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特許7026758磁性粉、磁性粉の製造方法、及び磁気記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-17
(45)【発行日】2022-02-28
(54)【発明の名称】磁性粉、磁性粉の製造方法、及び磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/706 20060101AFI20220218BHJP
   G11B 5/70 20060101ALI20220218BHJP
   G11B 5/714 20060101ALI20220218BHJP
   H01F 1/11 20060101ALI20220218BHJP
【FI】
G11B5/706
G11B5/70
G11B5/714
H01F1/11
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020196850
(22)【出願日】2020-11-27
(62)【分割の表示】P 2017114788の分割
【原出願日】2017-06-09
(65)【公開番号】P2021047979
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2020-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 貴士
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-024981(JP,A)
【文献】特開2016-174135(JP,A)
【文献】特開2016-130208(JP,A)
【文献】特開2008-060293(JP,A)
【文献】国際公開第2008/149785(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/62 - 5/858
H01F 1/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ε-Fe及び下記式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のイプシロン型酸化鉄系化合物を含み、
平均粒子径8nm~25nmの磁性粉であり、
全磁性粉に対する粒子径7.5nm以下の磁性粉の含有率が5個数%以下であり、
最大印加磁界359kA/m、温度296K、磁界掃引速度1.994kA/m/sで測定して得られる磁界-磁化曲線より求めた、磁化Mを、印加した磁界Hで2階微分した下記式(I)の値がゼロになる磁界をHc’とし、前記磁界-磁化曲線において、磁化がゼロになる磁界の値をHcとした場合、Hc’に対するHcの値が0.6以上1.0以下であり、かつ、Hcが下記式(III)を満たす磁性粉。
M/dH 式(I)
269kA/m≦Hc≦310kA/m 式(III)
【化1】



式(1)中、Aは、Fe以外の少なくとも1種の金属元素を表し、aは、0<a<2を満たす。
【請求項2】
前記式(1)で表される化合物は、下記式(1-2)で表される化合物である請求項1に記載の磁性粉。
【化2】



式(1-2)中、Aは、Ga、Al、In、及びRhからなる群より選ばれる少なくとも1種の3価の金属元素を表し、Aは、Mn、Co、Ni及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の2価の金属元素を表し、Aは、Ti及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種の4価の金属元素を表す。xは、0<x<1を満たし、yは、0<y<1を満たし、zは、0<z<1を満たし、x+y+z<2である。
【請求項3】
α-Fe及びγ-Feから選ばれる少なくとも1種の酸化鉄系化合物の含有量が、ε-Fe及び前記式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のイプシロン型酸化鉄系化合物の含有量100質量部に対し、20質量部以下である請求項1又は請求項2に記載の磁性粉。
【請求項4】
全磁性粉に対する粒子径7.5nm以下の磁性粉の含有率が個数%以下である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の磁性粉。
【請求項5】
非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の磁性粉を含む磁性層と、を有する磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁性粉、磁性粉の製造方法、及び磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体に用いる磁性粉としては、六方晶バリウムフェライト粉末等が広く用いられている。六方晶バリウムフェライト粉末は板状で高い充填率を達成することが可能である。しかし、近年、磁気記録媒体の高性能化に伴い、さらなる高性能の磁性粉が求められている。
例えば、ε-Feは、異方性磁界(以下、Hkと称することがある)が大きく、より小さい粒子を用いた場合でも、磁化を保つことができるため、次世代の磁性材料として注目されており、ε-Feを含み、粒度分布が改善された磁性粉が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
ε-Feを含む磁性粉としては、磁気記録特性に寄与しない微細粒子の含有量が少なく、保磁力分布が狭く、磁気記録媒体の高記録密度化に適した磁性粉として、特定の条件にて印加した磁界に対する磁性粉の磁化の強度を測定して得た磁界-磁化曲線について、当該曲線を数値微分して得られる微分曲線において高磁場側に現れるピークの強度に対する曲線のゼロ磁場における縦軸の切片の強度の比率を0.7以下とした平均粒子径が10nm以上30nm以下の磁性粒子(例えば、特許文献2参照)、さらに、特許文献2の条件に加え、2θが42°以上44°以下においてX線回折測定を行った際のバックグラウンドを除いた回折強度の最大値に対する、2θが27.2°以上29.7°以下においてX線回折測定を行った際のバックグラウンドを除いた回折強度の最大値の比率が0.1以下である磁性粒子(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-24981号公報
【文献】特開2016-174135号公報
【文献】特開2016-130208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、単にε-Feを含む磁性粉の粒度分布を狭くしたり、或いは、微細粒子の磁気特性を、特許文献2又は特許文献3に記載の範囲に調整したりした磁性粒子を、磁気記録媒体に用いた場合、信号減衰による繰り返し再生時の耐久性が充分に得られないことがわかった。これは、磁化に寄与しない粒子の制御が、単なる粒子サイズ制御の問題ではなく、磁性粉の前駆体の物性に要因があるためと考えられる。
また、特許文献2又は特許文献3に記載の発明では、磁性粉の物性値を制御する手段として、磁性粉の前駆体を作製する際に、限外濾過による不要なイオンの除去を行なってはいる。しかし、本発明者の検討によれば、結晶構造に着目したところ、3価の鉄イオンを含む化合物の水溶液を用いて、鉄を含む金属粉を形成する工程における条件により、形成された磁性粉の前駆体において、金属粉の非晶質部分が多くなること、さらに、磁性粉の前駆体を形成した後に、不要なイオンの除去を行なっても、既に形成された磁性粉の前駆体が非晶質成を含んでいるために、最終的には、非晶質部分に起因した微細な粒子の生成量が増加し、磁気特性に影響を与える可能性があることが判明した。
即ち、従来、ε-Feを含む磁性粉については、磁気特性を向上させるための試みがなされてきた。しかしながら、ε-Feを含む磁性粉を磁気記録媒体に適用するに際しては、磁気特性が良好であることのみならず、長期間使用した場合の耐久性などの観点から、信号減衰が抑制されることが重要である。これに関して、特許文献1~特許文献3に記載されているε-Feを磁性層に含む磁気記録媒体は、信号減衰の抑制が十分になされず、繰り返し使用した場合における耐久性に問題があることが本発明者の検討により明らかとなった。
【0006】
本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、磁気特性が良好で、磁気記録媒体に適用した場合、信号減衰が抑制された磁性粉を提供することである。
本発明の別の実施形態が解決しようとする課題は、磁気特性が良好で、磁気記録媒体に適用した場合、信号減衰が抑制された磁性粉の製造方法を提供することである。
本発明の別の実施形態が解決しようとする課題は、信号減衰が抑制された磁気記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
既述の課題を達成するための手段は、以下の態様を含む。
<1> ε-Fe及び下記式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のイプシロン型酸化鉄系化合物を含み、平均粒子径8nm~25nmの磁性粉であり、最大印加磁界359kA/m、温度296K、磁界掃引速度1.994kA/m/sで測定して得られる磁界-磁化曲線より求めた、磁化Mを、印加した磁界Hで2階微分した下記式(I)の値がゼロになる磁界をHc’とし、磁界-磁化曲線において、磁化がゼロになる磁界の値をHcとした場合、Hc’に対するHcの値が0.6以上1.0以下であり、かつ、Hc’が下記式(II)を満たす磁性粉。
M/dH 式(I)
119kA/m<Hc’<2380kA/m 式(II)
【0008】
【化1】

【0009】
式(1)中、Aは、Fe以外の少なくとも1種の金属元素を表し、aは、0<a<2を満たす。
<2> 式(1)で表される化合物は、下記式(1-2)で表される化合物である<1>に記載の磁性粉。
【0010】
【化2】

【0011】
式(1-2)中、Aは、Ga、Al、In、及びRhからなる群より選ばれる少なくとも1種の3価の金属元素を表し、Aは、Mn、Co、Ni及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の2価の金属元素を表し、Aは、Ti及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種の4価の金属元素を表す。xは、0<x<1を満たし、yは、0<y<1を満たし、zは、0<z<1を満たし、x+y+z<2である。
<3> α-Fe及びγ-Feから選ばれる少なくとも1種の酸化鉄系化合物の含有量が、ε-Fe及び式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のイプシロン型酸化鉄系化合物の含有量100質量部に対し、20質量%以下である<1>又は<2>に記載の磁性粉。
<4> 全磁性粉に対する粒子径7.5nm以下の磁性粉粒子の含有率が5個数%以下である<1>~<3>のいずれか1つに記載の磁性粉。
【0012】
<5> 磁性粉の原料となる3価の鉄イオンを含む化合物の水溶液と、アルカリ剤とを混合する工程と、混合により得られた混合液と、多価カルボン酸水溶液とを混合して撹拌し、撹拌後に固体成分を分取する工程と、分取した固体成分を、水を含む分散媒に再分散させ、アルカリ剤を加え、加水分解性基を有するシリル化合物を添加して分散液を得る工程と、得られた分散液と、塩析により固体成分を凝集させ得る成分とを混合し、生成した沈殿物を分取して磁性粉の前駆体を得る工程と、得られた磁性粉の前駆体を、800℃~1400℃の温度条件にて熱処理する工程と、熱処理された磁性粉の前駆体におけるケイ酸化合物を、アルカリ水溶液を用いて除去する工程と、を含む磁性粉の製造方法。
【0013】
<6> 3価の鉄イオンを含む化合物の水溶液と、アルカリ剤とを混合する工程が、さらに、ポリビニルピロリドン、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムから選ばれる少なくとも1種を添加する工程を含む<5>に記載の磁性粉の製造方法。
【0014】
<7> 非磁性支持体と、非磁性支持体上に、<1>~<4>のいずれか1つに記載の磁性粉を含む磁性層と、を有する磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態によれば、磁気特性が良好で、磁気記録媒体に適用した場合、信号減衰が抑制された磁性粉を提供することができる。
本発明の別の実施形態によれば、磁気特性が良好で、磁気記録媒体に適用した場合、信号減衰が抑制された磁性粉の製造方法を提供することができる。
本発明の別の実施形態によれば、信号減衰が抑制された磁気記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の具体的な実施形態の例について詳細に説明するが、以下の実施形態は一例に過ぎず、以下の記載に何ら限定されず、本発明の目的の範囲内において、適宜、変更を加えて実施することができる。
【0017】
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本明細書において組成物に含まれる各成分の量は、組成物中に、各成分に該当する物質が複数含まれる場合、特に断らない限り、当該複数の物質の合計量を意味する。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0018】
<磁性粉>
本開示の磁性粉は、ε-Fe及び下記式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のイプシロン型酸化鉄系化合物を含み、平均粒子径8nm~25nmの磁性粉であり、最大印加磁界359kA/m、温度296K、磁界掃引速度1.994kA/m/sで測定して得られる磁界-磁化曲線より求めた、磁化Mを、印加した磁界Hで2階微分した下記式(I)の値がゼロになる磁界をHc’とし、磁界-磁化曲線において、磁化がゼロになる磁界の値をHcとした場合、Hc’に対するHcの値が0.6以上1.0以下であり、かつ、Hc’が下記式(II)を満たす磁性粉。
M/dH 式(I)
119kA/m<Hc’<2380kA/m 式(II)
【0019】
【化3】

【0020】
式(1)中、Aは、Fe以外の少なくとも1種の金属元素を表し、aは、0<a<2を満たす。
なお、ε-Fe及び下記式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のイプシロン型酸化鉄系化合物からなる磁性粉を、配向処理前の粒子を含め、以下、「特定磁性粉」と称することがある。
【0021】
一般に、微小サイズの金属粒子では、磁化を保つことが困難であるところ、ε-Feは、既述の如く異方性磁界(Hk)が大きいため、より微小なサイズの粒子においても磁化を保つことができる。しかし、ε-Feを含む磁性粉であっても、平均粒子径を小さくすると、磁性を持たない超常磁性成分を含みやすくなる。超常磁性成分は、磁気記録に寄与せず、また熱揺らぎによって容易に磁化反転してしまうことがあり、磁性粉の信号減衰が起こりやすくなるという問題があった。
本開示の磁性粉においては、磁性粉の磁気特性に着目し、磁気特性を制御することで、上記信号減衰の抑制を達成した。
【0022】
(特定磁性粉)
特定磁性粉が含みうる式(1)で表される酸化鉄系化合物の例としては、下記の式(1-2)で表される化合物、式(2)で表される化合物、下記の式(3)で表される化合物、下記の式(4)で表される化合物、下記の式(5)で表される化合物、及び下記の式(6)で表される化合物が挙げられ、式(1-2)で表される化合物が好ましい。
【0023】
【化4】

【0024】
式(1-2)中、Aは、Ga、Al、In、及びRhからなる群より選ばれる少なくとも1種の3価の金属元素を表し、Aは、Mn、Co、Ni及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の2価の金属元素を表し、Aは、Ti及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種の4価の金属元素を表す。xは、0<x<1を満たし、yは、0<y<1を満たし、zは、0<z<1を満たし、x+y+z<2である。
【0025】
式(1-2)中、A、A、及びAにおいて、ε相の安定化及び磁気特性の観点から、Aとしては、Ga、及びAlから選ばれる金属元素であることが好ましく、Aは、Co、及びMnから選ばれる金属元素であることが好ましく、Aは、Tiであることが好ましい。
式(1-2)中、x、y、及びzにおいて、磁気記録媒体に適用するための好ましい磁気特性の観点から、xは、0<x<0.7を満たし、yは、0<y<0.4を満たし、かつ、zは、0<z<0.4を満たすことが好ましく、0.05<x<0.4を満たし、0.01<y<0.2を満たし、かつ、0.01<z<0.2を満たすことがより好ましい。
式(1-2)で表される化合物としては、具体的には、例えば、ε-Ga0.24Co0.05Ti0.05Fe1.66、ε-Al(0.20)Co(0.06)Ti(0.06)Fe(1.68)、ε-Ga(0.15)Mn(0.05)Ti(0.05)Fe(1.75)などが挙げられる。
【0026】
【化7】

【0027】
式(2)中、Zは、Ga、Al、及びInからなる群より選ばれる少なくとも1種の3価の金属元素を表す。zは、0<z<2を満たす。
式(2)中、Zとしては、ε相の安定化の観点から、Ga、及びAlから選ばれる金属元素であることが好ましい。
磁気特性の観点から、zは、0<z<0.8を満たすことが好ましく、0.05<z<0.6を満たすことがより好ましい。
式(2)で表される化合物としては、具体的には、例えば、ε-Ga(0.55)Fe(1.45 )、ε-Al(0.45)Fe(1.55)などが挙げられる。
【0028】
【化8】

【0029】
式(3)中、Xは、Co、Ni、Mn、及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の2価の金属元素を表し、Yは、Ti及びSnから選ばれる少なくとも1種の4価の金属元素を表す。xは、0<x<1を満たし、yは、0<y<1を満たす。
式(3)中、磁気特性の観点から、Xは、Co、及びMnから選ばれる金属元素であることが好ましく、Yは、Tiであることが好ましい。
ε相の安定化の観点から、xは、0<x<0.4を満たし、かつ、yは、0<y<0.4を満たすことが好ましく、0<x<0.2を満たし、かつ、0<y<0.2を満たすことがより好ましい。
式(3)で表される化合物としては、具体的には、例えば、ε-Co(0.05)Ti(0.05)Fe(1.9)、ε-Mn(0.075)Ti(0.075)Fe(1.85)などが挙げられる。
【0030】
【化9】

【0031】
式(4)中、Xは、Co、Ni、Mn、及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の2価の金属元素を表し、Zは、Ga、Al、及びInからなる群より選ばれる少なくとも1種の3価の金属元素を表す。xは、0<x<1を満たし、zは、0<z<1を満たす。
式(4)中、ε相の安定化及び磁気特性の観点から、Xは、Co、及びMnから選ばれる金属元素であることが好ましく、Zは、Ga、及びAlから選ばれる金属元素であることが好ましい。
ε相の安定化及び磁気特性の観点から、xは、0<x<0.4を満たし、かつ、zは、0<z<0.6を満たすことが好ましく、0<x<0.2を満たし、かつ、0.05<z<0.6を満たすことがより好ましい。
式(4)で表される化合物としては、具体的には、例えば、ε-Mn(0.02)Ga(0.5)Fe(1.48)、ε-Co(0.02)Ga(0.4)Fe(1.58)などが挙げられる。
【0032】
【化10】

【0033】
式(5)中、Yは、Ti及びSnから選ばれる少なくとも1種の4価の金属元素を表し、Zは、Ga、Al、及びInからなる群より選ばれる少なくとも1種の3価の金属元素を表す。yは、0<y<1を満たし、zは、0<z<1を満たす。
式(5)中、ε相の安定化及び磁気特性の観点から、Yは、Tiであることが好ましく、Zは、Ga、及びAlから選ばれる金属元素であることが好ましい。
ε相の安定化及び磁気特性の観点から、yは、0<y<0.4を満たし、かつ、zは、0<z<0.8を満たすことが好ましく、0<y<0.2を満たし、かつ、0.05<z<0.6を満たすことがより好ましい。
式(5)で表される化合物としては、具体的には、例えば、ε-Ti(0.02)Ga(0.5)Fe(1.48)、ε-Ti(0.02)Al(0.5)Fe(1.48)などが挙げられる。
【0034】
【化11】

【0035】
式(6)中、Xは、Co、Ni、Mn、及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の2価の金属元素を表し、Yは、Ti及びSnから選ばれる少なくとも1種の4価の金属元素を表し、Zは、Ga、Al、及びInからなる群より選ばれる少なくとも1種の3価の金属元素を表す。xは、0<x<1を満たし、yは、0<y<1を満たし、zは、0<z<1を満たし、x+y+z<2である。
式(6)中、ε相の安定化及び磁気特性の観点から、Xは、Co、及びMnから選ばれる金属元素であることが好ましく、Yは、Tiであることが好ましく、Zは、Ga、及びAlから選ばれる金属元素であることが好ましい。
式(6)中、x、y、及びzにおいて、磁気記録媒体に適用するための好ましい磁気特性の観点から、xは、0<x<0.4を満たし、yは、0<y<0.7を満たし、かつ、zは、0<z<0.4を満たすことが好ましく、0.01<x<0.2を満たし、0.05<y<0.4を満たし、かつ、0.01<z<0.2を満たすことがより好ましい。
式(6)で表される化合物としては、具体的には、例えば、ε-Ga0.24Co0.05Ti0.05Fe1.66、ε-Al(0.20)Co(0.06)Ti(0.06)Fe(1.68)、ε-Ga(0.15)Mn(0.05)Ti(0.05)Fe(1.75)などが挙げられる。
【0036】
なお、酸化鉄系化合物の組成、及び結晶構造の確認方法については、実施例において詳述する。
【0037】
(磁性粉の物性)
本開示の磁性粉における物性として、磁界-磁化曲線から得られる下記物性を制御することにより、磁性粉において、好ましい信号減衰抑制効果が得られることが判明した。
具体的には、最大印加磁界359kA/m、温度296K、磁界掃引速度1.994kA/m/sで測定して得られる磁界-磁化曲線より求めた、磁化Mを、印加した磁界Hで2階微分した下記式(I)の値がゼロになる磁界をHc’とし、磁界-磁化曲線において、磁化がゼロになる磁界の値をHcとした場合、Hc’に対するHcの値が0.6以上1.0以下であり、かつ、Hc’が下記式(II)を満たす。
M/dH 式(I)
119kA/m<Hc’<2380kA/m 式(II)
【0038】
本明細書における(Hc/Hc’)の測定方法についてより具体的に説明する。
磁性粉の磁気特性を、振動試料型磁束計(TM-TRVSM5050-SMSL型、(株)玉川製作所製)を用いて、最大印加磁界359kA/m、温度296K、磁界掃引速度1.994kA/m/sにて、印加した磁界に対する磁性粉の磁化の強度を測定する。測定結果より、磁性粉の磁界(H)-磁化(M)曲線を得る。
【0039】
得られた磁界(H)-磁化(M)曲線に基づいて、磁化Mを、印加した磁界Hで2階微分した下記式(I)の値がゼロになる磁界を算出し、これをHc’と定義する。Hc’は下記式(II)を満たす。
M/dH 式(I)
119kA/m<Hc’<2380kA/m 式(II)
式(I)の値がゼロになる磁界の値(Hc’)は、磁化Mを、印加した磁界Hで微分した値(dM/dH)が最大となる場合の磁界の値に等しい。
また、得られた磁界(H)-磁化(M)曲線において、磁化Mがゼロになる磁界Hの値をHcと定義する。Hcは、測定対象である磁性粉の保磁力を表す値である。
ここで得られた式(I)の値がゼロになる磁界の値(Hc’)に対する、磁化がゼロになる磁界の値(Hc)の比(Hc/Hc’)を求めて、得られた磁性粉の磁気特性とする。
【0040】
本開示の磁性粉における作用は明確ではないが、以下のように考えている。
すなわち、本開示の磁性粉は、Hc/Hc’が0.6以上1.0以下であることにより、磁性粉に含まれる超常磁性成分が少なくなり、磁気特性が向上する磁性粉となると考えられる。
超常磁性成分としては、粒径が7.5nm以下の一次粒子を指し、粒径が7.5nm以下の一次粒径を有する酸化鉄粒子の含有量が一定量以上となることで、磁化力が低い、即ち、周辺の環境により磁化反転しやすい粒子の影響を受け、磁性粉の磁気特性が低下し、磁化が保持し難いことで、信号減衰が生じると考えられる。既述のHc/Hc’が0.6以上1.0以下であることは、微細な磁性粉の含有量が少ないことの一つの指標と考えられ、上記条件を満たすことにより、磁性粉の磁気特性が向上し、信号減衰が効果的に抑制されると考えられる。
【0041】
本発明者は、磁界-磁化曲線より求めたHc’に対するHcの値(Hc/Hc’)は、超常磁性成分の影響を受けた場合の磁化反転磁場と、超常磁性成分の影響を受けていない場合の磁化反転磁場の比を表しており、間接的に超常磁性成分量を示したパラメータであることを見出した。
即ち、既述の方法で得た(Hc/Hc’)の値が高いほど、微細な粒子である超常磁性成分の含有比率が少なく、従って、超常磁性成分に起因する信号減衰が抑制される。
(Hc/Hc’)の値は、0.6以上1.0以下であり、0.7以上1.0以下であることが好ましく、0.8以上1.0以下であることがより好ましい。
【0042】
上記磁気特性を達成する観点からは、全磁性粉に対する粒子径7.5nm以下の磁性粉の含有率が5個数%以下であることが好ましく、4個数%以下であることがより好ましく、3個数%以下であることがさらに好ましい。
【0043】
特定磁性粉の粒子形状には特に制限はなく、例えば、球状、ロッド状等の形状が好ましく、分散性、配向性がより良好であるという観点から、球状が好ましい。
特定磁性粉の粒径は、平均粒子径8nm~25nmであり、8nm~20nmの範囲が好ましく、10nm~17nmの範囲がより好ましい。
特定磁性粉の平均粒子径が上記範囲において、磁気記録媒体に好適に使用することができる。
【0044】
特定磁性粉の平均粒径は、以下の方法により、算出することができる。
特定磁性粉を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて撮影倍率50000倍~80000倍程度で撮影し、総倍率500000倍になる条件で印画紙にプリントして粉末を構成する粒子の写真を得る。
得られた粒子の写真から一次粒子を選び、デジタイザーで粒子の輪郭をトレースし、トレースした領域と同じ面積の円の直径(円面積相径)を算出することで粒子(一次粒子)のサイズを測定する。ここで、一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。
本明細書では、以上の測定を、無作為に抽出した500個の粒子について行い、得られた500個の粒子サイズの算術平均を、粉末の平均粒子サイズとする。
上記透過型電子顕微鏡としては、例えば日立製透過型電子顕微鏡H-9000型を用いることができる。また、粒子サイズの測定は、公知の画像解析ソフト、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて行うことができる。スキャナーからの画像取り込み及び画像解析の際のscale補正は、例えば直径1cmの円を用いて行うことができる。
なお、特定磁性粉のみならず、磁性粉、任意成分としての非磁性粒子などについても、既述と同様の方法にて平均粒子径を測定することができる。
【0045】
全磁性粉に対する粒子径7.5nm以下の粒子の含有率は、平均粒径の測定と同様に、特定磁性粉を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて撮影倍率50000倍~80000倍程度で撮影し、総倍率500000倍になる条件で印画紙にプリントして粉末を構成する粒子の写真を得て、写真の視野角における個々の粒子を、ランダムに500個選んで測定し、視野角中における粒子径7.5nm以下の粒子の個数を数え、測定した全粒子の数に対する割合を算出することで、得ることができる。
【0046】
(磁性粉に含まれうる他の成分)
本開示の磁性粉には、本開示の磁性粉に加え、必要に応じて、さらに、他の成分を含んでもよい。
他の成分としては、例えば、本開示の磁性粉以外の金属粉等が挙げられる。
本開示の磁性粉以外の金属粉としては、例えば、α-Fe及びγ-Feから選ばれる少なくとも1種の酸化鉄系化合物(以下、他の酸化鉄系化合物と称することがある)が挙げられる。なお、α-Fe及びγ-Feから選ばれる少なくとも1種の酸化鉄系化合物の含有量は、本開示の磁性粉の含有量100質量部に対し、20質量部以下であることが好ましい。
即ち、本開示の磁性粉の少なくとも一部を磁性粉の用途に汎用される既述の他の酸化鉄系化合物に置き換えることで、磁性特性の調整を行なったり、性能を低下させない範囲でコストを軽減したりすることができる。
一方、磁性粉は、単相、即ち、特定磁性粉以外の金属粉を含まない相であることが好ましいが、不可避不純物としてのα-Fe及びγ-Feから選ばれる少なくとも1種の酸化鉄系化合物を含むことがある。
いずれの場合においても、本開示の磁性粉の含有量100質量部に対する他の酸化鉄系化合物を含有量は、20質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。
【0047】
〔磁性粉の製造方法〕
本開示の磁性粉の製造方法には特に制限はなく、公知の製造方法により製造することができる。また、既述の磁気特性を達成するため、微細粒子を除く方法も、公知の方法を適用できる。
なかでも、効率よく、磁気特性が良好な磁性粉を製造する方法として、以下に記載する本開示の磁性粉の製造方法が挙げられる。
【0048】
本開示の磁性粉の製造方法は、磁性粉の原料となる3価の鉄イオンを含む化合物の水溶液と、アルカリ剤とを混合する工程〔以下、工程(I)と称することがある〕と、混合により得られた混合液と、多価カルボン酸水溶液とを混合して撹拌し、撹拌後に固体成分を分取する工程〔以下、工程(II)と称することがある〕と、分取した固体成分を、水を含む分散媒に再分散させ、アルカリ剤を加え、加水分解性基を有するシリル化合物を添加して分散液を得る工程〔以下、工程(III)と称することがある〕と、得られた分散液に、硫酸アンモニウムの如き、塩析により固体成分を凝集させ得る成分を含有させ、生成した沈殿物を分取して磁性粉の前駆体を得る工程〔以下、工程(IV)と称することがある〕と、得られた磁性粉の前駆体を、800℃~1400℃にて熱処理する工程〔以下、工程(V)と称することがある〕と、熱処理された磁性粉の前駆体におけるケイ酸化合物を、アルカリ水溶液を用いて除去する工程〔以下、工程(VI)と称することがある〕と、を含む。
既述の3価の鉄イオンを含む化合物の水溶液と、アルカリ剤とを混合する工程〔工程(I)〕は、さらに、ポリビニルピロリドン、及び臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムから選ばれる少なくとも1種を添加する工程〔工程(I-2)〕を含んでもよい。
【0049】
〔工程(I)〕
本工程では、磁性粉の原料となる3価の鉄イオンを含む化合物の水溶液と、アルカリ剤とを混合する。混合は、大気雰囲気下、即ち、常温常圧下、空気の存在下にて行なうことができる。
3価の鉄イオンを含む化合物としては、硝酸鉄(III)9水和物、塩化鉄(III)六水和物などが挙げられる。
3価の鉄イオンを含む化合物の水溶液には、磁性粉に含ませる鉄以外の金属元素、詳細には、既述の式(1-2)において挙げたGa、Al、In、Rh、Mn、Co、Ni、Zn、Ti及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む金属化合物を含有させることができる。鉄以外の金属元素を含む化合物としては、例えば、硝酸ガリウム(III)8水和物、硝酸コバルト(II)6水和物、硫酸チタン(IV)、硝酸アルミニウム(III)九水和物、硝酸インジウム(III)三水和物、硝酸ロジウム(III)、塩化コバルト(II)六水和物、硝酸マンガン(II)六水和物、塩化マンガン(II)四水和物、硝酸ニッケル(II)六水和物、塩化ニッケル(II)六水和物、硝酸亜鉛(II)六水和物、塩化亜鉛(II)、塩化すず(IV)五水和物などが挙げられる。
鉄以外の金属元素を含む化合物の含有量により、得られる磁性粉の相を調製することができる。
3価の鉄イオンを含む化合物及び所望により含有させる鉄以外の金属元素を含む化合物を水に溶解させ、撹拌して水溶液を調製する。撹拌は、公知の方法を適用でき、例えば、マグネチックスターラーを用いた撹拌等を挙げることができる。撹拌を継続しながら、大気雰囲気中、5℃~80℃の温度条件下で、既述の水溶液と、アルカリ剤とを混合する。アルカリ剤としては、例えば、20質量%~30質量%程度のアンモニア水溶液、アンモニウム塩化合物の水溶液、0.1質量%~1.0質量%程度の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液、水酸化カリウム(KOH)水溶液等が挙げられる。
【0050】
なお、工程(I)では、3価の鉄イオンを含む化合物、所望により併用される鉄以外の元素を含む化合物に加え、水溶液中に、ポリビニルピロリドン(PVP)、及び臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムから選ばれる少なくとも1種の化合物を含有させてもよい〔工程(I-2)〕。既述の化合物を含有させることで、アルカリ剤を加えて形成される固体粒子の粒子径がより均一となる。
【0051】
〔工程(II)〕
工程(II)では、工程(I)で得られた混合液と、多価カルボン酸水溶液とを混合して撹拌し、撹拌後に固体成分を分取する。
多価カルボン酸としては、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸等が挙げられ、得られる粒子の粒子径がより均一化されるという観点から、クエン酸が好ましい。
多価カルボン酸の使用量は、Feイオン1モルに対して、0.2モル~5.0モルの範囲が好ましく、0.5モル~2.5モルの範囲がより好ましい。
工程(I)で得られた混合液に、多価カルボン酸を添加し、10分間~2時間撹拌を継続し、撹拌後に沈殿した固体成分を分取する。
固体成分を分取する方法としては、操作の簡便性の観点から、遠心分離する方法が好ましく挙げられる。
分取した固体成分は、水等で洗浄し、60℃~100℃で乾燥させる。
【0052】
本開示の磁性粉の製造方法では、後述の工程(III)、即ち、アルカリ剤を加え、さらに加水分解性基を有するシリル化合物を添加して混合し、磁性粉の前駆体を形成させる工程に先立つ処理として、工程(I)で得た混合液と多価カルボン酸水溶液とを混合して、混合液を中和し、固体成分を得た後、一旦、固液分離を行なって得られた固体成分を水洗し、乾燥する工程(II)を実施する。
既述の工程(II)を経ることで、引き続き行なわれる磁性粉の前駆体の形成において、非晶質成分の含有量がより少ない粒子が形成され、かつ、磁性粉の前駆体を焼成する際に、非晶質分の存在に起因する所望されない微細な粒子の生成が抑制される。
【0053】
〔工程(III)〕
工程(III)では、工程(II)で得られた固体成分を、水を含む分散媒に再分散させ、アルカリ剤を加え、加水分解性基を有するシリル化合物を添加して分散液を得る。
分散液の温度は、15℃~80℃の範囲とすることができ、30℃~80℃に昇温してもよい。
分散媒としては、水が好ましく、不純物が少ない純水、イオン交換水などがより好ましい。
加水分解性基を有するシリル化合物としては、トリエトキシシラン(TEOS)、トリメトキシシランなどが挙げられ、TEOSが好ましい。
加水分解性基を有するシリル化合物の使用量は、Fe 1モルに対して、Siが0.5モル~30モルの範囲となる量が好ましく、2モル~15モルの範囲となる量がより好ましい。
本工程において、磁性粉の前駆体を含む沈澱物が得られる。
【0054】
〔工程(IV)〕
工程(IV)では、工程(III)にて得られた分散液に対し、硫酸アンモニウムの如き、塩析により固体成分を凝集させ得る成分を添加し、生成した沈殿物を分取して磁性粉の前駆体を得る。
工程(IV)では、工程(III)にて得られた分散液を、15℃~80℃の温度に維持しながら撹拌を継続して塩析により固体成分を凝集させ得る成分を滴下することで混合する方法をとることができる。
塩析により固体成分を凝集させ得る成分としては、硫酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウム等の、例えば、2価、3価の如く価数が比較的高く、溶解度の高い塩が挙げられ、塩は水溶液として滴下することができる。
なお、ここで溶解度が高い塩とは、25℃の水に塩を添加した際に、5質量%以上溶解することを指す。
既述の分散液とアルカリ剤とを混合することで形成された沈殿物を分取し、磁性粉の前駆体を得ることができる。
【0055】
〔工程(V)〕
工程(V)では、工程(IV)で得られた磁性粉の前駆体を、800℃~1400℃にて熱処理する。熱処理は、大気雰囲気下、即ち、常圧下、空気の存在する環境で行なうことができる。
熱処理を施すことで、磁性粉の前駆体が磁性を帯びる。熱処理時間は、1時間~8時間とすることが好ましい。
【0056】
〔工程(VI)〕
本工程では、工程(V)において熱処理された磁性粉の前駆体におけるケイ酸化合物を、アルカリ水溶液を用いて除去する。即ち、熱処理された磁性粉に残存する、加水分解性基を有するシリル化合物由来のケイ酸化合物をアルカリ水溶液により除去する。
不純物としてのケイ酸化合物を除去した磁性粉を、水などで洗浄し、乾燥することで、本開示の磁性粉を得ることができる。
【0057】
〔その他の工程〕
本開示の磁性粉の製造方法は、工程(I)~工程(VI)に加え、その他の工程を含んでもよい。
例えば、工程(I)~工程(VI)を経て得られた磁性粉を、水溶性高分子の水溶液に分散させ、その後、遠心分離による固液分離を行なって、所望されない微細な粒子を除去する工程を含むことができる。
まず、磁性粉を水溶性高分子の水溶液に分散させることにより、磁性粒子の分散性をより向上させ、その後、遠心分離を行なうことで、分級(即ち、所望されない微細粒子の除去)をより効率よく行なうことができる。
水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ヒドロキシメチルセルロース(HEC)、ポリビニルピロリドン(PVP)などが挙げられる。
固液分離の方法としては、簡易性の観点から、遠心分離する方法が好ましい。
固液分離に先立って、水溶性高分子による表面処理を行なうことで、所望されない微細粒子が効率よく除去され、特定磁性粉の磁気特性がさらに良化する。
【0058】
<磁気記録媒体>
既述の本開示の磁性粉は、磁気記録媒体に好適に使用される。
本開示の磁気記録媒体は、非磁性支持体と、非磁性支持体上に、既述の本開示の磁性粉を含む磁性層と、を有する磁気記録媒体である。
本開示の磁気記録媒体は、非磁性支持体と、非磁性支持体の少なくとも一方の面上に、磁性粉及び結合剤を含む磁性層と、を有する。すなわち、磁気記録媒体は、基材としての非磁性支持体と、磁気記録層としての磁性層を有し、目的に応じてその他の層を有してもよい。
本開示の磁気記録媒体は、磁気特性が良好な本開示の磁性粉の含むため、長期間繰り返し使用した場合の信号減衰が抑制された耐久性の良好な磁性層を有する、耐久性の良好な磁気記録媒体である。
磁気記録媒体が有しうるその他の層としては、非磁性層、バックコート層などが挙げられる。その他の層については後述する。
【0059】
[非磁性支持体]
非磁性支持体とは、磁性を有しない支持体を指す。以下、非磁性支持体を、単に「支持体」と称することがある。
「磁性を有しない」とは、残留磁束密度が10mT以下であること、保磁力が7.98kA/m(100Oe)以下であること、の少なくともいずれかの条件を満たすことをいう。
【0060】
非磁性支持体は、磁性を有しない材料、例えば、磁性材料を含まない樹脂材料、磁性を有しない無機材料等の材料により形成された基材を挙げることができる。支持体を形成する材料は、磁気記録媒体に必要な成形性などの物性、形成された支持体の耐久性等の要求を満たす材料から適宜選択して用いることができる。
支持体は、磁気記録媒体の使用形態に応じて選択される。例えば、磁気記録媒体が磁気テープ、フレキシブルディスク等の場合、支持体としては、可撓性を有する樹脂フィルムを用いることができる。磁気記録媒体がハードディスク等の場合、支持体としては、ディスク状であり、フレキシブルディスク用の支持体よりも硬質な樹脂成形体、無機材料成形体、金属材料成形体などを用いることができる。
【0061】
支持体を形成する樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアラミドを含む芳香族ポリアミド等のアミド系樹脂、ポリイミド、セルローストリアセテート(TAC)、ポリカーボネート(PC)、ポリスルホン、ポリベンゾオキサゾール等の樹脂材料が挙げられる。既述の樹脂材料から適宜選択して支持体を形成することができる。
なかでも、強度と耐久性とが良好であり、加工が容易であるとの観点から、ポリエステル、アミド系樹脂等が好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びポリアミドがより好ましい。
【0062】
樹脂材料を磁気テープ等の支持体に用いる場合には、樹脂材料をフィルム状に成形する。樹脂材料をフィルム状に成形する方法は、公知の方法を用いることができる。
樹脂フィルムは、未延伸フィルムでもよく、一軸延伸、二軸延伸などの延伸フィルムでもよい。例えば、ポリエステルを用いる場合には、寸法安定性を向上させるため、二軸延伸したポリエステルフィルムを用いることができる。
また、目的に応じて2層以上の積層構造を有するフィルムを用いることもできる。即ち、例えば、特開平3-224127号公報に示される如き、磁性層を形成する面と、磁性層を有しない面との表面粗さを変えるため等の目的で異なる2層のフィルムを積層した支持体等を用いることもできる。
【0063】
磁気記録媒体がハードディスクの場合には、既述の樹脂材料をディスク状に成形した樹脂成形体、ガラスなどの無機材料又はアルミニウムなどの金属材料をディスク状に成形した無機材料成形体を、支持体として用いることができる。
【0064】
例えば、支持体の面上に備えられる磁性層との密着性を向上させる等の目的で、支持体には、必要に応じて、予めコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理等の表面処理を行ってもよい。また、磁性層への異物混入を抑制するため、支持体に防塵処理などの表面処理を行なってもよい。
既述の各表面処理は公知の方法により実施することができる。
【0065】
支持体の厚みは、特に限定されず、磁気記録媒体の用途に応じて適宜設定できる。支持体の厚みは、好ましくは3.0μm~80.0μmである。例えば、磁気記録媒体が磁気テープである場合、支持体の厚みは、3.0μm~6.5μmであることが好ましく、3.0μm~6.0μmであることがより好ましく、4.0μm~5.5μmであることが更に好ましい。
【0066】
非磁性支持体、及び以下に説明する磁気記録媒体の各層の厚みは、磁気記録媒体の厚み方向の断面を、イオンビーム、ミクロトーム等の公知の手法により露出させた後、露出した断面において走査型電子顕微鏡によって断面観察を行い、断面観察において厚み方向の1箇所の厚みとして、又は無作為に抽出した2箇所以上の複数箇所(例えば2箇所)において求められた厚みの算術平均として、求めることができる。
【0067】
[磁性層]
磁性層は、磁気記録に寄与する層である。磁性層は、磁性体として、既述の本開示の磁性粉を含む強磁性粉末及び膜形成成分である結合剤を含む層であることが好ましく、更に目的に応じて添加剤を含んでもよい。
【0068】
(強磁性粉末)
磁性層における強磁性粉末は、本開示の磁性粉を含む。
磁性層が本開示の特定磁性粉を含むことで、磁気記録媒体のSNRが著しく改善されることは既述の通りである。
なお、磁性層が、本開示の磁性粉以外の強磁性粉末(他の強磁性粉末)を含む場合、本開示の磁性粉100質量部に対する他の強磁性粉末の含有量は、20質量部以下であることが好ましい。
【0069】
本開示の磁性粉及び他の強磁性粉末の平均一次粒径の測定方法は既述の通りである。なお、磁性粉の平均一次粒径の測定方法は、後述の実施例にてより具体的に説明する。
【0070】
平均一次粒径を測定するための磁性粉又は他の強磁性粉末の試料粉末としては、原料粉末であっても、磁性層から採取した試料粉末であってもよい。
磁性層からの磁性分などを試料粉末として採取する方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
1.磁性層表面にヤマト科学製プラズマリアクターで1~2分間表面処理を施し、磁性層表面の有機物成分(結合剤成分等)を灰化して取り除く。
2.シクロヘキサノン又はアセトンなどの有機溶剤を浸したろ紙を金属棒のエッジ部に貼り付け、その上で上記1.の処理後の磁性層表面をこすり、磁性層成分を磁気記録媒体からろ紙へ転写し剥離する。
3.上記2.で剥離した磁性層成分を、シクロヘキサノン又はアセトンなどの有機溶媒の中に振るい落とし、有機溶媒を乾燥させて、ろ紙から剥離成分を取り出す。なお、振るい落とす方法としては、ろ紙ごと溶媒の中に入れ超音波分散機で振るい落とす方法をとることができる。
4.上記3.でかき落とした磁性層成分を十分洗浄したガラス試験管に入れ、ガラス試験管の中にn-ブチルアミンを磁性層成分に対し、20ml程度加えてガラス試験管を封緘する。なお、n-ブチルアミンは、灰化せず残留した結合剤を分解できる量加えることが好ましい。
5.ガラス試験管を170℃で20時間以上加熱し、バインダー及び硬化剤成分などの磁性層含まれる有機成分を分解する。
6.上記5.の分解後の沈殿物を純水で十分に洗浄後乾燥させ、粉末を取り出す。
以上の工程により、磁性層から試料粉末を採取して、平均一次粒径の測定に用いることができる。
【0071】
磁性層における強磁性粉末の含有率(充填率)は、磁性層の乾燥質量に対し、好ましくは50質量%~90質量%であり、より好ましくは60質量%~90質量%である。磁性層における強磁性粉末の充填率が、磁性層の乾燥質量に対し、50質量%以上であることにより、記録密度を向上させることができる。
なお、本開示の磁性粉は、好ましくは、特定の条件にてシランカップリング剤により表面処理されてなる表面処理層を有する磁性粉である。よって、粒子径が、従来用いられている一般的な磁性粒子より小さいにも拘わらず、分散性が良好であり、充填率をより向上させることができ、記録密度がより向上した。
【0072】
(結合剤)
結合剤は、既述の強磁性粉末を含む磁性層を形成するために有用な膜形成性樹脂から選ばれる。
結合剤に用いられる樹脂は、目的とする強度、耐久性などの諸物性を満たす樹脂層を形成しうる限り、特に制限はない。公知の膜形成性樹脂から目的に応じて適宜選択して、結合剤として用いることができる。
【0073】
結合剤に用いる樹脂は、単独重合体(ホモポリマー)であってもよく、共重合体(コポリマー)であってもよい。結合剤に用いる樹脂は、公知の電子線硬化型樹脂であってよい。
結合剤に用いうる樹脂としては、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を(共)重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選択した樹脂が挙げられる。結合剤に用いる樹脂は、既述の樹脂を単独で用いてもよく、複数用いてもよい。なかでも、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂及び塩化ビニル樹脂が好ましい。
【0074】
結合剤としての樹脂は、磁性層に含まれる強磁性粉末の分散性をより向上させるため、粉体表面に吸着し得る官能基、例えば、極性基を分子内に有することが好ましい。結合剤としての樹脂が有し得る好ましい官能基としては、例えば、-SOM、-SOM、-PO(OM)、-OPO(OM)、-COOM、=NSOM、=NRSOM、-NR、-Nなどが挙げられる。ここで、Mは水素原子またはNa、K等のアルカリ金属原子を表す。Rはアルキレン基を表し、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基またはヒドロキシアルキル基を表す。XはCl、Br等のハロゲン原子を表す。
結合剤としての樹脂が上記官能基を有する場合、樹脂中の官能基の含有量は0.01meq/g以上2.0meq/g以下が好ましく、0.3meq/g以上1.2meq/g以下がさらに好ましい。樹脂における官能基の含有量が上記範囲内にあることで、磁性層における強磁性粉体等の分散性がより良好となり、磁性密度がより向上するため好ましい。
【0075】
なかでも、結合剤に用いる樹脂としては、-SONa基を含むポリウレタンがより好ましい。ポリウレタンが-SONa基を含む場合、-SONa基は、ポリウレタンに対し、0.01meq/g~1.0meq/gで含まれることが好ましい。
結合剤は、市販の樹脂を適宜使用できる。
【0076】
結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10,000以上200,000以下とすることができる。
本開示における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された値をポリスチレン換算して求められる値である。測定条件としては、下記条件を挙げることができる。
GPC装置:HLC-8120(東ソー社製)
カラム:TSK gel Multipore HXL-M(東ソー社製、7.8mmID(Inner Diameter)×30.0cm)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
試料濃度:0.5質量%
サンプル注入量:10μl
流速:0.6ml/min
測定温度:40℃
検出器:RI検出器
【0077】
磁性層における結合剤の含有量は、強磁性粉末100質量部に対し、例えば1質量部~30質量部の範囲とすることができ、2質量部~20質量部の範囲とすることが好ましい。
【0078】
(他の添加剤)
磁性層は、既述の強磁性粉体及び結合剤に加え、磁性層の効果を損なわない範囲にて、目的に応じて種々の添加剤を含有することができる。
添加剤としては、例えば、研磨剤、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、カーボンブラック等を挙げることができる。また、添加剤としては、必要に応じて、無機フィラーとしてのコロイド粒子、及び硬化剤も用いることができる。
添加剤は、所望の性質に応じて、市販品を適宜使用できる。
【0079】
-研磨剤-
磁性層は、研磨剤を含むことができる。磁性層が研磨剤を含むことで、磁気記録媒体の使用中にヘッドに付着する付着物を除去することができる。
研磨剤としては、例えば、α化率90%以上のα-アルミナ、β-アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α-酸化鉄、コランダム、人造ダイヤモンド、窒化ケイ素、炭化ケイ素チタンカーバイド、酸化チタン、二酸化ケイ素、窒化ホウ素等の、主としてモース硬度6以上の公知の材料が単独または組合せで使用されることが好ましい。また、既述の研磨剤同士の複合体(研磨剤を他の研磨剤で表面処理したもの)を使用してもよい。
研磨剤には既述の主成分である金属化合物粒子以外の化合物または元素が含まれる場合もあるが主成分が90質量%以上であれば効果に変わりはない。
また、研磨剤は、上記粒子を表面処理した材料を使用してもよい。
研磨剤は、市販品を適宜使用できる。
具体的には、研磨剤の市販品としては、住友化学社製AKP-12、AKP-15、AKP-20、AKP-30、AKP-50、HIT20、HIT-30、HIT-55、HIT60A、HIT70、HIT80、HIT100;レイノルズ社製ERC-DBM、HP-DBM、HPS-DBM;不二見研磨剤社製WA10000;上村工業社製UB20;日本化学工業社製G-5、クロメックスU2、クロメックスU1;戸田工業社製TF100、TF140;イビデン社製ベータランダムウルトラファイン;昭和鉱業社製B-3;等が挙げられる。
【0080】
研磨剤の粒子サイズは0.01μm~2μmであることが好ましく、0.05μm~1.0μmであることがより好ましく、0.05μm~0.5μmであることがさらに好ましい。
特に電磁変換特性を高めるためには、研磨剤は粒度分布が狭い方が好ましい。また耐久性を向上させるには必要に応じて粒子サイズの異なる研磨剤を組み合わせたり、単独の研磨剤でも粒径分布を広くしたりして同様の効果をもたせることも可能である。研磨剤のタップ密度は0.3g/ml~2g/mlであることが好ましく、含水率は0.1%~5%であることが好ましく、pHは2~11であることが好ましく、BET比表面積(SBET)は1m2/g~30m2/gであることが好ましい。
研磨剤の形状は針状、球状、立方体状のいずれでもよいが、形状の一部に角を有する粒子が、研磨性が高く好ましい。
【0081】
磁性層が研磨剤を含む場合の含有量は、強磁性粉末100質量部に対し、1質量部~10質量部の範囲であることが好ましい。
【0082】
-潤滑剤-
磁性層は、潤滑剤を含むことができる。
磁性層が潤滑剤を含むことで、例えば、磁気記録媒体の走行耐久性を向上させることができる。
潤滑剤としては、公知の炭化水素系潤滑剤、及びフッ素系潤滑剤などが使用できる。
潤滑剤は、市販品を適宜使用してもよい。
【0083】
潤滑剤としては公知の炭化水素系潤滑剤、フッ素系潤滑剤、極圧添加剤などが使用できる。
【0084】
炭化水素系潤滑剤としては、ステアリン酸、オレイン酸等のカルボン酸類;ステアリン酸ブチル等のエステル類;オクタデシルスルホン酸等のスルホン酸類;リン酸モノオクタデシル等のリン酸エステル類;ステアリルアルコール、オレイルアルコール等のアルコール類;ステアリン酸アミド等のカルボン酸アミド類;ステアリルアミン等のアミン類;などが挙げられる。
【0085】
フッ素系潤滑剤としては、上記炭化水素系潤滑剤のアルキル基の一部または全部をフルオロアルキル基もしくはパーフルオロポリエーテル基で置換した潤滑剤が挙げられる。
パーフルオロポリエーテル基としては、パーフルオロメチレンオキシド重合体、パーフルオロエチレンオキシド重合体、パーフルオロ-n-プロピレンオキシド重合体(CF2CF2CF2O)n、パーフルオロイソプロピレンオキシド重合体(CF(CF3)CF2O)nまたはこれらの共重合体等である。
【0086】
また、炭化水素系潤滑剤のアルキル基の末端や分子内に水酸基、エステル基、カルボキシル基などの極性官能基を有する化合物が、摩擦力を低減する効果が高く好適である。
さらに、潤滑剤の分子量は、500~5000、好ましくは1000~3000である。500~5000とすることで、揮発を抑え、また潤滑性の低下を抑えることができる。また、粘度が高くなるのを防ぎ、スライダーとディスクが吸着し易くなって、走行停止やヘッドクラッシュなどの発生を防ぐことができる。
潤滑剤として用い得るパーフルオロポリエーテルは、具体例には、例えば、アウジモンド社製のFOMBLIN、デュポン社製のKRYTOXなどの商品名で市販されている。
【0087】
極圧添加剤としては、リン酸トリラウリル等のリン酸エステル類;亜リン酸トリラウリル等の亜リン酸エステル類;トリチオ亜リン酸トリラウリル等のチオ亜リン酸エステルやチオリン酸エステル類;二硫化ジベンジル等の硫黄系極圧剤;などが挙げられる。
【0088】
磁性層が潤滑剤を含む場合、潤滑剤は、1種単独で使用してよく、又は2種以上を使用してもよい。
磁性層が潤滑剤を含む場合の潤滑剤の含有量は、強磁性粉末100質量部に対し、0.1質量部~5質量部の範囲であることが好ましい。
【0089】
-非磁性フィラー-
磁性層は、非磁性フィラーを含むことができる。非磁性フィラーは、分散性及び表面粗さの観点から、コロイド粒子であることが好ましい。
コロイド粒子としては、入手容易性の点から無機コロイド粒子が好ましく、無機酸化物コロイド粒子がより好ましい。無機酸化物コロイド粒子としては、上記無機酸化物のコロイド粒子を挙げることができ、SiO2/Al23、SiO2/B23、TiO2/CeO2、SnO2/Sb23、SiO2/Al23/TiO2、TiO2/CeO2/SiO2などの複合無機酸化物コロイド粒子を挙げることもできる。好ましくは、SiO2、Al23、TiO2、ZrO2、Fe23などの無機酸化物コロイド粒子を挙げることができ、単分散のコロイド粒子の入手容易性の点から、シリカコロイド粒子(コロイダルシリカ)が特に好ましい。
【0090】
磁性層が非磁性フィラーを含む場合、非磁性フィラーは、1種単独であってもよく、2種以上であってよい。
非磁性フィラーは、市販品を適宜使用できる。
磁性層が非磁性フィラーを含む場合の含有量は、強磁性粉末100質量部に対し、1質量部~10質量部の範囲であることが好ましい。
【0091】
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量、ヘッドギャップ長、記録信号の帯域等に応じて最適化することができる。磁性層の厚みは、好ましくは10nm~150nmであり、高密度記録化の観点から、より好ましくは20nm~120nmであり、更に好ましくは30nm~100nmである。
磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する二層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。重層磁性層について、磁性層の厚みとは、複数の磁性層の合計厚みをいう。
【0092】
以下、磁気記録媒体における任意の層である非磁性層及びバックコート層について説明する。
【0093】
[非磁性層]
非磁性層は、磁性層の薄層化等に寄与する層である。非磁性層は、フィラーとしての非磁性粉末及び膜形成成分である結合剤を含む層であることが好ましく、更に目的に応じて添加剤を含んでよい。
【0094】
非磁性層は、非磁性支持体と磁性層との間に設けることができる。非磁性層には、磁性を有しない層、及び、不純物として又は意図的に少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層が包含される。
ここで「非磁性」とは、既述の「非磁性支持体」にて述べた如く、残留磁束密度が10mT以下であること、保磁力が7.98kA/m(100Oe)以下であることの少なくともいずれかを満たすことをいう。
【0095】
(非磁性粉末)
非磁性粉末は、フィラーとして機能する、磁性を有しない粉末である。非磁性層に使用される非磁性粉末は、無機粉末でも有機粉末でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機粉末としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粉末が挙げられる。非磁性粉末は、1種単独で使用でき、又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。
【0096】
具体的には二酸化チタン等のチタン酸化物、酸化セリウム、酸化スズ、酸化タングステン、ZnO、ZrO2、SiO2、Cr23、α化率90~100%のα-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、α-酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、2硫化モリブデン、酸化銅、MgCO3、CaCO3、BaCO3、SrCO3、BaSO4、炭化珪素、炭化チタンなどが単独または2種類以上を組み合わせて使用することができる。好ましいものは、α-酸化鉄、酸化チタンである。
【0097】
非磁性粉末の形状は、針状、球状、多面体状、板状等のいずれでもあってもよい。非磁性粉末の結晶子サイズは、4nm~500nmが好ましく、40nm~100nmがさらに好ましい。結晶子サイズが4nm~500nmの範囲であれば、分散が困難になることもなく、また好適な表面粗さを有するため好ましい。非磁性粉末の平均粒径は、5nm~500nmが好ましいが、必要に応じて平均粒径の異なる非磁性粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くしたりして同様の効果をもたせることもできる。とりわけ好ましい非磁性粉末の平均粒径は、10nm~200nmである。5nm~500nmの範囲であれば、分散も良好で、かつ好適な表面粗さを有するため好ましい。
【0098】
非磁性層における非磁性粉末の含有率(充填率)は、好ましくは50質量%~90質量%の範囲であり、より好ましくは60質量%~90質量%の範囲である。
【0099】
非磁性層における「結合剤」及び「添加剤」は、「磁性層」の項において説明した「結合剤」及び「添加剤」と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0100】
非磁性層の厚みは、0.05μm~3.0μmであることが好ましく、0.05μm~2.0μmであることがより好ましく、0.05μm~1.5μmであることが更に好ましい。
【0101】
[バックコート層]
バックコート層は、走行安定性等に寄与する層である。バックコート層は、フィラーとしての非磁性粉末及び膜形成成分である結合剤を含有する層であることが好ましく、目的に応じて、更に添加剤を含んでよい。
【0102】
バックコート層は、非磁性支持体の磁性層側とは反対側の表面に設けることができる。
【0103】
バックコート層における「非磁性粉末」、は、「非磁性層」の項で説明した「非磁性粉末」と同義であり、好ましい態様も同様である。また、バックコート層における「結合剤」及び「添加剤」は、「磁性層」の項で説明した「結合剤」、及び「添加剤」と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0104】
バックコート層の厚みは、0.9μm以下であることが好ましく、0.1μm~0.7μmであることがより好ましい。
【0105】
<磁気記録媒体の製造方法>
本開示の磁気記録媒体の製造方法には特に制限はなく、公知の製造方法を適用することができる。
磁気記録媒体の製造方法としては、例えば、磁性層形成用組成物を調製する工程(工程(A))、非磁性支持体上に磁性層形成用組成物を付与して磁性層形成用組成物層を形成する工程(工程(B))、形成された磁性層形成用組成物層を磁場配向処理する工程(工程(C))、及び磁場配向処理された磁性層形成用組成物層を乾燥して磁性層を形成する工程(工程(D))を含む製造方法が挙げられる。
なお、磁気記録媒体の製造方法は、必要に応じて、さらに、磁性層を有する非磁性支持体をカレンダ処理する工程、非磁性層及びバックコート層等の任意の層を形成する工程等を含むことができる。
個々の工程は、それぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。
【0106】
[工程(A)]
磁性粉の製造方法は、磁性層形成用組成物を調製する工程(工程(A))を含むことが好ましい。
工程(A)は、強磁性粉末、結合剤、及び必要に応じて添加剤を、溶媒に添加すること及び分散することを含む。
【0107】
本開示の強磁性粉末、結合剤、非磁性粉末、添加剤など全ての原料は、本工程(A)におけるいずれの時期に添加してもかまわない。
個々の原料は、同時に添加してよく、又は2回以上に分割して添加してもかまわない。例えば、結合剤は、分散工程で添加した後、分散後の粘度調整のために更に添加することができる。
【0108】
磁性層形成用組成物の原料の分散には、例えばバッチ式縦型サンドミル、横型ビーズミルなどの公知の分散装置を用いることができる。分散ビーズとしては、例えばガラスビーズ、ジルコニアビーズ、チタニアビーズ、及びスチールビーズなどを用いることができる。分散ビーズの粒径(ビーズ径)及び充填率は、最適化して用いることができる。
また、磁性層形成用組成物の原料の分散は、例えば公知の超音波装置を用いて行うこともできる。
また、分散前に、磁性層形成用組成物の原料の少なくとも一部を、例えばオープンニーダを用いて混練することもできる。
【0109】
磁性層形成用組成物の原料は、それぞれの原料ごとに溶液を調製した後に、混合してもよい。例えば、強磁性粉末を含む磁性液、及び研磨剤を含む研磨液を、それぞれ調製した後に、混合して、分散することができる。
【0110】
(磁性層形成用組成物)
磁性層形成用組成物を調製するための「強磁性粉末」、「結合剤」、及び「添加剤」は、「磁性層」の項で説明した「強磁性粉末」、「結合剤」、及び「添加剤」と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0111】
磁性層形成用組成物における強磁性粉末の含有量は、磁性層形成用組成物の全質量に対し、5質量%~50質量%が好ましく、10質量%~30質量%がより好ましい。
磁性層形成用組成物における結合剤の含有量は、強磁性粉末100質量部に対し、1質量部~30質量部の範囲が好ましく、2質量部~20質量部の範囲とすることがより好ましい。
【0112】
-溶媒-
溶媒は、強磁性粉末及び結合剤、必要に応じて添加剤を分散させるための媒体である。
溶媒は、1種のみであってよく、又は2種以上の混合溶媒であってもよい。溶媒としては、有機溶媒が好ましい。
有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、テトラヒドロフラン等のケトン系化合物、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルシクロヘキサノール等のアルコール系化合物、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、酢酸グリコール等のエステル系化合物、グリコールジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサン等のグリコールエーテル系化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼン等の芳香族炭化水素系化合物、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロルヒドリン、ジクロルベンゼン等の塩素化炭化水素系化合物、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサン等を使用することができる。好ましい有機溶媒は、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、及びこれらを任意の割合で含む混合溶媒を挙げることができる。
【0113】
分散性を向上させるためには、ある程度極性が強い溶媒が好ましく、溶媒全質量に対し、誘電率が15以上の溶媒が50質量%以上含まれることが好ましい。また、溶解パラメータは8~11であることが好ましい。
【0114】
-硬化剤-
磁性層形成用組成物は、硬化剤を含むことができる。
磁性層形成用組成物が硬化剤を含むことで、磁性層を形成する際に、磁性層に含まれる結合剤に架橋構造が形成され、形成される磁性層の膜強度がより向上する。
硬化剤としては、イソシアネート系化合物が好ましい。イソシアネート系化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン-1,5-ジイソシアネート、o-トルイジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のイソシアネート系化合物が挙げられ、既述のイソシアネート系化合物とポリアルコールとの生成物、及びイソシアネート系化合物の縮合によって生成した2官能以上のポリイソシアネートを使用することができる。
【0115】
硬化剤は、市販品を適宜使用することができる。市販されているイソシアネート系化合物の商品名としては、例えば、日本ポリウレタン社製コロネートL、コロネートHL、コロネート2030、コロネート2031、ミリオネートMR、ミリオネートMTL、武田薬品社製タケネートD-102、タケネートD-110N、タケネートD-200、タケネートD-202、住友バイエル社製デスモジュールL、デスモジュールIL、デスモジュールN、デスモジュールHL等が挙げられる。
【0116】
磁性層形成用組成物が硬化剤を含む場合、硬化剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を使用してもよい。
磁性層形成用組成物が硬化剤を含む場合の硬化剤の含有量は、強磁性粉末100.0質量部に対して、例えば0.1質量部~10質量部添加してよく、磁性層の強度向上の観点から、好ましくは1質量部~10質量部添加することができる。
なお、硬化剤は、必要に応じて、他の層の形成時に、他の層の膜強度を形成させる目的で、他の相の形成用組成物に含有させることができる。
【0117】
[工程(B)]
本開示の磁気記録媒体の製造方法は、組成物調製工程の後に、非磁性支持体上に磁性層形成用組成物を付与して磁性層形成用組成物層を形成する工程(工程(B))を含むことが好ましい。
本工程(B)は、例えば、走行下にある非磁性支持体上に磁性層形成用組成物を所定の膜厚となる量で塗布することにより行うことができる。磁性層の好ましい膜厚は、「磁性層」の項に記載した通りである。
【0118】
磁性層形成用組成物を支持体の面上に塗布する塗布方法としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等の公知の方法を利用できる。塗布方法については、例えば(株)総合技術センター発行の「最新コーティング技術」(昭和58年5月31日)を参考にできる。
【0119】
[工程(C)]
本開示の磁気記録媒体の製造方法は、組成物層形成工程の後に、形成された磁性層形成用組成物層を磁場配向処理する工程(工程(C))を含むことが好ましい。
【0120】
形成された磁性層形成用組成物層は、支持体が磁気テープ等のフィルム上である場合、磁性層形成用組成物に含まれる強磁性粉末に対し、コバルト磁石又はソレノイドなどを用いて磁場配向処理することができる。支持体がハードディスク用の支持体である場合、配向装置を用いず無配向でも十分に等方的な配向性が得られることもあるが、コバルト磁石を斜めに交互に配置すること、ソレノイドで交流磁場を印加することなどによる、公知のランダム配向装置を用いることが好ましい。また、異極対向磁石など公知の方法を用い、垂直配向とすることで円周方向に等方的な磁気特性を付与することもできる。特に高密度記録を行う場合は垂直配向が好ましい。また、スピンコートを用いて円周配向することもできる。
磁場配向処理は、形成された磁性層形成用組成物層が乾燥する前に行うことが好ましい。
【0121】
磁場配向処理は、磁場強度0.1T~1.0Tの磁場を、形成した磁性層形成用組成物層の面に対し垂直方向に印加する垂直配向処理によって行うことができる。
【0122】
[工程(D)]
本開示の磁気記録媒体の製造方法は、磁場配向処理を行なう工程(C)の後に、磁場配向処理された磁性層形成用組成物層を乾燥して磁性層を形成する工程(工程(D))を含むことが好ましい。
【0123】
磁性層形成用組成物層の乾燥においては、乾燥風の温度、風量、塗布速度を制御することにより、磁性層形成用組成物層の乾燥を制御することができる。例えば、塗布速度は20m/分~1000m/分、乾燥風の温度は60℃以上が好ましい。また、磁場を印加する前に、組成物を適度に予備乾燥することができる。
【0124】
[カレンダ処理工程]
本開示の磁気記録媒体の製造方法は、工程(A)、工程(B)、工程(C)及び工程(D)を経て、支持体上に磁性層を形成した後、磁性層を有する非磁性支持体をカレンダ処理する工程を実施することが好ましい。
【0125】
磁性層を有する非磁性支持体は、巻き取りロールで一旦巻き取られた後、巻き取りロールから巻き出されて、カレンダ処理に供することができる。カレンダ処理によって、表面平滑性がより向上し、かつ、乾燥時の溶媒の除去によって生じた空孔が消滅し、磁性層中の強磁性粉末の充填率が向上するので、電磁変換特性のより高い磁気記録媒体を得ることができる。カレンダ処理は、磁性層の表面の平滑性に応じて、カレンダ処理条件を変化させながら行うことが好ましい。
【0126】
カレンダ処理には、例えばスーパーカレンダロールなどを利用することができる。
カレンダロールとしてはエポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等の耐熱性プラスチックロールを使用することができる。また金属ロールで処理することもできる。
【0127】
カレンダ処理条件としては、カレンダロールの温度を、例えば60℃~120℃の範囲、好ましくは80℃~100℃の範囲とすることができ、圧力は、例えば100kg/cm~500kg/cm(98kN/m~490kN/m)の範囲、好ましくは200~450kg/cm(196~441kN/m)の範囲とすることができる。
【0128】
[非磁性層及びバックコート層等の任意の層を形成する工程]
本開示の磁気記録媒体の製造方法は、必要に応じて、非磁性層及びバックコート層等の任意の層を形成する工程を含むことができる。
非磁性層及びバックコート層は、それぞれの層を形成するための組成物を調製した後、磁性層の形成における工程(B)、工程(C)、及工程(D)と同様の工程を行なって形成することができる。
なお、「非磁性層」及び「バックコート層」の項に記載した如く、非磁性層は、支持体と磁性層との間に設けることができ、バックコート層は、支持体の磁性層を有する側とは反対側の面に設けることができる。
【0129】
非磁性層の形成用組成物、及びバックコート層の形成用組成物は、「非磁性層」及び「バックコート層」の項に記載した成分及び含有量で調製することができる。
【実施例
【0130】
以下、実施例をもとに本開示の磁性粉、その製造方法、及び磁気記録媒体についてさらに詳細に説明するが、本開示は以下の具体例の記載に制限されず、本発明の主旨を逸脱しない限り種々の変形が可能である。
なお、特に断らないかぎり、実施例における「%」及び「部」は質量基準である。
【0131】
〔実施例1〕
純水90gに、硝酸鉄(III)9水和物8.3g、硝酸ガリウム(III)8水和物1.3g、硝酸コバルト(II)6水和物190mg、硫酸チタン(IV)150mg、及び、ポリビニルピロリドン(PVP)1.5gを溶解させた液を、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、大気雰囲気中、25℃の条件下で、25質量%のアンモニア水溶液4.0gを添加し、25℃の温度条件のまま2時間撹拌した〔工程(I)〕。得られた溶液に、クエン酸1gを純水9gに溶解させて得たクエン酸溶液を加え、1時間撹拌した〔工程(II)〕。撹拌後に沈殿した粉を遠心分離で採集し、純水で洗浄し、80℃で乾燥させた。
乾燥させた粉に純水800gを加えて再度粉を水に分散させて分散液を得た。得られた分散液を50℃に昇温し、撹拌しながら25%アンモニア水溶液を40g滴下した。50℃の温度を保ったまま1時間撹拌した後、テトラエトキシシラン(TEOS)14mLを滴下し、24時間撹拌した〔工程(III)〕。得られた反応溶液に、硫酸アンモニウム50gを加え、沈殿した粉を遠心分離で採集し、純水で洗浄し、80℃で24時間乾燥し、磁性粉の前駆体を得た〔工程(IV)〕。
【0132】
得られた磁性粉の前駆体を、炉内に装填し、大気雰囲気下、1030℃で4時間の熱処理を施した〔工程(V)〕。
熱処理した磁性粉の前駆体を、4モル/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に投入し、液温を70℃に維持して24時間撹拌することにより、熱処理した磁性粉の前駆体から不純物であるケイ酸化合物を除去した〔工程(VI)〕。
その後、遠心分離処理により、ケイ酸化合物を除去した磁性粉を採集し、純水で洗浄を行って、ε-Fe相の単相である酸化鉄ナノ磁性粒子(特定磁性粉)を得た。
得られた実施例1の磁性粉の組成をICP-OES(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析)により確認したところ、ε-Ga0.24Co0.05Ti0.05Fe1.66であった。また、粉末XRD(X線回折)パターンのピークの確認により、磁性粉は、α-Fe及びγ-Feから選ばれる少なくとも1種の酸化鉄系化合物を含まないε-Fe単相の磁性粉であることが確認された。
【0133】
ICP-OES測定装置は、(株)島津製作所製、ICPS-8100を使用した。
測定は、以下の方法で行なった。
試料粉末12mg及び4mol/L塩酸10mLを入れた容器(ビーカー)を、設定温度80℃のホットプレート上で3時間保持し、溶解液を得た。
得られた溶解液に純水30mLを加えたのち、0.1μmのメンブレンフィルタを用いてろ過した。得られたろ液を、ICP-OES測定装置で分析することで、それぞれの金属原子の含有率を求めた。
【0134】
粉末XRD(X線回折)装置は、PANalytical社製、X‘pert Proを使用し、以下の測定条件にて測定を行なった。
X線源:Cu Kα線(波長1.54Å(0.154nm))、(出力:40mA、45kV)
スキャンした範囲:20°<2θ<70°
スキャン間隔:0.05°
スキャンスピード:0.75°/min
後述する方法により観察したところ、磁性粉の形状は球形であった。後述する方法により算出した平均粒径は、13.5nmであった。
また、既述の方法により確認したところ、全磁性粉における粒径7.5nm以下の粒子の含有率は、3.9個数%であった。
【0135】
(金属粉、磁性粉の平均粒径の算出)
磁性粉などの粉末を、透過型電子顕微鏡(TEM:日立製作所(株)、透過型電子顕微鏡H-9000型)を用いて撮影倍率80000倍で撮影し、総倍率500000倍になる倍率で印画紙にプリントして粉末を構成する粒子の写真を得た。
得られた粒子の写真から一次粒子を選び、デジタイザーで粒子の輪郭をトレースし粒子(一次粒子)のサイズを測定した。ここで、一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。粒子サイズの測定は、各粒子の輪郭をデジタイザーでトレースし、トレースした領域と同じ面積の円の直径(円面積相径)を算出することで求めた。画像解析ソフトとしてカールツァイス製、画像解析ソフトKS-400を用いて行った。
以上の測定を、無作為に抽出した500個の粒子について行った。
こうして得られた500個の粒子サイズの算術平均を、粉末の平均粒子サイズとした。結果を下記表1に示す。
【0136】
(磁気特性の評価)
磁性粉の磁気特性を以下の方法により評価した。
振動試料型磁束計(TM-TRVSM5050-SMSL型、(株)玉川製作所製)を用いて、最大印加磁界:4.5kOe(キロエルンステッド:354kA/m)、温度:296K、磁界掃引速度:25Oe/s(1.994kA/m/s)にて、印加した磁界に対する磁性粉の磁化の強度を測定した。測定結果より、磁性粉の磁界(H)-磁化(M)曲線を得た。
【0137】
得られた磁界(H)-磁化(M)曲線について、磁化を、印加した磁界で2階微分した下記式(I)の値がゼロになる磁界を算出し、これをHc’と定義した。
M/dH 式(I)
ただし、119kA/m<Hc’<2380kA/mである。
式(I)の値がゼロになる磁界の値(Hc’)は、磁化を、印加した磁界で微分した値(dM/dH)が最大となる場合の磁界の値に等しい。
また、得られた磁界(H)-磁化(M)曲線において、磁化がゼロになる磁界の値をHcと定義した。Hcは、測定対象である磁性粉の保磁力を表す値である。
ここで得られた式(I)の値がゼロになる磁界の値(Hc’)に対する、磁化がゼロになる磁界の値(Hc)の比(Hc/Hc’)を求めて、得られた磁性粉の磁気特性とした。
磁気特性(Hc/Hc’)が0.6以上1.0以下であり、かつ、Hc’が、119kA/mを超え、2380kA/m未満である磁性粉は、本開示の磁性粉である。
【0138】
〔実施例2~実施例6〕
実施例1の磁性粉の作製において、磁性粉の前駆体を作製する際に加えたPVPの添加又は、クエン酸水溶液を添加する前のアンモニア水溶液添加する際の温度を、下記表1に記載した条件に変えた以外は、実施例1と同様にして実施例2~実施例6の磁性粉を作製し、実施例1と同様に評価した。
【0139】
〔実施例7〕
実施例1で得た磁性粉1gを、ポリビニルアルコール(PVA:平均重合度500、完全けん化型、和光純薬工業(株))の5質量%水溶液30gに加えた。得られた液に径100μmのジルコニア(Zr)ビーズを加え、振盪器によって室温(25℃)で6時間振盪することで、磁性粉を既述のPVA水溶液中に充分に分散させた。得られた分散液を、遠心分離機を用いて、200000G(1,961,330m/s)の遠心力で45分間処理した。遠心分離により沈降した沈殿物を、純水で洗浄し、80℃で24時間乾燥させ、実施例7の磁性粉を得て、実施例1と同様に評価した。
【0140】
〔実施例8〕
遠心分離の条件を、1,961,330m/sの遠心力で30分間に変えた以外は、実施例7と同様にして実施例8の磁性粉を得て、実施例1と同様に評価した。
【0141】
〔実施例9〕
遠心分離の条件を、1,961,330m/sの遠心力で20分間に変えた以外は、実施例7と同様にして実施例9の磁性粉を得て、実施例1と同様に評価した。
【0142】
〔比較例1〕
純水90gに、硝酸鉄(III)9水和物8.3g、硝酸ガリウム(III)8水和物1.3g、硝酸コバルト(II)6水和物190mg、硫酸チタン(IV)150mgを溶解させた液を、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、大気雰囲気中、40℃の条件下で、25%のアンモニア水溶液4.0gを添加し、40℃に温度を維持したまま2時間撹拌した。さらに、混合液にクエン酸480mgを水4.5gに溶解した溶液を加え、続けて10%アンモニア水溶液を5.7g添加し、1時間撹拌した。
得られた分散液を、限外濾過膜(分画分子量:50000)で、ろ液の電気伝導率が50mS/m以下になるまで限外濾過した。
限外濾過して得られた液体に、全容が120mLになる量の水を加えた後、30℃で撹拌しながら、25%アンモニアを6.5g加えた。さらに、にTEOSを16mL添加し、30℃の温度を維持したまま24時間撹拌し続けた。
その後、純水4.5mLに硫酸アンモニウム3gを溶かした溶液を添加した。沈殿した粉を遠心分離で採集し、純水で洗浄したのち、80℃で24時間乾燥させることで、磁性粉の前駆体を得た。得られた磁性粉の前駆体を用いた以外は、実施例1に同様にして比較例1の磁性粉を得て、実施例1と同様に評価した。
得られた比較例1の磁性粉の組成を実施例1と同様にして確認したところ、磁性粉の形状は球形であり、組成はε-Ga0.24Co0.05Ti0.05Fe1.66であった。
【0143】
〔比較例2〕
純水90gに、塩化鉄(III)9水和物5.5g、硝酸ガリウム(III)8水和物1.3g、塩化コバルト(II)6水和物155mg、塩化チタン(IV)120mgを溶解させた液を、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、大気雰囲気中、10℃の条件下で、25%のアンモニア水溶液4.0gを添加し、10℃の温度を維持したまま2時間撹拌した。
さらに、クエン酸480mgを水4.5gに溶解した溶液を加え、続けて10%アンモニア水溶液を5.7g添加し、1時間撹拌した。得られた溶液を、限外濾過膜(分画分子量50000)で、濾液の電気伝導率が50mS/m以下になるまで限外濾過した。その後、得られたスラリーを、オートクレーブを用いて160℃で6時間水熱処理した。
水熱処理後のスラリーに、全容が120mLになる量の水を加えたのち、30℃で撹拌しながら、25%アンモニアを6.5g加えた。さらに、TEOSを16mL添加し、30℃の温度を維持したまま24時間撹拌を継続した。
その後、純水4.5mLに硫酸アンモニウム3gを溶かした溶液を添加した。沈殿した粉を遠心分離で採集し、純水で洗浄したのち、80℃で24時間乾燥させることで、磁性粉の前駆体を得た。得られた磁性粉の前駆体を用いた以外は、実施例1に同様にして比較例2の磁性粉を得て、実施例1と同様に評価した。
得られた比較例2の磁性粉の組成を実施例1と同様にして確認したところ、磁性粉の形状は球形であり、組成はε-Ga0.24Co0.05Ti0.05Fe1.66であった。
【0144】
〔磁気記録媒体の作製〕
(磁性液の処方)
ε-Fe粉末(既述の実施例又は比較例の磁性粉) 100.0部
オレイン酸 2.0部
塩化ビニル共重合体(日本ゼオン(株)、MR-104)(表1に記載の量)
SONa基含有ポリウレタン樹脂 (表1に記載の量)
(重量平均分子量70000、SONa基:0.07meq/g)
アミン系ポリマー (表1に記載の量)
(ビックケミー社製DISPERBYK-102)
メチルエチルケトン(溶剤) 150.0部
シクロヘキサノン 150.0部
【0145】
(研磨剤液の処方)
α-アルミナ 6.0部
(BET比表面積19m/g、モース硬度9)
SONa基含有ポリウレタン樹脂 0.6部
(重量平均分子量70000、SONa基:0.1meq/g)
2,3-ジヒドロキシナフタレン 0.6部
シクロヘキサノン 23.0部
【0146】
(非磁性フィラー液の処方)
コロイダルシリカ 2.0部
(平均粒子サイズ120nm)
メチルエチルケトン 8.0部
【0147】
(潤滑剤及び硬化剤液の処方)
ステアリン酸 3.0部
ステアリン酸アミド 0.3部
ステアリン酸ブチル 6.0部
メチルエチルケトン 110.0部
シクロヘキサノン 110.0部
ポリイソシアネート(日本ポリウレタン製コロネート(登録商標)L)
3.0部
【0148】
(1.磁性層形成用組成物の調製)
磁性層形成用組成物を、以下の方法によって調製した。
上記磁性液の処方に記載の各種成分を、バッチ式縦型サンドミルにより、ビーズ径0.5mmφのジルコニアビーズ(第一の分散ビーズ、密度6.0g/cm)を使用して24時間分散し(第一の段階)、その後、0.5μmの平均孔径を有するフィルタを用いて濾過することにより分散液Aを調製した。ジルコニアビーズは、ε-Feを含む磁性粉に対して、質量基準で10倍量用いた。
【0149】
その後、得られた分散液Aを、バッチ式縦型サンドミルによりビーズ径500nmφのダイヤモンドビーズ(第二の分散ビーズ、密度3.5g/cm)を使用して1時間分散し(第二の段階)、遠心分離機を用いてダイヤモンドビーズを分離した分散液(分散液B)を調製して磁性液とした。
【0150】
研磨剤液は、上記の研磨剤液の処方に記載の各種成分を混合して、ビーズ径0.3mmφのジルコニアビーズを加え、横型ビーズミル分散機に入れ、ビーズ体積/(研磨剤液の体積+ビーズ体積)が80%になるように調整し、120分間ビーズミル分散処理を行い、処理後の液を取り出し、フロー式の超音波分散濾過装置を用いて、超音波分散濾過処理を施した。こうして研磨剤液を調製した。
【0151】
調製した磁性液及び研磨剤液、ならびに上記の非磁性フィラー液ならびに潤滑剤及び硬化剤液をディゾルバー撹拌機に導入し、周速10m/秒で30分間撹拌した後、フロー式超音波分散機により流量7.5kg/分で3パス処理し、孔径1μmのフィルタで濾過して磁性層形成用組成物を調製した。
【0152】
(非磁性層形成用組成物の処方)
非磁性無機粉末 α-酸化鉄 100.0部
(平均粒子サイズ10nm、BET比表面積75m/g)
カーボンブラック 25.0部
(平均粒子サイズ20nm)
SONa基含有ポリウレタン樹脂 18.0部
(重量平均分子量70000、SONa基含有量0.2meq/g)
ステアリン酸 1.0部
シクロヘキサノン 300.0部
メチルエチルケトン 300.0部
【0153】
(2.非磁性層形成用組成物の調製)
上記の非磁性層形成用組成物の処方に記載の各成分を、バッチ式縦型サンドミルによりビーズ径0.1mmφのジルコニアビーズを使用して24時間分散し、その後、0.5μmの平均孔径を有するフィルタを用いて濾過することにより、非磁性層形成用組成物を調製した。
【0154】
(バックコート層形成用組成物の処方)
非磁性無機粉末 α-酸化鉄 80.0部
(平均粒子サイズ0.15μm、BET比表面積52m/g)
カーボンブラック 20.0部
(平均粒子サイズ20nm)
塩化ビニル共重合体 13.0部
スルホン酸塩基含有ポリウレタン樹脂 6.0部
フェニルホスホン酸 3.0部
シクロヘキサノン 155.0部
メチルエチルケトン 155.0部
ステアリン酸 3.0部
ステアリン酸ブチル 3.0部
ポリイソシアネート 5.0部
シクロヘキサノン 200.0部
【0155】
(3.バックコート層形成用組成物の調製)
上記のバックコート層形成用組成物の処方に記載の各成分のうち潤滑剤(ステアリン酸及びステアリン酸ブチル)、ポリイソシアネートならびにシクロヘキサノン200.0部を除いた成分をオープンニーダにより混練及び希釈した後、横型ビーズミル分散機によりビーズ径1mmφのジルコニアビーズを用い、ビーズ充填率80体積%、ローター先端周速10m/秒で1パス滞留時間を2分間とし、12パスの分散処理に供した。
その後、上記の残りの成分を添加してディゾルバーで撹拌し、得られた分散液を1μmの平均孔径を有するフィルタを用いて濾過することにより、バックコート層形成用組成物を調製した。
【0156】
(4.磁気テープの作製)
厚み5.0μmのポリエチレンナフタレート製支持体(非磁性支持体)の表面上に、乾燥後の厚みが100nmになる量で、上記で調製した非磁性層形成用組成物を塗布し乾燥させて非磁性層を形成した。
形成した非磁性層の表面上に、乾燥後の厚みが70nmになる量で、上記で調製した磁性層形成用組成物を塗布して塗布層を形成した。
形成した磁性層形成用組成物の塗布層が湿潤(未乾燥)状態にあるうちに、磁場強度0.15Tの磁場を上記磁性層形成用組成物の塗布層の表面に対し垂直方向に印加する垂直配向処理を施した。
その後、垂直配向処理を施した磁性層形成用組成物の塗布層を乾燥させ、磁性層を形成した。
上記非磁性支持体の、非磁性層及び磁性層を形成した表面とは反対の表面上に、乾燥後の厚みが0.4μmになる量で、上記で調製したバックコート層形成用組成物を塗布し、乾燥させ、積層体を得た。
非磁性支持体の片面に非磁性層、磁性層を有し、非磁性支持体の磁性層を有する側と反対の面にバックコート層を有する積層体を、金属ロールのみから構成される一対のカレンダロールにより、速度100m/min、線圧300kg/cm(294kN/m)、カレンダロールの表面温度100℃でカレンダ処理(表面平滑化処理)し、雰囲気温度70℃の環境で36時間熱処理を施した。
熱処理した積層体を1/2インチ(0.0127m)幅にスリットし、磁気記録媒体としての磁気テープを得た。
【0157】
<磁気記録媒体の評価>
得られた磁気記録媒体としての磁気テープについて以下の方法にて、繰り返し再生時の信号減衰の評価を行なった。
【0158】
(信号減衰(Signal Decay)の評価)
Signal Decayとして、本評価では、信号を記録した磁気記録媒体を繰り返し再生した場合における、再生出力の低下、即ち、再生出力減衰率を評価した。減少率の数値が小さいほど、再生時の出力減衰が抑制されていることを示す。
記録ヘッド〔MIG(Metal-in-Gap)、ギャップ長0.15μm、トラック幅1.8μm〕と再生用GMR(Giant magnetoresistive)ヘッド(再生トラック幅1μm)をループテスターに取り付けて、再生装置とした。
実施例及び比較例の各磁気テープに、線記録密度200kfciの信号を記録した後、記録信号を既述の再生装置にて、繰り返し再生を行ない、記録直後から再生までの時間に対する再生出力の減衰率を測定した。結果を下記表1に示す。なお、再生出力の減衰が検出下限(-0.5%/decade)を下回ったものは、「<-0.5%」と表記した。
【0159】
【表1】

【0160】
なお、表1において「混合液の温度」は、既述の工程(I)におけるアンモニア水溶液を混合した際の混合液の温度を示し、「添加剤」は、工程(I)において所望により含有される添加化合物の名称を示している。
「後処理後の遠心分離処理時間」は、実施例1の磁性粉を、PVA水溶液中で分散処理した後の固液分離における遠心分離処理時間を示す。
なお、表1におけるPVPは、既述のポリビニルピロリドンであり、CTAOHは、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムである。
【0161】
表1に記載の評価結果より、Hc/Hc’が、本開示に規定する範囲内である実施例1~実施例9の磁性粉を用いた磁気テープは、いずれも再生出力減衰率が大きく、耐久性が良好であることがわかる。また、実施例1と、実施例7~実施例9との対比より、磁性粉を形成した後、ポリビニルアルコールを加えて再分散した磁性粉は、Hc/Hc’がより大きくなり、再生出力減衰率がより大きくなり、耐久性がより向上することがわかる。
他方、アルカリ条件で粒子を形成する前処理として、多価カルボン酸を加え、さらに遠心分離表面する処理を行なわず、アルカリ条件での粒子(磁性粉の前駆体)の形成後に限外濾過により不純物としてのイオンを除去する処理を行なった比較例1及び比較例2の磁性粉は、Hc/Hc’の値が小さく、これらの磁性粉を用いて得た磁気テープは、再生出力減衰率がより小さく、実施例の磁性粉を用いた磁気テープに比較し、耐久性がより低いことがわかる。
【0162】
本開示の磁性粉の製造方法における既述の前処理を行なうことで、磁性粉の前駆体が形成される前に非晶質成分が除去され、磁性粉の前駆体を形成した後に不純物を除去する処理を行なう方法と比較して、より非晶質成分に起因する所望されない微細な粒子の生成が抑制されたと考えられる。