(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 7/04 20060101AFI20220216BHJP
H01B 11/06 20060101ALI20220216BHJP
H01B 7/18 20060101ALI20220216BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
H01B7/04
H01B11/06
H01B7/18 D
H01B7/18 H
H01B7/18 E
H01B7/02 G
H01B7/02 Z
(21)【出願番号】P 2018149491
(22)【出願日】2018-08-08
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黄 得天
(72)【発明者】
【氏名】塚本 佳典
(72)【発明者】
【氏名】小林 正則
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-195343(JP,A)
【文献】特表2016-533007(JP,A)
【文献】特開2006-012698(JP,A)
【文献】特開2011-124117(JP,A)
【文献】特開2008-293862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/04
H01B 11/06
H01B 7/18
H01B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と前記導体の側周を囲うように設けられた第1絶縁層とを有する一対の電線を撚り合わせた対撚線、前記対撚線の側周を囲うように設けられた第2絶縁層、及び、前記第2絶縁層の側周を囲うように設けられた第3絶縁層を有する1つ以上のコアと、
前記1つ以上のコアの側周を一括して囲うように設けられたシールド層と、
前記シールド層の側周を囲うように設けられたシースと、を備え、
前記第2絶縁層は、前記第1絶縁層と非接着に形成された発泡層からなり、
前記第3絶縁層は、前記第2絶縁層よりも硬
く、
前記シールド層は、銅箔糸と金属素線とが交差するように編まれた編組シールドであり、前記銅箔糸が前記金属素線よりも太い、
ケーブル。
【請求項2】
前記コアを複数備え、
前記コアの周囲に配置され、前記コアの位置を固定する介在をさらに備えた、
請求項1に記載
のケーブル。
【請求項3】
前記介在は、前記コアの長手方向に沿って前記第3絶縁層の側周に非接着の状態で接触している、
請求項2に記載
のケーブル。
【請求項4】
前記複数のコアと前記介在とを撚り合わせた集合体の側周に巻回され、前記複数のコアのそれぞれに接触する押さえ巻きテープをさらに備え、
前記押さえ巻きテープの側周に、前記押さえ巻きテープに接触するように前記シールド層が設けられている、
請求項2または3に記載
のケーブル。
【請求項5】
前記介在は、レーヨンフィラメントを用いたステーブルファイバー糸であり、前記コア間に介在するように配置されている、
請求項2乃至4の何れか1項に記載
のケーブル。
【請求項6】
前記第1絶縁層は、フッ素樹脂からなる、
請求項1乃至5の何れか1項に記載
のケーブル。
【請求項7】
前記第2絶縁層は、発泡ポリプロピレンからなる発泡層であり、
前記第3絶縁層は、非発泡ポリプロピレンからなる、
請求項1乃至6の何れか1項に記載
のケーブル。
【請求項8】
前記第3絶縁層は、前記第2絶縁層よりも引張強さが大きい、
請求項1乃至7の何れか1項に記載
のケーブル。
【請求項9】
前記第1絶縁層は、前記導体との間に隙間を有する、
請求項1乃至8の何れか1項に記載
のケーブル。
【請求項10】
前記第3絶縁層は、前記第2絶縁層と接着している、
請求項1乃至9の何れか1項に記載
のケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動信号の伝送に用いられる可動用ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
差動信号伝送用のケーブルとしては、例えば、一対の電線を撚り合わせた複数の対撚線と、複数の対撚線の周囲に配置され対撚線と共に撚り合わされた介在と、撚り合された複数の対撚線と介在の周囲に巻き回される押さえ巻きテープと、押さえ巻きテープの周囲に設けられたシールド層と、シールド層の周囲を被覆するシースと、を備えたものが一般に知られている。
【0003】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車溶接や部品組み立て等を行う製造ラインで利用される産業用ロボット(工作機械)、あるいはプリンタ等の可動部を有する電気機器等において、可動部の配線は繰り返し屈曲・捻回を受ける。また、近年では、産業用ロボットや電気機器等における情報処理量の増加に伴い、差動信号伝送用のケーブルを可動部に用いたいという要求がある。
【0006】
しかしながら、上述の差動信号伝送用のケーブルでは、屈曲時や捻回時に対撚線を構成する1対の電線同士の距離や、電線とシールド間の距離が変化しやすく、また電線とシールド間の空隙(すなわち電線とシールド間の誘電率)も変化しやすい。そのため、この差動信号伝送用のケーブルを可動部に用いると、特性インピーダンスが不均一となり信号ロスが大きくなってしまうおそれがあった。
【0007】
一対の電線を撚らずに平行に配置した2芯並行構造の差動信号伝送用のケーブルも知られているが、このケーブルは屈曲寿命や捻回寿命が低く断線し易いため、可動部に用いることは困難であった。
【0008】
そこで、本発明は、屈曲寿命及び捻回寿命が高く、かつ、屈曲時や捻回時の信号ロスを低減可能な差動信号伝送用の可動用ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、導体と前記導体の側周を囲うように設けられた第1絶縁層とを有する一対の電線を撚り合わせた対撚線、前記対撚線の側周を囲うように設けられた第2絶縁層、及び、前記第2絶縁層の側周を囲うように設けられた第3絶縁層を有する1つ以上のコアと、前記1つ以上のコアの側周を一括して囲うように設けられたシールド層と、前記シールド層の側周を囲うように設けられたシースと、を備え、前記第2絶縁層は、前記第1絶縁層と非接着に形成された発泡層からなり、前記第3絶縁層は、前記第2絶縁層よりも硬く、前記シールド層は、銅箔糸と金属素線とが交差するように編まれた編組シールドであり、前記銅箔糸が前記金属素線よりも太い、ケーブルを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、屈曲寿命及び捻回寿命が高く、かつ、屈曲時や捻回時の信号ロスを低減可能な差動信号伝送用の可動用ケーブルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る可動用ケーブルの長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【
図3】本発明の一変形例に係る可動用ケーブルの長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0013】
(可動用ケーブルの全体構成)
図1は、本実施の形態に係る可動用ケーブルの長手方向に垂直な断面を示す断面図である。可動用ケーブル1は、例えば、産業用ロボット(工作機械)やプリンタ等の電気機器の可動部用の配線として用いられるものである。
【0014】
図1に示すように、可動用ケーブル1は、1つ以上のコア2と、介在3と、押さえ巻きテープ5と、シールド層6と、シース7と、を備えている。ここでは、可動用ケーブル1が3本のコア2を備えている場合について説明するが、コア2の本数はこれに限定されない。
【0015】
コア2は、一対の電線21を撚り合わせた対撚線22を有している。対撚線22を構成する一対の電線21は、導体211と、導体211の側周を囲うように設けられた第1絶縁層212と、をそれぞれ有している。コア2は、1つの対撚線22と、対撚線22の側周を囲うように設けられた第2絶縁層23と、第2絶縁層23の側周を囲うように設けられた第3絶縁層24と、を有している。
【0016】
導体211としては、例えば銅線または銅合金の素線を複数本撚り合せてなる集合撚り線を用いる。具体的には、長距離信号伝送、耐屈曲かつ耐捻回に対応できるように、直径が0.05mm~0.08mmであり、伸びが5%以上、引張強度330MPa以上である素線からなる集合撚り線を導体211として用いることができる。導体211に用いる素線の具体例としては、Cu-0.3mass%SnやCu-0.2mass%In―0.2mass%Sn等が挙げられる。導体211の撚りピッチは、導体211の外径の10倍以上14倍以下であることが好ましい。導体211の撚りピッチを外径の10倍未満とすることによって、耐屈曲性は向上するが、捻回性が悪くなる。導体211の撚りピッチを外径の14倍超とすることによって、捻回性は向上するが、耐屈曲性は悪くなる。導体211の撚りピッチを導体211の外径の10倍以上14倍以下とすることによって、耐屈曲性と捻回性とを両立させることができる。
【0017】
第1絶縁層212は、導体211を囲繞するように、絶縁性を有した樹脂材料によって形成される。第2絶縁層23は、対撚線22、すなわち一対の電線21を一括して囲繞するように、絶縁性を有した樹脂材料によって形成される。第3絶縁層24は、第2絶縁層23を囲繞するように、絶縁性を有した樹脂材料によって形成される。これら第1絶縁層212、第2絶縁層23、及び第3絶縁層24の詳細については、後述する。
【0018】
介在3は、コア2の位置を固定する役割と、可動用ケーブル1の外形を略円形状に整える役割と、可動用ケーブル1を屈曲した際にコア2同士が擦れて摩耗してしまうことを抑制する緩衝材としての役割とを兼ねた部材である。コア2同士の擦れを抑制するため、介在3は、コア2間に介在するように配置されている。介在3は、繊維を紡績してなる複数の糸状体から構成されている。本実施の形態では、介在3に用いる糸状体として、繊維にレーヨンフィラメントを用いたステーブルファイバー糸(以下スフ糸という)を用いた。スフ糸は、適度なクッション性を有しており、屈曲しても折れるといったこともないので、可動部に用いられる可動用ケーブル1の介在3として好適である。なお、介在3に用いる糸状体はスフ糸に限らず、例えば、紐や紙、不織布等からなるものも用いることができる。また、介在3として糸状体に限らず、例えば帯状のものを用いることもできる。
【0019】
介在3は、コア2と押さえ巻きテープ5あるいはシールド層6との間に存在する隙間を充満するように設けられていることが好ましい。このとき、介在3は、コア2の長手方向に沿って第3絶縁層24の側周に非接着の状態で接触していることが好ましい。このように介在3が設けられていることにより、可動用ケーブル1を屈曲したときや捻回したときにもコア2の位置(すなわち、対撚線22の位置)が移動せずに固定されたままの状態となる。その結果、可動部ケーブル1に屈曲や捻回が生じたときに、可動部ケーブル1の信号ロス(伝送ロス)が大きくなることを防止することができる。なお、コア2は、第3絶縁層24が後述する押さえ巻きテープ5、あるいはシールド層6と接触するように設けられていることが好ましい。可動用ケーブル1は、このような構成であることにより、可動用ケーブル1を屈曲したときや捻回したときにもコア2の位置(すなわち、対撚線22の位置)が移動せずに固定されたままの状態とするとの作用が得られやすくなる。
【0020】
本実施の形態では、介在3としてスフ糸を用いたが、スフ糸は燃えやすいため、可動用ケーブル1の難燃性が低下してしまうおそれが生じる。そこで、難燃性を向上させるために、スフ糸からなる介在3の表面に、燃焼によってチャー層が形成される難燃剤で構成される粒子が付着していてもよい。介在3の表面に難燃性の粒子を付着させることにより、燃えやすいスフ糸を介在3に用いた場合であっても、介在3についた火を難燃性の粒子により速やかに消火することが可能となる。その結果、介在3の難燃性を向上させ、可動用ケーブル1全体の難燃性を向上させることが可能になる。
【0021】
より詳細には、介在3の表面に付着した難燃剤の粒子は、ケーブルが燃焼する際にチャー層(燃焼時に形成される炭化層)を形成する。このチャー層が介在3の周囲に形成されることにより、介在3に対して燃焼時の熱が伝わるのを阻害する作用、及び、チャー層が介在3に対して酸素が供給されることを阻害する作用が働く。すなわち、介在3の表面に付着した難燃剤からなる粒子は、燃焼時に、介在3の周囲にチャー層を形成することにより、介在3に対して空気と熱とを伝達することを阻害し、可動用ケーブル1の長手方向に対する火炎の延焼を防止する機能を果たす。
【0022】
難燃剤としては、ポリイミド系やリン系の難燃剤、あるいは塩素化ポリエチレン、三酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の難燃剤を1種又は2種以上適宜組み合わせる等して用いることができる。また、これら難燃剤を溶剤に溶かした状体の溶液にスフ糸等の介在3を含浸させ、乾燥させる(溶剤を揮発させる)ことによって、介在3の表面に難燃剤の粒子を付着させることができる。
【0023】
3本のコア2は、介在3と共に撚り合されている。なお、本実施の形態では、コア2同士が離間しているが、コア2同士が接触していてもよい。コア2同士が接触していることにより、屈曲や捻回等の可動の際にコア2の位置がよりずれにくくなり、可動の際の対撚線22の位置を常に同じ位置にすることができるため、特性インピーダンスの変化を小さくすることが可能になる。
【0024】
3本のコア2と介在3とを撚り合わせた集合体4には、その側周を螺旋状に巻回するように、押さえ巻きテープ5が設けられている。押さえ巻きテープ5は、集合体4の撚りが解けないようにコア2と介在3とを押さえつけ固定する役割を果たしている。また、押さえ巻きテープ5は、シース7の押出被覆時にシース7を構成する樹脂がコア2側に入り込まないように樹脂の流れを止める役割を果たす。これにより、端末加工時に各コア2を引き出す作業が容易になり、端末加工の作業性が向上する。押さえ巻きテープ5としては、例えば不織布からなる紙テープを用いることができる。
【0025】
押さえ巻きテープ5は、3本のコア2それぞれの外周面に接触するように巻き回されている。より詳細には、可動用ケーブル1の径方向における最も外方の部分の各コア2の外周面が、押さえ巻きテープ5に接触している。押さえ巻きテープ5は、集合体4の撚りが解ける方向に動こうとする各コア2を押さえつけているため、各コア2は押さえ巻きテープ5側(可動用ケーブル1の径方向外方側)に付勢された状体となっており、各コア2と押さえ巻きテープ5とが密着している。
【0026】
シールド層6は、伝送信号の漏えいや外部からの飛来ノイズ対策として設けられた層であり、3本のコア2の側周を一括して囲うように設けられている。本実施の形態では、シールド層6は、押さえ巻きテープ5の側周に、押さえ巻きテープ5に接触するように設けられている。つまり、シールド層6は、押さえ巻きテープ5を介してコア2のそれぞれに間接的に接触している。シールド層6は、銅箔糸または銅や銅合金からなる金属線が編組された編組シールドからなる。シールド層6の詳細については、後述する。
【0027】
シース7は、押さえ巻きテープ5の外周を覆うように設けられている。シース7としては、例えば、可動用ケーブル1を外力から保護できるように、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリウレタン(PU)樹脂等からなるもの用いることができる。
【0028】
(第1絶縁層212)
第1絶縁層212は、集合撚り線からなる導体211の周囲に誘電率が低い非発泡樹脂材料をチューブ押出しすることにより形成されている。チューブ押出しにより第1絶縁層212を形成することにより、第1絶縁層212を構成する樹脂材料が導体211を構成する素線間の谷間部分を埋め込まない(非充実に形成される)ため、導体211と第1絶縁層212との間に部分的に隙間が生じる。つまり、第1絶縁層212は、導体211との間に隙間を有する。可動用ケーブル1を屈曲させた場合には、第1絶縁層212には、導体211よりも大きな引っ張り力(伸び)が加わる。本実施の形態では、第1絶縁層212が非充実に形成されているので、可動用ケーブル1の屈曲時に導体211が第1絶縁層212に対して独立して動くことができ、導体211が第1絶縁層212から引っ張り力を受け難くなる。その結果、可動用ケーブル1を繰り返し屈曲あるいは捻回させた場合であっても、導体211が断線し難くなり、耐屈曲性や捻回性が向上する。
【0029】
第1絶縁層212としては、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)(ε=2.1)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)(ε=2.1)等のフッ素樹脂を用いるとよい。第1絶縁層212をフッ素樹脂で構成することで、第1絶縁層212に対する導体211の滑りが良好となるため、耐屈曲性や捻回性がより向上する。
【0030】
第1絶縁層212の厚さは、導体211の外径の0.2倍以上0.3倍以下が好ましい。第1絶縁層212の厚さが導体211の外径の0.2倍未満であると、第1絶縁層212の厚さが薄くなり過ぎるため、可動用ケーブル1を曲げたときに強度が弱く、第1絶縁層212が割れてしまうおそれがある。第1絶縁層212の厚さを導体211の外径の0.2倍以上とすることで、十分な強度を確保することができる。一方、第1絶縁層212の厚さが導体211の外径の0.3倍を超えると、第1絶縁層212が厚くなり過ぎるため、第1絶縁層212が硬くなり柔軟性が悪くなり、可動用ケーブル1を曲げたときに第1絶縁層212が割れてしまうおそれがある。第1絶縁層212の厚さを導体211の外径の0.3倍以下とすることで、柔軟性を確保することができる。
【0031】
なお、一対の導体211を第1絶縁層212で一括被覆することも考えられるが、この場合、充実押出しにより第1絶縁層212を形成する必要があるため、第1絶縁層212が導体211に密着してしまい、導体211が第1絶縁層212に対して独立して動くことができなくなる。そのため、一対の導体211のそれぞれに、チューブ押出しにより個別に第1絶縁層212を設けるとよい。
【0032】
(第2絶縁層23)
第2絶縁層23は、1GHz以上の高周波における可動用ケーブル1の良好な電気特性を担保するためのものであり、低誘電率に形成されている。第2絶縁層23は、誘電率がより低くなるように、発泡度30%以上50%以下となる発泡絶縁樹脂材料で形成されている。
【0033】
第2絶縁層23は、第1絶縁層212に用いる樹脂材料よりも低融点の樹脂材料で形成され、第1絶縁層212とは非接着に形成されている。可動用ケーブル1を屈曲させた場合に、第2絶縁層23には、第1絶縁層212よりも大きな引っ張り力が加わるが、第2絶縁層23は、第1絶縁層212と非接着に形成されているので、第1絶縁層212は、第2絶縁層23とは独立して動くことができる。そのため、導体211は、第2絶縁層23から引っ張り力を受け難くなり、可動用ケーブル1の耐屈曲性や捻回性がより向上する。
【0034】
本実施の形態では、第2絶縁層23として、発泡ポリプロピレンからなるものを用いた。なお、これに限らず、例えば、第2絶縁層23として、電子照射により架橋を行った照射架橋発泡ポリエチレンからなるものを用いることもできる。但し、第2絶縁層23として照射架橋発泡ポリエチレンからなるものを用いる場合、電子線照射により第1絶縁層212の劣化が生じる可能性があるため、第1絶縁層212に劣化が生じない程度の電子線照射強度に適宜調整する必要がある。電子照射の手間を省き量産性を高めるという観点からは、第2絶縁層23として、発泡ポリプロピレンからなるものを用いることがより望ましい。
【0035】
第2絶縁層23の厚さは、可動用ケーブル1が所定の特性インピーダンス(50Ωまたは75Ω等)となるように、導体211の外径に応じて適宜設定するとよい。
【0036】
(第3絶縁層24)
第3絶縁層24は、可動用ケーブル1を曲げたり捻じったりしたときに生じるひずみによって、発泡絶縁樹脂からなる第2絶縁層23が破断する等のダメージを防ぐとともに、第2絶縁層23の変形や移動によって対撚線22の位置がずれることを防ぐ補強のために設けられるものである。第3絶縁層24は、第2絶縁層23と同じ樹脂材料を用いて充実押出しにより形成され、第2絶縁層23の表面に現れる発泡の孔を埋めると共に、第2絶縁層23と一体化(接着)するように形成される。第3絶縁層24は、例えば、伸び300%以上、引張強さが25MPa以上、誘電率2.5以下となる非発泡絶縁樹脂層から形成されていることが好ましい。
【0037】
第3絶縁層24は、第2絶縁層23よりも引張強さが大きい。第2絶縁層23よりも外周側に位置する第3絶縁層24の引張強さや伸びが大きければ、コア2の外周側ほど機械的強度や伸びが大きくなるので、可動用ケーブル1が繰り返し屈曲・捻回を受けてもコア2に割れが生じ難くなる。つまり、コア2の外周側ほど機械的強度や伸びを大きくすることで、絶縁層全体での伸び性や柔軟性等を充分に担保することができ、これにより可動用ケーブル1の耐屈曲性や捻回性を向上させることができる。
【0038】
第2絶縁層23として発泡ポリプロピレンからなるものを用いる場合、第3絶縁層24として、非発泡ポリプロピレンを用いるとよい。また、第2絶縁層23として照射架橋発泡ポリエチレンからなるものを用いる場合、第3絶縁層24として、非発泡の照射架橋ポリエチレンを用いるとよい。なお、第3絶縁層24は、可動用ケーブル1の屈曲時や捻回時に第2絶縁層23が潰されないように保護するためのものであるから、ある程度硬いことが望まれる。例えば、第3絶縁層24は、第2絶縁層23よりも硬い材質で構成されることがよい。第3絶縁層24は、このような硬い材質で構成されることにより、可動用ケーブル1を屈曲したり捻回したりする等の可動の際に、可動用ケーブル1に生じる外力で第2絶縁層23が変形することや潰れることを防止することができる。そのため、第2絶縁層23の変形や潰れによってコア2の位置(すなわち、対撚線22の位置)が移動してしまうことがなく、対撚線22の位置が固定されたままの状態を維持することができる。非発泡ポリプロピレンは、電子線を照射せずとも硬く耐熱性も良好であることから、第3絶縁層24として特に好適である。対撚線22の位置を固定したままの状態を維持するとの観点から、第3絶縁層24は、介在3よりも硬いことが好ましい。
【0039】
第3絶縁層24の厚さは、第2絶縁層23における最小の厚さ(電線21の配列方向における被覆厚さ、以下最小厚さという)の1倍以上1.5倍以下が好ましい。第3絶縁層24の厚さが第2絶縁層23の最小厚さの1倍未満であると、第3絶縁層24が薄くなり過ぎて第2絶縁層23に対する補強効果が小さくなり、耐屈曲性の低下を招いてしまうおそれがある。第3絶縁層24の厚さを第2絶縁層23の最小厚さの1倍以上とすることで、耐屈曲性の低下を抑制することができる。一方、第3絶縁層24の厚さが第2絶縁層23の最小厚さの1.5倍を超えると、第3絶縁層24が厚くなり過ぎるため、電気特性の低下を招いてしまうおそれがある。第3絶縁層24の厚さを第2絶縁層23の最小厚さの1.5倍以下とすることで、良好な電気特性を維持することができる。
【0040】
(シールド層6)
図2は、シールド層6の構成例を示す模式図である。
図2に示すように、本実施の形態では、シールド層6は、銅箔糸6aを一方向(例えば、時計方向)に、金属素線6bを反対方向(例えば、反時計方向)に螺旋状に巻いて、銅箔糸6aと金属素線6bとが交差するように編んだ編組シールドから構成されている。
【0041】
銅箔糸6aは、ポリエステル等の中心糸に銅箔に巻き付けたものである。銅箔糸6aは、金属素線6bと比較して、耐屈曲や捻回性に優れるものの、導体抵抗が高い。本実施の形態では、銅箔糸6aと金属素線6bとで編組シールドを構成することにより、可動用ケーブル1の耐屈曲や捻回性を向上させつつ、シールド層6の導体抵抗を下げることができる。したがって、可動用ケーブル1が長尺であっても、DC往復抵抗の規格を満足しつつ、耐屈曲性や捻回性を向上させることができる。
【0042】
また、銅箔糸6aは、金属素線6bと比較して、軟らかい。銅箔糸6aと金属素線6bとを交差させたことにより、可動用ケーブル1を屈曲や捻回させたときに、交差箇所において、銅箔糸6aが金属素線6bのクッション材となり、金属素線6bのキンクを防ぐことができる。したがって、可動用ケーブル1の耐屈曲や捻回性を向上させることができる。
【0043】
銅箔糸6aは、金属素線6bよりも太いことが好ましい。これにより、可動用ケーブル1に印加された応力が、柔軟性や可撓性に優れた銅箔糸6aにより作用するため、可動用ケーブル1の耐屈曲性や捻回性をより向上させることができる。
【0044】
また、シールド層6は、各コア2と密着して設けられた押さえ巻きテープ5に接触するように設けられている。これにより、シールド層6と各コア2間の空隙が少なくなりシールド層6と導体211間の誘電率が安定すると共に、導体211とシールド層6の距離が屈曲や捻回により変化しにくくなり、可動用ケーブル1を屈曲、捻回した際の可動用ケーブル1の特性インピーダンスの変化を小さくすることが可能になる。
【0045】
(変形例)
図3は、本発明の一変形例に係る可動用ケーブル1aの長手方向に垂直な断面を示す断面図である。この可動用ケーブル1aは、
図1の可動用ケーブル1において、コア2の本数を1本としたものである。コア2の本数を1本とした場合、介在3と押さえ巻きテープ5は省略可能となり、コア2の周囲に直接接触するようにシールド層6が設けられることになる。このように、
図3に示す可動用ケーブル1aのように、コア2の数は1つであってもよい。
【0046】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る可動用ケーブル1では、対撚線22の側周を覆う第2絶縁層23が、第1絶縁層212と非接着に形成された発泡層からなり、第2絶縁層23の側周を覆う第3絶縁層24が、第2絶縁層23よりも硬い。
【0047】
対撚線22が第2及び第3絶縁層23,24に覆われた構造となっているため、可動用ケーブル1を屈曲、捻回した際に、対撚線22を構成する一対の電線21間の距離が変化しにくくなる。また、従来のように対撚線22が一括被覆されていない場合と比較して、可動用ケーブル1を屈曲、捻回した際の電線21の動きを抑えることができるため、電線21とシールド層6間の距離の変化も比較的抑えることが可能になる。また、対撚線の周囲を第2及び第3絶縁層23,24で覆っているため、従来と比較して対撚線22の周囲の空隙(空間)が小さくなり、可動用ケーブル1を屈曲、捻回した際の電線21とシールド層6間の空隙の変化も抑えることが可能になる。その結果、可動用ケーブル1を屈曲、捻回した際の可動用ケーブル1の特性インピーダンスの変化を小さくすることが可能になり、屈曲時や捻回時の信号ロスを低減可能になる。
【0048】
さらに、第2絶縁層23を第1絶縁層212に対して非接着に形成することで、可動用ケーブル1を屈曲、捻回時に導体211が負荷を受けにくくなる。また、第2絶縁層23を発泡層とし、非発泡層である第3絶縁層24をその外周に被覆した構造とすることで、第2絶縁層23を低誘電率として高周波特性を向上しつつも、第3絶縁層24により第2絶縁層23を補強して、体屈曲性及び捻回性を向上することができる。つまり、本実施の形態によれば、屈曲寿命及び捻回寿命が高く、かつ、屈曲時や捻回時の信号ロスを低減可能な差動信号伝送用の可動用ケーブル1を実現できる。
【0049】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0050】
[1]導体(211)と前記導体(211)の側周を囲うように設けられた第1絶縁層(212)とを有する一対の電線(21)を撚り合わせた対撚線(22)、前記対撚線(22)の側周を囲うように設けられた第2絶縁層(23)、及び、前記第2絶縁層(23)の側周を囲うように設けられた第3絶縁層(24)を有する1つ以上のコア(2)と、前記1つ以上のコア(2)の側周を一括して囲うように設けられたシールド層(6)と、前記シールド層(6)の側周を囲うように設けられたシース(7)と、を備え、前記第2絶縁層(23)は、前記第1絶縁層(212)と非接着に形成された発泡層からなり、前記第3絶縁層(24)は、前記第2絶縁層(23)よりも硬い、可動用ケーブル(1)。
【0051】
[2]前記コア(2)を複数備え、前記コア(2)の周囲に配置され、前記コアの位置を固定する介在(3)をさらに備えた、[1]に記載の可動用ケーブル(1)。
【0052】
[3]前記介在(3)は、前記コア(2)の長手方向に沿って前記第3絶縁層(24)の側周に非接着の状態で接触している、[2]に記載の可動用ケーブル(1)。
【0053】
[4]前記複数のコア(2)と前記介在(3)とを撚り合わせた集合体(4)の側周に巻回され、前記複数のコア(2)のそれぞれに接触する押さえ巻きテープ(5)をさらに備え、前記押さえ巻きテープ(5)の側周に、前記押さえ巻きテープ(5)に接触するように前記シールド層(6)が設けられている、[2]または[3]に記載の可動用ケーブル(1)。
【0054】
[5]前記介在(3)は、レーヨンフィラメントを用いたステーブルファイバー糸であり、前記コア(2)間に介在するように配置されている、[2]乃至[4]の何れか1項に記載の可動用ケーブル(1)。
【0055】
[6]前記第1絶縁層(212)は、フッ素樹脂からなる、[1]乃至[5]の何れか1項に記載の可動用ケーブル(1)。
【0056】
[7]前記第2絶縁層(23)は、発泡ポリプロピレンからなる発泡層であり、前記第3絶縁層(24)は、非発泡ポリプロピレンからなる、[1]乃至[6]の何れか1項に記載の可動用ケーブル(1)。
【0057】
[8]前記第3絶縁層(24)は、前記第2絶縁層(23)よりも引張強さが大きい、[1]乃至[7]の何れか1項に記載の可動用ケーブル(1)。
【0058】
[9]前記第1絶縁層(212)は、前記導体(211)との間に隙間を有する、[1]乃至[8]の何れか1項に記載の可動用ケーブル(1)。
【0059】
[10]前記第3絶縁層(24)は、前記第2絶縁層(23)と接着している、[1]乃至[9]の何れか1項に記載の可動用ケーブル(1)。
【0060】
[11]前記シールド層(6)は、銅箔糸と金属素線とが交差するように編まれた編組シールドであり、前記銅箔糸が前記金属素線よりも太い、[1]乃至[10]の何れか1項に記載の可動用ケーブル(1)。
【0061】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0062】
1…可動用ケーブル
2…コア
21…電線
211…導体
212…第1絶縁層
22…対撚線
23…第2絶縁層
24…第3絶縁層
3…介在
4…集合体
5…押さえ巻きテープ
6…シールド層
6a…銅箔糸
6b…金属素線
7…シース