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特許7024079架橋ポリオレフィン分離膜及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-14
(45)【発行日】2022-02-22
(54)【発明の名称】架橋ポリオレフィン分離膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/417 20210101AFI20220215BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20220215BHJP
   C08J 9/26 20060101ALI20220215BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20220215BHJP
【FI】
H01M50/417
C08J3/24 A CES
C08J9/26 102
H01M50/403 A
H01M50/403 B
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020526873
(86)(22)【出願日】2019-09-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-04
(86)【国際出願番号】 KR2019011328
(87)【国際公開番号】W WO2020050589
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2020-05-15
(31)【優先権主張番号】10-2018-0104827
(32)【優先日】2018-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ビ-オ・リュ
(72)【発明者】
【氏名】ウォン-シク・ペ
(72)【発明者】
【氏名】ジュ-ソン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ア-ヨン・イ
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2016-0129583(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0056492(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106920912(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/417
C08J 3/24
C08J 9/26
H01M 50/403
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(S1)ポリオレフィン、希釈剤、開始剤及び炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランを押出機に投入及び混合した後、押出してシラングラフトされたポリオレフィン組成物を製造する段階と、
(S2)前記押出されたシラングラフトされたポリオレフィン組成物をシート状に成形及び延伸する段階と、
(S3)前記延伸されたシートを架橋触媒が含まれている抽出水槽に入れて希釈剤を抽出して水架橋する段階と、
(S4)前記水架橋された結果物を熱固定する段階とを含む、架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【請求項2】
前記抽出水槽が水及び抽出溶媒を含む、請求項1に記載の架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【請求項3】
前記抽出溶媒が有機溶媒である、請求項2に記載の架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【請求項4】
前記抽出水槽がアルコールをさらに含む、請求項2または3に記載の架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【請求項5】
前記水とアルコールとの重量比が95:5~80:20である、請求項4に記載の架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【請求項6】
前記アルコールが、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、またはこれらのうち2以上の混合物を含む、請求項4または5に記載の架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【請求項7】
前記抽出水槽の温度が40℃以上である、請求項1から6の何れか一項に記載の架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【請求項8】
前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランの含量が、前記ポリオレフィン及び希釈剤の合計100重量部を基準にして0.01~1.0重量部であり、
前記開始剤の含量が、前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン100重量部を基準にして0.1~5.0重量部である、請求項1から7の何れか一項に記載の架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【請求項9】
前記熱固定の温度が120~150℃である、請求項1から8の何れか一項に記載の架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【請求項10】
前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランが、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、(3-メタクリルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(3-メタクリルオキシプロピル)トリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニル-トリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジエトキシシラン、またはこれらのうち少なくとも2以上を含む、請求項1から9の何れか一項に記載の架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【請求項11】
前記架橋触媒が、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、酢酸第一錫、カプリル酸第一錫、ナフテン酸亜鉛、カプリル酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、エチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ピリジン、硫酸、塩酸、トルエンスルホン酸、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸、またはこれらのうち2以上の混合物を含む、請求項1から10の何れか一項に記載の架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【請求項12】
前記架橋触媒の含量が、前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン100重量部を基準にして0.1~10重量部である、請求項1から11の何れか一項に記載の架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【請求項13】
前記(S2)段階と前記(S3)段階との間に、前記延伸されたシート上に架橋触媒が含有された水分散液が塗布された間紙フィルムを配置する段階と、
前記(S3)段階で、希釈剤を抽出して前記間紙フィルムを除去する段階とをさらに含む、請求項1から12の何れか一項に記載の架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【請求項14】
前記(S4)段階の後に、温度70~90℃及び相対湿度70~90%の条件下で、前記熱固定された結果物を水架橋する段階をさらに含む、請求項1から13の何れか一項に記載の架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋ポリオレフィン分離膜及びその製造方法に関する。
【0002】
本出願は、2018年9月3日出願の韓国特許出願第10-2018-0104827号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
近年、エネルギー貯蔵技術に対する関心が益々高まっている。携帯電話、カムコーダー及びノートパソコン、さらには電気自動車のエネルギーまで適用分野が拡がるとともに、電気化学素子の研究と開発に対する努力が益々具体化されている。電気化学素子はこのような面から最も注目されている分野であり、なかでも充放電可能な二次電池の開発には関心が集まっている。近年はこのような電池の開発において、容量密度及び比エネルギーを向上させるために新たな電極と電池の設計に関連する研究開発が行われている。
【0004】
現在適用されている二次電池のうち1990年代初頭に開発されたリチウム二次電池は、水溶液電解液を使用するNi-MH、Ni-Cd、硫酸-鉛電池などの従来の電池に比べて、作動電圧が高くてエネルギー密度が格段に高いという長所から脚光を浴びている。
【0005】
このようなリチウム二次電池は、正極、負極、電解液、分離膜から構成され、なかでも分離膜には、正極と負極とを分離して電気的に絶縁させるための絶縁性、及び高い気孔度に基づいてリチウムイオンの透過性を高めるために高いイオン伝導度が求められる。
【0006】
また、このような分離膜では、シャットダウン(shut down)温度とメルトダウン(melt down)温度との差が大きいと、分離膜を含むリチウム二次電池の安全性が確保される。両者の間隔を広げるためには、シャットダウン温度は減少する方向に、メルトダウン温度は増加する方向に調節しなければならない。
【0007】
メルトダウン温度を高める方法としては、架橋ポリオレフィン多孔性膜を用いる方法がある。しかし、このように架橋を通じてメルトダウン温度を増加させる場合、形成された分離膜の3次元網状構造のため、高温(約100℃以上)で相互架橋引力または内部応力が強く発生し、熱収縮率が高くなる問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、メルトダウン温度が高く、かつ、熱収縮率が改善された架橋ポリオレフィン分離膜及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、下記具現例による架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法を提供する。
【0010】
第1具現例は、
(S1)ポリオレフィン、希釈剤、開始剤及び炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランを押出機に投入及び混合した後、押出してシラングラフトされたポリオレフィン組成物を製造する段階と、
(S2)前記押出されたシラングラフトされたポリオレフィン組成物をシート状に成形及び延伸する段階と、
(S3)前記延伸されたシートを架橋触媒が含まれている抽出水槽に入れて希釈剤を抽出して水架橋する段階と、
(S4)前記水架橋された結果物を熱固定する段階とを含む、架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0011】
第2具現例は、第1具現例において、
前記抽出水槽が水及び抽出溶媒を含む、架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0012】
第3具現例は、第2具現例において、
前記抽出水槽がアルコールをさらに含む、架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0013】
第4具現例は、第3具現例において、
前記水とアルコールとの重量比が95:5~80:20である、架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0014】
第5具現例は、第3具現例において、
前記アルコールが、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、またはこれらのうち2以上の混合物を含む、架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0015】
第6具現例は、第1~第5具現例のうちいずれか一具現例において、
前記抽出水槽の温度が40℃以上である、架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0016】
第7具現例は、第1~第6具現例のうちいずれか一具現例において、
前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランの含量が前記ポリオレフィン及び希釈剤の合計100重量部を基準にして0.01~1.0重量部であり、
前記開始剤の含量が前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン100重量部を基準にして0.1~5.0重量部である、架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0017】
第8具現例は、第1~第7具現例のうちいずれか一具現例において、
前記熱固定の温度が120~150℃である、架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0018】
第9具現例は、第1~第8具現例のうちいずれか一具現例において、
前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランが、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、(3-メタクリルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(3-メタクリルオキシプロピル)トリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニル-トリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジエトキシシラン、またはこれらのうち少なくとも2以上を含む、架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0019】
第10具現例は、第1~第9具現例のうちいずれか一具現例において、
前記架橋触媒が、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、酢酸第一錫、カプリル酸第一錫、ナフテン酸亜鉛、カプリル酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、エチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ピリジン、硫酸、塩酸、トルエンスルホン酸、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸、またはこれらのうち2以上の混合物を含む、架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0020】
第11具現例は、第1~第10具現例のうちいずれか一具現例において、
前記架橋触媒の含量が、前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン100重量部を基準にして0.1~10重量部である、架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0021】
第12具現例は、第1~第11具現例のうちいずれか一具現例において、
前記(S2)段階と前記(S3)段階との間に、前記延伸されたシート上に架橋触媒が含有された水分散液が塗布された間紙フィルム(interleaving film)を配置する段階と、
前記(S3)段階で、希釈剤を抽出して前記間紙フィルムを除去する段階とをさらに含む、架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0022】
第13具現例は、第1~第12具現例のうちいずれか一具現例において、
前記(S4)段階の後に、温度70~90℃及び相対湿度70~90%の条件下で、前記熱固定された結果物を水架橋する段階をさらに含む、架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0023】
本発明の他の一態様は、下記具現例による架橋ポリオレフィン分離膜を提供する。
【0024】
第14具現例は、
MD方向(machine direction)及びTD方向(transverse direction)の熱収縮率(120℃/1時間)が下記数式1を満足する架橋ポリオレフィン分離膜に関する。
MD+TD≦10% … 数式1
数式1において、MDは前記架橋ポリオレフィン分離膜のMD方向熱収縮率、TDは前記架橋ポリオレフィン分離膜のTD方向熱収縮率をそれぞれ意味し、
前記熱収縮率は下記数式2によって計算される。
熱収縮率=(最初の長さ-120℃/1時間の熱収縮処理後の長さ)/(最初の長さ)×100 … 数式2
【0025】
第15具現例は、第14具現例において、
前記分離膜がリチウム二次電池用である、架橋ポリオレフィン分離膜に関する。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一態様による架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法は、希釈剤抽出工程と水架橋工程とを同時に行い、その後、前記水架橋された結果物を熱固定することで、メルトダウン温度が高く、かつ、熱収縮率が改善された架橋ポリオレフィン分離膜及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳しく説明する。本明細書及び特許請求の範囲に使用された用語や単語は通常的や辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者自らは発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則して本発明の技術的な思想に応ずる意味及び概念で解釈されねばならない。
【0028】
本明細書の全体において、ある部分が他の部分と「連結」されるとするとき、これは「直接的な連結」だけではなく、他の素子を介在した「間接的な連結」も含む。また、「連結」とは、物理的連結だけでなく、電気化学的連結も含む。
【0029】
本明細書の全体において、ある部分が他の構成要素を「含む」とは、特に言及しない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0030】
また、本明細書で使用される「含む」とは、言及した形状、数値、段階、動作、部材、要素及び/またはこれらのグループの存在を特定するものであって、一つ以上の他の形状、数字、動作、部材、要素及び/またはグループの存在または付加を排除するものではない。
【0031】
本明細書の全体で使われる用語「約」、「実質的に」などは、言及された意味に固有の製造及び物質許容誤差が提示されるとき、その数値でまたはその数値に近接した意味として使われ、本願の理解を助けるために正確又は絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために使われる。
【0032】
本明細書の全体において、マーカッシュ形式の表面に含まれた「これらの組合せ」との用語は、マーカッシュ形式の表現に記載された構成要素からなる群より選択される一つ以上の混合または組合せを意味するものであって、記載された構成要素からなる群より選択される一つ以上を含むことを意味する。
【0033】
本明細書の全体において、「A及び/またはB」との記載は「A、Bまたはこれら全て」を意味する。
【0034】
本発明は、架橋ポリオレフィン分離膜及びその製造方法に関する。
【0035】
リチウム二次電池に使用される分離膜は、シャットダウン温度とメルトダウン温度との差が大きいと優れた安全性を有する。このとき、両者の間隔を広げるためには、シャットダウン温度は減少する方向に、メルトダウン温度は増加する方向に調節しなければならない。
【0036】
そこで、本発明者らは、より高いメルトダウン温度を有する分離膜を製造するため、架橋ポリオレフィン多孔性膜を用いた。本発明者らは、シラングラフト反応が行われたポリオレフィンを熱固定した後、水架橋工程を行う場合、従来の架橋ポリオレフィン多孔性膜では熱収縮率が増加する問題を見つけた。具体的には、水架橋による3次元網状構造によって高温(約100℃)以上で内部応力が強く働くようになる。これによって、水架橋の前に行った熱固定による効果が衰え、高温における熱収縮率が非常に高くなる。すなわち、熱固定後に水架橋を行うことで多孔性膜の物性が変わったため、熱固定の効果が弱化しで熱収縮率が増加する問題を見つけた。
【0037】
本発明者らはこのような問題点に着目し、希釈剤の抽出と水架橋とを同時に行い、その後前記水架橋された結果物を熱固定することで、熱収縮率が改善された架橋ポリオレフィン分離膜及びその製造方法を提供する。
【0038】
本発明の一態様による架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法は、
(S1)ポリオレフィン、希釈剤、開始剤及び炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランを押出機に投入及び混合した後、押出してシラングラフトされたポリオレフィン組成物を製造する段階と、
(S2)前記押出されたシラングラフトされたポリオレフィン組成物をシート状に成形及び延伸する段階と、
(S3)前記延伸されたシートを架橋触媒が含まれている抽出水槽に入れて希釈剤を抽出して水架橋する段階と、
(S4)前記水架橋された結果物を熱固定する段階とを含む。
【0039】
従来の工程では、希釈剤を抽出して製造した多孔性膜を先に熱固定し、その後水架橋反応を行って架橋ポリオレフィン分離膜を製造した。しかし、このような方法は、熱固定を通じて熱履歴を提供する効果が、熱固定後に水架橋を行うことによって無くなってしまい高い熱収縮率を有するようになるという問題がある。すなわち、熱固定の後に水架橋を経ながら多孔性膜の物性が変わるため、水架橋前に行った熱固定の効果が低い。
【0040】
しかし、本発明は、このような問題点に着目して希釈剤の抽出と水架橋とを同時に行い、その後に前記水架橋された結果物を熱固定することで、熱収縮率が改善された架橋ポリオレフィン分離膜及びその製造方法を提供することができる。
【0041】
以下、本発明による分離膜の製造方法を具体的に説明する。
【0042】
まず、ポリオレフィン、希釈剤、開始剤及び炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランを押出機に投入及び混合した後、押出してシラングラフトされたポリオレフィン組成物を製造する(S1)。
【0043】
本発明の具体的な一実施形態において、前記ポリオレフィンは、ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリブチレン;ポリペンテン;ポリヘキセン;ポリオクテン;エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、4-メチルペンテン、ヘキセン及びオクテンのうち2種以上の共重合体;またはこれらの混合物であり得る。
【0044】
特に、前記ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)などがあり、なかでも結晶度が高くて樹脂の溶融点が高い高密度ポリエチレンが最も望ましい。
【0045】
本発明の具体的な一実施形態において、前記シラングラフトされたポリオレフィンは、ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリブチレン;ポリペンテン;ポリヘキセン;ポリオクテン;エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、4-メチルペンテン、ヘキセン及びオクテンのうち2種以上の共重合体;またはこれらの混合物であり得る。
【0046】
特に、前記ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)などがあり、なかでも結晶度が高くて樹脂の溶融点が高い高密度ポリエチレンが最も望ましい。
【0047】
本発明の具体的な一実施形態において、前記ポリオレフィンの重量平均分子量は200,000~1,000,000、220,000~700,000または250,000~500,000であり得る。本発明では、200,000~1,000,000の重量平均分子量を有する高分子量のポリオレフィンを分離膜製造の出発物質として使用することで、分離膜フィルムの均一性及び製膜工程性を確保しながら、最終的に強度及び耐熱性に優れた分離膜を得ることができる。
【0048】
本発明の具体的な一実施形態において、前記希釈剤は、湿式分離膜の製造に一般に使用される液体または固体パラフィンオイル、ワックス、大豆油などを使用することができる。
【0049】
本発明の具体的な一実施形態において、前記希釈剤としては、ポリオレフィンと液-液相分離可能な希釈剤も使用可能であり、例えば、ジブチルフタレート、ジヘキシルフタレート、ジオクチルフタレートなどのフタル酸エステル類;ジフェニルエーテル、ベンジルエーテルなどの芳香族エーテル類;パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの炭素数10~20の脂肪酸類;パルミチン酸アルコール、ステアリン酸アルコール、オレイン酸アルコールなどの炭素数10~20の脂肪酸アルコール類;パルミチン酸モノ-、ジ-またはトリエステル、ステアリン酸モノ-、ジ-またはトリエステル、オレイン酸モノ-、ジ-またはトリエステル、リノール酸モノ-、ジ-またはトリエステルなどの、脂肪酸基の炭素数が4~26である飽和及び不飽和脂肪酸、若しくは、不飽和脂肪酸の二重結合がエポキシで置換された1個または2個以上の脂肪酸が、ヒドロキシ基が1~8個であって炭素数が1~10であるアルコールとエステル結合された脂肪酸エステル類;であり得る。
【0050】
前記希釈剤は、上述した成分を単独または2種以上含む混合物で使用することができる。
【0051】
本発明の具体的な一実施形態において、前記希釈剤の含量は、前記ポリオレフィンの含量100重量部を基準にして100~350重量部、125~300重量部または150~250重量部であり得る。希釈剤の総含量が上記の数値範囲を満足する場合、ポリオレフィン含量が多いことによる、気孔度が減少し気孔のサイズが小さくなって気孔同士で相互連結されず透過度が大幅に低下し、ポリオレフィン組成物の粘度が上がって押出負荷が上昇し加工が困難であるという問題を減少させることができ、ポリオレフィン含量が少ないことによる、ポリオレフィンと希釈剤との混練性が低下してポリオレフィンが希釈剤に熱力学的に混練されず、ゲル形態で押出されることで生じる延伸時の破断及び厚さのバラツキなどの問題を減少させることができる。
【0052】
本発明の具体的な一実施形態において、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランは、シラン架橋反応を起こす架橋剤であって、ビニル基によってポリオレフィンにグラフトされ、アルコキシ基によって水架橋反応が行われてポリオレフィンを架橋させる役割をする。
【0053】
本発明の具体的な一実施形態において、下記化学式1で表される化合物を含むことができる。
【0054】
【化1】
【0055】
化学式1において、前記R、R及びRは、それぞれ独立的に、炭素数1~10のアルコキシ基または炭素数1~10のアルキル基であり、このとき、前記R、R及びRのうち少なくとも一つはアルコキシ基であり、
前記Rはビニル基、アクリルオキシ基、メタクリルオキシ基、または炭素数1~20のアルキル基であり、このとき、前記アルキル基の少なくとも一つの水素がビニル基、アクリル基、アクリルオキシ基、メタクリルオキシ基またはメタクリル基で置換される。
【0056】
一方、前記Rは、追加的に、アミノ基、エポキシ基またはイソシアネート基をさらに含むことができる。
【0057】
本発明の具体的な一実施形態において、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランは、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、(3-メタクリルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(3-メタクリルオキシプロピル)トリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニル-トリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジエトキシシランまたはこれらのうち少なくとも2以上を含むことができる。
【0058】
本発明の具体的な一実施形態において、前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランの含量は、ポリオレフィン及び希釈剤の合計100重量部を基準にして0.01~1重量部または0.05~0.7重量部であり得る。前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランの含量が上記の数値範囲を満足する場合、シランの含量が少なくてグラフト率が低下し架橋度が低下するか、または、シラン含量が多くて未反応シランが残存し押出シートの外観が不良になる問題などを防止することができる。
【0059】
本発明の具体的な一実施形態において、前記開始剤は、ラジカルの生成が可能な開始剤であれば制限なく使用可能である。前記開始剤の非制限的な例としては、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン(DHBP)、ベンゾイルペルオキシド、アセチルペルオキシド、ジラウリルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、クミルペルオキシド、過酸化水素、過硫酸カリウムなどが挙げられる。
【0060】
本発明の具体的な一実施形態において、前記開始剤の含量は、前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン100重量部を基準にして、0.1~5重量部、0.5~4重量部または1~2重量部であり得る。前記開始剤の含量が上記の数値範囲を満足する場合、開始剤の含量が低くてシラングラフト率が低下するか、または、開始剤の含量が多くて押出機内でポリオレフィン同士が架橋する問題を防止することができる。
【0061】
本発明の具体的な一実施形態において、前記シラングラフトされたポリオレフィン組成物は、必要に応じて、界面活性剤、酸化安定剤、UV安定剤、帯電防止剤、核形成剤(nucleating agent)などの特定機能を向上させるための一般的な添加剤をさらに含むことができる。
【0062】
次いで、前記反応押出されたシラングラフトされたポリオレフィン組成物をシート状に成形及び延伸する(S2)。
【0063】
例えば、反応押出されたシラングラフトされたポリオレフィン組成物をT-ダイなどが取り付けられた押出機などを用いて押出した後、水冷、空冷式を用いた一般的なキャスティングあるいはカレンダリング方法を使用して冷却押出物を形成することができる。
【0064】
本発明の具体的な一実施形態において、上記のように延伸する段階を経ることで改善された機械的強度及び突刺し強度を有する分離膜を提供することができる。
【0065】
本発明の具体的な一実施形態において、前記延伸は、ロール方式またはテンター方式の逐次または同時延伸で行うことができる。前記延伸比は、縦方向及び横方向でそれぞれ3倍以上、または4倍~10倍であり得る。延伸比が上記の数値範囲を満足する場合、一方向の配向が十分ではなく、同時に、縦方向と横方向との間の物性均衡が崩れて引張強度及び突刺し強度が低下するという問題を防止することができる。また、総延伸比が上記の数値範囲を満足すると、未延伸または気孔が形成されない問題を防止することができる。
【0066】
本発明の具体的な一実施形態において、前記延伸温度は使用されたポリオレフィンの融点、希釈剤の濃度及び種類によって変わり得る。
【0067】
本発明の具体的な一実施形態において、例えば、使用されたポリオレフィンがポリエチレンであり、希釈剤が液体パラフィンである場合、前記延伸温度は、縦延伸(MD)の場合70~160℃、90~140℃または100~130℃であり得、横延伸(TD)の場合90~180℃、110~160℃または120~150℃であり得る。
【0068】
前記延伸温度が上記の数値範囲を満足する場合、前記延伸温度が低いことによる、軟質性がなくて破断が起きるかまたは未延伸が起きる問題を防止でき、延伸温度が高いために発生する部分的な過延伸または物性差を防止することができる。
【0069】
その後、前記延伸されたシートを架橋触媒が含まれている抽出水槽に入れて希釈剤を抽出して水架橋する(S3)。
【0070】
本発明は、熱固定の後に水架橋を行うことで多孔性膜の物性が変わることを防止するため、水架橋を先に行った後、熱固定を行う。このとき、水架橋を最大に進行させた状態で熱固定を行えば、最終的な多孔性膜の物性は変わらない状態で熱履歴を受けるようになり、熱収縮率を改善することができる。
【0071】
本発明の具体的な一実施形態において、前記抽出水槽は水及び抽出溶媒を含むものである。本発明において、架橋触媒は前記抽出水槽内の抽出溶媒に溶解され得る。本発明において、架橋触媒は前記抽出水槽内の水に溶解され得る。本発明による抽出水槽内では、シラングラフトされたポリオレフィン組成物内の-Si-O-CH基が水と加水分解反応して-Si-OHで置換され得る。
【0072】
本発明の具体的な一実施形態において、前記抽出水槽は2層に区分され得る。具体的には、比重の高い抽出溶媒が下層に位置し、水が上層に位置し得る。水が抽出溶媒に比べて上層に位置することによって抽出溶媒の揮発を防止することができる。
【0073】
本発明では、架橋触媒が含まれている抽出水槽内で希釈剤の抽出によって多孔性膜の形成と同時に水架橋反応が起きる。具体的には、抽出水槽内の抽出溶媒層において、シラングラフトされたポリオレフィン組成物内に存在する希釈剤が除去され、同時に除去された希釈剤のサイトは架橋触媒で置換される。その後、前記架橋触媒を含むシラングラフトされた組成物が、抽出水槽内の上層に存在する水と反応して水架橋反応を起こす。
【0074】
本発明の具体的な一実施形態において、前記架橋触媒は、前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン100重量部を基準にして0.1~10重量部または0.5~2重量部で存在し得る。
【0075】
本発明の具体的な一実施形態において、前記抽出水槽はアルコールをさらに含むことができる。前記アルコールは、Si-O-CHと直接反応はしないが、架橋触媒を溶解させることができる。
【0076】
本発明の具体的な一実施形態において、前記水とアルコールとの重量比は95:5~80:20または90:10~85:15であり得る。上記の数値範囲で架橋触媒がより容易に溶解され、抽出溶媒の揮発を防止することができる。
【0077】
本発明の具体的な一実施形態において、前記アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、またはこれらのうち2以上の混合物を含むことができる。
【0078】
前記抽出水槽の温度は、40℃以上、45℃以上、または50℃以上であり得る。本発明においては、抽出水槽内に架橋触媒が存在するだけでも水架橋反応は行われ得る。ただし、上記のように抽出水槽の温度を40℃以上に制御すると、水分子の反応速度が速くなって水架橋反応をより速めることができる。
【0079】
本発明において、前記架橋触媒はシラン架橋反応を促進させるために添加されるものである。
【0080】
本発明の具体的な一実施形態において、前記架橋触媒は、錫、亜鉛、鉄、鉛、コバルトなどの金属のカルボン酸塩、有機塩基、無機酸または有機酸を使用することができる。前記架橋触媒の非制限的な例として、前記金属のカルボン酸塩としてはジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、酢酸第一錫、カプリル酸第一錫、ナフテン酸亜鉛、カプリル酸亜鉛、ナフテン酸コバルトなどがあり、前記有機塩基としてはエチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ピリジンなどがあり、前記無機酸としては硫酸、塩酸などがあり、前記有機酸としてはトルエンスルホン酸、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸などがあり得る。また、前記架橋触媒は、これらを単独でまたは2以上を混合して使用することができる。
【0081】
本発明の具体的な一実施形態において、前記架橋触媒の含量は、前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン100重量部を基準にして0.1~10重量部、0.5~5重量部、または1~2重量部であり得る。前記架橋触媒の含量が上記の数値範囲を満足する場合、所望の水準のシラン架橋反応が起き、リチウム二次電池内での望まない副反応が起きない。また、架橋触媒が無駄使いになるなどの費用的な問題が生じない。
【0082】
本発明の具体的な一実施形態において、前記多孔性膜から抽出溶媒を使用して希釈剤を抽出し、前記多孔性膜を乾燥することができる。
【0083】
本発明の具体的な一実施形態において、前記抽出溶媒は有機溶媒であり得る。
【0084】
例えば、前記抽出溶媒は、前記希釈剤を抽出できるものであれば特に制限されないが、抽出効率が高くて乾燥が速いメチルエチルケトン、メチレンクロライド、ヘキサンなどが適切である。
【0085】
本発明の具体的な一実施形態において、前記抽出方法は、浸漬(immersion)方法、溶剤スプレー(solvent spray)方法、超音波(ultrasonic)法などの一般的なすべての溶媒抽出方法を単独でまたは複合的に使用することができる。抽出処理後の残留希釈剤の含量は、1重量%以下であることが望ましい。残留希釈剤の含量が1重量%を超過すると、物性が低下して多孔性膜の透過度が減少する。残留希釈剤の含量は抽出温度と抽出時間の影響を受ける。希釈剤と有機溶媒との溶解度を増加させるため、抽出温度は高いことが望ましいが、有機溶媒の沸騰による安全性の問題を考慮すると40℃以下であることが望ましい。前記抽出温度が希釈剤の凝固点以下であれば、抽出効率が大幅に低下するため、希釈剤の凝固点よりは高くなければならない。
【0086】
また、抽出時間は、製造される多孔性膜の厚さによって異なるが、厚さが5~15μmである多孔性膜の場合は2~4分が適切である。
【0087】
本発明は、上述したように、希釈剤の抽出と同時に水架橋を行うことができる。このとき、前記多孔性膜は、抽出の後、水架橋が10%以上行われたものであり得る。本発明では、希釈剤の抽出と水架橋とが同時に行われるため、別途の水架橋工程を必要としない。それによって、コスト、時間などの経済的な面で有利である。また、熱固定後に水架橋を行うと、相互の引力によって分離膜の幅方向にしわが生じるが、本発明のように希釈剤の抽出と水架橋とが同時に行われる場合は、幅方向の収縮率が高くないため、しわが発生せずに平たい表面を有する分離膜を製造することができる。
【0088】
その後、前記水架橋された結果物を熱固定する(S4)。
【0089】
前記熱固定は、多孔性膜を固定して熱を加え、収縮しようとする多孔性膜を強制的に固定して残留応力を除去する段階である。
【0090】
本発明においては、シラングラフトされたポリオレフィン組成物の成形及び延伸時に本来通りに戻ろうとする慣性を防止するため熱固定を行う。熱固定段階では、上述した応力を除去するため、延伸されたシートに熱を加えて所定程度溶融させて応力を除去する。
【0091】
しかし、従来のように熱固定後に水架橋を行うと、従来の熱固定温度(例えば、130℃以下)では熱固定の後に架橋が行われることで高分子フィブリル内の分子の架橋によって応力が存在し、このような応力は弱い熱固定状態では解除できず、結果的に熱収縮率を高めるようになる。
【0092】
一方、本発明では、熱固定の前段階で架橋及び高分子延伸応力を最大限に加えた後熱固定するため、熱収縮率の改善に効果的である。すなわち、従来のように単にポリオレフィンの主鎖にシランがグラフトされた状態と異なって、本発明ではポリオレフィンの主鎖にシランがグラフトされるだけでなく、ポリオレフィン内の架橋反応も起きた状態であるため、分離膜自体の溶融温度が熱固定の後に水架橋を行った場合に比べて高く、本発明で行う熱固定の温度(例えば、130℃以上)も高めることができる。これによって熱収縮率をさらに改善させることができる。
【0093】
本発明の具体的な一実施形態において、前記ポリオレフィンがポリエチレンである場合、前記熱固定の温度は120~150℃、123~138℃または125~133℃であり得る。ポリオレフィンがポリエチレンである場合、前記熱固定の温度が上記の数値範囲を満足すると、ポリオレフィン分子の再配列が起きて多孔性膜の残留応力を除去でき、部分的溶融による多孔性膜の気孔が詰まる問題を減少させることができる。
【0094】
本発明の具体的な一実施形態において、前記熱固定の時間は、10~120秒、20~90秒または30~60秒であり得る。上記のような時間で熱固定する場合、ポリオレフィン分子の再配列が起きて多孔性膜の残留応力を除去でき、部分的溶融による多孔性膜の気孔が詰まる問題を減少させることができる。
【0095】
本発明の具体的な一実施形態において、前記(S4)段階の後に、温度70~90℃及び相対湿度70~90%の条件下で、前記熱固定された結果物を水架橋する段階をさらに含むことができる。ただし、該段階は選択的であり、エイジングするための段階である。
【0096】
本発明の具体的な一実施形態において、前記水架橋は60~100℃、65~95℃または70~90℃で行うことができる。
【0097】
本発明の具体的な一実施形態において、前記水架橋は湿度60~95%で6~50時間行うことができる。
【0098】
一方、本発明の具体的な一実施形態において、前記(S2)段階と前記(S3)段階との間に、前記延伸されたシート上に架橋触媒が含有された水分散液が塗布された間紙フィルムを配置する段階と、前記(S3)段階で、希釈剤を抽出して前記間紙フィルムを除去する段階とをさらに含むことができる。
【0099】
本発明は、架橋触媒が所定量含まれた水分散液が塗布された間紙フィルムを(S2)段階によって延伸されたシート上に配置した後、一緒に巻き、その後希釈剤を抽出し、前記間紙フィルムを除去することで、多孔性膜の架橋を促進することができる。
【0100】
上述したように間紙フィルムを配置すると、抽出の前に架橋反応が所定程度起き得る。また、抽出水槽内の触媒の濃度、温度、速度調節などの工程自由度を高めることができる。
【0101】
本発明の具体的な一実施形態において、前記間紙フィルムは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、またはこれらのうち2以上の混合物を含むことができる。
【0102】
本発明の他の一態様によれば、下記の架橋ポリオレフィン分離膜を提供する。
【0103】
本発明の一態様は、MD方向及びTD方向の熱収縮率(120℃/1時間)が下記数式1を満足する架橋ポリオレフィン分離膜である。
MD+TD≦10% … 数式1
数式1において、MDは前記架橋ポリオレフィン分離膜のMD方向熱収縮率、TDは前記架橋ポリオレフィン分離膜のTD方向熱収縮率をそれぞれ意味し、前記熱収縮率は下記数式2によって計算される。
熱収縮率=(最初の長さ-120℃/1時間の熱収縮処理後の長さ)/(最初の長さ)×100 … 数式2
【0104】
上記のように本発明は架橋ポリオレフィン分離膜であって、高いメルトダウン温度を有する。さらに、本発明は、MD方向熱収縮率とTD方向熱収縮率との和が10%以下である分離膜であって、耐熱性の高い架橋ポリオレフィン分離膜を提供することができる。
【0105】
本発明の具体的な一実施形態において、前記分離膜はリチウム二次電池用であり得る。
【0106】
以下、本発明を具体的な実施例を挙げて詳しく説明する。しかし、本発明による実施例は多くの他の形態に変形され得、本発明の範囲が後述する実施例に限定されると解釈されてはならない。本発明の実施例は当業界で平均的な知識を持つ者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0107】
実施例1
まず、押出機に、ポリオレフィンとして重量平均分子量300,000、融点135℃の高密度ポリエチレン(大韓油化製VH035)48kg/hr、希釈剤として液体パラフィンオイル(極東油化製LP350F、68cSt)112kg/hrを投入し混合した。このとき、前記ポリエチレンと希釈剤との重量比は30:70であった。一方、前記押出機に炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランとしてのビニルトリエトキシシランを、前記ポリオレフィン及び前記希釈剤の合計100重量部を基準にして0.7重量部、開始剤としての2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン(DHBP)を前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン100重量部を基準にして2重量部でさらに投入し混合した。その後、200℃の温度条件で反応押出してシラングラフトされたポリエチレン組成物を製造した。
【0108】
製造されたシラングラフトされたポリエチレン組成物をT-ダイと冷却キャスティングロールを用いてシート状に成形した後、MD延伸後TD延伸のテンター式逐次延伸機で二軸延伸した。MD延伸比は5.5倍、TD延伸比は5.0倍にした。延伸温度はMDで105℃、TDで125℃であった。
【0109】
前記延伸されたシートを架橋触媒としてジブチル錫ジラウレートが水分散している抽出水槽に入れ、メチレンクロライドを用いて前記希釈剤を抽出した。このとき、抽出水槽にはメチレンクロライド140kg、水100kgが含まれており、前記架橋触媒の含量は前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン100重量部を基準にして2重量部で添加した。抽出水槽の温度は70℃であった。これによって、前記抽出水槽で希釈剤の抽出と同時に水架橋反応が起きた。
【0110】
その後、128℃で延伸比1.3倍から1.1倍に熱固定して多孔性膜を製造した。前記多孔性膜を85℃、85%の相対湿度条件で48時間もう一回水架橋させ、厚さ12μmの架橋ポリエチレン分離膜を製造した。
【0111】
実施例2
以下の事項を除き、実施例1と同じ方法で架橋ポリオレフィン分離膜を製造した。
【0112】
前記延伸されたシートの一面に、架橋触媒であるジブチル錫ジラウレートが前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン100重量部を基準にして5重量部で含有された水分散液が塗布及び乾燥された間紙フィルム(PETフィルム、50μm)を配置し、前記延伸されたシートと一緒に巻いた。その後、前記シートを、架橋触媒であるジブチル錫ジラウレートが前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン100重量部を基準にして1重量部で水分散している抽出水槽に入れ、メチレンクロライドを用いて希釈剤を抽出した後、前記間紙フィルムも除去した。このとき、抽出水槽の温度は50℃であった。一方、前記抽出水槽で希釈剤の抽出と水架橋反応とが同時に起きた。
【0113】
実施例3
以下の事項を除き、実施例1と同じ方法で架橋ポリオレフィン分離膜を製造した。
【0114】
延伸されたシートから希釈剤を抽出すると同時に水架橋させた後、130℃で延伸比1.5倍から1.2倍に熱固定して多孔性膜を製造した。前記多孔性膜を85℃、85%の相対湿度条件で48時間水架橋させ、厚さ12μmの架橋ポリエチレン分離膜を製造した。
【0115】
比較例1
まず、押出機に、ポリオレフィンとして重量平均分子量300,000、融点135℃の高密度ポリエチレン(大韓油化製VH035)48kg/hr、希釈剤として液体パラフィンオイル(極東油化製LP350F、68cSt)112kg/hrを投入し混合した。このとき、前記ポリエチレンと希釈剤との重量比は30:70であった。一方、前記押出機に炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランとしてのトリエトキシビニルシランを前記ポリオレフィン及び前記希釈剤の合計100重量部を基準にして0.7重量部、開始剤としての2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン(DHBP)を前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン100重量部を基準にして2重量部でさらに投入し混合した。その後、200℃の温度条件で反応押出してシラングラフトされたポリエチレン組成物を製造した。
【0116】
製造されたシラングラフトされたポリエチレン組成物をT-ダイと冷却キャスティングロールを用いてシート状に成形した後、MD延伸後TD延伸のテンター式逐次延伸機で二軸延伸した。MD延伸比は5.5倍、TD延伸比は5.0倍にした。延伸温度はMDで105℃、TDで125℃であった。
【0117】
前記延伸されたシートからメチレンクロライドを用いて前記希釈剤を抽出した。このとき、抽出水槽の温度は25℃であった。比較例1の場合、実施例と異なり、抽出水槽で水架橋反応は起きなかった。
【0118】
その後、128℃で延伸比1.3倍から1.1倍に熱固定して多孔性膜を製造した。前記多孔性膜を85℃、85%の相対湿度条件で48時間水架橋させ、厚さ12μmの架橋ポリエチレン分離膜を製造した。
【0119】
比較例2
以下の事項を除き、比較例1と同じ方法で架橋ポリオレフィン分離膜を製造した。
【0120】
延伸されたシートから希釈剤を抽出した。比較例2の場合、実施例と異なり、抽出水槽で水架橋反応は起きなかった。
【0121】
その後、130℃で延伸比1.5倍から1.2倍に熱固定して多孔性膜を製造した。前記多孔性膜を85℃、85%の相対湿度条件で48時間水架橋させ、厚さ12μmの架橋ポリエチレン分離膜を製造した。
【0122】
実験例
実施例及び比較例によって製造した分離膜に対する評価の結果を下記表1に示した。
【0123】
【表1】
【0124】
表1に示されたように、実施例1~3の場合、85℃、85%の恒温恒湿オーブンで48時間後の幅収縮率(%)が比較例1~2に比べて約50%減少したことが確認できる。特に、実施例1は最も短い通気時間を見せた。
【0125】
一方、間紙フィルムを使用した実施例2の場合、短い通気時間を有すると共に、低い幅収縮率を有することが確認できた。
【0126】
表1に示されたように、実施例3が実施例1に比べて低い熱収縮率を有する一方、通気時間が長く、抽出後のゲル含量が多い。
【0127】
表1における各評価の具体的な測定方法は、下記のようである。
1)分離膜厚さの測定方法
分離膜の厚さは、厚さ測定器(ミツトヨ社製VL-50S-B)を用いて測定した。
2)通気度の測定方法
JIS P-8117に準じて、ガーレー式透気度試験機を用いて測定した。このとき、直径28.6mm、面積645mmを100mlの空気が通過する時間を測定した。
3)熱収縮率の測定方法
熱収縮率は、(最初長さ-120℃/1時間の熱収縮処理後の長さ)/(最初長さ)×100で算定する。
4)ゲル含量の測定方法
20mlのバイアルに、秤量した架橋分離膜サンプル(重量:WOmg)を100メッシュの鉄網袋に入れて導入し、1,2,4-卜リクロロベンゼンを架橋分離膜サンプルが十分浸かるほどに(約10ml)入れて温度130℃で2時間以上加熱した。その後、100メッシュの鉄網で濾過されていない未溶解架橋分離膜サンプルをキシレン溶液で2回洗浄した後、120℃の熱風オーブン内で12時間乾燥した。乾燥した未溶解成分を秤量して(重量:Wmg)、下記数式3を用いて算出した。
ゲル含量(%)=(W/WO)×100 … 数式3