環構成原子としてヘテロ原子(好ましくは酸素原子、硫黄原子、窒素原子など)を有していてもよい。
樹脂微粒子を構成するポリマー中、「他の構成成分」の含有量(ポリマー100質量%中の含有量)は0~35質量%が好ましく、0~30質量%がより好ましい。
【0038】
本発明に用いる樹脂微粒子を構成するポリマーの重量平均分子量(Mw)は、8万以上であることが好ましく、8万~100万がより好ましく、10万~80万がさらに好ましく、10万~50万がさらに好ましく、10万~30万が特に好ましい。重量平均分子量を8万以上とすることで凝集性、画像の色濃度、得られる膜の機械物性をより向上させることができる。重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフ(GPC)を用いて、後述する実施例に記載の方法で測定される。
本発明に用いる樹脂微粒子を構成するポリマーは、ブロック共重合体でもランダム共重合体でもよい。
【0039】
本発明の樹脂分散体に含まれる樹脂微粒子は、粒径は、インク吐出性の観点から1~400nmであることが好ましく、5~300nmであることがより好ましく、20~200nmであることがさらに好ましく、20~100nmであることがさらに好ましく、20~70nmであることがさらに好ましい。
樹脂微粒子の上記粒径は、一次粒子径であり、また体積平均粒径である。
本発明の樹脂分散体に含まれる樹脂微粒子の含有量は、1~50質量%が好ましく、5~40質量%がより好ましく、10~35質量%がさらに好ましい。
【0040】
本発明の樹脂分散体は、乳化剤として重合反応性乳化剤を用いる乳化重合法により調製することができる。すなわち、上述した各構成成分に対応するモノマーを所定の比で混合して乳化重合法により重合し、水性媒体中に樹脂微粒子が分散してなる水性樹脂分散体を得、この水性樹脂分散体をろ過処理することにより、本発明の樹脂分散体を得ることができる。
乳化重合法は、水性媒体(例えば、水)中にモノマー、重合開始剤、乳化剤、および、必要に応じて連鎖移動剤などを加えて調製した乳化物を重合させることにより樹脂微粒子を調製する方法である。この乳化重合法を本発明に用いる樹脂微粒子の調製に適用すると、上述した重合反応性乳化剤は、モノマーでありながら、乳化剤としても機能する。したがって、乳化重合法を本発明に用いる樹脂微粒子の調製に適用する場合、重合反応性乳化剤以外に乳化剤を別途混合する必要はない。なお、吐出性、凝集性を低下させない範囲であれば、既知の乳化剤を別途添加しても良い。
【0041】
上記重合開始剤は、特に制限されるものではなく、無機過硫酸塩(例えば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなど)、アゾ系開始剤(例えば2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-プロピオンアミド]、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)など)、有機過酸化物(例えばペルオキシピバル酸-t-ブチル、t-ブチルヒドロペルオキシド、二こはく酸ペルオキシドなど)等、又はそれらの塩を用いることができる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでもアゾ系開始剤や有機過酸化物を用いることが好ましい。
本発明における重合開始剤の使用量としては、全モノマー100質量部に対して、通常0.01~5質量部であり、好ましくは0.2~2質量部である。
【0042】
上記連鎖移動剤としては、四ハロゲン化炭素、スチレン類の二量体、(メタ)アクリル酸エステル類の二量体、メルカプタン類、スルフィド類などの公知の化合物を用いることができる。中でも、特開平5-17510号公報に記載されているスチレン類の二量体やメルカプタン類を好適に用いることができる。
【0043】
[水性インクジェット用インク組成物]
本発明の水性インクジェット用インク組成物(以下、「本発明のインク組成物」とも称す。)は、少なくとも樹脂微粒子と水性媒体とを含有する。また、本発明の水性インク組成物は、通常は着色剤を含有する。水性インク組成物が着色剤を含有しない場合は、クリアインクとして使用することができ、着色剤を含有する場合はカラー画像形成用途に用いることができる。
【0044】
<水性媒体>
本発明のインク組成物に用いる水性媒体は少なくとも水を含み、必要に応じて水溶性有機溶媒の少なくとも1種を含んで構成される。本発明のインク組成物中の水性媒体の含有量は、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。本発明のインク組成物中の水性媒体の含有量は、通常は98質量%以下であり、95質量%以下がより好ましい。
本発明に用いる水としては、イオン交換水、蒸留水などのイオン性不純物を含まない水を用いることが好ましい。インク組成物を構成する水性媒体に占める水の割合は、目的に応じて適宜選択され、30~99質量%であることが好ましく、40~95質量%であることがより好ましく、さらに好ましくは50~95質量%、特に好ましくは60~90質量%である。
【0045】
<水溶性有機溶媒>
本発明における水性媒体は水溶性有機溶媒の少なくとも1種を含むことが好ましい。水溶性有機溶媒を含有することで、乾燥防止、湿潤あるいは浸透促進の効果を得ることができる。ここで乾燥防止とは、噴射ノズルのインク吐出口にインクが付着乾燥して凝集体ができ目詰まりするのを防止する意味である。乾燥防止や湿潤には、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶媒が好ましい。また水溶性有機溶媒は、紙へのインク浸透性を高める浸透促進剤として用いることができる。
【0046】
水溶性有機溶媒の例としては、例えば、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルカンジオール(多価アルコール類);糖アルコール類;エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1~4のアルキルアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、1-メチル-1-メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
乾燥防止や湿潤の目的としては、多価アルコール類が有用であり、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
浸透促進の目的としては、ポリオール化合物が好ましく、脂肪族ジオールが好適である。脂肪族ジオールとしては、例えば、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、3,3-ジメチル-1,2-ブタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールなどが挙げられる。これらの中でも、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールが好ましい例として挙げることができる。
【0049】
また、本発明における水溶性有機溶媒としては、下記構造式(S)で表される化合物の少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0050】
【化8】
【0051】
構造式(S)において、t、u、及びvは、それぞれ独立に1以上の整数を表し、t+u+v=3~15を満たし、t+u+vは3~12の範囲が好ましく、3~10の範囲がより好ましい。t+u+vの値は、3以上であると良好なカール抑制力を示し、15以下であると良好な吐出性が得られる。構造式(S)中、AOは、エチレンオキシ基(EO)及びプロピレンオキシ基(PO)の少なくとも一方を表し、中でもプロピレンオキシ基が好ましい。上記(AO)、(AO)、及び(AO)における各AOはそれぞれ同一でも異なってもよい。
以下、上記構造式(S)で表される化合物の例を示す。但し、本発明はこれに限定されるものではない。尚、例示化合物中、「POP(3)グリセリルエーテル」との記載は、グリセリンにプロピレンオキシ基が合計で3つ結合したグリセリルエーテルであることを意味し、他の記載についても同様である。
【0052】
【化9】
【0053】
さらに本発明における水溶性有機溶媒は、以下に例示する水溶性有機溶媒(i)~(vii)であることも好ましい。
(i)n-CO(AO)-H(AO=EO又はPOで、比率はEO:PO=1:1)
(ii)n-CO(AO)10-H(AO=EO又はPOで、比率はEO:PO=1:1)
(iii)HO(AO)40-H(AO=EO又はPOで、比率はEO:PO=1:3)
(iv)HO(AO)55-H(AO=EO又はPOで、比率はEO:PO=5:6)
(v)HO(PO)-H
(vi)HO(PO)-H
(vii)1,2-ヘキサンジオール
【0054】
本発明のインク組成物中に含まれる全水溶性有機溶媒中、上記構造式(S)で表される化合物及び上記例示化合物(i)~(vii)の含有量は、合計で3質量%以上が好ましく、4質量%以上がより好ましく、更に5質量%以上が好ましい。
【0055】
本発明において水溶性有機溶媒は、1種単独で使用しても、2種類以上混合して使用してもよい。
また水溶性有機溶媒のインク組成物中における含有量としては、1~60質量%が好ましく、より好ましくは5~40質量%であり、さらに好ましくは7~30質量%である。
【0056】
<樹脂微粒子>
本発明のインク組成物が含有する樹脂微粒子の構造は、上述した本発明の樹脂分散体が含有する樹脂微粒子と同じである。すなわち、本発明の樹脂分散体は、本発明のインク組成物における樹脂微粒子の供給源として好適に用いることができる。
本発明のインク組成物中、樹脂微粒子の含有量は1~30質量%が好ましく、2~20質量%がより好ましく、3~15質量%がさらに好ましい。
【0057】
<着色剤>
本発明のインク組成物は、単色画像の形成のみならず、多色画像(例えばフルカラー画像)の形成にも用いることができ、所望の1色または2色以上を選択して画像形成することができる。フルカラー画像を形成する場合、インク組成物を、例えば、マゼンタ色調インク、シアン色調インクおよびイエロー色調インクとして用いることができる。また、更にブラック色調インクとして用いてもよい。
【0058】
また、本発明のインク組成物は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の色調以外のレッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)、白色(W)の色調のインク組成物、いわゆる印刷分野における特色のインク組成物等として用いることができる。
【0059】
本発明のインク組成物は、着色剤として、公知の染料、顔料等を特に制限なく用いることができる。形成した画像の着色性の観点からは、水に殆ど不溶であるかまたは難溶である着色剤が好ましい。具体的には、各種顔料、分散染料、油溶性染料、J会合体を形成する色素等を挙げることができる。さらに耐光性を考慮すると、顔料であることがより好ましい。本発明のインク組成物中の着色剤の含有量は1~20質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましい。
【0060】
本発明のインク組成物に用いられる顔料の種類に特に制限はなく、通常の有機又は無機顔料を用いることができる。
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、染料キレート、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、又は多環式顔料が好ましい。
アゾ顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料が挙げられる。
多環式顔料としては、例えば、フタロシアニン顔料、ぺリレン顔料、ぺリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料が挙げられる。
染料キレートとしては、例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートが挙げられる。
【0061】
無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、カーボンブラックが挙げられる。
【0062】
本発明に用いることができる顔料の具体例は、特開2007-100071号公報の段落番号0142~0145に記載の顔料などが挙げられる。
【0063】
本発明のインク組成物中の顔料の体積平均粒径は、10~200nmが好ましく、10~150nmがより好ましく、10~100nmがさらに好ましい。体積平均粒径が200nm以下であることで色再現性が良好になり、インクジェット方式の場合には打滴特性が良好になる。また、体積平均粒径が10nm以上であることで、耐光性が良好になる。インク組成物中の顔料の体積平均粒径は、公知の測定方法で測定することができる。具体的には遠心沈降光透過法、X線透過法、レーザー回折・散乱法、動的光散乱法により測定することができる。
また、本発明のインク組成物中の顔料の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布又は単分散性の粒径分布のいずれであってもよい。また、単分散性の粒径分布を持つ着色剤を、2種以上混合して使用してもよい。
なお、顔料の体積平均粒径は、上述の樹脂微粒子の体積平均粒径の測定と同様の方法で測定することができる。
【0064】
(分散剤)
本発明のインク組成物が顔料を含む場合、顔料としては、顔料が分散剤によって水性媒体中に分散された着色粒子(以下、単に「着色粒子」という)を調製し、これを水性インク組成物の原料として用いることが好ましい。
上記分散剤としては、ポリマー分散剤でも低分子の界面活性剤型分散剤でもよい。また、ポリマー分散剤としては水溶性ポリマー分散剤でも水不溶性ポリマー分散剤のいずれでもよい。
【0065】
上記低分子の界面活性剤型分散剤については、例えば、特開2011-178029号公報の段落0047~0052に記載された公知の低分子の界面活性剤型分散剤を用いることができる。
【0066】
上記ポリマー分散剤のうち、水溶性分散剤としては、親水性高分子化合物が挙げられる。例えば、天然の親水性高分子化合物では、アラビアガム、トラガンガム、グアーガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、アラビノガラクトン、ペクチン、クインスシードデンプン等の植物性高分子、アルギン酸、カラギーナン、寒天等の海藻系高分子、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、コラーゲン等の動物系高分子、キサンテンガム、デキストラン等の微生物系高分子等が挙げられる。
【0067】
また、天然物を原料に修飾した親水性高分子化合物では、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素系高分子、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム等のデンプン系高分子、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等の海藻系高分子等が挙げられる。
更に、合成系の親水性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル等のビニル系高分子、非架橋ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸又はそのアルカリ金属塩、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のアルカリ金属塩、四級アンモニウムやアミノ基等のカチオン性官能基の塩を側鎖に有する高分子化合物、セラック等の天然高分子化合物等が挙げられる。
【0068】
これらの中でも、アクリル酸又はメタクリル酸のホモポリマー、アクリル酸又はメタクリル酸と他のモノマーとの共重合体などのように、カルボキシ基が導入された親水性高分子化合物が好ましい。
【0069】
水不溶性ポリマー分散剤は、水不溶性のポリマーであって、顔料を分散可能であれば特に制限はなく、従来公知の水不溶性ポリマー分散剤を用いることができる。水不溶性ポリマー分散剤は、例えば、疎水性の構造単位と親水性の構造単位の両方を含んで構成することができる。
【0070】
ここで、疎水性の構造単位を導くモノマーとしては、スチレン系モノマー、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
また、親水性の構造単位を導くモノマーとしては、親水性基を含むモノマーであれば特に制限はない。この親水性基としては、ノニオン性基、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基等を挙げることができる。なお、ノニオン性基は、水酸基、(窒素原子が無置換の)アミド基、アルキレンオキシド重合体(例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等)に由来する基、糖アルコールに由来する基等が挙げられる。
上記親水性構造単位は、分散安定性の観点から、少なくともカルボキシ基を含むことが好ましく、ノニオン性基とカルボキシル基を共に含む形態であることも好ましい。
【0071】
水不溶性ポリマー分散剤として、具体的には、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体等が挙げられる。
【0072】
水不溶性ポリマー分散剤は、顔料の分散安定性の観点から、カルボキシ基を含むビニルポリマーであることが好ましい。さらに、疎水性の構造単位として少なくとも芳香族基含有モノマーに由来する構造単位を有し、親水性の構造単位としてカルボキシル基を含む構造単位を有するビニルポリマーであることがより好ましい。
【0073】
また、水不溶性ポリマー分散剤の重量平均分子量は、顔料の分散安定性の観点から、3000~200000が好ましく、より好ましくは5000~100000、さらに好ましくは5000~80000、特に好ましくは10000~60000である。
【0074】
着色粒子における分散剤の含有量は、顔料の分散性、インク着色性、分散安定性の観点から、顔料100質量部に対し、分散剤が10~90質量部であることが好ましく、20~70質量部がより好ましく、30~50質量部が特に好ましい。
着色粒子中の分散剤の含有量が、上記範囲内にあることにより、顔料が適量の分散剤で被覆され、粒径が小さく経時安定性に優れた着色粒子を得やすい傾向となり好ましい。
【0075】
着色粒子は、例えば、顔料、分散剤、必要に応じて溶媒(好ましくは有機溶媒)等を含む混合物を、分散機により分散することで得ることができる。
より詳細には、例えば、顔料と、分散剤と、この分散剤を溶解又は分散する有機溶媒との混合物に、塩基性物質を含む水溶液を加える工程(混合・水和工程)の後、有機溶媒を除く工程(溶媒除去工程)を設けて分散物として製造することができる。これにより、顔料が微細に分散され、保存安定性に優れた着色粒子の分散物を作製することができる。
【0076】
上記有機溶媒は、分散剤を溶解又は分散できることが必要であるが、これに加えて水に対してある程度の親和性を有することが好ましい。具体的には、20℃において水に対する溶解度が10~50質量%以下であるものが好ましい。
有機溶媒の好ましい例としては、水溶性有機溶媒が挙げられる。なかでもイソプロパノール、アセトン及びメチルエチルケトンが好ましく、特に、メチルエチルケトンが好ましい。有機溶媒は、1種単独で用いても複数併用してもよい。
【0077】
上記塩基性物質は、ポリマーが有することがあるアニオン性基(好ましくは、カルボキシル基)の中和に用いられる。アニオン性基の中和度には、特に限定がない。通常、最終的に得られる着色粒子の分散物の液性が、例えばpHが4.5~10であるものが好ましい。上記ポリマーの望まれる中和度により、pHを決めることもできる。
【0078】
着色粒子分散物の製造工程での有機溶媒の除去は、特に方法が限定されるものではなく、減圧蒸留等の公知の方法により除去できる。
【0079】
本発明のインク組成物において、上記着色粒子は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0080】
<界面活性剤>
本発明のインク組成物は、表面張力調整剤として界面活性剤を含有してもよい。
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、ベタイン系界面活性剤のいずれも使用することができる。
【0081】
アニオン系界面活性剤の具体例としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ナトリウムジオクチルスルホサクシネート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテ硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、t-オクチルフェノキシエトキシポリエトキシエチル硫酸ナトリウム塩等が挙げられ、これらの1種、又は2種以上を選択することができる。
【0082】
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、アセチレンジオールのエチレンオキサイド付加物等のアセチレンジオール誘導体、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックコポリマー、t-オクチルフェノキシエチルポリエトキシエタノール、ノニルフェノキシエチルポリエトキシエタノール等が挙げられ、これらの1種、又は2種以上を選択することができる。
【0083】
カチオン性界面活性剤としては、テトラアルキルアンモニウム塩、アルキルアミン塩、ベンザルコニウム塩、アルキルピリジウム塩、イミダゾリウム塩等が挙げられ、具体的には、例えば、ジヒドロキシエチルステアリルアミン、2-ヘプタデセニル-ヒドロキシエチルイミダゾリン、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、ステアラミドメチルピリジウムクロライド等が挙げられる。
これらの界面活性剤のなかでも、安定性の点から、ノニオン性界面活性剤が好ましく、アセチレンジオール誘導体がより好ましい。
【0084】
本発明のインク組成物をインクジェット記録方式に用いる場合、インク吐出性の観点から、水性インク組成物の表面張力が20~60mN/mとなるよう界面活性剤の量を調整することが好ましく、より好ましくは20~45mN/mとなる量であり、さらに好ましくは25~40mN/mとなる量である。
本発明のインク組成物の表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学株式会社製)を用い、25℃の温度下で測定される。
本発明のインク組成物中の界面活性剤の含有量は、水性インク組成物を上記表面張力の範囲内とすることができる量であることが好ましい。より具体的には、インク組成物中の界面活性剤の含有量が0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.1~10質量%であり、更に好ましくは0.2~3質量%である。
【0085】
<他の成分>
本発明のインク組成物は、さらに必要に応じて、乾燥防止剤(膨潤剤)、着色防止剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防錆剤、消泡剤、粘土調整剤、pH調製剤、キレート剤等の添加剤を混合してもよい。混合方法に特に制限はなく、通常用いられる混合方法を適宜に選択し、本発明の水性インク組成物を得ることができる。
【0086】
<インク組成物の物性>
本発明のインク組成物の30℃での粘度は、1.2mPa・s以上15.0mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは2mPa・s以上13mPa・s未満であり、更に好ましくは2.5mPa・s以上10mPa・s未満である。
本発明のインク組成物の粘度は、VISCOMETER TV-22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用い、30℃の温度下で測定される。
【0087】
本発明のインク組成物のpHは、分散安定性の観点から、25℃におけるpHが6~11が好ましい。後述のインクセットとする場合は、処理剤との接触によってインク組成物が高速で凝集することが好ましいため、25℃におけるpHが7~10がより好ましく、7~9がさらに好ましい。
【0088】
本発明のインク組成物は、処理剤を含有する記録媒体に吐出された後、このインク組成物と処理剤とが接触して着色剤ないし樹脂微粒子の凝集体を形成することが好ましい。
【0089】
<処理剤>
上記処理剤は、本発明のインク組成物と接触することで水性インク組成物中の顔料を含む凝集体を形成可能な成分(凝集誘導成分)を含有する。この凝集誘導成分としては、酸性化合物、多価金属塩及びカチオン性ポリマーから選ばれる成分が挙げられ、凝集成分が酸性化合物であることが好ましい。処理剤は、凝集誘導成分の他に、必要に応じて他の成分を含んでもよい。
本発明のインクセットを構成する処理剤は、通常は水溶液の形態である。
【0090】
(酸性化合物)
酸性化合物は、記録媒体上において水性インク組成物と接触することにより、水性インク組成物中の成分を凝集(固定化)することができるものであり、固定化剤として機能する。例えば、酸性化合物を含む処理剤を記録媒体(好ましくは、塗工紙)に付与した状態で、この記録媒体に水性インク組成物を着滴すれば、水性インク組成物中の成分を凝集させ、記録媒体上に固定化することができる。
【0091】
酸性化合物としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、シュウ酸、酢酸、安息香酸が挙げられる。揮発抑制と溶媒への溶解性の両立という観点から、酸性化合物は分子量35以上1000以下の酸が好ましく、分子量50以上500以下の酸がさらに好ましく、分子量50以上200以下の酸が特に好ましい。また、pKa(in HO、25℃)としては、インクにじみ防止と光硬化性の両立という観点から、-10以上7以下の酸が好ましく、1以上7以下の酸がより好ましく、1以上5以下の酸が特に好ましい。
pKaはAdvanced Chemistry Development(ACD/Labs)Software V11.02(1994-2014 ACD/Labs)による計算値、あるいは文献値(例えばJ.Phys.Chem.A 2011,115,6641-6645等)に記載の値を用いることができる。
【0092】
これらの中でも、水溶性の高い酸性化合物が好ましい。また、インク組成物と反応してインク全体を固定化させる観点から、3価以下の酸性化合物が好ましく、2価又は3価の酸性化合物が特に好ましい。
処理剤には、酸性化合物を1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0093】
処理剤が酸性化合物を含む水溶液である場合、処理剤のpH(25℃)は、0.1~6.8であることが好ましく、0.1~6.0であることがより好ましく、0.1~5.0であることがさらに好ましい。
【0094】
処理剤が凝集成分として酸性化合物を含む場合、処理剤中の酸性化合物の含有量は、40質量%以下が好ましく、15~40質量%がより好ましく、15~35質量%がさらに好ましく、20~30質量%が特に好ましい。処理剤中の酸性化合物の含有量を15~40質量%とすることで水性インク組成物中の成分をより効率的に固定化することができる。
【0095】
処理剤が凝集誘導成分として酸性化合物を含む場合、処理剤の記録媒体への付与量としては、インク組成物を凝集させるに足る量であれば特に制限はないが、インク組成物を固定化し易いとの観点から、酸性化合物の付与量が0.5g/m~4.0g/mとなるように処理剤を付与することが好ましく、0.9g/m~3.75g/mとなるように処理剤を付与することが好ましい。
【0096】
(多価金属塩)
処理剤としては、凝集誘導成分として多価金属塩の1種又は2種以上を含む形態も好ましい。凝集誘導成分として多価金属塩を含有させることで、高速凝集性を向上させることができる。多価金属塩としては、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)の塩、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)の塩、周期表の第13属からのカチオン(例えば、アルミニウム)の塩、ランタニド類(例えば、ネオジム)の塩を挙げることができる。金属の塩としては、カルボン酸塩(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。中でも、好ましくは、カルボン酸(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びチオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩である。
【0097】
処理剤が凝集誘導成分として多価金属塩を含む場合、処理剤中の多価金属塩の含有量としては、凝集誘導効果の観点から、1~10質量%が好ましく、より好ましくは1.5~7質量%であり、更に好ましくは2~6質量%の範囲である。
【0098】
また、処理剤としては、凝集誘導成分として1種又は2種以上のカチオン性ポリマーを含有することも好ましい。カチオン性ポリマーとしては、カチオン性基として、第一級~第三級アミノ基、又は第四級アンモニウム塩基を有するカチオン性モノマーの単独重合体、このカチオン性モノマーと非カチオン性モノマーとの共重合体又は縮重合体として得られるものが好ましい。カチオン性ポリマーとしては、水溶性ポリマー又は水分散性ラテックス粒子のいずれの形態で用いてもよい。
カチオン性ポリマーの好ましい具体例として、ポリ(ビニルピリジン)塩、ポリアルキルアミノエチルアクリレート、ポリアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリ(ビニルイミダゾール)、ポリエチレンイミン、ポリビグアニド、ポリグアニド、又はポリアリルアミン及びその誘導体などのカチオン性ポリマーを挙げることができる。
【0099】
上記カチオン性ポリマーの重量平均分子量としては、処理剤の粘度の観点では分子量が小さい方が好ましい。処理剤をインクジェット方式で記録媒体に付与する場合には、1,000~500,000の範囲が好ましく、1,500~200,000の範囲がより好ましく、更に好ましくは2,000~100,000の範囲である。重量平均分子量は、1000以上であると凝集速度の観点で有利であり、500,000以下であると吐出信頼性の点で有利である。但し、処理剤をインクジェット以外の方法で記録媒体に付与する場合には、この限りではない。
【0100】
処理剤が凝集誘導成分としてカチオン性ポリマーを含む場合、処理剤中のカチオン性ポリマーの含有量としては、凝集誘導効果の観点から、1~50質量%が好ましく、より好ましくは2~30質量%であり、更に好ましくは2~20質量%の範囲である。
【0101】
<画像形成方法>
本発明のインク組成物を用いた画像形成方法について説明する。
上記画像形成方法は好ましくは、
上記処理剤を記録媒体上に付与する処理剤付与工程と、
処理剤付与工程後の記録媒体上に、着色剤を含む本発明のインク組成物をインクジェット方式により付与して画像を形成するインク付与工程とを含む。
【0102】
(記録媒体)
上記記録媒体に特に制限はなく、紙媒体である浸透性記録媒体でもよく、また、塗工紙(コート紙)に代表される低浸透性記録媒体でもよく、プラスチック、金属、ガラス等の非浸透記録媒体であることも好ましい。本発明の水性インク組成物は、低浸透性ないし非浸透性の記録媒体上に画像部を形成した場合であっても、素早く乾燥させることができ、所望の画像を高速かつ高精度に形成することができる。
本発明において「低浸透性記録媒体」とは、水の吸収係数Kaが0.05~0.5mL/m・ms1/2である記録媒体を意味する。また、本発明において「非浸透性記録媒体」とは、水の吸収係数Kaが0.05mL/m・ms1/2未満である記録媒体を意味する。
水の吸収係数Kaは、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No51:2000(発行:紙パルプ技術協会)に記載されているものと同義であり、具体的には、自動走査吸液計KM500Win(熊谷理機社製)を用いて接触時間100msと接触時間900msにおける水の転移量の差から算出されるものである。
【0103】
非浸透性基材としては特に制限はないが、樹脂基材が好ましい。樹脂基材としては特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂をシート状に成形した基材が挙げられる。樹脂基材は、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリエチレン、又は、ポリイミドを含むことが好ましい。
【0104】
樹脂基材は、透明な樹脂基材であってもよく、着色された樹脂基材であってもよく、少なくとも一部に金属蒸着処理等がなされていてもよい。
樹脂基材の形状は、特に限定されない。樹脂基材は、通常はシート状の樹脂基材であり、被記録媒体の生産性の観点から、巻き取りによってロールを形成可能なシート状の樹脂基材であることがより好ましい。
樹脂基材の厚さとしては、10μm~200μmが好ましく、10μm~100μmがより好ましい。
【0105】
樹脂基材は、表面エネルギーを向上させる観点から、表面処理がなされていてもよい。
表面処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、熱処理、摩耗処理、光照射処理(UV処理)、火炎処理等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
コロナ処理は、例えば、コロナマスター(信光電気計社製、PS-10S)等を用いて行なうことができる。
コロナ処理の条件は、樹脂基材の種類、インクの組成等、場合に応じて適宜選択すればよい。一例として、下記の処理条件が挙げられる。
・処理電圧:10~15.6kV
・処理速度:30~100mm/s
【0106】
(処理剤付与工程)
処理剤付与工程では、上記インクセットに含まれる上記処理剤が記録媒体上に付与される。処理剤は通常は水溶液の状態で記録媒体上に付与される。処理剤の記録媒体上への付与は、公知の液体付与方法を特に制限なく用いることができ、スプレー塗布、塗布ローラー等の塗布、インクジェット方式による付与、浸漬などの任意の方法を選択することができる。
具体的には、例えば、ホリゾンタルサイズプレス法、ロールコーター法、カレンダーサイズプレス法などに代表されるサイズプレス法;エアーナイフコーター法などに代表されるサイズプレス法;エアーナイフコーター法などに代表されるナイフコーター法;ゲートロールコーター法などのトランスファーロールコーター法、ダイレクトロールコーター法、リバースロールコーター法、スクイズロールコーター法などに代表されるロールコーター法;ビルブレードコーター法、ショートデュエルコーター法;ツーストリームコーター法などに代表されるブレードコーター法;ロッドバーコーター法などに代表されるバーコーター法;ロッドバーコーター法などに代表されるバーコーター法;キャストコーター法;グラビアコーター法;カーテンコーター法;ダイコーター法;ブラシコーター法;転写法などが挙げられる。
また、特開平10-230201号公報に記載の塗布装置のように、液量制限部材を備えた塗布装置を用いることで、塗布量を制御して塗布する方法であってもよい。
【0107】
処理剤を付与する領域は、記録媒体全体に付与する全面付与であっても、インク付与工程でインクが付与される領域に部分的に付与する部分付与であってもよい。処理液の付与量を均一に調整し、細線や微細な画像部分等を均質に記録し、画像ムラ等の濃度ムラを抑える観点から、塗布ローラー等を用いた塗布によって記録媒体の画像形成面の全体に付与する全面付与が好ましい。
【0108】
処理剤の付与量を上記範囲に制御して塗布する方法としては、例えば、アニロックスローラーを用いた方法が挙げられる。アニロックスローラーとは、セラミックが溶射されたローラー表面をレーザーで加工しピラミッド型や斜線、亀甲型などの形状を付したローラーである。このローラー表面に付けられた凹みの部分に処理液が入り込み、紙面と接触すると転写されて、アニロックスローラーの凹みで制御された塗布量にて塗布される。
【0109】
(インク付与工程)
インク付与工程では、本発明のインク組成物がインクジェット方式により記録媒体上に付与される。
インクジェット方式による画像形成では、エネルギーを供与することにより、記録媒体上に水性インク組成物を吐出し、着色画像を形成する。なお、本発明に好ましいインクジェット記録方法として、特開2003-306623号公報の段落番号0093~0105に記載の方法が適用できる。
【0110】
インクジェット方式には、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、インクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット方式等のいずれであってもよい。
また、インクジェット方式で用いるインクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。さらに上記インクジェット方式により記録を行う際に使用するインクノズル等についても特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
なお、インクジェット方式には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0111】
またインクジェット方式として、短尺のシリアルヘッドを用い、ヘッドを記録媒体の幅方向に走査させながら記録を行うシャトル方式と、記録媒体の1辺の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いたライン方式とがある。ライン方式では、記録素子の配列方向と直交する方向に記録媒体を走査させることで記録媒体の全面に画像記録を行うことができ、短尺ヘッドを走査するキャリッジ等の搬送系が不要となる。また、キャリッジの移動と記録媒体との複雑な走査制御が不要になり、記録媒体だけが移動するので、シャトル方式に比べて記録速度の高速化が実現できる。
【0112】
上記処理剤付与工程とインク付与工程を行う順序は特に制限されず、画像品質の観点から、処理剤付与工程後にインク付与工程が行われる態様であることが好ましい。すなわちインク付与工程は、処理剤が付与された記録媒体上に本発明のインク組成物を付与する工程であることが好ましい。
【0113】
インク付与工程をインクジェット方式で実施する場合、高精細印画を形成する観点から、インクジェット方式により吐出される水性インク組成物の液滴量が1.5~3.0pLであることが好ましく、1.5~2.5pLであることより好ましい。吐出される水性インク組成物の液滴量は、吐出条件を適宜に調整して調節することができる。
【0114】
<インク乾燥工程>
上記の画像形成方法は、必要に応じて、記録媒体上に付与されたインク組成物中の溶媒(例えば、水、前述の水系媒体など)を乾燥除去するインク乾燥工程を備えていてもよい。インク乾燥工程は、インク溶媒の少なくとも一部を除去できれば特に制限はなく、通常用いられる方法を適用することができる。
【0115】
<熱定着工程>
上記の画像形成方法は、必要により、上記インク乾燥工程の後に、熱定着工程を備えることが好ましい。熱定着処理を施すことにより、記録媒体上の画像の定着が施され、画像の擦過に対する耐性をより向上させることができる。熱定着工程として、例えば、特開2010-221415号公報の段落[0112]~[0120]に記載の熱定着工程を採用することができる。
【0116】
<インク除去工程>
上記画像形成方法は、必要に応じて、インクジェット記録用ヘッドに付着したインク組成物(例えば、乾燥により固形化したインク固形物)をメンテナンス液により除去するインク除去工程を含んでいてもよい。メンテナンス液及びインク除去工程の詳細は、国際公開第2013/180074号に記載されたメンテナンス液及びインク除去工程を好ましく適用することができる。
【実施例
【0117】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0118】
[調製例1] 水性樹脂分散体の調製
<樹脂分散体B-01の調製>
攪拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた2リットル三口フラスコに、水(932g)、12-メタクリルアミドドデカン酸(2.02g)及び炭酸水素カリウム(0.75g)を仕込んで、窒素気流下で80℃まで昇温した。ここに過硫酸カリウム(ラジカル重合開始剤、和光純薬社製)(0.28g)、炭酸水素カリウム(0.21g)及び水(18.2g)からなる混合溶液を加え、10分間攪拌した。次いで、上記三口フラスコに、メチルメタクリレート(206.0g)とベンジルメタクリレート(60.0g)とスチレン(60.0g)とn-ブチルアクリレート(14.0g)とからなるモノマー溶液と、12-メタクリルアミドドデカン酸(23.25g)と炭酸水素カリウム(8.62g)と2-ヒドロキシエチルメタクリレート(三菱ケミカル製・商品名 アクリエステルHISS(高純度)、58.6g)とジエチレングリコールモノメタクリレート(1.4g)と水(160g)とからなるモノマー水溶液とを、8時間で滴下が完了するように等速で滴下した。その際、過硫酸カリウム(0.36g)と炭酸水素カリウム(0.29g)と水(31.9g)とからなる混合溶液を、上記モノマー溶液及びモノマー水溶液の滴下開始直後と滴下開始から1、2、及び3時間後の4回に分けて加えた。上記モノマー溶液及びモノマー水溶液の滴下完了後、1時間攪拌した。得られた反応混合物を網目70μmのメッシュでろ過し、樹脂微粒子が水性媒体中に分散してなる樹脂分散体B-01を得た。得られた樹脂分散体B-01はpH8.5、固形分濃度が25質量%、樹脂分散体B-01中の樹脂微粒子の体積平均粒径が42nm(体積平均粒径はマイクロトラックUPA EX-150(日機装社製)で測定した)、この樹脂微粒子を構成するポリマーの重量平均分子量(Mw)が14万、ガラス転移温度(Tg)が97℃であった。
【0119】
<樹脂分散体B-02~B-21の調製>
使用するモノマーの組み合わせを下表に示す通りに変更したこと以外は、樹脂分散体B-01の調製と同様にして、樹脂分散体B-02~B-21を得た。
なお、樹脂分散体B-10及びB-11の調製においては、ジエチレングリコールモノメタクリレートをイソプロピルアルコールに溶解してからモノマー水溶液中に添加した。また、樹脂分散体B-14及びB-15の調製においては、モノマー水溶液中に補助乳化剤としてオルフィンE1020(日信化学製)を添加した。また、樹脂分散体B-01、B-08及びB-09は、使用したモノマーとそれらの比が同じで樹脂微粒子の粒径が異なる。この粒径は、最初に2リットル三口フラスコに仕込む12-メタクリルアミドドデカン酸の量により制御した。
【0120】
[試験例1] ろ過性の評価
上記で調製した各樹脂分散体(いずれも固形分濃度25%)を、30μmフィルター(Advantec社製)を用いて、0.08MPaで加圧ろ過し、230g以上のろ液(30μmフィルターを通過した液)を得た。このろ液を、1μmフィルター(Advantec社製)を用いて、0.08MPaの一定圧力にて加圧ろ過した。ろ液の質量変化がなくなるまでの間(ろ過不能になるまでの間)にフィルターを通過したろ液の質量を測定した。このろ液の質量を下記評価基準に当てはめ、樹脂分散体のろ過性を評価した。
<ろ過性評価基準>
A:ろ液の質量が200g以上
B:ろ液の質量が130g以上200g未満
C:ろ液の質量が80g以上130g未満
D:ろ液の質量が80g未満
結果を下表に示す。
【0121】
[調製例2] 水性インク組成物の調製
<ブラックインクK-01の調製>
(水不溶性ポリマー分散剤の合成)
反応容器に、スチレン6部、ステアリルメタクリレート11部、スチレンマクロマーAS-6(東亜合成製)4部、プレンマーPP-500(日本油脂製)5部、メタクリル酸5部、2-メルカプトエタノール0.05部、メチルエチルケトン24部の混合溶液を調液した。
一方、スチレン14部、ステアリルメタクリレート24部、スチレンマクロマーAS-6(東亜合成製)9部、プレンマーPP-500(日本油脂製)9部、メタクリル酸10部、2-メルカプトエタノール0.13部、メチルエチルケトン56部及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1.2部からなる混合溶液を調液し、滴下ロートに入れた。
【0122】
次いで、窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を1時間かけて徐々に滴下した。滴下終了から2時間経過後、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1.2部をメチルエチルケトン12部に溶解した溶液を3時間かけて滴下し、更に75℃で2時間、更に80℃で2時間熟成させ、水不溶性ポリマー分散剤のメチルエチルケトン溶液を得た。
【0123】
得られた水不溶性ポリマー分散剤溶液の一部について、溶媒を除去することによって単離し、得られた固形分をテトラヒドロフランにて0.1%に希釈し、GPCにて重量平均分子量を測定した。その結果、単離された固形分は、重量平均分子量が25,000であった。
【0124】
(ブラック顔料分散液の調液)
得られた水不溶性ポリマー分散剤溶液を固形分換算で5.0g、顔料分散体CAB-O-JETTM 200(カーボンブラック、CABOT社製)10.0g、メチルエチルケトン40.0g、1mol/L水酸化ナトリウム8.0g、イオン交換水82.0g、0.1mmジルコニアビーズ300gをベッセルに供給し、レディーミル分散機(アイメックス社製)で1000rpmで6時間分散した。得られた分散液をエバポレーターでメチルエチルケトンが十分留去できるまで減圧濃縮した。顔料濃度を10%になるように調整して、水不溶性ポリマー分散剤で表面が被覆された顔料よりなる着色粒子の分散液として、ブラック顔料分散液BK-01を得た。
【0125】
上記ブラック顔料分散液BK-01と、上記で調製した樹脂分散体B-01(上記ろ過性の評価において、1μmフィルターを用いて加圧ろ過したものを用いた。以降で説明する他のブラックインクの調製についても同様。)と、水と、水溶性有機溶媒とを下記組成となるように混合し、インク組成物を調液した。調液後1μmフィルターで粗大粒子を除去し、水性インク組成物であるブラックインクK-01を調製した。
ブラックインクK-01のインク組成は次の通りである。
・ブラック顔料分散液BK-01(固形分換算) 4.5%
・樹脂分散体B-01(固形分換算) 6%
・オルフィンE1010(日信化学製) 1%
・プロピレングリコール 22%
・ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル 2%
・水 合計が100%となる量
【0126】
<ブラックインクK-02~21の調製>
ブラックインクK-01の調製において、使用する樹脂分散体を下表に示すB-02~B-21に変更したこと以外は、ブラックインクK-01の調製と同様にして、水性インク組成物であるブラックインクK-02~21をそれぞれ調製した。すなわち、ブラックインクK-02~K-21にはそれぞれ、同じ付番の樹脂分散体B-02~B-21が含有されている。
【0127】
[試験例2] 吐出性の評価
固定してあるリコー社製GELJET GX5000プリンターヘッドで解像度1200×1200dpi、打滴量3.5pLの吐出条件にてライン方式で、上記で調製した各ブラックインクを吐出した。充填したインクが、吐出開始時に96本の全ノズルから吐出していることを確認した後、そのままインクを45分間連続で吐出させた。そして、45分間の連続吐出終了後に、最後まで吐出できていたノズル数(45分間連続吐出終了後の吐出ノズル数)を数えた。45分間連続吐出終了後の吐出ノズル数を下記の評価基準に当てはめ、インク組成物の吐出性を評価した。
<吐出性評価基準>
A:45分間連続吐出終了後の吐出ノズル数が94本以上
B:45分間連続吐出終了後の吐出ノズル数が92本又は93本
C:45分間連続吐出終了後の吐出ノズル数が90本又は91本
D:45分間連続吐出終了後の吐出ノズル数が89本以下
結果を下表に示す。
【0128】
[試験例3] 保存安定性の評価
上記で調製した各ブラックインクをポリエチレンテレフタレート製容器に入れて密栓し、50℃の恒温槽中で14日間保存した。保存後の粘度及び分光吸収を測定し、保存前の粘度及び分光吸収に対する保存後の粘度及び分光吸収の変化率に基づき、保存安定性を評価した。
粘度は、R100型粘度計(東機産業社製)により25℃、コーンの回転数20~100rpmの条件にて測定した。
分光吸収は、装置としてV-570(日本分光株式会社製)を用いて、また石英セルを用いて測定した。具体的には、インクを超純水で1500倍に希釈し、対照には超純水を用いて、600nmの吸光度の変化を比較した。
粘度及び分光吸収の変化率を下記式により算出し、保存安定性を下記評価基準に基づき評価した。
変化率(%)=100×{[(保存後の測定値)-(保存前の測定値)]の絶対値}/(保存前の測定値)
<保存安定性評価基準>
A:粘度及び分光吸収のいずれも、変化率が10%未満
B:粘度及び分光吸収のいずれか一方において変化率が10%以上
C:粘度及び分光吸収の両方において変化率が10%以上
結果を下表に示す。
【0129】
【表1】
【0130】
上記表中の略称は次の通りである。
MMA:メチルメタクリレート
BzMA:ベンジルメタクリレート
St:スチレン
nBA:n-ブチルアクリレート
IBOMA:イソボロニルメタクリレート
2EHMA:2-エチルヘキシルメタクリレート
DEGMA:ジエチレングリコールモノメタクリレート(一般式(1)の構成成分を導くモノマー)
MADA:12-メタクリルアミドドデカン酸(HLB:7.9、樹脂分散体中でカリウム塩の状態にある。)
JS-20:下記構造のアニオン性重合反応性乳化剤(HLB:7.9)
【化10】
【0131】
RS3000:下記構造のアニオン性重合反応性乳化剤(HLB:18.4)
【化11】
【0132】
NE-10:下記構造のノニオン性重合反応性乳化剤(HLB:13.7)
【化12】
【0133】
上記表に示されるように、一般式(1)の構成成分の含有量が本発明で規定するよりも少ないと、得られる樹脂分散体は凝集しやすくろ過性に劣り、これらの樹脂分散体を用いた水性インクは吐出性と保存安定性のいずれにも劣る結果となった(比較例1、2)。
逆に、一般式(1)の構成成分の含有量が本発明で規定するよりも多い場合には、得られる樹脂分散体のろ過性はやや改善されるものの、この樹脂分散体を用いた水性インクは吐出性と保存安定性のいずれにおいても劣る結果となった(比較例3)。
これに対し、本発明の規定を満たす樹脂分散体は、いずれもろ過性に優れ、これらの樹脂分散体を用いた水性インクは吐出性と保存安定性の両特性に優れていた(実施例1~18)。