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特許7023250磁気記録媒体、イプシロン型酸化鉄粒子の製造方法、及び磁気記録媒体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】磁気記録媒体、イプシロン型酸化鉄粒子の製造方法、及び磁気記録媒体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/706 20060101AFI20220214BHJP
   G11B 5/714 20060101ALI20220214BHJP
   G11B 5/70 20060101ALI20220214BHJP
   G11B 5/842 20060101ALI20220214BHJP
   G11B 5/852 20060101ALI20220214BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20220214BHJP
   C01G 49/04 20060101ALI20220214BHJP
   H01F 1/11 20060101ALI20220214BHJP
【FI】
G11B5/706
G11B5/714
G11B5/70
G11B5/842 Z
G11B5/852
G11B5/84 Z
C01G49/04
H01F1/11
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019035760
(22)【出願日】2019-02-28
(65)【公開番号】P2020140748
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 貴士
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-003970(JP,A)
【文献】特開2005-222604(JP,A)
【文献】国際公開第2015/198514(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/062478(WO,A1)
【文献】特開平07-210852(JP,A)
【文献】特許第6318540(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/62 - 5/858
C01G 49/04
H01F 1/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イプシロン型酸化鉄粒子を含む磁気記録媒体であり、前記イプシロン型酸化鉄粒子のアスペクト比の変動係数が18%以下であり、且つ、前記磁気記録媒体の長手方向に測定した角形比が0.3を超え、0.5以下である磁気記録媒体。
【請求項2】
前記イプシロン型酸化鉄粒子のアスペクト比が1.00~1.35の範囲である、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記イプシロン型酸化鉄粒子の平均円相当径が8.0nm~15.0nmの範囲にある、請求項1又は請求項2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
水と、3価の鉄イオンを含む化合物と、鉄以外の金属元素を含む金属化合物の少なくとも1種とを混合して鉄イオンを含む混合液を調製する工程Aと、
工程Aにて得られた混合液に、混合液を撹拌しながらアルカリ剤を添加し、混合液の温度を、0℃を超え25℃以下に保持しつつ、撹拌する工程Bと、
工程Bにて得られた混合液を加温して液温を、30℃を超え90℃以下とし、温度を4時間~10時間保持しつつ撹拌して粉体を生成させる反応を継続する工程Cと、
工程Cにて得られた混合液から粉体を取り出し、得られた粉体を熱処理して、熱処理粉体を得る工程Dと、
を含む、アスペクト比の変動係数が18%以下であるイプシロン型酸化鉄粒子の製造方法。
【請求項5】
前記工程Dにおける熱処理温度が800℃以上1400℃以下の範囲である、請求項4に記載のイプシロン型酸化鉄粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の製造方法により得られたアスペクト比の変動係数が18%以下であるイプシロン型酸化鉄粒子と、有機溶媒とを含む磁性層形成用組成物を調製する工程Eと、
非磁性支持体上に、前記磁性層形成用組成物を付与して、磁性層形成用組成物層を形成する工程Fと、
形成された前記磁性層形成用組成物層を磁場配向処理する工程Gと、
前記磁場配向処理された前記磁性層形成用組成物層を乾燥して、磁性層を形成する工程Hと、を含む磁気記録媒体の製造方法であり、
前記工程Eにて磁性層形成用組成物の調製に用いる有機溶媒が、メチルエチルケトン及びシクロヘキサノンであり、全有機溶媒中、沸点が150℃以上の有機溶媒であるシクロヘキサノンの含有率が5質量%~40質量%である、
前記磁気記録媒体の長手方向に測定した角形比が0.3を超え、0.5以下である磁気記録媒体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気記録媒体、イプシロン型酸化鉄粒子の製造方法、及び磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録媒体の高性能化に伴い、磁気記録媒体に用いられる磁気材料として、ナノサイズの粒子でありながら、非常に高い保磁力を発現するイプシロン型酸化鉄(以下、「ε-Fe」又は「ε-酸化鉄」ともいう。)の粒子が注目されている。
磁気記録媒体の高性能化及び高密度化に伴い、磁気記録媒体に対応すべく、高感度な再生ヘッド、例えば、磁気抵抗効果型(MR:Magneto-Resistance)ヘッドのような高感度の再生ヘッドを用いる高容量磁気記録再生システムが提案されている。磁気記録媒体は、高感度な再生ヘッドにて再生した場合にも、高い信号対雑音比(SNR:Signal to Noise Ratio)が得られることが求められる。
【0003】
高容量磁気記録再生システムに用いた場合にも、高SNRを得ることができる磁気記録媒体としては、磁性粉末として、ε-Feを含み、垂直方向に測定した磁性層の残留磁化と厚さとの積が、0.5mA以上6.0mA以下であり、磁性層の長手方向に測定した角形比が、0.3以下である磁性層を有する磁気記録媒体が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6318540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁性層において、ε-酸化鉄粒子を含む磁性材料を使用した磁気記録媒体では、SFD(Switching field distribution)が大きいため、期待される良好なSNRによる記録密度の向上効果が得られない場合がある。
【0006】
特許文献1に記載の磁気記録媒体では、長手方向に測定した角形比が0.3以下に規定されている。長手方向の角形比は0が理想型とされ、長手方向に測定した角形比が0.3以下とすることで、磁気記録媒体が有する非磁性支持体に対して、磁性材料の垂直方向の配向度合いが非常に良好であることを示す。しかし、上記角形比を有する磁性層を効率よく製造することは困難であるという問題がある。
【0007】
本発明者が、ε-酸化鉄粒子を磁気記録媒体の磁性層に用いる場合における磁性材料の均一性に着目し、種々の検討を重ねたところ、イプシロン型酸化鉄粒子のアスペクト比の変動係数を小さくすることが有効であることが判明した。
【0008】
本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、イプシロン型酸化鉄粒子を含み、SNRが良好な磁気記録媒体を提供することである。
また、本発明の他の実施形態が解決しようとする課題は、SNRが良好な磁気記録媒体の製造に有用な、アスペクト比の変動係数が小さい磁性粉体を形成できるイプシロン型酸化鉄粒子の製造方法を提供することである。
また、本発明の他の実施形態が解決しようとする課題は、イプシロン型酸化鉄粒子を含み、SNRが良好な磁気記録媒体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> イプシロン型酸化鉄粒子を含む磁気記録媒体であり、上記イプシロン型酸化鉄粒子のアスペクト比の変動係数が18%以下であり、且つ、磁気記録媒体の長手方向に測定した角形比が0.3を超え、0.5以下である磁気記録媒体。
【0010】
<2> 上記イプシロン型酸化鉄粒子のアスペクト比が1.00~1.35の範囲である、<1>に記載の磁気記録媒体。
<3> 上記イプシロン型酸化鉄粒子の円相当平均径が8.0nm~15.0nmの範囲にある、<1>又は<2>に記載の磁気記録媒体。
【0011】
<4> 水と、3価の鉄イオンを含む化合物と、鉄以外の金属元素を含む金属化合物の少なくとも1種とを混合して鉄イオンを含む混合液を調製する工程Aと、工程Aにて得られた混合液に、混合液を撹拌しながらアルカリ剤を添加し、混合液の温度を、0℃を超え25℃以下に保持しつつ、撹拌する工程Bと、工程Bにて得られた混合液を加温して液温を、30℃を超え90℃以下とし、温度を保持しつつ撹拌する工程Cと、工程Cにて得られた混合液から粉体を取り出し、得られた粉体を熱処理して、熱処理粉体を得る工程Dと、を含む、アスペクト比の変動係数が18%以下であるイプシロン型酸化鉄粒子の製造方法。
<5> 上記工程Dにおける熱処理温度が800℃以上1400℃以下の範囲である<4>に記載のイプシロン型酸化鉄粒子の製造方法。
【0012】
<6> <4>又は<5>に記載の製造方法により得られたイプシロン型酸化鉄粒子と、有機溶媒とを含む磁性層形成用組成物を調製する工程Eと、非磁性支持体上に、磁性層形成用組成物を付与して、磁性層形成用組成物層を形成する工程Fと、形成された磁性層形成用組成物層を磁場配向処理する工程Gと、磁場配向処理された磁性層形成用組成物層を乾燥して、磁性層を形成する工程Hと、を含み、工程Eにて磁性層形成用組成物の調製に用いる全有機溶媒中、沸点が150℃以上の有機溶媒の含有率が、5質量%~40質量%である、磁気記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態によれば、イプシロン型酸化鉄粒子を含み、SNRが良好な磁気記録媒体を提供することができる。
また、本発明の他の実施形態によれば、SNRが良好な磁気記録媒体の製造に有用な、アスペクト比の変動係数が小さい磁性粉体が形成されるイプシロン型酸化鉄粒子の製造方法を提供することができる。
また、本発明の他の実施形態によれば、イプシロン型酸化鉄粒子を含み、SNRが良好な磁気記録媒体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の磁気記録媒体、イプシロン型酸化鉄粒子の製造方法、及び磁気記録媒体の製造方法の一例について詳細に説明する。但し、本開示は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において、適宜、変更を加えて実施できる。
【0015】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
【0016】
本開示において、「工程」の用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば本用語に含まれる。
【0017】
[磁気記録媒体]
本開示の磁気記録媒体は、イプシロン型酸化鉄粒子を含む磁気記録媒体であり、上記イプシロン型酸化鉄粒子のアスペクト比の変動係数が18%以下であり、且つ、上記磁気記録媒体の長手方向に測定した角形比が0.3を超え、0.5以下である。
【0018】
既述のとおり、ε-酸化鉄の粒子は、ナノサイズの微粒子でありながら、非常に高い保磁力を発現することから、磁性材料として注目されている。しかし、磁性材料としてε-酸化鉄粒子を使用した磁気記録媒体では、磁化反転が起きる場合の磁場の値の分布(SFD)が大きいため、ノイズが大きくなり、SNRが低くなるという問題がある。
他方、磁気記録媒体における長手方向に測定した角形比(Mr/Ms)は、理想的には0に近い方が好ましく、一般に、角形比が0.3を超えることは、非磁性支持体に対して垂直方向の磁性粉配向度合が悪化することを示唆すると言われており、磁性粉配向度合が悪化に起因してSNRの劣化につながることが懸念されていた。
本発明者が、ε-酸化鉄粒子のアスペクト比に着目して検討したところ、アスペクト比の変動係数を18%以下とすることで、角形比が0.3を超えた範囲、より具体的には、長手方向に測定した角形比が0.3を超え、0.5以下である範囲において、良好なSNRが達成されることを見出した。これは新たな知見である。
長手方向の角形比が0.3を超え、0.5以下の範囲においてSNRが向上する理由は定かではないが以下のように推測している。
長手方向の角形比は、従来、良好とされていた0.3以下に対し、やや高い方が、すなわち、ε-酸化鉄粒子が従来と比べ長手方向にやや傾いでいる、即ち、角形比が0.3を超える方が、ε-酸化鉄粒子が記録ヘッドからの記録磁界を受けた際に、より磁化反転しやすくなるためではないかと考えている。
また、ε-酸化鉄粒子がより磁化反転しやすくなる傾向が、ε-酸化鉄粒子のアスペクト比の変動係数を18%以下に低減した場合のみ観察される理由としては、アスペクト比の変動係数が小さい、即ち、磁性粒子のアスペクト比がより均一に揃っていることにより、配向方向を傾ける効果がより顕在化するためだと考えている。
なお、上記の説明は、現在推定される作用機構の一つであり、本開示は上記推定機構に何ら制限されない。
【0019】
<イプシロン型酸化鉄粒子:ε-酸化鉄粒子>
本開示の磁気記録媒体は、磁性粒子としてε-酸化鉄粒子を含む。磁性粒子がε型の結晶構造を有する酸化鉄系化合物であることの確認は、例えば、X線回折(XRD)法により行うことができる。
また、ε-酸化鉄粒子を構成するε-酸化鉄系化合物の組成は、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法により確認することができる。
【0020】
(ε-酸化鉄粒子のアスペクト比の変動係数)
ε-酸化鉄粒子のアスペクト比の変動係数(以下、「変動係数」と称することがある)は18%以下であり、15%以下であることが好ましく、13%以下であることがより好ましい。
【0021】
本開示において、ε-酸化鉄粒子のアスペクト比は、ε-酸化鉄粒子の一次粒子500個の、短軸長の数平均値(所謂、平均短軸長)に対する長軸長の数平均値(所謂、平均長軸長)の比(即ち、アスペクト比)を意味する。
ε-酸化鉄粒子の平均長軸長及び平均アスペクト比は、具体的には、以下の方法により求める。
ε-酸化鉄粒子を、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)を用いて、撮影倍率80,000倍で撮影し、総倍率500,000倍になる倍率で印画紙に印刷する。印刷された個々の粒子から一次粒子を選び、デジタイザーで一次粒子の輪郭をトレースする。なお、一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。トレースした輪郭における長軸長及び短軸長を、画像解析ソフトを用いて求める。
数枚の印画紙に印刷された一次粒子のうち任意に抽出した500個について、長軸長及び短軸長を求める。求めた500個の粒子の長軸長及び短軸長をそれぞれ単純平均(即ち、数平均)することにより、平均長軸長及び平均アスペクト比(平均長軸長さ/平均短軸長)を求める。
【0022】
透過型電子顕微鏡としては、例えば、(株)日立ハイテクノロージーズの透過型電子顕微鏡(型番:H-9000型)を好適に用いることができる。但し、透過型電子顕微鏡は、これに限定されない。
画像解析ソフトとしては、例えば、カールツァイス社製の画像解析ソフト(商品名:KS-400)、フリーソフトであるImageJ等を好適に用いることができる。但し、画像解析ソフトは、これに限定されない。
アスペクト比の変動係数は、上記で求めた粒子の平均アスペクト比(アスペクト比の平均値)から、〔(アスペクト比の標準偏差)/(アスペクト比の平均値)〕×100として求めた。
アスペクト比の変動係数は、例えば、ε-酸化鉄粒子の製造条件、特に、反応温度条件を制御すること、ε-酸化鉄粒子の製造時に、適切な表面修飾剤を使用すること等により調整することができる。
【0023】
ε-酸化鉄粒子は、アスペクト比の変動係数が上記範囲にあれば、それぞれの粒子の形状は、特に制限されない。
ε-酸化鉄粒子の形状としては、例えば、球状、ロッド状、針状等の形状が挙げられる。
これらの中でも、ε-酸化鉄粒子の形状としては、球状が好ましい。球状は、他の形状と比較して比表面積をより小さくできるため、例えば、磁性粒子としての分散及び配向の観点から好ましい。
【0024】
球形に近いという観点からは、ε-酸化鉄粒子のアスペクト比は、1.00~1.35の範囲であることが好ましく、1.00~1.30の範囲であることがより好ましく、1.00~1.25の範囲であることがさらに好ましい。
ε-酸化鉄粒子のアスペクト比が、上記範囲であることで、磁気記録媒体の磁性層におけるε-酸化鉄粒子の分散性及び、磁性層における磁性粒子の配向性がより良好となる。
【0025】
ε-酸化鉄粒子の形状は球状が好ましい。しかし、粉体は、原料、製造方法等の影響を受け、必ずしも形状が球状に揃わず、円柱形、不定形などの粒子が存在することがある。そこで、ε-酸化鉄粒子の粒子サイズとして、本開示では粒子の平均円相当径を採用する。
本開示の磁気記録媒体に用いられるε-酸化鉄粒子の平均円相当径は、例えば、7nm~35nmであることが好ましく、8nm~25nmであることがより好ましく、8nm~15nmであることが更に好ましい。
ε-酸化鉄粒子の平均円相当径が7nm以上であると、取り扱い性がより良好となる。また、ε-酸化鉄の結晶構造がより安定化し、かつ、磁気特性の分布がより小さくなる。
ε-酸化鉄粒子の平均円相当径が35nm以下であると、記録密度がより向上し得る。また、記録再生に適した磁気特性に調整しやすいため、SNRがより良好な磁気記録媒体を実現し得る。
【0026】
本開示において、「ε-酸化鉄粒子の平均円相当径」は、ε-酸化鉄粒子の一次粒子500個の円相当径の数平均値を意味する。
個々のε-酸化鉄粒子の円相当径は、透過型電子顕微鏡(TEM)像に基づき求める。詳細には、TEM像におけるε-酸化鉄粒子の面積(即ち、投影面積)と同一面積の円の直径を、円相当径とし、これを単純平均することで、平均円相当径とする。
ε-酸化鉄粒子の平均円相当径の測定方法の具体例は、後述の実施例に示すとおりである。
【0027】
本開示の磁気記録媒体に用いられるε-酸化鉄粒子は、種々の態様をとり得る。
本開示に係るε-酸化鉄粒子の例として、下記の式(1-1)で表されるε-酸化鉄系化合物の粒子が挙げられる。
【0028】
【化1】

【0029】
式(1-1)中、Aは、Ga、Al、In、及びRhからなる群より選ばれる少なくとも1種の3価の金属元素を表す。Bは、Co、Ni、Mn、及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の2価の金属元素を表し、Cは、Ti及びSnから選ばれる少なくとも1種の4価の金属元素を表す。
xは、0<x<1を満たし、yは、0<y<1を満たし、zは、0<z<1を満たし、x+y+z<2である。
なお、本開示におけるε-酸化鉄粒子は、ε相に加え、効果を損なわない範囲において、粒子内に、α相、γ相などの異なる結晶相を、一部含んでいてもよい。
【0030】
本開示のε-酸化鉄粒子の製造方法により得られたε-酸化鉄粒子が、ε型の結晶構造を有する酸化鉄系化合物であることの確認は、例えば、X線回折(XRD)法により行うことができる。
【0031】
また、ε-酸化鉄粒子の組成は、高周波誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法により確認することができる。
具体的には、試料の粉体12mgと、4mol/L(リットル;以下、同じ。)の塩酸水溶液10mLと、を入れた容器を、設定温度80℃のホットプレート上で3時間保持し、溶解液を得る。次いで、得られた溶解液を、0.1μmのメンブレンフィルタを用いて濾過する。得られた濾液の元素分析を、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置を用いて行う。得られた元素分析の結果に基づき、鉄原子100原子%に対する各金属原子の含有率を求める。得られた含有率に基づき、組成を確認する。
測定装置としては、例えば、(株)島津製作所のICPS-8100(商品名)を好適に用いることができる。但し、測定装置は、これに限定されない。
【0032】
アスペクト比の変動係数が18%以下であるε-酸化鉄粒子の製造方法としては、後述の本開示のε-酸化鉄粒子の製造方法を好適に挙げることができる。
なお、ε-酸化鉄粒子の円相当径は、例えば、ε-酸化鉄粒子を調製する際の焼成温度を高くすることにより大きくすることができ、低くすることにより小さくすることができる。
【0033】
(磁気記録媒体の長手方向に測定した角形比)
本開示の磁気記録媒体の長手方向に測定した角形比(以下、「長手方向のSQ」とも称する)は0.3を超え0.5以下であり、0.33~0.45であることが好ましく、0.35~0.40であることがより好ましい。
【0034】
磁気記録媒体の長手方向に測定した角形比(SQ)は、以下の方法で測定することができる。
まず、測定試料である磁気記録媒体、例えば、磁気テープを準備する。
例えば、磁気記録媒体として磁気テープを準備した場合には、雰囲気温度23℃の環境下、測定試料である磁気テープを、磁気テープの長手方向が磁場の印加方向と平行となるように設置し、印加磁界±1194kA/m(15kOe)の範囲で磁場を掃引することにより、印加磁界に対する磁気テープの長手方向の磁化強度を測定する。
なお、磁界掃引速度は、6.7kA/m/s(秒)〔84Oe/s(秒)〕とする。
SQは、印加磁界1194kA/mにおける磁化強度Ms(飽和磁化)および、印加磁界0kA/mにおける磁化強度Mr(残留磁化)を用いて、Mr/Msと表される。
磁気記録媒体として磁気テープを準備する場合、磁気テープの搬送方向を長手方向とすればよい。また、磁気記録媒体として磁気ディスクを準備する場合には、測定試料を切り出し、一方を長手方向と定める。
【0035】
本開示の磁気記録媒体は、磁性層に含まれるε-酸化鉄粒子のアスペクト比の変動係数が18%以下に制御されているため、磁気記録媒体の長手方向に測定したSQが0.3を超え、0.5以下の範囲において、良好なSNRが実現される。
長手方向のSQは、例えば、ε-酸化鉄粒子の製造条件、特に、反応時に用いる有機溶媒において、沸点150℃以上の高沸点溶媒の含有比率を適切な範囲として、磁性層の形成時におけるε-酸化鉄粒子の配向状態を制御すること、磁気層を塗布後に乾燥させる際の乾燥風の温度、乾燥風の風量、磁気層の塗布速度、配向してから乾燥するまでの時間、配向磁石の印加磁場方向等を制御すること等により調整することができる。
【0036】
[イプシロン型酸化鉄粒子の製造方法]
既述の本開示の磁気記録媒体に好適に使用されるアスペクト比の変動係数が18%以下であるε-酸化鉄粒子の製造方法には特に制限はない。
アスペクト比の変動係数が18%以下であるε-酸化鉄粒子を容易に製造しうるという観点からは、本開示のε-酸化鉄粒子の製造方法が好ましい。
【0037】
本開示のε-酸化鉄粒子の製造方法は、水と、3価の鉄イオンを含む化合物と、鉄以外の金属元素を含む金属化合物の少なくとも1種とを混合して鉄イオンを含む混合液を調製する工程Aと、工程Aにて得られた混合液に、混合液を撹拌しながらアルカリ剤を添加し、混合液の温度を、0℃を超え25℃以下に保持しつつ、撹拌する工程Bと、工程Bにて得られた混合液を加温して液温を、30℃を超え90℃以下とし、温度を保持しつつ撹拌する工程Cと、工程Cにて得られた混合液から粉体を取り出し、得られた粉体を熱処理して、熱処理粉体を得る工程Dと、を含む、粒子のアスペクト比の変動係数が18%以下であるイプシロン型酸化鉄粒子の製造方法である。
【0038】
<工程A>
工程Aでは、水と、3価の鉄イオンを含む化合物と、鉄以外の金属元素を含む金属化合物の少なくとも1種とを混合して鉄イオンを含む混合液を調製する。
工程Aで用いられる鉄原料である3価の鉄イオンを含む化合物、及び鉄以外の金属元素を含む金属化合物は、一般にε-酸化鉄粒子の調製に用いられる材料であれば、特に制限無く用いることができる。
ε-酸化鉄粒子の調製に用いられる材料としては、式(1-1)で表されるε-酸化鉄が挙げられる。
【0039】
【化2】

【0040】
例えば、上記式(1-1)で表されるε-酸化鉄の粒子を製造する場合、式(1-1)中、Aは、Ga、Al、In、及びRhからなる群より選ばれる少なくとも1種の3価の金属元素を表す。Bは、Co、Ni、Mn、及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の2価の金属元素を表し、Cは、Ti及びSnから選ばれる少なくとも1種の4価の金属元素を表す。
xは、0<x<1を満たし、yは、0<y<1を満たし、zは、0<z<1を満たし、x+y+z<2である。
【0041】
ε相の安定化及び磁気特性の観点から、Aとしては、Ga、及びAlから選ばれる金属元素であることが好ましく、Bは、Co、及びMnから選ばれる金属元素であることが好ましく、Cは、Tiであることが好ましい。
式(1-1)中、x、y、及びzにおいて、磁気記録媒体に適用するための好ましい磁気特性を取り得るという観点から、xは、0<x<0.7を満たし、yは、0<y<0.4を満たし、かつ、zは、0<z<0.4を満たすことが好ましく、0.05<x<0.4を満たし、0.01<y<0.2を満たし、かつ、0.01<z<0.2を満たすことがより好ましい。
式(1-1)で表されるε-酸化鉄の粒子としては、具体的には、例えば、ε-Ga0.24Co0.05Ti0.05Fe1.66、ε-Al(0.20)Co(0.06)Ti(0.06)Fe(1.68)、ε-Ga(0.15)Mn(0.05)Ti(0.05)Fe(1.75)などが挙げられる。
【0042】
工程Aの代表的な例としては、水に、硝酸鉄などの3価の鉄化合物、及び目的に応じた鉄以外の金属元素、例えば、アルミニウム、チタンなどを含む金属化合物を溶解させ、十分に撹拌混合して、混合液を調製する。
【0043】
<工程B>
工程Bは、工程Aで得られた混合液に、混合液を撹拌しながらアルカリ剤を添加し、混合液の温度を、0℃を超え25℃以下に保持しつつ、撹拌して反応させる工程である。
工程Bでは、混合液にアルカリ剤を添加して反応させる際に、混合液の温度を、0℃を超え25℃以下、即ち、室温以下の温度に維持し、上記温度条件下で反応を進行させる。ε-酸化鉄の前駆体を、他の酸化鉄から合成する場合、原料となる酸化鉄を含む混合液を、当初、室温以下の低温で処理することにより、まず、粒子径が小さく、且つ、均一な粒子が析出する。
【0044】
工程Bにおける混合液の温度は0℃を超え25℃以下であり、1℃~20℃の範囲が好ましく、5℃~15℃の範囲がより好ましい。
反応時間には得に制限はないが、粒子径が小さく、且つ、均一な粒子の析出をより効率よく行なうという観点からは、1時間以上であることが好ましく、1時間~3時間がより好ましく、1.5時間~2.5時間がさらに好ましい。
上記温度範囲に維持して、上記反応時間にて十分に反応をさせることで、ε-酸化鉄粒子の核となりうる微細であり、且つ、均一な粒子をより効率よく得ることができる。
【0045】
<工程C>
工程Cは、工程Bにて低温にて反応させて得た、ε-酸化鉄粒子の微細であり均一な粒子を含む混合液を加温して、液温を、30℃を超え90℃以下とし、温度を保持しつつ撹拌する工程である。
工程Bにて、微細で均一な粒子が生成され、その後、昇温して反応を継続させることで、粒子の成長(凝集)が均一になされ、アスペクト比の変動係数が18%以下の均一なアスペクト比を有する粒子が生成され易くなる。
なお、工程Cに先立つ反応工程にて、当初から室温又はそれを超える温度にて粒子の合成を行なうと、微細且つ均一な粒子が生成し難くなる。そして、例えば、棒状の磁性粒子と、カスのような微細な磁性粒子が生成されてしまい、その後、反応を継続しても棒状の粒子に対し、微細なカスの如き粒子が凝集せずに残存することから、得られた磁性粒子のアスペクト比の変動係数は18%以下とはならないと推定される。
【0046】
工程Cにおける昇温後の混合液の温度は、30℃を超え90℃以下であり、40℃~85℃が好ましく、50℃~80℃がより好ましい。
反応時間には得に制限はない。磁性粒子として好ましいサイズとアスペクト比の変動係数をより効果的に達成しうるという観点からは、工程Cにおける反応時間は、4時間以上であることが好ましく、4時間~10時間がより好ましく、5時間~9時間がさらに好ましい。
反応温度が30℃を超えることで、ε-酸化鉄粒子の成長がより効率よく行なわれる。反応温度が90℃以下であることで、粒子の急激な成長を抑えることができるという利点を有する。
上記温度範囲で、且つ、上記反応時間で十分に反応をさせることで、ε-酸化鉄粒子の核となりうる微細であり均一な粒子が成長し、アスペクト比の変動係数が18%以下であるような、アスペクト比が均一な磁性粒子が得られる。
【0047】
<工程D>
工程Dでは、工程Cにて生成された粉体を、混合液から粉体を取り出し、得られた粉体を熱処理して、熱処理粉体を得る。
混合液から粉体を取り出す方法は、特に制限されない。例えば、操作の簡便性の観点から、粉体を取り出す方法としては、遠心分離する方法が好ましく挙げられる。
遠心分離の条件は、特に制限されず、例えば、1,000rpm(revolutions per minute;以下、同じ。)~10,000rpmにて1分間~60分間とすることができる。
【0048】
取り出した粉体は、熱処理前に乾燥工程に付してもよい。
乾燥方法は、特に制限されず、例えば、乾燥機(例えば、オーブン)を用いる方法が挙げられる。
その後、粉体を熱処理(所謂、焼成)して、熱処理粉体を得る。熱処理を施すことで、粉体が磁性を帯びる。
熱処理における雰囲気は、特に制限されない。熱処理は、例えば、大気雰囲気下、即ち、常圧下であって、空気の存在する環境下で行ってもよい。
【0049】
熱処理温度(所謂、焼成温度)は、800℃以上1400℃以下が好ましく、850℃~1200℃の範囲であることが好ましく、900℃~1150℃の範囲であることがより好ましい。
熱処理時間は、特に制限されず、例えば、0.5時間~20時間とすることができる。
【0050】
本開示のε-酸化鉄粒子の製造方法は、既述の工程A~工程Dに加え、その他の工程を更に含んでいてもよい。
その他の任意の工程としては、例えば、熱処理粉体とアルカリ水溶液とを混合して粉体をアルカリ処理する工程が挙げられる。
熱処理粉体とアルカリ水溶液とを混合して、熱処理粉体をアルカリ処理することで、熱処理粉体の各粒子に残存する不純物が除去される。
【0051】
アルカリ水溶液としては、特に制限されないが、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液、水酸化カリウム(KOH)水溶液等の強アルカリ水溶液が好ましい。
アルカリ水溶液の溶媒である水は、純水、イオン交換水等であることが好ましい。
【0052】
熱処理粉体と混合する際のアルカリ水溶液の液温は、特に制限されず、例えば、70℃以上とすることができる。また、アルカリ水溶液の液温は、溶媒が水であることから、アルカリ水溶液の液温は、100℃未満であることが好ましい。
アルカリ水溶液の濃度は、特に制限されず、例えば、4モル/L以上とすることができる。
【0053】
アルカリ水溶液の使用量は、特に制限されず、例えば、熱処理粉体の質量に対して、4倍量~200倍量であることが好ましく、10倍量~100倍量であることがより好ましい。
【0054】
アルカリ処理する際には、熱処理粉体とアルカリ水溶液とは、単に混合すればよい。
熱処理粉体とアルカリ水溶液とは、全量を一度に混合してもよく、熱処理粉体とアルカリ水溶液とを少しずつ徐々に混合してもよい。また、一方に他方を少しずつ添加しながら混合してもよい。
例えば、反応の均一性の観点からは、熱処理粉体とアルカリ水溶液とは、アルカリ水溶液に、熱処理粉体を少しずつ添加しながら混合することが好ましい。
熱処理粉体とアルカリ水溶液とを混合する方法は、特に制限されず、例えば、撹拌により混合する方法が挙げられる。
撹拌手段としては、特に制限はなく、一般的な撹拌器具又は撹拌装置を用いることができる。
撹拌時間は、特に制限されず、例えば、3時間~36時間とすることができる。
【0055】
アルカリ処理後は、アルカリ水溶液中から不純物などが除去された粒子の集合体(即ち、ε-酸化鉄粒子)を取り出す。
ε-酸化鉄粒子を取り出す方法としては、特に制限されず、例えば、操作の簡便性の観点から、遠心分離する方法が好ましく挙げられる。
【0056】
アルカリ処理工程を経た粉体は、さらに洗浄処理してアルカリ剤を除去する工程に付すことができる。
洗浄には、水を用いてもよく、水溶性高分子を含有する水溶液を用いてもよい。
水溶性高分子を含有する水溶液を用いると、水溶液中のε-酸化鉄粒子の分散性が向上する傾向にある。また、ε-酸化鉄粒子の表面が水溶性高分子で処理されることで、その後の固液分離によって、所望されない微細粒子を効率よく除去できる傾向にある。
【0057】
洗浄に用いる水、及び、水溶性高分子を含有する水溶液の溶媒である水は、純水、イオン交換水等であることが好ましい。
水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ヒドロキシメチルセルロース(HMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルピロリドン(PVP)等が挙げられる。
【0058】
固液分離の方法としては、特に制限されず、例えば、操作の簡便性の観点から、遠心分離する方法が好ましく挙げられる。
遠心分離の条件は、特に制限されず、例えば、1,000rpm~10,000rpmにて1分間~60分間とすることができる。
【0059】
洗浄したε-酸化鉄粒子の乾燥方法は、特に制限されず、例えば、内部雰囲気温度60℃~110℃の乾燥機(例えば、オーブン)を用いる方法が挙げられる。
【0060】
本開示の製造方法によれば、アスペクト比の変動係数が18%以下である、均一なアスペクト比を有するε-酸化鉄粒子を簡易に得ることができる。
【0061】
[磁気記録媒体の製造方法]
本開示の磁気記録媒体の製造方法は、既述の本開示のε-酸化鉄粒子の製造方法により得られたアスペクト比の変動係数が18%以下のε-酸化鉄粒子を用いた磁気記録媒体の製造方法である。
【0062】
本開示の磁気記録媒体の製造方法は、既述の本開示のε-酸化鉄粒子の製造方法により得られたイプシロン型酸化鉄粒子と、有機溶媒とを含む磁性層形成用組成物を調製する工程Eと、非磁性支持体上に、磁性層形成用組成物を付与して、磁性層形成用組成物層を形成する工程Fと、形成された磁性層形成用組成物層を磁場配向処理する工程Gと、磁場配向処理された磁性層形成用組成物層を乾燥して、磁性層を形成する工程Hと、を含む磁気記録媒体の製造方法であり、工程Eにて磁性層形成用組成物の調製に用いる全有機溶媒中、沸点が150℃以上の有機溶媒の含有率が、5質量%~40質量%である。
【0063】
<工程E>
工程Eでは、既述の本開示のε-酸化鉄粒子の製造方法により得られたイプシロン型酸化鉄粒子と、有機溶媒とを含む磁性層形成用組成物を調製する。
【0064】
本開示のε-酸化鉄粒子の製造方法により、アスペクト比の変動係数が18%以下であるε-酸化鉄粒子を得ることの詳細については、既述のとおりであるため、ここでは説明を省略する。
工程Eは、ε-酸化鉄粒子、結合剤、並びに、必要に応じて、研磨剤、各種添加剤(例えば、後述の他の添加剤)及び溶媒からなる群より選ばれる少なくとも1種を混合して、混合液を得る工程E-1と、工程E-1にて得られた混合液を分散する工程E-2を含むことができる。
【0065】
ε-酸化鉄粒子、結合剤、研磨剤等の全ての原料は、工程E中のいずれの時点で混合してもよい。
工程Eでは、個々の原料を、一括して混合してもよいし、2回以上に分割して混合してもよい。
例えば、結合剤については、工程E-2において他の原料と混合した後、分散後の粘度調整のために、更に添加して混合することができる。
【0066】
磁性層形成用組成物の原料の分散には、バッチ式縦型サンドミル、横型ビーズミル等の公知の分散装置を用いることができる。
分散ビーズとしては、ガラスビーズ、ジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズ等を用いることができる。分散ビーズの粒径(所謂、ビーズ径)及び充填率は、適宜最適化して用いることができる。
磁性層形成用組成物の原料の分散には、例えば、公知の超音波装置を用いることもできる。
また、工程E-2の前に、磁性層形成用組成物の原料の少なくとも一部を、例えば、オープンニーダを用いて混練してもよい。
【0067】
磁性層形成用組成物の原料は、原料ごとに溶液を調製した後に、混合してもよい。例えば、ε-酸化鉄粒子を含む磁性液と、研磨剤を含む研磨剤液と、をそれぞれ調製した後に、混合して分散することができる。
【0068】
(磁性層形成用組成物)
磁性層形成用組成物を調製するための「ε-酸化鉄粒子」は、「ε-酸化鉄粒子」の項で説明したアスペクト比の変動係数が18%以下の粒子と同義であり、好ましい態様も同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0069】
磁性層形成用組成物中におけるε-酸化鉄粒子の含有率は、磁性層形成用組成物の全質量に対して、5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、8質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
【0070】
(結合剤)
磁性層形成用組成物は、結合剤を含むことが好ましい。
結合剤としては、各種樹脂が挙げられる。
結合剤に用いられる樹脂は、目的とする強度、耐久性等の物性を満たす層を形成できれば、特に制限されない。
【0071】
結合剤に用いられる樹脂は、単独重合体(所謂、ホモポリマー)であってもよいし、共重合体(所謂、コポリマー)であってもよい。また、樹脂は、公知の電子線硬化型樹脂であってよい。
結合剤に用いられる樹脂としては、ポリウレタン、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル系樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂などが挙げられる。
これらの中でも、結合剤に用いられる樹脂としては、ポリウレタン、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、及び塩化ビニル系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂が好ましい。
【0072】
結合剤に用いられる樹脂は、例えば、ε-酸化鉄粒子の分散性をより向上させる観点から、ε-酸化鉄粒子の表面に吸着する官能基(例えば、極性基)を分子内に有することが好ましい。
好ましい官能基としては、-SOM、-SOM、-PO(OM)、-OPO(OM)、-COOM、=NSOM、-NRSOM、-NR、-N等が挙げられる。
ここで、Mは、水素原子又はNa、K等のアルカリ金属原子を表す。Rは、アルキレン基を表し、R、R、及びRは、各々独立に、水素原子、アルキル基、又はヒドロキシアルキル基を表す。Xは、Cl、Br等のハロゲン原子を表す。
結合剤に用いられる樹脂が上記官能基を有する場合、樹脂中の官能基の含有量は、0.01meq/g~2.0meq/gであることが好ましく、0.3meq/g~1.2meq/g以下であることがより好ましい。
樹脂中の官能基の含有量が上記範囲内にあると、磁性層におけるε-酸化鉄粒子の分散性がより良好となり、磁性密度がより向上し得る。
【0073】
結合剤に用いられる樹脂としては、-SONa(以下、「SONa基」ともいう。)を有するポリウレタンがより好ましい。結合剤としてSONa基を有するポリウレタンを用いる場合、SONa基は、ポリウレタンに対して、0.01meq/g~1.0meq/gの範囲の量で含まれることが好ましい。
【0074】
結合剤に用いられる樹脂の分子量は、重量平均分子量として、例えば、10,000~200,000とすることができる。
本開示における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された値をポリスチレン換算して求められる値である。測定条件としては、下記の条件を挙げることができる。
【0075】
-条件-
GPC装置:HLC-8120(東ソー(株))
カラム:TSK gel Multipore HXL-M(東ソー(株)、7.8mmID(Inner Diameter)×30.0cm)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
試料濃度:0.5質量%
サンプル注入量:10μL
流速:0.6mL/min
測定温度:40℃
検出器:RI検出器
【0076】
磁性層形成用組成物は、結合剤を含む場合、結合剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0077】
磁性層形成用組成物が結合剤を含む場合、磁性層形成用組成物中における結合剤の含有量は、特に制限されず、例えば、ε-酸化鉄粒子100質量部に対して、5質量部以上50質量部以下であることが好ましく、10質量部以上30質量部以下であることがより好ましい。
磁性層形成用組成物中における結合剤の含有量が、ε-酸化鉄粒子100質量部に対して、上記の範囲内であると、例えば、磁性層中におけるε-酸化鉄粒子の分散性がより良好となり、磁性密度がより向上し得る。
【0078】
(研磨剤)
磁性層形成用組成物は、研磨剤を含むことができる。
研磨剤は、磁気記録媒体の走行中に生じ得る磨耗、傷付き等のテープダメージの低減、及び磁気記録媒体の使用中にヘッドに付着する付着物(所謂、デブリ)の除去に寄与し得る。
研磨剤としては、α-アルミナ、β-アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α-酸化鉄、コランダム、人造ダイヤモンド、窒化ケイ素、炭化ケイ素チタンカーバイド、酸化チタン、二酸化ケイ素、窒化ホウ素等、主としてモース硬度6以上の公知の材料の粒子が挙げられる。
研磨剤としては、既述の研磨剤同士の複合体(例えば、研磨剤を他の研磨剤で表面処理したもの)を用いてもよい。このような研磨剤には、主成分以外の化合物又は元素が含まれる場合もあるが、主成分が90質量%以上であれば、研磨剤としての効果に変わりはない。
【0079】
研磨剤の形状としては、特に制限はなく、例えば、針状、球状、立方体状、直方体状等の粒子形状が挙げられる。
これらの中でも、研磨剤の形状としては、例えば、研磨性がより良好になるとの観点から、針状、立方体状等、粒子の一部に角を有するものが好ましい。
【0080】
研磨剤の粉体の平均円相当径としては、特に制限はなく、例えば、研磨剤の研磨性をより適切に維持する観点から、0.01μm~2.0μmであることが好ましく、0.05μm~1.0μmであることがより好ましく、0.05μm~0.5μmであることが更に好ましい。
粒径の異なる複数種の研磨剤を組み合わせることで、磁性層の耐久性を向上させることができる。また、研磨剤の粉体の粒度分布を狭くすることで、磁気記録媒体の電磁変換特性を高めることもできる。
【0081】
本開示において、研磨剤の粉体の平均円相当径は、既述のε-酸化鉄粒子の平均円相当径と同様の方法により測定される。
【0082】
研磨剤のBET比表面積は、1m/g~30m/gであることが好ましい。
研磨剤のタップ密度は、0.3g/mL~2g/mLであることが好ましい。
【0083】
磁性層形成用組成物は、研磨剤を含む場合、研磨剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0084】
研磨剤としては、市販品を用いることができる。
市販品の例としては、住友化学(株)のAKP-12、AKP-15、AKP-20、AKP-30、AKP-50、HIT20、HIT-30、HIT-55、HIT60A、HIT70、HIT80、HIT100、レイノルズ社のERC-DBM、HP-DBM、HPS-DBM、(株)フジミインコーポレーテッドのWA10000、上村工業(株)のUB20、日本化学工業(株)のG-5、クロメックスU2、クロメックスU1、戸田工業(株)のTF100、TF140、イビデン社のベータランダムウルトラファイン、昭和KDE(株)のB-3等(以上、いずれも商品名)が挙げられる。
【0085】
磁性層形成用組成物が研磨剤を含む場合、磁性層形成用組成物中における研磨剤の含有量は、特に制限されず、例えば、ε-酸化鉄粒子100質量部に対して、0.1質量部~20質量部であることが好ましく、0.5質量部~15質量部であることがより好ましい。
磁性層形成用組成物中における研磨剤の含有量が、ε-酸化鉄粒子100質量部に対して、0.1質量部以上であると、形成される磁性層の耐擦傷性がより向上し得る。
磁性層形成用組成物中における研磨剤の含有量が、ε-酸化鉄粒子100質量部に対して、20質量部以下であると、ε-酸化鉄粒子の含有率への影響が少ないため、SNRがより良好な磁気記録媒体を実現し得る。
【0086】
(他の添加剤)
磁性層形成用組成物は、ε-酸化鉄粒子、結合剤、及び研磨剤以外に、効果を損なわない範囲において、必要に応じて、種々の添加剤(所謂、他の添加剤)を含んでいてもよい。
他の添加剤としては、非磁性フィラー、潤滑剤、分散剤、硬化剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤等が挙げられる。
他の添加剤は、1つの成分が2つ以上の機能を担うものであってもよい。
【0087】
-非磁性フィラー-
磁性層は、非磁性フィラーを含むことができる。
非磁性フィラーは、磁性層の膜強度、表面粗さ等の物性の調整に寄与し得る。
本開示において、「非磁性フィラー」とは、残留磁束密度が10mT以下であること、及び、保磁力が7.98kA/m(100Oe)以下であること、の少なくとも一方を満たすフィラーを意味する。
【0088】
非磁性フィラーとしては、カーボンブラック、無機粒子等が挙げられる。
例えば、分散安定性及び磁性層中への均一配置の観点からは、非磁性フィラーとしては、コロイド粒子が好ましい。
また、例えば、入手容易性の観点からは、非磁性フィラーとしては、カーボンブラック及び無機コロイド粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、カーボンブラック及び無機酸化物コロイド粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
無機酸化物コロイド粒子としては、α化率90%以上のα-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、θ-アルミナ、二酸化ケイ素、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α-酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化ケイ素、チタンカーバイト、二酸化チタン、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二硫化モリブデン等の無機酸化物のコロイド粒子の他、SiO/Al、SiO/B、TiO/CeO、SnO/Sb、SiO/Al/TiO、TiO/CeO/SiO等の複合無機酸化物のコロイド粒子が挙げられる。
無機酸化物コロイド粒子としては、単分散のコロイド粒子の入手容易性の観点から、シリカコロイド粒子(所謂、コロイダルシリカ)が特に好ましい。
【0089】
非磁性フィラーの平均粒子径としては、特に制限はなく、例えば、記録エラーの低減及び磁気ヘッドのスペーシング確保の観点から、30nm~300nmであることが好ましく、40nm~250nmであることがより好ましく、50nm~200nmであることが更に好ましい。
【0090】
本開示において、非磁性フィラーの平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により測定される値である。
【0091】
磁性層形成用組成物は、非磁性フィラーを含む場合、非磁性フィラーを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
非磁性フィラーとしては、市販品を用いることができる。
【0092】
磁性層形成用組成物が非磁性フィラーを含む場合、磁性層形成用組成物中における非磁性フィラーの含有量は、特に制限されず、例えば、ε-酸化鉄粒子100質量部に対して、0.01質量部~10質量部であることが好ましい。
【0093】
-潤滑剤-
磁性層形成用組成物は、潤滑剤を含むことができる。
潤滑剤は、例えば、磁気記録媒体の走行耐久性の向上に寄与し得る。
【0094】
潤滑剤としては、公知の炭化水素系潤滑剤、フッ素系潤滑剤等を用いることができる。
炭化水素系潤滑剤としては、オレイン酸、ステアリン酸等のカルボン酸系化合物、ステアリン酸ブチル等のエステル系化合物、オクタデシルスルホン酸等のスルホン酸系化合物、リン酸モノオクタデシル等のリン酸エステル系化合物、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等のアルコール系化合物、ステアリン酸アミド等のカルボン酸アミド系化合物、ステアリルアミン等のアミン系化合物などが挙げられる。
炭化水素系潤滑剤としては、例えば、摩擦力を低減する効果がより高いとの観点から、アルキル基の炭化水素鎖中に、水酸基、エステル基、カルボキシ基等の極性基を有する化合物が好ましい。
フッ素系潤滑剤としては、既述の炭化水素系潤滑剤のアルキル基の一部又は全部が、フルオロアルキル基又はパーフルオロポリエーテル基で置換された化合物が挙げられる。
【0095】
磁性層形成用組成物は、潤滑剤を含む場合、潤滑剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
潤滑剤としては、市販品を用いることができる。
【0096】
磁性層形成用組成物が潤滑剤を含む場合、磁性層形成用組成物中における潤滑剤の含有量は、特に制限されず、例えば、ε-酸化鉄粒子100質量部に対して、0.1質量部~20質量部であることが好ましく、0.5質量部~15質量部であることがより好ましい。
【0097】
-分散剤-
磁性層形成用組成物は、分散剤を含むことができる。
分散剤は、ε-酸化鉄粒子の分散性を向上させ、粉体の凝集防止に寄与し得る。また、分散剤は、研磨剤の分散性の向上にも寄与し得る。
【0098】
分散剤としては、ε-酸化鉄粒子の表面に吸着する官能基を有する有機化合物が好ましい。
ε-酸化鉄粒子の表面に吸着する官能基を有する有機化合物としては、アミノ基、カルボキシ基、スルホン酸基、又はスルフィン酸基を1個~3個有する化合物が挙げられ、これらのポリマーであってもよい。
【0099】
好ましい分散剤としては、R-NH、NH-R-NH、NH-R(NH)-NH、R-COOH、COOH-R-COOH、COOH-R(COOH)-COOH、R-SOH、SOH-R-SOH、SOH-R(SOH)-SOH、R-SOH、SOH-R-SOH、SOH-R(SOH)-SOH等の構造式で表される化合物が挙げられる。
構造式中のRは、直鎖状、分岐鎖状若しくは環状の飽和又は不飽和の炭化水素であり、例えば、炭素数1個~20個のアルキル基であることが好ましい。
【0100】
好ましい分散剤の具体例としては、オレイン酸、ステアリン酸、2,3-ジヒドロキシナフタレン等が挙げられる。
これらの中でも、分散剤としては、分散性の観点から、オレイン酸及び2,3-ジヒドロキシナフタレンから選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0101】
磁性層形成用組成物は、分散剤を含む場合、分散剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
分散剤としては、市販品を用いることができる。
【0102】
磁性層形成用組成物が分散剤を含む場合、磁性層形成用組成物中における分散剤の含有量は、ε-酸化鉄粒子(研磨剤を含む場合には、ε-酸化鉄粒子及び研磨剤の合計)100質量部に対して、0.1質量部~30質量部であることが好ましい。
磁性層形成用組成物中における分散剤の含有量が、ε-酸化鉄粒子(研磨剤を含む場合には、ε-酸化鉄粒子及び研磨剤の合計)100質量部に対して、上記の範囲内であると、例えば、ε-酸化鉄粒子(研磨剤を含む場合には、ε-酸化鉄粒子及び研磨剤)の分散性がより良好となり、形成される磁性層の耐擦傷性がより向上し得る。
【0103】
-硬化剤-
磁性層形成用組成物は、硬化剤を含むことができる。
硬化剤は、膜強度の向上に寄与し得る。硬化剤によれば、磁性層を形成する既述の結合剤との間で架橋構造を形成することで、磁性層の膜強度を向上させることができる。
【0104】
硬化剤としては、イソシアネート系化合物が好ましい。
イソシアネート系化合物としては、トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン-1,5-ジイソシアネート、o-トルイジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等が挙げられる。
また、イソシアネート系化合物としては、既述のイソシアネート系化合物とポリアルコールとの反応生成物、既述のイソシアネート系化合物の縮合生成物等のポリイソシアネートを用いることもできる。
【0105】
硬化剤としては、市販品を用いることができる。
硬化剤であるイソシアネート系化合物の市販品の例としては、東ソー(株)のコロネート(登録商標)L、コロネート(登録商標)HL、コロネート(登録商標)2030、コロネート(登録商標)2031、コロネート(登録商標)3041、ミリオネート(登録商標)MR、ミリオネート(登録商標)MTL、三井化学(株)のタケネート(登録商標)D-102、タケネート(登録商標)D-110N、タケネート(登録商標)D-200、タケネート(登録商標)D-202、コベストロ社のデスモジュール(登録商標)L、デスモジュール(登録商標)IL、デスモジュール(登録商標)N、デスモジュール(登録商標)HL等(以上、いずれも商品名)が挙げられる。
【0106】
磁性層形成用組成物は、硬化剤を含む場合、硬化剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
硬化剤としては、市販品を用いることができる。
【0107】
磁性層形成用組成物が硬化剤を含む場合、磁性層形成用組成物中における硬化剤の含有量は、結合剤100質量部に対して、例えば、0質量部を超えて80質量部以下とすることができ、磁性層の強度向上の観点からは、好ましくは、10質量部~80質量部とすることができる。
【0108】
-溶媒-
磁性層形成用組成物は、溶媒を含む。
溶媒は、ε-酸化鉄粒子、結合剤、研磨剤等の分散媒として寄与し得る。
溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。
有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、テトラヒドロフラン等のケトン系化合物、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルシクロヘキサノール等のアルコール系化合物、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、酢酸グリコール等のエステル系化合物、グリコールジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサン等のグリコールエーテル系化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼン等の芳香族炭化水素系化合物、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロルヒドリン、ジクロルベンゼン等の塩素化炭化水素系化合物、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサンなどを用いることができる。
これらの中でも、有機溶媒としては、メチルエチルケトン、及びシクロヘキサノンを含む混合溶媒が好ましい。
【0109】
磁気記録媒体の製造方法においては、溶媒は、有機溶媒として、沸点が150℃以上の有機溶媒と、沸点が150℃未満の有機溶媒の少なくとも2種を含み、磁性層形成用組成物の調製に用いる全有機溶媒中、沸点が150℃以上の有機溶媒の含有率が、5質量%~40質量%である。
具体的には、有機溶媒として、沸点が89.64℃のメチルエチルケトンと、沸点が155.6℃のシクロヘキサノンとを含み、メチルエチルケトンとシクロヘキサノンとの混合溶媒中の、シクロヘキサノンの含有量が、混合溶媒の全量に対して、5質量%~30質量%である例が好適に挙げられる。
全有機溶媒中、沸点が150℃以上の有機溶媒の含有率は、5質量%~40質量%であることが好ましく、6質量%~28質量%であることがより好ましく、10質量%~20質量%であることがさらに好ましい。
【0110】
全有機溶媒中の沸点が150℃以上の有機溶媒の含有率が上記範囲であることで、磁性層形成用組成物を用いて、次工程である工程Fにて磁性層形成用組成物層を形成し、工程Gにて磁場配向処理して、その後、工程Hにて、磁性層形成用組成物層を乾燥して磁性層を形成させる際に、有機溶媒の除去性が良好となり、磁性粒子の配向が、磁性層形成用組成物層の形成時及び磁場配向処理時の好ましい状態を維持したまま、磁性層が硬化されることから、配向がよりよく制御された磁性粒子を含む磁性層が形成され、長手方向のSQを所望の範囲に制御しやすくなると考えられる。また、その結果として、得られる磁気記録媒体のSNRも、より向上すると考えられる。
【0111】
なお、別の観点からは、例えば、ε-酸化鉄粒子等の分散性を向上させる観点からは、有機溶媒としては、ある程度極性が高い溶媒が好ましく、磁性層形成用組成物中に、誘電率が15以上の溶媒が、溶媒の全質量に対して、50質量%以上含まれることが好ましい。また、溶媒の溶解パラメータは8~11であることが好ましい。
【0112】
<工程F>
工程Fは、工程Eの後に、非磁性支持体上に、磁性層形成用組成物を付与して、磁性層形成用組成物層を形成する工程である。
工程Fは、例えば、走行下にある非磁性支持体上に、磁性層形成用組成物を所定の膜厚となるように塗布することにより行うことができる。
【0113】
本開示において、「非磁性支持体」とは、残留磁束密度が10mT以下であること、及び、保磁力が7.98kA/m(100Oe)以下であること、の少なくとも一方を満たす支持体を意味する。
【0114】
非磁性支持体としては、磁気記録媒体に用いられる公知の非磁性支持体であれば、特に制限なく用いることができる。
非磁性支持体の材料は、磁性を有しない材料の中から、磁気記録媒体の種類に応じて、成形性等の物性、耐久性などを考慮し、適宜選択することができる。非磁性支持体の材料としては、例えば、磁性材料を含まない樹脂材料、磁性を有しない無機材料等の材料が挙げられる。
【0115】
樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアラミドを含む芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド、セルローストリアセテート(TAC)、ポリカーボネート(PC)、ポリスルホン、ポリベンゾオキサゾールなどの樹脂材料が挙げられる。
これらの中でも、樹脂材料としては、強度及び耐久性が良好であり、かつ、加工が容易であるとの観点から、ポリエステル及びポリアミド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、及びポリアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0116】
非磁性支持体は、磁気記録媒体の使用形態に応じて選択される。
例えば、磁気記録媒体が磁気テープ、フレキシブルディスク等の形態をとる場合、非磁性支持体としては、可撓性を有する樹脂フィルム(又は樹脂シート)を用いることができる。
【0117】
非磁性支持体として樹脂フィルムを用いる場合、樹脂フィルムは、未延伸フィルムでもよいし、一軸延伸、二軸延伸等の延伸フィルムでもよい。例えば、非磁性支持体としてポリエステルフィルムを用いる場合には、寸法安定性を向上させる観点から、二軸延伸したポリエステルフィルムを用いてもよい。
非磁性支持体に用いられる樹脂フィルムは、2層以上の積層構造を有していてもよい。例えば、特開平3-224127号公報に示されているように、磁性層を形成する面と、磁性層を形成しない面との表面粗さを変えるため等の目的で、2層の異なるフィルムを積層した非磁性支持体を用いることもできる。
【0118】
非磁性支持体には、例えば、非磁性支持体の面上に設けられる磁性層との密着性を向上させる目的で、必要に応じて、予めコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理等の表面処理が施されていてもよい。また、非磁性支持体には、例えば、磁性層への異物の混入を抑制するため、防塵処理等の表面処理が施されていてもよい。
これらの表面処理は、公知の方法により行うことができる。
【0119】
非磁性支持体の厚みとしては、特に制限はなく、磁気記録媒体の使用形態に応じて、適宜選択される。
非磁性支持体の厚みは、例えば、2.0μm~80.0μmであることが好ましく、3.0μm~50.0μmであることがより好ましい。
非磁性支持体の厚みが2.0μm以上であると、成膜性が良好となり、かつ、より高い強度を得ることができる。
非磁性支持体の厚みが80.0μm以下であると、磁気記録媒体全体の厚みが無用に厚くなりすぎない。
磁気記録媒体が磁気テープの形態をとる場合には、非磁性支持体の厚みは、2.0μm~20.0μmであることが好ましく、3.0μm~10.0μmであることがより好ましい。
【0120】
非磁性支持体上に、磁性層形成用組成物を塗布する方法としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等の公知の方法が挙げられる。
塗布の方法については、例えば、(株)総合技術センター発行の「最新コーティング技術」(昭和58年5月31日)を参照することができる。
【0121】
磁性層形成用組成物の塗布量は、特に制限されない。
磁気記録媒体に用いられる磁気ヘッドの飽和磁化量、ヘッドギャップ長、記録信号の帯域等に応じて、磁性層の厚みが所望の値となる塗布量に、適宜調整される。
磁性層形成用組成物は、例えば、乾燥後の磁性層の厚みが、10nm~150nmとなる量で塗布することが好ましく、20nm~120nmとなる量で塗布することがより好ましく、30nm~100nmとなる量で塗布することが更に好ましい。
磁性層の厚みが10nm以上であると、記録密度をより向上させることができる。
磁性層の厚みが150nm以下であると、ノイズがより少なくなり、電磁変換特性がより良好となる。
【0122】
<工程G>
工程Gは、工程Fの後に、工程Fにおいて形成された磁性層形成用組成物層を磁場配向処理する工程である。
【0123】
形成された磁性層形成用組成物層は、非磁性支持体が磁気テープ等のフィルム状である場合、磁性層形成用組成物に含まれるε-酸化鉄粒子に対して、コバルト磁石、ソレノイド等を用いて、磁場配向処理することができる。
磁場配向処理する方法としては、コバルト磁石を斜めに交互に配置する、ソレノイドで交流磁場を印加する等、公知のランダム配向装置を用いる方法が好ましい。また、異極対向磁石を用いる方法等の公知の方法を用いて垂直配向とすることで、円周方向に等方的な磁気特性を付与することもできる。特に高密度記録を行う場合は、垂直配向が好ましい。また、スピンコートを用いて円周配向することもできる。
磁場配向処理は、形成された磁性層形成用組成物層が乾燥する前に行うことが好ましい。
【0124】
磁場配向処理は、磁場強度0.1T~1.0Tの磁場を、塗布した磁性層形成用組成物面に対して垂直方向に印加する垂直配向処理によって行うことができる。
【0125】
<工程H>
工程Hは、工程Gの後に、磁場配向処理された磁性層形成用組成物層を乾燥して、磁性層を形成する工程である。
【0126】
磁性層形成用組成物層の乾燥は、乾燥風の温度、風量、及び塗布速度により制御することができる。
塗布速度は、例えば、20m/分~1000m/分であることが好ましい。
乾燥風の温度は、例えば、60℃以上であることが好ましい。
また、磁場を印加する前に、磁性層形成用組成物層を適度に予備乾燥してもよい。
本開示の磁気記録媒体の製造方法では、工程Eにて調製される磁性層形成用組成物における有機溶媒の物性が好ましい範囲に制御されているために、得られる磁気記録媒体は、用いられるε-酸化鉄粒子のアスペクト比の変動係数と長手方向のSQが制御されていることと相俟って、SNRがより良好となる。
【0127】
本開示の磁気記録媒体の製造方法は、既述の工程E、工程F、工程G、及び工程Hに加え、任意の工程を含むことができる。
磁気記録媒体の製造方法におけるその他の各種任意の工程については、特開2010-231843号公報の段落〔0067〕~〔0070〕の記載を参照することができる。
任意の工程としては、例えば、磁性層を有する非磁性支持体をカレンダー処理する工程、非磁性層、バックコート層等の任意の層を形成する工程、磁気記録媒体にサーボパターンを形成する工程等が挙げられる。
なお、既述の個々の工程及び後述する任意の工程は、それぞれ2段階以上に分かれていてもよい。
【0128】
(磁性層を有する非磁性支持体をカレンダー処理する工程)
磁性層を有する非磁性支持体は、巻き取りロールで一旦巻き取られた後、この巻き取りロールから巻き出されて、カレンダー処理に供することができる。
カレンダー処理によれば、表面平滑性が向上し、かつ、乾燥の際の溶媒の除去によって生じた空孔が消滅して、磁性層中のε-酸化鉄粒子の充填率が向上するので、電磁変換特性(例えば、SNR)の良好な磁気記録媒体を得ることができる。
カレンダー処理は、磁性層の表面の平滑性に応じて、カレンダー処理条件を変化させながら行うことが好ましい。
【0129】
カレンダー処理には、例えば、スーパーカレンダーロールを用いることができる。
カレンダーロールとしては、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂等の樹脂で形成された耐熱性プラスチックロールを用いることができる。また、金属ロールを用いて処理することもできる。
【0130】
カレンダー処理の条件としては、カレンダーロールの表面温度を、例えば、60℃~120℃、好ましくは80℃~100℃とすることができ、圧力(所謂、線圧)を、例えば、100kg/cm~500kg/cm(98kN/m~490kN/m)、好ましくは200kg/cm~450kg/cm(196kN/m~441kN/m)とすることができる。
【0131】
(任意の層を形成する工程)
本開示の磁気記録媒体の製造方法は、必要に応じて、非磁性層、バックコート層等の任意の層を形成する工程を含むことができる。
非磁性層は、磁性層の薄層化等に寄与する層である。非磁性層は、非磁性支持体と磁性層との間に設けることができる。
バックコート層は、走行安定性等に寄与する層である。バックコート層は、非磁性支持体の磁性層側とは反対側の表面に設けることができる。
非磁性層及びバックコート層は、それぞれの層を形成するための組成物(所謂、非磁性層形成用組成物及びバックコート層形成用組成物)を調製した後、磁性層を形成する工程である工程F及び工程Gと同様の工程を経ることで、形成することができる。
【0132】
非磁性層には、磁性を有しない層、及び、不純物として又は意図的に少量の強磁性体(例えば、ε-酸化鉄粒子)を含む実質的に非磁性な層が包含される。
本開示において、「非磁性層」とは、残留磁束密度が10mT以下であること、及び、保磁力が7.98kA/m(100Oe)以下であること、の少なくとも一方を満たす層を意味する。
【0133】
(非磁性層形成用組成物)
-非磁性粒子-
非磁性層形成用組成物は、非磁性粒子を含むことが好ましい。
非磁性粒子は、フィラーとして機能し得る。
本開示において、「非磁性粒子」とは、残留磁束密度が10mT以下であること、及び、保磁力が7.98kA/m(100Oe)以下であること、の少なくとも一方を満たす粒子を意味する。
【0134】
非磁性粒子は、無機粒子であってもよいし、有機粒子であってもよい。
非磁性粒子としては、カーボンブラックを用いることもできる。
無機粒子としては、例えば、金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粒子が挙げられる。
非磁性粒子の具体例としては、二酸化チタン等のチタン酸化物、酸化セリウム、酸化スズ、酸化タングステン、ZnO、ZrO、SiO、Cr、α化率90%以上のα-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、α-酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化ケイ素、チタンカーバイト、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、2硫化モリブデン、酸化銅、MgCO、CaCO、BaCO、SrCO、BaSO、炭化ケイ素、炭化チタンなどが挙げられる。
これらの中でも、非磁性粒子としては、α-酸化鉄が好ましい。
【0135】
非磁性粒子の形状は、特に制限はなく、針状、球状、多面体状、及び板状のいずれでもあってもよい。
非磁性粒子の平均粒子径は、例えば、5nm~500nmであることが好ましく、10nm~200nmであることがより好ましい。
非磁性粒子の平均粒子径が、上記範囲内であると、非磁性粒子の分散性がより良好となり、かつ、形成される非磁性層をより好適な表面粗さに調整することができる。
平均粒子径の異なる非磁性粒子を組み合わせたり、又は、非磁性粒子の粒度分布を調整したりすることにより、非磁性粒子の分散性及び非磁性層の表面粗さを好適に調整することができる。
非磁性粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により測定される値である。
非磁性粒子のBET比表面積は、例えば、50m/g~150m/gであることが好ましい。
【0136】
非磁性層形成用組成物は、非磁性粒子を含む場合、非磁性粒子を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
非磁性粒子は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。
【0137】
非磁性層形成用組成物は、非磁性粒子を含む場合、非磁性層形成用組成物中における非磁性粒子の含有率は、非磁性層形成用組成物の固形分量に対して、50質量%~90質量%であることが好ましく、60質量%~90質量%であることが好ましい。
【0138】
-結合剤-
非磁性層形成用組成物は、結合剤を含むことが好ましい。
非磁性層形成用組成物における結合剤は、磁性層形成用組成物の項において説明した結合剤と同義であり、好ましい態様も同義であるため、ここでは説明を省略する。
【0139】
-他の添加剤-
非磁性層形成用組成物は、既述の非磁性粒子及び結合剤以外に、必要に応じて、各種添加剤(即ち、他の添加剤)を含んでいてもよい。
非磁性層形成用組成物における他の添加剤は、磁性層形成用組成物の項において説明した他の添加剤と同義であり、好ましい態様も同義であるため、ここでは説明を省略する。
【0140】
非磁性層形成用組成物の塗布量は、特に制限されない。
非磁性層形成用組成物は、例えば、乾燥後の非磁性層の厚みが、0.05μm~3.0μmとなるように塗布することが好ましく、0.05μm~2.0μmとなるように塗布することがより好ましく、0.05μm~1.5μmとなるように塗布することが更に好ましい。
【0141】
(バックコート層形成用組成物)
-非磁性粒子-
バックコート層形成用組成物は、非磁性粒子を含むことが好ましい。
バックコート層形成用組成物における非磁性粒子は、非磁性層形成用組成物の項において説明した非磁性粒子と同義であり、好ましい態様も同義であるため、ここでは説明を省略する。
【0142】
-結合剤-
バックコート層形成用組成物は、結合剤を含むことが好ましい。
バックコート層形成用組成物における結合剤は、磁性層形成用組成物の項において説明した結合剤と同義であり、好ましい態様も同義であるため、ここでは説明を省略する。
【0143】
-他の添加剤-
バックコート層形成用組成物は、既述の非磁性粒子及び結合剤以外に、必要に応じて、各種添加剤(即ち、他の添加剤)を含んでいてもよい。
バックコート層における他の添加剤は、磁性層形成用組成物の項において説明した他の添加剤と同義であり、好ましい態様も同義であるため、ここでは説明を省略する。
【0144】
バックコート層形成用組成物の塗布量は、特に制限されない。
バックコート層形成用組成物は、例えば、乾燥後のバックコート層の厚みが、0.9μm以下となる量で塗布することが好ましく、0.1μm~0.7μmとなる量で塗布することがより好ましい。
【0145】
(サーボパターンを形成する工程)
磁気記録媒体としての磁気テープの製造に際しては、磁気テープ装置における磁気ヘッドのトラッキング制御、磁気テープの走行速度の制御等を可能とするために、公知の方法によって磁気記録媒体に、サーボパターンを形成する工程を含むこともできる。
サーボパターンは、磁気ヘッドをデータトラックに位置決めするために用いられるサーボ情報であり、磁気記録媒体にサーボパターンを形成することは、記録密度がより向上するという観点から好ましい。
「サーボパターンの形成」は、「サーボ信号の記録」と称されることがある。サーボ信号は、通常、磁気テープの長手方向に沿って記録される。サーボ信号を利用する制御(サーボ制御)の方式としては、タイミングベースサーボ(TBS)方式、アンプリチュードサーボ方式、周波数サーボ方式等が挙げられる。
以下、サーボ信号の記録について、代表的な態様を挙げて更に説明する。
【0146】
ECMA(European Computer Manufacturers Association)―319に示される通り、LTO(Linear Tape-Open)規格に準拠した磁気テープ(一般に「LTOテープ」と呼ばれる。)では、サーボ信号を記録する方法として、タイミングベースサーボ方式が採用されている。
タイミングベースサーボ方式においては、サーボ信号は、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(「サーボストライプ」とも呼ばれる。)が、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置されることによって構成されている。
サーボ信号が互いに非平行な一対の磁気ストライプにより構成される理由として、サーボ信号上を通過するサーボ信号読み取り素子に、その通過位置を検知させることが挙げられる。具体的には、上記一対の磁気ストライプは、その間隔が磁気テープの幅方向に沿って連続的に変化するように形成されており、サーボ信号読み取り素子がその間隔を読み取ることによって、サーボ信号とサーボ信号読み取り素子との相対位置を検知することができる。
このようにして得られた相対位置の情報が、データトラックのトラッキングを可能にする。従って、サーボ信号上には、通常、磁気テープの幅方向に沿って、複数のサーボトラックが設定される。複数のサーボトラックが設定された領域は、サーボバンドとも称される。磁気テープにおいては、データトラックを介して複数のサーボバンドが形成されており、サーボバンドには、それぞれ複数のサーボ信号が書き込まれている。
【0147】
サーボバンドは、磁気テープの長手方向に複数の連続するサーボ信号を含んで構成される。サーボバンドは、通常、磁気テープに複数本設けられる。例えば、LTOテープにおいて、その数は5本である。隣接する2本のサーボバンドに挟まれた領域は、データバンドと呼ばれる。データバンドは、複数のデータトラックで構成されており、各データトラックは、各サーボトラックに対応している。
【0148】
なお、サーボバンドの一態様として、特開2004-318983号公報に示されているように、各サーボバンドには、サーボバンドの番号を示す情報(「サーボバンドID(identification)」または「UDIM(Unique DataBand Identification Method)情報」とも呼ばれる。)が埋め込まれている態様が挙げられる。
サーボバンドIDは、サーボバンド中に複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のものを、その位置が磁気テープの長手方向に相対的に変位するように、ずらすことによって記録されている。具体的には、複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のもののずらし方を、サーボバンド毎に変えている。これにより、記録されたサーボバンドIDはサーボバンド毎にユニークなものとなるため、一つのサーボバンドをサーボ信号読み取り素子で読み取るだけで、そのサーボバンドを一意に(uniquely)特定することができる。
【0149】
サーボバンドを一意に特定する方法には、ECMA―319に示されているようなスタッガード方式を用いたものもある。スタッガード方式では、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置された、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(サーボストライプ)の群を、サーボバンド毎に磁気テープの長手方向にずらすように記録する。隣接するサーボバンド間における、このずらし方の組み合わせは、磁気テープ全体においてユニークなものとされているため、2つのサーボ信号読み取り素子によりサーボ信号を読み取る際に、サーボバンドを一意に特定することも可能となっている。
【0150】
各サーボバンドには、ECMA―319に示されている通り、通常、磁気テープの長手方向の位置を示す情報(「LPOS(Longitudinal Position)情報」とも呼ばれる。)も埋め込まれている。このLPOS情報も、UDIM情報と同様に、一対のサーボストライプの位置を、磁気テープの長手方向にずらすことによって記録されている。ただし、UDIM情報とは異なり、このLPOS情報では、各サーボバンドに同じ信号が記録されている。
【0151】
上記のUDIM情報およびLPOS情報とは異なる他の情報を、サーボバンドに埋め込むことも可能である。この場合、埋め込まれる情報は、UDIM情報のようにサーボバンド毎に異なるものであってもよいし、LPOS情報のようにすべてのサーボバンドに共通のものであってもよい。
また、サーボバンドに情報を埋め込む方法としては、上記以外の方法を採用することも可能である。例えば、一対のサーボストライプの群の中から、所定の対を間引くことによって、所定のコードを記録するようにしてもよい。
【0152】
サーボ信号記録用(サーボパターン形成用)ヘッドは、サーボライトヘッドと呼ばれる。サーボライトヘッドは、上記一対の磁気ストライプに対応した一対のギャップを、サーボバンドの数だけ有する。通常、各一対のギャップには、それぞれコアとコイルが接続されており、コイルに電流パルスを供給することによって、コアに発生した磁界が、一対のギャップに漏れ磁界を生じさせることができる。サーボ信号の記録の際には、サーボライトヘッド上に磁気テープを走行させながら電流パルスを入力することによって、一対のギャップに対応した磁気パターンを磁気テープに転写させて、サーボ信号を記録することができる。
各ギャップの幅は、記録するサーボ信号の密度に応じて適宜設定することができる。各ギャップの幅は、例えば、1μm未満、1μm~10μm、10μmを超える値等に設定可能である。
【0153】
サーボパターンを形成する工程、即ち、サーボ信号を記録する工程では、磁気テープにサーボ信号を記録する前に、磁気テープに対して、通常、消磁(イレース)処理を施すことができる。
サーボ信号を記録する工程に先立って行なわれるイレース処理は、直流磁石または交流磁石を用いて、磁気テープに一様な磁界を加えることによって行うことができる。イレース処理には、DC(Direct Current)イレースとAC(Alternating Current)イレースとがある。
ACイレースは、磁気テープに印加する磁界の方向を反転させながら、その磁界の強度を徐々に下げることによって行われる。
DCイレースは、磁気テープに一方向の磁界を加えることによって行われる。DCイレースには、更に2つの方法がある。第一の方法は、磁気テープの長手方向に沿って一方向の磁界を加える、水平DCイレースである。第二の方法は、磁気テープの厚み方向に沿って一方向の磁界を加える、垂直DCイレースである。
イレース処理は、磁気テープ全体に対して行ってもよいし、磁気テープのサーボバンド毎に行ってもよい。
【0154】
サーボパターンを形成する工程において記録されるサーボ信号の磁界の向きは、イレース処理の向きに応じて決まる。
例えば、磁気テープに水平DCイレースが施されている場合、サーボ信号の記録は、磁界の向きがイレース処理の向きと反対になるように行われる。これにより、サーボ信号を読み取った際の出力を、大きくすることができる。なお、特開2012-53940号公報に示されている通り、垂直DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いたパターンの転写を行った場合、記録されたサーボ信号の読み取り信号は、単極パルス形状となる。
一方、水平DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いたパターンの転写を行った場合、記録されたサーボ信号の読み取り信号は、双極パルス形状となる。
【0155】
既述の本開示の磁気記録媒体の製造方法以外の好ましい磁気記録媒体の製造方法として、以下に示す製造方法を挙げることができる。この製造方法を以下、他の磁気記録媒体の製造方法と称することがある。他の磁気記録媒体の製造方法によっても、磁性層におけるε-酸化鉄粒子の配向が良好な磁気記録媒体を得ることができる。
他の磁気記録媒体の製造方法は、既述の本開示のε-酸化鉄粒子の製造方法により得られたイプシロン型酸化鉄粒子と、有機溶媒とを含む磁性層形成用組成物を調製する工程Eと、非磁性支持体上に、磁性層形成用組成物を付与して、磁性層形成用組成物層を形成する工程Fと、形成された磁性層形成用組成物層を磁場配向処理する工程Gと、磁場配向処理された磁性層形成用組成物層を乾燥して、磁性層を形成する工程Hと、を含み、工程Hにて、磁性層形成用組成物層の乾燥に至るまで、磁場配向処理を継続する、磁気記録媒体の製造方法である。
【0156】
他の磁気記録媒体の製造方法における工程E、工程F、工程G、工程H及び所望により含まれうる任意の工程のいずれも、工程Fにて、磁性層形成用組成物の調製に用いられる有機溶媒の条件に制限がない以外は、既述の本開示の磁気記録媒体の製造方法におけるのと同様であり、このため、各工程の詳細な説明は省略する。
他の磁気記録媒体の製造方法では、工程Bで用いられる有機溶媒として、全有機溶媒中、沸点が150℃以上の有機溶媒の含有率を5質量%~40質量%とした有機溶媒を用いることに換えて、工程Gにて実施される磁場配向処理を、引き続き行なわれる工程Hにて、磁性層形成用組成物層が乾燥され、磁性層が形成されるまで継続する。
即ち、磁性層の乾燥が完了し、磁性層が形成されるまで磁場配向処理を継続することにより、磁性層におけるε-酸化鉄粒子の配向が好ましい状態に維持されたまま固定化されるために、得られる磁気記録媒体は、用いられるε-酸化鉄粒子のアスペクト比の変動係数と長手方向に測定したSQが制御されていることと相俟って、SNRがより良好となる。
なお、ここで磁性層の乾燥が完了するとは、磁性層に含まれる有機溶媒の含有量が、当初の有機溶媒の含有量の1質量%以下となり、形成された磁性層中において、ε-酸化鉄粒子の配向が固定化された状態を指す。
【0157】
[磁気記録媒体の記録方式]
本開示の磁気記録媒体の記録方式としては、ヘリカルスキャン記録方式であってもよいし、リニア記録方式であってもよく、好ましくはリニア記録方式である。
本開示の磁気記録媒体は、SNR及び磁性層の膜強度に優れるため、リニア方式による記録に好適である。
【0158】
本開示の磁気記録媒体は、電磁波アシスト記録に用いられることが好ましい。
本開示の磁気記録媒体では、磁性材料として、ε-酸化鉄粒子を用いている。ε-酸化鉄粒子は、保磁力が非常に高いため、スピンを反転させ難い。本開示の磁気記録媒体では、磁性層に含まれるε-酸化鉄粒子に対して電磁波を照射し、スピンを歳差運動させながら磁界によって反転させて記録する、所謂、電磁波アシスト記録を適用することで、スピンを記録の際にのみ容易に反転させて、良好な記録を実現し得る。
【実施例
【0159】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0160】
〔実施例1〕
<ε-酸化鉄粒子の作製>
-磁性体1の粒子の作製-
〔工程(A)〕
純水360gに、硝酸鉄(III)9水和物33.2g、硝酸ガリウム(III)8水和物6.0g、硝酸コバルト(II)6水和物856mg、及び硫酸チタン(IV)648mgを添加した後、マグネチックスターラーを用いて撹拌し、3価の鉄イオンを含む化合物を含有する水溶液1を得た。(工程A)
また、クエン酸4.0gを純水36gに溶解してクエン酸水溶液を調製した。
【0161】
大気雰囲気下、液温10℃(反応温度)の条件で、水溶液1を、マグネチックスターラーを用いて撹拌した。撹拌中の水溶液1に、25質量%のアンモニア水溶液(アルカリ剤)14.5gを添加した後、液温を10℃に保ったまま2時間撹拌して混合液2を得た。(工程B)
【0162】
得られた混合液2について、その後、反応溶液の温度を10℃/分の速さで80℃まで昇温し、80℃の温度を維持したまま、さらに5時間撹拌し、反応を進行させ、混合液3を得た。(工程C)
【0163】
5時間撹拌を継続して得た混合液3に、先に調製したクエン酸水溶液を加え、10分間撹拌し、生成した沈殿物を遠心分離により取り出した。
取り出した沈殿物を純水で洗浄し、80℃で乾燥し、乾燥物を得た。乾燥物に純水1500gを加えて再度水に分散させて分散液を得た。
得られた分散液を50℃に昇温し、撹拌しながら25質量%アンモニア水溶液を80g滴下した。50℃の温度を保ったままさらに1時間撹拌した。さらに、テトラエトキシシラン(TEOS)100mLを滴下し、24時間撹拌した。その後、硫酸アンモニウム100gを加え、沈殿物を含む分散液を得た。
生成した沈殿物を遠心分離により取り出した。取り出した沈殿物を純水で洗浄し、80℃で24時間乾燥し、前駆体粒子を得た。
得られた前駆体粒子を、炉内に装填し、大気雰囲気下、1025℃で4時間の熱処理を施して、熱処理粒子を得た。(工程D)
【0164】
熱処理粒子を、8モル/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に投入し、液温を80℃に維持して24時間撹拌し、TEOSに由来して熱処理粒子表面に存在するSi含有被膜の少なくとも一部を除去した。その後、遠心分離により固液分離を行ない、得られた固体物を純水で洗浄し、乾燥し、磁性体1の粒子を得た。
【0165】
[得られた磁性体粒子の確認及び測定]
1.結晶構造
磁性体1の結晶構造をX線回折(XRD)法により確認した。
確認用試料には、得られた磁性体1の粒子を乾燥させたものを用いた。また、測定装置には、PANalytical社のX’Pert Pro回折計を用いた。
測定条件を以下に示す。
【0166】
-測定条件-
X線源:Cu Kα線
〔波長:1.54Å(0.154nm)、出力:40mA、45kV〕
スキャン範囲:20°<2θ<70°
スキャン間隔:0.05°
スキャンスピード:0.75°/min
【0167】
その結果、磁性体1は、ε型の結晶構造を有しており、α型、β型、及びγ型の結晶構造を含まない単相のε-酸化鉄粒子であることが確認された。
【0168】
2.組成
磁性体1の組成を、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法により確認した。
確認用試料には、磁性体1の粒子を乾燥させたものを用いた。測定装置には、(株)島津製作所のICPS-8100(商品名)を用いた。
具体的には、磁性体1の粒子12mg及び4mol/Lの塩酸水溶液10mLを入れた容器を、設定温度80℃のホットプレート上で3時間保持し、溶解液を得た。得られた溶解液に純水30mLを加えた後、0.1μmのメンブレンフィルタを用いて濾過し、濾液を得た。得られた濾液について、上記の測定装置を用いて元素分析した。
得られた元素分析の結果に基づき、鉄原子100原子%に対する各金属原子の含有率を求めた。そして、得られた含有率に基づき、ε-酸化鉄粒子の組成を確認した。各ε-酸化鉄粒子の組成を表1に示す。
【0169】
3.磁性体の粒子の形状
磁性体1の形状を、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察により確認したところ、いずれも球状を有していた。
【0170】
4.粒子の大きさ及びアスペクト比の変動係数
磁性体の粒子の平均円相当径及びアスペクト比の変動係数
磁性体1の粒子の平均円相当径及び平均アスペクト比(平均長軸長さ/平均短軸長)の変動係数を、以下の方法により求めた。
確認用試料には、磁性体1の粒子を乾燥させたものを用いた。
磁性体1の粒子を、透過型電子顕微鏡(TEM)(型番:H-9000型、(株)日立ハイテクノロージーズ)を用いて、撮影倍率80,000倍で撮影し、総倍率500,000倍になる倍率で印画紙に印刷した。印刷された個々の粒子から一次粒子を選び、デジタイザーで一次粒子の輪郭をトレースした。なお、一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。トレースした輪郭における長軸長及び短軸長を、画像解析ソフトとしてフリーソフトのImageJを用いて求めた。
数枚の印画紙に印刷された一次粒子のうち任意に抽出した500個について、長軸長及び短軸長を求めた。求めた500個の粒子の長軸長及び短軸長をそれぞれ単純平均(即ち、数平均)することにより、円面積相当径を算出した。
アスペクト比は、トレースした粒子の輪郭を画像解析ソフトにより楕円近似し、その長径および短径を算出し、「アスペクト比=長径÷短径」として求めた。アスペクト比の変動係数は、「アスペクト比の標準偏差÷アスペクト比の平均値×100」として求めた。
結果を下記表1に示す。
【0171】
<磁気記録媒体(磁気テープ)の作製>
1.磁性層形成用組成物の調製
下記に示す組成の磁性層形成用組成物を、以下の方法により調製した。
まず、下記に示す組成の磁性液の各成分を、バッチ式縦型サンドミルにより、ビーズ径0.5mmφのジルコニアビーズ(第1の分散ビーズ、密度:6.0g/cm)を用いて24時間分散した(第1の分散)。
次いで、第1の分散により得られた分散物を、平均孔径0.5μmのフィルタを用いて濾過することにより、分散液Aを得た。第1の分散では、ジルコニアビーズ(第1の分散ビーズ)を、磁性粉体に対して、質量基準で10倍量用いた。
【0172】
次いで、分散液Aを、バッチ式縦型サンドミルにより、ビーズ径500nmφのダイヤモンドビーズ(第2の分散ビーズ、密度:3.5g/cm)を用いて1時間分散した(第2の分散)。
次いで、第2の分散により得られた分散物に対し、遠心分離機を用いて、遠心分離処理を施すことにより、分散液Bを得た。得られた分散液Bを磁性液とした。
【0173】
次いで、下記に示す組成の研磨剤液の各成分を、横型ビーズミルにより、ビーズ径0.3mmφのジルコニアビーズを用いて2時間分散した。分散では、ジルコニアビーズを、ビーズ充填率が80体積%となる量に調整して用いた。
次いで、分散により得られた分散物に対し、フロー式の超音波分散濾過装置を用いて、超音波分散濾過処理を施すことにより、研磨剤液を得た。
【0174】
次いで、上記にて調製した磁性液及び研磨剤液と、下記に示す組成の非磁性フィラー液並びに潤滑剤及び硬化剤を含む液と、をディゾルバー撹拌機に入れ、周速10m/s(秒)で30分間撹拌した。
次いで、撹拌により得られた液に対し、フロー式の超音波分散機を用いて、流量7.5kg/minで3パスの処理を行った後、平均孔径1μmのフィルタを用いて濾過することにより、磁性層形成用組成物を得た(工程E)。
なお、実施例1における磁性層形成用組成物に対するシクロヘキサノン(沸点150℃以上の溶媒)の含有量は31.4%である。
以下の実施例、比較例では、磁性液に用いるメチルエチルケトンとシクロヘキサノンとの含有比率を調整することで、磁性層形成用組成物に対するシクロヘキサノンの含有量を調整している。
【0175】
<磁性層形成用組成物の組成>
-磁性液-
磁性粉体 100.0質量部
(上記にて調製した磁性粉体1)
オレイン酸(潤滑剤) 2.0質量部
塩化ビニル樹脂(結合剤) 10.0質量部
(商品名:MR-104、日本ゼオン(株))
SONa基含有ポリウレタン樹脂(結合剤) 4.0質量部
(重量平均分子量:70,000、SONa基:0.07meq/g)
メチルエチルケトン(有機溶媒) 260.0質量部
シクロヘキサノン(有機溶媒) 40.0質量部
【0176】
-研磨剤液-
α-アルミナ(研磨剤) 6.0質量部
(BET比表面積:19m/g、モース硬度:9)
SONa基含有ポリウレタン樹脂(結合剤) 0.6質量部
(重量平均分子量:70,000、SONa基:0.1meq/g)
2,3-ジヒドロキシナフタレン(分散剤) 0.6質量部
シクロヘキサノン(有機溶媒) 23.0質量部
【0177】
-非磁性フィラー液-
コロイダルシリカ(非磁性フィラー) 2.0質量部
(平均粒子径:120nm)
メチルエチルケトン(有機溶媒) 8.0質量部
【0178】
-潤滑剤及び硬化剤を含む液-
ステアリン酸(潤滑剤) 3.0質量部
ステアリン酸アミド(潤滑剤) 0.3質量部
ステアリン酸ブチル(潤滑剤) 6.0質量部
ポリイソシアネート(硬化剤) 3.0質量部
(商品名:コロネート(登録商標)L、東ソー(株))
メチルエチルケトン(有機溶媒) 110.0質量部
シクロヘキサノン(有機溶媒) 110.0質量部
【0179】
2.非磁性層形成用組成物の調製
下記に示す組成の非磁性層形成用組成物を、以下の方法により調製した。
まず、下記に示す組成の非磁性層形成用組成物の各成分を、バッチ式縦型サンドミルにより、ビーズ径0.1mmφのジルコニアビーズを用いて24時間分散した。
次いで、分散により得られた分散物を、平均孔径0.5μmのフィルタを用いて濾過することにより、非磁性層形成用組成物を得た。
【0180】
<非磁性層形成用組成物の組成>
α-酸化鉄(非磁性フィラー) 100.0質量部
(平均粒子径(平均長軸長):10nm、平均針状比:1.9、BET比表面積:75m/g)
カーボンブラック(非磁性フィラー) 25.0質量部
(平均粒子径:20nm)
SONa基含有ポリウレタン樹脂(結合剤) 18.0質量部
(重量平均分子量:70,000、SONa基:0.2meq/g)
ステアリン酸(潤滑剤) 1.0質量部
メチルエチルケトン(有機溶媒) 300.0質量部
シクロヘキサノン(有機溶媒) 300.0質量部
【0181】
3.バックコート層形成用組成物の調製
下記に示す組成のバックコート層形成用組成物を、以下の方法により調製した。
まず、下記に示す組成のバックコート層形成用組成物の成分のうち、潤滑剤であるステアリン酸及びステアリン酸ブチル、硬化剤であるポリイソシアネート、並びにシクロヘキサノン(A)を除いた各成分を、オープンニーダにより混練及び希釈した。希釈には、メチルエチルケトン及びシクロヘキサノンの混合溶媒を用いた。
次いで、混練及び希釈により得られた物を、横型ビーズミルにより、ビーズ径1mmφのジルコニアビーズを用いて分散した(第1の分散)。第1の分散では、ジルコニアビーズを、ビーズ充填率が80体積%となるように調整して用いた。また、第1の分散では、横型ビーズミルのローター先端の周速を10m/s(秒)に設定し、1パスあたりの滞留時間を2分間とし、12パスの処理を行った。
次いで、第1の分散により得られた分散物に、残りの成分(即ち、潤滑剤であるステアリン酸及びステアリン酸ブチル、硬化剤であるポリイソシアネート、並びにシクロヘキサノン(A))を添加し、ディゾルバー撹拌機を用いて撹拌した。
次いで、撹拌により得られた分散物を、平均孔径1μmのフィルタを用いて濾過することにより、バックコート層形成用組成物を得た。
【0182】
<バックコート層形成用組成物の組成>
α-酸化鉄(非磁性フィラー) 80.0質量部
(平均粒子径(平均長軸長):0.15μm、平均針状比:7、BET比表面積:52m/g)
カーボンブラック(非磁性フィラー) 20.0質量部
(平均粒子径:20nm)
塩化ビニル樹脂(結合剤) 13.0質量部
(商品名:MR-104、日本ゼオン(株))
SONa基含有ポリウレタン樹脂(結合剤) 6.0質量部
(重量平均分子量:50,000、SONa基:0.07meq/g)
フェニルホスホン酸(表面修飾剤) 3.0質量部
メチルエチルケトン(有機溶媒;希釈用) 155.0質量部
シクロヘキサノン(有機溶媒;希釈用) 155.0質量部
ステアリン酸(潤滑剤) 3.0質量部
ステアリン酸ブチル(潤滑剤) 3.0質量部
ポリイソシアネート(硬化剤) 5.0質量部
(商品名:コロネート(登録商標)3041、東ソー(株))
シクロヘキサノン(有機溶媒) 200.0質量部
【0183】
4.磁気テープの作製
厚み5.0μmの二軸延伸処理したポリエチレンナフタレート製の支持体(即ち、非磁性支持体)の上に、乾燥後の厚みが100nmになる量で非磁性層形成用組成物を塗布し乾燥させて非磁性層を形成した。
次いで、形成した非磁性層の上に、乾燥後の厚みが70nmになる量で磁性層形成用組成物を塗布して磁性層形成用組成物層を形成した(工程F)。形成した磁性層形成用組成物層が湿潤状態(所謂、未乾燥状態)にあるうちに、対向配置された電磁石を用いて、磁場強度0.60Tの磁場を磁性層形成用組成物層の表面に対し垂直方向に印加し、垂直配向処理を行った(工程G)。その後、磁性層形成用組成物層を乾燥させて磁性層を形成した(工程H)。
次いで、上記非磁性支持体の、非磁性層及び磁性層を形成した面とは反対側の面上に、乾燥後の厚みが0.4μmになる量でバックコート層形成用組成物を塗布し乾燥させてバックコート層を形成し、バックコート層/非磁性支持体/非磁性層/磁性層の層構成を有する積層体を得た。
次いで、得られた積層体に対し、金属ロールのみから構成された一対のカレンダーロールを用いて、カレンダー処理速度100m/min、線圧300kg/cm(294kN/m)、及びカレンダーロールの表面温度100℃の条件で、表面平滑化処理(所謂、カレンダー処理)を行った後、雰囲気温度70℃の環境下で36時間熱処理を行った。
熱処理後、積層体を1/2インチ(0.0127メートル)幅に裁断し、磁気テープを得た。
【0184】
[評価]
1.磁気記録媒体の長手方向に測定したSQ
上記にて作製した実施例1の磁気テープについて、長手方向に測定したSQを評価した。
雰囲気温度23℃の環境下、磁気テープを、磁気テープの長手方向が磁場の印加方向と平行となる方向に設置し、印加磁界±1194kA/m(15kOe)の範囲で磁場を掃引することにより、印加磁界に対する磁気テープの長手方向の磁化強度を測定した。なお、磁界掃引速度は、6.7kA/m/s(秒)〔84Oe/s(秒)〕とした。
長手方向のSQは、印加磁界1194kA/mにおける磁化強度Ms(飽和磁化)および、印加磁界0kA/mにおける磁化強度Mr(残留磁化)を用いて、Mr/Msと表わされる。
結果を表1に示す。
【0185】
2.SNR
上記にて作製した実施例1の磁気テープについて、SNRの評価を行った。なお、評価には、100mの長さに切り出した磁気テープを用いた。
ヘッドを固定した1/2インチ(0.0127メートル)のリールテスターを用い、下記の走行条件で磁気テープを走行させ、下記の記録再生条件で磁気信号を磁気テープの長手方向に記録し、再生した。
【0186】
-走行条件-
搬送速度(ヘッド/テープ相対速度):6.0m/s(秒)
1パスあたりの長さ:1000m
走行回数:1000パス往復
【0187】
-記録再生条件-
(記録)
記録ヘッド:MIG(Metal-In-Gap)ヘッド
記録トラック幅:1.0μm
記録ギャップ:0.15μm
ヘッドの飽和磁束密度(Bs):1.8T
記録電流:各磁気テープの最適記録電流
(再生)
再生ヘッド:巨大磁気抵抗(GMR:Giant Magneto Resistive)効果ヘッド
再生トラック幅:0.5μm
シールド(sh;shield)間距離(sh-sh距離):0.1μm
素子厚み:15nm
線記録密度:270kfci(fci:flux change per inch;以下、同じ。)
【0188】
再生信号を、シバソク社のスペクトラムアナライザーを用いて周波数分析し、300kfciの出力と、0kfci~600kfciの範囲で積分したノイズと、の比をSNRとした。なお、SNRは、磁気テープの走行後、信号が十分に安定してから求めた。
磁気テープのSNRが良好であるか否かは、比較例1の磁気テープのSNRを基準としたSNRの差に基づいて判断した。具体的には、比較例1の磁気テープのSNRに対して、+1.0dB以上のSNRを示す磁気テープであれば、SNRが良好であると判断した。結果を表1に示す。
【0189】
〔実施例2、3〕
実施例1において、磁性体1の粒子の作製時、工程Dにて使用した有機溶媒であるメチルエチルケトンおよびシクロヘキサノン量を表1に記載の量に変更した以外は、実施例1と同様にして磁性体2及び磁性体3の粒子を作製し、実施例1と同様にして磁気テープを製造した。
得られた磁性体及び磁気テープを、実施例1と同様にして評価した。結果を下記表1に併記した。
【0190】
〔実施例4〕
実施例1において、磁性体1の粒子の作製時、工程Bにおけるアルカリ剤添加時における混合液の温度を表1に記載の如く変更し、かつ、粒子の焼成温度を表1に記載の如く変更した以外は、実施例1と同様にして磁性体4の粒子を作製し、実施例1と同様にして磁気テープを製造した。
得られた磁性体及び磁気テープを、実施例1と同様にして評価した。結果を下記表1に併記した。
【0191】
〔実施例5〕
実施例1において、磁性体1の粒子の作製時、工程Cにおける昇温後の混合液の温度を表1に記載の如く変更した以外は、実施例1と同様にして磁性体5の粒子を作製し、実施例1と同様にして磁気テープを製造した。
得られた磁性体及び磁気テープを、実施例1と同様にして評価した。結果を下記表1に併記した。
【0192】
〔実施例6〕
実施例1において、磁性体1の粒子の作製時、焼成時の加熱温度を表1に記載の如く変更した以外は、実施例1と同様にして磁性体6の粒子を作製し、実施例1と同様にして磁気テープを製造した。
得られた磁性体及び磁気テープを、実施例1と同様にして評価した。結果を下記表1に併記した。
【0193】
〔実施例7〕
実施例1において、磁性体1の粒子の作製時に用いた最初の金属塩を、硝酸鉄(III)9水和物33.2g、硝酸アルミニウム(III)9水和物5.6g、硝酸コバルト(II)6水和物856mg、硫酸チタン(IV)648mgに変更した。それ以外の条件は、実施例1と同様にして、磁性体7の粒子を作製し、実施例1と同様にして磁気テープを製造した。
得られた磁性体及び磁気テープを、実施例1と同様にして評価した。結果を下記表1に併記した。
【0194】
〔実施例8〕
実施例1において、磁性体1の粒子の作製時に用いた最初の金属塩を、硝酸鉄(III)9水和物29.7g、硝酸ガリウム(III)8水和物11.8gに変更した。それ以外の条件は、実施例1と同様にして、磁性体8の粒子を作製し、実施例1と同様にして磁気テープを製造した。
得られた磁性体及び磁気テープを、実施例1と同様にして評価した。結果を下記表1に併記した。
【0195】
〔比較例1、2〕
実施例1において、磁性体1の粒子の作製時、工程Dにて使用した有機溶媒であるメチルエチルケトンおよびシクロヘキサノンの量を表1に記載の量に変更した以外は、実施例1と同様にして比較磁性体1及び比較磁性体2の粒子を作製し、実施例1と同様にして磁気テープを製造した。
得られた磁性体及び磁気テープを、実施例1と同様にして評価した。結果を下記表1に併記した。
【0196】
〔比較例3〕
実施例1において、磁性体1の粒子の作製時、工程Bにおけるアルカリ剤添加時における混合液の温度を表1に記載の如く変更し、かつ、工程Cにおいて混合液の温度を工程Bの条件から昇温しなかった以外は、実施例1と同様にして比較磁性体3の粒子を作製し、実施例1と同様にして磁気テープを製造した。
得られた磁性体及び磁気テープを、実施例1と同様にして評価した。結果を下記表1に併記した。
【0197】
〔比較例4〕
工程Cにおける昇温後の混合液の温度を表1に記載の如く変更した以外は、実施例1と同様にして比較磁性体4の粒子を作製し、実施例1と同様にして磁気テープを製造した。 得られた磁性体及び磁気テープを、実施例1と同様にして評価した。結果を下記表1に併記した。
【0198】
【表1】

【0199】
表1に示す結果より、実施例1~実施例8で得た磁性体の粒子はいずれもアスペクト比の変動係数が18%以下であった。また、実施例1~実施例8で得た磁気テープは、長手方向のSQが、0.3を超え0.5以下の範囲であり、且つ、標準とした比較例1の磁気テープに対して、いずれもSNRが良好であった。
一方、比較例2の磁気テープは、磁性体の粒子のアスペクト比の変動係数が18%以下であっても、長手方向のSQが本開示の範囲外となり、SNRは、実施例の磁気テープと比較して劣っていた。
また、工程Cにて昇温を行なわなかった比較例3の磁気テープ及び工程Cにおける昇温後の温度が高すぎた比較例4の磁気テープでは、いずれも、得られた磁性体の粒子のアスペクト比の変動係数が18%を超えており、SNRは、実施例の磁気テープと比較して劣っていた。
【0200】
これらの結果から、アスペクト比の変動係数が18%以下であり、長手方向のSQが0.3を超え、0.5以下であることで、得られる磁気記録媒体はSNRが良好となることが確認された。
また、磁性層形成用組成物の調製に用いる有機溶媒において、沸点155℃以上の有機溶媒の含有比率を調整することで、長手方向のSQ比を良好な範囲に調整し易いことがわかる。