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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】エアロゲルパウダー分散液
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/157 20060101AFI20220216BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20220216BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20220216BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
C01B33/157
C08K3/36
C08L71/02
C08L83/04
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2017043145
(22)【出願日】2017-03-07
(65)【公開番号】P2018145331
(43)【公開日】2018-09-20
【審査請求日】2020-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】牧野 竜也
(72)【発明者】
【氏名】小竹 智彦
(72)【発明者】
【氏名】岩永 抗太
(72)【発明者】
【氏名】赤須 雄太
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/141189(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/047740(WO,A1)
【文献】特表2014-502305(JP,A)
【文献】特表2012-525290(JP,A)
【文献】特開2018-043927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアロゲルパウダー、水及び界面活性剤を含み、
前記エアロゲルパウダーが、エアロゲル成分及びシリカ粒子を含有
前記界面活性剤がアルキレンオキシド構造及びシロキサン構造を有する、エアロゲルパウダー分散液。
【請求項2】
前記エアロゲルパウダーとして、該エアロゲルパウダーからなる粉体層と水との接触角が90度以上のものを含む、請求項1に記載の分散液。
【請求項3】
さらに有機溶剤を含む、請求項1又は2記載の分散液。
【請求項4】
分散媒中の水の含有量が50質量%以上である、請求項1~のいずれか一項記載の分散液。
【請求項5】
前記エアロゲルパウダーが、前記エアロゲル成分及び前記シリカ粒子より形成された三次元網目骨格と細孔とを有する、請求項1~のいずれか一項に記載の分散液。
【請求項6】
前記エアロゲルパウダーが、三次元網目骨格を構成する成分として前記シリカ粒子を含有する、請求項1~のいずれか一項記載の分散液。
【請求項7】
前記エアロゲルパウダーが、シリカ粒子と、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するケイ素化合物、及び、該加水分解性の官能基を有するケイ素化合物の加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも一種と、を含有するゾルの縮合物である湿潤ゲルの乾燥物である、請求項1~のいずれか一項記載の分散液。
【請求項8】
前記ケイ素化合物が、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物をさらに含有する、請求項に記載の分散液。
【請求項9】
前記シリカ粒子の平均一次粒子径が1~500nmである、請求項1~のいずれか一項記載の分散液。
【請求項10】
前記シリカ粒子の形状が球状である、請求項1~のいずれか一項記載の分散液。
【請求項11】
前記シリカ粒子が非晶質シリカ粒子である、請求項1~10のいずれか一項記載の分散液。
【請求項12】
前記非晶質シリカ粒子が溶融シリカ粒子、ヒュームドシリカ粒子及びコロイダルシリカ粒子からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項11記載の分散液。
【請求項13】
前記エアロゲルパウダーの平均粒子径D50が1~1000μmである、請求項1~12のいずれか一項記載の分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水系のエアロゲルパウダー分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
熱伝導率が小さく断熱性を有する材料としてシリカエアロゲルが知られている。シリカエアロゲルは、優れた機能性(断熱性等)、特異な光学特性、特異な電気特性等を有する機能素材として有用なものであり、例えば、シリカエアロゲルの超低誘電率特性を利用した電子基板材料、シリカエアロゲルの高断熱性を利用した断熱材料、シリカエアロゲルの超低屈折率を利用した光反射材料等に用いられている。
【0003】
このようなエアロゲルは、表面に存在するシラノール基を、例えばシリル化剤等の疎水性有機基を用いてエンドキャッピングすることで、疎水化処理されている。エアロゲルをパウダー化したエアロゲルパウダーの場合も、同様に疎水化処理されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2001-504756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、表面が疎水化処理されたエアロゲルパウダーは、有機溶剤中への分散性が良好である一方で、例えば、水中、又は水を多量に含む液体中への分散性が良好ではない。すなわち、上記のエアロゲルパウダーを水系分散媒中に分散させようとすると、分散できなかったり、あるいは一時的に分散できたとしても容易に凝集してしまったりするため、安定な分散液を得ることが困難という課題がある。
【0006】
本開示は上記の事情に鑑みてなされたものであり、分散性及び分散安定性に優れる、水系のエアロゲルパウダー分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、界面活性剤を用いることにより、分散性と分散安定性に優れた水系エアロゲルパウダー分散液が得られることを見出した。
【0008】
すなわち本開示は、エアロゲルパウダー、水及び界面活性剤を含むエアロゲルパウダー分散液を提供する。本開示の水系エアロゲルパウダー分散液は、従来技術では困難であった疎水化処理されたエアロゲルパウダーの分散性と分散安定性に優れるものである。
【0009】
本開示において、エアロゲルパウダーとしては、エアロゲルパウダーからなる粉体層と水との接触角が90度以上のものを用いることができる。
【0010】
本開示において、上記界面活性剤は、アルキレンオキシド構造を有することができる。これにより、分散性と分散安定性が向上し易くなる。
【0011】
本開示において、上記界面活性剤は、シロキサン構造をさらに有することができる。これにより、分散性と分散安定性がさらに向上し易くなる。
【0012】
本開示において、上記分散液はさらに有機溶剤を含むことができる。これにより、分散性と分散安定性が向上し易くなる。
【0013】
本開示において、分散媒中の水の含有量は、50質量%以上とすることができる。これにより、水系分散液となり、溶剤系分散液に比べ地球環境に対する負荷を著しく小さくすることができる。
【0014】
本開示において、上記エアロゲルパウダーは、エアロゲル成分及びシリカ粒子を含有することができる。これにより、分散プロセスにおいてかかる応力によって、パウダーの細孔構造が破損するのを抑制することができる。
【0015】
本開示において、上記エアロゲルパウダーは、エアロゲル成分及びシリカ粒子より形成された三次元網目骨格と、細孔とを有することができる。これにより、分散プロセスにおいてかかる応力によって、パウダーの細孔構造が破損するのを抑制することができる。
【0016】
本開示において、上記エアロゲルパウダーは、三次元網目骨格を構成する成分としてシリカ粒子を含有することができる。これにより、分散プロセスにおいてかかる応力によって、パウダーの細孔構造が破損するのを抑制することができる。
【0017】
本開示において、上記エアロゲルパウダーは、シリカ粒子と、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するケイ素化合物、及び、該加水分解性の官能基を有するケイ素化合物の加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも一種と、を含有するゾルの縮合物である湿潤ゲルの乾燥物であってもよい。このようにして得られたエアロゲルパウダーは、柔軟性に優れ、分散プロセスにおいてかかる応力によって、パウダーの細孔構造が破損するのを抑制することができる。
【0018】
本開示において、上記ケイ素化合物は、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物さらに含有することができる。これにより、さらに優れた柔軟性を達成することができる。
【0019】
本開示において、上記シリカ粒子の平均一次粒子径は1~500nmとすることができる。これにより、分散プロセスにおいてかかる応力によって、パウダーの細孔構造が破損するのを抑制することができる。
【0020】
この際、シリカ粒子の形状は球状とすることができる。また、シリカ粒子は非晶質シリカ粒子とすることができ、さらに当該非晶質シリカ粒子は溶融シリカ粒子、ヒュームドシリカ粒子及びコロイダルシリカ粒子からなる群より選択される少なくとも一種とすることができる。これにより、分散プロセスにおいてかかる応力によって、パウダーの細孔構造が破損するのを抑制することができる。
【0021】
本開示において、エアロゲルパウダーの平均粒子径D50は1~1000μmとすることができる。これにより、分散性と分散安定性が向上し易くなる。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、分散性及び分散安定性に優れる、水系のエアロゲルパウダー分散液を提供することができる。また、特定のエアロゲルパウダーを用いることにより、分散プロセスにおいてかかる応力によっても細孔構造が破損され難い、柔軟なエアロゲルパウダーが安定に分散された水系エアロゲルパウダー分散液を提供することができる。柔軟性に優れたエアロゲルパウダーが分散された、分散安定性に優れた水系エアロゲルパウダー分散液は様々な用途に活用できる可能性を有している。ここで、本開示に係る重要な点は、疎水化されたエアロゲルパウダーを細孔構造が破損されない状態で、凝集なく安定に分散することが容易になったことにある。従来の技術では、疎水化されたエアロゲルパウダーは溶剤系分散液にしか適用できなかったものが、本開示によれば、溶剤系に比べ地球環境に対する負荷が著しく小さい水系へ分散することが可能となる。さらに、特定の界面活性剤を用いることにより、分散直後の泡立ちが少なく、また経時後の消泡性の良好な水系エアロゲルパウダー分散液を提供することができる。このような分散液は取り扱い易く、工程容易性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係るエアロゲルパウダーの微細構造を模式的に表す図である。
図2】粒子の二軸平均一次粒子径の算出方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、場合により図面を参照しつつ本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。
ただし、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。「A又はB」とは、A及びBのいずれか一方を含んでいればよく、両方を含んでいてもよい。本実施形態で例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
<分散液>
本実施形態の分散液は、水と界面活性剤とを含む液体中に、エアロゲルパウダーが分散したものである。すなわち、本実施形態の分散系は、分散媒が水と界面活性剤とを含む液体であり、分散質がエアロゲルパウダーであると言うことができる。
【0026】
界面活性剤は、分子内にエチレンオキシドやプロピレンオキシドといったアルキレンオキシド構造を有することができる。アルキレンオキシド構造を有することにより、界面活性剤の親水性が高まり、エアロゲルパウダーの分散性と分散安定性を向上することができる。また、このような界面活性剤は、分散直後の泡立ちが少なく、また経時後の消泡性の良好な水系エアロゲルパウダー分散液を提供することができる。
【0027】
分子内にアルキレンオキシド構造を有する界面活性剤として特に制限はないが、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤;ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル系界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルアミン系界面活性剤;ポリオキシエチレンアセチレンアルコール系界面活性剤等が挙げられる。
【0028】
界面活性剤は、上記のアルキレンオキシド構造に加え、さらに分子内にシロキサン構造を有することができる。シロキサン構造を有することにより、疎水性の強いエアロゲルパウダーとの親和性がより高まり、親水性の強いアルキレンオキシド構造と相まって、分散性と分散安定性をさらに向上することができる。また、このような界面活性剤は、分散直後の泡立ちが少なく、また経時後の消泡性の良好な水系エアロゲルパウダー分散液を提供することができる。
【0029】
分子内にアルキレンオキシド構造とシロキサン構造を有する界面活性剤として特に制限はないが、例えば、両末端ポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤、側鎖ポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤等が挙げられる。
【0030】
分散媒中の界面活性剤の含有量に特に制限はないが、0.001~10質量%が好ましい。0.001質量%以上であれば、分散性と分散安定性をより良好にすることができ、10質量%以下であれば、エアロゲルパウダーの多孔質体としての機能を損ない難い。以上の観点から、0.005~5質量%がより好ましく、0.01~3質量%であることがさらに好ましい。
【0031】
分散液は、さらに有機溶剤を含んでいてもよい。有機溶剤を含むことにより、分散性と分散安定性が向上し易くなる。
【0032】
有機溶剤として、水に可溶なものであれば特に制限はなく、例えばアセトン等のケトン系有機溶剤;乳酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル系有機溶剤;メタノール、エタノール、2-プロパノール等のアルコール系界面活性剤;エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール系有機溶剤;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル系有機溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の多価アルコールアルキルエーテルアセテート;N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系有機溶剤等が挙げられる。これらの有機溶剤は、一種を単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0033】
分散媒中の有機溶剤の含有量は、50質量%未満とすることができる。これにより、水を主成分とする水系分散液となり、また有機溶剤系分散液に比べ地球環境に対する負荷を著しく小さくすることができる。
【0034】
分散媒中の水の含有量は、50質量%以上とすることができる。これにより、水を主成分とする水系分散液となり、また有機溶剤系分散液に比べ地球環境に対する負荷を著しく小さくすることができる。
【0035】
本実施形態の分散液は、水と界面活性剤とを含む液体中にエアロゲルパウダーを分散することにより得ることができる。分散方法としては特に制限はないが、例えば、ホモジナイザー、ジェットミル、ローラーミル、ビーズミル、ハンマーミル等にエアロゲルパウダー、水、界面活性剤及び必要に応じて有機溶剤を入れ、適度な回転数と時間で運転することにより行うことができる。
【0036】
分散液中のエアロゲルパウダーの含有量は、0.01~30質量%とすることができる。含有量が0.01質量%以上であれば、エアロゲルパウダーの濃度が十分に確保され、使用する分散液の量を低減することができ、30質量%以下であれば、分散性と分散安定性をより良好にすることができる。以上の観点から、含有量は0.05~20質量%がより好ましく、0.1~10質量%であることがさらに好ましい。なお、エアロゲルパウダーの含有量の残部が、分散液中の分散媒の含有量となる。
【0037】
<エアロゲルパウダー>
狭義には、湿潤ゲルに対して超臨界乾燥法を用いて得られた乾燥ゲルをエアロゲル、大気圧下での乾燥により得られた乾燥ゲルをキセロゲル、凍結乾燥により得られた乾燥ゲルをクライオゲルと称するが、本実施形態においては、湿潤ゲルのこれらの乾燥手法によらず、得られた低密度の乾燥ゲルを「エアロゲル」と称する。すなわち、本実施形態においてエアロゲルとは、広義のエアロゲルである「Gel comprised of a microporous solid in which the dispersed phase is a gas(分散相が気体である微多孔性固体から構成されるゲル)」を意味するものである。一般的にエアロゲルの内部は網目状の微細構造となっており、2~20nm程度のエアロゲル粒子(エアロゲルを構成する粒子)が結合したクラスター構造を有している。このクラスターにより形成される骨格間には、100nmに満たない細孔がある。これにより、エアロゲルは、三次元的に微細な多孔性の構造をしている。なお、本実施形態におけるエアロゲルは、例えば、シリカを主成分とするシリカエアロゲルである。シリカエアロゲルとしては、例えば、有機基(メチル基等)又は有機鎖を導入した、いわゆる、有機-無機ハイブリッド化されたシリカエアロゲルも含まれる。なお、本実施形態のエアロゲルパウダー(粉末状(パウダー状)エアロゲル、ということもできる)は、上記エアロゲルの特徴であるクラスター構造を有しており、三次元的に微細な多孔性の構造を有するパウダーである。
【0038】
本実施形態のエアロゲルパウダーは、エアロゲル成分に加えシリカ粒子を含有するエアロゲル複合体であってもよい。なお、必ずしもこれと同じ概念を意味するものではないが、本実施形態のエアロゲルパウダーは、三次元網目骨格を構成する成分としてシリカ粒子を含有するものである、と表現することも可能である。本実施形態のエアロゲルパウダーは柔軟性が優れているおり、圧縮等の応力がかかっても破損し難い柔軟なエアロゲルパウダーを提供することができる。なお、このようなエアロゲルパウダーは、エアロゲルの製造環境中にシリカ粒子を存在させることにより得られるものである。そしてシリカ粒子を存在させることによるメリットは、エアロゲルパウダー自体の柔軟性を向上できることのみならず、後述する湿潤ゲル生成工程の時間短縮、あるいは洗浄及び溶媒置換工程から乾燥工程の簡略化が可能であることにもある。なお、この工程の時間短縮及び工程の簡略化は、柔軟性が優れるエアロゲルパウダーを作製する上で必ずしも求められることではない。
【0039】
本実施形態において、エアロゲル成分とシリカ粒子との複合化態様は様々である。例えば、エアロゲル成分は膜状等の不定形であってもよく、粒子状(エアロゲル粒子)であってもよい。いずれの態様においても、エアロゲル成分が様々な形態になりシリカ粒子間に存在しているため、複合体の骨格に柔軟性が付与されていると推察される。
【0040】
まず、エアロゲル成分とシリカ粒子の複合化態様としては、不定形のエアロゲル成分がシリカ粒子間に介在する態様が挙げられる。このような態様としては、具体的には、例えばシリカ粒子が膜状のエアロゲル成分(シリコーン成分)により被覆された態様(エアロゲル成分がシリカ粒子を内包する態様)、エアロゲル成分がバインダーとなりシリカ粒子同士が連結された態様、エアロゲル成分が複数のシリカ粒子間隙を充填している態様、これらの態様の組み合わせの態様(クラスター状に並んだシリカ粒子がエアロゲル成分により被覆された態様等)、等様々な態様が挙げられる。このように、本実施形態においてエアロゲルパウダーは、三次元網目骨格がシリカ粒子とエアロゲル成分(シリコーン成分)から構成されることができ、その具体的態様(形態)に特に制限はない。
【0041】
一方、後述するように、本実施形態においてエアロゲル成分は、不定形ではなく図1のように明確な粒子状となってシリカ粒子と複合化していてもよい。
【0042】
本実施形態のエアロゲルパウダーにおいてこのような様々な態様が生じるメカニズムは必ずしも定かではないが、本発明者は、ゲル化工程におけるエアロゲル成分の生成速度が関与していると推察している。例えば、シリカ粒子のシラノール基数を変動させることによってエアロゲル成分の生成速度が変動する傾向がある。また、系のpHを変動させることによってもエアロゲル成分の生成速度が変動する傾向がある。
【0043】
このことは、シリカ粒子のサイズ、形状、シラノール基数、系のpH等を調整することにより、エアロゲルパウダーの態様(三次元網目骨格のサイズ、形状等)を制御できることを示唆する。したがって、エアロゲル複合体の密度、気孔率等の制御が可能となり、エアロゲル複合体の柔軟性を制御することができると考えられる。なお、エアロゲルパウダーの三次元網目骨格は、上述した様々な態様の一種類のみから構成されていてもよいし、二種以上の態様から構成されていてもよい。
【0044】
以下、図1を例にとり、本実施形態のエアロゲルパウダーについて説明するが、上述のとおり本開示は図1の態様に限定されるものではない。ただし、上記いずれの態様にも共通する事項(シリカ粒子の種類、サイズ、含有量等)については、以下の記載を適宜参照することができる。
【0045】
図1は、本開示の一実施形態に係るエアロゲルパウダーの微細構造を模式的に表す図である。図1に示されるように、エアロゲル複合体10は、エアロゲル成分を構成するエアロゲル粒子1が部分的にシリカ粒子2を介して三次元的にランダムに連なることにより形成される三次元網目骨格と、当該骨格に囲まれた細孔3とを有する。この際、シリカ粒子2はエアロゲル粒子1間に介在し、三次元網目骨格を支持する骨格支持体として機能していると推察される。したがって、このような構造を有することにより、エアロゲルとしての柔軟性を維持しつつ、適度な強度がエアロゲルに付与されることになると考えられる。すなわち、本実施形態においては、エアロゲルパウダーは、シリカ粒子がエアロゲル粒子を介して三次元的にランダムに連なることにより形成される三次元網目骨格を有していてもよい。また、シリカ粒子はエアロゲル粒子により被覆されていてもよい。なお、上記エアロゲル粒子(エアロゲル成分)はケイ素化合物から構成されるため、シリカ粒子への親和性が高いと推察される。そのため、本実施形態においてはエアロゲルの三次元網目骨格中にシリカ粒子を導入することに成功したと考えられる。この点においては、シリカ粒子のシラノール基も、両者の親和性に寄与していると考えられる。
【0046】
エアロゲル粒子1は、複数の一次粒子から構成される二次粒子の態様を取っていると考えられており、概ね球状である。エアロゲル粒子1の平均粒子径(すなわち二次粒子径)は2nm~50μmとすることができるが、5nm~2μmであってもよく、又は10nm~200nmであってもよい。エアロゲル粒子1の平均粒子径が2nm以上であることにより、柔軟性に優れるエアロゲルパウダーが得易くなり、一方平均粒子径が50μm以下であることにより、得られるエアロゲルパウダーの分散性と分散安定性が向上し易くなる。なお、エアロゲル粒子1を構成する一次粒子の平均粒子径は、低密度の多孔質構造の2次粒子を形成し易いという観点から、0.1nm~5μmとすることができるが、0.5nm~200nmであってもよく、又は1nm~20nmであってもよい。
【0047】
シリカ粒子2としては特に制限なく用いることができ、例えば非晶質シリカ粒子が挙げられる。さらに当該非晶質シリカ粒子としては、溶融シリカ粒子、ヒュームドシリカ粒子及びコロイダルシリカ粒子からなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。これらのうち、コロイダルシリカ粒子は単分散性が高く、ゾル中での凝集を抑制し易い。なお、シリカ粒子2としては、中空構造、多孔質構造等を有するシリカ粒子であってもよい。
【0048】
シリカ粒子2の形状は特に制限されず、球状、繭型、会合型等が挙げられる。これらのうち、シリカ粒子2として球状の粒子を用いることにより、ゾル中での凝集を抑制し易くなる。シリカ粒子2の平均一次粒子径は1~500nmとすることができるが、5~300nmであってもよく、又は20~100nmであってもよい。シリカ粒子2の平均一次粒子径が1nm以上であることにより、適度な強度をエアロゲルに付与し易くなり、乾燥時の耐収縮性に優れるエアロゲルパウダーが得易くなる。一方、平均一次粒子径が500nm以下であることにより、得られるエアロゲルパウダーの分散性と分散安定性が向上し易くなる。
【0049】
エアロゲル粒子1(エアロゲル成分)とシリカ粒子2とは、水素結合又は化学結合の態様を取って結合していると推測される。この際、水素結合又は化学結合は、エアロゲル粒子1(エアロゲル成分)のシラノール基又は反応性基と、シリカ粒子2のシラノール基により形成されると考えられる。そのため、結合の態様が化学結合であると、適度な強度をエアロゲルに付与し易いと考えられる。このことから考えると、エアロゲル成分と複合化させる粒子として、シリカ粒子に限らず、粒子表面にシラノール基を有する無機粒子又は有機粒子も用いることができる。
【0050】
シリカ粒子2の1g当りのシラノール基数は、10×1018~1000×1018個/gとすることができるが、50×1018~800×1018個/gであってもよく、又は100×1018~700×1018個/gであってもよい。シリカ粒子2の1g当りのシラノール基数が10×1018個/g以上であることにより、エアロゲル粒子1(エアロゲル成分)とのより良好な反応性を有することができ、耐収縮性に優れるエアロゲルパウダーを得易くなる。一方、シラノール基数が1000×1018個/g以下であることにより、ゾル作製時における急なゲル化を抑制し易くなり、均質なエアロゲルパウダーが得易くなる。
【0051】
本実施形態において、粒子の平均粒子径(エアロゲル粒子の平均二次粒子径、シリカ粒子の平均一次粒子径等)は、走査型電子顕微鏡(以下「SEM」と略記する。)を用いてエアロゲル複合体の断面を直接観察することにより得ることができる。例えば、三次元網目骨格からは、その断面の直径に基づきエアロゲル粒子又はシリカ粒子個々の粒子径を得ることができる。ここでいう直径とは、三次元網目骨格を形成する骨格の断面を円とみなした場合の直径を意味する。また、断面を円とみなした場合の直径とは、断面の面積を同じ面積の円に置き換えたときの当該円の直径のことである。なお、平均粒子径の算出に当たっては、100個の粒子について円の直径を求め、その平均を取るものとする。
【0052】
なお、シリカ粒子については原料から平均粒子径を測定することが可能である。例えば、二軸平均一次粒子径は、任意の粒子20個をSEMにより観察した結果から、次のようにして算出される。すなわち、通常水に分散している固形分濃度が5~40質量%のコロイダルシリカ粒子を例にすると、コロイダルシリカ粒子の分散液にパターン配線付きウエハを2cm角に切ったチップを約30秒浸した後、当該チップを純水にて約30秒間すすぎ、窒素ブロー乾燥する。その後、チップをSEM観察用の試料台に載せ、加速電圧10kVを掛け、10万倍の倍率にてシリカ粒子を観察し、画像を撮影する。得られた画像から20個のシリカ粒子を任意に選択し、それらの粒子の粒子径の平均を平均粒子径とする。この際、選択したシリカ粒子が図2に示すような形状であった場合、シリカ粒子2に外接し、その長辺が最も長くなるように配置した長方形(外接長方形L)を導く。そして、その外接長方形Lの長辺をX、短辺をYとして、(X+Y)/2として二軸平均一次粒子径を算出し、その粒子の粒子径とする。
【0053】
エアロゲルパウダーにおいて、細孔3のサイズ、すなわち平均細孔径は5~1000nmとすることができるが、25~500nmであってもよい。平均細孔径が5nm以上であることにより、柔軟性に優れるエアロゲルパウダーが得易くなり、また、1000nm以下であることにより、微細な多孔構造を有するエアロゲルパウダーが得易くなる。
【0054】
エアロゲルパウダーに含まれるエアロゲル成分の含有量は、エアロゲルパウダーの総量100質量部に対し、4~25質量部とすることができるが、10~20質量部であってもよい。含有量が4~25質量部であることにより適度な強度を付与し易くなる。
【0055】
エアロゲルパウダーに含まれるシリカ粒子の含有量は、エアロゲルパウダーの総量100質量部に対し、1~25質量部とすることができるが、3~15質量部であってもよい。含有量が1~25質量部であることにより適度な強度をエアロゲル複合体に付与し易くなる。
【0056】
エアロゲルパウダーは、これらエアロゲル成分及びシリカ粒子の他に、光学的特性、熱的特性を付与する目的で、カーボングラファイト、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、銀化合物、チタン化合物等のその他の成分をさらに含んでいてもよい。その他の成分の含有量は特に制限されないが、エアロゲル複合体の所期の効果を十分に確保する観点から、エアロゲルパウダーの総量100質量部に対し、1~5質量部とすることができる。
【0057】
[パウダーの形状]
本実施形態のエアロゲルパウダーの形状は、特に限定されるものではなく、種々の形状であってよい。本実施形態におけるエアロゲルパウダーは、後述の通りパウダー化するために粉砕を行っているため、通常、パウダーの形状は表面に凹凸のある不定形の形状となる。もちろん、球状等のパウダーでもよい。また、パネル状、フレーク状、繊維状であってもよい。パウダー形状は、SEMを用いてエアロゲルパウダーを直接観察することにより得ることができる。
【0058】
[パウダーの平均粒子径]
本実施形態のエアロゲルパウダーの平均粒子径D50は1~1000μmとすることができるが、3~700μmであってもよく、又は5~500μmであってもよい。エアロゲルパウダーの平均粒子径D50が1μm以上であることにより、分散性や取り扱い性に優れるエアロゲルパウダーが得易くなる。一方、平均粒子径D50が1000μm以下であることにより、分散性に優れるエアロゲルパウダーが得易くなる。パウダーの平均粒子径は、粉砕方法及び粉砕条件、ふるいや分級の仕方により適宜調整することができる。
【0059】
パウダーの平均粒子径D50はレーザー回折・散乱法により測定することができる。例えば、溶媒(エタノール)に、エアロゲルパウダーを濃度0.05~5質量%の範囲内で添加し、50Wの超音波ホモジナイザーで15~30分振動することによって、パウダーを分散する。その後、分散液の約10mL程度をレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置に注入して、25℃で、屈折率1.3、吸収0として粒子径を測定する。そして、この粒子径分布における積算値50%(体積基準)での粒径を平均粒子径D50とする。測定装置としては、例えばMicrotrac MT3000(日機装株式会社製、製品名)を用いることができる。
【0060】
[パウダーの水との接触角]
エアロゲルパウダーとしては、エアロゲルパウダーからなる粉体層と水との接触角が90度以上のものを用いることができる。当該接触角は110度以上であってもよく、130度以上であってもよい。エアロゲルパウダーからなる粉体層と水との接触角が90度以上となるエアロゲルパウダーを用いることにより、分散媒除去後のエアロゲルパウダーが再び撥水性を示し、分散液による表面処理が容易となりやすい。
【0061】
エアロゲルパウダーからなる粉体層と水との接触角は、θ/2法、接線法により測定することができる。例えば、粘着テープ上にエアロゲルパウダーを転写してエアロゲルパウダーの粉体層を形成し、その上に水滴を落とし、水滴と粉体層との接触角を、接触角計を用いて測定する。測定装置としては、例えばDMo-701(協和界面科学株式会社製、製品名)を用いることができる。
【0062】
<エアロゲル成分の具体的態様>
本実施形態のエアロゲルパウダーは、シロキサン結合(Si-O-Si)を含む主鎖を有するポリシロキサンを含有することができる。エアロゲルは、構造単位として、下記M単位、D単位、T単位又はQ単位を有することができる。
【化1】
【0063】
上記式中、Rは、ケイ素原子に結合している原子(水素原子等)又は原子団(アルキル基等)を示す。M単位は、ケイ素原子が1個の酸素原子と結合した一価の基からなる単位である。D単位は、ケイ素原子が2個の酸素原子と結合した二価の基からなる単位である。T単位は、ケイ素原子が3個の酸素原子と結合した三価の基からなる単位である。Q単位は、ケイ素原子が4個の酸素原子と結合した四価の基からなる単位である。これらの単位の含有量に関する情報は、Si-NMRにより得ることができる。
【0064】
本実施形態のエアロゲルパウダーにおけるエアロゲル成分としては、以下の態様が挙げられる。これらの態様を採用することにより、エアロゲルパウダーの柔軟性や分散性を所望の水準に制御することが容易となる。
【0065】
(第一の態様)
本実施形態のエアロゲルパウダーは、下記一般式(1)で表される構造を有することができる。本実施形態のエアロゲル複合体パウダーは、式(1)で表される構造を含む構造として、下記一般式(1a)で表される構造を有することができる。
【化2】

【化3】
【0066】
式(1)及び式(1a)中、R及びRはそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、R及びRはそれぞれ独立にアルキレン基を示す。ここで、アリール基としては、フェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。なお、置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。pは1~50の整数を示す。式(1a)中、2個以上のRは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に、2個以上のRは各々同一であっても異なっていてもよい。式(1a)中、2個のRは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に、2個のRは各々同一であっても異なっていてもよい。
【0067】
上記式(1)又は式(1a)で表される構造をエアロゲル成分としてエアロゲルパウダーの骨格中に導入することにより、柔軟なエアロゲルパウダーとなる。このような観点から、式(1)及び式(1a)中、R及びRとしてはそれぞれ独立に炭素数が1~6のアルキル基、フェニル基等が挙げられ、当該アルキル基としては、メチル基等が挙げられる。また、式(1)及び式(1a)中、R及びRとしては、それぞれ独立に炭素数が1~6のアルキレン基等が挙げられ、当該アルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基等が挙げられる。式(1a)中、pは2~30とすることができ、5~20であってもよい。
【0068】
(第二の態様)
本実施形態のエアロゲルパウダーは、支柱部及び橋かけ部を備えるラダー型構造を有し、かつ橋かけ部が下記一般式(2)で表される構造を有することができる。このようなラダー型構造をエアロゲル成分としてエアロゲルパウダーの骨格中に導入することにより、耐熱性と機械的強度を向上させることができる。なお、本実施形態において「ラダー型構造」とは、2本の支柱部(struts)と支柱部同士を連結する橋かけ部(bridges)とを有するもの(いわゆる「梯子」の形態を有するもの)である。本態様において、エアロゲル複合体の骨格がラダー型構造からなっていてもよいが、エアロゲルパウダーが部分的にラダー型構造を有していてもよい。
【化4】
【0069】
式(2)中、R及びRはそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、bは1~50の整数を示す。ここで、アリール基としては、フェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。また、置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。なお、式(2)中、bが2以上の整数の場合、2個以上のRは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個以上のRも各々同一であっても異なっていてもよい。
【0070】
上記の構造をエアロゲル成分としてエアロゲルパウダーの骨格中に導入することにより、例えば、従来のラダー型シルセスキオキサンに由来する構造を有する(すなわち、下記一般式(X)で表される構造を有する)エアロゲルよりも優れた柔軟性を有するエアロゲルパウダーとなる。シルセスキオキサンは、組成式:(RSiO1.5を有するポリシロキサンであり、カゴ型、ラダー型、ランダム型等の種々の骨格構造を有することができる。下記一般式(X)にて示すように、従来のラダー型シルセスキオキサンに由来する構造を有するエアロゲルでは、橋かけ部の構造が-O-(構造単位として上記T単位を有する)であるが、本実施形態のエアロゲルパウダーでは、橋かけ部の構造が上記一般式(2)で表される構造(ポリシロキサン構造)である。ただし、本態様のエアロゲル複合体パウダーは、一般式(2)で表される構造に加え、さらにシルセスキオキサンに由来する構造を有していてもよい。
【化5】
【0071】
式(X)中、Rはヒドロキシ基、アルキル基又はアリール基を示す。
【0072】
支柱部となる構造及びその鎖長、並びに橋かけ部となる構造の間隔は特に限定されないが、耐熱性と機械的強度とをより向上させるという観点から、ラダー型構造としては、下記一般式(3)で表されるラダー型構造を有していてもよい。
【化6】
【0073】
式(3)中、R、R、R及びRはそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、a及びcはそれぞれ独立に1~3000の整数を示し、bは1~50の整数を示す。ここで、アリール基としては、フェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。また、置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。なお、式(3)中、bが2以上の整数の場合、2個以上のRは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個以上のRも各々同一であっても異なっていてもよい。また、式(3)中、aが2以上の整数の場合、2個以上のRは各々同一であっても異なっていてもよく、同様にcが2以上の整数の場合、2個以上のRは各々同一であっても異なっていてもよい。
【0074】
なお、より優れた柔軟性を得る観点から、式(2)及び(3)中、R、R、R及びR(ただし、R及びRは式(3)中のみ)としてはそれぞれ独立に炭素数が1~6のアルキル基、フェニル基等が挙げられ、当該アルキル基としては、メチル基等が挙げられる。また、式(3)中、a及びcは、それぞれ独立に6~2000とすることができるが、10~1000であってもよい。また、式(2)及び(3)中、bは、2~30とすることができるが、5~20であってもよい。
【0075】
(第三の態様)
本実施形態のエアロゲルパウダーは、シリカ粒子と、(分子内に)加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するケイ素化合物、及び、加水分解性の官能基を有するケイ素化合物の加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも一種と、を含有するゾルの縮合物である湿潤ゲルの乾燥物(ゾルから生成された湿潤ゲルを乾燥して得られるもの:ゾル由来の湿潤ゲルの乾燥物)であってもよい。なお、これまで述べてきたエアロゲル複合体も、このように、シリカ粒子と、ケイ素化合物等を含有するゾルから生成された湿潤ゲルを乾燥することで得られるものであってもよい。
【0076】
加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するケイ素化合物としては、後述のポリシロキサン化合物以外のケイ素化合物(シリコン化合物)を用いることができる。すなわち、上記ゾルは、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するケイ素化合物(ポリシロキサン化合物を除く)、及び、加水分解性の官能基を有するケイ素化合物の加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも一種の化合物(以下、場合により「ケイ素化合物群」という)を含有することができる。ケイ素化合物における分子内のケイ素数は1又は2とすることができる。
【0077】
加水分解性の官能基を有するケイ素化合物としては、特に限定されないが、例えば、アルキルケイ素アルコキシドが挙げられる。アルキルケイ素アルコキシドは、耐水性を向上する観点から、加水分解性の官能基の数を3個以下とすることができる。このようなアルキルケイ素アルコキシドとしては、モノアルキルトリアルコキシシラン、モノアルキルジアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、モノアルキルモノアルコキシシラン、ジアルキルモノアルコキシシラン、トリアルキルモノアルコキシシラン等が挙げられ、具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルジメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。加水分解性の官能基としては、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基等が挙げられる。
【0078】
縮合性の官能基を有するケイ素化合物としては、特に限定されないが、例えば、シランテトラオール、メチルシラントリオール、ジメチルシランジオール、フェニルシラントリオール、フェニルメチルシランジオール、ジフェニルシランジオール、n-プロピルシラントリオール、ヘキシルシラントリオール、オクチルシラントリオール、デシルシラントリオール、トリフルオロプロピルシラントリオール等が挙げられる。
【0079】
加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するケイ素化合物は、加水分解性の官能基及び縮合性の官能基とは異なる反応性基(加水分解性の官能基及び縮合性の官能基に該当しない官能基)を更に有していてもよい。反応性基としては、エポキシ基、メルカプト基、グリシドキシ基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アミノ基等が挙げられる。エポキシ基は、グリシドキシ基等のエポキシ基含有基に含まれていてもよい。
【0080】
加水分解性の官能基の数が3個以下であり、反応性基を有するケイ素化合物として、ビニルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等も用いることができる。
【0081】
また、縮合性の官能基を有し、反応性基を有するケイ素化合物として、ビニルシラントリオール、3-グリシドキシプロピルシラントリオール、3-グリシドキシプロピルメチルシランジオール、3-メタクリロキシプロピルシラントリオール、3-メタクリロキシプロピルメチルシランジオール、3-アクリロキシプロピルシラントリオール、3-メルカプトプロピルシラントリオール、3-メルカプトプロピルメチルシランジオール、N-フェニル-3-アミノプロピルシラントリオール、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルシランジオール等も用いることができる。
【0082】
さらに、分子末端の加水分解性の官能基が3個以下のケイ素化合物であるビストリメトキシシリルメタン、ビストリメトキシシリルエタン、ビストリメトキシシリルヘキサン、エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等も用いることができる。
【0083】
加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するケイ素化合物(ポリシロキサン化合物を除く)、及び、加水分解性の官能基を有するケイ素化合物の加水分解生成物は、単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0084】
本実施形態のエアロゲルパウダーを作製するにあたり、ケイ素化合物は、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物を含むことができる。すなわち、上記のケイ素化合物を含有するゾルは、(分子内に)加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物、及び、加水分解性の官能基を有するポリシロキサン化合物の加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも一種(以下、場合により「ポリシロキサン化合物群」という)をさらに含有することができる。
【0085】
ポリシロキサン化合物等における官能基は、特に限定されないが、同じ官能基同士で反応するか、あるいは他の官能基と反応する基とすることができる。加水分解性の官能基としては、例えば、アルコキシ基が挙げられる。縮合性の官能基としては、水酸基、シラノール基、カルボキシル基、フェノール性水酸基等が挙げられる。水酸基は、ヒドロキシアルキル基等の水酸基含有基に含まれていてもよい。なお、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物は、加水分解性の官能基及び縮合性の官能基とは異なる前述の反応性基(加水分解性の官能基及び縮合性の官能基に該当しない官能基)を更に有していてもよい。これらの官能基及び反応性基を有するポリシロキサン化合物は単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。これらの官能基及び反応性基のうち、例えば、エアロゲル複合体の柔軟性を向上する基としては、アルコキシ基、シラノール基、ヒドロキシアルキル基等が挙げられ、これらのうち、アルコキシ基及びヒドロキシアルキル基はゾルの相溶性をより向上することができる。また、ポリシロキサン化合物の反応性の向上の観点から、アルコキシ基及びヒドロキシアルキル基の炭素数は1~6とすることができるが、エアロゲルパウダーの柔軟性をより向上する観点から2~4であってもよい。
【0086】
分子内にヒドロキシアルキル基を有するポリシロキサン化合物としては、例えば、下記一般式(A)で表される構造を有するものが挙げられる。下記一般式(A)で表される構造を有するポリシロキサン化合物を使用することにより、前記一般式(1)及び式(1a)で表される構造をエアロゲルパウダーの骨格中に導入することができる。
【化7】
【0087】
式(A)中、R1aはヒドロキシアルキル基を示し、R2aはアルキレン基を示し、R3a及びR4aはそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、nは1~50の整数を示す。ここで、アリール基としては、フェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。また、置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。なお、式(A)中、2個のR1aは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個のR2aは各々同一であっても異なっていてもよい。また、式(A)中、2個以上のR3aは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個以上のR4aは各々同一であっても異なっていてもよい。
【0088】
上記構造のポリシロキサン化合物を含有するゾルの縮合物である湿潤ゲルを用いることにより、柔軟なエアロゲルパウダーをさらに得易くなる。このような観点から、式(A)中、R1aとしては炭素数が1~6のヒドロキシアルキル基等が挙げられ、当該ヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。また、式(A)中、R2aとしては炭素数が1~6のアルキレン基等が挙げられ、当該アルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基等が挙げられる。また、式(A)中、R3a及びR4aとしてはそれぞれ独立に炭素数が1~6のアルキル基、フェニル基等が挙げられ、当該アルキル基としては、メチル基等が挙げられる。また、式(A)中、nは2~30とすることができるが、5~20であってもよい。
【0089】
上記一般式(A)で表される構造を有するポリシロキサン化合物としては、市販品を用いることができ、X-22-160AS、KF-6001、KF-6002、KF-6003等の化合物(いずれも、信越化学工業株式会社製)、XF42-B0970、Fluid OFOH 702-4%等の化合物(いずれも、モメンティブ社製)等が挙げられる。
【0090】
アルコキシ基を有するポリシロキサン化合物としては、例えば、下記一般式(B)で表される構造を有するものが挙げられる。下記一般式(B)で表される構造を有するポリシロキサン化合物を使用することにより、前記一般式(2)で表される橋かけ部を有するラダー型構造をエアロゲルパウダーの骨格中に導入することができる。
【化8】
【0091】
式(B)中、R1bはアルキル基、アルコキシ基又はアリール基を示し、R2b及びR3bはそれぞれ独立にアルコキシ基を示し、R4b及びR5bはそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、mは1~50の整数を示す。ここで、アリール基としては、フェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。また、置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。なお、式(B)中、2個のR1bは各々同一であっても異なっていてもよく、2個のR2bは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個のR3bは各々同一であっても異なっていてもよい。また、式(B)中、mが2以上の整数の場合、2個以上のR4bは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個以上のR5bも各々同一であっても異なっていてもよい。
【0092】
上記構造のポリシロキサン化合物又はその加水分解生成物を含有するゾルの縮合物である湿潤ゲルを用いることにより、柔軟なエアロゲルパウダーをさらに得易くなる。このような観点から、式(B)中、R1bとしては、炭素数が1~6のアルキル基、炭素数が1~6のアルコキシ基等が挙げられ、当該アルキル基又はアルコキシ基としては、メチル基、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。また、式(B)中、R2b及びR3bとしては、それぞれ独立に炭素数が1~6のアルコキシ基等が挙げられ、当該アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。また、式(B)中、R4b及びR5bとしては、それぞれ独立に炭素数が1~6のアルキル基、フェニル基等が挙げられ、当該アルキル基としては、メチル基等が挙げられる。また、式(B)中、mは2~30とすることができるが、5~20であってもよい。
【0093】
上記一般式(B)で表される構造を有するポリシロキサン化合物は、例えば、特開2000-26609号公報、特開2012-233110号公報等にて報告される製造方法を適宜参照して得ることができる。
【0094】
なお、アルコキシ基は加水分解するため、アルコキシ基を有するポリシロキサン化合物はゾル中にて加水分解生成物として存在する可能性があり、アルコキシ基を有するポリシロキサン化合物とその加水分解生成物とは混在していてもよい。また、アルコキシ基を有するポリシロキサン化合物において、分子中のアルコキシ基の全てが加水分解されていてもよいし、部分的に加水分解されていてもよい。
【0095】
これら、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物、及び、加水分解性の官能基を有するポリシロキサン化合物の加水分解生成物は、単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0096】
上記ゾルに含まれるケイ素化合物群の含有量(加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するケイ素化合物の含有量、及び、加水分解性の官能基を有するケイ素化合物の加水分解生成物の含有量の総和)は、ゾルの総量100質量部に対し、5~50質量部とすることができるが、10~30質量部であってもよい。5質量部以上にすることにより良好な反応性を得易くなり、また、50質量部以下にすることにより良好な相溶性を得易くなる。
【0097】
また、上記ゾルが、ポリシロキサン化合物をさらに含有する場合、ケイ素化合物群の含有量及びポリシロキサン化合物群の含有量(加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物の含有量、及び、加水分解性の官能基を有するポリシロキサン化合物の加水分解生成物の含有量の総和)の総和は、ゾルの総量100質量部に対し、5~50質量部とすることができるが、10~30質量部であってもよい。含有量の総和を5質量部以上にすることにより良好な反応性をさらに得易くなり、また、50質量部以下にすることにより良好な相溶性をさらに得易くなる。この際、ケイ素化合物群の含有量とポリシロキサン化合物群の含有量との比は、0.5:1~4:1とすることができるが、1:1~2:1であってもよい。これらの化合物の含有量の比を0.5:1以上とすることにより良好な相溶性をさらに得易くなり、また、4:1以下とすることによりゲルの収縮をさらに抑制し易くなる。
【0098】
上記ゾルに含まれるシリカ粒子の含有量は、ゾルの総量100質量部に対し、1~20質量部とすることができるが、4~15質量部であってもよい。含有量を1~20質量部にすることにより適度な強度をエアロゲルに付与し易くなり、乾燥時の耐収縮性に優れるエアロゲルパウダーが得易くなる。
【0099】
(その他の態様)
本実施形態のエアロゲルパウダーは、下記一般式(4)で表される構造を有することができる。本実施形態のエアロゲル複合体パウダーは、シリカ粒子を含有すると共に、下記一般式(4)で表される構造を有することができる。
【化9】
【0100】
式(4)中、Rはアルキル基を示す。ここで、アルキル基としては炭素数が1~6のアルキル基等が挙げられ、当該アルキル基としてはメチル基等が挙げられる。
【0101】
本実施形態のエアロゲルパウダーは、下記一般式(5)で表される構造を有することができる。本実施形態のエアロゲル複合体パウダーは、シリカ粒子を含有すると共に、下記一般式(5)で表される構造を有することができる。
【化10】
【0102】
式(5)中、R10及びR11はそれぞれ独立にアルキル基を示す。ここで、アルキル基としては、炭素数が1~6のアルキル基等が挙げられ、当該アルキル基としては、メチル基等が挙げられる。
【0103】
本実施形態のエアロゲルパウダーは、下記一般式(6)で表される構造を有することができる。本実施形態のエアロゲル複合体パウダーは、シリカ粒子を含有すると共に、下記一般式(6)で表される構造を有することができる。
【化11】
【0104】
式(6)中、R12はアルキレン基を示す。ここで、アルキレン基としては、炭素数が1~10のアルキレン基等が挙げられ、当該アルキレン基としては、エチレン基、ヘキシレン基等が挙げられる。
【0105】
<エアロゲルパウダーの製造方法>
次に、エアロゲルパウダーの製造方法について説明する。エアロゲルパウダーの製造方法は、特に限定されないが、例えば以下の方法により製造することができる。
【0106】
すなわち、本実施形態のエアロゲルパウダーは、ゾル生成工程と、ゾル生成工程で得られたゾルをゲル化し、その後熟成して湿潤ゲルを得る湿潤ゲル生成工程と、湿潤ゲル生成工程で得られた湿潤ゲルを洗浄及び(必要に応じ)溶媒置換する洗浄及び溶媒置換工程と、洗浄及び溶媒置換した湿潤ゲルを乾燥する乾燥工程と、乾燥により得られたエアロゲルブロックを粉砕するブロック粉砕工程とを主に備える製造方法により製造することができる。
【0107】
また、ゾル生成工程と、前記湿潤ゲル生成工程と、湿潤ゲル生成工程で得られた湿潤ゲルを粉砕する湿潤ゲル粉砕工程と、前記洗浄及び溶媒置換工程と、前記乾燥工程とを主に備える製造方法により製造してもよい。
【0108】
得られたエアロゲルパウダーは、ふるいや分級等によって大きさをさらに揃えることができる。パウダーの大きさが整うと、取り扱い性を高めることができる。なお、「ゾル」とは、ゲル化反応が生じる前の状態であって、本実施形態においては上記ケイ素化合物群と、場合によりポリシロキサン化合物群と、シリカ粒子とが溶媒中に溶解若しくは分散している状態を意味する。また、湿潤ゲルとは、液体媒体を含んでいながらも、流動性を有しない湿潤状態のゲル固形物を意味する。
【0109】
以下、本実施形態のエアロゲルパウダーの製造方法の各工程について説明する。
【0110】
(ゾル生成工程)
ゾル生成工程は、上述のケイ素化合物と、場合によりポリシロキサン化合物と、シリカ粒子又はシリカ粒子を含む溶媒とを混合し、加水分解させてゾルを生成する工程である。本工程においては、加水分解反応を促進させるため、溶媒中にさらに酸触媒を添加してもよい。また、特許第5250900号公報に示されるように、溶媒中に界面活性剤、熱加水分解性化合物等を添加することもできる。さらに、光学的特性、熱的特性を付与する目的で、溶媒中にカーボングラファイト、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、銀化合物、チタン化合物等の成分を添加してもよい。
【0111】
溶媒としては、例えば、水、又は、水及びアルコール類の混合液を用いることができる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール等が挙げられる。これらの中でも、ゲル壁との界面張力を低減させる点で、表面張力が低くかつ沸点の低いアルコールとしては、メタノール、エタノール、2-プロパノール等が挙げられる。これらは単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0112】
例えば溶媒としてアルコール類を用いる場合、アルコール類の量は、ケイ素化合物群及びポリシロキサン化合物群の総量1モルに対し、4~8モルとすることができるが、4~6.5であってもよく、又は4.5~6モルであってもよい。アルコール類の量を4モル以上にすることにより良好な相溶性をさらに得易くなり、また、8モル以下にすることによりゲルの収縮をさらに抑制し易くなる。
【0113】
酸触媒としては、フッ酸、塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、臭素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸等の無機酸類;酸性リン酸アルミニウム、酸性リン酸マグネシウム、酸性リン酸亜鉛等の酸性リン酸塩類;酢酸、ギ酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、アゼライン酸等の有機カルボン酸類等が挙げられる。これらの中でも、得られるエアロゲル複合体の耐水性をより向上する酸触媒としては有機カルボン酸類が挙げられる。当該有機カルボン酸類としては酢酸が挙げられるが、ギ酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸等であってもよい。これらは単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0114】
酸触媒を用いることで、ケイ素化合物及びポリシロキサン化合物の加水分解反応を促進させて、より短時間でゾルを得ることができる。
【0115】
酸触媒の添加量は、ケイ素化合物群及びポリシロキサン化合物群の総量100質量部に対し、0.001~0.1質量部とすることができる。
【0116】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤等を用いることができる。これらは単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0117】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン等の親水部と主にアルキル基からなる疎水部とを含む化合物、ポリオキシプロピレン等の親水部を含む化合物等を使用できる。ポリオキシエチレン等の親水部と主にアルキル基からなる疎水部とを含む化合物としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。ポリオキシプロピレン等の親水部を含む化合物としては、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンのブロック共重合体等が挙げられる。
【0118】
イオン性界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤等が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム等が挙げられ、アニオン性界面活性剤としては、ドデシルスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。また、両イオン性界面活性剤としては、アミノ酸系界面活性剤、ベタイン系界面活性剤、アミンオキシド系界面活性剤等が挙げられる。アミノ酸系界面活性剤としては、例えば、アシルグルタミン酸等が挙げられる。ベタイン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられる。アミンオキシド系界面活性剤としては、例えばラウリルジメチルアミンオキシドが挙げられる。
【0119】
これらの界面活性剤は、後述する湿潤ゲル生成工程において、反応系中の溶媒と、成長していくシロキサン重合体との間の化学的親和性の差異を小さくし、相分離を抑制する作用をすると考えられている。
【0120】
界面活性剤の添加量は、界面活性剤の種類、あるいはケイ素化合物群及びポリシロキサン化合物群の種類並びに量にも左右されるが、例えばケイ素化合物群及びポリシロキサン化合物群の総量100質量部に対し、1~100質量部とすることができる。なお、同添加量は5~60質量部であってもよい。
【0121】
熱加水分解性化合物は、熱加水分解により塩基触媒を発生して、反応溶液を塩基性とし、後述する湿潤ゲル生成工程でのゾルゲル反応を促進すると考えられている。よって、この熱加水分解性化合物としては、加水分解後に反応溶液を塩基性にできる化合物であれば、特に限定されず、尿素;ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等の酸アミド;ヘキサメチレンテトラミン等の環状窒素化合物等を挙げることができる。
これらの中でも、特に尿素は上記促進効果を得られ易い。
【0122】
熱加水分解性化合物の添加量は、後述する湿潤ゲル生成工程でのゾルゲル反応を十分に促進することができる量であれば、特に限定されない。例えば、熱加水分解性化合物として尿素を用いた場合、その添加量は、ケイ素化合物群及びポリシロキサン化合物群の総量100質量部に対して、1~200質量部とすることができる。なお、同添加量は2~150質量部であってもよい。添加量を1質量部以上とすることにより、良好な反応性をさらに得易くなり、また、200質量部以下とすることにより、結晶の析出及びゲル密度の低下をさらに抑制し易くなる。
【0123】
ゾル生成工程の加水分解は、混合液中のケイ素化合物、ポリシロキサン化合物、シリカ粒子、酸触媒、界面活性剤等の種類及び量にも左右されるが、例えば20~60℃の温度環境下で10分~24時間行ってもよく、50~60℃の温度環境下で5分~8時間行ってもよい。これにより、ケイ素化合物及びポリシロキサン化合物中の加水分解性官能基が十分に加水分解され、ケイ素化合物の加水分解生成物及びポリシロキサン化合物の加水分解生成物をより確実に得ることができる。
【0124】
ただし、溶媒中に熱加水分解性化合物を添加する場合は、ゾル生成工程の温度環境を、熱加水分解性化合物の加水分解を抑制してゾルのゲル化を抑制する温度に調節してもよい。この時の温度は、熱加水分解性化合物の加水分解を抑制できる温度であれば、いずれの温度であってもよい。例えば、熱加水分解性化合物として尿素を用いた場合は、ゾル生成工程の温度環境は0~40℃とすることができるが、10~30℃であってもよい。
【0125】
(湿潤ゲル生成工程)
湿潤ゲル生成工程は、ゾル生成工程で得られたゾルをゲル化し、その後熟成して湿潤ゲルを得る工程である。本工程では、ゲル化を促進させるため塩基触媒を用いることができる。
【0126】
塩基触媒としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ炭酸水素塩;水酸化アンモニウム、フッ化アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム等のアンモニウム化合物;メタ燐酸ナトリウム、ピロ燐酸ナトリウム、ポリ燐酸ナトリウム等の塩基性燐酸ナトリウム塩;アリルアミン、ジアリルアミン、トリアリルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、3-エトキシプロピルアミン、ジイソブチルアミン、3-(ジエチルアミノ)プロピルアミン、ジ-2-エチルヘキシルアミン、3-(ジブチルアミノ)プロピルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、t-ブチルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、3-(メチルアミノ)プロピルアミン、3-(ジメチルアミノ)プロピルアミン、3-メトキシアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の脂肪族アミン類;モルホリン、N-メチルモルホリン、2-メチルモルホリン、ピペラジン及びその誘導体、ピペリジン及びその誘導体、イミダゾール及びその誘導体等の含窒素複素環状化合物類等が挙げられる。これらの中でも、水酸化アンモニウム(アンモニア水)は、揮発性が高く、乾燥後のエアロゲルパウダー中に残存し難いため耐水性を損い難いという点、さらには経済性の点で優れている。上記の塩基触媒は単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0127】
塩基触媒を用いることで、ゾル中のケイ素化合物、ポリシロキサン化合物、及びシリカ粒子の、脱水縮合反応又は脱アルコール縮合反応を促進することができ、ゾルのゲル化をより短時間で行うことができる。また、これにより、強度(剛性)のより高い湿潤ゲルを得ることができる。
【0128】
塩基触媒の添加量は、ケイ素化合物群及びポリシロキサン化合物群の総量100質量部に対し、0.5~5質量部とすることができるが、1~4質量部であってもよい。0.5質量部以上とすることにより、ゲル化をより短時間で行うことができ、5質量部以下とすることにより、耐水性の低下をより抑制することができる。
【0129】
湿潤ゲル生成工程におけるゾルのゲル化は、溶媒及び塩基触媒が揮発しないように密閉容器内で行ってもよい。ゲル化温度は、30~90℃とすることができるが、40~80℃であってもよい。ゲル化温度を30℃以上とすることにより、ゲル化をより短時間に行うことができ、強度(剛性)のより高い湿潤ゲルを得ることができる。また、ゲル化温度を90℃以下にすることにより、溶媒(特にアルコール類)の揮発を抑制し易くなるため、体積収縮を抑えながらゲル化することができる。
【0130】
湿潤ゲル生成工程における熟成は、溶媒及び塩基触媒が揮発しないように密閉容器内で行ってもよい。熟成により、湿潤ゲルを構成する成分の結合が強くなり、その結果、乾燥時の収縮を抑制するのに十分な強度(剛性)の高い湿潤ゲルを得ることができる。熟成温度は、30~90℃とすることができるが、40~80℃であってもよい。熟成温度を30℃以上とすることにより、強度(剛性)のより高い湿潤ゲルを得ることができ、熟成温度を90℃以下にすることにより、溶媒(特にアルコール類)の揮発を抑制し易くなるため、体積収縮を抑えながらゲル化することができる。
【0131】
なお、ゾルのゲル化終了時点を判別することは困難な場合が多いため、ゾルのゲル化とその後の熟成とは、連続して一連の操作で行ってもよい。
【0132】
ゲル化時間と熟成時間は、ゲル化温度及び熟成温度により異なるが、本実施形態においてはゾル中にシリカ粒子が含まれていることから、従来のエアロゲルの製造方法と比較して特にゲル化時間を短縮することができる。この理由は、ゾル中のケイ素化合物、ポリシロキサン化合物等が有するシラノール基又は反応性基が、シリカ粒子のシラノール基と水素結合又は化学結合を形成するためであると推察する。なお、ゲル化時間は10~120分間とすることができるが、20~90分間であってもよい。ゲル化時間を10分間以上とすることにより均質な湿潤ゲルを得易くなり、120分間以下とすることにより後述する洗浄及び溶媒置換工程から乾燥工程の簡略化が可能となる。なお、ゲル化及び熟成の工程全体として、ゲル化時間と熟成時間との合計時間は、4~480時間とすることができるが、6~120時間であってもよい。ゲル化時間と熟成時間の合計を4時間以上とすることにより、強度(剛性)のより高い湿潤ゲルを得ることができ、480時間以下にすることにより熟成の効果をより維持し易くなる。
【0133】
得られるエアロゲルパウダーの密度を下げたり、平均細孔径を大きくするために、ゲル化温度及び熟成温度を上記範囲内で高めたり、ゲル化時間と熟成時間の合計時間を上記範囲内で長くしてもよい。また、得られるエアロゲルパウダーの密度を上げたり、平均細孔径を小さくするために、ゲル化温度及び熟成温度を上記範囲内で低くしたり、ゲル化時間と熟成時間の合計時間を上記範囲内で短くしてもよい。
【0134】
(湿潤ゲル粉砕工程)
湿潤ゲル粉砕工程を行う場合、湿潤ゲル生成工程で得られた湿潤ゲルを粉砕する。粉砕は、例えば、ヘンシャル型ミキサーに湿潤ゲルを入れるか、又はミキサー内で湿潤ゲル生成工程を行い、ミキサーを適度な条件(回転数と時間)で運転することにより行うことができる。また、より簡易的には密閉可能な容器に湿潤ゲルを入れるか、又は密閉可能な容器内で湿潤ゲル生成工程を行い、シェイカー等の振盪装置を用いて、適度な時間振盪することにより行うことができる。なお、必要に応じて、ジェットミル、ローラーミル、ビーズミル等を用いて、湿潤ゲルの粒子径を調整することもできる。
【0135】
(洗浄及び溶媒置換工程)
洗浄及び溶媒置換工程は、前記湿潤ゲル生成工程又は前記湿潤ゲル粉砕工程により得られた湿潤ゲルを洗浄する工程(洗浄工程)と、湿潤ゲル中の洗浄液を乾燥条件(後述の乾燥工程)に適した溶媒に置換する工程(溶媒置換工程)を有する工程である。洗浄及び溶媒置換工程は、湿潤ゲルを洗浄する工程を行わず、溶媒置換工程のみを行う形態でも実施可能であるが、湿潤ゲル中の未反応物、副生成物等の不純物を低減し、より純度の高いエアロゲルパウダーの製造を可能にする観点からは、湿潤ゲルを洗浄してもよい。なお、本実施形態においては、ゲル中にシリカ粒子が含まれていることから、後述するように洗浄工程後の溶媒置換工程は必ずしも必須ではない。
【0136】
洗浄工程では、前記湿潤ゲル生成工程又は前記湿潤ゲル粉砕工程により得られた湿潤ゲルを洗浄する。当該洗浄は、例えば水又は有機溶媒を用いて繰り返し行うことができる。
この際、加温することにより洗浄効率を向上させることができる。
【0137】
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、1,2-ジメトキシエタン、アセトニトリル、ヘキサン、トルエン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、N、N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、ギ酸等の各種の有機溶媒を使用することができる。上記の有機溶媒は単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0138】
後述する溶媒置換工程では、乾燥によるゲルの収縮を抑制するため、低表面張力の溶媒を用いることができる。しかし、低表面張力の溶媒は、一般的に水との相互溶解度が極めて低い。そのため、溶媒置換工程において低表面張力の溶媒を用いる場合、洗浄工程で用いる有機溶媒としては、水及び低表面張力の溶媒の双方に対して高い相互溶解性を有する親水性有機溶媒が挙げられる。なお、洗浄工程において用いられる親水性有機溶媒は、溶媒置換工程のための予備置換の役割を果たすことができる。上記の有機溶媒の中で、親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。なお、メタノール、エタノール、メチルエチルケトン等は経済性の点で優れている。
【0139】
洗浄工程に使用される水又は有機溶媒の量としては、湿潤ゲル中の溶媒を十分に置換し、洗浄できる量とすることができる。当該量は、湿潤ゲルの容量に対して3~10倍の量とすることができる。洗浄は、洗浄後の湿潤ゲル中の含水率が、シリカ質量に対し、10質量%以下となるまで繰り返すことができる。
【0140】
洗浄工程における温度環境は、洗浄に用いる溶媒の沸点以下の温度とすることができ、例えば、メタノールを用いる場合は、30~60℃程度の加温とすることができる。
【0141】
溶媒置換工程では、後述する乾燥工程における収縮を抑制するため、洗浄した湿潤ゲルの溶媒を所定の置換用溶媒に置き換える。この際、加温することにより置換効率を向上させることができる。置換用溶媒としては、具体的には、乾燥工程において、乾燥に用いられる溶媒の臨界点未満の温度にて、大気圧下で乾燥する場合は、後述の低表面張力の溶媒が挙げられる。一方、超臨界乾燥をする場合は、置換用溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、2-プロパノール、ジクロロジフルオロメタン、二酸化炭素等、又はこれらを2種以上混合した溶媒が挙げられる。
【0142】
低表面張力の溶媒としては、20℃における表面張力が30mN/m以下の溶媒が挙げられる。なお、当該表面張力は25mN/m以下であっても、又は20mN/m以下であってもよい。低表面張力の溶媒としては、例えば、ペンタン(15.5)、ヘキサン(18.4)、ヘプタン(20.2)、オクタン(21.7)、2-メチルペンタン(17.4)、3-メチルペンタン(18.1)、2-メチルヘキサン(19.3)、シクロペンタン(22.6)、シクロヘキサン(25.2)、1-ペンテン(16.0)等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン(28.9)、トルエン(28.5)、m-キシレン(28.7)、p-キシレン(28.3)等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン(27.9)、クロロホルム(27.2)、四塩化炭素(26.9)、1-クロロプロパン(21.8)、2-クロロプロパン(18.1)等のハロゲン化炭化水素類;エチルエーテル(17.1)、プロピルエーテル(20.5)、イソプロピルエーテル(17.7)、ブチルエチルエーテル(20.8)、1,2-ジメトキシエタン(24.6)等のエーテル類;アセトン(23.3)、メチルエチルケトン(24.6)、メチルプロピルケトン(25.1)、ジエチルケトン(25.3)等のケトン類;酢酸メチル(24.8)、酢酸エチル(23.8)、酢酸プロピル(24.3)、酢酸イソプロピル(21.2)、酢酸イソブチル(23.7)、エチルブチレート(24.6)等のエステル類等が挙げられる(かっこ内は20℃での表面張力を示し、単位は[mN/m]である)。これらの中で、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン等)は低表面張力でありかつ作業環境性に優れている。また、これらの中でも、アセトン、メチルエチルケトン、1,2-ジメトキシエタン等の親水性有機溶媒を用いることで、上記洗浄工程の有機溶媒と兼用することができる。なお、これらの中でも、さらに後述する乾燥工程における乾燥が容易な点で、常圧での沸点が100℃以下の溶媒を用いてもよい。上記の溶媒は単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0143】
溶媒置換工程に使用される溶媒の量としては、洗浄後の湿潤ゲル中の溶媒を十分に置換できる量とすることができる。当該量は、湿潤ゲルの容量に対して3~10倍の量とすることができる。
【0144】
溶媒置換工程における温度環境は、置換に用いる溶媒の沸点以下の温度とすることができ、例えば、ヘプタンを用いる場合は、30~60℃程度の加温とすることができる。
【0145】
なお、本実施形態においては、ゲル中にシリカ粒子が含まれていることから、上述のとおり溶媒置換工程は必ずしも必須ではない。推察されるメカニズムとしては次のとおりである。すなわち、従来であれば乾燥工程における収縮を抑制するため、湿潤ゲルの溶媒を所定の置換用溶媒(低表面張力の溶媒)に置き換えていたが、本実施形態においてはシリカ粒子が三次元網目状の骨格の支持体として機能することにより、当該骨格が支持され、乾燥工程におけるゲルの収縮が抑制される。そのため、洗浄に用いた溶媒を置換せずに、ゲルをそのまま乾燥工程に付すことができると考えられる。このように、本実施形態においては、洗浄及び溶媒置換工程から乾燥工程の簡略化が可能である。ただし、本実施形態は溶媒置換工程を行うことを何ら排除するものではない。
【0146】
(乾燥工程)
乾燥工程では、上記のとおり洗浄及び(必要に応じ)溶媒置換した湿潤ゲルを乾燥させる。これにより、エアロゲルブロック又はパウダーを得ることができる。すなわち、上記ゾルから生成された湿潤ゲルを乾燥してなるエアロゲルを得ることができる。
【0147】
乾燥の手法としては特に制限されず、公知の常圧乾燥、超臨界乾燥又は凍結乾燥を用いることができる。これらの中で、低密度のエアロゲルブロック又はパウダーを製造し易いという観点からは、常圧乾燥又は超臨界乾燥を用いることができる。また、低コストで生産可能という観点からは、常圧乾燥を用いることができる。なお、本実施形態において、常圧とは0.1MPa(大気圧)を意味する。
【0148】
エアロゲルブロック又はパウダーは、洗浄及び(必要に応じ)溶媒置換した湿潤ゲルを、乾燥に用いられる溶媒の臨界点未満の温度にて、大気圧下で乾燥することにより得ることができる。乾燥温度は、置換された溶媒(溶媒置換を行わない場合は洗浄に用いられた溶媒)の種類により異なるが、特に高温での乾燥が溶媒の蒸発速度を速め、ゲルに大きな亀裂を生じさせる場合があるという点に鑑み、20~150℃とすることができる。なお、当該乾燥温度は60~120℃であってもよい。また、乾燥時間は、湿潤ゲルの容量及び乾燥温度により異なるが、4~120時間とすることができる。なお、本実施形態において、生産性を阻害しない範囲内において臨界点未満の圧力をかけて乾燥を早めることも、常圧乾燥に包含されるものとする。
【0149】
エアロゲルブロック又はパウダーは、また、洗浄及び(必要に応じ)溶媒置換した湿潤ゲルを、超臨界乾燥することによっても得ることができる。超臨界乾燥は、公知の手法にて行うことができる。超臨界乾燥する方法としては、例えば、湿潤ゲルに含まれる溶媒の臨界点以上の温度及び圧力にて溶媒を除去する方法が挙げられる。あるいは、超臨界乾燥する方法としては、湿潤ゲルを、液化二酸化炭素中に、例えば、20~25℃、5~20MPa程度の条件で浸漬することで、湿潤ゲルに含まれる溶媒の全部又は一部を当該溶媒より臨界点の低い二酸化炭素に置換した後、二酸化炭素を単独で、又は二酸化炭素及び溶媒の混合物を除去する方法が挙げられる。
【0150】
このような常圧乾燥又は超臨界乾燥により得られたエアロゲルブロック又はパウダーは、さらに常圧下にて、105~200℃で0.5~2時間程度追加乾燥してもよい。これにより、密度が低く、小さな細孔を有するエアロゲル複合体をさらに得易くなる。
追加乾燥は、常圧下にて、150~200℃で行ってもよい。
【0151】
(ブロック粉砕工程)
ブロック粉砕工程を行う場合、乾燥により得られたエアロゲルブロックを粉砕することによりエアロゲルパウダーを得る。例えば、ジェットミル、ローラーミル、ビーズミル、ハンマーミル等にエアロゲル複合体を入れ、適度な回転数と時間で運転することにより行うことができる。
【0152】
本実施形態におけるエアロゲルパウダーは、原料として用いるポリシロキサンやアルキルケイ素アルコキシド由来の疎水性の炭素-ケイ素結合を含むものである。そのため、このようなエアロゲルパウダーは、疎水化処理された(疎水性の)エアロゲルパウダーと言うことができる。
【実施例
【0153】
次に、下記の実施例により本開示をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は本開示を制限するものではない。
【0154】
(エアロゲルパウダー作製例1)
ケイ素化合物としてメチルトリメトキシシランLS-530(信越化学工業株式会社製、製品名:以下『MTMS』と略記)を60.0質量部及びジメチルジメトキシシランLS-520(信越化学工業株式会社製、製品名:以下『DMDMS』と略記)を40.0質量部、並びにシリカ粒子含有原料として球状コロイダルシリカPL-2L(扶桑化学工業株式会社製、製品名、平均一次粒径20nm、固形分20質量%)を100.0質量部、水を40.0質量部及びメタノールを80.0質量部混合し、これに酸触媒として酢酸を0.10質量部加え、25℃で2時間反応させてゾル1を得た。得られたゾル1に、塩基触媒として5質量%濃度のアンモニア水を40.0質量部加え、60℃でゲル化した後、80℃で24時間熟成して湿潤ゲル1を得た。
【0155】
その後、得られた湿潤ゲル1をプラスチック製ボトルに移し、密閉後、エクストリームミルMX-1000XTS(アズワン株式会社製、製品名)を用いて、27,000rpmで10分間粉砕し、粒子状の湿潤ゲル1を得た。得られた粒子状の湿潤ゲル1をメタノール2500.0質量部に浸漬し、25℃で24時間かけて洗浄を行った。この洗浄操作を、新しいメタノールに交換しながら合計3回行った。次に、洗浄した粒子状の湿潤ゲルを、低表面張力溶媒であるヘプタン2500.0質量部に浸漬し、25℃で24時間かけて溶媒置換を行った。この溶媒置換操作を、新しいヘプタンに交換しながら合計3回行った。洗浄及び溶媒置換された粒子状の湿潤ゲルを、常圧下にて、40℃で96時間乾燥し、その後さらに150℃で2時間乾燥した。最後に、ふるい(東京スクリーン株式会社製、目開き45μm、線径32μm)にかけ、上記一般式(4)及び(5)で表される構造を有するエアロゲルパウダーP-1を得た。
【0156】
得られたエアロゲルパウダーP-1を、スライドガラス上に貼り付けた両面テープに転写してエアロゲルパウダーの粉体層を形成し、接触角計DMo-701(協和界面科学株式会社製、製品名)を用いて、水と粉体層との接触角を測定した。接触角の算出にはθ/2法を用い、滴下する水の量は3μLとした。エアロゲルパウダーP-1からなる粉体層と水との接触角は146度であった。
【0157】
(エアロゲルパウダー作製例2)
ケイ素化合物としてMTMSを60.0質量部及びビストリメトキシシリルへキサン「KBM-3066」(信越化学工業株式会社製、製品名)を40.0質量部、並びにシリカ粒子含有原料として球状コロイダルシリカST-OZL-35(日産化学工業製、製品名、平均一次粒径100nm、固形分35質量%)を57.0質量部、水を83.0質量部及びメタノールを80.0質量部混合し、これに酸触媒として酢酸を0.10質量部、カチオン系界面活性剤として臭化セチルトリメチルアンモニウム(和光純薬工業株式会社製:以下『CTAB』と略記)を20.0質量部加え、25℃で2時間反応させてゾル2を得た。得られたゾル2に、塩基触媒として5%濃度のアンモニア水を40.0質量部加え、60℃でゲル化した後、80℃で24時間熟成して湿潤ゲル2を得た。その後、得られた湿潤ゲル2を用いて、実施例1と同様にして上記一般式(4)及び(6)で表される構造を有するエアロゲルパウダーP-2を得た。作製例1と同様な方法で、エアロゲルパウダーP-2からなる粉体層と水との接触角を測定した結果、144度であった。
【0158】
(エアロゲルパウダー作製例3)
シリカ粒子含有原料としてPL-2Lを100.0質量部、水を100.0質量部、酸触媒として酢酸を0.10質量部、カチオン系界面活性剤としてCTABを20.0質量部及び熱加水分解性化合物として尿素を120.0質量部混合し、これにケイ素化合物としてMTMSを60.0質量部及びDMDMSを20.0質量部、並びにポリシロキサン化合物として上記一般式(B)で表される構造を有する両末端2官能アルコキシ変性ポリシロキサン化合物(以下、「ポリシロキサン化合物A」という)を20.0質量部加え、25℃で2時間反応させてゾル3を得た。得られたゾル3を60℃でゲル化した後、80℃で24時間熟成して湿潤ゲル3を得た。その後、得られた湿潤ゲル3を用いて、実施例1と同様にして上記一般式(3)、(4)及び(5)で表される構造を有するエアロゲルパウダーP-3を得た。作製例1と同様な方法で、エアロゲルパウダーP-3からなる粉体層と水との接触角を測定した結果、149度であった。
【0159】
なお、上記「ポリシロキサン化合物A」は次のようにして合成した。まず、撹拌機、温度計及びジムロート冷却管を備えた1リットルの3つ口フラスコにて、両末端にシラノール基を有するジメチルポリシロキサンXC96-723(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製、製品名)を100.0質量部、メチルトリメトキシシランを181.3質量部及びt-ブチルアミンを0.50質量部混合し、30℃で5時間反応させた。その後、この反応液を、1.3kPaの減圧下、140℃で2時間加熱し、揮発分を除去することで、両末端2官能アルコキシ変性ポリシロキサン化合物(ポリシロキサン化合物A)を得た。
【0160】
参考例1)
エアロゲルパウダーP-1を0.5質量部、アルキレンオキシド構造を有する界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート レオドールTW-S120V(花王株式会社、製品名)を0.5質量部、水を41.6質量部、2-プロパノールを7.4質量部混合後、ホモジナイザーHG-200(HSIANGTAI社製、製品名)を用いて、5,000rpmで15分間攪拌し、エアロゲルパウダーP-1の分散液を得た。
【0161】
参考例2)
エアロゲルパウダーP-1を0.5質量部、アルキレンオキシド構造を有する界面活性剤としてポリオキシエチレンアセチレンアルコール オルフィンE1010(日信化学工業株式会社製、製品名)を0.5質量部及び水を49質量部混合後、参考例1と同様な方法で、エアロゲルパウダーP-1の分散液を得た。
【0162】
(実施例3)
エアロゲルパウダーP-1を0.5質量部、アルキレンオキシド構造及びシロキサン構造を有する界面活性剤としてポリエーテル変性シロキサン シルフェイスSAG002(日信化学工業株式会社製、製品名)を0.5質量部及び水を49質量部混合後、参考例1と同様な方法で、エアロゲルパウダーP-1の分散液を得た。
【0163】
(実施例4)
エアロゲルパウダーP-1を0.5質量部、アルキレンオキシド構造及びシロキサン構造を有する界面活性剤としてポリエーテル変性シロキサン Silwet L-7608(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製、製品名)を0.5質量部及び水を49質量部混合後、参考例1と同様な方法で、エアロゲルパウダーP-1の分散液を得た。
【0164】
(実施例5)
エアロゲルパウダーP-1を2.5質量部、アルキレンオキシド構造及びシロキサン構造を有する界面活性剤としてポリエーテル変性シロキサン Silwet L-7608(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製、製品名)を0.5質量部及び水を47質量部混合後、参考例1と同様な方法で、エアロゲルパウダーP-1の分散液を得た。
【0165】
(実施例6)
エアロゲルパウダーP-2を2.5質量部、アルキレンオキシド構造及びシロキサン構造を有する界面活性剤としてポリエーテル変性シロキサン Silwet L-7608(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製、製品名)を0.5質量部及び水を47質量部混合後、参考例1と同様な方法で、エアロゲルパウダーP-2の分散液を得た。
【0166】
(実施例7)
エアロゲルパウダーP-3を2.5質量部、アルキレンオキシド構造及びシロキサン構造を有する界面活性剤としてポリエーテル変性シロキサン Silwet L-7608(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製、製品名)を0.5質量部及び水を47質量部混合後、参考例1と同様な方法で、エアロゲルパウダーP-3の分散液を得た。
【0167】
(比較例1)
エアロゲルパウダーP-1を0.5質量部、水を49.5質量部混合後、ホモジナイザーHG-200(HSIANGTAI社製、製品名)を用いて、参考例1と同様な方法で、エアロゲルパウダーP-1の分散液を得た。
【0168】
(比較例2)
エアロゲルパウダーP-1を0.5質量部、水を24.8質量部及び2-プロパノールを24.8質量部混合後、参考例1と同様な方法で、エアロゲルパウダーP-1の分散液を得た。
【0169】
以下で説明する手順で、上記で得られたエアロゲルパウダーの水系分散液の各種評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0170】
[分散性評価]
作製直後の分散液の外観を目視で確認した。エアロゲルパウダーが凝集せずに均一に分散されているサンプルを「○」、エアロゲルパウダーが凝集し均一に分散されていないサンプルを「×」と評価した。
【0171】
[発泡性評価]
作製直後の分散液表面に発生した泡の高さを側面から定規で測定した。
【0172】
[分散性安定性評価]
作製から1時間後の分散液の外観を目視で確認した。エアロゲルパウダーが均一に分散されているサンプルを「○」、分散したエアロゲルパウダーの一部が沈降したサンプルを「△」、エアロゲルパウダーの凝集又は完全沈降により、エアロゲルパウダーと分散媒とが完全に分離したサンプルを「×」と評価した。
【0173】
[消泡性評価]
作製から1時間後の分散液表面に残存する泡の高さを側面から定規で測定した。
【0174】
【表1】
【0175】
表1から、実施例~7のエアロゲルパウダー分散液は、分散性及び分散安定性に優れていた。一部の例においてエアロゲルパウダーが沈降するものの、凝集や完全沈降による分散媒との完全分離が起こることなく分散されていた。一方、比較例1及び2は、分散性及び/又は分散安定性に劣り、均一に分散できなかった。
【符号の説明】
【0176】
1…エアロゲル粒子、2…シリカ粒子、3…細孔、10…エアロゲル複合体、L…外接長方形。
図1
図2