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特許7026175生体由来組織のシート、該シートから得られる管状構造体及び該管状構造体からなる人工血管
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  • 特許-生体由来組織のシート、該シートから得られる管状構造体及び該管状構造体からなる人工血管 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-25
(54)【発明の名称】生体由来組織のシート、該シートから得られる管状構造体及び該管状構造体からなる人工血管
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/06 20130101AFI20220217BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20220217BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
A61F2/06
A61L27/36 100
A61L27/36 400
A61L27/50 300
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020131507
(22)【出願日】2020-08-03
(62)【分割の表示】P 2017521947の分割
【原出願日】2016-05-31
(65)【公開番号】P2020185432
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2020-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2015111957
(32)【優先日】2015-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(72)【発明者】
【氏名】日渡 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】山口 雄
(72)【発明者】
【氏名】木村 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】田崎 晃子
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】特表平09-508563(JP,A)
【文献】米国特許第03588920(US,A)
【文献】特表2013-503696(JP,A)
【文献】特表2000-502586(JP,A)
【文献】特開2009-254777(JP,A)
【文献】特表2001-527437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/06
A61L 27/36
A61L 27/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形又は略矩形の、脱細胞化された組織である生体由来組織のシートであって、
長さ方向の少なくとも1辺の縁部が末端に向かって厚み方向に薄くなるテーパーを有し、前記テーパーの角度が、15°以上、70°以下である、生体由来組織のシート。
【請求項2】
前記テーパーの角度が、20°以上、55°以下である、請求項1に記載の生体由来組織のシート。
【請求項3】
前記シートの厚みが、500マイクロメートル以下である、請求項1又は2に記載の生体由来組織のシート。
【請求項4】
前記テーパーは前記シートの片面の縁部が傾斜した形状である、請求項1~3の何れか一項に記載の生体由来組織のシート。
【請求項5】
請求項1~の何れか一項に記載の生体由来組織のシートのテーパー部が内側に位置し、かつ内壁に固定化されている、管状構造体。
【請求項6】
長さ方向の少なくとも1辺の縁部が末端に向かって厚み方向に薄くなるテーパーを有する、矩形又は略矩形の生体由来組織のシートのテーパー部が内側に位置するように管状に巻いて内壁に固定化された後、脱細胞化されて得られる管状構造体であって、
前記テーパーの角度が、15°以上、70°以下である、管状構造体
【請求項7】
前記管状構造体の壁部の少なくとも一部が2層構造である、請求項又はに記載の管状構造体。
【請求項8】
前記縁部が接着され内壁に固定化されている、請求項の何れか一項に記載の管状構造体。
【請求項9】
前記管状構造体の内周が、6.0ミリメートル以上、40ミリメートル以下である、請求項の何れか一項に記載の管状構造体。
【請求項10】
請求項の何れか一項に記載された管状構造体からなる人工血管。
【請求項11】
人工血管の製造における、請求項の何れか一項に記載された管状構造体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体由来組織のシート及び該シートから得られる管状構造体に関し、また、人工血管等に好適に用いられるシート及び管状構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
バイパス手術のための血管の構築や、損傷しているか病的な血管の修復または置換には、血管移植片が用いられている。
たとえば冠状動脈や末梢血管のアテローム硬化症に対して、直径5mm未満の患部には、自己血管が好適な置換移植片であり、自己の内胸動脈、橈骨動脈、伏在静脈などが用いられている。しかしながら、自己の血管を使用する場合、採取時に侵襲を避けることはできないため、患者の身体への負担が大きく、また個人や症例により、その長さや質にばらつきがあることは避けられない。さらには再手術の場合には、既に使用されていて供給できない等の問題があった。
【0003】
一方、ポリエステル繊維やポリテトラフルオロエチレン等の合成樹脂を素材とした人工血管が、四肢末梢動脈の血行再建等に使用されている。しかし、これら合成樹脂を素材とした人工血管は冠動脈のような小口径の血管に使用した場合、早期に血栓を生じ、内膜肥圧のため使用することはできない。また、これら合成樹脂を素材とした人工血管の血液凝固を予防するために、人工血管の内腔に、患者本人の血管内皮細胞を組織工学的手法によって被覆することが行われている。しかしながら、手術前に患者から骨髄を採取、培養し、これを人工血管に生着させなければならず、事前の準備が必要であり、緊急で施行しなければならないような手術においてはその有用性は低かった。また、血管内腔を被覆した内皮細胞も剥がれやすく、それにより血栓が生じる問題があった。
【0004】
これに対し、拒絶反応を防ぐために脱細胞化された生体材料のシートを管状に成形した人工血管が提案されている(特許文献1)。この人工血管は、シートをそのまま管状に巻いて形成される。そのため、その内腔の断面に、シートの縁部がシートの厚みの分だけ、管の内腔に突き出すことになり、管の断面が円若しくは楕円形にならない(図8)。管状構造体の断面がそのような形状であると、血液が流れたときに、その突き出た部分に局所的な圧力がかかり、それによりはがれが生じる場合があり、血管の耐圧性が充分ではなかった。また耐圧性を確保しようとしてシートを厚くした場合は、施術時のハンドリング性が悪くなるという問題があった。さらに、突き出た部分に血小板などが付着しやすくなり、血栓ができやすくなると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/109185号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は、優れた加工性、耐圧性及びハンドリング性を有した管状構造体を得るための生体組織由来のシートを提供することにある。また本発明の目的は、優れた耐圧性とハンドリング性を有した管状構造体を提供することにある。また本発明の目的は、優れた耐圧性とハンドリング性を有し、血栓が生じることを抑制した人工血管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。 すなわち本発明は、
(1)少なくとも1辺の縁部が末端に向かって厚み方向に薄くなるテーパーを有する、生体由来組織のシート、
(2)前記生体由来組織のシートは、矩形又は略矩形であって、長さ方向の少なくとも1辺の縁部が末端に向かって厚み方向に薄くなるテーパーを有する、(1)の生体由来組織のシート、
(3)前記テーパーの角度が、10°以上、80°以下である、(1)1又は(2)の生体由来組織のシート、
(4)前記シートの厚みが、500マイクロメートル以下である、(1)~(3)の何れかの生体由来組織のシート、
(5)前記テーパーは前記シートの片面の縁部のみが傾斜した形状である、(1)~(4)の何れかの生体由来組織のシート、
(6)前記生体由来組織が動物の血管である、(1)~(5)の何れかの生体由来組織のシート、
(7)前記生体由来組織のシートが、脱細胞化された組織である(1)~(6)の何れかの生体由来組織のシート、
(8)(1)~(7)の何れかの生体由来組織のシートのテーパー部が内側に位置し、かつ内壁に固定化されている、管状構造体、
(9)(1)~(6)の何れかの生体由来組織のシートのテーパー部が内側に位置するように管状に巻いて内壁に固定化された後、脱細胞化されて得られる、管状構造体、
(10)管状構造体の壁部の少なくとも一部が2層構造である、(8)又は(9)に記載の管状構造体、
(11)前記テーパー部が接着され内壁に固定化されている、(8)~(10)の何れかの管状構造体、
(12)前記管状構造体の内周が、6.0ミリメートル以上、40ミリメートル以下である、(8)~(11)の何れかの管状構造体、
(13)(8)~(12)の何れかの管状構造体から得られる人工血管、
(14)(8)~(12)の何れかの管状構造体を人工血管として使用する方法、及び
(15)人工血管の製造における、(8)~(12)の何れか1項に記載された管状構造体の使用を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた耐圧性とハンドリング性を有した管状構造体を得るための生体組織由来のシートを提供することができる。テーパー部は柔軟性が増しているため、しっかりと接着され剥がれにくく、あるいは捲れにくくなっている。そのため、本発明のシートは加工性に優れる。また、優れた耐圧性とハンドリング性を有した管状構造体を提供することができる。また、優れた耐圧性とハンドリング性を有し、血栓が生じることを抑制した人工血管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】テーパー形成前の矩形の生物組織由来のシートの一実施態様の概略図を表す。1の破線は前記シートの長さ方向を示し、2の破線は前記シートの幅方向を示し、3の破線はシートの厚さ方向を示す。
図2】本発明である生物組織由来のシートのおける好ましい実施態様のテーパー部の断面を示した図である。aはテーパー角を示し、bはシートの厚みを示し、cはテーパー部を示す。
図3】本発明の別の実施態様のテーパー部の断面を示した図である。
図4】本発明の別の実施態様のテーパー部の断面を示した図である。
図5】本発明の別の実施態様のテーパー部の断面を示した図である。
図6】(i)は、テーパー部形成前の血管の中膜組織及び内膜組織から主に構成される生体由来組織のシートの一部(縁部の断面)を示した図である。(ii)は、切削加工して、シートの縁部に形成されたテーパー部を表す図である。
図7】(i)本発明の一実施態様の管状構造体の正面断面を表す図である。(ii)本発明の別の実施態様の管状構造体の正面断面を表す図である。
図8】従来の人工血管等に使用される管状構造体の正面断面を表す図である。
図9】本発明の好ましい実施形態の生物組織由来シートの模式図である。シート長さ方向の1辺について、片面のみの縁部が末端に向かって傾斜してテーパーを形成している。cは図2のテーパー部に対応する。α側(上側)が血管の中膜組織であり、β側(下側)が血管の内膜組織であることが更に好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の管状構造体を好適に得ることができる生体由来組織のシート(以下、「シート」とも称する)及び管状構造体について説明する。
【0011】
本発明のシートの材料は、生体由来組織(「生体組織」とも称する)が使用される。こで「生体由来」とは「動物由来」を指し、好ましくは、「脊椎動物由来」を指し、より好ましくは、拒絶反応が少ないことから、「哺乳類の生体組織」又は「鳥類由来の生体組織」を指す。さらに、入手が容易であることから、「生体由来」とは、哺乳類の家畜、鳥類の家畜又はヒト由来の生体組織を指すことが尚更に好ましい。哺乳類の家畜としては、ウシ、ウマ、ラクダ、リャマ、ロバ、ヤク、ヒツジ、ブタ、ヤギ、シカ、アルパカ、イヌ、タヌキ、イタチ、キツネ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモット、ラット、マウス、リス、アライグマ等が挙げられる。また、鳥類の家畜としては、インコ、オウム、ニワトリ、アヒル、七面鳥、ガチョウ、ホロホロ鳥、キジ、ダチョウ、ウズラ等が挙げられる。これらの中でも、材料としては、ウシ、ブタ、ウマ、ヒトの生体組織が好ましく、入手し易く、安全性の観点から、ブタがより好ましい。
【0012】
生体組織の部位としては、細胞外にマトリックス構造を持った部位が使用でき、このような部位としては、例えば、肝臓、腎臓、尿管、膀胱、尿道、舌、扁桃、食道、胃、小腸、大腸、肛門、膵臓、心臓、血管、脾臓、肺、脳、骨、脊髄、軟骨、精巣、子宮、卵管、卵巣、胎盤、角膜、骨格筋、腱、神経、皮膚、筋膜、心膜、硬膜、臍帯、心臓弁膜、角膜、羊膜、腸管、小腸粘膜下組織、その他コラーゲン含有組織が挙げられる。
これらの中でも、脱細胞化のし易さや、入手のし易さ、管状構造体にしたときの耐圧性とハンドリング性の点から、動脈や静脈などの血管組織が好ましい。
【0013】
特に管状構造体を人工血管として利用する場合は、動物由来の血管組織が好ましく、血管組織の中でも、人工血管の特性の点と加工性の点から、大動脈、頸動脈、内胸動脈、橈骨動脈、胃大網動脈等の動脈が好ましく、十分な長さと厚みがあり加工性に特に優れる大動脈がより好ましい。
【0014】
血管組織は、内膜組織(以下、「内膜」とも称する)、中膜組織(以下、「中膜」とも称する)、外膜組織(以下、「外膜」とも称する)のいずれかひとつ以上でもよく、耐圧性とハンドリング性、加工性の点から、内膜組織と中膜組織の両方から構成されているものが好ましい。この場合、内膜組織と中膜組織の間に、もともと存在する組織が存在していてもよい。
また、内膜組織と中膜組織から構成される血管組織を使用する場合、管の内側が内膜組織となるように、管状構造を形成することが好ましい。
【0015】
シートの形状は問わないが、管状構造物の耐圧性とハンドリング性、加工性の点から矩形(長方形)又は略矩形が好ましい。シートが矩形(長方形)又は略矩形の場合、その大きさは、作製する管状構造物の大きさによって適宜選択すればよいが、管状構造物としたときの、耐圧性とハンドリング性の点から、長さ方向の1辺(「長辺」とも称する)の長さは通常10~400ミリメートルであり、20~300ミリメートルが好ましい(例えば、図1又は図9の破線矢印1)。
同様に、シートの幅方向の1辺の長さ(「短辺」とも称す)は通常1.5~200ミリメートルであり、3.0~70ミリメートルが好ましく、6.0~40ミリメートルがより好ましい(例えば、図1又は図9の破線矢印2)。
【0016】
本発明のシートは、少なくとも1辺の縁部が末端に向かって厚み方向に薄くなる形状(テーパー)を有する。典型的には図9のcの部分のような形状である。つまり、シートの断面の両端又は一端が先細りの形状となっている。本明細書において、係る形状を「テーパー」と称する。そのシートの断面は、直線的に加工されている必要はない。テーパー部はシートの4辺の縁部全てに有してもよく、シートの3辺、2辺または1辺の縁部がテーパー状になっていてもよい。以下に詳述するが、本発明のシートはテーパー部が管の内側(人口血管として用いた場合は内腔側)になるように管状に巻いて管状構造を形成する。
【0017】
一方、本発明のシートを調製する効率の観点から、製造工程が少ない方がより好ましい。従って、シートの少なくとも2辺の縁部にテーパーを有することが好ましく、シートの長さ方向の2辺の縁部にテーパーを有することが更に好ましく、シートの1辺の縁部にテーパーを有することがなお更に好ましく、長さ方向の1辺の縁部にテーパーを有することが最も好ましい。
【0018】
図1は、テーパー形成前の生物組織由来のシートの一実施態様の概略図を表す。
本発明のシートの縁部のテーパーの概略図を図2図5に示す。図2図5は、シートの長さ方向に対して垂直な方向の断面図の一部である。aはテーパーの角度(以下、「テーパー角」と称する)を表し、bはシートの厚さを表す。cで表された部分がテーパー部である。図2は、図1の長さ方向に対して垂直な方向の断面図の一部を示す。
ここで、図2及び図4はシートの片面の縁部が傾斜してテーパーが形成されている状態を示す。さらに、図3及び図5はシートの両面の縁部が傾斜してテーパーが形成されている状態を示す。
【0019】
テーパー角aは、シートを管状構造体に成形した時の管状構造体の耐圧性及びハンドリング性の観点から、通常10°~80°が好ましく、15°~70°がより好ましく、20°~65°が更に好ましく、20°~55°が最も好ましい。
【0020】
シートの厚さbは管状構造物としたときの、耐圧性とハンドリング性の点から100~500マイクロメートルが好ましく、150~400マイクロメートルがより好ましく、200~300マイクロメートルがさらにより好ましい。シートの厚さが、500マイクロメートルを超える場合は、厚過ぎて加工が困難になる場合があり、小口径の管状構造体を作製する場合に、不適当な場合がある。
なお、ここでのシート厚さbは、図1及び図9のシートの厚さ(破線矢印3で示される)と対応する。
【0021】
テーパーの形状は、耐圧性とハンドリング性、加工性の点から、図2図3のようなテーパー部の断面が三角形(例えば、直角三角形、二等辺三角形等)又は略三角形(例えば、略直角三角形、略二等辺三角形等)となっていることが好ましく、図2におけるcのようなテーパーの断面が直角三角形又は略直角三角形の形状となっていることが特に好ましい。なお、図2は、シートの片面の縁部の傾斜がもう一方の面まで達していることを示す。また、図2において、α側が最終的に管状構造体の外壁側となるようにテーパー部を形成することが好ましい。つまり、シートの縁部を管状構造体の外壁となる面の末端よりテーパーの幅の分だけ内側から、内壁となる面の末端部に向かってテーパーを形成するようにシートの縁部を加工する(例えば、切削する)ことが好ましい。
【0022】
本発明のシートの縁部にテーパーを形成する手段は任意の手段を用いることができ、特に限定されないが、例えば切削加工を行うことができる。切削加工に使用する器具は公知の器具が使用でき、例えば、カッター、カミソリ、手術用メス、超音波カッター、ミクロトーム等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
テーパーの長さ(例えば図6(ii)f)に関し、耐圧性と加工性の点から、管状構造体にしたときの内周に対する割合が、好ましくは0.01~100%、より好ましくは0.1~50%、さらに好ましくは0.15~35%となるようにテーパー部を調製する。
【0024】
本発明のシートのテーパー部の形状は、特に制限はなく、加工後の切断面が、平面、曲面でもよく、一部に凹凸や鋸の刃のようなギザギザの形状を有してもよいが、加工時の効率を考慮すると、切削加工後の切断面は全てが平面であることが望ましい。
【0025】
本発明のシートの1つの好ましい実施態様として、動物の血管から得られ、脱細胞化された生物由来組織のシートを用いる。この生物由来組織のシートは、中膜組織と内膜組織から主に構成される。図6(i)にこの好ましい実施態様の生物由来組織シートを示す。この図の破線を境界として、dが中膜組織、eが内膜組織を表す。そして、切削加工は、管状構造体にした場合に、中膜組織側から切削し、内膜組織の底辺にテーパーの先端部が形成されるように切削することが好ましい(図6(ii))。
【0026】
また、加工のし易さから、シートの中膜組織側の末端から中央部側の特定の位置で、加工器具の刃を入れて、内膜組織の底辺の末端部に向けて斜めに刃を入れればよい。これにより、シートの1辺の縁部を薄く、しかもその断面が鋭角状にテーパーを付与することができる。なお、同様の形状にすることができるならば、この方法に限らない。
また、シートにテーパーを形成する加工は、シートを管状に巻く前に行っておくのが、加工性の点から好ましいが、管状に巻いてから行ってもよい。
【0027】
本発明の生物由来組織シートは、脱細胞化処理されていることが好ましい。その脱細胞化について以下に詳しく説明する。
脱細胞化とは、動物から採取した組織から細胞および核酸成分などの抗原性の高い成分を除去する処理を行うことであり、これにより生体への移植組織として使用した場合に起こる拒絶反応を抑制することができる。
【0028】
本発明においては脱細胞化の方法は特に限定されず、従来公知の方法が使用できる。脱細胞化の処理の例を挙げると、物理的撹拌、超音波処理、凍結融解法、高静水圧法、高張液低張液法、アニオン性界面活性剤やノニオン性仮面活性剤等による界面活性剤による処理、蛋白分解酵素や核酸分解酵素等による酵素処理、アルコール溶剤による処理などが挙げられ、これらの2種以上を組み合わせてもよい。
【0029】
本発明においては、構造タンパク質の力学強度を保持したまま効率良く脱細胞化でき、更に血液適合性の観点から、高静水圧法を含む方法が好ましい。
【0030】
脱細胞化処理は、生体組織をシート化する前に行ってもよく、シート形状としてから行ってもよく、シート末端にテーパーを付与するための切削加工をする前に行っても、その後に行ってもよく、管状構造体に形成した後に行ってもよい。好ましくは、加工性と脱細胞化のし易さから、管状構造体を形成する前に行うのが好ましく、生体組織をシート形状とした後に行うのがより好ましい。
【0031】
本発明の管状構造体は、本発明の生体由来組織のシートを材料として形成される。具体的には、本発明のシートのテーパー部が内側(内腔側)に位置するように当該シートを管状に巻いて得られる。図7は本発明の管状構造体の好ましい実施態様を示す。
シートの縁部にテーパーを設けないで管状構造体を形成すると、シートの縁部がシートの厚み方向の分だけ管の内腔に突き出た状態となる(図8)。例えば、この管状構造体を人工血管として使用した場合、血液が流れたときに、その突き出た部分に局所的な圧力がかかり、それによりはがれが生じる場合があり、人工血管としての耐圧性が充分ではない。
【0032】
一方、本発明のシートのように、シートのテーパー部を管の内側(内腔側)になるように管状体を形成すると、その管状体の断面には、シートの縁部の厚みに由来する出っ張りがなくなり、管状体の断面が、円形、楕円形、略円形若しくは略楕円形となる(例えば、図7)。これにより、管内に、均一に圧力がかかることになり耐圧性に優れ、血液等の流体を流した時も、滑らかに流れることになり、管状体の固定部がはがれることもなくなる。また、巻き始めの個所に出っ張りがないため、管状構造物は均一な柔軟性を有し、ハンドリング性にも優れることになる。
また耐圧性に優れるため、耐圧性を出すために、シート自体の厚さを厚くせずに済むので、ハンドリング性に優れることになる。
【0033】
本発明の管状構造体は、耐圧性の観点から、管状構造体を形成する壁部の一部が2層構造となっていることが好ましい。管状構造体を形成する壁部の一部が2層構造となっている態様としては、壁部として2層構造及び3層構造を有する管状構造体(例えば図7(i))、壁部として全てが2層構造である管状構造体、及び、壁部として単層構造及び2層構造を有する管状構造体(例えば図7(ii))が含まれる。
【0034】
壁部として2層構造及び3層構造を有する管状構造体における、2層構造部分の長さ(図7(i)における、外壁上の点gから、右回りに点hまでの外壁上の距離)は、外周の長さに対し、0%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましい。
なお、点hはテーパー部の先端部から垂直に伸びた線が外壁部に交わる点である。
また、外周の長さは、管状構造体の任意の1点を始点及び終点とする管状構造体の外壁部の長さを指す。例えば、図7(i)の外周の長さとは、gを始点及び終点とする管状構造体の外壁部の長さを指す。
【0035】
壁部として単層構造及び2層構造を有する管状構造体における、単層構造部分の長さ(図7(ii)における、外壁上の点jから、右回りに点kまでの外壁上の距離)は、外周の長さに対し、100%未満が好ましく、50%以下がより好ましく、20%以下が更に好ましい。
なお、点kはテーパー部の先端部から垂直に伸びた線が外壁部に交わる点である。
また、外周の長さは、管状構造体の任意の1点を始点及び終点とする管状構造体の外壁部の長さを指す。例えば、図7(ii)の外周の長さとは、jを始点及び終点とする管状構造体の外壁部の長さを指す。
【0036】
また、本発明の管状構造体として、図7に記載の管状構造体に限定されず、4層構造以上の壁部を有する管状構造体も本発明に含まれる。
【0037】
本発明の管状構造体の正面断面は図7(i)(ii)に示されるような、円形、略円形、楕円形又は略楕円形であり、柔軟性に富むため、その形状は用途に応じて変形させることができる。その内周は通常、1.5~200ミリメートルが好ましく、3.0~70ミリメートルがより好ましく、更に好ましくは6.0~40ミリメートルである。
【0038】
次に本発明の管状構造体の作製方法について説明する。但し、以下の作製方法は例示であって、これに限定されるものではない。
本発明の管状構造体は、生体由来組織のシートから、例えば、以下の(1)から(4)の工程を含む製造方法によって作製される。
(1)生体由来組織をシート形状に成形する工程
(2)生体由来組織の脱細胞化処理工程
(3)シートの少なくとも1辺の縁部を薄く切削加工し、テーパーを付与する縁部を加工する工程
(4)シートを巻いて管状構造を形成する工程
【0039】
上記(1)から(4)の工程の順序は特に限定されないが、加工性のし易さから、(1)、(2)、(3)、(4)または(1)、(3)、(2)、(4)または(1)、(3)、(4)、(2)または(2)、(1)、(3)、(4)の順序で行うことが好ましく、(1)、(2)、(3)、(4)または(1)、(3)、(2)、(4)の順序で行うことが更に好ましい。
【0040】
上記(4)では、本発明の生体由来組織のシートのテーパー部が管状体の内側(内腔側)に位置するように管状に巻いて得られる。このとき、図2におけるcのように、テーパーの断面図が直角三角形又は略直角三角形の形状であることが好ましい。
そして、図2図9におけるα側の面かβ側の面のいずれも管状構造体の内側面となり得るが、β側の面を管状構造体の内側面となるように管を巻いて管状構造体を形成することが好ましい。
【0041】
本発明のシートが矩形又は略矩形である場合、加工性の観点から、シートの長さ方向の辺が管状構造体の長さ方向となるように管を巻くことが好ましい。
【0042】
管状構造体の形成の一実施態様として、芯材にシートを巻きつけることによって管状構造体を形成することができる。ここで、芯材の外周や長さは、目的とする管状構造体の内周や長さによって種々の芯材を選択することができ、材質は問わない。使用する芯材の外周は、概ね管状構造体の内周に対応するため、目的とする管状構造体の内周に応じて、芯材を適宜選択すればよい。
【0043】
芯材の例としては特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製やポリウレタン(PU)製、ステンレス鋼材(SUS)製のチューブや円柱状の棒材が挙げられる。
【0044】
本発明の管状構造体は、シートの一部を縫合することにより、又は接着剤で貼りあわせることにより形成することが可能であり、これらの両方とも用いてもよい。加工性の点から、接着剤を用いて貼りあわせることが好ましい。従って、シートのテーパー部は縫合や接着剤などの手段で管状構造体の内壁に固定され得る。
【0045】
使用できる接着剤は、従来使用されている生体組織用の接着剤であればよく、フィブリン糊、シアノアクリレート系の重合性接着剤、ゼラチンとレゾルシノールをホルマリンで架橋させるゼラチン糊などが挙げられ、耐圧性の点から、フィブリン糊が好ましい。フィブリン糊とは、フィブリノゲンに酵素であるトロンビンが作用して形成される糊状の凝塊を、例えば組織の閉鎖、臓器損傷の接着及び止血などに利用する製剤のことをいう。
【0046】
接着剤は、シートが管状構造体を形成するように貼り合わすことができれば、接着剤を塗布する場所は特に限定されない。しかしながら、管状構造体の内壁面に接着剤が存在しないように塗布することが好ましい。接着剤が管状構造体の内側(内腔)を通過する物質と接触することで何らかの悪影響を及ぼす可能性があるためである。さらに、テーパー部には十分に接着材を塗布して、図7(i),(ii)のような、管状構造体の断面が円形、略円形、楕円若しくは略楕円形となるように接着させる必要がある。テーパー部の接着が不十分であると、その部分の耐圧性が悪化する可能性があり、所望の管状構造体を得ることができないからである。
【0047】
例えば、図2又は図9において、シートのα側の面全体に接着剤を塗布して、シートのβ側の面と貼りあわせて管状構造体を調製することができる。また、シートのα側の面がβ側の面と貼り合わされる部分のみに接着剤を塗布して、管状に巻きながら貼りあわせることもできる。このとき、シートのα側の面で管状構造体の外壁面を形成する部分に接着剤は塗布されないことになる。
【0048】
本発明の管状構造体は、管状の生体組織の移植片として使用できる。例えば、血管、尿管、気管、リンパ管等が挙げられ、特に人工血管用途への使用が好ましい。
【0049】
本発明の管状構造体は、耐圧性に優れる。特に人工血管に使用した場合には、耐圧性が、300mmHg以上のものが好ましく、400mmHg以上のものがより好ましい。
また本発明の管状構造体は、手術時等のハンドリング性に優れる。
【実施例
【0050】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1 管状構造体No.1の作製〕
<シート成形工程、脱細胞化工程>
屠畜場からブタ大動脈を購入し、4℃にて搬送した。この大動脈の外膜を全体的に剥離し除去した後、切り開いた。切開した大動脈を、長さ170ミリメートル、幅27ミリメートルの略矩形状に切り出した。得られたシートを、生理食塩水を媒体として、研究開発用高圧処理装置((株)神戸製鋼所製:Dr.CHEF)で100MPaにて15分間高静水圧処理を行った。処理したシートを核酸分解酵素のDNaseを20ppm含有する生理食塩水中、4℃で96時間振盪し、続いて80%エタノール中で4℃にて72時間、最後に生理食塩水中で4℃にて2時間洗浄を行って脱細胞化ブタ大動脈シートを得た。
【0051】
<先端部加工工程>
上記で得られた、脱細胞化ブタ大動脈シートの膜厚は258マイクロメートルであった。このシートの長さ方向の一辺の縁部について、刃の入射角を調整しながら、中膜組織側から内膜組織側に向かって、ブレード(フェザー安全剃刀株式会社製、型番:SH35W)で切削して、シートの縁部の断面が図6(ii)のような形状を有するように切削加工した。
【0052】
<管状化工程>
切削加工して得られた、加工シートの内膜組織が管状構造体に成形後内側になるようにして、生体接着剤のフィブリン糊を、切削面と中膜組織側の面に塗布しながら、外径3.0ミリメートルのPTFEチューブを芯として巻きつけ、5分間圧着して成形した。それを生理食塩水に浸漬し、芯材のPTFEチューブを抜き取り、長さ120ミリメートルとなるように両端を切断して、本発明の管状構造体No.1を作製した。
【0053】
得られた管状構造体No.1を長さ方向に対して垂直な方向に切断し、その切断面を観察し、管の巻き始めである、切削加工をした端(テーパー部、以後「切削端」とも称する)のテーパー角およびテーパー部の長さを研究用倒立顕微鏡(株式会社ニコン、型番:ECLIPSE Ti)で測定した。結果を表1に示す。
また、得られた管状構造体を用いて、下記<耐圧試験方法>で、耐圧性の試験を行った。結果を表1に示す。
また、得られた管状構造体を用いて、下記<ハンドリング試験方法>で、ハンドリング性の試験を行った。結果を表1に示す。
【0054】
〔実施例2 管状構造体No.2の作製〕
脱細胞化ブタ大動脈シートの膜厚が、217マイクロメートルであることと、テーパー部形成時に、ブレードの入射角を調整し、テーパー角を変えた以外は、実施例1と同様の手順で、本発明の管状構造体No.2を得た。得られた管状構造体No.2のテーパー角を実施例1と同様に測定し、さらに耐圧性の試験とハンドリング性の試験を行った。結果を表1に示す。
【0055】
〔実施例3 管状構造体No.3の作製〕
脱細胞化ブタ大動脈シートの膜厚が、275マイクロメートルであることと、テーパー部形成時に、ブレードの入射角を調整し、テーパー角を変えた以外は、実施例1と同様の手順で、本発明の管状構造体No.3得た。得られた管状構造体No.3のテーパー角を実施例1と同様に測定し、さらに耐圧性の試験とハンドリング性の試験を行った。結果を表1に示す。
【0056】
〔実施例4 管状構造体No.4の作製〕
脱細胞化ブタ大動脈シートの膜厚が、173マイクロメートルであることと、縁部加工時に、ブレードの入射角を調整し、テーパー角を変えた以外は、実施例1と同様の手順で、本発明の管状構造体No.4を得た。得られた管状構造体No.4のテーパー角を実施例1と同様に測定し、さらに耐圧性の試験とハンドリング性の試験を行った。結果を表1に示す。
〔実施例5 管状構造体No.5の作製〕
脱細胞化ブタ大動脈シートの膜厚が、276マイクロメートルであることと、テーパー部形成時に、ブレードの入射角を調整し、テーパー角を変えた以外は、実施例1と同様の手順で、本発明の管状構造体No.5を得た。得られた管状構造体No.5のテーパー角を実施例1と同様に測定し、さらに耐圧性の試験とハンドリング性の試験を行った。結果を表1に示す。
【0057】
〔実施例6 管状構造体No.6の作製〕
脱細胞化ブタ大動脈シートの膜厚が、291マイクロメートルであることと、テーパー部形成時に、ブレードの入射角を調整し、テーパー角を変えた以外は、実施例1と同様の手順で、本発明の管状構造体No.6を得た。得られた管状構造体No.6のテーパー角を実施例1と同様に測定し、さらに耐圧性の試験とハンドリング性の試験を行った。結果を表1に示す。
【0058】
〔実施例7 管状構造体No.7の作製〕
脱細胞化ブタ大動脈シートの膜厚が、202マイクロメートルであることと、テーパー部形成時に、ブレードの入射角を調整し、テーパー角を変えた以外は、実施例1と同様の手順で、本発明の管状構造体No.7を得た。得られた管状構造体No.7のテーパー角を実施例1と同様に測定し、さらに耐圧性の試験とハンドリング性の試験を行った。結果を表1に示す。
【0059】
〔実施例8 管状構造体No.8の作製〕
脱細胞化ブタ大動脈シートの膜厚が、660マイクロメートルであることと、テーパー部形成時に、ブレードの入射角を調整し、テーパー角を変えた以外は、実施例1と同様の手順で、本発明の管状構造体No.8を得た。得られた管状構造体No.8のテーパー角を実施例1と同様に測定し、さらに耐圧性の試験とハンドリング性の試験を行った。結果を表1に示す。
【0060】
〔比較例1 比較管状構造体No.C1の作製〕
ブタ大動脈を用いて、実施例1と同様に脱細胞化工程を行い、脱細胞化ブタ大動脈シートを得た。
得られた脱細胞化ブタ大動脈シートを長さ170ミリメートル、幅27ミリメートルの略矩形状に切り出した。シートの膜厚は255マイクロメートルであった。
【0061】
このシートの長さ方向の一辺について、刃の入射角を調整しながら、中膜組織側から内膜組織側に向かって、ブレードで切削して、切削面の形状がシートの底面に垂直に交わる略矩形となるように加工した。それ以外は実施例1と同様にして、比較管状構造体No.C1を得た。実施例1と同様にして、切削端のテーパー角を測定した。結果を表1に示す。また、実施例1と同様に耐圧性の試験とハンドリング性の試験を行った。結果を表1に示す。
【0062】
〔比較例2 比較管状構造体No.C2〕
ブタ大動脈を用いて、実施例1と同様に脱細胞化工程を行い、脱細胞化ブタ大動脈シートを得た。
得られた脱細胞化ブタ大動脈シートを長さ170ミリメートル、幅27ミリメートルの略矩形状に切り出した。シートの膜厚は600マイクロメートルであった。
このシートの長さ方向の一辺について、刃の入射角を調整しながら、中膜組織側から内膜組織側に向かって、ブレードで切削して、切削面の形状がシートの底面に垂直に交わる略矩形となるように加工した。それ以外は実施例1と同様にして、比較管状構造体No.C2の作製を試みたが、管状構造体を得ることができなかった。シート膜厚が厚く、かつテーパー加工されていなかったため、管状化することができなかった。
【0063】
<耐圧試験方法>
得られた管状構造体の一端にシリコンチューブを介してシリンジポンプ((株)ワイエムシィ社製YSP-101)を接続し、もう一方の端は圧力計を接続して閉塞させた。シリンジから生理食塩水を送り出し、圧力を10mmHg増やすごとに30秒間その状態を保ち、チューブからの生理食塩水の漏れや破損がないかを観察した。圧力を増加させてゆき、生理食塩水の漏れや破損が確認された直前の圧力をそのチューブの耐圧性とした。圧力が高いほど耐圧性に優れるといえる。
【0064】
<ハンドリング試験方法>
得られた管状構造体について両端をピンセットで挟み、この管状構造体の中心部を支点にして、この両端を接触させるように180°に折り曲げる試行をそれぞれの管状構造体について50回行い、試行後の管状構造体の状態を観察した。試行前と管状構造体の状態が変わらないものを良好、接着が剥がれたり、開口部にほつれが生じたりして管状構造体が破損したものを不良として評価した。また、わずかに接着部に剥がれが認められたり、わずかに開口部にほつれが生じたりしたものを、その中間の評価として、可と評価した。なお、表1において、実施例1は参考例とする。
【0065】
【表1】
【0066】
以上、実施例と比較例の結果から、No.1~No.7は耐圧性とハンドリング性に、特に優れていることがわかる。そのため、本発明の管状構造体を人工血管に使用した場合に必要とされる血圧に耐えられる。またハンドリング性からも、人工血管移植手術を行いやすい。No.8も耐圧性に優れ、ハンドリング性も有していた。
これに対し、比較管状構造体のNo.C1はハンドリング性は可だが、耐圧性に劣ることがわかった。比較管状構造体のNo.C2は、膜厚が厚くかつテーパー加工されていなかったため、管状構造体を得ることができなかった。
【符号の説明】
【0067】
破線矢印1:シートの長さ方向、破線矢印2:シートの幅方向、破線矢印3:シートの厚さ方向
a:テーパー角、b:シートの厚み、c:テーパー部、d:中膜組織、e:内膜組織、f:テーパー部の長さ、g、h:2層構造部の端点、j、k:単層構造部の端点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9