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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-14
(45)【発行日】2022-02-22
(54)【発明の名称】構造体および反射層の形成方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20220215BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
G02B5/30
G02B5/26
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019536776
(86)(22)【出願日】2018-08-13
(86)【国際出願番号】 JP2018030225
(87)【国際公開番号】W WO2019035449
(87)【国際公開日】2019-02-21
【審査請求日】2020-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2017156482
(32)【優先日】2017-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】加藤 峻也
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-107296(JP,A)
【文献】特開2016-197161(JP,A)
【文献】特開2003-084131(JP,A)
【文献】国際公開第99/034242(WO,A1)
【文献】特開昭59-029236(JP,A)
【文献】国際公開第2017/030176(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/110629(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第2007-0002774(KR,A)
【文献】国際公開第2018/043678(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02B 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、コレステリック液晶相を固定してなる反射層と、を有する構造体であって、
前記反射層は、走査型電子顕微鏡による厚さ方向の断面の観察において、前記コレステリック液晶相に由来する明部が成す線および暗部が成す線が、周期的波状構造を有しており、かつ、
前記明部が成す線および前記暗部が成す線の少なくとも一部が、不連続であり、前記暗部が成す線が不連続である部分が、前記反射層の断面1μm2当たり0.05箇所以上であり、
前記反射層の表面が凹凸構造を有し、前記反射層の表面の凹凸構造の凹凸の位相は、前記明部が成す線および前記暗部が成す線の前記波状構造の凹凸の位相と逆であり、前記反射層の表面の凹凸構造の周期は、前記明部が成す線および前記暗部が成す線の前記波状構造の凹凸の周期と等しいことを特徴とする構造体。
【請求項2】
前記明部が成す線および前記暗部が成す線が不連続である部分に、前記コレステリック液晶相の配向欠陥を含む、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記明部が成す線および前記暗部が成す線の不連続である部分に、粒子が存在する、請求項1または2に記載の構造体。
【請求項4】
前記明部が成す線および前記暗部が成す線が、波状構造を有しており、前記波状構造の波の周期が0.3~10μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コレステリック液晶相を固定してなる反射層を有する構造体、および、この構造体における反射層の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
干渉現象によって反射性能を発現する構造体としては、2種類以上の屈折率の異なるポリマーを繰り返し積層した有機多層膜、液晶分子が螺旋構造を形成したコレステリック液晶相を固定してなる反射層、および、無機材料の蒸着膜を積層した誘電体多層膜等が知られている。
【0003】
このような反射構造体は、反射軸が基板(基材)と垂直な方向に均一になっている場合には、鏡面反射性を示す。
これに対して、反射構造体の反射軸を不均一にした構成、および、反射構造体に反射軸を基板と垂直では無い方向に連続的に変化させる構成等では、反射構造体は、拡散反射性を示す。このような拡散反射性を示す反射構造体は、スクリーンおよび加飾等の用途に利用が可能である。
【0004】
コレステリック液晶相を固定してなる反射層を有する反射構造体において、拡散反射性を有する構成としては、例えば、特許文献1に記載されるコレステリック液晶フィルムが知られている。
このコレステリック液晶フィルムは、コレステリック液晶相における螺旋軸方向が、膜厚方向に一様に平行ではない状態でコレステリック配向が固定化されており、かつ、フィルムの正反射除去反射率(SCE)と、正反射込みの反射率(SCI)との比『(SCE/SCI)×100』で定義される拡散率が15%以上の、コレステリック液晶フィルムである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-2797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示されるように、コレステリック液晶相の反射軸(螺旋軸)を不均一化することにより、拡散反射性を得ることができる。
その反面、反射軸を不均一化した構成では、干渉現象によって反射される波長以外の波長領域においても、強い散乱が生じてしまう。そのため、例えば、透明スクリーンのような用途では、全ての波長領域において不透明度が高くなる問題が生じる。
【0007】
これに対して、反射軸の向きを連続的に変化させることにより、このような問題は解決できる。
コレステリック液晶相を固定してなる反射層では、断面において、コレステリック液晶相に由来する明部が成す線と暗部が成す線とが、縞模様状に観察される。コレステリック液晶相を固定してなる反射層は、或る条件において、この明部が成す線および暗部が成す線が波状構造となる(周期的な凹凸構造となる)。
このような、コレステリック液晶相からなり、断面における明部が成す線および暗部が成す線が波状構造を有する反射層は、干渉現象によって反射される波長以外の波長領域における散乱が少なく、不透明度が高くなりにくいメリットが有る。
【0008】
ところが、このような断面における明部が成す線および暗部が成す線が波状構造を有するコレステリック液晶相からなる反射層は、面内方向の周期的な構造に由来して、強い回折現象が生じてしまう。そのため、例えば、スクリーン等の用途では、投影像にギラツキが生じてしまうという問題がある。
【0009】
本発明の目的は、良好な透明性および拡散反射性(非鏡面反射性)を有し、さらに、ギラツキも抑制できる反射層を有する構造体、および、この反射層の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題に対して鋭意検討を行ったところ、コレステリック液晶相を固定してなる反射層が、厚さ方向の断面おけるコレステリック液晶相に由来する明部が成す線および暗部が成す線が、波状構造、または、基板に対して傾斜している構成を有し、かつ、明部が成す線および暗部が成す線が不連続な箇所を有することにより、良好な透明性および拡散反射性を有し、さらに、ギラツキも抑制できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の構成によって課題を解決する。
[1] 基板と、コレステリック液晶相を固定してなる反射層と、を有する構造体であって、
反射層は、走査型電子顕微鏡による厚さ方向の断面の観察において、コレステリック液晶相に由来する明部が成す線および暗部が成す線が、波状構造を有しており、または、基板の表面に対して傾斜しており、かつ、
明部が成す線および暗部が成す線の少なくとも一部が、不連続であることを特徴とする構造体。
[2] 暗部が成す線が不連続である部分が、反射層の断面1μm2当たり0.05箇所以上である、[1]に記載の構造体。
[3] 明部が成す線および暗部が成す線が不連続である部分に、コレステリック液晶相の配向欠陥を含む、[1]または[2]に記載の構造体。
[4] 明部が成す線および暗部が成す線が不連続である部分に、粒子が存在する、[1]~[3]のいずれかに記載の構造体。
[5] 明部が成す線および暗部が成す線が、波状構造を有しており、波状構造の波の周期が0.3~10μmである、[1]~[4]のいずれかに記載の構造体。
[6] 基板の表面に、コレステリック液晶相を固定してなる反射層であって、厚さ方向の断面における走査型電子顕微鏡による観察において、コレステリック液晶相に由来する明部が成す線および暗部が成す線が、波状構造を有しており、または、基板の表面に対して傾斜しており、かつ、明部が成す線および暗部が成す線の少なくとも一部が不連続である、反射層を形成するに際し、
基板の表面に配向処理を施さずに、基板の表面に、液晶化合物およびキラル剤を含む組成物を塗布して、組成物を硬化する、反射層の形成方法。
[7] 基板の表面に、コレステリック液晶相を固定してなる反射層であって、厚さ方向の断面における走査型電子顕微鏡による観察において、コレステリック液晶相に由来する明部が成す線および暗部が成す線が、波状構造を有しており、または、基板の表面に対して傾斜しており、かつ、明部が成す線および暗部が成す線の少なくとも一部が不連続である、反射層を形成するに際し、
基板の表面に、液晶化合物、キラル剤および垂直配向剤を含む組成物を塗布して、組成物を硬化する、反射層の形成方法。
[8] 基板の表面に、コレステリック液晶相を固定してなる反射層であって、厚さ方向の断面における走査型電子顕微鏡による観察において、コレステリック液晶相に由来する明部が成す線および暗部が成す線が、波状構造を有しており、または、基板の表面に対して傾斜しており、かつ、明部が成す線および暗部が成す線の少なくとも一部が不連続である、反射層を形成するに際し、
基板の表面に、液晶化合物、キラル剤および粒子を含む組成物を塗布して、組成物を硬化する、反射層の形成方法。
[9] 基板の表面に組成物を塗布した後、液晶化合物をコレステリック液晶相の状態にするために組成物の加熱を行い、その後、組成物を冷却または加熱する、[6]~[8]のいずれかに記載の反射層の形成方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、良好な透明性および拡散反射性(非鏡面反射性)を有し、さらに、投影像等のギラツキも抑制できる反射層を有する構造体、および、この反射層の形成方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の構造体の一例を概念的に示す断面図である。
図2図2は、コレステリック液晶層の反射を説明するための概念図である。
図3図3は、コレステリック液晶層の反射を説明するための概念図である。
図4図4は、本発明の構造体の別の例を概念的に示す断面図である。
図5図5は、図4の部分拡大図である。
図6図6は、本発明の構造体の別の例を概念的に示す断面図である。
図7図7は、従来の構造体を概念的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートの両方を表す表記であり、「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基およびメタクリロイル基の両方を表す表記であり、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよびメタクリルの両方を表す表記である。
【0015】
本発明において、可視光は、電磁波のうち、ヒトの目で見える波長の光であり、400~700nmの波長領域(波長域)の光を示す。非可視光は、400nm未満の波長領域または700nmを超える波長領域の光である。
また、これに制限されるものではないが、可視光のうち、420~490nmの波長領域の光は青色(B)光であり、495~570nmの波長領域の光は緑色(G)光であり、620~700nmの波長領域の光は赤色(R)光である。
さらに、本発明において、紫外線(紫外光)とは、400nm未満で200nm以上の波長領域の光であり、赤外線(赤外光)とは780nmを超え、1mm以下の波長領域の光であり、中でも、近赤外領域とは、780nmを超え、2000nm以下の波長領域の光である。
【0016】
図1に、本発明の構造体の断面を概念的に示す。図1は、例えば、本発明の構造体の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で観察した状態を概念的に示す図である。この点に関しては、後述する図2および図3図6および図7も同様である。
図1に示す構造体10は、基板12と、基板12の一方の表面に形成された、反射層14と、を有する。以下の説明では、構造体10の基板12側を『下』、反射層14側を『上』とも言う。
【0017】
反射層14は、コレステリック液晶相を固定してなる層である。
コレステリック液晶相を固定してなる層は、液晶分子が螺旋状に配向しており、反射に波長選択性を有し、さらに、所定の波長領域の右円偏光のみ、または、左円偏光のみを選択的に反射し、それ以外の光は、透過する。
【0018】
本発明の構造体において、反射層は、右円偏光を反射するものでも、左円偏光を反射するものでもよい。あるいは、本発明の構造体は、右円偏光を反射する反射層と、左円偏光を反射する反射層との、両方を有するものであってもよい。
また、本発明の構造体において、反射層が選択的に反射する波長領域、および、反射層の選択反射中心波長にも、制限はない。従って、反射層は、赤外線を選択的に反射する反射層でもよく、または、赤色光を選択的に反射する反射層でもよく、または、緑色光を選択的に反射する反射層でもよく、または、青色光を選択的に反射する反射層でもよく、または、紫外線を選択的に反射する反射層でもよい。
また、本発明の構造体は、層構成にも、制限はない。従って、本発明の構造体は、例えば、緑色光を選択的に反射する反射層を1層のみ有する構成でもよく、または、赤色光を選択的に反射する反射層と緑色光を選択的に反射する反射層とを有する2層構成でもよく、または、赤色光を選択的に反射する反射層と緑色光を選択的に反射する反射層と青色光を選択的に反射する反射層とを有する3層構成でもよく、または、赤外線を選択的に反射する反射層と赤色光を選択的に反射する反射層と緑色光を選択的に反射する反射層と青色光を選択的に反射する反射層とを有する4層構成でもよく、または、5層以上の反射層を有する構成でもよい。
【0019】
前述のように、反射層14は、コレステリック液晶相を固定してなる層である。なお、以下の説明では、コレステリック液晶相を固定してなる層を『コレステリック液晶層』とも言う。
従って、コレステリック液晶層である反射層14では、SEMで観察する断面において、コレステリック液晶相に由来して、厚さ方向に、明部16と暗部18とを交互に積層した縞模様が観察される。すなわち、コレステリック液晶相を固定した反射層14の断面では、明部16と暗部18とを交互に積層した層状構造が観察される。この縞模様の各線の法線が、コレステリック液晶相の螺旋軸方向となる。なお、上述した断面は、反射層14の厚さ方向の断面である。また、反射層14の厚さ方向とは、図1中における上下方向である。
ここで、図示例の構造体10は、基板12における反射層14の形成面は平坦面であるが、基板12に形成される反射層14の断面における明部16が成す線および暗部18が成す線は、周期的な波状構造を有する。周期的な波状構造とは、言い換えると、アンジュレーション構造であり、すなわち、凹凸構造である。
すなわち、図示例の構造体10において、反射層14は、コレステリック液晶構造を有し、螺旋軸と基板12の表面とのなす角が周期的に変化する構造を有する層である。言い換えれば、反射層14は、コレステリック液晶構造を有し、コレステリック液晶構造が、SEMで観測される断面図において、明部16と暗部18との縞模様を与え、明部16および暗部18の法線と基板12の表面とがなす角が、周期的に変化する層である。
【0020】
ここで、本発明の構造体10においては、コレステリック液晶相が配向欠陥部20を有することにより、反射層14の断面において明部16が成す線および暗部18が成す線は、少なくとも一部が、不連続になっている。
また、図1では表現されていないが、配向欠陥部20以外にも、コレステリック液晶相の欠陥部(転位など)でも、反射層14の断面において明部16が成す線および暗部18が成す線が不連続となる。具体的には、コレステリック液晶相の欠陥部とは、反射層14の断面において明部16が成す線および暗部18が成す線が途中で途切れてしまっている部分である。
本発明においては、このように明部16が成す線および暗部18が成す線が不連続な部分を有する構成により、本発明の構造体を透明スクリーン等に用いた際における、ギラツキを抑制している。この点に関しては、後に詳述する。
【0021】
なお、反射層14すなわちコレステリック液晶層では、明部16と暗部18の繰り返し2回分が、螺旋1ピッチ分に相当する。このことからコレステリック液晶層すなわち反射層14の螺旋ピッチは、SEM断面図から測定することができる。
明部16と暗部18の繰り返し2回分とは、すなわち、明部3つ、および、暗部2つ分である。また、螺旋1ピッチ分とは、言い換えれば、螺旋の巻き数1回分である。
【0022】
図2に、一般的なコレステリック層の断面を概念的に示す。
先にも述べたが、図2に示すように、基板12上に形成されたコレステリック液晶層50aの断面では、通常、明部16と暗部18との縞模様が観察される。
一般的に、明部16および暗部18の縞模様(層状構造)は、図2に示すように、形成面である基板12の表面と平行となるように形成される。コレステリック液晶層は、螺旋軸に直交する平面で鏡面反射性を示す。従って、このような態様の場合、コレステリック液晶相を固定したコレステリック液晶層50aは、鏡面反射性を示す。すなわち、コレステリック液晶層50aの法線方向から光が入射される場合、法線方向に光は反射されるが、斜め方向には光は反射されにくく、拡散反射性に劣る(図2中の矢印参照)。
【0023】
これに対して、図3に断面を概念的に示すコレステリック液晶層50bのように、形成面(基板12)を平坦面として、明部16および暗部18の縞模様すなわち明部16が成す線および暗部18が成す線が波状構造(アンジュレーション構造)を有する場合には、コレステリック液晶層50bの法線方向から光が入射されると、液晶化合物の螺旋軸が傾いている領域があるため、入射光の一部が斜め方向に反射される(図3中の矢印参照)。
つまり、コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層においては、明部16が成す線と暗部18が成す線とが波状構造を有することにより、拡散反射性の高いコレステリック液晶層が実現できる。また、拡散反射性は、明部16と暗部18との波状構造の凹凸が大きいほど、良好になる。
以下の説明では、コレステリック液晶層の断面における『明部が成す線および暗部が成す線の波状構造』を、単に『波状構造』とも言う。
【0024】
後述するが、波状構造を有するコレステリック液晶層は、一例として、液晶化合物とキラル剤とを含む組成物を被形成面に塗布し、組成物を加熱することによって液晶化合物をコレステリック液晶相に配向し、その後、組成物を冷却して紫外線照射等によってコレステリック液晶相を固定することで、形成できる。
前述のように、構造体が複数のコレステリック層を有する場合には、波状構造を有するコレステリック液晶層の上に、コレステリック液晶層を形成すると、下層のコレステリック液晶層の波状構造に追従して、上層のコレステリック液晶層も、同様の波状構造となる。すなわち、構造体が複数のコレステリック層を有する場合には、波状構造を有するコレステリック液晶層の上に、コレステリック液晶層を形成すると、下層のコレステリック液晶層の波状構造を踏襲して、上層のコレステリック液晶層も、同様の波状構造となる。
さらに、下層のコレステリック液晶層の波状構造の凹凸が大きいほど、上方のコレステリック液晶層の波状構造の凹凸も大きくなる。なお、コレステリック液晶層の波状構造の凹凸が大きいとは、波の高さが高いこと、および、波の周期が短いこと、を示す。
【0025】
本発明の構造体10において、反射層14の断面における波状構造は、波の周期は略均一であるが、波の高さは、変動してもよい。
例えば、波の高さが、反射層14の厚さ方向の中央領域が最も高く、厚さ方向の上方(表面側)および基板12側に向かうにしたがって、漸次、低くなる構成でもよい。すなわち、反射層14の断面の波状構造の振幅は、厚さ方向の中央領域が最も大きく、表面側および基板12側に向かうにしたがって、漸次、小さくなる構成でもよい。
あるいは、図3に示すコレステリック液晶層50bの波状構造のように、厚さ方向の全域で均一な高さの波を有する構造であってもよい。
【0026】
図示例の構造体10において、反射層14の表面24は、平面状であってもよく、図1に示すような凹凸構造を有してもよい。反射層14の表面24とは、すなわち、空気との界面または上層との界面である。
表面24に凹凸を有する反射層14は、反射層14の断面における波状構造の波の高さが、表面が平坦なコレステリック液晶層よりも大きい。そのため、表面24に凹凸構造を有する反射層14は、より高い拡散反射性が得られる。
【0027】
反射層14の表面24が凹凸構造を有する場合には、一般的に、表面24の凹凸構造は、周期的(略周期的)である。また、反射層14の表面24が凹凸構造を有する場合には、一般的に、表面24の凹凸構造は、図1に示すように、凹凸の位相が、断面の明部および暗部の波状構造と逆になる。
具体的には、反射層14の表面24の凹凸は、断面の波状構造に対して、位相が、半分(略半分)ズレている。従って、基板12の面方向では、反射層14の断面の波状構造の凸部の位置が反射層14の表面24の凹凸の凹部の位置となり、反射層14の断面の波状構造の凹部の位置が反射層14の表面24の凹凸の凸部の位置となる。
【0028】
さらに、反射層14は、図1に示すように、基本的に、断面の波状構造の周期C1と、表面24の凹凸の周期C2とが等しい。すなわち、反射層14は、断面の波状構造の周期と、表面24の凹凸の周期とが等しい。
なお、図1に示すように、周期C1は、反射層14の表面24に最も近い暗部18の波の頂点の間隔であり、周期C2は、反射層14の表面24における凸部の頂点の間隔である。
また、本発明において、周期C1と周期C2とが等しいとは、周期C1と周期C2とが完全に一致する場合のみならず、『[(C1-C2)/C1]×100』で算出される周期の差が±30%以下である場合も含む。
【0029】
前述のように、反射層14において、高い拡散反射性を得るためには、波状構造の周期C1を狭くして、かつ、断面の波状構造の波を大きく(高く)するのが好ましい。ここで、反射層14の表面24の凹凸の状態は、断面の波状構造に大きく影響される。従って、反射層14において、良好な拡散反射性を得るためには、表面の凹凸の周期C2を狭くして、かつ、凹凸の高さhを高く(深く)するのが好ましい。特に、凹凸の高さhは、高いほど、高い拡散反射性を得られる傾向にある。
しかしながら、反射層14の表面24の凹凸の周期C2すなわち断面の波状構造の周期C1を狭くすると、凹凸の高さhは低くなる傾向にある。逆に、表面24の凹凸の高さhを高くすると、凹凸の周期C2すなわち波状構造の周期C1は狭くなる傾向にある。
この点を考慮すると、反射層14の波状構造の周期C1は、0.3~10μmが好ましく、1~6μmがより好ましい。なお、反射層14では、基本的に、表面24の凹凸の周期C2と、断面の波状構造の周期C1とが等しいのは、前述のとおりである。
また、反射層14の表面24の凹凸の高さhは、1~500nmが好ましく、5~300nmがより好ましい。
【0030】
このような表面24に凹凸構造を有する反射層14は、後述する製造方法において、キラル剤および/または配向制御剤の選択、ならびに、加熱処理または冷却処理の条件の選択の、少なくとも一方を行うことにより、形成できる。
【0031】
本発明の構造体10において、反射層14の断面における波状構造は、図1図3)の横方向のみならず、例えば、図1の紙面に垂直な方向の断面でも、同様の波状構造が形成される。すなわち、反射層14の波状構造は、反射層14の面方向において二次元的に形成されており、反射層14は、あらゆる方向の断面で、波状構造が認められる。前述のように、反射層14の断面における波状構造とは、すなわち、明部16および暗部18の波状構造である。
ただし、本発明は、これに限定はされず、反射層14は、断面において、連続的な波が一方向にのみ進行するように形成される波状構造を有するものでもよい。しかしながら、拡散反射性の点では、反射層14は、前述のように、あらゆる方向の断面で波状構造が認められるのが好ましい。
この点に関しては、反射層14の表面の凹凸に関しても、同様である。
【0032】
本発明の構造体10において、反射層14は、コレステリック液晶相を固定してなるものであり、反射層14が、断面において明部16が成す線および暗部18が成す線が波状構造を有すると共に、明部16が成す線および暗部18が成す線の少なくとも一部が不連続となっている。図示例においては、反射層14が、コレステリック液晶相の配向欠陥部20を有することで、明部16が成す線および暗部18が成す線の少なくとも一部が不連続となっている。
本発明の構造体10は、このような構造を有することにより、良好な拡散反射性(非鏡面反射性)および透明性に加え、例えば透明スクリーンとして用いた場合にギラツキが生じることも抑制している。
【0033】
前述のように、コレステリック液晶相を固定してなる反射層(コレステリック液晶層)は、通常は、鏡面反射性を有するが、特許文献1にも記載されるように、反射軸すなわち螺旋軸を不均一化することにより、拡散反射性が得られる。
しかしながら、反射軸を不均一化した構成では、干渉現象によって反射される波長以外の波長領域においても、強い散乱が生じてしまう。そのため、例えば、透明スクリーンのような用途では、全ての波長領域において不透明度が高くなる問題が生じる。
【0034】
これに対して、図3に示すように、反射軸すなわち螺旋軸の方向が連続的に変化する波状構造を有する反射層では、干渉現象によって反射される波長以外の波長領域における散乱が少なく、不透明度が高くなりにくい。
ところが、コレステリック液晶相に由来する明部が成す線がおよび暗部が成す線が、波状構造を有する反射層は、図3に示すように、面内方向に波状の周期的な構造を有するため、この周期構造に由来して、強い回折現象が生じてしまう。そのため、例えば、スクリーン等の用途では、投影像にギラツキが生じてしまうという問題がある。
【0035】
これに対して図示例の構造体10においては、反射層14が波状構造を有すると共に、明部16が成す線および暗部18が成す線の少なくとも一部が不連続になっている。構造体10は、これにより、反射層14の面内方向において、波状構造による周期構造の連続性および規則性を低下することができ、波状の周期構造に由来する強い回折現象の発生を防止できる。
そのため、本発明の構造体10は、例えば、透明スクリーン等の用途に用いた場合に、良好な拡散反射性および透明性を有すると共に、投影光のギラツキも抑制して、背景の視認性と投影光の良好な観察とを両立することができる。
なお、本発明において、反射層14の面内方向とは、すなわち、反射層14の主面の面方向と一致する方向であり、すなわち、厚さ方向を垂線とする方向である。主面とは、層(シート状物、板状物、フィルム)の最大面である。
【0036】
構造体10の反射層14において、明部16が成す線および暗部18が成す線が不連続である部分は、少なくとも一部すなわち少なくとも1箇所を有せばよいが、反射層14の断面における1μm2当たり、暗部18が成す線が不連続となる部分が0.05箇所以上であるのが好ましく、0.1箇所以上であるのがより好ましく、0.15箇所以上であるのがさらに好ましく、0.2箇所以上であるのが特に好ましい。
以下の説明では、明部16が成す線が不連続である部分、および、暗部18が成す線が不連続である部分を『不連続点』とも言う。特に、暗部18が成す線が不連続である部分は『暗部18の不連続点』とも言う。
暗部18の不連続点の数を、反射層14の断面1μm2当たり0.05箇所以上とすることにより、例えば積層体10を透明スクリーン等に用いた場合のギラツキを好適に抑制できる。より好ましくは、反射層14の断面1μm2当たりの暗部18の不連続点を0.1箇所以上、さらに好ましく0.15箇所以上、特に好ましくは0.2箇所以上とすることにより、積層体10を透明スクリーン等に用いた場合のギラツキを、より好適に抑制できる。
【0037】
なお、暗部18の不連続点の数は、反射層14の断面1μm2当たり1箇所以下であるのが好ましく、0.5箇所以下であるのがより好ましい。
暗部18の不連続点の数を反射層14の断面1μm2当たり1箇所以下とすることにより、高い透明性を維持できる等の点で好ましい。
【0038】
なお、本発明において、暗部18の不連続点は、暗部18が成す線が途切れた箇所を1箇所として計数する。
具体的には、反射層14の断面1μm2当たりの暗部18の不連続点の数は、例えば、反射層14の断面をSEMで観察して、断面における100μm2の領域を任意に20箇所選択し、各領域で暗部18の不連続点の数を計数して、その平均を面積で除して、反射層14の断面1μm2当たりの暗部18の不連続点の数とすればよい。暗部18の不連続点とは、言い換えれば、暗部18が成す線が途切れた箇所である。
【0039】
前述のように、反射層14は、コレステリック液晶相を固定してなる、波状構造を有する層である。このような波状構造を有する反射層14において、不連続点は、基本的に、コレステリック液晶相に配向欠陥を生じさせることで、形成できる。
【0040】
後述するが、コレステリック液晶相を固定してなり、かつ、波状構造を有する反射層14は、一例として、以下のように形成する。
まず、液晶化合物、キラル剤および配向制御剤を含有する組成物(液晶組成物)を調製する。次いで、調製した組成物を基板12(反射層の形成面)に塗布する。さらに、塗布した組成物を加熱することによって、液晶化合物をコレステリック液晶相の状態に配向する。その後、組成物を冷却または加熱し、必要に応じて、紫外線照射等によって組成物を架橋することで、反射層14を形成する。
【0041】
ここで、コレステリック液晶相を固定してなり、かつ、波状構造を有する反射層の形成では、通常、基板12(反射層の形成面)に水平配向制御性を付与するためのラビング等の配向処理を行った後に、組成物を基板12に塗布する。
これに対して、基板12に配向処理を行わずに組成物を塗布して、反射層14を形成することにより、波状構造を有すると共に、不連続点を有する反射層14を形成できる。すなわち、基板12界面の水平配向制御を弱くすることで、波状構造を有し、かつ、不連続点を有する反射層14を形成できる。
コレステリック液晶相の形成では、組成物を塗布した当初は、液晶化合物の向きは様々であり、全体が配向欠陥のような状態になっている。そのため、基板12に配向処理を行わないことにより、液晶化合物がコレステリック液晶相に配向され難くなり、様々な方向を向くため、液晶化合物が適正にコレステリック液晶相に配向されない部分が生じ、この部分が配向欠陥となる。その結果、波状構造を有し、かつ、不連続点を有する反射層14を形成できる。
【0042】
別の方法として、反射層14を形成する組成物に、配向制御剤として、液晶化合物を垂直配向させる垂直配向剤を添加する方法が例示される。すなわち、組成物(塗膜)の空気界面における水平配向制御を弱くすることで、波状構造を有すると共に、不連続点を有する反射層14を形成できる。
前述のように、反射層14を形成する場合には、基板12にラビング処理等を施して、基板12に配向規制力を付与する。ここで、反射層14を形成する組成物が垂直配向剤を有する場合には、組成物の空気界面において、液晶化合物が垂直方向に配向しようとするため、組成物内で歪みが生じ、この部分が配向欠陥になる。その結果、波状構造を有し、かつ、不連続点を有する反射層14を形成できる。
なお、反射層14を形成する組成物には、通常、配向制御剤として後述するような液晶化合物を水平配向させる水平配向剤を添加するが、この垂直配向剤を添加する方法では、水平配向剤を添加せずに、垂直配向剤のみを添加するのが好ましい。
【0043】
垂直配向剤としては、フッ素系のポリマー(例えば、特開2007-248621号公報の[0074]~[0120]に記載されるもの)、含フッ素化合物(例えば、特開2007-248621号公報の[0122]~[0146]に記載されるもの)、オニウム塩(例えば、特開2013-235234号公報の[0155]~[0189]に記載されるもの)、セルロース材料(例えば、特許05301083号公報に記載されるもの)、および、ホスフィン化合物(例えば、特許5655113号公報に記載されるもの)等が例示される。
【0044】
さらに、別の方法として、反射層14を形成する組成物に、粒子(異物)を添加して、反射層14内で粒子を分散させる方法が例示される。
前述のように、コレステリック液晶相の形成では、組成物を塗布した当初は、液晶化合物の向きは様々であり、全体が配向欠陥のような状態になっている。組成物中の液晶化合物は、ラビング等によって水平配向性を付与された基板12の近傍から、上方に向かって、徐々に、コレステリック液晶相の状態に配向される。ここで、粒子が存在する位置は、液晶化合物が適正に配向されず、配向欠陥の状態で安定化する。その結果、波状構造を有すると共に、不連続点を有する反射層14を形成できる。
【0045】
組成物すなわち反射層14に添加する粒子の粒径(粒子径)には、制限はないが、コレステリック液晶相の螺旋ピッチ(螺旋1ピッチ)より粒径が小さい粒子が好ましい。粒子の添加は、構造体10のヘイズの上昇の原因になる可能性がある。これに対し、添加する粒子の粒子径をコレステリック液晶相の螺旋ピッチより小さくすることで、構造体10のヘイズの上昇を抑制できる。
反射層14における粒子の含有量にも、制限はないが、2質量%以下であるのが好ましい。
【0046】
添加する粒子の形成材料にも、制限はなく、十分な反射層14の透明性を確保できるものであれば、各種の粒子が利用可能である。
一例として、酸化物系ナノ粒子、ナノダイヤモンド、銀ナノ粒子、および、ポリマー系ナノ粒子等が例示される。酸化物系ナノ粒子としては、一例として、シリカゾル、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化窒化チタンおよびITO(Indium Tin Oxide)等が例示される。ポリマー系ナノ粒子としては、一例として、ポリスチレン、アクリル樹脂およびメラミン等が例示される。
【0047】
以上の不連続点を形成するための、基板12に配向処理を施さない方法、反射層14を形成する組成物に垂直配向剤を添加する方法、および、反射層14を形成する組成物に粒子(異物)を添加する方法は、2以上を併用してもよい。
【0048】
反射層14の厚さには、制限はなく、反射層14に要求される拡散反射性を満たす厚さを、反射層14の面方向の大きさ、反射層14の形成材料等に応じて、適宜、設定すればよい。
反射層14の厚さは、0.3~20μmが好ましく、0.5~10μmがより好ましい。反射層14の厚さを0.3μm以上とすることにより、十分な厚さの反射層14によって、良好な拡散反射性が得られる。また、反射層14の厚さを20μm以下とすることにより、反射層14が不要に厚くなることを防止して、例えば、後述する投影像表示用部材等を薄くできる。
なお、前述のように、基板12の上に複数の反射層を有する場合には、1層あたり厚さが、この範囲であるのが好ましい。また、表面24に凹凸を有さないコレステリック液晶層の厚さも、この範囲であるのが好ましい。
【0049】
前述のように、構造体10は、基板12の上に、断面における明部16が成す線および暗部18が成す線が波状構造を有し、かつ、明部16が成す線および暗部18が成す線の少なくとも一部が不連続である反射層14を形成したものである。
構造体10において、基板12は、反射層14(反射層14を形成する組成物)を支持するための板状物である。
基板12は、色味(色彩)を有さず、かつ、全光線透過率が70%以上であるのが好ましい。色彩を有さないとは、言い換えれば、無彩色である。すなわち、基板12は、無色透明であるのが好ましい。また、基板12の全光線透過率は、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
本発明において、全光線透過率は、日本電色工業社製のNDH5000またはSH-4000等の市販の測定装置を用いて、JIS K 7361に準拠して測定すればよい。
【0050】
基板12を構成する材料は特に制限されず、例えば、セルロース系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、(メタ)アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、アミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、および、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマーなどの各種の樹脂材料が挙げられる。
基板12には、UV(紫外線)吸収剤、マット剤微粒子、可塑剤、劣化防止剤、および、剥離剤などの各種添加剤が含まれていてもよい。さらに、基板12は、表面に配向層などの層を有してもよい。
なお、基板は、可視光領域で低複屈折性であるのが好ましい。例えば、基板の波長550nmにおける位相差は、50nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましい。
【0051】
基板12の厚さは特に制限されないが、薄型化、および、取り扱い性の点から、10~200μmが好ましく、20~100μmがより好ましい。
前述のように、図示例の構造体10においては、反射層14は波状構造を有するが、基板12の反射層14の形成面は、凹凸構造または波状構造を有するものではなく、平坦面である。
【0052】
前述のように、基板12の上には、断面における明部16が成す線および暗部18が成す線が波状構造を有し、かつ、明部16が成す線および暗部18が成す線の少なくとも一部が不連続である、反射層14が設けられる。
前述のように、反射層14は、コレステリック液晶相を固定してなる層であり、反射に波長選択性を有し、左円偏光または右円偏光を反射する。
【0053】
コレステリック液晶相を固定した反射層14の選択反射中心波長(選択反射の中心波長λ)は、コレステリック液晶相における螺旋構造のピッチP(=螺旋の周期)に依存し、反射層14(コレステリック液晶相)の平均屈折率nとλ=n×Pの関係に従う。
ここで、反射層14が有する選択反射の中心波長λは、反射層14の法線方向から測定した円偏光反射スペクトルの反射ピークの重心位置にある波長を意味する。上記式から分かるように、螺旋構造のピッチを調節することによって、選択反射の中心波長を調節できる。すなわち、n値とP値を調節して、例えば、青色光に対して右円偏光および左円偏光のいずれか一方を選択的に反射させるために、中心波長λを調節し、見かけ上の選択反射の中心波長が420nm以上500nm未満の波長領域となるようにすることができる。なお、見かけ上の選択反射の中心波長とは、実用の際の観察方向から測定した反射層14の円偏光反射スペクトルの反射ピークの重心位置にある波長を意味する。実用の際とは、例えば、投影像表示用部材としての使用時である。
コレステリック液晶相のピッチは液晶化合物とともに用いるキラル剤の種類、またはその添加濃度に依存するため、これらを調節することによって所望のピッチを得ることができる。
【0054】
コレステリック液晶相を固定してなる反射層14の反射光は、円偏光である。すなわち、本発明の構造体10は、円偏光を反射する。反射光が右円偏光であるか左円偏光であるかは、コレステリック液晶相の螺旋の捩れ方向による。コレステリック液晶相による円偏光の選択反射は、コレステリック液晶相の螺旋の捩れ方向が右の場合は右円偏光を反射し、螺旋の捩れ方向が左の場合は左円偏光を反射する。
なお、コレステリック液晶相の旋回の方向は、反射層14を形成する液晶化合物の種類または添加されるキラル剤の種類によって調節できる。
【0055】
螺旋の捩れ方向(センス)またはピッチの測定法については「液晶化学実験入門」日本液晶学会編 シグマ出版2007年出版、46頁、および、「液晶便覧」液晶便覧編集委員会 丸善 196頁に記載の方法を用いることができる。
【0056】
反射層14は、コレステリック液晶相を固定してなる層である。このような反射層14は、一例として、液晶化合物およびキラル剤を含む組成物を調製して、この組成物を塗布および乾燥し、必要に応じて組成物を硬化して、コレステリック液晶相を固定することで、形成できる。反射層14は、特に、2つ以上の重合性基を有する液晶化合物を重合して、三次元架橋された高分子材料で形成されるのが好ましい。
【0057】
(液晶化合物)
液晶化合物の種類は、特に制限されない。
一般的に、液晶化合物は、その形状から、棒状タイプ(棒状液晶化合物)と円盤状タイプ(ディスコティック液晶化合物、円盤状液晶化合物)とに分類できる。さらに、棒状タイプおよび円盤状タイプには、それぞれ低分子タイプと高分子タイプとがある。高分子とは、一般に重合度が100以上のものを指す(高分子物理・相転移ダイナミクス,土井 正男 著,2頁,岩波書店,1992)。本発明では、いずれの液晶化合物を用いることもできる。また、2種以上の液晶化合物を併用してもよい。
【0058】
液晶化合物は、重合性基を有していてもよい。重合性基の種類は特に制限されず、付加重合反応が可能な官能基が好ましく、重合性エチレン性不飽和基または環重合性基がより好ましい。より具体的には、重合性基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、スチリル基、アリル基、エポキシ基、および、オキセタン基等が好ましく、(メタ)アクリロイル基がより好ましい。
重合性基の数は特に制限されないが、2以上が好ましい。上限は特に制限されないが、8以下の場合が多い。
【0059】
液晶化合物としては、反射層14の拡散反射性がより優れる点で、以下の式(I)で表される液晶化合物が好ましい。
なかでも、反射層14の拡散反射性がより優れる点で、Aで表される置換基を有していてもよいトランス-1,4-シクロヘキシレン基の数をmで割った数をmcとしたとき、mc>0.1を満たす液晶化合物が好ましく、0.4≦mc≦0.8を満たす液晶化合物であるのがより好ましい。
なお、上記mcは、以下の計算式で表される数である。
mc=(Aで表される置換基を有していてもよいトランス-1,4-シクロヘキシレン基の数)÷m
【0060】
【化1】
【0061】
式中、
Aは、置換基を有していてもよいフェニレン基または置換基を有していてもよいトランス-1,4-シクロヘキシレン基を示し、Aのうち少なくとも1つは置換基を有していてもよいトランス-1,4-シクロヘキシレン基を示し、
Lは、単結合、または、-CH2O-、-OCH2-、-(CH22OC(=O)-、-C(=O)O(CH22-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-OC(=O)O-、-CH=N-N=CH-、-CH=CH-、-C≡C-、-NHC(=O)-、-C(=O)NH-、-CH=N-、-N=CH-、-CH=CH-C(=O)O-、および、-OC(=O)-CH=CH-からなる群から選択される連結基を示し、
mは3~12の整数を示し、
Sp1およびSp2は、それぞれ独立に、単結合、または、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基、および、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基において1つまたは2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、または-C(=O)O-で置換された基からなる群から選択される連結基を示し、
1およびQ2は、それぞれ独立に、水素原子、または、以下の式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択される重合性基を示し、ただしQ1およびQ2のいずれか一方は重合性基を示す;
【化2】
【0062】
Aは、置換基を有していてもよいフェニレン基、または、置換基を有していてもよいトランス-1,4-シクロヘキシレン基である。本明細書において、フェニレン基というとき、1,4-フェニレン基であるのが好ましい。
なお、Aのうち少なくとも1つは置換基を有していてもよいトランス-1,4-シクロヘキシレン基である。
m個のAは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0063】
mは3~12の整数を示し、3~9の整数であるのが好ましく、3~7の整数であるのがより好ましく、3~5の整数であるのがさらに好ましい。
【0064】
式(I)中の、フェニレン基およびトランス-1,4-シクロヘキシレン基が有していてもよい置換基としては、特に制限されず、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルキルエーテル基、アミド基、アミノ基、およびハロゲン原子、ならびに、上記の置換基を2つ以上組み合わせて構成される基からなる群から選択される置換基が挙げられる。また、置換基の例としては、後述の-C(=O)-X3-Sp3-Q3で表される置換基が挙げられる。フェニレン基およびトランス-1,4-シクロヘキシレン基は、置換基を1~4個有していてもよい。2個以上の置換基を有するとき、2個以上の置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0065】
本明細書において、アルキル基は直鎖および分岐のいずれでもよい。アルキル基の炭素数は1~30が好ましく、1~10がより好ましく、1~6がさらに好ましい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,1-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、および、ドデシル基などが挙げられる。アルコキシ基中のアルキル基の説明も、上記アルキル基に関する説明と同じである。また、本明細書において、アルキレン基というときのアルキレン基の具体例としては、上記のアルキル基の例それぞれにおいて、任意の水素原子を1つ除いて得られる2価の基が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、および、ヨウ素原子が挙げられる。
【0066】
本明細書において、シクロアルキル基の炭素数は、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、また、20以下が好ましく、10以下がより好ましく、8以下がさらに好ましく、6以下が特に好ましい。シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、および、シクロオクチル基などが挙げられる。
【0067】
フェニレン基およびトランス-1,4-シクロヘキシレン基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、および、-C(=O)-X3-Sp3-Q3からなる群から選択される置換基が好ましい。ここで、X3は単結合、-O-、-S-、もしくは-N(Sp4-Q4)-を示すか、または、Q3およびSp3と共に環構造を形成している窒素原子を示す。Sp3およびSp4は、それぞれ独立に、単結合、または、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基、および、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基において1つまたは2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、または-C(=O)O-で置換された基からなる群から選択される連結基を示す。
3およびQ4はそれぞれ独立に、水素原子、シクロアルキル基、シクロアルキル基において1つもしくは2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、もしくは-C(=O)O-で置換された基、または式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択されるいずれかの重合性基を示す。
【0068】
シクロアルキル基において1つまたは2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、または-C(=O)O-で置換された基として、具体的には、テトラヒドロフラニル基、ピロリジニル基、イミダゾリジニル基、ピラゾリジニル基、ピペリジル基、ピペラジニル基、および、モルホルニル基などが挙げられる。これらのうち、テトラヒドロフラニル基が好ましく、2-テトラヒドロフラニル基がより好ましい。
【0069】
式(I)において、Lは、単結合、または、-CH2O-、-OCH2-、-(CH22OC(=O)-、-C(=O)O(CH22-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-OC(=O)O-、-CH=CH-C(=O)O-、および、-OC(=O)-CH=CH-からなる群から選択される連結基を示す。Lは、-C(=O)O-または-OC(=O)-であるのが好ましい。m個のLは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0070】
Sp1およびSp2は、それぞれ独立に、単結合、または、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基、および、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基において1つまたは2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、または、-C(=O)O-で置換された基からなる群から選択される連結基を示す。Sp1およびSp2はそれぞれ独立に、両末端にそれぞれ-O-、-OC(=O)-、および、-C(=O)O-からなる群から選択される連結基が結合した炭素数1から10の直鎖のアルキレン基、-OC(=O)-、-C(=O)O-、-O-、および、炭素数1から10の直鎖のアルキレン基からなる群から選択される基を1または2以上組み合わせて構成される連結基であるのが好ましく、両末端に-O-がそれぞれ結合した炭素数1から10の直鎖のアルキレン基であるのがより好ましい。
【0071】
1およびQ2はそれぞれ独立に、水素原子、または、以下の式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択される重合性基を示す。ただし、Q1およびQ2のいずれか一方は重合性基を示す。
【0072】
【化3】
【0073】
重合性基としては、アクリロイル基(式(Q-1))またはメタクリロイル基(式(Q-2))が好ましい。
【0074】
上記液晶化合物の具体例としては、以下の式(I-11)で表される液晶化合物、式(I-21)で表される液晶化合物、式(I-31)で表される液晶化合物が挙げられる。上記以外にも、特開2013-112631号公報の式(I)で表される化合物、特開2010-70543号公報の式(I)で表される化合物、特開2008-291218号公報の式(I)で表される化合物、特許第4725516号の式(I)で表される化合物、特開2013-087109号公報の一般式(II)で表される化合物、特開2007-176927号公報の段落[0043]記載の化合物、特開2009-286885号公報の式(1-1)で表される化合物、WO2014/10325号の一般式(I)で表される化合物、特開2016-81035号公報の式(1)で表される化合物、ならびに、特開2016-121339号公報の式(2-1)および式(2-2)で表される化合物等の公知の化合物が挙げられる。
【0075】
式(I-11)で表される液晶化合物
【化4】
【0076】
式中、R11は水素原子、炭素数1から12の直鎖もしくは分岐のアルキル基、または、-Z12-Sp12-Q12を示し、
11は単結合、-C(=O)O-、または、-O(C=O)-を示し、
12は-C(=O)O-、-OC(=O)-、または、-CONR2-を示し、
2は、水素原子、または、炭素数1から3のアルキル基を示し、
11およびZ12はそれぞれ独立に、単結合、-O-、-NH-、-N(CH3)-、-S-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-OC(=O)O-、または、-C(=O)NR12-を示し、
12は水素原子または-Sp12-Q12を示し、
Sp11およびSp12はそれぞれ独立に、単結合、Q11で置換されていてもよい炭素数1から12の直鎖もしくは分岐のアルキレン基、または、Q11で置換されていてもよい炭素数1から12の直鎖もしくは分岐のアルキレン基において、いずれか1つ以上の-CH2-を-O-、-S-、-NH-、-N(Q11)-、または、-C(=O)-に置き換えて得られる連結基を示し、
11は水素原子、シクロアルキル基、シクロアルキル基において1つまたは2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、もしくは-C(=O)O-で置換された基、または、式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択される重合性基を示し、
12は水素原子または式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択される重合性基を示し、
11は0~2の整数を示し、
11は1または2の整数を示し、
11は1~3の整数を示し、
複数のR11、複数のL11、複数のL12、複数のl11、複数のZ11、複数のSp11、および、複数のQ11はそれぞれ互いに同じでも異なっていてもよい。
また、式(I-11)で表される液晶化合物は、R11として、Q12が式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択される重合性基である-Z12-Sp12-Q12を少なくとも1つ含む。
また、式(I-11)で表される液晶化合物は、Z11が-C(=O)O-または-C(=O)NR12-、および、Q11が式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択される重合性基である-Z11-Sp11-Q11であるのが好ましい。また、式(I-11)で表される液晶化合物は、R11として、Z12が-C(=O)O-または-C(=O)NR12-、および、Q12が式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択される重合性基である-Z12-Sp12-Q12であるのが好ましい。
【0077】
式(I-11)で表される液晶化合物に含まれる1,4-シクロヘキシレン基はいずれもトランス-1,4-シクロヘキレン基である。
式(I-11)で表される液晶化合物の好適態様としては、L11が単結合、l11が1(ジシクロヘキシル基)、かつ、Q11が式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択される重合性基である化合物が挙げられる。
式(I-11)で表される液晶化合物の他の好適態様としては、m11が2、l11が0、かつ、2つのR11がいずれも-Z12-Sp12-Q12を表し、Q12が式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択される重合性基である化合物が挙げられる。
【0078】
式(I-21)で表される液晶化合物
【化5】
【0079】
式中、Z21およびZ22は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいトランス-1,4-シクロヘキシレン基、または、置換基を有していてもよいフェニレン基を示し、
上記置換基はいずれもそれぞれ独立に、-CO-X21-Sp23-Q23、アルキル基、およびアルコキシ基からなる群から選択される1から4個の置換基であり、
m21は1または2の整数を示し、n21は0または1の整数を示し、
m21が2を示すときn21は0を示し、
m21が2を示すとき2つのZ21は同一であっても異なっていてもよく、
21およびZ22の少なくともいずれか一つは置換基を有していてもよいフェニレン基であり、
21、L22、L23およびL24はそれぞれ独立に、単結合、または、-CH2O-、-OCH2-、-(CH22OC(=O)-、-C(=O)O(CH22-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-OC(=O)O-、-CH=CH-C(=O)O-、および-OC(=O)-CH=CH-からなる群から選択される連結基を示し、
21は-O-、-S-、もしくは-N(Sp25-Q25)-を示すか、または、Q23およびSp23と共に環構造を形成する窒素原子を示し、
21は1から4の整数を示し、
Sp21、Sp22、Sp23、およびSp25はそれぞれ独立に、単結合、または、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基、および、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基において1つまたは2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、または-C(=O)O-で置換された基からなる群から選択される連結基を示し、
21およびQ22はそれぞれ独立に、式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択されるいずれかの重合性基を示し、
23は水素原子、シクロアルキル基、シクロアルキル基において1つもしくは2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、もしくは-C(=O)O-で置換された基、式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択されるいずれかの重合性基、または、X21がQ23およびSp23と共に環構造を形成する窒素原子である場合において単結合を示し、
25は、水素原子、シクロアルキル基、シクロアルキル基において1つもしくは2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、もしくは-C(=O)O-で置換された基、または、式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択されるいずれかの重合性基を示し、Sp25が単結合のとき、Q25は水素原子ではない。
【0080】
式(I-21)で表される液晶化合物は、1,4-フェニレン基およびトランス-1,4-シクロヘキシレン基が交互に存在する構造であることも好ましく、例えば、m21が2であり、n21が0であり、かつ、Z21がQ21側からそれぞれ置換基を有していてもよいトランス-1,4-シクロヘキシレン基、置換基を有していてもよいアリーレン基であるか、または、m21が1であり、n21が1であり、Z21が置換基を有していてもよいアリーレン基であり、かつ、Z22が置換基を有していてもよいアリーレン基である構造が好ましい。
【0081】
式(I-31)で表される液晶化合物;
【0082】
【化6】
【0083】
式中、R31およびR32はそれぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、および、-C(=O)-X31-Sp33-Q33からなる群から選択される基であり、
n31およびn32はそれぞれ独立に、0~4の整数を示し、
31は単結合、-O-、-S-、もしくは-N(Sp34-Q34)-を示すか、または、Q33およびSp33と共に環構造を形成している窒素原子を示し、
31は、置換基を有していてもよいフェニレン基を示し、
32は、置換基を有していてもよいトランス-1,4-シクロヘキシレン基、または、置換基を有していてもよいフェニレン基を示し、
上記置換基はいずれもそれぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、および、-C(=O)-X31-Sp33-Q33からなる群から選択される1から4個の置換基であり、
m31は1または2の整数を示し、m32は0~2の整数を示し、
m31およびm32が2を示すとき2つのZ31、Z32は同一であっても異なっていてもよく、
31およびL32はそれぞれ独立に、単結合、または、-CH2O-、-OCH2-、-(CH22OC(=O)-、-C(=O)O(CH22-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-OC(=O)O-、-CH=CH-C(=O)O-、および-OC(=O)-CH=CH-からなる群から選択される連結基を示し、
Sp31、Sp32、Sp33およびSp34はそれぞれ独立に、単結合、または、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基、および、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基において1つまたは2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、または-C(=O)O-で置換された基からなる群から選択される連結基を示し、
31およびQ32はそれぞれ独立に、式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択されるいずれかの重合性基を示し、
33およびQ34はそれぞれ独立に、水素原子、シクロアルキル基、シクロアルキル基において1つもしくは2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、もしくは-C(=O)O-で置換された基、または、式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択されるいずれかの重合性基を示し、Q33はX31およびSp33と共に環構造を形成している場合において、単結合を示してもよく、Sp34が単結合のとき、Q34は水素原子ではない。
式(I-31)で表される液晶化合物として、特に好ましい化合物としては、Z32がフェニレン基である化合物およびm32が0である化合物が挙げられる。
【0084】
式(I)で表される化合物は、以下の式(II)で表される部分構造を有することも好ましい。
【化7】

式(II)において、黒丸は、式(I)の他の部分との結合位置を示す。式(II)で表される部分構造は式(I)中の下記式(III)で表される部分構造の一部として含まれていればよい。
【0085】
【化8】
【0086】
式中、R1およびR2はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、および、-C(=O)-X3-Sp3-Q3で表される基からなる群から選択される基である。ここで、X3は単結合、-O-、-S-、もしくは-N(Sp4-Q4)-を示すか、または、Q3およびSp3と共に環構造を形成している窒素原子を示す。X3は単結合または-O-であることが好ましい。R1およびR2は、-C(=O)-X3-Sp3-Q3であることが好ましい。また、R1およびR2は、互いに同一であることが好ましい。R1およびR2のそれぞれのフェニレン基への結合位置は特に制限されない。
【0087】
Sp3およびSp4はそれぞれ独立に、単結合、または、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基、および、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基において1つまたは2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、または-C(=O)O-で置換された基からなる群から選択される連結基を示す。Sp3およびSp4としては、それぞれ独立に、炭素数1から10の直鎖または分岐のアルキレン基が好ましく、炭素数1から5の直鎖のアルキレン基がより好ましく、炭素数1から3の直鎖のアルキレン基がさらに好ましい。
3およびQ4はそれぞれ独立に、水素原子、シクロアルキル基、シクロアルキル基において1つもしくは2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-もしくは-C(=O)O-で置換された基、または、式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択されるいずれかの重合性基を示す。
【0088】
式(I)で表される化合物は、例えば、以下の式(II-2)で表される構造を有することも好ましい。
【0089】
【化9】
【0090】
式中、A1およびA2はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニレン基または置換基を有していてもよいトランス-1,4-シクロヘキレン基を示し、上記置換基はいずれもそれぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、および、-C(=O)-X3-Sp3-Q3からなる群から選択される1から4個の置換基であり、
1、L2およびL3は単結合、または、-CH2O-、-OCH2-、-(CH22OC(=O)-、-C(=O)O(CH22-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-OC(=O)O-、-CH=CH-C(=O)O-、および、-OC(=O)-CH=CH-からなる群から選択される連結基を示し、
n1およびn2はそれぞれ独立に、0から9の整数を示し、かつn1+n2は9以下である。
1、Q2、Sp1、および、Sp2の定義は、上記式(I)中の各基の定義と同義である。X3、Sp3、Q3、R1、および、R2の定義は、上記式(II)中の各基の定義と同義である。
【0091】
式(I)で表される液晶化合物であって、0.4≦mc≦0.8を満たす液晶化合物としては、例えば、国際公開第2016/047648号の段落[0051]~[0054]に記載されている化合物が例示される。
【0092】
なお、液晶化合物は2種以上併用して用いてもよい。例えば、式(I)で表される液晶化合物を2種以上併用してもよい。
なかでも、上記式(I)で表される液晶化合物であって、0.4≦mc≦0.8を満たす液晶化合物と共に、式(I)で表される液晶化合物であって、0.1<mc<0.3を満たす液晶化合物を用いるのが好ましい。
【0093】
式(I)で表される液晶化合物であって、0.1<mc<0.3を満たす液晶化合物としては、例えば、国際公開第2016/047648号の段落[0055]~[0058]に記載されている化合物が例示される。
【0094】
本発明に用いる液晶化合物としては、特開2014-198814号公報に記載される、以下の式(IV)で表される化合物、特に、式(IV)で表される1つの(メタ)アクリレート基を有する重合性液晶化合物も、好適に利用される。
【0095】
式(IV)
【化10】

式(IV)中、A1は、炭素数2~18のアルキレン基を表し、アルキレン基中の1つのCH2または隣接していない2つ以上のCH2は、-O-で置換されていてもよい;
1は、-C(=O)-、-O-C(=O)-または単結合を表し;
2は、-C(=O)-または-C(=O)-CH=CH-を表し;
1は、水素原子またはメチル基を表し;
2は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~4の直鎖アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、置換基を有していても良いフェニル基、ビニル基、ホルミル基、ニトロ基、シアノ基、アセチル基、アセトキシ基、N-アセチルアミド基、アクリロイルアミノ基、N,N-ジメチルアミノ基またはマレイミド基、メタクリロイルアミノ基、アリルオキシ基、アリルオキシカルバモイル基、アルキル基の炭素数が1~4であるN-アルキルオキシカルバモイル基、N-(2-メタクリロイルオキシエチル)カルバモイルオキシ基、N-(2-アクリロイルオキシエチル)カルバモイルオキシ基または以下の式(IV-2)で表される構造を表し;
1、L2、L3およびL4は各々独立して、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数2~5のアルコキシカルボニル基、炭素数2~4のアシル基、ハロゲン原子または水素原子を表し、L1、L2、L3およびL4のうち少なくとも1つは水素原子以外の基を表す。
【0096】
-Z5-T-Sp-P 式(IV-2)
式(IV-2)中、Pはアクリル基、メタクリル基または水素原子を表し、Z5は単結合、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-C(=O)NR1-(R1は水素原子またはメチル基を表す)、-NR1C(=O)-、-C(=O)S-、または、-SC(=O)-を表し、Tは1,4-フェニレンを表し、Spは置換基を有していてもよい炭素数1~12の2価の脂肪族基を表し、脂肪族基中の1つのCH2または隣接していない2以上のCH2は、-O-、-S-、-OC(=O)-、-C(=O)O-または-OCOO-で置換されていてもよい。)を表す。
【0097】
上記式(IV)で表される化合物は、以下の式(V)で表される化合物であることが好ましい。
式(V)
【化11】

式(V)中、n1は3~6の整数を表し;
11は水素原子またはメチル基を表し;
12は、-C(=O)-または-C(=O)-CH=CH-を表し;
12は、水素原子、炭素数1~4の直鎖アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイルアミノ基、アリルオキシ基、または以下の式(IV-3)で表される構造を表す。
-Z51-T-Sp-P 式(IV-3)
式(IV-3)中、Pはアクリル基またはメタクリル基を表し;
51は、-C(=O)O-、または、-OC(=O)-を表し;Tは1,4-フェニレンを表し;
Spは置換基を有していてもよい炭素数2~6の2価の脂肪族基を表す。この脂肪族基中の1つのCH2または隣接していない2以上のCH2は、-O-、-OC(=O)-、-C(=O)O-または-OC(=O)O-で置換されていてもよい。
【0098】
上記n1は3~6の整数を表し、3または4であることが好ましい。
上記Z12は、-C(=O)-または-C(=O)-CH=CH-を表し、-C(=O)-を表すことが好ましい。
上記R12は、水素原子、炭素数1~4の直鎖アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイルアミノ基、アリルオキシ基、または上記式(IV-3)で表される基を表し、メチル基、エチル基、プロピル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイルアミノ基、または上記式(IV-3)で表される基を表すことがより好ましく、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイルアミノ基、または上記式(IV-3)で表される構造を表すことがさらに好ましい。
【0099】
式(IV)で表される化合物は、例えば、特開2014-198814号公報の段落[0020]~[0036]に記載されている化合物が例示される。
【0100】
本発明に用いる液晶化合物としては、同じく特開2014-198814号公報に記載される、以下の式(VI)で表される化合物、特に、以下の式(VI)で表される(メタ)アクリレート基を有さない液晶化合物も好適に利用される。
【0101】
式(VI)
【化12】

式(VI)中、Z3は、-C(=O)-または-CH=CH-C(=O)-を表し;
4は、-C(=O)-または-C(=O)-CH=CH-を表し;
3およびR4は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~4の直鎖アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、置換基を有していても良い芳香環、シクロヘキシル基、ビニル基、ホルミル基、ニトロ基、シアノ基、アセチル基、アセトキシ基、アクリロイルアミノ基、N,N-ジメチルアミノ基、マレイミド基、メタクリロイルアミノ基、アリルオキシ基、アリルオキシカルバモイル基、アルキル基の炭素数が1~4であるN-アルキルオキシカルバモイル基、N-(2-メタクリロイルオキシエチル)カルバモイルオキシ基、N-(2-アクリロイルオキシエチル)カルバモイルオキシ基または以下の式(VI-2)で表される構造を表し;
5、L6、L7およびL8は各々独立して、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数2~5のアルコキシカルボニル基、炭素数2~4のアシル基、ハロゲン原子または水素原子を表し、L5、L6、L7およびL8のうち少なくとも1つは水素原子以外の基を表す。
【0102】
-Z5-T-Sp-P 式(VI-2)
式(VI-2)中、Pはアクリル基、メタクリル基または水素原子を表し、Z5は-C(=O)O-、-OC(=O)-、-C(=O)NR1-(R1は水素原子またはメチル基を表す)、-NR1C(=O)-、-C(=O)S-、または-SC(=O)-を表し、Tは1,4-フェニレンを表し、Spは置換基を有していてもよい炭素数1~12の2価の脂肪族基を表す。ただし、この脂肪族基中の1つのCH2または隣接していない2以上のCH2は、-O-、-S-、-OC(=O)-、-C(=O)O-または-OC(=O)O-で置換されていてもよい。
【0103】
上記式(VI)で表される化合物は、以下の式(VII)で表される化合物であることが好ましい。
式(VII)
【化13】

式(VII)中、Z13は、-C(=O)-または-C(=O)-CH=CH-を表し;
14は、-C(=O)-または-CH=CH-C(=O)-を表し;
13およびR14は各々独立して、水素原子、炭素数1~4の直鎖アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイルアミノ基、アリルオキシ基、または上記式(IV-3)で表される構造を表す。
【0104】
上記Z13は、-C(=O)-または-C(=O)-CH=CH-を表し、-C(=O)-を表すことが好ましい。
13およびR14は各々独立して、水素原子、炭素数1~4の直鎖アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイルアミノ基、アリルオキシ基または上記式(IV-3)で表される構造を表し、メチル基、エチル基、プロピル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイルアミノ基、もしくは上記式(IV-3)で表される構造を表すことが好ましく、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイルアミノ基または上記式(IV-3)で表される構造を表すことがさらに好ましい。
【0105】
式(VI)で表される化合物は、例えば、特開2014-198814号公報の段落[0042]~[0049]に記載されている化合物が例示される。
【0106】
本発明に用いる液晶化合物としては、同じく、特開2014-198814号公報に記載される、以下の式(VIII)で表される化合物、特に、以下の式(VIII)で表される2つの(メタ)アクリレート基を有する重合性液晶化合物も好適に利用される。
【0107】
式(VIII)
【化14】

式(VIII)中、A2およびA3は各々独立して、炭素数2~18のアルキレン基を表し、アルキレン基中の1つのCH2または隣接していない2つ以上のCH2は、-O-で置換されていてもよい;
5は、-C(=O)-、-OC(=O)-または単結合を表し;
6は、-C(=O)-、-C(=O)O-または単結合を表し;
5およびR6は各々独立して、水素原子またはメチル基を表し;
9、L10、L11およびL12は各々独立して、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数2~5のアルコキシカルボニル基、炭素数2~4のアシル基、ハロゲン原子または水素原子を表し、L9、L10、L11およびL12のうち少なくとも1つは水素原子以外の基を表す。
【0108】
上記式(VIII)で表される化合物は、下記式(IX)で表される化合物であることが好ましい。
式(IX)
【化15】

式(IX)中、n2およびn3は各々独立して、3~6の整数を表し;
15およびR16は各々独立して、水素原子またはメチル基を表す。
【0109】
式(IX)中、n2およびn3は各々独立して、3~6の整数を表し、上記n2およびn3が4であることが好ましい。
式(IX)中、R15およびR16は各々独立して、水素原子またはメチル基を表し、上記R15およびR16が水素原子を表すことが好ましい。
【0110】
式(VIII)で表される化合物は、例えば、特開2014-198814号公報の段落[0056]および[0057]に記載されている化合物が例示される。
【0111】
これらの液晶化合物は、公知の方法により製造することが可能である。
【0112】
(キラル剤(キラル化合物))
組成物は、キラル剤を含む。
キラル剤の種類は、特に制限されない。キラル剤は液晶性であっても、非液晶性であってもよい。キラル剤は、公知の種々のキラル剤(例えば、液晶デバイスハンドブック、第3章4-3項、TN(Twisted Nematic)、STN(Super Twisted Nematic)用カイラル剤、199頁、日本学術振興会第142委員会編、1989に記載)から選択することができる。キラル剤は、一般に不斉炭素原子を含む。ただし、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物または面性不斉化合物を、キラル剤として用いることもできる。軸性不斉化合物または面性不斉化合物の例には、ビナフチル、ヘリセン、パラシクロファン、および、これらの誘導体等が含まれる。キラル剤は、重合性基を有していてもよい。
【0113】
組成物中、キラル剤の含有量は、液晶化合物全質量に対して、0.5~30質量%が好ましい。キラル剤の使用量は、より少ないことが液晶性に影響を及ぼさない傾向があるため好まれる。従って、キラル剤としては、少量でも所望の螺旋ピッチの捩れ配向を達成可能なように、強い捩り力のある化合物が好ましい。
このような強い捩れ力を示すキラル剤としては、例えば、特開2002-302487号公報、特開2002-80478号公報、特開2002-80851号公報、特開2002―179668号公報、特開2002―179670号公報、特開2002-338575号公報、特開2002-180051号公報、特開昭62―81354号公報、WO2002/006195号、特開2011-241215号公報、特開2003-287623号公報、特開2002-302487号公報、特開2002-80478号公報、特開2002-80851号公報、および、特開2014-034581号公報に記載のキラル剤、ならびに、BASF社製のLC-756などが挙げられる。
【0114】
(任意の成分)
組成物には、液晶化合物およびキラル剤以外の他の成分が含まれていてもよい。
【0115】
(重合開始剤)
組成物は、重合開始剤を含んでいてもよい。特に、液晶化合物が重合性基を有する場合、組成物が重合開始剤を含むことが好ましい。
重合開始剤としては、紫外線照射によって重合反応を開始可能な光重合開始剤であることが好ましい。光重合開始剤としては、α-カルボニル化合物(米国特許第2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書記載)、α-炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp-アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60-105667号公報、米国特許第4239850号明細書記載)、ならびに、オキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書記載)などが挙げられる。
組成物中での重合開始剤の含有量は特に制限されないが、液晶化合物全質量に対して、0.1~20質量%が好ましく、1~8質量%がより好ましい。
【0116】
(配向制御剤(配向剤))
組成物は、配向制御剤を含んでいてもよい。組成物に配向制御剤が含まれることにより、安定的または迅速なコレステリック液晶相の形成が可能となる。
配向制御剤としては、例えば、含フッ素(メタ)アクリレート系ポリマー、WO2011/162291号に記載の一般式(X1)~(X3)で表される化合物、特開2012-211306号公報の段落[0007]~[0029]に記載の化合物、特開2013-47204号公報の段落[0020]~[0031]に記載の化合物、WO2016/009648号の段落[0165]~[0170]に記載の化合物、WO2016/092844号の段落[0077]~[0081]、および、特許第4592225号公報に記載の一般式(Cy201)~(Cy211)等が挙げられる。これらから選択される2種以上を含有していてもよい。これらの化合物は、層の空気界面において、液晶化合物の分子のチルト角を低減または実質的に水平配向させることができる。なお、本明細書で「水平配向」とは、液晶分子長軸と膜面が平行であることをいうが、厳密に平行であることを要求するものではなく、本明細書では、水平面とのなす傾斜角が20°未満の配向を意味するものとする。
【0117】
なお、不連続点を形成するために、配向制御剤として垂直配向剤を添加する場合には、このような液晶化合物を水平配向させる配向制御剤(水平配向剤)に加えて、好ましくは替えて、前述の垂直配向剤を組成物に添加するのは、前述のとおりである。
【0118】
配向制御剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
組成物中での配向制御剤の含有量は特に制限されないが、液晶化合物全質量に対して、0.01~10質量%が好ましく、0.01~5質量%がより好ましく、0.01~1質量%がさらに好ましい。
【0119】
(溶媒)
組成物は、溶媒を含んでいてもよい。
溶媒としては、水または有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミドなどのアミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;ピリジンなどのヘテロ環化合物;ベンゼン、ヘキサンなどの炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタンなどのアルキルハライド類;酢酸メチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンなどのケトン類;テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタンなどのエーテル類;1,4-ブタンジオールジアセテート;などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0120】
(その他の添加剤)
組成物は、1種または2種以上の、酸化防止剤、紫外線吸収剤、増感剤、安定剤、可塑剤、連鎖移動剤、重合禁止剤、消泡剤、レべリング剤、増粘剤、難燃剤、界面活性物質、分散剤、ならびに、染料および顔料などの色材、などの他の添加剤を含んでいてもよい。
【0121】
このような本発明の構造体10は、基板12の上に、反射層14を形成することで、作製できる。
反射層14の形成においては、まず、基板12の反射層14の形成面に、ラビング処理等の液晶化合物を水平配向制御させるための配向処理を行う。一方で、前述のような液晶化合物、キラル剤および配向制御剤を含む組成物を調製する。
その上で、配向処理を施した基板12に、調製した組成物を基板12に塗布する。
塗布方法は特に制限されず、例えば、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、および、ダイコーティング法などが挙げられる。
なお、必要に応じて、塗布後に、基板12に塗布した組成物を乾燥する処理を実施してもよい。乾燥処理を実施することにより、塗布した組成物から溶媒を除去できる。
【0122】
次に、基板12上に塗布した組成物(組成物層(塗膜))を加熱して、組成物中の液晶化合物を配向させてコレステリック液晶相の状態とする。
組成物の液晶相転移温度は、製造適性の面から10~250℃が好ましく、10~150℃がより好ましい。
好ましい加熱条件としては、40~100℃(好ましくは、60~100℃)で0.5~5分間(好ましくは、0.5~2分間)にわたって組成物を加熱する。
【0123】
組成物を加熱して、液晶化合物をコレステリック液晶相の状態にしたら、組成物に含まれるキラル剤の螺旋誘起力を向上するように、組成物を冷却または加熱して、反射層14を形成する。つまり、基板12上に形成された塗布層(組成物層)を構成する組成物に含まれるキラル剤の螺旋誘起力(HTP:Helical Twisting Power)が上昇するように、塗布層に冷却処理または加熱処理を施す。
塗布層の冷却処理および加熱処理を施すことにより、キラル剤の螺旋誘起力が上昇して、液晶化合物の捩れが増して、結果として、コレステリック液晶相の配向(螺旋軸の傾き)が変化する。これにより、基板12に平行な明部16および暗部18が変化して、図1図3)に示すような波状構造(凹凸構造)の明部16および暗部18を有する反射層14(コレステリック液晶相状態の組成物の層)が形成される。
【0124】
組成物を冷却する際には、反射層14の拡散反射性がより優れる点で、組成物の温度が30℃以上下がるように、組成物を冷却することが好ましい。なかでも、上記効果がより優れる点で、40℃以上下がるように組成物を冷却するのが好ましく、50℃以上下がるように組成物を冷却するのがより好ましい。上述の冷却処理の低減温度幅の上限値には制限はないが、通常、70℃程度である。
なお、上述の冷却処理は、言い換えると、冷却前のコレステリック液晶相の状態の組成物の温度をT℃とする場合、T-30℃以下となるように、組成物を冷却することを意図する。
上記冷却の方法は特に制限されず、組成物が配置された基板を所定の温度の雰囲気中に静置する方法が挙げられる。
【0125】
冷却処理における冷却速度には制限は無いが、コレステリック液晶相の明部16および暗部18の波状構造、あるいはさらに、反射層14の表面24の凹凸を、好適に形成するためには、冷却速度を、ある程度の速さにするのが好ましい。
具体的には、冷却処理における冷却速度は、その最大値が毎秒1℃以上であるのが好ましく、毎秒2℃以上であるのがより好ましく、毎秒3℃以上であるのがさらに好ましい。なお、冷却速度の上限には制限はないが、毎秒10℃以下の場合が多い。
【0126】
液晶化合物が重合性基を有する場合、冷却処理または加熱処理を施した後、基板12上の組成物に硬化処理を施し、液晶化合物を三次元架橋することでコレステリック液晶相を固定して、反射層14を形成してもよい。
この硬化処理は、冷却処理または加熱処理と同時に行ってもよく、あるいは、冷却処理または加熱処理を施した後に行ってもよい。
【0127】
なお、コレステリック液晶相を「固定化した」状態は、コレステリック液晶相となっている液晶化合物の配向が保持された状態が最も典型的、且つ、好ましい態様である。ただし、コレステリック液晶相を「固定化した」状態は、それだけには制限されず、具体的には、通常0~50℃、より過酷な条件下では-30~70℃の温度範囲において、層に流動性が無く、また、外場もしくは外力によって配向形態に変化を生じさせることなく、固定化された配向形態を安定に保ち続けることができる状態を意味するものとする。本発明では、後述するように、紫外線照射によって進行する硬化反応により、コレステリック液晶相の配向状態を固定することが好ましい。
なお、コレステリック液晶相を固定してなる層においては、コレステリック液晶相の光学的性質が層中において保持されていれば十分であり、最終的に層中の組成物がもはや液晶性を示す必要はない。
【0128】
硬化処理の方法は特に制限されず、光硬化処理および熱硬化処理が挙げられる。なかでも、光照射処理が好ましく、紫外線照射処理がより好ましい。
紫外線照射には、紫外線ランプなどの光源が利用される。
紫外線の照射エネルギー量は特に制限されないが、一般的には、0.1~0.8J/cm2程度が好ましい。また、紫外線を照射する時間は特に制限されないが、得られる層の充分な強度および生産性の双方の観点から適宜決定すればよい。
【0129】
このような波状構造を有する反射層14の形成において、前述のように、基板12にラビング処理等の配向処理を施さないで反射層14を形成するための組成物を塗布する、反射層14を形成するための組成物配向制御剤として垂直配向剤を添加する、および、反射層14を形成するための組成物に粒子(異物)を添加する、の1以上を行うことにより、波状構造を有すると共に、不連続点を有する反射層14を形成できる。
【0130】
なお、本発明の構造体が、複数のコレステリック反射層を有する場合には、同様に、液晶化合物、キラル剤および配向制御剤を含む組成物を調製して、先に形成したコレステリック液晶層の上に塗布して、組成物中の液晶化合物を配向させてコレステリック液晶相の状態として、必要に応じて硬化処理を施して、コレステリック液晶層を形成すればよい。
【0131】
前述のように、下層のコレステリック液晶層が断面において波状構造を有する場合には、上層のコレステリック液晶層も下層のコレステリック液晶層の波状構造に追従して、断面における明部および暗部が波状構造となる。従って、コレステリック液晶層上に塗布法によって形成されたコレステリック液晶層も、断面における明部16および暗部18は波状構造となる。
従って、コレステリック液晶層の上に、さらにコレステリック液晶層を形成する場合には、HTPを向上して波状構造を形成するための組成物の冷却または加熱は、必要に応じて行えばよい。
【0132】
図1に示す構造体10は、基板12の表面は平坦面で、反射層14におけるコレステリック液晶相の配向(螺旋軸の傾き)を変化させることにより、断面における明部16が成す線および暗部18が波状構造を有する反射層14(コレステリック液晶相状態の組成物の層)を形成している。
本発明の構造体において、断面において明部16が成す線および暗部18が成す線が波状構造を有するコレステリック液晶層は、これに制限はされず、各種の構成が利用可能である。
【0133】
一例として、図4、および、図4の部分拡大図である図5に概念的に示す構造体30のように、基板12の表面に透明な半球状等の凸部32を形成し、この凸部32を覆うように、コレステリック液晶相を固定してなる反射層34(コレステリック液晶層)を形成した構成が例示される。なお、図4および図5は、波状構造の別の例を示すものであるので、不連続点(配向欠陥部)の図示は、省略している。
この構造体30では、反射層34におけるコレステリック液晶相の配向は、通常のコレステリック液晶層と同様に形成面に対して垂直である。しかしながら、構造体30を全体的に見れば、明部16が成す線および暗部18が成す線は、波状構造になる。
【0134】
この構造体30において、凸部32は、例えば、透明な樹脂材料を含む液体の組成物を用いて、インクジェット方等でドットを形成し、必要に応じて紫外線照射等によって硬化して形成すればよい。あるいは、基板として、ガラスブラストマットシートおよびマイクロレンズアレイシート等の凸部32が形成されている物を用いてもよい。
反射層34は、前述のような液晶化合物、キラル剤および水平配向剤を含有する組成物(液晶組成物)を調製し、凸部32を覆うように組成物を塗布して、液晶化合物をコレステリック液晶相の状態に配向した後、組成物を硬化して、形成すればよい。この際において、凸部32に配向処理を施さない、組成物が垂直配向剤を含有する、および、組成物が粒子を含有する、の1以上によって、反射層34のコレステリック液晶相に配向欠陥を生じさせ、明部16が成す線および暗部18が成す線に不連続点を形成できる。
凸部32の形状としては、半球状(略半球状)以外にも、球欠状(略球欠状)等、各種の形状が利用可能である。
【0135】
以上の構造体30において、反射層14は、SEMで観察する断面におけるコレステリック液晶相に由来する明部16および暗部18が成す線が、波状構造を有する。
これに対し、図6に概念的に示す本発明の別の態様の構造体40において、反射層42は、SEMで観察する断面におけるコレステリック液晶相に由来する明部16が成す線および暗部18が成す線が、基板12の表面すなわち反射層42の形成面に対して傾斜しており、かつ、コレステリック液晶相が配向欠陥部46を有することにより、明部16が成す線および暗部18が成す線が不連続点を有する。
なお、図6に示す構造体40は、明部16が成す線および暗部18が成す線が、波状構造ではなく、基板12の表面に対して傾斜している以外は、基本的に、前述の構造体10と同様であるので、以下の説明は、異なる点を主に行う。
【0136】
このように、明部16が成す線および暗部18が成す線が基板12の表面に対して傾斜している構成では、反射軸は、明部16が成す線および暗部18が成す線と直交する方向になる。従って、反射層42による光の反射方向は、非鏡面反射性である。
【0137】
図7に概念的に示す構造体60のように、反射層62(コレステリック液晶層)の明部16が成す線および暗部18が成す線が、基板12の表面すなわち反射層42の形成面に対して傾斜している場合には、反射層62の面内方向において、直線状の明部16が成す線と暗部18が成す線とが、均一(略均一)な間隔で、一方向に交互に形成される。すなわち、この構成でも、反射層62は、面内方向に、直線状の明部16が成す線と暗部18が成す線とが、交互に形成される周期的な構造を有する。
そのため、前述の波状構造のコレステリック液晶層50b(図3参照)と同様に、この周期構造に由来して、強い回折現象が生じてしまい、例えば、スクリーン等の用途では、投影像にギラツキが生じてしまう。
【0138】
これに対して、本発明の構造体40は、反射層42の明部16が成す線および暗部18が成す線が、基板12の表面すなわち反射層42の形成面に対して傾斜すると共に、直線状の明部16が成す線および暗部18が成す線の少なくとも一部が不連続となっている。これにより反射層42の面内方向において、明部16が成す線と暗部18が成す線とが交互に繰り返し形成されることによる周期構造の連続性および規則性を低下することができ、波状構造の周期構造に由来する強い回折現象の発生を防止できる。
また、この態様では、反射層42(コレステリック液晶層)の反射軸は、基本的に均一なので、干渉現象によって反射される波長以外の波長領域以外における散乱波生じないため、透明性も確保できる。
そのため、本発明の構造体40においても、例えば、透明スクリーン等の用途に用いた場合に、良好な非鏡面反射性および透明性を有すると共に、投影光のギラツキも抑制して、背景の視認性と投影光の良好な観察とを両立することができる。
【0139】
なお、本発明において、明部16が成す線および暗部18が成す線が、基板12の表面に対して傾斜しているとは、明部16が成す線および暗部18が成す線(液晶分子の長軸)が、基板12の表面と平行ではない状態を示す。言い換えれば、コレステリック液晶相の螺旋軸と、基板12の表面とが成す角度が、90°以外で、かつ、均一である状態を示す。
好ましくは、明部16が成す線および暗部18が成す線が、基板12の表面に対して傾斜しているとは、明部16が成す線および暗部18が成す線と、基板12の表面とが成す角度が、±5°以上である状態を示す。言い換えれば、好ましくは、コレステリック液晶相の螺旋軸と、基板12の表面とが成す角度が、90°±5°以上である状態を示す。
【0140】
このような、明部16が成す線および暗部18が成す線が、基板12の表面に対して傾斜している反射層42は、例えば、Apply.Phys.Lett. 1998.921に記載される方法を参考にして形成できる。
このような反射層42の形成において、上述の前述の波状構造の反射層14の形成と同様に、反射層42を形成する組成物に、垂直配向剤を添加することによって、および/または、粒子を添加することによって、コレステリック液晶相に配向欠陥部46を生じさせることで、明部16が成す線および暗部18が成す線が、基板12の表面に対して傾斜すると共に、直線状の明部16が成す線および暗部18が成す線の少なくとも一部が不連続となっている、反射層42を形成できる。
【0141】
このような本発明の構造体は、投影像表示用のスクリーンおよびハーフミラーとして利用することができる。また、反射帯域を制御することで、カラーフィルターまたはディスプレイの表示光の色純度を向上させるフィルターとして利用することもできる(例えば特開2003-294948号公報参照)。
また、構造体は、光学素子の構成要素である、偏光素子、反射膜、反射防止膜、視野角補償膜、ホログラフィー、および、配向膜など、種々の用途に利用できる。
【0142】
本発明の構造体は、特に、投影像表示用のスクリーンなどの投影像表示用部材として好適に利用される。具体的には、透明スクリーンおよび明室用スクリーンとして好適に利用される。
すなわち、前述のようなコレステリック液晶層の機能により、投影光のうち選択反射を示す波長において、いずれか一方のセンスの円偏光を反射させて、投影像を形成することができる。投影像は投影像表示用部材表面で表示され、そのように視認されるものであってもよく、観察者から見て投影像表示用部材の先に浮かび上がって見える虚像であってもよい。
【0143】
各コレステリック液晶層の選択反射の中心波長を、投影に用いられる光源の発光波長領域、および投影像表示用部材の使用態様に応じて調節することにより、光利用効率良く鮮明な投影像を表示することができる。特にコレステリック液晶層の選択反射の中心波長をそれぞれ投影に用いられる光源の発光波長領域などに応じてそれぞれ調節することにより、光利用効率良く鮮明なカラー投影像を表示することができる。
【0144】
また、例えば、上記投影像表示用部材を可視光領域の光に対して透過性を有する構成とすることによりヘッドアップディスプレイのコンバイナとして使用可能なハーフミラーとすることができる。投影像表示用ハーフミラーは、プロジェクターから投影された画像を視認可能に表示することができるとともに、画像が表示されている同じ面側から投影像表示用ハーフミラーを観察したときに、反対の面側にある情報または風景を同時に観察することができる。
【実施例
【0145】
以下に、実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、および、処理手順などは、本発明の主旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0146】
[組成物1~5の調製]
下記の表1に示す成分を混合して、組成物1~5を調製した。なお、各成分の量は、全て、質量部である。
【0147】
【表1】
【0148】
棒状液晶化合物101
【化16】
【0149】
棒状液晶化合物102
【化17】
【0150】
棒状液晶化合物201
【化18】
【0151】
棒状液晶化合物202
【化19】
【0152】
キラル剤A
【化20】
【0153】
配向制御剤1(水平配向剤)
【化21】
【0154】
配向制御剤2(垂直配向剤)
【化22】
【0155】
[実施例1~3、6、および、比較例1]
(構造体の作製)
基板として、ラビング処理を施したPET(poly-ethylene terephthalate)フィルム(東洋紡社製)を用意した。
基板のラビング処理面に、表1に示す組成物を、ワイヤーバーを用いて塗布した。組成物の塗布層を室温にて50秒間乾燥させた後、95℃の雰囲気で1分間加熱して液晶化合物を配向させた。
その後、塗布層に対して、30℃で、フュージョン社製のDバルブ(ランプ90mW/cm2)を用いて、出力80%で、8秒間、紫外線(UV(Ultra Violet)光)を照射することで、基板上に反射層(コレステリック液晶層)を形成して、構造体を作製した。なお、上記の手順においては、95℃で液晶化合物を配向させた後、30℃まで液晶組成物を冷却した。
【0156】
[実施例4]
基板として、ラビング処理を施さないPETフィルムを用いた以外は、実施例1と同様に、構造体を作製した。
【0157】
[実施例5]
(重合性組成物塗布液Aの調製)
以下の成分を混合して、重合性組成物塗布液Aを調製した。
ブレンマー758(日油社製) 100質量部
空気界面配向剤(A-2) 0.02質量部
重合開始剤(BASF社製、Irg819) 3質量部
MEK(メチルエチルケトン、和光純薬社製) 200質量部
【0158】
空気界面配向剤(A-2)
【化23】
【0159】
<アクリル層の作成>
PETフィルム(東洋紡社製)を用意した。
PETフィルムに、ワイヤーバーを用いて、室温にて、重合性組成物塗布液Aを塗布した。得られた塗布層を、室温にて30秒間乾燥させた後、85℃の雰囲気で2分間加熱した。
その後、塗膜に対して、30℃で、フュージョン社製のDバルブ(ランプ90mW/cm2)を用いて、出力60%で、6秒間。紫外線を照射し、アクリル層を形成した。このアクリル層は、下地層に該当する。
形成したアクリル層の一部を剥離し、形状測定レーザマイクロスコープVK-X200(キーエンス社製)によって、10倍の対物レンズを用いて、膜厚を測定した。その結果、アクリル層の膜厚は、3μmであった。
基板として、このアクリル層を形成したPETフィルムを用い、かつ、組成物5を用いた以外は、実施例1と同様に、構造体を作製した。なお、反射層の形成は、アクリル層に行った。
【0160】
[反射層の状態]
実施例1~5および比較例1で作製した構造体について、反射層の一部を剥離し、形状測定レーザマイクロスコープVK-X200(キーエンス社製)にて10倍の対物レンズを用いて、反射層の膜厚を測定した。その結果、反射層の厚さは、3.5μmであった。
また、構造体をウルトラミクロトームによって断面切削し、断面にカーボン蒸着による導電性処理を施したのち、SEM(日立ハイテクノロジーズ社製、SU8030)によって、加速電圧2kVでの二次電子像を観察したところ、各反射層は、明部の成す線および暗部の成す線が波状構造になっていることが確認できた。
さらに、このSEM画像を解析して、コレステリック液晶相の螺旋ピッチを測定したところ、組成物1、3および4を用いたものは520nm、組成物2を用いたものは320nmであった。
【0161】
[不連続点の計数]
断面SEM画像を解析して、反射層の断面における1μm2当たり暗部の不連続点の数を計数した。
1μm2当たり暗部の不連続点の数は、反射層の断面をSEMで観察して、断面における100μm2の領域を任意に2箇所選択して、各領域で暗部の不連続点の数を計数し、その平均を面積で除して、反射層の断面1μm2当たりの暗部の不連続点の数([箇所/μm2])を求めた。
【0162】
[ギラツキの評価]
作製した構造体について、白色光の環境下で、観察角度を任意に変化させて、反射層における面内方向の反射色の均一性を目視で確認して、下記の基準で評価した。
A: 面内方向の反射色のバラツキが全くなく、ギラツキも発生していない
B: 面内方向の反射色のバラツキがほとんどなく、ギラツキも発生していない
C: 面内方向の反射色のバラツキが少しあるもの、ギラツキは目立たない
D: 面内方向の反射色のバラツキが有り、ギラツキが発生している。
以上の結果を、表2に示す。
【0163】
【表2】
【0164】
表2に示すように、反射層において、明部が成す線および暗部が成す線に不連続な部分すなわち不連続点を有する本発明の構造体によれば、反射層が周期的な波状構造を有するにも関わらず、周期構造の連続性および規則性を低下して、強い回折現象の発生を防止できるため、面内方向の反射色のバラツキ、および、投影光のギラツキを抑制できる。
なお、実施例3が、他の例に比してギラツキの評価が低いのは、垂直配向剤を用いる実施例3の構成では、基板近傍は適正にコレステリック液晶相の状態に配向されており、基板近傍における不連続点が少ないために、不連続点の数が他の例に比して少なく、ギラツキの評価が低くなったものと推測される。
これに対して、反射層の不連続点が極めて少ない、すなわち、無いに等しい比較例1では、波状の周期構造に由来する強い回折現象が生じたと考えられ、面内方向に反射色のバラツキが認められ、また、観察角度によってギラツキが発生している。
【0165】
なお、作製した構造体について、絶対反射率測定システム付きの分光光度計V-670(日本分光社製)に、作製した構造体をコレステリック液晶層を光源側に向けてセットし、0°入射45°検出の条件で、45°における反射性能の高さを評価した。その結果、いずれの構造体も、45°における反射性能は良好であった。
また、作製した構造体について、日本電色工業社製のNDH5000を用いて、JIS K 7361に準拠して、全光線透過率を測定した。その結果、いずれの構造体も、十分な全光線透過率を有し、透明性は十分であった。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0166】
投影像表示用のスクリーンおよびハーフミラー等として、好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0167】
10、30、40、60 構造体
12 基板
14、34、42、62 反射層
16 明部
18 暗部
20、46 配向欠陥部
24 表面
32 凸部
50a、50b コレステリック液晶層
C1 波状構造の周期
C2 凹凸の周期
h 凹凸の高さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7