(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】近赤外線吸収微粒子分散液とその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20220216BHJP
C01G 41/00 20060101ALI20220216BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20220216BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20220216BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
C09K3/00 105
C01G41/00 A ZNM
C08J3/20 B CFD
C08L67/00
C08K3/22
(21)【出願番号】P 2018103573
(22)【出願日】2018-05-30
【審査請求日】2021-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095223
【氏名又は名称】上田 章三
(74)【代理人】
【識別番号】100085040
【氏名又は名称】小泉 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】福田 健二
(72)【発明者】
【氏名】中山 博貴
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-246183(JP,A)
【文献】特開2008-044609(JP,A)
【文献】特開2009-062409(JP,A)
【文献】特開2016-108221(JP,A)
【文献】特開2019-206669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
C08J 3/00-3/28
C01G 41/00
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物を製造するために用いられる近赤外線吸収微粒子分散液において、
近赤外線吸収微粒子と高沸点溶媒と低沸点溶媒を含有し、
上記近赤外線吸収微粒子が、一般式MyWOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In,Tl、Si、Ge、Sn、Pb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示されかつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子で構成され、
上記高沸点溶媒が、沸点が195℃以上でかつ分子両末端に水酸基を有する室温で液状のジオール化合物で構成されると共に、
上記低沸点溶媒が、沸点が150℃以下の有機溶剤で構成され、かつ、その含有量が5質量%以下であることを特徴とする近赤外線吸収微粒子分散液。
【請求項2】
上記ジオール化合物が、ポリエステルポリオール類、脂肪族ジオール類、脂環族ジオール類、芳香族ジオール類から選択される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の近赤外線吸収微粒子分散液。
【請求項3】
上記近赤外線吸収微粒子に含まれるM元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cuから選択される少なくとも1種類以上であることを特徴とする請求項1および2に記載の近赤外線吸収微粒子分散液。
【請求項4】
上記近赤外線吸収微粒子の分散粒子径が1nm以上800nm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の近赤外線吸収微粒子分散液。
【請求項5】
熱分解温度が200℃以上の分散剤を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の近赤外線吸収微粒子分散液。
【請求項6】
上記近赤外線吸収微粒子の質量をA、高沸点溶媒の質量をC、および、分散剤の質量をDとした場合、
0.1≦[D/A]≦10、
0.5≦[(C+D)/A]≦50、
を満たすことを特徴とする請求項5に記載の近赤外線吸収微粒子分散液。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載の近赤外線吸収微粒子分散液を製造する方法において、
近赤外線吸収微粒子と低沸点溶媒を混合し、湿式媒体ミルを用いて近赤外線吸収微粒子を粉砕かつ分散処理して低沸点溶媒の微粒子分散液を得る工程と、
得られた低沸点溶媒の微粒子分散液に高沸点溶媒を添加する工程と、
高沸点溶媒が添加された上記微粒子分散液から低沸点溶媒の含有量が5質量%以下になるまで低沸点溶媒を除去して高沸点溶媒の微粒子分散液を得る工程、
を具備することを特徴とする近赤外線吸収微粒子分散液の製造方法。
【請求項8】
請求項5~6のいずれかに記載の近赤外線吸収微粒子分散液を製造する方法において、
近赤外線吸収微粒子と低沸点溶媒および分散剤を混合し、湿式媒体ミルを用いて近赤外線吸収微粒子を粉砕かつ分散処理して低沸点溶媒の微粒子分散液を得る工程と、
得られた低沸点溶媒の微粒子分散液に高沸点溶媒を添加する工程と、
高沸点溶媒が添加された上記微粒子分散液から低沸点溶媒の含有量が5質量%以下になるまで低沸点溶媒を除去して高沸点溶媒の微粒子分散液を得る工程、
を具備することを特徴とする近赤外線吸収微粒子分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光領域の光をよく透過し、近赤外線領域の光を吸収する複合タングステン酸化物微粒子を含有する近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の製造に用いられる近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物用の近赤外線吸収微粒子分散液とその製造方法に係り、特に、複合タングステン酸化物微粒子で構成される近赤外線吸収微粒子が凝集せずにポリエステル樹脂中に均一に分散された近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の製造を可能とする近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物用の近赤外線吸収微粒子分散液とその製造方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種建築物や車両の窓、ドア等のいわゆる開口部分から入射する太陽光線には可視光線の他に紫外線や赤外線が含まれている。この太陽光線に含まれている赤外線のうち波長800~2500nmの近赤外線は熱線と呼ばれ、開口部分から進入することにより室内の温度を上昇させる原因になる。これを解消するため、近年、各種建築物や車両の窓材等の分野では、可視光線を十分に取り入れながら熱線を遮蔽し、明るさを維持しつつ室内の温度上昇を抑制する近赤外線遮蔽成形体の需要が急増しており、近赤外線遮蔽成形体に関する特許が多く提案されている。
【0003】
例えば、透明樹脂フィルムに、金属若しくは金属酸化物を蒸着してなる熱線反射フィルムを、ガラス、アクリル板、ポリカーボネート板、ポリエチレンテレフタレート板等の透明成形体に接着した近赤外線遮蔽板が提案されている。しかし、この近赤外線遮蔽板においては、熱線反射フィルム自体が非常に高価でかつ接着工程等の煩雑な工程を要するため高コストになる。また、透明成形体と熱線反射フィルムの接着性が良好でないため、経時変化によりフィルム剥離が生じるといった欠点を有している。
【0004】
また、透明成形体表面に、金属若しくは金属酸化物を直接蒸着してなる近赤外線遮蔽板も数多く提案されている。しかし、この近赤外線遮蔽板の製造に際しては、高真空で精度の高い雰囲気制御を要する蒸着装置が必要となるため、量産性が悪く、汎用性に乏しいという問題を有している。
【0005】
この他、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂等の熱可塑性透明樹脂にフタロシアニン系化合物、アントラキノン系化合物に代表される有機近赤外線吸収剤を練り込んだ近赤外線遮蔽板およびフィルムが提案されている。しかし、これ等の近赤外線遮蔽板およびフィルムにおいては、熱線を十分に遮蔽するには多量の有機近赤外線吸収剤を配合しなければならず、有機近赤外線吸収剤を多量に配合すると、可視光線透過能が低下してしまうという課題が残っていた。更に、近赤外線吸収剤として有機化合物を使用しているため、直射日光に常時曝される建築物や車両の窓材等への適用は耐候性に難があり、必ずしも適当であるとはいえなかった。
【0006】
このような技術的背景の下、本出願人は、耐候性に難のある有機系の近赤外線吸収剤に代えて、一般式WOx(但し、2.45≦x≦2.999)で示されるタングステン酸化物微粒子および/または一般式MyWOz(但し、MはH、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reの内から選択される1種以上の元素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示されかつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子を近赤外線吸収微粒子として適用し、該近赤外線吸収微粒子を熱可塑性樹脂に分散させた近赤外線吸収(遮蔽)樹脂成形体等を既に提案している。すなわち、特許文献1において、熱線遮蔽透明樹脂成形体を製造するために用いられる高耐熱性マスターバッチの製造方法を提案し、特許文献2において、近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体を製造するために用いられる近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物を提案している。
【0007】
特許文献1で提案した高耐熱性マスターバッチの製造方法は、近赤外線吸収微粒子と高耐熱性分散剤をトルエン等の溶媒に加え、粉砕・分散処理して微粒子分散液を得る工程と、該微粒子分散液に上記高耐熱性分散剤を所定量添加した後、トルエン等の溶媒を除去して「微粒子分散粉」を得る工程と、得られた「微粒子分散粉」とアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フッ素系樹脂、ポリオレフィン樹脂およびポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂を混合し、溶融混練し、成形する工程を具備する方法であった。また、熱線遮蔽透明樹脂成形体は、高耐熱性マスターバッチと、該マスターバッチに含まれる熱可塑性樹脂と同種の熱可塑性樹脂または相溶性を有する異種の熱可塑性樹脂とを混合し、所定の形状に成形して得られるものであった。
【0008】
また、特許文献2で提案した近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物は、特許文献1と同様にして製造した上記「微粒子分散粉」とポリエステル樹脂を均一に混合し、二軸押出機で溶融混練し、押出されたストランドをペレット状にカットしたものである。また、近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体は、ペレット状にカットされた近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物を一軸押出機で溶融混練した後、Tダイより押し出し、二軸延伸加工して、得られるものであった。
【0009】
更に、特許文献3には、可視光に対して高い透明性と同時に熱線遮蔽機能を有する成形体とこの製造に供されるポリマー組成物の製造方法等が開示されている。
【0010】
すなわち、可視光に対し高い透明性と熱線遮蔽機能を有する成形体の製造に用いられる上記ポリマー組成物は、ナノ粒子状IR吸収剤(金属ホウ化物、ATO、ITO、ナノスケールのカーボンブラック等)と、液状担持媒体(アルキンカルボン酸およびアリールカルボン酸のエステル、アリールカルボン酸とアルカノールとの水素化エステル、一価若しくは多価のアルコール、エーテルアルコール、ポリエーテルポリオール、エーテル、非環状および環状の飽和炭化水素、鉱油誘導体、シリコーン油、非プロトン性極性溶剤等)と、熱可塑性ポリマー[ポリオレフィン、ポリオレフィンコポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルエステル、ポリビニルアルカナール、ポリビニルケタール、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリカーボネートブレンド、ポリエステル、ポリエステルブレンド、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリレート―スチレンコポリマーブレンド、ポリ(メタ)アクリレート―ポリビニリデンフルオリドブレンド、ポリウレタン、ポリスチレン、スチレンコポリマー、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、ポリスルホン、ポリビニルクロリド等]とを含有するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2011-001551号公報(特許請求の範囲参照)
【文献】特開2011-26440号公報(実施例1参照)
【文献】WO2010/092013号公報(特許請求の範囲、段落0009参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、特許文献1と特許文献2に記載された近赤外線吸収(遮蔽)樹脂成形体においては、有機系の近赤外線吸収剤に代えて、タングステン酸化物微粒子および/または複合タングステン酸化物微粒子を近赤外線吸収微粒子として適用しているため、耐候性に関する課題は確かに改善されている。
【0013】
しかし、特許文献1の高耐熱性マスターバッチは、高耐熱性分散剤と近赤外線吸収微粒子からなる「微粒子分散粉」を、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フッ素系樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂と溶融混練して製造されているが、「微粒子分散粉」と熱可塑性樹脂を均一に混練することは難しく、特に、熱可塑性樹脂がポリエステル樹脂の場合に顕著であった。このため、ポリエステル樹脂中に近赤外線吸収微粒子を均一に分散させることが難しいことから、近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体のヘイズ値が高くなり、可視光透過率も低下する問題が存在した。更に、可視光透過率が高くかつ近赤外線領域に強い吸収を有する近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体を製造するには、ポリエステル樹脂(熱可塑性樹脂)中に近赤外線吸収微粒子が良好に分散されることを要するため、その分、多量の高耐熱性分散剤を配合する必要がある。しかし、高耐熱性分散剤が多量に含まれるマスターバッチを用いて製造された近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体は、分散剤を多量に含有する分、機械的強度が低下してしまう問題があった。
【0014】
また、近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体の製造に用いられる特許文献2に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物も、特許文献1と同様、高耐熱性分散剤と近赤外線吸収微粒子からなる「微粒子分散粉」をポリエステル樹脂と溶融混練して製造されているため、「微粒子分散粉」とポリエステル樹脂を均一に混練することが難しく、ポリエステル樹脂中に近赤外線吸収微粒子を均一に分散させることが困難な課題が存在した。そして、近赤外線吸収微粒子をポリエステル樹脂中に均一に分散させることが困難なことから、近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体のヘイズ値が高くなり、可視光透過率も低下する問題が存在し、ヘイズ値を下げるために多量の高耐熱性分散剤を配合した場合、近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体の機械的強度が低下してしまう問題があった。
【0015】
特許文献3においては、多種の液状担持媒体中でナノ粒子状IR吸収剤を粉砕若しくは分散して「微粒子分散液」を調製した後、熱可塑性樹脂と「微粒子分散液」を溶融混練してポリマー組成物(IR吸収樹脂組成物)を製造している。このため、「微粒子分散粉」と熱可塑性樹脂(ポリエステル樹脂)を溶融混練する特許文献1~2の方法と異なり、熱可塑性樹脂中におけるナノ粒子状IR吸収剤の凝集は起こり難い。しかし、熱可塑性樹脂が溶融温度の高いポリエステル樹脂の場合、溶融混練時において液状担持媒体の気化が起こり易いため、混練ムラやヘイズ悪化の原因となる問題が存在した。また、粘性の高い液状担持媒体中でナノ粒子状IR吸収剤を粉砕若しくは分散して「微粒子分散液」を調製することは作業性に難があり、効率も非常に悪いという問題があった。
【0016】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、複合タングステン酸化物微粒子で構成される近赤外線吸収微粒子が凝集せずにポリエステル樹脂中に均一に分散された近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の製造を可能とする近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物用の近赤外線吸収微粒子分散液とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そこで、上記課題を解決するため、本発明者等が、ポリエステル樹脂と上記「微粒子分散液」を溶融混練して近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物を調製する際の「微粒子分散液」の溶媒について、沸点が195℃以上でかつ分子両末端に水酸基を有する室温で液状のジオール化合物(高沸点溶媒)を適用したところ、複合タングステン酸化物微粒子で構成される近赤外線吸収微粒子が凝集せずにポリエステル樹脂中に均一に分散されることを発見するに至った。更に、高沸点溶媒の「微粒子分散液」とポリエステル樹脂を溶融混練して製造された近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物を成形して得られた近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体は、ヘイズ値が低いと共に、可視光透過率が高くかつ近赤外線領域に強い吸収を有することを見出すに至った。本発明はこのような技術的発見と分析により完成されたものである。
【0018】
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物を製造するために用いられる近赤外線吸収微粒子分散液において、
近赤外線吸収微粒子と高沸点溶媒と低沸点溶媒を含有し、
上記近赤外線吸収微粒子が、一般式MyWOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In,Tl、Si、Ge、Sn、Pb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示されかつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子で構成され、
上記高沸点溶媒が、沸点が195℃以上でかつ分子両末端に水酸基を有する室温で液状のジオール化合物で構成されると共に、
上記低沸点溶媒が、沸点が150℃以下の有機溶剤で構成され、かつ、その含有量が5質量%以下であることを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明に係る第2の発明は、
第1の発明に記載の近赤外線吸収微粒子分散液において、
上記ジオール化合物が、ポリエステルポリオール類、脂肪族ジオール類、脂環族ジオール類、芳香族ジオール類から選択される化合物であることを特徴とし、
第3の発明は、
第1の発明または第2の発明に記載の近赤外線吸収微粒子分散液において、
上記近赤外線吸収微粒子に含まれるM元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cuから選択される少なくとも1種類以上であることを特徴とし、
第4の発明は、
第1の発明~第3の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収微粒子分散液において、
上記近赤外線吸収微粒子の分散粒子径が1nm以上800nm以下であることを特徴とするものである。
【0020】
次に、第5の発明は、
第1の発明~第4の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収微粒子分散液において、
熱分解温度が200℃以上の分散剤を含むことを特徴とし、
第6の発明は、
第5の発明に記載の近赤外線吸収微粒子分散液において、
上記近赤外線吸収微粒子の質量をA、高沸点溶媒の質量をC、および、分散剤の質量をDとした場合、
0.1≦[D/A]≦10、
0.5≦[(C+D)/A]≦50
を満たすことを特徴とするものである。
【0021】
また、第7の発明は、
第1の発明~第4の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収微粒子分散液を製造する方法において、
近赤外線吸収微粒子と低沸点溶媒を混合し、湿式媒体ミルを用いて近赤外線吸収微粒子を粉砕かつ分散処理して低沸点溶媒の微粒子分散液を得る工程と、
得られた低沸点溶媒の微粒子分散液に高沸点溶媒を添加する工程と、
高沸点溶媒が添加された上記微粒子分散液から低沸点溶媒の含有量が5質量%以下になるまで低沸点溶媒を除去して高沸点溶媒の微粒子分散液を得る工程、
を具備することを特徴とし、
第8の発明は、
第5の発明~第6の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収微粒子分散液を製造する方法において、
近赤外線吸収微粒子と低沸点溶媒および分散剤を混合し、湿式媒体ミルを用いて近赤外線吸収微粒子を粉砕かつ分散処理して低沸点溶媒の微粒子分散液を得る工程と、
得られた低沸点溶媒の微粒子分散液に高沸点溶媒を添加する工程と、
高沸点溶媒が添加された上記微粒子分散液から低沸点溶媒の含有量が5質量%以下になるまで低沸点溶媒を除去して高沸点溶媒の微粒子分散液を得る工程、
を具備することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物を製造するために用いられる本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液は、
近赤外線吸収微粒子と高沸点溶媒と低沸点溶媒を含有し、
上記近赤外線吸収微粒子が、一般式MyWOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In,Tl、Si、Ge、Sn、Pb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示されかつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子で構成され、
上記高沸点溶媒が、沸点が195℃以上でかつ分子両末端に水酸基を有する室温で液状のジオール化合物で構成されると共に、
上記低沸点溶媒が、沸点が150℃以下の有機溶剤で構成され、かつ、その含有量が5質量%以下であることを特徴としている。
【0023】
そして、本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液は、分子両末端に水酸基を有する上記高沸点溶媒の作用により近赤外線吸収微粒子の凝集が防止され、分散液中において近赤外線吸収微粒子が均一に分散されているため、本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液とポリエステル樹脂を溶融混練して製造される近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物中においても近赤外線吸収微粒子の凝集は防止され、ポリエステル樹脂中において複合タングステン酸化物微粒子で構成される上記近赤外線吸収微粒子は均一に分散されている。
【0024】
従って、本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液が適用された近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物を成形して得られる近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体においても、複合タングステン酸化物微粒子で構成される近赤外線吸収微粒子がポリエステル樹脂中に均一に分散されているため、ヘイズ値が低く、可視光透過率が高く、かつ、近赤外線領域に強い吸収を有する近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体を提供できる効果を有する。
【0025】
更に、ポリエステル樹脂と溶融混練される本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液の溶媒が高沸点溶媒で構成され、溶融混練時における高沸点溶媒の気化が起こり難いため、混練ムラや近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物のヘイズ悪化を防止できる効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について詳細を説明する。
【0027】
本発明の第一実施形態に係る近赤外線吸収微粒子分散液は、
近赤外線吸収微粒子と高沸点溶媒と低沸点溶媒を含有し、
上記近赤外線吸収微粒子が、一般式MyWOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In,Tl、Si、Ge、Sn、Pb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示されかつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子で構成され、
上記高沸点溶媒が、沸点が195℃以上でかつ分子両末端に水酸基を有する室温で液状のジオール化合物で構成されると共に、
上記低沸点溶媒が、沸点が150℃以下の有機溶剤で構成され、かつ、その含有量が5質量%以下であることを特徴とし、
本発明の第二実施形態に係る近赤外線吸収微粒子分散液は、
近赤外線吸収微粒子と高沸点溶媒と低沸点溶媒および熱分解温度が200℃以上の分散剤を含有し、
上記近赤外線吸収微粒子が、一般式MyWOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In,Tl、Si、Ge、Sn、Pb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示されかつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子で構成され、
上記高沸点溶媒が、沸点が195℃以上でかつ分子両末端に水酸基を有する室温で液状のジオール化合物で構成されると共に、
上記低沸点溶媒が、沸点が150℃以下の有機溶剤で構成され、かつ、その含有量が5質量%以下であることを特徴とする。
【0028】
また、第一実施形態に係る近赤外線吸収微粒子分散液の製造方法は、
近赤外線吸収微粒子と低沸点溶媒を混合し、湿式媒体ミルを用いて近赤外線吸収微粒子を粉砕かつ分散処理して低沸点溶媒の微粒子分散液を得る工程と、
得られた低沸点溶媒の微粒子分散液に高沸点溶媒を添加する工程と、
高沸点溶媒が添加された上記微粒子分散液から低沸点溶媒の含有量が5質量%以下になるまで低沸点溶媒を除去して高沸点溶媒の微粒子分散液を得る工程、
を具備することを特徴とし、
第二実施形態に係る近赤外線吸収微粒子分散液の製造方法は、
近赤外線吸収微粒子と低沸点溶媒および分散剤を混合し、湿式媒体ミルを用いて近赤外線吸収微粒子を粉砕かつ分散処理して低沸点溶媒の微粒子分散液を得る工程と、
得られた低沸点溶媒の微粒子分散液に高沸点溶媒を添加する工程と、
高沸点溶媒が添加された上記微粒子分散液から低沸点溶媒の含有量が5質量%以下になるまで低沸点溶媒を除去して高沸点溶媒の微粒子分散液を得る工程、
を具備することを特徴とする。
【0029】
以下、(1)近赤外線吸収微粒子分散液とその構成成分、すなわち(1-1)近赤外線吸収微粒子、(1-2)高沸点溶媒、(1-3)低沸点溶媒、(1-4)分散剤、(2)近赤外線吸収微粒子分散液の製造方法、(3)近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物、および、(4)近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体について順次説明する。
【0030】
(1)近赤外線吸収微粒子分散液とその構成成分
本発明の第一実施形態に係る近赤外線吸収微粒子分散液は、上述したように近赤外線吸収微粒子と高沸点溶媒と低沸点溶媒を含有し、
上記近赤外線吸収微粒子が複合タングステン酸化物微粒子で構成され、
上記高沸点溶媒が、沸点が195℃以上でかつ分子両末端に水酸基を有する室温で液状のジオール化合物で構成されると共に、
上記低沸点溶媒が、沸点が150℃以下の有機溶剤で構成され、かつ、その含有量が5質量%以下であることを特徴とし、
また、本発明の第二実施形態に係る近赤外線吸収微粒子分散液は、上述したように近赤外線吸収微粒子と高沸点溶媒と低沸点溶媒および熱分解温度が200℃以上の分散剤を含有し、
上記近赤外線吸収微粒子が、複合タングステン酸化物微粒子で構成され、
上記高沸点溶媒が、沸点が195℃以上でかつ分子両末端に水酸基を有する室温で液状のジオール化合物で構成されると共に、
上記低沸点溶媒が、沸点が150℃以下の有機溶剤で構成され、かつ、その含有量が5質量%以下であることを特徴とする。
【0031】
尚、第二実施形態に係る近赤外線吸収微粒子分散液において、近赤外線吸収微粒子の質量をA、高沸点溶媒の質量をC、および、分散剤の質量をDとした場合、
0.1≦[D/A]≦10、および、0.5≦[(C+D)/A]≦50の範囲であることが好ましい。[D/A]の質量比が0.1以上および[(C+D)/A]の質量比が0.5以上あれば、近赤外線吸収微粒子を十分に分散することができるので、微粒子同士の凝集が発生せず、充分な光学特性が得られるからである。また、上記[D/A]の質量比が10以下および[(C+D)/A]の質量比が50以下であれば、近赤外線吸収微粒子分散液を用いて製造される近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体自体の機械特性(引張強度、曲げ強度、表面硬度)が大きく損なわれることがないからである。
【0032】
(1-1)近赤外線吸収微粒子
本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液は、近赤外線吸収(遮蔽)機能を有する近赤外線吸収微粒子(複合タングステン酸化物微粒子)を含有する。
【0033】
複合タングステン酸化物微粒子は、近赤外線領域、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収する。太陽光線は様々な波長から構成されているが、大きく紫外線、可視光線、赤外線に分類でき、中でも赤外線が約46%を占めていることが知られている。そして、上述したように複合タングステン酸化物微粒子は、近赤外線領域、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収する。
【0034】
ここで、近赤外線吸収性は、太陽光線の透過率、すなわち日射透過率で評価することができる。日射透過率が低い場合、近赤外領域の光をよく吸収していることから、近赤外線吸収性が優れていると判断できる。そして、吸収された近赤外線は熱に変換される。
【0035】
[粒子径]
本発明の近赤外線吸収微粒子分散液中に分散した近赤外線吸収微粒子の「分散粒子径」は、上記微粒子における凝集体の径を含んでおり、凝集していない個々の近赤外線吸収微粒子がもつ粒子径の平均値である平均粒子径とは異なる。
【0036】
上記平均粒子径は近赤外線吸収微粒子の電子顕微鏡像から算出される。すなわち、近赤外線吸収微粒子分散液とポリエステル樹脂を溶融混練して製造された近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物および近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体のポリエステル樹脂中に存在する近赤外線吸収微粒子(複合タングステン酸化物微粒子)の平均粒子径は、近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物または近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体を樹脂包埋した後、薄片化を行い、薄片化試料の透過型電子顕微鏡(TEM)像から、複合タングステン酸化物微粒子100個の粒子径を、画像処理装置を用いて測定し、その平均値を算出することで求めることができる。上記薄片化を行う断面加工には、ミクロトーム、クロスセクションポリッシャ、集束イオンビーム(FIB)装置等を用いることができる。尚、近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物および近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体のポリエステル樹脂中に存在する近赤外線吸収微粒子(複合タングステン酸化物微粒子)の平均粒子径とは、マトリックスである固体媒体(ポリエステル樹脂)中で分散している複合タングステン酸化物微粒子における粒子径の平均値である。
【0037】
一方、上記「分散粒子径」は、後述する低沸点溶媒若しくは高沸点溶媒の微粒子分散液中に分散した近赤外線吸収微粒子(複合タングステン酸化物微粒子)の単体粒子や、当該複合タングステン酸化物微粒子が凝集した凝集粒子の粒子径を含んでいる。そして、当該分散粒子径は、市販されている種々の粒度分布計で測定することができる。例えば、当該複合タングステン酸化物微粒子分散液のサンプルを採取し、当該サンプルを動的光散乱法に基づく粒径測定装置(大塚電子株式会社製ELS-8000)を用いて測定することができる。
【0038】
本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液の「分散粒子径」は、使用目的によって選宜選定することができるが、1nm以上800nm以下の範囲が好ましい。
【0039】
以下、複合タングステン酸化物微粒子の組成と製造方法について説明する。
【0040】
[組成]
本発明に係る近赤外線吸収微粒子の組成について説明する。
【0041】
本発明に係る近赤外線吸収微粒子は、上述したように、一般式MyWOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In,Tl、Si、Ge、Sn、Pb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示されかつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子で構成される。
【0042】
上記複合タングステン酸化物微粒子に含まれるM元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cuから選択される少なくとも1種類以上を含むような近赤外線吸収微粒子が好ましい。
【0043】
添加元素Mの添加量は、0.1≦y≦0.5が好ましく、更に好ましくはy=0.33付近である。これは六方晶の結晶構造から理論的に算出される値が0.33であり、この前後の添加量で好ましい光学特性が得られるからである。また、酸素の含有量は、2.2≦z≦3.0が好ましい。これは、MyWOzで表記される複合タングステン酸化物材料において、zの値が2.2以上であれば、当該複合タングステン酸化物微粒子中に目的外であるWO2の結晶相が現れるのを回避できると共に、材料の化学的安定性を得ることができるのに加え、z≦3.0においても、上記元素Mの添加による自由電子の供給があるためである。もっとも、光学特性の観点からより好ましくは、2.2≦z≦2.99、更に好ましくは、2.45≦z≦2.99である。
【0044】
当該複合タングステン酸化物材料の典型的な例としては、Cs0.33WO3、Rb0.33WO3、K0.33WO3、Ba
0.33
WO
3
等を挙げることができる。
【0045】
[製造方法]
上記複合タングステン酸化物微粒子は、タングステン化合物を出発原料とし、タングステン化合物に元素Mを添加して得られる混合粉体を、不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気中で熱処理して得ることができる。
【0046】
タングステン化合物は、三酸化タングステン粉末、二酸化タングステン粉末、または酸化タングステンの水和物、または、六塩化タングステン粉末、またはタングステン酸アンモニウム粉末、または、六塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、または六塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末、から選ばれたいずれか1種類以上であることが好ましい。
【0047】
また、元素Mの化合物としては、元素Mの酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、塩化物塩、炭酸塩から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
【0048】
上述したタングステン化合物と上述した元素Mの化合物は、水や有機溶剤等の溶媒に溶解するものが好ましく、溶液の形で混合することにより、各成分が均一な混合溶液が得られる。そして、得られた混合溶液を乾燥することにより、タングステン化合物と元素Mの化合物との混合粉体が得られる。得られた混合粉体を不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気中で熱処理して、複合タングステン酸化物微粒子を含有する近赤外線吸収微粒子を得ることができる。
【0049】
次に、不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気中における熱処理について説明する。まず、上述の方法で得られた混合粉体を還元性ガス雰囲気中にて100℃以上650℃以下で熱処理し、次いで不活性ガス雰囲気中にて650℃以上1200℃以下の温度で熱処理することがよい。このときの還元性ガスは、特に限定されないが、H2が好ましい。そして、還元性ガスとしてH2を用いる場合は、還元性雰囲気の組成として、例えば、Ar、N2等の不活性ガスにH2を体積比で0.1%以上を混合することが好ましく、更に好ましくは0.2%以上混合したものである。H2が体積比で0.1%以上であれば効率よく還元を進めることができる。
【0050】
(1-2)高沸点溶媒
本発明の高沸点溶媒は、沸点が195℃以上でかつ分子両末端に水酸基を有する室温で液状の「ジオール化合物」で構成されている。
【0051】
そして、本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液は、分子両末端に水酸基を有する上記高沸点溶媒の作用により近赤外線吸収微粒子の凝集が防止され、分散液中において近赤外線吸収微粒子が均一に分散されているため、本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液とポリエステル樹脂を溶融混練して製造される近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物中においても近赤外線吸収微粒子の凝集は防止され、ポリエステル樹脂中において複合タングステン酸化物微粒子で構成される上記近赤外線吸収微粒子は均一に分散されている。
【0052】
また、ポリエステル樹脂と溶融混練する本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液の溶媒は高沸点溶媒で構成され、溶融混練時における高沸点溶媒の気化が起こり難いため、混練ムラや近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物のヘイズ悪化を防止することができる。
【0053】
尚、分子両末端に水酸基を有する高沸点溶媒により近赤外線吸収微粒子の凝集が防止される理由については、複合タングステン酸化物微粒子(近赤外線吸収微粒子)の表面に水酸基を介して「ジオール化合物」が吸着され、分散剤と類似した作用によるものと推察している。また、「室温で液状」の高沸点溶媒が適用される理由は、近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物の調製時における作業性を考慮したものである。
【0054】
そして、沸点が195℃以上でかつ分子両末端に水酸基を有する室温で液状の「ジオール化合物」は、ポリエステルポリオール類、脂肪族ジオール類、脂環族ジオール類、および、芳香族ジオール類から選択される。
【0055】
以下、具体例を説明する。
【0056】
(1-2-1)ポリエステルポリオール類
ポリエステルポリオール類は、ポリカルボン酸と多価アルコール(後述する脂肪族ジオール類等)を脱水縮合して製造される化合物であり、下記化学構造で示されるポリ[(3-メチル-1,5-ペンタンジオール)-alt-(アジピン酸)]が例示される。
【化1】
【0057】
そして、上記ポリカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸(C3H4O4)、コハク酸(C4H6O4)、イタコン酸(メチレンコハク酸:C5H6O4)、グルタル酸(C5H8O4)、アジピン酸(C6H10O4)、ピメリン酸(C7H12O4)、スベリン酸(C8H14O4)、アゼライン酸(C9H16O4)、セバシン酸(C10H18O4)、ドデカン二酸(C12H22O4)、マレイン酸(C4H4O4、鎖状不飽和ジカルボン酸)、フマル酸(C4H4O4、鎖状不飽和ジカルボン酸)、シトラコン酸(C5H6O4、鎖状不飽和ジカルボン酸、メサコン酸のシス体)、イソフタル酸(C8H6O4)、テレフタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸等の脂肪族ジカルボン酸およびその無水物等が挙げられる。
【0058】
上記ポリエステルポリオール類には、ポリ[(3-メチル-1,5-ペンタンジオール)-alt-(アジピン酸)]として、株式会社クラレ社製のクラレポリオールP510(Mn=500)、クラレポリオールP1010(Mn=1,000)、クラレポリオールP2010(Mn=2,000)、クラレポリオールP3010(Mn=3,000)、クラレポリオールP4010(Mn=4,000)、クラレポリオールP5010(Mn=5,000)、クラレポリオールP6010(Mn=6,000)等が挙げられ、ポリ[(3-メチル-1,5-ペンタンジオール)-alt-(セバシン酸)]として、クラレポリオールP2050(Mn=2,000)、クラレポリオールP3050(Mn=3,000)、クラレポリオールP4050(Mn=4,000)等が挙げられ、ポリ[(1,9-ノナンジオール)-alt-(アジピン酸)]として、クラレポリオールN2010(Mn=2,000)、クラレポリオールN4010(Mn=4,000)、クラレポリオールPNOA1010(Mn=1,000)、クラレポリオールPNOA2014(Mn=2,000)等が挙げられ、ポリ[(3-メチル-1,5-ペンタンジオール)-alt-(アジピン酸;イソフタル酸)]として、クラレポリオールP1012(Mn=1,000)、クラレポリオールP2012(Mn=2,000)等が挙げられ、ポリ[(3-メチル-1,5-ペンタンジオール)-alt-(アジピン酸;テレフタル酸)]として、クラレポリオールP1013(Mn=1,000)、クラレポリオールP2013(Mn=2,000)等が挙げられ、ポリ[(3-メチル-1,5-ペンタンジオール)-alt-(テレフタル酸)]として、クラレポリオールP1020(Mn=1,000)、クラレポリオールP2020(Mn=2,000)等が挙げられ、ポリ[(3-メチル-1,5-ペンタンジオール)-alt-(イソフタル酸)]として、クラレポリオールP530(Mn=500)、クラレポリオールP1030(Mn=1,000)、クラレポリオールP2030(Mn=2,000)等が挙げられる。
【0059】
また、伊藤製油社製のURIC H-62(Mn=430)、URIC Y-202(Mn=980)、URIC Y-332(Mn=910)、URIC AC-005(Mn=550)、URIC AC-006(Mn=650)等、また、ダイセル社製のPLACCEL 205(Mn=530)、協和発酵ケミカル社製のキョーワポール2000BA(Mn=2,000)、キョーワポール5000PA(Mn=5,000)等、DIC社製のポリライト(登録商標)OD-X-221(Mn=2,000)、ポリライトOD-X-2586(Mn=850)、ポリライトOD-X-2420(Mn=2,000)、ポリライトOD-X-2722(Mn=2,000)等、日立化成社製のファントール(登録商標) SV-298(Mn=450)、ファントール SV-208(Mn=480)、ファントール TA22-735A(Mn=1,400)、ファントール TA22-735C(Mn=1,450)等、アデカ社製のアデカニューエース(登録商標)F18-62(Mn=1,000)、アデカニューエースF7-67(Mn=2,000)、アデカニューエース YT-101(Mn=680)、アデカニューエースY9-10(Mn=1,000)等、川崎化成工業社製のMAXMOL(登録商標) RDK-133(Mn=360)、MAXMOL RDK-142(Mn=280)等、CRODA社製のプリプラスト(登録商標)1900(Mn=2,000)、プリプラスト1838(Mn=2,000)、プリプラスト3186(Mn=1,700)、プリプラスト3199(Mn=2,000)等が挙げられる。
【0060】
更に、豊国製油社製のHS2H-201AP(Mn=2,000)、HS2H-351A(Mn=3,500)、HS2H-451A(Mn=4,500)、HS2H-851A(Mn=8,500)、HS2H-179A(Mn=1,750)、HS2H-359T・CR(Mn=3,500)、HS2H-458T(Mn=4,500)、HS2F-131A(Mn=1,000)、HS2F-231AS(Mn=2,000)、HS2F-431A(Mn=3,500)、HS2F-136P(Mn=1,000)、HS2F-306P(Mn=3,000)、HS2E-581A(Mn=5,500)、HS2D-121A(Mn=1,000)、HS2F-237P(Mn=2,000)、HSポリオール1000(Mn=3,500)、HSポリオール2000(Mn=3,500)、HS2N-221A(Mn=2,000)、HS2N-521A(Mn=5,000)、HS2N-220S(Mn=2,000)、HS2N-226P(Mn=2,000)、HS2B-222A(Mn=2,000)、HOKOKUOL HT-110(Mn=1,000)、HOKOKUOL HT-210(Mn=2,000)、HOKOKUOL HT-12(Mn=2,000)、HOKOKUOL HT-250(Mn=2,500)、HOKOKUOL HT-310(Mn=3,000)、HOKOKUOL HT-40M(Mn=4,000)等が挙げられ、および、日立化成社製のテスラック(登録商標)2460(Mn=2,000)、テスラック2450(Mn=2,000)、テスラック2462(Mn=2,000)、テスラック2464(Mn=1,000)、テスラック2469(Mn=3,000)、テスラック2471(Mn=2,000)、テスラック2477(Mn=1,750)、テスラックTA22-558(Mn=2,000)、テスラックTA22-559(Mn=2,500)等が挙げられ、また、テスラック2455(Mn=2,000)、テスラック2459(Mn=2,000)、テスラック2461(Mn=2,000)等が挙げられる。
【0061】
尚、ポリエステルポリオール類の分子量(Mn)は3,000以下が好ましい。ポリエステルポリオール類の分子量(Mn)が3,000を超えた場合、分子両末端の水酸基が相対的に少なくなるため近赤外線吸収微粒子を分散させる作用が低下するからである。
【0062】
(1-2-2)脂肪族ジオール類
沸点が195℃以上でかつ分子両末端に水酸基を有する室温で液状の脂肪族ジオール類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-ブチル-3-エチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、3,3’-ジメチロールヘプタン、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール(C10H22O2)、1,12-ドデカンジオール(C12H26O2)、1,4-テトラコサンジオール(C24H50O2)、1,6-テトラコサンジオール(C24H50O2)、1,4-ヘキサコサンジオール(C26H54O2)、1,6-オクタコサンジオール(C28H58O2)等が例示される。
【0063】
(1-2-3)脂環族ジオール類
沸点が195℃以上でかつ分子両末端に水酸基を有する室温で液状の脂環族ジオール類としては、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール,トリシクロデカンジエタノール、シクロペンタジエンジメタノール、2,5-ノルボルナンジオール、1,3-アダマンタンジオール、ダイマージオール等が例示される。
【0064】
(1-2-4)芳香族ジオール類
沸点が195℃以上でかつ分子両末端に水酸基を有する室温で液状の芳香族ジオール類としては、o-,m-,p-ジヒドロキシベンゼン、1,2-インダンジオール、ベンゼン-1,2-ジメタノール(別名:フタリルアルコール)、ベンゼン-1,3-ジメタノール(別名:イソフタリルアルコール)、ベンゼン-1,4-ジメタノール(別名:テレフタリルアルコール)、1,3-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,2-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、(3,4-ジヒドロキシフェニル)メタノール(別名:プロトカテクイルアルコール)、(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)メタノール(別名:バニリルアルコール)、2-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)エタン-1-オール(別名:ホモバニリルアルコール)、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロパ-2-エン-1-オール(別名:コニフェリルアルコール)、3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジメトキシフェニル)プロパ-2-エン-1-オール(別名:シナピルアルコール)、1,2-ジフェニルエタン-1,2-ジオール(別名:ヒドロベンゾイン)、ハイドロキノン、レゾルシン、4-クロロレゾルシン、4-メチルレゾルシン、5-メチルベンゼン-1,3-ジオール(別名:オルシノール)、2-メチルベンゼン-1,4-ジオール(別名:トルヒドロキノン)、2,3-ジメチルベンゼン-1,4-ジオール(別名:o-キシロヒドロキノン)、2,6-ジメチルベンゼン-1,4-ジオール(別名:m-キシロヒドロキノン)、2,5-ジメチルベンゼン-1,4-ジオール(別名:p-キシロヒドロキノン)、2,3,5-トリメチルベンゼン-1,4-ジオール(別名:プソイドクモヒドロキノン)、2-イソプロピル-5-メチルベンゼン-1,4-ジオール(別名:チモヒドロキノン)、2,3,5,6-テトラメチルベンゼン-1,4-ジオール(別名:ジュロヒドロキノン)、5-ペンチルベンゼン-1,3-ジオール(別名:オリベトール)、4,4’-メチレンジフェノール(別名:p,p-ビスフェノールF)、4,4’-(2-ノルボルニリデン)ジフェノール、4,4’-ジヒドロキシメチルビフェニル、4,4’-ビフェニルジオール、2,3-ジヒドロキシブフェニル、テトラニトロビフェニルジオール、5,5’-ジプロピル-ビフェニル-2,2’-ジオール、3,3’-ジアミノビフェニル-4,4’-ジオール、5,5’-テトラメチルビフェニル-4,4’-ジオール、ジフェニルシランジオール、(E)-4,4’-(ヘキサ-3-エン-3,4-ジイル)ジフェノール(別名:ジエチルスチルベストロール)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(別名:ビスフェノールS)、4,4’-イソプロピリデンフェノール、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル(別名:4,4'-オキシジフェノール)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(別名:ビスフェノールA)、1,3-ナフタレンジオール、1,5-ナフタレンジオール、1,7-ナフタレンジオール、1,7-ジヒドロキシメチルナフタレン、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフタレンスルホン酸アンモニウム、9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9’-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)フルオレン1,4-ジヒドロ-9,10-アントラセンジオール等が例示される。
【0065】
(1-3)低沸点溶媒
本発明の低沸点溶媒は、沸点が150℃以下の有機溶媒で構成され、該低沸点溶媒としては、ケトン類、芳香族化合物、アルコール(エタノール、イソブチルアルコール等)類が好ましく、特に、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、キシレン、トルエンがより好ましい。
【0066】
(1-4)分散剤
本発明の分散剤は、近赤外線吸収微粒子(複合タングステン酸化物微粒子)の表面に吸着し、当該複合タングステン酸化物微粒子の凝集を防ぎ、低沸点溶媒若しくは高沸点溶媒の微粒子分散液中で、および、近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物および近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体のポリエステル樹脂中で、これ等の微粒子を均一に分散させる効果を発揮するものである。各種の高分子分散剤、界面活性剤、シランカップリング剤等が適用可能である。また、上記高沸点溶媒の種類によっては、高沸点溶媒それ自体が複合タングステン酸化物微粒子に対して分散剤として機能する。本発明で用いる分散剤は、ポリエステル樹脂として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等、溶融混練温度が高い樹脂を使用するため、熱分解温度が200℃以上である高耐熱性有することが好ましい。熱分解温度は、例えばTG-DTA等の熱分析を行うことで測定できる。このときの昇温速度は5℃/min~20℃/minが適当であるが、昇温速度が穏やかであるほど、測定精度が向上する。また、測定雰囲気は窒素等の不活性ガスが好ましい。
【0067】
そして、本発明で適用される分散剤は、特に限定されるものではなく、例えば高分子分散剤であることが好ましく、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリアクリル系、ポリウレタン系、ポリアミン系、ポリスチレン系、脂肪族系から選択されるいずれかの主鎖、あるいはポリエステル系、ポリエーテル系、ポリアクリル系、ポリウレタン系、ポリアミン系、ポリスチレン系、脂肪族系から選択される2種類以上の単位構造が共重合した主鎖を有する分散剤、等であることがより好ましい。
【0068】
また、分散剤は、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、カルボキシル基を含有する基、スルホ基、りん酸基、または、エポキシ基から選択される1種類以上を官能基として有することが好ましい。特にアミンを含有する基を官能基として有するポリアクリル系が好ましい。上述のいずれかの官能基を有する分散剤は、複合タングステン酸化物微粒子の表面に吸着し、複合タングステン酸化物微粒子の凝集をより確実に防ぐことができる。従って、複合タングステン酸化物微粒子をより均一に分散させることができるため、好適に用いることができる。
【0069】
このような分散剤には、日本ルーブリゾール株式会社製ソルスパース(登録商標)(以下同じ)9000、12000、17000、20000、21000、24000、26000、27000、28000、32000、35100、54000、ソルシックス250、エフカアディティブズ社製EFKA(登録商標)(以下同じ)4008、EFKA4009、EFKA4010、EFKA4015、EFKA4046、EFKA4047、EFKA4060、EFKA4080、EFKA7462、EFKA4020、EFKA4050、EFKA4055、EFKA4585、EFKA4400、EFKA4401、EFKA4402、EFKA4403、EFKA4300、EFKA4320、EFKA4330、EFKA4340、EFKA6220、EFKA6225、EFKA6700、EFKA6780、EFKA6782、EFKA8503、味の素ファインテクノ株式会社製アジスパー(登録商標)(以下同じ)PB821、アジスパーPB822、アジスパーPB824、アジスパーPB881、フェイメックスL-12、ビックケミー・ジャパン株式会社製DisperBYK(登録商標)(以下同じ)101、DisperBYK106、DisperBYK108、DisperBYK116、DisperBYK130、DisperBYK140、DisperBYK142、DisperBYK145、DisperBYK161、DisperBYK162、DisperBYK163、DisperBYK164、DisperBYK166、DisperBYK167、DisperBYK168DisperBYK171、DisperBYK180、DisperBYK182、DisperBYK2000、DisperBYK2001、DisperBYK2009、DisperBYK2013、DisperBYK2022、DisperBYK2025、DisperBYK2050、DisperBYK2155、DisperBYK2164、BYK350、BYK354、BYK355、BYK356、BYK358、BYK361、BYK381、BYK392、BYK394、BYK300、BYK3441、楠本化成株式会社製ディスパロン(登録商標)(以下同じ)1831、ディスパロン1850、ディスパロン1860、ディスパロンDA-400N、ディスパロンDA-703-50、ディスパロンDA-725、ディスパロンDA-705、ディスパロンDA-7301、ディスパロンDN-900、ディスパロンNS-5210、ディスパロンNVI-8514L、大塚化学株式会社製TERPLUS(登録商標) MD1000、D 1180、D 1130が挙げられる。
【0070】
上述したいずれかの官能基を有する分散剤として、例えば、アミンを含有する基を官能基として有するアクリル系分散剤、および、カルボキシル基を官能基として有するアクリル-スチレン共重合体系分散剤等が挙げられる。アミンを含有する基を官能基として有する分散剤は、分子量Mwが2000以上200000以下であることが好ましく、アミン価が5mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることが好ましい。一方、カルボキシル基を官能基として有する分散剤は、分子量Mwが2000以上200000以下であることが好ましく、酸価が1mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることが好ましい。
【0071】
(2)近赤外線吸収微粒子分散液の製造方法
上述したように第一実施形態に係る近赤外線吸収微粒子分散液の製造方法は、
近赤外線吸収微粒子と低沸点溶媒を混合し、湿式媒体ミルを用いて近赤外線吸収微粒子を粉砕かつ分散処理して低沸点溶媒の微粒子分散液を得る工程と、
得られた低沸点溶媒の微粒子分散液に高沸点溶媒を添加する工程と、
高沸点溶媒が添加された上記微粒子分散液から低沸点溶媒の含有量が5質量%以下になるまで低沸点溶媒を除去して高沸点溶媒の微粒子分散液を得る工程、
を具備することを特徴とし、
第二実施形態に係る近赤外線吸収微粒子分散液の製造方法は、
近赤外線吸収微粒子と低沸点溶媒および分散剤を混合し、湿式媒体ミルを用いて近赤外線吸収微粒子を粉砕かつ分散処理して低沸点溶媒の微粒子分散液を得る工程と、
得られた低沸点溶媒の微粒子分散液に高沸点溶媒を添加する工程と、
高沸点溶媒が添加された上記微粒子分散液から低沸点溶媒の含有量が5質量%以下になるまで低沸点溶媒を除去して高沸点溶媒の微粒子分散液を得る工程、
を具備することを特徴とする。
【0072】
尚、近赤外線吸収微粒子と低沸点溶媒、および、近赤外線吸収微粒子と低沸点溶媒と分散剤を混合し、湿式媒体ミルを用いて近赤外線吸収微粒子を粉砕かつ分散処理して低沸点溶媒の微粒子分散液を調製している理由は、高沸点溶媒中に近赤外線吸収微粒子を直接分散させる方法に較べて効率的に高沸点溶媒の微粒子分散液を調製できるからである。
【0073】
以下に、第二実施形態に係る近赤外線吸収微粒子分散液について説明する。尚、この微粒子分散液は、近赤外線吸収微粒子(複合タングステン酸化物微粒子)、分散剤、低沸点溶媒、および、高沸点溶媒を含んでいる。
【0074】
[低沸点溶媒の微粒子分散液を調製する工程](粉砕・分散処理工程)
近赤外線吸収微粒子に低沸点溶媒と分散剤を添加してスラリーを調製し、かつ、湿式媒体ミルを用いてスラリー中の近赤外線吸収微粒子を粉砕かつ分散処理して低沸点溶媒の微粒子分散液を調製する。
【0075】
低沸点溶媒としては、上述したようにケトン類、芳香族化合物、アルコール(エタノール、イソブチルアルコール等)類が好ましく、特に、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、キシレン、トルエンがより好ましい。また、低沸点溶媒の添加量は特に限定されないが、低沸点溶媒と近赤外線吸収微粒子(複合タングステン酸化物微粒子)の質量比(低沸点溶媒/近赤外線吸収微粒子)が0.8以上4.0以下とすることが好ましい。これは、上記質量比(低沸点溶媒/近赤外線吸収微粒子)を0.8以上とすることで、微粒子分散液としての保存性を担保し易く、その後の高沸点溶媒と混合する際の作業性を高めることもできる。また、上記質量比を4.0以下とすることで、後述する近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物を製造する際に容易に低沸点溶媒を除去できる。
【0076】
「粉砕・分散処理」は、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、超音波分散等の公知の湿式媒体ミルを用いればよい。
【0077】
[高沸点溶媒の微粒子分散液を調製する工程](真空加熱混合工程)
前工程で得られた低沸点溶媒の微粒子分散液に高沸点溶媒を添加し、該微粒子分散液から低沸点溶媒を除去して高沸点溶媒の微粒子分散液を調製する。
【0078】
高沸点溶媒の微粒子分散液中における低沸点溶媒の含有量は5質量%以下であることを要する。低沸点溶媒の含有量が5質量%を超えた場合、高沸点溶媒の微粒子分散液(すなわち、本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液)とポリエステル樹脂とを溶融混練する工程において低沸点溶媒が気化し、近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物のヘイズ値を悪化させる可能性があるからである。
【0079】
低沸点溶媒を除去する方法としては、真空加熱混合機等の公知の方法を用いることができる。
【0080】
(3)近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物
本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液を適用した近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物は、上記近赤外線吸収微粒子分散液にポリエステル樹脂を配合し、溶融混練装置を用いて微粒子分散液とポリエステル樹脂を溶融混練して製造される。
【0081】
尚、本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液とポリエステル樹脂を溶融混練する際、必要に応じて、紫外線吸収剤、カップリング剤、界面活性剤、帯電防止剤、樹脂改質剤等を添加してもよい。近赤外線吸収微粒子がポリエステル樹脂に均一に分散すればよく、溶融混練の方法としては、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、一軸押出機、二軸押出機等の溶融混練装置を使用することができる。
【0082】
近赤外線吸収微粒子分散液と溶融混練されるポリエステル樹脂としては、可視光領域の光線透過率が高い透明なポリエステル樹脂であれば特に制限はなく、例えば、0.05mm厚の板状成形体としたときのJISR3106(1998)記載の可視光透過率が70%以上で、JISK7136(2000)記載のヘイズが3%以下のものであり、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートを挙げることができる。尚、近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物を成形して得られる近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体が各種建築物や車両の窓材等に適用されることを目的とした場合、透明性、耐衝撃性、耐候性等を考慮すると、上記ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートが好ましく、また、フラットパネルディスプレイの近赤外線吸収フィルター等に適用されることを目的とした場合、汎用性等を考慮すると、ポリエチレンナフタレートがより好ましい。
【0083】
尚、第二実施形態に係る近赤外線吸収微粒子分散液を適用した近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物においては、近赤外線吸収微粒子の質量をA、ポリエステル樹脂の質量をB、高沸点溶媒の質量をC、および、分散剤の質量をDとした場合、
5≦[(B+C+D)/A]≦1000の条件を満たすことが好ましい。当該質量比が5以上であれば、近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物を用いて製造される近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体自体の機械特性(引張強度、曲げ強度、表面硬度)が大きく損なわれることがなく、当該質量比が1000以下であれば、十分な近赤外線吸収特性が得られるため十分な近赤外線遮蔽特性も得られるからである。
【0084】
また、近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物のポリエステル樹脂中に存在する近赤外線吸収微粒子(複合タングステン酸化物微粒子)の粒子径は、その使用目的によって選宜選定することができる。例えば、上記ポリエステル樹脂組成物を成形して得られる近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体が、可視光領域の透明性を重視する用途に使用される場合には、近赤外線吸収微粒子による散乱の低減を重視して、当該近赤外線吸収微粒子の平均粒子径は、100nm以下、好ましくは50nm以下がよい。平均粒子径が50nm以下になると、微粒子のミー散乱およびレイリー散乱による光の散乱が十分に制御され、可視光波長領域の視認性を保持し、同時に効率よく透明性を保持することができるからである。光の散乱を回避する観点からは、平均粒子径が小さい方が好ましく、平均粒子径が1nm以上であれば工業的な製造は容易である。
【0085】
尚、本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液が適用された近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物に一般的な添加剤を配合することも可能である。例えば、必要に応じて任意の色調を与えるため、アゾ系染料、シアニン系染料、キノリン系染料、ペリレン系染料、カーボンブラック等、熱可塑性樹脂の着色に一般的に利用されている染料、顔料の有効発現量を上記樹脂組成物に配合してもよい。また、ヒンダードフェノール系、りん系等の安定剤、離形剤、ヒドロキシベンゾフェノン系、サリチル酸系、HALS系、トリアゾール系、トリアジン系等の紫外線吸収剤、カップリング剤、界面活性剤、および、帯電防止剤等についてその有効発現量を上記樹脂組成物に配合してもよい。
【0086】
また、本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液が適用された近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物について、ベント式一軸若しくは二軸の押出機で混練し、ペレット状に加工することで、近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体用のマスターバッチとしてもよく、上述した一般的な添加剤をマスターバッチに配合することも可能である。
【0087】
(4)近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体
本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液が適用された近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体は、該成形体を構成するポリエステル樹脂の可視光領域における光線透過率が高く透明性に優れていることから、建造物、自動車、電車、航空機等の開口部に使用される窓材(貼り付けフィルムを含む)、および、フラットパネルディスプレイの近赤外線吸収フィルター等に用いられる。
【0088】
上記近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体は、近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物を所定の形状に成形することによって得られる。また、近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物のマスターバッチを、該マスターバッチに含まれるポリエステル樹脂と同種のポリエステル樹脂または相溶性を有する異種の熱可塑性樹脂とを混合し、希釈・混練した後、所定の形状に成形することによって得られる。
【0089】
近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の形状は、任意の形状に成形可能であり、平面状および曲面状に成形することが可能である。また、近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の厚さについては、板状からフィルム状まで必要に応じて任意に調整可能である。更に、平面状に形成した樹脂シートは、後加工によって球面状等の任意の形状に成形することができる。また、上記近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の成形方法としては、射出成形、押出成形、圧縮成形または回転成形等の任意の方法を例示できる。特に、射出成形により成形品を得る方法と、押出成形により成形品を得る方法が好適に採用される。
【0090】
押出成形により板状、フィルム状の成形品を得るには、Tダイ等の押出機を用いて押出した溶融樹脂組成物を冷却ロールで冷却しながら引き取る方法により製造される。また、必要に応じて延伸加工し、成形品の厚みを調製することも可能である。押出成形により得られた板状品は、アーケードやカーポート等の建造物用に好適に使用され、フィルム状の成形品は、窓ガラスの貼り付け用、フラットパネルディスプレイの近赤外線吸収フィルター用に好適に使用される。
【0091】
そして、本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液が適用された近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体においては、上記分散液に含まれる高沸点溶媒の作用により近赤外線吸収微粒子の凝集が防止されるため、ポリエステル樹脂中に近赤外線吸収微粒子が均一に分散されている。このため、可視光領域における光線透過率が高くなるように上記樹脂成形体の厚さを50μm(0.05mm)以下に設定しても、ポリエステル樹脂中に均一に分散された近赤外線吸収微粒子により近赤外線が吸収(遮蔽)され、かつ、ヘイズ値も2.0%以下に調整することが可能となる。
【0092】
また、近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体は、それ自体のみを、上述した建造物、自動車、電車、航空機等の構造材に使用することができるほか、無機ガラス、樹脂ガラス、樹脂フィルム等の他の透明成形体に任意の方法で積層し、一体化した近赤外線吸収ポリエステル樹脂積層体として構造材に使用することもできる。例えば、予めフィルム状に成形した近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体を、熱ラミネート法により無機ガラスに積層一体化することで、近赤外線遮蔽機能、飛散防止機能を有する近赤外線吸収ポリエステル樹脂積層体を得ることができる。また、熱ラミネート法、共押出法、プレス成形法、射出成形法等により近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の成形と同時に、他の透明成形体に積層一体化することで、近赤外線吸収ポリエステル樹脂積層体を得ることも可能である。上記近赤外線吸収ポリエステル樹脂積層体は、相互の成形体の持つ利点を有効に発揮させつつ、相互の欠点を補完することで、より有用な構造材として使用することができる。
【0093】
また、上記近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体は、当該成形体の表面に近赤外線吸収能を有する微粒子が含まれる塗料を塗布し、近赤外線吸収膜を形成することで近赤外線吸収能を調整することも可能である。近赤外線吸収能を有する微粒子として、六ホウ化物微粒子、アンチモンドープ酸化錫微粒子等が挙げられる。例えば、六ホウ化ランタン微粒子分散液をUV硬化樹脂と混合して得られた塗布液を、上記近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体に塗布し、その後硬化させて近赤外線吸収膜を形成することにより近赤外線吸収能を更に向上させることが可能となる。
【実施例】
【0094】
以下に、本発明の実施例を比較例と共に具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0095】
尚、各実施例において、分散剤の熱分解温度は、熱重量示差熱同時測定装置(ブルカーAX社製、TG-DTA2020SR)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度5℃/minで室温から500℃まで重量変化を測定した。
【0096】
また、複合タングステン酸化物微粒子分散液(高沸点溶媒の微粒子分散液)に含まれる低沸点溶媒の残留量は、電子水分計(島津製作所社製「MOC63u」)を用い、140℃に10分間保持した際の重量変化を測定することで得た。
【0097】
また、近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の可視光透過率と日射透過率は、日立製作所(株)社製の「分光光度計U-4100」を用い、JIS R 3106:1988に基づいて測定した。この日射透過率は近赤外線吸収(遮蔽)性能を示す指標である。
【0098】
また、近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体のヘイズ値は、村上色彩技術研究所(株)社製「HR-150W」を用い、JIS K 7136:2000に基づいて測定した。
【0099】
また、近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体中に存在する近赤外線吸収微粒子の平均粒子径は、近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体を樹脂包埋した後、薄片化を行い、得られた薄片サンプルをTEM観察に供して解析した。装置はJEOL社製「JEM-1400Plus」を用い、倍率10万倍~15万倍での観察において、100個の微粒子について粒子径を測定して平均粒子径を算出した。
【0100】
[実施例1]
(1)複合タングステン酸化物微粒子分散液(高沸点溶媒の微粒子分散液)の調製
複合タングステン酸化物微粒子(Cs0.33WO3:以下、CWOと略称する)20質量%、アクリル系高分子分散剤[アクリル主鎖と官能基としてアミノ基を有し、アミン価29mgKOH/g、熱分解温度280℃の分散剤(以下、分散剤aと略称する)]20質量%、低沸点溶媒としてメチルイソブチルケトン(MIBK)60質量%を秤量した。これ等を、0.3mmφZrO2ビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、20時間粉砕・分散処理することにより複合タングステン酸化物微粒子分散液(低沸点溶媒の微粒子分散液)を調製した。
【0101】
得られた複合タングステン酸化物微粒子分散液(低沸点溶媒の微粒子分散液)に、該微粒子分散液と下記高沸点溶媒の比率が5:3となるように高沸点溶媒を加えた後、真空加熱混合機を用いて低沸点溶媒(MIBK)を除去し、複合タングステン酸化物微粒子分散液(高沸点溶媒の微粒子分散液)を得た。高沸点溶媒は、ポリエステルポリオール[エステル基を2個有し、分子量500の(株)クラレ社製 商品名「クラレポリオール」]を使用した。また、調製された複合タングステン酸化物微粒子分散液(高沸点溶媒の微粒子分散液)中における低沸点溶媒(MIBK)の残留量は2質量%であった。
【0102】
尚、分散剤の質量をD、複合タングステン酸化物微粒子の質量をA、高沸点溶媒の質量をCとした場合、D/A、および、(C+D)/Aを表1に示す。
【0103】
(2)近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物の調製
調製された複合タングステン酸化物微粒子分散液(高沸点溶媒の微粒子分散液)とポリエステル樹脂であるポリエチレンテレフタレート樹脂ペレットとを、近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物中のCWO濃度が3質量%(但し、表1等は質量比で表記、以下同様)となるように混合し、ブレンダーを用いて均一に混合した後、二軸押出機を用いて240℃で溶融混練し、かつ、押出されたストランドをペレット状にカットし、近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体用コンパウンド(近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物)を得た。
【0104】
尚、分散剤の質量をD、複合タングステン酸化物微粒子の質量をA、高沸点溶媒の質量をC、ポリエステル樹脂の質量をBとした場合、(B+C+D)/Aを表1に示す。
【0105】
(3)近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の製造
得られた近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体用コンパウンドを、一軸押出機を用いて240℃で溶融混練した後、Tダイより押し出し、二軸延伸加工し、厚さ0.05mmに成形することで、複合タングステン酸化物(CWO)微粒子がポリエステル樹脂全体に均一に分散した実施例1に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体を得た。
【0106】
実施例1に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の光学特性を測定したところ、表3に示すように、可視光透過率74.6%のときの日射透過率は35.3%で、ヘイズ値は1.0%であった。
【0107】
また、表3に示すように、近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体中に存在する近赤外線吸収微粒子の平均粒子径は45nmであった。
【0108】
[実施例2]
低沸点溶媒(MIBK)を除去した後の複合タングステン酸化物微粒子分散液(高沸点溶媒の微粒子分散液)に係る組成を、複合タングステン酸化物(CWO)微粒子:20質量%、上記分散剤a:10質量%、ポリエステルポリオール(エステル基を2個有し、分子量500):70質量%とした以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体を作製した。
【0109】
実施例2に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の光学特性を測定したところ、表3に示すように、可視光透過率73.1%のときの日射透過率は34.9%で、ヘイズ値は1.2%であった。
【0110】
また、表3に示すように、近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体中に存在する近赤外線吸収微粒子の平均粒子径は52nmであった。
【0111】
実施例1と同様、表1に、D/A、(C+D)/A、(B+C+D)/Aを示す。
【0112】
[実施例3]
低沸点溶媒(MIBK)を除去した後の複合タングステン酸化物微粒子分散液(高沸点溶媒の微粒子分散液)に係る組成を、複合タングステン酸化物(CWO)微粒子:20質量%、上記分散剤a:60質量%、ポリエステルポリオール(エステル基を2個有し、分子量500):20質量%とした以外は、実施例1と同様にして実施例3に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体を作製した。
【0113】
実施例3に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の光学特性を測定したところ、表3に示すように、可視光透過率74.0%のときの日射透過率は35.8%で、ヘイズ値は1.0%であった。
【0114】
また、表3に示すように、近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体中に存在する近赤外線吸収微粒子の平均粒子径は44nmであった。
【0115】
実施例1と同様、表1に、D/A、(C+D)/A、(B+C+D)/Aを示す。
【0116】
[実施例4]
分散剤をアクリル系高分子分散剤[アクリル主鎖と官能基としてアミノ基を有し、アミン価10mgKOH/g、熱分解温度300℃の分散剤(以下、分散剤bと略称する)]に変更し、低沸点溶媒(MIBK)を除去した後の複合タングステン酸化物微粒子分散液(高沸点溶媒の微粒子分散液)に係る組成を、複合タングステン酸化物(CWO)微粒子:20質量%、上記分散剤b:20質量%、ポリエステルポリオール(エステル基を2個有し、分子量500):60質量%とした以外は、実施例1と同様にして実施例4に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体を作製した。
【0117】
実施例4に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の光学特性を測定したところ、表3に示すように、可視光透過率72.6%のときの日射透過率は34.2%で、ヘイズ値は0.9%であった。
【0118】
また、表3に示すように、近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体中に存在する近赤外線吸収微粒子の平均粒子径は42nmであった。
【0119】
実施例1と同様、表1に、D/A、(C+D)/A、(B+C+D)/Aを示す。
【0120】
[実施例5]
分散剤をアクリル系高分子分散剤[アクリル主鎖と官能基としてアミノ基を有し、アミン価40mgKOH/g、熱分解温度230℃の分散剤(以下、分散剤cと略称する)]に変更し、低沸点溶媒(MIBK)を除去した後の複合タングステン酸化物微粒子分散液(高沸点溶媒の微粒子分散液)に係る組成を、複合タングステン酸化物(CWO)微粒子:20質量%、上記分散剤c:20質量%、ポリエステルポリオール(エステル基を2個有し、分子量500):60質量%とした以外は、実施例1と同様にして実施例5に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体を作製した。
【0121】
実施例5に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の光学特性を測定したところ、表3に示すように、可視光透過率73.5%のときの日射透過率は35.6%で、ヘイズ値は1.2%であった。
【0122】
また、表3に示すように、近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体中に存在する近赤外線吸収微粒子の平均粒子径は55nmであった。
【0123】
実施例1と同様、表1に、D/A、(C+D)/A、(B+C+D)/Aを示す。
【0124】
[実施例6]
上記高沸点溶媒をポリエステルポリオール[エステル基を2個有し、分子量2000の(株)クラレ社製 商品名「クラレポリオール」]に変更し、低沸点溶媒(MIBK)を除去した後の複合タングステン酸化物微粒子分散液(高沸点溶媒の微粒子分散液)に係る組成を、複合タングステン酸化物(CWO)微粒子:20質量%、上記分散剤a:20質量%、ポリエステルポリオール:60質量%とした以外は、実施例1と同様にして実施例6に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体を作製した。
【0125】
実施例6に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の光学特性を測定したところ、表3に示すように、可視光透過率74.6%のときの日射透過率は36.5%で、ヘイズ値は1.1%であった。
【0126】
また、表3に示すように、近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体中に存在する近赤外線吸収微粒子の平均粒子径は48nmであった。
【0127】
実施例1と同様、表1に、D/A、(C+D)/A、(B+C+D)/Aを示す。
【0136】
[実施例7]
(1)複合タングステン酸化物微粒子分散液(高沸点溶媒の微粒子分散液)の調製
複合タングステン酸化物微粒子(CWO)20質量%、低沸点溶媒としてエタノール80質量%を秤量した。上記微粒子とエタノールを、0.3mmφZrO2ビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、23時間粉砕・分散処理することにより複合タングステン酸化物微粒子分散液(低沸点溶媒の微粒子分散液)を調製した。
【0137】
得られた複合タングステン酸化物微粒子分散液(低沸点溶媒の微粒子分散液)に、該微粒子分散液と高沸点溶媒であるエチレングリコールの比率が5:4となるように高沸点溶媒を加えた後、真空加熱混合機を用いて低沸点溶媒(エタノール)を除去し、複合タングステン酸化物微粒子分散液(高沸点溶媒の微粒子分散液)を得た。また、調製された複合タングステン酸化物微粒子分散液(高沸点溶媒の微粒子分散液)中におけるエタノールの残留量は2質量%であった。
【0138】
(2)近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物の調製
調製された複合タングステン酸化物微粒子分散液(高沸点溶媒の微粒子分散液)とポリエチレンテレフタレート樹脂ペレットとを、CWO濃度が3質量%となるように混合し、ブレンダーを用いて均一に混合した後、二軸押出機を用いて240℃で溶融混練し、かつ、押出されたストランドをペレット状にカットし、近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体用コンパウンド(近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物)を得た。
【0139】
(3)近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の製造
得られた近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体用コンパウンドを、一軸押出機を用いて240℃で溶融混練した後、Tダイより押し出し、二軸延伸加工し、厚さ0.05mmに成形することで、複合タングステン酸化物(CWO)微粒子がポリエステル樹脂全体に均一に分散した実施例7に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体を得た。
【0140】
実施例7に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の光学特性を測定したところ、表3に示すように、可視光透過率73.0%のときの日射透過率は36.3%で、ヘイズ値は1.3%であった。
【0141】
また、表3に示すように、近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体中に存在する近赤外線吸収微粒子の平均粒子径は64nmであった。
【0142】
実施例1と同様、表1に、D/A、(C+D)/A、(B+C+D)/Aを示す。
【0143】
[実施例8]
低沸点溶媒(MIBK)を除去した後の複合タングステン酸化物微粒子分散液(高沸点溶媒の微粒子分散液)に係る組成を、複合タングステン酸化物(CWO)微粒子:33.3質量%、上記分散剤a:16.7質量%、ポリエステルポリオール(エステル基を2個有し、分子量500):50質量%とし、近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の厚さを0.01mmとした以外は、実施例1と同様にして実施例8に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体を作製した。
【0144】
実施例8に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の光学特性を測定したところ、表3に示すように、可視光透過率73.2%のときの日射透過率は36.9%で、ヘイズ値は1.3%であった。
【0145】
また、表3に示すように、近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体中に存在する近赤外線吸収微粒子の平均粒子径は66nmであった。
【0146】
実施例1と同様、表1に、D/A、(C+D)/A、(B+C+D)/Aを示す。
【0147】
[実施例9]
上記高沸点溶媒を、ポリエステルポリオール[エステル基を2個有し、分子量3000の(株)クラレ社製 商品名「クラレポリオール」]に変更し、低沸点溶媒(MIBK)を除去した後の複合タングステン酸化物微粒子分散液(高沸点溶媒の微粒子分散液)に係る組成を、複合タングステン酸化物(CWO)微粒子:20質量%、上記分散剤a:20質量%、ポリエステルポリオール:60質量%とした以外は、実施例1と同様にして実施例9に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体を作製した。
【0148】
実施例9に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の光学特性を測定したところ、表3に示すように、可視光透過率73.3%のときの日射透過率は36.7%で、ヘイズ値は1.3%であった。
【0149】
また、表3に示すように、近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体中に存在する近赤外線吸収微粒子の平均粒子径は65nmであった。
【0150】
実施例1と同様、表1に、D/A、(C+D)/A、(B+C+D)/Aを示す。
【0151】
[比較例1]
複合タングステン酸化物(CWO)微粒子20質量%、分散剤a:20質量%、低沸点溶媒としてメチルイソブチルケトン(MIBK)60質量%を秤量した。上記微粒子と分散剤とMIBKを、0.3mmφZrO2ビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、20時間粉砕・分散処理することにより複合タングステン酸化物微粒子分散液(低沸点溶媒の微粒子分散液)を調製した。
【0152】
次いで、得られた複合タングステン酸化物微粒子分散液(低沸点溶媒の微粒子分散液)から真空加熱混合機を用いてMIBKを除去し、複合タングステン酸化物微粒子分散粉を得た。
【0153】
得られた複合タングステン酸化物微粒子分散粉とポリエステル樹脂であるポリエチレンテレフタレート樹脂ペレットを、上記CWO濃度が3質量%となるように混合し、ブレンダーを用いて均一に混合した後、実施例1と同様、二軸押出機を用いて240℃で溶融混練し、かつ、押出されたストランドをペレット状にカットし、近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体用コンパウンド(近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物)を得た。
【0154】
次いで、得られた近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体用コンパウンドを、実施例1と同様、一軸押出機を用いて240℃で溶融混練した後、Tダイより押し出し、二軸延伸加工し、厚さ0.05mmに成形することで、比較例1に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体を作製した。
【0155】
比較例1に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の光学特性を測定したところ、表4に示すように、可視光透過率72.1%のときの日射透過率は35.7%で、ヘイズ値は3.3%であった。
【0156】
また、表4に示すように、近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体中に存在する近赤外線吸収微粒子の平均粒子径は87nmであった。
【0157】
実施例1と同様、表2に、D/A、(C+D)/A、(B+C+D)/Aを示す。
【0158】
[比較例2]
分散剤aに代えて分散剤bを用いた以外は、比較例1と同様にして比較例2に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体を得た。
【0159】
比較例2に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の光学特性を測定したところ、表4に示すように、可視光透過率71.5%のときの日射透過率は35.2%で、ヘイズ値は3.6%であった。
【0160】
また、表4に示すように、近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体中に存在する近赤外線吸収微粒子の平均粒子径は97nmであった。
【0161】
比較例1と同様、表2に、D/A、(C+D)/A、(B+C+D)/Aを示す。
【0162】
[比較例3]
分散剤aに代えて分散剤cを用いた以外は、比較例1と同様にして比較例3に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体を得た。
【0163】
比較例3に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の光学特性を測定したところ、表4に示すように、可視光透過率72.1%のときの日射透過率は35.5%で、ヘイズ値は3.4%であった。
【0164】
また、表4に示すように、近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体中に存在する近赤外線吸収微粒子の平均粒子径は92nmであった。
【0165】
[比較例4]
複合タングステン酸化物(CWO)微粒子を20質量%、分散剤cを20質量%、低沸点溶媒であるメチルイソブチルケトン(MIBK)60質量%を秤量した。これ等を、0.3mmφZrO2ビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、20時間粉砕・分散処理することにより複合タングステン酸化物微粒子分散液(低沸点溶媒の微粒子分散液)を調製した。
【0166】
得られた複合タングステン酸化物微粒子分散液(低沸点溶媒の微粒子分散液)に対し、分散剤cを更に添加し、分散剤cと複合タングステン酸化物(CWO)微粒子の質量比[分散剤/複合タングステン酸化物微粒子]が3となるように調整した後、真空加熱混合機を用いてMIBKを除去し、複合タングステン酸化物微粒子分散粉を得た。
【0167】
得られた複合タングステン酸化物微粒子分散粉を用い、比較例1と同様にして比較例4に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体を得た。
【0168】
比較例4に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の光学特性を測定したところ、表4に示すように、可視光透過率71.9%のときの日射透過率は35.4%で、ヘイズ値は3.8%であった。
【0169】
また、表4に示すように、近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体中に存在する近赤外線吸収微粒子の平均粒子径は110nmであった。
【0170】
比較例1と同様、表2に、D/A、(C+D)/A、(B+C+D)/Aを示す。
【0171】
[比較例5]
分散剤を用いない実施例7と同様、複合タングステン酸化物(CWO)微粒子を20質量%、低沸点溶媒としてエタノール80質量%を秤量した。これ等を、0.3mmφZrO2ビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、23時間粉砕・分散処理することにより複合タングステン酸化物微粒子分散液(低沸点溶媒の微粒子分散液)を調製した。
【0172】
次いで、得られた複合タングステン酸化物微粒子分散液(低沸点溶媒の微粒子分散液)から真空加熱混合機を用いてエタノールを除去し、複合タングステン酸化物微粒子粉を得た。
【0173】
得られた複合タングステン酸化物微粒子粉と、ポリエステル樹脂であるポリエチレンテレフタレート樹脂ペレットとをCWO濃度が3質量%となるように混合し、以下、実施例1と同様にして比較例5に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の作製を試みた。
【0174】
しかし、分散剤や高沸点溶媒が用いられていないことから、ポリエステル樹脂中に存在する複合タングステン酸化物微粒子の分散安定性に劣るため、複合タングステン酸化物微粒子の激しい凝集が起こり、外観で不均一になる程、複合タングステン酸化物微粒子をポリエステル樹脂中に均一に分散させることはできなかった。
【0175】
[比較例6]
分散剤をアクリル系高分子分散剤[アクリル主鎖と官能基としてアミノ基を有し、アミン価48mgKOH/g、熱分解温度250℃の分散剤(以下、分散剤dと略称する)]に変更し、かつ、ポリエステルポリオール(エステル基を2個有し、分子量500)に代えてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレートを適用した以外は、実施例2と同様にして比較例6に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体を作製した。
【0176】
しかし、実施例2の高沸点溶媒(ポリエステルポリオール)とは異なるトリエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレートが用いられているため、ポリエステル樹脂中に存在する複合タングステン酸化物(CWO)微粒子の分散安定性に劣り、複合タングステン酸化物微粒子の激しい凝集が起こり、外観で不均一になる程、複合タングステン酸化物微粒子をポリエステル樹脂中に均一に分散させることはできなかった。
【0177】
[比較例7]
分散剤を、アクリル系高分子分散剤[アクリル主鎖と官能基としてアミノ基を有し、アミン価29mgKOH/g、熱分解温度280℃の分散剤(分散剤a)]に変更し、かつ、ポリエステルポリオール(エステル基を2個有し、分子量500)に代えてエポキシ基含有アクリル系ポリマーを適用した以外は、実施例4と同様にして比較例7に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体を作製した。
【0178】
しかし、実施例4の高沸点溶媒(ポリエステルポリオール)とは異なるエポキシ基含有アクリル系ポリマーが用いられているため、ポリエステル樹脂中に存在する複合タングステン酸化物(CWO)微粒子の分散安定性に劣り、複合タングステン酸化物微粒子の激しい凝集が起こり、外観で不均一になる程、複合タングステン酸化物微粒子をポリエステル樹脂中に均一に分散させることはできなかった。
【0179】
[参考例]
特許文献2の実施例5に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の製造を試みた。
【0180】
まず、複合タングステン酸化物(CWO)微粒子を5質量%、高耐熱性分散剤[ポリエステル主鎖に塩基性官能基を持ち、熱分解温度250℃の分散剤(分散剤e)]を5質量%、トルエンを90質量%秤量した。これ等を、0.3mmφZrO2ビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、3時間粉砕・分散処理することによって複合タングステン酸化物微粒子分散液(低沸点溶媒の微粒子分散液)を調製した。
【0181】
上記複合タングステン酸化物微粒子分散液(低沸点溶媒の微粒子分散液)に、分散剤eを更に添加し、分散剤eと複合タングステン酸化物(CWO)微粒子の質量比[分散剤e/CWO微粒子]が3となるように調製した後、複合タングステン酸化物微粒子分散液からスプレードライヤーを用いてトルエンを除去し、タングステン酸化物微粒子分散粉を得た。
【0182】
得られたタングステン酸化物微粒子分散粉とポリエステル樹脂であるポリエチレンテレフタレート樹脂ペレットを、CWO濃度が9.09質量%となるように混合し、ブレンダーを用いて均一に混合した後、二軸押出機を用いて240℃で溶融混練し、押出されたストランドをペレット状にカットし、近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体用コンパウンドを得た。
【0183】
得られた近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体用コンパウンドを、一軸押出機を用いて240℃で溶融混練した後、Tダイより押し出し、二軸延伸加工し、厚さ0.01mmに成形することで参考例に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体を得た。
【0184】
参考例に係る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体の光学特性を測定したところ、樹脂成形体の測定部位により大きなばらつきが存在し、特性の極めてよい部位では可視光透過率70.8%のときの日射透過率は35.2%で、ヘイズ値は1.3%であったが、特性の悪い部位ではヘイズ値が3.0%を超えていた。
【0185】
そして、樹脂成形体の全体を測定した平均値は、可視光透過率73.1%のときの日射透過率は38.1%で、ヘイズ値は2.4%であった。
【0186】
また、近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体中に存在する近赤外線吸収微粒子の平均粒子径は75nmであった。
【0187】
【0188】
【0189】
【0190】
【産業上の利用可能性】
【0191】
本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液とポリエステル樹脂を溶融混練して得た近赤外線吸収ポリエステル樹脂組成物が成形されて成る近赤外線吸収ポリエステル樹脂成形体は、複合タングステン酸化物微粒子で構成される近赤外線吸収微粒子がポリエステル樹脂中に均一に分散されるため、ヘイズ値が低く、可視光透過率が高く、かつ、近赤外線領域に強い吸収を有する。このため、建造物、自動車、電車、航空機等の構造材に利用される産業上の利用可能性を有している。