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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-25
(54)【発明の名称】信号変換装置
(51)【国際特許分類】
   H04N 9/64 20060101AFI20220217BHJP
   G09G 5/00 20060101ALI20220217BHJP
   G09G 5/391 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
H04N9/64 Z
G09G5/00 520V
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017226451
(22)【出願日】2017-11-27
(65)【公開番号】P2019097084
(43)【公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(73)【特許権者】
【識別番号】591053926
【氏名又は名称】一般財団法人NHKエンジニアリングシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】日下部 裕一
(72)【発明者】
【氏名】金澤 勝
【審査官】大室 秀明
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-126636(JP,A)
【文献】特開2000-209448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 1/00-1/40
G06T 3/00-5/50
G06T 9/00-9/40
G09G 5/00-5/36
G09G 5/377-5/42
H04N 1/40-1/409
H04N 5/222-5/257
H04N 7/00-7/088
H04N 9/04-9/11
H04N 9/44-9/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号の信号フォーマットを変換する信号変換装置であって、
前記入力信号の信号値を表す3次元空間に所定の信号抽出間隔で配置した格子点を頂点とする立方体と、出力信号の信号値を表す3次元空間で前記格子点に対応する頂点を有する3次元領域とを対応付けた3次元ルックアップテーブルを予め記憶するテーブル記憶手段と、
変換対象の前記入力信号が入力され、入力された当該変換対象の入力信号の信号値を前記信号抽出間隔で除算した値を求め、除算した当該値から、前記立方体の格子点を表す整数部分と当該立方体内での位置を表す小数部分とを抽出する抽出手段と、
前記3次元ルックアップテーブルを検索し、前記整数部分の立方体に対応する3次元領域を取得するテーブル検索手段と、
前記テーブル検索手段が取得した3次元領域内で前記小数部分に対応する位置を表す高次式が予め設定され、当該高次式で内挿を行うことで、前記小数部分の位置に対応した信号値の前記出力信号を生成する内挿手段と、
を備え
前記高次式は、前記立方体及び前記3次元領域の各頂点と各辺と各面との位置を対応付けた補正項、及び、前記3次元領域内で前記小数部分が表す位置の誤差を補正する補正項が含まれることを特徴とする信号変換装置。
【請求項2】
前記高次式は、2次式又は3次式であることを特徴とする請求項1に記載の信号変換装置。
【請求項3】
前記テーブル記憶手段は、前記3次元ルックアップテーブルとして、前記高次式に含まれる補正項の係数を予め記憶することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の信号変換装置。
【請求項4】
前記高次式で内挿した出力信号と真値の前記出力信号との誤差を表す誤差算出式が予め設定され、当該誤差算出式により誤差を最小にする前記係数を求め、求めた当該係数を前記3次元ルックアップテーブルとして前記テーブル記憶手段に書き込むテーブル生成手段、をさらに備えることを特徴とする請求項に記載の信号変換装置。
【請求項5】
前記高次式は、前記小数部分が0又は1の場合に戻り値が0となる関数が含まれることを特徴とする請求項1から請求項の何れか一項に記載の信号変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号フォーマットを変換する信号変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
映像技術の進展に伴い多くの信号フォーマットが提案されており、各信号フォーマットを変換する信号変換処理も研究されている。従来から存在しているのは、例えば、SDTV(Standard definition television)からHDTV(High definition television)への解像度(画素数)変換である。この他、映像信号の信号形式に関しては、RGB及びYP(輝度・色差信号)の変換、色空間に関しては、BT.709(HDTV)、BT.2020(4K,8K)及びDCI-P3(デジタルシネマ)、電気・光変換に関しては、SDR(標準ダイナミックレンジ)、HDR(ハイダミックレンジ:HLG方式やPQ方式)があげられる。これら各変換の組み合わせで10種類以上になる。このように多くの信号フォーマットがあるため、それらの間で個別の信号変換処理が必要になる。以下、信号形式を「形式」、色空間を「色域」、電気・光変換を「ガンマ」と略記する。
【0003】
これらの信号変換処理は、変換前後の信号フォーマットに応じて処理内容が異なる。例えば、輝度・色差信号でガンマのみが異なる場合、信号変換処理は、図11に示すとおりである。つまり、YP信号を3×3マトリクスでRGB信号に変換し、HLGをルックアップテーブル(LUT:Look up table)でSDRに変換し、その後、RGB信号を3×3マトリクスでYP信号に変換する。一方、色域が異なる場合、信号変換処理は、図12に示すとおりである。つまり、PQ方式をLUTでリニアに変換し、BT.2020を3×3マトリクスでBT.709に変換し、その後、リニアをLUTでPQ方式に変換する。このように対象とする信号フォーマット毎に信号変換処理が異なるため、同一のハードウェアを利用して複数の信号フォーマットに対応することが困難である。
【0004】
同一のハードウェアを利用して複数の信号フォーマットに対応する方法として、図13に示すように、信号変換処理を3次元のルックアップテーブル(3D-LUT:3 dimensions look up table)で行うことが考えられる(例えば、特許文献1)。この3次元ルックアップテーブルは、3次元空間で映像信号の入出力の対応関係を定めたものであり、様々な信号変換処理に対応可能である。
【0005】
この3D-LUTは、そのデータ量が問題になることが多い。図13では、入力映像信号が30ビット(3次元×10ビット)で230=1.07×10のデータ領域が必要となり、出力映像信号が30ビットなので、それが30倍になる。つまり、3D-LUTには、1.07×10×30=3.2×1010ビットのデータ領域が必要となり、現実的でない。そこで、3D-LUTへの入力を粗くし(3D-LUTのデータを間引きし)、間引かれたデータを直線内挿で補間することが行われる。図13では、3D-LUTへの入力を1次元あたり100ステップで間引いたので、3D-LUTのデータ量を3.0×10ビットまで低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-139096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、3D-LUTのデータを間引いた場合、補間による誤差が増大するという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、補間による誤差を少なくし、3次元ルックアップテーブルのデータ量を抑制できる信号変換装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題に鑑みて、本発明に係る信号変換装置は、入力信号の信号フォーマットを変換する信号変換装置であって、テーブル記憶手段と、抽出手段と、テーブル検索手段と、内挿手段と、を備える構成とした。
【0010】
かかる信号変換装置によれば、テーブル記憶手段は、前記入力信号の信号値を表す3次元空間に所定の信号抽出間隔で配置した格子点を頂点とする立方体と、前記出力信号の信号値を表す3次元空間で前記格子点に対応する頂点を有する3次元領域とを対応付けた3次元ルックアップテーブルを予め記憶する。
【0011】
また、抽出手段は、変換対象の前記入力信号が入力され、入力された当該変換対象の入力信号の信号値を前記信号抽出間隔で除算した値を求め、除算した当該値から、前記立方体の格子点を表す整数部分と当該立方体内での位置を表す小数部分とを抽出する。
【0012】
また、テーブル検索手段は、前記3次元ルックアップテーブルを検索し、前記整数部分の立方体に対応する3次元領域を取得する。
そして、内挿手段は、前記テーブル検索手段が取得した3次元領域内で前記小数部分に対応する位置を求める高次式が予め設定され、当該高次式で内挿を行うことで、前記小数部分の位置に対応した信号値の前記出力信号を生成する。
さらに、高次式は、立方体及び3次元領域の各頂点と各辺と各面との位置を対応付けた補正項、及び、3次元領域内で小数部分が表す位置の誤差を補正する補正項が含まれる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、以下のような優れた効果を奏する。
本発明によれば、高次式での内挿を行うので、補間による誤差を少なくし、3次元ルックアップテーブルのデータ量を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態における信号変換処理の概略図である。
図2】3D-LUTを説明する説明図である。
図3】3D-LUTへの入力と、高次式内挿による出力との関係を説明する説明図である。
図4図3の立方体を平面で説明する説明図である。
図5】3D-LUTからの出力を説明する説明図である。
図6】本発明の実施形態に係る信号変換装置の構成を示すブロック図である。
図7図6の信号変換装置による3D-LUT生成処理を示すフローチャートである。
図8図6の信号変換装置による信号変換処理を示すフローチャートである。
図9】本発明の実施例において、3D-LUTのビット数と誤差との関係を示すグラフである。
図10】本発明の実施例において、3D-LUTのデータ量と誤差との関係を示すグラフである。
図11】従来の信号変換処理の一例を説明する説明図である。
図12】従来の信号変換処理の一例を説明する説明図である。
図13】従来の3D-LUTを説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の各実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各実施形態において、同一の手段には同一の符号を付し、説明を省略した。
まず、第1実施形態における信号変換処理を説明した後、第1実施形態に係る信号変換装置の構成及び動作を説明する。
【0016】
(第1実施形態)
[信号変換処理]
この信号変換処理は、3D-LUTへの入力を粗くして3D-LUTのデータ量を減らすと共に、高次式での内挿を行うことで、単純な直線内挿よりも高精度な変換が可能なことを特徴とする。
【0017】
本実施形態では、入力信号及び出力信号として映像信号を扱うこととするが、これに限定されない。入力映像信号をVax,Vay,Vazの3次元とし、0~Nの値をとる(あるシステムaのx,y,z信号)。出力映像信号をVbx,Vby,Vbzの3次元とする(別のシステムbのx,y,z信号)。これらVax~Vbzの信号値は0~Nの値をとり、10ビットの場合、その信号値は0~1023となる(N=1023)。
【0018】
3D-LUTへの入力を粗くするため、入力映像信号の所定ビットを抽出する。3D-LUTへの入力をmax,may,mazとし、3D-LUTからの出力をk個のf(max,may,maz)とする。このkは、3D-LUTの出力を求めるときの中間変数の数を表し、x,y,z信号の次元数(本実施形態では、次元数=3)の数倍となる。ここで、max,may,mazは、0~N/Mの値をとる。このMは、信号抽出間隔を表し、映像信号の1次元あたりのビット数から抽出するビット数を減算し、減算後の値で2をべき乗すると求められる。例えば、映像信号が1次元あたり10ビット、上位4ビットを抽出する場合、信号抽出間隔M=210-4=2=64となる。
【0019】
また、正確な出力映像信号をC(Vax,Vay,Vaz),C(Vax,Vay,Vaz),C(Vax,Vay,Vaz)とする。この正確な出力映像信号は、入力映像信号Vax,Vay,Vazに対応するシステムbのx,y,z信号であり、映像信号の変換に必要な処理通りに演算した信号である。つまり、正確な出力映像信号は、変換誤差が生じないように、3D-LUTを用いずに変換したときの真値の出力映像信号を表す。
【0020】
図1に示すように、信号変換処理は、入力変換と、3D-LUTの検索と、信号演算処理とで構成される。
まず、入力変換について説明する。この入力変換では、後記する式(1),式(2)の演算を行い、入力映像信号Vax,Vay,Vazから整数部分max,may,maz及び残差Δx,Δy,Δzを求める。入力映像信号と3D-LUTの関係は、以下の式(1)で表される。つまり、式(1)は、入力映像信号Vax,Vay,Vazの信号値を信号抽出間隔Mで除算したときの整数部分max,may,mazを求めることを意味する。なお式(1)では、‘[]’が引数の整数を返す関数を表す。
【0021】
【数1】
【0022】
また、以下の(2)で残差Δx,Δy,Δzを求める。この残差Δx,Δy,Δzは、入力映像信号Vax,Vay,Vazの信号値を信号抽出間隔Mで除算したときの小数部分を表し、0~1.0の値をとる。
【0023】
【数2】
【0024】
図2には、入力映像信号Vax,Vay,Vazのそれぞれに対応したX軸,Y軸,Z軸からなる直交座標系の3次元空間を図示した。この場合、式(1)の整数部分max,may,mazは、図2の立方体の格子点に対応し、3D-LUTへの入力値となる。また、式(2)の残差Δx,Δy,Δzは、格子点同士の間、つまり、立方体内での位置を表す。
なお、図2では、X軸,Y軸,Z軸方向に5個の格子点を図示したが、格子点の数は特に限定されず、5個以上であってもよい。
【0025】
続いて、3D-LUTの検索について説明する。
3D-LUTは、入力映像信号Vax,Vay,Vazの信号値を表す3次元空間に信号抽出間隔Mで配置した格子点を頂点とする立方体と、出力映像信号Vbx,Vby,Vbzの信号値を表す3次元空間で格子点に対応する頂点を有する3次元領域とを対応付けたものである。
【0026】
この3D-LUTの検索では、整数部分max,may,mazにより3D-LUTを検索し、3D-LUTからの出力f(max,may,maz)を得る。ここで、3D-LUTへの入力がmax,may,mazの場合、3D-LUTからの出力が式(3)の3項となる。
【0027】
【数3】
【0028】
続いて、信号演算処理について説明する。この信号演算処理では、3D-LUTからの出力f(max,may,maz)及び残差Δx,Δy,Δzを用いた2次元式での内挿を行って、出力映像信号Vbx,Vby,Vbzを求める。
【0029】
従来の信号演算処理では、以下の式(4)に示すように直線内挿を行い、出力映像信号Vbxを求めていた。この式(4)は、図3に示すように、入力映像信号の信号値を表す3次元空間において、整数部分max,may,mazに対応した立方体の内部で残差Δx,Δy,Δzが示す1点の位置を、3D-LUTの出力である8個の頂点fの値から直線内挿することを意味する。
なお、出力映像信号Vby,Vbzは、式(3)のf,fを用いて、式(4)の出力映像信号Vbxと同様に表すことができる。
【0030】
【数4】
【0031】
本実施形態では、式(4)の直線内挿の代わりに2次式内挿を用いる。従来の式(4)は、残差Δx,Δy,Δzに関して1次式である。これに対し、2次式内挿では、残差Δx,Δy,Δzの2次式となるのである。単純に式(4)を2次式化すると複雑になるので、以下の式(5)のように、式(4)の出力映像信号Vbxと正確な出力映像信号Cとの差分h1xを用いる。
【0032】
【数5】
【0033】
この式(5)は、式(6)で表される特徴を有する。式(6)は、図3の立方体の頂点で差分h1xが0になることを表す。具体的には、式(6)は、残差Δx,Δy,Δzのどれもが0又は1の場合、差分h1x(Δx,Δy,Δz)が0となることを表す。
【数6】
【0034】
従って、2次式内挿などの高次式内挿を行うことにより、この差分h1xを小さくすればよい。当然のことながら、図3の3次元空間において、各立方体は3D-LUTへの入力max,may,mazに対応するので、他の立方体と隣接する(破線で図示)。このため、後記する補正項を加えるときは、その補正項が隣接する立方体の間で連続する必要がある(同一の補正値となる)。そうでなければ、信号値が連続する入力映像信号に対し、出力映像信号の信号値が不連続になる。この不連続を避けるためには、隣接する立方体の各頂点、各辺、各面において、補正値を同一にする必要がある。
【0035】
以後、X軸を法線とする面(Y軸及びZ軸に平行な面)をY-Z面、Y軸を法線とする面(X軸及びZ軸に平行な面)をX-Z面、Z軸を法線とする面(X軸及びY軸に平行な面)をX-Y面とする。
【0036】
ここで、補正項について補足説明を行う。正確な出力映像信号を求めるためには、図3の立方体に含まれる全ての点について、入力映像信号と出力映像信号との対応関係を定める必要がある。本実施形態では、3D-LUTのデータ量を少なくするために、整数部分max,may,mazに対応する立方体の頂点のみ、入力映像信号と出力映像信号との対応関係を定めている。そして、立方体に対応する3次元領域において、残差Δx,Δy,Δzに対応する1点を出力映像信号の信号値として補間する。このとき、単なる直線補間よりも正確な出力映像信号の信号値に近づくように、残差Δx,Δy,Δzからの計算式を補正項とする。本実施形態では、この補正項が残差Δx,Δy,Δzの2次式又は3次式となる。
【0037】
図4には、図3の立方体をX-Z面上で図示した。図4において、原点0を含む正方形(0≦X≦1,0≦Z≦1)が図3に実線で図示した立方体の平面に対応する。また、図4に破線で図示した正方形(0≦X≦1,1≦Z≦2)が、図3に破線で図示した立方体の平面に対応する。ここで、2つの正方形に含まれる全ての点について、正確な出力映像信号F(x,z)が分かっていることとする。実線の正方形に含まれる全ての点で内挿を行い、内挿した出力映像信号F(x,z)と、正確な出力映像信号F(x,z)との差が最小になるように3D-LUTを求める。破線の正方形についても、実線の正方形と同様、内挿した出力映像信号F(x,z)と、正確な出力映像信号F(x,z)との差が最小になるように3D-LUTを求める。図4に示すように、Z=1では、F(x,z)とF(x,z)が連続する必要があるが、別々にF(x,z)とF(x,z)を計算するのでその保障がない。このため、本実施形態では、隣接する正方形の境界で不連続にならないように、正方形の境界と境界以外の部分とを区別している。
【0038】
図3に戻り、信号演算処理の説明を続ける。図3の立方体では、頂点が8個、X軸,Y軸,Z軸のそれぞれに平行な辺が各4本で合計12本、X軸,Y軸,Z軸のそれぞれを法線とする面が各2面で合計8面となる。例えば、i,iのそれぞれが0又は1の値をとるので、X軸に平行で2点(max,may+i,maz+i)を通る4辺での補正項をfline-x(max+Δx,may+i,maz+i)とする。また、iが0又は1の値をとるので、点(max+i,may,maz)を通る2つのY-Z面での補正項をfplane-yz(max+i,may+Δy,maz+Δz)とする。この場合、2次式内挿は、以下の式(7)で表される。
【0039】
【数7】
【0040】
式(7)の右辺において、3個の補正項fline-x~fline-zは、それぞれX軸,Y軸,Z軸に平行な辺での補正値を内挿するものである。また、3個の補正項fplane-yz~fplane-xyは、Y-Z面,X-Z面,X-Y面での補正値を内挿するものである。最後の補正項fvolは、各辺及び各面での補正値が0となるものである。
なお、出力映像信号Vby,Vbzと正確な出力映像信号C,Cとの差分h1y,h1zについても、式(5)~式(7)と同様に表すことができる。
【0041】
ここで、式(7)の前提として、各補正項は、以下の式(8)のように開始点及び終了点で0にする必要がある。例えば、式(8)では、残差Δxが0又は1の場合、補正項fline―xが0になることを表す。なお、開始点及び終了点とは、残差Δx,Δy,Δzが0又は1のときを表し、図2の立方体の頂点(整数部分max,may,maz)に対応する。
【0042】
【数8】
【0043】
この式(8)の条件により、例えば、残差Δx=0となるY-Z面上において、式(7)は、各2辺のY軸成分の補正項fline―y(max,may+Δy,maz+i)、Z軸成分の補正項fline―z(max,may+i,maz+Δz)、Y-Z面の補正項fplane―yz(max,may+Δy,maz+Δz)のみで表される。これらの補正項は、このY-Z面で完結するため、隣接する立方体で同一の補正値となる。従って、式(7)では、補正項fline-x~fline-zによる各辺の補正が他辺に影響せず(補正値=0)、補正項fplane-yz~fplane-xyによる各面の補正が他面に影響せず(補正値=0)、補正項fvolによる補正が辺及び面に影響しない(補正値=0)。
【0044】
2次式内挿では、基本となる2次式gを以下の式(9)のように定義する(残差Δy,Δzも同様)。この式(9)は、残差Δxが0又は1の場合、戻り値が0となる関数を表す。また、式(7)の各補正項は、以下の式(10)で表される。
【0045】
【数9】
【0046】
【数10】
【0047】
この式(10)を用いると、式(7)を以下の式(11)のように定義できる。
【0048】
【数11】
【0049】
そして、式(5)及び式(11)をまとめ、正確な出力映像信号Cを以下の式(12)で近似する(正確な出力映像信号C,Cも同様)。この式(12)は、整数部分max,may,mazの立方体に対応する3次元領域内で、残差Δx,Δy,Δzに対応する位置を表すものである。
【0050】
【数12】
【0051】
図1の信号変換処理に対応させると、信号演算処理が式(12)で表される。従って、3D-LUTの出力は、式(12)に含まれる各係数となる。つまり、3D-LUTの出力は、立方体の各頂点での補正項に関係する係数fが8個、立方体の各辺での補正項に関係する係数Cline-x~Cline-zが12個、立方体の各面での補正項に関係する係数Cplane-yz~Cplane-xyが6個、立方体内部での補正項に関係する係数Cvolが1個、合計27個となる。
【0052】
言い換えるなら、式(12)の係数f~Cplane-xyは、入力映像信号における立方体と出力映像信号における3次元領域との頂点、辺、面の位置関係を表している。例えば、図3の立方体に含まれる8個の頂点(max,may,maz)~(max+1,may+1,maz+1)は、図5の3次元領域の8個の頂点f(max,may,maz)~f(max+1,may+1,maz+1)に対応する。
また、式(12)の係数Cvolは、図5の3次元領域内で残差Δx,Δy,Δzに対応する位置を表す。
【0053】
ここで、立方体の各頂点は隣接する8個の立方体で共有し、各辺は4個の立方体で共有し、各面は2個の立方体で共有する。その結果、3D-LUTからの出力は、以下の式(13)のように8個となる。
なお、これら係数は出力映像信号Cに関するものなので、出力映像信号C,Cも同様に必要となり、3D-LUTからの出力が式(13)の3倍となる。
【0054】
【数13】
【0055】
以下、式(12)の各係数の算出方法、つまり、3D-LUTの生成方法について説明する。式(12)は、正確な出力映像信号Cの近似式なので、正確な出力映像信号Cと近似式との誤差gを以下の式(14)のように定義する(正確な出力映像信号C,Cも同様)。この式(14)は、式(12)で内挿した出力信号と、真値である正確な出力映像信号Cとの誤差(補間による誤差)gを表すものである。
【0056】
【数14】
【0057】
各係数は、この誤差gが最小になるように、以下の式(15)の一般式で表される。なお、式(15)のMinは、最小値のことである。すなわち、式(15)は、同式の解が最小になるように式(14)に含まれるCline等の係数を求めることを意味する。
【0058】
【数15】
【0059】
本実施形態では、立方体の頂点での補正項に関係する係数f、立方体の各辺での補正項に関係する係数Cline-x~Cline-z、立方体の各面での補正項に関係する係数Cplane-yz~Cplane-xy、立方体内部での補正項に関する係数Cvolを別々に求めることとする。例えば、X軸に平行で点(max,may+i,maz+i)を通る辺の係数Cline-xは、以下の式(16)から計算できる。
【0060】
【数16】
【0061】
点(max+i,may,maz)を通るY-Z面での係数Cplane-yz(max+i,may+Δy,maz+Δz)は、以下の式(17)から計算できる。
【0062】
【数17】
【0063】
立方体内部での係数Cvolは、以下の式(18)から計算できる。
【0064】
【数18】
【0065】
[信号変換装置の構成]
図6を参照し、信号変換装置1の構成について説明する。
信号変換装置1は、入力映像信号の信号フォーマットを変換するものである。図6に示すように、信号変換装置1は、3D-LUT生成手段(テーブル生成手段)10と、3D-LUT記憶手段(テーブル記憶手段)11と、入力変換手段(抽出手段)12と、3D-LUT検索手段(テーブル検索手段)13と、信号演算処理手段(内挿手段)14とを備える。
【0066】
3D-LUT生成手段10は、予め設定された誤差算出式により誤差が最小になる係数を求め、求めた係数を3D-LUTとして3D-LUT記憶手段11に書き込むものである。
本実施形態では、3D-LUT生成手段10は、誤差算出式として式(14)が予め設定され、3D-LUT生成用の入力映像信号及び正確な出力映像信号が入力される。そして、3D-LUT生成手段10は、この式(14)を用いて、3D-LUT生成用の入力映像信号及び正確な出力映像信号から、3D-LUTとして、係数f~Cvolを求める。
その後、3D-LUT生成手段10は、求めた3D-LUTを3D-LUT記憶手段11に書き込む。
【0067】
3D-LUT記憶手段11は、3D-LUTを記憶するメモリ等の記憶装置である。この3D-LUTは、3D-LUT生成手段10により書き込まれ、後記する3D-LUT検索手段13により参照される。
【0068】
入力変換手段12は、変換対象の入力映像信号が入力され、入力された入力映像信号の信号値を信号抽出間隔で除算した値を求め、除算した値から整数部分と小数部分とを抽出するものである。
具体的には、入力変換手段12は、前記した式(1)を用いて、入力映像信号Vax,Vay,Vazの信号値を信号抽出間隔Mで除算したときの整数部分max,may,mazを求める。また、入力変換手段12は、前記した式(2)を用いて、入力映像信号Vax,Vay,Vazの信号値を信号抽出間隔Mで除算したときの残差Δx,Δy,Δzを求める。
その後、入力変換手段12は、求めた整数部分max,may,mazを3D-LUT検索手段13及び信号演算処理手段14に出力し、求めた残差Δx,Δy,Δzを信号演算処理手段14に出力する。
【0069】
3D-LUT検索手段13は、3D-LUT記憶手段11の3D-LUTを検索し、入力変換手段12が求めた整数部分の立方体に対応する3次元領域を取得するものである。
具体的には、3D-LUT検索手段13は、3D-LUTから、整数部分max,may,mazの立方体に対応する3次元領域を表す係数f~Cvolを取得する。
その後、3D-LUT検索手段13は、取得した係数を信号演算処理手段14に出力する。
【0070】
信号演算処理手段14は、予め設定された高次式で内挿を行うことで、残差が示す位置に対応した信号値の出力信号を生成するものである。
本実施形態では、信号演算処理手段14は、2次式として式(12)が予め設定され、この式(12)に、整数部分max,may,maz、残差Δx,Δy,Δz及び係数f~Cvolを適用し、出力映像信号の信号値を求める。
その後、信号演算処理手段14は、求めた出力映像信号を外部に出力する。
【0071】
[信号変換装置の動作:3D-LUT生成処理]
図7を参照し、3D-LUT生成処理の手順について説明する。
図7に示すように、3D-LUT生成手段10は、予め設定した誤差算出式を用いて、3D-LUT生成用の入力映像信号及び出力映像信号から3D-LUTを生成する(ステップS1)。
3D-LUT生成手段10は、ステップS1で求めた3D-LUTを3D-LUT記憶手段11に書き込む(ステップS2)。
【0072】
[信号変換装置の動作:信号変換処理]
図8を参照し、信号変換処理の手順について説明する。
入力変換手段12は、入力映像信号の信号値を信号抽出間隔で除算した値を求め(ステップS10)、除算した値から整数部分と残差とを抽出する(ステップS11)。
3D-LUT検索手段13は、3D-LUTを検索し、ステップS11で求めた整数部分の立方体に対応する3次元領域を取得する(ステップS12)。
信号演算処理手段14は、予め設定した2次式で内挿を行って、ステップS12で取得した3次元領域内で残差の位置に対応した信号値の出力信号を生成する(ステップS13)。
【0073】
[作用・効果]
以上のように、信号変換装置1は、2次式内挿を行うので、従来の直線内挿に比べて、補間による誤差を少なくすることができる。従って、信号変換装置1は、3D-LUTのデータ量を抑えつつ、高精度な出力映像信号を生成することができる。さらに、信号変換装置1は、2次式内挿により演算量の増加を最小限に抑え、信号変換処理の高速化を図ることができる。
【0074】
(第2実施形態)
[信号変換処理]
第2実施形態での信号変換処理について、第1実施形態と異なる点を説明する。
第1実施形態では2次式内挿を行うのに対し、第2実施形態では3次式内挿を行う点が異なる。
【0075】
まず、基本となる3次式gを以下の式(19)のように定義する(残差Δy,Δzも同様)。この式(19)は、以下の式(20)のように、残差Δxが0又は1の場合、戻り値が0となる関数を表す。
【0076】
【数19】
【0077】
【数20】
【0078】
そして、第2実施形態では、式(10)の代わりに以下の式(21)を用いる。
なお、式(21)では、係数Cline,Cplane-xy,Cvolの区別するため、これら係数の末尾に1~8の数値を付加した。
【0079】
【数21】
【0080】
従って、第2実施形態では、式(12)の代わりに以下の式(22)、式(14)の代わりに以下の式(23)を用いる。
【0081】
【数22】
【0082】
【数23】
【0083】
3次式内挿の場合、立方体の頂点での補正項に関係する係数fが8個、立方体の各辺での補正項に関係する係数Cline-x-1~Cline-z-2が2×12=24個、立方体の各面での補正項に関係する係数Cplane-yz-1~Cplane-xy-4が4×6=24個、立方体内部での補正項に関係する係数Cvol-1~Cvol-8が8×1=8個である。従って、3D-LUTからの出力は、以下の式(24)のように27個の係数となる。
なお、これら係数は出力映像信号Cに関するものなので、出力映像信号C,Cも同様に必要となり、3D-LUTからの出力が式(24)の3倍となる。
【0084】
【数24】
【0085】
[信号変換装置の構成]
図6に戻り、信号変換装置1Bの構成について、第1実施形態と異なる点を説明する。
図6に示すように、信号変換装置1Bは、3D-LUT生成手段(テーブル生成手段)10Bと、3D-LUT記憶手段11と、入力変換手段12と、3D-LUT検索手段13と、信号演算処理手段(内挿手段)14Bとを備える。
なお、3D-LUT生成手段10B及び信号演算処理手段14B以外は、第1実施形態と同様のため、説明を省略する。
また、信号変換装置1Bの動作は、第1実施形態と同様のため、説明を省略する。
【0086】
3D-LUT生成手段10Bは、予め設定された誤差算出式により誤差が最小になる係数を求め、求めた係数を3D-LUTとして3D-LUT記憶手段11に書き込むものである。
なお、3D-LUT生成手段10Bは、誤差算出式として、式(23)を用いる以外、第1実施形態と同様である。
【0087】
信号演算処理手段14Bは、予め設定された高次式で内挿を行うことで、残差が示す位置に対応した信号値の出力信号を生成するものである。
なお、信号演算処理手段14Bは、高次式として、式(22)の3次式を用いる以外、第1実施形態と同様である。
【0088】
以上のように、信号変換装置1Bは、3次式内挿を行うので、従来の直線内挿に比べて、補間による誤差を少なくすることができる。従って、信号変換装置1Bは、3D-LUTのデータ量を抑えつつ、より高精度な出力映像信号を生成することができる。
【0089】
(実施例)
以下、本発明の実施例について説明する。
同一の入力映像信号に対して、直線内挿、2次式内挿及び3次式内挿の誤差を比較した。
ここで、誤差が大きくなるように、入力映像信号は、形式をJND(Just noticeable difference)、色空間をXYZ色空間、ガンマをJNDで規定されるものとした。また、出力映像信号は、形式をRGB形式、色空間をBT.709、ガンマをHDRのPQ方式とした。
【0090】
また、入力映像信号及び出力映像信号を10ビット(N=1023に相当)、3D-LUTへの入力の粗さをそれぞれ4ビット、5ビット、6ビットとした。従って、信号抽出間隔Mはそれぞれ、64、32、16となる。そして、直線内挿、2次式内挿、3次式内挿のそれぞれについて、式(14)の誤差に対する標準偏差を求め、比較した。
【0091】
図9では、横軸に3D-LUTのビット数、縦軸に誤差の標準偏差を図示した。ここで、実線が直線内挿を表し、破線が2次式内挿を表し、一点鎖線が3次式内挿を表す。この図9から、同一のビット数であれば、3次式内挿、2次式内挿、直線内挿の順で誤差が少なくなり、高い精度が得られることがわかった。但し、2次式内挿や3次式内挿では3D-LUTのデータ量が増加するので、それを加味する必要がある。そこで、図10では、横軸にデータ量、縦軸に誤差の標準偏差を図示した。この図10から、同一のデータ量であっても、3次式内挿、2次式内挿、直線内挿の順に高い精度が得られることがわかった。このように、本発明は、同一のデータ量であればより高精度で変換することができる。
【0092】
以上、本発明の実施形態を詳述してきたが、本発明は前記した各実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
前記した各実施形態では、2次式内挿及び3次式内挿を説明したが、本発明では、4次式以上の高次式で内挿してもよい。
【符号の説明】
【0093】
1,1B 信号変換装置
10,10B 3D-LUT生成手段(テーブル生成手段)
11 3D-LUT記憶手段(テーブル記憶手段)
12 入力変換手段(抽出手段)
13 3D-LUT検索手段(テーブル検索手段)
14,14B 信号演算処理手段(内挿手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13