(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-14
(45)【発行日】2022-02-22
(54)【発明の名称】EUV光学ユニットを有する計測システム
(51)【国際特許分類】
G02B 5/00 20060101AFI20220215BHJP
G03F 1/84 20120101ALN20220215BHJP
【FI】
G02B5/00 A
G03F1/84
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018128123
(22)【出願日】2018-07-05
【審査請求日】2018-08-02
【審判番号】
【審判請求日】2020-07-08
(31)【優先権主張番号】10 2017 211 443.6
(32)【優先日】2017-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】ディルク ヘルヴェク
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ミュラー
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ ゲールケ
【合議体】
【審判長】瀬川 勝久
【審判官】松川 直樹
【審判官】野村 伸雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-80810(JP,A)
【文献】特表2012-522358(JP,A)
【文献】特開2006-73620(JP,A)
【文献】特開2008-66345(JP,A)
【文献】特開昭63-140530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B5/00-5/136
G03F1/00-1/86
H01L21/027
H01L21/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
EUV光学ユニットを有する計測システムであって、前記EUV光学ユニットがEUVグレースケールフィルタを備え、該EUVグレースケールフィルタが5nm~30nmの間の波長範囲のEUV光(1)に対して複数の領域で少なくとも部分的に透過性である膜(22)を含む、フィルタ部分(21a、21b、21c、21d)を含むEUVグレースケールフィルタ(21、25、26、28、30)を備えるEUV光学ユニット(7、13)を有する計測システム(2)であって、前記膜が、前記EUVグレースケールフィルタ(21、25、26、28、30)の動作位置において前記EUV光(1)のビーム全体と相互作用する、計測システム(2)において、変化する層厚を横切って、少なくとも2つの異なる透過レベルが実現されており、
前記計測システム(2)は、物体平面(4)内の物体フィールド(3)に配置された物体(5)の3次元空中像を、前記EUV光(1)で調査し、
前記計測システム(2)は、ひとみセグメント(11a、11b、11c、11d)を含むひとみ(8)を有する照明光学ユニット(7)を備え、
前記フィルタ部分(21a、21b、21c、21d)が前記ひとみセグメント(11a、11b、11c、11d)に対応して
おり、
前記フィルタ部分と前記ひとみセグメントとの前記対応は、前記フィルタ部分と前記ひとみセグメントとの面積及び配列に関する対応であり、
前記EUVグレースケールフィルタ(21、25、26、28、30)が、前記EUV光学ユニット(7、13)のひとみ平面(9、15a)内もしくはその近傍に配置されている
ことを特徴とする計測システム(2)。
【請求項2】
前記EUVグレースケールフィルタ(21、25、26、28、30)の前記膜(22)が、膜最大透過表面領域において、前記EUV光(1)に対して60%を超える最大透過を有することを特徴とする、請求項1に記載の計測システム。
【請求項3】
前記EUVグレースケールフィルタ(21、25、26、28、30)の前記膜(22)の表面のパターニング(29)であり、前記膜(22)の表面を横切って吸収または反射率を変化させるためのパターニング(29)を特徴とする、請求項1または2に記載の計測システム。
【請求項4】
前記EUVグレースケールフィルタ(21、25、26、28、30)の前記膜(22)の表面のコーティング(24、27)であり、前記膜(22)の表面を横切って吸収または反射率を変化させるためのコーティング(24、27)を特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の計測システム。
【請求項5】
前記コーティング(24、27)が、変化する層厚を有することを特徴とする、請求項4に記載の計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
独国出願第102017211443.6号の内容は、参照により本明細書に組み込まれている。
本発明は、EUV光学ユニットを有する計測システム(metrology system)に関する。
【背景技術】
【0002】
このような計測システムは、国際公開第2016/012426A1号、米国特許出願公開第2013/0063716号、DE10220815A1、DE10220816A1および米国特許出願公開第2013/0083321号から知られている。DE102012204295A1は、投影露光装置用のフィルタ要素を開示している。DE102008041436A1は、EUVリソグラフィにおける光学機器用の光学膜要素を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/012426A1号
【文献】米国特許出願公開第2013/0063716号
【文献】DE10220815A1
【文献】DE10220816A1
【文献】米国特許出願公開第2013/0083321号
【文献】DE102012204295A1
【文献】DE102008041436A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、冒頭に記載したタイプの計測システムであって、計測システムの用途の選択肢が拡張されるような態様の計測システムを開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、この目的は、請求項1に規定された特徴を有するEUVグレースケールフィルタによって達成される。
本発明によれば、EUVマスク用のペリクルに対して現在提案されている薄膜は、原理上、EUVグレースケールフィルタを構築する目的にも適していることが認識された。このようなペリクル構造体は、米国特許第9,195,130B2号から知られている。この先行技術では、EUVフィルタが絞り(stop)として知られている。別のタイプのEUVフィルタが、米国特許出願公開第2012/0069313号およびDE102012202057A1から知られている。
グレースケールフィルタの膜は、EUV光が相互作用なしで膜を通り抜けることができる開口または穿孔を持たない。この膜は、10nm~100nmの間の範囲の層厚を有することができる。この膜は、それがEUV光のビームと相互作用する場所において支持されていない、すなわち膜キャリアに取り付けられていないという意味で、支持されていない膜とすることができる。あるいは、この膜を、担持用のメッシュに貼り付けることもできる。この担持用メッシュは、膜に接続された細いワイヤによって形成することができる。このメッシュは、織物(fabric)として構成することができる。
この膜は、以下の基本的材料のうちの少なくとも1つの材料から製造することができる:多結晶シリコン、単結晶シリコン、窒化シリコン、ジルコニウム、または炭素に基づく材料、例えばグラフェンもしくはカーボンナノチューブ。
EUV光学ユニットは、計測システムの照明(illumination)光学ユニットとして、または計測システムの投影光学ユニットとして具現化することができる。EUVグレースケールフィルタは、EUV光学ユニットのひとみ平面(pupil plane)内に、もしくはEUV光学ユニットのひとみ平面の近傍に配置することができる。すなわち、EUVグレースケールフィルタは、照明光学ユニットのひとみ平面内に、もしくは照明光学ユニットのひとみ平面の近傍に配置することができ、または投影光学ユニットのひとみ平面内に、もしくは投影光学ユニットのひとみ平面の近傍に配置することができる。照明光学ユニットは、光学ユニットのひとみ平面内の照明強度分布に細かな影響を与える少なくとも1つのMEMSミラーを有することができる。照明光学ユニットの範囲内の対応するMEMSまたはMOEMSの概念は、例えば国際公開第2015/028450A1号および国際公開第2013/167409A1号、ならびにそれらの文献の中で引用されている参照文献から知られている。
【0006】
変化する層厚によって実現される異なる透過レベル(transmission level)を、比較的に小さな費用で生み出すことができる。一例として、EUVグレースケールフィルタ内に、このような透過レベルを2つもしくは3つ、または4つ以上存在させることが可能である。透過レベルの代わりに、EUVグレースケールフィルタの層厚を連続的に変化させ、それに対応して連続透過プロファイルを存在することもできる。変化する層厚を生み出すための材料アブレーションを含むグレースケールフィルタの変形形態(variant)でも、変化する層厚を横切って、少なくとも2つの異なる透過レベルを実現することができる。
請求項2に基づく最大透過は、EUV光を減衰させる必要がない有利に低い透過損失につながる。この膜の最大透過は、65%超、70%超、75%超、80%超、85%超および90%超とすることができる。最大透過は通常、95%未満である。
例えば複数の領域における目標とする材料アブレーションによって、請求項3に基づく膜表面のパターニング(patterning)を達成することができる。このパターニングの結果は、変化する膜厚、特に、連続的に変化する膜厚でありうる。このパターニングの結果は、前記領域の膜厚の違いによって少なくとも2つの異なる透過レベルが実現された代替の膜領域または追加の膜領域でありうる。膜の表面は、膜の片側だけからまたは膜の両側からパターニングすることができる。
【0007】
上で説明したパターニングの代わりに、または上で説明したパターニングに加えて、請求項4に基づく膜表面のコーティングを実装することができる。このコーティングも、膜の片側だけからまたは膜の両側から実装することができる。このコーティングは、窒化シリコン、ルテニウム、クロム、ジルコニウム、SiO2、パラジウム、モリブデン、シリコン、タンタル、窒化タンタル、TaON、チタン、窒化チタン、金、ニッケル、ホウ素を用いて実装することができる。
請求項5に基づく変化する層厚は、EUVグレースケールフィルタの対応する変化する吸収プロファイルまたは透過プロファイルの規定(prescription)を容易にする。
【0008】
フィルタの用途によっては、請求項6および7に基づくEUVグレースケールフィルタの配置の変形形態が有利である。例えばこのグレースケールフィルタをバートランドマニピュレータ(Bertrand manipulator)として使用するときには、ひとみの近くでもなく、フィールドの近くでもない中間平面内に配置することも可能である。
以下では、本発明の例示的な実施形態を、図面を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】計測システムを非常に概略的に示す、入射面に対して垂直な方向に見た平面図である。この計測システムは、照明光学ユニットによるEUV照明光および結像(imaging)光学ユニットによるEUV結像光を用いてリソグラフィマスクの形態の物体を調査するためのシステムである。照明光学ユニットおよび結像光学ユニットはそれぞれ極めて概略的に表されている。
【
図2】計測システムの照明光学ユニットのひとみを示す図である。このひとみは、ひとみ平面内に配置されている。
【
図3】ひとみの一部分を横切る照明光強度分布を有する、
図2の細部IIIを示す部分拡大図である。
【
図4】
図3に基づくひとみ部分に適合するEUVグレースケールフィルタの一部分の平面図である。このEUVグレースケールフィルタは、EUV光に対して部分的に透過性である膜を有し、このフィルタによって、
図3に基づくひとみ強度分布に従った照明強度分布を定性的に生み出すことができる。
【
図5】
図4の線IV-IVに従って切ったグレースケールフィルタの断面を示す図である。
【
図6】
図4および5に基づくグレースケールフィルタの代わりに使用することができるEUVグレースケールフィルタのさらなる実施形態の、
図5と同様の断面図である。
【
図7】
図4および5に基づくグレースケールフィルタの代わりに使用することができるEUVグレースケールフィルタのさらなる実施形態の、
図5と同様の断面図である。
【
図8】
図4および5に基づくグレースケールフィルタの代わりに使用することができるEUVグレースケールフィルタのさらなる実施形態の、
図5と同様の断面図である。
【
図9】
図4および5に基づくグレースケールフィルタの代わりに使用することができるEUVグレースケールフィルタのさらなる実施形態の、
図5と同様の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
位置関係の提示を容易にするため、以下では、デカルトxyz座標系を使用する。
図1では、x軸が、図の平面に対して垂直に、図の平面の中へ延びている。
図1では、y軸が上方へ延びている。
図1では、z軸が右方へ延びている。
【0011】
図1は、計測システム2内におけるEUV照明光および結像光1のビーム経路を示す、子午断面(meridional section)に対応する図である。計測システム2は、物体平面4内の物体フィールド3に配置されたレチクルまたはリソグラフィマスクの形態の物体5をEUV照明光1で調査するためのシステムである。計測システム2は、3次元(3D)空中像(aerial image)を分析する目的に使用される(空中像計測システム)。計測システム2は、投影露光装置内の投影光学ユニットによる光学的結像に対するリソグラフィマスクの特性の影響をシミュレートおよび分析するのに役立つ。リソグラフィマスクは、レチクルとして知られており、ひいては半導体デバイスを生産するための投影露光中に使用される。このようなシステムは、米国特許出願公開第2013/0063716号(当該文献の
図3を参照されたい)、DE10220815A1(当該文献の
図9を参照されたい)、DE10220816A1(当該文献の
図2を参照されたい)、および米国特許出願公開第2013/0083321号から知られている。
照明光1は物体5で反射される。照明光1の入射面はyz平面に対して平行である。
【0012】
EUV照明光1はEUV光源6によって生成される。光源6は、レーザプラズマ源(LPP;レーザ生成プラズマ(discharge produced plasma))、放電源(DPP;放電生成プラズマ(discharge produced plasma))、または周波数逓倍レーザ放射(frequency-multiplied laser radiation)とすることができる。原理上は、シンクロトロン(synchrotron)ベースの光源、例えば自由電子レーザ(free electron laser:FEL)を使用することもできる。EUV光源の使用波長は、5nm~30nmの間の範囲とすることができる。原理上、計測システム2の変形形態の場合には、光源6の代わりに、別の波長を使用する光源、例えば193nmの波長を使用する光源を使用することもできる。
計測システム2は、その構成に応じて、反射性物体5に対して使用することもでき、または透過性物体5に対して使用することもできる。透過性物体の例は位相マスクである。
光源6と物体5の間に、計測システム2の照明光学ユニット7が配置されている。照明光学ユニット7は、物体フィールド3を横切る定められた照明強度分布で、同時に、物体フィールド3のフィールド点を照らす定められた照明角度分布で調査する物体5を、定められた照明設定(defined illumination setting)で照らすのに役立つ。
図2は、照明光学ユニット7のひとみ8を例示的に示す。ひとみ8は、ひとみ平面9(
図1参照)内にある。ひとみ8は、定められた照明光強度分布を有する特定の照明設定を規定するように照明される。後に投影露光装置内で物体5を使用する際の条件と正確に同じ条件で計測システム2が物体5を照らすように、ここでは、投影露光時に実際に使用される照明設定が予め決められている。
【0013】
図3は、
図3で検討する全体のひとみ8の一部分11内のひとみ照明スポット10のラスタ(raster)の形態の、このような例示的な照明設定の一部分を示す。ひとみ照明スポット10のこのような分布は、特に、少なくとも1つのMEMSまたはMOEMSファセットミラー(facet mirror)を備える照明光学ユニットを使用することによって得ることができる。照明光学ユニットのこのような概念は、投影露光の際には使用されるが、計測システムでは通常は使用されず、そのため、この照明強度分布は、後にさらに説明するように異なる方式で再現される。
【0014】
図3に示した例では、ひとみ部分11が長方形であり、ひとみ部分11は、合計4つの正方形のひとみセグメント11a、11b、11cおよび11dに細分されている。ひとみ照明スポット10の密度はひとみセグメント11aおよび11dで最も大きい。ひとみセグメント11bのひとみ照明スポット10のラスタ密度は、ひとみセグメント11aおよび11dのラスタ密度の1/4である。ひとみセグメント11cにはひとみ照明スポット10がない。したがって、このひとみセグメント11cは、照明されないひとみ部分の一例を表す。
【0015】
図2および3に基づいて上で説明した照明設定の代わりに、ひとみ8を横切って照明強度分布が異なる照明設定、例えば、従来の照明設定、環状照明設定、X双極子(X-dipole)照明設定、Y双極子照明設定、またはクェーサ(quasar)照明設定を使用することも可能である。このような照明設定の例は、DE102008021833A1に見い出される。ますます重要性を増している別の種類の設定が、いわゆるフリーフォーム(free-form)設定である。この設定は、波面伝搬の最適化または結像させる物体の最適化(源マスク最適化(source mask optimization:SMO))のためにしばしば使用されており、従来のリングセグメントとして記述することはもはやできない。ひとみ照明スポット10の配置および密度は、規定する照明設定に応じて選択される。
計測システム2では、上で説明した投影露光装置の可能な照明設定が、EUVグレーフィルタを使用して再現される。このフィルタについては後にさらに説明する。
【0016】
物体5で反射された後、照明および結像光1は、計測システム2の結像光学ユニットまたは投影光学ユニット13に入る。
図1では、結像光学ユニットまたは投影光学ユニット13も同様に、破線の境界によって概略的に示されている。結像光学ユニット13は、計測システム2の空間分解検出デバイス(spatially resolving detection device)14に向かって物体5を結像させるのに役立つ。検出デバイス14は、例えばCCD検出器またはCMOSとして設計されている。検出デバイス14は、EUV照明光1のビームを像平面14a内で捕捉する。
結像光学ユニット13は、ビーム経路上の物体5の下流に配置された、結像光ビームの縁の境界を画定するための結像開口絞り(imaging aperture stop)15を備える。結像開口絞り15は、結像光学ユニット13のひとみ平面15a内に配置されている。ひとみ平面9とひとみ平面15aとが一致していてもよいが、必ずそうでなければならないというわけではない。
計測システム2に結像開口絞り15を含めないことも可能である。
検出デバイス14は、信号のやり取りが可能な形でディジタル画像処理デバイス17に接続されている。
【0017】
物体5は、物体ホルダ18によって担持される。変位駆動機構19によって、この物体ホルダを、一方ではxy平面に対して平行に変位させることができ、他方ではxy平面に対して垂直に、すなわちz方向に変位させることができる。変位駆動機構19は、計測システム2の全体の動作と同様に、中央制御デバイス20によって制御される。中央制御デバイス20は、信号のやり取りが可能な形で制御対象の構成要素に接続されている。この接続の詳細をこれ以上示すことはしない。
計測システム2のこの光学的構成は、投影リソグラフィによる半導体デバイスの生産中の物体5の投影露光の過程での照明および結像の可能な最も正確なエミュレーションに役立つ。
図1に基づいて上で説明した計測システム2の基本構造は、例えば国際公開第2016/012426A1号から知られている。
【0018】
次に、EUVグレースケールフィルタ21の一実施形態を
図4および5に基づいて説明する。このグレースケールフィルタは、計測システム2の照明光学ユニット7のひとみ平面9内に配置されている。グレースケールフィルタ21は、ひとみ8の全体にわたって一定である強度を有するEUV照明光1によって照らされたときに、
図3に基づく照明設定に対応するひとみセグメント11a~11dの全体にわたって統合された照明強度分布が実現するように実施される。この目的のために、グレーフィルタ21は、フィルタ部分21a、21b、21cおよび21dに細分されている。フィルタ部分21a、21b、21cおよび21dは、それらの面積および配列に関して、ひとみセグメント11a、11b、11cおよび11dに対応している。
グレースケールフィルタ21は、ひとみ8のエリア全体にまたがる、支持されていないキャリア膜(carrier membrane)22(
図5参照)を有する。キャリア膜22は、EUV照明光1をよく透過させ、EUV光に対して約90%の透過を有する。キャリア膜22の実施形態に応じて、EUV照明光に対する透過は、60%超、65%超、70%超、75%超、80%超または85%超である。EUV照明光1に対するキャリア膜22の透過は98%未満、概して95%未満である。
【0019】
キャリア膜22は、グレースケールフィルタ21の組み付け後の動作位置において、キャリア膜22が、ひとみ平面9内のひとみ8の位置で、またはそれにコンジュゲートされた(conjugated)平面内で、EUV光のビーム全体と相互作用するように配置される。キャリア膜22は、EUV照明光1が相互作用なしで膜22を通り抜けることができる開口または穿孔を持たない。キャリア膜22の層厚d
Mは50nmである。この層厚d
Mは、キャリア膜22の実施形態に応じて10nm~100nmの範囲とすることができる。キャリア膜22の主な材料は、多結晶シリコン(pSi)、単結晶シリコン、窒化シリコン(Si
xN
y)、ジルコニウムまたはグラフェンとすることができる。多結晶シリコンのキャリア膜22の一実施形態では、膜22の少なくとも片側、または両側を、窒化シリコンのキャッピング層でもう一度コーティングすることができる。キャリア膜22は、それがEUV照明光1のビームと相互作用する場所においてキャリア手段によって支持されていない、すなわち膜キャリアに取り付けられていないという意味で、支持されていない。キャリア膜22は、縁において、キャリア枠23によって、複数の領域で、またはキャリア膜22の全周にわたって保持される。キャリア枠23は、
図2の複数の部分に概略的に示されている。
【0020】
キャリア膜23の表面を横切って透過または吸収または反射率を変化させるため、このグレーフィルタは、キャリア膜22上にコーティング24を有する。全体として、コーティング24は、グレースケールフィルタ21のエリアを横切って変化する層厚を有する。このコーティング24は、部分層24a、24bから構築されており、部分層24a、24bは、キャリア膜22に例えば逐次的に張り付けられる。部分層24a、24bは、窒化シリコン(SixNy)、ルテニウム、クロム、ジルコニウム、SiO2、パラジウム、モリブデン、シリコン、タンタル、窒化タンタル、TaON、チタン、窒化チタン、金、ニッケルまたはホウ素でできた層として具現化され、これらの部分層は、これらの部分層24a、24bと相互作用するEUV照明光1の少なくとも部分的な吸収につながる。
【0021】
ここで、キャリア膜22に直接に張り付けられた下部分層24aは、フィルタ部分21bおよび21cを覆っている。第2の部分層である上部分層24bは、フィルタ部分21cだけを覆っている。これにより、フィルタ部分21aおよび21dでは、キャリア膜22だけが、グレースケールフィルタ21を通過するEUV照明光1のビームと相互作用する、グレースケールフィルタ21の構造が生じる。したがって、グレースケールフィルタ21は、これらの部分で最も高い透過を有し、そのため、最も高い照明強度は、ひとみセグメント11aおよび11d内に存在する。したがって、フィルタ部分21aおよび21dは、キャリア膜22の膜最大透過表面領域(membrane maximum transmission surface region)を表す。フィルタ部分21bでは、部分層24aが照明光1と相互作用し、そのため、この部分では、グレースケールフィルタ21の最大透過に比べて、すなわちキャリア膜22の透過に比べて、低下した透過、例えば約50%の透過が得られる。フィルタ部分21cでは、2つの部分層24aおよび24bがEUV照明光1と相互作用し、そのため、この部分には、EUV光に対する最も低い透過、例えば10%未満の透過、または完全遮断の場合には0%の透過が存在する。
【0022】
したがって、
図4および5に基づくグレースケールフィルタ21では、3つの異なる透過レベル、すなわち、フィルタ部分21aおよび21dの領域における最大の透過、フィルタ部分21bの領域における中間の透過、ならびにフィルタ部分21cの領域における最も低い透過、が実現される。部分層24i(i=a,b...)の数に応じて、透過レベルの数は、透過プロファイルに対する準連続的な適応まで照明設定をエミュレートする要件を満たすことができる。部分層24iの数は例えば1~5の間の範囲とすることができる。部分層24iの数をこれよりも多くすることも可能である。これらのさまざまな部分層24iはそれぞれ同じ層厚d
Bを有することができ、または異なる層厚を有することができる。
図4および5に基づくグレースケールフィルタ21の実施形態では、部分層24aの層厚d
Baが、部分層24bの層厚d
Bbのサイズの約半分である。原理上は、部分層の層厚の数を部分層の数と等しくすることができる。当然ながら、部分層の層厚の数を部分層の数よりも少なくすることもできる。
【0023】
次に、
図4および5に基づく実施形態のグレースケールフィルタ21の代わりに使用することができるEUVグレースケールフィルタのさらなる実施形態を、
図6~9を使用して説明する。
図1~5、特に
図4および5を参照して上で既に説明した構成要素および機能に対応する構成要素および機能は同じ参照符号を有する。それらの構成要素および機能について再び詳細に論じることはしない。
図6に基づくEUVグレースケールフィルタ25では、キャリア膜22上に、コーティング24の合計4つの部分層24a、24b、24cおよび24dが存在する。グレースケールフィルタ25では、部分層24a~24dに比べてキャリア膜22が極端に厚く示されている。
【0024】
キャリア膜22だけがEUV照明光1と相互作用する領域の最大透過レベルを含め、グレースケールフィルタ25は、合計5つの異なる透過レベルを実現している。これにより、投影露光中の対応する複雑な照明設定をエミュレートする目的に使用することができる複雑なプロファイルを有するひとみ-強度プロファイルであっても、正確なエミュレーションが可能になる。
図6の24eのところに破線を使用して示されているように、原理上は、キャリア膜22の両側にコーティング24を付着させることも可能である。
【0025】
図7は、離散的な厚さの部分層を有するコーティングの代わりに連続層厚プロファイルを有するコーティング27がキャリア膜22上に実現された、EUVグレースケールフィルタ26の実施形態を示す。この連続層厚プロファイルによって、それに対応したグレースケールフィルタ26の連続透過プロファイルまたは連続反射率プロファイルを達成することが可能である。
グレースケールフィルタ21の部分層24a、24bの形式の部分層、またはグレースケールフィルタ25の部分層24a~24dの形式の部分層は、適切に設計された絞りをコーティング法中にキャリア膜22上で使用することによって実現することができる。
あるいは、スクリーン印刷法の助けを借りて対応する部分層24iを生成することもできる。この場合、コーティング点の密度を変化させることにより、部分層24iを、その部分層の透過に関して設定することができる。そうすることにより、部分層24iはそれぞれ、原理上、ひとみ照明スポット10(
図3参照)に関して上で説明した分布に、配置の点で対応する、層スポットの分布を有することができる。その結果、最も低い透過を達成するこのようなフィルタスポットの最大配置密度は、フィルタ部分21cにあることになる。フィルタ部分21bでは、フィルタスポットの配置密度がこれに比べて低くなり、そのため、中間の透過が達成されることになる。フィルタスポットのそれぞれの配置密度は、スクリーン印刷法によって予め定めることができる。
【0026】
EUVグレースケールフィルタ28には、
図5~7に基づく実施形態のコーティング24、26の形式のコーティングがない。膜22の表面は、グレースケールフィルタ28の吸収または透過または反射率を変化させるためのパターニング29を有する。グレースケールフィルタ28では、グレースケールフィルタ25の階段状の部分層24a~24dに匹敵する形で階段状の材料アブレーションが実現されており、合計4つのアブレーションレベル29a、29b、29cおよび29dが実現されている。材料アブレーションがなされていないキャリア膜22が存在する領域に加え、これらのアブレーションレベル29a~29dによってもまた、グレースケールフィルタ28の合計5つの透過レベルを実現することができる。
図9に基づくグレースケールフィルタ30では、キャリア膜22の連続的な材料アブレーションが実現されており、そのため、
図7に基づくグレースケールフィルタ26に関して上で説明した透過プロファイルに対応する連続透過プロファイルが得られている。
グレースケールフィルタ28、30を製作するためのキャリア膜の材料アブレーションは、研削法(abrasive method)、例えばイオンビーム法、例えばIBF(イオンビームフィギュアリング(ion beam figuring))装置を使用したイオンビーム法によって、または電子ビームアブレーションの助けを借りて得ることができる。フォトリソグラフィ法の助けを借りて、目標とする材料アブレーションを得ることもできる。
原理上、グレースケールフィルタの規定された透過プロファイルを生み出すための基本的な変形形態である上述の「コーティング」および「材料アブレーション」を、互いに組み合わせることもできる。すなわち、キャリア膜22上にフォトレジストを全面的に塗布し、次いで、そのフォトレジストを目標どおりにパターニングして、すなわちエッチングによって除去して、離散的層厚領域または連続層厚プロファイルを生み出す。
【産業上の利用可能性】
【0027】
一例として、計測システム2を3D空中像測定に使用することができる。この3D空中像測定中に、物体フィールド3においてEUV投影露光装置の投影光学ユニットによって照らされた物体5の構造の像平面の領域における結像挙動を推定する目的に使用することができるデータが生成される。計測システム2はこの目的に使用される。原理的には国際公開第2016/012426A1号には、3D空中像測定のためのこのような方法の概要が記載されている。
【0028】
上では、EUV投影露光装置の照明設定を計測システム内で再現するためのさまざまなグレースケールフィルタ実施形態の使用を説明した。一例として、EUV投影露光装置の投影光学ユニット内、例えばスキャナ内でのひとみのオブスキュレーション(obscuration)を実現することが可能である。その代わりに、またはそれに加えて、計測システム2のひとみの強度プロファイル補正、またはエミュレートするEUV投影露光装置内の補正ひとみ強度プロファイルの対応する調整を実現することも可能である。一例として、ひとみ強度のエッジ側低下(edge-sided decrease)、例えばアポジゼーション(apodization)によるひとみ強度のエッジ側低下を規定することができる。
【0029】
その代わりに、またはそれに加えて、EUVグレースケールフィルタの前述の変形形態を使用して、第1に計測システム2内において、および/またはEUV投影露光装置内において、照明フィールド、すなわち物体フィールドおよび/または像フィールドの強度プロファイルを補正することもできる。この目的のため、フィールド平面内または近フィールド平面内にグレースケールフィルタが導入される。そのようにした場合、そのグレースケールフィルタの機能は、例えば欧州特許出願公開第0952491号に記載されているUNICOMの機能に対応しうる。
グレースケールフィルタの用途のさらなる選択肢は、特定の物体構造に対する結像の感度を増大させるための結像条件の設定である。この場合には、グレースケールフィルタをひとみフィルタとして使用することができる。このケースの可能な用途の例は、例えば均一な背景に対して欠陥を検出する目的に使用することができる暗視野結像(dark field imaging)である。
【0030】
ひとみ平面内もしくは近ひとみ平面内での使用、またはフィールド平面内もしくは近フィールド平面内での使用に加えて、近ひとみ平面内でも近フィールド平面内でもないところで、このようなEUVグレースケールフィルタを使用することもできる。このような近ひとみ平面でも近フィールド平面でもない位置は、国際公開第2009/024164号に定義されているフィールド位置パラメータPの助けを借りて特徴づけることができる。以下のPを、グレースケールフィルタの配置平面に適用することができる:0.3≦P≦0.7。ひとみ平面内または近ひとみ平面内にEUVグレースケールフィルタを配置する場合には、P>0.7、特にP>0.95を使用することができる。このEUVグレースケールフィルタは、しっかりと取り付けることができ、マニピュレータに結合することができ、交換可能な方式で具現化することまたはビーム経路上にピボット回転させることができるような方式で具現化することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 EUV照明光および結像光
2 計測システム
3 物体フィールド
4 物体平面
5 物体
6 EUV光源
7 照明光学ユニット
8 ひとみ
9 ひとみ平面
10 ひとみ照明スポット
11 ひとみの一部分
11a ひとみセグメント
11b ひとみセグメント
11c ひとみセグメント
11d ひとみセグメント
13 結像光学ユニットまたは投影光学ユニット
14 空間分解検出デバイス
14a 像平面
15 結像開口絞り
15a ひとみ平面
17 ディジタル画像処理デバイス
18 物体ホルダ
19 変位駆動機構
20 中央制御デバイス
21 EUVグレースケールフィルタ
21a フィルタ部分
21b フィルタ部分
21c フィルタ部分
21d フィルタ部分
22 キャリア膜
23 キャリア枠
24 コーティング
24a 部分層
24b 部分層
24c 部分層
24d 部分層
24e 部分層
25 EUVグレースケールフィルタ
26 EUVグレースケールフィルタ
27 コーティング
28 EUVグレースケールフィルタ
29 パターニング
29a アブレーションレベル
29b アブレーションレベル
29c アブレーションレベル
29d アブレーションレベル
30 EUVグレースケールフィルタ