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特許7026575電子ビーム照射方法、電子ビーム照射装置、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-17
(45)【発行日】2022-02-28
(54)【発明の名称】電子ビーム照射方法、電子ビーム照射装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20220218BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20220218BHJP
【FI】
H01L21/30 541D
G03F7/20 504
G03F7/20 521
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018098298
(22)【出願日】2018-05-22
(65)【公開番号】P2019204857
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【弁理士】
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】中山田 憲昭
【審査官】冨士 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-040450(JP,A)
【文献】特開2010-250286(JP,A)
【文献】特開2014-183098(JP,A)
【文献】特開2011-108968(JP,A)
【文献】特開2002-158167(JP,A)
【文献】特開2001-006992(JP,A)
【文献】特開2014-225428(JP,A)
【文献】国際公開第2015/045498(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0222386(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
H01J 37/30 -37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に形成されるパターンの複雑度を示す指標を用いて、基板上に電子ビームが照射された場合の帯電量分布を演算する工程と、
得られた前記帯電量分布を用いて、前記電子ビームの照射に起因して形成される照射パターンの位置ずれ量を演算する工程と、
前記位置ずれ量を用いて、照射位置を補正する工程と、
補正された照射位置に電子ビームを照射する工程と、
を備え
前記パターンの複雑度を示す指標として、パターンの面積密度Uと、単位面積当たりのパターンの外周距離を用いることを特徴とする電子ビーム照射方法。
【請求項2】
前記パターンの面積密度Uと、前記単位面積当たりのパターンの外周距離Wと、前記パターンの面積密度Uに依存する関数と、を用いて前記帯電量分布が演算されることを特徴とする請求項記載の電子ビーム照射方法。
【請求項3】
前記パターンの面積密度Uと、前記単位面積当たりのパターンの外周距離Wと、前記パターンの面積密度Uに依存する関数a(U)と、前記関数a(U)とは異なる前記パターンの面積密度Uに依存する関数b(U)と、係数cとを用いた、
a(U)・W/U+b(U){1-exp(-c・W/U)}
で示すモデル式を演算することによって前記帯電量分布が演算されることを特徴とする請求項記載の電子ビーム照射方法。
【請求項4】
基板に形成されるパターンの複雑度を示す指標を用いて、基板上に電子ビームが照射された場合の帯電量分布を演算する帯電量分布演算部と、
得られた前記帯電量分布を用いて、前記電子ビームの照射に起因して形成される照射パターンの位置ずれ量を演算する位置ずれ量演算部と、
前記位置ずれ量を用いて、照射位置を補正する補正部と、
補正された照射位置に電子ビームを照射する電子ビーム照射機構と、
を備え
前記パターンの複雑度を示す指標として、パターンの面積密度Uと、単位面積当たりのパターンの外周距離を用いることを特徴とする電子ビーム照射装置。
【請求項5】
基板に形成されるパターンの複雑度を示す指標を用いて、基板上に電子ビームが照射された場合の帯電量分布を演算する処理と、
得られた前記帯電量分布を用いて、前記電子ビームの照射に起因して形成される照射パターンの位置ずれ量を演算する処理と、
を電子ビームを照射する電子ビーム照射装置を制御するコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記パターンの複雑度を示す指標として、パターンの面積密度Uと、単位面積当たりのパターンの外周距離を用いることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビーム照射方法、電子ビーム照射装置、及びプログラムに係り、例えば、電子ビームを用いて試料にパターンを描画する電子ビーム描画装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化の進展を担うリソグラフィ技術は半導体製造プロセスのなかでも唯一パターンを生成する極めて重要なプロセスである。近年、LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。これらの半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、高精度の原画パターン(レチクル或いはマスクともいう。)が必要となる。ここで、電子線(EB:Electron beam)描画技術は本質的に優れた解像性を有しており、高精度の原画パターンの生産に用いられる。
【0003】
図13は、可変成形型電子線描画装置の動作を説明するための概念図である。可変成形型電子線描画装置は、以下のように動作する。第1のアパーチャ410には、電子線330を成形するための矩形の開口411が形成されている。また、第2のアパーチャ420には、第1のアパーチャ410の開口411を通過した電子線330を所望の矩形形状に成形するための可変成形開口421が形成されている。荷電粒子ソース430から照射され、第1のアパーチャ410の開口411を通過した電子線330は、偏向器により偏向され、第2のアパーチャ420の可変成形開口421の一部を通過して、所定の一方向(例えば、X方向とする)に連続的に移動するステージ上に搭載された試料340に照射される。すなわち、第1のアパーチャ410の開口411と第2のアパーチャ420の可変成形開口421との両方を通過できる矩形形状が、X方向に連続的に移動するステージ上に搭載された試料340の描画領域に描画される。第1のアパーチャ410の開口411と第2のアパーチャ420の可変成形開口421との両方を通過させ、任意形状を作成する方式を可変成形方式(VSB方式)という。
【0004】
マスク等の基板に電子ビームを照射する場合に、過去に照射した電子ビームにより照射位置やその周囲が帯電してしまう。従来、このビーム照射位置ずれを補正する方法の1つとして、基板上に帯電防止膜(CDL:Charge Dissipation Layer)を形成して、基板表面の帯電を防止する方法が知られている。しかし、この帯電防止膜は、基本的に酸の特性を有しているため、基板上に化学増幅型レジストが塗布されている場合などにおいて相性が良くない。また、帯電防止膜を形成するために新たな設備を設ける必要があり、例えば、フォトマスクを製造する場合等に、その製造コストが更に増大してしまう。このため、帯電防止膜を用いることなく、帯電効果補正(CEC:charging effect correction)を行うことが望まれている。なお、帯電現象に起因した照射位置の位置ずれは、電子ビーム描画装置に限るものではなく、電子ビーム等の荷電粒子ビームでパターンを検査する検査装置等、狙った位置に荷電粒子ビームを照射することで得られる結果を用いる荷電粒子ビーム照射装置において同様に生じ得る。
【0005】
そこで、かかる帯電現象に起因した位置ずれに対して、出願人は、帯電量分布を求めてビーム照射位置の補正量を算出し、該補正量に基づいて補正された位置にビームを照射する帯電効果補正の手法を用いた描画装置について提案した(例えば、特許文献1,2参照)。しかしながら、昨今の微細化に応じたさらなる高い寸法精度が求められる中、かかる帯電効果補正では、補正が十分ではない場合があるといった問題が生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-15246号公報
【文献】特開2015-138882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の一態様は、電子ビームを照射する場合に、従来よりも帯電効果補正の精度を向上可能な方法および装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の電子ビーム照射方法は、
基板に形成されるパターンの複雑度を示す指標を用いて、基板上に電子ビームが照射された場合の帯電量分布を演算する工程と、
得られた帯電量分布を用いて、電子ビームの照射に起因して形成される照射パターンの位置ずれ量を演算する工程と、
位置ずれ量を用いて、照射位置を補正する工程と、
補正された照射位置に電子ビームを照射する工程と、
を備え
前記パターンの複雑度を示す指標として、パターンの面積密度Uと、単位面積当たりのパターンの外周距離を用いることを特徴とする。
【0009】
また、パターンの複雑度を示す指標として、単位面積当たりのパターンの外周距離を用いると好適である。
【0010】
また、パターンの面積密度Uと、単位面積当たりのパターンの外周距離Wと、パターンの面積密度Uに依存する関数と、を用いて帯電量分布が演算されると好適である。
【0011】
また、パターンの面積密度Uと、単位面積当たりのパターンの外周距離Wと、パターンの面積密度Uに依存する関数a(U)と、関数a(U)とは異なるパターンの面積密度Uに依存する関数b(U)と、係数cとを用いた、
a(U)・W/U+b(U){1-exp(-c・W/U)}
で示すモデル式を演算することによって帯電量分布が演算されると好適である。
【0012】
本発明の一態様の電子ビーム照射装置は、
基板に形成されるパターンの複雑度を示す指標を用いて、基板上に電子ビームが照射された場合の帯電量分布を演算する帯電量分布演算部と、
得られた帯電量分布を用いて、電子ビームの照射に起因して形成される照射パターンの位置ずれ量を演算する位置ずれ量演算部と、
位置ずれ量を用いて、照射位置を補正する補正部と、
補正された照射位置に電子ビームを照射する電子ビーム照射機構と、
を備え
前記パターンの複雑度を示す指標として、パターンの面積密度Uと、単位面積当たりのパターンの外周距離を用いることを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様のコンピュータに実行させるためのプログラムは、
基板に形成されるパターンの複雑度を示す指標を用いて、基板上に電子ビームが照射された場合の帯電量分布を演算する処理と、
得られた前記帯電量分布を用いて、前記電子ビームの照射に起因して形成される照射パターンの位置ずれ量を演算する処理と、
を電子ビームを照射する電子ビーム照射装置を制御するコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記パターンの複雑度を示す指標として、パターンの面積密度Uと、単位面積当たりのパターンの外周距離を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電子ビームを照射する場合に、従来よりも帯電効果補正の精度を向上できる。その結果、高精度な照射位置にビームを照射できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施の形態1における描画装置の要部構成の一例を示す概念図である。
図2】実施の形態1におけるステージ移動の様子を説明するための図である。
図3】実施の形態1の比較例における評価基板のパターン領域の一例と製品に使用される基板の実パターン領域の一例とを示す図である。
図4】実施の形態1の比較例における評価パターンの帯電量の一例と製品基板の実パターンに見立てた模擬パターンの帯電による位置ずれ量の一例とを示す図である。
図5】実施の形態1の比較例における評価パターンの一例と製品基板の実パターンに見立てた模擬パターンの一例とを示す図である。
図6】実施の形態1における評価基板に描画される評価パターンのレイアウトの一例を示す図である。
図7】実施の形態1におけるパターンの複雑度に起因する帯電量の測定結果を示す図である。
図8】実施の形態1におけるパターンの複雑度に起因する帯電減衰強度の測定結果を示す図である。
図9】実施の形態1における描画方法の要部工程の一例を示すフローチャート図である。
図10】実施の形態1における描画方法の要部工程の他の一例を示すフローチャート図である。
図11】実施の形態1の比較例における帯電効果補正を行った結果の位置ずれ量の一例を示す図である。
図12】実施の形態1における帯電効果補正を行った結果の位置ずれ量の一例を示す図である。
図13】可変成形型電子線描画装置の動作を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の要部構成の一例を示す概念図である。図1において、描画装置100は、描画機構150および制御系回路160を備えている。描画装置100は、電子ビーム描画装置の一例である。また、描画装置100は、電子ビーム照射装置の一例である。描画機構150は、電子鏡筒1と描画室14を有している。電子鏡筒1内には、電子銃5、照明レンズ7、第1の成形アパーチャ基板8、投影レンズ9、偏向器10、第2の成形アパーチャ基板11、対物レンズ12、偏向器13、及び静電レンズ15が配置される。また、描画室14内には、XYステージ3が配置される。XYステージ3上には、描画対象となる試料2が配置される。試料2には、半導体製造の露光に用いるフォトマスクや半導体装置を形成する半導体ウェハ等が含まれる。また、描画されるフォトマスクには、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。描画される際には、試料上には電子ビームにより感光するレジスト膜が形成されていることは言うまでもない。また、XYステージ3上には、試料2が配置される位置とは異なる位置にステージ位置測定用のミラー4が配置される。
【0017】
制御系回路160は、制御計算機110,120、ステージ位置検出機構45、ステージ制御機構46、偏向制御回路130、メモリ142、磁気ディスク装置等の記憶装置140,143,144、及び外部インターフェース(I/F)回路146と、を有している。制御計算機110,120、ステージ位置検出機構45、ステージ制御機構46、偏向制御回路130、メモリ142、記憶装置140,143,144、及び外部I/F回路146は、図示しないバスにより互いに接続されている。偏向制御回路130は、偏向器10,13に接続される。
【0018】
制御計算機110内には、描画制御部30、パターン密度分布算出部31、ドーズ量分布算出部32、照射量分布算出部33、かぶり電子量分布算出部34、帯電量分布算出部35、描画経過時間演算部37、累積時間演算部38、位置ずれ量分布算出部36、及び外周距離取得部39といった機能が配置される。描画制御部30、パターン密度分布算出部31、ドーズ量分布算出部32、照射量分布算出部33、かぶり電子量分布算出部34、帯電量分布算出部35、描画経過時間演算部37、累積時間演算部38、位置ずれ量分布算出部36、及び外周距離取得部39といった各「~部」は、処理回路を含み、その処理回路には、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置等が含まれる。また、各「~部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いてもよい。或いは、異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。描画制御部30、パターン密度分布算出部31、ドーズ量分布算出部32、照射量分布算出部33、かぶり電子量分布算出部34、帯電量分布算出部35、描画経過時間演算部37、累積時間演算部38、位置ずれ量分布算出部36、及び外周距離取得部39内に必要な入力データ或いは演算された結果はその都度メモリ142に記憶される。
【0019】
制御計算機120内には、ショットデータ生成部41および位置ずれ補正部42といった機能が配置される。ショットデータ生成部41および位置ずれ補正部42といった各「~部」は、処理回路を含み、その処理回路には、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置等が含まれる。また、各「~部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いてもよい。或いは、異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。ショットデータ生成部41および位置ずれ補正部42内に必要な入力データ或いは演算された結果はその都度図示しないメモリに記憶される。
【0020】
偏向制御回路130内には、成形偏向器制御部43および対物偏向器制御部44といった機能が配置される。成形偏向器制御部43および対物偏向器制御部44といった各「~部」は、処理回路を含み、その処理回路には、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置等が含まれる。また、各「~部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いてもよい。或いは、異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。成形偏向器制御部43および対物偏向器制御部44内に必要な入力データ或いは演算された結果はその都度図示しないメモリに記憶される。
【0021】
また、描画されるための複数の図形パターンが定義される描画データ(レイアウトデータ)が描画装置100の外部から入力され、記憶装置140に格納される。
【0022】
図1では、本実施の形態1を説明する上で必要な構成部分以外については記載を省略している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成が含まれることは言うまでもない。
【0023】
電子銃5から放出された電子ビーム6は、照明レンズ7により矩形の穴を持つ第1の成形アパーチャ基板8全体を照明する。ここで、電子ビーム6をまず矩形に成形する。そして、第1の成形アパーチャ基板8を通過した第1のアパーチャ像の電子ビーム6は、投影レンズ9により第2の成形アパーチャ基板11上に投影される。かかる第2の成形アパーチャ基板11上での第1のアパーチャ像の位置は、成形偏向器制御部43により制御された偏向器10によって偏向制御され、ビーム形状と寸法を変化させることができる(可変成形)。そして、第2の成形アパーチャ基板11を通過した第2のアパーチャ像の電子ビーム6は、対物レンズ12により焦点を合わせ、対物偏向器制御部44に制御された例えば静電型の偏向器13により偏向され、移動可能に配置されたXYステージ3上の試料2の所望する位置に照射される。XYステージ3はステージ制御機構46によって駆動制御される。そして、XYステージ3の位置は、ステージ位置検出機構45によって検出される。ステージ位置検出機構45には、例えば、ミラー4にレーザを照射して、入射光と反射光の干渉に基づいて位置を測定するレーザ測長装置が含まれる。静電レンズ15は、試料2面の凹凸に対応して、動的に電子ビーム6の焦点位置を補正する(ダイナミックフォーカス)。
【0024】
図2は、実施の形態1におけるステージ移動の様子を説明するための図である。試料2に描画する場合には、XYステージ3を例えばX方向に連続移動させながら、描画(露光)面を電子ビーム6が偏向可能な短冊状の複数のストライプ領域(SR)に描画領域(R)が仮想分割された試料2の1つのストライプ領域上を電子ビーム6が照射する。XYステージ3のX方向の移動は、例えば連続移動とし、同時に電子ビーム6のショット位置もステージ移動に追従させる。連続移動させることで描画時間を短縮させることができる。そして、1つのストライプ領域を描画し終わったら、XYステージ3をY方向にステップ送りしてX方向(今度は逆向き)に次のストライプ領域の描画動作を行なう。各ストライプ領域の描画動作を蛇行させるように進めることでXYステージ3の移動時間を短縮することができる。また、描画装置100では、レイアウトデータ(描画データ)を処理するにあたっては、描画領域を短冊状の複数のフレーム領域に仮想分割して、フレーム領域毎にデータ処理がおこなわれる。そして、例えば、多重露光を行なわない場合には、通常、フレーム領域と上述したストライプ領域とが同じ領域となる。多重露光を行なう場合には、多重度に応じてフレーム領域と上述したストライプ領域とがずれることになる。或いは、多重度に応じたストライプ領域と同じ領域となる複数のフレーム領域に描画領域が仮想分割され、フレーム領域毎にデータ処理がおこなわれる。このように、試料2の描画領域は、複数の描画単位領域となるフレーム領域(ストライプ領域)に仮想分割され、描画機構150は、かかるフレーム領域(ストライプ領域)毎に描画する。
【0025】
図3は、実施の形態1の比較例における評価基板のパターン領域の一例と製品に使用される基板の実パターン領域の一例とを示す図である。図3(a)では、比較例における評価基板のパターン領域の一例を示す。評価基板のパターン領域には、複数の評価パターン20が配置される。各評価パターン20は、例えば、パターン密度を異になるシンプルパターンが配置される。例えば、コンタクトホールパターン(矩形パターン)がパターン密度に応じてサイズを変えて配置される。これに対して、図3(b)では、比較例における製品に使用される基板の実パターン領域の一例を示す。製品基板の実パターン領域には、評価パターン20のようなシンプルパターンではなく、複雑な回路レイアウトの実パターン21が配置される。これらを従来の帯電量補正の手法を用いて実際に描画すると、両パターンの位置ずれ量に違いが生じることがわかった。かかる帯電量に対するこれらの違いが、パターンの複雑度に起因するものと想定して、これらの評価を行った。
【0026】
図4は、実施の形態1の比較例における評価パターンの帯電量の一例と製品基板の実パターンに見立てた模擬パターンの帯電による位置ずれ量の一例とを示す図である。
図5は、実施の形態1の比較例における評価パターンの一例と製品基板の実パターンに見立てた模擬パターンの一例とを示す図である。図5(a)では、評価パターン20として、パターン密度Uが25%のシンプルパターンを最大ショットサイズ0.25μmのショット図形を繋ぎ合わせて描画した場合の矩形パターンを示している。図4(a)では、評価パターン20として、パターン密度Uが25%のシンプルパターンを最大ショットサイズ0.25μmのショット図形を繋ぎ合わせて描画した場合の評価パターン20及びその周辺の帯電による位置ずれ量の一例を示している。これに対して、図5(b)では、評価パターン20として、密度Uが25%のシンプルパターンを最大ショットサイズ0.25μmのショット図形を繋ぎ合わせて描画した場合の矩形パターンよりも複雑な形状パターンを実パターンに見立てた模擬パターンとして示している。図4(b)では、実パターン21に見立てた模擬パターンとして、パターン密度Uが25%の模擬パターン(複雑パターン)を最大ショットサイズ0.25μmのショット図形を繋ぎ合わせて描画した場合の実パターン21及びその周辺の帯電による位置ずれ量の一例を示している。図4(a)の例及び図4(b)の例では、いずれもパターン密度Uが25%で描画しているので、両パターンで生じる帯電量は同じようになると思われるところ、図4(a)及び図4(b)に示すように、その帯電量分布に差が生じることがわかった。かかる違いについて、ショットサイズの影響を検討した。図5(c)では、評価パターン20として、パターン密度Uが25%のシンプルパターンを最大ショットサイズ0.1μmのショット図形を繋ぎ合わせて描画した場合の矩形パターンを示している。かかるショットサイズを変えて描画した帯電結果を図4(c)に示している。図4(c)では、評価パターン20として、パターン密度Uが25%のシンプルパターンを最大ショットサイズ0.1μmのショット図形を繋ぎ合わせて描画した場合の評価パターン20及びその周辺の帯電による位置ずれ量の一例を示している。しかし、図4(a)及び図4(c)に示すように、その帯電量分布に実質的な差が生じなかった。よって、かかる点から、帯電量に対するこれらの違いが、パターンの複雑度に起因するものであることを見出した。
【0027】
図6は、実施の形態1における評価基板に描画される評価パターンのレイアウトの一例を示す図である。図6において、評価基板には、パターン密度と、パターンの複雑度とを可変にした複数の評価パターンが配置される。実施の形態1では、パターンの複雑度を示す指標として、単位面積あたりのパターンの外周距離Wを用いる。単位面積内に複数のパターンが配置される場合には、単位面積あたりのパターンの外周距離の合計Wを用いる。そこで、図6の例では、複数のパターン密度Uについて、単位面積あたりのパターンの外周距離Wを可変にするように、複数のパターンレイアウトを構成する。
【0028】
図6の例では、パターン密度5%について、単純な矩形パターン(5%)と、線幅0.4μmのラインアンドスペースパターン(C5-2)と、サイズ0.45μmのコンタクトホールパターン(C5-3)と、サイズ0.25μmのコンタクトホールパターン(C5-4)と、線幅0.1μmのラインアンドスペースパターン(C5-5)と、サイズ0.1μmのコンタクトホールパターン(C5-6)と、を配置する。
【0029】
同様に、パターン密度15%について、単純な矩形パターン(15%)と、線幅0.4μmのラインアンドスペースパターン(C15-2)と、サイズ0.45μmのコンタクトホールパターン(C15-3)と、サイズ0.25μmのコンタクトホールパターン(C15-4)と、線幅0.1μmのラインアンドスペースパターン(C15-5)と、サイズ0.1μmのコンタクトホールパターン(C15-6)と、を配置する。
【0030】
同様に、パターン密度25%について、単純な矩形パターン(25%)と、線幅0.4μmのラインアンドスペースパターン(C25-2)と、サイズ0.45μmのコンタクトホールパターン(C25-3)と、サイズ0.25μmのコンタクトホールパターン(C25-4)と、線幅0.1μmのラインアンドスペースパターン(C25-5)と、サイズ0.1μmのコンタクトホールパターン(C25-6)と、を配置する。
【0031】
同様に、パターン密度35%について、単純な矩形パターン(35%)と、線幅0.4μmのラインアンドスペースパターン(C35-2)と、サイズ0.45μmのコンタクトホールパターン(C35-3)と、サイズ0.25μmのコンタクトホールパターン(C35-4)と、線幅0.1μmのラインアンドスペースパターン(C35-5)と、サイズ0.1μmのコンタクトホールパターン(C35-6)と、を配置する。
【0032】
同様に、パターン密度50%について、単純な矩形パターン(50%)と、線幅0.4μmのラインアンドスペースパターン(C50-2)と、サイズ0.45μmのコンタクトホールパターン(C50-3)と、サイズ0.25μmのコンタクトホールパターン(C50-4)と、線幅0.1μmのラインアンドスペースパターン(C50-5)と、サイズ0.1μmのコンタクトホールパターン(C50-6)と、を配置する。
【0033】
同様に、パターン密度75%について、単純な矩形パターン(75%)と、線幅0.4μmのラインアンドスペースパターン(C75-2)と、サイズ0.45μmのコンタクトホールパターン(C75-3)と、サイズ0.25μmのコンタクトホールパターン(C75-4)と、線幅0.1μmのラインアンドスペースパターン(C75-5)と、サイズ0.1μmのコンタクトホールパターン(C75-6)と、を配置する。
【0034】
図7は、実施の形態1におけるパターンの複雑度に起因する帯電量の測定結果を示す図である。図7において、縦軸に静的帯電量(単位はa.u.)を示し、横軸に単位面積あたりの外周距離W(単位はa.u.)を示す。図7では、図6に示した評価基板に描画される評価パターンを描画する場合における帯電量の測定結果を示している。図7に示すように、単位面積あたりの外周距離Wが大きくなるのに沿って、いずれのパターン密度Uについても、一旦、帯電量が減少(正帯電が減少)し、さらに単位面積あたりの外周距離Wが大きくなると帯電量が緩い上昇に転じる傾向があることがわかる。かかる図7の結果を多項式でフィッティングすると、パターンの複雑度に起因する帯電量Cwは、以下の式(1)で近似できる。
(1) Cw(U,W)=a(U)・W/U+b(U){1-exp(-c・W/U)}
【0035】
関数a(U)は、パターン密度Uに依存した関数を示す。関数b(U)は、関数a(U)とは異なるパターン密度Uに依存した関数を示す。cは、係数を示す。このように、パターンの複雑度に起因する帯電量Cwは、パターンの面積密度Uと、単位面積当たりのパターンの外周距離Wと、パターンの面積密度Uに依存する関数a(U)と、関数a(U)とは異なるパターンの面積密度Uに依存する関数b(U)と、係数cとを用いたモデル式(1)を適用して演算することによって求めることができる。
【0036】
ここで、試料2に生じる帯電量は、パターンの複雑度に起因する帯電量Cwの他に、照射電子が寄与する変数C(E)と、かぶり電子が寄与する変数C(F)と、経過時間が寄与する帯電減衰分C(T,t)とに分解することができる。これらのうち、帯電減衰分Cについて、パターンの複雑度に起因する成分を検証する。
【0037】
図8は、実施の形態1におけるパターンの複雑度に起因する帯電減衰強度の測定結果を示す図である。図8において、縦軸に帯電減衰強度(単位はa.u.)を示し、横軸に単位面積あたりの外周距離W(単位はa.u.)を示す。図8では、図6に示した評価基板に描画される評価パターンを描画する場合における帯電減衰強度の測定結果を示している。図8に示すように、単位面積あたりの外周距離Wが大きくなるのに沿って、いずれのパターン密度Uについても、帯電減衰強度が大きくなり(減衰が進み)収束(飽和)する傾向があることがわかる。かかる図8の結果を多項式でフィッティングすると、パターンの複雑度に起因する帯電減衰強度kwは、以下の式(2)で近似できる。
(2) kw=
kw1(U)・W/U+kw2(U)・{1-exp(-kw3・W/U)}
【0038】
関数kw1(U)は、パターン密度Uに依存した関数を示す。関数kw2(U)は、関数kw1(U)とは異なるパターン密度Uに依存した関数を示す。kw3は、係数を示す。このように、パターンの複雑度に起因する帯電減衰強度kwは、パターンの複雑度に起因する帯電減衰強度kw(U,W)が、パターンの面積密度Uと、単位面積当たりのパターンの外周距離Wと、パターンの面積密度Uに依存する関数kw1(U)と、関数kw1(U)とは異なるパターンの面積密度Uに依存する関数kw2(U)と、係数kw3とを用いたモデル式(2)を適用して演算することによって求めることができる。
【0039】
式(2)は、kw1(U)を関数a(u)と、kw2(U)を関数b(u)と、係数kw3を係数cと置き換えれば、上述したモデル式(1)と同様になる。言い換えれば、パターンの複雑度に起因する帯電量とパターンの複雑度に起因する帯電減衰強度とは、同じモデル式(1)で表現できる。以上を踏まえて、実施の形態1では、かかるパターンの複雑度に起因する帯電量を考慮して帯電量分布Cを求める。同様に、実施の形態1では、かかるパターンの複雑度に起因する帯電減衰強度を考慮して帯電量分布Cを求める。
【0040】
図9は、実施の形態1における描画方法の要部工程の一例を示すフローチャート図である。図9において、実施の形態1における描画方法は、パターン面積密度分布U(x,y)演算工程(S100)と、ドーズ量分布D(x,y)算出工程(S102)と、照射量分布E(x,y)算出工程(S104)と、かぶり電子量分布F(x,y,U)算出工程(S106)と、描画経過時間T(x,y)演算工程(S107)と、累積時間t演算工程(S108)と、帯電量分布C(x,y)算出工程(S109)と、位置ずれ量分布p(x,y)演算工程(S110)と、偏向位置補正工程(S112)と、描画工程(S114)と、いう一連の工程を実施する。
【0041】
パターン面積密度分布U(x,y)演算工程(S100)として、パターン密度分布算出部31は、記憶装置140から描画データを読み出し、描画領域(或いはフレーム領域)が所定寸法(グリッド寸法)でメッシュ状に仮想分割された複数のメッシュ領域のメッシュ領域毎に、描画データに定義される図形パターンの配置割合を示すパターン密度U(x,y)を演算する。そして、メッシュ領域毎のパターン密度の分布U(x,y)を作成する。
【0042】
ドーズ量分布D(x,y)算出工程(S102)として、ドーズ量分布算出部32は、パターン密度分布U(x,y)を用いて、メッシュ領域毎のドーズ量の分布D(x,y)を算出する。ドーズ量の演算には、後方散乱電子による近接効果補正を行うと好適である。ドーズ量Dは、以下の式(3)で定義できる。
(3) D=D×{(1+2×η)/(1+2×η×U)}
式(3)において、Dは基準ドーズ量であり、ηは後方散乱率である。
【0043】
これらの基準ドーズ量D及び後方散乱率ηは、当該描画装置100のユーザにより設定される。後方散乱率ηは、電子ビーム6の加速電圧、試料2のレジスト膜厚や下地基板の種類、プロセス条件(例えば、PEB条件や現像条件)などを考慮して設定することができる。
【0044】
照射量分布E(x,y)算出工程(S104)として、照射量分布算出部33は、パターン密度分布U(x,y)の各メッシュ値と、ドーズ量分布D(x,y)の対応メッシュ値とを乗算することによって、メッシュ領域毎の照射量分布E(x,y)(「照射強度分布」ともいう)を演算する。
【0045】
かぶり電子量分布F(x,y,U)算出工程(S106)として、かぶり電子量分布算出部34(かぶり荷電粒子量分布演算部)は、かぶり電子の分布関数g(x,y)と、上述した照射量分布E(x,y)算出工程により算出された照射量分布E(x,y)とを畳み込み積分することによって、かぶり電子量分布F(x,y,U)(かぶり荷電粒子量分布)(=E・g)を演算する。以下、具体的に説明する。
【0046】
まず、かぶり電子の広がり分布を示す分布関数g(x,y)は、かぶり効果の影響半径σを用いて、以下の式(4-1)で定義できる。ここでは、一例としてガウス分布を用いている。
(4-1) g(x,y)=(1/πσ)×exp{-(x+y)/σ
【0047】
かぶり電子量分布F(x,y,σ)は、以下の式(4-2)で定義できる。
(4-2) F(x,y,σ)
=∫∫g(x-x’,y-y’)E(x’,y’)dx’dy’
【0048】
描画経過時間T(x,y)演算工程(S107)として、描画経過時間演算部37は、試料2上の各位置について描画開始時刻(レイアウト先頭或いは先頭フレームの描画を開始する時刻)から実際に描画する時刻までの経過時間T(x,y)を演算する。例えば、該当するフレーム領域(ストライプ領域)がi番目の第iフレーム領域である場合には、描画開始位置S(0,0)の描画を開始する描画開始時刻から1つ前の第i-1フレーム領域(ストライプ領域)までの各位置(x,y)を描画するまでの予想時間を経過時間T(x,y)として演算する。
【0049】
累積時間t演算工程(S108)として、累積時間演算部38は、既に描画が終了した描画単位領域となる例えばフレーム領域(ストライプ領域)の描画にかかった描画時間を累積した累積時間tを演算する。例えば、現在、該当するフレーム領域がi番目の第iフレーム領域である場合には、第1フレーム領域を描画するための時間t(1)、第2フレーム領域を描画するための時間t(2)、・・・第iフレーム領域を描画するための時間t(i)までを累積加算した加算値を算出する。これにより、該当するフレーム領域までの累積時間tを得ることができる。
【0050】
ここで、現在、処理を行なっている該当フレーム領域内を実際に描画する場合、1つ前のフレーム領域までは描画が既に完了しているので、1つ前までのフレーム領域内で電子ビーム6が照射された箇所は帯電部分となる。よって、該当フレーム領域の累積時間tから帯電部分がある1つ前までのフレーム領域内の各位置(x,y)の描画経過時間T(x,y)を差し引いた差分値(t-T)が帯電部分を描画した後の経過時間となる。
【0051】
帯電量分布C(x,y)算出工程(S109)として、帯電量分布算出部35は、照射量分布E(x,y)と、かぶり電子量分布F(x,y,σ)と、時間の経過に伴う帯電減衰量と、上述したパターンの複雑度が寄与する帯電量とを用いて、帯電量分布C(x,y)を算出する。
【0052】
まず、内部工程となる外周距離取得工程として、外周距離取得部39は、記憶装置144から単位面積あたりのパターンの外周距離Wを取得する。記憶装置140に格納される描画データに定義される複数の図形パターンについて、所定の単位面積毎に、単位面積あたりのパターンの外周距離Wをオフラインで演算しておき、かかる単位面積あたりのパターンの外周距離Wデータを記憶装置144に格納しておく。或いは、外周距離取得部39が、記憶装置140に格納される描画データを読み出し、所定の単位面積毎に、単位面積あたりのパターンの外周距離Wを演算しても構わない。描画装置100内部で演算する場合には、パターン面積密度分布U(x,y)演算工程(S100)と並列に演算処理を行うと好適である。これにより、単位面積あたりのパターンの外周距離Wを演算するための処理時間によって、帯電量分布C(x,y)の算出処理が待機させられることを回避できる。また、単位面積あたりのパターンの外周距離Wを演算するための単位面積の領域として、パターン密度Uを演算する場合に用いたメッシュ領域を用いると好適である。
【0053】
ここで、帯電量分布C(x,y)を求めるための関数C(E,F,T,t,U,W)を仮定した。具体的には、照射電子が寄与する変数C(E)と、かぶり電子が寄与する変数C(F)と、経過時間が寄与する帯電減衰分C(T,t,U,W)と、上述したパターンの複雑度が寄与する帯電量成分Cw(U,W)に分離した。また、帯電減衰分C(T,t,U,W)についても、パターン密度U,及び単位面積あたりのパターンの外周距離Wに依存することからもわかるように、上述したパターンの複雑度が寄与する成分を考慮する。関数C(E,F,T,t,U,W)は、以下の式(5)で定義する。
(5) C(x,y)=C(E,F,T,t,U,W)
=C(E)+C(F)+C(T,t,U,W)
+Cw(U,W)
=(d+d×U+d×D
+d×(UD)+d×(1-exp(d×(UD)))
+d×(UD)・exp(d×(UD))
+(e×F+e×F+e×F
+κ(U)・exp{-(t-T)/λ(U)}
+kw(U,W)・exp{-(t-T)/λ(U)}
+a(U)・W/U+b(U){1-exp(-c・W/U)}
=(d+d×U+d×D
+d×(UD)+d×(1-exp(d×(UD)))
+d×(UD)・exp(d×(UD))
+(e×F+e×F+e×F
+κ(U)・exp{-(t-T)/λ(U)}
+{kw1(U)・W/U+kw2(U)
・{1-exp(-kw3・W/U)}}
・exp{-(t-T)/λ(U)}
+a(U)・W/U+b(U){1-exp(-c・W/U)}
【0054】
上述したように、実施の形態1において、帯電量分布算出部35は、基板2上に電子ビームが照射された場合の照射域の帯電量分布C(E)を、パターンの複雑度を示す指標を用いて演算する。言い換えれば、帯電量分布C(E)を、パターンの面積密度Uと、単位面積当たりのパターンの外周距離Wと、パターンの面積密度Uに依存する関数と、を用いて演算する。これにより、パターンの複雑度に起因して位置ずれが生じ得る個所の近似精度を高めることができる。
【0055】
また、式(5)に用いられる、パターン面積密度Uに依存した帯電減衰量κ(U)は、例えば、以下の式(6)で近似できる。ここでは、式(6)が2次関数となっているが、これに限るものではなく、さらに高次の関数でもよいし、低次の関数でもよい。
(6) κ(U)=κ+κU+κ
【0056】
そして、式(5)に用いられる、パターン面積密度Uに依存した帯電減衰時定数λ(U)は、例えば、次の式(7)で近似できる。ここでは、式(7)が2次関数となっているが、これに限るものではなく、さらに高次の関数でもよいし、低次の関数でもよい。
(7) λ(U)=λ+λU+λ
【0057】
なお、式(5)~式(7)の各係数d、d、d、d、d、d、d、d、e、e、e、κ、κ、κ、λ、λ、λ、kw3、c、及び関数kw1(U)、kw2(U)、a(U)、b(U)については、上述した特許文献1,2と同様に、実験結果及び/或いはシミュレーション結果をフィッティング(近似)して求めればよい。
【0058】
実施の形態1では、従来の照射電子が寄与する変数C(E)と、かぶり電子が寄与する変数C(F)と、経過時間が寄与する帯電減衰分C(T,t)に、さらに上述したパターンの複雑度が寄与する帯電量成分Cw(U,W)を追加することで補正した。また、帯電減衰分C(T,t)に、上述したパターンの複雑度が寄与する成分を追加することで補正した。よって、従来の照射電子が寄与する変数C(E)と、かぶり電子が寄与する変数C(F)と、経過時間が寄与する帯電減衰分C(T,t)とについては、従来と同様に求めればよい。例えば、以下のようにして求めることができる。
【0059】
まず、帯電減衰量κと帯電減衰時定数λと描画経過時間tを用いて、各パターン面積密度Uの帯電量Cの減衰曲線は、指数関数で表した次の式(8)で近似できる。
(8) C=κ・exp(-t/λ)
【0060】
また、パターン面積密度U(パターン面積率U)が、25%、50%、75%及び100%の各場合について、所定の帯電用パターンの描画直後の測定位置と描画から50分後の測定位置との差をフィッティングすることで、式(5)で近似したパターン面積密度Uに依存した帯電減衰量κ(U)を得ることができる。帯電用パターンは、上述したようにシンプルパターンを用いればよい。
【0061】
また、パターン面積密度U(パターン面積率U)が、25%、50%、75%及び100%の各場合について、所定の帯電用パターンの描画直後から50分後までの複数のタイミングでの測定位置と描画から50分後の測定位置との各差をフィッティングすることで、式(7)で近似したパターン面積密度Uに依存した帯電減衰時定数λ(U)を得ることができる。
【0062】
以上の結果から、かかる所定の帯電用パターンが描画された照射部の各位置(座標(x,y))における帯電量C(x,y)は、次の式(9)で近似できる。
(9) C(x,y)=κ(U)・exp(-t/λ(U))
【0063】
そして、上述したように、差分値(t-T)が帯電部分を描画した後の経過時間になるので、式(9)を用いたC(T,t)は、次の式(10)に変形できる。
(10) C(T,t)=κ(U)・exp{-(t-T)/λ(U)}
【0064】
なお、式(10)では、帯電用の評価パターン20内の帯電減衰量κ(U)がすべての位置で一様であるという仮定のもとに見積もられている。パターン面積密度Uが25%から75%に増加するにつれて負の電荷減衰κ(U)の大きさは増加するが、100%のパターン面積密度Uで負の電荷減衰κ(U)は再び減少する。実際には、複数のフレーム領域に跨るような所定のサイズの帯電用パターンを描画する場合に、最初に描画された箇所と最後に描画される箇所では相当の時間が経過している。観測される位置ずれ量Yから一様分布を仮定して求めた帯電減衰量κ(U)に対して、帯電が減衰する帯電減衰時定数λを適用して設定された補正後の帯電減衰量κ”(U)から位置ずれ量Y”を求めると、Y”の方がYより小さくなる。そこで、位置ずれ量Y”がもとの位置ずれ量Yと等しくなるような補正式κ”=L(λ)・κを用いて、帯電減衰量κ(U)を補正してもよい。
【0065】
例えば、複数の帯電減衰時定数λを用いて、各帯電減衰時定数λでのκ”/κをプロットした結果をフィッティングすることで、補正式κ”=L(λ)・κを得ることができる。例えば、κ”=(1+3.1082・λ-1.0312)・κを得ることができる。
【0066】
例えば、パターン面積密度Uが、75%の場合と100%の場合とで帯電減衰量が逆転する場合があるが、かかる補正により、かかる逆転現象は解消し、補正後の帯電減衰量κ”(U)は、パターン面積密度Uが25%、50%、75%、100%と順に小さくなっていく。
【0067】
また、実施の形態1におけるモデルでは、まずは、帯電減衰分C(T,t)を無視して、照射域の関数は、変数C(F)=0、すなわちC(E,F,T,t)=C(E)と仮定した。一方、非照射域の関数は、変数C(E)=0、すなわち、C(E,F)=C(F)と仮定した。また、照射域内は均一に帯電することと仮定した。すなわち、C(E)=cと仮定した。このcは、定数であり、例えば、1である。
【0068】
そこで、先ず、非照射域の帯電量分布C(F)とかぶり電子量強度Fとの関係を、次式(11)のような多項式関数によって表した。次式(11)において、f,f,fは、定数である。
(11) C(F)=f×F+f×F+f×F
【0069】
次に、各パターン密度についてy=0における帯電量分布C(x,0)を算出する。なお、y=0に限定せず、2次元で帯電量分布C(x,y)を算出することにより、以下に行うフィッティングの精度を向上させることができる。
【0070】
そして、非照射域の帯電量分布C(x,0)と、上式(11)のC(F)とが最も適合するような最適なかぶり半径σを求める。かぶり半径σが過小である場合や、かぶり半径σが過大である場合には、良好なフィッティング結果が得られない。つまり、かぶり半径σが過小もしくは過大となると、各パターン密度のデータが相互に離れてしまうため、上記パラメータf,f,fを求めることができない。これに対して、最適なかぶり半径σが求められると、良好なフィッティング結果が得られ、上記パラメータf,f,fを求めることができる。
【0071】
次に、上記求めた最適なかぶり半径σを用いて、照射域のかぶり電子量分布Fを求める。そして、照射域の帯電量分布C(E,F)を照射量分布Eと、かぶり電子量分布Fとを用いて、次式(12)のような多項式関数によって表した。次式(12)では、かぶり電子が寄与する帯電量分布CFe(F)が考慮されている。
(12) C(E,F)=C(E)+CFe(F)
=(d+d×U+d×D+d×E)
+d×(1-exp(d×E))
+d×E・exp(d×E)
+(e×F+e×F+e×F
【0072】
そして、照射域の帯電量分布C(x,0)と、上式(12)の帯電量分布C(E,F)とが最も適合するようなパラメータd,d,d,d,e,e,eを求める。
【0073】
次に、上式(12)で示した照射域の帯電量分布C(E,F)に、さらに、帯電減衰に起因した帯電量分布を加算した帯電量分布C(x,y)を使って、上述したパターンの複雑度に応じた評価を行う。そして、得られた測定結果をフィッティングして、パターンの複雑度が寄与する帯電量成分Cw(U,W)のパラメータを求める。また、帯電減衰分についても、上述したパターンの複雑度に応じた評価を行う。そして、パターンの複雑度を考慮しない場合とのずれをフィッティングして、パターンの複雑度が寄与する帯電減衰強度kw(U,W)のパラメータを求める。そして、照射域の帯電量分布C(E,F)に、さらに、帯電減衰に起因した帯電量分布を加算した帯電量分布C(x,y)に、さらに、得られた帯電量成分Cw(U,W)と、帯電減衰強度kw(U,W)にexp{-(t-T)/λ(U)}を乗じた成分とを加算することで、上述した式(5)が得られる。これにより、帯電減衰分を補正できる。
【0074】
これらの係数、関数、及び後述する応答関数r(x,y)は、予め、記憶装置143に格納しておく。
【0075】
位置ずれ量分布p(x,y)演算工程(S110)として、位置ずれ量分布算出部36(位置ずれ量演算部)は、得られた帯電量分布C(x,y)を用いて、電子ビーム6の照射に起因して形成される照射パターンの位置ずれ量を演算する。具体的には、位置ずれ量分布算出部36は、帯電量分布C(x,y)の各帯電量Cに応答関数r(x,y)を畳み込み積分することにより、帯電量分布C(x,y)の各位置(x,y)の帯電量に起因した描画位置(x,y)の位置ずれ量Pを演算する。この帯電量分布C(x,y)を位置ずれ量分布P(x,y)に変換する応答関数r(x,y)を仮定する。ここでは、帯電量分布C(x,y)の各位置で示される帯電位置を(x’,y’)で表し、現在、データ処理を行なっている該当するフレーム領域(例えば、第iフレーム領域)のビーム照射位置を(x,y)で表す。ここで、ビームの位置ずれは、ビーム照射位置(x,y)から帯電位置(x’,y’)までの距離の関数として表すことができるため、応答関数をr(x-x’,y-y’)のように記述することができる。応答関数r(x-x’,y-y’)は、予め実験を行い、実験結果と適合するように予め求めておけばよい。以下、実施の形態1において(x,y)は、現在、データ処理を行なっている該当するフレーム領域のビーム照射位置を示す。
【0076】
そして、位置ずれ量分布算出部36は、該当するフレーム領域の描画しようとする各位置(x,y)の位置ずれ量Pから位置ずれ量分布Pi(x,y)(或いは、位置ずれ量マップPi(x,y)ともいう)を作成する。演算された位置ずれ量マップPi(x,y)は、例えば記憶装置143に格納されると共に、制御計算機120に出力される。
【0077】
一方、制御計算機120内では、ショットデータ生成部41が、記憶装置140から描画データを読み出し、複数段のデータ変換処理を行って、描画装置100固有のフォーマットのショットデータを生成する。描画データに定義される図形パターンのサイズは、通常、描画装置100が1回のショットで形成できるショットサイズよりも大きい。そのため、描画装置100内では、描画装置100が1回のショットで形成可能なサイズになるように、各図形パターンを複数のショット図形に分割する(ショット分割)。そして、ショット図形毎に、図形種を示す図形コード、座標、及びサイズといったデータをショットデータとして定義する。
【0078】
偏向位置補正工程(S112)(位置ずれ補正工程)として、位置ずれ補正部42(補正部)は、位置ずれ量を用いて、照射位置を補正する。ここでは、各位置のショットデータを補正する。具体的には、ショットデータの各位置(x,y)に位置ずれ量マップPi(x,y)が示す位置ずれ量を補正する補正値を加算する。補正値は、例えば、位置ずれ量マップPi(x,y)が示す位置ずれ量の正負の符号を逆にした値を用いると好適である。これにより、電子ビーム6が照射される場合に、その照射先の座標が補正されるので、対物偏向器13によって偏向される偏向位置が補正されることになる。ショットデータはショット順に並ぶようにデータファイルに定義される。
【0079】
描画工程(S114)として、偏向制御回路130内では、ショット順に、成形偏向器制御部43が、ショット図形毎に、ショットデータに定義された図形種及びサイズから電子ビーム6を可変成形するための成形偏向器10の偏向量を演算する。同時期に、対物偏向器制御部44が、当該ショット図形を照射する試料2上の位置に偏向するための偏向器13の偏向量を演算する。言い換えれば、対物偏向器制御部44(偏向量演算部)が、補正された照射位置に電子ビームを偏向する偏向量を演算する。そして、電子鏡筒1(カラム)は、補正された照射位置に電子ビームを照射する。具体的には、電子鏡筒1(カラム)内に配置された偏向器13が、演算された偏向量に応じて電子ビームを偏向することで、補正された照射位置に電子ビームを照射する。これにより、描画機構150は、試料2の帯電補正された位置にパターンを描画する。
【0080】
図10は、実施の形態1における描画方法の要部工程の他の一例を示すフローチャート図である。図10において、図9のドーズ量分布D(x,y)算出工程(S102)の代わりに、パターン密度分布U(x,y)に関係なく固定のドーズ量分布D(x,y)を用いる点以外は、図9と同様である。
【0081】
図11は、実施の形態1の比較例における帯電効果補正を行った結果の位置ずれ量の一例を示す図である。
図12は、実施の形態1における帯電効果補正を行った結果の位置ずれ量の一例を示す図である。
図11において、比較例では、帯電量分布C(x,y)の演算に、上述したパターンの複雑度が寄与する帯電量成分Cw(U,W)を考慮してしない結果を示す。また、同時に帯電減衰分C(T,t)に、上述したパターンの複雑度が寄与する成分を考慮してしない結果を示す。図11の例では、図6に示した評価パターンのうちパターン密度Uが5%、15%のパターンの測定結果を示している。図11に示すように、x方向の位置ずれ量(Xresidual)とy方向の位置ずれ量(Yresidual)が、単位面積あたりの外周距離Wが大きくなるのに沿って大きくなることがわかる。これに対して、実施の形態1における帯電効果補正のように、上述したパターンの複雑度が寄与する帯電量成分Cw(U,W)を考慮すると共に、同時に帯電減衰分C(T,t)に、上述したパターンの複雑度が寄与する成分を考慮した結果、図12に示すように、x方向の位置ずれ量(Xresidual)とy方向の位置ずれ量(Yresidual)が、単位面積あたりの外周距離Wに関わらず同程度に補正できる。よって、パターンの複雑度によって生じる補正精度の違いを無くす、若しくは低減できる。
【0082】
以上のように、実施の形態1によれば、電子ビームを照射する場合に、従来よりも帯電効果補正の精度を向上できる。その結果、高精度な照射位置にビームを照射できる。
【0083】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。帯電現象に起因した照射位置の位置ずれは、電子ビーム描画装置に限るものではない。本発明は、電子ビームでパターンを検査する検査装置等、狙った位置に電子ビームを照射することで得られる結果を用いる電子ビーム装置に適応できる。
【0084】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。例えば、図1等における制御計算機110,120は、さらに、図示していないバスを介して、記憶装置の一例となるRAM(ランダムアクセスメモリ)、ROM、磁気ディスク(HD)装置、入力手段の一例となるキーボード(K/B)、マウス、出力手段の一例となるモニタ、プリンタ、或いは、入力出力手段の一例となるFD、DVD、CD等に接続されていても構わない。
【0085】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての電子ビーム照射方法及び電子ビーム照射装置は、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0086】
1 電子鏡筒
2 試料
3 XYステージ
4 ミラー
5 電子銃
6 電子ビーム
7 照明レンズ
8 第1の成形アパーチャ基板
9 投影レンズ
10 偏向器
11 第2の成形アパーチャ基板
12 対物レンズ
13 偏向器
14 描画室
15 静電レンズ
30 描画制御部
31 パターン面積密度分布算出部
32 ドーズ量分布算出部
33 照射量分布算出部
34 かぶり電子量分布算出部
35 帯電量分布算出部
36 位置ずれ量分布算出部
37 描画経過時間演算部
38 累積時間演算部
39 外周距離取得部
41 ショットデータ生成部
42 位置ずれ補正部
43 成形偏向器制御部
44 対物偏向器制御部
45 ステージ位置検出機構
46 ステージ制御機構
100 描画装置
102 電子鏡筒
110,120 制御計算機
130 偏向制御回路
140,143,144 記憶装置
142 メモリ
146 外部I/F回路
150 描画機構
160 制御系回路
340 試料
410 第1のアパーチャ
411 開口
420 第2のアパーチャ
421 可変成形開口
430 荷電粒子ソース
図1
図2
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