(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】非対称スクアリリウム化合物、着色組成物、ディスプレイ用フィルター及びディスプレイ
(51)【国際特許分類】
C09B 57/00 20060101AFI20220216BHJP
C09B 23/14 20060101ALI20220216BHJP
C09B 67/20 20060101ALI20220216BHJP
G02B 5/22 20060101ALN20220216BHJP
【FI】
C09B57/00 X CSP
C09B23/14
C09B67/20 F
G02B5/22
(21)【出願番号】P 2018028893
(22)【出願日】2018-02-21
【審査請求日】2020-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2017035312
(32)【優先日】2017-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017091821
(32)【優先日】2017-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 済
(72)【発明者】
【氏名】山口 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】田中 由紀
(72)【発明者】
【氏名】小串 尚美
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-004232(JP,A)
【文献】特開2004-099713(JP,A)
【文献】国際公開第2015/056734(WO,A1)
【文献】特開平06-184134(JP,A)
【文献】特開平02-306247(JP,A)
【文献】特開2011-173956(JP,A)
【文献】Keil, Dietmar; Hartmann, Horst,Synthesis and characterization of a new class of unsymmetrical squaraine dyes,Dyes and Pigments,2001年,49(3),,161-179
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B
G02B 5/22
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化学構造を有する非対称スクアリリウム化合物。
【化1】
(式(1)中、Aは置換基を有していてもよいピロール環基を表し、該ピロール環基の窒素原子上に置換基を有する。
R
1及びR
2は各々独立に、置換基を有していてもよいアルキル基を表す。R
3は各々独立に任意の置換基を表す。
ただし、R
1とR
3とが結合して縮合環を形成し、R
2とR
3とが結合して縮合環を形成している。)
【請求項2】
下記一般式(2)で表される化学構造を有する、請求項1に記載の非対称スクアリリウム化合物。
【化2】
(式(2)中、R
4は置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよい芳香族環基を表す。式(2)中の環
(ただし、スクアリリウム骨格に隣接するベンゼン環は除く)はさらに置換基を有していてもよい。)
【請求項3】
波長380~450nmにおける透過率が80%以上である、請求項1又は2に記載の非対称スクアリリウム化合物。
【請求項4】
波長500~620nmにおける吸収極大の数が1つである、請求項1~3のいずれか1項に記載の非対称スクアリリウム化合物。
【請求項5】
波長500~620nmにおける吸収極大の半値幅が35nm以下である、請求項4に記載の非対称スクアリリウム化合物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の非対称スクアリリウム化合物を含有する着色組成物。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の非対称スクアリリウム化合物を含有するディスプレイ用フィルター。
【請求項8】
請求項7に記載のディスプレイ用フィルターを備えるディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の非対称スクアリリウム化合物、それを含有する着色組成物及びディスプレイ用フィルター、並びにそれを備えるディスプレイに関し、更に詳しくは、波長500~620nmにシャープな吸収極大を1つ有し、該吸収極大の極大吸収波長が570~620nmであり、かつ、波長380~450nmの透過率が80%以上で副吸収がない非対称スクアリリウム化合物、それを含有する着色組成物及びディスプレイ用フィルター、並びにそれを備えるディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイ装置の光源として、白色LEDや白色OLEDが用いられることが多くなっている。白色LEDの発光方式にはいくつかの種類があり、R(赤)、G(緑)、B(青)のそれぞれの光を発するLEDを並べて白色光を得る方式のものや、青色LEDからの青色発光と黄色蛍光体からの黄色発光の組み合わせや、青色LEDからの青色発光、緑色蛍光体からの緑色発光及び赤色蛍光体からの赤色発光の組み合わせにより白色光を得る方式のものがある。白色OLEDの発光方式にもいくつかの種類があり、赤色、緑色、青色のそれぞれの光を発する層を積層させたものや、青色、黄色のそれぞれの光を発する層を積層させたものがある。
【0003】
得られた白色光のスペクトルには590nm付近の領域にオレンジ色を示す光が含まれており、この領域の光の発光強度が高いと色純度が低下することが知られていた。
【0004】
このような点を改良するために、例えば特許文献1には、570nm~600nm付近の波長域に吸収極大を有するテトラアザポルフィリン化合物を含有させた色純度改善フィルターが開示されている。
【0005】
一方で、特許文献2には、標準比視感度曲線の中心波長近傍に極大吸収値を有する有機色素として特定のスクアリリウム化合物を用いることで、CRT用フィルターにおいて、視野の明るさを保ちつつ眩しさを抑え、鮮明な色感が得られることが記載されている。
【0006】
特許文献3には、特定の非対称スクアリリウム化合物を用いることで、プラズマディスプレイパネル用フィルターの耐久性を向上できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-11348号公報
【文献】特開平10-204304号公報
【文献】特開2004-99711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らが検討したところ、特許文献1に記載されたテトラアザポルフィリン化合物は、波長570~620nm付近に吸収極大を1つ有するものの、その極大吸収波長よりも短波長側に副吸収があるために、色再現性(色純度)や明るさを低下させたりする問題があった。
【0009】
また特許文献2に記載されたジフェニルスクアリリウム系化合物は、波長570~620nmとは異なる波長領域に吸収極大を有することから、色再現性に対しては、依然として不十分であることが判明した。
【0010】
特許文献3に記載された非対称スクアリリウム化合物は、片一方の基は芳香族複素環であるが、もう一方の基が電子供与性の弱い芳香族環である。そのため、一旦非対称スクアリリウム化合物を得たとしても、前記芳香族複素環と前記芳香族環が交換反応を起こし、対称スクアリリウム化合物との平衡状態を作って混合物になってしまい、波長500~620nmの複数個所に吸収極大が生じ輝度低下してしまい、また、吸収極大の半値幅も大きく色再現性の向上が十分ではないことが判明した。
【0011】
そこで本発明は、波長500~620nmにシャープな吸収極大を1つ有し、該吸収極大の極大吸収波長が570~620nmであり、かつ、波長380~450nmの透過率が80%以上で副吸収がない非対称スクアリリウム化合物、その非対称スクアリリウム化合物を含有する着色組成物及びディスプレイ用フィルター、並びにそのディスプレイ用フィルターを備えるディスプレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、非対称スクアリリウム化合物を特定の化学構造とすることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下を要旨とする。
【0013】
[1] 下記一般式(1)で表される化学構造を有する非対称スクアリリウム化合物。
【0014】
【0015】
(式(1)中、Aは置換基を有していてもよいピロール環基を表し、該ピロール環基の窒素原子上に置換基を有する。
R1及びR2は各々独立に、置換基を有していてもよいアルキル基を表す。R3は各々独立に任意の置換基を表す。
ただし、R1とR3とが結合して縮合環を形成し、R2とR3とが結合して縮合環を形成している。)
【0016】
[2] 下記一般式(2)で表される化学構造を有する、[1]に記載の非対称スクアリリウム化合物。
【0017】
【0018】
(式(2)中、R4は置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよい芳香族環基を表す。式(2)中の環(ただし、スクアリリウム骨格に隣接するベンゼン環は除く)はさらに置換基を有していてもよい。)
【0019】
[3] 波長380~450nmにおける透過率が80%以上である、[1]又は[2]に記載の非対称スクアリリウム化合物。
[4] 波長500~620nmにおける吸収極大の数が1つである、[1]~[3]のいずれかに記載の非対称スクアリリウム化合物。
[5] 波長500~620nmにおける吸収極大の半値幅が35nm以下である、[4]に記載の非対称スクアリリウム化合物。
【0020】
[6] [1]~「5」のいずれか1項に記載の非対称スクアリリウム化合物を含有する着色組成物。
[7] [1]~[5]のいずれかに記載の非対称スクアリリウム化合物を含有するディスプレイ用フィルター。
[8] [7]に記載のディスプレイ用フィルターを備えるディスプレイ。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、波長500~620nmにシャープな吸収極大を1つ有し、該吸収極大の極大吸収波長が570~620nmであり、かつ、波長380~450nmの透過率が80%以上で副吸収がない非対称スクアリリウム化合物、その非対称スクアリリウム化合物を含有する着色組成物及びディスプレイ用フィルター、並びにそのディスプレイ用フィルターを備えるディスプレイを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル」とは「アクリル及び/又はメタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリロイル」についても同様である。
また、本発明において「全固形分」とは、着色組成物中に含まれる、溶剤以外の全成分を意味するものとする。
さらに、本発明において、「重量平均分子量」とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)をさす。
【0023】
[非対称スクアリリウム化合物]
本発明の非対称スクアリリウム化合物は、下記一般式(1)で表される化学構造を有する。
【0024】
【0025】
式(1)中、Aは置換基を有していてもよいピロール環基を表し、該ピロール環基の窒素原子上に置換基を有する。
R1及びR2は各々独立に、置換基を有していてもよいアルキル基を表す。R3は各々独立に任意の置換基を表す。
ただし、R1とR3とが結合して縮合環を形成し、R2とR3とが結合して縮合環を形成している。
【0026】
本発明の非対称スクアリリウム化合物は、スクアリリウム骨格を有することによって短波長領域における副吸収がなく、波長380~450nmの透過率を高くできると考えられる。
【0027】
また本発明の非対称スクアリリウム化合物においては、片一方の基を窒素原子を含む特定の置換基を有するベンゼン環基とし、もう一方の基(前記式(1)のA)を特定のピロール環基とすることで、非対称スクアリリウム骨格をより安定化させることができ、分子内に適度な双極子モーメントを付与することが可能となり、その結果、J会合体による分子間相互作用を強めることで、高いグラム吸光係数を付与し、かつ、吸収極大における半値幅を狭小化させることが可能になると考えられる。この結果、本発明の非対称スクアリリウム化合物は、吸収極大を波長570~620nmに持たせることができ、前記片一方の基と前記もう一方の基の間の交換反応も制御することが可能となり、波長500~620nmにおける吸収極大の数を1つにできるものと考えられる。
【0028】
また前記式(1)において、R1とR3とが結合して縮合環を形成し、さらにR2とR3とが結合して縮合環を形成することで、前記片一方の基の平面性が向上し、かつ、分子振動を制限することが可能となり、極大吸収の半値幅がより狭小となると考えられる。
【0029】
なお、本明細書において交換反応とは、下記式のようにA及びDがスクアリリウム母骨格から脱離、再結合し、(I’)、(I’’)及び(I)の混合物に変換されることを意味する。
【0030】
【0031】
(A)
前記式(1)において、Aは置換基を有していてもよいピロール環基を表し、該ピロール環基の窒素原子上に置換基を有する。Aをピロール環基とすることでグラム吸光吸収係数が高くなると考えられ、一方で、ピロール環基の窒素原子上に置換基を有するものとすることで適度な溶解性をもつものとなり、ディスプレイ用フィルターにした場合でも化合物単体と同等の光学特性、例えばシャープな吸収極大を有し、色再現性が良好になると考えられる。
なお、Aのピロール環基は、ピロール環の2位又は3位の炭素原子が式(1)におけるスクアリリウム環と結合することが好ましく、より好ましくは、ピロール環の3位が式(1)におけるスクアリリウム環と結合するものである。
【0032】
ピロール環基を形成する炭素原子上には、任意の置換基を有してもよい。該置換基としては、好ましくは、フッ素原子、塩素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシル基、フェニル基、メシチル基、トリル基、シアノ基、炭素数2~20アルコキシカルボニル基、炭素数2~20のアルキルカルボニル基、炭素数2~20のPEG型ヒドロキシエチル基、炭素数2~20のアルキル基を有するアミド基、炭素数1~20のアルキル基が結合してなるジ置換又はモノ置換アミノ基、トリフルオロメチル基、炭素数1~20の置換基を有していてもよいシリル基、ニトロ基、炭素数1~20のアルキルチオ基、フッ素原子を有するアルキル基、水酸基などが挙げられ、ピロール環の反応性と安定性を維持する観点から、炭素数1~20のアルキル基が好ましく、化合物の合成容易性と溶解性の面からは、炭素数1~10のアルキル基が好ましい。
【0033】
ピロール環基の窒素原子上の置換基としては特に限定されないが、適度な溶解性を持たせるとの観点から、炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、炭素数2~20のアルコキシカルボニル基、炭素数2~20のアルキルカルボニル基、炭素数1~20の置換基を有していてもよいシリル基が好ましく挙げられる。
これらの中でも、化合物の蛍光を抑えるためには、2位及び/又は6位に炭素数1~20のアルキル基を有するフェニル基であることが好ましい。一方で化合物の溶解性の面から、炭素数1~12のアルキル基であることが好ましい。該アルキル基における1価の遊離原子価を有する炭素原子は、1、2、3級のいずれでも良いが、立体的かさ高さから、2級又は3級がより好ましい。
【0034】
(R1及びR2)
前記式(1)中、R1及びR2は各々独立に、置換基を有していてもよいアルキル基を表す。アルキル基は、直鎖状でも、分岐鎖状でも、環状でもよい。
アルキル基の炭素数は特に限定されないが、2以上が好ましく、4以上がより好ましく、また、15以下が好ましく、10以下がより好ましい。炭素数を前記範囲内とすることで、化合物の溶解度を制御できる傾向がある。
アルキル基の具体例としては、エチル基、n-プロピル基、2-プロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、n―オクチル基、2-エチルヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。これらの中でも、R3と結合して-NR1R2が置換しているベンゼン環に縮合する環を形成させやすいとの観点から、直鎖状のアルキル基が好ましい。
【0035】
(R3)
前記式(1)中、R3は任意の置換基を表す。
任意の置換基としては、好ましくは、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数2~20アルコキシカルボニル基、炭素数2~20のアルキルカルボニル基、炭素数2~20のPEG型ヒドロキシエチル基、炭素数1~20の置換基を有していてもよいシリル基、炭素数1~20のアルキルチオ基、フッ素原子を有するアルキル基などが挙げられる。これらの中でも置換基を有するアミノ基(-NR1R2)のR1,R2と連結して環を形成し、強い電子供与性と平面性を両立することが可能との観点から、アルキル基が好ましい。
【0036】
R1とR3とが結合して縮合環を形成し、R2とR3とが結合して縮合環を形成したものの具体例としては以下のものが挙げられる。
【0037】
【0038】
前記一般式(1)で表される化学構造を有する非対称スクアリリウム化合物の中でも分子内双極子が高く、分子間力が高いとの観点から、下記一般式(2)で表される化学構造を有する非対称スクアリリウム化合物が好ましい。
【0039】
【0040】
式(2)中、R4は置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよい芳香族環基を表す。式(2)中の環(ただし、スクアリリウム骨格に隣接するベンゼン環は除く)はさらに置換基を有していてもよい。
【0041】
(R4)
前記式(2)中、R4は置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよい芳香族環基を表す。
【0042】
R4におけるアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基が挙げられる。アルキル基の炭素数は特に限定されないが、2以上が好ましく、4以上がより好ましく、また、15以下が好ましく、10以下がより好ましい。前記下限値以上とすることで溶解度を確保しやすい傾向があり、また、前記上限値以下とすることで熱分解温度が低くなり過ぎない傾向がある。
アルキル基の具体例としては、エチル基、n-プロピル基、2-プロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、n―オクチル基、2-エチルヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。これらの中でも溶解性向上の観点から、分岐鎖アルキル基が好ましい。
R4のアルキル基が有していてもよい置換基としては特に限定されないが、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよい複素環基、炭素数2~20のアルコキシカルボニル基、炭素数2~20のアルキルカルボニル基、炭素数1~20の置換基を有していてもよいシリル基、フッ素原子等のハロゲン原子が挙げられる。これらの中でも分子内双極子効果に影響を与えにくいとの観点から置換基を有していてもよいシリル基が好ましい。
【0043】
R4における芳香族環基としては、芳香族炭化水素環基や芳香族複素環基が挙げられる。
芳香族環基の炭素数は特に限定されないが、2以上が好ましく、5以上がより好ましく、6以上がさらに好ましく、また12以下が好ましく、10以下がより好ましく、8以下がさらに好ましい。炭素数を前記下限値以上とすることで溶解度を維持する傾向があり、また、前記上限値以下とすることで副吸収を抑える傾向がある。
【0044】
芳香族炭化水素環基における環としては、単環であっても縮合環であってもよい。芳香族炭化水素環基としては、例えば、1個の遊離原子価を有する、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などの基が挙げられる。これらの中でも溶解性向上の観点からベンゼン環が好ましい。
【0045】
芳香族複素環基としては例えば、1個の遊離原子価を有する、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、インドール環、オキサジアゾール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、フロピロール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環などの基が挙げられる。これらの中でも副吸収を抑えるとの観点からイミダゾール環やオキサゾール環が好ましい。
【0046】
R4の芳香族環基が有していてもよい置換基としては特に限定されないが、炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよい複素環基、炭素数2~20のアルコキシカルボニル基、炭素数2~20のアルキルカルボニル基、炭素数1~20の置換基を有していてもよいシリル基、ニトロ基、水酸基、フッ素原子、臭素原子等のハロゲン原子、シアノ基が挙げられる。これらの置換基は、隣接する2個が互いに結合してR4の芳香族環基に縮合する縮合環を形成してもよい。これらの中でも溶解性の観点からアルキル基が好ましい。
【0047】
式(2)中の環はさらに置換基を有していてもよい。この置換基としては特に限定されないが、炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよい複素環基、炭素数2~20のアルコキシカルボニル基、炭素数2~20のアルキルカルボニル基、炭素数1~20の置換基を有していてもよいシリル基、水酸基が挙げられる。これらの中でも合成の多様性の観点からアルキル基が好ましい。
【0048】
以下に本発明の非対称スクアリリウム化合物の具体例を挙げる。スクアリリウム化合物は、以下のように共鳴構造を複数書くことができるが、これらは特に断らない限り同義である。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
(製造方法)
本発明の非対称スクアリリウム化合物は、公知の方法で製造することができる。例えばTop. Heterocycl. Chem. 14, 133-181 (2008)に記載の方法に準じて製造することができる。
【0054】
(物性)
本発明の非対称スクアリリウム化合物において、波長500~620nmにおける吸収極大の数は特に限定されないが、輝度低下を抑制する観点から好ましくは1つである。吸収極大の数は、非対称スクアリリウム化合物をテトラヒドロフラン等の溶媒に溶解させた溶液を作製して測定した吸収スペクトルから算出することができる。詳細な条件は実施例に記載のものを採用することが好ましい。
なお、波長500~620nmにおける吸収極大の数は、吸収スペクトルに含まれる吸収極大のうち、その極大吸収波長が波長500~620nmに含まれるものの数を意味する。
【0055】
また、本発明の非対称スクアリリウム化合物の波長500~620nmにおける吸収極大の極大吸収波長(λmax)は特に限定されないが、570nm以上が好ましく、572nm以上がより好ましく、575nm以上がさらに好ましく、580nm以上が特に好ましく、また、通常620nm以下であり、615nm以下が好ましく、610nm以下がより好ましく、605nm以下がさらに好ましい。吸収極大の極大吸収波長を前記範囲内とすることで色再現性が良好となる傾向がある。吸収極大の極大吸収波長は、前述の吸収スペクトルから算出することができる。
【0056】
さらに、本発明の非対称スクアリリウム化合物の波長500~620nmにおける吸収極大の半値幅は特に限定されないが、40nm以下であることが好ましく、35nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがさらに好ましく、また、通常25nm以上である。吸収極大の半値幅を前記上限値以下とすることでディスプレイ用フィルターの色再現性が向上される傾向がある。吸収極大の半値幅(FWHM)は、前述の吸収スペクトルにて、極大吸収波長(λmax)における吸光度Aの半値となる波長A1及び波長A2を読み取り、波長A1波長A2の差の絶対値を算出することで得られる。
【0057】
一方で、本発明の非対称スクアリリウム化合物の波長380~450nmにおける透過率は80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、また、この透過率は通常100%以下である。透過率を前記下限値以上とすることでフィルムの色再現性を向上する傾向がある。透過率は前述の吸収スペクトルから算出することができる。
【0058】
[着色組成物]
本発明の着色組成物は、本発明の非対称スクアリリウム化合物を含有するものであり、必要に応じてさらに他の成分を含有していてもよい。
他の成分としては、バインダー樹脂、粘着剤、溶剤、その他の添加剤等が挙げられる。
【0059】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル系樹脂(PMMA等)、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂等の樹脂が挙げられる。
【0060】
(粘着剤)
粘着剤としては、特に限定されるものではないが、アクリル系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、ポリカーボネート系、ゴム系又はシリコン樹脂系等の粘着剤が挙げられる。これらの中ではアクリル系粘着剤、シリコン樹脂系粘着剤が望ましい。
【0061】
粘着剤は樹脂成分を加熱等で架橋したものでも、架橋する前のものであってもよい。
【0062】
粘着剤を構成する樹脂成分としては、光学特性、特に透明性の観点から、(メタ)アクリル系共重合体を用いることが好ましい。(メタ)アクリル系共重合体を構成するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、カルボキシル基含有モノマー等が挙げられる。
(メタ)アクリル系共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される重量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン換算値で、50万以上が好ましく、60万以上がより好ましく、70万以上がさらに好ましく、80万以上がよりさらに好ましく、90万以上が特に好ましく、100万以上が最も好ましく、また、300万以下が好ましく、250万以下がより好ましく、200万以下がさらに好ましい。Mwを前記下限値以上とすることで非対称スクアリリウム化合物の耐久性が向上する傾向があり、また、前記上限値以下とすることで粘着剤として作業性が向上する傾向がある。
また、(メタ)アクリル系共重合体のガラス転移温度(Tg)は、0℃以下が好ましく、-5℃以下がより好ましく、-10℃以下がさらに好ましく、Tgは通常-100℃以上である。Tgを前記上限値以下とすることで常温において粘着性に優れた組成物が得られる傾向がある。
【0063】
また、粘着剤は前記樹脂成分以外に、架橋剤、シランカップリング剤等の成分を含んでいてもよい。架橋剤としては、イソシアネート化合物、金属キレート化合物、エポキシ化合物等が挙げられる。
上述した粘着剤を構成する各成分としては、例えば、特開2017-53878号公報、特開2017-58422号公報、特開2017-71730号公報等に記載のものを採用することができる。
【0064】
(溶剤)
溶剤としては、特に限定されるものではないが、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等のアルカン類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等のシクロアルカン類;エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、デカノール、ウンデカノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール等のアルコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート等のセロソルブ類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のプロピレングリコール類;アセトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等のケトン類;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;酢酸ブチル、酢酸アミル、酪酸エチル、酪酸ブチル、ジエチルオキサレート、ピルビン酸エチル、エチル-2-ヒドロキシブチレート、エチルアセトアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル等のエステル類;クロロホルム、塩化メチレン、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等の高極性溶剤類等が挙げられる。
【0065】
(その他の添加剤)
その他の添加剤としては、特に限定されないが、近赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑材、可塑剤等の添加剤が挙げられる。
【0066】
(着色組成物における各成分の含有割合)
本発明の着色組成物中の非対称スクアリリウム化合物の含有割合は特に限定されないが、全固形分中に0.001質量%以上が好ましく、0.005質量%以上がより好ましく、0.01質量%以上がさらに好ましく、また、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましく、0.1質量%以下がよりさらに好ましく、0.05質量%以下が特に好ましい。非対称スクアリリウム化合物の含有割合を前記下限値以上とすることで組成物が安定になる傾向があり、また、前記上限値以下とすることで非対称スクアリリウム化合物の析出を抑制できる傾向がある。
【0067】
本発明の着色組成物がバインダー樹脂を含有する場合、その含有割合は特に限定されないが、全固形分中に1質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上がよりさらに好ましく、80質量%以上が特に好ましく、また、通常99.9質量%以下である。バインダー樹脂の含有割合を前記下限値以上とすることで非対称スクアリリウム化合物の析出が抑制できる傾向がある。
【0068】
本発明の着色組成物が粘着剤を含有する場合、その含有割合は特に限定されないが、全固形分中に1質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上がよりさらに好ましく、80質量%以上が特に好ましく、また、通常99.9質量%以下である。粘着剤の含有割合を前記下限値以上とすることで非対称スクアリリウム化合物の析出が抑制できる傾向がある。
【0069】
本発明の着色組成物が溶剤を含有する場合、固形分濃度は特に限定されないが、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、また、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましい。固形分濃度を前記下限値以上とすることで溶液安定性が良好となる傾向があり、また、前記上限値以下とすることで本発明の着色組成物を用いて得られる塗膜の性能が向上する傾向がある。なお、固形分濃度とは、着色組成物に対する全固形分の含有割合である。
【0070】
[ディスプレイ用フィルター及びディスプレイ]
本発明のディスプレイ用フィルターは、本発明の非対称スクアリリウム化合物を含有する。本発明のディスプレイ用フィルターは、例えばディスプレイ構成外部においてバンドパスフィルターとして使用するものや、ディスプレイ構成内部において色再現や色域拡大のために使用するものが挙げられる。
【0071】
ディスプレイ用フィルターの構成の具体例としては、以下の態様が挙げられる。
(フィルターA):樹脂フィルムの上に本発明の非対称スクアリリウム化合物及びバインダー樹脂を含むコーティング層が塗布されたフィルター
(フィルターB):樹脂フィルムの粘着剤層に本発明の非対称スクアリリウム化合物が含まれるフィルター
(フィルターC):樹脂フィルム中に本発明の非対称スクアリリウム化合物が含まれるフィルター
以下、「本発明のフィルター」という場合は、特に区別しない限り上記フィルターA~Cの全てを指すものとする。同様に、本発明の非対称スクアリリウム化合物が樹脂フィルム上のコーティング層、粘着剤層及び樹脂フィルムのうちの複数の箇所に含まれたフィルターも「本発明のフィルター」に含まれるものとする。
【0072】
本発明のフィルターの1つの態様は、本発明の非対称スクアリリウム化合物を含むことを特徴とする、ディスプレイに用いられる色補正フィルター、つまり、色純度改善フィルターである。
特に、色純度の観点から、白色LEDを光源とするディスプレイに好適に使用できる。中でもオレンジ光を除く観点から、白色LEDが、青色LEDと黄色蛍光体の組み合わせにより白色光を得る方式や、青色LED、緑色蛍光体及び赤色蛍光体の組み合わせにより白色光を得る方式の光源を有するディスプレイが好ましい。
【0073】
色補正フィルターの設置位置は、バックライトとしての光源と視認者との間に配置されるものであれば特に限定されるものではない。例えば、ディスプレイのガラス板、偏光板等に塗布された色補正コーティング層又は色補正粘着剤層であってもよく、ディスプレイのガラス板、偏光板等の表面に貼り付けられた色補正フィルムであってもよい。
【0074】
また、ディスプレイ内に設けられる板状の高分子成形体の表面に塗布された色補正コーティング層又は色補正粘着剤層であってもよく、高分子成形体の表面に貼り付けられた色補正フィルムであってもよい。また、板状の高分子成形体自身に本発明の非対称スクアリリウム化合物が含まれている形態であってもよい。上記高分子成形体としては、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート等が挙げられる。
色補正フィルターの位置は、ガラス板や高分子成形体の表裏のうち、光源側であってもよく、視認者側であってもよい。
【0075】
本発明のフィルターの他の態様として、照明装置に用いられる色補正フィルターが挙げられる。光源としては、ディスプレイに関して挙げたものと同じものが挙げられる。
この場合、色補正フィルターの設置位置は、光源と視認者との間に配置されるものであれば特に限定されるものではない。例えば、電球型照明、直管型照明等の照明装置の最も外側にある筐体(ガラス、プラスチック等)の外側表面又は内側表面に塗布された色補正コーティング層であってもよく、筐体の外側表面又は内側表面に貼り付けられた色補正フィルムであってもよい。
【0076】
なお、筐体とは光が出る部位であり、カバー、フード等とも呼ばれる。
また、筐体自身に本発明の非対称スクアリリウム化合物が含まれている形態であってもよい。この場合、筐体の材質としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート等の高分子成形体が挙げられる。
【0077】
照明装置としては、白色LEDを光源として用いる電球型照明、直管型照明、シーリングライト、スポットライト、ダウンライト、投光灯、街路灯、デスクライト等が挙げられる。
また、照明装置の白色の種類は特に限定されるものではなく、電球色(色温度2600~3250K)、温白色(色温度3250~3800K)、白色(色温度3800~4500K)、昼白色(色温度4600~5500K)、昼光色(色温度5700~7100K)といった色の照明装置が使用される。上記色温度の区分はJIS Z 9112の基準に拠っている。
【0078】
一方で、本発明のフィルターの他の態様として、外光補正フィルターが挙げられる。本発明の外光補正フィルターは、本発明の非対称スクアリリウム化合物を含有し、自然光、環境光等の外光と視認者の間に配置されるものであればよく、その形態、配置場所は特に限定されるものではない。
【0079】
例えば、本発明の非対称スクアリリウム化合物及びバインダー樹脂とを含む色補正コーティング層、本発明の非対称スクアリリウム化合物及び粘着剤とを含む色補正粘着剤層、樹脂フィルムの上に本発明の非対称スクアリリウム化合物及びバインダー樹脂とを含む色補正コーティング層が塗布された外光補正フィルム(以下、外光補正フィルムA)、樹脂フィルムの粘着剤層に本発明の非対称スクアリリウム化合物が含まれる外光補正フィルム(以下、外光補正フィルムB)、樹脂フィルムに本発明の非対称スクアリリウム化合物が含まれる外光補正フィルム(以下、外光補正フィルムC)等の形態が挙げられる。
以後、「本発明の外光補正フィルム」という場合は、特に区別しない限り上記外光補正フィルムA~Cの全てを指すものとする。また、本発明の非対称スクアリリウム化合物が樹脂フィルム上のコーティング層、粘着剤層及び樹脂フィルムのうちの複数の箇所に含まれたフィルムも「本発明の外光補正フィルム」に含まれるものとする。
【0080】
本発明の外光補正フィルムは、外光を取り込む取込口、例えば、眼鏡、自動車等の輸送用機械のフロントガラス、建設用重機のガラス、建築物における窓ガラス等に好適に用いることができる。本発明の外光補正フィルムを、外光を取り込む取込口等に適用することで、外光の差し込む環境下で作業する作業者の視認性の向上を図ることができる。外光補正フィルターの位置は、ガラスや窓ガラスの表裏のうち、外光側であってもよく、視認者側であってもよい。
また、高分子樹脂に本発明の非対称スクアリリウム化合物を混練して加熱成形することにより、眼鏡レンズや窓用部材等に用いることもできる。
【0081】
本発明のフィルター及び本発明の外光補正フィルターを構成する上記バインダー樹脂としては、特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル系樹脂(PMMA等)、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂等の樹脂が挙げられる。
また、粘着剤としては、特に限定されるものではないが、アクリル系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、ポリカーボネート系、ゴム系又はシリコン樹脂系等の粘着剤が挙げられる。これらの中ではアクリル系粘着剤、シリコン樹脂系粘着剤が望ましい。
また、樹脂フィルムとしては、透明性を有する各種のプラスチック材料が挙げられる。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等が挙げられる。
【0082】
本発明の非対称スクアリリウム化合物とバインダー樹脂を混合して色補正コーティング層を設ける場合、非対称スクアリリウム化合物の含有割合は、バインダー樹脂100質量部に対して0.01~10質量部であることが好ましい。
また、本発明の非対称スクアリリウム化合物と粘着剤を混合して色補正粘着剤層を設ける場合、非対称スクアリリウム化合物の含有割合は、粘着剤100質量部に対して0.01~10質量部であることが望ましい。
【0083】
色補正コーティング層及び色補正粘着剤層を樹脂フィルム等(筐体、ガラス板、偏光板、高分子成形体等をも含む)に塗布する場合、非対称スクアリリウム化合物とバインダー樹脂及び/又は粘着剤、並びに、必要に応じてその他の添加剤を含む組成物を溶剤に溶解及び/又は分散させて塗工液を調製し、スピンコート、スプレー、バーコート、フローコート、グラビアコート、ロールコート、ブレードコート、ダイコーター等の公知の塗布方法により塗工する方法を用いることができる。
【0084】
また、樹脂フィルムや高分子成形体中に本発明の非対称スクアリリウム化合物が含まれているフィルターを製造する場合、樹脂フィルムや高分子成形体の成形時に、樹脂中に非対称スクアリリウム化合物及び必要に応じてその他の添加剤を配合しておき、樹脂フィルムの成形及び高分子成形体の成形を行えばよい。
樹脂フィルムや高分子成形体中に本発明の非対称スクアリリウム化合物が含まれているフィルターを製造する場合、非対称スクアリリウム化合物の含有割合は、樹脂100質量部に対して0.0001~1質量部であることが好ましい。
【0085】
また、本発明のフィルター及び外光補正フィルターには、さらにその他の添加剤が含まれていてもよい。その他の添加剤としては、例えば、近赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑材、可塑剤等の添加剤が挙げられる。
【実施例】
【0086】
以下、本発明の非対称スクアリリウム化合物について、具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0087】
[非対称スクリアリリウム化合物の合成及び評価]
(吸収極大の数、極大吸収波長及び半値幅の測定)
各スクアリリウム化合物の波長500~620nmにおける吸収極大の数及び極大吸収波長(λmax)は、JASCO V-670紫外可視分光装置(日本分光社製)を使用し、最大吸収波長での吸光度が1になるように濃度調整したテトラヒドロフラン溶液を作製して測定した吸収スペクトルから読み取った。
また半値幅は、極大吸収波長における吸光度Aの半値となる波長A1及び波長A2を吸収スペクトルから読み取り、波長A1と波長A2の差の絶対値を半値幅(FWHM)とした。
【0088】
(波長380~450nmにおける透過率測定)
前記(吸収極大の数、極大吸収波長及び半値幅の測定)で準備したテトラヒドロフラン溶液を用い、同一の装置を用いて波長380~450nmの透過率を測定した。
【0089】
(実施例1)
【0090】
【0091】
化合物1(2.29mL、2.30g、13.3mmol)と化合物2(2g)にトルエン260mLを加え、3時間110℃で還流した。50℃以下にまで冷却した後、減圧濃縮した。得られた粗生成物に、酢酸40mL、水40mL、12N濃塩酸2mLを加え、110℃で、激しく撹拌しながら、2時間加熱した。室温まで冷却した後、一晩静置し、得られた沈殿をクロロホルムで洗浄した後、減圧乾燥を行い、化合物3を1.7g得た。
【0092】
【0093】
化合物3(150mg)と化合物4(75.5mg)をトルエン25mLとn-ブタノール25mLの混合溶媒に添加し、110℃でディーンスターク法により2.5時間加熱撹拌した。続けて、ろ過を行い、得られた固体をトルエンで洗浄し、真空乾燥し、例示化合物1を91mg得た。
【0094】
(参考例2)
【0095】
【0096】
化合物5(5.18g)と化合物2(4.13g)にトルエン540mLを加え、3時間110℃で還流した。50℃以下にまで冷却した後、減圧濃縮した。得られた粗生成物に、酢酸80mL、水80mL、12N濃塩酸4mLを加え、110℃で、激しく撹拌しながら、2時間加熱した。室温まで冷却した後、一晩静置し、得られた沈殿をクロロホルムで洗浄した後、減圧乾燥を行い、化合物6を2.1g得た。
【0097】
【0098】
化合物3の代わりに化合物6を用いた以外は、実施例1と同様にして、例示化合物2を83mg得た。
【0099】
(実施例3)
【0100】
【0101】
化合物4の代わりに化合物7を用いた以外は、実施例1と同様にして、例示化合物3を101mg得た。
【0102】
(実施例4)
【0103】
【0104】
化合物4の代わりに化合物8を用いた以外は、実施例1と同様にして、例示化合物4を116mg得た。
【0105】
(実施例5~27)
例示化合物5~26,28を、実施例1において化合物4を各例示化合物に対応するものに変更することで合成した。
【0106】
実施例1,3~27と参考例2で得られた非対称スクアリリウム化合物に関し、前述の方法で波長500~620nmにおける吸収極大の数、極大吸収波長及び半値幅を測定し、さらに前述の方法で波長380~450nmにおける透過率(%)を測定した。その結果を表1に示す。
【0107】
【0108】
(比較例1)
【0109】
【0110】
化合物9(1.23g)と化合物10(2.26g)をn-ブタノール10mLに加え、110℃で2時間反応させた。50℃以下にまで冷却した後、減圧濃縮した。得られた粗生成物に、酢酸40mL、水40mL、12N濃塩酸2mLを加え、バス温120℃で、激しく撹拌しながら、2時間加熱した。室温まで冷却した後、一晩静置し、得られた沈殿をクロロホルムで洗浄した後、減圧乾燥を行い、化合物11を1.2g得た。
【0111】
【0112】
化合物11(110mg)と化合物12(42mg)をトルエン10mLとn-ブタノール10mLの混合溶媒に添加し、110℃でディーンスターク法により2.5時間加熱撹拌した。室温に冷却した後、生成した沈殿をろ過、ジエチルエーテル洗浄し、真空乾燥し、比較化合物1を39mg得た。
【0113】
比較化合物1の極大吸収波長(THF溶液中)は548nmであった。
【0114】
ただし、比較化合物1は、以下の2成分との平衡混合物として得られ、逆反応により、以下に示す2種類の対称化合物(比較化合物2及び3)を含有し、交換反応を伴った。これらの極大吸収波長(THF溶液中)は、それぞれ、524nm、571nmであった。
【0115】
【0116】
表1から明らかなように、実施例1,3~27の非対称スクアリリウム化合物は、シャープな吸収極大が波長500~620nmに1つあり、該吸収極大の極大吸収波長が570~620nmであり、かつ、波長380~450nmの透過率が80%以上で副吸収がないため、視野の明るさの低下がないとともに、色再現性にすぐれたディスプレイ用フィルター及びディスプレイを得ることができる。
【0117】
これは、実施例1,3~27の非対称スクアリリウム化合物がいずれも前記一般式(1)で表される化学構造を有し、特に、強い電子供与性の窒素原子がベンゼン環を形成する炭素原子と結合していることで、分子内双極子が効果的に働き、分子間相互作用であるJ会合体形成を促進し、交換反応を行わなくなるため、波長500~620nmにおけるシャープな吸収極大が1つとなり、該吸収極大の極大吸収波長が570~620nmとなり、また、平面性の向上により、分子振動が抑えられ波長380~450nmの透過率が90%以上で副吸収がなくなったと考えられる。
【0118】
これに対して比較例1のスクアリリウム化合物(平衡混合物)は、ベンゼン環が有する置換基が水酸基及びメトキシ基となっており、分子間相互作用が弱く交換反応が起こり、極大吸収波長が異なる化合物の混合物となり、その結果吸収極大が複数存在することとなり、ディスプレイ用フィルターとして用いるには輝度が低く、波長570~620nm以外の波長に吸収極大を有するため色純度改善の点から目的に供さないものであることがわかった。
【0119】
[着色組成物の作製及び評価]
(実施例28~43、比較例2~6)
表2に記載の非対称スクアリリウム化合物0.0015gを2-メトキシエタノール2gに添加後よく撹拌し、さらに表2に記載のアクリル系粘着主剤10gを添加し、さらによく攪拌して溶解させた。その中にイソシアネート系硬化剤(綜研化学株式会社製、L-45)を0.02g添加し、よく攪拌して、着色組成物(色素含有粘着剤)を作製した。攪拌時に巻き込んだ気泡は静止して上方へ集めて取り除いた。
得られた着色組成物を、ベーカー式アプリケータを用い、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート製フィルム上に塗布し、100℃で2分間乾燥し、厚さ20μmの色素含有粘着剤層を形成した。次いで、色素含有粘着層側に100μmのポリエチレンテレフタレート製フィルムをローラーで圧着して色素含有粘着層を挟み、積層体(色素フィルター)の試験片を得た。
【0120】
(極大吸収波長、評価)
次に、分光光度計U-4100(日立製作所製)にて、ポリエチレンテレフタレート製フィルムをリファレンスにして、各試験片の吸収スペクトルを測定し、波長500~620nmにおける吸収極大の数及び極大吸収波長(λmax)を読み取った。また、極大吸収波長における吸光度Aの半値となる波長A1及び波長A2を吸光スペクトルから読み取り、波長A1と波長A2の差の絶対値を半値幅(FWHM)として読み取った。さらに波長380~450nmにおける透過率(%)を読み取った。その結果を表2に示す。
【0121】
なお、表2中のアクリル系粘着主剤の略称の意味は以下のとおりである。
SK1604N:綜研化学株式会社製、SKダイン(登録商標)1604N
SK1811L:綜研化学株式会社製、SKダイン(登録商標)1811L
SK2300:綜研化学株式会社製、SKダイン(登録商標)2300
SK2003:綜研化学株式会社製、SKダイン(登録商標)2003
【0122】
【0123】
なお、表2中の比較化合物4は、化合物4の代わりに化合物13を用いた以外は実施例1と同様に得たものである。
【0124】
【0125】
表2から明らかなように、実施例28~43の着色組成物によれば、シャープな吸収極大が波長500~620nmに1つあり、該吸収極大の極大吸収波長が570~620nmであり、かつ、波長380~450nmの透過率が80%以上で副吸収がないため、視野の明るさの低下がないとともに、色再現性にすぐれたディスプレイ用フィルター及びディスプレイを得ることができる。
【0126】
これに対して比較例2~5の着色組成物では、吸収極大が複数存在し、ディスプレイ用フィルターとして用いるには輝度が低く、波長570~620nm以外の波長に吸収極大を有するため色純度改善の点から目的に供さないものであることがわかる。
【0127】
また比較例6の着色組成物では、吸収極大の半値幅が大きくなっており、色再現性にすぐれたディスプレイ用フィルター及びディスプレイを得ることが困難であることが示唆された。これは、比較化合物4の溶解性が低いことによって、着色組成物中において非対称スクアリリウム化合物のJ会合体同士の凝集等が生じていることによると考えられる。また、波長380~450nmの透過率が低く、視野の明るさの低下が懸念される。これは、比較化合物4において、ピロール環の窒素原子上が無置換であることによって、光・酸素に対して不安定となったことに起因するものであると考えられる。