(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】印刷物の潜像読取方法、潜像読取装置及び潜像読取ソフトウェア
(51)【国際特許分類】
H04N 1/32 20060101AFI20220216BHJP
B41M 3/14 20060101ALI20220216BHJP
G06T 1/00 20060101ALI20220216BHJP
G06T 7/13 20170101ALI20220216BHJP
【FI】
H04N1/32 144
B41M3/14
G06T1/00 500B
G06T7/13
(21)【出願番号】P 2021033153
(22)【出願日】2021-03-03
【審査請求日】2021-06-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】内田 享佑
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 一矢
【審査官】橘 高志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-213107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 1/32
B41M 3/14
G06T 1/00
G06T 7/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷物の潜像読取方法であって、
前記印刷物は、潜像部と背景部からなる印刷領域を有し、
前記印刷領域は、エッジの抽出処理を行うことで、前記潜像部及び前記背景部が有する潜像の特異点を強調できることを特徴とし、
前記印刷領域を撮影又は走査して、画像データを取得するステップと、
前記潜像の特性に応じて設定されたパラメータを読み込むステップと、
前記画像データに対して、前記潜像を抽出するための
グレースケール画像への変換を行うステップと、解像度の変換を行うステップとを含む前処理を、前記パラメータに従って行うステップと、
前記前処理が行われた前記画像データに対して、前記潜像の局所的特徴であるエッジの抽出処理を、前記パラメータに従って行うステップと、
前記エッジの抽出処理が行われた前記画像データに対して、前記潜像を鮮明に可視化するための後処理を、前記パラメータに従って行うステップと、
前記後処理が行われた前記画像データを、画面表示するステップを備えることを特徴とする印刷物の潜像読取方法。
【請求項2】
前記前処理を行うステップが、コントラストの調整を行うステップと、一次元平滑化又はニ次元平滑化を行うステップのうちから、選択されたステップを含み、
前記後処理を行うステップが、一次元平滑化又はニ次元平滑化を行うステップと、階調の反転を行うステップと、コントラストの調整を行うステップと、スムージングを行うステップのうちから、選択されたステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の印刷物の潜像読取方法。
【請求項3】
印刷物の潜像読取装置であって、
前記印刷物に施された潜像が含まれる領域を、撮影又は走査して、画像データを取得する画像入力部と、
前記潜像の特性に応じて設定されたパラメータを読み込み、前記画像データに対して、前記潜像を抽出するための
グレースケール画像への変換と、解像度の変換とを含む前処理として、コントラストの調整と、一次元平滑化又はニ次元平滑化
から選択される少なくとも一つを、前記パラメータに従って行い、前記前処理が行われた前記画像データに対して、前記潜像の局所的特徴であるエッジの抽出処理を、前記パラメータに従って行い、前記エッジの抽出処理が行われた前記画像データに対して、前記潜像を鮮明に可視化するための後処理として、
一次元平滑化、ニ次元平滑化、階調の反転から選択される少なくとも一つと、コントラストの調整と、スムージングを、前記パラメータに従って行う画像処理部と、
前記後処理が行われた前記画像データを、画面表示する画像表示部を備えることを特徴とする印刷物の潜像読取装置。
【請求項4】
請求項1及び2に記載の印刷物の潜像読取方法を、画像入力部、画像処理部及び画像表示部を備える請求項3に記載の印刷物の潜像読取装置に実行させるための印刷物の潜像読取ソフトウェアであって、
前記画像入力部によって、前記印刷物に施された潜像が含まれる領域を、撮影又は走査して、画像データを取得するステップと、
前記画像処理部によって、前記潜像の特性に応じて設定されたパラメータを読み込むステップと、前記画像データに対して、前記潜像を抽出するための
グレースケール画像への変換を行うステップと、解像度の変換を行うステップとを含む前処理として、コントラストの調整を行うステップと、一次元平滑化
を行うステップ又はニ次元平滑化を行うステップ
から選択される少なくとも一つを、前記パラメータに従って行うステップと、
前記画像処理部によって、前記前処理が行われた前記画像データに対して、前記潜像の局所的特徴であるエッジの抽出処理を、前記パラメータに従って行うステップと、
前記画像処理部によって、前記エッジの抽出処理が行われた前記画像データに対して、前記潜像を鮮明に可視化するための後処理として、一次元平滑化
を行うステップと、ニ次元平滑化を行うステップと、階調の反転を行うステップ
から選択される少なくとも一つと、コントラストの調整を行うステップと、スムージングを行うステップを、前記パラメータに従って行うステップと、
前記画像表示部によって、前記後処理が行われた前記画像データを、画面表示するステップを備えることを特徴とする印刷物の潜像読取ソフトウェア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷物の潜像読取方法、潜像読取装置及び潜像読取ソフトウェアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
本人確認書類には、偽造や変造のような不正行為を防ぐための偽造防止技術が採用されている。なお、本人確認書類とは、公的機関から発行された身分証明書や住民票等を指し、所持人や申請者の実在性(架空の人物ではないこと)と同一性(他人のなりすましではないこと)を確認するための書類である。
【0003】
本人確認書類の偽造や変造を防ぐための偽造防止技術の一つに、印刷物に判別具を重ね合わせて潜像を確認する技術がある。これは、潜像が施された印刷物に対して、判別具を重ね合わせることによって潜像を発現させるものであり、本出願人も、特許文献1のような画線構成で潜像を形成するとともに、判別具によって潜像を発現させる偽造防止印刷物を出願している。
【0004】
この偽造防止印刷物は、
図1に示すような画線の集合体によって構成された潜像の印刷物である。この印刷物に対して、半円筒型の凸レンズが配列された判別具(レンチキュラーレンズ)のレンズを水平方向に重ね合わせると、
図2(a)に示すような第1の潜像模様「A」が発現する。また、レンズを垂直方向に重ね合わせると、
図2(b)に示すような第2の潜像模様「B」が発現する。本人確認書類の受理者は、この潜像を書類の記載事項と照合することで真偽判定を行える効果がある。
【0005】
さらに別の偽造防止技術として、潜像が施された印刷物を複写機でコピーすると、複写物上に潜像を発現させる技術がある。これはコピー牽制印刷物とも呼ばれ、例えば特許文献2では、
図3に示すように、複写機で再現が容易な網点からなる潜像部〔1〕と、複写機で再現が困難な網点からなる背景部〔2〕で構成されている。なお、本出願人も特許文献3のようなコピー牽制印刷物を出願している。これも特許文献2と同様に、複写機で再現が容易な画線からなる潜像部と、複写機で再現が困難な網点からなる背景部で構成されている。
【0006】
これらのコピー牽制印刷物は、いずれも乾式電子写真方式の複写機で印刷物をコピーすると、
図4に示すように、複写物上では再現が困難な網点又は画線からなる背景部〔2〕が欠落し、再現が容易な網点又は画線からなる潜像部〔1〕だけが複写物に残存するという特性を利用したものである。本人確認書類では、コピーしたものが無効である表示を複写物上に発現させることで利用者の不正な行使を牽制するとともに、書類の受理者は、それが複写物であることを容易に判定できる効果がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4635160号公報
【文献】特公昭58-47708号公報
【文献】特開2020-089971号公報
【文献】特開2019-213107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前者の判別具を使用する偽造防止印刷物の潜像を確認するには、判別具が必要不可欠であるが、本人確認書類を真偽判定する場面において、常に判別具を所持しているとは限らないことから、迅速に確認できないことが多かった。
【0009】
また、後者のコピー牽制印刷物は、複写物上に潜像を発現させるものであり、原本の潜像を確認するには、複写機によって本人確認書類をコピーする作業が必要となる。これは、行政機関の窓口のように複写機が設置されている環境に依存する方法であり、駅や空港等の公共交通機関を利用した移動時や、施設等の入場時には、簡易的に書類の潜像を確認できないという不便さがあった。
【0010】
本出願人は、このような課題を解決するため、特許文献4に示す印刷物の読取検査装置を出願している。これは、潜像が施された印刷物を撮影して画像データを取得し、得られた画像データに対して、一方向への平滑化処理、局所的特徴であるエッジを抽出する処理、他方向への平滑化処理を行うことで、潜像を可視化して画面表示するための読取検査装置である。
【0011】
なお、このような装置を使って本人確認書類の真偽判定をする場合、対面や非対面を問わず、確実に潜像を可視化して確認できることが重要視される。
【0012】
しかしながら、特許文献4の印刷物の読取検査装置は、特許文献1の偽造防止印刷物の潜像の可視化に特化したアルゴリズムで設計されている。そのため、特許文献2及び3のようなコピー牽制印刷物を観察した場合は、潜像を鮮明に可視化できないことから、真偽判定の用途としては不十分であり、多様な偽造防止印刷物への対応を図れないという課題があった。
【0013】
また、特許文献4のアルゴリズムは、一方向に限定した処理であるため、特許文献1の偽造防止印刷物を観察した場合、可視化できるのは
図2(a)に示す第1の潜像模様「A」だけであり、
図2(b)に示す第2の潜像模様「B」を確認するには、撮影した画像データを90度回転させる処理を組み込むか、印刷物もしくは読取検査装置を90度回転させて観察しなければならなかった。
【0014】
本発明は上述した事情を鑑み、より多様性の高いアルゴリズムを提案するものであり、潜像が施された印刷物から、潜像を可視化して確認するための潜像読取方法、潜像読取装置及び潜像読取ソフトウェアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の印刷物の潜像読取方法は、印刷物に施された潜像が含まれる領域を、撮影又は走査して、画像データを取得するステップと、潜像の特性に応じて設定されたパラメータを読み込むステップと、画像データに対して、潜像を抽出するための前処理として、グレースケール画像への変換を行うステップと、解像度の変換を行うステップと、コントラストの調整を行うステップと、一次元平滑化又はニ次元平滑化を行うステップを、パラメータに従って行うステップと、前処理が行われた画像データに対して、潜像の局所的特徴であるエッジの抽出処理を、パラメータに従って行うステップと、エッジの抽出処理が行われた画像データに対して、潜像を鮮明に可視化するための後処理として、一次元平滑化又はニ次元平滑化を行うステップと、階調の反転を行うステップと、コントラストの調整を行うステップと、スムージングを行うステップを、パラメータに従って行うステップと、後処理が行われた画像データを、画面表示するステップを備えるものである。
【0016】
本発明の印刷物の潜像読取装置は、印刷物に施された潜像が含まれる領域を、撮影又は走査して、画像データを取得する画像入力部と、潜像の特性に応じて設定されたパラメータを読み込み、画像データに対して、潜像を抽出するための前処理として、グレースケール画像への変換と、解像度の変換と、コントラストの調整と、一次元平滑化又はニ次元平滑化を、パラメータに従って行い、前処理が行われた画像データに対して、潜像の局所的特徴であるエッジの抽出処理を、パラメータに従って行い、エッジの抽出処理が行われた画像データに対して、潜像を鮮明に可視化するための後処理として、一次元平滑化又はニ次元平滑化と、階調の反転と、コントラストの調整と、スムージングを、パラメータに従って行う画像処理部と、後処理が行われた画像データを、画面表示する画像表示部を備えるものである。
【0017】
本発明の印刷物の潜像読取方法を、画像入力部、画像処理部及び画像表示部を備える印刷物の潜像読取装置に実行させるための印刷物の潜像読取ソフトウェアは、画像入力部によって、印刷物に施された潜像が含まれる領域を、撮影又は走査して、画像データを取得するステップと、画像処理部によって、潜像の特性に応じて設定されたパラメータを読み込むステップと、画像データに対して、潜像を抽出するための前処理として、グレースケール画像への変換を行うステップと、解像度の変換を行うステップと、コントラストの調整を行うステップと、一次元平滑化又はニ次元平滑化を行うステップを、パラメータに従って行うステップと、画像処理部によって、前処理が行われた画像データに対して、潜像の局所的特徴であるエッジの抽出処理を、パラメータに従って行うステップと、画像処理部によって、エッジの抽出処理が行われた画像データに対して、潜像を鮮明に可視化するための後処理として、一次元平滑化又はニ次元平滑化を行うステップと、階調の反転を行うステップと、コントラストの調整を行うステップと、スムージングを行うステップを、パラメータに従って行うステップと、画像表示部によって、後処理が行われた画像データを、画面表示するステップを備えるものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の印刷物の潜像読取方法、潜像読取装置及び潜像読取ソフトウェアによれば、本人確認書類の真偽判定をする場面において、対面や非対面を問わず、潜像を可視化して確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図5】本発明の実施の形態における印刷物の潜像読取装置の構成を示すブロック図。
【
図6】同実施の形態における印刷物の潜像読取方法の手順を示すフローチャート図。
【
図7】同実施の形態における印刷物の潜像読取方法の前処理の手順を示すフローチャート図。
【
図8】同実施の形態における印刷物の潜像読取方法の後処理の手順を示すフローチャート図。
【
図9】特許文献1の画線構成の一例を示す模式図。(実施例1)
【
図10】特許文献1の潜像模様の一例を示す模式図。(実施例1)
【
図11】
図9の画像データに対して、一次元平滑化を行った画像データの模式図。(実施例1)
【
図12】
図11の画像データに対して、エッジの抽出処理を行った画像データの模式図。(実施例1)
【
図13】
図12の画像データに対して、一次元平滑化を行った画像データの模式図。(実施例1)
【
図14】
図13の画像データに対して、コントラスト調整を行った画像データの模式図。(実施例1)
【
図15】
図14の画像データに対して、スムージングを行った画像データの模式図。(実施例1)
【
図16】印刷物の潜像読取装置を使用して、特許文献1の潜像を可視化した状態を示す図。(実施例1)
【
図17】特許文献2の潜像模様の一例を示す模式図。(実施例2)
【
図18】
図3の印刷物から取得した画像データに対して、エッジの抽出処理を行った画像データの模式図。(実施例2)
【
図19】
図18の画像データに対して、二次元平滑化を行った画像データの模式図。(実施例2)
【
図20】
図19の画像データに対して、コントラスト調整を行った画像データの模式図。(実施例2)
【
図21】
図20の画像データに対して、スムージングを行った画像データの模式図。(実施例2)
【
図22】印刷物の潜像読取装置を使用して、特許文献2の潜像を可視化した状態を示す図。(実施例2)
【
図23】特許文献3の画線構成の一例を示す模式図。(実施例3)
【
図24】特許文献3の潜像模様の一例を示す模式図。(実施例3)
【
図25】
図23の印刷物から取得した画像データに対して、一次元平滑化を行った画像データの模式図。(実施例3)
【
図26】
図25の画像データに対して、エッジの抽出処理を行った画像データの模式図。(実施例3)
【
図27】
図26の画像データに対して、一次元平滑化を行った画像データの模式図。(実施例3)
【
図28】
図27の画像データに対して、階調反転を行った画像データの模式図。(実施例3)
【
図29】
図28の画像データに対して、コントラスト調整を行った画像データの模式図。(実施例3)
【
図30】
図29の画像データに対して、スムージングを行った画像データの模式図。(実施例3)
【
図31】印刷物の潜像読取装置を使用して、特許文献3の潜像を可視化した状態を示す図。(実施例3)
【
図32】実施例1、実施例2及び実施例3の処理内容の一覧表。
【
図33】ユーザーインターフェースの一例を示す概要図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、本実施の形態において、同一の構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0021】
本発明の印刷物の潜像読取装置は、
図5に示すように、画像入力部〔U01〕、画像処理部〔U02〕、画像表示部〔U03〕を備えている。
【0022】
画像入力部〔U01〕は、カメラ又はスキャナによって印刷物に施された潜像が含まれる領域を撮影又は走査して、画像データを取得する。
【0023】
画像処理部〔U02〕は、画像入力部〔U01〕によって取得された画像データに対して、潜像を抽出して可視化する処理を行う。
【0024】
画像表示部〔U03〕は、画像処理部〔U02〕で処理された画像データを、液晶ディスプレイ等の画面に表示する。
【0025】
本発明の印刷物の潜像読取方法は、上述した印刷物の潜像読取装置を用いて潜像の可視化を行うもので、
図6に示すような手順で処理する。
【0026】
ステップS01として、画像入力部〔U01〕のカメラ又はスキャナを起動する。
【0027】
ステップS02として、画像入力部〔U01〕のカメラ又はスキャナにより、印刷物に施された潜像が含まれる領域を撮影又は走査して、画像データを取得する。
【0028】
ステップS03として、画像処理部〔U02〕により、潜像の特性に応じて設定されたパラメータを読み込む。
【0029】
ステップS04として、取得された画像データに対して、画像処理部〔U02〕により、潜像を抽出するための前処理を行う。
【0030】
ステップS05として、前処理が行われた画像データに対して、微分フィルタ(プレヴィットフィルタ、ソーベルフィルタ、ラプラシアンフィルタ等)を適用して、潜像の局所的特徴(以下「エッジ」という。)を抽出する処理を行う。
【0031】
ステップS06として、エッジの抽出処理が行われた画像データに対して、潜像を鮮明に可視化するための後処理を行う。
【0032】
ステップS07として、画像表示部〔U03〕の液晶ディスプレイ等により、画像処理部〔U02〕で処理された画像データを画面表示する。なお、ステップS02からステップS07までの処理を繰り返すことで、常に最新の画像データが画面に表示される。
【0033】
ステップS08として、画像入力部〔U01〕のカメラ又はスキャナの動作を停止して、潜像読取を終了する。
【0034】
ステップS04の前処理は、ステップS05のエッジの抽出処理において、潜像を抽出するために行うもので、
図7に示すような手順で処理する。
【0035】
ステップS11として、グレースケール画像への変換を行う。この処理は、画像入力部〔U01〕で取得した画像データが、例えば24bitのRGB画像である場合、以降の処理の演算負荷を軽減させるため、例えば8bitのグレースケール画像へ変換するものである。
【0036】
ステップS12として、解像度の変換を行う。この処理は、画像入力部〔U01〕で取得した画像データの画素数がエッジの抽出処理をするのに不十分である場合、例えば4倍の画素数(縦2倍×横2倍)へ解像度を変換するものである。
【0037】
ステップS13として、コントラストの調整を行う。この処理は、画像データのコントラストがエッジの抽出処理をするのに不十分である場合、例えばハイライトポイントの調整、シャドウポイントの調整及びガンマ補正を行うものである。
【0038】
ステップS14として、一次元(x次元又はy次元)平滑化又はニ次元平滑化を行う。この処理は、エッジの抽出処理をする前の画像データに不要なノイズ成分等がある場合、例えば平均化フィルタ(ガウシアンフィルタ等)によるノイズ除去を行うものである。
【0039】
ステップS06の後処理は、ステップS05のエッジの抽出処理が行われた画像データに対して、潜像を鮮明に可視化するために行うもので、
図8に示すような手順で処理する。
【0040】
ステップS21として、一次元(x次元又はy次元)平滑化又はニ次元平滑化を行う。この処理は、エッジの抽出処理をした後の画像データに不要なノイズ成分等がある場合、例えば平均化フィルタ(ガウシアンフィルタ等)によるノイズ除去を行うものである。
【0041】
ステップS22として、階調の反転を行う。この処理は、潜像がネガ画像として抽出された場合、可視化のためにポジ画像へ反転するものである。
【0042】
ステップS23として、コントラストの調整を行う。この処理は、潜像を鮮明に可視化するのに不十分である場合、例えばハイライトポイントの調整、シャドウポイントの調整及びガンマ補正を行うものである。
【0043】
ステップS24として、スムージングを行う。この処理は、潜像を鮮明に可視化するのに不十分である場合、例えば中央値フィルタ(メディアンフィルタ等)による平滑化を行うものである。
【0044】
なお、本発明の印刷物の潜像読取方法によって、可視化できる潜像は、画線又は網点で構成されており、画線又は網点のエッジの抽出処理をすることによって、潜像の特異点を強調できるものが対象となる。また、ステップS04の前処理からステップS06の後処理までは、ステップS03で読み込んだ潜像の特性に応じて設定されたパラメータに従って処理される。
【0045】
本発明の印刷物の潜像読取ソフトウェアは、本実施の形態による印刷物の潜像読取装置に本実施の形態による印刷物の潜像読取方法を実行させるものであり、例えば、印刷物の潜像読取装置として動作するコンピュータ又はスマートフォンに、本実施の形態による印刷物の潜像読取方法のプログラムを実行させるものである。
【0046】
また、本発明の印刷物の潜像読取ソフトウェアは、本実施の形態による印刷物の潜像読取装置で処理されるステップS04、ステップS05(ステップS11からステップS14までを含む。)及びステップS06(ステップS21からステップS24までを含む。)について、対象の印刷物に施された潜像の特性に応じて、各ステップのパラメータを簡易な操作で設定するためのユーザーインターフェースを備えている。
【0047】
本実施の形態によれば、本発明の印刷物の潜像読取装置を用いることで、潜像が施された印刷物の潜像を可視化して確認できる。そのため、対面や非対面を問わず、本人確認書類の真偽判定が可能である。
【実施例1】
【0048】
特許文献1の画線構成の潜像を可視化する実施例を、図面を参照して説明する。
【0049】
図1に示す特許文献1の潜像の印刷物は、
図9(a)に示す画線と、
図9(b)に示す画線を統合したものであるが、ここでは、それぞれの画線を個別に説明する。なお、
図9(a)の画線は、
図10(a)に示す第1の潜像模様「A」が秘匿化されており、
図9(b)の画線は、
図10(b)に示す第2の潜像模様「B」が秘匿化されている。
【0050】
このような画線構成の潜像は、潜像部と背景部の位相が切り替わる部分において画線の連続性が途切れる特性を持っており、この部分が潜像を抽出する上での特異点(以下「位相変調点」という。)となる。但し、特許文献1の画線構成の場合は、位相変調点以外にも画線が分断する形態をとるため、潜像読取方法のステップS14に示す一次元(x次元又はy次元)平滑化を行うことで、同じ位相の画線同士を連結して、潜像を抽出する上での不要なノイズ成分を除去する。例えば、以下の数1又は数2のようなガウシアンフィルタを適用してもよい。
図9(a)に示す画線に、数1を適用してx次元平滑化を行った画像データの模式図を
図11(a)に示す。また、
図9(b)に示す画線に、数2を適用してy次元平滑化を行った画像データの模式図を
図11(b)に示す。
【0051】
【0052】
【0053】
同画像データに対して、潜像読取方法のステップS05に示すエッジの抽出処理を行うことで、潜像の特異点を強調する。例えば、以下の数3又は数4のような一次微分フィルタ(プレヴィットフィルタ)を適用してもよい。
図11(a)に示す画像データの模式図に、数3を適用してエッジの抽出処理を行った画像データの模式図を
図12(a)に示す。また、
図11(b)に示す画像データの模式図に、数4を適用してエッジの抽出処理を行った画像データの模式図を
図12(b)に示す。
【0054】
【0055】
【0056】
同画像データは、潜像は抽出されているが、潜像以外の画線も残存しており、潜像を鮮明に可視化するのに不十分である。そこで、潜像読取方法のステップS21に示す一次元(y次元又はx次元)平滑化を行うことで、潜像を鮮明に可視化する上での不要なノイズ成分を除去する。例えば、前述の数2又は数1のようなガウシアンフィルタを適用してもよい。
図12(a)に示す画像データの模式図に、数2を適用してy次元平滑化を行った画像データの模式図を
図13(a)に示す。また、
図12(b)に示す画像データの模式図に、数1を適用してx次元平滑化を行った画像データの模式図を
図13(b)に示す。
【0057】
同画像データは、所望の明るさやコントラストが得られずに、潜像を鮮明に可視化するのに不十分である。そこで、潜像読取方法のステップS23に示すコントラスト調整として、例えばハイライトポイントの調整、シャドウポイントの調整及びガンマ補正を行い、潜像を鮮明に可視化するために画像データのヒストグラムを最適化する。
図13(a)に示す画像データの模式図に、コントラスト調整を行った画像データの模式図を
図14(a)に示す。また、
図13(b)に示す画像データの模式図に、コントラスト調整を行った画像データの模式図を
図14(b)に示す。
【0058】
同画像データは、コントラスト調整等によってノイズ成分が強調されたことで、所望の画質が得られずに、潜像を鮮明に可視化するのに不十分である。そこで、潜像読取方法のステップS24に示すスムージングを行うことで、潜像を鮮明に可視化する上での不要なノイズ成分を除去する。例えば、以下の数5のようなガウシアンフィルタを適用してもよい。また、ガウシアンフィルタの適用によって潜像の輪郭部が不鮮明になってしまう場合は、代替としてメディアンフィルタを適用してもよい。
図14(a)に示す画像データの模式図に、スムージングを行った画像データの模式図を
図15(a)に示す。また、
図14(b)に示す画像データの模式図に、スムージングを行った画像データの模式図を
図15(b)に示す。
【0059】
【0060】
同画像データを、本実施の形態の潜像読取装置の画像表示部〔U03〕の画面に表示する。
図16(a)は、潜像読取装置〔3〕によって特許文献1の潜像の印刷物〔5〕を撮影し、本実施例1の潜像読取方法によって第1の潜像模様「A」を可視化した画像データを、潜像読取装置〔3〕の画像表示部〔4〕に画面表示した状態を示すものである。また、
図16(b)は、潜像読取装置〔3〕によって特許文献1の潜像の印刷物〔5〕を撮影し、本実施例1の潜像読取方法によって第2の潜像模様「B」を可視化した画像データを、潜像読取装置〔3〕の画像表示部〔4〕に画面表示した状態を示すものである。以上のように、同一の印刷物を撮影して取得した同一の画像データに対して、個別のアルゴリズムを適用すれば、第1の潜像模様「A」と第2の潜像模様「B」を切り替えて画面表示することが可能である。
【実施例2】
【0061】
特許文献2の網点構成の潜像を可視化する実施例を、図面を参照して説明する。
【0062】
図3に示す特許文献2の潜像の印刷物は、
図17に示す潜像模様「A」が秘匿化されている。このような網点構成の潜像は、潜像部の網点の輪郭の長さと、背景部の網点の輪郭の長さが異なる特性を持っており、この部分が潜像を抽出する上での特異点となる。そこで、潜像読取方法のステップS05に示すエッジの抽出処理を行うことで、潜像の特異点を強調する。なお、それぞれの網点の輪郭は全方向に対して存在するため、方向性に依存せずにエッジを抽出する。例えば、以下の数6のようなニ次微分フィルタ(ラプラシアンフィルタ)を適用してもよい。
図17に示す画像データの模式図に、数6を適用してエッジの抽出処理を行った画像データの模式図を
図18に示す。
【0063】
【0064】
同画像データは、潜像は抽出されているが、網点のパターンが残存しており、潜像を鮮明に可視化するのに不十分である。そこで、潜像読取方法のステップS21に示すニ次元平滑化を行うことで、潜像を鮮明に可視化する上での不要なノイズ成分を除去する。例えば、前述の数5のようなガウシアンフィルタを適用してもよい。
図18に示す画像データの模式図に、数5を適用してニ次元平滑化を行った画像データの模式図を
図19に示す。
【0065】
同画像データは、所望の明るさやコントラストが得られずに、潜像を鮮明に可視化するのに不十分である。そこで、潜像読取方法のステップS23に示すコントラスト調整として、例えばハイライトポイントの調整、シャドウポイントの調整及びガンマ補正を行い、潜像を鮮明に可視化するために画像データのヒストグラムを最適化する。
図19に示す画像データの模式図に、コントラスト調整を行った画像データの模式図を
図20に示す。
【0066】
同画像データは、コントラスト調整等によってノイズ成分が強調されたことで、所望の画質が得られずに、潜像を鮮明に可視化するのに不十分である。そこで、潜像読取方法のステップS24に示すスムージングを行うことで、潜像を鮮明に可視化する上での不要なノイズ成分を除去する。例えば、前述の数5のようなガウシアンフィルタを適用してもよい。また、ガウシアンフィルタの適用によって潜像の輪郭部が不鮮明になってしまう場合は、代替としてメディアンフィルタを適用してもよい。
図20に示す画像データの模式図に、スムージングを行った画像データの模式図を
図21に示す。
【0067】
同画像データを、本実施の形態の潜像読取装置の画像表示部〔U03〕の画面に表示する。
図22は、潜像読取装置〔3〕によって特許文献2の潜像の印刷物〔6〕を撮影し、本実施例2の潜像読取方法によって潜像模様「A」を可視化した画像データを、潜像読取装置〔3〕の画像表示部〔4〕に画面表示した状態を示すものである。
【実施例3】
【0068】
特許文献3の画線構成の潜像を可視化する実施例を、図面を参照して説明する。
【0069】
図23に示す特許文献3の潜像の印刷物は、
図24に示す潜像模様「☆」が秘匿化されている。この印刷物は、潜像部が画線で構成され、背景部が網点で構成されており、前者の潜像部の画線が潜像を抽出する上での特異点となる。したがって、潜像読取方法のステップS14に示すy次元平滑化を行うことで、後者の背景部の網点を除去する。例えば、前述の数2のようなガウシアンフィルタを適用してもよい。
図23に示す画線構成の潜像に、数2を適用してy次元平滑化を行った画像データの模式図を
図25に示す。
【0070】
同画像データに対して、潜像読取方法のステップS05に示すエッジの抽出処理を行うことで、潜像の特異点を強調する。例えば、以下の数7のような一次微分フィルタを適用してもよい。
図25に示す画像データの模式図に、数7を適用してエッジの抽出処理を行った画像データの模式図を
図26に示す。
【0071】
【0072】
同画像データは、潜像は抽出されているが、画線同士が分離しており、潜像を鮮明に可視化するのに不十分である。そこで、潜像読取方法のステップS21に示すy次元平滑化を行うことで、潜像を鮮明に可視化する上での不要なノイズ成分を除去する。例えば、前述の数2のようなガウシアンフィルタを適用してもよい。
図26に示す画像データの模式図に、数2を適用してy次元平滑化を行った画像データの模式図を
図27に示す。
【0073】
同画像データは、潜像がネガ画像として抽出されている。そこで、潜像読取方法のステップS22に示す階調の反転を行い、潜像をポジ画像へ反転する。
図27に示す画像データの模式図に、階調反転を行った画像データの模式図を
図28に示す。
【0074】
同画像データは、所望の明るさやコントラストが得られずに、潜像を鮮明に可視化するのに不十分である。そこで、潜像読取方法のステップS23に示すコントラスト調整として、例えばハイライトポイントの調整、シャドウポイントの調整及びガンマ補正を行い、潜像を鮮明に可視化するために画像データのヒストグラムを最適化する。
図28に示す画像データの模式図に、コントラスト調整を行った画像データの模式図を
図29に示す。
【0075】
同画像データは、コントラスト調整等によってノイズ成分が強調されたことで、所望の画質が得られずに、潜像を鮮明に可視化するのに不十分である。そこで、潜像読取方法のステップS24に示すスムージングを行うことで、潜像を鮮明に可視化する上での不要なノイズ成分を除去する。例えば、前述の数5のようなガウシアンフィルタを適用してもよい。また、ガウシアンフィルタの適用によって潜像の輪郭部が不鮮明になってしまう場合は、代替としてメディアンフィルタを適用してもよい。
図29に示す画像データの模式図に、スムージングを行った画像データの模式図を
図30に示す。
【0076】
同画像データを、本実施の形態の潜像読取装置の画像表示部〔U03〕の画面に表示する。
図31は、潜像読取装置〔3〕によって特許文献3の潜像の印刷物〔7〕を撮影し、本実施例3の潜像読取方法によって潜像模様「☆」を可視化した画像データを、潜像読取装置〔3〕の画像表示部〔4〕に画面表示した状態を示すものである。
【0077】
実施例1、実施例2及び実施例3で説明した処理内容を一覧表にまとめたものを
図32に示す。このように、潜像を鮮明に可視化するためには、対象の印刷物に施された潜像の特性に応じて、各ステップのパラメータを設定するのが好ましい。
【0078】
また、パラメータは、例えば潜像読取方法のステップS14に示す一次元平滑化又はニ次元平滑化で適用する平均化フィルタであれば、軸方向、カーネル(Kernel)サイズ及び標準偏差σを与える必要がある。これらのパラメータについては、本実施の形態の潜像読取ソフトウェアに、
図33に示すような簡易な操作でパラメータを設定するためのユーザーインターフェースを備えてもよい。
【0079】
以上、本発明の実施の形態及び実施例について説明したが、実施の形態及び実施例は一例として提示したものであり、発明の技術的範囲を限定することは意図していない。また、本発明の実施の形態及び実施例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施の形態やその変形は、発明の技術的範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0080】
1 潜像部
2 背景部
3 潜像読取装置
4 潜像読取装置の画像表示部
5 特許文献1の潜像の印刷物
6 特許文献2の潜像の印刷物
7 特許文献3の潜像の印刷物
U01 画像入力部
U02 画像処理部
U03 画像表示部