(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-14
(45)【発行日】2022-02-22
(54)【発明の名称】遷移金属複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 5/02 20060101AFI20220215BHJP
C08F 4/60 20060101ALI20220215BHJP
C08F 4/52 20060101ALI20220215BHJP
C07F 13/00 20060101ALI20220215BHJP
C07F 15/02 20060101ALI20220215BHJP
C07F 15/06 20060101ALI20220215BHJP
C07F 1/08 20060101ALI20220215BHJP
C07F 3/06 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
C07F5/02 A
C08F4/60
C08F4/52
C07F13/00 A
C07F15/02
C07F15/06
C07F1/08 C
C07F3/06
(21)【出願番号】P 2020528952
(86)(22)【出願日】2019-03-21
(86)【国際出願番号】 KR2019003319
(87)【国際公開番号】W WO2019182383
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2020-05-26
(31)【優先権主張番号】10-2018-0032599
(32)【優先日】2018-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】チェ、キョン-シン
(72)【発明者】
【氏名】チョ、トン-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】オ、ヒョン-テク
(72)【発明者】
【氏名】キム、ウォン-ヒ
(72)【発明者】
【氏名】パク、スン-ヨン
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-516339(JP,A)
【文献】YANG LI et al.,Inorganic/organometallic catalysts and initiators involving weakly coordinating anions for isobutene polymerisation,Coordination Chemistry Reviews,2010年12月16日,Vol.255,p.1541-1557
【文献】SILVANA F. RACH et al.,A straightforward synthesis of cationic nitrile ligated transition metal complexes with the [B(C6F5)4]- anion,Journal of Organometallic Chemistry,2011年05月01日,Vol.696,No.9,p.1817-1823
【文献】LIQING MA et al.,Self-assembly of cationic palladium complexes by redistribution of pyridine ligands,Inorganica Chimica Acta,2005年06月02日,Vol.358,No.12,p.3478-3482
【文献】JOSEPH H. RIVERS et al.,Synthesis and structures of the homoleptic cations [M(PMe3)5]+ (M = Rh, Ir),Chem. Commun,2010年05月14日,Vol.46,p.4300-4302
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 4/00- 4/82
C07F 1/00- 5/06
C07F 9/00-19/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属の塩又はアルコキシド、及び配位溶媒を含む分散液を準備する段階と、
カーボン系、シリル系又はアミン系の陽イオン、及びボレート系バルキー陰イオンを含有する有機ボレート系化合物を前記分散液と反応させる段階とを含み、
前記遷移金属は、7族から12族の金属中から選択される1つ以上
であり、
前記有機ボレート系化合物は、下記化学式1で表され、
前記遷移金属塩は、遷移金属のカルボン酸塩、硝酸塩又は水酸化物塩である遷移金属複合体の製造方法。
【化7】
ここでAは、C、Si又はNであり、
R
0
は、それぞれ独立して水素、炭素数1から20のアルキル基、炭素数1から20のアルコキシ基、炭素数6から20のアリール基又は炭素数6から20のアリールオキシ基であり、
mは、AがC又はSiである時に3であり、AがNである時4であり;
R
1
からR
4
は、それぞれ独立して水素、ハロゲン基、又は置換もしくは非置換の炭素数1から20のアルキル基であり、
o、p、q及びrは、5の整数である。
【請求項2】
前記R
0は、 それぞれ独立して水素、炭素数1から12のアルキル基、炭素数1から12のアルコキシ基、炭素数6から12のアリール基又は炭素数6から12のアリールオキシ基であり;
R
1からR
4は、それぞれ独立して水素、ハロゲン基、又はハロゲン基で置換された炭素数1から12のアルキル基である、
請求項1に記載の遷移金属複合体の製造方法。
【請求項3】
前記ボレート系バルキー陰イオンは、テトラキス(フェニル)ボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート、及びその誘導体からなる群から選択される1つ以上である、
請求項1または2に記載の遷移金属複合体の製造方法。
【請求項4】
前記遷移金属は、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnからなる群から選択される1つ以上である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の遷移金属複合体の製造方法。
【請求項5】
前記配位溶媒は、アセトニトリル、プロピオニトリル、2-メチルプロパンニトリル、トリメチルアセトニトリル、ベンゾニトリル、ジエチルエーテル、ジアリルエーテル、ピリジン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ニトロメタン、ニトロベンゼン及びこれらの誘導体からなる群から選択される1つ以上を含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の遷移金属複合体の製造方法。
【請求項6】
前記反応段階において、遷移金属の塩又はアルコキシドと有機ボレート系化合物のモル比は、1:1から1:3である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の遷移金属複合体の製造方法。
【請求項7】
前記有機ボレート系化合物を前記分散液と反応させる前に配位溶媒又は非配位溶媒に溶解させる段階をさらに含む、
請求項1~6のいずれか一項に記載の遷移金属複合体の製造方法。
【請求項8】
前記反応段階において、前記遷移金属の塩又はアルコキシドと前記配位溶媒のモル比は、1:4から1:18である、
請求項1~7のいずれか一項に記載の遷移金属複合体の製造方法。
【請求項9】
前記反応段階で得られる重合体を有機溶媒で洗浄するか蒸留する段階をさらに含む、
請求項1~8のいずれか一項に記載の遷移金属複合体の製造方法。
【請求項10】
前記遷移金属複合体は、
数平均分子量500から4500の重合体の製造に用いられる触媒又はその前駆体として用いられる、
請求項1~9のいずれか一項に記載の遷移金属複合体の製造方法。
【請求項11】
前記低分子量重合体は、スチレン、イソブテン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、テトラヒドロフラン及びこれらの誘導体からなる群から選択される1つ以上の単量体を重合して製造される、
請求項10に記載の遷移金属複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2018年3月21日付韓国特許出願2018-0032599に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、遷移金属複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
バルキーな対陰イオンを有する7族から12族までの遷移金属複合体である[M(NCCH3)6][B(C6F5)4](M=Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn)は、多種の触媒の前駆体として多く用いられており、最近には、イソブテンを重合できる活性度で注目を浴びている。通常、このような化合物を準備するために、下記反応式のように感光性銀試薬(silver reagent)を用いる。
【0004】
【0005】
ところが、前記反応で銀塩(AgCl)が生成され、この際、これを完全に除去できなければ、触媒とともに残っていながら毒性(poisoning)により触媒の活性度を低下させることになる。また、銀試薬は、酸化電位が低い遷移金属と用いると金属を酸化させやすいため、使用に制限があるという問題点がある。
【0006】
一般に、このような銀試薬の製造は、下記反応式(a)及び(b)による合成法に従う。
【0007】
【0008】
水分に敏感な金属化学分野では、NaBArFを出発物質として用いる方法(b)よりKBArFを用いる方法(a)がより好まれる。しかし、前記二つの方法のいずれも高価の銀試薬材料(AgNO3又はAg2CO3)を用いなければならず、収率が相対的に低いという欠点を有している。
【0009】
一方、ポリイソブテンの重合に一般に用いられる陽イオン重合法は、水分と不純物に非常に敏感なので、ポリマーのチェーンが成長する時に少量の水分又は不純物と反応して反応が終了されるか、又はチェーントランスファー(chain transfer)が起こる場合があるため、高分子量のポリマーの製造に困難がある。前記のように、従来の銀試薬を用いて製造された遷移金属複合体で触媒を製造する場合、製造工程で生じるリチウム塩、カリウム塩又は銀塩を完全に除去しにくい。したがって、このような塩が重合反応に不純物として含まれ、高分子量のポリマーを製造し難く、汚染によって触媒の活性度も低下するという問題点がある。
【0010】
したがって、ポリイソブテン重合用触媒の前駆体としてバルキーな弱い配位結合の対陰イオン(Weekly Coordinating Anion)を有する遷移金属複合体を製造するための方法として、前記のような問題点が解消された新規の製造方法の開発に対する必要性が存在する。
【0011】
このため、本発明者達は、配位溶媒の存在下、7族から12族の遷移金属のカルボン酸塩、硝酸塩、水酸化物塩又はアルコキシドを、カーボン系、シリル系又はアミン系の陽イオン及びボレート系バルキー陰イオンを含有する有機ボレート系化合物と反応させることで、所望のバルキーな弱い配位結合の対陰イオン(WCA)を有する遷移金属複合体を容易に製造できることを発見することにより、本発明を完成した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】Chem.Eur.J.1998,4,1731.
【文献】Chem.Eur.J.2008,14,7997.
【文献】Inorg.Chem.1994,33,5374.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、遷移金属複合体の新規の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一実施形態は、遷移金属の塩又はアルコキシド、及び配位溶媒を含む分散液を準備する段階と、カーボン系、シリル系又はアミン系の陽イオン、及びボレート系バルキー陰イオンを含有する有機ボレート系化合物を前記分散液と反応させる段階とを含み、前記遷移金属は、7族から12族までの金属中から選択される1種以上である、遷移金属複合体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の遷移金属複合体の製造方法は、感光性で高価であり、かつ、合成が難しい銀試薬を用いる代わりに、安定的で商業的に多く用いられている有機ボレート系試薬を用いることで、バルキーな弱い配位結合の対陰イオン(WCA)を有する遷移金属複合体を製造できるので、従来の技術に比べて費用経済的な利点が非常に大きい。
【0016】
また、本発明の遷移金属複合体で触媒を製造してポリイソブテンの陽イオン重合法に用いる場合、従来の技術の遷移金属複合体に比べ重合活性がより優秀であり、より少ない量の触媒を用いながらも高分子量のポリマーの形成が可能であるという利点がある。本発明の遷移金属複合体で触媒を製造するとき、副産物として有機物が生成されるが、これは乾燥又は洗浄を介して容易に除去できるため、触媒の汚染を最小化させることができるからである。これにより、本発明の遷移金属複合体は、生成されるポリイソブテンポリマーの分子量を制御する上で非常に有利である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に対する理解を深めるために本発明をさらに詳しく説明する。
【0018】
本明細書及び特許請求の範囲に用いられた用語や単語は、通常的又は辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自身の発明を最善の方法によって説明するために、用語の概念を適宜定義することができるという原則に即し、本発明の技術的思想に適合する意味と概念として解釈されなければならない。
【0019】
本発明の遷移金属複合体の製造方法は、感光性で高価であり、かつ、合成が難しい銀試薬を用いる代わりに、安定的で商業的に多く用いられている有機ボレート系試薬を用いることで、バルキーな弱い配位結合の対陰イオン(WCA)を有する遷移金属複合体を合成することを特徴とする。
【0020】
本発明の一実施形態は、遷移金属の塩又はアルコキシド、及び配位溶媒を含む分散液を準備する段階と、カーボン系、シリル系又はアミン系の陽イオン、及びボレート系バルキー陰イオンを含有する有機ボレート系化合物を前記分散液と反応させる段階とを含み、前記遷移金属は、7族から12族までの金属中から選択される1種以上である、遷移金属複合体の製造方法を提供する。
【0021】
<分散液の準備>
本発明の遷移金属複合体の製造方法は、遷移金属のカルボン酸塩(M(OCOR)a)、硝酸塩(M(NO3)a)、水酸化物塩又はアルコキシド(M(OR)a);そして配位溶媒を含む分散液を準備する段階を含む。
【0022】
前記遷移金属のカルボン酸塩(M(OCOR)a)、そして水酸化物塩又はアルコキシド(M(OR)a)において、前記Rは、水素、アルキル基、アリール基、又はアリル基であってよく、前記アルキル基、アリール基及びアリル基は、それぞれ独立して炭素数1から20、又は炭素数6から20、又は炭素数1から12、又は炭素数6から12、又は炭素数1から6、又は炭素数1から4、又は炭素数1から2であってよい。
【0023】
本発明において前記遷移金属(M)は、7族から12族までの金属中から選択される1種以上である。例えば、前記遷移金属は、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Znからなる群から選択される1種以上であってよい。前記遷移金属の酸化数(a)は、金属の種類によって一価、二価、又は三価であってよい。
【0024】
また、反応に用いられる遷移金属は、無水金属化合物(anhydrous) 又は水金属化合物(hydrate)の形態であってよく、これに制限されない。
【0025】
また、前記分散液の準備段階において、前記分散液は、ルイス塩基配位溶媒(coordinating solvent)を含むことを特徴とする。前記配位溶媒は、中心金属に配位結合が可能な溶媒であれば特に制限されず、ニトリル系溶媒、例えば、アルキルシアニド又はアリールシアニド、エーテル系溶媒、例えば、ジアルキルエーテル、ピリジン系溶媒、アミド系溶媒、スルホキシド系溶媒、又はニトロ系溶媒であってよい。
【0026】
例えば、前記配位溶媒は、アセトニトリル、プロピオニトリル、2-メチルプロパンニトリル、トリメチルアセトニトリル、ベンゾニトリル、ジエチルエーテル、ジアリルエーテル、ピリジン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ニトロメタン、ニトロベンゼン及びこれらの誘導体からなる群から選択される1種以上を含んでよい。
【0027】
本発明の分散液の準備段階において、前記遷移金属の塩又はアルコキシドに対し過量(excess)で配位溶媒を用いてよい。好ましくは、遷移金属と反応する配位溶媒の全含量が、遷移金属の塩又はアルコキシドに対して、少なくとも1:4、少なくとも1:6、少なくとも1:8、少なくとも1:12、少なくとも1:16、又は少なくとも1:18のモル比になるよう調節する。最も好ましくは、1:6から1:18のモル比となる含量範囲である。
【0028】
また、前記分散液は、非配位溶媒(non-coordinating solvent)をさらに含んでよく、反応に用いられずに残った金属前駆体(金属塩又はアルコキシド)又は有機ボレート等の物質を溶解させることができながらも、前記遷移金属に配位結合しない溶媒であれば使用可能である。前記非配位溶媒の例は、ベンゼン、アルキルベンゼン、例えば、トルエン、キシレン、又はエチルベンゼン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、クロロホルム及びジクロロメタンからなる群から選択される1種以上を含んでよい。
【0029】
前記分散液の溶媒として非配位溶媒を用いる場合にも、遷移金属の塩又はアルコキシドと反応して遷移金属のリガンドとして結合され得る配位溶媒は、遷移金属の塩又はアルコキシドに対して少なくとも1:6、少なくとも1:12、又は少なくとも1:18のモル比の適正な含量で投入されるのが好ましい。最も好ましくは、1:12から1:18のモル比となる含量範囲である。
【0030】
したがって、本発明の方法は、有機ボレート系化合物を前記分散液と反応させる段階の前又は後に配位溶媒を添加する段階をさらに含んでよい。
【0031】
<遷移金属複合体の形成>
本発明の遷移金属複合体の製造方法は、カーボン系、シリル系又はアミン系陽イオン、及びボレート系バルキー陰イオンを含有する有機ボレート系化合物を前記分散液と反応させる段階を含む。
【0032】
前記有機ボレート系化合物は、下記化学式1で表されてよい:
【0033】
【0034】
ここでAは、C、Si又はNであり、R0は、それぞれ独立して水素、炭素数1から20のアルキル基、炭素数1から20のアルコキシ基、炭素数6から20のアリール基又は炭素数6から20のアリールオキシ基であり;好ましくは、水素、炭素数1から12のアルキル基、炭素数1から12のアルコキシ基、炭素数6から12のアリール基又は炭素数6から12のアリールオキシ基であり;より好ましくは、水素、炭素数1から6のアルキル基又は炭素数1から6のアルコキシ基であり;mは、AがC又はSiである時に3であり、AがNである時4であり;
R1からR4は、それぞれ独立して水素、ハロゲン基、又は置換又は非置換の炭素数1から20のアルキル基であり、好ましくは、ハロゲン基で置換された炭素数1から12のアルキル基、より好ましくは、ハロゲン基で置換された炭素数1から4のアルキル基であり、o、p、q及びrは、それぞれ独立して1から5の整数である。
【0035】
具体的に、前記ボレート系バルキー陰イオンは、テトラキス(フェニル)ボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート、及びその誘導体からなる群から選択される1種以上であってよい。
【0036】
一例として、本発明の遷移金属複合体の製造方法で、遷移金属のカルボン酸塩M(OCOR)a(R=水素、アルキル基、アリール基、又はアリル基)を用いる場合、前記有機ボレート系化合物と前記分散液の反応は下記反応式1によって行われてよい。また、反応に用いられる遷移金属は、無水金属化合物(anhydrous)(M(OCOR)a)又は水金属化合物(hydrate)(M(OCOR)a・B(H2O)(a=1~3、B=1~10))の形態が何れも可能である。
【0037】
【0038】
ここで、Rは、水素、アルキル基、アリール基、又はアリル基であり、a、bは、1から3であり、cは、0から2であり、dは、4から6であり、x、yは、1から3で、互いに同一である。
【0039】
また、遷移金属の硝酸塩M(NO3)aを用いる場合、前記有機ボレート系化合物と前記分散液の反応は下記反応式2によって行われる。また、反応に用いられる遷移金属は、無水金属化合物(anhydrous)(M(NO3)a)又は水金属化合物(hydrate)(M(NO3)a・B(H2O)(a=1~3、B=1~10))の形態が何れも可能である。
【0040】
【0041】
ここで、a、bは、1から3であり、cは、0から2であり、dは、4から6であり、x、yは、1から3で、互いに同一である。
【0042】
また、遷移金属の水酸化物塩又はアルコキシドM(OR)a(R=水素、アルキル基、アリール基、又はアリル基)を用いる場合、前記有機ボレート系化合物と前記分散液の反応は下記反応式3によって行われてよい。また、反応に用いられる遷移金属は、無水金属化合物(anhydrous)(M(OR)a)又は水金属化合物(hydrate)(M(OR)a・B(H2O)(a=1~3、B=1~10))の形態が何れも可能である。
【0043】
【0044】
ここで、Rは、水素、アルキル基、アリール基、又はアリル基であり、a、bは、1から3であり、cは、0から2であり、dは、4から6であり、x、yは、1から3で、互いに同一である。
【0045】
前記反応式1から3において、それぞれ独立して、Mは、7族から12族までの金属、好ましくは、 Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Znでなる群から選択され;R0からR4、A、m、o、p、q及びrは前記で定義した通りであり;Lは、溶媒分子である。
【0046】
本発明の反応段階において、前記遷移金属の塩又はアルコキシドと有機ボレート系化合物のモル比は、1:1から1:3、又は1:2であってよい。
【0047】
また、前記反応段階は、反応物を常温で2から5時間撹拌することで行われてよい。
【0048】
本発明の遷移金属複合体の製造方法は、前記有機ボレート系化合物を前記分散液と反応させる前に配位溶媒又は非配位溶媒に溶解させる段階をさらに含んでよい。有機ボレート系化合物が少量の場合には問題にならないが、大量を準備する場合、溶媒に溶解させずに反応を進めさせると、発熱のため副反応が生じて収率が低くなり得るからである。
【0049】
このとき、前記配位溶媒又は非配位溶媒の含量は制限されない。但し、前記反応段階において、配位溶媒の全含量が、遷移金属の塩又はアルコキシドに対して、少なくとも1:4、少なくとも1:6、少なくとも1:8、少なくとも1:12、少なくとも1:16、又は少なくとも1:18のモル比になるよう調節されるのが好ましい。
【0050】
例えば、本発明の方法は、有機ボレート系化合物を前記分散液と反応させる段階の後に反応物に配位溶媒を添加する段階をさらに含んでよい。
【0051】
本発明の遷移金属複合体の製造方法は、前記反応段階で収得された重合体を有機溶媒で洗浄するか蒸留する段階をさらに含んでよい。一例として、前記反応段階で生成される(R0)3AOCOR、(R0)3ANO3又は(R0)3AOR(A=C又はSi、R0=それぞれ独立して水素、アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアリールオキシ基、R=水素、アルキル、アリール又はアリル)は、有機溶媒で洗浄するか蒸留させることで簡単に除去しやすい。アミン系ボレートを用いた時、アニリン(aniline)等とともに生成されるHOAc又はHNO3も洗浄又は蒸留を介して容易に除去できる。
【0052】
前記有機溶媒は、直鎖状アルキル溶媒、例えば、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、及びエーテル溶媒、例えば、ジエチルエーテル、石油エーテルからなる群から選択される1種以上を含んでよい。
【0053】
本発明の他の実施形態は、前記製造方法によって製造された遷移金属複合体を提供する。本発明の遷移金属複合体は、低分子量重合体の製造に用いられる触媒又はその前駆体であってよい。通常、低分子量重合体は、数平均分子量が500から4500、好ましくは、1000から3000の範囲のものを意味するが、これに制限されない。
【0054】
例えば、前記低分子量重合体は、スチレン、イソブテン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、テトラヒドロフラン及びこれらの誘導体からなる群から選択される1種以上の単量体を重合して製造されたものであってよい。
【0055】
[実施例]
実施例1
Mn(OAc)2(OAc=アセテート基)(100mg)(Alfa Aesar社製)の無水CH3CN(Aldrich社製)分散液(1mL)を準備した。前記金属前駆体に対して2当量の[Et3Si][B(C6F5)4](Asahi Glass Co.から購買)を無水CH3CN(Aldrich社製)(3mL)に溶解させた後、前記分散液に添加した。形成された均質の混合物を常温で5時間撹拌した。全ての溶媒を減圧条件で蒸発させた後、残留物をヘキサンで洗浄した。減圧条件で乾燥させて粉末形態の複合体を収得し、-30℃で保管した。
【0056】
[Mn(NCCH3)6][B(C6F5)4]2(定量的収率),Selected IR(KBr):νCN=2310,2290cm-1;elemental analysis calcd(%)for C60H18B2MnF40N6:C43.43,H1.09,N5.06.Found:C,43.29;H,1.29;N,5.14。
【0057】
実施例2
前記Mn(OAc)2の代わりにFe(OAc)2(Alfa Aesar社製)を用いたことを除いては、前記実施例1と同一の方式で粉末形態の複合体を収得した。
【0058】
[Fe(NCCH3)6][B(C6F5)4]2(定量的収率),Selected IR(KBr):νCN=2312,2285cm-1;elemental analysis calcd(%)for C60H18B2FeF40N6:C43.41,H1.09,N5.06.Found:C,43.77;H,1.21;N,5.11。
【0059】
実施例3
前記Mn(OAc)2の代わりにCo(OAc)2(Aldrich社製)を用いたことを除いては、前記実施例1と同一の方式で粉末形態の複合体を収得した。
【0060】
[Co(NCCH3)6][B(C6F5)4]2(定量的収率),Selected IR(KBr):νCN=2316,2287cm-1;elemental analysis calcd(%)for C60H18B2CoF40N6:C43.33,H1.09,N5.05.Found:C,42.98;H,1.31;N,5.33。
【0061】
実施例4
前記Mn(OAc)2の代わりにCu(OAc)2(Aldrich社製)を用いたことを除いては、前記実施例1と同一の方式で粉末形態の複合体を収得した。
【0062】
[Cu(NCCH3)6][B(C6F5)4]2(定量的収率),Selected IR(KBr):νCN=2308,2275cm-1;elemental analysis calcd(%)for C60H18B2CuF40N6:C43.21,H1.09,N5.04.Found:C,43.45;H,1.31;N,4.97。
【0063】
実施例5
前記Mn(OAc)2の代わりにZn(OAc)2(Aldrich社製)を用いたことを除いては、前記実施例1と同一の方式で粉末形態の複合体を収得した。
【0064】
[Zn(NCCH3)6][B(C6F5)4]2(定量的収率),Selected IR(KBr):νCN=2316,2287cm-1;elemental analysis calcd(%)for C60H18B2ZnF40N6:C43.16,H1.29,N5.03.Found:C,42.97;H,1.41;N,5.44。
【0065】
比較例1
光への露出を最小限にしつつ、グローブボックスで実験を進めた。AgNO30.19g(1.12mmol)を無水アセトニトリル溶液5mLに溶解させた後、K[B(C6F5)4](Alfa Aesar社製)1.00g(1.39mmol)が溶解されている無水アセトニトリル10mLに徐々に添加した。1時間後、全ての溶媒を減圧で除去した。その後、ジクロロメタンに溶解させた後、副生成物であるKNO3塩をフィルターを介して除去した。溶媒を減圧条件で一定の部分除去した後、ヘキサンを入れて-30℃で結晶化することでAg[B(C6F5)]40.84g(77%yield)を得た。
【0066】
CuCl2(Aldrich社製)を前記アセトニトリル内の銀塩の乾燥溶液に添加した。生成された混合物を暗室で2時間撹拌した。濾過後、高い真空下で溶媒を除去して粗生成物を収得し、これを乾燥ジクロロメタンに再溶解させた。少量の沈殿物を濾過によって除去し、溶媒を高い真空下で除去して所望の生成物を収得した。
【0067】
[Cu(NCCH3)6][B(C6F5)4]2(75%),Selected IR(KBr):νCN=2316,2278cm-1;elemental analysis calcd(%)for C60H18B2CuF40N6:C43.21,H1.09,N5.04.Found:C,42.97;H,1.23;N,5.07。
【0068】
比較例2
前記比較例1において、CuCl2の代わりにFeCl2を用いたことを除いては、同一の方式で[Fe(NCCH3)6][B(C6F5)4]2を合成した。
【0069】
[Fe(NCCH3)6][B(C6F5)4]2(80%),Selected IR(KBr):νCN=2314,2284cm-1;elemental analysis calcd(%)for C60H18B2FeF40N6:C43.40,H1.09,N5.06.Found:C,43.54;H,1.03;N,4.87。
【0070】
実験例1
触媒としては、下記表1に記載されている通り、実施例1から5と比較例1及び2で製造されたものをそれぞれ用いた。20gのイソブテンを圧力反応器に注入した後、ジクロロメタンを入れてイソブテンの濃度を20wt%に調整した。このように準備された反応物を30℃に調整した。そして、前記触媒を下記表1に記載の量にし、アルゴンが満たされているグローブボックス内でジクロロメタンに溶解させた後、加圧用シリンジを用いて圧力反応器に入れた。その後、重合反応を2時間30℃で撹拌しながら進め、2時間後メタノールでクエンチングした。
【0071】
【0072】
本発明の実施例によって製造された触媒は、比較例に比べて反応性が高いため、少ない量を用いて重合することができた。また、exoの割合の場合、触媒が多く入ると異性化(isomerization)によって減少する傾向があるが、本発明の実施例による場合、触媒活性が良好で少量を用いるため、触媒による異性化を最小化できる。したがって、exoの割合が非常に高く現れることを確認した。
【0073】
また、本発明の触媒を製造する時に副産物として生成される有機物は、乾燥又は洗浄を介して容易に除去されるため、触媒の汚染が最小化される。これで、本発明の実施例によって製造された触媒を利用するとき、より少ない量の触媒を用いながらも、生成されるポリイソブテンポリマーの分子量は、従来の技術により製造された触媒を用いた比較例に比べて比較的高い範囲まで収得されることが確認できる。
【0074】
具体的に、実施例2及び比較例2を比較すれば、収得されたポリマーの数平均分子量はそれぞれ1900及び1000であって、実施例2は、比較例2より少ない量の触媒を用いながらもより高い分子量を有するポリマーを収得した。また、実施例4と比較例1を比較すれば、収得されたポリマーの数平均分子量はそれぞれ2600及び1700であって、実施例4がより少ない量の触媒でより高い分子量を有するポリマーを収得することが確認できる。したがって、本発明の遷移金属複合体は、生成されるポリマーの分子量を制御することに有利である。