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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-25
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20220217BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220217BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20220217BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/36 C
H01M4/48
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017032413
(22)【出願日】2017-02-23
(65)【公開番号】P2017162801
(43)【公開日】2017-09-14
【審査請求日】2020-02-19
(31)【優先権主張番号】P 2016043988
(32)【優先日】2016-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】特許業務法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 三香子
(72)【発明者】
【氏名】林 徹太郎
(72)【発明者】
【氏名】栗原 好治
【審査官】佐宗 千春
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/073104(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/150167(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/004590(WO,A1)
【文献】特開2012-142268(JP,A)
【文献】特開2003-123750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
10/05-10/0587
10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム金属複合酸化物からなる正極活物質により構成された正極と、リチウムの挿抜が可能な負極と、を、セパレータを介して積層させて電極体とし、
該電極体に、電解質としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解した非水系電解液を含侵させた非水系電解質二次電池であって、
前記電極体を構成する正極電極は、前記正極と、
該正極の表面に、タンタルとリチウムとを含む化合物から形成されている被覆層と、を有し、
前記化合物がリチウムイオン伝導体であり、
前記被覆層の厚さが、1~500nmであり、
前記化合物が非晶質状態である、
ことを特徴とする非水系電解質二次電池。
【請求項2】
前記化合物は、タンタル酸リチウムである、
ことを特徴とする請求項1に記載の非水系電解質二次電池。
【請求項3】
前記タンタル酸リチウムは、
LiTaO、LiTa、LiTaO、LiTaOからなる群から選択されるいずれか一の化合物を含む、
ことを特徴とする請求項に記載の非水系電解質二次電池。
【請求項4】
前記化合物が誘電体である、
ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池。
【請求項5】
前記正極が薄膜であり、
前記被覆層が、前記正極に重畳して形成されている、
ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池。
【請求項6】
前記リチウム金属複合酸化物が粒子状であり、
前記被覆層が、前記リチウム金属複合酸化物の粒子の表面に形成されている、
ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池。
【請求項7】
前記被覆層に含まれているタンタル量が、
前記リチウム金属複合酸化物に含まれるリチウム以外の金属元素の合計に対して0.05~5.0原子%である、
ことを特徴とする請求項に記載の非水系電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用正極電極とこれに用いられる正極活物質、およびこれを利用した二次電池に関する。さらに詳しくは、電子機器や自動車に用いられる非水系電解質二次電池用正極電極とこれに用いられる正極活物質、およびこれを利用した二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、正極活物質を主要構成成分とする正極と、負極活物質を主要構成成分とする負極と、非水系電解液とから構成され、負極および正極活物質は、リチウムを脱離・挿入することの可能な材料が用いられている。
【0004】
このようなリチウムイオン二次電池は、現在研究・開発が盛んに行われており、層状型のリチウム金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0005】
これまで提案されている正極材料としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)やコバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)などを挙げることができる。
【0006】
上記リチウム複合酸化物を自動車用途として開発するためには、現状よりも高出力が得られる正極材料に改良すること、すなわち正極材料の低抵抗化が重要となる。
【0007】
また、上記リチウム複合酸化物の中には、大気中で取り扱う際、大気中の水分や二酸化炭素と反応して不活性層を形成し、容量低下や抵抗増加を引き起こすものがある。したがって、これらの正極活物質の劣化を防ぐことが重要となる。
【0008】
非特許文献1には、パルスレーザー堆積法を用いてLiCoO上にLiWOを成膜することで、LiWOが保護膜として働き、LiCoOと電解液との接触を防止し、コバルトの溶出やリン酸塩などの堆積を抑制し抵抗が低下すると報告されている。すなわち本文献では、LiWOによる抵抗低下の効果のみが言及されるにとどまり、正極活物質の大気中での取り扱い時の劣化抑制に関しては何ら言及されていない。
【0009】
非特許文献2には、パルスレーザー堆積法を用いて、LiCoO上に、多方向にリチウム拡散パスを持つTetragonal相のLiWOを成膜することで、正極/電解液界面でのリチウム拡散を向上させ、界面抵抗が低下すると報告されている。すなわち、本文献でも、非特許文献1と同様、リチウム拡散パスを多く保有する物質を被覆することによる抵抗低下の効果のみが言及されるにとどまり、正極活物質の大気中での取り扱い時の劣化抑制に関しては何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】J. Power Sources 285 (2015) 559 - 567
【文献】Int. J. Electrochem. Sci., 10 (2015) 8150 - 8157
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑み、電池の正極として用いられた際に、電池の高出力化が可能となり、かつ電池を大気中で取り扱った場合に、電池の性能の劣化が少ない非水系電解質二次電池用正極電極と、該電極に用いられる正極活物質を提供することを目的とする。
また、高出力が得られるとともに、電池の性能の劣化が少ない非水系電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するため、非水系電解質二次電池用正極活物質として用いられるリチウム金属複合酸化物の諸特性について検討した結果、リチウム金属複合酸化物の表面にタンタルとリチウムとを含む化合物からなる被覆層を形成することで、正極電極におけるリチウムイオン伝導性、すなわち表面近傍層を含めた正極活物質表面でのリチウムイオンの挿入脱離の容易さ、および固体相と電解液の固液界面でのリチウムイオンの移動の容易さを向上させるとともに、タンタルとリチウムとを含む化合物が、正極活物質に比べて、水分や二酸化炭素による劣化を受けにくいために正極活物質表面の抵抗層の形成が抑制されるとの知見、および、この正極電極を用いた二次電池の電解液/正極界面抵抗を大幅に低減して、二次電池の出力特性を向上させるとともに、二次電池を大気中で取り扱う際の、電池の性能の劣化を抑制することが可能であるとの知見を得て、本発明を完成した。
【0013】
第1発明の非水系電解質二次電池は、リチウム金属複合酸化物からなる正極活物質により構成された正極と、リチウムの挿抜が可能な負極と、を、セパレータを介して積層させて電極体とし、該電極体に、電解質としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解した非水系電解液を含侵させた非水系電解質二次電池であって、前記電極体を構成する正極電極は、前記正極と、該正極の表面に、タンタルとリチウムとを含む化合物から形成されている被覆層と、を有し、前記化合物がリチウムイオン伝導体であり、前記被覆層の厚さが、1~500nmであり、前記化合物が非晶質状態であることを特徴とする。
発明の水系電解質二次電池は、第1発明において、前記化合物は、タンタル酸リチウムであることを特徴とする。
発明の非水系電解質二次電池は、第発明において、前記タンタル酸リチウムは、LiTaO、LiTa、LiTaO、LiTaOからなる群から選択されるいずれか一の化合物を含むことを特徴とする。
発明の非水系電解質二次電池は、第1発明から第発明のいずれかにおいて、前記化合物が誘電体であることを特徴とする。
発明の非水系電解質二次電池は、第1発明から第発明のいずれかにおいて、前記正極が薄膜であり、前記被覆層が、前記正極に重畳して形成されていることを特徴とする。
発明の非水系電解質二次電池は、第1発明から第発明のいずれかにおいて、前記リチウム金属複合酸化物が粒子状であり、前記被覆層が、前記リチウム金属複合酸化物の粒子の表面に形成されていることを特徴とする。
発明の非水系電解質二次電池は、第発明において、前記被覆層に含まれているタンタル量が、前記リチウム金属複合酸化物に含まれるリチウム以外の金属元素の合計に対して0.05~5.0原子%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1発明によれば、非水系電解質二次電池用正極電極が、リチウム金属複合酸化物からなる正極活物質により構成された正極と、該正極の表面に、タンタルとリチウムとを含む化合物から形成されている被覆層を有し、この化合物がリチウムイオン伝導体であることにより、電極におけるリチウムイオン伝導性を向上できる。また、タンタルとリチウムとを含む化合物層は高耐候性を有するため、正極活物質表面の不活性層の形成を抑制できる。よって、この電極を用いることで、高出力化が実現可能であるとともに、大気中で取り扱った場合に、高出力性能が劣化しにくい非水系電解質二次電池用正極電極が提供できる。
また、被覆層の厚さが、1~500nmであることにより、リチウムイオン伝導性があり、かつ耐候性のある被覆層を十分に確保できるので、電池の出力特性を向上させるとともに、この出力特性の大気中での劣化を抑制でき、さらに製造を容易に行うことができる。
加えて、タンタルとリチウムを含む化合物が非晶質状態であることにより、正極電極の正極界面抵抗をさらに低減させることができる。
発明によれば、被覆層を形成する化合物がタンタル酸リチウムであることにより、非水系電解質二次電池に使用する電解質に対して安定であり、タンタルの溶出等による電池への悪影響を低減できる。
発明によれば、タンタル酸リチウムは、LiTaO、LiTa、LiTaO、LiTaOからなる群から選択されるいずれか一の化合物を含むことにより、タンタル酸リチウムを安定的に製造できる。
発明によれば、被覆層を形成する化合物が誘電体であることにより、表面被覆層と正極活物質界面でのリチウム挿入離脱をさらに向上させることができる。よって、この電極を用いることで、さらに高出力化が実現可能である非水系電解質二次電池用正極電極が提供できる。
発明によれば、正極が薄膜であり、被覆層が正極に重畳して形成されていることにより、薄膜正極と電解液との間にリチウムイオンの拡散パスを確保することができ、薄膜正極を用いた電池の出力が高くなるとともに、電池を大気中で取り扱う際の、出力特性の劣化の抑制が可能となる。
発明によれば、リチウム金属複合酸化物が粒子状であり、被覆層が、リチウム金属複合酸化物の粒子の表面に形成されていることにより、正極活物質粒子と電解液との間にリチウムイオンの拡散パスを確保することができ、被覆層と正極活物質粒子との間のリチウム挿入脱離が促進され、正極活物質粒子を用いた電池の高出力化が可能になるとともに、電池を大気中で取り扱う際の、出力特性の劣化の抑制が可能となる。
発明によれば、前記被覆層に含まれているタンタル量が、前記リチウム金属複合酸化物に含まれるリチウム以外の金属元素の合計に対して0.05~5.0原子%であることにより、正極活物質粒子と電解液との間のリチウムイオンの拡散パスがより確実に確保でき、被覆層と正極活物質粒子との間のリチウム挿入脱離が促進され、正極活物質粒子を用いた電池の出力がさらに高くなるとともに、電池を大気中で取り扱う際の、出力特性の劣化の抑制がさらに可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態に係る正極薄膜電極の構造を示す断面の概略図である。
図2】本発明の第2実施形態に係る正極活物質粒子の表面の拡大図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る正極電極を使用した電池の概略説明図である。
図4】本発明の第1実施形態に係る正極電極のインピーダンススペクトルの測定結果のグラフである。
図5】解析に使用した等価回路の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の非水系電解質二次電池用正極電極(以下、単に「正極電極」という)および非水系電解質二次電池(以下、単に「電池」という)は、リチウム金属複合酸化物の表面にタンタルとリチウムとを含む化合物を修飾することを特徴とする正極電極と、該正極電極、セパレータ、負極、電解液から構成されることを特徴とする電池である。
【0017】
前記正極電極に用いられるリチウム金属複合酸化物薄膜の原料となるリチウム金属複合酸化物材料は4V級の高い電圧が得られ、リチウムの拡散方向がa、b面方向に限定された層状型のリチウム複合酸化物であれば良く、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)などの材料が挙げられるが、その中でも合成が比較的容易なLiCoOが好ましく、上記リチウム金属複合酸化物材料の粉末を焼結しターゲットを作製した後、PLD法により、Pt/Cr/SiOやPtなどの導電性基板の上にリチウム金属複合酸化物薄膜を堆積させたものが好ましい。
【0018】
前記正極電極のリチウム金属複合酸化物薄膜の表面に設けられるリチウムイオン伝導酸化物からなる被覆層は、タンタルとリチウムとを含む化合物から形成されている。このタンタルとリチウムとを含む化合物は、リチウムイオンの拡散パスが多方向に存在しリチウムイオン伝導性に優れ、かつ大気中で変質しにくく安定である。このような物質としては、LiTaO、LiTa、LiTaO、LiTaOなどのタンタル酸リチウムが好ましい。
【0019】
さらにタンタルとリチウムとを含む化合物が誘電体であることが好ましく、これにより、被覆層と正極活物質粒子との間のリチウム挿入脱離が促進され、電池のさらなる高出力化が可能になる。これは、誘電体と活物質界面、および誘電体と電解液界面でのリチウム挿入脱離が誘電体の持つ分極効果によって、促進されるためと考えられる。
【0020】
前記リチウムイオン伝導酸化物からなる被覆膜は、1~500nmの厚さであることが好ましい。被覆層の厚さが、1~500nmであることにより、リチウムイオン伝導性があり、かつ耐候性のある被覆層を十分に確保できるので、電池の出力特性を向上させるとともに、この出力特性の大気中での劣化を抑制でき、さらに製造を容易に行うことができる。すなわち、被覆膜の厚さが1nm未満になると、リチウムイオンの拡散パスが有効に作用しないことがあり、500nmを超えると、拡散パスが長くなり過ぎて、充放電容量や出力特性の向上が十分に得られないことがある。
【0021】
上記タンタル酸リチウムの状態としては、結晶状態よりもリチウムイオンの拡散に効果的なチャンネル構造を有する非晶質(アモルファス)状態が望ましい。
【0022】
本発明に係る正極電極は、例えば、上記タンタルとリチウムとを含む粉末を焼結しターゲットを作製した後、PLD法により、前記リチウム金属複合酸化物薄膜にタンタルとリチウムとを含む化合物を堆積させることで得られる。
【0023】
前記リチウム金属複合酸化物薄膜のみを正極電極とした場合、大気中で取り扱うと、大気に含まれる水分および二酸化炭素と反応してリチウム金属複合酸化物最表面のリチウムが脱離して欠乏し、金属が酸化されて不活性化することで、充放電に寄与しなくなり容量低下や電解液/正極界面での抵抗増加を招く。一方、リチウム金属複合酸化物表面に大気中の水分や二酸化炭素との反応が乏しいタンタル酸リチウムなどのタンタルとリチウムとを含む化合物を修飾した正極電極では、タンタルとリチウムとを含む化合物が保護膜として働きリチウム金属複合酸化物が直接大気と触れないため、大気中で取り扱っても劣化が抑制される。また、タンタルとリチウムとを含む化合物を保護膜としているため、リチウムイオン伝導は保たれる。そのため、タンタルとリチウムとを含む化合物は正極表面全体に重畳して薄膜として被覆されることが好ましく、PLD法であれば、リチウムイオン伝導酸化物から成るターゲットをレーザーで蒸発させることで、タンタルとリチウムとを含む化合物の膜厚と結晶状態を制御してリチウム金属複合酸化物薄膜表面全体に修飾させることができ、好ましい。なお、タンタルとリチウムを含む化合物が、部分的に被覆された場合であっても、この被覆された部分のリチウムイオン伝導性の性能劣化が抑制されるため、電池としての性能劣化の抑制は実現できる。
【0024】
前記リチウム金属複合酸化物薄膜のみを正極として電池を組むと正極表面にリン酸塩などの電解液の分解成分の付着や、電解液との接触が起こり、正極表面からのCoの溶出などの影響によって、電解液/正極界面でのリチウムイオンの拡散が阻害され、電解液/正極界面の抵抗増加を招く。一方、リチウム金属複合酸化物薄膜表面にリチウム拡散性の良いタンタル酸リチウムなどのタンタルとリチウムとを含む化合物を修飾した正極では、正極と電解液との接触を抑えるリチウムイオンの伝導性が良い保護膜として機能するため、電界液/正極界面の抵抗がリチウム金属複合酸化物薄膜のみを正極とした場合と比較して大幅に低減され、電池の出力特性を向上させることができる。そのため、リチウムイオン伝導性酸化物は正極表面全体に被覆されることが好ましい。
【0025】
上記正極薄膜電極、セパレータ、リチウムの挿抜が可能な負極、電解液から構成される電池を作製することによって、高出力が実現可能な非水系電解質二次電池用正極材料および二次電池を容易に提供することが可能となる。
以下に、電池の各構成を詳細に説明する。
【0026】
(1)正極
正極を形成する正極薄膜電極について説明する。正極を構成する材料は、正極薄膜と集電体で構成される。
【0027】
正極薄膜の原料として用いられる正極活物質としては、4V級の高い電圧が得られ、リチウムの拡散方向がa、b面方向に限定された層状型のリチウム複合酸化物であれば良く、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)などのリチウム金属複合酸化物材料が用いられる。
【0028】
例えば、原料となる上記リチウム金属複合酸化物粉末を焼結しターゲットを作製した後、PLD法やスパッタ蒸着法や分子線エピタキシー法などの物理的成膜法を用いて、予め電池に適したサイズに裁断されたPt/Cr/SiOやPtなどの集電体となる導電性基板の上にリチウム金属複合酸化物薄膜を堆積させて正極薄膜電極を作製する。
【0029】
なお、本発明においては、リチウム金属複合酸化物薄膜の上にさらにリチウムイオン伝導酸化物薄膜、好ましくは良好な誘電性をさらに有する薄膜を堆積させる。このときも、前記物理的製膜法を用いることが好ましい。この物理的成膜法において、正極電極で被覆層を形成する、タンタルとリチウムとを含む化合物の原料は、タンタルとリチウムとを含むターゲットであればよいが、タンタル酸リチウムが好ましい。
【0030】
例えば、上記タンタルとリチウムとを含むターゲットを焼結により作製した後、PLD法により、前記正極薄膜電極の表面にリチウムイオン伝導酸化物薄膜を堆積させて正極を作製することが好ましい。
【0031】
図1には、本発明の第1実施形態に係る正極薄膜電極1の構造を示す断面の概略図を示す。正極薄膜電極1は、集電体である基板12上に、薄膜状にリチウム金属複合酸化物である正極活物質13が堆積させられ、さらに重畳してタンタル酸リチウムなどである、良好なリチウムイオン伝導酸化物14が薄膜状に形成される。
【0032】
図2には、本発明の第2実施形態に係る正極活物質粒子21の表面の拡大図を示す。正極活物質粒子21では、一次粒子であるリチウム金属複合酸化物22上、またはこれらの一次粒子からなる二次粒子上に、薄膜状のリチウムイオン伝導酸化物23からなる被覆層が設けられている。正極活物質粒子は、一次粒子、または一次粒子が凝集した二次粒子、もしくは一次粒子と二次粒子の混合物のいずれでもよい。二次粒子から構成されている場合には、内部まで被覆層が設けられていることが好ましいが、二次粒子の表面全体に薄膜状の被覆層が設けられている場合には、内部まで被覆層が設けられておらずともよい。
前記被覆層に含まれているタンタル量は、前記リチウム金属複合酸化物に含まれるリチウム以外の金属元素の合計に対して0.05~5.0原子%であることが好ましい。これにより正極活物質粒子21に十分な被覆層を設けることができ、電解液との間のリチウムイオンの拡散パスがより確実に確保でき、正極活物質粒子21を用いた電池の出力がさらに高くなる。また、正極活物質粒子21が大気と接触することが十分に抑制されるため、大気中での出力特性の劣化の抑制がさらに可能となる。
正極活物質粒子21により正極を形成する場合は、通常の非水系電解質二次電池の正極と同様に、正極活物質粒子21とカーボン粉などの導電材、バインダー、溶剤を混錬してペースト化し、集電体上のペーストを塗工することにより、正極を得ることができる。
【0033】
(2)負極
負極には、上述のようにリチウムの挿抜が可能な材料であればよく、通常の非水系電解質二次電池の負極と同様に、炭素物質の粉状体を集電体上に塗工したものを用いることができ、コインセルの場合は、金属リチウム、もしくはリチウム合金が好ましく用いられる。負極を構成する金属リチウム、もしくはリチウム合金は、コインセルが膨れないように厚みを0.5~2.0mmの範囲とすることが好ましい。コインセルに収まるように直径(5~15mm)程度の面積に負極をくり抜くことが必要で、負極は正極より面積が大きいものが好ましい。
【0034】
(3)セパレータ
正極と負極との間にはセパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極間の絶縁、さらには電解液を保持するなどの機能を持つものであり、一般的な非水系電解質二次電池で使用されているものを用いることができる。例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ガラス(SiO)あるいはそれら積層品等の多孔膜など、その必要機能を有するものであればよく、一般的な非水系電解質二次電池で使用されているセパレータで測定妨害元素が含まれなければ、特に限定されるものではない。
【0035】
(4)非水系電解液
非水系電解液は、電解質としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等から選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0036】
電解質としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSO等、およびそれらの複合塩を用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル補足剤、界面活性剤および難燃剤等を含んでいてもよい。
【0037】
(5)電池の構成
上記正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、この電極体に上記非水電解液を含浸させる。正極および負極をそれぞれ外部端子と接続して導通させる。以上の構成のものを金属製の容器に入れて電池を作製する。
【実施例
【0038】
(比較例1)
本比較例においては、正極活物質としてLiCoO薄膜を用いた。
LiCoO薄膜は、PLD法により作製した。LiCoOの組成となるようにLiCOとCoを混合し、980℃酸素雰囲気で焼成してLiCoO粉末を作製した。その後、LiCoO粉末を1000℃で焼結してペレット作製した。このペレットをターゲットとして、500℃酸素雰囲気下において、Pt基板(基板12)上に8mm×8mmの面積でLiCoO薄膜(正極活物質13)のみを約300nmの厚みに形成して正極薄膜電極1を作製した。
【0039】
正極薄膜の評価には以下のように図3に示す電池を作製し、正極界面抵抗を測定することで行った。
正極薄膜電極1(評価用電極)を用いて2032型のコイン型電池10を、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
負極2には、直径13mmの円盤状に打ち抜かれた厚さ0.5mmの金属リチウムを用い、電解液には、1MのLiPF6を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(宇部興産株式会社製)を用いた。セパレータ3には薄膜25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。また、コイン型電池10は、ガスケット4とウェーブワッシャー5を有し、正極缶6と負極缶7とでコイン状の電池に組み立てられた。
【0040】
正極界面抵抗はコイン型電池10を充電電位4.0Vまで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタットを使用して、交流インピーダンス測定を行い図4に示すインピーダンススペクトルを得た。得られたインピーダンススペクトルには、高周波領域と中間周波領域とに2つの半円が観測され、低周波領域に直線が観察されていることから、図5に示す等価回路モデルを組んで正極界面抵抗を解析した。ここで、Rsはバルク抵抗、R1は正極被膜抵抗、Rctは電解液/正極界面抵抗(界面のLi+移動抵抗)、Wはワーブルグ成分、CPE1,CPE2は定相要素を示す。
【0041】
(実施例1)
本実施例においては、正極活物質としてLiCoO薄膜を用い、その表面に、良好な誘電性を有するリチウムイオン伝導酸化物としてLiTaO薄膜を形成した。
【0042】
比較例1と同様の条件で作製したLiCoO薄膜(正極活物質13)上に、LiTaO薄膜(リチウムイオン伝導酸化物14)を形成し、正極薄膜電極1を作製した。この薄膜の作製には、LiCoOと同様、PLD法を用いた。LiOとTaを混合した後、焼結してペレットにしてターゲットとした。このターゲットを用いて、上記で得られたLiCoO薄膜の上にさらにLiTaO薄膜を25℃、酸素分圧20Paで約300nmの厚さで形成し、正極薄膜を作製し、XRDでLiTaOの状態を確認したところ、非晶質状態であった。また、正極薄膜を600℃で2.5時間熱処理してXRD測定を行ったところ、LiTaOであることが確認された。次に、作製した非晶質状態の正極薄膜を用いて、比較例1と同じコイン型セルを作製し、電池性能を比較した。その結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1より、比較例1のLiCoO薄膜と比較して非晶質状態のLiTaOを堆積したLiCoO薄膜は、正極界面抵抗が大幅に低減され、出力特性が向上している様子が分かった。要因としてはリチウムイオン伝導性に優れ、良好な誘電性を有する非晶質状態のタンタル酸リチウムを修飾したことによって、正極のリチウム拡散性が向上し、電界液/正極界面の抵抗がLiCoO薄膜と比較して大幅に低減されたためと考えられる。
【0045】
(比較例1a)
本比較例においては、正極活物質としてLiCoO薄膜を用い、正極活物質を雰囲気温度80℃、相対湿度60%の高湿度環境に24時間曝した後、コイン型電池10を作製してインピーダンス測定を実施した。
【0046】
LiCoO薄膜を作製するところまでは比較例1と同様であり、このLiCoO薄膜からなる正極薄膜電極1を雰囲気温度80℃、相対湿度60%の高湿度環境に24時間曝した後、コイン型電池10を作製して電池性能を確認した。その結果を表2に示す。表1に記載の比較例1に対して、正極界面抵抗が大幅に増加した。要因としては、高湿度の条件で大気に曝した結果、LiCoO薄膜の表面が大気中の水分および二酸化炭素と反応して不活性なCoとなり、充放電に寄与しなくなり、界面抵抗増大の要因になったと考えられる。
【0047】
【表2】
【0048】
(実施例1a)
本実施例においては、正極活物質としてLiCoO薄膜を用い、その表面に、良好な誘電性を有するリチウムイオン伝導性酸化物としてLiTaO薄膜を形成し、正極薄膜電極1を作製するところまでは実施例1と同様である。作製された正極薄膜電極1を、比較例1aと同様、雰囲気温度80℃、相対湿度60%の高湿度環境に24時間曝した後、コイン型電池10を作製してインピーダンス測定を実施した。
【0049】
表2に実施例1aでの正極界面抵抗を示す。比較例1aの場合と比較すると正極界面抵抗の値が小さく、また実施例1からの増加率についても抑制されている。これは、大気中で非常に安定であるLiTaOをLiCoO表面に被覆したことにより、LiTaOが保護膜として働きLiCoOの大気との直接接触を抑制し、LiCoOの劣化が抑制されたためと考えられる。また、LiTaOは大気中で非常に安定であるため、変質しにくく、大気中に曝してもリチウムイオン伝導性を保つことができ、正極界面抵抗の増加が少ないと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の非水系電解質二次電池用正極材料および二次電池は、高出力が要求される電気自動車やハイブリッド自動車用電池に好適である。また、本正極材料は材料の溶解性などの諸特性に左右されることなく様々なリチウム複合酸化物、リチウムイオン伝導酸化物に適用でき、さらにリチウム複合酸化物の表面にリチウムイオン伝導酸化物を直接堆積させることができるため、非水系電界質二次電池用正極材料の開発にも応用が期待できる。また、様々な分析手法を組み合わせて解析を行うことで、リチウム複合酸化物とリチウムイオン伝導酸化物界面の現象を解明するのにも役立つものと考える。
【符号の説明】
【0051】
1 正極薄膜電極
2 負極
3 セパレータ
4 ガスケット
5 ウェーブワッシャー
6 正極缶
7 負極缶
10 コイン型電池
12 基板
13 正極活物質
14 リチウムイオン伝導酸化物
21 正極活物質粒子
22 リチウム金属複合酸化物
23 リチウムイオン伝導酸化物
図1
図2
図3
図4
図5