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特許7024438液体吐出装置、液体吐出方法、液体吐出プログラム及び画像形成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】液体吐出装置、液体吐出方法、液体吐出プログラム及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20220216BHJP
   B05C 5/00 20060101ALI20220216BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
B41J2/01 109
B05C5/00 101
B05C11/10
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018008284
(22)【出願日】2018-01-22
(65)【公開番号】P2019126922
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】山本 直宏
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-213886(JP,A)
【文献】特開2015-150771(JP,A)
【文献】特開2011-125835(JP,A)
【文献】特開2017-144738(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0138275(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B05C 5/00
B05C 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体上に形成する画像の画像データを取得する第1の取得部と、
前記第1の取得部により取得された前記画像データを、使用する色材の画像データに変換する変換部と、
前記記録媒体の立体形状に関する形状データを取得する第2の取得部と、
前記色材の画像データ及び前記形状データに基づいて、液滴を吐出する吐出部の走査面の走査面画像データを生成する生成部と、
前記走査面画像データに所定の中間調処理を施すことで、前記吐出部の走査面の解像度と同じ吐出解像度の吐出データを生成する中間調処理部と、を備え、
前記生成部は、
前記記録媒体の表面の中で所定以上傾斜している部分の傾斜角度に基づいて前記走査面画像データを生成し、
前記走査面画像データを生成する場合に、前記吐出部が前記記録媒体上を相対的に走査する前記走査面に前記色材の画像データを平行投影し、前記走査面の画素に投影された前記色材の画像データの画素の面積に対する前記走査面の画素の面積の面積比率に応じて、前記走査面の画素値を生成すること
を特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記生成部は、前記記録媒体の表面の中で最も傾斜している部分の傾斜角度に基づいて前記走査面画像データを生成すること
を特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記吐出部の前記走査面の画像解像度は、一定であること
を特徴とする請求項1又は請求項に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記生成部は、前記記媒体の表面の中で最も傾斜している部分の傾斜角度と、所望の印刷解像度から、印刷解像度÷cos(最大傾斜角)の演算式を用いて、前記吐出部の前記走査面の画像解像度を決定すること
を特徴とする請求項から請求項のうち、いずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
第1の取得部が、記録媒体上に形成する画像の画像データを取得する第1の取得ステップと、
変換部が、前記第1の取得部により取得された前記画像データを、使用する色材の画像データに変換する変換ステップと、
第2の取得部が、前記記録媒体の立体形状に関する形状データを取得する第2の取得ステップと、
生成部が、前記色材の画像データ及び前記形状データに基づいて、液滴を吐出する吐出部の走査面の走査面画像データを生成する生成ステップと、
中間調処理部が、前記走査面画像データに所定の中間調処理を施すことで、前記吐出部の走査面の解像度と同じ吐出解像度の吐出データを生成する中間調処理ステップと、を備え、
前記生成ステップにおいて、前記生成部は、
前記記録媒体の表面の中で所定以上傾斜している部分の傾斜角度に基づいて前記走査面画像データを生成し、
前記走査面画像データを生成する場合に、前記吐出部が前記記録媒体上を相対的に走査する前記走査面に前記色材の画像データを平行投影し、前記走査面の画素に投影された前記色材の画像データの画素の面積に対する前記走査面の画素の面積の面積比率に応じて、前記走査面の画素値を生成すること
を特徴とする液体吐出方法。
【請求項6】
コンピュータを、
記録媒体上に形成する画像の画像データを取得する第1の取得部と、
前記第1の取得部により取得された前記画像データを、使用する色材の画像データに変換する変換部と、
前記記録媒体の立体形状に関する形状データを取得する第2の取得部と、
前記色材の画像データ及び前記形状データに基づいて、液滴を吐出する吐出部の走査面の走査面画像データを生成する生成部と、
前記走査面画像データに所定の中間調処理を施すことで、前記吐出部の走査面の解像度と同じ吐出解像度の吐出データを生成する中間調処理部として機能させ、
前記生成部は、
前記記録媒体の表面の中で所定以上傾斜している部分の傾斜角度に基づいて前記走査面画像データを生成し、
前記走査面画像データを生成する場合に、前記吐出部が前記記録媒体上を相対的に走査する前記走査面に前記色材の画像データを平行投影し、前記走査面の画素に投影された前記色材の画像データの画素の面積に対する前記走査面の画素の面積の面積比率に応じて、前記走査面の画素値を生成すること
を特徴とする液体吐出プログラム。
【請求項7】
請求項1から請求項のうち、いずれか一項に記載の液体吐出装置と、
前記吐出部から吐出した液滴を前記記録媒体に塗布して、前記記録媒体上に画像を印刷する印刷機能と
を有することを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置、液体吐出方法、液体吐出プログラム及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
今日において、例えば糊、水、インク等の液体を吐出する液体吐出装置が知られている。一例として、インクを吐出するインクジェットプリンタ装置の場合、平面状の印刷対象物(メディア)に対して行う平面印刷に利用される他、近年は凹凸を有する立体メディアに対して行う立体印刷にも利用されている。
【0003】
ヘッド走査面とメディア表面が平行である場合、ヘッド走査面で調整した吐出解像度と一致する印刷解像度で、メディア表面に印刷が行われる。しかし、メディア表面に凹凸が存在する場合、この凹凸による傾斜により、ヘッド走査面とメディア表面との間が、平行にならない場合がある(ヘッド走査面とメディア表面との間が非平行となる)。ヘッド走査面とメディア表面との間が非平行となると、メディア表面の印刷解像度と濃度が低下する。
【0004】
このため、メディア表面に凹凸がある場合に、メディア表面の傾斜度に応じてヘッド走査面の吐出解像度を4段階に変更して印刷を行うことにより、メディア表面の印刷解像度の低下を抑制するインクジェットプリンタ装置が知られている。
【0005】
また、特許文献1(特開2004-114500号公報)には、印刷対象の建築板の表面とインクを吐出するノズル間の距離と、印刷対象の建築板の表面の傾斜の度合いに応じて、インクの速度、及び、インクを吐出する解像度を変更する建築板印刷装置が開示されている。具体的には、この建築板印刷装置の場合、建築版の表面とノズル間の距離が長いほどインクの噴射速度を速くし、建築板の表面の傾斜が大きいほど印刷解像度を高くする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の建築板印刷装置も含め、液体を吐出する従来の液体吐出装置は、液体を塗布する物体の表面の傾斜に応じて、液体の吐出速度及び印刷解像度を変更していた。このため、メニスカス振動特性、ノズル部へのインク供給特性及びクロストーク特性等が変化し、吐出速度及び吐出角度(吐出されたインクの進行方向と鉛直下方向との角度)が不安定になり、吐出精度が低下し、液体の塗布品質が低下する問題がある。
【0007】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、液体の吐出精度及び塗布品質を向上させることができるような液体吐出装置、液体吐出方法、液体吐出プログラム及び画像形成装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、記録媒体上に形成する画像の画像データを取得する第1の取得部と、第1の取得部により取得された画像データを、使用する色材の画像データに変換する変換部と、記録媒体の立体形状に関する形状データを取得する第2の取得部と、色材の画像データ及び形状データに基づいて、液滴を吐出する吐出部の走査面の走査面画像データを生成する生成部と、走査面画像データに所定の中間調処理を施すことで、吐出部の走査面の解像度と同じ吐出解像度の吐出データを生成する中間調処理部と、を備え、生成部は、記録媒体の表面の中で所定以上傾斜している部分の傾斜角度に基づいて前記走査面画像データを生成し、前記走査面画像データを生成する場合に、前記吐出部が前記記録媒体上を相対的に走査する前記走査面に前記色材の画像データを平行投影し、前記走査面の画素に投影された前記色材の画像データの画素の面積に対する前記走査面の画素の面積の面積比率に応じて、前記走査面の画素値を生成する
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、液体の吐出精度及び塗布品質を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施の形態の三次元インクジェットプリンタ装置の外観を概略的に示す図である。
図2図2は、実施の形態の三次元インクジェットプリンタ装置のハードウェア構成を示す図である。
図3図3は、実施の形態の三次元インクジェットプリンタ装置のCPUが、印刷制御プログラムを実行することで実現される各機能の機能ブロック図である。
図4図4は、印刷を行うメディアの表面形状と、ヘッド走査面との関係を説明するための図である。
図5図5は、メディアの表面が傾斜していることで、インクのドットの間隔が広くなり、印刷解像度が低下する不都合を説明するための図である。
図6図6は、ライン方式のヘッドにおける副走査方向のノズルピッチを説明するための図である。
図7図7は、実施の形態の三次元インクジェットプリンタ装置の印刷動作の流れを示すフローチャートである。
図8図8は、実施の形態の三次元インクジェットプリンタ装置が、メディアの表面の画像をヘッド走査面に平行投影する動作を説明するための図である。
図9図9は、実施の形態の三次元インクジェットプリンタ装置において、メディアの表面の画像がヘッド走査面に平行投影された様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(概要)
実施の形態の装置としては、液状物体を吐出して対象物に塗布する装置であれば、どのような装置でもよい。液状物体の概念は、例えば水又はインク等の液体の他、糊又はワックス等のゼリー状又は所定の粘度を有する液体状の物体も含む概念である。
【0012】
また、対象物に液状物体を塗布する塗布形態は、対象物の表面形状及び塗布の目的に適した塗布形態となる。例えば、三次元インクジェットプリンタ装置であれば、三次元形状を有する対象物の表面に対して、高い印刷品質で印刷を行うことを目的とした塗布形態となる。また、糊を塗布する装置であれば、二次元形状又は三次元形状を有する対象物に対してムラ無く均一に糊を塗布することを目的とした塗布形態となる。
【0013】
実施の形態として説明する液体吐出装置は、対象物の表面の中で、例えば傾斜角度が最も大きい箇所等の所定以上の傾斜角度の箇所に対応した吐出速度及び吐出解像度を設定する。これにより、傾斜角度が例えば最大等の所定以上の傾斜角度の部分に対して所望の解像度で液体を塗布でき、また、所定未満の傾斜角度の部分では、所望の解像度以上の解像度で液体を塗布できるため、液体の塗布品質の低下を防止できる。また、メニスカス振動特性又はインク等の液体供給特性等の影響により、液体の吐出速度及び吐出角度が不安定となることで生ずる塗布品質の低下を防止できる。
【0014】
以下、一例として、三次元形状を有する対象物の表面にインクを塗布して画像を印刷する三次元インクジェットプリンタ装置の実施の形態を説明する。
【0015】
(外観構成)
まず、図1は、実施の形態の三次元インクジェットプリンタ装置の外観を概略的に示す図である。この図1に示すように、三次元インクジェットプリンタ装置は、基台1を有している。基台1には、三次元印刷の対象物であるメディア2(記録媒体)が載置される。基台1の両端部近傍には、基台1の短手方向(Y軸方向)に沿って一対の直線状のレール3が設けられている。各レール3には、それぞれ支柱4が設けられている。各支柱4は、それぞれ各レール3に沿ってY軸方向に移動可能となっている。
【0016】
各支柱4の内面側(メディア2と対向する面側)には、基台1の短手方向(Y軸方向)に対して直交する方向(Z軸方向)に沿って、一対の直線状のレール5が設けられている。また、三次元インクジェットプリンタ装置は、直線の棒状のスライダ6を有している。スライダ6は、各支柱4で挟持されるかたちで、各支柱4に設けられている。また、スライダ6は、各レール5に沿った方向であるZ軸方向に沿って移動可能なように、各端部が各レール5にそれぞれ設けられている。
【0017】
スライダ6の内面側(メディア2と対向する面側)には、スライダ6の長手方向(X軸方向)に沿って直線状のレール7が設けられている。このレール7には、レール7に沿った方向であるX軸方向に移動可能となるように、ヘッド保持部8が設けられている。ヘッド保持部8には、基台1に載置されたメディア2に対して吐出したインクを塗布可能となるように、インクジェットヘッド9が設けられている。
【0018】
このような実施の形態の三次元インクジェットプリンタ装置では、X軸方向が主走査方向、Y軸方向が副走査方向となっている。また、印刷時においては、メディア2とインクジェットヘッド9が接触することがないように、Z軸方向の制御が行われる。
【0019】
(ハードウェア構成)
次に、図2は、実施の形態の三次元インクジェットプリンタ装置のハードウェア構成を示す図である。この図2に示すように、実施の形態の三次元インクジェットプリンタ装置は、インクジェットヘッド9と共に、コントローラ21、ヘッド駆動機構23及び操作部24を有している。
【0020】
ヘッド駆動機構23は、上述の各レール3、5、7に沿ってインクジェットヘッド9を三次元的に移動制御する。操作部24は、ユーザの入力操作等による、所望の画像の印刷指示等を処理する。
【0021】
コントローラ21は、CPU(Central Processing Unit)30、入出力インタフェース(入出力I/F)31、メモリ32、HDD(Hard Disk Drive)33を有している。入出力I/F31は、後述する画像データ又は(及び)形状データを、外部のメモリ又はネットワークを介して取得する際に用いられる。メモリ32は、例えばROM(Read Only Memory)又はRAM(Random Access Memory)等の半導体メモリであり、OS(Operating System)及び各種アプリケーションプログラムを記憶している。
【0022】
メモリ32又はHDD33等の記憶部には、三次元印刷制御を行うための印刷制御プログラムが記憶されている。この印刷制御プログラムは、液体吐出プログラムの一例である。また、図2は、HDD33に印刷制御プログラムが記憶されている例である。印刷制御プログラムは、HDD33以外であっても、例えばROM又はRAM等の他の記憶部に記憶してもよい。CPU30は、印刷制御プログラムを実行することで、ヘッド駆動機構23を介してインクジェットヘッド9を三次元的に移動制御し、また、インクの吐出制御を行う。
【0023】
(ソフトウェア構成)
図3は、CPU30が印刷制御プログラムを実行することで実現される各機能の機能ブロック図である。この図3に示すように、CPU30は印刷制御プログラムを実行することで、画像データ取得部41(第1の取得部の一例)、形状データ取得部42(第2の取得部の一例)、変換部43、生成部44、中間調処理部45及び画像形成部46の各機能を実現する。
【0024】
画像データ取得部41は、印刷対象であるメディア2の表面にテクスチャマッピングされたテクスチャマッピング画像データ(画像データの一例)を、メモリ32又はHDD33等の記憶部から取得し、或いは、入出力I/F31を介して外部メモリ又は所定のネットワークを介して取得する。形状データ取得部42は、メディア2の三次元形状を示す形状データを、メモリ32又はHDD33等の記憶部から取得し、或いは、入出力I/F31を介して外部メモリ又は所定のネットワークを介して取得する。
【0025】
変換部43は、取得したテクスチャマッピング画像データを、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)及びブラック(K)等の、使用する色材に対応した印刷解像度αのカラー画像データに変換処理する。なお、使用する色材は、ライトマゼンタやライトシアンなど中間色を含んでも良い。生成部44は、変換処理が施されたカラー画像データ及び形状データに基づいて、ヘッド走査面の画像データ(走査面画像データの一例)を生成する。この際、生成部44は、メディア2の表面上の、例えば最も傾斜している部分(最大傾斜部分)に対して所望の印刷解像度を設定する。
【0026】
なお、一例として、生成部44は、メディア2の表面上の最大傾斜部分に対して所望の印刷解像度を設定することとして説明を進めるが、メディア2の表面上の2番目に大きな傾斜部分、又は、3番目に大きな傾斜部分等のように、任意の部分に対して所望の印刷解像度を設定してもよい。
【0027】
中間調処理部45は、このようなヘッド走査面の画像データを中間調処理し、吐出データを画像形成部46に供給する。画像形成部46は、吐出データに基づいてヘッド22の各ノズルからインクを吐出制御することで、メディア2に印刷処理を施す。これにより、メディア2の最大傾斜部分に対しては、設定された印刷解像度で印刷を施すことができ、また、最大傾斜部分以外の部分に対しては、設定された印刷解像度以上の解像度で印刷を施すことができる。なお、ヘッド22の移動制御は、形状データ取得部42で取得されたメディア2の形状データに基づいて、ヘッド駆動機構23がヘッドを三次元的に移動制御することで行われる。
【0028】
(比較例の説明)
三次元インクジェットプリンタ装置は、ヘッドを三次元走査して液体をメディアに吐出して塗布することで印刷を実行する。ヘッドの走査手法としては、シリアル方式及びライン方式が知られている。シリアル方式は、ノズルの並設方向である主走査方向にヘッドを往復移動させ、メディアを移動させることで副走査方向への走査に対応する。ライン方式は、主走査方向をメディアの移動で対応し、副走査方向はヘッドをライン状に並べることで走査することで対応する。いずれの方式も、ヘッドがメディア上を相対的に走査して液体を吐出する。
【0029】
図4(a)に示すように、例えば紙又はシート等の平面状のメディア51の場合、印刷時におけるヘッド走査面52とメディア51は平行となる。これに対して、図4(b)に示すように、表面に傾斜又は凹凸が存在するメディア53の場合、印刷時において、ヘッド走査面54とメディア53の表面が平行とはならない箇所が存在する。
【0030】
平面のメディア51に対して印刷を行う場合、図5(a)に示すようにヘッド走査面52とメディア51が平行であるため、ヘッド走査面52の吐出解像度を希望する印刷解像度とすることで、メディア51に対しても、希望する印刷解像度での印刷が行われる。これに対して、表面に傾斜又は凹凸が存在するメディア53の場合、傾斜が生じている箇所にインクが塗布されると、図5(b)に示すように塗布されるインクのドットの間隔が広くなり、印刷解像度が低下する。また、この場合、単位面積あたりのインク量が低下し、印刷濃度も低下する。
【0031】
すなわち、図5(b)に示すように、インクの吐出間隔を「Δj」、ヘッド走査面54に対するメディア53の表面の傾きを「θ」とすると、インクのドットの塗布位置の間隔「Δd」は、「Δd=Δj/cosθ」となる。このため、表面に傾斜が存在するメディア53の場合、表面の傾斜により印刷解像度は、「吐出解像度×cosθ」に低下する。
【0032】
(実施の形態の概要)
このようなことから、実施の形態の三次元インクジェットプリンタ装置の場合、メディア走査面54における吐出解像度は一定とする。また、実施の形態の三次元インクジェットプリンタ装置が対応可能な最大のメディア表面傾斜角度を「φ」、希望する印刷解像度を「α(dpi)」とし、吐出解像度βを「β=α/cosφ」として設定する。これにより、メディア53の表面の傾きが0~φとしたときに、メディア53の表面の印刷解像度は「α/cosφ(dpi)~α(dpi)」となるため、所望の印刷解像度α(dpi)以上の印刷解像度を得ることができ、印刷解像度の低下を防止できる。
【0033】
また、インクの吐出周期が一定であるため、吐出周期変動によるメニスカス振動特性、ヘッドノズル部へのインク供給特性及びクロストーク特性の変化が生じず、吐出速度及び吐出角度等の吐出精度の低下を防止することができる。
【0034】
さらに、図6(a)はライン方式における1200(dpi)の副走査方向のノズルピッチ、図6(b)はライン方式における1050(dpi)の副走査方向のノズルピッチ、図6(c)はライン方式における900(dpi)の副走査方向のノズルピッチである。この図6(a)~図6(c)に例示するように、ライン方式の場合、副走査方向のノズルピッチが異なるため、吐出解像度を変更する場合、解像度毎のノズル列を設置する必要があり、コスト高となる。また、シリアル方式の場合、副走査方向の移動回数が増加するため、生産性の低下が生ずる。
【0035】
しかし、実施の形態の三次元インクジェットプリンタ装置の場合、上述のようにメディア走査面54における吐出解像度を一定とすることができるため、このような不都合を防止することができる。
【0036】
(実施の形態の印刷動作)
次に、図7のフローチャートを用いて、実施の形態の三次元インクジェットプリンタ装置における、メディアの立体形状に対応した印刷動作を説明する。この図7のフローチャートにおいて、ステップS1では、画像データ取得部41が、印刷対象であるメディア2の表面にテクスチャマッピングされたテクスチャマッピング画像データを、記憶部又はネットワークを介して取得する。ステップS2では、形状データ取得部42が、メディア2の三次元形状を示す形状データを、記憶部又はネットワークを介して取得する。
【0037】
ステップS3では、変換部43が、取得したテクスチャマッピング画像データを、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)及びブラック(K)等の、使用する色材に対応した印刷解像度αのカラー画像データに変換処理する。なお、使用する色材は、ライトマゼンタやライトシアンなど中間色を含んでも良い。
【0038】
ステップS4では、生成部44が、変換処理が施されたカラー画像データ及び形状データに基づいて、ヘッド走査面の画像データを生成する。この際、生成部44は、メディア2の表面上の、例えば最も傾斜している部分(最大傾斜部分)に対して所望の印刷解像度を設定する。
【0039】
具体的には、図8(a)及び図8(c)に実線で示す画素は、メディア2の表面61の印刷解像度αの画素を示している。また、図8(b)及び図8(c)に一点鎖線で示す画素は、ヘッド走査面62の吐出解像度βの画素を示している。生成部44は、ステップS3でカラー画像変換を行うことで得られた立体表面画像を、ヘッド走査面62に投影して、ヘッド走査面62の画素値を計算する。
【0040】
すなわち、図9は、メディア2の表面61の画像(実線)をヘッド走査面62(一点鎖線)に平行投影した状態を示す図である。この図9においては、メディア2の表面61の画素として、画素(i,j)、(i,j-1)、(i+1,j-1)、(i+1,j)の、一部の画素のみを図示している。生成部44は、ステップS2で取得された形状データである、例えば3次元スキャナ装置等で計測したメディア2の立体形状データ又はメディア2の形状設計データに基づいて、平行投影に関する演算を行う。
【0041】
すなわち、生成部44は、以下の数1式の演算を行うことで、投影されたメディア2の表面61の画素との面積比率で、ヘッド走査面62の画素値を計算する。
【0042】
ヘッド走査面62の画素値=(Σu(メディア2表面61の画素uの画素値)×(投影されたメディア2の表面61の画素uに含まれるヘッド走査面62の画素の面積))/(投影されたメディア2表面61画素uの面積)・・・(数1式)
【0043】
具体的には、図9の例の場合、生成部44は、ヘッド走査面62の画素値(m+1,n)を以下の数2式の演算を行うことで算出する。
【0044】
ヘッド走査面62の画素値(m+1,n)=(メディア2の表面61の画素値(i,j)×[{x(m+2)-x(m+1)}×{y(n+1)-y(n)}])/([{x(i+1)-x(i)}×{y(j+1)-y(j)}])・・・(数2式)
【0045】
また、図9の例の場合、生成部44は、ヘッド走査面の画素値(m+2,n)を以下の数3式の演算を行うことで算出する。
【0046】
ヘッド走査面の画素値(m+2,n)=(メディア2の表面61の画素値(i,j)×[{x(i+1)-x(m+2)}×{y(n+1)-y(n)}]/[{x(i+1)-x(i)}×{y(j+1)-y(j)}]+メディア2の表面61の画素値(i+1,j)×[{x(m+3)-x(i+1)}×{y(n+1)-y(n)}])/([{x(i+2)-x(i+1)}×{y(j+1)-y(j)}])・・・(数3式)
【0047】
換言すると、生成部44は、メディア2の表面61で最も傾斜している部分の傾斜角度をφ[rad]、メディア2の表面61の所望の印刷解像度をα[dpi]とし、吐出解像度をβ[dpi]を以下の数4式で算出する。
【0048】
β=α/cosφ[dpi]・・・(数4式)
【0049】
なお、数4式において、傾斜角度φはメディア2の形状毎に異なる定数である。
【0050】
次に、図7のフローチャートのステップS5において、中間調処理部45が、上述のように算出したヘッド走査面62の画像データを、例えばディザ法又は誤差拡散法等の手法を用いて中間調処理し、ヘッド走査面62の解像度と同じ吐出解像度の吐出データを生成する。この吐出データは、画像形成部46に供給される。画像形成部46は、吐出データに基づいて。図2に示すヘッド22の各ノズルからインクを吐出制御することで、メディア2に印刷処理を施す。なお、ヘッド22の移動制御は、形状データ取得部42で取得されたメディア2の形状データに基づいて、ヘッド駆動機構23がヘッドを三次元的に移動制御することで行われる。
【0051】
画像形成部46は、ステップS7において、メディア2に対する印刷が終了したか否かを監視しており、印刷の終了が検出されたタイミングで、図7のフローチャートの処理が終了する。
【0052】
ヘッド走査面62からのインク吐出は、ヘッド走査面62の画像データをメディア2の表面61に平行投影することに相当する。実施の形態の三次元インクジェットプリンタ装置の場合、ヘッド走査面61の画像データは、投影されたメディア2の表面61の画素の面積比率に基づいて算出するため、メディア2の表面61において、所望の濃度の画像を形成することができる。
【0053】
(実施の形態の効果)
以上の説明から明らかなように、実施の形態の三次元インクジェットプリンタ装置は、メディア2の表面61の傾斜が最も大きい箇所に対応した吐出速度及び吐出解像度とする。これにより、メディア2の表面61の傾斜が最大となる箇所で、所望の印刷解像度(メディア2の表面61上の解像度)とし、また、傾斜が最大となる箇所以外の箇所は、所望の印刷解像度以上の解像度とすることができる。このため、インクの吐出精度及び印刷品質を向上させることができる。また、メニスカス振動特性又はインク供給特性等の影響により、インクの吐出速度及び吐出角度が不安定となり、印刷品質が低下する不都合を防止することができる。
【0054】
最後に、上述の実施の形態は、一例として提示したものであり、本発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことも可能である。実施の形態及び実施の形態の変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0055】
1 基台
2 メデャア
3 レール
4 支柱
5 レール
6 スライダ
7 レール
8 ヘッド保持部
9 インクジェットヘッド
21 コントローラ
23 ヘッド駆動機構
24 操作部
30 CPU
32 メモリ
33 HDD
41 画像データ取得部
42 形状データ取得部
43 変換部
44 生成部
45 中間調処理部
46 画像形成部
47 三次元駆動部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0056】
【文献】特開2004-114500号公報
図1
図2
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図5
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