(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-25
(54)【発明の名称】水性害虫防除液
(51)【国際特許分類】
A01N 53/06 20060101AFI20220217BHJP
A01N 25/18 20060101ALI20220217BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
A01N53/06 110
A01N25/18 103A
A01P7/04
(21)【出願番号】P 2017563806
(86)(22)【出願日】2017-01-26
(86)【国際出願番号】 JP2017002671
(87)【国際公開番号】W WO2017131073
(87)【国際公開日】2017-08-03
【審査請求日】2019-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2016015248
(32)【優先日】2016-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100162695
【氏名又は名称】釜平 双美
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 知輝
【審査官】早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-104844(JP,A)
【文献】特開2012-176946(JP,A)
【文献】特開2010-088427(JP,A)
【文献】特開2012-176947(JP,A)
【文献】特開2006-273743(JP,A)
【文献】特開2012-087087(JP,A)
【文献】特開2001-247405(JP,A)
【文献】特開平08-310907(JP,A)
【文献】SHIBUYA INDEX -2014-(17th Edition),SHIBUYA INDEX 研究会(代表:渋谷 成美),2014年01月25日,pp. 26-27
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N53/06
A01N25/18
A01P7/02-7/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル]メチル=2,2-ジメチル-3-(1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート、Donovan法による25℃における蒸気圧が1×10
-10~1×10
-4mmHgであり、かつ1以上の(C4-C12アルコキシ)カルボニル基を有するエステル化合物、グリコールエーテル、及び水を含有する水性害虫防除液であり、
Donovan法による25℃における蒸気圧が1×10
-10~1×10
-4mmHgであり、かつ1以上の(C4-C12アルコキシ)カルボニル基を有するエステル化合物が、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジ(2-エチルへキシル)、アジピン酸ジイソデシル、セバシン酸ジ(n-オクチル)、アジピン酸ジイソノニル、セバシン酸ジ(2-エチルへキシル)、1,10-デカンジカルボン酸ジ(2-エチルへキシル)、アジピン酸ジオクチル、セバシン酸ジ(n-ブチル)、O-アセチルクエン酸トリ(n-ブチル)、マレイン酸ジ(2-エチルへキシル)、及びトリメリト酸トリ(2-エチルへキシル)からなる群より選ばれる1種以上である水性害虫防除液。
【請求項2】
[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル]メチル=2,2-ジメチル-3-(1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレートの含有量が、水性害虫防除液全体に対して0.01~5重量%であり、前記Donovan法による25℃における蒸気圧が1×10
-10~1×10
-4mmHgであり、かつ1以上の(C4-C12アルコキシ)カルボニル基を有するエステル化合物の含有量が、水性害虫防除液全体に対して0.01~5重量%であり、グリコールエーテルの含有量が、水性害虫防除液全量に対して10~60重量%であり、水の含有量が、水性害虫防除液全量に対して30~85重量%である請求項1記載の水性害虫防除液。
【請求項3】
[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル]メチル=2,2-ジメチル-3-(1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレートの含有量が、水性害虫防除液全体に対して0.01~5重量%であり、Donovan法による25℃における蒸気圧が1×10
-10~1×10
-4mmHgであり、かつ1以上の(C4-C12アルコキシ)カルボニル基を有するエステル化合物の含有量が、水性害虫防除液全体に対して0.01~5重量%であり、グリコールエーテルの含有量が、水性害虫防除液全量に対して10~50重量%であり、水の含有量が、水性害虫防除液全量に対して40~85重量%である請求項1記載の水性害虫防除液。
【請求項4】
グリコールエーテルが、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル及びプロピレングリコールモノプロピルエーテルからなる群より選ばれる1種以上である請求項1~3いずれか一項記載の水性害虫防除液。
【請求項5】
さらに、グリコールを含有し、グリコールが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、テトラプロピレングリコール及びポリプロピレングリコールからなる群より選ばれる1種以上であり、グリコールの含有量が、水性害虫防除液全量に対して1~45重量%である請求項1~4いずれか一項記載の水性害虫防除液。
【請求項6】
請求項1~5いずれか一項記載の水性害虫防除液を、大気中に加熱蒸散させることを特徴とする害虫防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性害虫防除液に関する。
【背景技術】
【0002】
害虫防除液として、火気に対する安全性の向上や環境への配慮により水性害虫防除液が利用されている。例えば、特許文献1には、ピレスロイド化合物、グリコールエーテル及び水を含有する水性害虫防除液が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、長時間にわたって一定量の害虫防除成分を揮散させることが可能な水性害虫防除液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、水性害虫防除液について検討した結果、特定のピレスロイド化合物、特定の蒸気圧と置換基を有するエステル化合物、グルコールエーテル及び水を含有する水性害虫防除液によって、上記の課題が解決されることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
[1] 式(1)
〔式中、R
1及びR
2は同一または相異なり水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基又は塩素原子を表し、R
3は水素原子、メチル基又はメトキシメチル基を表す。〕
で示されるピレスロイド化合物、Donovan法による25℃における蒸気圧が1×10
-10~1×10
-4mmHgであり、かつ1以上の(C4-C12アルコキシ)カルボニル基を有するエステル化合物、グリコールエーテル及び水を含有する水性害虫防除液。
[2] 式(1)で示されるピレスロイド化合物の含有量が、水性害虫防除液全体に対して0.01~5重量%であり、Donovan法による25℃における蒸気圧が1×10
-10~1×10
-4mmHgであり、かつ1以上の(C4-C12アルコキシ)カルボニル基を有するエステル化合物の含有量が、水性害虫防除液全体に対して0.01~5重量%であり、グリコールエーテルの含有量が、水性害虫防除液全量に対して10~60重量%であり、水の含有量が、水性害虫防除液全量に対して30~85重量%である[1]記載の水性害虫防除液。
[3] 式(1)で示されるピレスロイド化合物の含有量が、水性害虫防除液全体に対して0.01~5重量%であり、Donovan法による25℃における蒸気圧が1×10
-10~1×10
-4mmHgであり、かつ1以上の(C4-C12アルコキシ)カルボニル基を有するエステル化合物の含有量が、水性害虫防除液全体に対して0.01~5重量%であり、グリコールエーテルの含有量が、水性害虫防除液全量に対して10~50重量%であり、水の含有量が、水性害虫防除液全量に対して40~85重量%である[1]記載の水性害虫防除液。
[4] Donovan法による25℃における蒸気圧が1×10
-10~1×10
-4mmHgであり、かつ1以上の(C4-C12アルコキシ)カルボニル基を有するエステル化合物が、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジ(2-エチルへキシル)、アジピン酸ジイソデシル、セバシン酸ジ(n-オクチル)、アジピン酸ジイソノニル、セバシン酸ジ(2-エチルへキシル)、1,10-デカンジカルボン酸ジ(2-エチルへキシル)、アジピン酸ジオクチル、セバシン酸ジ(n-ブチル)、O-アセチルクエン酸トリ(n-ブチル)、マレイン酸ジ(2-エチルへキシル)及びトリメリト酸トリ(2-エチルへキシル)からなる群より選ばれる1種以上である[1]~[3]いずれか一項記載の水性害虫防除液。
[5] グリコールエーテルが、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル及びプロピレングリコールモノプロピルエーテルからなる群より選ばれる1種以上である[1]~[4]いずれか一項記載の水性害虫防除液。
[6] さらに、グリコールを含有し、グリコールが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、テトラプロピレングリコール及びポリプロピレングリコールからなる群より選ばれる1種以上であり、グリコールの含有量が、水性害虫防除液全量に対して1~45重量%である[1]~[5]いずれか一項記載の水性害虫防除液。
[7] 式(1)で示されるピレスロイド化合物が、[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル]メチル=2,2-ジメチル-3-(1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート、[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-メチルフェニル]メチル=2,2-ジメチル-3-(1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート、(2,3,5,6-テトラフルオロフェニル)メチル=3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレート、[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル]メチル=3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレート、[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル]メチル=2,2-ジメチル-3-(2-メチル-1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート及び[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル]メチル=3-(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレートからなる群より選ばれる1種以上である[1]~[6]いずれか一項記載の水性害虫防除液。
[8] [1]~[7]いずれか一項記載の水性害虫防除液を、大気中に加熱蒸散させることを特徴とする害虫防除方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の水性害虫防除液を用いることによって、例えば50日以上の長時間にわたって一定量の害虫防除成分を揮散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の水性害虫防除液(以下、本発明防除液と記す。)は、式(1)
〔式中、R
1及びR
2は同一または相異なり水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基又は塩素原子を表し、R
3は水素原子、メチル基又はメトキシメチル基を表す。〕
で示されるピレスロイド化合物、Donovan法による25℃における蒸気圧が1×10
-10~1×10
-4mmHgであり、かつ1以上の(C4-C12アルコキシ)カルボニル基を有するエステル化合物、グリコールエーテル、及び水を含有する。
式(1)で示されるピレスロイド化合物としては、具体的には[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル]メチル=2,2-ジメチル-3-(1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート、[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-メチルフェニル]メチル=2,2-ジメチル-3-(1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート、(2,3,5,6-テトラフルオロフェニル)メチル=3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレート、[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル]メチル=3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレート、[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル]メチル=2,2-ジメチル-3-(2-メチル-1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート及び
[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル]メチル=3-(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレートが挙げられる。これら化合物は、例えば、特開2000-63329号公報、特許第2647411号明細書、特開昭57-123146号公報、特開2001-11022号公報、特開平11-222463号公報、特開2002-145828号公報、国際公開第2010/043122号に記載される化合物であり、該公報に記載の方法により製造することができる。
式(1)で示されるピレスロイド化合物には、シクロプロパン環上に存在する2つの不斉炭素原子に由来する異性体、及び二重結合に由来する異性体が存在する場合があるが、本発明には活性な異性体を任意の比率で含有するものを使用することができる。
また、本発明防除液においては、式(1)で示されるピレスロイド化合物は、1種又は2種以上を使用することができる。
また、本発明防除液においては、前記のピレスロイド化合物のうち、好ましくは[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル]メチル=2,2-ジメチル-3-(1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート、[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-メチルフェニル]メチル=2,2-ジメチル-3-(1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート、(2,3,5,6-テトラフルオロフェニル)メチル=3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレート、[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル]メチル=3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレート、[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル]メチル=2,2-ジメチル-3-(2-メチル-1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート及び[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル]メチル=3-(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレートが用いられ、より好ましくは[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル]メチル=2,2-ジメチル-3-(1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート及び[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル]メチル=2,2-ジメチル-3-(2-メチル-1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレートが用いられる。
【0009】
本発明防除液における式(1)で示されるピレスロイド化合物の含有量は、本発明防除液全量に対して、通常0.01~5重量%であり、好ましくは0.05~4重量%であり、さらに好ましくは0.1~3重量%であり、特に好ましくは0.1~1重量%である。
【0010】
本発明防除液に用いられるエステル化合物は、Donovan法による25℃における蒸気圧が1×10-10~1×10-4mmHgであり、1以上の(C4-C12アルコキシ)カルボニル基を有する。Donovan法とは、Stephen F. Donovanによって報告された方法(New method for estimating vapor pressure by the use of gas chromatography : Journal of Chromatography A. 749 (1996) 123-129)をいう。該エステル化合物は、Donovan法による25℃における蒸気圧が1×10-8~1×10-5mmHgであることが好ましく、1以上の(C4-C12アルコキシ)カルボニル基のほかに、1又は2以上のエステル基を有していてもよい。
かかるエステル化合物としては、例えば以下のものが挙げられる。カッコ内はDonovan法による25℃における蒸気圧を表す。
フタル酸ジイソデシル (1.0×10-8mmHg);
フタル酸ジ(2-エチルへキシル) (1.4×10-7mmHg);
アジピン酸ジイソデシル (2.4×10-7mmHg);
セバシン酸ジ(n-オクチル) (2.1×10-8mmHg);
アジピン酸ジイソノニル (6.2×10-8mmHg);
セバシン酸ジ(2-エチルへキシル) (2.1×10-8mmHg);
1,10-デカンジカルボン酸ジ(2-エチルへキシル) (5.4×10-9mmHg);
アジピン酸ジオクチル (4.0×10-7mmHg);
セバシン酸ジ(n-ブチル) (2.7×10-6mmHg);
O-アセチルクエン酸トリ(n-ブチル) (1.3×10-6mmHg);
マレイン酸ジ(2-エチルへキシル) (3.1×10-6mmHg);及び、
トリメリト酸トリ(2-エチルへキシル) (1.6×10-10mmHg)。
これらエステル化合物は、1種又は2種以上を使用することができる。また、これらのエステル化合物の1種以上を含有する市販品も用いることができる。かかる市販品としては、例えば610A(田岡化学株式会社製、アジピン酸((C6、C8、C10アルコキシ)カルボニル基、3.1×10-6~3.4×10-8mmHg)が挙げられる。
また、本発明防除液においては、前記のエステル化合物のうち、好ましくはセバシン酸ジ(n-ブチル)及びアジピン酸ジオクチルが用いられる。
本発明防除液におけるエステル化合物の含有量は、本発明防除液の全量に対し、通常0.01~5重量%であり、好ましくは0.01~3重量%であり、より好ましくは0.1~2重量%であり、特に好ましくは0.1~0.7重量%である。
【0011】
本発明防除液に用いられるグリコールエーテルとしては、例えば、エチレングリコール系エーテル、プロピレングリコール系エーテル、ジアルキルグリコール系エーテルが挙げられる。
エチレングリコール系エーテルとしては、例えば、下式(2)
〔式中、R
4はメチル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、アリル基、フェニル基又はベンジル基を表し、nは1~10の整数のいずれかを表す。〕
で示されるグリコールエーテルが挙げられ、具体的には例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテルが挙げられる。
プロピレングリコール系エーテルとしては、例えば、下式(3)
〔式中、R
5はメチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基又はアリル基を表し、mは1~3の整数のいずれかを表す。〕
で示されるグリコールエーテルが挙げられ、具体的には例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルが挙げられる。
ジアルキルグリコール系エーテルとしては、例えば、下式(4)
〔式中、R
6及びR
7は同一又は相異なり、メチル基、エチル基又はブチル基を表し、mは前記と同じ意味を表す。〕
で示されるグリコールエーテルが挙げられ、具体的には例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルが挙げられる。
本発明防除液においては、防除液の安定性の点から、好ましくはエチレングリコール系エーテルまたはプロピレングリコール系エーテルが用いられる。また、ピレスロイド化合物、エステル化合物及び水との溶解性の点で、エチレングリコール系エーテルにおいては、好ましくはエチレングリコールモノブチルエーテル及びジエチレングリコールモノブチルエーテルが用いられ、プロピレングリコール系エーテルにおいては、好ましくはプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテルが用いられる。
なお、本発明防除液においては、グリコールエーテルは、1種又は2種以上を使用することができる。
【0012】
本発明防除液におけるグリコールエーテルの含有量は、本発明防除液の全量に対して通常10~60重量%であり、好ましくは10~50重量%であり、さらに好ましくは15~40重量%である。
【0013】
本発明防除液における水の含有量は、本発明防除液の全量に対して、通常30~85重量%であり、好ましくは40~85重量%であり、さらに好ましくは50~70重量%であり、特に好ましくは50~60重量%である。
【0014】
本発明防除液には、さらにグリコールを含有させることができる。本発明防除液にグリコールが含有されていると、溶状が安定化し、好ましい。
本発明防除液に用いられるグリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、テトラプロピレングリコール及びポリプロピレングリコールが挙げられる。溶状安定性の点から、好ましくはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールが用いられ、さらに好ましくはトリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールが用いられる。
【0015】
本発明防除液がグリコールを含有する場合、その合計含有量は、本発明防除液の全量に対して、通常1~45重量%であり、好ましくは3~40重量%であり、より好ましくは5~30重量%であり、さらに好ましくは5~20重量%である。
なお、本発明防除液においては、グリコールは、1種又は2種以上を使用することができる。
【0016】
本発明防除液は、式(1)で示されるピレスロイド化合物、エステル化合物、グリコールエーテル及び水からなるもの、又は、式(1)で示されるピレスロイド化合物、エステル化合物、グリコールエーテル、水及びグリコールのみからなるものであっても良いが、必要に応じて2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール等のフェノール系酸化防止剤等の酸化防止剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤等が含有されていてもよい。
【0017】
本発明防除液は、他の殺虫活性成分、殺ダニ活性成分、忌避活性成分、共力剤等の1種以上を含有することができる。
【0018】
共力剤としては、例えばピペロニルブトキサイド(piperonyl butoxide)、セサメックス(sesamex)、スルホキシド(sulfoxide)、N-(2-エチルへキシル)-8,9,10-トリノルボルン-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド(MGK 264)、N-デクリイミダゾール(N-declyimidazole)、WARF-アンチレジスタント(WARF-antiresistant)、TBPT(S, S, S-tributyl phosphorotrithioate)、TPP(triphenyl phosphate)、IBP(diisopropyl S-benzyl phosphorothiolate)、PSCP(phenyl saligenin cyclic phosphonate)、ヨウ化メチル(CH3I)、t-フェニルブテノン(t-phenylbutenone)、ジエチルマレエート(diethylmaleate)、DMC(1,1-bis-(p-chloro-phenyl)methyl carbinol)、FDMC(bis-(p-chlorophenyl)-trifluoromethyl caxbinol)、ETP(1,1,1-trichloro-2,3-expoxypropane)、ETN(1,2-epoxy-1,2,3,4-tetrahydronapthalene)及びd-リモネンが挙げられる。
【0019】
本発明の害虫防除方法は、本発明防除液を例えば特公平2-25885号公報に記載の加熱蒸散型殺虫装置に適用して、優れた効果をあげることができる。
図1は本発明の害虫防除方法に用いられる装置の一例を示すものであり、害虫防除液1中に吸液芯3の一部が浸漬されており、該吸液芯3に害虫防除液1を吸液させ、該吸液芯3の上部を発熱体2で加熱することができるようになっている。該吸液芯3の上部を約60~135℃の温度に発熱体2で間接加熱することにより、該吸液芯3に吸液された害虫防除液1を大気中に蒸散させて害虫を防除することができる。
吸液芯は一般に多孔質材からなる。該多孔質材としては、例えばクレー、タルク、カオリン、珪藻土、石膏、パーライト、ベントナイト、酸性白土、グラスファイバー、石綿等の無機粉末をカルボキシメチルセルロース、澱粉、アラビアガム、ゼラチン、ポリビニルアルコール等の糊剤にて粘結、成形したものや、クレー、タルク、ベントナイト、アルミナ、シリカ等の無機物質を芯状に固めて焼成したものや、樹脂を芯状に成型加工したものや、ガラス繊維等を束ねたものなどが用いられる。
【0020】
本発明の害虫防除方法における防除対象害虫としては、各種の有害昆虫、ダニ類等の節足動物を挙げることができ、特に有害飛翔性害虫、例えばアカイエカ、コガタアカイエカ、ネッタイイエカ、チカイエカ等のイエカ類、ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ等のヤブカ類、シナハマダラカ等のハマダラカ類、ユスリカ類、イエバエ、オオイエバエ、ヒメイエバエ等のイエバエ類、クロバエ類、ニクバエ類、ショウジョウバエ類、チョウバエ類、ノミバエ類、アブ類、ブユ類、サシバエ類、ヌカカ類等の双翅目害虫が好ましい。防除対象害虫は、ピレスロイド系殺虫活性成分に対し感受性が低下した薬剤抵抗性害虫であってもよい。
【実施例】
【0021】
以下、製造例、試験例等により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。
【0022】
まず、水性害虫防除液の製造例を示す。部は重量部を示す。
【0023】
製造例1
[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル]メチル=2,2-ジメチル-3-(1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート(以下、ピレスロイド化合物Aと記す。) 0.29部、セバシン酸ジ(n-ブチル) 0.70部、プロピレングリコールモノプロピルエーテル 39.01部、ジプロピレングリコール10部を混合し、攪拌した後、水 50部を加え、さらに撹拌することにより、水性害虫防除液(1)100部を得た。
製造例2
ピレスロイド化合物A 0.29部、セバシン酸ジ(n-ブチル) 0.50部、プロピレングリコールモノプロピルエーテル 29.21部、ジプロピレングリコール 20部を混合し、攪拌した後、水 50部を加え、さらに撹拌することにより、水性害虫防除液(2)100部を得た。
製造例3
ピレスロイド化合物A 0.29部、アジピン酸ジオクチル 0.30部、プロピレングリコールモノプロピルエーテル 39.41部、ジプロピレングリコール 10部を混合し、攪拌した後、水 50部を加え、さらに撹拌することにより、水性害虫防除液(3)100部を得た。
製造例4
[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル]メチル=3-(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレート 0.30部、セバシン酸ジ(n-ブチル) 0.20部、ジエチレングリコールモノブチルエーテル 49.50部を混合し、攪拌した後、水 50部を加え、さらに撹拌することにより、水性害虫防除液(4)100部を得た。
製造例5
[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル]メチル=2,2-ジメチル-3-(2-メチル-1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート 0.30部、アジピン酸ジイソノニル 0.10部、プロピレングリコールモノプロピルエーテル 29.6部、ジプロピレングリコール 20部を混合し、攪拌した後、水 50部を加え、さらに撹拌することにより、水性害虫防除液(5)100部を得た。
製造例6
(2,3,5,6-テトラフルオロフェニル)メチル=3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレート 0.30部、アジピン酸ジオクチル 0.30部、プロピレングリコールモノプロピルエーテル 39.40部、ジプロピレングリコール 10部を混合し、攪拌した後、水 50部を加え、さらに撹拌することにより、水性害虫防除液(6)100部を得た。
製造例7
[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル]メチル=3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレート 0.18部、セバシン酸ジ(n-ブチル) 0.10部、ジエチレングリコールモノブチルエーテル 49.72部を混合し、攪拌した後、水 50部を加え、さらに撹拌することにより、水性害虫防除液(7)100部を得た。
製造例8
ピレスロイド化合物A 1.0部、アジピン酸ジイソノニル 0.10部、プロピレングリコールモノプロピルエーテル 38.9部、プロピレングリコール 10部を混合し、攪拌した後、水 50部を加え、さらに撹拌することにより、水性害虫防除液(8)100部を得た。
製造例9
ピレスロイド化合物A 0.29部、トリメリト酸トリ(2-エチルへキシル) 0.20部、プロピレングリコールモノプロピルエーテル 39.51部、ジプロピレングリコール 10部を混合し、攪拌した後、水 50部を加え、さらに撹拌することにより、水性害虫防除液(9)100部を得た。
製造例10
ピレスロイド化合物A 0.29部、アジピン酸ジオクチル 0.20部、ジエチレングリコールモノブチルエーテル 49.51部を混合し、攪拌した後、水 50部を加え、さらに撹拌することにより、水性害虫防除液(10)100部を得た。
製造例11
[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル]メチル=2,2-ジメチル-3-(2-メチル-1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート 0.60部、アジピン酸ジイソノニル 0.025部、プロピレングリコールモノプロピルエーテル 29.375部、ジプロピレングリコール 10部を混合し、攪拌した後、水 60部を加え、さらに撹拌することにより、水性害虫防除液(11)100部を得た。
比較製造例1
ピレスロイド化合物A 0.29部、プロピレングリコールモノプロピルエーテル 39.71部、ジプロピレングリコール 10部を混合し、攪拌した後、水 50部を加え、さらに撹拌することにより、比較用水性害虫防除液(1)100部を得た。
比較製造例2
ピレスロイド化合物A 0.29部、ジエチレングリコールモノブチルエーテル 49.71部を混合し、攪拌した後、水 50部を加え、さらに撹拌することにより、比較用水性害虫防除液(2)100部を得た。
【0024】
試験例1
製造例1で得られた水性害虫防除液(1)45gを容器に入れて吸液芯を取り付け、吸液芯付き水性害虫防除液(1)入りボトルとした。該ボトルを
図1の加熱蒸散型殺虫装置にセットして加熱した。加熱方法は、8時間連続加熱したあと、4時間加熱を止めるまでを1サイクルとし、これを繰り返した。加熱開始から63サイクルまでの特定サイクルにおいて、加熱開始後7~8時間における1時間のピレスロイド化合物の蒸散量を測定した。水性害虫防除液(1)の代わりに、それぞれ水性害虫防除液(2)乃至(11)、並びに、比較用水性害虫防除液(1)及び比較用水性害虫防除液(2)を用いて、同様の試験を行い、ピレスロイド化合物の蒸散量を測定した。
ただし、本発明の水性害虫防除液と比較用水性害虫防除液中のピレスロイド化合物の蒸散挙動を比較するためには、加熱蒸散型殺虫装置で使用した際の水性害虫防除液の消失時間が同等である必要がある。本発明のエステル化合物は水性害虫防除液の消費速度を調節する効果も有するため、水性害虫防除液(1)~(11)は、直径7.0mmの吸液芯と組み合わせて加熱蒸散型殺虫装置で使用した際、使用時間の合計で約400~500時間で防除液が消失する。比較用水性害虫防除液(1)は、直径5.5mmの吸液芯と組み合わせて使用することにより、使用時間の合計約400~500時間で水性害虫防除液が消失するように調整されている。また、比較用水性害虫防除液(2)は直径6.5mmの吸液芯と組み合わせて使用することにより、使用時間の合計約400~500時間で水性害虫防除液が消失するように調整されている。
ピレスロイド化合物の蒸散量は、ポリウレタンスポンジを吸着剤として充填したガラスカラムにより、蒸散してきた本化合物を経時的に捕集し、その後、ポリウレタンスポンジをアセトンにより抽出し、ガスクロマトグラフにてピレスロイド化合物量を定量分析することにより求めた。
結果を表1、2に示す。
【0025】
【0026】
【表2】
本発明の水性害虫防除液(1)~(11)は、50サイクル以上、1時間あたり0.1mg以上のピレスロイド化合物を蒸散させることができた。
【0027】
試験例2
水性害虫防除液(1)45gを容器に入れて吸液芯を取り付け、吸液芯付き水性害虫防除液(1)入りボトルとした。該ボトルを
図1の加熱蒸散型殺虫装置にセットして加熱した。加熱方法は、8時間連続加熱したあと、4時間加熱を止めるまでを1サイクルとし、これを繰り返した。加熱開始から49サイクルまで加熱を継続し、50サイクル目の加熱開始後7時間後に到達した時点で、該ボトル付加熱蒸散型殺虫装置を、3.0m×4.0m×2.3mの直方体の試験室内(28m
3)の床中央部に設置した。該ボトル付加熱蒸散型殺虫装置を設置後すぐに、アカイエカ雌成虫約100匹を室内に放った。放虫後、一定時間後にノックダウンしたアカイエカの数を調査し、得られたデータからKT
50(供試虫の50%がノックダウンするのに要する時間)を求めた。水性害虫防除液(1)の代わりに、水性害虫防除液(2)、(3)並びに、比較用水性害虫防除液(1)を用いて、同様の試験を行い、KT
50を求めた。
結果を表3に示す。
【0028】
【表3】
本発明の水性害虫防除液(1)~(3)は、50サイクル目において、比較用水性害虫防除液(1)と比べて素早いノックダウン効果を示した。
以上より、1日の実用的な使用時間を8時間とすると、本発明防除液は50日以上もの長期間にわたって、安定して害虫を防除することができた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明防除液は、長時間にわたって一定量の害虫防除成分を揮散させることができるため、害虫防除効果に優れる。
【符号の説明】
【0030】
1:害虫防除液
2:発熱体
3:吸液芯
4:薬液を入れたボトル