(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-28
(54)【発明の名称】柱・梁架構の補強構造
(51)【国際特許分類】
E04B 2/56 20060101AFI20220217BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20220217BHJP
E04B 1/20 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
E04B2/56 643A
E04G23/02 F
E04B1/20 F
(21)【出願番号】P 2021568801
(86)(22)【出願日】2021-08-04
(86)【国際出願番号】 JP2021028933
【審査請求日】2021-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2020163493
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】520378540
【氏名又は名称】勅使川原 正臣
(73)【特許権者】
【識別番号】501200859
【氏名又は名称】井上 芳生
(73)【特許権者】
【識別番号】390022389
【氏名又は名称】サンコーテクノ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510207243
【氏名又は名称】株式会社KSE network
(73)【特許権者】
【識別番号】000149594
【氏名又は名称】株式会社大本組
(73)【特許権者】
【識別番号】520378551
【氏名又は名称】株式会社ssd
(74)【代理人】
【識別番号】100124316
【氏名又は名称】塩田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】塩原 等
(72)【発明者】
【氏名】勅使川原 正臣
(72)【発明者】
【氏名】井上 芳生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴志
(72)【発明者】
【氏名】八木沢 康衛
(72)【発明者】
【氏名】横田 健治
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡 功治
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-509356(JP,A)
【文献】特開2019-157430(JP,A)
【文献】特開2018-199923(JP,A)
【文献】特開2016-000894(JP,A)
【文献】特開平11-050690(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 2/56-2/70
E04G 23/00-23/08
E04B 1/20
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート造の柱・梁のフレームの構面内に、前記フレームの内周面に沿って周回した立面形状をし、前記フレーム側にフランジを有する断面形状をした鋼製の補強フレームを配置し、前記フレームの内周面に接合した柱・梁架構の補強構造であり、
前記補強フレームは前記柱に沿った柱部と、前記梁に沿った梁部と、前記柱部と前記梁部に接合され、前記柱部と前記梁部をつなぐつなぎ部からなり、
前記つなぎ部のフランジの、前記柱部と前記梁部寄りの一部は前記フレームの内周面に沿った形状をし、このフランジの前記フレームの隅角部に面する一部は前記フレームの隅角部との間に空隙が形成される形状をしていることを特徴とする柱・梁架構の補強構造。
【請求項2】
前記つなぎ部の前記フランジの、前記フレームの隅角部に面する一部は湾曲していることを特徴とする請求項1に記載の柱・梁架構の補強構造。
【請求項3】
前記つなぎ部の前記フランジは前記フレームの前記柱と前記梁に接合されていることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の柱・梁架構の補強構造。
【請求項4】
前記補強フレームの前記柱部と前記梁部、及び前記つなぎ部の前記各フランジには、このフランジを貫通して前記フレーム中に埋設されるアンカーが定着され、
前記アンカーは前記フレーム中に形成された削孔内に挿入される軸部と、この軸部に接続される頭部を持ち、この頭部の前記フレーム側に、前記削孔内に挿入され、前記頭部の周方向に連続する形状の挿入部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の柱・梁架構の補強構造。
【請求項5】
前記削孔の、前記フレームの内周面寄りに、前記挿入部の外周面が接触し得る嵌入孔が連続して形成され、この嵌入孔の内周面の軸方向に直交する平面積は前記削孔の内周面の軸方向に直交する平面積より大きいことを特徴とする請求項4に記載の柱・梁架構の補強構造。
【請求項6】
前記嵌入孔内に前記挿入部が挿入されたときの前記挿入部の内周面の軸方向に直交する平面積は前記削孔の内周面の軸方向に直交する平面積以上であることを特徴とする請求項5に記載の柱・梁架構の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄筋コンクリート造の柱・梁のフレームの構面内に、フレームの内周面に沿って周回した立面形状をし、フレーム側にフランジを有する断面形状をした鋼製の補強フレームを配置し、フレームの内周面に接合した柱・梁架構の補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート造の柱・梁のフレームの構面内に、フレームの内周面に沿って周回した立面形状をした鋼製の補強フレームを配置し、フレームを補強しようとする場合、フレームの内周面と補強フレームの外周面との間に緩衝用の空間を確保し、この空間にモルタル等の充填材を充填する方法が多く採用される(特許文献1~3参照)。
【0003】
フレームと補強フレームの面内剛性に差があることもあり、フレームの変形に補強フレームが柔軟に追従できない可能性があるため、フレームと補強フレーム間に緩衝用の充填材層が確保されると考えられる。フレームの内周面には形鋼等の鋼材がアンカー(アンカーボルト)を用いて接合され、鋼材と補強フレームとの間の空間に充填材が充填される。充填材中には鋼材と補強フレームとの一体性確保のためのスパイラル筋等が配筋される(特許文献1~3参照)。
【0004】
しかしながら、補強フレームがフレームの内周面に直接、接合されない以上、補強フレームによるフレームの補強効果が十分に発揮されない可能性がある他、構面内方向のフレームの変形時に充填材が脆性的に破壊する事態が想定される。充填材が破壊すれば、フレームと補強フレーム間の構面内方向のせん断力伝達機構が喪失する。
【0005】
これに対し、補強フレームに一体化したベースプレートをフレームに内接させ、アンカーを用いてフレーム内周面に直接、接合する方法がある(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-226938号公報(段落0010~0013、
図1~
図4)
【文献】特開2002-285708号公報(段落0018~0026、
図1~
図3)
【文献】特開2018-76677号公報(段落0019~0038、
図1~
図3)
【文献】特開平11-50690号公報(段落0011~0013、
図1、
図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献4の方法ではフレームの柱の内周面と梁の内周面に沿った2方向に板要素を持つベースプレートを直接、フレームに内接させている。このことから、フレームの構面内方向の相対変位時には、2方向の板要素はフレームを構成する梁と柱のそれぞれに一体化した状態を維持しようとする。このため、2方向の板要素の交差部分にはフレームの隅角部に生じる層間変形角分の強制的な曲げ変形が繰り返され、結果的に板要素の交差部分が疲労し、破断に至る可能性もある。
【0008】
具体的に言えば、2方向の板要素であるフランジにはこれに直交する面をなすウェブが連続的に一体化している関係で、フレームの変形に追従するときに2方向のフランジがウェブに拘束された状態にあり、ウェブはフランジに拘束された状態にある。すなわち、フランジとウェブのいずれも、変形の自由度が低下しているため、フレームの変形が繰り返されるときにフランジとウェブには強制的な変形を生じる状態になり、応力集中が生じ易い。この結果、フランジとウェブが疲労し、破断し易くなる。
【0009】
本発明は上記背景より、フレームに生じる相対変位に拘わらず、フレームに直接、固定される補強フレームの隅角部に位置するつなぎ部の疲労による破断を回避し得る柱・梁架構の補強構造を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明の柱・梁架構の補強構造は、鉄筋コンクリート造の柱・梁のフレームの構面内に、前記フレームの内周面に沿って周回した立面形状をし、前記フレーム側にフランジを有する断面形状をした鋼製の補強フレームを配置し、前記フレームの内周面に接合した柱・梁架構の補強構造であり、
前記補強フレームは前記柱に沿った柱部と、前記梁に沿った梁部と、前記柱部と前記梁部に接合され、前記柱部と前記梁部をつなぐつなぎ部からなり、
前記つなぎ部のフランジの、前記柱部と前記梁部寄りの一部は前記フレームの内周面に沿った形状をし、このフランジの前記フレームの隅角部に面する一部は前記フレームの隅角部との間に空隙が形成される形状をしていることを構成要件とする。
【0011】
補強フレームは柱・梁のフレームの内周面に沿って周回する立面形状をするから、基本的には隅角部を除き、方形状に形成される。補強フレームの隅角部には、フレーム内周面との間に空隙が形成されるつなぎ部が配置されるから、隅角部を含めれば、補強フレームは方形状にはならず、補強フレームの隅角部(つなぎ部)は基本的にはフレーム側へ向かって凸の円弧形状、または多角形状に形成される。
【0012】
補強フレームはフレーム側にフランジを有するため、補強フレームを軸方向の断面で見たときには例えばT形断面、またはH形断面等の断面形状をし、フレームにはフランジを貫通するアンカーがフレームのコンクリート中に定着されることにより接合(固定)される。アンカーはアンカーボルトを含む。補強フレームはフレーム側にフランジを有する断面形状をするから、少なくともフランジと、これに垂直な面をなすウェブを有する。補強フレームを構成する柱部と梁部は共に、隅角部に配置されるつなぎ部に溶接等により接合されることで、周方向に連続する。柱・梁のフレームの鉄筋コンクリート造は鉄骨鉄筋コンクリート造を含む。
【0013】
補強フレームはフレーム側のフランジにおいてフレームに直接、接触した状態で、または何らかの隙間調整材(緩衝材)を介在させた状態で接合されるため、特許文献1~3のように補強フレームとフレーム間に、スパイラル筋が配置される程度の厚さを有する充填材層が形成されることはない。従って補強フレームとフレーム間に充填材層が介在する場合のような、充填材の脆性破壊による構面内方向のせん断力伝達機構の喪失の事態は発生しない。
【0014】
請求項1における「補強フレームを構成するつなぎ部のフランジの、フレームの隅角部寄りの一部がフレームの隅角部との間に空隙が形成される形状をする」とは、
図1に示すようにつなぎ部7のフランジ71の、フレーム1の隅角部1A寄りの一部がフレーム1の隅角部1Aから浮いた状態にあり、フレーム1の隅角部1Aとは非接触状態にあることを言う。
【0015】
補強フレーム4は柱部5と梁部6においてフレーム1の柱2と梁3に接合されれば、フレーム1に接合された状態になり得るため、つなぎ部7はフレーム1に接合されないこともある。但し、つなぎ部7もフランジ71とウェブ72を有し、フランジ71においてフレーム1の柱2と梁3に接合(固定)されることもある(請求項3)。この場合、つなぎ部7のフランジ71がフレーム1に接合されることで、つなぎ部7でのフレーム1との一体性が確保され、フレーム1の面内変形時の補強フレーム4とフレーム1との分離が生じにくくなるため、つなぎ部7でのフレーム1の補強効果が期待される。
【0016】
つなぎ部7のフランジ71の一部がフレーム1の隅角部1Aから浮いた状態にあることで、フレーム1の構面内方向の変形時に、フランジ71がフレーム1から強制的な変形を受けずに済む。このため、フランジ71の一部の層間変形角への追従性が上がり、フランジ71が強制的な変形を受けることが低減される。この結果、ウェブ72もフランジ71から強制的な変形を受けることが低減され、フランジ71とウェブ72の強制的な変形による疲労と、疲労による破断が回避され易くなる。
【0017】
「つなぎ部のフランジの一部がフレームから浮いた状態にあること」は、具体的には、例えばつなぎ部7のフランジ71の、フレーム1の隅角部1Aに面する一部が湾曲していることを言う(請求項2)。「湾曲」はフレーム1の隅角部1Aから浮いた状態での湾曲であるから、つなぎ部7のフランジ71を除く本体部から見たとき、フランジ71の少なくとも一部がフレーム1の隅角部1A側に凸の曲面を形成することを言う。つなぎ部7のフランジ71は全体的には湾曲に近い多角形状に形成されることもある。つなぎ部7のフランジ71の、フレーム1の隅角部1Aから浮いた部分(フランジ71の一部)はフレーム1の柱2に接触する部分と梁3に接触する部分を除いた部分、または柱2と梁3にアンカー8で固定される部分を除いた部分を指す。
【0018】
つなぎ部7のフランジ71の一部が湾曲している場合(請求項2)には、フランジ71がフレーム1の面内方向の変形に追従しようとするときに、曲面が連続することで、特許文献4のようにフランジが角形である場合との対比ではフランジ71の面外方向に局部的な応力集中が生じにくく、応力が分散し易いため、疲労に起因する破断が生じにくい利点がある。
【0019】
フレーム1が面内方向に変形するとき、補強フレーム4のフランジ51、61、71をフレーム1に接合しているアンカー8には軸方向に垂直な方向のせん断力が作用する。アンカーボルト、またはあと施工アンカー等の場合、アンカー8の頭部82がフランジ51、61、71よりウェブ52、62、72側へ突出した状態にある。一方、補強フレーム4のフランジ51、61、71は特許文献4のようにフレーム1の内周面に接触した状態で接合されている場合でも、フレーム1の変形時にはフレーム1との間に、柱2と梁3の軸方向に相対移動(滑り)が生じ得るため、アンカー8の頭部82は繰り返されるせん断力を受けて破断する可能性を秘める。
【0020】
このような事態に対しては、補強フレーム4の柱部5と梁部6、及びつなぎ部7の各フランジ51、61、71に、フランジ51、61、71を貫通してフレーム1のコンクリート中に埋設され、定着されるアンカー8の頭部82に、削孔1a内周面に係止可能な部分(挿入部83)を形成することで(請求項4)、アンカー8の頭部82の破断に対する安全性を向上させることが可能である。この場合、アンカー8はフレーム1のコンクリート中に形成された削孔1a内に挿入される軸部81と、軸部81に接続される頭部82を持ち、頭部82のフレーム1側には、削孔1a内に挿入され、頭部82の周方向に連続する形状の挿入部83が形成される(請求項4)。挿入部83の形状は筒状(中空形状)、環状、柱状(中実形状)等である。
【0021】
この場合、挿入部83が軸部81の周囲に位置するフレーム1のコンクリート、または削孔1a内に充填されるモルタル等の硬化性の充填材9に軸部81の放射方向(軸に垂直な方向)に係合した状態になる。この結果、アンカー8の頭部82、もしくは軸部81が受けた補強フレーム4のフランジ51、61、71からの、軸部81の軸に垂直な方向のせん断力を頭部82と軸部81を通じ、軸方向に分散させてコンクリート(フレーム1)に伝達することができるため、せん断力の伝達効率が向上する。
【0022】
特に挿入部83は頭部82の周方向に連続する形状をし、フレーム1の内部(コンクリート等中)に直接、入り込んだ(挿入された)状態でコンクリート等に係止することで、挿入部83の外周面からは挿入部83の外周側に存在するコンクリートに直接、軸部81に直交する方向のせん断力が伝達される。また挿入部83の内周面からは挿入部83の内周側に存在するコンクリートや充填材9に直接、軸部81に直交する方向のせん断力が伝達される状態にあり、挿入部83の外周面と内周面の双方からの伝達が可能になる。
【0023】
挿入部83はフレーム1が既存の場合に
図1、
図2-(a)に示すようにコンクリート中に形成される削孔1a(充填材9)内に位置する場合と、削孔1a(充填材9)の外周側に位置する場合がある。挿入部83が削孔1a内に位置する場合には挿入部83の外周面はフレーム1のコンクリートに接触する場合と、充填材9に接触する場合がある。挿入部83が削孔1a外に位置する場合には挿入部83の外周面はフレーム1のコンクリートに接触し、内周面はコンクリート、もしくは充填材9に接触する。
【0024】
「軸部81の周辺に充填される充填材9」はフレーム1が既存構造物である場合には、コンクリート中に形成された削孔1a内に充填され、周囲からフレーム1のコンクリートに拘束された状態にあることを言う。このため、充填材9が挿入部83から受けた支圧力によってコンクリートとの一体性が損なわれることはなく、充填材9が挿入部83から受けた支圧力のコンクリートへの伝達効果の低下は生じにくい。
【0025】
また挿入部83のコンクリート、もしくは充填材9への係止(係合)の方向と、挿入部83からのコンクリートへのせん断力伝達方向が一致する上、その方向は充填材9とその周囲のコンクリートとの境界面に直交する方向であるため、挿入部83からのせん断力伝達時に充填材9とコンクリートとの境界面が剥離するような事態の発生も回避される。なお、フレーム1が新設構造物である場合には、軸部81(アンカー8)はコンクリート中に直接、埋設され、削孔1aの形成と充填材9の充填はないため、充填材9とコンクリートとの分離(剥離)が問題になることはない。
【0026】
挿入部83を有する頭部82はまた、
図2-(a)に示すように軸部81に対し、螺合して接続される場合には、軸部81への螺入に伴い、軸部81に矢印で示す軸方向引張力を与え、頭部82のフレーム1側の面の、フレーム1表面への接触圧力を増加させる。このため、頭部82は頭部82とフレーム1の表面との間の摩擦力を増大させ、頭部82を通じたせん断力の伝達効果を高める働きをする。この場合の頭部82は軸部81への軸方向引張力の付与時に、軸部81の、削孔1a孔底側の端部に形成される定着部84と対になることで、削孔1a内の充填材9を軸方向に拘束し、充填材9に軸方向圧縮力を与えるため、充填材9のせん断耐力を高める働きもする。
【0027】
アンカー8の頭部82に挿入部83が形成された場合(請求項4)に、
図2-(a)、(b)に示すように挿入部83の内周面がアンカー8本体である軸部81に外接しない場合には、削孔1aの、フレーム1の内周面寄りに、挿入部83の外周面が接触し得る、削孔1aより大きい平面積の嵌入孔1bを連続して形成すれば、(請求項5)、嵌入孔1bを含む削孔1a内に挿入される軸部81の充填材9中への埋設区間の全長において充填材9との一定の付着力が確保される。「挿入部83の外周面が接触する方向」はアンカー8の軸方向に直交する方向である。
【0028】
「接触し得る」とは、
図2-(c)に示すように挿入部83の外周面全体が嵌入孔1bの内周面に実質的に接触(密着)した状態になる場合と、
図2-(b)に示すように接触した状態にならない場合を含む意味であり、挿入部83の外周面と嵌入孔1bの内周面との間に僅かな空隙がある場合を含むことを言う。「フレーム1の内周面寄り」はフレーム1のフランジ51、61、71側の面を指す。
【0029】
「削孔1aより大きい平面積の嵌入孔1b」とは、嵌入孔1bの内周面の軸方向に直交する平面積A2が削孔1aの内周面の軸方向に直交する平面積A1より大きいこと(A2>A1)を言う。嵌入孔1bの内周面の平面積A2が削孔1aの内周面の平面積A1より大きいこと(A2>A1)は、嵌入孔1bの内周面と削孔1aの内周面が共に円形である場合、嵌入孔1bの内径が削孔1aの内径より大きいことでもある。
【0030】
アンカーをコンクリートの削孔内に挿入し、削孔内に充填材を充填して定着させる場合に、例えば特許第5331268号、第5978363号のように挿入部の内周面がアンカー本体(軸部)に外接しない場合を考える。これらのように削孔の平面積が軸方向に一様であれば、挿入部が削孔内に納まったときに、アンカーのコンクリートへの埋設区間の挿入部寄りの区間の周りに充填される充填材の容積が挿入部の体積分、少なくなる。本発明で言えば、嵌入孔1bの区間における軸部81周りの充填材9の、軸部81の単位長さ当たりの量が嵌入孔1bを除く削孔1aの区間における軸部81周りの充填材9の量より少なくなる。結果としてその区間での充填材との付着力が低下し、引き抜きに対する安定性が低下する可能性がある。
【0031】
アンカー8の軸部81のコンクリートへの埋設区間における充填材9との付着力が軸方向に一定(一様)でなければ、付着力の小さい部分である頭部82寄りの区間が充填材9から剥離する可能性がある。軸部81の頭部82寄りの区間に剥離が生ずれば、他の部分のみの付着力で引張力に抵抗する状況になるが、剥離した区間に連続する部分も連鎖し易くなり、軸部81の埋設区間の全長が一様に引張力に抵抗し続ける状況が確保されにくい。
【0032】
それに対し、
図2-(b)、(c)に示すように嵌入孔1bの平面積A2が削孔1aの平面積A1より大きいことで(A2>A1)、嵌入孔1bの区間における軸部81周りの充填材9の量が嵌入孔1bを除く削孔1aの区間における軸部81周りの充填材9の量より極端に少なくならない状態を得ることができる。すなわち、嵌入孔1b内への挿入部83の挿入に拘わらず、軸部81のコンクリートへの埋設区間の全長に亘り、軸部81の周囲に、単位長さ当たり、同等程度の量の充填材9が包囲する状況を得ることができる。この結果、嵌入孔1bを含む削孔1a内に挿入される軸部81の全長に亘り、一定程度以上の付着力が得られ、軸部81の引き抜きに対する安定性が向上する。
【0033】
特に
図2-(c)、(d)に示すように嵌入孔1b内に挿入部83が挿入されたときの挿入部83の内周面の軸方向に直交する平面積A3が、削孔1aの内周面の軸方向に直交する平面積A1以上であれば(A3≧A1)(請求項6)、嵌入孔1b内への挿入部83の挿入に拘わらず、軸部81のコンクリートへの埋設区間の全長に亘り、軸部81の周囲に、単位長さ当たり、同一量以上の充填材9が包囲する状況を得ることができ、引き抜きに対する安定性がより向上する。挿入部83の内周面の平面積A3が削孔1aの内周面の平面積A1以上であることは、挿入部83の内周面と削孔1aの内周面が円形である場合、挿入部83の内径が削孔1aの内径以上である、とも言える。
図2-(c)では(a)、(b)における裏当て金11を省略している。
【0034】
嵌入孔1b内に挿入部83が挿入されたときの挿入部83の内周面の軸方向に直交する平面積A3が削孔1aの軸方向に直交する平面積A1以上の大きさであるから(A3≧A1)、嵌入孔1bの内周面の軸方向に直交する平面積A2は削孔1aの軸方向に直交する平面積A1より大きい(A2>A1)。
【0035】
この結果、アンカー8の軸部81のコンクリート(充填材9)への埋設区間の全長に一定(一様)の付着力が確保され、埋設区間の全長の付着力が引張力に抵抗できる利点がある。
図2-(c)、(d)に示すように嵌入孔1bと削孔1aの断面形状が共に円形である場合、嵌入孔1bに嵌入部52が内接したときの嵌入部52の内径が削孔1aの内径以上になるような大きさを嵌入孔1bの内径が持っていればよい。
【0036】
挿入部83の内周面が軸部81に外接する場合には、軸部81の挿入部83から露出した区間の周りに充填材9が充填されるため、挿入部83から露出した軸部81の内の一部区間における充填材9との付着力が他の区間の付着力より低下することは生じない。
【発明の効果】
【0037】
柱・梁のフレームの構面内に、フレーム内周面に沿って周回した立面形状をし、フレーム側にフランジを有する断面形状をした鋼製の補強フレームに、柱に沿った柱部と、梁に沿った梁部と、柱部と梁部をつなぐつなぎ部を持たせ、つなぎ部のフランジの一部をフレーム隅角部から浮いた状態にするため、フレームの構面内方向の変形時に、フランジにフレームから強制的な変形を与えないようにすることができる。
【0038】
従ってフランジの一部の層間変形角への追従性が上がり、フランジが強制的な変形を受けることが低減されるため、ウェブもフランジから強制的な変形を受けることを低減することができる。結果的にフランジとウェブの強制的な変形による疲労と、疲労による破断を回避し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】柱・梁のフレームの内周面に補強フレームが接触した状態で接合されている様子を示した立面図である。
【
図2】(a)は
図1のx-x線断面図、(b)は(a)の一部拡大図、(c)は挿入部の平面積が、削孔の平面積以上である(A3≧A1)場合の軸部の断面積と削孔の平面積、及び嵌入孔の平面積の関係を示した縦断面図である。(d)は(c)の挿入部における水平断面図である。
【
図5】1層分のフレーム内に補強フレームが配置された様子を示した立面図である。
【
図6】
図5に示す補強フレーム内にブレースを架設した様子を示した立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1は鉄筋コンクリート造の柱2と梁3からなるフレーム1の構面内に、フレーム1の内周面に沿って周回した立面形状をし、フレーム1側にフランジを有する断面形状をした鋼製の補強フレーム4を配置し、フレーム1の内周面に接合した柱・梁架構の補強構造の具体例を示す。補強フレーム4は柱2の内周面に沿って配置される柱部5と、梁3の内周面に沿って配置される梁部6と、柱部5の軸方向の端面と梁部6の軸方向の端面の双方に溶接やボルト等により接合され、柱部5と梁部6をつなぐつなぎ部7からなる。「柱2の内周面」と「梁3の内周面」はそれぞれ柱2と梁3の、フレーム1に包囲された開口部(フレーム1の内周面)側の面を指す。
【0041】
「フレーム1の内周面に沿って配置される」とは、柱部5のフランジ51とつなぎ部7のフランジ71の一部が柱2の内周面に重なり、梁部6のフランジ61とつなぎ部7のフランジ71の一部が梁3の内周面に重なり、それぞれに面で直接、もしくは間接的に接触して配置されることを言う。「フランジ71の一部」はフレーム1の隅角部1Aとの間に空隙が確保されるフランジ71の隅角部71aを指す。
【0042】
「直接」はフランジ51、61、71のフレーム1側の面がフレーム1に直接、接触すること、または
図2-(a)、(b)に示すようにフレーム1側の面とフレーム1の内周面との間に僅かな空隙を隔てることを言う。「間接的に」はフランジ51、61、71とフレーム1との間に何らかの薄肉の緩衝材が介在することを言う。またはフレーム1のコンクリート中に形成された削孔1a内に充填されながら、削孔1a内から漏出し、補強フレーム4のフランジ51、61、71の背面に入り込んだモルタル等の充填材9が介在することを言う。
【0043】
図2-(a)、(b)はフランジ51、61、71をフレーム1に接合(固定)するための後述のアンカー8の頭部82にフランジ51、61、71を溶接する場合に、フランジ51、61、71の背面側(フレーム1側)に裏当て金11を配置した場合の例を示している。この例ではフランジ51、61、71の背面が平坦面であれば、裏当て金11の肉厚分、フランジ51、61、71の背面とフレーム1との間には空隙が形成されるが、フランジ51、61、71の背面に裏当て金11が納まる溝が形成されていれば、空隙は形成されない。
図2-(a)、(b)中、符号12は溶接金属を示す。
【0044】
補強フレーム4は少なくとも柱部5のフランジ51と梁部6のフランジ61を貫通するアンカーボルトやあと施工アンカー等のアンカー8の軸部81がフレーム1のコンクリート中に埋設され、定着されることによりフレーム1に接合(固定)される。図面ではつなぎ部7でのフレーム1との一体性を確保する目的で、つなぎ部7のフランジ71においても補強フレーム4をフレーム1に接合しているが、必ずしもつなぎ部7のフランジ71がフレーム1に接合される必要はない。
【0045】
補強フレーム4を構成する柱部5と梁部6、及びつなぎ部7はいずれも、フレーム1の内周面に重なり、フレーム1に接合(定着)されるフランジ51、61、71と、フランジ51、61、71に直交する面をなし、フレーム1の面内変形時にせん断力を負担するウェブ52、62、72を持つ。補強フレーム4の各構成部分(柱部5と梁部6及びつなぎ部7)がフランジ51、61、71とウェブ52、62、72からなる場合、補強フレーム4は柱部5と梁部6に直交する断面上、T形断面形状に形成される。
【0046】
図1に示すように柱部5と梁部6のウェブ52、62に、フランジ51、61と対になるフランジ53、63が一体化する場合、補強フレーム4はH形断面形状に形成される。フレーム1の変形時、柱部5と梁部6のフランジ51、61は曲げモーメントに対する抵抗要素になるため、フランジ51、61と対になるフランジ53、63が形成されることが合理的である。
【0047】
柱部5と梁部6に跨るつなぎ部7は基本的には柱部5と梁部6を補強フレーム4の周方向に連続させる役目を持ち、フレーム1を補強する役目は柱部5と梁部6程はない。つなぎ部7は主にフレーム1の面内変形時にフレーム1の隅角部1Aの層間変形角の発生に柔軟に追従しながら、柱部5と梁部6をフレーム1に接合された状態を維持する機能を発揮すればよい。この関係で、
図1ではつなぎ部7のウェブ72にはフランジ71と対になるフランジを形成していない。フランジ71と対になるフランジが形成されることもある。
【0048】
図示する例ではフランジ71と対になるフランジを形成しないことで、つなぎ部7全体ではウェブ72の面内方向の曲げ剛性が柱部5と梁部6に対しては相対的に低下し、フレーム1の変形時に弾性変形、または塑性変形し易く、フレーム1の変形に追従し易くなっている。
図1中、ウェブ72に形成された孔は後述するように補強フレーム4内に架設されるブレースの端部を例えばクレビス等の金具を用いて接続するための挿通孔72bである。
【0049】
つなぎ部7のフランジ71の、柱部5と梁部6寄りの一部はフレーム1の内周面に沿った形状をし、フランジ71のフレーム1の隅角部1Aに面する一部(隅角部71a)はフレーム1の隅角部1Aとの間に空隙が形成される形状をしている。「フレーム1の内周面に沿った形状」とは、フランジ71の、柱部5寄りの一部が柱2の内周面に沿って配置され、梁部6寄りの一部が梁3の内周面に沿って配置されることを言う。「フレーム1の隅角部1A」は柱2と梁3が交わる隅角部を指し、柱2と梁3の軸方向にはつなぎ部7のフランジ71の隅角部71aに対応した長さを有する。
【0050】
「フレーム1の隅角部1Aとの間に空隙が形成される形状(の隅角部71a)」とは、フレーム1に変形が生じていない平常時に、フランジ71の内、フレーム1の隅角部1Aに面する隅角部71aが柱2の内周面にも、梁3の内周面にも接触しない状態を維持する形状をすることを言う。「柱2と梁3の内周面に接触しない状態を維持する形状」は特に問われないが、具体的には
図1に示すようにつなぎ部7のフランジ71の隅角部71aが湾曲している形状を言う。
【0051】
図1に示すフランジ71の隅角部71aは多角形状に、あるいは多角形状の一部をなす形状に形成されることもある。フランジ71の隅角部71aが図示するように湾曲している場合、湾曲区間の曲げ剛性が一様になるため、フランジ71がフレーム1の面内変形に追従するときに、フランジ71のいずれかの部分が集中的に変形することがなくなり易くなる。結果としてフランジ71への応力の集中が回避され易く、フランジ71に破断を生じにくくなる利点がある。
【0052】
アンカー8は
図1、
図2に示すように補強フレーム4の各フランジ51、61、71の幅方向の中心上の1箇所、または幅方向に距離を置いた複数箇所に配置される。後者の場合、千鳥状の配置も含まれる。アンカー8は補強フレーム4の各フランジ51、61、71に形成された挿通孔を挿通する。
【0053】
フレーム1の変形時にはフレーム1と補強フレーム4のフランジ51、61、71との間に、柱2と梁3の軸方向に相対移動(滑り)が生じ得る。このことから、この相対移動によるアンカー8の、フレーム1の内周面から補強フレーム4側へ突出した部分の破断を回避する目的で、アンカー8を、上記の削孔1a内に挿入される軸部81と、軸部81に接続される頭部82とに分割している。その上で、頭部82のフレーム1側に、削孔1a内に挿入され、頭部82の周方向に連続する形状の挿入部83を形成している。
【0054】
頭部82は軸部81の補強フレーム4側に螺合等により接続され、フランジ51、61、71のフレーム1の内周面側に露出する。頭部82の、フレーム1の内周側の面はフランジ51、61、71の、フレーム1の内周側の面と面一になる等、フレーム1の内周側の面に揃えられる。フランジ51、61、71がない状態で見れば、頭部82はフレーム1の内周面から内周側へ突出する。
【0055】
補強フレーム4の各ウェブ52、62、72にはアンカー8の軸部81を削孔1a内に挿入し、軸部81挿入後の削孔1a内の空隙に充填されるモルタル、接着剤等の充填材9を充填する作業のための開口52a、62a、72aが形成されている。開口52a、62a、72aはウェブ52、62、72の曲げ剛性を低下させ、ウェブ52、62、72自体を面内方向に曲げ変形させ易くする働きもしている。
【0056】
軸部81の先端部(削孔1aの孔底側)には充填材9中に埋設されて削孔1a内に定着される定着部84が一体的に形成されるか、または接続されて一体化する。
図2-(a)に示すように削孔1a内にはアンカー8の軸部81が挿入され、定着部84の底面が削孔1aの孔底に接触、または接近したときに、頭部82の挿入部83の外周面は削孔1aの補強フレーム4寄りの部分に内接し得る状態になる。
【0057】
軸部81の補強フレーム4寄りの部分(区間)は
図3に示すように頭部82から補強フレーム4のウェブ52、62、72側へ突出する。削孔1a内への充填材9の充填により挿入部83は削孔1a内で充填材9に埋設される。挿入部83が削孔1aに内接することで、挿入部83は削孔1aの内周面に放射方向に係止可能な状態なる。
【0058】
軸部81の頭部82から突出した部分には軸部81に軸方向引張力を付与するためにナット10が螺合する。ナット10は軸部81への螺合により、軸部81に、
図3に矢印で示す軸方向引張力を与え、頭部82のフレーム1内周面への接触圧力を増加させるため、頭部82とフレーム1内周面との間の摩擦力を増大させ、頭部82を通じたせん断力の伝達効果を高める働きをする。頭部82は軸部81への軸方向引張力の付与時に、定着部84と対になることで削孔1a内の充填材9を軸方向に拘束し、充填材9に軸方向圧縮力を与えるため、硬化した充填材9のせん断耐力を高める働きもする。
【0059】
アンカー8は補強フレーム4の各フランジ51、61、71に形成された挿通孔を挿通したとき、頭部82は挿通孔の内周面に、フランジ51、61、71の面内方向に直接、または削孔1a内から溢れた充填材9を介して係止可能な状態にある。一方、削孔1aの内周面に挿入部83が係止した状態にあるため、
図3に矢印で示すようにフレーム1及びフランジ51、61、71とアンカー8の頭部82との間で軸部81の軸に直交する任意の方向のせん断力の伝達が可能になる。従って頭部82がフランジ51、61、71から受ける面内方向の力を、挿入部83を通じてフレーム1のコンクリートに伝達可能な状態になる。
【0060】
図2-(a)、(b)は頭部82に挿入部83が連続して形成された場合に、フレーム1(柱2と梁3)中にフランジ51、61、71側から、軸部81が入り込む削孔1aを形成し、削孔1aのフランジ51、61、71側に、挿入部83の外周面が接触し得る嵌入孔1bを形成した場合の例を示している。
【0061】
この場合に、挿入部83の区間における軸部81の充填材9からの引き抜きに対する一定の安定性を確保する目的で、
図2-(a)、(b)では嵌入孔1bの内径等、軸方向に直交する内周面に、削孔1aの内径等、軸方向に直交する内周面の平面積A1より大きい平面積A2を与えている。嵌入孔1bの平面積A2が削孔1aの平面積A1より大きいこと(A2>A1)で、嵌入孔1b内への挿入部83の挿入に拘わらず、軸部81のコンクリート(充填材9)への埋設区間の全長に亘り、軸部81の周囲に、単位長さ当たり、同等程度の量の充填材9が包囲する状況が得られ、軸部81の一定程度以上の引き抜きに対する安定性が確保される。
【0062】
図2-(c)は特に、挿入部83の内径等、軸方向に直交する内周面に、削孔1aの内径等、軸方向に直交する内周面の平面積A1以上の大きさの平面積A3を与えた場合の例を示す。この場合、挿入部83の内周面の軸方向に直交する平面積A3が削孔1aの内周面の軸方向に直交する平面積A1以上の大きさを持つことで(A3≧A1)、A3<A1である場合より、軸部81のコンクリートへの埋設区間の全長に亘り、軸部81の周囲に、単位長さ当たり、同一量以上の充填材9が包囲する状況を得ることができ、引き抜きに対する安定性がより向上する。
【0063】
図2-(c)の場合にはまた、嵌入部52の内周面の平面積A3が削孔1aの内周面の平面積A1以上の大きさを持つことで(A3≧A1)、A3<A1である場合より嵌入部52のせん断力作用方向への投影面積が拡大するため、その分、せん断力伝達効果が高まる。この場合、挿入部83に肉厚がある分、嵌入孔1bの内周面の軸方向に直交する平面積A2は削孔1aの内周面の軸方向に直交する平面積A1より大きい(A2>A1)。
図2-(d)は(c)の場合の削孔1aの内周面の平面積A1と、嵌入部52の内周面の平面積A3と、嵌入孔1bの内周面の平面積A2の関係を示す。ここでは便宜的にA1が削孔1aの内径を、A3が挿入部83の内径を、A2が嵌入孔1bの内径を表している。
【0064】
削孔1aの内周面の平面積A1より大きい平面積A2を持つ嵌入孔1bがなく、削孔1aの平面積A1が軸方向に一定である場合、挿入部83が削孔1a内に納まったときに、軸部81のフレーム1(コンクリート)への埋設区間の挿入部83寄りの区間の周りに充填される充填材9の容積が、挿入部83の体積分、少なくなるため、その区間での充填材9との付着力が低下する可能性がある。フレーム1への埋設区間の充填材9との付着力が一定(一様)でなければ、付着力の小さい部分が充填材9から剥離し、他の部分のみの付着力で引張力に抵抗する状況になる可能性がある。
【0065】
それに対し、削孔1aのフランジ51、61、71寄りに、挿入部83の内周面の軸方向に直交する平面積A3が、削孔1aの内周面の軸方向に直交する平面積A1以上になるような平面積A2を持つ嵌入孔1bを形成することで、嵌入孔1b内への挿入部83の挿入に拘わらず、軸部81のフレーム1への埋設区間の全長に亘り、軸部81の周囲に同一量の充填材9が包囲する状態にすることができる。このため、フレーム1への埋設区間の全長に一定の付着力が確保され、埋設区間の全長の付着力が引張力に抵抗できる利点がある。
【0066】
図5は
図1、
図4に示すフレーム1における柱・梁接合部を含むフレーム1と補強フレーム4の全体を示す。
図6は
図5に示す補強フレーム4内の上階側のつなぎ部7と下階側の梁部6間にブレース(ダンパー一体型ブレース)13を架設した様子を示す。ブレース13の軸方向の一方側の端部は例えばつなぎ部7の挿通孔72bにピン接合され、他方側の端部は例えば梁部6のフランジ63に接合されたガセットプレート14に形成された挿通孔にピン接合される。
【符号の説明】
【0067】
1……フレーム、2……柱、3……梁、1a……削孔、1A……隅角部、
4……補強フレーム、
5……柱部、51……フランジ、52……ウェブ、52a……開口、53……フランジ、6……梁部、61……フランジ、62……ウェブ、62a……開口、63……フランジ、7……つなぎ部、71……フランジ、71a……隅角部、72……ウェブ、72a……開口、72b……挿通孔、
8……アンカー、81……軸部、82……頭部、83……挿入部、84……定着部、
9……充填材、10……ナット、
11……裏当て金、12……溶接金属、
13……ブレース、14……ガセットプレート。
【要約】
【課題】鉄筋コンクリート造の柱・梁のフレームの構面内に、フレームの内周面に沿って周回した立面形状をし、フレーム側にフランジを有する断面形状をした鋼製の補強フレームを配置し、フレームの内周面に接合する上で、フレームに生じる相対変位に拘わらず、フレームに直接、固定される補強フレームの隅角部に位置するつなぎ部の疲労による破断を回避する。
【解決手段】補強フレーム4をフレーム1の柱2に沿った柱部5と、梁3に沿った梁部6と、柱部5と梁部6に接合され、柱部5と梁部6をつなぐつなぎ部7から構成し、つなぎ部7のフランジ71の、柱部5と梁部6寄りの一部をフレーム1の内周面に沿った形状に形成し、フランジ71のフレーム1の隅角部に面する一部をフレーム1の隅角部との間に空隙が形成される形状に形成する。
【選択図】
図1