(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-25
(54)【発明の名称】シリコンウェーハ粗研磨用組成物の製造方法、シリコンウェーハ粗研磨用組成物セット、およびシリコンウェーハの研磨方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20220217BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20220217BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
C09K3/14 550Z
(21)【出願番号】P 2018531831
(86)(22)【出願日】2017-07-21
(86)【国際出願番号】 JP2017026406
(87)【国際公開番号】W WO2018025656
(87)【国際公開日】2018-02-08
【審査請求日】2020-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2016152325
(32)【優先日】2016-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 雄彦
(72)【発明者】
【氏名】田畑 誠
(72)【発明者】
【氏名】谷口 恵
(72)【発明者】
【氏名】土屋 公亮
【審査官】鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/098777(WO,A1)
【文献】特開2014-041978(JP,A)
【文献】特開2016-135882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒、塩基性化合物および水溶性高分子を含むシリコンウェーハ粗研磨用組成物を製造する方法であって、
前記砥粒および前記塩基性化合物を含むA液を調製する工程と;
前記水溶性高分子として、慣性半径が100nm以上である水溶性高分子P1および前記塩基性化合物を含むB液を調製する工程と;
前記A液と前記B液とを混合する工程と;
を包含
し、
前記シリコンウェーハ粗研磨用組成物において、前記水溶性高分子P1の含有量は、前記砥粒100重量部に対して0.3重量部以下であり、前記塩基性化合物の濃度は0.05重量%以上である、シリコンウェーハ粗研磨用組成物の製造方法。
【請求項2】
前記A液、前記B液、および該A液と該B液との混合液の少なくとも1種を希釈する工程を含み、
前記希釈工程における希釈倍率は、前記A液および前記B液の総量に対して体積基準で10倍よりも大きい倍率である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記B液に含まれる水溶性高分子の慣性半径は100nm以上である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記A液における前記砥粒の含有量は10重量%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記B液における前記水溶性高分子P1の含有量は0.01重量%以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
砥粒、塩基性化合物および水溶性高分子を含
み、該水溶性高分子P1の含有量が該砥粒100重量部に対して0.3重量部以下であり、該塩基性化合物の濃度が0.05重量%以上であるシリコンウェーハ粗研磨用組成物を製造するための研磨用組成物セットであって、
前記砥粒および前記塩基性化合物を含むA液と、前記水溶性高分子として慣性半径が100nm以上である水溶性高分子P1および前記塩基性化合物を含むB液と、を備える、シリコンウェーハ粗研磨用組成物セット。
【請求項7】
粗研磨工程と仕上げ研磨工程とを含むシリコンウェーハの研磨方法であって、
前記粗研磨工程の前に、該粗研磨工程に使用する粗研磨用組成物を調製する工程を含み、
前記粗研磨用組成物を調製する工程は、
砥粒および塩基性化合物を含むA液を調製する工程と;
慣性半径が100nm以上である水溶性高分子P1および前記塩基性化合物を含むB液を調製する工程と;
前記A液と前記B液とを混合する工程と;
を含
み、
前記粗研磨用組成物において、前記水溶性高分子P1の含有量は、前記砥粒100重量部に対して0.3重量部以下であり、前記塩基性化合物の濃度は0.05重量%以上である、シリコンウェーハの研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物の製造方法、研磨用組成物セット、および研磨方法に関する。詳しくは、シリコンウェーハ粗研磨に用いられる研磨用組成物の製造方法、研磨用組成物セット、および該研磨用組成物を用いたシリコンウェーハの研磨方法に関する。
本出願は、2016年8月2日に出願された日本国特許出願2016-152325号に基づく優先権を主張しており、その出願の全内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
半導体製品の製造等に用いられるシリコン基板の表面は、一般に、ラッピング工程とポリシング工程とを経て高品位の鏡面に仕上げられる。上記ポリシング工程は、典型的には、予備ポリシング工程(粗研磨工程)と仕上げポリシング工程(仕上げ研磨工程)とを含む。上記ポリシング工程は、研磨用組成物(研磨スラリー)を用いて実施される。シリコン基板の研磨に用いられる研磨用組成物を開示する先行技術文献としては、特許文献1が挙げられる。また、この種の研磨用組成物は、製造や流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から、研磨対象物に供給される前には濃縮された形態であり得る。すなわち、上記研磨用組成物は、研磨液の濃縮液の形態であり得る。調製された濃縮液は、水等で希釈された後、研磨に用いられる。この種の従来技術を開示する文献として、特許文献2および3が挙げられる。特許文献4は、研磨用組成物に用いられるヒドロキシセルロースの慣性半径を開示する文献である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特許出願公開2014-216464号公報
【文献】日本国特許出願公開2012-89862号公報
【文献】日本国特許出願公開2015-155523号公報
【文献】日本国特許出願公開2015-124231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、シリコンウェーハ粗研磨用組成物の性能向上について検討を行った結果、後述の実施例に示すように、所定以上の慣性半径を有する水溶性高分子を用いることにより、研磨後に外周部(エッジ近傍)の厚さが不所望に減少する事象、すなわちエッジロールオフを改善し得るという知見を得た。しかし、慣性半径の大きい水溶性高分子は、研磨用組成物を濃縮液として保管しているときの安定性が低下傾向となる。具体的には、上記濃縮液は、砥粒、水溶性高分子等の成分を使用時よりも高濃度で含有するため、含有成分が分離、凝集するなど良好な安定性が得られないおそれがある。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、濃縮液の利点と、優れた安定性とを両立することができ、かつエッジロールオフを改善することができるシリコンウェーハ粗研磨用組成物の製造方法を提供することを目的とする。関連する他の目的は、シリコンウェーハ粗研磨用組成物セットを提供すること、およびシリコンウェーハの研磨方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、砥粒、塩基性化合物および水溶性高分子を含むシリコンウェーハ粗研磨用組成物を製造する方法が提供される。この製造方法は:前記砥粒および前記塩基性化合物を含むA液を調製する工程と;前記水溶性高分子として、慣性半径が100nm以上である水溶性高分子P1を含むB液を調製する工程と;前記A液と前記B液とを混合する工程と;を包含する。かかる方法によって得られる研磨用組成物は、所定以上の慣性半径を有する水溶性高分子P1を含むことで、シリコン基板の研磨においてエッジロールオフを改善することができる。また、完成前、換言すると使用前の研磨用組成物はA液およびB液を有する多剤型であり、各液を高濃度化(濃縮液化)することで、利便性、コスト低減等といった濃縮液の利点を享受することができる。また、砥粒、水溶性高分子P1はA液、B液にそれぞれ別に収容されているので、砥粒の存在によって水溶性高分子P1の分散が阻害される事象を回避することができる。その結果、完成前の研磨用組成物は、A液、B液の状態で優れた安定性を示す。したがって、本発明によると、濃縮液の利点を享受しつつ、安定性に優れ、かつエッジロールオフを改善し得るシリコンウェーハ粗研磨用組成物を製造することができる。
【0007】
また、本発明によると、砥粒、塩基性化合物および水溶性高分子を含むシリコンウェーハ粗研磨用組成物を製造するための研磨用組成物セットが提供される。かかる研磨用組成物セットは、前記砥粒および前記塩基性化合物を含むA液と、前記水溶性高分子として慣性半径が100nm以上である水溶性高分子P1を含むB液と、を備える。かかる構成によると、使用前、例えば保管時には、A液およびB液は、それぞれを濃縮液とした場合に、濃縮液の利点を享受しつつ、それぞれが安定性に優れる。そして、適当なタイミングでA液とB液とを混合して研磨用組成物(研磨スラリー)とし、これを使用することにより、シリコン基板のエッジロールオフを改善することができる。濃縮液の利点は、利便性、コスト低減等である。
【0008】
また、本発明によると、粗研磨工程と仕上げ研磨工程とを含むシリコンウェーハの研磨方法が提供される。この研磨方法は、前記粗研磨工程の前に、該粗研磨工程に使用する粗研磨用組成物を調製する工程を含む。また、前記粗研磨用組成物を調製する工程は:砥粒および塩基性化合物を含むA液を調製する工程と;慣性半径が100nm以上である水溶性高分子P1を含むB液を調製する工程と;前記A液と前記B液とを混合する工程と;を含む。かかる方法によると、使用前の研磨用組成物は、A液とB液とに分離された状態で、安定性に優れた濃縮液とすることができる。また、当該研磨用組成物を用いて粗研磨を実施することにより、シリコン基板のエッジロールオフを改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0010】
本明細書によると、研磨用組成物の製造方法、該研磨用組成物を製造するための研磨用組成物セット、および該研磨用組成物を用いたシリコンウェーハの研磨方法が提供される。以下、ここに開示される方法によって製造される研磨用組成物についてまず説明し、次いで、その製造方法、研磨用組成物セット、該研磨用組成物を用いた研磨方法の順で説明する。
【0011】
<研磨用組成物>
(砥粒)
ここに開示される研磨用組成物は砥粒を含む。砥粒の材質や性状は特に制限されず、使用目的や使用態様等に応じて適宜選択することができる。砥粒の例としては、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子が挙げられる。無機粒子の具体例としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、ベンガラ粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩等が挙げられる。有機粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子やポリ(メタ)アクリル酸粒子、ポリアクリロニトリル粒子等が挙げられる。このような砥粒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸を包括的に指す意味である。
【0012】
上記砥粒としては、無機粒子が好ましく、なかでも金属または半金属の酸化物からなる粒子が好ましい。ここに開示される技術において特に好ましい砥粒として、シリカ粒子が挙げられる。ここに開示される技術は、例えば、上記砥粒が実質的にシリカ粒子からなる態様で好ましく実施され得る。ここで「実質的に」とは、砥粒を構成する粒子の95重量%以上がシリカ粒子であることをいい、好ましくは98重量%以上、より好ましくは99重量%以上がシリカ粒子であり、砥粒を構成する粒子の100重量%がシリカ粒子であってもよい。
【0013】
シリカ粒子の具体例としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降シリカ等が挙げられる。シリカ粒子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。研磨対象物表面にスクラッチを生じにくく、かつ良好な研磨性能を発揮し得ることから、コロイダルシリカが特に好ましい。上記研磨性能は、表面粗さを低下させる性能等である。コロイダルシリカとしては、例えば、イオン交換法により水ガラス(珪酸Na)を原料として作製されたコロイダルシリカや、アルコキシド法コロイダルシリカを好ましく採用することができる。アルコキシド法コロイダルシリカとは、アルコキシシランの加水分解縮合反応により製造されたコロイダルシリカをいう。コロイダルシリカは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
シリカ粒子を構成するシリカの真比重は、1.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.6以上、さらに好ましくは1.7以上である。シリカの真比重の増大により、研磨レートは高くなる傾向にある。かかる観点から、真比重が2.0以上、例えば2.1以上のシリカ粒子が特に好ましい。シリカの真比重の上限は特に限定されないが、典型的には2.3以下、例えば2.2以下である。シリカの真比重としては、置換液としてエタノールを用いた液体置換法による測定値を採用し得る。
【0015】
ここに開示される砥粒の平均一次粒子径は特に限定されない。研磨レート等の観点から、上記平均一次粒子径は、5nm以上が適当であり、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、さらに好ましくは40nm以上、特に好ましくは45nm以上である。特に好ましい一態様において、上記平均一次粒子径は、例えば50nm以上である。上記砥粒は、典型的にはシリカ粒子である。また、スクラッチ防止等の観点から、砥粒の平均一次粒子径は、200nm以下程度とすることが適当であり、好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下、さらに好ましくは70nm以下、特に好ましくは60nm以下であり得る。
なお、本明細書において平均一次粒子径とは、BET法により測定される比表面積(BET値)から、BET径[nm]=6000/(真密度[g/cm3]×BET値[m2/g])の式により算出される粒子径をいう。例えばシリカ粒子の場合、BET径[nm]=2727/BET値[m2/g]によりBET径を算出することができる。比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
【0016】
砥粒の形状(外形)は、球形であってもよく、非球形であってもよい。非球形をなす粒子の具体例としては、ピーナッツ形状、繭型形状、金平糖形状、ラグビーボール形状等が挙げられる。ピーナッツ形状は、すなわち、落花生の殻の形状である。例えば、粒子の多くがピーナッツ形状をした砥粒を好ましく採用し得る。
【0017】
特に限定するものではないが、砥粒の長径/短径比の平均値(平均アスペクト比)は、原理的に1.0以上であり、好ましくは1.05以上、さらに好ましくは1.1以上である。平均アスペクト比の増大によって、より高い研磨レートが実現され得る。また、砥粒の平均アスペクト比は、スクラッチ低減等の観点から、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下である。
【0018】
砥粒の形状(外形)や平均アスペクト比は、例えば、電子顕微鏡観察により把握することができる。平均アスペクト比を把握する具体的な手順としては、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、独立した粒子の形状を認識できる所定個数のシリカ粒子について、各々の粒子画像に外接する最小の長方形を描く。所定個数とは、例えば200個である。そして、各粒子画像に対して描かれた長方形について、その長辺の長さ(長径の値)を短辺の長さ(短径の値)で除した値を長径/短径比(アスペクト比)として算出する。上記所定個数の粒子のアスペクト比を算術平均することにより、平均アスペクト比を求めることができる。
【0019】
ここに開示される研磨用組成物における砥粒の含有量は、特に限定されず、好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.3重量%以上である。さらに好ましい一態様において、上記砥粒の含有量は、例えば0.5重量%以上である。砥粒の含有量の増大によって、より高い研磨レートが実現され得る。また、研磨対象物からの除去性等の観点から、上記含有量は、10重量%以下が適当であり、好ましくは7重量%以下、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下である。さらに好ましい一態様において、上記砥粒の含有量は、例えば2重量%以下である。
【0020】
(水溶性高分子P1)
ここに開示される研磨用組成物は、慣性半径が100nm以上である水溶性高分子P1を含む。上記慣性半径を有する水溶性高分子P1を用いることによって、エッジロールオフが改善される。その理由は特に限定的に解釈されるものではないが、研磨用組成物(研磨スラリー)に含まれる所定以上の慣性半径を有する水溶性高分子P1が、研磨対象基板の端部に強く吸着し過剰な研磨を回避することで、エッジロールオフ(端部ダレ)の増大が抑制されるものと推察される。なお、水溶性高分子P1の慣性半径は、水溶液における水溶性高分子P1一分子のサイズであり、主には、当該高分子P1の親水性、分子量等によって決定され得る。エッジロールオフ改善の観点から、水溶性高分子P1の慣性半径は好ましくは105nm以上、より好ましくは120nm以上、特に好ましくは140nm以上である。水溶性高分子P1の慣性半径の上限は特に限定されず、研磨用組成物製造において水溶性高分子P1含有液として用いるB液の安定性や濃縮効率等の観点から、凡そ500nm以下とすることが適当であり、好ましくは300nm以下、より好ましくは250nm以下、さらに好ましくは220nm以下である。水溶性高分子P1の上記慣性半径は、例えば150nm以下、120nm以下であってもよい。なお、本明細書における水溶性高分子の慣性半径は、後述の実施例に記載の方法で測定される。
【0021】
ここに開示される研磨用組成物に含まれる水溶性高分子P1の種類は特に制限されず、研磨用組成物の分野において公知の水溶性高分子種のなかから適宜選択することができる。水溶性高分子P1は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。水溶性高分子P1の例としては、セルロース誘導体、デンプン誘導体、オキシアルキレン単位を含むポリマー、窒素原子を含有するポリマー、ポリビニルアルコール等が挙げられる。なかでも、平坦度向上の観点から、セルロース誘導体、デンプン誘導体が好ましく、セルロース誘導体がより好ましい。
【0022】
セルロース誘導体は、主たる繰返し単位としてβ-グルコース単位を含むポリマーである。セルロース誘導体の具体例としては、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。なかでもHECが好ましい。
【0023】
デンプン誘導体は、主たる繰返し単位としてα-グルコース単位を含むポリマーである。デンプン誘導体の具体例としては、アルファ化デンプン、プルラン、カルボキシメチルデンプン、シクロデキストリン等が挙げられる。なかでもプルランが好ましい。
【0024】
オキシアルキレン単位を含むポリマーとしては、ポリエチレンオキサイド(PEO)や、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)またはブチレンオキサイド(BO)とのブロック共重合体、EOとPOまたはBOとのランダム共重合体等が例示される。そのなかでも、EOとPOのブロック共重合体またはEOとPOのランダム共重合体が好ましい。EOとPOとのブロック共重合体は、PEOブロックとポリプロピレンオキサイド(PPO)ブロックとを含むジブロック体、トリブロック体等であり得る。上記トリブロック体の例には、PEO-PPO-PEO型トリブロック体およびPPO-PEO-PPO型トリブロック体が含まれる。なかでも、PEO-PPO-PEO型トリブロック体がより好ましい。
EOとPOとのブロック共重合体またはランダム共重合体において、該共重合体を構成するEOとPOとのモル比[EO/PO]は、水への溶解性や洗浄性等の観点から、1より大きいことが好ましく、2以上であることがより好ましく、3以上であることがさらに好ましい。さらに好ましい一態様において、上記モル比[EO/PO]は、例えば5以上である。
【0025】
窒素原子を含有するポリマーとしては、主鎖に窒素原子を含有するポリマーおよび側鎖官能基(ペンダント基)に窒素原子を有するポリマーのいずれも使用可能である。窒素原子を含有するポリマーを使用することで、基板の表面粗さを改善することができる。主鎖に窒素原子を含有するポリマーの例としては、N-アシルアルキレンイミン型モノマーの単独重合体および共重合体が挙げられる。N-アシルアルキレンイミン型モノマーの具体例としては、N-アセチルエチレンイミン、N-プロピオニルエチレンイミン等が挙げられる。ペンダント基に窒素原子を有するポリマーとしては、例えばN-ビニル型のモノマー単位を含むポリマー等が挙げられる。例えば、N-ビニルピロリドンの単独重合体および共重合体等を採用し得る。ここに開示される技術においては、N-ビニルピロリドンが50モル%以上の割合で重合されたN-ビニルピロリドンの単独重合体および共重合体の少なくとも1種(以下「PVP」ともいう。)が好ましく用いられる。
【0026】
水溶性高分子P1としてポリビニルアルコールを用いる場合、該ポリビニルアルコールのけん化度は特に限定されない。
【0027】
ここに開示される技術において水溶性高分子P1の分子量は特に限定されない。濃縮効率等の観点から、水溶性高分子P1の重量平均分子量(Mw)は、凡そ300×104以下とすることができ、150×104以下が適当である。上記Mwは、例えば130×104以下、110×104以下であってもよい。また、基板表面の保護性や研磨性能向上の観点から、Mwは1×104以上が適当であり、好ましくは10×104以上、より好ましくは20×104以上である。より好ましい一態様において、上記Mwは、例えば50×104以上、さらには80×104以上である。上記Mwは、例えば110×104以上、130×104以上であり得る。上記Mwは、セルロース誘導体に対して特に好ましく採用され得る。上記セルロース誘導体としては、例えばHECが挙げられる。
【0028】
水溶性高分子P1の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との関係は特に制限されない。凝集物の発生防止等の観点から、例えば分子量分布[Mw/Mn]が10.0以下であるものが好ましく、7.0以下であるものがさらに好ましい。
【0029】
なお、水溶性高分子P1のMwおよびMnとしては、水系のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)に基づく値(水系、ポリエチレンオキサイド換算)を採用することができる。後述する水溶性高分子P2についても同様である。
【0030】
上記研磨用組成物における水溶性高分子P1の含有量は、研磨性能や表面品質向上等の観点から、1×10-5重量%以上、例えば5×10-5重量%以上とすることが適当であり、好ましくは1×10-4重量%以上である。好ましい一態様において、上記水溶性高分子P1の含有量は、例えば2×10-4重量%以上である。上記研磨用組成物における水溶性高分子P1の含有量の上限は、例えば1重量%以下とすることができる。濃縮液段階での安定性や研磨レート、洗浄性等の観点から、水溶性高分子P1の含有量は、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下、特に好ましくは0.01重量%以下である。特に好ましい一態様において、上記水溶性高分子P1の含有量は、例えば0.005重量%以下、典型的には0.001重量%以下である。上記濃縮液は、典型的にはB液である。
【0031】
また、ここに開示される研磨用組成物における水溶性高分子P1の含有量は、研磨用組成物に含まれる砥粒との相対的関係によっても特定され得る。具体的には、研磨用組成物における水溶性高分子P1の含有量は、砥粒100重量部に対して0.001重量部以上とすることが適当であり、エッジロールオフ改善等の観点から、好ましくは0.005重量部以上、より好ましくは0.01重量部以上、さらに好ましくは0.015重量部以上である。また、安定性や研磨レート等の観点から、水溶性高分子P1の含有量は、砥粒100重量部に対して10重量部以下とすることが適当であり、好ましくは1重量部以下、より好ましくは0.5重量部以下、さらに好ましくは0.3重量部以下である。
【0032】
(水溶性高分子P2)
ここに開示される技術における好ましい一態様では、研磨用組成物は、慣性半径が100nm以上である水溶性高分子P1に加えて、慣性半径が100nm未満である水溶性高分子P2をさらに含む。かかる水溶性高分子P2は、水溶性高分子P1と異なり、エッチング抑制等の基板表面保護の役割を担って表面粗さ低減に貢献する成分であることから、基板表面保護剤ともいう。水溶性高分子P2の慣性半径は、安定性や濃縮効率等の観点から、好ましくは90nm未満、より好ましくは70nm未満、さらに好ましくは50nm未満である。さらに好ましい一態様において、上記水溶性高分子P2の慣性半径は、例えば30nm未満、典型的には5nm未満である。水溶性高分子P2の慣性半径の下限は特に限定されず、0.1nm以上、例えば1nm以上であり得る。
【0033】
水溶性高分子P2の種類は、特に限定されず、研磨用組成物の分野において公知の水溶性高分子種のなかから適宜選択することができる。水溶性高分子P2の例としては、水溶性高分子P1として例示したセルロース誘導体、デンプン誘導体、オキシアルキレン単位を含むポリマー、窒素原子を含有するポリマー、ポリビニルアルコール等が挙げられる。水溶性高分子P2は、表面粗さを低減する観点から、セルロース誘導体および/またはデンプン誘導体以外の高分子であることが好ましく、窒素原子を含有するポリマーであることがより好ましい。上記セルロース誘導体および/またはデンプン誘導体以外の高分子は、典型的にはセルロース誘導体以外の高分子である。セルロース誘導体、デンプン誘導体、オキシアルキレン単位を含むポリマー、窒素原子を含有するポリマー、ポリビニルアルコールの具体例としては、水溶性高分子P1として例示したものの1種または2種以上を使用することができる。なかでも、主鎖に窒素原子を含有するポリマー、側鎖官能基(ペンダント基)に窒素原子を有するポリマーが好ましく、N-ビニル型のモノマー単位を含むポリマーがより好ましい。そのなかでも、N-ビニルピロリドンの単独重合体および共重合体(典型的にはPVP)等が特に好ましい。
【0034】
水溶性高分子P2の分子量は、特に限定されない。水溶性高分子P2の重量平均分子量(Mw)は、凡そ300×104以下とすることができ、150×104以下、例えば50×104以下が適当である。安定性等の観点から、上記Mwは、30×104以下、例えば5×104以下であってもよい。また、基板表面の保護性向上の観点から、Mwが1×104以上が適当であり、2×104以上がより好ましく、3×104以上がさらに好ましい。上記Mwは、N-ビニルピロリドンの単独重合体および共重合体(典型的にはPVP)に対して特に好ましく採用され得る。
【0035】
水溶性高分子P2の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との関係は特に制限されない。凝集物の発生防止等の観点から、例えば分子量分布[Mw/Mn]が10.0以下であるものが好ましく、7.0以下であるものがさらに好ましく、5.0以下であるものが一層好ましく、4.0以下であるものが特に好ましく、3.0以下であるものが最も好ましい。
【0036】
ここに開示される技術において、水溶性高分子として、水溶性高分子P1と水溶性高分子P2とを組み合わせて使用する場合、水溶性高分子P1と水溶性高分子P2との配合比率は特に限定されず、例えば、水溶性高分子P1:水溶性高分子P2は1:9~9:1とすることが適当であり、好ましくは3:7~8:2、より好ましくは5:5~7:3である。なお、上記水溶性高分子P1は、例えばHEC等のセルロース誘導体であり、上記水溶性高分子P2は、例えばPVP等のN-ビニル型のモノマー単位を含むポリマーである。
【0037】
一態様に係る研磨用組成物では、水溶性高分子P2の含有量は、水溶性高分子P1の含有量を100重量%としたとき、100重量%未満であり、安定性の観点から、好ましくは80重量%未満、より好ましくは70重量%未満である。より好ましい一態様において、上記水溶性高分子P2の含有量は、例えば60重量%未満である。また、表面粗さ低減等の観点から、水溶性高分子P2の含有量は、水溶性高分子P1の含有量を100重量%としたとき、凡そ10重量%以上とすることができ、30重量%以上が適当であり、好ましくは50重量%以上である。ここに開示される技術において、研磨用組成物が水溶性高分子P2を含む場合も含まない場合も、水溶性高分子P1以外の水溶性高分子の含有量は、水溶性高分子P1の含有量を100重量%としたとき、200重量%未満程度とすることができ、例えば150重量%未満、さらには100重量%未満とすることが適当である。安定性の観点から、水溶性高分子P1以外の水溶性高分子の含有量は、水溶性高分子P1の含有量を100重量%としたとき、好ましくは80重量%未満、より好ましくは70重量%未満であり、さらには50重量%未満、例えば30重量%未満であってもよく、10重量%未満、例えば1重量%以下、具体的には0~1重量%であってもよい。より好ましい一態様において、水溶性高分子P1以外の水溶性高分子の含有量は、例えば60重量%未満である。
【0038】
(塩基性化合物)
ここに開示される研磨用組成物は塩基性化合物を含有する。本明細書において塩基性化合物とは、水に溶解して水溶液のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。塩基性化合物としては、窒素を含む有機または無機の塩基性化合物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、各種の炭酸塩や炭酸水素塩等を用いることができる。窒素を含む塩基性化合物の例としては、第四級アンモニウム化合物、第四級ホスホニウム化合物、アンモニア、アミン等が挙げられる。上記アミンは、好ましくは水溶性アミンである。このような塩基性化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
アルカリ金属の水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。炭酸塩または炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、グアニジン、イミダゾールやトリアゾール等のアゾール類等が挙げられる。第四級ホスホニウム化合物の具体例としては、水酸化テトラメチルホスホニウム、水酸化テトラエチルホスホニウム等の水酸化第四級ホスホニウムが挙げられる。
【0040】
第四級アンモニウム化合物としては、テトラアルキルアンモニウム塩、ヒドロキシアルキルトリアルキルアンモニウム塩等の第四級アンモニウム塩を好ましく用いることができる。上記第四級アンモニウム塩は、典型的には強塩基である。かかる第四級アンモニウム塩におけるアニオン成分は、例えば、OH-、F-、Cl-、Br-、I-、ClO4
-、BH4
-等であり得る。なかでも好ましい例として、アニオンがOH-である第四級アンモニウム塩、すなわち水酸化第四級アンモニウムが挙げられる。水酸化第四級アンモニウムの具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラペンチルアンモニウムおよび水酸化テトラヘキシルアンモニウム等の水酸化テトラアルキルアンモニウム;水酸化2-ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウム(コリンともいう。)等の水酸化ヒドロキシアルキルトリアルキルアンモニウム;等が挙げられる。これらのうち水酸化テトラアルキルアンモニウムが好ましく、なかでも水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)が好ましい。
【0041】
ここに開示される研磨用組成物は、上述のような第四級アンモニウム化合物と弱酸塩とを組み合わせて含み得る。上記第四級アンモニウム化合物は、例えば、TMAH等の水酸化テトラアルキルアンモニウムである。弱酸塩としては、シリカ粒子を用いる研磨に使用可能であって、第四級アンモニウム化合物との組合せで所望の緩衝作用を発揮し得るものを適宜選択することができる。弱酸塩は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。弱酸塩の具体例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、オルト珪酸ナトリウム、オルト珪酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、酢酸マグネシウム、プロピオン酸マグネシウム、プロピオン酸亜鉛、酢酸マンガン、酢酸コバルト等が挙げられる。アニオン成分が炭酸イオンまたは炭酸水素イオンである弱酸塩が好ましく、アニオン成分が炭酸イオンである弱酸塩が特に好ましい。また、カチオン成分としては、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属イオンが好適である。特に好ましい弱酸塩として、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素カリウムが挙げられる。なかでも炭酸カリウム(K2CO3)が好ましい。
【0042】
塩基性化合物として、第四級アンモニウム化合物と、弱酸塩とを組み合わせて使用する場合、第四級アンモニウム化合物と弱酸塩との配合比率は特に限定されず、例えば、第四級アンモニウム化合物:弱酸塩を1:9~9:1とすることが適当であり、好ましくは3:7~8:2、より好ましくは5:5~7:3である。上記第四級アンモニウム化合物は、例えば、TMAH等の水酸化テトラアルキルアンモニウムである。弱酸塩は、例えば、K2CO3等のアニオン成分が炭酸イオンである弱酸塩である。
【0043】
ここに開示される技術において、研磨用組成物中の塩基性化合物の含有量は、例えば0.001重量%以上、典型的には0.01重量%以上とすることが適当であり、研磨レート向上等の観点から、好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.08重量%以上である。塩基性化合物の含有量の増加によって、A液の安定性は向上し得る。上記塩基性化合物の含有量の上限は、5重量%以下とすることが適当であり、表面品質等の観点から、好ましくは1重量%以下である。好ましい一態様において、上記塩基性化合物の含有量は、例えば0.5重量%以下、典型的には0.2重量%以下である。
【0044】
(水)
ここに開示される研磨用組成物は、典型的には水を含む。水としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。使用する水は、研磨用組成物に含まれる他の成分の働きが阻害されることを極力回避するため、例えば遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下であることが好ましい。例えば、イオン交換樹脂による不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって水の純度を高めることができる。また、ここに開示される研磨用組成物は、必要に応じて、水と均一に混合し得る有機溶剤をさらに含有してもよい。上記有機溶剤は、低級アルコール、低級ケトン等である。研磨用組成物に含まれる溶媒は、その90体積%以上が水であることが好ましく、95体積%以上が水であることがより好ましい。より好ましい一態様において、典型的には、濃縮液に含まれる溶媒の99~100体積%が水である。なお本明細書では、上記溶媒および水を包含する総称として水系溶媒という語を用いる場合がある。
【0045】
(キレート剤)
ここに開示される研磨用組成物には、任意成分として、キレート剤を含有させることができる。キレート剤は、研磨用組成物中に含まれ得る金属不純物と錯イオンを形成してこれを捕捉することにより、金属不純物による研磨対象物の汚染を抑制する働きをする。キレート剤の例としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸およびα-メチルホスホノコハク酸が含まれる。これらのうち有機ホスホン酸系キレート剤がより好ましい。なかでも好ましいものとして、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミン五酢酸が挙げられる。特に好ましいキレート剤として、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が挙げられる。キレート剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
(その他の成分)
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、界面活性剤、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、防腐剤、防カビ剤等の、研磨スラリーに用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。上記研磨スラリーは、典型的には、シリコン基板のポリシング工程に用いられる研磨スラリーである。
【0047】
ここに開示される研磨用組成物は、酸化剤を実質的に含まないことが好ましい。研磨用組成物中に酸化剤が含まれていると、研磨スラリーが研磨対象物(ここではシリコン基板)に供給されることで該研磨対象物の表面が酸化されて酸化膜が生じ、これにより研磨レートが低下してしまうことがあり得るためである。ここでいう酸化剤の具体例としては、過酸化水素(H2O2)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム等が挙げられる。なお、研磨用組成物が酸化剤を実質的に含まないとは、少なくとも意図的には酸化剤を含有させないことをいう。
【0048】
ここに開示される技術における研磨用組成物のpHは、8.0以上、例えば8.5以上であることが好ましく、より好ましくは9.0以上、さらに好ましくは9.5以上である。さらに好ましい一態様における研磨用組成物のpHは、例えば10.0以上である。研磨液のpHが高くなると、研磨レートが向上する傾向にある。研磨液のpHの上限値は特に制限されないが、研磨対象物をよりよく研磨する観点から、12.0以下、例えば11.5以下であることが好ましく、11.0以下であることがより好ましい。表面品質向上の観点から、上記pHは、10.8以下とすることがさらに好ましい。さらに好ましい一態様における研磨用組成物のpHは、例えば10.6以下、典型的には10.5以下である。上記表面品質向上とは、典型的には表面粗さ低減を指す。上記pHは、例えば、シリコンウェーハの研磨に用いられる研磨液に好ましく採用され得る。上記研磨液は、例えば粗研磨用の研磨液である。
【0049】
なお、ここに開示される技術において、液状の組成物のpHは、pHメーターを使用し、標準緩衝液を用いて3点校正した後で、ガラス電極を測定対象の組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより把握することができる。上記液状の組成物は、研磨スラリー、A液、B液等、その濃縮液等であり得る。また、pHメーターとしては、例えば、堀場製作所製のガラス電極式水素イオン濃度指示計(型番F-23)を使用する。さらに、標準緩衝液は、フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃)である。
【0050】
<研磨用組成物の製造方法>
ここに開示される研磨用組成物は、下記の方法で製造することができる。具体的には、上記製造方法は、砥粒および塩基性化合物を含むA液を調製する工程(A液調製工程)と、慣性半径が100nm以上である水溶性高分子P1を含むB液を調製する工程(B液調製工程)と、上記A液と上記B液とを混合する工程(混合工程)と、を含む。なお、A液調製工程とB液調製工程の順序は特に限定されない。
【0051】
(A液調製工程)
ここに開示される研磨用組成物を製造するにあたって、砥粒と塩基性化合物とを含むA液を調製する。A液に含まれる砥粒の種類としては、研磨用組成物に含まれ得る砥粒として例示した各種砥粒の1種または2種以上を使用することができる。各種砥粒としては、例えばシリカ粒子、好ましくはコロイダルシリカが挙げられる。同様に、砥粒の平均一次粒子径、形状、平均アスペクト比についても、研磨用組成物に含まれる砥粒がとり得る平均一次粒子径、形状、平均アスペクト比とすることができる。
【0052】
A液は、製造、流通、保存等の利便性等の観点から、典型的には、研磨用組成物よりも含有成分を高濃度で含む形態で調製される。したがって、A液中の砥粒の含有量についても、研磨用組成物における砥粒の含有量よりも高いことが好ましい。具体的には、A液における砥粒の含有量は、凡そ1重量%以上、例えば10重量%以上とすることが適当であり、好ましくは15重量%以上、より好ましくは20重量%以上、さらに好ましくは25重量%以上である。安定性や濾過性等の観点から、A液における砥粒の含有量は、例えば50重量%以下とすることが適当であり、好ましくは45重量%以下である。好ましい一態様において、A液における砥粒の含有量は、例えば40重量%以下、典型的には35重量%以下である。
【0053】
好ましい一態様では、安定性の観点から、研磨用組成物に含まれる砥粒の全量がA液に含まれているが、ここに開示される技術はこれに限定されない。本発明の効果が著しく損なわれない範囲で、研磨用組成物に含まれる砥粒の一部がA液に含まれていてもよい。具体的には、研磨用組成物に含まれる砥粒の総量を100重量%としたとき、そのうち50重量%を超える量がA液中に含まれていることが適当であり、研磨用組成物に含まれる砥粒の総量の80重量%以上、例えば90重量%以上、さらには95重量%以上、典型的には99重量%~100重量%をA液に含ませることが好ましい。
【0054】
A液に含まれる塩基性化合物についても、砥粒の場合と同様に、研磨用組成物に含まれ得る塩基性化合物として例示した各種塩基性化合物の1種または2種以上を使用することができる。第四級アンモニウム化合物、弱酸塩、あるいは両者の併用が好ましい。B液が、塩基性化合物として、第四級アンモニウム化合物と、弱酸塩とを組み合わせて含む場合、B液における第四級アンモニウム化合物と弱酸塩との配合比率は特に限定されず、例えば、第四級アンモニウム化合物:弱酸塩を1:9~9:1とすることが適当であり、好ましくは3:7~8:2、より好ましくは5:5~7:3である。なお、上記第四級アンモニウム化合物は、例えば、TMAH等の水酸化テトラアルキルアンモニウムである。上記弱酸塩は、例えば、K2CO3等のアニオン成分が炭酸イオンである弱酸塩である。
【0055】
A液における塩基性化合物の含有量(濃度)は、研磨レート向上等の観点から、例えば0.1重量%以上、典型的には0.5重量%以上とすることが適当であり、好ましくは1重量%以上、より好ましくは1.5重量%以上、さらに好ましくは2.0重量%以上である。さらに好ましい一態様において、A液における塩基性化合物の含有量は、例えば2.5重量%以上である。例えば、A液を高倍率で希釈して使用する場合には、希釈後における砥粒濃度は相対的に低くなり、砥粒による加工力も低下傾向となる場合がある。そのような場合においても、A液の段階で塩基性化合物を増量しておくことで、希釈後における化学的研磨を強化することができる。上記A液における塩基性化合物の含有量の上限は、保存安定性や表面品質等の観点から、10重量%以下とすることが適当であり、好ましくは5重量%以下である。好ましい一態様において、A液における塩基性化合物の含有量は、例えば3重量%以下である。
【0056】
また、A液における塩基性化合物の含有量は、A液に含まれる砥粒との相対的関係によっても特定され得る。具体的には、A液における塩基性化合物の含有量は、砥粒100重量部に対して0.1重量部以上とすることが適当であり、研磨レート向上等の観点から、好ましくは1重量部以上、より好ましくは3重量部以上、さらに好ましくは6重量部以上である。また、安定性や表面品質等の観点から、塩基性化合物の含有量は、砥粒100重量部に対して50重量部以下とすることが適当であり、好ましくは30重量部以下、より好ましくは15重量部以下、さらに好ましくは12重量部以下である。
【0057】
ここに開示される技術においては、研磨用組成物に含まれる塩基性化合物の全量がA液に含まれていてもよいし、その一部がA液に含まれていてもよい。具体的には、研磨用組成物に含まれる塩基性化合物の総量を100重量%としたとき、そのうち50重量%を超える量がA液中に含まれていることが適当であり、研磨用組成物に含まれる塩基性化合物の総量の80重量%以上、例えば90重量%以上、さらには95重量%以上、典型的には99重量%以上をA液に含ませることが好ましい。後述するB液との混合時にB液とのpH差を低減する観点から、研磨用組成物に含まれる塩基性化合物の一部をA液に含ませ、残部を後述のB液に含ませる態様が好ましく採用される。かかる態様では、A液に含まれる塩基性化合物の量は、研磨用組成物に含まれる塩基性化合物の総量を100重量%としたとき、99.999重量%以下、例えば99.99重量%以下、典型的には99.9重量%以下程度であり得る。
【0058】
ここに開示される研磨用組成物が上述の水溶性高分子P2を含む場合、当該研磨用組成物の製造において、A液に水溶性高分子P2を含ませることが好ましい。これによって、砥粒の分散安定性が改善する傾向がある。A液に含まれ得る水溶性高分子P2としては、研磨用組成物に含まれ得る水溶性高分子P2として例示した各種水溶性高分子P2の1種または2種以上を使用することができる。A液が水溶性高分子P2を含む場合、A液における水溶性高分子P2の含有量(濃度)は、水溶性高分子P2の添加効果を十分に得る観点から、1×10-4重量%以上とすることが適当であり、好ましくは1×10-3重量%以上である。好ましい一態様において、A液における水溶性高分子P2の含有量は、例えば3×10-3重量%以上である。A液における水溶性高分子P2の含有量の上限は特に限定されず、例えば1×10-1重量%以下、典型的には1×10-2重量%以下とすることが適当である。なお、研磨用組成物が水溶性高分子P2を含む場合、水溶性高分子P2の全量がA液に含まれていてもよく、その一部がA液に含まれ残部がB液に含まれていてもよく、その全量がB液に含まれていてもよい。
【0059】
ここに開示される技術は、A液が水溶性高分子P1を実質的に含まない態様で好ましく実施することができるが、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、研磨用組成物に含まれる水溶性高分子P1の一部がA液に含まれていてもよい。また、上記A液には、典型的には、水に代表される水系溶媒が含まれ得る。A液は、ここに開示される研磨用組成物に任意成分として含まれ得るキレート剤、界面活性剤、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、防腐剤、防カビ剤等の添加剤を、必要に応じてさらに含有し得る。
【0060】
ここに開示されるA液のpHは、典型的には8.0以上であり、好ましくは8.5以上、より好ましくは9.0以上、さらに好ましくは9.5以上、例えば10.0以上であり、特に好ましくは10.5以上である。A液のpHが高くすることで、研磨性能が向上する傾向にある。一方、砥粒の溶解を防ぎ、該砥粒による機械的な研磨作用の低下を抑制する観点から、A液のpHは、12.0以下であることが適当であり、11.8以下であることが好ましく、11.5以下であることがより好ましい。上記砥粒は、例えばシリカ粒子である。
【0061】
A液の調製方法は特に限定されない。例えば、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて、A液に含まれる各成分を混合するとよい。これらの成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。後述のB液についても、同様の混合方法が適宜採用され得る。
【0062】
(B液調製工程)
ここに開示される研磨用組成物の製造に使用するB液は、慣性半径が100nm以上である水溶性高分子P1を含む。B液に含まれる水溶性高分子P1としては、研磨用組成物に含まれ得る水溶性高分子P1として例示した各種水溶性高分子の1種または2以上を使用することができる。
【0063】
B液も、A液と同様に、製造、流通、保存等の利便性等の観点から、典型的には、研磨用組成物よりも含有成分を高濃度で含む形態で調製される。したがって、B液中の水溶性高分子P1の含有量についても、研磨用組成物における水溶性高分子P1の含有量よりも高いことが好ましい。具体的には、B液における水溶性高分子P1の含有量は、凡そ0.01重量%以上、例えば0.02重量%以上とすることが適当であり、好ましくは0.05重量%以上である。好ましい一態様において、B液における水溶性高分子P1の含有量は、例えば0.1重量%以上である。安定性や濾過性等の観点から、B液における水溶性高分子P1の含有量は、例えば10重量%以下とすることが適当であり、好ましくは3重量%以下である。好ましい一態様において、B液における水溶性高分子P1の含有量は、例えば1重量%以下、典型的には0.5重量%以下である。
【0064】
好ましい一態様では、安定性の観点から、研磨用組成物に含まれる水溶性高分子P1の全量がB液に含まれているが、ここに開示される技術はこれに限定されない。本発明の効果が著しく損なわれない範囲で、研磨用組成物に含まれる水溶性高分子P1の一部がA液に含まれていてもよい。具体的には、研磨用組成物に含まれる水溶性高分子P1の総量を100重量%としたとき、そのうち50重量%を超える量がB液中に含まれていることが適当であり、研磨用組成物に含まれる水溶性高分子P1の総量の80重量%以上、例えば90重量%以上、さらには95重量%以上、典型的には99重量%以上をB液に含ませることが好ましい。
【0065】
好ましい一態様に係るB液には、研磨用組成物に含まれる塩基性化合物の一部が含まれている。これにより、塩基性化合物を含むA液とのpH差が低減され、A液とB液とを円滑に混合させることができる。B液が塩基性化合物を含む場合、当該塩基性化合物としては、特に限定されないが、混合するA液に含まれる塩基性化合物、または循環使用時の添加剤に使用する塩基性化合物の少なくとも1種と同一種のものを用いることが好ましい。例えば、水酸化カリウムや第四級アンモニウム化合物を用いることができる。上記第四級アンモニウム化合物は、例えば、TMAH等の水酸化テトラアルキルアンモニウムである。
【0066】
また、ここに開示される研磨用組成物が水溶性高分子P2を含む場合、当該水溶性高分子P2の全量または一部はB液に含まれていてもよい。この場合、B液に含まれる全水溶性高分子の慣性半径は100nm未満となり得るが、B液が水溶性高分子P2を含む場合においても、また当然含まない場合においても、B液に含まれる全水溶性高分子の慣性半径は100nm以上であることが好ましい。より好ましい一態様では、B液に含まれる全水溶性高分子の慣性半径は、105nm以上であり、さらに好ましくは120nm以上、特に好ましくは140nm以上である。B液に含まれる全水溶性高分子の慣性半径の上限は特に限定されず、B液の安定性や濃縮効率等の観点から、凡そ500nm以下とすることが適当であり、好ましくは300nm以下、より好ましくは250nm以下、さらに好ましくは220nm以下であり、あるいは凡そ150nm以下、例えば120nm以下であってもよい。
【0067】
ここに開示される技術は、B液が砥粒を実質的に含まない態様で好ましく実施することができるが、発明の効果を著しく損なわない範囲で、研磨用組成物に含まれる砥粒の一部がB液に含まれていてもよい。また、上記B液には、水に代表される水系溶媒が含まれ得る。B液は、ここに開示される研磨用組成物に任意成分として含まれ得るキレート剤、界面活性剤、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、防腐剤、防カビ剤等の添加剤を、必要に応じてさらに含有し得る。
【0068】
ここに開示されるB液のpHは特に限定されない。A液との混合時におけるpH変化を抑制する観点から、B液のpHは、A液のpHの±3以内であることが適当であり、好ましくは±2以内、より好ましくは±1以内である。より好ましい一態様において、B液のpHは、例えば±0.5以内である。
【0069】
(混合工程)
次いで、上記のようにして調製したA液とB液とを混合する。混合の方法は特に限定されず、必要に応じて周知、慣用の混合装置を用いて行うとよい。上記混合のタイミングは、特に限定されず、研磨用組成物を使用する前、すなわち、当該研磨用組成物を用いた研磨前、の適当なタイミングでA液とB液とを混合するとよい。例えば、上記混合と、得られた研磨用組成物の使用、すなわち研磨、との間に保管等の工程を含まないことが好ましい。上記混合から研磨用組成物の使用までの期間は、例えば2週間以内とすることができ、3日以内とすることが適当である。混合後の研磨用組成物における分散状態等を考慮すると、上記研磨用組成物を用いた研磨を開始する24時間以内、典型的には12時間以内、とすることが好ましく、研磨開始の直前、例えば6時間以内、典型的には3時間以内、に上記混合工程を実施することがより好ましい。あるいは、A液とB液との混合を連続的に行いつつ、製造された研磨用組成物を研磨対象物に供給してもよい。
【0070】
A液とB液との混合比は、研磨用組成物の組成が所望の範囲となるように適切に設定される。好ましい一態様では、上記混合工程において、A液:B液は体積基準で1:1~100:1、例えば5:1~70:1、典型的には15:1~50:1の割合で混合される。
【0071】
好ましい一態様では、上記A液とB液との混合の前後、または当該混合と同時に水等の水系溶媒を用いて希釈を行う。このタイミングで希釈を行うことにより、研磨用組成物の使用前においては、A液、B液の状態で、濃縮液の利点と安定性とを両立することができる。濃縮液の利点は、利便性、コスト低減等である。また、希釈を行うことによって得られた研磨用組成物は、優れたエッジロールオフ低減効果を発揮することができる。特に好ましい一態様では、A液、B液および希釈用水系溶媒は、ほぼ同時に混合されるか、連続的に投入混合される。A液、B液および希釈用水系溶媒を連続的に混合する場合、添加の順序は特に限定されない。混合によるpH変化の影響を低減するため、A液を希釈用水系溶媒で希釈した後、希釈されたA液にB液を添加する態様が好ましく採用される。希釈に用いられる液体としては、取扱い性、作業性等の観点から、実質的に水からなる水系溶媒の使用が好ましい。水は、典型的にはイオン交換水である。上記水系溶媒は、例えば、99.5~100体積%が水である水系溶媒である。また、上記水系溶媒が混合溶媒である場合、該水系溶媒の構成成分のうち一部の成分のみを加えて希釈してもよく、それらの構成成分を上記水系溶媒とは異なる量比で含む混合溶媒を加えて希釈してもよい。
【0072】
上記希釈用水系溶媒による希釈倍率は、A液およびB液の総量に対して体積基準で2倍よりも大きい倍率であることが適当である。上記の倍率で希釈されることによって、濃縮形態のA液、B液から、研磨に適した組成を有する研磨用組成物が得られる。ここに開示される技術によると、A液およびB液の総量を基準として、体積基準で10倍よりも大きい倍率、典型的には15倍以上、例えば25倍以上の倍率で希釈を行うことが好ましい。上記希釈倍率の上限は特に制限されないが、体積基準で凡そ100倍以下、例えば50倍以下、典型的には40倍以下であり得る。したがって、A液とB液との純粋な混合液そのものの組成は、ここに開示される研磨用組成物を上記の倍率で濃縮した組成と対応し得る。具体的には、A液とB液との混合液は、上記で説明した組成を有する研磨用組成物を、体積基準で2倍超の倍率(濃縮倍率)に濃縮した濃縮液であり得る。上記濃縮倍率は、好ましくは体積基準で10倍よりも大きい倍率、典型的には15倍以上、例えば25倍以上であり得る。
【0073】
A液、B液、必要に応じて使用される希釈用水系溶媒の混合方法は特に限定されない。必要に応じて例えば、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて、上記液を混合するとよい。上記液を混合する態様は特に限定されず、例えばA液、B液、希釈用水系溶媒を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。なお、ここに開示される研磨用組成物の製造においては、A液およびB液に加えて、研磨用組成物に含まれる成分の一部を含有する1または2以上の追加の剤(C液、D液等と呼称し得る。)が任意構成要素として混合され得る。
【0074】
<研磨用組成物セット>
ここに開示される研磨用組成物セットは、上記研磨用組成物を製造するために用いられる多剤型の研磨用組成物セットであり、少なくとも、上述のA液およびB液を備える。A液は少なくとも砥粒および塩基性化合物を含み、B液は少なくとも水溶性高分子P1を含む。好ましい一態様に係る研磨用組成物セットは、A液とB液とからなる2剤型のセットである。なお、A液およびB液の詳細は上述のとおりであるので、ここでは重複する説明は繰り返さない。また、ここに開示される研磨用組成物セットは、A液およびB液に加えて、研磨用組成物に含まれる成分の一部を含有する1または2以上の追加の剤(C液、D液等と呼称し得る。)を任意構成要素として備える3剤型以上のセットであってもよい。上記A液、B液、および任意構成要素としての追加の剤は、典型的には、研磨用組成物製造における混合工程までは、それぞれ別々の容器に保管される。
【0075】
<用途>
ここに開示される技術は、シリコン基板(特にシリコンウェーハ)を研磨対象物とする研磨に好ましく適用される。ここでいうシリコンウェーハの典型例はシリコン単結晶ウェーハであり、例えば、シリコン単結晶インゴットをスライスして得られたシリコン単結晶ウェーハである。ここに開示される技術における研磨対象面は、典型的には、シリコンからなる表面である。
【0076】
上記シリコン基板には、ここに開示される研磨液を用いた研磨工程の前に、ラッピングやエッチング等の、粗研磨工程より上流の工程においてシリコン基板に実施され得る一般的な処理が施されていてもよい。また、ここに開示される技術においては、上記研磨液を用いた研磨工程(粗研磨工程)の後に、シリコン基板に対して仕上げ研磨工程が実施され得る。上記仕上げ工程は、1または2以上のポリシング工程を含み、ファイナルポリシングを経て、シリコンウェーハは高品質な鏡面に仕上げられる。なお、ファイナルポリシングとは、目的物の製造プロセスにおける最後のポリシング工程を指す。すなわち、ファイナルポリシングとは、その工程の後にはさらなるポリシングを行わない工程を指す。したがって、ここに開示される研磨液や、A液、B液は、ラッピングを経たシリコンウェーハのポリシングに用いられ得る。また、上記研磨液等は、シリコンウェーハのファイナルポリシング前に行われる粗研磨に用いられ得る。粗研磨は、予備ポリシングともいう。
【0077】
<研磨>
研磨対象物の研磨は、例えば以下のようにして行うことができる。すなわち、ここに開示される製造方法を採用して、具体的には、A液調製工程、B液調製工程および該A液とB液との混合工程を実施して、必要に応じて希釈を行い、研磨用組成物(研磨スラリー)を用意する。次いで、その研磨スラリー(ワーキングスラリー)を研磨対象物に供給し、常法により研磨する。シリコンウェーハの粗研磨においては、典型的には、ラッピング工程を経た研磨対象物(シリコンウェーハ)を研磨装置にセットし、該研磨装置の定盤(研磨定盤)に固定された研磨パッドを通じて上記研磨対象物の表面(研磨対象面)に研磨スラリーを供給する。典型的には、上記研磨スラリーを連続的に供給しつつ、研磨対象物の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動させる。かかる研磨工程を経て研磨対象物の研磨が完了する。上記移動は、例えば回転移動である。
【0078】
上記研磨工程で使用される研磨パッドは特に限定されない。例えば、発泡ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ等の研磨パッドを用いることができる。各研磨パッドは、砥粒を含んでもよく、砥粒を含まなくてもよい。
【0079】
研磨装置としては、研磨対象物の両面を同時に研磨する両面研磨装置を用いてもよく、研磨対象物の片面のみを研磨する片面研磨装置を用いてもよい。特に限定するものではないが、例えば、粗研磨工程においては両面研磨装置を好ましく採用し得る。両面研磨装置は、例えば、バッチ式の両面研磨装置である。研磨装置は、一度に一枚の研磨対象物を研磨するように構成された枚葉式の研磨装置でもよく、同一の定盤上で複数の研磨対象物を同時に研磨し得るバッチ式の研磨装置でもよい。
【0080】
特に限定するものではないが、ここに開示されるセットを用いて製造した研磨用組成物は、その製造後、比較的短期間のうちに研磨に使用することが好ましい。このことによって、該研磨用組成物を製造するためのセットを多剤型、すなわち、複数の剤を備える構成とすることの利点をよりよく活かすことができる。研磨用組成物の製造から使用までの期間は、例えば2週間以内とすることができ、3日以内とすることが適当であり、24時間以内とすることが好ましく、12時間以内とすることがより好ましい。上記期間を6時間以内としてもよく、さらには3時間以内としてもよい。あるいは、セットを用いた上記研磨用組成物の製造を連続的に行いつつ、製造された研磨用組成物を研磨対象物に供給してもよい。
【0081】
上記研磨用組成物は、いったん研磨に使用したら使い捨てにする態様、いわゆる「かけ流し」、で使用されてもよいし、循環して繰り返し使用されてもよい。研磨用組成物を循環使用する方法の一例として、研磨装置から排出される使用済みの研磨用組成物をタンク内に回収し、回収した研磨用組成物を再度研磨装置に供給する方法が挙げられる。研磨用組成物を循環使用する場合には、かけ流しで使用する場合に比べて、廃液として処理される使用済みの研磨用組成物の量が減ることにより環境負荷を低減できる。また、研磨用組成物の使用量が減ることによりコストを抑えることができる。ここに開示される研磨用組成物は、pH維持性に優れることから、このように循環使用される使用態様に好適である。かかる使用態様によると、本発明の構成を採用することの意義が特によく発揮され得る。ここに開示される研磨用組成物を循環使用する場合、その使用中の研磨用組成物に、任意のタイミングで新たな成分、使用により減少した成分または増加させることが望ましい成分を添加してもよい。
【0082】
<洗浄>
粗研磨工程を終えた研磨対象物は、仕上げ研磨工程を開始する前に、典型的には洗浄される。この洗浄は、適当な洗浄液を用いて行うことができる。使用する洗浄液は特に限定されず、例えば、半導体等の分野において一般的なSC-1洗浄液、SC-2洗浄液等を用いることができる。SC-1洗浄液は、水酸化アンモニウム(NH4OH)と過酸化水素(H2O2)と水(H2O)との混合液である。SC-2洗浄液は、HClとH2O2とH2Oとの混合液である。洗浄液の温度は、例えば室温以上、約90℃程度までの範囲とすることができる。ここで室温とは、典型的には約15℃~25℃をいう。洗浄効果を向上させる観点から、50℃~85℃程度の洗浄液を好ましく使用し得る。
【0083】
上述のような粗研磨工程や、洗浄工程、仕上げ研磨工程を経て、研磨対象物の研磨が完了する。上記研磨対象物は、ここではシリコン基板、典型的にはシリコン単結晶ウェーハである。したがって、この明細書によると、上記研磨工程を含む研磨物の製造方法が提供される。上記製造方法は、具体的には、シリコンウェーハの製造方法である。
【0084】
以上、本実施形態によると、砥粒、塩基性化合物および水溶性高分子を含むシリコンウェーハ粗研磨用組成物を製造する方法が提供される。この製造方法は:前記砥粒および前記塩基性化合物を含むA液を調製する工程と;前記水溶性高分子として、慣性半径が100nm以上である水溶性高分子P1を含むB液を調製する工程と;前記A液と前記B液とを混合する工程と;を包含する。かかる方法によって得られる研磨用組成物は、所定以上の慣性半径を有する水溶性高分子P1を含むことで、シリコン基板の研磨においてエッジロールオフを改善することができる。また、完成前、換言すると使用前の研磨用組成物はA液およびB液を有する多剤型であり、各液を高濃度化(濃縮液化)することで、利便性、コスト低減等といった濃縮液の利点を享受することができる。また、砥粒、水溶性高分子P1はA液、B液にそれぞれ別に収容されているので、砥粒の存在によって水溶性高分子P1の分散が阻害される事象を回避することができる。その結果、完成前の研磨用組成物は、A液、B液の状態で優れた安定性を示す。したがって、本発明によると、濃縮液の利点を享受しつつ、安定性に優れ、かつエッジロールオフを改善し得るシリコンウェーハ粗研磨用組成物を製造することができる。
【0085】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、前記A液、前記B液、および該A液と該B液との混合液の少なくとも1種を希釈する工程を含む。また、前記希釈工程における希釈倍率は、前記A液および前記B液の総量に対して体積基準で10倍よりも大きい倍率である。このような方法を採用することにより、完成前の研磨用組成物は、濃縮液の利点と安定性とを両立することができ、使用時にはA液とB液とが混合された研磨用組成物として、エッジロールオフ低減効果を発揮することができる。濃縮液の利点は、利便性、コスト低減等である。上記希釈工程は、A液とB液とを混合する工程の前、該混合工程と同時、または該混合工程の後に実施され得る。なお、ここに開示される技術は、本明細書において、シリコンウェーハ粗研磨用組成物の製造方法、シリコンウェーハ粗研磨用組成物セット、シリコンウェーハの研磨方法その他を包含する。
【0086】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、前記B液に含まれる水溶性高分子の慣性半径は100nm以上である。かかるB液を調製後、必要に応じて保管し、そして研磨用組成物の使用時にA液と混合することにより、ここに開示される技術による効果は好ましく発揮される。
【0087】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、前記A液における前記砥粒の含有量は10重量%以上である。砥粒を所定以上の濃度で含むA液を用いる態様において、ここに開示される技術による効果は好ましく発揮される。
【0088】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、前記B液における前記水溶性高分子P1の含有量は0.01重量%以上である。水溶性高分子を所定以上の濃度で含むB液を用いる態様において、ここに開示される技術による効果は好ましく発揮される。
【0089】
また、本実施形態によると、砥粒、塩基性化合物および水溶性高分子を含むシリコンウェーハ粗研磨用組成物を製造するための研磨用組成物セットが提供される。かかる研磨用組成物セットは、前記砥粒および前記塩基性化合物を含むA液と、前記水溶性高分子として慣性半径が100nm以上である水溶性高分子P1を含むB液と、を備える。かかる構成によると、使用前、例えば保管時には、A液およびB液は、それぞれを濃縮液とした場合に、濃縮液の利点を享受しつつ、それぞれが安定性に優れる。そして、適当なタイミングでA液とB液とを混合して研磨用組成物(研磨スラリー)とし、これを使用することにより、シリコン基板のエッジロールオフを改善することができる。濃縮液の利点は、利便性、コスト低減等である。
【0090】
また、本実施形態によると、粗研磨工程と仕上げ研磨工程とを含むシリコンウェーハの研磨方法が提供される。この研磨方法は、前記粗研磨工程の前に、該粗研磨工程に使用する粗研磨用組成物を調製する工程を含む。また、前記粗研磨用組成物を調製する工程は:砥粒および塩基性化合物を含むA液を調製する工程と;慣性半径が100nm以上である水溶性高分子P1を含むB液を調製する工程と;前記A液と前記B液とを混合する工程と;を含む。かかる方法によると、使用前の研磨用組成物は、A液とB液とに分離された状態で、安定性に優れた濃縮液とすることができる。また、当該研磨用組成物を用いて粗研磨を実施することにより、シリコン基板のエッジロールオフを改善することができる。
【0091】
ここに開示される技術の典型的な一態様では、前記粗研磨用組成物は、ラッピングを経たシリコンウェーハのポリシングに用いられる。より具体的には、上記粗研磨用組成物は、シリコンウェーハのファイナルポリシング前に行われる粗研磨(予備ポリシング)に用いられる。
【実施例】
【0092】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0093】
<実施例1>
砥粒としてのコロイダルシリカ(平均一次粒子径55nm)と、TMAHと、K2CO3と、水溶性高分子P2(PVP Mw4.5×104)と、イオン交換水とを混合することにより、砥粒、TMAH、K2CO3および水溶性高分子P2をそれぞれ32.97%、1.62%、1.05%および0.0069%の濃度で含むA液を調製した。A液のpHは11.2であった。
また、水溶性高分子P1(HEC)と、TMAHと、イオン交換水とを混合することにより、水溶性高分子P1およびTMAHをそれぞれ0.25%および0.018%の濃度で含むB液を調製した。B液のpHは11.0であった。
得られたA液およびB液をイオン交換水で希釈混合し、本例に係る研磨液(ワーキングスラリー)を得た。上記混合は、A液:B液:イオン交換水が体積基準で3.3:0.1:96.6の比率となるよう行った。
【0094】
<実施例2~3、比較例1>
水溶性高分子P1として、慣性半径の異なるHECを使用した他は実施例1と同様にしてA液とB液とを調製し、本例に係る研磨液(ワーキングスラリー)を得た。
【0095】
<実施例4>
水溶性高分子P2を使用しなかった他は実施例3と同様にしてA液とB液とを調製し、本例に係る研磨液(ワーキングスラリー)を得た。
【0096】
<実施例5>
砥粒としてのコロイダルシリカ(平均一次粒子径55nm)と、TMAHと、K2CO3と、イオン交換水とを混合することにより、砥粒、TMAHおよびK2CO3をそれぞれ32.97%、1.62%および1.05%の濃度で含むA液を調製した。A液のpHは11.2であった。
また、水溶性高分子P1(HEC)と、水溶性高分子P2(PVP Mw4.5×104)と、TMAHと、イオン交換水とを混合することにより、水溶性高分子P1、水溶性高分子P2およびTMAHをそれぞれ0.25%、0.28%および0.018%の濃度で含むB液を調製した。B液のpHは11.0であった。
得られたA液およびB液を用いた他は実施例1と同様にして本例に係る研磨液(ワーキングスラリー)を得た。
【0097】
<実施例6>
実施例3において、B液に含まれるTMAH0.018%を水酸化カリウム(KOH)0.011%に変更した他は実施例3と同様にして本例に係る研磨液(ワーキングスラリー)を得た。
【0098】
<比較例2~5>
砥粒としてのコロイダルシリカ(平均一次粒子径55nm)と、水溶性高分子P1(HEC)と、TMAHと、K2CO3と、水溶性高分子P2(PVP Mw4.5×104)と、イオン交換水とを混合することにより、比較例2~5に係る研磨用組成物の濃縮液(1剤型)をそれぞれ調製した。各例の濃縮液における砥粒、水溶性高分子P1、TMAH、K2CO3および水溶性高分子P2の濃度は、それぞれ32.97%、0.0061%、1.62%、1.05%および0.0069%である。
得られた濃縮液をイオン交換水で希釈し、本例に係る研磨液(ワーキングスラリー)を得た。上記希釈は、濃縮液:イオン交換水が体積基準で3.3:96.7の比率となるよう行った。
【0099】
<比較例6>
水溶性高分子P2を使用しなかった他は比較例5と同様にして本例に係る研磨液(ワーキングスラリー)を得た。
【0100】
[慣性半径の測定方法]
水溶性高分子の慣性半径の測定は、まず、水溶性高分子の濃度が0.1~1mg/mLの範囲になるように水溶液を調製し、調製した各サンプルにつき光散乱光度計「DLS-8000」(大塚電子社製)を用い、測定角度20~150度の範囲で10度毎に測定を行い、1濃法プロット解析により慣性半径[nm]の算出を行った。測定は、水溶性高分子P1と、B液に含まれる水溶性高分子について実施した。B液中に複数種の水溶性高分子が含まれる場合は、その濃度比となるように水溶性高分子量を調節して測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0101】
[安定性]
実施例1~6、比較例1で調製したA液およびB液それぞれ100gを直径2.5cm、高さ25cmのガラス管に入れ、別々に25℃で静置して保管した。また、比較例2~6に係る濃縮液を上記と同条件で保管した。保管開始から24時間経過後におけるA液、B液、濃縮液の状態を目視により下記2基準で評価した。すなわち、液中成分の分離や凝集が認められなかった場合は「A」と評価し、分離や凝集が認められた場合は「B」と評価した。結果を表1に示す。
【0102】
[シリコンウェーハの研磨]
各例に係る研磨液(ワーキングスラリー)を用いて下記の条件で粗研磨を実施した。
(研磨条件)
研磨装置:日本エンギス社製の片面研磨装置、型式「EJ-380IN」
研磨パッド:ニッタハース社製、商品名「MH S-15A」
研磨圧力:26.6kPa
スラリー流量:100mL/分
定盤回転数:50rpm
ヘッド回転数:50rpm
研磨量:8μm
ワーク種:Bare Si P-<100>
ワークサイズ:□60mm×60mm
【0103】
[エッジロールオフ]
非接触表面形状測定機(商品名「NewView 5032」、Zygo社製、キヤノン社より入手可能)を用いて、上記研磨後における研磨物表面の中心部(中心から20mm四方)から基準高さを求め、当該研磨物の外周端から約2.5mm位置における高さの変化を測定し、これをエッジロールオフ量とした。測定したエッジロールオフ量を下記の4基準で評価した。
A:エッジロールオフ量 250nm未満
B:エッジロールオフ量 250nm以上280nm未満
C:エッジロールオフ量 280nm以上300nm未満
D:エッジロールオフ量 300nm以上
A~Cは実用上合格レベルであり、Dは不合格とみなした。結果を表1に示す。
【0104】
[表面粗さRa]
各例に係る粗研磨後のシリコンウェーハ(粗研磨およびその後の洗浄を終えた試験片)につき、非接触表面形状測定機(商品名「NewView 5032」、Zygo社製、キヤノン社より入手可能)を用いて表面粗さRa(算術平均表面粗さ)を測定した。得られた測定値を、実施例4の表面粗さRaを100%とする相対値に換算して以下の2段階で評価した。結果を表1に示す。
A:100%未満
B:100%以上
【0105】
【0106】
表1に示されるように、砥粒および塩基性化合物を含むA液と、水溶性高分子P1を含むB液とを別々に調製した実施例1~6では、A液、B液ともに安定性に優れていた。一方、1剤型の濃縮液を使用した比較例3~6では、良好な安定性を得ることができなかった。また、慣性半径が100nm以上である水溶性高分子P1を使用した実施例1~6では、慣性半径100nm未満の水溶性高分子を使用した比較例1,2と比べて、エッジロールオフが改善された。さらに、水溶性高分子P2を併用した実施例1~3、5および6では、水溶性高分子P2を使用しなかった実施例4と比べて、表面粗さRaも改善される傾向が認められた。
【0107】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。