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特許7024194不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸製造用複合金属酸化物触媒の製造方法並びにそれを用いた不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸製造用複合金属酸化物触媒の製造方法並びにそれを用いた不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/887 20060101AFI20220216BHJP
   C07C 47/22 20060101ALI20220216BHJP
   C07C 45/35 20060101ALI20220216BHJP
   C07C 57/055 20060101ALI20220216BHJP
   C07C 51/25 20060101ALI20220216BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220216BHJP
【FI】
B01J23/887 Z
C07C47/22 A
C07C45/35
C07C57/055 B
C07C51/25
C07B61/00 300
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017054176
(22)【出願日】2017-03-21
(65)【公開番号】P2018153773
(43)【公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】西尾 拓真
(72)【発明者】
【氏名】藤森 祐治
(72)【発明者】
【氏名】近藤 正英
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-130261(JP,A)
【文献】特開平07-010801(JP,A)
【文献】特表2010-510082(JP,A)
【文献】米国特許第06184430(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C07C 1/00-409/44
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン、イソブチレン、tert-ブチルアルコール及びメチル-tert-ブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種の原料有機化合物を分子状酸素により気相接触酸化して、原料有機化合物に対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する際に用いられる、少なくともモリブデン、ビスマス及び鉄を必須の触媒活性成分とする下記式(1)で表される複合金属酸化物触媒の製造方法であって、モリブデン原料として、加熱した際、30~190℃の範囲で測定される吸熱のピーク温度が133.3℃以上137.8℃以下であるモリブデン酸アンモニウム四水和物を選択し、
モリブデン原料を含有する溶液又はスラリー(A)を調製し、鉄原料を含有する溶液又はスラリー(B)を調製し、前記(A)液と前記(B)液とを混合して、前記モリブデン原料及び前記鉄原料を含有する溶液又はスラリー(C)を調製して原料液とする原料液調製工程と、
前記原料液を80~120℃の温度範囲に保持して熟成し、熟成させた原料液を得る工程と、
前記熟成させた原料液を乾燥して乾燥物を得る工程と、
前記乾燥物を焼成して1次焼成物を得る工程と、
前記1次焼成物を成形して成形物を得る工程と、
前記成形物を焼成する工程を有する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸製造用複合金属酸化物触媒の製造方法。
Mo12BiFe (1)
(式中、Mo、Bi、Fe及びOはそれぞれモリブデン、ビスマス、鉄及び酸素を示す。Mはコバルト及びニッケルから選ばれる少なくとも1種の元素を示す。Xはクロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル及び亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Yはリン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモン及びチタンから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、Zはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムから選ばれる少なくとも1種の元素を示す。a、b、c、d、e、f及びgはMo12原子に対する各元素の原子比を示し、a=0.01~3.0、b=0.01~5.0、c=1.0~12.0、d=0~8.0、e=0~5.0及びf=0.001~2.0であり、gは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子比率である。)
【請求項2】
プロピレン、イソブチレン、tert-ブチルアルコール及びメチル-tert-ブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種の原料有機化合物を分子状酸素により気相接触酸化して、原料有機化合物に対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する方法であって、請求項に記載の方法で複合金属酸化物触媒を製造し、得られた複合酸化物触媒を前記気相接触酸化の触媒として用いる不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン、イソブチレン、tert-ブチルアルコール及びメチル-tert-ブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種の原料有機化合物を分子状酸素により気相接触酸化して、原料有機化合物に対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する際に用いられる複合金属酸化物触媒及び複合金属酸化物触媒を用いた不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン、イソブチレン、tert-ブチルアルコール及びメチル-tert-ブチルエーテル等の原料有機化合物を気相接触酸化して原料有機化合物に対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する際に用いられる触媒としてモリブデン、ビスマス及び鉄を含む複合金属酸化物触媒が知られている。
このような複合金属酸化物触媒についてはいくつもの技術が開示されており、例えば、特許文献1には、ビスマスの供給源化合物として酸化ビスマス及び/または次炭酸ビスマスを用いるモリブデン-ビスマス系複合酸化物触媒が報告されている。また、特許文献2には、ビスマスの供給源化合物として所要ナトリウムの少なくとも一部を固溶した次炭酸ビスマスを用いることを特徴とする複合金属酸化物触媒の製造法が報告されている。また、特許文献3には、モリブデン及びビスマスを必須の活性成分とし、モリブデン原料として使用するモリブデン酸アンモニウムと水の混合物の濁度が30NTU以下であることを特徴とする不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭62-234548号公報
【文献】特開昭62-234549号公報
【文献】特開2015-147188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1または特許文献3に記載されている複合金属酸化物触媒は、必ずしも触媒活性、目的生成物の選択性など工業触媒としては十分でなく、更なる改良が望まれている。また、特許文献2に記載されている複合金属酸化物触媒は、特殊な化合物を使用する必要があるため工業使用を考えると汎用品であることが望まれる。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、プロピレン、イソブチレン、tert-ブチルアルコール及びメチル-tert-ブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種の原料有機化合物を分子状酸素により気相接触酸化して、原料有機化合物に対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を得る際、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の選択性、収率の優れた複合金属酸化物触媒を汎用的な原料を使用して提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、プロピレン、イソブチレン、tert-ブチルアルコール及びメチル-tert-ブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種の原料有機化合物を分子状酸素により気相接触酸化して、原料有機化合物に対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する複合金属酸化物触媒において、モリブデン原料として使用するモリブデン酸アンモニウム四水和物が、加熱した際、特定の範囲で吸熱のピーク温度が観測されるモリブデン酸アンモニウム四水和物を使用することで不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の選択性、収率の優れた複合金属酸化物触媒を提供できることを見出した。
【0006】
即ち、本発明の要旨は[1]~[3]に存する。
[1]プロピレン、イソブチレン、tert-ブチルアルコール及びメチル-tert-ブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種の原料有機化合物を分子状酸素により気相接触酸化して、原料有機化合物に対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する際に用いられる、少なくともモリブデン、ビスマス及び鉄を必須の触媒活性成分とする下記式(1)で表される複合金属酸化物触媒であって、モリブデン原料として、加熱した際、30~190℃の範囲で測定される吸熱のピーク温度が133.3℃以上137.8℃以下であるモリブデン酸アンモニウム四水和物を使用する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸製造用触媒。
Mo12BiFe (1)
(式中、Mo、Bi、Fe及びOはそれぞれモリブデン、ビスマス、鉄及び酸素を示す。Mはコバルト及びニッケルから選ばれる少なくとも1種の元素を示す。Xはクロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル及び亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Yはリン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモン及びチタンから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、Zはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムから選ばれる少なくとも1種の元素を示す。a、b、c、d、e、f及びgはMo12原子に対する各元素の原子比を示し、a=0.01~3.0、b=0.01~5.0、c=1.0~12.0、d=0~8.0、e=0~5.0及びf=0.001~2.0であり、gは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子比率である。)
【0007】
[2]プロピレン、イソブチレン、tert-ブチルアルコール及びメチル-tert-ブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種の原料有機化合物を分子状酸素により気相接触酸化して、原料有機化合物に対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する際に用いられる、少なくともモリブデン、ビスマス及び鉄を必須の触媒活性成分とする下記式(2)で表される複合金属酸化物触媒であって、モリブデン原料として、含まれる窒素の量が6.780~6.855重量パーセントであるモリブデン酸アンモニウム四水和物を使用する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸製造用触媒。
Mo12BiFe (2)
(式中、Mo、Bi、Fe及びOはそれぞれモリブデン、ビスマス、鉄及び酸素を示す。Mはコバルト及びニッケルから選ばれる少なくとも1種の元素を示す。Xはクロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル及び亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Yはリン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモン及びチタンから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、Zはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムから選ばれる少なくとも1種の元素を示す。a、b、c、d、e、f及びgはMo12原子に対する各元素の原子比を示し、a=0.01~3.0、b=0.01~5.0、c=1.0~12.0、d=0~8.0、e=0~5.0及びf=0.001~2.0であり、gは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子比率である。)
【0008】
[3]プロピレン、イソブチレン、tert-ブチルアルコール及びメチル-tert-ブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種の原料有機化合物を分子状酸素により気相接触酸化して、原料有機化合物に対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する方法であって、前記気相接触酸化の触媒として、[1]又は[2]に記載の複合金属酸化物触媒を用いる不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、プロピレン、イソブチレン、tert-ブチルアルコール及びメチル-tert-ブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種の原料有機化合物を分子状酸素により気相接触酸化して、原料有機化合物に対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を得る際、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の選択性、収率の優れた複合金属酸化物触媒を汎用的な原料を使用して提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、この発明について詳細に説明する。
[複合金属酸化物触媒]
本発明の複合金属酸化物触媒は、プロピレン、イソブチレン、tert-ブチルアルコール及びメチル-tert-ブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種の原料有機化合物を分子状酸素により気相接触酸化して、原料有機化合物に対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を得る際に使用されるものである。
また、この複合金属酸化物触媒は下記式(1)で表される組成を有する。
Mo12BiFe (1)
(式中、Mo、Bi、Fe及びOはそれぞれモリブデン、ビスマス、鉄及び酸素を示す。Mはコバルト及びニッケルから選ばれる少なくとも1種の元素を示す。Xはクロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル及び亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Yはリン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモン及びチタンから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、Zはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムから選ばれる少なくとも1種の元素を示す。a、b、c、d、e、f及びgはMo12原子に対する各元素の原子比を示し、a=0.01~3.0、b=0.01~5.0、c=1.0~12.0、d=0~8.0、e=0~5.0及びf=0.001~2.0であり、gは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子比率である。)
さらに、本発明の触媒は、モリブデン原料として使用するモリブデン酸アンモニウム四水和物が、加熱した際、30~190℃の範囲で測定される吸熱のピーク温度が133.3℃以上137.8℃以下であるものを用いて得られた触媒である。ここで、吸熱のピーク温度とは熱重量・示差熱分析計(TG-DTA)や示差走査熱量計(DSC)等を用いて、空気雰囲気下、30~190℃の範囲で測定される最も吸熱が観測された温度のことである。吸熱のピーク温度の測定方法や測定機器は特に限定されないが、本発明に記載する吸熱のピーク温度は、Rigaku製示差熱天秤Thermo plus EVO TG8120を用いて、モリブデン酸アンモニウム四水和物10mgを空気雰囲気下、30~190℃まで毎分10℃で昇温して測定した温度である。
【0011】
モリブデン酸アンモニウム四水和物の吸熱のピーク温度は、133.3℃以上137.8℃以下であるものを用いるが、好ましくは133.5℃以上137.2℃以下、より好ましくは133.8℃以上137.0℃以下であるものを用いる。137.8℃を超えると、また133.3℃を下回ると原料有機化合物に対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸選択率が低下する傾向にある。
モリブデン酸アンモニウム四水和物の吸熱のピーク温度を調整する方法としては、モリブデン酸アンモニウム四水和物の保存状態を制御する方法がある。すなわち、モリブデン酸アンモニウム四水和物を高湿条件で保存することで、吸熱のピーク温度が高くなり、モリブデン酸アンモニウム四水和物を低湿条件で保存することで吸熱のピーク温度が低くなる。
【0012】
または、この複合金属酸化物触媒は下記式(2)で表される組成を有する。
Mo12BiFe (2)
(式中、Mo、Bi、Fe及びOはそれぞれモリブデン、ビスマス、鉄及び酸素を示す。Mはコバルト及びニッケルから選ばれる少なくとも1種の元素を示す。Xはクロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル及び亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Yはリン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモン及びチタンから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、Zはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムから選ばれる少なくとも1種の元素を示す。a、b、c、d、e、f及びgはMo12原子に対する各元素の原子比を示し、a=0.01~3.0、b=0.01~5.0、c=1.0~12.0、d=0~8.0、e=0~5.0及びf=0.001~2.0であり、gは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子比率である。)
【0013】
さらに、本発明の触媒は、モリブデン原料として使用するモリブデン酸アンモニウム四水和物に含まれる窒素の量が6.780~6.855重量パーセントであるものを用いて得られた触媒である。ここで、含まれる窒素の量とは、ケルダール法、紫外線吸光光度法、硫酸ヒドラジニウム還元法、銅・カドミウムカラム還元法等を用いて、測定される窒素の量である。含まれる窒素の量の測定方法は、特に限定されないが、本発明に記載する含まれる窒素の量は、Gerhardt製ケルダール蒸留装置Vapodest50sオートサンプラーを用いて測定した値である。
【0014】
モリブデン酸アンモニウム四水和物に含まれる窒素の量は、6.780~6.855重量パーセントであるものを用いるが、好ましくは6.790~6.854重量パーセント、より好ましくは6.800~6.852重量パーセントであるものを用いる。6.780重量パーセントを下回ると、また6.855重量パーセントを上回ると原料有機化合物に対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸選択率が低下する傾向にある。
【0015】
モリブデン酸アンモニウム四水和物に含まれる窒素の量を調整する方法としては、モリブデン酸アンモニウム四水和物の保存状態を制御する方法がある。すなわち、モリブデン酸アンモニウム四水和物を高温条件で保存することで、含まれる窒素の量が少なくなり、モリブデン酸アンモニウム四水和物を低温条件で保存することで含まれる窒素の量が多くなる。
【0016】
次に本発明に好適な複合酸化物触媒の製造方法について説明する。
ビスマス(Bi)添加量は、式(1)において、Mo12原子に対する原子比a=0.01~3.0となるように添加するが、好ましくはa=0.05~2.5、より好ましくはa=0.1~2.0、更に好ましくはa=0.2~1.8となるように添加する。a=3.0を越えると、原料有機化合物に対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸選択率が低下する傾向にあり、一方、a=0.01を下回ると、原料有機化合物の転化率が低下する傾向にある。
【0017】
鉄(Fe)添加量は、式(1)において、Mo12原子に対する原子比b=0.01~5.0となるように添加するが、好ましくはb=0.02~4.5、より好ましくはb=0.05~4.0、更に好ましくはb=0.1~3.5となるように添加する。b=5.0を越えると、原料有機化合物に対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸選択率が低下する傾向にあり、一方、b=0.1を下回ると、原料有機化合物の転化率が低下する傾向にある。
【0018】
Mはコバルト(Co)及びニッケル(Ni)から選ばれる少なくとも1種の元素であれば特に限定されないが、コバルト(Co)を含んでいることが好ましい。M成分にコバルト(Co)を含むことで、活性低下が抑制される傾向にある。Mの添加量は、式(1)において、Mo12原子に対する原子比c=1.0~12.0となるように添加するが、好ましくはc=2.0~11.0、より好ましくはc=2.5~10.5、更に好ましくはc=3.0~10.0となるように添加する。c=12.0を越えると、原料有機化合物の転化率が低下する傾向にあり、一方、c=1.0を下回ると、原料有機化合物に対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸選択率が低下する傾向にある。
【0019】
Xはクロム(Cr)、鉛(Pb)、マンガン(Mn)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ニオブ(Nb)、銀(Ag)、バリウム(Ba)、スズ(Sn)、タンタル(Ta)及び亜鉛(Zn)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であれば特に限定されない。Xの添加量は、式(1)において、Mo12原子に対する原子比d=0を超えて8以下となるように添加することが好ましい。d=8を超えると、原料有機化合物に対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸選択率が低下する傾向にある。
【0020】
Yはリン(P)、ホウ素(B)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、セリウム(Ce)、タングステン(W)、アンチモン(Sb)及びチタン(Ti)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であれば特に限定されないが、セリウム(Ce)、タングステン(W)、アンチモン(Sb)の少なくとも1種の元素を含んでいることが好ましい。Y成分にセリウム(Ce)、タングステン(W)、アンチモン(Sb)の少なくとも1種の元素を含むことで、触媒劣化が抑制される傾向にある。Yの添加量は、式(1)において、Mo12原子に対する原子比e=0を超えて5以下となるように添加することが好ましいが、より好ましくはe=0.1~4.0、更に好ましくはe=0.2~3.0、最も好ましくはe=0.3~2.5となるように添加する。e=5を超えると、原料化合物の転化率が低下する傾向にある。
【0021】
Zはリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)及びタリウム(Tl)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であれば特に限定されないが、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)の少なくとも1種を含んでいることが好ましい。Z成分にカリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)の少なくとも1種を含むことで、活性制御が容易となる傾向がある。Zの添加量は、式(1)において、Mo12原子に対する原子比f=0.001以上2.0以下となるように添加することが好ましいが、より好ましくはf=0.005~1.8、更に好ましくはf=0.01~1.6、最も好ましくはf=0.05~1.5となるように添加する。f=2.0を越えると、原料有機化合物の転化率が低下する傾向にある。 モリブデン原料としては、モリブデン酸アンモニウム四水和物を単独で用いてもよく、モリブデン酸アンモニウム四水和物の他に、三酸化モリブデン、塩化モリブデン等2種以上を併用してもよいが、少なくともモリブデン酸アンモニウム四水和物を含んでいる必要がある。モリブデン原料として使用するモリブデン酸アンモニウム四水和物の含有量は、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましい。
【0022】
モリブデン原料以外の触媒原料としては、特に限定されないが、通常は、各元素の酸化物、強熱することにより酸化物になり得る塩化物、水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩、又はそれらの混合物等が用いられる。
例えば、ビスマス原料としては、硝酸ビスマス、酸化ビスマス、次炭酸ビスマス等が挙げられる。
鉄原料としては、硝酸第二鉄、水酸化鉄、三酸化鉄等の種々の原料を使用でき、特に硝酸第二鉄が好ましい。
【0023】
また、上記記載の式(1)又は(2)で表される触媒を製造する場合における、M成分、X成分、Y成分、Z成分にそれぞれ対応する触媒原料としては、各元素の酸化物、炭酸塩、塩化物、アンモニウム塩、硝酸塩、酢酸塩、及び硫酸塩等の種々の原料を使用することができる。更に、本発明においては、一般によく用いられる水溶性化合物だけでなく、金属亜鉛等の金属等の水難溶性化合物などを使用することも可能である。
触媒原料は、各元素について、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
本発明の複合金属酸化物触媒の製造方法は特に限定されないが、原料液を調製する工程(以下、原料液調製工程という。)と、該原料液を用いて触媒を形成する工程(以下、触媒形成工程という。)とを行うことが好ましい。
【0025】
[原料液調製工程]
前記原料液は、たとえば、触媒を構成する酸素以外の各元素を所定の比率で含むように、触媒原料と、溶媒とを混合し、溶液またはスラリーとすることによって調製できる。
原料液の調製方法としては、以下の工程(a)~(e)を含む方法が好ましい。
工程(a):モリブデン原料を含有する溶液又はスラリー(A液)を調製する工程。
工程(b):鉄原料を含有する溶液又はスラリー(B液)を調製する工程。
工程(c):A液とB液とを混合して、モリブデン原料及び鉄原料を含有する溶液又はスラリー(C液)を調製する工程。
工程(d):調製途中又は調製後のA液、B液、C液の少なくともいずれかにビスマス原料を添加する工程。
【0026】
工程(a)では、モリブデン原料を含有する溶液又はスラリー(A液)を調製する。すなわち、モリブデン原料を溶媒中に溶解又は分散させる。
【0027】
A液の溶媒としては、少なくとも水を用いることが好ましく、溶媒全体の50質量%以上が水であることが好ましく、水単独を使用しても構わない。溶媒は、水以外に、さらにアルコール、アセトン等を含有してもよい。
A液を調製する際に使用する溶媒の質量は、A液の調製に使用する触媒原料の合計100質量部に対して、70~500質量部が好ましい。
【0028】
工程(a)において、A液の調製には、鉄原料を使用しないことが好ましい。すなわち、A液は鉄原料を含有しないことが好ましい。
【0029】
工程(b)では、鉄原料を含有する溶液又はスラリー(B液)を調製する。すなわち、鉄原料を溶媒中に溶解又は分散させる。
B液の溶媒としては、前記A液の溶媒と同様のものを使用できる。
B液を調製する際に使用する溶媒の質量は、B液の調製に使用する触媒原料の合計100質量部に対して、30~300質量部が好ましい。
【0030】
M成分の添加方法は特に限定されず、調製途中又は調製後のA液、B液、C液のいずれか1つに全量を添加してもよく、2つ以上に添加してもよいが、工程(b)において、B液の調製に、M成分を一部又は全量、溶媒中に溶解又は分散させることが好ましい。
【0031】
工程(b)において、B液の調製には、モリブデン原料を使用しないことが好ましい。すなわち、B液はモリブデン原料を含有しないことが好ましい。
【0032】
なお、上の説明では工程(a)、工程(b)の順に説明したが、これらの工程を実施する順序はこの順には限定されず、逆の順で実施してもよく、同時進行的に実施してもよい。
【0033】
工程(c)では、上記のように調製したA液とB液とを混合して、モリブデン原料及び鉄原料を含有する溶液又はスラリー(C液)を調製する。
【0034】
工程(d)では、ビスマス原料を、調製途中又は調製後のA液、B液、C液の少なくともいずれかに添加する。
ビスマス原料の添加量は、最終的に得られる原料液中に含まれるビスマスの量がそれぞれ、製造しようとする触媒に必要とされる量となる量であればよい。ビスマス原料は、全量を一度に添加してもよく、複数回に分けて添加してもよい。
ビスマス原料を添加する方法としては、特に限定されず、調製途中又は調製後のA液、B液、C液のいずれか1つに全量を添加してもよく、2つ以上に添加してもよい。例えば、A液の調製途中又は調製後に添加する方法、B液の調製途中又は調製後に添加する方法、C液の調製途中又は調製後に添加する方法等が挙げられ、いずれでも好ましい結果が得られる。
また、ビスマス原料を調製後のA液、B液、C液の少なくともいずれかに添加する場合、添加後にホモジナイザーによる微粒化、均一化を行うこともできる。
【0035】
工程(e)では、ヒドラジン化合物、蟻酸、シュウ酸等の還元剤を、調製途中又は調製後のA液、B液、C液のいずれか一つ以上に添加してもよい。
還元剤は、全量を一度に添加してもよく、複数回に分けて添加してもよい。
【0036】
M成分、X成分、Y成分およびZ成分の元素の触媒原料は、調製途中又は調製後のA液、B液、C液の少なくともいずれかに添加することで、前記式(1)又は(2)で表される触媒が得られる。
【0037】
X成分、Y成分およびZ成分の触媒原料の添加量は、最終的に得られる原料液中に含まれる他の元素の量が、製造しようとする触媒に必要とされる量となる量であればよい。X成分、Y成分およびZ成分の触媒原料は、全量を一度に添加してもよく、複数回に分けて添加してもよい。
【0038】
M成分、X成分、Y成分およびZ成分の触媒原料を添加する方法としては、特に限定されず、調製途中又は調製後のA液、B液、C液のいずれか1つに全量を添加してもよく、2つ以上に添加してもよい。例えば、A液の調製途中又は調製後に添加する方法、B液の調製途中又は調製後に添加する方法、C液の調製途中又は調製後に添加する方法等が挙げられ、いずれでも好ましい結果が得られる。
以上のような方法により、原料液を調製できる。
【0039】
本発明では、このようにして得られる原料液を用いて、複合金属酸化物触媒を製造することができる。
【0040】
前記原料液の調製後、触媒の製造に用いる前に、さらに、前記原料液を80~120℃の温度範囲に保持(熟成)する工程を有することが好ましい。これにより、触媒性能を更に向上させることができる。保持温度は、90~110℃の温度範囲がより好ましい。
なお、原料液を前記温度範囲に保持する保持時間としては、特に限定されないが、1秒間~30時間の範囲が適当であり、好ましくは1分間~20時間の範囲、特に好ましくは3分間~15時間の範囲である。保持時間が短すぎると、保持により触媒性能を向上させる効果が得られにくい。又、保持時間をあまり長くしても、保持によるそれ以上の効果は得られにくい。
【0041】
触媒の成形は、たとえば以下の手順で行うことができる。
まず、前記原料液の乾燥を行う。乾燥には、箱形乾燥機、蒸発乾燥機、噴霧乾燥機等種々の乾燥装置用いることができる。乾燥条件は、例えば箱形乾燥機の場合は30~150℃、噴霧乾燥機の場合は入口温度で100~500℃が好ましい。乾燥工程での乾燥不良が発生した場合、乾燥粉の乾燥機への付着等により、得られる触媒の歩留まりが悪化する、または後工程への乾燥粉の輸送が困難になる等の悪影響が考えられる。
【0042】
次いで、乾燥して得られた乾燥物(触媒前駆体)の焼成を行う。これにより、複合金属酸化物触媒が得られる。
【0043】
焼成は、空気等の酸素含有ガス流通下、または窒素、炭酸ガス、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス流通下で行うことが好ましい
焼成温度は、200~600℃の温度範囲で行うことが好ましい。焼成時間(所定の焼成温度に達してから該温度持続する時間)は、目的とする触媒に応じて適宜選択される。
【0044】
焼成する際の焼成装置の形式及びその方法については特に限定はなく、例えば箱型焼成炉、トンネル炉型焼成炉等の焼成炉を用いて、乾燥物を固定した状態で焼成しても良いし、また、回転焼成炉等を用いて、乾燥物を流動させながら焼成しても良い。
【0045】
得られた焼成物(触媒)は、さらに、成形してもよい。
触媒を成形する方法は、特に限定されるものではなく、打錠成形機、押出成形機、転動造粒機等の一般粉体用成形機を用いて、球状、リング状、円柱状、星型状等の任意の形状に成形できる。
【0046】
触媒を成形する際には、従来公知の添加剤、例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等の有機化合物を更に添加してもよい。更には、グラファイト及びケイソウ土等の無機化合物、ガラス繊維、セラミックファイバー及び炭素繊維等の無機ファイバーを添加してもよい。
【0047】
本発明においては、上記成形に引き続き、または成形を行わない場合は前記の焼成(1次焼成)に引き続き、酸素含有ガスの流通下で、さらに、焼成(2次焼成)を行うことが好ましい。これにより、触媒構造の安定性が増し、触媒寿命が向上する。成形を行う場合の2次焼成のタイミングは、成形の前、後、どちらでも構わない。
酸素含有ガスとしては、空気を用いるのが最も経済的である。
【0048】
2次焼成温度は、300~700℃の温度範囲が好ましく、400~600℃の温度範囲がより好ましい。また、2次焼成時間は、特に限定されないが、より高性能な触媒が得られることから、10分間以上が好ましく、1~10時間がより好ましい。
【0049】
2次焼成の際の焼成装置の形式及びその方法については特に限定はなく、例えば箱型焼成炉、トンネル炉型焼成炉等の焼成炉を用いて、成形物又は1次焼成物を固定した状態で焼成しても良いし、また、回転焼成炉を用いて、成形物又は1次焼成物を流動させながら焼成しても良い。
【0050】
上記のようにして得られた触媒は、担体に担持させてもよい。担持を行う際に使用する担体としては、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、マグネシア、チタニア、シリコンカーバイト等が挙げられる。
また、触媒は、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、マグネシア、チタニア、シリコンカーバイト等の不活性物質で希釈して用いることもできる。
【0051】
触媒の組成は、ICP(誘導結合高周波プラズマ)発光分析法、蛍光X線分析法、原子吸光分析法等により元素分析を行うことにより確認できる。
【0052】
[不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の製造]
不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の製造は、たとえば、気相接触酸化の反応器内で、前記触媒と、前記原料有機化合物及び分子状酸素を含む原料ガスとを接触させることにより実施できる。
【0053】
反応器としては、一般的に気相接触酸化に用いられているものを使用でき、特に、触媒が充填される反応管を備える管式反応器を使用することが好ましく、工業的には該反応管を複数備える多管式反応器を用いることが特に好ましい。
【0054】
原料ガス中の原料有機化合物濃度は広い範囲で変えることができ、例えば、1~20容量%とすることができ、好ましくは3~10容量%である。
原料ガスの分子状酸素源としては、空気を用いるのが工業的に有利である。必要に応じて、空気等に純酸素を混合したガスを用いることもできる。
原料ガス中の原料有機化合物と分子状酸素とのモル比は原料有機化合物:分子状酸素=1:0.1~5の範囲が好ましく、1:0.5~3の範囲がより好ましい。
原料ガスは、窒素、炭酸ガス等の不活性ガス、水蒸気等で希釈して使用することが経済的である。
【0055】
気相接触酸化における反応圧力は大気圧から数気圧までがよい。反応温度は、200~420℃の範囲が好ましく、特に、250~400℃の範囲が好ましい。原料ガスと触媒との接触時間は0.5~10.0秒が好ましく、より好ましくは1.0~6.0秒である。
【0056】
このような条件で、プロピレン、イソブチレン、tert-ブチルアルコール及びメチル-tert-ブチルエーテル等の原料有機化合物を気相接触酸化した際、原料有機化合物に対応した不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸が、高い選択率で得られる。
【実施例
【0057】
以下、実施例を用いて本発明による触媒の製造及びその触媒を用いた反応例を具体的に説明する。以下において、「部」は質量部を示しており、原料ガス及び生成物の分析はガスクロマトグラフィーにより行った。
【0058】
また、実施例及び比較例中の原料有機化合物として供給するプロピレン、イソブチレン、tert-ブチルアルコール及び/またはメチル-tert-ブチルエーテルの反応率、生成した原料有機化合物に対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の選択率はそれぞれ以下のように定義される。
原料有機化合物として供給したプロピレン、イソブチレン、tert-ブチルアルコール及び/またはメチル-tert-ブチルエーテルの反応率(%)=(B/A)×100
原料有機化合物に対応する不飽和アルデヒドの選択率(%)=(C/B)×100
原料有機化合物に対応する不飽和カルボン酸の選択率(%)=(D/B)×100
ここで、Aは原料有機化合物として供給したプロピレン、イソブチレン、tert-ブチルアルコール及び/またはメチル-tert-ブチルエーテルのモル数、Bは反応したプロピレン、イソブチレン、tert-ブチルアルコール及び/またはメチル-tert-ブチルエーテルのモル数、Cは生成した原料有機化合物に対応する不飽和アルデヒドのモル数、Dは生成した原料有機化合物に対応する不飽和カルボン酸のモル数である。
【0059】
[実施例1]
(触媒調製)
60℃の純水400部に、吸熱ピーク温度が133.7℃であるモリブデン酸アンモニウム四水和物100部、硝酸セシウム6部、三酸化ビスマス8部及び三酸化アンチモン5部を混合してA液とした。
これとは別に純水200部に、硝酸鉄九水和物38部、硝酸コバルト六水和物89部及び硝酸ニッケル六水和物14部を順次加えて溶解しB液とした。
次いで、A液にB液を加え、スラリー状のC液を得た。この原料液を、90℃まで加熱し、1時間攪拌を行い、水性のスラリーとした。その後、スラリーの水の大部分を蒸発させて、ケーキ状物Aを得た。
該ケーキ状物Aを、120℃で16時間処理し、さらに空気雰囲気下300℃で1時間熱処理した後、粉砕した。これを加圧成形した後、破砕し、得られた破砕粒子を分級し、目開き2.36mmの篩を通過し、かつ目開き0.71mmの篩を通過しないものを回収した。その後、回収した特定の大きさの破砕粒子を再び空気雰囲気下500℃で6時間熱処理して、触媒を得た。こうして得られた触媒の元素の組成(酸素を除く)は、Mo12Bi0.7Fe2.0Ni1.0Co6.5Sb0.7Cs0.6であった。
【0060】
(反応評価)
この触媒をステンレス製反応管内に充填して触媒層を形成した後、組成(容量%)がイソブチレン(原料有機化合物)5%、酸素12%、水蒸気10%、及び窒素73%である原料ガスを、イソブチレンの反応率が95%となるように、2.9秒間の接触時間で反応管内の触媒層を通過させ、340℃で反応させた。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
[実施例2]
(触媒調製)
吸熱ピーク温度が136.9℃であるモリブデン酸アンモニウム四水和物を使用した以外は、実施例1と同様に調製した。
(反応評価)
接触時間を3.2秒とした以外は、実施例1と同様に反応評価を行った。結果を表1に示す。
【0063】
[実施例3]
(触媒調製)
吸熱ピーク温度が137.4℃であるモリブデン酸アンモニウム四水和物を使用した以外は、実施例1と同様に調製した。
(反応評価)
接触時間を3.3秒とした以外は、実施例1と同様に反応評価を行った。結果を表1に示す。
【0064】
[比較例1]
(触媒調製)
吸熱ピーク温度が133.1℃であるモリブデン酸アンモニウム四水和物を使用した以外は、実施例1と同様に調製した。
(反応評価)
接触時間を2.5秒とした以外は、実施例1と同様に反応評価を行った。結果を表1に示す。
【0065】
[比較例2]
(触媒調製)
吸熱ピーク温度が138.0℃であるモリブデン酸アンモニウム四水和物を使用した以外は、実施例1と同様に調製した。
(反応評価)
接触時間を3.4秒とした以外は、実施例1と同様に反応評価を行った。結果を表1に示す。
【0066】
[実施例4]
(触媒調製)
含まれる窒素の量が6.817重量パーセントであるモリブデン酸アンモニウム四水和物を使用した以外は、実施例1と同様に調製した。
(反応評価)
接触時間を3.2秒とした以外は、実施例1と同様に反応評価を行った。結果を表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
[実施例5]
(触媒調製)
含まれる窒素の量が6.853重量パーセントであるモリブデン酸アンモニウム四水和物を使用した以外は、実施例1と同様に調製した。
(反応評価)
接触時間を3.3秒とした以外は、実施例1と同様に反応評価を行った。結果を表2に示す。
【0069】
[比較例3]
(触媒調製)
含まれる窒素の量が6.777重量パーセントであるモリブデン酸アンモニウム四水和物を使用した以外は、実施例1と同様に調製した。
(反応評価)
接触時間を2.5秒とした以外は、実施例1と同様に反応評価を行った。結果を表2に示す。
【0070】
[比較例4]
(触媒調製)
含まれる窒素の量が6.857重量パーセントであるモリブデン酸アンモニウム四水和物を使用した以外は、実施例1と同様に調製した。
(反応評価)
接触時間を3.4秒とした以外は、実施例1と同様に反応評価を行った。結果を表2に示す。
【0071】
実施例1と比較例1を比較すると、実施例1の方が、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸選択率が高くなっていることが分かる。実施例3と比較例2を比較すると、実施例3の方が、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸選択率が高くなっていることが分かる。実施例1~3を比較すると、実施例2が最も不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸選択率が高くなっていることが分かる。
【0072】
実施例4と比較例3を比較すると、実施例4の方が、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸選択率が高くなっていることが分かる。実施例5と比較例4を比較すると、実施例5の方が、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸選択率が高くなっていることが分かる。実施例4と実施例5を比較すると、実施例4の方が、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸選択率が高くなっていることが分かる。