(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】異方性色素膜形成用組成物、異方性色素膜及び偏光素子
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20220216BHJP
C09B 31/22 20060101ALI20220216BHJP
C08F 226/02 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
G02B5/30
C09B31/22
C08F226/02
(21)【出願番号】P 2017243264
(22)【出願日】2017-12-19
【審査請求日】2020-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2016253443
(32)【優先日】2016-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】山川 朋子
(72)【発明者】
【氏名】大澤 輝恒
(72)【発明者】
【氏名】金子 祐三
(72)【発明者】
【氏名】田中 太
(72)【発明者】
【氏名】西村 政昭
【審査官】沖村 美由
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-026479(JP,A)
【文献】特開2009-199075(JP,A)
【文献】特開2009-180975(JP,A)
【文献】特開2006-003864(JP,A)
【文献】特開2010-204527(JP,A)
【文献】特開2013-217964(JP,A)
【文献】国際公開第2016/171126(WO,A1)
【文献】特開2008-101154(JP,A)
【文献】特開2012-047853(JP,A)
【文献】特開昭62-145204(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170947(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B5/30
G02F1/1335;1/13363
C09B1/00-69/10
C08F6/00-246/00;301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性基又は塩基性基を有する二色性色素並びに、酸性基及び塩基性基を有する、線状又は分岐状の高分子化合物を含み、
前記高分子化合物は、繰り返し単位を有するポリマーであり、異方性色素膜形成用組成物の全固形分に対して、前記高分子化合物を0.1重量%以上含む、異方性色素膜形成用組成物。
【請求項2】
前記高分子化合物が有する前記塩基性基がアミノ基を含む、請求項1に記載の異方性色素膜形成用組成物。
【請求項3】
前記高分子化合物が有する前記酸性基がスルホ基を含む、請求項1又は2に記載の異方性色素膜形成用組成物。
【請求項4】
前記高分子化合物が有する前記酸性基の少なくとも一部が塩型の酸性基であり、前記塩型の酸性基の対カチオンが、リチウムイオン及び/又はナトリウムイオンである、請求項1~3のいずれか一項に記載の異方性色素膜形成用組成物。
【請求項5】
前記高分子化合物が有する前記塩基性基及び/又は前記酸性基が、芳香族性の部分構造を有さない、請求項1~4のいずれか一項に記載の異方性色素膜形成用組成物。
【請求項6】
前記高分子化合物が、不飽和結合及び芳香族性を有する部分構造のいずれをも主鎖に有さない、請求項1~5のいずれか一項に記載の異方性色素膜形成用組成物。
【請求項7】
前記高分子化合物の重量平均分子量が1400以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の異方性色素膜形成用組成物。
【請求項8】
前記高分子化合物における前記酸性基及び前記塩基性基の同一主鎖中の比率が、(塩基性基のモル数/(塩基性基のモル数+酸性基のモル数))として0.05より大きい、請求項1~7のいずれか一項に記載の異方性色素膜形成用組成物。
【請求項9】
前記高分子化合物が有する前記酸性基がスルホ基を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の異方性色素膜形成用組成物を用いて形成された、異方性色素膜。
【請求項10】
請求項9に記載の異方性色素膜を含む、偏光素子。
【請求項11】
酸性基又は塩基性基を有する二色性色素並びに、酸性基及び塩基性基を有する、線状又は分岐状の高分子化合物を含み、前記高分子化合物を0.1重量%以上含
み、前記高分子化合物は、繰り返し単位を有するポリマーであり、前記高分子化合物が有する前記酸性基がスルホ基を含む、異方性色素膜。
【請求項12】
請求項11に記載の異方性色素膜を含む、偏光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式成膜法により形成される異方性色素膜、特に、調光素子、液晶素子(LCD)及び有機エレクトロルミネッセンス素子(OLED)の表示素子に具備される偏光膜等に有用な高い二色性を示す異方性色素膜形成用組成物、異方性色素膜及び該異方性色素膜を含む偏光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LCDでは、表示における旋光性や複屈折性を制御するために直線偏光膜及び円偏光膜が用いられている。OLEDにおいても、外光の反射防止のために円偏光膜が使用されている。
従来、これらの偏光膜にはヨウ素が二色性物質として広く使用されてきた。しかしながら、ヨウ素は昇華性が大きいために、偏光膜を用いた偏光素子として使用した場合、その耐熱性や耐光性が十分ではなかった。また、その消光色が深い青色となるため、全可視スペクトル領域に亘って、理想的な無彩色の偏光素子とは言えなかった。
【0003】
理想的な無彩色の偏光素子を得るために、有機系の色素を二色性物質に使用する異方性色素膜が検討されている。有機系の色素を使用する異方性色素膜としては、従来のポリマーに有機系の色素を含浸させた膜、基板等の上に有機系の色素を塗布することで膜を得る方法(湿式成膜法)を用いて形成させた膜等が挙げられる。
従来のポリマーに有機系の色素を含浸させた異方性色素膜を用いる場合、該異方性色素膜に接着層を設け、接着層の保護フィルムを貼り合わせ、該保護フィルムを貼り合せた偏光膜をディスプレイ製造ラインに移送し、ディスプレイ製造ラインで保護フィルムを剥がし、異方性色素膜を基板等に貼合するというプロセスが取られている。これをガラスや透明フィルム等の基板上に、湿式成膜法を用いて異方性色素膜を形成する方法に置き換えれば、前記の従来のポリマーに有機系の色素を含浸させた異方性色素膜を用いる方法と比較して、製造プロセスを簡略化でき、生産性向上に寄与するものと考えられる。
【0004】
特許文献1には二色比の高い異方性色素膜を得るための、トリスアゾ色素を含む異方性色素膜形成用組成物が示されている。
また、異方性色素膜の高い二色比を得るために、特定の色素を組み合わせて用いることが示されている。例えば、アントラキノン環を有するアゾ化合物と、ナフタレン環を有するジスアゾ色素とを含む異方性色素膜形成用組成物(特許文献2)、ジスアゾ色素とモノアゾ化合物とを含む異方性色素膜形成用組成物(特許文献3)、ジスアゾ色素を2種組み合わせて用いて異方性色素膜を得たことも示されている(特許文献4及び5)。
【0005】
異方性色素膜の性能を向上させるため、添加材の開発が同時に進められている。例えば、二色性の向上や耐熱性の向上を目的としてアミノ酸などを添加する組成物が開発されている(特許文献6)。
【0006】
しかしながら、このような化合物の添加は、湿度の変動により、析出、凝集及びひび割れの発生等の懸念があり、さらに耐湿性が悪化する懸念があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-168570号公報
【文献】特開2008-101154号公報
【文献】特開2012-194357号公報
【文献】特開2007-126628号公報
【文献】国際公開第2015/087978号
【文献】国際公開第2005/069048号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
耐湿性が高い異方性色素膜を製造できる異方性色素膜形成用組成物の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、色素と特定の高分子化合物を含む組成物を用いることにより、前記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は以下を要旨とする。
【0010】
[1]
色素並びに、酸性基及び塩基性基を有する高分子化合物を含むものである、異方性色素膜形成用組成物。
[2]
前記塩基性基がアミノ基を含むものである、[1]に記載の異方性色素膜形成用組成物。
[3]
前記酸性基がスルホ基を含むものである、[1]又は[2]に記載の異方性色素膜形成用組成物。
[4]
前記酸性基の少なくとも一部が塩型の酸性基であり、前記塩型の酸性基の対カチオンが、リチウムイオン及び/又はナトリウムイオンである、[1]~[3]のいずれか一に記載の異方性色素膜形成用組成物。
[5]
前記塩基性基及び/又は前記酸性基が、芳香族性の部分構造を有さないものである、[1]~[4]のいずれか一に記載の異方性色素膜形成用組成物。
[6]
[1]~[5]のいずれか一に記載の異方性色素膜形成用組成物を用いて形成された、異
方性色素膜。
[7]
[6]に記載の異方性色素膜を含む、偏光素子。
[8]
色素並びに、酸性基及び塩基性基を有する高分子化合物を含むものである、異方性色素膜。
【発明の効果】
【0011】
本発明の異方性色素膜形成用組成物を用いることにより、形成された異方性色素膜の耐湿性の向上が期待できる。また、製造時における保管環境に対するマージンの向上により安定製造に寄与するほか、保管環境の安価化が図れるものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。
【0013】
本発明でいう異方性色素膜とは、異方性色素膜の厚み方向及び任意の直交する面内2方向の立体座標系における合計3方向から選ばれる、任意の2方向における電磁気学的性質に異方性を有する色素膜である。電磁気学的性質としては、吸収、屈折等の光学的性質、抵抗、容量等の電気的性質等が挙げられる。
吸収、屈折等の光学的異方性を有する膜としては、例えば、直線偏光膜、円偏光膜等の偏光膜、位相差膜、導電異方性色素膜等がある。本発明の異方性色素膜は、偏光膜、位相差膜及び導電異方性色素膜に用いられることが好ましく、偏光膜に用いられることがより好ましい。
【0014】
[異方性色素膜形成用組成物]
まず、本発明の異方性色素膜形成用組成物について説明する。
本発明の異方性色素膜形成用組成物は、色素並びに、酸性基及び塩基性基を有する高分子化合物を含むものである。
該異方性色素膜形成用組成物の態様としては、前述の高分子化合物及び色素を含めば特に限定されない。異方性色素膜形成用組成物が相分離を引き起こさない状態であれば、溶液であっても、液晶であっても、分散状態であってもよいが、異方性色素膜形成用組成物として液晶相の状態であることが、溶剤が蒸発した後に形成される異方性色素膜が高配向度に形成される観点から好ましい。なお、本実施の形態において、液晶相の状態であるとは、具体的には、『液晶の基礎と応用』(松本正一・角田市良著、1991)の1~16ページに記載されているように、液体と結晶の双方の性質を示す液晶状態であり、ネマティック相、コレステリック相、スメクティック相又はディスコティック相であることをいう。特に、溶液中での秩序性が低く、粘度が低い傾向にあるため、液晶相はネマティック相が好ましい。
【0015】
[高分子化合物]
本発明に用いることができる高分子化合物は、酸性基及び塩基性基を有する高分子化合物(以下、本明細書において「高分子化合物」と表すことがある。)である。
上記高分子化合物を用いることで、本発明の効果が得られる理由は次のように推察される。
基本的には、塩基性基又は酸性基は水分子との相性が良く、吸湿性を持つため、異方性色素膜は水分を吸着しやすい性質がある。異方性色素膜中において、色素は、その異方性を発現するため、ある程度の大きさを有する集合体を形成する。特許文献6に記載のアミノ酸などの化合物は、この色素集合体をつなぎ、固定していると推定される。このつなぎとなっているアミノ酸などの化合物同士は弱い水素結合で結ばれており、水分を吸湿する事によりその会合力が弱くなる。そのため、色素集合体の動きを抑制できず、析出やひび割れが起こってしまうと推定される。一方で、上記高分子化合物を用いることにより、アミノ酸などの化合物同士の弱い水素結合のネットワークの一部を強固な共有結合に置き換えることとなる。従って、水分が吸着しても、色素の集合体の動きを抑制した状態を維持できると推定される。
また、色素単独で形成する異方性色素膜は脆くなる傾向にあるため硬度が低くなるが、上記高分子化合物を添加することで可塑剤的な効果により脆さが解消され、硬度が向上すると推定される。
【0016】
上記高分子化合物が有する置換基については、以下のように説明できる。
本発明の異方性色素膜を形成するには、相分離を起こさない液晶性の組成物を形成する事が好ましい。そのためには、色素と高分子化合物が会合体を形成し、且つ、色素同士が積層した色素集合体が形成されることが必要である。後述するが、色素は、水溶性を発現させるために、酸性基又は塩基性基を有する場合がある。塩基性基は通常正電荷又はカチオン性を、酸性基は通常負電荷又はアニオン性を有する。そのため、色素と高分子化合物が会合対を形成するためには、高分子化合物は塩基性基又は酸性基を有する必要がある。このとき、高分子化合物が酸性基又は塩基性基のどちらか一方の基のみを有する場合、色素と強く会合するか、強く反発を引き起こすかのいずれかが起こると推定される。前者の場合、高分子化合物を介して色素会合体同士が架橋され、均一な液晶相の形成が困難となる。一方後者の場合、同じ電荷を有するが故に色素と高分子化合物がそれぞれ独自の凝集体を形成し、相分離状態となってしまうと推定される。そのため、高分子化合物は塩基性基と酸性基を同時に有することが好ましい。
【0017】
高分子化合物が有する塩基性基及び酸性基は、以下の通りである。
酸性基及び塩基性基とは、それぞれ、酸性基は7未満、塩基性基は7以上のpKaを有する官能基のことである。なお、pKaとは、濃度酸解離定数Kaの逆数の対数値、すなわち-log Kaである。
【0018】
高分子化合物が有する酸性基としては、例えば、スルホ基、カルボキシル基、リン酸基などが挙げられる。これらの中でも、色素の積層崩壊を抑制するため、酸性基は、芳香族性の部分構造を有しないことが好ましい。また、水溶性の維持と秩序性向上の観点では、酸性基はスルホ基を含むことが好ましく、とりわけスルホ基が望ましい。
【0019】
塩基性基としては、含窒素塩基性基(電子供与性の窒素原子を含み、該窒素原子が正電荷又はカチオン性を有しやすい性質を持つものが好ましい。)が挙げられ、アミノ基、アルキルアミノ基(メチルアミノ基、エチルアミノ基等)、ピロリル基、3-ピロリニル基、ピロリジニル基、ピラゾーリル基、2-ピラゾリニル基、ピラゾリジニル基、イミダゾリル基、1,2,3-トリアゾリル基、1,2,4-トリアゾリル基、ピリジニル基、ピリダジニル基、ピペリジニル基、ピラジニル基、ピペラジニル基、ピリミジニル基、トリアジニル基等が挙げられる。これらの中でも、色素の積層崩壊を抑制するため、塩基性基は、芳香族性の部分構造を有しないことが好ましく、特にアミノ基を含むことが好ましく、とりわけアミノ基が望ましい。
【0020】
高分子化合物に含まれる酸性基と塩基性基は、それぞれその一部または全部が塩型をとってもよい。
酸性基の少なくとも一部は塩型の酸性基であってもよく、酸性基の対カチオンとしては、ナトリウム、リチウム、カリウム等のアルカリ金属、アルキル基もしくはヒドロキシアルキル基で置換されていてもよいアンモニウム、有機アミン等が挙げられる。有機アミンの例として、炭素数1以上、6以下の低級アルキルアミン、ヒドロキシ置換された炭素数1以上、6以下の低級アルキルアミン、カルボキシル置換された炭素数1以上、6以下の低級アルキルアミン等が挙げられる。これらの塩型の場合、その種類は1種類に限られず、複数種混在していてもよい。溶解性の観点から、イオン化傾向が高いアルカリ金属の塩が望ましい。特に、リチウム及び/又はナトリウムが好ましく、色素と高分子化合物とを含む組成物の相分離を抑制し、溶解性を向上する観点から、リチウムが特に好ましい。また、色素と高分子化合物とを含む組成物からなる膜の二色比を高める観点からも、リチウムが特に好ましい。
塩基性基の少なくとも一部は塩型の塩基性基であってもよく、塩基性基の塩型としては、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸の塩、酢酸、ギ酸等の有機酸の塩が挙げられる。
【0021】
高分子化合物の分子量(重量平均分子量)としては、通常800以上が好ましく、1000以上がさらに好ましく、1400以上が特に好ましい。また、通常10000以下が好ましく、7000以下がさらに好ましく、5000以下が特に好ましい。例えば、800以上10000以下が好ましく、1000以上7000以下がより好ましく、1400以上5000以下がさらに好ましい。分子量が上記下限値以上であることで耐湿性が得られる傾向にあり、分子量が上記上限値以下であることで溶解性が得られる傾向にある。
【0022】
高分子化合物の主鎖は、特に限定されるものではないが、後述する色素の相性から、アミド結合、エステル結合、エーテル結合、-NR1-基(R1は、水素原子、メチル基又はエチル基を表す。)及びスルホニル基からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む炭素鎖、飽和結合のみからなる炭素鎖等が好ましく、特に、飽和結合のみからなる炭素鎖、アミド結合及び/又は-NR1-基を含む炭素鎖の構造を有することが望ましい。なお、主鎖は、上記結合又は上記基を複数有していてもよい。
一方で、不飽和結合やフェニレンのような芳香族性を有する部分構造を有さない方が望ましい。不飽和結合や芳香族性を有する部分構造を有さないことで、不飽和結合部が色素のπ-πスタックを阻害することを抑制し、異方性色素膜形成用組成物が液晶性を得て、異方性色素膜の偏光度を向上できる傾向にある。
【0023】
高分子化合物の側鎖に関しても、主鎖と同様に特に限定されるものではないが、主鎖同様、後述する色素との相性から、アミド結合、エステル結合、エーテル結合、-NR1-基(R1は、水素原子、メチル基又はエチル基を表す。)及びスルホニル基からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む炭素鎖、飽和結合のみからなる炭素鎖等が望ましい。特に、飽和結合のみからなる炭素鎖、アミド結合及び-NR1-基からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む炭素鎖を有することが望ましい。
一方で、不飽和結合やフェニレンのような芳香族性を有する部分構造を有さない方が望ましい。不飽和結合やフェニレンのような芳香族性を有する部分構造を有さないことで、色素のπ-πスタックを阻害することを抑制し、異方性色素膜形成用組成物が液晶性を得て、異方性色素膜の偏光度を向上できる傾向にある。
同様に、側鎖の鎖長は短い方が好ましい。側鎖が短いことで、色素の会合を阻害することを抑制できる傾向にある。そのため、側鎖は、最も主鎖から離れた原子(H原子を除く)までの原子数が2以上、10以下であることが好ましく、より好ましくは8以下である。
酸性基及び塩基性基の同一主鎖中の比率は、特に限定されない。液晶性を維持する観点からは、塩基性基/(塩基性基+酸性基)の数値が0.05より大きいことが好ましく、より好ましくは0.1以上、さらに好ましくは0.2以上であり、0.8以下が好ましく、0.7以下がより好ましく、0.6以下がさらに好ましく、0.5以下がよりさらに好ましく、0.4以下がことさら好ましい。例えば、0.05より大きく0.8以下が好ましく、0.1以上0.7以下がより好ましく、0.2以上0.6以下がさらに好ましく、0.2以上0.5以下がよりさらに好ましく、0.2以上0.4以下がことさら好ましい。上記下限値以上とすることで、色素と高分子化合物との相溶性が向上する傾向にある。上記上限値以下とすることで、色素と高分子化合物との会合より色素間の積層が進み、組成物の液晶性が向上し、異方性色素膜の偏光度が向上する傾向にある。
【0024】
高分子化合物が有する塩基性基及び酸性基の種類の組合せも特に限定されない。好ましくは、塩基性基がアミノ基であり、酸性基がスルホ基、カルボキシル基及び/又はリン酸基であることが好ましい。さらに、塩基性基がアミノ基であり、酸性基がスルホ基であることが好ましい。塩基性基としては、骨格が小さく、カチオン化した場合にHSAB則における堅いカチオンが発生するアミノ基は、色素との相互作用が強くなり、相分離を起こしにくくなる。色素と静電反発し、色素と高分子化合物の過度な相互作用による相分離を抑制する観点から、酸性基はスルホ基又はリン酸基が好ましい。
なお、高分子化合物が、複数の種類の塩基性基及び酸性基を有する場合、二つ以上の基は、同一の基であっても異なる基であっても良い。
【0025】
高分子化合物は、ランダム構造であってもブロック構造であってもよく、特にランダム構造であることが好ましい。ランダム構造であることで、高分子化合物及び色素の相溶性が高くなる傾向にある。また線状の高分子であっても、分岐状の高分子であってもよい。
さらに高分子化合物を添加することにより、異方性色素膜の屈折率と消衰係数が低下する傾向にあるため、異方性色素膜を偏光膜や反射防止膜に用いた場合に、異方性色素膜と隣接する層との界面反射を低減することが可能となる場合がある。
【0026】
高分子化合物の具体例としては、特開2004-027162号公報、特開2002-293842号公報、特開昭52-101291号公報、特公平03-020127号公報、特開2004-115675号公報等に記載の高分子化合物が挙げられ、また、上記公報記載の方法で製造することができる。
高分子化合物の例示化合物を下記に示すが、下記構造に限定されるものではない。なお、すべて対カチオンがプロトン体での記載だが、対カチオンがアルカリ金属等の上述した対カチオンであるものも含まれる。また、プロトン体と塩型が混合していてもよいし、塩型が複数含まれていてもよい。下記例示化合物中のl、m及びnは任意の整数を表す。
【0027】
【0028】
【0029】
[高分子化合物の含有量]
高分子化合物の含有量(全固形分中の重量%)は特に制限されない。高分子化合物は異方性色素膜形成用組成物の全固形分に対して、90重量%以下が好ましく、80重量%以下であることがより好ましく、70重量%以下であることがさらに好ましく、60重量%以下であることが特に好ましい。一方、0.1重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましく、3重量%以上がさらに好ましく、5重量%以上がより好ましく、10重量%以上がより好ましく、20重量%以上がより好ましく、30重量%以上がとりわけ好ましく、40重量%以上がことさら好ましい。例えば、0.1重量%以上90重量%以下が好ましく、1重量%以上90重量%以下がより好ましく、5重量%以上80重量%以下がさらに好ましく、10重量%以上70重量%以下がよりさらに好ましく、20重量%以上60重量%以下がことさら好ましく、30重量%以上60重量%以下がよりことさら好ましく、40重量%以上60重量%以下がさらにことさら好ましい。上記上限値以下とすることで、異方性色素膜の偏光度が高くなる傾向がある。上記下限値以上とすることで、異方性色素膜の脆さを抑制し、硬度を向上し、反射率を低減する傾向がある。上記範囲であることで、耐湿性に優れる傾向にある。
【0030】
本発明の異方性色素膜形成用組成物における高分子化合物と色素の配合比は特に制限されない。色素:高分子化合物=10:90~99.9:0.1であることが好ましい。さらに20:80~90:10であることがより好ましく、25:75~80:20であることがさらに好ましく、30:70~60:40であることが特に好ましい。上記範囲であることで、異方性色素膜は偏光性、耐湿性に優れ、さらに異方性色素膜の脆さを抑制し、硬度を向上する傾向にある。
【0031】
[色素]
本明細書において色素とは、可視光領域の波長の少なくとも一部を吸収する物質又は化合物を意味する。
本発明に用いることができる色素としては、水溶性有機色素又は二色性色素が用いられる。また、色素は、配向制御のため液晶性を有する色素であることが好ましい。ここで、液晶性を有する色素とは、溶剤中でリオトロピック液晶性を示す色素を意味する。
本発明で用いられるリオトロピック液晶性を示す色素としては、塗布により異方性色素膜を形成するために、水又は有機溶媒に可溶であることが好ましい。さらに好ましいものは、「有機概念図-基礎と応用」(甲田善生著、三共出版、1984年)で定義される無機性値が有機性値よりも小さな化合物である。なお、水溶性とは、室温で色素が水に、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上溶解することをいう。
【0032】
上記色素は、塩型をとらない遊離の状態で、その分子量が200以上であるのが好ましく、300以上であるのが特に好ましい。また、1500以下であるのが好ましく、1200以下であるのが特に好ましい。例えば、200以上1500以下であるのが好ましく、300以上1200以下であるのが特に好ましい。
また、上記色素は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
色素として、具体的には、アゾ系色素(以下、単に「アゾ色素」とも言う。)、スチルベン系色素、シアニン系色素、フタロシアニン系色素、縮合多環系色素(ペリレン系、オキサジン系)等が挙げられる。これら色素の中でも、異方性色素膜中で高い分子配列を取り得るアゾ系色素が好ましい。アゾ系色素とは、アゾ基を少なくとも1個以上持つ色素をいう。その一分子中のアゾ基の数は、色調及び製造面の観点から、2以上が好ましく、6以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下がさらに好ましい。特にアゾ色素において、スルホ基、カルボキシル基、ホスホ基及びホスフィン酸基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基を有することが、異方性色素膜の水への溶解、脱落、割れ等の発生を抑制し、さらに光学特性の劣化を小さくする効果を得ることができる傾向にある。これらの中でも、アゾ色素がスルホ基を有することが特に好ましい。
【0034】
本発明に用いることができる色素は特に限定されず、公知の色素を用いることができる。
色素としては、例えば、特開2006-079030号公報、特開2010-168570号公報、特開2007-302807号公報、特開2008-081700号公報、特開平09-230142号公報、特開2007-272211号公報、特開2007-186428号公報、特開2008-69300号公報、特開2009-169341号公報、特開2009-161722号公報、特開2009-173849号公報、特開2010-039154号公報、特開2010-180314号公報、特開2010-266769号公報、特開2010-031268号公報、特開2011-012152号公報、特開2011―016922号公報、特開2010-100059号公報、特開2011-141331号公報、特開2011-190313号公報、特表平08-511109号公報、特表2001-504238号公報、特開2006-48078号公報、特開2006-98927号公報、特開2006-193722号公報、特開2006-206878号公報、特開2005-255846号公報、特開2007-145995号公報、特開2007-126628号公報、特開2008-102417号公報、特開2012-194357号公報、特開2012-194297号公報、特開2011-034061号公報、特開2009-110902号公報、特開2011-100059号公報、特開2012-194365号公報、特開2011-016920号公報等に記載の色素が挙げられる。
【0035】
本発明に用いられる色素は、遊離酸の形のまま使用してもよく、酸基の一部が塩型を取っているものであってもよい。また、塩型の色素と遊離酸型の色素が混在していてもよい。
製造時に色素が塩型で得られた場合はそのまま使用してもよいし、所望の塩型に変換(塩交換)してもよい。塩交換の方法としては、公知の方法を任意に用いることができ、例えば以下の方法が挙げられる。
【0036】
1)塩型で得られた色素の水溶液に塩酸等の強酸を添加し、色素を遊離酸の形で酸析せしめた後、所望の対イオンを有するアルカリ溶液(例えば水酸化リチウム水溶液)で色素酸性基を中和し塩交換する方法。
2)塩型で得られた色素の水溶液に、所望の対イオンを有する大過剰の中性塩(例えば、塩化リチウム)を添加し、塩析ケーキの形で塩交換する方法。
3)塩型で得られた色素の水溶液を、強酸性陽イオン交換樹脂で処理し、色素を遊離酸の形で酸析せしめた後、所望の対イオンを有するアルカリ溶液(例えば水酸化リチウム水溶液)で色素酸性基を中和し塩交換する方法。
4)予め所望の対イオンを有するアルカリ溶液(例えば水酸化リチウム水溶液)で処理した強酸性陽イオン交換樹脂に、塩型で得られた色素の水溶液を作用させ、塩交換する方法。
【0037】
また、色素が有する酸性基が、遊離酸型となるか塩型となるかは、色素のpKaと色素水溶液のpHに依存する。前記の塩型の例としては、ナトリウム、リチウム、カリウム等のアルカリ金属の塩、アルキル基又はヒドロキシアルキル基で置換されていてもよいアンモニウムの塩、有機アミンの塩等が挙げられる。
有機アミンの例として、炭素数1~6の低級アルキルアミン、ヒドロキシ置換された炭素数1~6の低級アルキルアミン、カルボキシ置換された炭素数1~6の低級アルキルアミン等が挙げられる。
これらの塩型の場合、その種類は1種類に限らず複数種混在していてもよい。また、本発明において、色素は単独で使用することができるが、これらの2種以上を併用してもよく、また、配向を低下させない程度に前記例示色素以外の色素を配合して用いることもできる。これにより各種の色相を有する異方性色素膜を製造することができる。
【0038】
他の色素を配合する場合の色素(「配合用色素」とも言う。)の例としては、C.I.Direct Yellow 12、C.I.Direct Yellow 34、C.I.DirectYellow 86、C.I.Direct Yellow 142、C.I.DirectYellow 132、C.I.Acid Yellow 9、C.I.Acid Yellow 25、C.I.Direct Orange 39、C.I.Direct Orange 72、C.I.Direct Orange 79、C.I.Acid Orange 28、C.I.Direct Red 39、C.I.Direct Red 79、C.I.DirectRed 81、C.I.Direct Red 83、C.I.Direct Red89、C.I.Acid Red 37、C.I.Direct Violet 9、C.I.Direct Violet 35、C.I.Direct Violet 48、C.I.Direct Violet 57、C.I.Direct Blue 1、C.I.Direct Blue 67、C.I.Direct Blue 83、C.I.Direct Blue 90、C.I.Direct Green 42、C.I.Direct Green 51、C.I.Direct Green 59、特許第5092345号公報等に記載の色素等が挙げられる。
【0039】
[異方性色素膜形成用組成物中の色素濃度]
異方性色素膜形成用組成物中の色素(配合用色素を使用する場合、配合用色素を含む。)の濃度としては、異方性色素膜の成膜条件にもよるが、好ましくは0.01重量%以上、更に好ましくは0.1重量%以上であり、好ましくは50重量%以下、更に好ましくは30重量%以下である。例えば、0.01重量%以上50重量%以下が好ましく、0.1重量%以上30重量%以下がより好ましい。色素濃度が前記範囲であることで、均一な薄膜塗布ができる異方性色素膜形成用組成物の粘度が得られ、且つ、色素が析出しない傾向にある。また、異方性色素膜において十分な二色比等の異方性を得られる傾向にある。
【0040】
[アゾ色素の一例]
本発明の異方性色素膜用組成物は、色素として遊離酸の形が式(I)で表されるアゾ色素を含むことができる。
【0041】
【0042】
[式(I)において、Ar11及びAr12は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、Ar13は、電子供与基を有していてもよい1,4-フェニレン基、置換基を有していてもよい1,4-ナフチレン基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、Ar14は、式(II)を表す。]
【0043】
【0044】
[式(II)において、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基又は置換基を有していてもよいアシル基を表し、bは0~3の整数を表し、dは0又は1を表す。なお、-NR1R2で表される基は、α位又はβ位に置換する。]
【0045】
[芳香族炭化水素基]
芳香族炭化水素基としては、単環及び複数の環由来の基が挙げられる。複数の環由来の基に含まれる環の数は特に限定されないが、通常、2以上、4以下であり、好ましくは3以下である。
例えば、Ar11における芳香族炭化水素基としては、1個の遊離原子価を有する、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環等が挙げられる。また、Ar12における芳香族炭化水素基としては、2個の遊離原子価を有する、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環等が挙げられる。
【0046】
前記芳香族炭化水素基は置換基を有していてもよい。有していてもよい置換基としては、通常、アゾ化合物の溶解性を高めるために導入される親水性基、色素としての色調を調節するために導入される電子求引基又は電子供与基が好ましい。
置換基としては、アルコキシ基、水酸基、アミノ基、アシルアミノ基、カルバモイル基、スルファモイル基、カルボキシ基、スルホ基、シアノ基、リン酸基等が挙げられる。
【0047】
[芳香族複素環基]
芳香族複素環基としては、特に限定されないが、単環又は二環性の複素環由来の基であることが、偏光度を高める観点で好ましい。芳香族複素環基を構成する炭素以外の原子としては、窒素原子、硫黄原子及び酸素原子が挙げられる。偏光度を高める観点で、特に、窒素原子が好ましい。芳香族複素環基が炭素以外の環を構成する原子を複数有する場合、これらは同一であっても異なっていてもよい。好ましい例として、ピリジン環、キノリン環、イソキノリン環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環等が挙げられる。
【0048】
前記芳香族複素環基は置換基を有していてもよい。有していてもよい置換基としては、親水性基、電子求引基、電子供与基、水素結合性官能基等が挙げられる。具体的には、アルキル基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アミノ基、カルバモイル基、スルファモイル基、ニトロ基、カルボキシ基、スルホ基、水酸基、シアノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0049】
[1,4-フェニレン基]
1,4-フェニレン基が有していてもよい電子供与基としては、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、アミノ基、アセチルアミノ基等が挙げられる。1,4-フェニレン基が有していてもよい電子供与基の中でも、置換基の大きさが小さく、アゾ色素全体の平面性が高く、且つ、会合しやすい点で、メチル基、メトキシ基、アセチルアミノ基又はアミノ基が好ましい。
【0050】
[1,4-ナフチレン基]
1,4-ナフチレン基が有していてもよい置換基としては、具体的には、水酸基、メチル基、メトキシ基、アセチルアミノ基、アミノ基、スルホ基、カルボキシ基等が挙げられ、これらの中でもメトキシ基、スルホ基又はアセチルアミノ基が分子全体の平面性を損なわず、高い会合性を示す点で好ましい。
【0051】
[アルキル基]
R1及びR2のアルキル基が有していてもよい置換基としては、アルコキシ基、水酸基、アミノ基、アシルアミノ基、カルバモイル基、スルファモイル基、カルボキシ基、スルホ基、シアノ基、リン酸基等が挙げられる。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、ヒドロキシエチル基、1,2-ジヒドロキシプロピル基等の低級アルキル基が挙げられる。
【0052】
[フェニル基]
R1及びR2のフェニル基が有していてもよい置換基としては、メチル基、メトキシ基、水酸基、カルボキシ基、スルホ基等が挙げられる。
【0053】
[アシル基]
R1及びR2のアシル基は、-C(=O)R31で表され、R31はアルキル基又はフェニル基を表す。該アルキル基は、通常、炭素数が1以上、4以下、好ましくは2以下である。該フェニル基は、置換基の炭素数が通常、6以上、通常10以下、好ましくは8以下である。該アルキル基及び該フェニル基は置換基が有していてもよい置換基としては、炭素数が1~4のアルコキシ基、水酸基、スルホ基、カルボキシ基等が挙げられる。アシル基の具体例としては、アセチル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
【0054】
式(II)におけるbは1又は2であることが、式(I)で表されるアゾ色素が水溶性を示しやすく、分子間での塩を介した相互作用により、会合体を形成しやすい傾向にあるため好ましい。
式(II)におけるdは1であることが、式(I)で表されるアゾ色素が可視域(380nm~780nm)の長波長まで吸収を有する色素となり、得られた異方性色素膜が黒色に近くなる傾向にあるため好ましい。また、dが1であることで、-NR1R2で表される基が、分子内又は分子間の他の置換基、特にスルホ基と相互作用することで、強固な分子積層が出来る点でも好ましい。
式(II)において、-NR1R2で表される基は、α位又はβ位に置換する。この位置に置換することで分子間相互作用に寄与しやすい傾向にある。
また、特に限定されないが、-SO3H及び-NR1R2が分子間相互作用に寄与しやすい点で、水酸基が置換した位置を1位、アゾ基が置換した位置を2位とすると、5,6,7,8位のいずれかに-SO3H又は-NR1R2が少なくとも一つ置換していることが好ましく、6,7位のいずれかに少なくとも1つ置換していることがさらに好ましい。
【0055】
前記の中でも、Ar14は式(IV)で表されるものであることが分子間相互作用に寄与しやすく、得られた異方性色素膜が、高い光学性能を有したまま、任意の色調に変更ができる傾向にあるため特に好ましい。
【0056】
【0057】
[式(IV)において、g及びhはそれぞれ独立に、0又は1を表す。なお、式(IV)におけるd、R1及びR2は、式(II)のd、R1及びR2とそれぞれ同義である。]
g及びhの和が、1又は2であることが好ましい。
【0058】
[式(I)で表されるアゾ色素の具体例]
遊離酸の形が式(I)で表されるアゾ色素の具体例としては、例えば、以下に記載の色素が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
[アゾ色素の他の一例]
遊離酸の形が式(III)で表されるアゾ色素を用いることで、偏光膜として使用した時には、高い光学性能を損なうこと無く、任意の色調に調整することができる。色調の調整は式(III)で表されるアゾ色素の添加量、構造等を調整することにより、適宜所望の色調にすることができる。
【0067】
【0068】
[式(III)において、Ar21及びAr22は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、nは0又は1を表す。]
【0069】
Ar21は、式(I)のAr11と同義であり、好ましい範囲及び有していてもよい置換基も同義である。
【0070】
Ar22は、式(I)のAr12と同義であり、好ましい範囲及び有していてもよい置換基も同義である。
【0071】
[遊離酸の形が式(III)で表されるアゾ色素の具体例]
遊離酸の形が式(III)で表されるアゾ色素の具体例としては、以下に記載の色素が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0072】
【0073】
本発明においては、遊離酸の形が式(I)で表されるアゾ色素、及び遊離酸の形が式(III)で表されるアゾ色素を組み合わせて用いることができる。
【0074】
これらのアゾ色素を組み合わせて用いることにより、配向性に優れる異方性色素膜を得ることができる。また、異方性色素膜用組成物が液晶状態を有し、且つ、異方性色素膜用組成物を用いて得られる異方性色素膜の配向性を下げず、偏光膜として用いる場合には高い光学性能を有したまま、任意の色調に変更ができる異方性色素膜用組成物及び異方性色素膜を提供することができる。さらに、無彩色を示す異方性色素膜を提供することができる。
このような特性を有する異方性色素膜を用いた偏光素子は、色再現性等を求められる調光素子、液晶素子、有機エレクトロルミネッセンス素子の表示素子等、多方面に利用することができる。
【0075】
上記組み合わせにより効果を奏する理由は次のように推察される。
異方性色素膜の利用形態により、必要とされる機能は異なるが、例えば、ディスプレイ用の偏光膜として利用する際には、ディスプレイに用いられるバックライト光源やカラーフィルターの色調に、偏光膜の色調を調整することが求められている。
そのため、遊離酸型が式(I)で表されるアゾ色素を用いることにより、色素が好ましい会合状態を形成して得られた異方性色素膜は高い二色性を示すとともに、色素自体が広い吸収域を有するため、可視光領域全体に渡って二色性を示す。しかし、式(I)で表されるアゾ色素のみの場合、遊離酸型が式(I)で表されるアゾ色素がもつ単一の色調を持つ異方性色素膜しか作製することはできない。
色調を変更するために、式(I)で表されるアゾ色素と異なる波長特性を持つ色素は多数存在するが、単に、式(I)で表されるアゾ色素に別種の色素を添加しただけでは、異方性色素膜用組成物が液晶になる濃度が大幅に上昇したり、異方性色素膜用組成物から得られる異方性色素膜の配向性が低下したりする問題がある。つまり、偏光膜として使用する場合において、光学性能が低下する場合がある。これは、式(I)で表されるアゾ色素に別種の色素を添加することによって、異方性色素膜用組成物が好ましい会合状態を形成しなかったり、異方性色素膜の分子配列が乱れたりすることに起因すると推測される。そのため、アゾ色素が有する高い光学性能を維持し、任意の色調に調整する観点で、式(III)で表されるアゾ色素を、式(I)で表されるアゾ色素に組合せることが好ましい。
【0076】
[遊離酸の形が式(I)及び式(III)で表されるアゾ色素の組み合わせ]
本発明において、遊離酸の形が式(I)及び式(III)で表されるアゾ色素の組合せは特に限定されない。
式(I)のAr11~Ar14から選択される少なくとも1つの構造から有していてもよい置換基を除いた構造が、式(III)のAr21~Ar22から選択される少なくとも1つの構造から有していてもよい置換基を除いた構造と同一であることが好ましい。例えば、Ar11がシアノ基を有するナフタレン環である場合、式(I)のAr11の構造から有していてもよい置換基を除いた構造はナフタレン環となる。また、Ar22がスルホ基を有するナフタレン環である場合、式(III)のAr22の構造から有していてもよい置換基を除いた構造はナフタレン環となる。この場合、式(I)のAr11~Ar14から選択される少なくとも1つの構造から有していてもよい置換基を除いた構造が、式(III)のAr21~Ar22から選択される少なくとも1つの構造から有していてもよい置換基を除いた構造と同一となる。
さらに、Ar11~Ar14から選択される少なくとも2つの構造から有していてもよい置換基を除いた構造が、式(III)のAr21~Ar22から選択される少なくとも2つの構造から有していてもよい置換基を除いた構造とそれぞれ同一であることが好ましく、Ar11~Ar14から選択される少なくとも3つの構造から有していてもよい置換基を除いた構造が、式(III)のAr21~Ar22の構造から有していてもよい置換基を除いた構造とそれぞれ同一であることが好ましい。なお、Ar11~Ar14から選択される、有していてもよい置換基を除いた構造は、同一でも異なっていてもよい。同様に、Ar21~Ar22から選択される、有していてもよい置換基を除いた構造は、同一でも異なっていてもよい。
また、式(I)のAr11~Ar14から選択される少なくとも1つの構造から有していてもよい置換基を除いた構造が、式(III)のAr21及び/又はAr22の構造から有していてもよい置換基を除いた構造と同一であることが好ましい。さらに、式(I)のAr11~Ar14から選択される少なくとも2つの構造から有していてもよい置換基を除いた構造が、式(III)のAr21及び/又はAr22の構造から有していてもよい置換基を除いた構造と同一であることが好ましく、式(I)のAr11~Ar14の構造から有していてもよい置換基を除いた構造が、式(III)のAr21及び/又はAr22の構造から有していてもよい置換基を除いた構造と同一であることが好ましい。
【0077】
上記構造の組合せは、有していてもよい置換基の群も同一であることが好ましく、有していてもよい置換基が同一であることが更に好ましい。また、有していてもよい置換基の群及び/又は有していてもよい置換基の置換位置が同一であることが好ましい。
また、アゾ結合との結合位置も同一であることが好ましい。
なお、置換基の群とは、前記の親水性基、電子供与基、電子求引基、イオン性、非イオン性、水素結合性官能基、強い双極子を持つ官能基等の置換基の性質で分類した群を表す。
上記のように、有していてもよい置換基を除く構造、有していてもよい置換基の群、有していてもよい置換基、有していてもよい置換基の群及び/又は有していてもよい置換基の置換位置が同一であることで、式(I)の化合物と式(III)の化合物のπ-πスタッキングや置換基同士の水素結合等の分子間相互作用が起こりやすく、式(I)が形成するカラム状の会合体や、カラム集合体の構造に式(III)の化合物が取り込まれ易い傾向にある。
【0078】
一方、Ar11及びAr21の組合せ、Ar12及びAr22の組合せ、並びにAr13及びAr22の組合せからなる群から選択される少なくとも1つの組合せが、有していてもよい置換基を除いた構造が同一であることが好ましい。それにより、式(I)の化合物と式(III)の化合物のπ-πスタッキングや置換基同士の水素結合等の分子間相互作用が起こりやすく、式(I)が形成するカラム状の会合体や、カラム集合体の構造に式(III)の化合物が取り込まれ易い傾向にある。さらに、上記の組合せは、有していてもよい置換基の群も同一であることが好ましく、有していてもよい置換基が同一であることが更に好ましい。
遊離酸の形が式(I)及び式(III)で表されるアゾ色素の組み合わせが、上記であることで、式(I)と式(III)で表されるアゾ色素の分子間相互作用し易くなる。つまり、式(I)が形成するカラム状の会合体や、カラム集合体の構造に化合物と式(III)の化合物が取り込まれ易くなる。
【0079】
遊離酸の形が式(I)及び式(III)で表されるアゾ色素の組み合わせとして、具体的な組み合わせは特に限定されないが、上記のAr11~Ar14で挙げた具体例及び好ましい基と上記のAr21~Ar22で挙げた具体例及び好ましい基をそれぞれ適宜組み合わせることができる。
これらの中でも、特に、下記に挙げるAr11~Ar14及びAr21~Ar22の各基をそれぞれ組合せることが好ましい。
Ar11が置換基として電子求引基を少なくとも1つ有する、フェニル基又はナフチル基。
Ar12が、置換基を有していてもよい1,4-ナフチレン基又は2環性の置換基を有していてもよい芳香族複素環基。
Ar13が、置換基を有していてもよい1,4-ナフチレン基又は2環性の置換基を有していてもよい芳香族複素環基。
Ar14が式(IV)で表されるもの。
Ar21が置換基を有していてもよいフェニル基又は置換基を有していてもよいナフチル基。
Ar22が置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基。
これらの組合せであることで、式(I)の化合物と式(III)の化合物のπ-πスタッキングや置換基同士の水素結合等の分子間相互作用が起こりやすい傾向にある。
【0080】
[遊離酸の形が式(I)で表されるアゾ色素、及び遊離酸の形が式(III)で表されるアゾ色素の質量分率]
本発明の異方性色素膜用組成物中の遊離酸の形が式(I)で表されるアゾ色素、及び遊離酸の形が式(III)で表されるアゾ色素の質量比は、特に限定されない。
また、上記質量比を調整することにより、異方性色素膜を適宜所望の色調に調整可能である。
例えば、式(I)で表されるアゾ色素に対する式(III)で表されるアゾ色素の質量が、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましく、0.5質量%以上であることが特に好ましく、1.0質量%以上であることが最も好ましい。
また、上限は特に限定されないが、例えば50質量%より小さいことが好ましい。遊離酸の形が式(I)で表されるアゾ色素、及び遊離酸の形が式(III)で表されるアゾ色素の質量比が適当な範囲にあることで、式(I)で表される色素自体の会合性を阻害せず、色素が良好に配向した異方性色素膜を得ることができる傾向にある。
【0081】
[遊離酸の形が、式(I)又は式(III)で表されるアゾ色素の合成]
遊離酸の形が式(I)で表されるアゾ色素は、周知の方法に準じて製造することができる。例えば、式(X-I)で表される芳香族アミンをジアゾ化した後、式(X-II)で表される芳香族アミンとカップリング反応を行い、式(X-III)で表される化合物を得る。式(X-III)で表される化合物をジアゾ化した後、式(X-IV)で表される芳香族アミンとカップリング反応を行い、式(X-V)で表される化合物を得る。式(X-V)で表される化合物をジアゾ化した後、式(X-VI)で表される化合物とカップリング反応を行い、式(I)で表される化合物を製造することができる。
【0082】
【0083】
遊離酸の形が式(III)で表される化合物は、周知の方法に準じて製造することができる。例えば、式(XI-I)で表される化合物をジアゾ化した後、式(XI-II)で表される化合物とカップリング反応を行い、式(III)で表される化合物を製造することができる。
【0084】
【0085】
なお、必要に応じて、各工程において、良溶媒に溶解または懸濁して塩化ナトリウム等の塩を加えて塩析、良溶媒に溶解または懸濁して貧溶媒を加えて晶析、貧溶媒で懸洗、カラムクロマトグラフィーによる分離等によって精製してもよい。
【0086】
本発明の遊離酸の形が、式(I)及び式(III)で表されるアゾ色素は、遊離酸型のまま使用してもよく、酸基の一部が塩型を取っているものであってもよい。また、塩型の色素と遊離酸型の色素が混在していてもよい。また、製造時に塩型で得られた場合はそのまま使用してもよいし、所望の塩型に変換してもよい。塩型の交換方法としては、公知の方法を任意に用いることができ、例えば上述した塩交換の方法1)~4)の方法が挙げられる。
【0087】
また、本発明の式(I)及び式(III)で表されるアゾ色素が、酸性基が遊離酸型をとるか、塩型を取るかは、色素のpKaと色素水溶液のpHに依存する。
前記の塩型の例としては、Na、Li、K等のアルカリ金属の塩、アルキル基もしくはヒドロキシアルキル基で置換されていてもよいアンモニウムの塩、又は有機アミンの塩が挙げられる。
有機アミンの例として、炭素数1~6の低級アルキルアミン、ヒドロキシ置換された炭素数1~6の低級アルキルアミン、カルボキシ置換された炭素数1~6の低級アルキルアミン等が挙げられる。これらの塩型の場合、その種類は1種類に限られず複数種混在していてもよい。
【0088】
[異方性色素膜形成用組成物の溶剤]
溶剤としては、水、水混和性のある有機溶剤又はこれらの混合物が適している。有機溶剤の具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、グリセリン等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類等が挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
上記溶剤を用いた場合、異方性色素膜形成用組成物の全固形分濃度は好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、特に好ましくは25質量%以下、例えば、好ましくは5質量%以上50質量%以下、より好ましくは10質量%以上40質量%以下、さらに好ましくは15質量%以上30質量%以下、よりさらに好ましくは15質量%以上25質量%以下となるように調液して使用される。上記下限値以上とすることで所望の膜厚の異方性色素膜を形成できる傾向があり、また、上記上限値以下とすることで異方性色素膜の膜厚均一性が向上する傾向がある。
【0089】
本発明の異方性色素膜形成用組成物は、リオトロピック液晶相の発現有無は問わないが、リオトロピック液晶相を発現していない場合において、異方性色素膜形成用組成物中の溶剤量のみを変更することでリオトロピック液晶相が発現することが好ましい。リオトロピック液晶相が発現することで、異方性色素膜中で色素が高い配向度を発現し、高い二色性の異方性色素膜が得られる傾向にあるため好ましい。
異方性色素膜形成用組成物がリオトロピック液晶相を発現していれば、より異方性色素膜中での高い配向が得られる傾向にあるため、さらに好ましい。
【0090】
[異方性色素膜形成用組成物のpH]
異方性色素膜形成用組成物のpHは、特に限定されるものではないが、好ましくは、4.0以上、さらに好ましくは5.0以上、最も好ましくは5.5以上である。また、好ましくは12以下、さらに好ましくは11以下、最も好ましくは10以下である。pHの数値が上記上限値以下であることで、高分子化合物の塩基性基がカチオン化され、色素との相溶性が向上し、相分離(析出)を抑制する傾向にある。また、pHの数値が上記下限値以上であることで、酸性基がアニオン化され、異方性色素膜形成用組成物中において、色素と高分子化合物の過度な相互作用による相分離を抑制できる傾向にある。
【0091】
[異方性色素膜形成用組成物の添加剤]
異方性色素膜形成用組成物には、さらに必要に応じて、界面活性剤、レベリング剤、カップリング剤、pH調整剤、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、グリシン、グリシルグリシン、グリシルグリシルグリシン、セリン、プロリン、システイン、シスチン、グルタミン、6-アミノヘキサン酸、国際公開第2005/069048号公報に記載のアミノ酸、3-アミノ-1-プロパンスルホン酸、タウリン等の酸性基及び塩基性基を有する低分子化合物等の添加剤を配合することができる。添加剤により、濡れ性、塗布性、異方性色素膜形成用組成物の安定性等を向上させ得る場合がある。
界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性及びノニオン性のいずれも使用可能である。その添加濃度は、特に限定されるものではないが、異方性色素膜形成用組成物中の濃度として、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上である。また、好ましくは0.8質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下である。例えば、0.001質量%以上0.8質量%以下が好ましく、0.01質量%以上0.5質量%以下がより好ましく、0.05質量%以上0.5質量%以下がさらに好ましい。この範囲であることで、界面活性剤の添加効果が得られ、且つ、色素分子の配向を阻害しない傾向にある。
異方性色素膜形成用組成物中での異方性材料の造塩や凝集等の不安定性を抑制する等の目的のために、公知の酸/アルカリ等のpH調整剤等を、異方性色素膜形成用組成物の構成成分の混合の前後或いは混合中のいずれかで添加してもよい。なお、前記以外の添加剤として“Additive for Coating”,Edited by J.Bieleman,Willey-VCH(2000)に記載の公知の添加剤を用いることもできる。
【0092】
[異方性色素膜形成用組成物の製造方法]
本発明の異方性色素膜形成用組成物の製造方法は特に限定されない。例えば、色素、その他の添加剤及び溶剤等を混合し、0~100℃で撹拌、振盪して色素を溶解する。難溶性の場合は、ホモジナイザー、ビーズミル分散機等を用いてもよい。
本発明の異方性色素膜形成用組成物の製造方法として、組成物中の異物等を除去する目的でろ過工程を有していてもよい。ろ過以外の組成物中の異物等を除去する方法としては、特開2012-53388号公報に記載の遠心分離を用いる方法もある。
【0093】
[異方性色素膜]
本発明の異方性色素膜は、本発明の異方性色素膜形成用組成物を用いて形成することができる。また、本発明の異方性色素膜は、色素、並びに、酸性基及び塩基性基を有する高分子化合物を含むものであってもよい。また、本発明の異方性色素膜は、色素、酸性基及び塩基性基を有する高分子化合物、並びに、水溶性有機化合物を含むものであってもよい。
本発明の異方性色素膜を液晶ディスプレイ用の偏光素子として使う場合は、異方性色素膜の配向特性は二色比を用いて表すことができる。二色比は8以上あれば偏光素子として機能するが、15以上が好ましく、20以上がさらに好ましく、25以上がさらに好ましく、30以上が特に好ましい。また、二色比は高いほど好ましい。二色比が特定値以上であることで、後述する光学素子、特に偏光素子として有用である。
【0094】
本発明で言う二色比(D)とは、色素が一様に配向している場合、以下の式で表される。
D=Az/Ay
ここで、Azは異方性色素膜に入射した光の偏光方向が色素の配向方向に平行な場合に観測される吸光度であり、Ayはその偏光方向が垂直な場合に観測される吸光度である。それぞれの吸光度は同じ波長のものを用いれば特に制限なく、目的によっていずれの波長を選択してもよいが、異方性色素膜の配向の度合を表す場合は、異方性色素膜の極大吸収波長における値を用いることが好ましい。
【0095】
また、本発明の異方性色素膜の可視光波長域における透過率は、好ましくは25%以上である。35%以上が更に好ましく、40%以上が特に好ましい。また、透過率は用途に応じた上限であればよい。
例えば、偏光度を高くする場合には、透過率は50%以下であることが好ましい。透過率が特定範囲であることで、下記の光学素子として有用であり、特にカラー表示に用いる液晶ディスプレイ用の光学素子として有用である。
【0096】
[異方性色素膜の形成方法]
本発明の異方性色素膜は、湿式成膜法により作製することが好ましい。
本発明でいう湿式成膜法とは、異方性色素膜形成用組成物を基板上に何らかの手法により付与し、溶剤が乾燥する過程を経て色素等を基板上で配向・積層させる方法である。湿式成膜法では、異方性色素膜形成用組成物を基板上に付与すると、すでに異方性色素膜形成用組成物中で、又は溶剤が乾燥する過程で、色素自体が自己会合することにより微小面積での配向が起こる。この状態に外場を与えることにより、マクロな領域で一定方向に配向させ、所望の性能を有する異方性色素膜を得ることができる。この点で、いわゆるポリビニルアルコール(PVA)フィルム等を、色素を含む溶液で染色して延伸し、延伸工程だけで色素を配向させることを原理とする方法とは異なる。なお、ここで外場とは、あらかじめ基板上に施された配向処理層の影響、せん断力、磁場等が挙げられ、これらを単独で用いてもよく、複数組み合わせて用いてもよい。
【0097】
また、異方性色素膜形成用組成物を基板上に付与し成膜する過程、外場を与えて配向させる過程、溶剤を乾燥させる過程は、逐次行ってもよいし、同時に行ってもよい。
湿式成膜法における異方性色素膜形成用組成物を基板上へ付与する方法としては、例えば、塗布法、ディップコート法、LB膜形成法、公知の印刷法等が挙げられる。またこのようにして得た異方性色素膜を別の基板に転写する方法もある。これらの中でも、本発明は塗布法を用いることが好ましい。
異方性色素膜の配向方向は、通常、塗布方向と一致するが、塗布方向と異なっていてもよい。なお、本実施の形態において異方性色素膜の配向方向とは、例えば、偏光膜であれば、偏光の透過軸又は吸収軸であり、位相差膜であれば、進相軸又は遅相軸のことである。
【0098】
そして、本実施の形態における異方性色素膜は、光吸収の異方性を利用し直線偏光、円偏光、楕円偏光等を得る偏光膜又は位相差膜として機能する他、膜形成プロセスと基板や有機化合物(色素や透明材料)を含有する組成物の選択により、屈折異方性や伝導異方性等の各種異方性色素膜として機能化が可能である。
【0099】
異方性色素膜形成用組成物を塗布し、異方性色素膜を得る方法としては、特に限定されないが、例えば、原崎勇次著「コーティング工学」(株式会社朝倉書店、1971年3月20日発行)253頁~277頁に記載の方法、市村國宏監修「分子協調材料の創製と応用」(株式会社シーエムシー出版、1998年3月3日発行)118頁~149頁に記載の方法、段差構造を有する基板(予め配向処理を施してもよい)上にスロットダイコート法、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ロールコート法、ブレードコート法、カーテンコート法、ファウンテン法、ディップ法等で塗布する方法が挙げられる。中でも、スロットダイコート法を採用すると、均一性の高い異方性色素膜が得られるため好適である。
スロットダイコート法に用いるダイコーターは、一般的に塗布液を吐出する塗布機、いわゆるスリットダイを備えている。該スリットダイは、例えば、特開平2-164480号公報、特開平6-154687号公報、特開平9-131559号公報、「分散・塗布・乾燥の基礎と応用」(2014年、株式会社テクノシステ、ISBN9784924728707 C 305))、「ディスプレイ・光学部材における湿式コーティング技術」(2007年、情報機構、ISBN9784901677752)、「エレクトロニクス分野における精密塗布・乾燥技術」(2007年、技術情報教会、ISBN9784861041389)等に開示されている。これら公知のスリットダイは、フィルムやテープなどの可撓
性を有した部材やガラス基板のような硬い部材であっても塗布が実施できる。
本発明の異方性色素膜形成用組成物は、塗布装置への給液が容易であり、スロットダイコート法での塗布を行う場合にも、実用に耐える塗布速度で塗布することができ、生産性の高い異方性色素膜製造プロセスを構築することができる。
【0100】
本発明の異方性色素膜形成に使用される基板として、ガラスやトリアセテート、アクリル、ポリエステル、ポリイミド、トリアセチルセルロース又はウレタン系のフィルム等が挙げられる。また、この基板表面には、色素の配向方向を制御するために、「液晶便覧」丸善株式会社、平成12年10月30日発行、226頁から239頁等に記載の公知の方法により、配向処理層(配向膜)を施していてもよい。配向処理層を設けた場合、配向処理層の配向処理の影響と塗布時に異方性色素膜形成用組成物にかかるせん断力とによって色素が配向すると考えられる。
【0101】
異方性色素膜形成用組成物を塗布する際の、異方性色素膜形成用組成物の供給方法、供給間隔は特に限定されない。塗布液の供給操作が繁雑になったり、塗布液の開始時と停止時に塗布膜厚の変動を生じてしまったりする場合があるため、異方性色素膜の膜厚が薄い時には、連続的に異方性色素膜形成用組成物を供給しながら塗布することが望ましい。
【0102】
異方性色素膜形成用組成物を塗布する速度としては、通常1mm/秒以上であり、好ましくは5mm/秒以上である。また、通常1000mm/秒以下であり、好ましくは200mm/秒以下である。塗布速度が適当な範囲であることで、異方性色素膜の異方性が得られ、均一に塗布できる傾向にある。
なお、異方性色素膜形成用組成物の塗布温度としては、通常0℃以上80℃以下、好ましくは40℃以下である。また、異方性色素膜形成用組成物の塗布時の湿度は、好ましくは10%RH以上、さらに好ましくは30%RH以上であり、好ましくは80%RH以下である。
【0103】
異方性色素膜の膜厚は、乾燥膜厚として、好ましくは10nm以上、さらに好ましくは50nm以上である。一方、好ましくは30μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。異方性色素膜の膜厚が適当な範囲にあることで、膜内で色素の均一な配向及び均一な膜厚を得られる傾向にある。
【0104】
異方性色素膜には、不溶化処理を行ってもよい。不溶化とは、異方性色素膜中の化合物の溶解性を低下させることにより、該化合物の異方性色素膜からの溶出を制御し、膜の安定性を高める処理工程を意味する。
具体的には、例えば少ない価数のイオンを、それより大きい価数のイオンに置き換える(例えば、1価のイオンを多価のイオンに置き換える)処理や、イオン基を複数有する有機分子やポリマーに置き換える処理が挙げられる。このような処理方法としては、例えば、細田豊著「理論製造 染色化学」(技報堂、1957年)435~437頁等に記載されている処理工程等の公知の方法を用いることができる。
これらの中でも、得られた異方性色素膜を特開2007-241267号公報等に記載の方法で処理し、水に対して不溶性の異方性色素膜とすることが、後工程の容易さ、耐久性等の点から好ましい。
【0105】
[光学素子]
本発明の光学素子は、本発明の異方性色素膜を含む。
本発明において、光学素子は、光吸収の異方性を利用し直線偏光、円偏光、楕円偏光等を得る偏光素子、位相差素子、屈折異方性や伝導異方性等の機能を有する素子を表す。これらの機能は、異方性色素膜形成プロセスと基板や有機化合物(色素や透明材料)を含有する組成物の選択により、適宜調整することができる。本発明では、偏光素子として用いることが最も好ましい。
【0106】
[偏光素子]
本発明の偏光素子は、本発明の異方性色素膜を有するものであれば他の如何なる膜(層)を有するものであってもよい。例えば、基板上に配向膜を設け、該配向膜の表面に、異方性色素膜を形成することにより製造することができる。
また、偏光素子は異方性色素膜だけに限らず、偏光性能を向上させる、機械的強度を向上させる等の機能を有するオーバーコート層;粘着層又は反射防止層;配向膜;位相差フィルムとしての機能、輝度向上フィルムとしての機能、反射又は反射防止フィルムとしての機能、半透過反射フィルムとしての機能、拡散フィルムとしての機能などの光学機能を有する層;等、と組み合わせて使用してもよい。具体的には、前述の様々な機能を有する層を塗布や貼合等により積層形成し、積層体として使用してもよい。
これらの層は、製造プロセス、特性及び機能に合わせ適宜設けることができ、その積層の位置、順番等は特に限定されない。例えば、上記各層を形成する位置は、異方性色素膜の上に形成してもよく、また、異方性色素膜を設けた基板の反対面に形成してもよい。一方、上記各層を形成する順番は、異方性色素膜を形成する前でも形成した後でもよい。
【0107】
これら光学機能を有する層は、以下の様な方法により形成することができる。
位相差フィルムとしての機能を有する層は、以下のような方法で得られた位相差フィルムを、偏光素子を構成する他の層に貼合等を行うことにより、形成することができる。
位相差フィルムは、例えば、特開平2-59703号公報、特開平4-230704号公報等に記載の延伸処理を施したり、特開平7-230007号公報等に記載された処理を施したりすることにより形成することができる。
【0108】
輝度向上フィルムとしての機能を有する層は、以下のような方法で得られた輝度向上フィルムを、偏光素子を構成する他の層に貼合等を行うことにより、形成することができる。
輝度向上フィルムは、例えば、特開2002-169025号公報及び特開2003-29030号公報に記載されるような方法で微細孔を形成すること、又は、選択反射の中心波長が異なる2層以上のコレステリック液晶層を重畳することにより形成することができる。
【0109】
反射フィルムまたは半透過反射フィルムとしての機能を有する層は、例えば、蒸着やスパッタリングなどで得られた金属薄膜を、偏光素子を構成する他の層に貼合等を行うことにより、形成することができる。
拡散フィルムとしての機能を有する層は、例えば、偏光素子を構成する他の層に微粒子を含む樹脂溶液をコーティングすることにより、形成することができる。
【0110】
また、位相差フィルムや光学補償フィルムとしての機能を有する層は、ディスコティック液晶性化合物、ネマティック液晶性化合物等の液晶性化合物を、偏光素子を構成する他の層に塗布して配向させることにより形成することができる。
【0111】
本実施の形態における異方性色素膜をLCDやOLED等の各種の表示素子に異方性色素膜等として用いる場合には、これらの表示素子を構成する電極基板等の表面に直接異方性色素膜を形成したり、異方性色素膜を形成した基板をこれら表示素子の構成部材として用いたりすることができる。
本発明の光学素子は、基板上に塗布などにより異方性色素膜を形成することで偏光素子を得ることができるという点から、フレキシブルディスプレイ等の用途にも好適に使用することができる。
【実施例】
【0112】
実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、下記の実施例における物性、製造条件および評価結果等の各種数値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限または下限の値と下記実施例の値との組合せまたは実施例同士の値の組合せで規定される範囲であってもよい。
以下の記載において、「部」は「質量部」を示し、「%」は「重量%」を示す。
【0113】
Dye-1の合成
4-アミノベンズアミド5.45重量部、および水200重量部に塩酸酸性条件下、亜硝酸ナトリウム3.00重量部を加えてジアゾ化し、水240重量部に溶解した8-アミノ-2-ナフタレンスルホン酸(1,7-クレーブ酸)8.93重量部とpH=2~3でカップリングを行った後、中和、塩析して析出固体を濾過分離し、モノアゾ化合物のウエットケーキを得た。
このモノアゾ化合物のウエットケーキをN-メチルピロリドン220重量部、および水110重量部に溶解し、塩酸酸性条件下、亜硝酸ナトリウム3.00重量部を加えてジアゾ化し、水200重量部に溶解した8-アミノ-2-ナフタレンスルホン酸(1,7-クレーブ酸)8.93重量部とpH=2~3でカップリングを行った後、塩析して析出物を取り出した。水に溶解して水酸化ナトリウムで中和し、イソプロピルアルコールを加えて析出固体を濾過分離し、得られたウエットケーキを乾燥することにより、下記式(I-1)で表されるアゾ色素のナトリウム塩31.1重量部を得た。
【0114】
【0115】
式(I-1)で表されるアゾ色素のナトリウム塩31.3重量部をN-メチルピロリドン200重量部、および水260重量部に溶解し、塩酸酸性条件下、亜硝酸ナトリウム3.04重量部を加えてジアゾ化し、水400重量部に溶解した7-アミノ-1-ナフトール-3,6-ジスルホン酸(RR酸)(純度:65.5%)19.5重量部とpH=9~10でカップリングを行った。反応後、析出固体を濾過分離し、下記で表される(I-2)のナトリウム塩を得た。
【0116】
【0117】
式(I-2)で表されるトリスアゾ色素のナトリウム塩の水溶液を陽イオン交換樹脂(三菱ケミカル社製SK1BH)に通し、遊離酸の水溶液とした後、水酸化リチウム水溶液で中和、濃縮乾燥することにより、下記式Dye-1で表されるトリスアゾ色素のリチウム塩を得た。
【0118】
【0119】
[比較例1]
Dye-1とポリスチレンスルホン酸ナトリウム(重量平均分子量:5200)を80:20の重量比率で混ぜ、固形分濃度が13%の溶液になるように水を添加した。その後、80℃で90分攪拌して完全に溶解させ、異方性色素膜形成用組成物1を作製した。
その後、偏光顕微鏡を用いて常温(25℃)にて、液晶性の確認をしたところ、液晶部分と非液晶部分が混在した相分離状態であることが確認できた。
【0120】
[比較例2]
比較例1におけるポリスチレンスルホン酸ナトリウムの代わりに、ポリアクリル酸ナトリウム(重量平均分子量:5000)を用いた以外は比較例1と同様に、異方性色素膜形成用組成物2を作製した。
その後、常温にて、液晶性の確認をしたところ、液晶部分と非液晶部分が混在した相分離状態であることが確認できた。
【0121】
[比較例3]
比較例1におけるポリスチレンスルホン酸ナトリウムの代わりに、ポリアリルアミン(重量平均分子量:3000)を用いた以外は比較例1と同様に、異方性色素膜形成用組成物3を作製した。
その後、常温にて、液晶性の確認をしたところ、液晶性がないことが確認できた。
【0122】
[実施例1]
比較例1におけるポリスチレンスルホン酸ナトリウムの代わりに、アリルアミンとアリルスルホン酸ナトリウムが4:6のモル比で含まれる共重合体である酸性基及び塩基性基を有する高分子化合物(ポリマーA)(重量平均分子量:1700)を用いた以外は比較例1と同様に、異方性色素膜形成用組成物4を作製した。
その後、常温にて、液晶性の確認をしたところ、均一な液晶状態であることが確認できた。
【0123】
[実施例2]
実施例1におけるDye-1とポリマーAの比を60:40に変更し、さらにポリマーAの対カチオンをリチウムに塩交換したポリマーBに変更した以外は実施例1と同様に、異方性色素膜形成用組成物5を作製した。なお、ポリマーAのリチウム塩への交換は、ポリマーA(ナトリウム塩)の水溶液を陽イオン交換樹脂(三菱ケミカル社製SK1BH)に通し、遊離酸の水溶液とした後、水酸化リチウム水溶液でpHが7.0になるまで中和、濃縮乾燥することにより実施した。
その後、常温にて、液晶性の確認をしたところ、均一な液晶状態であることが確認できた。
【0124】
[比較例4]
実施例2におけるポリマーBをすべてL-(+)-Lysineで置き換えた以外は実施例2と同様に、異方性色素膜形成用組成物6を作製した。
その後、常温にて、液晶性の確認をしたところ、均一な液晶状態であることが確認できた。
【0125】
[耐湿試験]
実施例1~2、比較例4で調製した異方性色素膜形成用組成物をそれぞれガラス基板上にアプリケーターを用いて塗布し、風乾して、異方性色素膜を作製した。
硫化カリウムの飽和水溶液を用いて25℃、相対湿度97%に調整した恒湿環境に、得られた異方性色素膜を1日放置した。その後、膜を偏光顕微鏡で観察し、耐湿性を下記基
準にて評価した。
A:膜に析出や凝集、ひび割れが無い場合
B:膜に析出や凝集、ひび割れが有る場合
【0126】
本発明においては、硫化カリウムの飽和水溶液を作成し、恒湿環境を作成した。この際、湿度計を確認したところ、25℃において97%の湿度で保たれている状態であった。
【0127】
これらの結果から、色素と特定の高分子化合物を含む本発明の組成物は、均一な液晶状態を維持することから、異方性色素膜を形成可能であることが示された。また、得られた異方性色素膜は耐湿性に優れることが示された。
【0128】