(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-14
(45)【発行日】2022-02-22
(54)【発明の名称】塩化ビニル系重合体及びこの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 14/06 20060101AFI20220215BHJP
C08F 2/00 20060101ALI20220215BHJP
C08F 2/02 20060101ALI20220215BHJP
C08F 4/34 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
C08F14/06
C08F2/00 A
C08F2/02
C08F4/34
(21)【出願番号】P 2020536046
(86)(22)【出願日】2019-08-07
(86)【国際出願番号】 KR2019009907
(87)【国際公開番号】W WO2020060028
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2020-06-26
(31)【優先権主張番号】10-2018-0113823
(32)【優先日】2018-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0094160
(32)【優先日】2019-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】イ、セ-ウン
(72)【発明者】
【氏名】アン、ソン-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム、コン-チ
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-184602(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0039117(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0061126(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0023340(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 14/06
C08F 2/00
C08F 2/02
C08F 4/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1塩化ビニル系単量体に前重合開始剤を添加し、8.0K/Gから8.7K/Gの圧力で前重合して粒子核を形成させる段階;及び
前記粒子核の存在下に第2塩化ビニル系単量体及び後重合開始剤を後重合する段階を含み、
前記前重合開始剤は、前重合時の圧力に比べて1.3K/Gから3.5K/G低い圧力で添加される製造方法により製造され、
塊状重合体であり、
下記数式1で定義される粒子の不均一度が10以上である塩化ビニル系重合体。
【数10】
前記数式1において、X
iはi番目粒子の標準偏差であって、下記数式2で定義される値であり、
【数11】
前記数式2において、A
nはi番目粒子のn番目測定径の補正値であり、ここで補正値は下記数式3で定義される値であり、
【数12】
前記数式3において、D
nはi番目粒子のn番目測定径であり、D
0はi番目粒子で最も長い直径であり、nは1から50の整数である。
【請求項2】
前記粒子の不均一度が11以上16以下である、請求項1に記載の塩化ビニル系重合体。
【請求項3】
気孔率が59%以上である、
請求項1または2に記載の塩化ビニル系重合体。
【請求項4】
第1塩化ビニル系単量体に前重合開始剤を添加し、8.0K/Gから8.7K/Gの圧力で前重合して粒子核を形成させる段階;及び
前記粒子核の存在下に第2塩化ビニル系単量体及び後重合開始剤を後重合する段階を含み、
前記前重合開始剤は、前重合時の圧力に比べて1.3K/Gから
3.5K/G低い圧力で添加され、
下記数式1で定義される粒子の不均一度が10以上である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【数13】
前記数式1において、X
iはi番目粒子の標準偏差であって、下記数式2で定義される値であり、
【数14】
前記数式2において、A
nはi番目粒子のn番目測定径の補正値であり、ここで補正値は下記数式3で定義される値であり、
【数15】
前記数式3において、D
nはi番目粒子のn番目測定径であり、D
0はi番目粒子で最も長い直径であり、nは1から50の整数である。
【請求項5】
前記前重合開始剤は、前重合時の圧力に比べて1.5K/Gから3.0K/Gの低い圧力で添加される、
請求項4に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項6】
前記前重合開始剤は、前記第1塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.01重量部から1重量部の量で添加される、
請求項4または5に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項7】
前記前重合は、重合転換率10%から15%まで行われる、
請求項4~6のいずれか一項に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項8】
前記後重合は、6K/Gから13K/Gの圧力で行われる、
請求項4~7のいずれか一項に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項9】
前記後重合開始剤は、第2塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.05重量部から2重量部の量で用いられる、
請求項4~8のいずれか一項に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項10】
前記前重合開始剤及び後重合開始剤は、それぞれ、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシエステル、クミルパーオキシエステル、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシエチルパーオキシジカーボネート、イソブチリルパーオキシド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキシド、ラウリルパーオキシド及びオクチルパーオキシジカーボネートのうち選択された1つ以上である、
請求項4~9のいずれか一項に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2018年9月21日付韓国特許出願第10-2018-0113823及び2019年8月2日付韓国特許出願第10-2019-0094160号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、粒子の表面不均一度が調節されることで、配合物性に優れ、加工性が改善された塩化ビニル系重合体及びこの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
塩化ビニル系重合体は、塩化ビニルを50%以上含有する重合体であって、安価でかつ硬度調節が容易であり、殆どの加工機器に適用可能なので応用分野が多様である。しかも、物理的・化学的性質、例えば、機械的強度、耐候性、耐薬品性などに優れた成形品を提供することができるので、多様な分野で幅広く用いられている。
【0004】
一方、塩化ビニル系重合体は、副原料等と配合されて多様な分野に適用されるところ、このとき、塩化ビニル系重合体粒子の表面が滑らかな場合、副原料との結合力が良くないので、結果として配合物性が低下し、加工性が良くないことがある。
【0005】
このような塩化ビニル系重合体は、目的に応じて塊状重合、懸濁重合または乳化重合などを介して製造されて用いられている。このうち、塊状重合を介した製造は、懸濁重合または乳化重合とは異なり、水のような媒体を使用せずに塩化ビニル系単量体と開始剤、そしてその他の反応添加剤を用いて重合するため、乾燥工程が必要ではなく、生産コストが相対的に安いので、産業で広く適用されている。
【0006】
しかし、塊状重合で製造された大部分の塩化ビニル系重合体粒子は、表面が滑らかでかつ角張った形態を有し(
図1参照)、よって表面が不均一な懸濁重合で製造された塩化ビニル系重合体(
図2参照)に比べて、配合加工時に副原料との結合力が低いため、配合物が固まることとなり、加工性が良くないものとして知られている。
【0007】
したがって、生産コストの側面において利点がある塊状重合を介して製造された塩化ビニル系重合体の産業適用性をさらに高めるためには、塊状重合を介して製造するが、製造される塩化ビニル系重合体の粒子表面を粗くすることができる方法が必要な実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来の技術の問題点を解決するために案出されたものであって、粒子の表面不均一度が調節された加工性に優れた塩化ビニル系重合体を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、前記塩化ビニル系重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、下記数式1で定義される粒子の不均一度が10以上である塩化ビニル系重合体を提供する。
【0011】
【0012】
前記数式1において、Xiはi番目粒子の標準偏差であって、下記数式2で定義される値であり、
【0013】
【0014】
前記数式2において、Anはi番目粒子のn番目測定径の補正値であり、ここで補正値は下記数式3で定義される値であり、
【0015】
【0016】
前記数式3において、Dnはi番目粒子のn番目測定径であり、D0はi番目粒子で最も長い直径であり、nは1から50の整数である。
【0017】
また、本発明は、第1塩化ビニル系単量体に前重合開始剤を添加し、8.0K/Gから8.7K/Gの圧力で前重合して粒子核を形成させる段階(段階1);及び前記粒子核の存在下に第2塩化ビニル系単量体及び後重合開始剤を後重合する段階(段階2)を含み、前記前重合開始剤は、前重合時の圧力に比べて1.3K/Gから3.5K/Gほど低い圧力で添加するものであり、前記数式1で定義される粒子の不均一度が10以上である前記塩化ビニル系重合体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る塩化ビニル系重合体は、前重合時の圧力条件及び前重合開始剤の投入時点が調節された前記製造方法を介して製造されることで、粒子の不均一度が調節され、高い気孔率を有することができ、よって配合物性が向上して加工性に優れる。
【0019】
また、本発明に係る塩化ビニル系重合体の製造方法は、粒子核を形成させる前重合段階で前重合時に圧力を調節し、前重合開始剤を前重合時の圧力に比べて1.3K/Gから3.5K/Gの低い圧力である際に添加して前重合に参加させることで、反応初期の粒子核の表面を調節することができ、よって粒子の不均一度及び気孔率が調節された塩化ビニル系重合体を製造することができる。
【0020】
したがって、本発明に係る塩化ビニル系重合体の製造方法及びこれから製造された塩化ビニル系重合体は、これを必要とする産業、例えば塩化ビニル系樹脂及び成形品に関する産業に容易に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本明細書の図面は、本発明の具体的な実施例を例示するものであり、前述した発明の内容とともに本発明の技術思想をさらに理解させる役割を担うものなので、本発明はそのような図面に記載された事項にのみ限定されて解釈されてはならない。
【
図1】通常の塊状重合を介して製造された塩化ビニル重合体の粒子を観察したSEMイメージである。
【
図2】通常の懸濁重合を介して製造された塩化ビニル重合体の粒子を観察したSEMイメージである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に対する理解を助けるために本発明をさらに詳しく説明する。
【0023】
本明細書及び特許請求の範囲で用いられている用語や単語は、通常的かつ辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自身の発明を最良の方法で説明するために、用語の概念を適宜定義することができるという原則に即して、本発明の技術的思想に適合する意味と概念に解釈されなければならない。
【0024】
本発明で用いられる用語「第1塩化ビニル系単量体」及び「第2塩化ビニル系単量体」は、反応に参加させる順序を区別するためのものであって、物質自体は同一の塩化ビニル系単量体を意味してよい。
【0025】
本発明で用いられる用語「粒子の不均一度」は、粒子の表面不均一性、または粒子表面の粗さを示すものであって、重合体内の50個粒子に対する多数方向の直径間の標準偏差を得て、これら各粒子の直径標準偏差の平均値で定義しており、数値が小さいほど各粒子の直径間の標準偏差が小さいこと、すなわち粒子の多数方向の直径等が類似の値を有するものあって、粒子が球形に近いことを示すものであり、したがって、粒子表面の粗さが低い、あるいは滑らかであることを意味してよい。
【0026】
本発明で用いられる単位「K/G(kgf/cm2)」は、圧力を示す単位であって、1K/Gは0.968atmと同一であってよい。
【0027】
本発明は、粒子の不均一度が調節され、配合性が改善されることで、加工性に優れた塩化ビニル系重合体を提供する。
【0028】
本発明の一実施形態による塩化ビニル系重合体は、後述する製造方法で製造されることで、重合体をなす粒子の表面の粗さが調節され、よって配合物性が向上するので加工性に優れる。
【0029】
具体的に、前記塩化ビニル系重合体は、下記数式1で定義される粒子の不均一度が10以上であることを特徴とする。さらに具体的に、前記塩化ビニル系重合体は、粒子の不均一度が11以上16以下であるものであってよい。
【0030】
【0031】
前記数式1において、Xiはi番目粒子の標準偏差であり、下記数式2で定義される値であり、
【0032】
【0033】
前記数式2において、Anはi番目粒子のn番目測定径の補正値であり、ここで補正値は下記数式3で定義される値であり、
【0034】
【0035】
前記数式3において、Dnはi番目粒子のn番目測定径であり、D0はi番目粒子で最も長い直径であり、nは1から50の整数である。
【0036】
また、本発明の一実施形態による前記塩化ビニル系重合体は、ゲル化速度が50秒以上80秒以下であるものであってよい。本発明に係る前記塩化ビニル系重合体は、前記粒子の表面不均一度を有することで、前述した範囲のゲル化速度を示すことができ、よって加工性に優れる。
【0037】
ここで、前記ゲル化速度は、塩化ビニル系重合体100重量部に熱安定剤2重量部、エポキシ化大豆油2重量部を混合して製造した乾燥混合物50gをブラベンダートルクレオミキサー(Brabender Torque Rhomixer)に投入し、165℃で30rpmにて溶融させながら現われる機械的負荷を記録して測定したものである。
【0038】
また、本発明が一実施形態による前記塩化ビニル系重合体は、気孔率が59%以上のものであってよく、具体的には59から65%または60%から63%であってよく、この範囲内で機械的物性の低下なしに可塑剤吸収率が増加するので加工性に優れる。
【0039】
ここで、前記気孔率は、水銀気孔率分析機(AutoPore IV 9520、Micromeritics社)を用いて各塩化ビニル重合体の粒子内に浸透した水銀の量から計算した。
【0040】
一方、本発明の一実施形態による前記塩化ビニル系重合体は、塊状重合体であってよい。
【0041】
また、本発明は、粒子表面の不均一度が調節された塩化ビニル系重合体の製造方法を提供する。
【0042】
一般的に塩化ビニル系重合体は、塊状重合、懸濁重合または乳化重合の方法を介して製造されており、このうち塊状重合は、懸濁重合または乳化重合とは異なり、媒質を使用せずに単量体と重合開始剤、そして必要に応じて添加剤のみを投入して重合することができる。よって、乾燥工程など重合後の工程が必要ではないので、生産原価が安く、大量生産が容易である点で広く用いられている。しかし、塊状重合で製造された重合体の場合、重合体の粒子表面が滑らかでかつ角張った形態を有しているので、粒子表面が粗い懸濁重合や乳化重合で製造された重合体に比べて配合時の副原料との結合力が落ちるため、加工性が良くないという問題がある。
【0043】
よって、本発明は、塊状重合を介して塩化ビニル系重合体を製造するが、重合初期の重合開始剤の投入時点を調節して粒子の表面形態を調節した塩化ビニル系重合体の製造方法を提供する。
【0044】
本発明の一実施形態による前記塩化ビニル系重合体の製造方法は、第1塩化ビニル系単量体に前重合開始剤を添加し、8.0K/Gから8.7K/Gの圧力で前重合して粒子核を形成させる段階(段階1);及び前記粒子核の存在下に第2塩化ビニル系単量体及び後重合開始剤を後重合する段階(段階2)を含み、前記前重合開始剤は、前重合時の圧力に比べて1.3K/Gから3.5K/G低い圧力で添加することを特徴とする。
【0045】
前記段階Aは、粒子核を形成させるための前重合段階であって、第1塩化ビニル系単量体に前重合開始剤を添加し前重合して行うことができ、このとき、前記前重合は8.0K/Gから8.7K/Gの圧力で行うものであってよく、前記前重合開始剤は、前記前重合時の圧力に比べて1.3K/Gから3.5K/Gの低い圧力で添加するものであってよく、具体的には、前記前重合開始剤は、前記前重合時の圧力に比べて1.5K/Gから3.0K/Gの低い圧力で添加するものであってよい。
【0046】
塊状重合の場合、反応初期に重合体粒子の外壁を生成し、その中を充填する方式で重合が進められるため、最終の重合体粒子の表面形態を調節するためには、反応初期に反応速度の制御が必要であり、本発明は、前記前重合を前記特定の範囲に調節された圧力で行い、前重合開始剤を前重合時の圧力に比べて1.3K/Gから3.5K/Gの低い圧力に到達した際に第1塩化ビニル系単量体に投入することで、重合体の粒子表面の不均一度と気孔率を前述したような適正水準に調節されるようにすることができる。
【0047】
具体的に、本発明に係る前記段階Aは、反応器に第1塩化ビニル系単量体を投入し、反応器内の圧力を8.0K/Gから8.7K/Gのうち定められた圧力になるように昇圧させて前重合を行い、前記昇圧中に前重合の遂行圧力より1.3K/Gから3.5K/Gの低い圧力、具体的には1.5K/Gから3.0K/Gの低い圧力に到達した際に前重合開始剤を添加するものであってよい。
【0048】
また、前記前重合開始剤は、第1塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.01重量部から1重量部で添加するものであってよく、具体的には0.03から0.1の重量部で添加するものであってよい。もし、前記前重合開始剤を前記範囲で添加する場合には、前重合反応を円滑に開始することができるとともに、反応時間を適宜調節することができる。また、反応除熱が適定値で維持され得るので、反応熱による安定性の低下を防止することができ、また残留開始剤による熱安定性の低下などの問題が最小化され得る。
【0049】
また、前記前重合開始剤は、特に制限されるものではないが、例えばパーオキシエステルまたはパーオキシジカーボネートの化合物などを用いてよく、具体的には、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシエステル、クミルパーオキシエステル、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシエチルパーオキシジカーボネート、イソブチリルパーオキシド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキシド、ラウリルパーオキシド及びオクチルパーオキシジカーボネートのうち選択された1種以上であってよい。
【0050】
また、前記第1塩化ビニル系単量体は、塩化ビニル単量体または塩化ビニル単量体及び前記塩化ビニル単量体との共重合性を有するビニル系単量体の混合であるものであってよく、前記第1塩化ビニル系単量体が塩化ビニル単量体とビニル系単量体の混合である場合には、これを介して製造された塩化ビニル系重合体内の塩化ビニルが50重量%以上に含まれるように適宜調節して用いるものであってよい。
【0051】
前記ビニル系単量体は、特に制限するものではないが、例えばエチレン、プロピレン、ブテンなどのオレフィン(olefin)化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニルなどのビニルエステル(vinyle ster)類;アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルオクチルエーテル、ビニルラウリルエーテルなどのビニルアルキルエーテル類;塩化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン(vinylidene)類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの不飽和脂肪酸及びこれら脂肪酸の無水物;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ブチルベンジルなどの不飽和脂肪酸エステル(ester)類;ジアリルフタレートなどの架橋性単量体などであってよく、前記ビニル系単量体は、単独または2種以上を混合して用いてよい。
【0052】
一方、前記段階Aの前重合は、重合転換率10%から15%まで行うものであってよい。前記段階Aの前重合の重合転換率が特に制限されてはいないが、前記前重合は粒子核を製造するための段階であって、前重合が過度に進行されて粒子核が過度に形成される場合、最終的に製造される重合体の物性を目的と異なって変性させることができ、したがって、前重合の重合程度が調節されなければならない必要性がある。もし、前記前重合を前記重合転換率まで行う場合には、粒子核を過度に形成させないながらも、目的とする不均一度を有する塩化ビニル系重合体を製造することができながらも、重合度及び他の物性には影響を及ぼさないこともできる。
【0053】
このとき、前記重合転換率は、第1塩化ビニル系単量体の重合体への転換率を示すので、ガスクロマトグラフィーを装着したブタントレーサー(butane tracer)を用いて測定したものであってよい。具体的に、一定の重合条件で時間による塩化ビニル系単量体のブタンとの比率による重合転換率の曲線を重合条件の度ごとに作成しておき、これに基づいて重合条件による重合転換率を測定したものであってよい。また、前記重合転換率は、測定による誤差の範囲まで含むものであってよい。
【0054】
また、前記前重合は、30℃から70℃の温度範囲の条件で行うものであってよい。
【0055】
前記段階Bは、前記前重合によって製造された粒子核の内部を成長させて塩化ビニル系重合体を製造するための段階であって、前重合段階で製造された粒子核の存在下に第2塩化ビニル系単量体及び後重合開始剤を後重合して行うことができる。
【0056】
ここで、前記後重合は、6K/Gから13K/Gの圧力で行うものであってよい。
【0057】
前記第2塩化ビニル系単量体は、第1塩化ビニル系単量体と同一のものであってよい。
【0058】
前記後重合開始剤は、第2塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.05重量部から2重量部で用いるものであってよく、具体的には0.1重量部から0.5重量部で用いるものであってよい。
【0059】
また、前記後重合開始剤は、特に制限するものではないが、例えば、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシエステル、クミルパーオキシエステル、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシエチルパーオキシジカーボネート、イソブチリルパーオキシド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキシド、ラウリルパーオキシド及びオクチルパーオキシジカーボネートのうち選択された1種以上のものであってよい。一方、前記後重合開始剤は、前記前重合開始剤と同一であるか異なる物質であってよい。
【0060】
また、前記後重合は、30℃から70℃の温度範囲で行うものであってよい。
【0061】
一方、本発明の一実施形態による前記製造方法は、後重合の末期に重合抑制剤を投入して残留する前記後重合開始剤の反応性を除去することができ、このとき、前記重合抑制剤は特に制限するものではないが、例えば、ヒドロキノン、ブチレーテッドヒドロキシトルエン、モノメチルエーテルヒドロキノン、4次ブチルカテコール、ジフェニルアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミンなどを用いてよい。また、前記重合抑制剤の使用量は、残留する後重合開始剤の量によって適宜調節して用いてよいが、通常、前重合及び後重合に用いられた全体塩化ビニル系単量体の総100重量部に対して0.001重量部から0.1重量部で用いてよい。
【0062】
また、前記製造方法は、必要に応じて反応媒質を用いてよく、分子量調節剤のような添加剤をさらに用いてよい。
【0063】
前記反応媒質は、特に制限せず通常の有機溶媒が用いられてよく、例えばベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物とメチルエチルケトン、アセトン、n-ヘキサン、クロロホルム、シクロヘキサンなどが用いられてよい。
【0064】
前記分子量調節剤は、特に制限するものではないが、例えば、n-ブチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタンなどが用いられてよい。
【0065】
以下、実施例及び実験例によって本発明をさらに詳しく説明する。しかし、下記実施例及び実験例は、本発明を例示するためのものであって、これらだけに本発明の範囲が限定されるものではない。
【0066】
[実施例1]
高真空で脱気した体積0.2m3の前重合反応器に塩化ビニル単量体135kgを投入し、撹拌しながら8K/Gまで昇圧し、重合転換率10%まで重合して粒子核を製造した。このとき、昇圧中に反応器の内部圧力が6.5K/Gに到達したとき、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート(OPP)40gを投入して反応に参加させた。
【0067】
その後、0.5m3の後重合反応器に塩化ビニル単量体75kgを投入し、前記製造された粒子核を移送させた後、反応器の内部圧力が4K/Gであるとき、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオジカーボネート(OND)95gを投入して撹拌しながら、昇圧して8K/Gの圧力で180分間重合した。重合が完了した後、撹拌しながら30分間真空で残留する未反応の塩化ビニル単量体を回収して塩化ビニル重合体を製造した。
【0068】
[実施例2]
実施例1において、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネートを5K/Gに到達した時点で投入したことを除き、前記実施例1と同様の方法を介して塩化ビニル重合体を製造した。
【0069】
[実施例3]
実施例1において、前重合を8.7K/Gで行い、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネートを6.7K/Gに到達した時点で投入したことを除き、前記実施例1と同様の方法を介して塩化ビニル重合体を製造した。
【0070】
[実施例4]
実施例1において、後重合の際に、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオジカーボネート(OND)95gを塩化ビニル単量体とともに投入したことを除き、前記実施例1と同様の方法を介して塩化ビニル重合体を製造した。
【0071】
[比較例1]
実施例1において、前重合を12K/Gで行ったことを除き、前記実施例1と同様の方法を介して塩化ビニル重合体を製造した。
【0072】
[比較例2]
実施例1において、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネートを7K/Gに到達した時点で投入したことを除き、前記実施例1と同様の方法を介して塩化ビニル重合体を製造したが、正常の粒子核が生成されず、重合体が製造されなかった。これは、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネートの投入が遅れたため、分散が十分ではないことを意味する結果である。
【0073】
[比較例3]
実施例1において、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネートを4K/Gに到達した時点で投入したことを除き、前記実施例1と同様の方法を介して塩化ビニル重合体を製造した。
【0074】
[比較例4]
実施例1において、前重合を10K/Gで行い、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネートを8.5K/Gに到達した時点で投入したことを除き、前記実施例1と同様の方法を介して塩化ビニル重合体を製造した。
【0075】
[比較例5]
実施例1において、前重合を7K/Gで行い、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネートを5.5K/Gに到達した時点で投入したことを除き、前記実施例1と同様の方法を介して塩化ビニル重合体を製造したが、正常の粒子核が生成されず、重合体が製造されなかった。これは、前重合の際に圧力が低すぎるため、重合が正常に行われなかったことを意味する結果である。
【0076】
[比較例6]
実施例1において、前重合を10K/Gで行い、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネートを6.5K/Gに到達した時点で投入したことを除き、前記実施例1と同様の方法を介して塩化ビニル重合体を製造した。
【0077】
[比較例7]
実施例1において、前重合を9.5K/Gで行い、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネートを8K/Gに到達した時点で投入したことを除き、前記実施例1と同様の方法を介して塩化ビニル重合体を製造した。
【0078】
[比較例8]
実施例1において、前重合を9.5K/Gで行ったことを除き、前記実施例1と同様の方法を介して塩化ビニル重合体を製造した。
【0079】
[比較例9]
比較例1において、後重合の際に1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオジカーボネートを5.5K/Gに到達した時点で投入したことを除き、前記比較例1と同様の方法を介して塩化ビニル重合体を製造した。
【0080】
[比較例10]
比較例1において、後重合を7K/Gで行ったことを除き、前記比較例1と同様の方法を介して塩化ビニル重合体を製造した。
【0081】
<実験例1>
前記実施例1から実施例4及び比較例1から比較例10で製造した各塩化ビニル重合体の粒子表面の不均一度、重合度及び気孔率(%)を測定した。結果を下記表1に示した。
【0082】
(1)粒子の不均一度
前記粒子の不均一度は、各重合体の表面に対して光学顕微鏡を用いて観察される粒子のうち総50個の粒子に対して各粒子当たり最も長い直径を測定し、この中心を通る50個の直径を測定して下記数式1から数式3を介して計算した。すなわち、各50個の粒子に対して最も長い直径とこの中心を通る50個の直径を用いて各粒子の直径の標準偏差を数式2及び3を介して計算し、計算された50個の直径の標準偏差に対する平均を粒子の不均一度として示した。
【0083】
【0084】
前記数式1において、Xiはi番目粒子の標準偏差であって、下記数式2で定義される値であり、
【0085】
【0086】
前記数式2において、Anはi番目粒子のn番目測定径の補正値であり、ここで補正値は下記数式3で定義される値であり、
【0087】
【0088】
前記数式3において、Dnはi番目粒子のn番目測定径であり、D0はi番目粒子で最も長い直径であり、nは1から50の整数である。
【0089】
(2)重合度
重合度は、ASTM D1 243-49に基づいて測定した。
【0090】
(3)気孔率(%)
気孔率は、水銀気孔率分析機(AutoPore IV 9520、Micromeritics社)を用いて各塩化ビニル重合体の粒子内に浸透した水銀の量から計算した。
【0091】
【0092】
前記表1に示すように、本発明の一実施形態による実施例1から実施例4の塩化ビニル重合体は、全て同等水準の重合度を示しながら、粒子の不均一度が10以上で粗い表面を有し、気孔率が増加されたことを確認した。その反面、比較例1、比較例3、比較例4及び比較例6から比較例10は、粒子の不均一度が10未満で滑らかな表面を有しており、気孔率も実施例1から4に比べて大きく減少した。また、比較例2及び比較例5の場合には、重合体が生成されなかった。
【0093】
具体的に、前重合の際に8.7K/Gより高い圧力で重合を行った比較例1、比較例4、比較例6から比較例10の場合、実施例1から4に比べて不均一度が顕著に低く、特に比較例4、比較例7及び比較例8の場合には、前重合開始剤が重合時の圧力に比べて1.5K/Gまたは3.0K/Gの低い時点に投入したにもかかわらず、粒子表面の滑らかな重合体が生成された。これは、前重合時の圧力が高すぎる場合、初期の粒子外形が速やか且つ滑らかに形成され、粒子表面の不均一度を一定範囲以上に調節することができないことを示す結果である。
【0094】
また、前重合開始剤を前重合時の圧力に比べて-4K/Gである時点に投入した比較例3の場合にも、実施例1から4に比べて粒子の表面不均一度が低く、これは、前重合開始剤の投入が速すぎる場合、前重合開始剤の分散及び活性時間が長くなり、初期の粒子外形が速やか且つ滑らかに形成され、結果として粒子表面の不均一度が一定範囲以上に調節され得ないことを示す結果である。
【0095】
また、比較例1、3から4、7及び8は、実施例1から4に比べて粒子の気孔率も約4%から8%大きく減少されており、これを介して前重合時の圧力及び前重合開始剤の投入時点が調節された本発明の製造方法の場合、粒子内の気孔を発達させることができ、よって気孔特性に優れた塩化ビニル系重合体を製造することができることを確認した。
【0096】
一方、比較例9及び比較例10は、後重合時の条件による粒子の不均一度の変化を確認するため、前重合は比較例1と同様に進め、後重合時の後重合開始剤の投入時点及び後重合圧力を変化させたものあって、比較例9の場合、後重合開始剤を後重合時より-2.5K/Gである時点に投入したが、粒子の不均一度は調節されておらず、比較例10の場合には、粒子の不均一度は調節できず、重合度が大きく上昇した。これを介して最終生成される重合体粒子の表面の不均一度は、前重合時に前重合の圧力調節及び前重合開始剤の投入時点を調節することにより調節できるものであることを確認しており、後重合時の圧力調節及び後重合開始剤の投入時点の調節を介しては、却って目的とする重合体の製造の妨害要因として作用することができることを確認した。
【0097】
<実験例2>
前記実施例及び比較例の塩化ビニル系重合体の配合性、可塑剤吸収率、突起特性及びゲル化速度を測定した。結果を下記表2に示した。
【0098】
一方、比較例2及び比較例5は、重合体が製造されておらず、よって前記物性を測定することができなかった。
【0099】
(1)配合性
実施例及び比較例の各塩化ビニル重合体100g、Ca-Zn熱安定剤6g、アクリル系衝撃補強剤7g、リポ多糖(二酸化チタン)4g、炭酸カルシウム30gをBrabender Planetary Mixerに投入した後、120℃で12分間配合して各粉末を得て、これを35 mesh篩を通過させて未通過された残量を測定し、総粉末100重量%に対する残量の比率(重量%)を配合物性値として示した。このとき、残量の比率が低いほど、配合物性に優れることを示す。
【0100】
(2)ゲル化速度
実施例及び比較例の各塩化ビニル重合体100重量部、Ca-Zn熱安定剤3重量部、エポキシ化大豆油2重量部を混合した混合粉末50gをBrabender Planetary Mixerに投入した後、165℃で30rpmにて溶融させながら現われる機械的負荷を記録してゲル化速度として示した。このとき、ゲル化速度が少ない値であればあるほど、加工性に優れることを示す。
【0101】
(3)可塑剤吸収率(CPA、重量%)
ASTM D3367-98に基づいて、実施例及び比較例の各塩化ビニル重合体をDOP(ジオクチルフタレート)と混合させ、下記数式4で計算して可塑剤吸収率を測定した。
【0102】
[数式4]
可塑剤吸収率(重量%)=[(B-A)/A]×100
前記数式4において、Aは塩化ビニル重合体の重量であり、Bは可塑剤と混合後、可塑剤が吸収された塩化ビニル重合体の重量である。
【0103】
(4)突起特性
実施例及び比較例の各塩化ビニル重合体100重量部、DOP45重量部、ステアリン酸バリウム0.1重量部、錫系安定剤0.2重量部、カーボンブラック0.1重量部を145℃の6インチロールを用いて4分間混合及び混練した後、厚さ0.3mmのシートを作製し、肉眼で観察してシートの400cm2中の白色透明粒子を数え、これを突起特性として示した。白色透明粒子数が小さいほど、突起特性に優れることを示し、結果として表面特性に優れることを示す。
【0104】
【0105】
前記表2を介して確認できるように、本発明の一実施形態による実施例1から4の塩化ビニル重合体は、配合性が比較例の塩化ビニル重合体に比べて2倍以上優れながらも、ゲル化速度が半分以上減少しており、可塑剤吸収率が大きく増加し、突起発生が大きく減少した。これを介して、本発明に係る前重合段階の圧力条件及び前重合開始剤の投入時点が調節された製造方法で製造された塩化ビニル系重合体の場合、粒子の不均一度及び気孔率が調節されることで、ゲル化速度が減少し、可塑剤吸収率が増加することができ、よって配合物性に優れるので、大きく改善された加工性を示し得ることを確認した。