(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】ディスプレイ用ガラス基板
(51)【国際特許分類】
C03C 15/00 20060101AFI20220216BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
C03C15/00 A
G09F9/30 310
(21)【出願番号】P 2017242075
(22)【出願日】2017-12-18
【審査請求日】2020-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 興平
(72)【発明者】
【氏名】井川 信彰
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-201446(JP,A)
【文献】特表2016-523796(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073580(WO,A1)
【文献】特開2016-135726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C15/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の主表面のうち一方のガラス表面は、その表面性状が、山部と谷部との対象性を示すひずみ度Rskが0よりも大きく、前記表面性状の算術平均粗さRaが1nmよりも大きく、3.0nm以下であることを特徴とす
るディスプレイ用ガラス基板。
【請求項2】
ガラス基板の主表面のうち一方のガラス表面は、その表面性状が、山部と谷部との対象性を示すひずみ度Rskが0よりも大きく、前記表面性状の二乗平均平方根粗さRqが1nmよりも大きく、5.0nm以下であることを特徴とす
るディスプレイ用ガラス基板。
【請求項3】
ガラス基板の主表面のうち一方のガラス表面は、その表面性状が、山部と谷部との対象性を示すひずみ度Rskが0よりも大きく、前記表面性状の最大高さ粗さRzが8~35nmであることを特徴とす
るディスプレイ用ガラス基板。
【請求項4】
ガラス基板の主表面のうち一方のガラス表面は、その表面性状が、山部と谷部との対象性を示すひずみ度Rskが0よりも大きく、前記表面性状の最大山高さRpが3~20nmであることを特徴とす
るディスプレイ用ガラス基板。
【請求項5】
ガラス基板の主表面のうち一方のガラス表面は、その表面性状が、山部と谷部との対象性を示すひずみ度Rskが0よりも大きく、前記表面性状の最大谷深さRvが5~15nmであることを特徴とす
るディスプレイ用ガラス基板。
【請求項6】
ガラス基板の主表面のうち一方のガラス表面は、その表面性状が、山部と谷部との対象性を示すひずみ度Rskが0よりも大きく、前記一方のガラス表面は、表面凹凸の面粗さ中心面から1.0nm以上の高さを有する第1の凸部が分散して設けられ、前記第1の凸部の前記ガラス表面の面積に占める面積比率が15~40%であることを特徴とす
るディスプレイ用ガラス基板。
【請求項7】
ガラス基板の主表面のうち一方のガラス表面は、その表面性状が、山部と谷部との対象性を示すひずみ度Rskが0よりも大きく、前記一方のガラス表面は、表面凹凸の面粗さ中心面から1.5nm以上の高さを有する第2の凸部が分散して設けられ、前記第2の凸部の前記ガラス表面の面積に占める面積比率が5~30%であることを特徴とす
るディスプレイ用ガラス基板。
【請求項8】
前記ひずみ度Rskが、0よりも大きく、1.5よりも小さいことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のディスプレイ用ガラス基板。
【請求項9】
前記ガラス基板の主表面のうち他方のガラス表面に半導体素子が形成される、請求項1から
8のいずれか1項に記載のディスプレイ用ガラス基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイ用ガラス基板に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイ(FPD)においては、ガラス基板上に透明電極、半導体素子等を形成したものが基板として用いられる。例えば、液晶ディスプレイ(LCD)においては、ガラス基板上に透明電極、TFT(Thin Film Transistor)等が形成されたものが基板として用いられる。
【0003】
ガラス基板上への透明電極、半導体素子等の形成は、ガラス基板の半導体素子形成面とは反対側のガラス表面を吸着ステージ上に真空吸着によって固定した状態で行われる。しかし、透明電極、半導体素子等が形成されたガラス基板を吸着ステージから剥離する際に、ガラス基板が帯電し、TFT等の半導体素子の静電破壊が起こる。
【0004】
特許文献1は、ガラス基板の主表面のうち一方のガラス表面について、その表面性状が、凹凸の平均間隔により定義されるRSmが0.05μm以上であり、かつ、山部と谷部との対象性を示すひずみ度Rskが0よりも小さい構造により、帯電を低減することを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の様に、ひずみ度Rskが0よりも小さいと、ガラス基板が金属や絶縁体のプレート等と接触剥離する面積が増大し、ガラス基板の静電気の帯電が却って問題となる可能性がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、吸着ステージから剥離する際に剥離帯電が発生しにくいディスプレイ用ガラス基板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ガラス基板の主表面のうち一方のガラス表面は、その表面性状が、山部と谷部との対象性を示すひずみ度Rskが0よりも大きいことを特徴とするディスプレイ用ガラス基板を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のディスプレイ用ガラス基板は、吸着ステージから剥離する際に剥離帯電が発生しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るディスプレイ用ガラス基板の製造方法の説明図であって、熱処理装置の一構成例を示した模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係るディスプレイ用ガラス基板の製造方法の説明図であって、熱処理装置の別の一構成例を示した模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係るディスプレイ用ガラス基板の製造方法の説明図であって、フロートガラス製造装置の概略を示す断面図である。
【
図4】
図4は、実施例におけるインジェクタのスリット幅(a)、処理長(b)、処理幅(c)の関係を示した図である。
【
図5】
図5(a)は、二乗平均平方根高さRqの概念を示す概念図であり、
図5(b)は、山部と谷部との対象性を示すひずみ度Rskの概念を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[ディスプレイ用ガラス基板]
以下、本発明の実施形態に係るディスプレイ用ガラス基板について説明する。
【0012】
本実施形態のディスプレイ用ガラス基板は、そのガラス組成は特に限定されず、ソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス等、幅広いガラス組成であってよい。
【0013】
本願発明者らは、ガラス基板の帯電量を減少させるために、ガラス基板の主表面の表面性状に着目した。本願発明者らは鋭意検討し、山部と谷部との対象性を示すひずみ度Rskが0よりも大きいガラス基板が、優れた性質を有することを見出した。
【0014】
本実施形態のディスプレイ用ガラス基板は、ガラス基板の主表面のうち一方のガラス表面は、その表面性状が、山部と谷部との対象性を示すひずみ度Rskが0よりも大きい。
【0015】
Rskは、二乗平均平方根高さRqの三乗によって無次元化した基準長さにおいて、ガラス基板の主表面における山部と谷部の高さZ(x)の三乗平均を表す。言い換えると、Rskは歪度(わいど)を意味し、平均線(
図5(b)の破線参照)を中心としたときの山部と谷部の対称性を表す指標であって、粗さ曲線のスキューネスとも呼ばれる。ここで、
図5(a)が二乗平均平方根高さRqの概念を示す概念図であり、Rqは下記の式(1)によって求められ、基準長さl(エル)において、Z(x)の二乗平均平方根を表す指標である。
図5(a)に示す様に、lは主表面に沿った山部と谷部の繰り返しの基準長さを示す。また、
図5(b)がRskの概念を示す概念図であり、Rskは下記の式(2)によって求められる。
【0016】
【0017】
【0018】
図5(b)に示す様に、Rskは、その値により破線で示す平均線に対して、下記の様な性質を持つ。
Rsk=0:平均線に対して対称(正規分布)
Rsk>0:平均線に対して下側に偏っている
Rsk<0:平均線に対して上側に偏っている
【0019】
Rskが0よりも大きい値をとることにより、
図5(b)に示すように、ガラス基板が金属や絶縁体とのプレートと接触剥離する面積が減少し、ガラス基板の静電気の帯電を低減することができる。
【0020】
本実施形態のディスプレイ用ガラス基板は、Rskが、0よりも大きく、1.5よりも小さいことが好ましい。
Rskが0よりも大きいと、接触面積が減り、静電気の帯電を低減することができ、Rskが1.5よりも小さいと、ガラス基板の表面を欠けにくくすることができる。
【0021】
本実施形態のディスプレイ用ガラス基板は、表面性状の算術平均粗さRaが1nmよりも大きく、3.0nm以下であることが好ましい。Raは、基準長さlにおいて、Z(x)の絶対値の平均を表す指標である。
Raが1nmよりも大きいと、静電気の帯電を低減することができる。
また、Raが3.0nm以下であれば、光の散乱が少なく、反射光を減らし、ガラスの透明性を維持することができる。
【0022】
本実施形態のディスプレイ用ガラス基板は、表面性状の二乗平均平方根粗さRqが1nmよりも大きく、5.0nm以下であることが好ましい。上述した通り、Rqは、基準長さlにおいて、Z(x)の二乗平均平方根を表す指標である。
Rqが1nmよりも大きいと、静電気の帯電を低減することができる。また、Rqが5.0nm以下であれば、光の散乱が少なく、反射光を減らし、ガラスの透明性を維持することができる。
【0023】
本実施形態のディスプレイ用ガラス基板は、表面性状の最大高さ粗さRzが8~35nmであることが好ましい。Rzは、基準長さlにおいて、輪郭曲線の山高さZpの最大値と谷深さZvの最大値の和を表す指標である。「山」は輪郭曲線の平均線(X軸)より上側(ガラス基板側から空間側の方向)の部分であり、「谷」は輪郭曲線の平均線(X軸)より下側(周囲の空間からガラス基板側に向かう方向)の部分に相当する。
Rzが8nm以上であれば、透過率が上がり始める。また、Rzが35nm以下であれば、可視光のλ/4(75nm)より小さいので、光の散乱が少なく、反射光を減らし、ガラスの透明性を維持することができる。
【0024】
本実施形態のディスプレイ用ガラス基板は、表面性状の最大山高さRpが3~20nmであることが好ましい。Rpは、基準長さlにおいて、輪郭曲線の山高さZpの最大値を表す指標である。
Rpが3nm以上であれば、静電気の帯電を低減することができる。また、Rpが20nm以下であれば、ガラス基板の表面を欠けにくくすることができる。
【0025】
本実施形態のディスプレイ用ガラス基板は、表面性状の最大谷深さRvが5~15nmであることが好ましい。Rvは、基準長さlにおいて、輪郭曲線の谷深さZvの最大値を表す指標である。
Rvが5nm以上であれば、静電気の帯電を低減することができる。また、Rvが15nm以下であれば、ガラス基板の表面を欠けにくくすると共に、汚染物を付着しにくくすることができる。
【0026】
本実施形態のディスプレイ用ガラス基板は、一方のガラス表面は、表面凹凸の面粗さ中心面から1.0nm以上の高さを有する第1の凸部が分散して設けられ、第1の凸部のガラス表面の面積に占める面積比率が15~40%であることが好ましい。
第1の凸部の面積比率が15%以上であれば、ガラスを切り易くすることができ、第1の凸部の面積比率が40%以下であれば、ガラスの透明性を維持することができる。
【0027】
本実施形態のディスプレイ用ガラス基板は、一方のガラス表面は、表面凹凸の面粗さ中心面から1.5nm以上の高さを有する第2の凸部が分散して設けられ、第2の凸部のガラス表面の面積に占める面積比率が5~30%であることが好ましい。
第2の凸部の面積比率が5%以上であれば、ガラスを切り易くすることができ、第2の凸部の面積比率が30%以下であれば、ガラスの透明性を維持することができる。
【0028】
本実施形態のディスプレイ用ガラス基板は、ガラス基板の主表面のうち他方のガラス表面に半導体素子が形成されることが好ましい。
【0029】
本実施形態のディスプレイ用ガラス基板の寸法は特に限定されないが、ガラス基板の剥離帯電を抑制させるため、大型のガラス基板に好適である。具体的には、2500mm×2200mm以上であることが好ましく、3130mm×2880mm以上であることがより好ましい。
板厚についても特に限定されないが、ガラス基板の剥離帯電を抑制させるため、薄板のガラス基板に好適である。具体的には、1.0mm以下であることが好ましく、0.75mm以下であることがより好ましく、0.45mm以下であることがさらに好ましい。
【0030】
本実施形態のディスプレイ用ガラス基板は、無アルカリガラスであることが好ましい。 無アルカリガラスは、下記酸化物基準の質量百分率表示で、SiO2を50~73%、Al2O3を10.5~24%、B2O3を0.1~12%、MgOを0~8%、CaOを0~14.5%、SrOを0~24%、BaOを0~13.5%、ZrO2を0~5%含有し、かつ、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合量(MgO+CaO+SrO+BaO)が8~29.5%であることが好ましい。
また、無アルカリガラスは、下記酸化物基準の質量百分率表示で、SiO2を58~66%、Al2O3を15~22%、B2O3を5~12%、MgOを0~8%、CaOを0~9%、SrOを3~12.5%、BaOを0~2%含有し、かつ、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合量(MgO+CaO+SrO+BaO)が9~18%であることが好ましい。
また、無アルカリガラスは、下記酸化物基準の質量百分率表示で、SiO2を54~73%、Al2O3を10.5~22.5%、B2O3を0.1~5.5%、MgOを0~8%、CaOを0~9%、SrOを0~16%、BaOを0~2.5%含有し、かつ、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合量(MgO+CaO+SrO+BaO)が8~26%であることが好ましい。
【0031】
[ディスプレイ用ガラス基板の製造方法]
次に、本発明のディスプレイ用ガラス基板の製造方法の構成例について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るディスプレイ用ガラス基板の製造方法の説明図であって、熱処理装置の一構成例を示した模式図である。
図1に示す熱処理装置60において、板ガラス20は矢印方向に搬送される。搬送手段は特に限定されないが、例えば、図示しない搬送ロールである。また、熱処理装置60および後述する熱処理装置62は、図示しないヒータを備える。
ここで、板ガラス20の下面22が、ディスプレイ用ガラス基板における半導体素子形成面であり、板ガラス20の上面24が半導体素子形成面の反対側のガラス表面であり、上述したように、半導体素子形成時には、吸着ステージ上に真空吸着によって固定される。
【0032】
図1に示す熱処理装置60は、インジェクタ70を有している。インジェクタ70の供給口71から板ガラス20の上面24に吹き付けられた気体は、板ガラス20の移動方向に対して順方向又は逆方向の流路74を移動し、排気口75へ流出する。
図1に示したインジェクタ70は、供給口71から排気口75へのガスの流れが板ガラス20の移動方向に対して、順方向と逆方向に均等に分かれる両流しタイプのインジェクタである。
【0033】
図2は、熱処理装置の別の一構成例を示した模式図である。
図2に示す熱処理装置62は、インジェクタ80を有している。インジェクタ80は片流しタイプのインジェクタである。片流しタイプのインジェクタとは、供給口81から排気口85へのガスの流れが板ガラス20の移動方向に対して順方向もしくは逆方向のいずれかに固定されるインジェクタである。
図2に示すインジェクタ80は、供給口81から排気口85へのガスの流れ84が板ガラス20の移動方向に対して順方向である。但し、これに限定されず、供給口81から排気口85へのガスの流れが板ガラス20の移動方向に対して逆方向であってもよい。
【0034】
本発明のディスプレイ用ガラス基板の製造方法では、インジェクタ70、80の供給口71、81から板ガラス20の上面24に対しフッ化水素(HF)を含有する気体を供給する。
これにより、半導体素子形成面の反対側のガラス表面近傍のフッ素濃度が、ガラス基板内部のフッ素濃度に比べて高くなり、ガラス基板と、吸着ステージとの仕事関数の差が小さくなり、ガラス基板の剥離帯電を抑制することができる。
【0035】
本発明のディスプレイ用ガラス基板の製造方法では、HFを含有する気体を供給するガラス表面温度、すなわち、板ガラス20の上面24の温度を500~900℃とする。ガラス表面温度を500℃以上とすることにより以下の効果を奏する。
フッ素がガラス表面近傍に侵入し、ガラス表面近傍のフッ素濃度が、ガラス基板内部のフッ素濃度に比べて高くなる。ガラス表面温度は550℃以上がより好ましく、600℃以上がさらに好ましい。
また、ガラス表面温度を900℃以下とすることにより以下の効果を奏する。
ガラス表面の表面粗さRaが大きくなり過ぎるのを抑制し、一様な表面形状を形成する。ガラス表面温度は850℃以下がより好ましく、800℃以下がさらに好ましい。
【0036】
本発明のディスプレイ用ガラス基板の製造方法では、HFを含有する気体は、熱処理装置60、62のインジェクタ70、80等の設備の腐食防止の観点から、窒素(N2)や希ガスといった不活性ガスをキャリアガスとして使用し、これらキャリアガスとの混合ガスとして板ガラス20の上面24に供給する。
インジェクタ70、80の供給口71、81から供給するHFを含有する気体のHF濃度を0.5~30vol%とする。HF濃度を0.5vol%以上とすることにより以下の効果を奏する。
フッ素がガラス表面近傍に侵入し、ガラス表面近傍のフッ素濃度が、ガラス基板内部のフッ素濃度に比べて高くなる。
HF濃度は2vol%以上がより好ましく、4vol%以上がさらに好ましい。
また、HF濃度を30vol%以下とすることにより以下の効果を奏する。
ガラス表面とHFとの反応により形成されるガラス表面の欠陥が発生するのを抑制し、ガラス基板の強度が低下するのを抑制することができる。HF濃度は26vol%以下がより好ましく、22vol%以下がさらに好ましい。
【0037】
インジェクタ70、80の供給口71、81と板ガラス20の上面24との距離Dは、好ましくは5~50mmである。距離Dは、より好ましくは8mm以上である。また、距離Dは、より好ましくは30mm以下、さらに好ましくは20mm以下である。距離Dを5mm以上とすることにより、例えば地震等によって板ガラス20が振動しても、板ガラス20の上面24とインジェクタ70、80との接触を回避できる。一方、距離Dを50mm以下とすることにより、気体が装置内部で拡散するのを抑制し、所望するガス量に対して、板ガラス20の上面24に充分な量のガスを到達させることができる。
【0038】
インジェクタ70、80の板ガラス20の移動方向の距離Lは、好ましくは100~500mmである。距離Lは、より好ましくは150mm以上、さらに好ましくは200mm以上である。また、距離Lは、より好ましくは450mm以下、さらに好ましくは400mm以下である。距離Lを100mm以上とすることにより、供給口71、81と排気口75、85とを設けることができる。特に、インジェクタ70の距離Lは150mm以上、インジェクタ80の距離Lは100mm以上であることが好ましい。一方、距離Lを500mm以下とすることにより、インジェクタ70、80による板ガラス20の脱熱量を抑制できるため、複数のヒータの出力を抑制できる。
【0039】
インジェクタ70、80の板ガラス20の幅方向の距離は、板ガラス20の該方向の製品領域以上の距離を有することが好ましい。本発明のディスプレイ用ガラス基板の製造方法をオンライン処理として実施する場合、好ましくは3000mm以上、より好ましくは4000mm以上である。
【0040】
また、HFを含有する気体の流速(線速度)は、好ましくは20~300cm/sである。流速(線速度)を20cm/s以上とすることにより、HFを含有する気体の気流が安定し、ガラス表面を一様に処理することができる。流速(線速度)は、より好ましくは50cm/s以上、さらに好ましくは80cm/s以上である。
また、後述するように、本発明のディスプレイ用ガラス基板の製造方法をオンライン処理として実施する場合、流速(線速度)を300cm/s以下とすることにより、気体が徐冷装置の内部で拡散するのを抑制した状態で、ガラスリボンのトップ面に充分な量のガスを到達させることができる。流速(線速度)は、より好ましくは250cm/s以下、さらに好ましくは200cm/s以下である。
【0041】
本発明のディスプレイ用ガラス基板の製造方法はオンライン処理として実施してもよく、オフライン処理として実施してもよい。本明細書における「オンライン処理」とは、フロート法やダウンドロー法などで成形されたガラスリボンを徐冷する徐冷過程において、本発明の方法を適用する場合を指す。一方、「オフライン処理」とは、成形され所望の大きさに切断された板ガラスに対して、本発明の方法を適用する場合を指す。したがって、本明細書における板ガラスは、成形され所望の大きさにカットされた板ガラスに加えて、フロート法やダウンドロー法などで成形されたガラスリボンを含む。
本発明のディスプレイ用ガラス基板の製造方法はオンライン処理として実施することが以下の理由から好ましい。
オフライン処理だと、工程を増やす必要があるのに対し、オンライン処理だと、工程を増やす必要がないので、低コストで処理が可能となる。また、オフライン処理だと、HFを含有する気体が、ガラス基板間で、ガラス基板の半導体素子形成面に回り込むのに対し、ガラスリボンのオンライン処理だと、HFを含有する気体の回り込みを抑制することができる。
【0042】
ディスプレイ用ガラス基板のような板ガラスの製造手順は、ガラス原料を溶解し溶融ガラスとする溶解工程と、上記溶解工程で得られた溶融ガラスを帯状に成形してガラスリボンとする成形工程と、上記成形工程で得られたガラスリボンを徐冷する徐冷工程と、を有する。上記の成形工程としては、フロート法によるフロート成形工程、ダウンドロー法によるダウンドロー成形工程が挙げられる。
本発明のディスプレイ用ガラス基板の製造方法をオンライン処理として実施する場合、上記徐冷工程において、ガラスリボンのトップ面に対しHFを含有する気体を供給する。
【0043】
図3は、本発明の実施形態に係るディスプレイ用ガラス基板の製造方法の説明図であって、フロートガラス製造装置の概略を示す断面図である。
【0044】
図3に示すフロートガラス製造装置100は、ガラス原料10を溶解し溶融ガラス12とする溶解装置200と、溶解装置200から供給される溶融ガラス12を帯状に成形してガラスリボン14とする成形装置300と、成形装置300で成形されたガラスリボン14を徐冷する徐冷装置400とを備える。
【0045】
溶解装置200は、溶融ガラス12を収容する溶解槽210と、溶解槽210内に収容される溶融ガラス12の上方に火炎を形成するバーナ220とを備える。溶解槽210内に投入されたガラス原料10は、バーナ220が形成する火炎からの輻射熱によって溶融ガラス12に徐々に溶け込む。溶融ガラス12は、溶解槽210から成形装置300に連続的に供給される。
【0046】
成形装置300は、溶融スズ310を収容する浴槽320を備える。成形装置300は、溶融スズ310上に連続的に供給される溶融ガラス12を溶融スズ310上で所定方向に流動させることにより帯状に成形し、ガラスリボン14とする。成形装置300内の雰囲気温度は、成形装置300の入口から出口に向かうほど低温となっている。成形装置300内の雰囲気温度は、成形装置300内に設けられるヒータ(不図示)等で調整される。ガラスリボン14は、所定方向に流動しながら冷却され、浴槽320の下流域で溶融スズ310から引き上げられる。溶融スズ310から引き上げられたガラスリボン14は、リフトアウトロール510によって徐冷装置400に搬送される。
【0047】
徐冷装置400は、成形装置300で成形されたガラスリボン14を徐冷する。徐冷装置400は、例えば、断熱構造の徐冷炉410と、徐冷炉410内に配設され、ガラスリボン14を所定方向に搬送する複数の搬送ロール420とを含む。徐冷炉410内の雰囲気温度は、徐冷炉410の入口から出口に向かうほど低温となっている。徐冷炉410内の雰囲気温度は、徐冷炉410内に設けられるヒータ440等で調整される。徐冷炉410の出口から搬出されたガラスリボン14は、切断機で所定のサイズに切断され、製品として出荷される。
【0048】
製品として出荷される前に、必要に応じて、ガラス基板の両表面の少なくとも一方を研磨し、ガラス基板を洗浄してもよい。なお、本発明のディスプレイ用ガラス基板の製造方法はオンライン処理として実施する場合、ガラス基板の半導体素子形成面とは反対側のガラス表面が、ガラスリボン14のトップ面に対応し、半導体素子形成面が、ガラスリボン14のボトム面に対応する。
本発明のディスプレイ用ガラス基板の製造方法では、半導体素子形成面の反対側のガラス表面近傍のフッ素濃度をガラス基板内部のフッ素濃度に比べて高くすることにより、ガラス基板と、吸着ステージとの仕事関数の差を小さくし、ガラス基板の剥離帯電を抑制するため、研磨を実施する場合はガラスリボン14のボトム面のみを研磨するのが好ましい。ガラス基板の半導体素子形成面は、酸化セリウム水溶液を供給しながら研磨具によって研磨する。研磨に際して、酸化セリウム水溶液の一部は、ガラス基板の半導体素子形成面とは反対側のガラス表面に回り込み、スラリー残渣となる。
【0049】
ガラス基板の洗浄は、例えば、シャワー洗浄、ディスクブラシを使用したスラリー洗浄、シャワーリンスによって行われる。スラリー洗浄は、ガラス基板の半導体素子形成面とは反対側のガラス表面に、スラリー(例えば、酸化セリウム水溶液、炭酸カルシウム水溶液)を供給しながらディスクブラシで研磨することにより、半導体素子形成面とは反対側のガラス表面に残っているスラリー残渣を除去する。
【0050】
図3に示すフロートガラス製造装置100は、本発明のディスプレイ用ガラス基板の製造方法をオンライン処理として実施するため、徐冷装置400内のガラスリボン14の上方にインジェクタ70、80が設置されており、このインジェクタ70、80を用いて、ガラスリボン14のトップ面に、フッ化水素(HF)を含有する気体を供給する。なお、
図1、2に示す熱処理装置60、62は、本発明のディスプレイ用ガラス基板の製造方法をオンライン処理として実施する場合、
図3に示す徐冷装置400に対応する。
また、
図3では、インジェクタ70、80は、徐冷装置400内に設置されているが、本発明の別の実施形態に係るフロートガラス製造装置は、HFを含有する気体を供給するガラス表面温度が500~900℃であれば、インジェクタを成形装置300内に設置してもよい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例及び比較例について具体的に説明する。なお、本発明はこれらの記載に限定されるものではない。
オンライン処理として、本発明のディスプレイ用ガラス基板の製造方法を実施した。
図3に示すフロートガラス製造装置100を用いて、SiO
2:59.5%、Al
2O
3:17%、B
2O
3:8%、MgO:3.3%、CaO:4%、SrO:7.6%、BaO:0.1%、ZrO
2:0.1%を含有し、MgO+CaO+SrO+BaO:15%であって、残部が不可避的不純物であり、アルカリ金属酸化物の含有量の合量が0.1%以下である、厚さ0.5mmの無アルカリガラス板を製造した。
【0052】
溶解装置200でガラス原料10を溶解し溶融ガラス12とした後、溶融ガラス12を成形装置300に供給し、溶融ガラス12を帯状に成形してガラスリボン14を得た。成形装置300の出口からガラスリボン14を引き出した後、徐冷装置400内で徐冷した。
徐冷装置400内のガラスリボン14の温度が500℃の位置に、ガラスリボン14の移動方向の距離Lが300mmのインジェクタ70を設置した。
図4は、実験例2におけるインジェクタのスリット幅(a)、処理長(b)、処理幅(c)の関係を示した図である。上記a(mm)、b(mm)、c(mm)、および、HFを含む気体の流量(L/min)、処理時間(sec)、線速(mm/sec)は下記に示す条件とした。
【0053】
a:5mm
b:392mm
c:1200mm
HFを含む気体の流量:120L/min
処理時間:4sec
線速:500mm/sec
【0054】
また、インジェクタ70の供給口71とガラス板20の上面との距離Dは、10mmに設定した。
また、HFを含む気体を供給する際のガラス表面温度(表1中、温度と記載)、HF濃度(vol%)は下記表1に示す条件とした。表1中、例1~例4は実施例、例5は比較例である。
得られたガラス板について、以下に示す評価を実施した。
【0055】
[ガラス表面の平均表面粗さRa]
上記の手順で得られたガラス基板を幅5mm×長さ5mmに切断し、ガラス基板のガラス表面のひずみ度Rsk、算術平均粗さRa、二乗平均平方根粗さRq、最大高さ粗さRz、最大山高さRp、最大谷深さRv(規格番号JIS B0601、規格名称は製品の幾何特性仕様(GPS)-表面性状:輪郭曲線方式-用語,定義及び表面性状パラメータ)を、以下の方法で測定した。ガラス基板のガラス表面を、原子間力顕微鏡(製品名:SPI-3800N、セイコーインスツル社製)を用いて観察した。カンチレバーは、SI-DF40P2を用いた。観察は、スキャンエリア5μm×5μmに対し、ダイナミック・フォース・モードを用いて、スキャンレート1Hzで行った(エリア内データ数:256×256)。この観察に基づき、各測定点での平均表面粗さRaを算出した。計算ソフトは、原子間力顕微鏡に付属のソフト(ソフト名:SPA-400)を用いた。
【0056】
[ガラス基板の剥離帯電量]
上記の手順で得られたガラス基板の剥離帯電量を、以下の方法で測定した。幅410mm×長さ520mm×厚さ0.5mmのガラス基板をSUS304製の真空吸着ステージに接触させた後、ガラス基板の吸着と解放を110サイクル繰り返した。その後、真空吸着ステージから、リフトピンを用いてガラス基板を剥離した。ガラス基板が真空吸着ステージから離れて5cm上昇するまでの表面電位の変化を表面電位計(製品名:MODEL 341B、トレック・ジャパン社製)で測定した。測定結果のピーク値を剥離帯電量とした。
【0057】
【0058】
実施例のガラス基板については、帯電性、透明性について良好な結果が得られたが、比較例のガラス基板については、帯電性、透明性のいずれについても良好な結果を得ることができなかった。
【符号の説明】
【0059】
10 ガラス原料
12 溶融ガラス
14 ガラスリボン
20 板ガラス
22 下面
24 上面
60、62 熱処理装置
70、80 インジェクタ
71、81 供給口
74、84 流路
75、85 排気口
100 フロートガラス製造装置
200 溶解装置
210 溶解槽
220 バーナ
300 成形装置
310 溶融スズ
320 浴槽
400 徐冷装置
410 徐冷炉
420 搬送ロール
440 ヒータ
510 リフトアウトロール