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特許7024616データ処理方法、データ処理装置、及びマルチ荷電粒子ビーム描画装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】データ処理方法、データ処理装置、及びマルチ荷電粒子ビーム描画装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20220216BHJP
   H01J 37/305 20060101ALI20220216BHJP
   H01J 37/30 20060101ALI20220216BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
H01L21/30 541E
H01L21/30 541W
H01J37/305 B
H01J37/30 A
G03F7/20 504
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018110463
(22)【出願日】2018-06-08
(65)【公開番号】P2019212869
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 啓
(72)【発明者】
【氏名】鬼丸 義明
(72)【発明者】
【氏名】木村 隼人
【審査官】冨士 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-181668(JP,A)
【文献】特開2018-006604(JP,A)
【文献】特開2012-084659(JP,A)
【文献】特開2012-015245(JP,A)
【文献】特開2015-228501(JP,A)
【文献】特開2016-115946(JP,A)
【文献】特開2015-165565(JP,A)
【文献】特開2016-184671(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0254393(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
H01J 37/30 -37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームによるマルチビームを用いて多重描画を行う描画装置における各ビームの照射量を制御するためのデータを処理するデータ処理方法であって、
描画対象基板の描画領域をメッシュ状に仮想分割した複数の照射位置毎の照射量を規定した照射量データを、多重描画の描画パスに対応するレイヤ毎に生成する工程と、
前記レイヤ毎の照射量データに規定された照射量の補正処理を行う工程と、
各レイヤの補正処理後の照射量データに規定された照射位置毎の照射量の総和を算出し、各レイヤの前記総和を比較し、比較結果に基づいて前記補正処理でエラーが発生したか否かを判定する工程と、
を備えるデータ処理方法。
【請求項2】
前記補正処理は、描画対象基板における電流分布マップに基づいて照射量を補正する処理を含み、
補正処理後の照射量データに、前記電流分布に基づく電流分布逆演算を施して補正前の照射量を求め、求めた補正前の照射量の総和をレイヤ間で比較してエラーが発生したか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載のデータ処理方法。
【請求項3】
前記補正処理は、前記マルチビームにおける欠陥ビームをリスト化した欠陥リストに基づいて照射量を補正する処理を含み、
前記照射量の総和を、前記補正処理における照射量の補正量に基づき調整した後、照射量の総和をレイヤ間で比較してエラーが発生したか否かを判定することを特徴とする請求項1又は2に記載のデータ処理方法。
【請求項4】
レイヤ間の前記総和の差が所定範囲内である場合、エラーが発生していないと判定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のデータ処理方法。
【請求項5】
荷電粒子ビームによるマルチビームを用いて多重描画を行う描画装置における各ビームの照射量を制御するためのデータを処理するデータ処理装置であって、
描画対象基板の描画領域をメッシュ状に仮想分割した複数の照射位置毎の照射量を規定した照射量データを、多重描画の描画パスに対応するレイヤ毎に生成する生成部と、
前記レイヤ毎の照射量データに規定された照射量の補正処理を行う補正部と、
各レイヤの補正処理後の照射量データに規定された照射位置毎の照射量の総和を算出し、各レイヤの前記総和を比較し、比較結果に基づいて前記補正処理でエラーが発生したか否かを判定するエラー検出部と、
を備えるデータ処理装置。
【請求項6】
描画対象の基板を載置する移動可能なステージと、
荷電粒子ビームを放出する放出部と、
複数の開口部が形成され、前記複数の開口部を前記荷電粒子ビームが通過することでマルチビームを形成する成形アパーチャ部材と、
前記マルチビームの各ビームのブランキング偏向を行う複数のブランカを有するブランキングプレートと、
前記基板の描画領域をメッシュ状に仮想分割した複数の照射位置毎の照射量を規定した照射量データを、多重描画の描画パスに対応するレイヤ毎に生成する生成部と、
前記レイヤ毎の照射量データに規定された照射量の補正処理を行う補正部と、
各レイヤの補正処理後の照射量データに規定された照射位置毎の照射量の総和を算出し、各レイヤの前記総和を比較し、比較結果に基づいて前記補正処理でエラーが発生したか否かを判定するエラー検出部と、
エラーが発生していないと判定された場合に、補正処理後の照射量データを前記ブランキングプレートへ転送するデータ転送部と、
を備えるマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ処理方法、データ処理装置、及びマルチ荷電粒子ビーム描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、縮小投影型露光装置を用いて、石英上に形成された高精度の原画パターン(マスク、或いは特にステッパやスキャナで用いられるものはレチクルともいう。)をウェーハ上に縮小転写する手法が採用されている。高精度の原画パターンは、電子ビーム描画装置によって描画され、所謂、電子ビームリソグラフィ技術が用いられている。
【0003】
マルチビームを使った描画装置は、1本の電子ビームで描画する場合に比べて、一度に多くのビームを照射できるので、スループットを大幅に向上させることができる。マルチビーム描画装置の一形態であるブランキングアパーチャアレイを使ったマルチビーム描画装置では、例えば、1つの電子銃から放出された電子ビームを複数の開口を持った成形アパーチャアレイに通してマルチビーム(複数の電子ビーム)を形成する。マルチビームは、ブランキングアパーチャアレイのそれぞれ対応するブランカ内を通過する。ブランキングアパーチャアレイはビームを個別に偏向するための電極対と、その間にビーム通過用の開口を備えており、電極対(ブランカ)の一方をグラウンド電位で固定して他方をグラウンド電位とそれ以外の電位に切り替えることにより、それぞれ個別に、通過する電子ビームのブランキング偏向を行う。ブランカによって偏向された電子ビームは遮蔽され、偏向されなかった電子ビームは試料上に照射される。
【0004】
電子ビーム描画では、描画領域を複数のストライプ領域に分割し、ストライプ領域単位で描画を行う。ストライプ領域の境界位置でのパターンのつなぎ精度を向上させるために、ストライプ領域の境界位置をずらして複数のレイヤに分け、同一パターンを繰り返し重ねて描画する多重描画方式が知られている。
【0005】
描画装置では、描画精度を向上させるために、ビーム照射量を補正する様々な計算が行われており、計算結果は都度メモリに保存される。各種の計算や、メモリへのデータ書き込み、メモリからのデータ読み出し等のデータ処理にエラーが発生すると、描画パターン精度の劣化やパターン抜けなどの異常描画を引き起こす。そのため、エラーを検出する必要がある。
【0006】
従来の可変成形ビーム(VSB)方式のシングルビーム描画装置では、ストライプ領域の境界位置をずらしても各レイヤで描画する図形の面積の総和が一致することを利用して、描画図形の面積の総和をレイヤ間で比較し、エラーの有無を検出していた。しかし、マルチビーム描画装置は、図形データでなく、ビットマップ化された照射時間を表す諧調データを用いて描画するため、シングルビーム描画装置でのエラー検出方法を適用できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-48349号公報
【文献】特開2004-186513号公報
【文献】特開2017-152485号公報
【文献】特開2001-76991号公報
【文献】特開2014-39011号公報
【文献】特開2016-207971号公報
【文献】特開2005-53000号公報
【文献】特開2006-121739号公報
【文献】特許第4187947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の実状に鑑みてなされたものであり、マルチビーム描画のためのデータの処理で発生したエラーを検出できるデータ処理方法、データ処理装置、及びマルチ荷電粒子ビーム描画装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によるデータ処理方法は、荷電粒子ビームによるマルチビームを用いて多重描画を行う描画装置における各ビームの照射量を制御するためのデータを処理するデータ処理方法であって、描画対象基板の描画領域をメッシュ状に仮想分割した複数の照射位置毎の照射量を規定した照射量データを、多重描画の描画パスに対応するレイヤ毎に生成する工程と、前記レイヤ毎の照射量データに規定された照射量の補正処理を行う工程と、各レイヤの補正処理後の照射量データに規定された照射位置毎の照射量の総和を算出し、各レイヤの前記総和を比較し、比較結果に基づいて前記補正処理でエラーが発生したか否かを判定する工程と、を備えるものである。
【0010】
本発明の一態様によるデータ処理方法において、前記補正処理は、描画対象基板における電流分布マップに基づいて照射量を補正する処理を含み、補正処理後の照射量データに、前記電流分布に基づく電流分布逆演算を施して補正前の照射量を求め、求めた補正前の照射量の総和をレイヤ間で比較してエラーが発生したか否かを判定する。
【0011】
本発明の一態様によるデータ処理方法において、前記補正処理は、前記マルチビームにおける欠陥ビームをリスト化した欠陥リストに基づいて照射量を補正する処理を含み、前記照射量の総和を、前記補正処理における照射量の補正量に基づき調整した後、照射量の総和をレイヤ間で比較してエラーが発生したか否かを判定する。
【0012】
本発明の一態様によるデータ処理方法において、レイヤ間の前記総和の差が所定範囲内である場合、エラーが発生していないと判定する。
【0013】
本発明の一態様によるデータ処理装置は、荷電粒子ビームによるマルチビームを用いて多重描画を行う描画装置における各ビームの照射量を制御するためのデータを処理するデータ処理装置であって、描画対象基板の描画領域をメッシュ状に仮想分割した複数の照射位置毎の照射量を規定した照射量データを、多重描画の描画パスに対応するレイヤ毎に生成する生成部と、前記レイヤ毎の照射量データに規定された照射量の補正処理を行う補正部と、各レイヤの補正処理後の照射量データに規定された照射位置毎の照射量の総和を算出し、各レイヤの前記総和を比較し、比較結果に基づいて前記補正処理でエラーが発生したか否かを判定するエラー検出部と、を備えるものである。
【0014】
本発明の一態様によるマルチ荷電粒子ビーム描画装置は、描画対象の基板を載置する移動可能なステージと、荷電粒子ビームを放出する放出部と、複数の開口部が形成され、前記複数の開口部を前記荷電粒子ビームが通過することでマルチビームを形成する成形アパーチャ部材と、前記マルチビームの各ビームのブランキング偏向を行う複数のブランカを有するブランキングプレートと、前記基板の描画領域をメッシュ状に仮想分割した複数の照射位置毎の照射量を規定した照射量データを、多重描画の描画パスに対応するレイヤ毎に生成する生成部と、前記レイヤ毎の照射量データに規定された照射量の補正処理を行う補正部と、各レイヤの補正処理後の照射量データに規定された照射位置毎の照射量の総和を算出し、各レイヤの前記総和を比較し、比較結果に基づいて前記補正処理でエラーが発生したか否かを判定するエラー検出部と、エラーが発生していないと判定された場合に、補正処理後の照射量データを前記ブランキングプレートへ転送するデータ転送部と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、マルチビーム描画のためのデータの処理で発生したエラーを検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態による描画装置の概略図である。
図2】(a)~(e)は多重描画の描画方法を説明する図である。
図3】(a)~(d)はストライプ内の描画動作を説明する図である。
図4】同実施形態に係るデータ処理方法を説明するフローチャートである。
図5】各レイヤの照射量の一例を示す図である。
図6】補正後の各レイヤの照射量の一例を示す図である。
図7】補正後の各レイヤの照射量の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。
【0018】
図1は、本実施形態による描画装置の概略構成図である。描画装置は、制御部1と描画部2とを備えている。描画装置は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置の一例である。描画部2は、電子鏡筒20と描画室30を備えている。電子鏡筒20内には、電子銃21、照明レンズ22、成形アパーチャ部材23、ブランキングプレート24、縮小レンズ25、制限アパーチャ部材26、対物レンズ27、及び偏向器28が配置されている。縮小レンズ25及び対物レンズ27は共に電磁レンズで構成され、縮小レンズ25及び対物レンズ27によって縮小光学系が構成される。
【0019】
描画室30内には、XYステージ32が配置される。XYステージ32上には、描画対象の基板40が載置される。基板40は、半導体装置を製造する際の露光用マスク、半導体装置が製造される半導体基板(シリコンウェハ)、レジストが塗布された、まだ何も描画されていないマスクブランクス等である。
【0020】
制御部1は、磁気ディスク装置等の記憶装置10、ビットマップ生成部11、補正部12、及びデータ転送部17を備える。補正部12は、ディストーション補正部13、欠陥補正部14、電流分布補正部15、及びエラー検出部16を有する。ビットマップ生成部11、補正部12、及びデータ転送部17は、電気回路等のハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、少なくとも一部の機能を実現するプログラムを記録媒体に収納し、電気回路を含むコンピュータに読み込ませて実行させてもよい。
【0021】
図1では、本実施形態を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置の動作に必要なその他の公知の構成は図示を省略している。
【0022】
成形アパーチャ部材23には、縦(y方向)m列×横(x方向)n列(m,n≧2)の孔(開口部)が所定の配列ピッチでマトリクス状に形成されている。各孔は、共に同じ寸法形状の矩形又は円形で形成される。
【0023】
電子銃21から放出された電子ビームBは、照明レンズ22によりほぼ垂直にアパーチャ部材23全体を照明する。電子ビームBがアパーチャ部材23の複数の孔を通過することによって、例えば矩形形状の複数の電子ビーム(マルチビーム)MBが形成される。
【0024】
ブランキングプレート24には、アパーチャ部材23の各孔の配置位置に合わせて通過孔が形成されている。各通過孔には、対となる2つの電極の組(ブランカ:ブランキング偏向器)が、それぞれ配置される。各ビーム用の2つの電極の一方には、電圧を印加するアンプが配置され、他方は接地される。各通過孔を通過する電子ビームは、それぞれ独立に、対となる2つの電極に印加される電圧によって偏向される。この電子ビームの偏向によって、ブランキング制御される。
【0025】
ブランキングプレート24を通過したマルチビームMBは、縮小レンズ25によって縮小され、制限アパーチャ部材26に形成された中心の開口に向かって進む。ブランキングプレート24のブランカによって偏向された電子ビームは、制限アパーチャ部材26の中心の開口から位置がはずれ、制限アパーチャ部材26によって遮蔽される。一方、ブランカによって偏向されなかった電子ビームは、制限アパーチャ部材26の中心の開口を通過する。
【0026】
このように、制限アパーチャ部材26は、個別ブランキング機構によってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビームONになってからビームOFFになるまでに形成された、制限アパーチャ部材26を通過したビームにより1回分のショットのビームが形成される。
【0027】
制限アパーチャ部材26を通過したマルチビームMBは、対物レンズ27により焦点が合わされ、所望の縮小率のパターン像となり、偏向器28によってまとめて偏向され、基板40に照射される。例えば、XYステージ32が連続移動している時、ビームの照射位置がXYステージ32の移動に追従するように偏向器28によって制御される。
【0028】
一度に照射されるマルチビームMBは、理想的にはアパーチャ部材23の複数の孔の配列ピッチに上述した所望の縮小率を乗じたピッチで並ぶことになる。描画装置は、ショットビームを連続して順に照射していくラスタースキャン方式で描画動作を行い、所望のパターンを描画する際、パターンに応じて必要なビームがブランキング制御によりビームONに制御される。
【0029】
図2(a)に示すように、基板40の描画領域50は、例えば、y方向に向かって所定の幅で短冊状の複数のストライプ領域52に仮想分割される。各ストライプ領域52は、描画単位領域となる。
【0030】
例えば、XYステージ32を移動させて、第1番目のストライプ領域52の左端、或いはさらに左側の位置に一回のマルチビームMBの照射で照射可能な照射領域が位置するように調整し、描画が開始される。XYステージ32を-x方向に移動させることにより、相対的にx方向へと描画を進めることができる。
【0031】
本実施形態による描画装置は、多重描画を行う。また、多重描画を行う際、各描画パスにおいて、ストライプ領域52単位でy方向に位置をずらす。y方向だけでなく、x方向にも位置をずらしてもよい。例えば、ストライプ領域幅Wの1/4ずつ位置をずらして4パス(多重度=4)で描画する場合、各描画パスの照射領域は、図2(b)~(e)に示すようなものとなる。
【0032】
すなわち、1パス目は、y方向のストライプずらし量が0となる位置で描画する。2パス目では、y方向のストライプずらし量がW/4となる位置で描画する。3パス目では、y方向のストライプずらし量がW/2となる位置で描画する。4パス目では、y方向のストライプずらし量が3W/4となる位置で描画する。
【0033】
このように位置をずらして多重描画を行うことで、基板40上の同じ位置を照射するビームが描画パス毎に異なるものとなるため、ビーム毎の電流値のばらつきを平均化することができる。また、ストライプ領域の境界位置でのパターンのつなぎ精度を向上させることができる。
【0034】
図3(a)~(d)はストライプ領域52内の描画動作の一例を説明する図である。図3(a)~(d)は例えば、x,y方向に4×4のマルチビームを用いてストライプ領域52内を描画する例を示しており、図2(b)の1パス目の描画パスに対応する。
【0035】
この例では、各ビーム間の距離を離して、例えば、y方向にマルチビーム全体の照射領域と同等の幅でストライプ領域52を分割した場合を示している。そして、x方向或いはy方向に1メッシュずつ照射位置をずらしながら16回のショットでマルチビーム全体の1つの照射領域が露光(描画)終了する場合を示している。
【0036】
図3(a)は、1回のショットで照射したメッシュ(画素)領域を示している。次に、図3(b)に示すように、y方向に1画素ずつ位置をずらしながら、2,3,4回目のショットを順に行う。次に、図3(c)に示すように、x方向に1画素ずらし、5回目のショットを行う。次に、y方向に1画素ずつ位置をずらしながら、6,7,8回目のショットを順に行う。同様の動作を繰り返して、図3(d)に示すように、残りの9~16回目のショットを順に行う。
【0037】
マルチビーム描画では、描画領域50を、ビームサイズ又はそれ以下のサイズでメッシュ状に仮想分割する。そして、図形パターンの存在するメッシュ(画素)にはビームを照射し、存在しないメッシュにはビームを照射しないことによってパターンが描画される。但し、メッシュ内に図形パターンの端部が位置する場合などは、照射量を調整することで図形パターンの端部の位置を制御する。
【0038】
また、近接効果等の寸法変動を補正するために照射量を調整する必要がある。近接効果補正計算は、従来の手法で実施すればよい。照射量はマルチビームの各ビームの照射時間によって制御される。
【0039】
次に、制御部1(データ処理装置)を構成する各部の処理を図4に示すフローチャートに沿って説明する。
【0040】
ビットマップ生成部11は、記憶装置10に格納されている描画データを読み出す(ステップS1)。描画データは、例えば、各図形パターンの配置位置、図形種、及び図形サイズ等が定義されている。その他に、基準となる照射量(パターンを解像するための照射量)が定義される。
【0041】
ビットマップ生成部11は、描画領域を数nm角の小さいメッシュに分割し、描画データ内に定義された図形パターンをメッシュ領域に割り当てる(ステップS2)。ビットマップ生成部11は、メッシュ領域毎に配置される図形パターンの面積密度を算出し、面積密度に基づいてメッシュ領域(ビーム照射位置)毎の照射量を算出し、メッシュ領域毎の照射量を規定した照射量データを生成する(ステップS3)。
【0042】
ビットマップ生成部11は、描画領域を数μm角の大きいメッシュに分割し、描画データ内に定義された図形パターンをメッシュ領域に割り当てる(ステップS4)。ビットマップ生成部11は、近接効果補正計算を行い、近接効果を抑制するためのメッシュ位置毎の照射量を算出し、メッシュ位置毎の照射量を定義した照射量データを生成する(ステップS5)。
【0043】
ビットマップ生成部11は、ステップS3で算出した照射量データと、ステップS5で算出した照射量データとを合成する(ステップS6)。
【0044】
ビットマップ生成部11は、メッシュ位置(ビーム照射位置に対応する画素)毎に、照射量を多重描画の各パスに均等に割り振り、各パスに対応するレイヤ毎の照射量データを生成する(ステップS7)。例えば、多重度が4である場合、第1レイヤ~第4レイヤの照射量データを生成する。
【0045】
例えば、図5に示すように、4つの画素G1~G4に相当する領域を解像してコンタクトホールを形成する場合を考える。基板40に塗布されるレジストが照射量(露光量)50μCで解像する場合、1レイヤあたりの照射量は12.5μC(=50/4)となる。
【0046】
補正部12は、各レイヤの照射量データから、ストライプ領域単位で照射量データを抜き出す(ステップS8)。補正部12におけるデータ処理はストライプ領域単位で行われる。
【0047】
エラー検出部16が、ステップS8のデータ抜出処理時にエラーが発生していないかエラー検出を行う(ステップS9)。エラーが発生していない場合、各レイヤの照射量の総和(合計)は互いに一致する。一方、エラーが発生している場合、照射量の値が変化し、照射量の総和がレイヤ間で不一致となる。エラー検出部16は、各レイヤの照射量の総和を算出し、レイヤ間で比較する。照射量の総和が一致した場合、エラーは発生していないと判定される。照射量の総和が不一致となった場合、エラーが発生したと判定される。
【0048】
ディストーション補正部13が、ブランキングプレート24の歪みや、基板40上に塗布されたレジストの感度等を考慮して、画素毎の照射量を補正する(ステップS10)。
【0049】
一般に、描画装置では、ブランキングプレート24の孔位置の誤差や光学的な誤差等により、基板40に照射されるマルチビームMBのビームアレイが理想格子からずれることがある。ディストーション補正部13は、各ビームの位置ずれ量を規定した歪みマップを参照して、画素毎の照射量を補正する。
【0050】
ディストーション補正部13による照射量の補正後、エラー検出部16がエラー検出を行う(ステップS11)。ステップS10のディストーション補正部13による補正によって、照射量が補正される画素はあるが、補正前後で照射量の総和が一致するような補正が施されるため、各レイヤの照射量の総和は一致する。ステップS9と同様に、エラー検出部16は、各レイヤの照射量の総和を算出し、レイヤ間で比較し、一致するか否か判定する。
【0051】
欠陥補正部14が、欠陥ビームの影響を考慮した照射量の補正を行う(ステップS12)。例えば、ブランキングプレート24に設けられたブランカの電極が故障し、電子ビームを偏向できず、常時ON欠陥が生じることがある。多重描画では、1つの画素に照射されるビームが通過するブランカはレイヤ毎に異なるため、1つのレイヤで常時ON欠陥のブランカを通過したビームが照射される画素については、他のレイヤで正常なブランカを用いて照射量を調整する。
【0052】
例えば、図6に示すように、第1レイヤの画素G4に照射されるビームが通過するブランカに常時ON欠陥が発生しており、30μC照射される場合を考える。照射量が50μCで解像するレジストであるため、第2~第4レイヤの画素G4は照射量が6.66μC(=(50-30)/3)となる。
【0053】
また、成形アパーチャ部材23に設けられた孔がコンタミネーションにより閉塞し、ビームが形成されない常時OFF欠陥が生じることがある。多重描画では、レイヤ毎に異なるビームが1つの画素に照射されるため、1つのレイヤで常時OFFとなる画素については、他のレイヤで正常なビームを用いて照射量を調整する。
【0054】
例えば、図7に示すように、第1レイヤの画素G4に照射されるビームが常時OFFであり、ビームが照射されない場合を考える。照射量が50μCで解像するレジストであるため、第2~第4レイヤの画素G4は照射量が16.6μC(=50/3)となる。
【0055】
このような常時ON欠陥、常時OFF欠陥が発生しているビーム(ブランカ)は事前の検査で判明しており、欠陥をリスト化した欠陥リストが記憶部(図示略)に保存されている。欠陥補正部14は、欠陥リストを参照し、照射量の過不足を補うように、他のレイヤの照射量を補正する。
【0056】
欠陥補正部14による照射量の補正後、エラー検出部16がエラー検出を行う(ステップS13)。図6図7に示すように欠陥ビームの影響を除くために照射量を補正することで、各レイヤの照射量の総和は一致しなくなる。そのため、エラー検出部16は、欠陥補正部14による照射量の補正量を考慮して、補正量に基づき調整した各レイヤの照射量の総和を比較する。
【0057】
例えば、図6に示すような常時ON欠陥となる第1レイヤの画素G4は、照射量データ上は0が設定されている。そのため、エラー検出部16は、各レイヤの照射量の総和を算出し、第1レイヤの照射量の総和に6.66μCを加算した上で、照射量の総和をレイヤ間で比較し、一致するか否か判定する。
【0058】
あるいはまた、エラー検出部16は、各レイヤの照射量の総和を算出し、第2~第4レイヤの照射量の総和から6.66μCを減算した上で、照射量の総和をレイヤ間で比較し、一致するか否か判定する。
【0059】
図7に示すような常時OFF欠陥となる第1レイヤの画素G4には、照射量データ上は0が設定されている。そのため、エラー検出部16は、各レイヤの照射量の総和を算出し、第1レイヤの照射量の総和に16.66μCを加算した上で、照射量の総和をレイヤ間で比較し、一致するか否か判定する。
【0060】
あるいはまた、エラー検出部16は、各レイヤの照射量の総和を算出し、第2~第4レイヤの照射量の総和から16.66μCを減算した上で、照射量の総和をレイヤ間で比較し、一致するか否か判定する。
【0061】
照射量をレイヤ数で割り切れなかったあまり処理を行う場合、あまり値を加算したレイヤは照射量の総和が他のレイヤと一致しなくなる。そのため、あまり値を照射量の総和から減算するか、他のレイヤの照射量の総和にあまり値と同じ値を加算することが好ましい。
【0062】
描画装置では、ブランキングプレート24の中心から離れる程、ビーム電流が減少することがある。また、成形アパーチャ部材23やブランキングプレート24の不良により、局所的にビーム電流が小さくなる箇所が存在する。このようなビーム電流の分布は事前の検査で判明しており、電流分布マップが記憶部(図示略)に保存されている。電流分布補正部15は、電流分布マップを参照し、基板40の表面における照射量が均一になるように、各画素の照射量を補正する。(ステップS14)。
【0063】
電流分布補正部15による照射量の補正後、エラー検出部16がエラー検出を行う(ステップS15)。電流分布補正部15による照射量の補正により、各レイヤの照射量の総和は一致しなくなる。そのため、エラー検出部16は、電流分布マップを参照し、電流分布逆演算を行い、電流分布補正前の照射量を算出する。さらに、エラー検出部16は、欠陥補正部14による照射量の補正量を考慮して、各レイヤの照射量の総和を比較し、一致するか否か判定する。
【0064】
エラーが検出されなかった場合、データ転送部17が、照射量データをブランキングプレート24へ転送する(ステップS16)。ブランキングプレート24の各ブランカは、照射量データに応じたビーム照射時間に基づいて印加する電圧を制御し、ビームのON/OFFを切り替える。
【0065】
データ転送部17がブランキングプレート24へ転送する照射量データに定義されている照射量は整数値である。そのため、補正部12は小数点以下の端数処理を行う。例えば、電流分布補正部15が端数処理を行う場合、丸め誤差が現れ、レイヤ間の照射量の総和が一致しなくなる。そのため、丸め誤差を見込み、ある程度のマージンを設けて、レイヤ間の照射量の総和を比較することが好ましい。例えば、レイヤ間で照射量の総和の差異が所定範囲内である場合、エラーは発生していないと判定する。
【0066】
このように、本実施形態によれば、レイヤ間で照射量の総和を比較することで、データ処理にエラーが生じたか否かを検出することができる。上記実施形態では、データ抜出処理後、ディストーション補正後、欠陥補正後、電流分布補正後の各段階でエラー検出を行っている。そのため、どの処理でエラーが発生したかを検出できる。
【0067】
ディストーション補正、欠陥補正、電流分布補正の順番は特に限定されない。
【0068】
エラー検出は、データ抜出処理後、ディストーション補正後、欠陥補正後、電流分布補正後の全ての段階で行う必要はなく、適宜省略してもよい。少なくとも、データ転送部17による照射量データの転送前はエラー検出を行うことが好ましい。
【0069】
上記実施形態では、ストライプ領域幅Wの1/4ずつ位置をずらして4パス(多重度=4)で描画する場合について説明したが、ずらし量や多重度はこれに限定されない。
【0070】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 制御部
2 描画部
10 記憶装置
11 ビットマップ生成部
12 補正部
13 ディストーション補正部
14 欠陥補正部
15 電流分布補正部
16 エラー検出部
17 データ転送部
20 電子鏡筒
21 電子銃
22 照明レンズ
23 アパーチャ部材
24 ブランキングプレート
25 縮小レンズ
26 制限アパーチャ部材
27 対物レンズ
28 偏向器
30 描画室
32 XYステージ
40 基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7