(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】放熱シートとその製造方法および放熱シートの使用方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20220216BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20220216BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
H01L23/36 D
B32B27/18 Z
H05K7/20 F
(21)【出願番号】P 2017242700
(22)【出願日】2017-12-19
【審査請求日】2020-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】山田 厚
【審査官】庄司 一隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-120065(JP,A)
【文献】特開2007-246551(JP,A)
【文献】特開2013-149952(JP,A)
【文献】特表2013-538456(JP,A)
【文献】特開2006-257221(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0061135(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
B32B 27/18
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
順に、
熱伝導性粒子を含有し、有機溶剤により膨潤する樹脂組成物を含み、粘着性を有する第1弾性体層と、
熱伝導性を有する支持体層と、
熱伝導性粒子を含有し、有機溶剤により膨潤する樹脂組成物を含み、粘着性を有する第2弾性体層と、
が積層する積層体を備え、
前記第1弾性体層および前記第2弾性体層の少なくとも一方に前記有機溶剤を含み、
前記第1弾性体層および前記第2弾性体層における前記有機溶剤と前記樹脂組成物の比率は、それぞれ独立して質量比にて0:1~1:8であり、
前記第1弾性体層および/または前記第2弾性体層は放射線が照射された弾性体層である、
放熱シート。
【請求項2】
前記第1弾性体層および前記第2弾性体層の厚さは、それぞれ独立して10μm~20μmである、請求項1に記載の放熱シート。
【請求項3】
順に、
熱伝導性粒子を含有し、有機溶剤により膨潤する樹脂組成物を含み、粘着性を有する第1弾性体層と、
熱伝導性を有する支持体層と、
熱伝導性粒子を含有し、有機溶剤により膨潤する樹脂組成物を含み、粘着性を有する第2弾性体層と、
が積層する積層体の、前記第1弾性体層および/または前記第2弾性体層を、前記有機溶剤により膨潤させる膨潤工程を含み、
前記膨潤工程において、前記有機溶剤と前記第1弾性体層の前記樹脂組成物の比率ならびに前記有機溶剤と前記第2弾性体層の前記樹脂組成物の比率は、それぞれ独立して質量比にて0:1~1:1であり、
前記膨潤工程の前に、前記第1弾性体層および/または前記第2弾性体層に放射線を照射する放射線照射工程を含む、
請求項1または請求項2に記載の放熱シートの製造方法。
【請求項4】
前記放射線が電子線またはガンマ線である、請求項3に記載の放熱シートの製造方法。
【請求項5】
順に、
熱伝導性粒子を含有し、有機溶剤により膨潤する樹脂組成物を含み、粘着性を有する第1弾性体層と、
熱伝導性を有する支持体層と、
熱伝導性粒子を含有し、有機溶剤により膨潤する樹脂組成物を含み、粘着性を有する第2弾性体層と、
が積層する積層体
を備える放熱シートの、前記第1弾性体層および/または前記第2弾性体層を、前記有機溶剤により膨潤させる膨潤工程と、
前記膨潤工程後の前記放熱シートを被着体に圧着する圧着工程と、を含み、
前記膨潤工程において、前記有機溶剤と前記第1弾性体層の前記樹脂組成物の比率ならびに前記有機溶剤と前記第2弾性体層の前記樹脂組成物の比率は、それぞれ独立して質量比にて0:1~1:1であり、
前記膨潤工程の前に、前記第1弾性体層および/または前記第2弾性体層に放射線を照射する放射線照射工程を含む、
放熱シートの使用方法。
【請求項6】
前記放射線が電子線またはガンマ線である、請求項5に記載の放熱シートの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばCPU(中央演算処理装置)、トランジスタ、発光ダイオード(LED)または電力制御素子等の高発熱性部品と、例えばヒートシンク、筐体または配線基板等の放熱冷却部材との間に介在して、両者間に良好な熱的結合を形成するための放熱シートとその製造方法および放熱シートの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力制御素子等の高発熱性部品と放熱冷却部材(放熱器)の間に介在して両者間の熱伝導を補助する放熱グリースや放熱シートなどのThermal Interface Materials(以下、「TIM」とする場合がある)は、例えばシート状または液状の有機化合物等に、熱伝導率の高い粉末充填剤(熱伝導性粒子)等を分散させたものである。例えば放熱グリースとしては、ポリαオレフィン油やシリコーン油等の油剤に、熱伝導性粒子として銀もしくはアルミニウム等の金属、酸化亜鉛もしくは酸化アルミニウム等の金属酸化物、または窒化ホウ素もしくは窒化アルミニウム等の無機窒化物等を分散させたもの等が知られている。また、放熱シートとしては、例えばシリコーン樹脂等の有機樹脂化合物に、熱伝導性粒子として銀もしくはアルミニウム等の金属、酸化亜鉛もしくは酸化アルミニウム等の金属酸化物、または窒化ホウ素もしくは窒化アルミニウム等の無機窒化物等を分散しシート状に形成したもの等が知られている。
【0003】
近年、電力制御機器の大電力動作や電子機器の高速動作の結果、機器からの発熱量は増大する傾向にある。一方で、機器の小型化と発熱デバイスの高密度実装化に伴い、発熱の密度もまた上昇する傾向にある。このような発熱の量的増大と高密度化に対応して、機器の性能を長期に渡り安定に維持するため、機器内での発熱を効率的に除去する必要性から、高発熱性部品と放熱器との間に従来よりも熱抵抗の低いTIM層を形成することが求められている。
【0004】
放熱グリースに代表される液状TIMは、滴下や印刷による高発熱性部品や放熱冷却部材への自動塗布が可能である。しかしながら、熱伝導性粒子の沈降堆積や熱伝導性粒子の表面活性に起因する油剤の化学変化等により、放熱グリースが徐々に変質する場合があるため、塗布装置内での放熱グリースの滞留や在庫品の保管については、比較的短期の期限管理が必要となる。また、熱伝導率を高くするために、放熱グリース中の熱伝導性粒子の含有量を増加させると、放熱グリースの流動性が失われるおそれがあり、自動塗布が困難となる場合がある。さらに、放熱グリースの流動性が失われると、塗布された液状TIMを介して高発熱性部品と放熱器を圧接する際に、これらの間から余剰の液状TIMを排出することが困難となる場合があり、厚いTIM層が形成され高発熱性部品と放熱器との間の熱抵抗が高くなってしまうおそれがある。加えて、放熱グリースの流動性が失われると、高発熱性部品の表面や放熱器の表面の微視的な凹凸に放熱グリースが入り込んで密着することが困難となる場合があるため、高発熱性部品の表面や放熱器の表面との界面の熱抵抗が増加してしまうおそれがある。
【0005】
一方、放熱シートに代表されるシート状TIMは、大判形状とすることで比較的長期の保管が可能である。また、シート状TIMを予め適当な寸法に切断した小片を配置すれば、一定量のシート状TIMを高発熱性部品と放熱器との間に供給できるので、手作業での取扱いも容易であり、少量多品種の生産への適応性が高い。しかしながら、シート状TIMは、その表面と高発熱性部品の表面や放熱器の表面との間に気泡が介在し易く、気泡によりTIMと高発熱性部品の表面や放熱器の表面との界面の接触面積が減少すると、これらの界面の熱抵抗が大きくなってしまうおそれがある。特に、高発熱性部品と放熱器との間の間隙が場所により大きく変動している場合には、シート状TIMでは間隙の大きさの変化に追随することが困難となるおそれがあり、また液状TIMのように間隙の小さな部位から大きな部位への液状TIMの移動によって間隙にTIMを充填することも困難となるおそれがあるため、特に気泡が残り易い。
【0006】
シート状TIMは、流動性を確保する必要のある液状TIMとは異なり、比較的多量の熱伝導性粒子を含有させることができるため、液状TIMと比べて高い熱伝導率を得ることが可能である。しかしながら、更に高い熱伝導率を得る目的でシート状TIMへ更に多量の熱伝導性粒子を含有させると、シートの柔軟性が失われ、高発熱性部品の表面や放熱器の表面の巨視的な凹凸や湾曲に追随して変形することにより密着することが困難となるおそれがあるため、これらの部材表面との界面において熱抵抗が大きくなってしまう場合がある。また、シート状TIMは、液状TIMのような流動性を持たないため、これら部材表面の微視的な凹凸へ追随して密着することは、より困難となる場合がある。
【0007】
シート状TIMの取り扱いの容易性と、液状TIMの非平滑な表面や非平坦な表面への追随性を兼備した技術としては、フェイズ・チェンジ・シートが知られている。フェイズ・チェンジ・シートとしては、パラフィンのように高温で軟化流動する素材に熱伝導性粒子を含有させたものが挙げられる。室温近傍ではシート状の固形物であるので、これを小片化して容易に装着することが可能であり、保管安定性にも優れている。そして、高発熱性部品と放熱器との間に介在させた後に、フェイズ・チェンジ・シートを加熱して軟化させ、流動を促すことによって、高発熱性部品と放熱器の間を充填することが可能となっている。
【0008】
しかしながら、フェイズ・チェンジ・シートは、室温近傍ではシート状TIMであるので、例えば室温にて高発熱性部品と放熱器の間にフェイズ・チェンジ・シートを装着するときに、気泡が介在し易いという問題は解決されていない。また、一旦形成された気泡は、高温でフェイズ・チェンジ・シートを流動化させるのみだけでは容易に排出されないので、気泡によりTIMと高発熱性部品の表面や放熱器の表面との接触面積が減少して、これらの部材表面との界面の熱抵抗が大きくなってしまう問題は、解決することが困難である。
【0009】
また、フェイズ・チェンジ・シートの熱伝導率を高くするために、熱伝導性粒子の含有量を増加させると、溶融時の流動性を確保することが困難となる場合がある。このため、高発熱性部品の表面や放熱器の表面との密着性が低下して、かえって熱伝達が阻害されるという問題点は、放熱グリースにおいて熱伝導性粒子の含有量を増加させることによる弊害と全く同様であり、解決することが困難である。
【0010】
シート状TIMにおいて、粘着剤層の粘性を小さく設定することにより気泡の混入を防ぎ、大きな接着面積と接着強度を得ようとする試みは、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1によれば、被着体の熱によって加温された粘着剤層の50℃における損失弾性率G”が5×105Pa以下であることで、発熱体や放熱体の表面に対する粘着剤層の馴染みが良好になる。これにより、熱伝導性粘着シートと被着体との接触面積を十分に確保することができるため、接触熱抵抗を低下させることができるものとされている。
【0011】
また、例えば特許文献2には、前記粘着剤層が0.1~1.0μmの中心線平均表面粗さを有することにより、被着体との界面に気泡が残存することを防止でき、かつ、接着力に優れた薄型の粘着シートが開示されている。
【0012】
多孔質体を用いた熱伝導性シートは、例えば特許文献3~5で提案されている。特許文献3には、連続気泡をもったポリオレフィン系樹脂からなる発泡体の気泡膜中に炭化ケイ素からなる放熱材を含有することを特徴とする放熱材料が開示されている。この放熱材料は、樹脂、放熱材および発泡剤を加熱混練した後、プレス成形によってシート化し、これをさらに高温で加熱することによって製造することができる。
【0013】
そして、特許文献4には、40℃以上で発泡する発泡剤および高熱伝導性フィラーを含む樹脂組成物から形成された発泡性高熱伝導層を少なくとも備えていることを特徴とする熱伝導材が開示されている。この熱伝導材は、アクリル重合体、熱伝導性フィラーおよび発泡剤等を溶剤中で混合して塗工溶液を調製した後、その塗工溶液を基材上に塗布し、加熱乾燥することによって製造することができる。
【0014】
また、特許文献5には、放熱ゲルまたは放熱グリースからなる放熱材を、連続気泡を有する放熱基材に含浸させて海綿状放熱体を形成することを特徴とする放熱シートが開示されている。この放熱シートは、ウレタン発泡体にシリコーン配合剤(例えば、熱硬化性シリコーン樹脂および熱伝導性フィラー)を含浸させた後、シリコーン配合剤を加熱硬化させることによって製造することができる。
【0015】
表面粘着性を有する放熱シートは単一構造に限定されず、複数の材料が積層複合化された熱伝導性シートが知られている。例えば、特許文献6では金属箔と特定硬度の放熱シリコーンシートの積層構造が、特許文献7では金属製の網目状物等と複合化した特定硬度の放熱シートが、特許文献8では高熱伝導率の金属製の金網を備えた伝熱性シートを利用した半導体装置の冷却構造が開示されている。これらの構成は、高い熱伝導性を意図したものであり、剛性が大きい金属製の箔や金属製の網目状物を熱伝導性シートに複合化している。そして、特許文献9には、シリコーンゴム層とグラファイトフィルムを積層した構造の高熱伝導性電磁波シールドシートが開示されている。また、特許文献10には、シリコーンゴム層と、炭素繊維または金属被覆繊維等の導電性繊維とをシート化したものを積層した構造の高熱伝導性電磁波シールドシートが開示されている。さらに、特許文献11には、所定厚みの金属箔を放熱体として用い、該金属箔の片面に、熱伝導性を有する粘着剤層を形成することで、放熱体と熱伝導性粘着シートとを一体的に形成した金属箔付き熱伝導性粘着シートが開示されている。
【0016】
放熱シート単体では、部材表面の巨視的な凹凸や湾曲に追随変形して密着することが困難な場合がある。この場合に、放熱シートと部材の間に熱伝導性粒子が配合された放熱グリース層を介在させることによって、熱伝導性を維持しながら密着性を改善することは、従来より行われている。しかしながら、放熱シートの表面に熱伝導性粒子が配合された高粘度の放熱グリースを塗布すると、全体として厚いTIM層となり熱抵抗が増大してしまう。TIM層が厚くなることを許容可能な用途の代表例は、放熱シートにより一定以上の間隙を維持することで一定以上の電気絶縁耐圧を確保することを主目的とする用途であって、高い熱伝導性を得ることが目的とはなっていない。
【0017】
上記のように、高発熱性部品と放熱器の間に高い熱伝導率のTIMを導入しようとすると、液状TIMおよびシート状TIMのいずれの場合であっても、多量の熱伝導性粒子が含有することに起因して、密着性が低下したり、気泡が混入したりすることにより、熱伝達が阻害されるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】国際公開第2011/145523号
【文献】特開2016-155950号公報
【文献】特開平10-72534号公報
【文献】特開2002-317046号公報
【文献】特開2003-31980号公報
【文献】特開平6-291226号公報
【文献】特開平7-14950号公報
【文献】特開平9-55456号公報
【文献】特開平11-340673号公報
【文献】特開平11-317592号公報
【文献】特開平11-186473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上記問題点に鑑み、本発明は、高発熱性部品と放熱冷却部材の間に良好な熱伝導性を確保することができる放熱シートとその製造方法および放熱シートの使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、本発明の放熱シートは、順に、熱伝導性粒子を含有し、有機溶剤により膨潤する樹脂組成物を含み、粘着性を有する第1弾性体層と、熱伝導性を有する支持体層と、熱伝導性粒子を含有し、有機溶剤により膨潤する樹脂組成物を含み、粘着性を有する第2弾性体層と、が積層する積層体を備え、前記第1弾性体層および前記第2弾性体層の少なくとも一方に前記有機溶剤を含み、前記第1弾性体層および前記第2弾性体層における前記有機溶剤と前記樹脂組成物の比率は、それぞれ独立して質量比にて0:1~1:8である。
【0021】
前記第1弾性体層および前記第2弾性体層の厚さは、それぞれ独立して10μm~20μmであってもよい。
【0022】
また、上記課題を解決するために、本発明の放熱シートの製造方法は、前記放熱シートを製造する方法であって、順に、熱伝導性粒子を含有し、有機溶剤により膨潤する樹脂組成物を含み、粘着性を有する第1弾性体層と、熱伝導性を有する支持体層と、熱伝導性粒子を含有し、有機溶剤により膨潤する樹脂組成物を含み、粘着性を有する第2弾性体層と、が積層する積層体の、前記第1弾性体層および/または前記第2弾性体層を、前記有機溶剤により膨潤させる膨潤工程を含み、前記膨潤工程において、前記有機溶剤と前記第1弾性体層の前記樹脂組成物の比率ならびに前記有機溶剤と前記第2弾性体層の前記樹脂組成物の比率は、それぞれ独立して質量比にて0:1~1:1である。
【0023】
前記膨潤工程の前に、前記第1弾性体層および/または前記第2弾性体層に放射線を照射する放射線照射工程を含んでもよい。
【0024】
前記放射線が電子線またはガンマ線であってもよい。
【0025】
また、上記課題を解決するために、本発明の放熱シートの使用方法は、順に、熱伝導性粒子を含有し、有機溶剤により膨潤する樹脂組成物を含み、粘着性を有する第1弾性体層と、熱伝導性を有する支持体層と、熱伝導性粒子を含有し、有機溶剤により膨潤する樹脂組成物を含み、粘着性を有する第2弾性体層と、が積層する積層体の、前記第1弾性体層および/または前記第2弾性体層を、前記有機溶剤により膨潤させる膨潤工程と、前記膨潤工程後の前記放熱シートを被着体に圧着する圧着工程と、を含み、前記膨潤工程において、前記有機溶剤と前記第1弾性体層の前記樹脂組成物の比率ならびに前記有機溶剤と前記第2弾性体層の前記樹脂組成物の比率は、それぞれ独立して質量比にて0:1~1:1である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、高発熱性部品と放熱冷却部材の間に良好な熱伝導性を確保することができる放熱シートとその製造方法および放熱シートの使用方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態に係る放熱シートの断面を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る放熱シートの製造方法の一例を示すフロー図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る放熱シートの使用方法の一例を示すフロー図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る放熱シートの使用例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る放熱シート、放熱シートの製造方法および放熱シートの使用方法について説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能である。
【0029】
〈放熱シート〉
本発明の一実施形態に係る放熱シートは、順に、第1弾性体層と、支持体層と、第2弾性体層とが積層する積層体を備える。すなわち、前記支持体層が前記第1弾性体層と前記第2弾性体層との間にある。
【0030】
(第1弾性体層)
前記第1弾性体層は、熱伝導性粒子を含有し、有機溶剤により膨潤する樹脂組成物を含む。すなわち、この樹脂組成物は、熱伝導性粒子を含有する。熱伝導性粒子としては、熱伝導性のあるものとして、金属粒子が挙げられ、例えば金、銀、銅等の粒子を用いることができる。特に、銅粒子は、第1弾性体層から流出し難い高比重であり、熱伝導性に優れ、また、コストも比較的安価であるため、用いることが好ましい。
【0031】
そして、熱伝導性粒子の形状は、針状、球状、鱗片状等のものを使用することができる。特に球状であれば、第1弾性体層中に多量の熱伝導性粒子を含有させることができ、高い熱伝導率を付与することができるため、より好ましい。
【0032】
次に、熱伝導性粒子の大きさは、最大粒子径が20μm以下であることにより、第1弾性体層中において粒子が均一な分散状態となるため、弾性性能を維持しつつ、優れた熱伝導性を付与することができる。特に、熱伝導性粒子の最大粒子径が10μm以下であれば、より高濃度の熱伝導性粒子を均一な分散状態とすることができる。
【0033】
また、第1弾性体層中における熱伝導性粒子の含有量は、30質量%~70質量%であることが好ましい。この範囲の含有量であることにより、弾性性能と熱伝導性の両方を満足することが容易となる。かかる含有量が30質量%未満であると、熱伝導性を満足しない場合がある。また、かかる含有量が70質量%以上であると、弾性を満足しないことで密着性が不良となるおそれがある。特に、かかる含有量が50質量%~70質量%であることにより、多量の熱伝導性粒子を含有しつつ、被着体となる高発熱性部品や放熱冷却部材との密着界面における気泡の混入を防止し、被着体との密着性を満足する第1弾性体層とすることができる。
【0034】
次に、前記第1弾性体層は、粘着性を有する。これにより、被着体へ良好に密着することができる。粘着性は、第1弾性体層が粘着性を有する樹脂組成物(以下、「粘着性樹脂組成物」とする場合がある)を含むことにより、付与することができる。粘着性樹脂組成物としては、乾燥塗膜の状態で表面タックを有するものであれば、特に限定されないが、例えば、エチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ロジン等を樹脂成分として含有する組成物を例示することが出来る。その他の粘着性樹脂組成物としては、アクリル系粘着性樹脂、シリコーン系粘着性樹脂、ウレタン系粘着性樹脂、ビニルアルキルエーテル系粘着性樹脂、ビニルピロリドン系粘着性樹脂、アクリルアミド系粘着性樹脂、セルロース系粘着性樹脂、ゴム系粘着性樹脂等を樹脂成分として含有する組成物が挙げられる。これらの粘着性樹脂組成物は、本発明の目的が阻害されない範囲内で、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。また、粘着性樹脂組成物としては、樹脂成分の他に溶剤や添加剤等を含んでもよい。また、粘着性樹脂組成物は、「熱伝導性粒子を含有する、有機溶剤により膨潤する樹脂組成物」であってもよい。例えば、上記にて例示した樹脂成分に熱伝導性粒子が分散した組成物が、粘着性樹脂組成物として挙げられる。
【0035】
そして、第1弾性体層中における粘着性樹脂組成物の含有量は、20質量%~50質量%であることが好ましい。この範囲の含有量であることにより、熱伝導性に優れ、更に弾性性能と粘着性の両方を満足する第1弾性体層とすることが容易となる。かかる含有量が20質量%未満であると、弾性性能を満足しない場合がある。また、かかる含有量が50質量%以上であると、弾性性能と粘着性を満足するものの、熱伝導性粒子の含有量が少なくなるため、熱伝導性を満足しないおそれがある。特に、かかる含有量が30質量%~40質量%であることにより、熱伝導性粒子と粘着性樹脂組成物の含有量のバランスがとれることで、多量の熱伝導性粒子を含有しつつ、被着体となる高発熱性部品や放熱冷却部材との密着界面における気泡の混入を防止し、被着体との密着性を満足する第1弾性体層とすることができる。
【0036】
(支持体層)
次に、前記支持体層は、熱伝導性を有する。支持体層があることにより、例えば大判形状の放熱シートとすることができ、放熱グリースと比較して長期の保管が可能である。さらに、放熱シートであれば、適当な寸法に切断して小片を配置することができ、一定量の放熱シートを高発熱性部品と放熱冷却部材との間に供給できるので、手作業での取扱いも容易であり、少量多品種の生産への適応性を高めることができる。また、熱伝導性の支持体層があることにより、放熱シートが高発熱性部品と密着する密着面と平行な方向において、支持体層を介して高発熱性部品からの熱が放熱され易くなる効果が期待できる。
【0037】
熱伝導性を有する支持体層としては、金属製のシート形状のものを使用することができ、例えば金、銀、銅、黄銅、銀入り銅等の熱伝導性に優れる銅含有合金、軽量性に優れるアルミニウムおよびアルミニウム含有合金等のシートを用いることができる。特に、銅製のシートであれば、熱伝導性に優れ、また、コストも比較的安価であるため、用いることが好ましい。
【0038】
支持体層の厚みは、放熱シートとしての柔軟性を満足すれば、特に限定されないが、一般的には10μm~50μmの厚みの支持体層を用いる。
【0039】
(第2弾性体層)
前記第2弾性体層は、熱伝導性粒子を含有し、有機溶剤により膨潤する樹脂組成物を含み、粘着性を有する。前記第2弾性体層の詳細は、前記第1弾性体層と同様であり、記載を省略する。ただし、前記第2弾性体層は、前記第1弾性体層とは異なる熱伝導性粒子や有機溶剤により膨潤する樹脂組成物等の材料を、異なる含有量で含有することができる。例えば前記第1弾性体層には銅粒子を用い、前記第2弾性体層には左記銅粒子よりも多い銀粒子を用いることができる。また、前記第1弾性体層と前記第2弾性体層を同一の弾性体層とすることができる。
【0040】
前記第1弾性体層および前記第2弾性体層の少なくとも一方に前記有機溶剤を含み、前記第1弾性体層および前記第2弾性体層における前記有機溶剤と前記樹脂組成物の比率は、それぞれ独立して質量比にて0:1~1:8である。例えば、前記第1弾性体層における有機溶剤の割合を前記第2弾性体層の有機溶剤よりも高く設定することや、低く設定することができ、また同じ割合に設定することもできる。すなわち、被着体との密着界面における気泡の混入や、被着体との密着性を考慮して、前記第1弾性体層と前記第2弾性体層のそれぞれについて、任意の有機溶剤と樹脂組成物の比率とすることができ、好適な膨潤状態に調製することができる。
【0041】
前記樹脂組成物としては、有機溶剤により膨潤するものであれよく、前記第1弾性体層および/または前記第2弾性体層は、その表面が多孔質であれば、有機溶剤が浸透しやすくなることで、樹脂組成物の膨潤が容易となるため、好ましい。なお、前記第1弾性体層および前記第2弾性体層は、その少なくとも一方に有機溶剤により膨潤した樹脂組成物であってもよく、第1、第2弾性体層の両方が有機溶剤により膨潤した樹脂組成物であってもよい。また、前記第1弾性体層および/または前記第2弾性体層は、粘着性と膨潤性を兼ねる単一層の構造を備えてもよく、表面に粘着層が配されて、内部に有機溶剤により膨潤する樹脂組成物層が配された多層構造を備えてもよい。
【0042】
用いることのできる有機溶媒としては、前記樹脂組成物を膨潤させることができるものであれば、特に限定されない。膨潤対象となる前記樹脂組成物との組み合わせにもよるが、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、エタノール、エーテル、ベンゼン、ヘキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール等を例示することが出来る。また、シリコーン、α-オレフィン等の油剤であれば、多孔質への浸透性を満足し、揮発性がないことにより、可使時間が長くとれるとともに、弾性状態を長く保持することができる。
【0043】
上記のように、有機溶剤を適宜含めることで、前記第1弾性体層および前記第2弾性体層の弾性を調製することができる。所定の弾性に調製することで、被着体の密着対象面の凹凸に追随して、被着体との密着界面における気泡の混入を防止し、被着体との良好な密着性を発揮することができる。その結果として、高発熱性部品と放熱冷却部材の間に良好な熱伝導性を確保することができる。より適切な弾性に調製すれば、左記の良好な熱伝導性を満足しつつ、高発熱性部品と放熱冷却部材の間に放熱シートを配する際の取り扱い性に優れ、位置づれによる放熱シートの再配置等が容易となる。
【0044】
前記第1弾性体層および前記第2弾性体層の弾性が不十分である場合には、被着体の密着対象面の凹凸への追随が不十分となる場合があり、気泡が混入するおそれや、被着体との密着性を満足しないおそれがある。また、かかる弾性が過剰である場合には、高発熱性部品と放熱冷却部材の間に圧着した場合において、これらの間からはみ出してしまい、付近の回路に付着してその回路を短絡させるおそれがある。
【0045】
前記第1弾性体層の厚さと前記第2弾性体層の厚さは、被着体の密着対象面の表面粗さを考慮して、それぞれ独立して密着対象面の最大高さ(Rmax)の10倍~20倍に設定することで、良好な密着性を満足することができる。具体的には、Rmaxが1μmの場合、弾性体層の厚さを10μm~20μmとすれば、弾性体層が被着体の表面の微細な凹凸に追随して、被着体との良好な密着性を発揮することができる。また、被着体との密着性を考慮して、前記第1弾性体層と前記第2弾性体層のそれぞれについて独立して、好適な厚さに設定することができる。すなわち、前記第1弾性体層の厚さを前記第2弾性体層の厚さよりも大きくすることや、小さくすること、または同じ厚さに設定することができる。
【0046】
図1は、本発明の一実施形態に係る放熱シートの断面を示す模式図である。放熱シート10は、順に第1弾性体層1と、支持体層2と、第2弾性体層3が積層する積層体4
構造を
有している。
図1には図示しないが、放熱シート10は、積層体4の他、第1弾性体層1や第2弾性体層3の表面を保護する保護シートや、放熱シート10の切断を容易とするミシン目等を備えることができる。
【0047】
本発明の一実施形態に係る放熱シートは、被着体との界面に気泡が残存しにくいのみならず、TIM層の厚さを抑え低い熱抵抗を確保することができる。さらに、放熱シートの表面および表面に含有される熱伝導性粒子の再配置によって、被着体の密着対象面の凹凸に追従し、密着性についても確保することが出来るという効果を奏する。
【0048】
〈放熱シートの製造方法〉
本発明の一実施形態に係る放熱シートの製造方法は、順に、第1弾性体層と、支持体層と、第2弾性体層とが積層する積層体の前記第1弾性体層および/または前記第2弾性体層を、有機溶剤により膨潤させる膨潤工程を含む。
【0049】
前記第1弾性体層および前記第2弾性体層は、熱伝導性粒子を含有し、有機溶剤により膨潤する樹脂組成物を含む。熱伝導性粒子および有機溶剤により膨潤する樹脂組成物の詳細は、放熱シートにおいて説明した内容と同様であり、記載を省略する。ただし、前記第2弾性体層は、前記第1弾性体層とは異なる材料を異なる含有量で含有することができる。例えば前記第1弾性体層には銅粒子と用い、前記第2弾性体層には左記銅粒子よりも多い銀粒子を用いることができる。また、前記第1弾性体層と前記第2弾性体層を同一の弾性体層とすることができる。前記第1弾性体層および/または前記第2弾性体層は、その表面が多孔質であることにより、有機溶剤が浸透しやすくなることで、樹脂組成物の膨潤が容易となる。また、前記第1弾性体層および/または前記第2弾性体層は、粘着性と膨潤性を兼ねる単一層の構造を備えてもよく、表面に粘着層が配されて、内部に有機溶剤により膨潤する樹脂組成物を備える膨潤体層が配された多層構造を備えてもよい。
【0050】
前記膨潤工程において用いることのできる有機溶媒としては、樹脂組成物を膨潤させることができるものであれば、特に限定されない。膨潤対象となる樹脂組成物との組み合わせにもよるが、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、エタノール、エーテル、ベンゼン、ヘキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール等を例示することが出来る。また、シリコーン、α-オレフィン等の油剤を用いることができる。
【0051】
前記膨潤工程において、前記有機溶剤と前記第1弾性体層の前記樹脂組成物の比率ならびに前記有機溶剤と前記第2弾性体層の前記樹脂組成物の比率は、それぞれ独立して質量比にて0:1~1:1である。例えば、前記第1弾性体層における有機溶剤の割合を前記第2弾性体層の有機溶剤よりも高く設定することや、低く設定することができ、また同じ割合に設定することもできる。すなわち、被着体との密着界面における気泡の混入や、被着体との密着性を考慮して、前記第1弾性体層と前記第2弾性体層のそれぞれについて、任意の有機溶剤と樹脂組成物の比率とすることができ、好適な膨潤状態に調製することができる。
【0052】
また、前記支持体層は熱伝導性を有する。支持体層の詳細は、放熱シートにおいて説明した内容と同様であり、記載を省略する。
【0053】
以下、本発明の一実施形態に係る放熱シートの製造方法について、
図2に示すフロー図を参照しつつ、説明する。
【0054】
(樹脂溶液の調製工程)
第1弾性体層や第2弾性体層に含まれる樹脂組成物を、予め樹脂溶液の状態に調整する工程である(
図2 S1)。ここでは、樹脂成分を、当該樹脂成分を溶解する溶剤に溶解させ、樹脂溶液とする。樹脂成分としては、放熱シートにおいて説明したものを単独または組み合わせたものを使用することができる。また、この工程において樹脂の原料となるモノマー各種と溶剤とを所定温度条件下で混合して重合させて樹脂成分を調製することができる。
【0055】
モノマーを重合させる場合において、使用可能なモノマーとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート等を使用することができる。
【0056】
なお、溶剤は、樹脂成分を溶解することのできる溶剤であれば、特に限定されず、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、エタノール、エーテル、ベンゼン、ヘキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール等を使用することができる。
【0057】
(膨潤性樹脂組成物の調製工程)
上記にて調整した樹脂溶液と、少なくとも熱伝導性粒子とを混合し、膨潤性樹脂組成物を調製する工程である(
図2 S2)。樹脂溶液中の樹脂成分が、乾燥後に表面タックを有する等により粘着性を有するものであれば、必ずしも必要ではないが、樹脂成分が粘着性を有しないものであれば、別途、接着付与剤を混合することができる。接着付与剤は、弾性体層に粘着性をもたせることで接着性を付与するものであれば、特に限定されない。例えば、乾燥状態で表面タックを有するロジン系粘着付与剤、重合ロジン系粘着付与剤、重合ロジンエステル系粘着付与剤ロジンフェノール系粘着付与剤テルペン系粘着付与剤、テルペンフェノール系粘着付与剤、スチレン系粘着付与剤等が粘着性付与剤として挙げられる。また、膨潤性樹脂組成物の固形分を調製するべく、酢酸エチル、酢酸ブチル、エタノール、エーテル、ベンゼン、ヘキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール等の溶剤を混合することができる。
【0058】
さらに、膨潤性樹脂組成物を調製する工程では、弾性体層をより柔軟にしてクッション性を付与するべく、さらに発泡剤を混合することができる。発泡剤としては、弾性体層にクッション性を付与できるものであれば特に限定されない。
【0059】
(積層体形成工程)
上記にて調整した膨潤性樹脂組成物を用いて、支持体へ第1弾性体層および/または第2弾性体層を形成して積層体を得る工程である(
図2 S3)。これらの弾性体層は、例えば支持体の片面または両面に膨潤性樹脂組成物を塗布して乾燥させることにより、形成することができる。この工程により、膨潤工程前の、弾性体層が膨潤していない放熱シート(第1放熱シート)を得ることができる。
【0060】
膨潤性樹脂組成物の塗布量は、弾性体層の乾燥膜厚の設定値と、当該樹脂組成物の固形分を考慮して、適宜設定することができる。例えば、厚さ10μm~50μmの導電性の支持体の一方の面に、乾燥膜厚が10μm~20μmとなるように膨潤性樹脂組成物を塗布して、50℃~150℃で10分~90分乾燥することにより、第1弾性体層を形成することができる。その後、第1弾性体層を形成した面とは反対の面に、乾燥膜厚が10μm~20μmとなるように膨潤性樹脂組成物を塗布して、50℃~150℃で10分~90分乾燥することにより、第2弾性体層を形成することができる。
【0061】
(放射線照射工程)
放熱シートの製造方法では、第1放熱シートを用いて膨潤工程へ進めることができるが、その前に前記第1弾性体層および/または前記第2弾性体層に放射線を照射する放射線照射工程を含んでもよい(
図2 S4)。例えば、この工程により、弾性体層中の樹脂成分の架橋を切断することで平均分子量を低下させることにより、弾性体層の表面から内部へ有機溶媒を浸透させて浸潤させた弾性体層の弾性を、第1放熱シートよりも高くした第2放熱シートを得ることができる。そして、第2放熱シートであれば、膨潤後の弾性体層は第1放熱シートの場合と比べて、より流動的に変形可能となるので、弾性体層に含有する熱伝導性粒子の再配置を伴って、被着体の密着対象面の微細な凹凸に追従することが可能である。その結果、より多量の熱伝導性粒子を含有しつつ、被着体との密着界面における気泡の混入を防止し、被着体とのより高い密着性を満足することができる。
【0062】
この工程に用いる放射線は、樹脂成分の架橋を切断することができるものであれば特に限定されないが、たとえば、電子線またはガンマ線、紫外線を用いることができる。
【0063】
また、放射線の照射量は、樹脂成分の架橋を切断してより弾性を高めることができるよう、任意に設定することができる。例えば、吸収線量として50kGy~500kGyとすることができる。
【0064】
(膨潤工程)
前記の第1放熱シートまたは第2放熱シートの第1弾性体層および/または第2弾性体層を、有機溶剤により膨潤させる工程である(
図2 S5)。膨潤工程としては、例えば
図3に示すように、第1放熱シートまたは第2放熱シートの弾性体層に有機溶剤を滴下することで膨潤させる工程(
図3(a) S5a)や、被着体の密着対象面に有機溶剤を滴下して(
図3(b) S6)、その後、被着体と第1放熱シートまたは第2放熱シートを圧着させて(
図3(b) S7b)、密着対象面の有機溶剤が弾性体層へ浸透させることにより、膨潤させる工程(
図3(b) S5b)が挙げられる。
【0065】
第1放熱シートまたは第2放熱シートの弾性体層に有機溶剤を滴下することで膨潤させる工程(
図3(a) S5a)では、例えば有機溶剤を滴下して30秒~5分程度放置することにより、弾性体層を膨潤させることができる。放置時間が短いと、十分に膨潤しない場合があり、また、放置時間が長いと、溶剤が弾性体層から揮発して弾性が低下してしまう場合がある。
【0066】
〈放熱シートの使用方法〉
本発明の一実施形態に係る放熱シートの使用方法は、順に、第1弾性体層と、支持体層と、第2弾性体層とが積層する積層体の前記第1弾性体層および/または前記第2弾性体層を、有機溶剤により膨潤させる膨潤工程と、膨潤工程後の放熱シートを被着体に圧着する圧着工程とを含む。
【0067】
(膨潤工程)
第1弾性体層、支持体層、第2弾性体層、積層体、有機溶剤および膨潤工程については、放熱シートの製造方法において説明した内容と同様であり、記載を省略する。
【0068】
(圧着工程)
以下、圧着工程について、
図3に示すフロー図を参照しつつ、説明する。例えば、
図3(a)に示すように、第1放熱シートまたは第2放熱シートの弾性体層に有機溶剤を滴下することで膨潤させる工程(
図3(a) S5a)の後に、放熱シートと被着体とを圧着することができる。この工程により、放熱シートを高発熱性部品と放熱冷却部材との間に供給することができ、被着体の密着対象面の凹凸に追随して、被着体との密着界面における気泡の混入を防止し、被着体との良好な密着性を発揮することができる。
【0069】
圧着条件は、被着体との良好な密着性を発揮することができれば特に限定されない。例えば、20℃~30℃の温度条件下において、放熱シートを高発熱性部品と放熱冷却部材に密着させた後、5秒~30秒の間、密着面に1kg/cm2~5kg/cm2の圧力を加えることにより、圧着することができる。
【0070】
また、
図3(b)に示すように、被着体の密着対象面に有機溶剤を滴下して(
図3(b) S6)、その後、被着体と第1放熱シートまたは第2放熱シートを圧着することができる(
図3(b) S7b)。圧着の条件は、上記と同様とすることができる。このS7bの圧着工程は、密着対象面の有機溶剤が弾性体層へ浸透して弾性体層を膨潤させる工程(
図3(b) S5b)も兼ねることができる。
【0071】
本発明の放熱シートの使用方法において、上記のように、有機溶剤を適宜含めることで、前記第1弾性体層および前記第2弾性体層の弾性を調製することができる。所定の弾性に調製することで、被着体の密着対象面の凹凸に追随して、被着体との密着界面における気泡の混入を防止し、被着体との良好な密着性を発揮することができる。その結果として、高発熱性部品と放熱冷却部材の間に良好な熱伝導性を確保することができる。より適切な弾性に調製すれば、左記の良好な熱伝導性を満足しつつ、高発熱性部品と放熱冷却部材の間に放熱シートを配する際の取り扱い性に優れ、位置づれによる放熱シートの再配置等が容易となる。なお、弾性は、第1弾性体層および/または第2弾性体層が有機溶剤により膨潤した後の弾性体層の弾性である。
【0072】
前記第1弾性体層および前記第2弾性体層の弾性が不十分である場合には、被着体の密着対象面の凹凸への追随が不十分となる場合があり、気泡が混入するおそれや、被着体との密着性を満足しないおそれがある。また、かかる弾性が過剰である場合には、高発熱性部品と放熱冷却部材の間に圧着した場合において、これらの間からはみ出してしまい、付近の回路に付着してその回路を短絡させるおそれがある。
【0073】
前記第1弾性体層および前記第2弾性体層の弾性は、それぞれ独立して設定することができる。例えば、前記第1弾性体層の弾性を前記第2弾性体層の弾性よりも高く設定することや、低く設定することができ、また同じ弾性に設定することもできる。すなわち、被着体との密着界面における気泡の混入や、被着体との密着性を考慮して、前記第1弾性体層と前記第2弾性体層のそれぞれについて、好適な弾性に設定することができる。
【0074】
上記した圧着工程により、放熱シートを高発熱性部品と放熱冷却部材の間に圧着すると、弾性体層に浸透しなかった余剰な有機溶剤が流動して、高発熱性部品または放熱冷却部材の外縁から排出される。この溶剤の排出により、第1弾性体層および第2弾性体層における有機溶剤と樹脂組成物の比率が変わり、それぞれ独立して質量比にて0:1~1:1から0:1~1:8となる。また、これと共に、軟化した弾性体層の介在により、高発熱性部品および放熱冷却部材と、放熱シートとが密着する。軟化した弾性体層は、変形することにより、被着体の表面の微細な凹凸に追従することが可能である。この軟化した弾性体層の内部においては、熱伝導性粒子の介在により良好な熱伝達が可能なので、放熱シートと、高発熱性部品および放熱冷却部材といった被着体との間で、従来よりも効率的な熱交換が可能となっている。有機溶剤の余剰分が排出されることと、熱伝導性粒子の最大粒子径が20μm以下と、放熱シートの典型的な厚さである50μm~100μmよりも小さいことにより、極薄い弾性体層が介在する形態であることも、放熱シートと被着体との間の効率的な熱交換を可能とする。
【0075】
(放熱シートの使用例)
以下、上記にて説明した本発明の一実施形態に係る放熱シートについて、
図4の断面模式図を参照しつつ、その使用例を説明する。
【0076】
図4(a)に示す積層体100は、銅またはアルミニウムからなる金属板20の上にはんだ30とパワー半導体40が順に積層した高発熱性部品50と、放熱冷却部材となるヒートシンク60との間に、放熱シート10が配置されている。高発熱性部品50としては、例えばCPU(中央演算処理装置)、トランジスタ、発光ダイオード(LED)または電力制御素子等が挙げられ、メモリ素子や容量素子(コンデンサ)等の発熱が顕著ではない部品よりも発熱性の高い部品である。
【0077】
図4(b)は、高発熱性部品50の金属板20、放熱シート10およびヒートシンク60が積層した部分(
図4(a)の点線四角で囲まれた部分)を拡大した断面模式図である。金属板20およびヒートシンク60の密着対象面20aおよび60aは、表面の凹凸が認められる。本発明の放熱シートであれば、第1弾性体層と第2弾性体層が十分な厚さと弾性を有することにより、密着対象面20aおよび60aのいずれに対しても、密着界面に気泡が混入することなく、良好な密着性を発揮することができる。
【0078】
本発明の効果は上記したとおりであるが、さらなる効果としては、膨潤後に有機溶剤が揮発して弾性体層が一旦固化した放熱シートであっても、弾性体層に有機溶媒を供給することにより、有機溶媒が浸透して再度軟化することにより、粘性および弾性を回復することができる。
【実施例】
【0079】
以下、本発明について、実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0080】
[実施例1]
(樹脂溶液の調製工程)
反応容器内に、酢酸エチル100部(質量部、以下同じ)、エチルセルロース25部、n-ブチルアクリレート25部、および酢酸ビニル5.0部を入れた後、100℃で10分間混練し、酢酸ビニルが重合してゲル化した樹脂溶液を得た(不揮発分含量:50質量%)。
【0081】
(膨潤性樹脂組成物の調製工程)
得られた樹脂溶液の不揮発分100部に対し、熱伝導性粒子として球状銅粒子(最大粒子径:8μm)が200部、粘着付与剤として重合ロジンエステル〔荒川化学工業(株)製、商品名:ペンセルD-135〕が25部となるように、樹脂溶液、球状銅粒子および粘着付与剤を混合した後、不揮発分の含有率が50質量%となるように酢酸エチルを添加し、十分に撹拌して、膨潤性樹脂組成物を得た。
【0082】
(積層体形成工程)
前記で得られた膨潤性樹脂組成物を、支持体層となる厚さ35μmの銅箔の両面上に塗布し、100℃の雰囲気中で1時間乾燥させることにより、乾燥後の厚さが約10μmの第1弾性体層(不揮発分含有量:93質量%)および第2弾性体層(不揮発分含有量:93質量%)が形成された第1放熱シートを作成した。乾燥後の第1弾性体層および第2弾性体層の内部をSEM(走査型電子顕微鏡)にて観察したところ、銅粒子が残存した粘着性樹脂により部分的に結着され、多数の空孔を有する多孔質の組織となっていることが確認された。
【0083】
(熱伝導性の評価)
熱伝導率測定用の試験片として、順に、銅板(10mm×10mm、厚さ500μm)と、第1放熱シート(10mm×10mm)と、上記と同様の銅板とを積層させた積層体を作成した。具体的には、第1弾性体層に含まれる酢酸エチルと、第1弾性体層(不揮発分含量:93質量%)の比率は、質量比にて1:1となるように、第1放熱シートの第1弾性体層に有機溶剤として酢酸エチルを滴下して、1分放置して膨潤させた(膨潤工程)。その後、酢酸エチルの液滴を押し出しつつ、気泡の混入を回避して1枚の銅板を放熱シートの第1弾性体層に圧着した(圧着工程)。圧着条件は2kg/cm2で、圧着温度は25℃で、圧着時間は10秒間であった。次いで、第1放熱シートの第2弾性体層(不揮発分含量:93質量%)についても同様の膨潤工程と圧着工程を行うことにより、もう1枚の銅板を第2弾性体層に圧着し、第1放熱シートを介在させて2枚の銅板が接着された構造の、熱伝導率測定用試験片を得た。圧着工程後の第1弾性体層に含まれる酢酸エチルと、第1弾性体層(不揮発分含量:93質量%)の比率は、質量比にて1:6であった。同様に、圧着工程後の第2弾性体層に含まれる酢酸エチルと、第2弾性体層(不揮発分含量:93質量%)の比率は、質量比にて1:6であった。
【0084】
この試験片の熱伝導率を、メンターグラフィックス社製DynTIMテスターを用いて測定したところ、5.6W/m・Kであった。
【0085】
[実施例2]
(放射線照射工程)
実施例1と同様に作成した第1放熱シートの第1弾性体層および第2弾性体層に、500keVで500kGyの吸収線量で電子線を照射し、粘着性樹脂組成物の架橋を切断して第2放熱シートを得た。
【0086】
(熱伝導性の評価)
第2放熱シートを用いて、実施例1と同様に膨潤工程および圧着工程を行って熱伝導率測定用試験片を得た。圧着工程後の第1弾性体層に含まれる酢酸エチルと、第1弾性体層(不揮発分含量:93質量%)の比率は、質量比にて1:8であった。同様に、圧着工程後の第2弾性体層に含まれる酢酸エチルと、第2弾性体層(不揮発分含量:93質量%)の比率は、質量比にて1:8であった。また、熱伝導率測定用試験片の熱伝導率は、6.8W/m・Kであった。
【0087】
[実施例3]
(熱伝導性の評価)
銅板の表面に酢酸エチルを滴下し、実施例1と同様の第1放熱シートを用いて、第1弾性体層および第2弾性体層と銅板を圧着することで、各弾性体層を膨潤させた(膨潤、圧着工程)。この他は、実施例1と同様にして、熱伝導率測定用試験片を得た。圧着工程後の第1弾性体層に含まれる酢酸エチルと、第1弾性体層(不揮発分含量:93質量%)の比率は、質量比にて1:5であった。同様に、圧着工程後の第2弾性体層に含まれる酢酸エチルと、第2弾性体層(不揮発分含量:93質量%)の比率は、質量比にて1:5であった。また、熱伝導率測定用試験片の熱伝導率は、5.6W/m・Kであった。
【0088】
[実施例4]
エチルアクリレート25部に代えて、n-ブチルアクリレート25部を用いた他は、実施例1と同様に樹脂溶液の調製工程、膨潤性樹脂組成物の調製工程、積層体形成工程および熱伝導性の評価を行った。圧着工程後の第1弾性体層に含まれる酢酸エチルと、第1弾性体層(不揮発分含量:96質量%)の比率は、質量比にて1:6であった。同様に、圧着工程後の第2弾性体層に含まれる酢酸エチルと、第2弾性体層(不揮発分含量:96質量%)の比率は、質量比にて1:6であった。また、熱伝導率測定用試験片の熱伝導率は、5.7W/m・Kであった。
【0089】
[実施例5]
熱伝導性粒子として球状銅粒子200部に代えて、不定形酸化亜鉛粒子(最大粒子径:10μm)100部を用いた他は、実施例1と同様に樹脂溶液の調製工程、膨潤性樹脂組成物の調製工程、積層体形成工程および熱伝導性の評価を行った。圧着工程後の第1弾性体層に含まれる酢酸エチルと、第1弾性体層(不揮発分含量:93質量%)の比率は、質量比にて1:6であった。同様に、圧着工程後の第2弾性体層に含まれる酢酸エチルと、第2弾性体層(不揮発分含量:93質量%)の比率は、質量比にて1:6であった。また、熱伝導率測定用試験片の熱伝導率は、3.1W/m・Kであった。
【0090】
[実施例6]
実施例1と同様に作成した第1放熱シートの第1弾性体層および第2弾性体層に、Co60を線源として500kGyの吸収線量でガンマ線を照射し、粘着性樹脂組成物の架橋を切断して第2放熱シートを得た。熱伝導性の評価は、実施例2と同様の条件により行った。圧着工程後の第1弾性体層に含まれる酢酸エチルと、第1弾性体層(不揮発分含量:96質量%)の比率は、質量比にて1:8であった。同様に、圧着工程後の第2弾性体層に含まれる酢酸エチルと、第2弾性体層(不揮発分含量:96質量%)の比率は、質量比にて1:8であった。また、熱伝導率測定用試験片の熱伝導率は、6.6W/m・Kであった。
【0091】
[比較例1]
酢酸エチルを用いなかったことにより、膨潤工程を実施しなかった他は、実施例1と同様に樹脂溶液の調製工程、膨潤性樹脂組成物の調製工程、積層体形成工程および熱伝導性の評価を行った。熱伝導率測定用試験片の熱伝導率は、4.8W/m・Kであった。
【0092】
[まとめ]
実施例1~6の放熱シートの熱伝導率は、比較例1と比べて高い結果となった。実施例1~6では、第1弾性層および第2弾性層を有機溶剤の使用により膨潤させ、また、適宜、粘着性樹脂組成物の架橋を切断することにより弾性を向上させた結果、銅板と弾性層との間の気泡の混入を防止し、また、銅板表面の凹凸への弾性層の追従が十分であることにより、熱伝導の効率が向上したものと考えられる。
【0093】
一方で、比較例1では有機溶剤を使用しないことにより、第1弾性層および第2弾性層が膨潤しなかった結果、銅板と弾性層との間の気泡の混入を防止する効果や、銅板表面の凹凸へ弾性層が追従する効果が十分であったため、熱伝導率が実施例1~6よりも劣る結果になったものと考えられる。
【0094】
以上より、本発明であれば、高発熱性部品と放熱冷却部材の間に良好な熱伝導性を確保することができる放熱シートとその製造方法および放熱シートの使用方法を提供することができることは明確である。
【0095】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0096】
1 第1弾性体層
2 支持体層
3 第2弾性体層
4 積層体
10 放熱シート
20 金属板
20a 密着対象面
30 はんだ
40 パワー半導体
50 高発熱性部品
60 ヒートシンク
60a 密着対象面
100 積層体