IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

特許7024711光学ガラスおよび近赤外線カットフィルタ
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】光学ガラスおよび近赤外線カットフィルタ
(51)【国際特許分類】
   C03C 4/08 20060101AFI20220216BHJP
   C03C 3/23 20060101ALI20220216BHJP
   C03C 3/247 20060101ALI20220216BHJP
   C03C 10/16 20060101ALI20220216BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
C03C4/08
C03C3/23
C03C3/247
C03C10/16
G02B5/22
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018529868
(86)(22)【出願日】2017-07-24
(86)【国際出願番号】 JP2017026640
(87)【国際公開番号】W WO2018021222
(87)【国際公開日】2018-02-01
【審査請求日】2020-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2016150155
(32)【優先日】2016-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 信夫
(72)【発明者】
【氏名】坂上 貴尋
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/058185(WO,A1)
【文献】特開平9-202644(JP,A)
【文献】特表2015-522500(JP,A)
【文献】特開2014-12630(JP,A)
【文献】特開2014-101255(JP,A)
【文献】特開平5-105865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00-14/00
G02B5/22
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線および紫外線を吸収する光学ガラスであって、
前記光学ガラスは、300nm~450nmの波長帯域で光の透過率が50%となる波長の前後3nmの波長の範囲で算出される、波長と透過率との近似直線の傾きが3以上であり、
カチオン成分としてP及びCuを必須で含有し、
アニオン成分としてCl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種を含有し、
前記Pの含有量は酸化物基準の質量%表示でP として35~75%であり、
前記Cuの含有量はカチオン%で0.5~25%であり、かつ
結晶を含有し、
前記結晶は、CuCl、CuBr及びCuIから選ばれる少なくとも1種の結晶を含むことを特徴とする、
光学ガラス。
【請求項2】
波長450nm~480nmの光の平均透過率が80%以上であることを特徴とする請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
600nm~700nmの波長帯域での光の透過率が50%となる波長から、300nm~450nmの波長帯域での光の透過率が50%となる波長を引いた値が、200nm~300nmの範囲にあることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
波長450nm~480nmの平均吸光係数に対する波長700nm~850nmの平均吸光係数の比率が33以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項5】
前記Cl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種の含有量が、アニオン%で0.01~20%であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項6】
カチオン成分としてAgを含有し、
前記Agの含有量がカチオン%で0.01~5%であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項記載の光学ガラス。
【請求項7】
酸化物基準の質量%表示で
:35~75%
Al:5~15%
O:3~30%(但し、ROはLiO、NaO及びKOの合量を表す。)
R’O:3~35%(但し、R’OはMgO、CaO、SrO、BaO、及びZnOの合量を表す。)
CuO:0.5~20%
を含有することを特徴とする、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項8】
カチオン%で
5+:20~50%
Al3+:5~20%
:15~40%(但し、RはLi、Na、及びKの合量を表す)
R’2+:5~30%(但し、R’2+はMg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、及びZn2+の合量を表す)
Cu2+とCuの合量:0.5~25%
アニオン%で
:10~70%
を含有することを特徴とする、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の光学ガラスを備える近赤外線カットフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルスチルカメラやカラービデオカメラなどの色補正フィルタ(近赤外線カットフィルタ)に使用され、特に可視領域の光の透過性に優れた光学ガラスおよび近赤外線カットフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルスチルカメラ等に使用されるCCDやCMOSなどの固体撮像素子は、可視領域から1200nm付近の近赤外領域にわたる分光感度を有している。したがって、そのままでは良好な色再現性を得ることができないので、赤外線を吸収する特定の物質が添加された近赤外線カットフィルタガラスを用いて視感度を補正している。この近赤外線カットフィルタガラスは、フツリン酸塩系ガラスにCuOを添加した光学ガラス、もしくはリン酸塩系ガラスにCuOを添加した光学ガラスが開発され使用されている。
【0003】
固体撮像素子の高感度化および高精細化に伴い、近赤外線カットフィルタガラスには、近紫外線のカット特性や可視領域の光の高い透過率が求められている。
近紫外線のカット特性を備える近赤外線カットフィルタガラスとしては、特許文献1記載のものがある。
また、可視領域の光の高い透過率を備える近赤外線カットフィルタガラスとしては、特許文献2記載のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-1544号公報
【文献】国際公開第2015/156163号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の近赤外線カットフィルタガラスは、ガラス中に波長350nm付近に吸収を示すCe4+を含有することで紫外線のカット特性を備える。しかしながら、Ceなどの希土類元素および遷移金属元素は、ガラス中では吸収のピークを示す中心波長から、一定の波長幅をもった吸収特性を示す。例えば、Ce4+は、急峻な近紫外線の吸収特性を備えないため、近紫外線と隣接する可視領域の青色光をも吸収することになる。これにより、可視光の透過率が低下するおそれがある。また、この近赤外線カットフィルタガラスは、急峻な近紫外線の吸収特性を備えないことに起因し、透過した一部の近紫外線の光がパープルフレア(撮影画像中央の長四角から縦方向に延びる紫色のもや)を引き起こすおそれがある。
【0006】
特許文献2に記載の近赤外線カットフィルタガラスは、ガラス中のCu成分の価数を厳密に制御することで可視領域の光の透過率が高く、近赤外領域の光の透過率が低い光学特性が得られる。しかしながら、この近赤外線カットフィルタガラスにおいては、ガラスに光学多層膜を設け、光学多層膜の反射作用により近紫外線をカットする。光学多層膜は、光の入射角度により反射特性が変化するため、成膜面に垂直に入射する光線に対する透過率が0の波長の光であっても斜めに入射した光に対しては完全に反射することができず透過してしまう場合がある。このため、固体撮像素子に対して斜めに入射する光が多くなる画像周辺部で偽色、ゴースト、フレア等の影響が出ることが懸念される。また、光学多層膜に反射された光が光学系の中で迷光となって再度光学多層膜に斜めに入射すると、固体撮像素子の光電変換面に到達して偽色など撮影画像の色彩を乱す原因になる。
【0007】
本発明は、近紫外線を確実にカットし、かつ可視領域の光(特に青色光)の透過率の高い光学ガラスおよび近赤外線カットフィルタの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る光学ガラスは、赤外線および紫外線を吸収する光学ガラスであって、前記光学ガラスは、300nm~450nmの波長帯域で光の透過率が50%となる波長の前後3nmの波長の範囲で算出される、波長と透過率との近似直線の傾きが3以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、近紫外線を確実にカットすることで偽色やフレア等の発生を抑制し、かつ可視領域の光(特に青色光)の透過率の高い光学ガラスおよび近赤外線カットフィルタを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明の光学ガラスは、ガラスを主体とし、ガラス中に結晶を含有することを必須構成とする。また、本明細書における光学ガラスの光学特性は、光学ガラスと空気との屈折率の相違に起因する表面反射があるものとする。
【0011】
本発明の光学ガラスは、固体撮像装置における近赤外線カットフィルタガラスとして好適に用いることができる。近赤外線カットフィルタガラスは、固体撮像装置において、結像光学系(レンズ群)と固体撮像素子(センサー)との間、もしくは結像光学系の被写体側(固体撮像素子の反対側)に配置される。
【0012】
本発明の光学ガラスは、可視領域の光を透過し、紫外線および赤外線を吸収する光学特性を備える。そして、本発明の光学ガラスは、赤外線および紫外線を吸収する光学ガラスであって、300nm~450nmの波長帯域で光の透過率が50%となる波長の前後3nmの波長の範囲で算出される、波長と透過率との近似直線の傾きが3以上の光学特性を備える。以下、「300nm~450nmの波長帯域で光の透過率が50%となる波長の前後3nmの波長の範囲で算出される、波長と透過率との近似直線の傾き」を「傾き(S)」ということもある。
【0013】
このような光学特性を備えることで、近紫外線を確実にカットし、偽色やフレア等の発生を抑制することができる。また、光学多層膜による反射作用ではなく、光学ガラスの吸収作用による近紫外線のカットのため、光の斜入射に伴う光学特性の変化が極めて小さく、固体撮像装置内の迷光に起因する近紫外線の斜入射光が光学ガラスに入射した場合であっても、確実に近紫外線をカットすることができる。
【0014】
光学ガラスにおいて、傾き(S)が3未満であると、近紫外線の一部が透過することに起因し、偽色やフレア等の発生が懸念される。本発明の光学ガラスは、傾き(S)が3以上である。傾き(S)は、3.5以上が好ましく、4以上がより好ましい。また、傾き(S)は、20超であると、光学ガラスのガラス組成の調整が極めて難しく、製造コストが高くなるため好ましくない。傾き(S)は、20以下が好ましく、15以下がより好ましい。
【0015】
なお、前述の300nm~450nmの波長帯域で光の透過率が50%となる波長の前後3nmの波長の範囲で算出される、波長と透過率との近似直線の傾き(傾き(S))とは、詳細には以下の方法により決定される。
【0016】
まず、光学ガラスの分光透過率を測定する。次いで、300nm~450nmの波長帯域での光の透過率が50%になる波長(整数値)を特定する。ここで、分光透過率を示す曲線より得られる波長が整数値とならない場合は、最も近い整数値を透過率が50%となる波長とみなす。そして、透過率が50%となる波長(以下、「λ50(300-450)」と表記することもある。)を中心とし、λ50(300-450)から短波長側および長波長側にそれぞれ3nm離れた波長まで1nmごとの透過率データを7点決定する。例えば、透過率が50%となる波長が380nmの場合、377nm、378nm、379nm、380nm、381nm、382nm、383nmにおける波長と透過率のデータ(計7点)を決定する。そして、この7点のデータより波長[nm]をX軸、透過率[%]をY軸とした近似直線を作成し、得られる近似直線の傾き[%/nm]を傾き(S)とする。
【0017】
本発明の光学ガラスは、波長450nm~480nmの光の平均透過率が80%以上であることが好ましい。このような特性を備えることで、本発明の光学ガラスを、例えば、固体撮像装置に用いた場合に、可視領域の青色光の透過率が高く、色再現性に優れた撮像画像を得ることができる。なお、従来は、青色光の透過率に合わせて、可視領域の他の波長成分との色バランスを取るべく、センサーの感度調整がなされていた。そのため、本発明の光学ガラスを用いることで、センサーが本来持つ受光感度能を最大限生かした高感度の撮像が可能となる。
【0018】
なお、前述の平均透過率は、81%以上がより好ましく、82%以上がさらに好ましい。また、前述の平均透過率は、92%超であると、光学ガラスのガラス組成の調整が極めて難しく、製造コストが高くなるため好ましくない。前述の平均透過率は、92%以下が好ましく、91%以下がより好ましい。
【0019】
本発明の光学ガラスは、600nm~700nmの波長帯域での光の透過率が50%となる波長(以下、「λ50(600-700)」と表記することもある。)から、300nm~450nmの波長帯域での光の透過率が50%となる波長(λ50(300-450))を引いた値、λ50(600-700)-λ50(300-450)が、200nm~300nmの範囲にあることが好ましい。このような特性を備えることで、可視領域の光の透過率が高く、高感度で色再現性に優れた撮像画像を得ることができる。なお、前述の波長の幅(λ50(600-700)-λ50(300-450))は、220nm~290nmが好ましく、230nm~280nmがより好ましい。
【0020】
本発明の光学ガラスは、波長450nm~480nmの平均吸光係数(以下、「ε(450-480)」と表記することもある。)に対する波長700nm~850nmの平均吸光係数(以下、「ε(700-850)」と表記することもある。)の比率、ε(700-850)/ε(450-480)が33以上であることが好ましい。このような特性を備えることで、本発明の光学ガラスを、例えば、固体撮像装置に用いた場合に、撮像画像に不要な近赤外線を確実にカットしつつ、可視領域の青色光の透過率を高くすることができるため、高感度で色再現性に優れた撮像画像を得ることができる。
【0021】
なお、平均吸光係数の比率(ε(700-850)/ε(450-480))は、34以上が好ましく、35以上がより好ましい。また、平均吸光係数の比率(ε(700-850)/ε(450-480))は、80超であると、光学ガラスのガラス組成の調整が極めて難しく、製造コストが高くなるため好ましくない。平均透過率の比率(ε(700-850)/ε(450-480))は、80以下が好ましく、70以下がより好ましい。
【0022】
近赤外線カットフィルタガラスにおいては、波長450nm~480nmの光の透過率を高くすることと波長700nm~850nmの光の透過率を低くすることを両立するのが望ましい。従来の近赤外線カットフィルタガラスでは、波長450nm~480nmの光の透過率を高くするためにはガラス中のCu濃度を低くする方法があるが、この場合、波長700nm~850nmの光の透過率が高くなるという弊害がある。また、波長700nm~850nmの光の透過率を低くするためにはCu濃度を高くする方法があるが、この場合、波長450nm~480nmの光の透過率が低くなるという弊害がある。すなわち、従来の近赤外線カットフィルタガラスにおいては、波長450nm~480nmの光の透過率を高くすることと波長700nm~850nmの光の透過率を低くすることとを両立するのは、そもそも困難であり、どちらかの特性を妥協するか、もしくは両者のバランスをとった特性とするかのいずれかの手段をとらざるを得なかった。
【0023】
本発明の光学ガラスは、詳細には後述するが、波長450nm~480nmの光の透過率と波長700nm~850nmの光の透過率の両者に関連する光学ガラス中のCu成分について、波長450nm~480nmの透過率を低下させるCuイオンをハロゲン化物としてガラス中に結晶として析出し、非晶質(ガラス)部分におけるCuイオンの存在量を可及的に少なくすることで、前述の光学特性が得られることを見出したものである。
【0024】
なお、Cuイオンをハロゲン化物としてガラス中に結晶として析出した場合、波長700nm~850nmの光の透過率を低下させる非晶質部分のCu2+イオンへの影響はほとんどないため、波長700nm~850nmの光の透過率が低いという好ましい光学特性を維持したまま、波長450nm~480nmの光の透過率を高めることができる。また、ガラス中に結晶として析出したCuのハロゲン化物は、紫外線領域に急峻な吸収特性を備えるため、本発明の光学ガラスは撮像画像に不要な近紫外線をカットすることもできる。
【0025】
本発明の光学ガラスは、カチオン成分としてP及びCuを必須で含有し、アニオン成分としてCl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種を含有し、前記Cuの含有量はカチオン%で0.5~25%であり、かつ結晶を含有する。すなわち、本発明の光学ガラスは、ガラスと結晶からなる。ガラスは非晶質成分であり本発明の光学ガラスの主たる成分である。また、結晶はガラス中の含有成分が結晶としてガラス中に析出した結晶が好ましい。本明細書において、各成分の含有量は光学ガラス中の含有量を示す。また、以下の説明において、単に「ガラス」という場合は、光学ガラス中の非晶質成分としてのガラスを意味する。
【0026】
Pは、ガラスを形成する主成分(ガラス形成酸化物)であり、光学ガラスの近赤外領域のカット性を高めるための必須成分である。Pはガラス中に、例えばP5+として含有される。
【0027】
また、Cuは、近赤外線カットための必須成分である。Cuはガラス中に、例えばCu2+、Cuとして含有される。光学ガラス中のCuの含有量が0.5%未満であると光学ガラスの肉厚を薄くした際にその効果が十分に得られず、25%を超えると可視域透過率が低下するため好ましくない。Cuの含有量は、好ましくは0.5~19%、より好ましくは0.6~18%、さらに好ましくは0.7~17%である。なお、Cuの含有量とは、ガラス中のCu2+、Cu、および結晶中のCu成分の合計量をいうものである。
【0028】
本発明の光学ガラスは、アニオン成分としてCl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種を含有する。Cl、Br及びIは組み合わせて2種類以上含有してもよい。Cl、Br及びIは、ガラス中に、それぞれCl、Br、及びIとして含有される。光学ガラス中のCl、Br及びIの含有量は、アニオン%の合量で、0.01~20%であることが好ましい。Cl、Br及びIの含有量が0.01%未満では結晶が析出しにくく、20%を超えると、揮発性が高くなり、ガラス中の脈理が増加するおそれがあるため好ましくない。光学ガラス中のCl、Br及びIの含有量は合量で、0.01~15%がより好ましく、0.02~10%がさらに好ましい。
【0029】
Cl、Br、Iは、ガラス中のCuと反応し、ClはCuCl、BrはCuBr、IはCuIを形成する。これらの成分により、得られる光学ガラスにおいて、近紫外域の光をシャープにカットすることが可能となる。Cl、Br、Iは近紫外域の光をシャープにカットしたい波長に合わせて、適宜選択できる。
【0030】
本発明の光学ガラスが含有する結晶は、CuCl、CuBr及びCuIから選ばれる少なくとも1種の結晶を含むことが好ましい。すなわち、光学ガラスが含有するCuCl、CuBr、CuIは、結晶として析出していることが好ましい。CuCl、CuBr及びCuIから選ばれる少なくとも1種が結晶の状態で析出していることで、紫外域の光のシャープカット性を高めることができる。
【0031】
本発明の光学ガラスは、カチオン成分として、Agを含有することが好ましい。Agは、Cl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種と結びつき、ハロゲン化銀(例えばAgCl)を析出する。この場合、AgClは、結晶核として作用し、CuClの結晶を析出しやすくする作用がある。光学ガラス中のAgの含有量は、カチオン%として0.01~5%であることが好ましい。0.01%未満であると、結晶を析出する作用が十分に得られない。また、5%を超えると、Agコロイドが形成され、可視光の透過率が低下するため好ましくない。
【0032】
また、光学ガラス中にハロゲン化銀以外の結晶核となる成分を析出もしくは導入して、CuCl、CuBr及びCuIから選ばれる少なくとも1種の結晶を析出させてもよい。
【0033】
本発明の光学ガラスにおける結晶成分は、主としてCuCl、CuBr及びCuIから選ばれる少なくとも1種からなり、AgとCl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種が結合した結晶核やそれ以外の結晶核を含んでいてもよい。
【0034】
次に、本発明の光学ガラスについて、2つの実施形態の光学ガラス、すなわちリン酸ガラスと結晶からなる実施形態1の光学ガラス及びフツリン酸ガラスと結晶からなる実施形態2の光学ガラスを例に説明する。
【0035】
本発明の実施形態1の光学ガラスは、酸化物基準の質量%表示で
:35~75%
Al:5~15%
O:3~30%(但し、ROはLiO、NaO及びKOの合量を表す。)
R’O:3~35%(但し、R’OはMgO、CaO、SrO、BaO、及びZnOの合量を表す。)
CuO:0.5~20%
を含有する。
【0036】
実施形態1の光学ガラスは、Cl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種を含有する。実施形態1の光学ガラスにおけるCl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種の含有量及び含有形態は上記のとおりである。本発明の実施形態1の光学ガラスを構成する各成分の含有量を上記のように限定した理由を以下に説明する。以下の説明において、実施形態1の光学ガラスの含有成分の含有量「%」は、特に断りのない限り酸化物基準の質量%である。
【0037】
は、ガラスを形成する主成分(ガラス形成酸化物)であり、光学ガラスの近赤外領域のカット性を高めるための必須成分であるが、35%未満ではその効果が十分得られず、75%を超えるとガラスが不安定になり、耐候性が低下し、また光学ガラス中のCl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種の残存量が低下し、結晶が十分に析出しないため好ましくない。Pの含有量は、好ましくは38~73%、より好ましくは40~72%である。
【0038】
Alは、ガラスを形成する主成分(ガラス形成酸化物)であり、耐候性を高めるなどのための必須成分であるが、5%未満ではその効果が十分得られず、15%を超えるとガラスが不安定になり、また光学ガラスの近赤外線カット性が低下するため好ましくない。Alの含有量は、好ましくは5.5~12%、より好ましくは6~10%である。
【0039】
O(但し、ROはLiO、NaO及びKOの合量を表す。)は、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための成分であるが、3%未満ではその効果が十分得られず、30%を超えるとガラスが不安定になるため好ましくない。ROの含有量は、好ましくは5~28%、より好ましくは6~25%である。なお、ROはLiO、NaO及びKOの合量、つまり、LiO+NaO+KOであることをいう。また、ROは、LiO、NaO及びKOから選ばれる1種または2種以上であり、2種以上の場合いかなる組合せであってもよい。
【0040】
LiOは、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための成分である。LiOを含有する場合、15%を超えるとガラスが不安定になるため好ましくない。LiOの含有量は、好ましくは、0~10%、より好ましくは、0~8%である。
【0041】
NaOは、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための成分である。NaOを含有する場合、25%を超えるとガラスが不安定になるため好ましくない。NaOの含有量は、好ましくは0~22%、より好ましくは0~20%である。
【0042】
Oは、必須成分ではないが、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、などのための成分である。KOを含有する場合、25%を超えるとガラスが不安定になる、熱膨張率が著しく大きくなるため好ましくない。KOの含有量は、好ましくは0~20%、より好ましくは0~15%である。
【0043】
R’O(ただし、R’Oは、MgO、CaO、SrO、BaO、及びZnOの合量を表す。)は、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させる、ガラスの強度を高めるなどのための必須成分である。3%未満ではその効果が十分得られず、35%を超えるとガラスが不安定になる、光学ガラスの近赤外線カット性が低下する、ガラスの強度が低下するなどのため好ましくない。R’Oの含有量は、好ましくは3.5~32%、より好ましくは4~30%、である。なお、R’OはMgO、CaO、SrO、BaO、及びZnOの合量、つまり、R’OはMgO+CaO+SrO+BaO+ZnOであることをいう。また、R’Oは、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOから選ばれる1種または2種以上であり、2種以上の場合いかなる組合せであってもよい。
【0044】
MgOは、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスの強度を高めるなどのための成分である。しかし、MgOはガラスを不安定にし、失透しやすくする傾向があり、特にCuの含有量を高く設定する必要がある場合には含有しないことが好ましい。MgOを含有する場合、5%を超えるとガラスが極端に不安定になる、光学ガラスの近赤外線カット性が低下するため好ましくない。MgOの含有量は、好ましくは0~3%、より好ましくは0~2%である。
【0045】
CaOは、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させる、ガラスの強度を高めるなどのための成分である。CaOを含有する場合、10%を超えるとガラスが不安定となり失透しやすくなる、光学ガラスの近赤外線カット性が低下するため好ましくない。CaOの含有量は、好ましくは0~7%、より好ましくは0~5%である。
【0046】
SrOは、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための成分である。SrOを含有する場合、15%を超えるとガラスが不安定となり失透しやすくなる、光学ガラスの近赤外線カット性が低下するため好ましくない。SrOの含有量は、好ましくは0~12%、より好ましくは0~10%である。
【0047】
BaOは、必須成分ではないものの、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための成分である。BaOを含有する場合、30%を超えるとガラスが不安定となり失透しやすくなる、光学ガラスの近赤外線カット性が低下するため好ましくない。BaOの含有量は、好ましくは0~27%、より好ましくは0~25%である。
【0048】
ZnOは、必須成分ではないものの、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスの化学的耐久性を高めるなどの効果がある。ZnOを含有する場合10%を超えるとガラスが不安定となりしやすくなる、ガラスの溶解性が悪化するため好ましくない。ZnOの含有量は、好ましくは0~8%、より好ましくは0~5%である。
【0049】
CuOは、近赤外線カットための必須成分である。光学ガラス中のCuOの含有量が0.5%未満であると光学ガラスの肉厚を薄くした際にその効果が十分に得られず、20%を超えると可視域透過率が低下するため好ましくない。CuOの含有量は、好ましくは0.8~19%、より好ましくは1.0~18%である。
【0050】
なお、実施形態1の光学ガラスにおけるCuのカチオン%での含有量は、上記のとおり0.5~25%であり、好ましい含有量も上記のとおりである。また、上記Cl、Br、Iが、それぞれCuCl、CuBr、CuIを形成している場合、光学ガラス中のCuのカチオン%は、該ハロゲン化銅におけるCu成分とその他のCu成分との合計含有量である。
【0051】
実施形態1の光学ガラスは、任意成分としてSbを0~3%含有してもよい。Sbは、必須成分ではないものの、光学ガラスの可視領域透過率を高める効果がある。Sbを含有する場合、3%を超えるとガラスの安定性が低下するため好ましくない。Sbの含有量は、好ましくは0~2.5%、より好ましくは0~2%である。
【0052】
実施形態1の光学ガラスは、さらに、任意成分としてSiO、SO、B等のリン酸ガラスが通常含有するその他の成分を本発明の効果を損なわない範囲で含有できる。これらの成分の含有量は合計で3%以下が好ましい。
【0053】
また、実施形態1の光学ガラスは、上記のとおり結晶を含有し、好ましくは、CuCl、CuBr及びCuIから選ばれる少なくとも1種の結晶を含有するものである。
【0054】
実施形態1の光学ガラスは、さらに、任意成分としてAgを含有してもよい。実施形態1の光学ガラスにおけるAgの含有量及び含有形態は上記のとおりである。
【0055】
<実施形態2の光学ガラス>
実施形態2の光学ガラスは、カチオン%で
5+:20~50%
Al3+:5~20%
:15~40%(但し、RはLi、Na及びKの合量を表す。)
R’2+:5~30%(但し、R’2+はMg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、及びZn2+の合量を表す。)
Cu2+とCuの合量:0.5~25%
アニオン%で
:10~70%
を含有することを特徴とする。
【0056】
本明細書において、「カチオン%」および「アニオン%」とは、以下のとおりの単位である。まず、光学ガラスの構成成分をカチオン成分とアニオン成分とに分ける。そして、「カチオン%」とは、光学ガラス中に含まれる全カチオン成分の合計含有量を100モル%としたときに、各カチオン成分の含有量を百分率で表記した単位である。「アニオン%」とは、光学ガラス中に含まれる全アニオン成分の合計含有量を100モル%としたときに、各アニオン成分の含有量を百分率で表記した単位である。
【0057】
実施形態2の光学ガラスは、F以外にアニオン成分として、O2-を含有し、Cl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種を含有する。実施形態2の光学ガラスにおける、O2-の含有量は後述のとおりであり、Cl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種の含有量及び含有形態は前述のとおりである。
【0058】
本発明の実施形態2の光学ガラスを構成する各成分の含有量(カチオン%、アニオン%表示)を上記のように限定した理由を以下に説明する。以下の説明において、実施形態2の光学ガラスの含有成分の含有量「%」は、特に断りのない限りカチオン成分についてはカチオン%であり、アニオン成分についてはアニオン%である。
【0059】
(カチオン成分)
5+は、ガラスを形成する主成分(ガラス形成酸化物)であり、光学ガラスの近赤外領域のカット性を高めるための必須成分であるが、20%未満ではその効果が十分得られず、50%を超えるとガラスが不安定になり、耐候性が低下するため好ましくない。P5+の含有量は、好ましくは20~48%、より好ましくは21~46%、さらに好ましくは22~44%である。
【0060】
Al3+は、ガラスを形成する主成分(ガラス形成酸化物)であり、耐候性を高めるなどのための必須成分であるが、5%未満ではその効果が十分得られず、20%を超えるとガラスが不安定になり、また光学ガラスの近赤外線カット性が低下するため好ましくない。Al3+の含有量は、好ましくは6~18%、より好ましくは6.5~15%、さらに好ましくは7~13%である。
【0061】
(ただし、RはLi、Na及びKの合量を表す)は、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための必須成分であるが、15%未満ではその効果が十分得られず、40%を超えるとガラスが不安定になるため好ましくない。Rの含有量は、好ましくは15~38%、より好ましくは16~37%、さらに好ましくは17~36%である。なお、Rは、Li、Na、及びKの合量、つまり、Li+Na+Kであることをいう。また、Rは、Li、Na及びKから選ばれる1種または2種以上であり、2種以上の場合いかなる組合せであってもよい。
【0062】
Liは、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための必須成分である。5%未満ではその効果が十分得られず、40%を超えるとガラスが不安定になるため好ましくない。Liの含有量は、好ましくは、8~38%、より好ましくは、10~35%、さらに好ましくは15~30%である。
【0063】
Naは、必須成分ではないが、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための成分である。Naを含有する場合、5%未満ではその効果が十分得られず、40%を超えるとガラスが不安定になるため好ましくない。Naの含有量は、好ましくは5~35%、より好ましくは6~30%である。
【0064】
は、必須成分ではないが、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、などのための成分である。Kを含有する場合、0.1%未満ではその効果が十分得られず、30%を超えるとガラスが不安定になるため好ましくない。Kの含有量は、好ましくは0.5~25%、より好ましくは0.5~20%である。
【0065】
R’2+(ただし、R’2+は、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、及びZn2+の合量を表す)は、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させる、ガラスの強度を高めるなどのための必須成分である。5%未満ではその効果が十分得られず、30%を超えるとガラスが不安定になる、光学ガラスの近赤外線カット性が低下する、ガラスの強度が低下するなどのため好ましくない。R’2+の含有量は、好ましくは5~28%、より好ましくは7~25%、さらに好ましくは9~23%である。なお、R’2+は、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、及びZn2+の合量、つまり、Mg2++Ca2++Sr2++Ba2++Zn2+であることをいう。また、R’2+は、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+及びZn2+から選ばれる1種または2種以上であり、2種以上の場合いかなる組合せであってもよい。
【0066】
Mg2+は、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスの強度を高めるなどのための成分である。しかし、Mg2+はガラスを不安定にし、失透しやすくする傾向があり、Mg2+を含有する場合、1%未満ではその効果が十分得られず、30%を超えるとガラスが極端に不安定になる、ガラスの溶解温度が上がるなどのため好ましくない。Mg2+の含有量は、好ましくは1~25%、より好ましくは1~20%である。
【0067】
Ca2+は、必須成分ではないものの、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させる、ガラスの強度を高めるなどのための成分である。Ca2+を含有する場合、1%未満ではその効果が十分得られず、30%を超えるとガラスが不安定となり失透しやすくなるため好ましくない。Ca2+の含有量は、好ましくは1~25%、より好ましくは1~20%である。
【0068】
Sr2+は、必須成分ではないものの、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための成分である。Sr2+を含有する場合、1%未満ではその効果が十分得られず、30%を超えるとガラスが不安定となり失透しやすくなる、ガラスの強度が低下するため好ましくない。Sr2+の含有量は、好ましくは1~25%、より好ましくは1~20%である。
【0069】
Ba2+は、必須成分ではないものの、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための成分である。Ba2+を含有する場合、0.1%未満ではその効果が十分得られず、30%を超えるとガラスが不安定となり失透しやすくなる、ガラスの強度が低下するため好ましくない。Ba2+の含有量は、好ましくは1~25%、より好ましくは1~20%である。
【0070】
Zn2+は、必須成分ではないものの、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスの化学的耐久性を高めるなどの効果がある。Zn2+を含有する場合、1%未満ではその効果が十分得られず、30%を超えるとガラスが不安定となり失透しやすくなる、ガラスの溶解性が悪化するため好ましくない。Zn2+の含有量は、好ましくは1~25%、より好ましくは1~20%である。
【0071】
実施形態2の光学ガラスにおけるカチオン成分としてのCuの含有量、すなわちCu2+とCuの合計の含有量は、上記ハロゲン化銅におけるCu成分とその他のCu成分との合計量である。具体的には、Cuの含有量は、上記のとおり0.5~25%であり、好ましい含有量も上記のとおりである。
【0072】
Cu2+は、近赤外線カットための必須成分であり、含有量は0.1%以上25%未満が好ましい。該含有量が0.1%未満であると光学ガラスの肉厚を薄くした際にその効果が十分に得られず、25%以上であると光学ガラスの可視域透過率が低下するため、またCuを含有できないため好ましくない。Cu2+の含有量は、好ましくは0.2~24%、より好ましくは0.3~23%、さらに好ましくは0.4~22%である。
【0073】
Cuは、Cl、Br、Iと反応しハロゲン化銅結晶として析出することで、光学ガラスに紫外線をシャープカットする効果を付与することができる。Cuの含有量は0.1~15%が好ましい。該含有量が0.1%未満であるとその効果が十分に得られず、15%を超えると光学ガラスの青色の強度を弱めるため好ましくない。Cuの含有量は、好ましくは0.2~13%、より好ましくは0.3~12%、さらに好ましくは0.4~11%である。
【0074】
実施形態2の光学ガラスは、任意のカチオン成分としてSb3+を0~1%含有してもよい。Sb3+は、必須成分ではないものの、可視領域透過率を高める効果がある。Sb3+を含有する場合、1%を超えるとガラスの安定性が低下するため好ましくない。Sb3+の含有量は、好ましくは0.01~0.8%、より好ましくは0.05~0.5%、さらに好ましくは0.1~0.3%である。
【0075】
実施形態2の光学ガラスは、さらに任意のカチオン成分として、Si、B等のフツリン酸ガラスが通常含有するその他の成分を本発明の効果を損なわない範囲で含有できる。これらの成分の含有量は合計で5%以下が好ましい。
【0076】
(アニオン成分)
2-は、ガラスを安定化させるため、光学ガラスの可視領域透過率を高めるため、強度や硬度や弾性率といった機械的特性を高めるため、紫外線透過率を低下させるための必須成分であり、含有量は30~90%が好ましい。O2-の含有量が、30%未満であるとその効果が十分得られず、90%を超えるとガラスが不安定となるため、耐候性が低下するため好ましくない。O2-の含有量は、より好ましくは30~80%、さらに好ましくは30~75%である。
【0077】
は、ガラスを安定化させるため、耐候性を向上させるための必須成分であるが、10%未満であるとその効果が十分得られず、70%を超えると光学ガラスの可視領域透過率が低下する、強度や硬度や弾性率といった機械的特性が低下する、揮発性が高くなり脈理が増加するなどのおそれがあるため好ましくない。Fの含有量は、好ましくは10~50%、より好ましくは15~40%である。
【0078】
本発明の実施形態2の光学ガラスは、F成分を必須含有するため、耐候性に優れている。具体的には、雰囲気中の水分との反応による光学ガラス表面の変質や透過率の減少を抑制することができる。耐候性の評価は、例えば高温高湿槽を用いて、光学研磨した光学ガラスサンプルを65℃、相対温度90%の高温高湿槽中に1000時間保持する。そして、光学ガラス表面のヤケ状態を目視観察して評価することができる。また、高温高湿槽に投入する前の光学ガラスの透過率と高温高湿槽中に1000時間保持した後の光学ガラスの透過率とを比較して評価することもできる。
【0079】
実施形態2の光学ガラスは、さらに任意のアニオン成分としてS等のフツリン酸ガラスが通常含有するその他の成分を本発明の効果を損なわない範囲で含有できる。これらの成分の含有量は合計で5%以下が好ましい。
【0080】
また、実施形態2の光学ガラスは、上記のとおり結晶を含有し、好ましくは、CuCl、CuBr及びCuIから選ばれる少なくとも1種の結晶を含有するものである。なお、実施形態2の光学ガラスにおける結晶成分の含有量は、フィルタガラスの結晶化度として上記と同様の範囲が好ましい。
【0081】
実施形態2の光学ガラスは、さらに、任意のカチオン成分としてAgを含有してもよい。実施形態2の光学ガラスにおけるAgの含有量及び含有形態は上記のとおりである。
【0082】
次いで、本発明の実施形態1の光学ガラス及び実施形態2の光学ガラスに共通する、上記各成分以外の任意成分である、その他成分の含有量について説明する。なお、本明細書において、実質的に含有しない、とは、原料として意図して用いないことを意味しており、原料成分や製造工程から混入する不可避不純物については含有していないとみなす。
【0083】
本発明の光学ガラスは、PbO、As、V、YbF、及びGdFのいずれも実質的に含有しないことが好ましい。PbOは、ガラスの粘度を下げ、製造作業性を向上させる成分である。また、Asは、幅広い温度域で清澄ガスを発生できる優れた清澄剤として作用する成分である。しかし、PbO及びAsは、環境負荷物質であるため、できるだけ含有しないことが望ましい。Vは、可視領域に吸収をもつため、可視領域透過率が高いことが要求される固体撮像素子用近赤外線カットフィルタガラスにおいては、できるだけ含有しないことが望ましい。YbF、GdFは、ガラスを安定化させる成分であるものの、原料が比較的高価であり、コストアップにつながるので、できるだけ含有しないことが望ましい。
【0084】
本発明の光学ガラスは、ガラスを形成する陽イオンをもった硝酸塩化合物や硫酸塩化合物を、酸化剤あるいは清澄剤として添加することができる。酸化剤は、光学ガラス中のCu全量におけるCu2+イオンの割合を増加させることで近赤外線のカット性を向上させる効果がある。硝酸塩化合物や硫酸塩化合物の添加量は、原料混合物に対し外割添加で0.5~10質量%が好ましい。添加量が0.5質量%未満では透過率改善の効果が出にくく、10質量%を超えるとガラスの形成が困難になりやすい。より好ましくは1~8質量%であり、一層好ましくは3~6質量%である。
【0085】
硝酸塩化合物としては、Al(NO、LiNO、NaNO、KNO、Mg(NO、Ca(NO、Sr(NO、Ba(NO、Zn(NO、Cu(NO等がある。硫酸塩化合物としては、Al(SO・16HO、LiSO、NaSO、KSO、MgSO、CaSO、SrSO、BaSO、ZnSO、CuSO等がある。
【0086】
また、本発明の光学ガラスは、波長450~600nmにおける光の平均透過率が80%以上であることが好ましい。
【0087】
また、本発明の光学ガラスは肉厚0.03~0.3mmにした場合、透過率50%となる波長が600~650nmであることが好ましい。このような条件とすることで、薄型が要求されるセンサーにおいて所望の光学特性を実現することが可能となる。さらに、肉厚0.03~0.3mmにした場合、波長450nmにおける透過率が80%以上であることで、可視領域の光の透過率が高い光学特性を有した近赤外線カットフィルタとなる。
【0088】
透過率の値は、肉厚0.03~0.3mmの場合の値となるように換算を行った。透過率の換算は、以下の式1を用いて行った。なお、Ti1は、測定サンプルの内部透過率(表裏面の反射ロスを除いたデータ)、tは、測定サンプルの肉厚(mm)、Ti2は、換算値の透過率、tは、換算する肉厚(本発明の場合0.03~0.3mm)を指す。
【0089】
【数1】
【0090】
なお、本発明の光学ガラスは、撮像デバイスやその搭載機器の小型化・薄型化に対応するため、光学ガラスの肉厚が薄い状態であっても良好な分光特性が得られる。光学ガラスの肉厚としては、好ましくは1mm以下、より好ましくは0.8mm以下、さらに好ましくは0.6mm以下、最も好ましくは0.4mm以下である。また光学ガラスの肉厚の下限値は特に限定はされないが、光学ガラス製造時や撮像装置に組み込む際の搬送において破損しがたい強度を考慮すると、好ましくは0.03mm以上、より好ましくは0.05mm以上、さらに好ましくは0.07mm以上、最も好ましくは0.1mm以上である。
【0091】
本発明の光学ガラスは、光学ガラス単体で前述の光学特性を備えることを特徴とするが、さらなる光学特性の向上や水分等からの光学ガラスの保護を目的として、光学ガラス表面に反射防止膜や赤外線カット膜、紫外線および赤外線カット膜などの光学薄膜を設けてもよい。これらの光学薄膜は、単層膜や多層膜よりなるものであって、蒸着法やスパッタリング法などの公知の方法により形成することができる。また、前述と同様に光学特性の向上や水分等からの光学ガラスの保護を目的として、赤外線や紫外線を吸収する色素成分を含有した樹脂膜を光学ガラス表面に設けてもよい。
【0092】
本発明の光学ガラスは、次のようにして作製することができる。
まず、得られる光学ガラスが上記組成範囲になるように原料を秤量、混合する(混合工程)。この原料混合物を白金ルツボに収容し、電気炉内において700~1300℃の温度で加熱溶解する(溶解工程)。十分に撹拌・清澄した後、金型内に鋳込み、結晶を析出させる工程(結晶析出工程)を行った後、切断・研磨して所定の肉厚の平板状に成形する(成形工程)。
【0093】
上記製造方法の溶解工程において、フツリン酸ガラスと結晶からなる光学ガラス、例えば実施形態2の光学ガラスにおいてはガラス溶解中のガラスの最も高い温度を950℃以下に、リン酸ガラスと結晶からなる光学ガラス、例えば実施形態1の光学ガラスにおいては1280℃以下にすることが好ましい。ガラス溶解中のガラスの最も高い温度が上記温度を超えると、透過率特性が悪化する、及びフツリン酸ガラスにおいてはフッ素の揮散が促進されガラスが不安定になるためである。上記温度は、フツリン酸ガラスにおいてより好ましくは900℃以下、さらに好ましくは850℃以下である。リン酸ガラスにおいてより好ましくは1250℃以下、さらに好ましくは1200℃以下である。
【0094】
また、上記溶解工程における温度は低くなりすぎると、溶解中に失透が発生する、溶け落ちに時間がかかるなどの問題が生じるため、フツリン酸ガラスにおいて好ましくは700℃以上、より好ましくは750℃以上である。リン酸ガラスにおいてより好ましくは800℃以上、さらに好ましくは850℃以上である。本発明の光学ガラスの製造方法においては、以下の結晶析出工程より前にガラス成分が結晶化しないことが好ましく、そのために溶解工程における温度は上記の範囲とすることが好ましい。
【0095】
上記溶解工程に引き続いて行われる結晶析出工程は、徐冷又は、徐冷及び熱処理によって行うことが好ましい。徐冷は、フツリン酸ガラスにおいては0.1~2℃/分の速度で200~250℃になるまで行うことが好ましい。リン酸ガラスにおいては0.1~2℃/分の速度で200~250℃になるまでで行うことが好ましい。
【0096】
また、結晶析出工程を徐冷及び熱処理により行う場合は、上記徐冷の条件と同様の徐冷を行った後、フツリン酸ガラスにおいては徐冷後の温度から、400~600℃にまで昇温させる熱処理を行うことが好ましい。同様にリン酸ガラスにおいては上記徐冷の条件と同様の徐冷を行った後、徐冷後の温度から、350~600℃にまで昇温させる熱処理を行うことが好ましい。
【0097】
本発明の光学ガラスの製造方法では、このような結晶析出工程においてガラス中に結晶が析出する。得られる本発明の光学ガラスは、非晶質(ガラス)部分と結晶部分からなる光学ガラスである。なお、結晶析出工程では、ガラス中にCuCl、CuBr及びCuIから選ばれる少なくとも1種の結晶を析出させることが好ましい。CuCl、CuBr、CuIの結晶を析出することで、得られる光学ガラスにおいて結晶部分を除く非晶質(ガラス)部分のCuの量を減らすことができ、且つ紫外線のシャープカット効果を付与することもできるため好ましい。
【0098】
本発明の光学ガラスは、近赤外線カットフィルタとして好適に用いることができる。デジタルカメラ等に用いられる固体撮像素子は、高感度化や高精細化が進展しており、近紫外線のカット特性が良好であり、可視領域の光の透過率(特に青色光の透過率)が高い本発明の光学ガラスを固体撮像装置の近赤外線カットフィルタとして用いることで、色再現性が良好であり、フレア・偽色・ゴースト等のノイズ成分の発生が抑制された撮像画像を得ることができる。
【実施例
【0099】
以下に本発明の実施例および比較例を示す。
【0100】
本発明の実施例と比較例とを表1~表3に示す。例1-1、例1-2はリン酸ガラスに係る本発明の光学ガラスに関する実施例であり、例1-3はリン酸ガラスに係る本発明の光学ガラスに関する比較例である。例2-1、例2-4~例2-8はフツリン酸ガラスに係る本発明の光学ガラスに関する実施例であり、例2-2、例2-3はフツリン酸ガラスに係る本発明の光学ガラスに関する比較例である。
【0101】
[光学ガラスの作製]
表1に示す組成(酸化物基準の質量%表示)及び表2、表3に示す組成(カチオン%、アニオン%)となるよう原料を秤量・混合し、内容積約400ccの白金ルツボ内に入れて、800~1300℃の温度で2時間溶融、清澄、撹拌後、およそ300~500℃に予熱した縦50mm×横50mm×高さ20mmの長方形のモールドに鋳込んだ。
【0102】
本発明の実施例(例1-1、例1-2、例2-1、例2-4~例2-8)については、長方形のモールドに鋳込んだ後、徐冷、又は、徐冷及び熱処理(例1-1・例1-2:460℃で1時間保持した後、1℃/分で室温まで冷却、次いで480℃で1時間保持した後、1℃/分で室温まで冷却、例2-1:360℃で1時間保持した後、1℃/分で室温まで冷却、例2-4、例2-6~例2-8:360℃で1時間保持した後、1℃/分で室温まで冷却、次いで410℃で2時間保持した後、1℃/分で室温まで冷却、例2-5:410℃で1時間保持した後、1℃/分で室温まで冷却)を行った。比較例(例1-3、例2-2、例2-3)については、徐冷(例1-3:460℃で1時間保持した後、1℃/分で室温まで冷却、例2-2、例2-3:360℃で1時間保持した後、1℃/分で室温まで冷却)とした。各例において縦50mm×横50mm×厚さ20mmのブロック状の光学ガラスを得た。この光学ガラスを研削した後、所望の厚さになるまで研磨したガラス板を評価に用いた。
【0103】
なお、各光学ガラスの原料は、P5+の場合はHPO及び/またはAl(POを、Al3+の場合はAlF、Al(PO及び/またはAlを、Liの場合はLiF、LiNO、LiCO及び/またはLiPOを、Mg2+の場合はMgF及び/またはMgO及び/またはMg(POを、Sr2+の場合はSrF、SrCO及び/またはSr(POを、Ba2+の場合はBaF、BaCO及び/またはBa(POを、NaはNaCl及び/またはNaBr及び/またはNaI及び/またはNaF及び/またはNa(PO)を、K、Ca2+、Zn2+の場合はフッ化物、炭酸塩及び/またはメタリン酸塩を、Sb3+の場合はSbを、Cu2+、Cuの場合はCuO、CuCl、CuBrを、それぞれ使用した。Agの場合はAgNOを使用した。
【0104】
[評価]
各例で得られたガラス板について、結晶析出の有無は、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)等により確認することができる。さらに、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光社製、V570)により波長450~600nmの光の透過率を測定した。例1-1~例1-3については、肉厚0.3mmに換算した透過率(ガラス板の表面反射ありで算出)を得た。例2-1~例2-8については、肉厚0.05mmに換算した透過率(ガラス板の表面反射ありで算出)を得た。表1、2、3に、結晶の有無、波長450~600nmの光の平均透過率および450nmの光の透過率を示す。また、表1にはCu(Cu2+,Cuの合計)のカチオン%での含有量、およびCl+Br+Iのアニオン%での含有量を示す。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
【表3】
【0108】
以上のようにして作製した各光学ガラスの光学特性について、以下の項目を評価した。
【0109】
(波長と透過率の近似直線の傾き)
傾き(S)の決定方法は以下のとおりである。
光学ガラスの分光透過率を測定する。次いで、300nm~450nmの波長帯域の光の透過率が50%にとなる波長(整数値、λ50(300-450))を特定する。ここで、分光透過率を示す曲線より得られる波長が整数値とならない場合は、最も近い整数値を透過率が50%となる波長とする。そして、λ50(300-450)を中心とし、λ50(300-450)から短波長側および長波長側にそれぞれ3nm離れた波長まで1nmごとの透過率データを7点決定する。そして、この7点のデータより波長をX軸、透過率をY軸とした近似直線を作成し、得られる近似直線の傾きを前述の波長と透過率との近似直線の傾きとする。
この方法で決定した実施例・比較例の傾き(S)を表4、表5、表6に示す。
【0110】
(波長450nm~480nmの波長帯域の光の平均透過率)
光学ガラスの分光透過率を測定する。そして、得られた分光透過率から、波長450nm~480nmの波長帯域の光の平均透過率を算出する。
この方法で得られた実施例・比較例の平均透過率を表4、表5、表6に示す。
【0111】
(紫外線側の透過率50%の波長と赤外線側の透過率50%の波長との差)
上記で得られたλ50(300-450)を紫外線側の透過率50%の波長とする。同様に600nm~700nmの波長帯域の光の透過率が50%にとなる波長(整数値、λ50(600-700))を特定する。そして、両データの差分から波長の差(λ50(600-700)-λ50(300-450))を算出する。
この方法で得られた実施例・比較例の波長の差を表4、表5、表6に示す。
【0112】
(平均吸光係数の比率)
光学ガラスの平均吸光係数の比率の決定方法は以下のとおりである。
光学ガラスの分光透過率を測定する。そして、得られた分光透過率から、波長450nm~480nmの波長帯域の平均吸光係数(ε(450-480))および波長700nm~850nmの波長帯域の平均吸光係数(ε(700-850))をそれぞれ算出する。そして、波長700nm~850nmの波長帯域の平均吸光係数を、波長450nm~480nmの波長帯域の平均吸光係数で割ることで平均吸光係数の比率(ε(700-850)/ε(450-480))を決定する。
この方法で得られた実施例・比較例の平均吸光係数の比率を表4、表5、表6に示す。
【0113】
【表4】
【0114】
【表5】
【0115】
【表6】
【0116】
表4、表5、表6より、本発明の実施例の各光学ガラスは、比較例の各光学ガラスに対し、近紫外線のカット特性が急峻(傾き(S)が急)である。これにより、不要な近紫外線の透過率を極めて低くできるため、撮像画像におけるフレア、偽色、ゴースト等の発生を抑制することができる。
【0117】
本発明の実施例の各光学ガラスは、比較例の各光学ガラスに対し、可視領域の青色光の透過率が特に高い。これにより、色再現性が良好な撮像画像を得ることができる。
本発明の実施例の各光学ガラスは、可視領域の波長帯の幅(λ50(600-700)-λ50(300-450))が広い。これにより、色再現性が良好な撮像画像を得ることができる。
【0118】
本発明の実施例の各光学ガラスは、比較例の各光学ガラスに対し、平均吸光係数の比率(ε(700-850)/ε(450-480))が高い。すなわち、本発明の実施例の各光学ガラスは、遮蔽すべき近赤外線の光を確実にカットしつつ、透過したい可視領域の青色光の透過率が高い。このように、メリハリのある光学特性を備えるため、色再現性が良好な撮像画像を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明によれば、近紫外線を確実にカットすることで偽色やフレア等の発生を抑制し、かつ可視領域の光(特に青色光)の透過率の高い光学ガラスが得られるため、高感度化・高精細化する固体撮像装置の近赤外線カットフィルタガラスに用いた場合、特に青色光の透過率が高く色再現性が良好である。また、近紫外線のカット特性が高いため、撮像画像におけるフレア、偽色、ゴースト等のノイズの発生を抑制することができる。